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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-12
(45)【発行日】2024-09-24
(54)【発明の名称】塗料用水性樹脂組成物及び塗料
(51)【国際特許分類】
   C09D 201/00 20060101AFI20240913BHJP
   C09D 133/00 20060101ALI20240913BHJP
   C09D 167/00 20060101ALI20240913BHJP
   C09D 5/02 20060101ALI20240913BHJP
   C09D 7/62 20180101ALI20240913BHJP
   C09D 11/16 20140101ALI20240913BHJP
【FI】
C09D201/00
C09D133/00
C09D167/00
C09D5/02
C09D7/62
C09D11/16
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2021159584
(22)【出願日】2021-09-29
(65)【公開番号】P2023049690
(43)【公開日】2023-04-10
【審査請求日】2023-03-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000108454
【氏名又は名称】ソマール株式会社
(72)【発明者】
【氏名】坂爪 直樹
【審査官】仁科 努
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-189610(JP,A)
【文献】特開2003-268284(JP,A)
【文献】特開2001-240807(JP,A)
【文献】特開2004-300350(JP,A)
【文献】特開2021-140060(JP,A)
【文献】特開昭49-017896(JP,A)
【文献】特開2018-016797(JP,A)
【文献】特開2006-257161(JP,A)
【文献】特開2004-122526(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 201/00
C09D 133/00
C09D 167/00
C09D 5/02
C09D 7/62
C09D 11/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
塗料用水性樹脂組成物であって、
(A)、及び(B)を少なくとも含み、
(A)は、互いに相溶しない複数の水分散樹脂の混合物を含み、該混合物中の一の水分散樹脂として、他の一又は複数の水分散樹脂との混合物から形成される造膜後の膜のヘイズ値が配合量の増加に伴って上昇するものを用い、
(B)は、粒子径が2μm以上4μm以下の(B1)を90質量%以上含み、(A)の樹脂固形分:1に対する(B)の質量比が1.3以上4.0以下である、組成物。
(A)造膜性樹脂成分
(B)黒色材
(B1)黒色顔料と樹脂の複合物
【請求項2】
塗料用水性樹脂組成物であって、
(A)、及び(B)を少なくとも含み、
(A)は、(A1)及び(A2)を90質量%以上含み、(A1)の樹脂固形分:1に対する(A2)の樹脂固形分の質量比が1.8以上4.4以下であり、
(B)は、粒子径が2μm以上4μm以下の(B1)を90質量%以上含み、(A)の樹脂固形分:1に対する(B)の質量比が1.3以上4.0以下である、組成物。
(A)造膜性樹脂成分
(A1)アクリル系樹脂のエマルション
(A2)ポリエステル系樹脂のエマルション
(B)黒色材
(B1)黒色顔料と樹脂の複合物
【請求項3】
(B1)は、カーボンブラックを内包したアクリル樹脂粒子を含む、請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項4】
(A)は、(A3)を更に含み、(A1)の樹脂固形分:1に対する(A3)の質量比が1.2以上1.7以下である、請求項2又は3に記載の組成物。
(A3)水溶性ポリマー
【請求項5】
請求項1~のいずれかに記載の組成物、及び(C)を含み、B型粘度計による25℃での粘度が1mPa・s以上300mPa・s以下である、塗料。
(C)希釈溶媒
【請求項6】
模型部品の塗布用である、請求項に記載の塗料。
【請求項7】
カメラ部品の塗布用である、請求項に記載の塗料。
【請求項8】
B型粘度計による25℃での粘度が1mPa・s以上50mPa・s以下である、スプレーコート法による塗布用の請求項に記載の塗料。
【請求項9】
B型粘度計による25℃での粘度が80mPa・s以上230mPa・s以下である請求項に記載の塗料を、内部に充填したペン型塗布具。
【請求項10】
請求項に記載の塗料から形成された膜であって、膜が形成された面の最表面の、入射角度60°の入射光に対する光沢度が1.0%未満、波長550nmの光に対する反射率が1.5%未満、SCE方式によるCIELAB表色系でのL値が15未満、である膜。
【請求項11】
膜に透過での遮光性が求められる場合、膜が形成された面の最表面の、光学濃度が2.0以上、である請求項10に記載の膜。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塗料用水性樹脂組成物と、それを含む塗料と、に関する。
【背景技術】
【0002】
スマートフォンやタブレッ、パソコン等の電子機器には、デザイン性の向上、内部配線等の隠蔽、及び遮光等を目的として、その筐体の一部又は全部(外面、内面は不問)や、タッチパネルの視認面側に配置して固定されるカバーガラスの、非視認面の一部(例えば額縁部分)に、黒塗りの膜を施すことがある。近年、この要請は、例えば各種カメラユニットに装着されるレンズ等電子機器部品の一部(例えばレンズの外縁)又は全部や、プラスチックモデル等の組み立て模型、あるいは該模型キットにおける組み立て模型のパーツに対してもある。
【0003】
例えば特許文献1では、スマートフォン等の携帯型電子機器の筐体に、絶縁材料で構成されるスクリーン印刷を直接施し、あるいはスクリーン印刷を施した、膜形成フィルムをインモールド成形することによって膜を形成する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2007-285093号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、近年の工業製品のデザイン性向上の要請に伴い、このような製品に対して更にデザイン性の高い黒塗りの膜(例えば凹凸膜)を施すことが求められるようになってきている。
【0006】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものである。本発明は、デザイン性の高い膜を形成することができる塗装用の水性樹脂組成物とその塗料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、鋭意検討の結果、以下の要件を満たすことによって、低光沢(1.0%未満)であることに加え、これまで以上の超低反射(1.5%未満)と超低L値(15未満)を発現する、デザイン性の高い膜の形成に有効であることを見出した。
【0008】
・互いに相溶しない複数の水分散樹脂の混合物を含む樹脂成分と、所定の粒子径範囲を有する特定複合物を含む黒色材と、を所定の割合(質量比範囲)で含む、特定組成の樹脂組成物を用いる。
・樹脂成分に含める前記混合物の一例として、アクリル系樹脂エマルションとポリエステル系樹脂エマルションを所定の質量比範囲で含むものを用いる。
【0009】
本発明者は、こうした新たな知見に基づき、以下に提供される発明を完成させ、上記課題を解決した。
以下では、(A)造膜性樹脂成分、(A1)アクリル系樹脂のエマルション、(A2)ポリエステル系樹脂のエマルション、(A3)水溶性ポリマー、(B)黒色材、(B1)黒色顔料と樹脂の複合物、(C)希釈溶媒、とする。
【0010】
本発明によれば、
塗料用水性樹脂組成物であって、
(A)、及び(B)を少なくとも含み、
(A)は、互いに相溶しない複数の水分散樹脂の混合物を含み、
(B)は、粒子径が2μm以上4μm以下の(B1)を90質量%以上含み、(A)の樹脂固形分:1に対する(B)の質量比が1.3以上4.0以下である、組成物
が提供される。
【0011】
上記の組成物は、以下の態様を含みうる。
・(A)に含まれる混合物中の一の水分散樹脂として、他の一又は複数の水分散樹脂との混合物から形成される造膜後の膜のヘイズ値が配合量の増加に伴って上昇するものを用いることができる。
・(A)は、(A1)及び(A2)を90質量%以上含み、(A1)の樹脂固形分:1に対する(A2)の樹脂固形分の質量比が1.8以上4.4以下であることが好ましい。
・(B1)は、カーボンブラックを内包したアクリル樹脂粒子を含むことが好ましい。
・(A)は、(A3)を更に含んでもよく、この場合、(A1)の樹脂固形分:1に対する(A3)の質量比が1.2以上1.7以下であることができる。
【0012】
本発明によれば、
上記の組成物、及び(C)を含み、
B型粘度計による25℃での粘度が1mPa・s以上300mPa・s以下である、塗料
が提供される。
【0013】
上記の塗料は、以下の態様を含みうる。
・模型部品の塗布用であってよい。
・カメラ部品の塗布用であってよい。
・スプレーコート法による塗布用であってよい。
・ペン型塗布具を用いた方法による塗布用であってよい。
・筆塗り法による塗布用であってよい。
・ディップコート法による塗布用であってよい。
・ディスペンサー法による塗布用であってよい。
【0014】
本発明によれば、
