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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-12
(45)【発行日】2024-09-24
(54)【発明の名称】試験装置
(51)【国際特許分類】
   G01M 7/02 20060101AFI20240913BHJP
【FI】
G01M7/02 B
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2021139906
(22)【出願日】2021-08-30
(65)【公開番号】P2023033929
(43)【公開日】2023-03-13
【審査請求日】2024-02-02
(73)【特許権者】
【識別番号】319007240
【氏名又は名称】株式会社日立インダストリアルプロダクツ
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】石原 新士
(72)【発明者】
【氏名】青木 祐也
【審査官】中村 圭伸
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-190880(JP,A)
【文献】特開昭58-120144(JP,A)
【文献】特開平7-306115(JP,A)
【文献】特開2008-233075(JP,A)
【文献】特開2012-237634(JP,A)
【文献】特開2011-27669(JP,A)
【文献】米国特許第6848311(US,B1)
【文献】中国特許出願公開第102147322(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01M 7/00 - 7/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
評価対象である供試体を配置する供試体設置部と、前記供試体設置部を加振するためのアクチュエータと、前記アクチュエータの応答を検出する内部センサと、試験装置の動作パターンを設定する目標波形設定部と、オペレータ操作を受け付けると共に試験動作を提示するユーザインタフェースと、前記アクチュエータの応答を制御し、且つ、試験結果を前記ユーザインタフェースに提示するコントローラと、を備えた試験装置であって、
目標波形と内部センサの検出値との差を解消するように制御入力を計算するフィードバック制御部と、
前記内部センサの検出値から供試体の応答を計算する供試体応答予測部と、
実験データを用いて少なくとも前記供試体応答予測部の調整を行う実験データ解析部と、
を有することを特徴とする試験装置。
【請求項2】
請求項1に記載の試験装置において、
前記コントローラは、前記フィードバック制御部と、目標波形に従って制御入力を計算するフィードフォワード制御部と、前記供試体応答予測部と、前記実験データ解析部と、を有することを特徴とする試験装置。
【請求項3】
請求項1に記載の試験装置において、
追加コントローラを備え、
前記追加コントローラは、前記供試体応答予測部及び前記実験データ解析部を有することを特徴とする試験装置。
【請求項4】
請求項1に記載の試験装置において、
追加コントローラを備え、
前記追加コントローラは、目標波形と内部センサの検出値との差を解消するように目標波形を修正するプレフィルタタイプのフィードフォワード制御部と、前記供試体応答予測部及び前記実験データ解析部を有することを特徴とする試験装置。
【請求項5】
請求項1に記載の試験装置において、
前記コントローラは、前記フィードバック制御部と、目標波形と内部センサの検出値との差を解消するように目標波形を修正するプレフィルタタイプのフィードフォワード制御部と、前記供試体応答予測部及び前記実験データ解析部を有することを特徴とする試験装置。
【請求項6】
請求項2に記載の試験装置において、
供試体応答を計測する外部センサを備え、
前記実験データ解析部は、ユーザインタフェースから調整用の目標波形を設定した状態で試験加振を実施し、試験加振時の内部センサの検出値と外部センサの検出値を記録し、前記内部センサの検出値と外部センサの検出値に従って供試体応答予測部の予測モデルを更新し、外部センサの検出値に従ってフィードフォワード制御部を更新することを特徴とする試験装置。
【請求項7】
請求項3に記載の試験装置において、
供試体応答を計測する外部センサを備え、
前記実験データ解析部は、ユーザインタフェースから調整用の目標波形を設定した状態で試験加振を実施し、試験加振時の内部センサの検出値と外部センサの検出値を記録し、前記内部センサの検出値と外部センサの検出値に従って供試体応答予測部の予測モデルを更新することを特徴とする試験装置。
【請求項8】
請求項4に記載の試験装置において、
供試体応答を計測する外部センサを備え、
前記実験データ解析部は、ユーザインタフェースから調整用の目標波形を設定した状態で試験加振を実施し、試験加振時の内部センサの検出値と外部センサの検出値を記録し、前記内部センサの検出値と外部センサの検出値に従って前記供試体応答予測部の予測モデルを更新し、外部センサの検出値に従って前記プレフィルタタイプのフィードフォワード制御部を更新することを特徴とする試験装置。
【請求項9】
請求項5に記載の試験装置において、
供試体応答を計測する外部センサを備え、
前記実験データ解析部は、ユーザインタフェースから調整用の目標波形を設定した状態で試験加振を実施し、試験加振時の内部センサの検出値と外部センサの検出値を記録し、前記内部センサの検出値と外部センサの検出値に従って供試体応答予測部の予測モデルを更新し、外部センサの検出値に従ってプレフィルタタイプのフィードフォワード制御部を更新することを特徴とする試験装置。
【請求項10】
評価対象である供試体を配置する供試体設置部と、前記供試体設置部を加振するためのアクチュエータと、前記アクチュエータの応答を検出する内部センサと、試験装置の動作パターンを設定する目標波形設定部と、オペレータ操作を受け付けると共に試験動作を提示するユーザインタフェースと、前記アクチュエータの応答を制御し、且つ、試験結果を前記ユーザインタフェースに提示するコントローラと、を備えた試験装置のパラメータ調整方法であって、
