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特許7555324温度インジケータ製造システムおよび温度インジケータ製造方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-12
(45)【発行日】2024-09-24
(54)【発明の名称】温度インジケータ製造システムおよび温度インジケータ製造方法
(51)【国際特許分類】
   G01K 11/12 20210101AFI20240913BHJP
   G01K 11/16 20210101ALI20240913BHJP
   C09J 201/00 20060101ALI20240913BHJP
   C09J 11/00 20060101ALI20240913BHJP
【FI】
G01K11/12 A
G01K11/16
C09J201/00
C09J11/00
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2021181744
(22)【出願日】2021-11-08
(65)【公開番号】P2023069686
(43)【公開日】2023-05-18
【審査請求日】2023-10-17
(73)【特許権者】
【識別番号】502129933
【氏名又は名称】株式会社日立産機システム
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】會田 航平
(72)【発明者】
【氏名】前島 倫子
(72)【発明者】
【氏名】荻野 雅彦
【審査官】菅藤 政明
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-79761(JP,A)
【文献】特表2003-528779(JP,A)
【文献】特開平4-128785(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01K 11/12
G01K 11/16
C09J 201/00-201/10
C09J 11/00- 11/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ロイコ染料、顕色剤及び消色剤とを少なくとも含む示温材とマトリックス材とを含む温度検知材料を基材上にマーキングするマーキング装置と、
前記基材上にマーキングされた前記温度検知材料の上に接着剤を塗布する接着剤塗布装置とを有し、
前記接着剤は、前記基材上にマーキングされた前記温度検知材料が固化した状態で塗布され、前記基材上にマーキングされた前記温度検知材料が液化する前に固化され
前記接着剤は、ホットメルト接着剤であり、
前記ホットメルト接着剤の凝固点は、前記温度検知材料の融点より50℃高い温度以下であり、前記融点近傍での粘度が0.1Pa・s以上、200Pa・s以下であることを特徴とする温度インジケータ製造システム。
【請求項2】
ロイコ染料、顕色剤及び消色剤とを少なくとも含む示温材とマトリックス材とを含む温度検知材料を基材上にマーキングするマーキング装置と、
前記基材上にマーキングされた前記温度検知材料の上に接着剤を塗布する接着剤塗布装置とを有し、
前記接着剤は、前記基材上にマーキングされた前記温度検知材料が固化した状態で塗布され、前記基材上にマーキングされた前記温度検知材料が液化する前に固化され、
前記マーキング装置は、前記温度検知材料を加熱して、前記基材上にマーキングするマーキング装置であり、
前記接着剤塗布装置は、前記接着剤を加熱して、前記基材上にマーキングされた前記温度検知材料の上に塗布する接着剤塗布装置であることを特徴とする温度インジケータ製造システム。
【請求項3】
請求項1または2において、
前記基材は、前記温度検知材料を用いた温度インジケータにより温度管理を行う対象製品が梱包されたパッケージであり、
前記パッケージは、搬送機構により前記マーキング装置から前記接着剤塗布装置へ搬送されることを特徴とする温度インジケータ製造システム。
【請求項4】
請求項1または2において、
前記マトリックス材は非極性材料であり、
前記温度検知材料は、前記マトリックス材中に前記示温材が分散した相分離構造となっていることを特徴とする温度インジケータ製造システム。
【請求項5】
請求項において、
前記接着剤は、ホットメルト接着剤、水系接着剤、アルコール系接着剤、反応型接着剤のいずれかであることを特徴とする温度インジケータ製造システム。
【請求項6】
請求項において、
前記ホットメルト接着剤の凝固点は、前記温度検知材料の融点より50℃高い温度以下であり、前記融点近傍での粘度が0.1Pa・s以上、200Pa・s以下であることを特徴とする温度インジケータ製造システム。
【請求項7】
請求項1または2において、
前記接着剤に、酸化防止剤、光安定剤の少なくとも1つが添加されることを特徴とする温度インジケータ製造システム。
【請求項8】
マーキング装置により、ロイコ染料、顕色剤及び消色剤とを少なくとも含む示温材とマトリックス材とを含む温度検知材料を基材上にマーキングし、
