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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-12
(45)【発行日】2024-09-24
(54)【発明の名称】ガスセンサ
(51)【国際特許分類】
   G01N 27/416 20060101AFI20240913BHJP
   G01N 27/409 20060101ALI20240913BHJP
【FI】
G01N27/416 331
G01N27/409 100
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2021137183
(22)【出願日】2021-08-25
(65)【公開番号】P2023031592
(43)【公開日】2023-03-09
【審査請求日】2024-04-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000004547
【氏名又は名称】日本特殊陶業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100113022
【弁理士】
【氏名又は名称】赤尾 謙一郎
(74)【代理人】
【氏名又は名称】下田 昭
(72)【発明者】
【氏名】吉田 将之
(72)【発明者】
【氏名】島崎 雄次
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 陽介
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 銀次郎
(72)【発明者】
【氏名】清水 冠太朗
【審査官】黒田 浩一
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-066192(JP,A)
【文献】特開2021-085737(JP,A)
【文献】特開2007-178418(JP,A)
【文献】特開2014-215069(JP,A)
【文献】特開2011-039041(JP,A)
【文献】特開平10-170474(JP,A)
【文献】特開2015-040716(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 27/406-27/419
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸線方向に延び、被測定ガス中の特定ガスの濃度を測定するセンサ素子と、
前記センサ素子を取り囲んで保持する主体金具と、
前記主体金具の先端側に取り付けられる有底筒状のプロテクタであって、前記センサ素子の先端側を覆うプロテクタと、を備えたガスセンサであって、
前記プロテクタはステンレス鋼から形成され、
前記プロテクタのうち前記センサ素子に対向する内面に、Feを主成分とするFe-Al合金層が形成されていることを特徴とするガスセンサ。
【請求項2】
前記Fe-Al合金層は、Crを4.0~9.0質量%含むことを特徴とする請求項1に記載のガスセンサ。
【請求項3】
前記主体金具のうち前記センサ素子に対向する内面にも、前記Fe-Al合金層が形成されていることを特徴とする請求項1又は2に記載のガスセンサ。
【請求項4】
前記プロテクタは、前記センサ素子に対向する内側プロテクタと、前記内側プロテクタを外側から覆う外側プロテクタからなる二重プロテクタであり、
前記内側プロテクタは内側ガス導入孔を有し、
前記外側プロテクタは、前記内側ガス導入孔と前記軸線方向の異なる位置に外側ガス導入孔を有し、
前記軸線方向に前記内側ガス導入孔と前記外側ガス導入孔との間の領域における、前記内側プロテクタの外面と前記外側プロテクタの内面とに、それぞれ前記Fe-Al合金層が形成されていることを特徴とする請求項1~3のいずれか一項に記載のガスセンサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば燃焼器や内燃機関等の燃焼ガスや排気ガス中に含まれる特定ガスのガス濃度を検出するのに好適に用いられるガスセンサに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、内燃機関の排気ガス中の特定成分(酸素、NOx等)の濃度を検出するガスセンサが広く用いられている(特許文献1)。このガスセンサは、センサ素子の先端側を保護する素子カバー(プロテクタ)を有しており、この素子カバーを耐熱性及び耐酸化性に優れたFe-Al合金製としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2007-178418号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、Fe-Al合金は、従来のプロテクタに使用されてきたステンレス鋼に比べると強度が低く、プロテクタに衝撃が加わったり、飛石によりプロテクタが変形したり破損するおそれがある。