上記の塗料を内部に充填したペン型塗布具
が提供される。
【0015】
本発明によれば、
上記の塗料から形成された膜であって、
膜が形成された面の最表面の、入射角度60°の入射光に対する光沢度(以下単に「光沢度」ともいう。)が1.0%未満、波長550nmの光に対する反射率(以下単に「反射率」ともいう。)が1.5%未満、SCE方式によるCIELAB表色系でのL値が15未満、である膜
が提供される。
【0016】
上記の膜は、以下の態様を含みうる。
・膜に透過での遮光性が求められる場合、膜が形成された面の最表面の、光学濃度が2.0以上、であってよい。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、デザイン性の高い膜を形成することができる塗装用の水性樹脂組成物とその塗料が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施の最良の形態について説明するが、本発明は以下の実施の形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、当業者の通常の知識に基づいて、以下の実施の形態に対し、適宜変更、改良等が加えられたものも本発明の範囲のものである。
【0019】
本明細書に記載されている数値範囲において、ある数値範囲で記載された上限値又は下限値は、実施例に示されている値に置き換えてもよい。
本明細書において組成物中の各成分の含有率又は含有量は、組成物中に各成分に該当する物質が複数種存在する場合、特に断らない限り、組成物中に存在する当該複数種の物質の合計の含有率又は含有量を意味する。
【0020】
<塗料用水性樹脂組成物>
本発明の一形態に係る塗料用水性樹脂組成物(以下単に「組成物」ともいう。)は、(A)造膜性樹脂成分、及び(B)黒色材、を含む。(A)は、互いに相溶しない複数の水分散樹脂(以下単に「エマルション粒子」ともいう。)の混合物を含む。
(A)及び(B)を含む組成物から形成される膜は、従来の塗料用水性樹脂組成物から形成される膜と比較して、低光沢(1.0%未満)であることに加え、これまで以上の超低反射(1.5%未満)と超低L値(15未満)を発現する。理由は定かではないが、(A)中に複数の水分散樹脂混合物を含む場合、造膜後の膜中に非相溶領域が形成され、その結果、造後の膜は非相溶膜となる。この非相溶膜と該膜中に配合された(B)との作用が、効果的に、低光沢、超低反射、超低L値の発現に寄与しているものと考えられる。
【0021】
-(A)-
組成物の形成に用いる(A)は、塗面に対する定着材であり、(B)のバインダーでもある。具体的には、互いに相溶しない複数(2種以上)の水分散樹脂(エマルション粒子)の混合物を含む。例えば、組み合わせる水分散樹脂の数が2の場合において、一の水分散樹脂を樹脂A、他の水分散樹脂を樹脂Bとしたとき、樹脂Bとして、樹脂Aとの相溶性が低い樹脂を用いる。
この場合、樹脂Bは、樹脂Aとの混合物から形成される造膜後の膜のヘイズ値が混合量に応じて上昇していくものでなければならない。具体的には、樹脂Bを樹脂Aと質量比1:1で混合した混合物から形成される造膜後の膜(厚み12μm)のヘイズ値が3.5%以上(好ましくは4.5%以上)となる樹脂Bを、樹脂Aと相溶しない樹脂(すなわち樹脂Aと非相溶の樹脂)と定義することができる。ヘイズ値は、後述の方法で測定することができる。
【0022】
造膜後の膜中で、組み合わせた水分散樹脂が互いに“相溶していない領域”(非相溶領域)を形成しているか否かは、造膜後の膜に対し、その切断面を顕微鏡にて観察したときに、別々の固相を検出できるか否かによって確認することもできる。
【0023】
複数の水分散樹脂混合物を含むことにより、造膜後の膜中に非相溶領域が形成され、その結果、造膜後の膜は非相溶膜となる。かつ非相溶膜への(B)の配合と相まって、膜表面が、低光沢になる。これに加え、これまで以上の超低反射性を実現できるとともに、黒色度がより一層高められる(L値がより一層低くなる。超低L値)。これらのことが、本発明者により見出された。
【0024】
一形態において、2種の水分散樹脂が造膜後の膜中に非相溶領域を形成している限り、一方の樹脂Aの一部が他方の樹脂B中に溶け込んでいる場合も本発明の範囲内である。3種若しくはそれを超える数(4種以上)の水分散樹脂を使用した場合、それぞれの水分散樹脂が互いにすべて非相溶であってもよいが、1つの水分散樹脂が互いに相溶する他の、2つ若しくはそれを超える数(3つ以上)の水分散樹脂からなる混合樹脂に対して非相溶であればよい。
【0025】
水分散樹脂の組み合わせは、互いに相溶しない限り特に限定されず、例えば、アクリル系樹脂エマルション、ポリエステル系樹脂エマルション、ウレタン系樹脂エマルション、ポリ酢酸ビニル系樹脂エマルション、ポリ塩化ビニル系樹脂エマルション、ポリブタジエン系樹脂エマルション、ポリオレフィン系樹脂エマルション等、からなる群から2種以上が選択される。これらの中でも、造膜後の膜表面の低光沢、超低反射、超低L値の実現や膜強度の観点で、アクリル系樹脂エマルションとポリエステル系樹脂エマルションの2種を含む組み合わせが好ましい。

【0026】
一形態において、水分散樹脂混合物の最低造膜温度は、常温で皮膜を形成し、塗面に対して必要な定着性を持たせる観点から、例えば、40℃未満であり、0℃未満であってよい。
【0027】
以下、組み合わせる水分散樹脂の数が2の場合(つまり上記で言う樹脂Aと樹脂Bの組み合わせ)を例にとり、かつその一例として、アクリル系樹脂エマルションを(A1)、ポリエステル系樹脂エマルションを(A2)、と略記して説明する。なお、(A1)と(A2)の組み合わせは、好ましい例(一形態)に過ぎない。したがって、この態様に本発明を限定する趣旨ではない。
【0028】
(A1)
(A)に含める複数の水分散樹脂混合物が(A1)を含むことにより、耐水性に優れ、塗面に対する密着性に優れた膜を形成できる。これに加え、造膜後の膜に対し、膜強度と耐光性等のメリットが付与される。
(A)の一部を構成する(A1)は、アクリル系樹脂を含むものであり、更に本発明の組成物中にエマルション状態で含まれるものである。ここで、エマルション状態であるとは、樹脂エマルションに含まれる樹脂等が微粒子として組成物中に分散している状態を示す。エマルション状態の樹脂は、一般的に連続相である水性溶剤が蒸発や浸透等により減少すると、増粘・凝集する性質を持ち、塗面への密着を促進することができる。
【0029】
(A1)中のアクリル系樹脂としては、例えば、1種以上のラジカル重合性モノマーを重合させて得られた重合物等が挙げられる。例えば、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシブチル、アクリル酸ヒドロキシエチルとε-カプロラクトンとの付加物等の官能基含有モノマー、更には、(メタ)アクリル酸アルキルエステルとして、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸ヘキシル、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸オクチル、(メタ)アクリル酸ノニル、(メタ)アクリル酸デシル、(メタ)アクリル酸ドデシル、(メタ)アクリル酸ステアリル、(メタ)アクリル酸イソボルニル、(メタ)アクリル酸ラウリルから選択される1種以上のモノマーを重合して水性エマルションとすることで、(A1)を得ることができる。
【0030】
水性エマルション化としては、溶剤重合した後、水中に強制攪拌や乳化剤等を用いてエマルション化する方法、水中で乳化剤を用いて共重合するエマルション重合法等が挙げられる。
【0031】
一形態において、(A1)は、水酸基及びカルボキシル基のうち少なくとも一方を有するアクリル系樹脂を含み、例えば、水酸基及びカルボキシル基を有するアクリル系樹脂を含む。
一形態において、(A1)中のアクリル系樹脂は、架橋性樹脂粒子であり、例えば、架橋性を有し、更に、水酸基及びカルボキシル基のうち少なくとも一方を有するアクリル樹脂粒子であってよい。
【0032】
一形態において、水酸基及びカルボキシル基を有するアクリル系樹脂は、(メタ)アクリル酸アルキルエステル(i)、カルボキシル基含有エチレン性不飽和モノマー(ii)、及び水酸基含有エチレン性不飽和モノマー(iii)を含むモノマー混合物を乳化重合して得ることができる。なお、モノマー混合物の成分として以下に例示される化合物は、1種又は2種以上を適宜組み合わせて使用してよい。なお、「メタ(アクリル)」とは、アクリル又はメタクリルの両方を表す。
【0033】
(メタ)アクリル酸アルキルエステル(i)は、(A1)の主骨格を構成するために使用する。
【0034】
(メタ)アクリル酸アルキルエステル(i)の具体例としては、上記(メタ)アクリル酸アルキルエステルとして、で挙げられたもの、が挙げられる。
【0035】
カルボキシル基含有エチレン性不飽和モノマー(ii)は、得られる(A1)の保存安定性、機械的安定性等の諸安定性を向上させるために使用できる。
【0036】
カルボキシル基含有エチレン性不飽和モノマーとしては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、イソクロトン酸、エタクリル酸、プロピルアクリル酸、イソプロピルアクリル酸、イタコン酸、無水マレイン酸及びフマル酸等が挙げられる。
【0037】
水酸基含有エチレン性不飽和モノマー(iii)は、水酸基に基づく親水性を(A1)に付与し、これを塗料として用いた場合における作業性等を向上させるために使用できる。
【0038】