接着剤塗布装置により、前記基材上にマーキングされた前記温度検知材料の上に接着剤を塗布し、
前記接着剤は、前記基材上にマーキングされた前記温度検知材料が固化した状態で塗布され、前記基材上にマーキングされた前記温度検知材料が液化する前に固化され
前記接着剤は、ホットメルト接着剤であり、
前記ホットメルト接着剤の凝固点は、前記温度検知材料の融点より50℃高い温度以下であり、前記融点近傍での粘度が0.1Pa・s以上、200Pa・s以下であることを特徴とする温度インジケータ製造方法。
【請求項9】
マーキング装置により、ロイコ染料、顕色剤及び消色剤とを少なくとも含む示温材とマトリックス材とを含む温度検知材料を基材上にマーキングし、
接着剤塗布装置により、前記基材上にマーキングされた前記温度検知材料の上に接着剤を塗布し、
前記接着剤は、前記基材上にマーキングされた前記温度検知材料が固化した状態で塗布され、前記基材上にマーキングされた前記温度検知材料が液化する前に固化され、
前記マーキング装置は、前記温度検知材料を加熱して、前記基材上にマーキングするマーキング装置であり、
前記接着剤塗布装置は、前記接着剤を加熱して、前記基材上にマーキングされた前記温度検知材料の上に塗布する接着剤塗布装置であることを特徴とする温度インジケータ製造方法。
【請求項10】
請求項8または9において、
前記基材は、前記温度検知材料を用いた温度インジケータにより温度管理を行う対象製品が梱包されたパッケージであり、
前記パッケージは、搬送機構により前記マーキング装置から前記接着剤塗布装置へ搬送されることを特徴とする温度インジケータ製造方法。
【請求項11】
請求項8または9において、
前記マトリックス材は非極性材料であり、
前記温度検知材料は、前記マトリックス材中に前記示温材が分散した相分離構造となっていることを特徴とする温度インジケータ製造方法。
【請求項12】
請求項において、
前記接着剤は、ホットメルト接着剤、水系接着剤、アルコール系接着剤、反応型接着剤のいずれかであることを特徴とする温度インジケータ製造方法。
【請求項13】
請求項12において、
前記ホットメルト接着剤の凝固点は、前記温度検知材料の融点より50℃高い温度以下であり、前記融点近傍での粘度が0.1Pa・s以上、200Pa・s以下であることを特徴とする温度インジケータ製造方法。
【請求項14】
請求項8または9において、
前記接着剤に、酸化防止剤、光安定剤の少なくとも1つが添加されることを特徴とする温度インジケータ製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、温度インジケータ製造システムおよび温度インジケータ製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
生鮮食品、冷凍食品やワクチン、バイオ医薬品等の低温保存医薬品は、生産、輸送、消費の流通過程の中で、途切れることなく低温に保つコールドチェーンが必要である。実際には、流通時の温度を絶えず測定・記録するため、通常、運送コンテナには時間と温度を連続的に記録可能なデータロガーを搭載した場合が多く、製品にダメージがあればその責任の所在を明らかにすることが可能である。
【0003】
製品個別の品質を管理する場合は、データロガーではなく、温度インジケータを利用する方法がある。温度インジケータはデータロガーほどの記録精度はないものの、製品個別に貼付け可能であり、あらかじめ設定された温度を上回るか、下回るかした場合に表面が染色されるため、温度環境の変化を知ることが可能である。
【0004】
特に、生鮮食品やバイオ医薬品などの温度と時間に依存して品質劣化が進行する製品の品質を管理する場合は、時間と温度の積算で色が変化するTTI(Time-Temperature Indicator:時間温度インジケータ)が利用される。
【0005】
特許文献1には、簡便な工程で作製可能であり、取り扱い性に優れる温度検知材料が開示されている。
【0006】
特許文献2には、温度検知材料の顕色機能および消色機能を損なわない温度検知ラベルおよび温度検知インクが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】国際公開第2018/110200号
【文献】特開2020-118656号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
温度インジケータそのものは比較的安価ではあるものの、あらかじめ設定された温度を上回るか、下回るかした場合に不可逆的に色が変化するという性質をもつため、温度インジケータを製品管理に使用する前、例えば温度インジケータの保管時や輸送時においても温度管理が必要になり、温度インジケータを簡便に使用することが難しい場合がある。
【0009】