一方、ステンレス鋼はCrを含むため、ステンレス鋼中のCrが熱によって被測定ガス中に拡散する。そして、アイドリングストップ等でプロテクタ内部の被測定ガスが滞留すると、被測定ガス中のCrがセンサ素子の先端に形成された多孔質保護層に付着し、触媒活性を示して特定ガス(アンモニア、酸素等)を燃焼させ、特定ガスの検出精度が低下するという問題がある。
【0005】
そこで、本発明は、センサ素子を覆うプロテクタの強度を確保すると共に、特定ガスの検出精度の低下を抑制したガスセンサの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するため、本発明のガスセンサは、軸線方向に延び、被測定ガス中の特定ガスの濃度を測定するセンサ素子と、前記センサ素子を取り囲んで保持する主体金具と、前記主体金具の先端側に取り付けられる有底筒状のプロテクタであって、前記センサ素子の先端側を覆うプロテクタと、を備えたガスセンサであって、前記プロテクタはステンレス鋼から形成され、前記プロテクタのうち前記センサ素子に対向する内面に、Feを主成分とするFe-Al合金層が形成されていることを特徴とする。
【0007】
このガスセンサによれば、Fe-Al合金層が、プロテクタを構成するステンレス鋼に含まれるCrの熱による被測定ガス中への拡散を抑制するので、ステンレス鋼中のCrが被測定ガス中に拡散し難くなる。これにより、アイドリングストップ等でプロテクタ内部の被測定ガスが滞留しても、被測定ガス中のCrがセンサ素子(又はセンサ素子を覆う多孔質保護層)に付着して触媒活性を示すことを抑制し、センサ素子に付着したCrの触媒活性により特定ガス(アンモニア、酸素等)が燃焼して特定ガスの検出精度が低下することを抑制できる。
又、プロテクタ自体は強度に優れたステンレス鋼とすることができるので、プロテクタの強度を確保できる。
【0008】
本発明のガスセンサにおいて、前記Fe-Al合金層は、Crを4.0~9.0質量%含んでもよい。
このガスセンサによれば、プロテクタを構成するステンレス鋼(Cr含有量が10.5質量%以上)よりもFe-Al合金層中のCr含有量が低減するので、プロテクタ内の被測定ガスにCrがさらに拡散し難くなる。
【0009】
本発明のガスセンサにおいて、前記主体金具のうち前記センサ素子に対向する内面にも、前記Fe-Al合金層が形成されていてもよい。
このガスセンサによれば、センサ素子を収容する素子室を形成する主体金具の内面にもFe-Al合金層が形成されているので、プロテクタを含む素子室内の被測定ガスにCrがさらに拡散し難くなる。
【0010】
本発明のガスセンサにおいて、前記プロテクタは、前記センサ素子に対向する内側プロテクタと、前記内側プロテクタを外側から覆う外側プロテクタからなる二重プロテクタであり、前記内側プロテクタは内側ガス導入孔を有し、前記外側プロテクタは、前記内側ガス導入孔と前記軸線方向の異なる位置に外側ガス導入孔を有し、前記軸線方向に前記内側ガス導入孔と前記外側ガス導入孔との間の領域における、前記内側プロテクタの外面と前記外側プロテクタの内面とに、それぞれ前記Fe-Al合金層が形成されていてもよい。
【0011】
このガスセンサによれば、外部から被測定ガスがセンサ素子に流入する最初の経路である、領域における被測定ガGの接触面(内側プロテクタの外面と外側プロテクタの内面)にそれぞれFe-Al合金層が形成されることになる。
これにより、外部から被測定ガスがセンサ素子に流入する最初の経路にて、被測定ガスにCrが拡散することを抑制し、センサ素子にCrが付着して特定ガスの検出精度が低下することをさらに抑制できる。
【発明の効果】
【0012】
この発明によれば、センサ素子を覆うプロテクタの強度を確保すると共に、特定ガスの検出精度の低下を抑制したガスセンサが得られる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の実施形態に係るガスセンサ(マルチガスセンサ)の長手方向に沿う断面図である。
図2図1の先端側の部分拡大図である。
図3】マルチガスセンサ1のアンモニア検知部によるアンモニア検知出力の経時変化を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態について説明する。
