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特許7555318減速材温度係数測定方法、減速材温度係数測定システム及びプログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-12
(45)【発行日】2024-09-24
(54)【発明の名称】減速材温度係数測定方法、減速材温度係数測定システム及びプログラム
(51)【国際特許分類】
   G21C 17/022 20060101AFI20240913BHJP
   G21C 17/02 20060101ALI20240913BHJP
【FI】
G21C17/022
G21C17/02 100
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2021147984
(22)【出願日】2021-09-10
(65)【公開番号】P2023040814
(43)【公開日】2023-03-23
【審査請求日】2024-02-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000006208
【氏名又は名称】三菱重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100162868
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 英輔
(74)【代理人】
【識別番号】100161702
【弁理士】
【氏名又は名称】橋本 宏之
(74)【代理人】
【識別番号】100189348
【弁理士】
【氏名又は名称】古都 智
(74)【代理人】
【識別番号】100196689
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 康一郎
(72)【発明者】
【氏名】大島 拓洋
(72)【発明者】
【氏名】森 健多
(72)【発明者】
【氏名】中野 誠
【審査官】藤田 健
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-045972(JP,A)
【文献】特開平03-084496(JP,A)
【文献】特開2004-170427(JP,A)
【文献】特開2009-074879(JP,A)
【文献】特開2003-035761(JP,A)
【文献】特開昭54-096692(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G21C 17/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
減速材温度の時系列データと反応度の時系列データとを取得するステップと、
取得した前記減速材温度の時系列データと前記反応度の時系列データの各々を周波数解析し、対応する周波数の前記減速材温度の時系列データと前記反応度の時系列データの相関値を周波数別に算出し、前記相関値が閾値以上となる周波数を特定するステップと、
特定した前記周波数の前記減速材温度および前記反応度の時系列データの中から、前記減速材温度と前記反応度の時系列データの位相差に基づく時間差が所定の設定範囲内となる前記減速材温度および前記反応度の時系列データを抽出するステップと、
抽出した前記減速材温度および前記反応度の時系列データを用いて減速材温度係数を算出するステップと、
を有する減速材温度係数測定方法。
【請求項2】
前記特定した周波数の前記減速材温度および前記反応度の時系列データ、又は、前記時間差に基づいて抽出した前記減速材温度および前記反応度の時系列データ、の中からコヒーレンスが閾値以上のものを抽出するステップ、
をさらに有する請求項1に記載の減速材温度係数測定方法。
【請求項3】
前記周波数を特定するステップでは、
周波数別の前記減速材温度および前記反応度の時系列データの中から減速材温度と反応度のクロスパワースペクトル密度が閾値以上の周波数を特定する、
請求項1または請求項2に記載の減速材温度係数測定方法。
【請求項4】
人為的に減速材温度を変動させたときの前記減速材温度の時系列データと反応度の時系列データを取得するステップと、
前記減速材温度および前記反応度の時系列データを周波数解析して、周波数別に前記減速材温度および前記反応度の時系列データの前記相関値を算出し、算出された前記相関値についての閾値を設定するステップ、
をさらに有する請求項1から請求項3の何れか1項に記載の減速材温度係数測定方法。
【請求項5】
人為的に減速材温度を変動させたときの前記減速材温度の時系列データと反応度の時系列データを取得するステップと、
前記減速材温度および前記反応度の時系列データを周波数解析して、周波数別に前記減速材温度と前記反応度の位相差を算出し、前記位相差に基づいて前記時間差に関する前記設定範囲を設定するステップと、
をさらに有する請求項1から請求項4の何れか1項に記載の減速材温度係数測定方法。
【請求項6】
前記取得するステップにて取得した前記減速材温度の時系列データと前記反応度の時系列データから、所定の抽出条件に基づいて、前記減速材温度の自然な温度揺らぎによって前記反応度が変化する前記減速材温度の時系列データと前記反応度の時系列データを抽出するステップ、をさらに有し、
前記減速材温度係数を算出するステップでは、前記抽出するステップにて抽出された前記時系列データから複数の小期間の前記減速材温度および前記反応度の時系列データを抜き出し、抜き出した前記時系列データに含まれる前記減速材温度の前記時系列データと前記反応度の前記時系列データのそれぞれに周波数解析を行ってノイズ法により前記減速材温度係数を算出する処理を、前記小期間ごとに行う、
請求項1から請求項5の何れか1項に記載の減速材温度係数測定方法。
【請求項7】
前記抽出するステップでは、(1)制御棒の操作およびホウ酸の希釈・濃縮による反応度の添加が行われていない期間の時系列データであること、(2)制御棒の操作およびホウ酸の希釈・濃縮による反応度の添加が行われた後、一定時間経過後の時系列データであること、の2つの前記抽出条件を満たす前記減速材温度および前記反応度の時系列データを抽出する、
請求項6に記載の減速材温度係数測定方法。
【請求項8】
前記減速材温度係数を算出する処理を前記小期間ごとに行うことによって算出された複数の前記減速材温度係数を統計処理して、最終的な減速材温度係数を決定するステップ、
をさらに有する請求項6または請求項7に記載の減速材温度係数測定方法。
【請求項9】
減速材温度の時系列データと反応度の時系列データを取得する手段と、
取得した前記減速材温度の時系列データと前記反応度の時系列データの各々を周波数解析し、対応する周波数の前記減速材温度の時系列データと前記反応度の時系列データの相関値を周波数別に算出し、前記相関値が閾値以上となる周波数を特定する手段と、
特定した前記周波数の前記減速材温度および前記反応度の時系列データの中から、前記減速材温度と前記反応度の時系列データの位相差に基づく時間差が所定の設定範囲内となる前記減速材温度および前記反応度の時系列データを抽出する手段と、