水酸基含有エチレン性不飽和モノマー(iii)としては、例えば、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、N-メチロールアクリルアミド、アリルアルコール、ε-カプロラクトン変性(メタ)アクリルモノマー等が挙げられる。
【0039】
ε-カプロラクトン変性アクリルモノマーの具体例としては、ダイセル社製の「プラクセルFA-1」、「プラクセルFA-2」、「プラクセルFA-3」、「プラクセルFA-4」、「プラクセルFA-5」、「プラクセルFM-1」、「プラクセルFM-2」、「プラクセルFM-3」、「プラクセルFM-4」及び「プラクセルFM-5」等が挙げられる。
【0040】
モノマー混合物は、任意成分として、スチレン系モノマー、(メタ)アクリロニトリル及び(メタ)アクリルアミドからなる群から選ばれる少なくとも1種のモノマーを含んでよく、また、スチレン系モノマーとしては、スチレンのほかにα-メチルスチレン等が挙げられる。また、架橋モノマーとして、エチレングリコールジ(メタ)アクリル酸、ジビニルベンゼン等が挙げられる。
【0041】
乳化重合は、上記モノマー混合物を水性液中で、ラジカル重合開始剤及び乳化剤の存在下で、攪拌下加熱することによって実施することができる。反応温度は例えば30~100℃程度として、反応時間は例えば1~10時間程度が好ましく、水と乳化剤を仕込んだ反応容器にモノマー混合物又はモノマープレ乳化液の一括添加又は暫時滴下によって反応温度の調節を行うとよい。
【0042】
ラジカル重合開始剤としては、通常アクリル系樹脂の乳化重合で使用される公知の開始剤が使用できる。具体的には、水溶性のフリーラジカル重合開始剤として、例えば、過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸アンモニウム等の過硫酸塩が水溶液の形で使用される。また、過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸アンモニウム、過酸化水素等の酸化剤と、亜硫酸水素ナトリウム、チオ硫酸ナトリウム、ロンガリット、アスコルビン酸等の還元剤とが組み合わされた、所謂、レドックス系開始剤が水溶液の形で使用される。
【0043】
乳化剤としては、炭素数が6以上の炭素原子を有する炭化水素基と、カルボン酸塩、スルホン酸塩又は硫酸塩部分エステル等の親水性部分とを同一分子中に有するミセル化合物から選ばれるアニオン系又は非イオン系(ノニオン系)の乳化剤が用いられる。このうちアニオン系の乳化剤としては、アルキルフェノール類又は高級アルコール類の硫酸半エステルのアルカリ金属塩又はアンモニウム塩;アルキル又はアリルスルホナートのアルカリ金属塩又はアンモニウム塩;ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル又はポリオキシエチレンアリルエーテルの硫酸半エステルのアルカリ金属塩又はアンモニウム塩等が挙げられる。また非イオン系の乳化剤としては、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル又はポリオキシエチレンアリルエーテル等が挙げられる。またこれら一般汎用のアニオン系、ノニオン系乳化剤の他に、分子内にラジカル重合性の不飽和二重結合を有する、すなわちアクリル系、メタクリル系、プロペニル系、アリル系、アリルエーテル系、マレイン酸系等の基を有する各種アニオン系、ノニオン系反応性乳化剤等も適宜、単独又は2種以上の組み合わせで使用される。
【0044】
乳化重合の際、メルカプタン系化合物や低級アルコール等の分子量調節のための助剤(連鎖移動剤)の併用は、乳化重合を進める観点から、また膜の円滑かつ均一な形成を促進し被塗物への密着性を向上させる観点から、好ましい場合も多く、適宜状況に応じて行われる。
【0045】
乳化重合としては、通常の一段連続モノマー均一滴下法、多段モノマーフィード法であるコア・シェル重合法、重合中にフィードするモノマー組成を連続的に変化させるパワーフィード重合法等、いずれの重合法もとることができる。
【0046】
また、得られた(A1)に対し、カルボン酸の一部又は全量を中和して(A1)の安定性を保つため、塩基性化合物を添加してもよい。これら塩基性化合物としては、アンモニア、各種アミン類、アルカリ金属等を適宜使用することができる。
【0047】
(A1)中のアクリル系樹脂の分子量としては、特に限定されないが、重量平均分子量(Mw)で、例えば、50,000以上1,000,000以下であってよく、100,000以上800,000以下であってよい。
【0048】
(A1)中のアクリル系樹脂のガラス転移温度(Tg)は、例えば、-10℃以上100℃以下であってよく、0℃以上80℃以下であってよい。また、アクリル系樹脂のガラス転移温度(Tg)は、10℃以上80℃以下であってよい。ガラス転移温度(Tg)がこのような範囲内であることにより、膜中に分散してより高い隠ぺい性を示すことができる。
【0049】
(A1)中のアクリル系樹脂の酸価は、例えば、2mgKOH/g以上20mgKOH/g以下であってよく、5mgKOH/g以上10mgKOH/g以下であってよい。酸価がこのような範囲内であることにより、溶媒との相溶性が向上するメリットを享受しうる。
なお、酸価とは、試料(樹脂の固形分)1g中の酸性成分を中和するのに要する水酸化カリウム(KOH)の質量(mg)と定義される(以下同じ)。このような酸価は、樹脂を構成するモノマーの種類や含有量等によって調整することができる。上記酸価は、例えば、アクリル系樹脂中の(メタ)アクリル酸等の酸基含有モノマー由来の構成単位の含有量等により調整することができる。
【0050】
(A1)中のアクリル系樹脂の水酸基価は、例えば、5mgKOH/g以上20mgKOH/gであってよく、10mgKOH/g以上20mgKOH/g以下であってよい。水酸基価がこのような範囲内であることにより、分散性と自己架橋のメリットを享受しうる。
なお、水酸基価とは、試料(樹脂の固形分)1g中の水酸基(ヒドロキシル基)をアセチル化するのに要するKOHの質量(mg)と定義される(以下同じ)。
【0051】
(A1)中のアクリル系樹脂の粒子径は、例えば、100nm以上900nm以下であってよく、200nm以上500nm以下であってよい。
【0052】
(A1)中でアクリル系樹脂が分散している媒体(分散媒)は、水、又は、水と水溶性有機溶媒の混合溶媒、である。水溶性有機溶媒としては、水と混合可能なものである限り特に制限されず、例えば、モノアルコール類、多価アルコール類、多価アルコールの低級アルキルエーテル類、ケトン類、エーテル類、エステル類、窒素含有化合物類等が挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
モノアルコール類としては、メタノール、エタノール、n-プロパノール、n-ブタノール、イソブタノール、n-ペンタノール、n-ヘキサノール、n-ヘプタノール、n-オクタノール、n-ノニルアルコール、n-デカノール、又はこれらの異性体、シクロペンタノール、シクロヘキサノール等が挙げられ、好ましくはアルキル基の炭素数が1~6のアルコールを使用できる。
多価アルコール類としては、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,3-ブチレングリコール、1,4-ブチレングリコール、1,2-ペンタンジオール、1,5-ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,2-ヘキサンジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,2-シクロヘキサンジオール、ヘプタンジオール、1,8-オクタンジオール、1,9-ノナンジオール、1,10-デカンジオール、グリセリン、ペンタエリスリトール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、チオジグリコール等を使用できる。
多価アルコールの低級アルキルエーテル類としては、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、エチレングリコールモノプロピルエーテル、エチレングリコールイソプロピルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールイソブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコール-n-プロピルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジプロピレングリコールモノ-n-プロピルエーテル、ジプロピレングリコールモノ-n-ブチルエーテル等を使用できる。
水溶性有機溶媒の含有量としては、極力少なくすることが好ましく、配合しないこともできる。配合する際の含有量は、混合溶媒100質量%中、0~10.0質量%が好ましく、更に好ましくは0~5.0質量%である。10.0質量%を超えるときには乾燥不良や耐ブロッキング性が低下する。
【0053】
(A1)の樹脂固形分濃度(単に「固形分含有率」ともいう。)は、例えば10質量%以上であればよい。好ましくは15質量%以上、より好ましくは25質量%以上、好ましくは50質量%以下、より好ましくは35質量%以下、である。
【0054】
(A1)のpH値は、例えば、4以上8以下であってよく、4以上7以下であってよい。pH値がこのような範囲内であることにより、形成される膜と被塗物の密着性をより向上させることができる。
【0055】
(A1)として市販品を使用できる。例えば、EM57DOC(ダイセルミライズ社)、モビニール7471、モビニール7540、モビニールDM774、モビニール6520(以上、三菱ケミカル社): NeoCryl A-639、NeoCryl A-1127(以上、楠本化成社): ビニブラン278、ビニブラン690(以上、日信化学工業社):等が挙げられる。