図1は、本発明の実施形態に係るガスセンサ(マルチガスセンサ)1の縦断面図(軸線AXに沿った長手方向に切断した断面図)、図2図1の先端側の部分拡大図である。
なお、センサ素子の軸線AXに沿う方向(軸線方向)を適宜「長手方向」と称する。
【0015】
ガスセンサ1は、測定対象ガスである排ガス中の特定ガス(アンモニア及びNOx)の濃度を検出可能なセンサ素子10を備え、内燃機関の排気管(図示なし)に装着されて使用されるマルチガスセンサである。このガスセンサ1は、排気管に固定するためのネジ部21が外表面の所定位置に形成された筒状の主体金具20を備える。センサ素子10は、軸線AX方向に延びる細長板状をなし、主体金具20の内側に保持されている。
さらに詳しくは、ガスセンサ1は、センサ素子10の後端部10k(図1において上端の部位)が挿入される挿入孔62を有する保持部材60と、この保持部材60の内側に保持された6個の端子部材とを備える。なお、図1では、6個の端子部材のうち2個の端子部材(具体的には、端子部材75,76)のみを図示している。
【0016】
センサ素子10の後端部10kには、平面視矩形状の電極端子部13~18(図1では、電極端子部14、17のみ図示)が合計6個形成されている。電極端子部13~18には、それぞれ、前述の端子部材が弾性的に当接して電気的に接続している。例えば、電極端子部14には、端子部材75の素子当接部75bが弾性的に当接して電気的に接続している。また、電極端子部17には、端子部材76の素子当接部76bが弾性的に当接して電気的に接続している。
さらに、6個の端子部材(端子部材75,76など)には、それぞれ、異なるリード線71が電気的に接続されている。例えば、図1に示すように、端子部材75のリード線把持部77によって、リード線71の芯線が加締められて把持される。また、端子部材76のリード線把持部78によって、他のリード線71の芯線が加締められて把持される。
【0017】
また、センサ素子10の後端部10kの主面の一方には、電極端子部13~15よりも先端側で、後述するセラミックスリーブ45よりも後端側に大気導入口10hが開口しており、大気導入口10hは保持部材60の挿入孔62内に配置されている。
これにより、後述する外筒51の内部に閉じ込められた基準大気が大気導入口10hからセンサ素子10の内部に導入される。
【0018】
主体金具20は、軸線AX方向に貫通する貫通孔23を有する筒状部材であり、例えばステンレス鋼製である。この主体金具20は、径方向内側に突出する形態で貫通孔23の一部を構成する棚部25を有している。主体金具20は、センサ素子10の先端部10sを自身の先端側外部(図1において下方)に突出させると共に、センサ素子10の後端部10kを自身の後端側外部(図1において上方)に突出させた状態で、センサ素子10を貫通孔23内に保持している。
センサ素子10の先端には、図示しない多孔質保護層が形成されている。
また、主体金具20の貫通孔23の内部には、環状のセラミックホルダ42、滑石粉末を環状に充填してなる2つの滑石リング43,44、及びセラミックスリーブ45が配置されている。詳細には、センサ素子10の径方向周囲を取り囲む状態で、セラミックホルダ42、滑石リング43,44、及びセラミックスリーブ45が、この順に、主体金具20の軸線方向先端側(図1において下端側)から軸線方向後端側(図1において上端側)にわたって重ねて配置されている。
【0019】
また、セラミックホルダ42と主体金具20の棚部25との間には、金属カップ41が配置されている。また、セラミックスリーブ45と主体金具20のカシメ部22との間には、加締リング46が配置されている。なお、主体金具20のカシメ部22が、加締リング46を介してセラミックスリーブ45を先端側に押し付けるように、加締められている。
主体金具20の先端部20bには、センサ素子10の先端部10sを覆うように、複数の孔を有するステンレス鋼製の外側プロテクタ31及び内側プロテクタ32が、溶接によって取り付けられている。一方、主体金具20の後端部には、外筒51が溶接によって取り付けられている。外筒51は、軸線AX方向に延びる筒状をなし、センサ素子10を包囲している。
【0020】
外側プロテクタ31及び内側プロテクタ32が特許請求の範囲の「プロテクタ」に相当する。
又、「ステンレス鋼」とは、Feを主成分として、Crを10.5質量%以上含有し、Cを1.2質量%以下含有するものとする。さらにNi,Si,Al等を含有してもよい。ステンレス鋼としては公知の組成(例えばSUS310S)を例示できる。
【0021】