抽出した前記減速材温度および前記反応度の時系列データを用いて減速材温度係数を算出する手段と、
を有する減速材温度係数測定システム。
【請求項10】
コンピュータに、
減速材温度の時系列データと反応度の時系列データを取得するステップと、
取得した前記減速材温度の時系列データと前記反応度の時系列データの各々を周波数解析し、対応する周波数の前記減速材温度の時系列データと前記反応度の時系列データの相関値を周波数別に算出し、前記相関値が閾値以上となる周波数を特定するステップと、
特定した前記周波数の前記減速材温度および前記反応度の時系列データの中から、前記減速材温度と前記反応度の時系列データの位相差に基づく時間差が所定の設定範囲内となる前記減速材温度および前記反応度の時系列データを抽出するステップと、
抽出した前記減速材温度および前記反応度の時系列データを用いて減速材温度係数を算出するステップと、
を実行させるプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、減速材温度係数測定方法、減速材温度係数測定システム及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
減速材温度係数(MTC:moderator temperature coefficient;以下、減速材温度係数をMTCと記載する場合がある。)は、原子力プラント固有の安全性を示す指標の1つである。従来、MTCは、炉物理検査中に設けられているMTC測定用の工程において、意図的に減速材温度を変化させ、その変化中における原子炉の反応度と減速材温度を測定し、この測定結果に基づいてMTCを求めている。例えば、特許文献1には、測定された反応度および減速材温度の関係を示すグラフを作成し、勾配法によってMTCを算出する方法が記載されている。特許文献2には、反応度および減速材温度の時系列データをノイズ法により分析してMTCを算出する方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特公平04-058913号公報
【文献】特開平03-084496号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来のMTC測定方法の場合、意図的に減速材温度を変化させるために原子力プラントの系統に対して煩雑な作業が必要であり、また、反応度および減速材温度の測定値を収集するためにMTC測定用の工程に一定の時間を割く必要がある。MTC測定に要する作業負担を軽減し、測定時間を短縮することができるMTCの測定方法が求められている。
【0005】
本開示は、上記課題を解決することができる減速材温度係数測定方法、減速材温度係数測定システム及びプログラムを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の減速材温度係数測定方法は、減速材温度の時系列データと反応度の時系列データを取得するステップと、取得した前記減速材温度の時系列データと前記反応度の時系列データの各々を周波数解析し、対応する周波数の前記減速材温度の時系列データと前記反応度の時系列データの相関値を周波数別に算出し、前記相関値が閾値以上となる周波数を特定するステップと、特定した前記周波数の前記減速材温度および前記反応度の時系列データの中から、前記減速材温度の時系列データと前記反応度の時系列データの位相差に基づく時間差が所定の設定範囲内となる前記減速材温度および前記反応度の時系列データを抽出するステップと、抽出した前記減速材温度および前記反応度の時系列データを用いて減速材温度係数を算出するステップと、を有する。
【0007】
本開示の減速材温度係数測定装置は、減速材温度の時系列データと反応度の時系列データを取得する手段と、取得した前記減速材温度の時系列データと前記反応度の時系列データの各々を周波数解析し、対応する周波数の前記減速材温度の時系列データと前記反応度の時系列データの相関値を周波数別に算出し、前記相関値が閾値以上となる周波数を特定する手段と、特定した前記周波数の前記減速材温度および前記反応度の時系列データの中から、前記減速材温度の時系列データと前記反応度の時系列データの位相差に基づく時間差が所定の設定範囲内となる前記減速材温度および前記反応度の時系列データを抽出する手段と、抽出した前記減速材温度および前記反応度の時系列データを用いて減速材温度係数を算出する手段と、を有する。
【0008】
本開示のプログラムは、コンピュータに、減速材温度の時系列データと反応度の時系列データを取得するステップと、取得した前記減速材温度の時系列データと前記反応度の時系列データの各々を周波数解析し、対応する周波数の前記減速材温度の時系列データと前記反応度の時系列データの相関値を周波数別に算出し、前記相関値が閾値以上となる周波数を特定するステップと、特定した前記周波数の前記減速材温度および前記反応度の時系列データの中から、前記減速材温度の時系列データと前記反応度の時系列データの位相差に基づく時間差が所定の設定範囲内となる前記減速材温度および前記反応度の時系列データを抽出するステップと、抽出した前記減速材温度および前記反応度の時系列データを用いて減速材温度係数を算出するステップと、を実行させる。
【発明の効果】
【0009】
上述の減速材温度係数測定方法、減速材温度係数測定システム及びプログラムによれば、減速材温度の自然な温度揺らぎによって反応度が変化する状況で測定された減速材温度および反応度の時系列データから減速材温度係数を測定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】実施形態に係るMTC測定システムの一例を示すブロック図である。
図2】炉物理検査中の反応度と減速材温度の推移の一例を示す図である。
図3】実施形態に係る反応度と減速材温度の関係を示す図である。
図4】実施形態に係る小期間について説明する図である。
図5】実施形態に係るMTC測定処理の一例を示すフローチャートである。
図6】実施形態に係る閾値の設定処理について説明する図である。
図7】実施形態に係るノイズ法の一例を示すフローチャートである。
図8】実施形態に係るノイズ法について説明する図である。
図9】実施形態に係るノイズ法に設けた各種フィルタ処理の効果について説明する図である。
図10】実施形態に係るMTC測定システムのハードウェア構成の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
<実施形態>
以下、本開示のMTC(減速材温度係数)測定処理について、図1図10を参照して説明する。
(システム構成)
図1は、実施形態に係るMTC測定システムの一例を示すブロック図である。
MTC測定システム10は、炉物理検査実施中の原子力プラント20において、減速材温度の自然な温度揺らぎによって反応度が変化する状況で測定された減速材温度および反応度の時系列データに基づいてMTCを測定する。本実施形態のMTC測定では、人為的に減速材温度を変化させることなく、MTCを測定することができる。