これらは、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0056】
(A2)
(A)に含める複数の水分散樹脂混合物が(A2)を含むことにより、造膜後の膜に対し、膜強度の向上等のメリットが付与される。
(A)の一部を構成する(A2)は、ポリエステル系樹脂を含むものであり、更に本発明の組成物中にエマルション状態で含まれる。この点は(A1)と同様である。
【0057】
(A2)中のポリエステル系樹脂としては、例えば、多塩基酸と多価アルコールとの縮合物等が挙げられる。多塩基酸としては、例えば、無水フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、アジピン酸、無水コハク酸等が挙げられる。多価アルコールとしては、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,3-ブチレングリコール、1,6-ヘキサンジオール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等が挙げられる。
【0058】
一形態において、(A2)中のポリエステル系樹脂は、カルボキシ基及び/又はスルホン酸基を有することが好ましい。ポリエステル系樹脂がこれらの親水基を有することで、水への分散性が良好となり、その結果、組成物を含む塗料から、より均一な膜を形成することができ、該膜と被塗物との密着性をより向上できる。
【0059】
(A2)中のポリエステル系樹脂の分子量としては、特に限定されないが、数平均分子量(Mn)で、例えば、6,000以上20,000以下であってよく、8,500以上20,000以下であってよい。
【0060】
(A2)中のポリエステル系樹脂のガラス転移温度(Tg)は、例えば、40℃以上80℃以下であってよく、55℃以上75℃以下であってよい。ガラス転移温度(Tg)がこのような範囲内であることにより、耐水性に優れ、被塗物に対する密着性に優れた膜を形成できる。
【0061】
(A2)中のポリエステル系樹脂の酸価は、例えば、1mgKOH/g以上10mgKOH/gであってよく、1mgKOH/g以上8mgKOH/gであってよい。酸価がこのような範囲内であることにより、溶媒との相溶性が向上するメリットを享受しうる。
【0062】
(A2)中のポリエステル系樹脂の水酸基価は、例えば、1mgKOH/g以上20mgKOH/g以下であってよく、1mgKOH/g以上10mgKOH/g以下であってよい。水酸基価がこのような範囲内であることにより、分散性と自己架橋のメリットを享受しうる。
【0063】
(A2)中のポリエステル系樹脂の粒子径は、例えば、10nm以上300nm以下であってよく、50nm以上150nm以下であってよい。
【0064】
(A2)中の、ポリエステル系樹脂の分散媒として、既述した(A1)中の分散媒と同様の、水、又は、水と有機溶剤の混合液、を用いることができる。
【0065】
(A2)の固形分含有率は、例えば50質量%以上であればよい。好ましくは60質量%以上、より好ましくは70質量%以上、好ましくは90質量%以下、より好ましくは80質量%以下、である。
【0066】
(A2)として市販品を使用できる。例えば、KA-5071S、KZT-8803、KT-8701、KZT-9204(以上、ユニチカ社): バイロナールMD1200、MD1245、MD1480,MD1930,MD2000、MD1500(以上、東洋紡社): PES-H001等のハイテックPEシリーズ(東邦化学工業社): ニュートラック2010(花王社): スーパーフレックス210(第一工業製薬社): プラスコートZ730、Z760、Z592、Z687、Z690(以上、互応化学工業社): 等が挙げられる。
これらは、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0067】
一形態において、(A)中での(A2)の樹脂固形分の質量比は、(A1)の樹脂固形分:1に対して、好ましくは1.8以上、より好ましくは2.0以上、好ましくは4.4以下、より好ましくは3.0以下、である。この樹脂固形分質量比範囲で(A2)を配合することにより、膜強度の安定(塗面からの膜脱落や塗面への密着不良を起こさない)を享受しうる。
【0068】
(A)中の、(A1)と(A2)の合計含有量(総量)は、好ましくは90質量%以上、より好ましくは95質量%以上、である。その上限は、特に制限されず、100質量%である。すなわち一形態において、(A1)及び(A2)は、100質量%の(A)中に、好ましくは90質量%以上、含有されていればよい。
【0069】
(A)が、(A1)及び(A2)とともに、他の樹脂エマルションを含有する場合、当該他の樹脂エマルションの樹脂固形分の、(A)中での質量比は、(A1)及び(A2)の合計:1に対して、例えば0.4以下である。
【0070】
なお、各水分散樹脂(アクリル系樹脂、ポリエステル系樹脂、その他の樹脂)の、分子量(Mw、Mn)、ガラス転移温度(Tg)、酸価、水酸基価、及び粒子径、並びに、エマルションの樹脂固形分濃度(固形分含有率)は、いずれも、当業者が知る任意の方法で測定すればよい。
【0071】
例えば、各水分散樹脂の、分子量(Mw、Mn)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)で測定される。GPCは、HLC-8020GPC(東ソー社)を用い、カラムとして、TSKgel、Super Multipore HZ-H(東ソー社、4.6mmID×15cm)を3本用い、溶離液としてTHF(テトラヒドロフラン)を用いて溶媒THFにて検出し、標準物質としてポリスチレンを用いて換算することにより求められる分子量である。
ガラス転移温度(Tg)は、DSC法により、示差走査熱量分析計を用いて測定される。より具体的には、ガラス転移温度は、示差走査熱熱量計(DSC)(例えば、島津製作所社の示差走査熱量計「DSC-50」)により測定することができる。なお、ガラス転移温度が複数観測される場合は、より吸熱量の大きい、主転移温度を採用することができる。
酸価と水酸基価は、JIS規格(JIS K0070、1992)で定められた方法(電位差滴定法)に準して測定される。
粒子径は、一次粒子の平均粒子径であり、例えば、動的光散乱法による粒度分布測定器(FPAR-1000:大塚電子社)を用いて測定され、また例えば、透過型電子顕微鏡(TEM)や走査型電子顕微鏡(SEM)を用いた画像解析を利用して測定(特定)することもできる。
エマルションの固形分含有率は、150℃×2h乾燥後の残分より算出される。
【0072】
(A3)
(A)は、複数の水分散樹脂混合物とともに、(A3)水溶性ポリマーを含有してもよい。(A)が(A3)を含むことにより、造膜後の膜の、塗面への接着性向上が期待される。
【0073】
水溶性ポリマーとしては、水溶性である限り特に限定されないが、例えば、ポリカルボン酸系ポリマー、ポリビニルアルコール系ポリマー、セルロースやその誘導体、ゼラチン、N-ビニル環状ラクタム由来の構成単位を有するポリマー等が挙げられる。これらは、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0074】
(A)に(A3)を含有させる場合、組成物の安定性の観点から、ポリビニルアルコール(PVA)を用いることが好ましい。 ポリビニルアルコールは、ポリ酢酸ビニルをアルカリ、酸、アンモニア水等で鹸化することにより得られる高分子化合物であり、組成物の経時安定性に良好な、ケン化度約78.5~89.0モル%の部分ケン化型であることが好ましい。これは、いわゆる低ケン化度・中ケン化度のポリビニルアルコール(PVA)である。
また、平均重合度は約300~2300が好ましく、更に好ましくは約1500~1900である。
【0075】
(A3)として市販品を使用できる。例えば、ゴーセノールGH23(重合度約2300、ケン化度86.5~89.0モル%)、同GH20(重合度約2000、ケン化度86.5~89.0モル%)、同GH17(重合度約1700、ケン化度86.5~89.0モル%)、同GM14(重合度約1400、ケン化度86.5~89.0モル%)、同GL-03(重合度約300、ケン化度86.5~89.0モル%)、同GL-05(重合度約500、ケン化度86.5~89.0モル%)、同KH20(重合度約2000、ケン化度78.5~81.5モル%)、同KH17(重合度約1700、ケン化度78.5~81.5モル%)、同KL-03(重合度約300、ケン化度78.5~82.0モル%)、同KL-05(重合度約500、ケン化度78.5~82.0モル%)(以上、三菱ケミカル社): クラレポバールPVA-203(重合度約300、ケン化度86.5~89.5モル%)、同PVA-204(重合度約400、ケン化度86.5~89.5モル%)、同PVA-205(重合度約500、ケン化度86.5~89.5モル%)PVA-210(重合度約1000、ケン化度88.0モル%)、PVA-217(重合度約1700、ケン化度88.0モル%)、PVA-220(重合度約2000、ケン化度88.0モル%)、PVA-217EE(重合度約1700、ケン化度88.0モル%)、PVA-217E(重合度約1700、ケン化度88.0モル%)、PVA-220E(重合度約2000、ケン化度88.0モル%)、PVA-403(重合度約300、ケン化度80.0モル%)、PVA-405(重合度約500、ケン化度83.0モル%)、PVA-420(重合度約2000、ケン化度81.0モル%)(以上、クラレ社): デンカポバールB-03(重合度約300、ケン化度87~89モル%)、同B-05(重合度約500、ケン化度87~89モル%)(以上、デンカ社): ユニチカポバールUP050G(重合度約500、ケン化度約87~89モル%、ユニチカ社:等が挙げられる。