一方、温度インジケータに要求される不可逆性の程度は、貼付される製品によっても異なる。高価な医薬品などの場合、偽造防止というニーズもあり、設定温度を逸脱して一旦色変化した後の温度インジケータはその後も変化した色が保持される完全な不可逆性が求められる。しかしながら、安価な生鮮食品などの品質管理においては、環境温度以下においてなされる流通過程において不可逆性が保たれていれば十分であり、むしろ温度インジケータの管理による手間やコストを引き下げることで温度インジケータの利用を促進することが期待できる。
【0010】
TTIとして適用可能な温度インジケータに用いる温度検知材料としては、ロイコ染料、顕色剤および消色剤を含む材料を示温材として用いた温度検知材料がある。この温度検知材料は、簡便な手法により作製可能である一方で、示温材の色変化が示温材の状態変化に伴い生じるため、周囲の材料の影響を受けやすく、取扱い性に課題がある。このため、特許文献1では、示温材をマトリックス材で保護することで取扱い性を向上させている。しかしながら、マトリックス材は、示温材の変色特性に影響を与えない必要があるため、非極性材料に限定される。そのため、これらの材料により形成した温度検知材料は、種々の材料との密着性が高くない場合が多く、インクや塗料などのように直接基材に付着させて使用することが難しい。
【0011】
特許文献2には、ロイコ染料、顕色剤、消色剤およびマトリックス材を含む温度検知材料を接着層および保護層あるいは接着層兼保護層により基材に固定する温度インジケータが開示されている。
【0012】
特許文献2の温度インジケータでは、対象製品の品質管理を開始するにあたり、温度インジケータを融点以上の温度に加温することにより示温材を融解し、色の初期化を実施する。したがって、初期化前においては温度インジケータを常温で保管、輸送することができ、温度インジケータの管理の手間やコストを引き下げることができる。しかしながら、この初期化過程において、接着剤と示温材とがともに液化した状態で接触するため、接着剤には示温材の変色特性に影響を与えない材料が求められる。このため、特許文献2では、示温材に接触する可能性のある樹脂材料が、ポリシロキサンおよびポリオレフィン構造の少なくとも一種の構造を含む材料に限定することにより、初期化過程が示温材の変色特性に影響を与えることを回避する。
【0013】
本発明は、前記の課題を踏まえてなされた発明であって、温度インジケータ製造に係る管理の手間やコストを軽減する温度インジケータ製造システム及び温度インジケータ製造方法に関する。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の一実施の形態である温度インジケータ製造システムは、ロイコ染料、顕色剤及び消色剤とを少なくとも含む示温材とマトリックス材とを含む温度検知材料を基材上にマーキングするマーキング装置と、基材上にマーキングされた温度検知材料の上に接着剤を塗布する接着剤塗布装置とを有し、接着剤は、基材上にマーキングされた温度検知材料が固化した状態で塗布され、基材上にマーキングされた温度検知材料が液化する前に固化されることを特徴とする。
【0015】
本発明のその他の態様については、後記する実施形態において説明する。
【発明の効果】
【0016】
温度インジケータ製造に係る管理の手間やコストを軽減することが可能になる。その他の課題と新規な特徴は、本明細書の記述および添付図面から明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1A】示温材Aの示差走査熱量測定曲線を示す図である。
図1B】示温材Bの示差走査熱量測定曲線を示す図である。
図2A】示温材Aの色濃度と温度の関係を示す図である。
図2B】示温材Aの色濃度と温度の関係を示す図である。
図3A】温度検知材料(消色状態)の相分離構造を示す模式図である。
図3B】温度検知材料(顕色状態)の相分離構造を示す模式図である。
図4A】温度検知材料(消色状態)の光学顕微鏡写真である。
図4B】温度検知材料(顕色状態)の光学顕微鏡写真である。
図5】温度インジケータの構成を示す模式図である。
図6】温度インジケータの構成を示す模式図である。
図7A】温度インジケータの製造フローチャートである。
図7B】温度インジケータ製造システムにおける温度インジケータの製造工程を模式的に示す図である。
図8】対象製品の温度管理がなされる流通過程の例を示す図である。
図9】実施例1と比較例1における温度逸脱からの経過時間と色濃度を示す写真である。
図10】実施例1と比較例1の色濃度の時間依存性を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明を実施するための形態(以下「実施形態」という)について、適宜図面を参照しながら詳細に説明する。なお、各図において、共通する部分には同一の符号を付し重複した説明を省略する。
【0019】
本実施形態の示温材の構成について図1図2を用いて説明する。
【0020】
<示温材>
示温材としては、温度変化(昇温/降温)により色濃度が可逆的に変化する材料を用いる。示温材は、電子供与性化合物であるロイコ染料と、電子受容性化合物である顕色剤と、変色の温度範囲を制御するための消色剤と、を含む。