【0012】
MTC測定システム10は、原子力プラント20と通信可能に接続され、炉物理検査中の原子力プラント20からMTC測定に必要なデータを取得し、MTCを測定する。
原子力プラント20は、減速材温度測定系21と、中性子検出器22とを備える。
減速材温度測定系21は、減速材温度(以下、Tavgと記載する場合がある。)を測定し、TavgをMTC測定システム10へ出力する。Tavgは、例えば、原子炉の一次冷却材温度を測定することによって求めることができる。
中性子検出器22は、原子炉の中性子束φを測定し、測定した中性子束φをMTC測定システム10に出力する。
【0013】
MTC測定システム10は、反応度処理装置11と、タイマー12と、データ記録・制御装置13と、データ抽出装置14と、MTC処理装置15と、統計処理装置16と、表示装置17と、オペレータコンソール18と、閾値算出装置19とを備える。これらのうち、反応度処理装置11と、データ記録・制御装置13と、データ抽出装置14と、MTC処理装置15と、統計処理装置16と、オペレータコンソール18と、閾値算出装置19とは、PCやサーバ端末装置などのコンピュータによって構成される。
【0014】
反応度処理装置11は、中性子検出器22が測定した中性子束φを取得し、反応度を算出する。反応度処理装置11は、反応度をデータ記録・制御装置13へ出力する。
タイマー12は、時間を測定する。
データ記録・制御装置13は、原子力プラント20から取得したデータや、MTC測定システム10にて演算したデータを記録、記憶する。
データ抽出装置14は、炉物理検査全体を通じて測定された反応度の時系列データおよびTavgの時系列データの中から、MTC測定に適した時系列データを抽出する。
【0015】
MTC処理装置15は、MTCを算出する処理であるMTC処理を実行する。MTC処理装置15は、MTC処理部151と、補正部152と、核設計コード153と、を備える。
MTC処理部151は、データ抽出装置14が抽出した反応度およびTavgの時系列データ基づいて、複数回、MTC処理を行い、MTCを複数算出する。より具体的には、データ抽出装置14が抽出した時系列データの中から、所定の小期間(例えば、10分間)分の時系列データを多数抜き出し、各小期間の時系列データを用いてMTCを算出する。つまり、抜き出した小期間の数だけMTCが算出される。
【0016】
補正部152は、MTC処理部151が算出したMTCを補正する。一般にMTCは、制御棒が原子炉から引き抜かれ臨界となったときの一次冷却材のホウ酸濃度において測定された反応度とTavgに基づいて算出されることになっている。炉物理検査中の制御棒の位置は様々で、ホウ酸濃度は変動している。MTCは、ホウ酸濃度の影響を受ける。補正部152は、データ抽出装置14が抽出した時系列データが測定されたときの一次冷却材のホウ酸濃度が、制御棒が引き抜かれ臨界となったときの一次冷却材のホウ酸濃度から乖離することがMTCに与える影響を考慮し、ホウ酸濃度の違いによるMTCの変動を補正する。補正部152は、核設計コード153を用いて、MTC処理部151が算出したMTCを、制御棒が原子炉から引き抜かれ臨界となったときのホウ酸濃度におけるMTCに補正する。
【0017】
核設計コード153は、炉心解析を行うためのプログラムおよびデータである。核設計コード153は、ホウ酸濃度と制御棒の位置を入力すると、その状況でTavgが変化した場合の反応度の変化量を演算する。その結果を用いると、MTCの値を演算することができる。また、核設計コード153は、制御棒が引き抜かれ臨界となったときのMTCの値を演算することができる。
【0018】
統計処理装置16は、MTC処理装置15が算出した複数のMTCを取得し、統計処理を行って、最終的なMTCの値を決定する。
表示装置17は、最終的なMTCの値などを表示するディスプレイである。
オペレータコンソール18は、オペレータが、MTC測定の実行指示をMTC測定システム10へ指示するために用いられる端末装置である。
閾値算出装置19は、MTC処理に用いる閾値(後述する閾値Thと、τmin~τmaxの範囲)を算出し、MTC処理装置15に設定する。
【0019】
(MTC測定処理の概要)
次に図2を用いて本実施形態のMTC測定処理について、その概要を説明する。
図2に示すのは、従来の炉物理検査中の反応度とTavgの推移の一例である。
炉物理検査は、法律等の要請により、原子炉を起動した際に実施される。グラフ200は、炉御物理検査中の反応度の変動を示し、グラフ201は、炉御物理検査中のTavgの変動を示す。一般的な炉物理検査は工程1~5を含む。工程4は、MTC測定のための工程である。工程4では、主蒸気逃し弁等の操作によって、Tavgを意図的に1℃程度変化させる。図示するように、Tavgの変動により、反応度が変動する。Tavgを上昇させると、反応度は低下する。従来は、工程4の間に所定の時間間隔でTavgと反応度を測定し、測定したTavgの時系列データと反応度の時系列データを用いて、ノイズ法等によって、MTCを算出する。工程4には、一定の時間(例えば、2時間)を要し、Tavgを変化させるための作業(主蒸気逃し弁等の操作)は煩雑なものである。これに対し、本実施形態では、工程4を省き、Tavgを意図的に変化させること無く、炉物理検査中の自然なTavgの揺らぎによって反応度が変化するような期間に測定されたTavgおよび反応度の時系列データを用いてMTCを算出する。これにより、炉物理検査の時間を短縮化し、主蒸気逃し弁等の煩雑な操作を省くことにより、オペレータの負担を軽減する。
【0020】
Tavgの自然な温度揺らぎによって反応度が変化する期間を図2に破線で囲った枠で示す。期間202~211は、Tavgの自然な温度揺らぎによって反応度が変化する期間であり、Tavgには意図的な変化が加えられていない。本実施形態では、これらの期間に計測されたTavgおよび反応度の時系列データを用いてMTCを算出する。例えば、期間202~211の一部は炉物理検査における待機時間である。MTCは、以下の式(1)で算出することができる。
MTC(pcm/℃)=Δ反応度÷ΔTavg ・・・(1)
式(1)から、MTCの測定には、Tavgの温度変化以外の要因で反応度が変化することがない状態でのTavgおよび反応度の測定値が必要であることが分かる。工程1~3および工程5の一部では、制御棒の操作等により、一次冷却材のホウ酸濃度が変動し、ホウ酸濃度の変動が反応度に影響を与える。つまり、工程1~3および工程5の一部の期間は、Tavg以外にホウ酸濃度の変動が反応度に影響を与えるため、この期間に測定されたTavgおよび反応度によって、Tavgの変化と反応度の変化の関係を求めることは難しい。すなわち、工程1~3、工程5の一部およびその影響が残る直後の期間に測定されたTavgおよび反応度はMTC測定に適さない。従って、本実施形態では、炉物理検査全体の中からMTC測定に適さない期間を除く、期間202~211に測定されたTavgおよび反応度を用いてMTCを算出する。