実験データ解析部が、内部センサの検出値及び外部センサにより計測される供試体応答を加振開始から加振終了まで記憶し、
前記実験データ解析部が、加振中に取得したデータを用いて供試体応答予測のための伝達関数を算出し、フィードフォワード制御の伝達関数のパラメータの調整を行うことを特徴とする試験装置のパラメータ調整方法。
【請求項11】
請求項10に記載の試験装置のパラメータ調整方法において、
供試体が変更されると、前記実験データ解析部が、内部センサの検出値及び外部センサにより計測される供試体応答を加振開始から加振終了まで記憶することを特徴とする試験装置のパラメータ調整方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、試験対象を加振して評価する試験装置及び試験装置のパラメータ調整方法に関する。
【背景技術】
【0002】
構造物の耐震性能を評価するために、構造物の特性を模擬したモデル(以下、供試体と称する)を加振して評価する試験装置が知られている。これらの試験装置には、地震波形など、変位や加速度の応答が早い試験パターンを再現する必要があるため,応答性や駆動力に優れる油圧アクチュエータが利用されることが多い。
【0003】
このような振動試験装置は、ユーザが定めた所定の試験パターン(加速度指令や変位指令)に従って、油圧アクチュエータを駆動することによって、供試体の評価試験を実施する。
振動試験装置には油圧アクチュエータの位置,速度,加速度を取得するセンサが取り付けられているため,これらの信号を利用してフィードバック制御を実施することで,所望の試験波形を再現する。
【0004】
しかしながら、上記の構成では、油圧アクチュエータの変位或いは油圧アクチュエータの速度を試験パターンに追従させることができるものの、必ずしも、供試体の変位,速度,及び加速度を試験パターンに追従させることができるとは限らない。このため、供試体の特定箇所に生じる変位,速度,及び加速度のパターンを再現したいというユーザ(若しくは、オペレータ)の要求に応えることが容易ではない。
【0005】
さらに、油圧アクチュエータを利用する関係上、油圧の特性の変化や駆動部の摩擦などの変動要素を有するために、適切な制御設計がなされていないと、油圧アクチュータの変位或いは油圧アクチュータの速度も所望のパターンで駆動することは困難である。
【0006】
このような課題に対して、特許文献1では、供試体(被試験体)に変位センサ及び加速度センサを取り付け、その信号をサーボ制御装置に取り込み、このセンサ情報を利用して試験条件(加振パターン)を変更することで、供試体の変位や加速度を制御する振動試験装置が提示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2012-237634号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1に開示される試験装置は、供試体の特定箇所の変位や加速度が取得できる構成になっているため、これらの信号を利用して適切な制御を実行すれば、試験装置のユーザ又はオペレータが望む試験パターンを再現し得る構成になっている。
具体的には、特許文献1では、供試体の振動特性を取得するための試験を行い、この試験において指令した変位量(若しくは加速度量)に対して、実際に供試体に取り付けられたセンサから取得した変位量を記憶する。この特性把握用の加振で得られた波形の周波数と変位量をデータベースとして保管し、供試体が最大変位量を超えるまで加振指令値を増幅する特性把握試験を繰り返し行うことで、実際に試験を行いたい周波数領域をカバーするように、供試体を最大変位で加振できる補正量を決定する。この補正量を利用して、試験パターンを補正することで所望の変位で供試体を加振することができるようになる。
【0009】
上記の手法を利用すれば,実際の供試体の変位が,試験装置のユーザが望む変位に調整することが可能である。よって,供試体に与える力やエネルギなどを評価する試験には有効な手法である。
【0010】
しかしながら、特許文献1の手法では振幅(ゲイン)のみを変更しており、位相の補償は実施されないため、動的に試験パターンを変更する場合は十分な性能を提供できない虞がある。
【0011】
そこで、本発明は、供試体の挙動を正確に予測し、その予測値を用いて所望の供試体応答の実現、すなわち、変位の量(ゲイン)と位相の調整を行い得る試験装置及び試験装置のパラメータ調整方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するため、本発明に係る試験装置は、評価対象である供試体を配置する供試体設置部と、前記供試体設置部を加振するためのアクチュエータと、前記アクチュエータの応答を検出する内部センサと、試験装置の動作パターンを設定する目標波形設定部と、オペレータ操作を受け付けると共に試験動作を提示するユーザインタフェースと、前記アクチュエータの応答を制御し、且つ、試験結果を前記ユーザインタフェースに提示するコントローラと、を備えた試験装置であって、目標波形と内部センサの検出値との差を解消するように制御入力を計算するフィードバック制御部と、前記内部センサの検出値から供試体の応答を計算する供試体応答予測部と、実験データを用いて少なくとも前記供試体応答予測部の調整を行う実験データ解析部と、を有することを特徴とする。
また、本発明に係る試験装置のパラメータ調整方法は、評価対象である供試体を配置する供試体設置部と、前記供試体設置部を加振するためのアクチュエータと、前記アクチュエータの応答を検出する内部センサと、試験装置の動作パターンを設定する目標波形設定部と、オペレータ操作を受け付けると共に試験動作を提示するユーザインタフェースと、前記アクチュエータの応答を制御し、且つ、試験結果を前記ユーザインタフェースに提示するコントローラと、を備えた試験装置のパラメータ調整方法であって、実験データ解析部が、内部センサの検出値及び外部センサにより計測される供試体応答を加振開始から加振終了まで記憶し、前記実験データ解析部が、加振中に取得したデータを用いて供試体応答予測のための伝達関数を算出し、フィードフォワード制御の伝達関数のパラメータの調整を行うことを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、供試体の挙動を正確に予測し、その予測値を用いて所望の供試体応答の実現、すなわち、変位の量(ゲイン)と位相の調整を行い得る試験装置及び試験装置のパラメータ調整方法を提供することが可能となる。