これらは、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0076】
(A)が(A3)を含有する場合、(A)中での(A3)の質量比は、(A1)の樹脂固形分:1に対して、好ましくは1.2以上、より好ましくは1.35以上、好ましくは1.7以下、より好ましくは1.55以下、である。この樹脂固形分質量比範囲で(A3)を配合することにより、造膜後の膜の、塗面への接着性を向上させやすい。
【0077】
(A)の樹脂固形分の含有量(総量)は特に限定されないが、他の成分との配合バランスを考慮すると、組成物の全固形分の総量(100質量%)に対して、好ましくは10質量%以上、より好ましくは20質量%以上、更に好ましくは25質量%以上、好ましくは50質量%以下、より好ましくは40質量%以下、更に好ましくは35質量%以下、である。
【0078】
-(B)-
組成物の形成に用いる(B)は、(B1)黒色顔料と樹脂の複合物、を含む。
黒色顔料との複合物を構成する樹脂は、水に対して不溶性であるものが用いられる。この様な樹脂としては、例えば、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、スチレン樹脂、エチレン樹脂、フェノール樹脂、尿素樹脂、アミド樹脂、メラミン樹脂、ベンゾグアナミン樹脂等が挙げられる。中でも、分散性の観点から、アクリル樹脂又はウレタン樹脂が好ましく、より好ましくはアクリル樹脂である。
これらは、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
なお、ビーズという名称の前に樹脂名をつけることによって樹脂粒子の呼称を一部省略することができる。例えば、アクリル樹脂からなる樹脂粒子をアクリルビーズと呼ぶこともある。
【0079】
樹脂との複合物を構成する黒色顔料は、特に限定されないが、複合物の黒色化効果が大きく、価格面でも有利なカーボンブラック(以下単に「CB」ともいう。)を使用することが好ましい。CBを用いることにより、形成される膜が着色するため、更に反射防止効果が向上し、かつ良好な帯電防止効果が得られる。
【0080】
黒色顔料と樹脂との複合の形態としては、例えば、(1)黒色顔料を樹脂が被覆した形態(樹脂の粒子に黒色顔料を内包した形態を含む)、(2)黒色顔料の表面や内部に樹脂が結合した形態、(3)黒色顔料の表面や内部に樹脂が付着した形態、のいずれか、あるいは、これらの複合形態が挙げられる。
【0081】
黒色顔料の表面を樹脂によって被覆する手段としては、例えば、マイクロカプセル法、より具体的には界面重合法、in-situ重合法、液中硬化被覆法(オリフィス法)、水溶液からの相分離法、液中乾燥法等が挙げられる。その他、マイクロカプセル法以外にも、分散された黒色顔料に樹脂を結合させたり、付着させる方法もある。その例として、顔料を核として、この表面を多数のコロイド状の樹脂粒子で覆ったものもある。黒色顔料の核にコロイド状の樹脂粒子で覆った着色剤を採用する場合には、顔料の核に対して、周囲の樹脂粒子サイズは、十分に小さいことが望ましい。更にコロイド状の樹脂粒子は、顔料の核をほぼ隙間無く被覆したものであることが望ましい。ただし、顔料の核が直接外部に露出したものを除外するものではない。
【0082】
(B1)は、顔料に、該顔料の粒子と同等程度の大きさの樹脂を結合させたものでもよい。その他熱可塑性樹脂あるいは熱硬化性樹脂に黒色顔料や黒色染料を練り込み粉砕することにより、黒色顔料等と樹脂とを複合させることもできる。
【0083】
一形態において、複合の形態は、分散性向上の観点から、(1)の形態、すなわち黒色顔料を内包した樹脂粒子、の形態が好ましい。黒色顔料を内包した樹脂粒子は、径がより大きな樹脂粒子に顔料が内包されるため、径が小さい顔料を直接、組成物中に配合する場合と比較して、組成物中で凝集体が発生し難くなり、分散性の向上に寄与する。
【0084】
(B1)中の、顔料(特にCB)の含有量は、好ましくは1質量%以上、より好ましくは5質量%以上、更に好ましくは10質量%以上、好ましくは50質量%以下、より好ましくは40質量%以下、更に好ましくは30質量%以下、である。
【0085】
(B1)の粒子径は、好ましくは2μm以上、より好ましくは3μm以上、好ましくは8μm以下、より好ましくは6μm以下、更に好ましくは4μm以下、である。粒子径が小さ過ぎると、組成物中の凝集体が増加するため、分散が困難になる傾向がある。粒子径が大き過ぎると、着色力が低下する傾向がある。
なお、(B1)の粒子径は、粒子径分布において積算(累積)百分率で表される積算値が50%となる粒径(D50)の値をいう。
【0086】
(B1)の形状は特に限定されないが、艶消しの観点で、真球状が好ましい。また形成される膜表面の、一層の、低光沢、低反射、低L値を実現するためには、粒度分布が狭い(CV(Coefficient of Variation)値が例えば15以下)粒子(シャープ品)を用いることが好ましい。CV値は、粒子径の平均値(算術平均粒子径)に対する粒子径分布の拡がり(粒子径のばらつき)度合いを数値化したものである。このような粒子を用いることにより、膜中で均一に含有され膜表面に微細な凹凸が形成され、膜表面の、一層の、低光沢、低反射、低L値を実現しやすい。
また、形成される膜表面の光沢度をより低減するために、(B1)として、不定形粒子を用いてもよい。(B1)として不定形粒子を用いることにより、膜となったとき、(B1)の表面及び内部で光が屈折を繰り返すことにより、膜表面の光沢度を更に低減することができる。
【0087】
(B1)として市販品を使用できる。ウレタンビーズを含むものとして、例えば、アートパールC800黒(粒子径6.5μm、CB含有量7.5%、根上工業社):等が挙げられる。アクリル(アクリルコポリマー)ビーズを含むものとして、例えば、アートパールGR-004BK(粒子径3.8μm、CB含有量37%、根上工業社): ラブコロール224(SMD)ブラック(平均粒子径2~3μm、CB含有量18%、大日精化工業社):等が挙げられる。
【0088】
(B)中の、(B1)の含有量は、好ましくは90質量%以上、より好ましくは95質量%以上、である。その上限は、特に制限されず、100質量%である。すなわち一形態において、(B1)は、100質量%の(B)中に、好ましくは90質量%以上、含有されていればよい。
【0089】
一形態において、(B)の質量比は、(A)の樹脂固形分:1に対して、好ましくは1.3以上、より好ましくは1.9以上、好ましくは4.0以下、より好ましくは3.0以下、である。この質量比範囲で(B)を配合することにより、塗膜強度を維持しつつ、低光沢、低反射、低L値の実現を享受しうる。
【0090】
(B)の含有量(総量)は、組成物の全固形分の総量(100質量%)に対して、例えば60質量%以上、好ましくは65質量%以上、より好ましくは75質量%以上であり、例えば90質量%以下、好ましくは85質量%以下、より好ましくは80質量%以下、である。(B)の総量が60質量%未満であると、光沢上昇、光学濃度不足の不都合を生じ、90質量%を超えると、形成された膜中の(A)が相対的に少なくなり、その結果、被塗物からの膜脱落の不都合を生じる場合がある。
【0091】
-任意成分-
組成物には、前記成分((A)、(B))以外に、本発明の効果を妨げない限り、その他の任意成分が含まれていてもよい。しかしながら、前記成分((A)、(B))の合計質量が、組成物の固形分100質量%中、好ましくは50質量%以上である。この質量割合は、組成物に要求される物性によって異なるが、より好ましくは70質量%以上、更に好ましくは80質量%以上、特に好ましくは90質量%以上、である。
【0092】
組成物は、上記エマルション(A1、A2)が上記分散媒に分散している水系のものである。
【0093】
本発明の一形態に係る組成物は、(A1)、(A2)、(B)、必要に応じて添加される任意成分を混合攪拌することにより調製(製造)することができる。各成分を混合する順序は、特に制限されるものではなく、これらの成分が均一に混合されればよい。
【0094】
<水性塗料>
本発明の一形態に係る水性塗料(以下単に「塗料」ともいう。)は、塗面に上記組成物からなる膜を形成するために使用されるものであり、上記組成物、及び(C)希釈溶媒、を含む。
塗料中の、上記組成物の含有量は、塗料の全固形分の総量(100質量%)に対して、好ましくは90質量%以上、より好ましくは95質量%以上、である。その上限は、特に制限されず、100質量%である。
【0095】
-(C)-
塗料の形成の用いる(C)は、塗料の粘度を調整する目的で配合される。(C)を使用することにより、塗料の均一性を向上させる。また、塗料の粘度を適度に調整することができ、塗面に膜を形成するときの、塗料の操作性及び塗布厚の均一性を高くすることが可能となるため、最終的に得られる物品のデザイン性向上に大いに寄与しうる。
【0096】
(C)としては、塗料粘度を調整可能な溶媒であれば特に限定されない。上記エマルション粒子の分散媒と同様の、水、又は、水と有機溶剤の混合液、を用いることができる。その配合量としては、塗料の固形分濃度を調整するために適宜設定すればよい。
【0097】