【0021】
図2に示すように期間202~211において、Tavgおよび反応度には大きな変化がない。図3に本実施形態のMTC測定期間における反応度とTavgの推移の一例(拡大図)を示す。上記の工程4では、Tavgを人為的に1℃程度変化させるのに対し、本実施形態で使用する期間202~211におけるTavgの変化は、例えば、0.05℃~0.2℃程度である。Tavgおよび反応度の測定にはノイズが含まれる可能性があるが、工程4に比べ、期間202~211でのTavgおよび反応度の変化が小さい為、式(1)によるMTCの算出結果は、工程4で測定されたTavgおよび反応度からMTCを算出する場合に比べ、ノイズの影響を受けやすい。(A)そこで、本実施形態では、期間202~211のそれぞれから連続する小期間を多数抜き出し、それぞれの小期間で測定されたTavgおよび反応度の時系列データを用いてMTCを算出する。この様子を図4に示す。図4に期間202から抽出される小期間202-1~202-6の一例を示す。小期間202-1~202-6の長さは、それぞれ10分間程度である。例えば、期間202の最初の観測点から10分間を小期間202-1、2番目の観測点から10分間を小期間202-2、・・・のように小期間の始点を順番に1つずつ後方にずらし、多数の小期間を抽出する。最後の小期間202-6では、その小期間に含まれる最後の観測点が期間202の終端と一致する。期間203~211についても同様に多数の小期間を抽出する。このように小期間を多数抽出し、小期間ごとにMTCを算出することで、多数のMTCを得ることができる。そして、多数算出されたMTCに基づいて、最終的なMTCを決定する。例えば、多数のMTCの平均を最終的なMTCとしてもよい。(B)また、本実施形態では、小期間ごとにMTCを算出する際に、小期間のデータの中から、ノイズの影響を除去するフィルタ処理(周波数に基づくフィルタ処理、時間差に基づくフィルタ処理)を行って、人為的にTavgを1℃程度変動させた場合に観察されるTavgと反応度との関係に相当するデータを抽出する。そして、フィルタ処理によって抽出したノイズ除去後のデータに基づいてMTCを多数算出する。精度の高い多数のMTCを用いることで、測定時のノイズの影響を低減し、精度を向上させる。次に図5を参照して本実施形態のMTC測定処理についてより詳細に説明する。
【0022】
(動作)
図5は、実施形態に係るMTC測定処理の一例を示すフローチャートである。
<事前の閾値設定処理>
MTC測定処理に先立って、フィルタ処理に用いる閾値が未設定か否かが判定される(ステップS1)。具体的には、周波数に基づくフィルタ処理に用いる閾値、時間差に基づくフィルタ処理に用いる閾値の両方が既に設定されている場合(ステップS1;No)、ステップS5へ進む。何れかの閾値が設定されていない場合(ステップS1;Yes)、炉物理検査対象の原子炉に対して、人為的にTavgを1℃程度変動させる操作を所定時間行う(ステップS2)。この操作は、図2の工程4にて、従来の方法でMTC測定を行う場合と同様の操作である。データ記録・制御装置13は、減速材温度測定系21からTavgの時系列データを取得し、反応度処理装置11から反応度の時系列データを取得する(ステップS3)。データ記録・制御装置13は、減速材温度測定系21から取得したTavgを、その時にタイマー12が測定している時刻と対応付けて記憶し(Tavgの時系列データ)、反応度についても、反応度処理装置11から取得した反応度を、その時にタイマー12が測定している時刻と対応付けて記憶する(反応度の時系列データ)。閾値算出装置19は、Tavgの時系列データと反応度の時系列データをデータ記録・制御装置13から取得して閾値を算出する(ステップS4)。ここで図6を参照して閾値の算出方法について説明する。
【0023】
図6は、実施形態に係る閾値の設定処理について説明する図である。閾値算出装置19は、枠61のグラフに示すように、データ記録・制御装置13から取得したTavgの時系列データと反応度の時系列データを所定の時間窓W1~W3ごとに切り出して各々をフーリエ変換し、周波数別に分解する。例えば、閾値算出装置19は、時間窓W1について算出された周波数ごとのTavgおよび反応度の時系列データを用いて、同じ周波数のTavgと反応度の相関強度を示すクロスパワースペクトル密度を算出する。閾値算出装置19は、他の時間窓W2等についてもクロスパワースペクトル密度を算出し、これらを平均する。枠62のグラフに、算出した周波数とクロスパワースペクトル密度(CP)の最大値との関係性を示す。また、閾値算出装置19は、時間窓W1~W3について算出された周波数ごとのTavgおよび反応度の時系列データを用いて、同じ周波数のTavgと反応度のコヒーレンスを計算し、それらの平均値を計算する。そして閾値算出装置19は、計算したコヒーレンスの平均値が所定の閾値を上回る範囲に対応するクロスパワースペクトル密度の値を算出し、この下限値をクロスパワースペクトル密度の閾値Thに設定する(コヒーレンスとクロスパワースペクトル密度は互いに演算により変換が可能で、コヒーレンス>閾値となる範囲に対応するクロスパワースペクトル密度の値の範囲を正のデータとして抽出するためにその下限値を閾値Thとして設定する)。また、閾値算出装置19は、時間窓W1~W3の各々について算出された周波数ごとのTavgおよび反応度の時系列データを同じ時間枠、同じ周波数で比較して、両者の位相差から、その位相差に対応するTavgと反応度の時間差(図示する“Tavg-反応度の時間差ΔT”に対応する時間)を算出する。そして閾値算出装置19は、算出した時間差に基づいて、枠63のグラフに例示するような周波数別の時間差のヒストグラムを作成し、先に計算したコヒーレンスの平均値が所定の閾値を上回る範囲の周波数に対応する時間差を算出し、算出した時間差の範囲(上限値τmax~下限値τmin)を時間差の閾値に設定する。閾値算出装置19は、算出したクロスパワースペクトル密度の閾値Thと、時間差の範囲とをMTC処理装置15に記録する。閾値Th,範囲の設定が終わると、ステップS5以降のMTC測定処理が実行可能な状態となる。
【0024】
<MTC測定処理>
まず、オペレータが、オペレータコンソール18に、MTC測定処理の開始を指示する操作を行う。すると、データ記録・制御装置13が、炉物理検査の実行中に、減速材温度測定系21からTavgの時系列データを取得し、反応度処理装置11から反応度の時系列データを取得する(ステップS5)。具体的には、データ記録・制御装置13は、減速材温度測定系21から取得したTavgを、その時にタイマー12が測定している時刻と対応付けて記憶し(Tavgの時系列データ)、反応度についても、反応度処理装置11から取得した反応度を、その時にタイマー12が測定している時刻と対応付けて記憶する(反応度の時系列データ)。データ記録・制御装置13は、これらの時系列データを記憶する。また、データ記録・制御装置13は、原子力プラント20から制御棒の位置と一次冷却水材のホウ酸濃度の情報を所定の時間間隔で取得し、その時にタイマー12が測定している時刻と対応付けて記憶する(制御棒とホウ酸濃度の時系列データ)。データ記録・制御装置13によるTavg、反応度および制御棒とホウ酸濃度の時系列データの取得は、炉物理検査全体を通じて行われる。なお、炉物理検査には、図2の工程4は含まれていない。