上記した以外の課題、構成及び効果は、以下の実施形態の説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の一実施形態に係る油圧駆動式振動試験装置を模式的に示す概観図である。
図2】本発明の一実施例に係る実施例1の油圧駆動式振動試験装置の機能ブロック図である。
図3A】目標波形を示すグラフである。
図3B】目標波形とアクチュータ変位の様子を示すグラフである。
図3C】目標波形と供試体変位の様子を示すグラフである。
図4】外部センサを利用したフィードバック制御の機能ブロック図である。
図5A】本実施例のフィードフォワード制御の設計に係るブロック線図である。
図5B】本実施例のフィードフォワード制御の設計に係るブロック線図である。
図5C】本実施例のフィードフォワード制御の設計に係るブロック線図である。
図6】実施例1に係る試験装置の駆動方法を示すフローチャートである。
図7】本発明の他の実施例に係る実施例2の油圧駆動式振動試験装置を模式的に示す概観図である。
図8図7に示す油圧駆動式振動試験装置の機能ブロック図である。
図9A】目標波形の修正方法を示す図である。
図9B】目標波形の修正方法を示す図である。
図10】実施例2に係る試験装置の駆動方法を示すフローチャートである。
図11】本発明の他の実施例に係る実施例3の油圧駆動式振動試験装置を模式的に示す概観図である。
図12図11に示す油圧駆動式振動試験装置の機能ブロック図である。
図13】プレフィルタタイプのフィードフォワード制御を含むブロック線図である。
図14】本発明の他の実施例に係る実施例4の油圧駆動式振動試験装置の機能ブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
図1は、本発明の一実施形態に係る油圧駆動式振動試験装置を模式的に示す概観図である。なお、本明細書では、説明の簡略化のため、1軸の油圧駆動式振動試験装置を例示して説明するが、本発明は1軸の油圧駆動式振動試験装置に限定されるものではない。例えば、駆動方式が油圧式の油圧ピストンでなく、電動式の直動アクチュエータであっても良い。さらに、本発明の適用範囲は振動試験装置に限定されるものでもない。例えば、回転運動によって遠心加速度を発生させる遠心力載荷試験装置などにも適用でき、試験装置の一例として、以下では、油圧駆動式振動試験装置を試験装置の一例として説明する。なお、図1では、点線は信号線を示し、実線は配管を示している。
【0016】
図1に示すように、ユーザインタフェース1は、試験装置の一例として油圧駆動式振動試験装置100のユーザ若しくはオペレータが各種試験パターンを設定するために利用される。オペレータはユーザインタフェース1を介して、目的とする加振波形を設定する。
ユーザインタフェース1は目標信号を生成する装置であるため、専用の端末に限らず、操作端末とシグナルジェネレータの組合せなど複数機器で構成されていても良い。なお、操作端末は、通常のパソコン(PC)やタブレットPCであっても良い。
【0017】
なお,ユーザインタフェース1で設定する加振波形の次元は変位,速度,加速度の何れでもよい。オペレータは,過去に実際に起きた地震波形の再現や,特定の挙動を励起するように任意のパターンで加振波形を設計する。
試験用の目標信号を生成する端末(シグナルジェネレータやPC)が、本発明における目標波形設定部に相当する。
コントローラ2は、ユーザインタフェース1で設定された目標通りに油圧駆動式振動試験装置を動かすための各種制御演算を実行する。コントローラ2は、ユーザインタフェース1で設定した目標加振波形と後述する各種センサS01~S06の値を取得して、サーボアンプ3の操作量の演算を行う。なお、コントローラ2の詳細な構成は後述する。
【0018】
サーボアンプ3は、コントローラ2から出力された指令(電圧)を、サーボバルブ4を駆動するために電流値へと変換する。
サーボバルブ4は、サーボアンプ3から受け取った電流値に従って、弁の開閉を行うことで、油圧源5から油圧シリンダ6に流れる圧油を調整する。サーボバルブ4と油圧源5の間に圧油の温度を検出する温度センサS01が備えられる。
【0019】
サーボバルブ4を経て油圧シリンダ6に供給された圧油は、油圧ピストン7を駆動する。このとき、サーボバルブ4の図1中の左右どちらのポートから圧油が供給されるかによって、油圧ピストン7の駆動方向が変更される。サーボバルブ4から吐出された圧油は流量センサS02a,S02bによって検出可能である。油圧ピストン7の駆動方向に応じて、圧油の流れる経路が変わるため、駆動方向によって使用する流量センサを適宜変更しても良い。
【0020】
油圧ピストン7は、カップリング8を介してテーブル9に力を加えることで、テーブル9を振動させる。油圧ピストン7には、速度センサS03及び変位センサS04が備え付けられている。なお、必ずしも、速度センサS03及び変位センサS04を両方とも備える必要はない。例えば、変位センサS04のみが備えられている場合には、検出値の差分を速度として近似利用すれば良い。また、速度センサS03のみが備えられている場合には、積分値を変位量としても良い。さらにまた、速度センサS03や変位センサS04の替わりに、若しくは、追加して加速度センサを備えても良い。これら油圧ピストン7の変位を検出するためのセンサが、本発明の内部センサに相当する。
【0021】
油圧シリンダ6には、油圧ピストン7の前後圧を検出するための圧力センサS05a,S05bが備えられている。これらのセンサを区別する必要がある場合は、油圧ピストン7からテーブル9に向かう軸にx軸をとり、x軸の負側の圧力センサS05aを後方圧力センサ、x軸の正側の圧力センサS05bを前方圧力センサと呼ぶ。