保持部材60は、絶縁性材料(具体的にはアルミナ)からなり、軸線AX方向に貫通する挿入孔62を有する筒状部材である。挿入孔62内には、前述した6個の端子部材(端子部材75,76など)が配置されている(図1参照)。保持部材60の後端部には、径方向外側に突出する鍔部65が形成されている。保持部材60は、鍔部65が内部支持部材53に当接する態様で、内部支持部材53に保持されている。なお、内部支持部材53は、外筒51のうち径方向内側に向けて加締められた加締部51gにより、外筒51に保持されている。
保持部材60の後端面61上には、絶縁部材90が配置されている。絶縁部材90は、電気絶縁性材料(具体的にはアルミナ)からなり、円筒状をなす。この絶縁部材90には、軸線AX方向に貫通する貫通孔91が合計6個形成されている。この貫通孔91には、前述した端子部材のリード線把持部(リード線把持部77,78など)が配置されている。
【0022】
また、外筒51のうち軸線方向後端部(図1において上端部)に位置する後端開口部51cの径方向内側には、フッ素ゴムからなる弾性シール部材73が配置されている。この弾性シール部材73には、軸線AX方向に延びる円筒状の挿通孔73cが、合計6個形成されている。各々の挿通孔73cは、弾性シール部材73の挿通孔面73b(円筒状の内壁面)によって構成されている。各々の挿通孔73cには、リード線71が1本ずつ挿通されている。各々のリード線71は、弾性シール部材73の挿通孔73cを通じて、ガスセンサ1の外部に延出している。弾性シール部材73は、外筒51の後端開口部51cを径方向内側に加締めることで径方向に弾性圧縮変形し、これにより、挿通孔面73bとリード線71の外周面71bとを密着させて、挿通孔面73bとリード線71の外周面71bとの間を水密に封止している。
【0023】
センサ素子10は板状をなし、排ガス中のアンモニア及びNOxの濃度を検出可能なマルチガスセンサ素子である。マルチガスセンサ素子としては、例えば特許第5416686号公報、特許第6088463号公報に記載の公知の構成の素子を用いることができる。
センサ素子10の構成例を簡単に説明すると、板状のセンサ素子の内部にNOx濃度を検出する検出セル等が配置され、センサ素子の外部に、検知電極及び基準電極を有するアンモニア検知部が配置されている。
【0024】
次に、図2を参照し、本発明の実施形態に係るガスセンサ1の特徴部分について説明する。
図2に示すように、主体金具20の先端側に突出したセンサ素子10の先端部10sは、内側プロテクタ32の内面、主体金具20の先端部20bの内面、及び金属カップ41の先端面で囲まれた空間である素子室150内に収容されている。
そして、プロテクタを構成する外側プロテクタ31及び内側プロテクタ32のうち、センサ素子10に対向する内面(素子室150を形成する面)に相当する、内側プロテクタ32の内面にFe-Al合金層101が形成されている。
【0025】
Fe-Al合金層101はFeを主成分とし、例えばCrを4.0~9.0質量%含むことができる。
Fe-Al合金層はFeを主成分(50質量%を超える含有量)とすればその組成は限定されないが、Al含有量は、Fe-Al平衡状態図の固溶限以下とするのが好ましい。例えば、Alを31.0~33.0質量%含むことができる。又、Cr以外に適宜添加元素を含有してもよい。
【0026】
Fe-Al合金層101は、例えばカロライジング処理と称する、被処理物をFeAl合金粉と共に高温加熱するアルミニウム拡散浸透処理によって形成することができる。又、被処理物を溶融したAl又はAl合金に浸漬処理する、アルミナイジングによってもFe-Al合金層を形成することができる。
【0027】
このFe-Al合金層101は耐酸化性に優れることが知られているが、プロテクタを構成するステンレス鋼に含まれるCrの熱による被測定ガス中への拡散を抑制できることが判明した。
このようにして、プロテクタを構成するステンレス鋼中のCrが被測定ガス中に拡散し難くなるので、アイドリングストップ等でプロテクタ内部の被測定ガスが滞留しても、被測定ガス中のCrがセンサ素子10の先端部10s(又は先端部10sを覆う多孔質保護層)に付着して触媒活性を示すことを抑制する。これにより、センサ素子10に付着したCrの触媒活性により特定ガス(アンモニア、酸素等)が燃焼して特定ガスの検出精度が低下することを抑制できる。
又、プロテクタ自体は強度に優れたステンレス鋼とすることができるので、プロテクタの強度を確保できる。
【0028】
又、Fe-Al合金層101のCr含有量を4.0~9.0質量%とすると、プロテクタを構成するステンレス鋼(Cr含有量が10.5質量%以上)よりもCr含有量が低減するので、プロテクタ内の被測定ガスにCrがさらに拡散し難くなる。
Fe-Al合金層101の厚みは、例えば13~17μmとすることができる。
【0029】