【0025】
次に、データ抽出装置14が、Tavgの自然な温度揺らぎによって反応度が変化するデータを抽出する(ステップS6)。データ抽出装置14は、データ記録・制御装置13が記憶するTavgの時系列データ、反応度の時系列データ、制御棒およびホウ酸濃度の時系列データに基づいて、以下の2つの条件を満たす期間におけるTavgの時系列データと反応度の時系列データを抽出する。
(条件1)制御棒の操作およびホウ酸の希釈・濃縮による反応度の添加が行われていない期間であること。
(条件2)制御棒の操作およびホウ酸の希釈・濃縮による反応度の添加が行われた後、一定時間経過後の期間であること(制御棒の操作が行われてから60秒経過後、ホウ酸の希釈・濃縮が行われてから30分経過後)。
条件1と条件2を満たす期間とは、例えば、図2の期間202~211である。データ抽出装置14は、抽出したTavgの時系列データと反応度の時系列データをMTC処理装置15へ出力する。
【0026】
次に、MTC処理装置15のMTC処理部151が、MTC処理を実行する(ステップS7)。MTC処理とは、MTCを算出する処理である。MTC処理には、例えば、ノイズ法が用いられる。MTC処理部151は、ノイズ法を複数回(小期間の数だけ)実行し、多数のMTCを算出する。ノイズ法自体は公知であるが、本実施形態では、測定精度を向上させるため、上記した(A)、(B)の工夫を行う。(B)については、一般的なノイズ法にフィルタ処理を組み込むことによって実現する。以下に、図2の期間202~211、図4の小期間202-1~202-6を例として、ノイズ法によってMTCを算出する処理について説明する。
【0027】
図7図8に本実施形態に係るノイズ法の手順を示す。まず、MTC処理部151は、Tavgの時系列データと反応度の時系列データを複数セット作成する(ステップS11)。MTC処理部151は、期間202~211のそれぞれから小期間を抽出する。図8の枠81のグラフにおける時間窓W1´~W3´は小期間の例である。例えば、1つの小期間は10分間であり、10分間の中に296点の観測点が含まれている。MTC処理部151は、296点の観測点のうち最初の観測点から256個の観測点を抽出する。次にMTC処理部151は、296点の観測点のうち2番目の観測点から256個の観測点を抽出する。以降も、MTC処理部151は、始点となる観測点を1つずつずらしながら256個の観測点を抽出するという処理を、256個目の観測点が296点の観測点の最後の観測点と一致するまで繰り返す。MTC処理部151は、この処理をTavgの時系列データと反応度の時系列データのそれぞれに対して行う。これにより1つの小期間から40個のTavg時系列データと40個の反応度時系列データが抽出できる。MTC処理部151は、期間202~211から抽出した全ての小期間について同様の処理を行う。次にMTC処理部151は、それぞれの時系列データを周波数解析する(ステップS12)。MTC処理部151は、フーリエ変換により、全てのTavg時系列データと反応度時系列データを周波数別に分解する。MTC処理部151は、1つの小期間について、データ個数(40個)分の周波数別のTavg時系列データを周波数別に平均する。MTC処理部151は、1つの小期間について、データ個数(40個)分の周波数別の反応度時系列データを周波数別に平均する。
【0028】
次にMTC処理部151は、周波数別のTavg時系列データと反応度時系列データを用いて、周波数別にクロスパワースペクトル密度、コヒーレンス、時間差(位相差)、MTCを算出する(ステップS13)。周波数をω1、TavgをT、反応度をρとすると、MTC(ω1)=T(ω1)÷ρ(ω1)である。MTC処理部151は、周波数別、小期間別にMTC(ωX)を算出する(X=1~周波数別に分割した数)。また、MTC処理部151は、1つの小期間の40個ずつのTavgおよび反応度の時系列データを用いてTavgのパワースペクトル密度と、反応度のパワースペクトル密度と、Tavgと反応度のクロスパワースペクトル密度と、を周波数別に計算し(図8の枠82)、これらを用いて小期間ごとにコヒーレンスを計算する。また、1つの小期間における40個のクロスパワースペクトル密度を平均して小期間ごとのクロスパワースペクトル密度を計算する。これらの値の計算方法は公知である。また、MTC処理部151は、周波数ごとのTavgの時系列データと反応度の時系列データとを比較して、両者の位相差を計算し、その位相差に基づいて周波数別にTavgが変化してから反応度が変化するまでの時間差を小期間ごとに計算する。Tavgと反応度のクロスパワースペクトル密度とコヒーレンスは、何れもTavgと反応度の相関の強さを示す指標である。図6の枠61のグラフ、図8の枠81のグラフに示すように、その変動が人為的なものであれ、自然なものであれ、Tavgが変動すると、その影響で少し遅れて反応度が変動する。MTCはこの関係性を表す値であるから、正確なMTCを算出するためには、Tavgの変動とその変動の影響による反応度の変動の組合せ、つまり相関性の強いTavgと反応度のデータを抽出しなければならない。この目的のためにクロスパワースペクトル密度とコヒーレンスが用いられる。従来のノイズ法においてもコヒーレンスが用いられるが、本実施形態では、コヒーレンスに加え、クロスパワースペクトル密度を用いる。コヒーレンスとクロスパワースペクトル密度は何れも2つの信号の位相差や振幅の比が安定して一致する場合に大きな値(相関性が強いことを示す。)となる。具体的には1つの小期間について、周波数別の40個のTavgとそれに対応する40個の反応度の位相差や振幅比が40個を通じて一定であれば、コヒーレンスとクロスパワースペクトル密度は何れも強い相関を示す値となる。
【0029】
クロスパワースペクトル密度の場合、信号強度がある程度大きくないと(振幅が大きくないと)相関性が強いことを示す値を示さないが、原子炉内の反応とは全く関係なく、センサ等の電気的なノイズの影響でTavg又は反応度の信号が大きくなると、両者の相関性があまり強くない場合でも大きな値を示すことがある。反対にコヒーレンスの場合には、Tavgと反応度の振幅や位相差の相関性が強ければ、強度が小さな信号(振幅が小さい)でも強い相関を示す値となる。強度が小さな信号とは、MTCの算出に全く関係のない周波数のデータか又は単なるノイズであり、それらが強い相関性を示しただけの可能性がある。これらを総合すると、Tavgと反応度のクロスパワースペクトル密度に基づいて、両者の相関性が強いデータだけを抽出することができれば、MTC処理に無関係な信号や信号強度が小さなノイズを取り除くことができ、Tavgと反応度のコヒーレンスに基づいて、両者の相関性が強いデータを抽出することができれば、MTC処理に無関係な信号強度の大きなノイズを取り除くことができる。つまり、クロスパワースペクトル密度とコヒーレンスを組み合わせて使うことで、周波数別のTavgおよび反応度の時系列データから、強い相関性を示してはいるが実際にはノイズと考えられるデータを取り除き、真にMTC算出に必要なデータだけを残すことができる。