【0022】
上述のサーボアンプ3、サーボバルブ4、油圧源5、油圧シリンダ6、及び油圧ピストン7にて、後述する本発明におけるアクチュエータ11が構成される。
【0023】
テーブル9に、試験対象になる構造物(供試体10)を備え付け、ユーザインタフェース1で設定した加振波形に従って、供試体10を加振することで、各種評価を行う。テーブル9は本発明における供試体設置部に相当する。
【0024】
以上の構成が顧客現場に備えつけられている試験装置(油圧駆動式振動試験装置100)の構成である。本発明では、上記の構成に加えて、供試体10の挙動(変位,速度,加速度)を計測するために、非接触センサS06を別途用意する。非接触センサS06は本発明の外部センサに相当する。非接触センサS06として、例えば、レーザー変位計が用いられる。非接触センサS06は試験装置(油圧駆動式振動試験装置100)の応答調整時に調整作業員が設置するものであり、顧客が利用するものではない。すなわち、顧客が行う加振試験時に非接触センサS06の情報を利用することはできないことに注意されたい。
【0025】
以下、図面を用いて本発明の実施例について説明する。なお、以下では、説明を簡単にするため、全て加振波形が変位の次元で与えられる変位制御を前提とするが、速度制御或いは加速度制御であっても、本発明の技術的範囲に含まれることは言うまでもない。
【実施例1】
【0026】
図2は、本発明の一実施例に係る実施例1の油圧駆動式振動試験装置の機能ブロック図である。なお、図2では、理解を容易にするため便宜上、上述の図1に示した一部の構成要素を省略している。
【0027】
図2に示すように、ユーザインタフェース1は、GUI(Graphical User Interface)1a及び目標波形設定部1bから構成される。GUI1aはオペレータが各種入力を行う操作端末(PCやタブレットなど)に相当し、目標波形設定部1bは試験パターンを生成するシグナルジェネレータに相当する。なお、GUI1aはモニタを備えており、後述のとおり、オペレータが実験結果を視覚的に確認することができる。
【0028】
コントローラ2は、フィードバック制御部2a、フィードフォワード制御部2b、実験データ解析部2c、及び供試体応答予測部2dから構成される。ここで、フィードバック制御部2a、フィードフォワード制御部2b、実験データ解析部2c、及び供試体応答予測部2dは、例えば、図示しないCPU(Central Processing Unit)などのプロセッサ、各種プログラムを格納するROM、演算過程のデータを一時的に格納するRAM、外部記憶装置などの記憶装置にて実現されると共に、CPUなどのプロセッサがROMに格納された各種プログラムを読み出し実行し、実行結果である演算結果をRAM又は外部記憶装置に格納する。
【0029】
フィードバック制御部2aは、アクチュエータ11(サーボアンプ3、サーボバルブ4、油圧源5、油圧シリンダ6、及び油圧ピストン7にて構成される)の挙動が安定になるように、内部センサ(変位センサS04に相当)の出力結果に基づいてフィードバック制御入力の演算を行う。フィードバック制御にはPID制御などが利用される。
【0030】
フィードフォワード制御部2bは、ユーザインタフェース1を構成する目標波形設定部1bで設定された目標波形に基づいてフィードフォワード制御入力の計算を行う。フィードフォワード制御入力の演算の詳細は後述する。
アクチュエータ11には、上記のフィードバック制御入力とフィードフォワード制御入力を足し合わせた値が指令値として印加される。
【0031】
実験データ解析部2cは、内部センサ(変位センサS04に相当)で取得したアクチュータ11の変位及び外部センサ(非接触センサS06に相当)で取得した供試体10の変位に従って、上述のフィードフォワード制御部2bのパラメータ調整及び後述する供試体応答予測部2dのパラメータ調整を行う。実験データ解析部2cの演算の詳細は後述する。
供試体応答予測部2dは、内部センサ(変位センサS04)で取得したアクチュエータ11の変位と、実験データ解析部2cで算出されたパラメータに従って供試体10の変位の予測値を計算する。この機能によって、外部センサ(非接触センサS06)がない状態でも、試験装置(油圧駆動式振動試験装置100)のオペレータは供試体10の変位を把握することができる。
【0032】
以下、いくつかの図を用いて、コントローラ2におけるフィードフォワード制御部2b、実験データ解析部2c、及び供試体応答予測部2dについて具体的に説明する。
【0033】
フィードフォワード制御部2及び供試体応答予測部2dの2つの機能ブロックは、初回加振時は機能しておらず、予め試験加振を行って供試体10の変位及びアクチュエータ11の変位のデータが実験データ解析部2cに記憶され、分析されてからそれぞれの機能が有効になる。
【0034】
具体例として、図3Aに示すような黒実線で示す目標波形で試験加振を実施したとする。この時、内部センサ(変位センサS04)で取得したアクチュエータ11の変位は、図3B中の点線、外部センサ(非接触センサS06)で取得した供試体10の変位は、図3Cの一点鎖線で示される波形として得られたとする。
【0035】
本実施例に係る試験装置(油圧駆動式振動試験装置100)の制御目的は、目標波形と供試体10の応答(外部センサS06の波形)を一致させることである。
ただし、コントローラ2を構成するフィードバック制御部2aは、アクチュエータ11の応答(内部センサS04の応答)を目標波形に合わせるために利用されるものである。すなわち、フィードバック制御部2aは、図3Bに示される2つの波形を一致させるために用いられる。よって、上記の目標を達成する、すなわち図3Cに示される2つの波形を一致させるには不向きであることに注意が必要である。
【0036】
なお、供試体10に外部センサS06が取り付けられた場合、図4に示すように、フィードバック制御部2aを構築すれば、供試体10の応答が目標波形に一致するようにアクチュエータ11を制御できる可能性がある。しかし、このようなフィードバック制御を行うと、アクチュエータ制御の内部安定性を保証できないため、試験装置(油圧駆動式振動試験装置100)を破損する虞がある。