塗料の粘度は、塗布方式によって適正な範囲が異なるため一概にいえないが、B型粘度計による25℃での粘度は、おおよそ1mPa・s以上300mPa・s以下、程度である。例えば、塗布方式がスプレーコート法の場合は、1mPa・s以上50mPa・s以下程度とするのが好ましい。塗布方式がディップコート法の場合は、100mPa・s以上300mPa・s以下程度とすることが好ましい。塗布方式がディスペンサー法の場合は、100mPa・s以上250mPa・s以下程度とすることが好ましい。また、ペン型塗布具に塗料を填して用いる場合は、80mPa・s以上、230mPa・s以下程度とすることが好ましい。
【0098】
スプレーコート法の場合、塗料の粘度が低すぎると、所定性能の性能を発現可能な厚みの膜を形成することができない場合がありうる。塗料の粘度が高すぎると、ノズルから液が出ない、出ても霧化することが出来ない等の不都合を生じやすい。ディップコート法の場合は、塗料の粘度が低すぎると、液だれが激しくなりムラが発生してキレイな膜を形成することができない場合がある。塗料の粘度が高すぎると、被塗布物を塗料から引き上げる際に液切れが悪くなりバリ等が発生したり、塗膜の表面形状が平らになりやすく光沢感が出てしまう場合がありうる。ディスペンサー法の場合は、塗料の粘度が低すぎると、液はね、液だれを起こし塗布したくない場所まで塗ってしまう場合がありうる。塗料の粘度が高すぎると、ノズルから液が出てこない、出てきても表面形状が平らになりやすく光沢感が出てしまう場合がありうる。ペン型塗布具に塗料を填して用いる場合は、塗料の粘度が低すぎると、膜厚が薄くなりすぎて光学濃度が不足し、濡れ広がってしまいキレイな線が描けない等の不都合を生じやすい。塗料の粘度が高すぎると、ペン先から液が出てこない、スジが発生しやすくなりキレイな線が描けない等の不都合を生じやすい。
【0099】
塗料の粘度は、塗料中の組成物に含まれる成分、即ち、組成物の形成に用いた(A)、(B)の種類や分子量等によって異なり、また、上記(A)、(B)の他に、任意成分を配合した場合、任意成分の種類や分子量等によっても異なるが、塗料中の(C)の量を適宜決定することにより、容易に調整することができる。
【0100】
-その他の添加剤-
塗料は、前記成分(組成物、(C))以外に、本発明の効果を妨げない限り、その他の添加剤の1種又は2種以上を含んでいても良い。その他の添加剤としては、例えば、レベリング剤、増粘剤、pH調整剤、潤滑剤、分散剤、消泡剤、硬化剤、反応触媒等が挙げられる。
その他の添加剤が配合される場合の配合量としては、塗料中の樹脂の固形分100質量部に対し、0~100質量部とすることが好ましく、0~30質量部とすることがより好ましい。
【0101】
一形態に係る上記塗料は、組み立て模型の部品の塗布用であってよい。
一形態に係る上記塗料は、カメラ部品の塗布用であってよい。
一形態に係る上記塗料は、スプレーコート法による塗布用であってよい。
一形態に係る上記塗料は、ペン型塗布具を用いた方法による塗布用、筆塗り法による塗布用、ディップコート法による塗布用、又は、ディスペンサー法による塗布用であってよい。
一形態に係る上記塗料は、ペン型塗布具に収容して用いることができる。
【0102】
<塗布方法、被塗物>
本発明の一形態に係る膜は、上記塗料を被塗物に塗布して塗膜を形成した後に、該塗膜を乾燥させて成膜することにより形成される。
【0103】
上記塗料の塗布方法としては、スプレーコート法(例えば、エアスプレー方式、エアレススプレー方式、静電スプレー方式等)によるものであってよい。スプレーコート法を用いることで、被塗物の表面に凸部や段差等が存在していたとしても、それらの表面全体に、厚さが均一で特定性能を備えた膜を形成することができる。
【0104】
スプレーコート法を用いた塗布条件として、スプレーガンの口径は0.2~1.2mm程度、吐出液量は0.2~10g/分程度、スプレーガンと被塗物の塗布面との最短距離は30~500mm程度、塗布速度は30~300mm/秒程度、重ねピッチは1.5~10mm程度、霧化エアーの圧力は0.03~0.2MPa程度、が好ましい。スプレーガンの数として、単一ガンで運用する以外に、塗布効率化の観点から、被塗物のサイズに合わせて、複数ガンを配置しても良い。
【0105】
上記塗料を被塗物表面に塗布した後、乾燥によって溶媒を除去して成膜させる。必要に応じて、塗膜にUV光やEB光を照射して、あるいは塗膜を加熱することにより、塗膜を硬化させてもよい。
【0106】
上記塗料の塗布は、スプレーコート法による場合の他、例えばマーキングペン等のペン型塗布具を用いた方法によるもの、筆を用いた方法(筆塗り)によるもの、ディップコート(浸漬)法によるもの、ディスペンサー法によるものであってよい。
【0107】
一形態において、ペン型塗布具の構成に制限はなく、例えば、ペン先、塗料充填機構、ペン先出没機構、及び塗料供給機構、等を備えたもの、等が挙げられる。
【0108】
塗布具のペン先としては、チップ本体のボールハウス(ボール抱持室)にボールを回転自在に抱持したボールペンチップの他、繊維チップ、フェルトチップ、プラスチックチップ等のペン芯、及び金属製の万年筆用のペン先等が挙げられる。
【0109】
塗布具の塗料充填機構は、上記塗料を直に充填する構成のものであってもよく、あるいは、上記塗料を充填することのできる塗料収容体又は塗料吸蔵体を備えるものであってもよい。
塗料充填機構が上記塗料を直に充填する構成のものである場合、(B)の再分散を容易とするために、塗料収容体には塗料を攪拌する攪拌ボール等の攪拌体を内蔵することが好ましい。攪拌体の形状としては、球状体、棒状体等が挙げられる。攪拌体の材質は特に限定されないが、具体例として、金属、セラミック、樹脂、硝子等が挙げられる。
塗料充填機構が塗料吸蔵体を備えるものである場合は、塗料吸蔵体は、撚り合わせた繊維を用いてなる繊維集束体で構成することが好ましい。
【0110】
塗布具のペン先出没機構は、特に限定されず、ペン先を覆うキャップを備えたキャップ式、ノック式、回転式及びスライド式等が挙げられる。また、軸筒内にペン先を収容可能な出没式であってもよい。
【0111】
塗布具の塗料供給機構についても特に限定されるものではなく、例えば、繊維束等からなる塗料誘導芯を塗料流量調節部材として備え、上記塗料をペン先に供給する機構: 櫛溝状の塗料流量調節部材を備え、これを介在させ、上記塗料をペン先に供給する機構: 多数の円盤体が櫛溝状の間隔を開け並列配置され、前記円盤体を軸方向に縦貫するスリット状の塗料誘導溝及び該溝より太幅の通気溝が設けられ、軸心に塗料貯蔵部からペン先へ塗料を誘導するための塗料誘導芯が配置されてなるペン芯を介して上記塗料をペン先へ誘導する機構: 弁機構による塗料流量調節部材を備え、上記塗料をペン先に供給する機構: ペン先を具備した塗料収容体又は軸筒より、上記塗料を直接、ペン先に供給する機構: 等が挙げられる。
【0112】
一形態において、ペン型塗布具は、例えば、模型組み立てキットの塗布用マーカー等のマーキングペンであり、ペン先は、特に限定されず、例えば、繊維チップ、フェルトチップ又はプラスチックチップ等であってよく、更に、その形状は、砲弾型、チゼル型又は筆ペン型等であってよい。
一形態において、ペン型塗布具は、円筒軸筒内に、塗料収容体と、上記塗料を攪拌するために塗料収容体に内蔵された撹拌体と、塗料収容体に収容される上記塗料のペン先への供給を調節する弁機構と、を有し、ペン先押圧式で弁機構を解放し、上記塗料をペン先に流出させる液式のペン体であってよい。
【0113】
上記塗料の塗布が筆塗りによる場合、塗面に形成される膜の厚みは、形成される場所によってバラツキやすいものの、得られる膜の性能は、他の塗布方式と同等になる。その理由は明らかではないか、適量な顔料分が含有していることにより凹凸を形成しているからだと考えられる。
【0114】
塗料の塗布対象(被塗物)は、特に限定されず、例えばガラス、樹脂、金属、セラミックス、木材等を素材とする硬質表面を有する物体であればよい。被塗物の形状も特に限定されず、板状、(中空の)筒状、及びフィルム状のもの等が挙げられる。
被塗物として、例えば、以下を挙げることができる。
・携帯電話、スマートフォン、タブレット、パソコン、パソコン周辺機器(キーボード、プリンタ、外付けディスク等)、腕時計、オーディオ機器、各種OA機器等の電気・電子機器。
・冷蔵庫、掃除機、電子レンジ、テレビ、録画機器等の家電製品。
・階段、床、机、椅子、タンス、その他の家具、木工製品。
・各種建材、フローリング、建物の内壁・外壁等。
・自動車やオートバイ等の車両又はその部品:具体的には、車両のボディ、内装品(メーターパネル、ダッシュボード、ハンドル等)、バンパー、スポイラー、ドアノブ、ヘッドライト、テールライト、アルミホイール、オートバイのガソリンタンク等。
・光学用途、例えば各種カメラユニットに装着されるレンズ、レンズ鏡筒内壁、レンズユニットの内外カバー、レンズのスペーサー等のカメラ部品。
・眼鏡、ゴーグル、これらに類する製品。
・樹脂成形品からなるホビー製品、その組み立て用部品(例えば、組み立て模型(プラスチックモデル等)、該模型キットにおける組み立て模型のパーツ、等)。
【0115】
<膜の特性>
上記塗料から形成される膜の特性は、以下のとおりである。
【0116】
(光沢度、反射率、L値、光学濃度、密着性)
上記塗料から形成される膜は、膜表面の、光沢度が1.0%未満、反射率が1.5%未満、L値が15未満、であることが好ましい。上記塗料から形成される膜に透過での遮光性が求められる場合には、上記特性(膜表面の、光沢度が1.0%未満、反射率が1.5%未満、L値が15未満)に加え、更に、膜表面の光学濃度が2.0以上、であることが好ましい。
【0117】
ここで、上記塗料から形成される膜が最表面に露出している構成であれば、文字どおり、膜表面の、光沢度、反射率、L値、必要により光学濃度、が上記範囲であることが好ましい。上記塗料から形成される膜上に他の膜が被覆されている場合には、その他の膜の表面、すなわち被塗物上に形成された膜の最表面の、光沢度、反射率、L値、必要により光学濃度が上記範囲であることが好ましい。以下これらの表面を合わせて「膜最表面」という。