【0030】
さらに、クロスパワースペクトル密度とコヒーレンスの両方の観点でフィルタ処理を行って抽出されたデータであっても、MTCに関係のないデータが残る可能性がある。それは、クロスパワースペクトル密度、コヒーレンスの何れであってもTavgと反応度の時間差(位相差)が安定して一定でありさえすれば、その時間差がTagvの変動からその影響が反応度に現れるまでの真の時間から乖離していたとしても、相関性が強いことを示す値となる為である。従って、本実施形態では、Tavgと反応度の相関性が強いデータについて、Tavgが変動してから反応度が変動するまでの時間が正しいかどうかを確認し、時間差が正しいデータだけを抽出する。
【0031】
次にMTC処理部151は、クロスパワースペクトル密度が閾値Th以上の周波数を抽出する(ステップS14)。例えば、MTC処理部151は、小期間202-1~202-6を通じたクロスパワースペクトル密度の平均値を計算し、周波数ごとにクロスパワースペクトル密度の平均値と閾値Thを比較し、クロスパワースペクトル密度が閾値Th以上となる周波数を特定し、抽出する(図8の枠83)。以降の処理では、抽出された周波数のTavgおよび反応度の時系列データのみを用い、閾値未満の周波数の時系列データは使用しない(周波数に基づくフィルタ)。
【0032】
次にMTC処理部151は、ステップS14にて抽出された周波数のTavgおよび反応度の時系列データの中からTavgと反応度の時間差が閾値として設定された範囲内のデータを抽出する(ステップS15)。MTC処理部151は、Tavgの時系列データと反応度の時系列データの位相差に対応する時間差が下限値τmin~上限値τmaxの範囲に含まれるかどうかを算出し、この範囲に含まれる周波数の時系列データのみを抽出する(図8の枠84)。ステップS15の処理は時間差に基づくフィルタ処理である。
ステップS14、S15により、相関性が強く、時間差が適切なデータが、MTC処理を行ううえで信頼性の高いデータとして抽出される。
【0033】
次にMTC処理部151は、コヒーレンスの値が閾値以上のデータを抽出する(ステップS16)。MTC処理部151は、ステップS14、S15により抽出された周波数別のTavgおよび反応度の時系列データのうち、コヒーレンスが所定の閾値以上となる周波数の時系列データを抽出する(図8の枠85のコヒーレンスカットオフ)。コヒーレンスによるデータ抽出は従来から行われているが、本実施形態では、上述のクロスパワースペクトル密度の観点でのフィルタでは除去されないノイズを除去する効果を発揮する。なお、ステップS16のコヒーレンスカットオフとステップS15の時間差に基づくフィルタ処理の順番は逆でもよい。
【0034】
次にMTC処理部151は、抽出された時系列データに基づくMTCを選択する(ステップS17)。MTC処理部151は、ステップS11にて計算しておいた周波数別、小期間別のMTCのうち、ステップS14~ステップS16によって抽出された時系列データに対応する周波数別、小期間別のMTCを選択する(図8の枠86)。
【0035】
以上説明したように、ステップS7の処理によって、抽出した小期間の数だけ、信頼性の高いTavgおよび反応度の時系列データに基づいたMTCが算出される。なお、MTC測定の精度の観点からは、抽出される小期間の数は多い程、好ましい。
【0036】
図5に戻る。次に補正部152が、核設計コード153を用いてホウ素濃度の違いによるMTC変動を補正する(ステップS8)。1次冷却材のホウ酸濃度は、MTCの値に大きく影響する。MTCは、制御棒を全引き抜きし、原子炉が臨界になったときのホウ酸濃度におけるTavgと反応度から算出することが定められている。これに対し、炉物理検査中に測定されたTavgと反応度は、制御棒を全引き抜きし、原子炉が臨界になったときのホウ酸濃度の条件下で測定されたものとは限らない。そこで、ステップS8では、MTC処理部151が算出した小期間ごとのMTCの値を、上記の条件下におけるMTCの値の補正する処理を行う。具体的には、補正部152は、算出されたMTCに対応する小期間における制御棒の位置と1次冷却材のホウ酸濃度とを核設計コード153に入力し、そのホウ酸濃度におけるMTCの値を核設計コード153に演算させる。このときのMTCの演算値をα1とする。次に補正部152は、制御棒を全引き抜きし、原子炉が臨界になったときのホウ酸濃度におけるMTCの値を、核設計コード153に演算させる。このときのMTCの演算値をα2とする。補正部152は、核設計コード153から、演算値α1,α2を取得し、演算値α1と演算値α2の差分を演算する。補正部152は、MTC処理部151が算出したMTCに演算値α1と演算値α2の差分を加算する。これにより、MTC処理部151が算出したMTCの値が、上記の条件下におけるMTCの値に補正される。補正部152は、小期間ごとに算出されたMTCの全てについて、この補正処理を行う。MTC処理装置15は、補正後の全てのMTCをデータ記録・制御装置13に出力する。データ記録・制御装置13は、補正後の全てのMTCを記憶する。
【0037】
次に統計処理装置16が、データ記録・制御装置13から補正後のMTCを取得して、MTCのヒストグラムを作成し、最終的なMTCの評価値を決定する(ステップS9)。統計処理装置16が作成したヒストグラムのイメージを図8の枠87に示す。枠87のヒストグラムの縦軸は算出されたMTC処理結果の数(頻度)、横軸はMTC処理結果(pcm/℃)を示す。枠87のヒストグラムは、補正後のMTCの分布を示す。例えば、統計処理装置16は、ヒストグラムから得られる最も出現頻度が高いMTCの値の範囲の平均値や中央値を最終的なMTCの評価値として決定する。これにより、炉物理検査全体を通じて採取した長時間の時系列データから抜き出した小期間ごとに算出された多数のMTCを用いて、精度の良い最終的なMTCを算出することができる。
【0038】
なお、図5のフローチャートでは、ヒストグラムを作成し、ヒストグラムの平均値を最終的なMTCとして決定することとしたが、統計処理装置16は、単順にステップS8で算出されたMTCの平均値を計算して、この平均値を最終的なMTCとして決定してもよい。あるいは、作成したヒストグラムに対して正規分布によるフィッティングを行い、フィッティングによって得られた正規分布の平均値などを最終的なMTCとして決定してもよい。
【0039】