以上を鑑みて、本実施例係る試験装置(油圧駆動式振動試験装置100)は、供試体10の応答を目標波形に一致させるために、フィードフォワード制御部2bを活用する。
【0037】
フィードフォワード制御部2bの具体的な設計方法について説明する。
図5Aは、本実施例のフィードフォワード制御の設計に係るブロック線図であって、フィードフォワード制御部2bが無効な状態であり、フィードバック制御部2aのみが有効な時の制御ブロック図である。Cはフィードバック制御部(図5A中、FB制御)の伝達関数であり、Pはアクチュエータ11の伝達関数であり、Gはテーブル9(供試体設置部)を含む供試体10の伝達関数を意味する。
【0038】
この時、目標値r(目標波形1bに相当)からアクチュエータ11の応答y(内部センサS04の応答に相当)までの伝達関数は以下の式(1)で与えることができる。
【0039】
【数1】
【0040】
さらに、アクチュエータ11の応答yから供試体10の応答z(外部センサS06の応答に相当)は以下の式(2)で与えることができる。
【0041】
【数2】
【0042】
上述の式(1)及び式(2)より、目標値rから供試体の応答zへの応答を以下の式(3)で与えることができる。
【0043】
【数3】
【0044】
図5Bは、本実施例のフィードフォワード制御の設計に係るブロック線図であって、フィードフォワード制御部2bが有効になったときのブロック線図である。Fがフィードフォワード制御(図5B中、FF制御)の伝達関数である。
【0045】
フィードフォワード制御が有効な時、目標値rからアクチュータ11の変位yまでの伝達関数は以下の式(4)で表現できる。
【0046】
【数4】
【0047】
先ほどと同様に、目標値rから供試体10の応答zへの応答は以下の式(5)で与えることができる。
ここで、フィードバック制御のみが有効な時に得られた供試体10の応答zをz1とし、フィードフォワード制御が追加されたときに得られる供試体10の応答zをz2とすると、上述の式(3)及び以下の式(5)より、式(6)の関係式を得ることができる。
【0048】
【数5】
【0049】
【数6】
【0050】
すなわち、フィードバック制御のみが有効な時に取得した供試体10の応答z1(外部センサS06のデータ)があれば、フィードフォワード制御を加えた後の供試体10の応答z2を式(6)で設計することができる。
【0051】
より具体的には、図5Cのように理想的な応答を表現した参照モデルMに対する供試体10の応答zm(以下に示す式(7))とフィードフォワード制御を加えた後の供試体10の応答z2の差ができるだけ小さくなるように、以下に示す式(8)の評価関数Jを最小化するようにフィードフォワード制御Fを設計する。
【0052】
【数7】
【0053】
【数8】
【0054】
例えば、フィードフォワード制御を、調整パラメータρを有する伝達関数として、以下の式(9)で定義すると、式(8)を最小化するように調整パラメータρを算出することができる。ここで、sはラプラス変換である。
【0055】
【数9】
【0056】
なお、式(9)の次数mが大きいほど、実現可能な制御動作の幅が広がり、理想応答zmに近い波形を実現できるようになるが、一方で最適化計算に必要な時間が長くなる。
このため、次数mは小さな値で設定し、所望の精度を実現できない場合に限り、次数mを大きくする運用方法が望ましい。
【0057】
さらに、上述の式(6)によれば、設計したフィードフォワード制御Fと実測した供試体10の応答z1を利用して、設計したフィードフォワード制御追加後の応答z2が予測できる。この予測結果を利用して、設計したフィードフォワード制御Fが所望の応答を実現するかを事前に計算することができる。この事前計算結果を利用して、次数mの調整を行う機構が備わっていることが望ましい。
【0058】
以上、実験データ(供試体の変位z1)を用いてフィードフォワード制御部2bを設計するアルゴリズムが実験データ解析部2cに実装されている。
【0059】
上述のように、フィードバック制御のみが有効な状態でアクチュエータ11の応答yと供試体10の応答zを取得すると図5における供試体の伝達関数Gの入出力データが利用できる。
入出力データがあれば、システム同定を利用して伝達関数Gを推定することができる。システム同定で得られた伝達関数Gdを利用すれば、アクチュエータ11の応答yから供試体10の応答zの予測値zdを以下の式(10)で得ることができる。
【0060】
【数10】
【0061】
以上のように、実験データ(アクチュータ11の変位y、供試体10変位z)を利用して供試体応答予測部2dを設計するアルゴリズムが実験データ解析部2cに実装されている。
【0062】
一般に、供試体10の応答予測を行う場合、供試体10の機構モデル(運動方程式)を構築して、その機構モデルの伝達関数を算出する。このような手法の場合、供試体が変更されるたびに機構モデルを構築する必要があり、試験装置(油圧駆動式振動試験装置100)のユーザに負担がかかる。一方で、システム同定によって、供試体10の伝達関数Gdを求める手法は供試体10が頻繁に変わる試験装置(油圧駆動式振動試験装置100)でも、試験加振を行うのみで、供試体10の応答を取得できる点にメリットがある。
なお、システム同定を行う場合、フィードフォワード制御Fと同様に、伝達関数Gdの次数nも大きいほど表現力が高くなる。ただし、次数nが高すぎると予測計算時間が必要になるため、次数nはできるだけ低いほうが望ましい。このため、低い次数から同定をはじめ、モデルの精度(平均二乗誤差など)をユーザに提示して、徐々に次数を上げていく方式が望ましい。
【0063】
次に本実施例に係る試験装置(油圧駆動式振動試験装置100)の駆動方法について説明する。図6は、本実施例に係る試験装置(油圧駆動式振動試験装置100)の駆動方法を示すフローチャートである。
【0064】