【0118】
上記塗料から形成される膜は、膜最表面の、光沢度が1.0%未満、反射率が1.5%未満、L値が15未満、であることが好ましい。上記塗料から形成される膜に透過での遮光性が求められる場合には、上記特性(膜最表面の、光沢度が1.0%未満、反射率が1.5%未満、L値が15未満)に加え、更に、膜最表面の光学濃度が2.0以上、であることが好ましい。膜最表面の、光沢度、反射率、L値、必要により光学濃度が上記範囲であることにより、膜最表面の、低光沢性、低反射率、高い黒色度、必要により高遮光性を実現することができる。
【0119】
光沢度の上限値は、より好ましくは0.7%未満、更に好ましくは0.5%未満、である。光沢度を上記範囲に調整することにより、光の乱反射によるフレア・ゴースト現象を効果的に防止することができる。光沢度の下限値は、特に限定されず、低ければ低いほどよい。
【0120】
反射率の上限値は、より好ましくは1.25%未満、更に好ましくは1.0%未満、である。反射率の下限値は、特に限定されず、低ければ低いほどよい。反射率を上記範囲に調整することにより、光の乱反射によるフレア・ゴースト現象を更に効果的に防止することができる。
【0121】
L値(黒色度)の上限値は、より好ましくは12未満、更に好ましくは10未満、である。L値の下限値は、特に限定されないが、外観のより黒々しさを求める観点から、低ければ低いほどよい。L値を上記範囲に調整することにより、黒色性が高く黒さが際立ちデザイン性に優れるため、スマートフォン等の携帯電話のカメラユニット等として好適に利用することができる。
上記L値は、膜最表面の、SCE方式による、CIE 1976 L*a*b*(CIELAB) 表色系での明度L*値のことである。SCE方式とは、正反射光除去方式のことであり、正反射光を除去して色を測定する方法を意味する。SCE方式の定義は、JIS Z 8722(2009)に規定されている。SCE方式では、正反射光を除去して測定するため、実際の人の目で見た色に近い色となる。
CIEは、Commission Internationale de l‘Eclairageの略称であり、国際照明委員会を意味する。CIELAB表示色は、知覚と装置の違いによる色差を測定するために、1976年に勧告され、JIS Z 8781(2013)に規定されている均等色空間である。CIELABの3つの座標は、L*値、a*値、b*値で示される。L*値は明度を示し、0~100で示される。L*値が0の場合は黒色を意味し、L*値が100の場合は白の拡散色を意味する。a*値は赤と緑の間の色を示す。a*値がマイナスであれば、緑寄りの色を意味し、プラスであれば赤寄りの色を意味する。b*値は黄色と青色の間の色を意味する。b*がマイナスであれば青寄りの色を意味し、プラスであれば、黄色寄りの色を意味する。
【0122】
上記塗料から形成される膜に透過での遮光性が求められる場合における、光学濃度の下限値は、より好ましくは2.5以上、更に好ましくは3.2以上、である。光学濃度を上記範囲に調整することにより、遮光性を更に向上させることができる。光学濃度の上限値は、特に限定されず、高ければ高いほどよい。
【0123】
上記光沢度、反射率、L値、光学濃度は、後述の方法で測定することができる。
【0124】
上記特性(光沢度、反射率、L値、必要により光学濃度)に加え、上記塗料から形成される膜は、更に、該膜の、塗面への密着性が良好であることが好ましい。上記塗料から形成される膜の、塗面への密着性は、後述の実施例における密着性評価で示すように、塗膜残存が90%以上、が好ましい。
【実施例
【0125】
以下、本発明を実験例(実施例及び比較例を含む)に基づいて具体的に説明するが、本発明はこれらの実験例に限定されない。以下の記載において、「部」は「質量部」を示し、「%」は「質量%」を示すものとする。
【0126】
[水性塗料の構成成分]
A(造膜性樹脂成分)として、以下のものを準備した。
・A1a: アクリル系樹脂エマルション(モビニール7471、三菱ケミカル社)
(アクリル酸エステル共重合体、樹脂Tg23℃、樹脂固形分44%)
・A2a: ポリエステル系樹脂エマルション(バイロナールMD1200、東洋紡社)
(樹脂Tg67℃、樹脂固形分34%、Mn15,000、酸価1mgKOH/g、水酸基価5mgKOH/g)
・A3a: ポリビニルアルコール(ゴーセノールKH17、三菱ケミカル社)
(樹脂固形分15%、重合度約1700、ケン化度78.5~81.5モル%)
【0127】
A1aに用いた「モビニール7471」とA2aに用いた「バイロナールMD1200」(両エマルション)中の両樹脂固形分(アクリル系樹脂とポリエステル系樹脂)を質量比1:1で混合した混合物を用い、該混合物を造膜して得られた膜(厚み12μm)のヘイズ値を、JIS K7136に準拠した方法で、ヘイズメーター(NDH4000、日本電色工業社)を用いて測定したところ、膜(膜1)のヘイズ値は3.85%であった。その後、A1aの樹脂固形分:1に対して、A2aの樹脂固形分の比率をそれぞれ1.23、2.94、12.25と変動させ、上記同様の方法で造膜後の膜のヘイズ値を測定したところ、各膜(膜2~4)のヘイズ値はそれぞれ4.72%、8.55%、15.82%とA2aの混合量が増えるにしたがって、ヘイズ値が上昇していくことを確認した。各膜(膜1~4)に対し、その切断面を顕微鏡にて観察したところ、別々の固相が検出され、これにより、各膜の膜中で非相溶領域が形成されている(各膜は非相溶膜である)ことを確認した。

【0128】
B(黒色材)として、以下のものを準備した。
・B1a: 黒色アクリルビーズ(粒子径2~3μm)
(ラブコロール224(SMD)ブラック、大日精化工業社、CB含有量18%)
・B2a: 黒色アクリルビーズ(粒子径7~9μm)
(ラブコロール220(MD)ブラック、大日精化工業社、CB含有量5%)
・B2b: CB(粒子径150nm)
(MHIブラック_#273、御国色素社、CB含有量9.5%)
・B2c: 複合シリカ(粒子径3μm)
(ベクシアID、富士シリシア化学社)
【0129】
なお、B1aに用いた「ラブコロール224(SMD)ブラック」とB2aに用いた「ラブコロール220(MD)ブラック」は、ともに、CBを内包した真球状アクリル樹脂粒子であり、CBとアクリル樹脂の複合物の一つである。B2b(CB)に用いた「MHIブラック_#273」は、CB分散液であり、該分散液の固形分総量18%のうち9.5%がCB、残り8.5%がその他の化合物である。その他の化合物8.5%のうち3%が銅化合物、5.5%がアクリル樹脂である。B2c(複合シリカ)に用いた「ベクシアID」は、CB/シリカ=約25/75(質量比)の、CBとシリカの複合粒子である。
【0130】
C(希釈溶媒)として、以下のものを準備した。
・C1: 水
・C2: アルコール
【0131】
[被塗物]
被塗物として、スマートフォンの筐体(プラスチック製の外箱)を準備した。
【0132】
[実験例1~23及び4a~17a]
1.水性塗料の作製
表1及び2に示す所定量の水及びアルコールの混合溶媒中に、総固形分(質量%)と各成分の固形分比が表1~3記載の値となるよう実験例ごとの各成分を入れ、攪拌混合することにより水性塗料(以下単に「塗料」ともいう。)を調製した。
【0133】
2-1.膜1の形成
各実験例で得られた塗料を、下記(3-3-1)塗布性1と同様の手法によるスプレーコート法によって、被塗物に向けて噴霧して塗膜を形成した後に、該塗膜を常温で5~10分程度、静置することにより、被塗物の塗面に、平均膜厚が20μmの、スプレーコート法による膜1を成膜した。
【0134】
2-2.膜2の形成
下記(3-3-2)塗布性2で使用したマーキングペンによって、被塗物上を同様に塗り潰して塗膜を形成した後に、該塗膜を常温で5~10分間放置することにより、被塗物の塗面に、平均膜厚が10μmの、筆記による膜2を成膜した。
【0135】
3.評価
各実験例で得られた塗料について、下記に示す方法で各種特性(粘度、注入性、塗布性1及び塗布性2、液垂れ性)を評価した(塗料評価)。また、各実験例で得られた塗料から形成された膜1及び2について、下記に示す方法で各種特性(特性)を評価した(膜評価)。結果を表1~3に示す。
【0136】
[塗料評価]
(3-1-1)粘度1
塗料の粘度1は、B型粘度計(東機産業社製:VISCOMETER BM2)を用い、25℃、60rpm、1分後、No.1ロータ、の条件で測定した。評価基準は、以下のとおりである。
【0137】
〇:粘度が1mPa・s以上50mPa・s以下(粘度が良好)
×:粘度が50mPa・s超え(粘度が過高)
(3-1-2)粘度2
塗料の粘度2は、B型粘度計(東機産業社製:VISCOMETER BM2)を用い、25℃、60rpm、1分後、No.2ロータ、の条件で測定した。評価基準は、以下のとおりである。
【0138】
〇:粘度が80mPa・s以上230mPa・s以下(粘度が良好)
×:粘度が230mPa・s超え(粘度が過高)
【0139】
(3-2)注入性
塗料の注入性は、エアースプレーへの注入の様子を観察することにより評価した。
エアー缶(スプレーワークエアーカン420D:タミヤ社)にエアーブラシ(スプレーワークHGシングルエアーブラシ:タミヤ社)を取り付けたエアースプレーを用い、各塗料がエアーブラシのカップからノズルに入っていく様子を目視で観測し、注入性を評価した。評価基準は、以下のとおりである。
【0140】
〇:全く詰まりがなく、スムーズに液剤がノズルに入っていった
△:詰まりはなかったが、ややノズルに液剤が入っていく速度が遅かった
×:液剤が詰まり、ノズルに液剤が入っていかなかった
【0141】