図9に、ステップS14~S16の処理の効果を示す。図9のグラフ91~94はMTCのヒストグラムであり、それぞれのグラフの縦軸はMTC処理結果の数(頻度)、横軸はMTC処理結果(pcm/℃)を示す。グラフ91は、ステップS14~S16の処理を実行する前のステップS13で算出した全てのMTCを用いて作成されたヒストグラムの例である。グラフ92は、ステップS14の処理により抽出されたMTCを用いて作成されたヒストグラムの例である。グラフ93は、ステップS14とステップS15の処理により抽出されたMTCを用いて作成されたヒストグラムの例である。グラフ94は、ステップS14~ステップS16の処理により抽出されたMTCを用いて作成されたヒストグラムの例である。図示するようにフィルタ処理のたびに、MTCの算出に用いることが適切では無いノイズ成分のデータが除去され、適切なデータだけを抽出することができる。なお、グラフ94のヒストグラムに基づいて算出されたMTCの最終評価値と、図2の工程4で人為的にTavgを変動させてMTCを測定する従来のMTC測定方法で得られたMTCの評価値を比較したところ、本実施形態に係るMTCの測定方法によって、高精度なMTCの測定が可能であることが確認されている。
【0040】
一般に、MTCの測定は、炉物理検査にMTC測定用の工程を設け、その工程の中で行われることが多い。この工程には、数時間を要し、MTC測定用のデータを収集するためには、原子力プラントに対し、煩雑な作業が必要とされている。これに対し、本実施形態によれば、炉物理検査中に収集されたTavgおよび反応度の時系列データの中からTavgの自然な揺らぎによってのみ反応度が変動するデータをMTC測定用データとして抜き出し(ステップS6)、更に炉物理検査の全範囲にわたって分散して存在する複数のMTC測定用データのそれぞれから、MTC測定に必要な量のデータが含まれる小期間の時系列データを多数抽出し、小期間ごとにMTCを算出して多数のMTCを得る。その際、周波数に基づくフィルタと時間差に基づくフィルタを適用することで、MTCの算出に用いるデータからノイズ成分を除去することにより高精度に多数のMTCを算出する(ステップS14~S16)。そして、多数のMTCに基づいて、最終的なMTCを決定する。これにより、炉物理検査にMTC測定用の工程を設けることなく、MTCを測定することができる。MTC測定用の工程を設ける必要がないため、意図的にTavgを変化させるための煩雑な作業を省略することができる。また、炉物理検査の時間を短縮することができる。
【0041】
図10は、実施形態に係るMTC測定システムのハードウェア構成の一例を示す図である。コンピュータ900は、CPU901、主記憶装置902、補助記憶装置903、入出力インタフェース904、通信インタフェース905を備える。
上述の反応度処理装置11と、データ記録・制御装置13と、データ抽出装置14と、MTC処理装置15と、統計処理装置16と、オペレータコンソール18と、閾値算出装置19は、コンピュータ900に実装される。そして、上述した各機能は、プログラムの形式で補助記憶装置903に記憶されている。CPU901は、プログラムを補助記憶装置903から読み出して主記憶装置902に展開し、当該プログラムに従って上記処理を実行する。また、CPU901は、プログラムに従って、記憶領域を主記憶装置902に確保する。また、CPU901は、プログラムに従って、処理中のデータを記憶する記憶領域を補助記憶装置903に確保する。
【0042】
なお、反応度処理装置11と、データ記録・制御装置13と、データ抽出装置14と、MTC処理装置15と、統計処理装置16と、オペレータコンソール18と、閾値算出装置19の全部または一部の機能を実現するためのプログラムをコンピュータ読み取り可能な記録媒体に記録して、この記録媒体に記録されたプログラムをコンピュータシステムに読み込ませ、実行することにより各機能部による処理を行ってもよい。ここでいう「コンピュータシステム」とは、OSや周辺機器等のハードウェアを含むものとする。また、「コンピュータシステム」は、WWWシステムを利用している場合であれば、ホームページ提供環境(あるいは表示環境)も含むものとする。また、「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」とは、CD、DVD、USB等の可搬媒体、コンピュータシステムに内蔵されるハードディスク等の記憶装置のことをいう。また、このプログラムが通信回線によってコンピュータ900に配信される場合、配信を受けたコンピュータ900が当該プログラムを主記憶装置902に展開し、上記処理を実行しても良い。また、上記プログラムは、前述した機能の一部を実現するためのものであっても良く、さらに前述した機能をコンピュータシステムにすでに記録されているプログラムとの組み合わせで実現できるものであってもよい。
【0043】
以上のとおり、本開示に係るいくつかの実施形態を説明したが、これら全ての実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することを意図していない。これらの実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これらの実施形態及びその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【0044】
<付記>
各実施形態に記載の減速材温度係数測定方法、減速材温度係数測定システム及びプログラムは、例えば以下のように把握される。
【0045】
(1)第1の態様に係る減速材温度係数測定方法は、減速材温度の時系列データと反応度の時系列データを取得するステップと、取得した前記減速材温度の時系列データと前記反応度の時系列データの各々を周波数解析し、対応する周波数の前記減速材温度の時系列データと前記反応度の時系列データの相関値を周波数別に算出し、前記相関値が閾値以上となる周波数を特定するステップと(S14)、特定した前記周波数の前記減速材温度および前記反応度の時系列データの中から、前記減速材温度の時系列データと前記反応度の時系列データの位相差に基づく時間差が所定の設定範囲内となる前記減速材温度および前記反応度の時系列データを抽出するステップと(S15)、抽出した前記減速材温度および前記反応度の時系列データを用いて減速材温度係数を算出するステップと、を有する。
【0046】
これにより、減速材温度の時系列データと反応度の時系列データから、ノイズ成分を除去し、MTC測定に必要なデータを抽出することができ、高精度にMTCを算出することができる。
【0047】
(2)第2の態様に係る減速材温度係数測定方法は、(1)の減速材温度係数測定方法であって、前記特定した周波数の前記減速材温度および前記反応度の時系列データ、又は、前記時間差に基づいて抽出した前記減速材温度および前記反応度の時系列データ、の中からコヒーレンスが閾値以上のものを抽出するステップ(S16)、をさらに有する。
これにより、減速材温度の時系列データと反応度の時系列データから、ノイズ成分をさらに除去することができる。
【0048】