図6に示すように、まず、試験装置(油圧駆動式振動試験装置100)の立ち上げ準備として、ステップS01において、オペレータが各種設定を行う。これはオペレータがユーザインタフェース1を構成するGUI1aを操作して、試験パターンを設定する操作に相当する。そしてこの操作を行うことで、ユーザインタフェース1を構成する目標波形設定部1bに試験パターンが設定される。
また、コントローラ2では、オペレータが目標波形設定部1bに試験パターンを設定したタイミングで、フィードフォワード制御の伝達関数F(上述の式(9))の分子部分の係数ρi(i=0~m)を全て“0”に設定する。このように設定することで、フィードフォワード制御部2bは常に“0”を出力する無効状態になる。
さらに、フィードフォワード制御の次数mを初期値(例えば、m=3)のように設定する。ステップS01(初期設定)の処理が全て完了するとステップS02に遷移する。
【0065】
ステップS02では、ユーザインタフェース1を構成する目標波形設定部1bに設定された試験パターンを利用した加振試験を行う。
ステップS03において、実験データ解析部2cは、加振開始から内部センサ(変位センサS04)及び外部センサ(非接触センサS06)が出力するデータをロギングし始め、加振が終了するとデータのロギングを終了する。
【0066】
ステップS04では、実験データ解析部2cが、加振中に取得したデータを用いて供試体応答予測のための伝達関数Gdを算出する。
その後、ステップS05にて、供試体応答予測部2dが、実験データ解析部2cにより算出された伝達関数Gdの精度予測値を、ユーザインタフェース1を構成するGUI1aのモニタに表示する。
【0067】
ステップS06では、調整員はGUI1aのモニタに表示された予測精度が所望の値を満たしているかを確認し、調整員による確認結果(判断結果)の入力をGUI1aが受け付け、次のステップに移行する。具体的には、調整員による確認結果(判断結果)の入力が「精度が十分」(YES)ならばステップS08に遷移し、一方、調整員による確認結果(判断結果)の入力が「精度が不十分」(NO)ならばステップS07に遷移する。
【0068】
ステップS07に遷移した場合、GUI1aを介して実験データ解析部2cにより算出された伝達関数Gdの次数nを上げて再度ステップS04に遷移する。なお、次数nを上げても精度が改善しない場合、それ以上の繰り返しを行わないように、ステップS06での判定が「YES」になるようにする処理を有することが望ましい。
【0069】
上述のステップS04からステップS07までの処理は実験データ解析部2cにて、供試体応答予測部2dを計算するステップに相当する。
【0070】
ステップS08では、実験データ解析部2cが、加振中に取得したデータを用いてフィードフォワード制御の伝達関数Fのパラメータの調整を行う。
ステップS08でパラメータρの算出が終わるとステップS09に遷移する。ステップS09では、供試体応答予測部2dが、実験データ解析部2cにより算出されたパラメータρを用いて伝達関数Fと、上述の式(6)から供試体10の変位の予測値z2を算出し、算出結果として供試体10の変位の予測値z2を、ユーザインタフェース1を構成するGUI1aへ出力し、GUI1aのモニタへ表示する。
【0071】
ステップS10にて、調整員は、ユーザインタフェース1を構成するにGUI1aのモニタに表示された供試体10の変位の予測値z2を確認して、フィードフォワード制御Fを適用した時に得られる供試体応答が試験目的にマッチするかを判断する。試験目的にマッチすると判断した場合(YES)はステップS12へ遷移し、一方、試験目的にマッチしない(NO)と判断した場合はステップS11に遷移する。具体的には、調整員による判断結果の入力が「マッチした(目標達成)」(YES)をGUI1aが受け付けるとステップS12に遷移し、一方、調整員による確認結果(判断結果)の入力が「マッチしない(目標未達成)」(NO)をGUI1aが受け付けるとステップS11に遷移する。
【0072】
ステップS11に遷移した場合、フィードフォワード制御Fの次数mを変更する操作を行う。次数mが高いほど調整員の判断する条件を達成し易くなるが、計算時間も増えるため、次数mの増加幅は「1」とすることが望ましい。ステップS11で次数変更を行ったら、ステップS08に戻り、実験データ解析部2cが、再度フィードフォワード制御Fの各係数の計算を行う。この処理は、ステップS10で調整員がGUI1aを介して「マッチした(目標達成)」(YES)との判断を入力するまで、次数mを増やして繰り返される。なお、システム同定(上述のステップS04)のパートと同じく、次数mを上げても結果が変わらない場合、ステップS10で「YES」になるようにする処理を有することが望ましい。
【0073】
ステップS08からステップS11の処理は実験データ解析部2cにて、フィードフォワード制御部2bのパラメータを計算するステップに相当する。
なお、システム同定(ステップS04~ステップS07)とフィードフォワード制御設計(ステップS08~ステップS11)の順番は逆になっても良い。
【0074】
システム同定とフィードフォワード制御設計が終了すると、ステップS12に遷移し、求まった各種パラメータを確定する。
以上、ステップS01からステップS12は試験装置(油圧駆動式振動試験装置100)の調整員が行う作業である。この作業が実施されている最中は外部センサ(非接触センサS06)が利用できるが、顧客(試験装置のオペレータ)への引き渡し時に外部センサ(非接触センサS06)が撤去される。この撤去作業がステップS13に含まれる。
【0075】
ステップS14にて、試験装置(油圧駆動式振動試験装置100)のオペレータは調整済みのパラメータを用いて本加振実験を行う。
ステップS15では、再試験を行う場合(YES)はステップS16に遷移し、一方、再試験を行わない場合(NO)は終了する。
【0076】
ステップS16にて、再試験を行う場合でも供試体10が変わらない場合(NO)は継続して試験を行うことができる。一方、供試体が変更されると、設計した供試体モデルGd(供試体応答予測のための伝達関数Gd)とフィードフォワード制御Fを更新する必要があるため、ステップS01に戻り上述の処理を繰り返し実行する。