(3-3-1)塗布性1
塗料の塗布性1は、スプレーコート法による塗布後の塗りムラを観察することにより評価した。各塗料を、上記(3-2)で用いたエアースプレーに注入し、エアーブラシ先端から10cmの距離から、10秒間、被塗物の外表面に向けて噴霧し、形成された塗膜(乾燥前)について、目視により塗りムラを評価した。
(3-3-2)塗布性2
塗料の塗布性2は、マーキングペンによる筆記後の塗りムラを観察することにより評価した。ペン先押圧式でバルブを解放し、ペン先に流出させる液式のペン体(ユニ・ボスカPC-1M:三菱鉛筆社)の円筒軸筒内に、各実験例で得られた塗料と撹拌用ステンレスボール(直径5mm)1個を同時に充填した後、組み立てをし、チゼル型に研磨したペン先を含むマーキングペンを作製した。このマーキングペンを使用し、被塗物上の2センチ四方の範囲を縦一方向からの筆記で塗り潰し、形成された塗膜(乾燥前)について、目視により塗りムラを評価した。
【0142】
塗布性1及び塗布性2の評価基準は、ともに、以下のとおりである。
◎:塗りムラ(厚みムラ)は確認されなかった
〇:塗りムラがごく一部、確認された
×:塗りムラが多くの範囲に確認された
【0143】
(3-4)液垂れ性
塗料の液垂れ性は、スプレーコート法による塗布後の被塗物からの液垂れを観察することにより評価した。
上記(3-3-1)と同様に、各塗料を、上記(3-2)で用いたエアースプレーに注入し、エアーブラシ先端から10cmの距離から、10秒間、被塗物の外表面に向けて噴霧した後の、被塗物からの、付着した液滴の液垂れ性を評価した。評価基準は、以下のとおりである。
【0144】
〇:塗布後の被塗物を垂直に立てて置いた際も液垂れが全く生じなかった
△:塗布後の被塗物を垂直に立てて置いた際、次第に液が垂れてきた
×:塗布後の被塗物を垂直に立てて置いた際、すぐに液が垂れ出した
【0145】
[膜評価]
(3-5)特性
-光沢度-
各被塗物に形成された膜1及び2双方の表面の、入射角60°の測定光に対する光沢度(60°鏡面光沢度)は、グロスメータ(VG 7000:日本電色工業社)を用い、JIS Z8741に準拠した方法で光沢度9点測定し、その平均値を光沢度とした。評価基準は、以下のとおりである。
【0146】
◎:光沢度が0.5%未満(低光沢性が極めて優れている
〇:光沢度が0.5%以上0.7%未満(低光沢性が優れている
△:光沢度が0.7%以上1.0%未満(低光沢性が良好
×:光沢度が1.0%以上(低光沢性が不十分)
【0147】
-反射率-
各被塗物に形成された膜1及び2双方の表面の、波長550nmの光に対する反射率(550nm反射率)は、分光測色計(CM-5:コニカミノルタ社)を用い、JIS Z8722に準拠した方法で反射率9点測定し、その平均値を反射率とした。評価基準は、以下のとおりである。
【0148】
◎:反射率が1.0未満(低反射性が極めて優れている
〇:反射率が1.0%以上1.25%未満(低反射性が優れている
△:反射率が1.25%以上1.5%未満(低反射性が良好
×:反射率が1.5%以上(低反射性が不十分)
【0149】
-黒色度-
各被塗物に形成された膜1及び2双方の表面の黒色度は、該膜表面の、SCE方式による、CIE 1976 L*a*b*(CIELAB)表色系での明度L*値を測定することにより評価した。その明度L*値は、分光測色計(CM-5:コニカミノルタ社)を用い、JIS Z8781-4:2013に準拠した方法で測定した。評価基準は、以下のとおりである。
測定においては、光源としてCIE標準光源D65を用い、視野角度10°として、SCE方式によりCIELAB表示色でL*値を求めた。CIE標準光源D65は、JIS Z 8720(2000)「測色用イルミナイト(標準の光)及び標準光源」に規定されており、ISO 10526(2007)にも同じ規定がある。CIE標準光源D65は、昼光で照明される物体色を表示する場合に使用される。視野角度10°については、JIS Z 8723(2009)「表面色の視覚比較方法」に規定されており、ISO/DIS 3668にも同じ規定がある。
【0150】
◎:L値が10未満(黒色度が極めて優れている
〇:L値が10以上12未満(黒色度が優れている
△:L値が12以上15未満(黒色度が良好
×:L値が15以上(黒色度が不十分)
【0151】
-遮光性-
各被塗物に形成された膜1及び2の遮光性は、該膜の光学濃度を算出することにより評価した。各被塗物に形成された膜1及び2の光学濃度は、光学濃度計(X-rite 361T(オルソフィルタ):日本平社)を用い、被塗物の膜側に垂直透過光束を照射して、膜がない状態との比をlog(対数)で表して算出した。光学濃度6.0以上は測定の検出上限値である。評価基準は、以下のとおりである。なお、本評価は、被塗物自体に透過性があり、かつその上に形成される膜に遮光性が求められる場合を想定したものである。膜に遮光性が求められない場合、ここでの評価は総合評価に影響を与えない。
【0152】
◎:光学濃度が3.2以上(遮光性が極めて優れている
〇:光学濃度が2.5以上3.0未満(遮光性が優れている
△:光学濃度が2.0以上2.5未満(遮光性が良好
×:光学濃度が2.0未満(遮光性が不十分)
【0153】
-密着性-
各被塗物に形成された膜1及び2双方の被塗物表面への密着性は、該膜に市販のカッターナイフにて切り込みを碁盤目状に入れ、そこにセロハンテープ(セロテープ、ニチバン社)を貼り付けた後引き剥がし、膜の残存状態を目視にて確認することにより評価した。評価基準は、以下のとおりである。
【0154】
◎:膜残存が100%(密着性が極めて優れている
〇:膜残存が95%以上100%未満(密着性が優れている
△:膜残存が90%以上95%未満(密着性が良好
×:膜残存が90%未満(密着性が不十分)
【0155】
-総合評価-
上記光沢度、反射率、黒色度、及び密着性を総合評価した。評価基準は、以下のとおりである。なお、遮光性については、上記のとおり、必要な場合とそうでない場合とがあるため、総合評価の対象からは除外した。
【0156】
◎:光沢度、反射率、黒色度、及び密着性の各評価が全て◎
〇:光沢度、反射率、黒色度、及び密着性の各評価のうち少なくとも1つが〇で、いずれも×でない
×:光沢度、反射率、黒色度、及び密着性の各評価のうち少なくとも1つが×
【0157】
【表1】
【0158】
【表2】
【0159】
【表3】
【0160】
4.考察
表1で示すように、塗料に含まれる組成物中に(A)として(A1)と(A2)の1つ以上を含めなかった場合(実験例1~3)、膜特性の、光沢度、反射率、L値、密着性の1つ以上、を満足させることができなかった。一方、(A)として(A1)と(A2)の双方を組成物中に含めたとしても(実験例4~10)、(A1)の樹脂固形分:1に対する(A2)の樹脂固形分の質量比が1.8未満(実験例4)か、4.4超(実験例10)であると、膜特性の、密着性を満足させることができなかった。(A1)と(A2)の双方を含め、かつ(A1)の樹脂固形分:1に対する(A2)の樹脂固形分の質量比範囲が適切(1.8以上4.4以下)であっても(実験例6、11~17)、(B)中に粒子径が所定範囲の(B1)を含まない(実験例11~13)か、又は(B)中に粒子径が所定範囲の(B1)を含んでいても、(A1)の樹脂固形分:1に対する(B)の質量比が1.3未満(実験例14)か、4.0超(実験例17)であると、膜特性の、光沢度、反射率、L値、密着性、の1つ以上を満足させることができなかった。
これに対し、(A1)の樹脂固形分:1に対する(A2)の樹脂固形分の質量比範囲が適切(1.8以上4.4以下)であり、かつ(A1)の樹脂固形分:1に対する(B)の質量比も適切(1.3以上4.0以下)であると(実験例5~9、15、16)、塗料の特性、及び膜特性、のすべてを満足させることができた。
【0161】
表2で示すように、塗料に含まれる組成物中に(A)として(A1)と(A2)の双方を組成物中に含めたとしても(実験例4a~10a)、(A1)の樹脂固形分:1に対する(A2)の樹脂固形分の質量比が1.8未満(実験例4a)か、4.4超(実験例10a)であると、膜特性の、密着性を満足させることができなかった。(A1)と(A2)の双方を含め、かつ(A1)の樹脂固形分:1に対する(A2)の樹脂固形分の質量比範囲が適切(1.8以上4.4以下)であっても(実験例6a、11a~17a)、(B)中に粒子径が所定範囲の(B1)を含まない(実験例11a~13a)か、又は(B)中に粒子径が所定範囲の(B1)を含んでいても、(A1)の樹脂固形分:1に対する(B)の質量比が1.3未満(実験例14a)か、4.0超(実験例17a)であると、膜特性の、光沢度、反射率、L値、密着性、の1つ以上を満足させることができなかった。
これに対し、(A1)の樹脂固形分:1に対する(A2)の樹脂固形分の質量比範囲が適切(1.8以上4.4以下)であり、かつ(A1)の樹脂固形分:1に対する(B)の質量比も適切(1.3以上4.0以下)であると(実験例5a~9a、15a、16a)、塗料の特性、及び膜特性、のすべてを満足させることができた。
【0162】
表3で示すように、(B)の量と(A)の量を固定し、(A)中の(A1)と(A2)の比率を変動させた場合(実験例6、18~23)、(A1)の樹脂固形分量に対する(A2)の樹脂固形分量の比率が多くなるにつれて、膜特性の、光沢度と反射率を高い性能で維持しつつ、L値と、必須ではないが遮光性とが向上することも確認された。なお、表3中のヘイズ値は、(A1a)と(A2a)を表3記載の質量比(樹脂固形分換算)で混合した混合物(ただし(B)は含まない)を造膜して得られた膜(厚み12μm)のヘイズ値であり、上記同様、JIS K7136に準拠した方法で、ヘイズメーター(NDH4000:日本電色工業社)を用いて測定した値である。