(3)第3の態様に係る減速材温度係数測定方法は、(1)~(2)の減速材温度係数測定方法であって、前記周波数を特定するステップでは、周波数別の前記減速材温度および前記反応度の時系列データの中から減速材温度と反応度のクロスパワースペクトル密度が閾値以上の周波数を特定する。
これにより、減速材温度の時系列データと反応度の時系列データの相関値が閾値以上となる周波数を特定することができる。
【0049】
(4)第4の態様に係る減速材温度係数測定方法は、(1)~(3)の減速材温度係数測定方法であって、人為的に減速材温度を変動させたときの前記減速材温度の時系列データと反応度の時系列データを取得するステップと(S3)、前記減速材温度および前記反応度の時系列データを周波数解析して、周波数別に前記減速材温度および前記反応度の時系列データの前記相関値を算出し、算出された前記相関値についての閾値を設定するステップと(S4)をさらに有する。
これにより、減速材温度の時系列データと反応度の時系列データの相関値が閾値以上となる周波数を特定する際の相関値の閾値を定めることができる。
【0050】
(5)第5の態様に係る減速材温度係数測定方法は、(1)~(4)の減速材温度係数測定方法であって、人為的に減速材温度を変動させたときの減速材温度の時系列データと反応度の時系列データを取得するステップと(S3)、前記減速材温度および前記反応度の時系列データを周波数解析して、周波数別に前記減速材温度と前記反応度の位相差を算出し、前記位相差に基づいて、前記時間差に関する前記設定範囲を設定するステップと(S4)、をさらに有する。
これにより、減速材温度の時系列データと反応度の時系列データから時間差が設定値以内のものを抽出する際の時間差の範囲を定めることができる。
【0051】
(6)第6の態様に係る減速材温度係数測定方法は、(1)~(5)の減速材温度係数測定方法であって、前記取得するステップにて取得した前記減速材温度の時系列データと前記反応度の時系列データから、所定の抽出条件に基づいて、前記減速材温度の自然な温度揺らぎによって前記反応度が変化する前記減速材温度の時系列データと前記反応度の時系列データを抽出するステップ(S6)、をさらに有し、前記減速材温度係数を算出するステップでは、前記抽出するステップにて抽出された前記時系列データから複数の小期間の前記時系列データを抜き出し、抜き出した前記時系列データに含まれる前記減速材温度の前記時系列データと前記反応度の前記時系列データのそれぞれに周波数解析を行ってノイズ法により前記減速材温度係数を算出する処理を、前記小期間ごとに行う(S7)。
減速材温度の時系列データと反応度の時系列データから、MTC測定に必要な減速材温度の自然な温度揺らぎによって反応度が変化する時系列データを抽出し、MTCを算出することができる。これにより、炉物理検査にMTC測定用の工程を設ける必要がなくなり、炉物理検査の時間を短縮化し、省力化することができる。MTC処理を複数回実行することにより、MTCを多数算出し、多数のMTCに基づいて最終的なMTCを決定することができる。これにより、減速材温度の自然な温度揺らぎによって反応度が変化する時系列データを用いることによる精度の低下を補償し、高精度にMTCを測定することができる。
【0052】
(7)第7の態様に係る減速材温度係数測定方法は、(6)の減速材温度係数測定方法であって、前記抽出するステップでは、(a)制御棒の操作およびホウ酸の希釈・濃縮による反応度の添加が行われていない期間の時系列データであること、(b)制御棒の操作およびホウ酸の希釈・濃縮による反応度の添加が行われた後、一定時間経過後の時系列データであること、の2つの前記抽出条件を満たす前記時系列データを抽出する。
これにより、減速材温度の自然な温度揺らぎによって反応度が変化する時系列データを抽出することができる。MTC測定用の工程を有しない炉物理検査中に収集したTavgおよび反応度の時系列データを使って、MTC測定を行うことができる。つまり、炉物理検査からMTC測定用の工程を省略することができる。
【0053】
(8)第8の態様に係る減速材温度係数測定方法は、(6)~(7)の減速材温度係数測定方法であって、前記減速材温度係数を算出する処理を前記小期間ごとに行なうことによって算出された複数の前記減速材温度係数を統計処理(ヒストグラムの作成や平均値、中央値の計算)して、最終的な減速材温度係数を決定するステップ(S9)、をさらに有する。
複数抜き出された小期間の時系列データから多数のMTCを算出することができる。多数のMTCの分布に基づいて、妥当な値を最終的なMTCとして決定することができ、精度の良いMTCを得ることができる。
【0054】
(9)第9の態様に係る減速材温度係数測定システム(MTC測定システム10)は、減速材温度の時系列データと反応度の時系列データを取得する手段と、取得した前記減速材温度の時系列データと前記反応度の時系列データの各々を周波数解析し、対応する周波数の前記減速材温度の時系列データと前記反応度の時系列データの相関値を周波数別に算出し、前記相関値が閾値以上となる周波数を特定する手段と、特定した前記周波数の前記減速材温度および前記反応度の時系列データの中から、前記減速材温度の時系列データと前記反応度の時系列データの位相差に基づく時間差が所定の設定範囲内となる前記減速材温度および前記反応度の時系列データを抽出する手段と、抽出した前記減速材温度および前記反応度の時系列データを用いて減速材温度係数を算出する手段と、を有する。
【0055】
(10)第10の態様に係るプログラムは、コンピュータ900に、減速材温度の時系列データと反応度の時系列データを取得するステップと、取得した前記減速材温度の時系列データと前記反応度の時系列データの各々を周波数解析し、対応する周波数の前記減速材温度の時系列データと前記反応度の時系列データの相関値を周波数別に算出し、前記相関値が閾値以上となる周波数を特定するステップと、特定した前記周波数の前記減速材温度および前記反応度の時系列データの中から、前記減速材温度の時系列データと前記反応度の時系列データの位相差に基づく時間差が所定の設定範囲内となる前記減速材温度および前記反応度の時系列データを抽出するステップと、抽出した前記減速材温度および前記反応度の時系列データを用いて減速材温度係数を算出するステップと、を実行させる。
【符号の説明】
【0056】
10・・・MTC測定システム
11・・・反応度処理装置
12・・・タイマー
13・・・データ記録・制御装置
14・・・データ抽出装置
15・・・MTC処理装置
151・・・MTC処理部
152・・・補正部
153・・・核設計コード
16・・・統計処理装置
17・・・表示装置
18・・・オペレータコンソール
19・・・閾値算出装置
20・・・原子力プラント
21・・・減速材温度測定系
22・・・中性子検出器
900・・・コンピュータ
901・・・CPU
902・・・主記憶装置
903・・・補助記憶装置
904・・・入出力インタフェース
905・・・通信インタフェース
図1
図2
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図10