なお、顧客(試験装置のオペレータ)が外部センサ(非接触センサS06)を用意する場合、ステップS01~ステップS12のステップを顧客(試験装置のオペレータ)が実行できることは言うまでもない。そのような場合、上述のステップS13も不要になる。
【0077】
以上の通り、本実施例によれば、供試体の挙動を正確に予測し、その予測値を用いて所望の供試体応答の実現、すなわち、変位の量(ゲイン)と位相の調整を行い得る試験装置及び試験装置のパラメータ調整方法を提供することが可能となる。
【実施例2】
【0078】
図7は、本発明の他の実施例に係る実施例2の油圧駆動式振動試験装置を模式的に示す概観図であり、図8は、図7に示す油圧駆動式振動試験装置の機能ブロック図である。上述の実施例1では、コントローラ2がフィードフォワード制御部2bを有する構成であるのに対し、本実施例では、コントローラ2はフィードバック制御部2aを有し、追加コントローラ20を更に設け、追加コントローラ20が実験データ解析部2c及び供試体応答予測部2dを有する構成とした点が実施例1と異なる。実施例1と同様の構成要素に同一符号を付し、以下では、実施例1と重複する説明を省略する。
【0079】
本実施例に係る試験装置の一例としての油圧駆動式振動試験装置100aを構成するコントローラ2がフィードフォワード制御部2bを有しない点に特徴があり、既設の試験装置など、コントローラ2のプログラムを更新することが困難なサイトでの利用に好適である。
【0080】
図8に示すように、既設のコントローラ2は、フィードバック制御部2aのみが実装されており、追加の機能を導入することができない。このため、非接触センサS06のセンサ情報はコントローラ2に取り込むのではなく、別に用意した追加コントローラ20に取り込む構成としている。よって、本実施例では、上述の実施例1におけるコントローラ2内に実装されていた実験データ解析部2c及び供試体応答予測部2dが追加コントローラ20に実装されている。ここで、フィードバック制御部2a、実験データ解析部2c、及び供試体応答予測部2dは、例えば、図示しないCPU(Central Processing Unit)などのプロセッサ、各種プログラムを格納するROM、演算過程のデータを一時的に格納するRAM、外部記憶装置などの記憶装置にて実現されると共に、CPUなどのプロセッサがROMに格納された各種プログラムを読み出し実行し、実行結果である演算結果をRAM又は外部記憶装置に格納する。
【0081】
追加コントローラ20は、内部センサ(変位センサS04)と外部センサ(非接触センサS06)で取得したデータを用いて、実験データ解析部2cを介して、供試体応答予測部2dで用いる供試体応答予測モデルGd(供試体応答予測のための伝達関数Gd)の算出を行う。供試体応答予測モデルGdが得られたら、供試体応答予測部2dは内部センサ(変位センサS04)からのデータを入力として、供試体10の応答予測値zdを算出し、ユーザインタフェース1を構成するGUI1aのモニタに算出された供試体10の応答予測値zdを表示する。
【0082】
試験装置(油圧駆動式振動試験装置100a)のオペレータは供試体10の応答予測zdを確認しながら、実現したい目標波形rと供試体10の応答予測zdが一致するように目標波形を調整する。例えば、図9Aに示すように、点線で示される目標波形rについて、一点鎖線で示される供試体10の応答予測zdのゲイン(変位)が低い場合、図9Bに示すように、ゲインを増やした修正目標波形rd(実線)を与えることで、供試体10の応答予測zdがもともとの目標波形rに一致するようになる。
供試体応答予測モデルGdが実際の供試体10の応答Gに近ければ、供試体10の応答予測zdと供試体10の実際の応答zは一致するため、図9Bの状態は、供試体10を目標波形rで加振できていることになる。
【0083】
図10は、本実施例に係る試験装置(油圧駆動式振動試験装置100a)の駆動方法を示すフローチャートである。図10に示すフローチャートでは、上述の実施例1の図6に示したフローチャートと同一の処理若しくは同一の動作ステップに、同一のステップ番号を付している。以下では、図6と異なる点のみ説明する。
【0084】
図10におけるステップSS01からステップS07は、上述の実施例1と同様である。ステップS06で、調整員はGUI1aのモニタに表示された予測精度が所望の値を満たしているかを確認し、調整員による確認結果(判断結果)の入力をGUI1aが受け付け、次のステップに移行する。具体的には、調整員による確認結果(判断結果)の入力が「精度が十分」(YES)ならばステップS21に遷移する。
【0085】
ステップS21及びステップS22は、図6におけるステップS12及びステップS13と同様の処理である。
ステップS23から試験装置(油圧駆動式振動試験装置100a)のオペレータが調整を行うステップになる。図10に示すように、ステップS23では、まず、本当に加振したい目標波形rを初期値として試験装置(油圧駆動式振動試験装置100a)を加振する。ステップS24にて、目標波形rと供試体10の応答予測zdの一致率を確認する。オペレータは、目標波形rと供試体10の応答予測zdが十分に一致していれば(YES)となり、ステップS14に遷移する。一方、一致率が不十分な場合(NO)はステップS25に遷移する。
【0086】
ステップS25では、目標波形rと供試体10の応答予測zdの一致率が高くなるように、修正目標波形rdをオペレータが設定する。この作業はオペレータの習熟度によって、目標波形rと供試体10の応答予測zdの一致率がかえって悪くなる可能性があることに注意が必要である。
【0087】
ステップS25にて修正した目標波形rd(修正目標波形rd)を用いて、再度ステップS23にて試験加振を行い、目標波形rと供試体10の応答予測zdの一致率が十分に高くなるまで調整を繰り返す。
【0088】
ステップS24にて、目標波形rと供試体10の応答予測zdが十分に一致していれば(YES)、ステップS14へ遷移する。ステップS14以降の処理は上述の実施例1と同様である。
【0089】
以上の通り本実施例によれば、供試体の応答を予測するため、外部センサを取り外してから、顧客に引き渡してフィードバック制御の調整を顧客であるオペレータが容易に行うことが可能となる。