さらに、本例では、主体金具20のうちセンサ素子10に対向する内面(より具体的には円筒状の先端部20bの内面)にも、Fe-Al合金層103が形成されている。
このようにすると、センサ素子10(先端部10s)を収容する素子室150を形成する主体金具20の内面にもFe-Al合金層103が形成されているので、プロテクタを含む素子室150内の被測定ガスにCrがさらに拡散し難くなる。
【0030】
さらに、本例では、内側プロテクタ32は後端側の側面に複数の内側ガス導入孔32aを有し、外側プロテクタ31は、内側ガス導入孔32aと軸線AX方向の異なる位置(本例では内側ガス導入孔32aよりも先端側の側面)に複数の外側ガス導入孔31aを有している。
そして、軸線AX方向に内側ガス導入孔32と外側ガス導入孔31との間の領域Rにおける、内側プロテクタ32の外面と外側プロテクタ31の内面とに、それぞれFe-Al合金層105,107が形成されている。
【0031】
このようにすると、外部から被測定ガスGがセンサ素子10に流入する最初の経路である、領域Rにおける被測定ガスGの接触面(内側プロテクタ32の外面と外側プロテクタ31の内面)にそれぞれFe-Al合金層105,107が形成されることになる。
これにより、外部から被測定ガスGがセンサ素子10に流入する最初の経路にて、被測定ガスGにCrが拡散することを抑制し、センサ素子10にCrが付着して特定ガスの検出精度が低下することをさらに抑制できる。
【0032】
なお、軸線AX方向に複数の内側ガス導入孔32aや外側ガス導入孔31aが存在する場合、領域Rは、軸線AX方向に最も近接する内側ガス導入孔32aと外側ガス導入孔31aの間の領域であって、る内側ガス導入孔32aと外側ガス導入孔31aを含まない領域とする。これは、軸線AX方向に複数の内側ガス導入孔32a等があっても、軸線AX方向に最も近接する内側ガス導入孔32aと外側ガス導入孔31aの間を主に被測定ガスGが流れるからである。
又、本例では、内側プロテクタ32の先端側の側面に複数の内側ガス排出孔32bを有し、外側プロテクタ31の底面の中央に一個の外側ガス排出孔31bを有している。又、外側プロテクタ31の底面近傍は内側プロテクタ32の外側に露出している。
【0033】
本発明は上記実施形態に限定されず、本発明の思想と範囲に含まれる様々な変形及び均等物に及ぶことはいうまでもない。
例えば、本発明は、本実施の形態のマルチガスセンサ素子(マルチガスセンサ)に適用することができるが、これらの用途に限られず、本発明の思想と範囲に含まれる様々な変形及び均等物に及ぶことはいうまでもない。
但し、素子に付着したCrは、特にアンモニア、酸素への触媒活性を示すので、アンモニアセンサ(マルチガスセンサを含む)、酸素濃度を検出する酸素センサ、NOxを検出する際に酸素濃度を検出するNOxセンサに好適に使用でき、とりわけアンモニアセンサ(マルチガスセンサを含む)に好適に使用できる。
【実施例
【0034】
図1に示したマルチガスセンサ1を、アンモニアを所定濃度含むモデルガス中に配置し、ガスを滞留させた状態で、所定時間毎にアンモニア検知部によるアンモニア検知出力(起電力)を測定した。
得られた結果を図3に示す。
なお、図3において、ステンレス鋼(SUS310S)製の内側プロテクタ32の内面にFe-Al合金層(Al:31.0~33.0質量%、Cr:後述)を13~17μm形成したものを▲で示した。内側プロテクタ32の内面にFe-Al合金層を形成しなかったものを●で示した。
又、初期のアンモニア検知出力を100%とし、マルチガスセンサ1の使用時間に伴って変化したアンモニア検知出力を初期値に対する比で表した。
【0035】
図3に示すように、内側プロテクタ32の内面にFe-Al合金層を形成した場合、時間が経過してもアンモニア検知出力がほとんど低下せず、Fe-Al合金層により被測定ガスにCrが拡散することを抑制できた。
一方、、内側プロテクタ32の内面にFe-Al合金層を形成しなかった場合、時間が経過するとアンモニア検知出力が大幅に低下し、被測定ガスにCrが拡散したものと考えられる。
なお、内側プロテクタ32の内面のFe-Al合金層中のCr濃度を測定したところ、4.5~8.0質量%であった。Cr濃度の測定は層の断面のEDS分析により行った。
Fe-Al合金層の厚みは、内側プロテクタ32を切断した断面をSEM観察して測定した。
【符号の説明】
【0036】
1 ガスセンサ
10、10B、10C センサ素子
20 主体金具
31 プロテクタ(外側プロテクタ)
31a 外側ガス導入孔
32 プロテクタ(内側プロテクタ)
32a 内側ガス導入孔
101,103,105,107 Fe-Al合金層
AX 長手方向(軸線)
R 領域
図1
図2
図3