【実施例3】
【0090】
図11は、本発明の他の実施例に係る実施例3の油圧駆動式振動試験装置を模式的に示す概観図であり、図12は、図11に示す油圧駆動式振動試験装置の機能ブロック図である。上述の実施例2では、目標波形の修正を試験装置のオペレータが実施する形態を想定したが、目標波形を修正する機能も追加コントローラ20に実装する構成とした点が実施例2と異なる。実施例2と同様の構成要素に同一符号を付し、以下では、実施例2と重複する説明を省略する。
【0091】
図11に示すように、本実施例に係る試験装置(油圧駆動式振動試験装置100b)では、ユーザインタフェース1と追加コントローラ20が相互に情報の授受を行い、追加コントローラ20から修正目標波形rdが既設のコントローラ2に提供される構成を有する。
【0092】
図12に示すように、本実施例に係る追加コントローラ20には、フィードフォワード制御部20b、実験データ解析部20c、及び供試体応答予測部20dが実装されている。供試体応答予測部20dについては、上述の実施例2における供試体応答予測部2dと同様のため説明を省略する。ここで、フィードフォワード制御部20b、実験データ解析部20c、及び供試体応答予測部20dは、例えば、図示しないCPU(Central Processing Unit)などのプロセッサ、各種プログラムを格納するROM、演算過程のデータを一時的に格納するRAM、外部記憶装置などの記憶装置にて実現されると共に、CPUなどのプロセッサがROMに格納された各種プログラムを読み出し実行し、実行結果である演算結果をRAM又は外部記憶装置に格納する。
【0093】
本実施例に係るフィードフォワード制御部20bは、上述の実施例1に係るフィードフォワード制御部2bと異なりプレフィルタタイプの補償器として作用する。すなわち、図5Bに示すフィードフォワード制御Fではなく、図13に示すように、フィードフォワード制御Dとして考える。
【0094】
図13において、目標波形rから供試体10の応答zまでの伝達関数は以下の式(11)で与えることができる。
【0095】
【数11】
【0096】
フィードバック制御Cのみが有効な場合の供試体10の応答をz1,プレフィルタタイプのフィードフォワード制御Dが有効になった場合の供試体10の応答をz3とすると、式(12)の関係性が成り立つ。
【0097】
【数12】
【0098】
上述の実施例1と同様に、プレフィルタタイプのフィードフォワード制御Dを以下の式(13)のように調整パラメータθi(i=0~2m)で与える、以下の式(14)を最小化するように調整パラメータθiを数値計算で算出すれば、所望の供試体10の応答zmを実現することができる。
【0099】
【数13】
【0100】
【数14】
【0101】
図13に示すように、本実施例では、ユーザインタフェース1を構成する目標波形設定部1bに設定した目標波形rをフィードフォワード制御部20bで修正目標波形r‘に変換したうえで、既存のコントローラ2のフィードバック制御部2aに与えている。すなわち、上述の実施例2においてオペレータが手動で行っていた修正目標波形rdの生成を自動化していると言える。
【0102】
本実施例に係る試験装置の駆動方法を示すフローチャートは、上述の実施例1の図6に示すフローチャートと同様である。ただし、ステップS03からステップS11までの動作が、実施例1ではコントローラ2で実行されるのに対して、本実施例では、追加コントローラ20で実行される点が異なる。
【0103】
本実施例によれば、実施例2と比較し、オペレータが手動で行っていた修正目標波形rdの生成を自動化することが可能となる。
【実施例4】
【0104】
図14は、本発明の他の実施例に係る実施例4の油圧駆動式振動試験装置の機能ブロック図である。上述の実施例3では、プレフィルタタイプのフィードフォワード制御Dを追加コントローラ20にて実現する構成であったのに対し、本実施例では、プレフィルタタイプのフィードフォワード制御Dをコントローラ2に実装する構成とした点が実施例3とことなる。
【0105】
プレフィルタタイプのフィードフォワード制御Dは上述の実施例1のように、コントローラ2のプログラムを変更できる場合にも有効である。
【0106】
図14に示すように、本実施例に係る試験装置(油圧駆動式振動試験装置100c)は、コントローラ2内に上述の実施例3における追加コントローラ20に実装されているものと同様のものを実装している。
【0107】
本実施例に係る試験装置(油圧駆動式振動試験装置100c)の駆動方法は、上述の実施例1における図6に示すフローチャートと同様である。
【0108】
本実施例によれば、実施例1と同様の効果を奏することが可能となる。
【0109】
なお、本発明は上記した実施例に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、上記した実施例は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施例の構成の一部を他の実施例の構成に置き換えることが可能であり、また、ある実施例の構成に他の実施例の構成を加えることも可能である。
【符号の説明】
【0110】
1…ユーザインタフェース
1a…GUI
1b…目標波形設定部
2…コントローラ
2a…フィードバック制御部
2b…フィードフォワード制御部
2c…実験データ解析部
2d…供試体応答予測部
3…サーボアンプ
4…サーボバルブ
5…油圧源
6…油圧シリンダ
7…油圧ピストン
8…カップリング
9…テーブル
10…供試体
11…アクチュエータ
20…追加コントローラ
20b…フィードフォワード制御部
20c…実験データ解析部
20d…供試体応答予測部
S01…温度センサ
S02a,S02b…流量センサ
S03…速度センサ
S04…変位センサ
S05a,S05b…圧力センサ
S06…非接触センサ(外部センサ)
100,100a,100b,100c…油圧駆動式振動試験装置
図1
図2
図3A
図3B
図3C
図4
図5A
図5B
図5C
図6
図7
図8
図9A
図9B
図10
図11
図12
図13
図14