【0021】
図1A,Bは、一実施形態に係る示温材の示差走査熱量測定(DSC)曲線を示す図である。ここで、示温材Aは、融解後に急冷すると結晶化せずに非晶状態のまま凝固する材料、示温材Bは融解後に冷却すると過冷却状態の液体状態となる材料である。
【0022】
図1Aは、示温材AのDSC曲線である。降温過程(図の左向き矢印(←))においては結晶化が起こらないため、結晶化による発熱ピークが観察されない。一方、昇温過程(図の右向き矢印(→))において、結晶化による発熱ピークが観察される。Tは昇温過程における開始温度(昇温過程における結晶化開始温度)である。Tは融点である。
【0023】
開始温度Tは、昇温速度や経過時間に依存する。低速で昇温すると低温に開始温度Tが現れ、高速で昇温すると高温に開始温度Tが現れるか、あるいは開始温度Tが現れず融点Tで融解する。結晶化が起こると顕色するため、温度検知材料としての検知温度及び検知時間の要求に合わせて、開始温度Tを設定する。例えば、温度T1で1時間経過した後に結晶化が開始する示温材であれば、温度T1を開始温度Tとして開始温度Tで1時間経過したことを検知する材料として使用可能である。また、Tはガラス転移点である。ガラス転移点T以下では、結晶化が開始されない。結晶化しやすい材料の場合、ガラス転移点以上の温度になると容易に結晶化するため、開始温度Tとガラス転移点Tとが同じ温度になることが多い。
【0024】
図1Bは、示温材BのDSC曲線である。Tは降温過程における結晶化による発熱ピークの開始温度(降温過程における結晶化開始温度)である。Tは融点である。開始温度Tは、降温速度や経過時間に依存する。低速で降温すると高温に開始温度Tが現れ、高速で降温すると低温に開始温度Tが現れる。結晶化が起こると顕色するため、温度検知材料としての検知温度及び検知時間の要求に合わせて、開始温度Tを設定する。例えば、温度T2で1時間経過した後に結晶化が開始する示温材であれば、温度T2を開始温度Tとして開始温度Tで1時間経過したことを検知する材料として使用可能である。また、過冷却状態になりにくい材料の場合、融点T以下の温度になると容易に結晶化するため、開始温度Tと融点Tとが同じ温度になる。このような材料は示温材として用いることができない。したがって、過冷却状態になりやすく、結晶化開始温度Tと融点Tとの差が大きい材料が好ましい。
【0025】
以下、時間と温度の積算で色が変化し、かつ高温での加熱により色の初期化が可能な温度検知材料について説明する。
【0026】
図2A,Bは、実施形態に係る温度検知材料の色濃度変化を示す図である。図において、縦軸は色濃度、横軸は温度である。
【0027】
図2Aは、示温材Aの色濃度と温度の関係を示す図である。示温材Aは、色濃度変化にヒステリシス特性を有する。示温材Aは、消色剤に結晶化しにくい材料を用いると、示温材Aの消色開始温度T以上の溶融状態である状態Pから顕色開始温度T以下に急冷させた際、消色剤が顕色剤を取りこんだまま非晶状態を形成することにより消色状態を保持する。この状態から、昇温過程で、顕色開始温度T以上に温度を上げると、消色剤が結晶化して顕色する。したがって、示温材Aを含む温度検知材料を用いれば、顕色開始温度T未満で温度管理するときに、管理範囲を逸脱し、T以上の温度に達したか否かを検知することができる。
【0028】
図2Bは、示温材Bの色濃度と温度の関係を示す図である。示温材Bは、色濃度変化にヒステリシス特性を有する。示温材Bは、消色温度T以上の溶融状態である状態Pから温度が低下していくと、顕色開始温度Tまでは消色状態を維持している。顕色開始温度T以下になると、消色剤が凝固点以下で結晶状態になり、ロイコ染料と顕色剤と分離されることで、ロイコ染料と顕色剤が結合し顕色する。したがって、示温材Bを含む温度検知材料を用いれば、顕色開始温度Tより高い温度に温度管理するときに、管理範囲を逸脱し、T以下の温度に達したか否かを検知することができる。
【0029】
温度検知材料を、商品等の物品の流通時における物品の温度管理に利用する場合は、色戻りしないことが要求される。流通時に一度温度が上昇して色が変化したにもかかわらず、流通過程で再び温度が降下又は上昇することによって色が元に戻ってしまうと、温度の変化の有無を後から把握することができないためである。しかしながら、本実施形態に係る示温材は、消色温度T以上に再加熱しない限り色戻りしないため、温度環境の変化を知ることが可能である。
【0030】
次に、各示温材のロイコ染料、顕色剤、消色剤について説明する。
【0031】
(ロイコ染料)
ロイコ染料は、電子供与性化合物であって、従来、感圧複写紙用の染料や、感熱記録紙用染料として公知のものを利用できる。例えば、トリフェニルメタンフタリド系、フルオラン系、フェノチアジン系、インドリルフタリド系、ロイコオーラミン系、スピロピラン系、ローダミンラクタム系、トリフェニルメタン系、トリアゼン系、スピロフタランキサンテン系、ナフトラクタム系、アゾメチン系等が挙げられる。ロイコ染料の具体例としては、9-(N-エチル-N-イソペンチルアミノ)スピロ[ベンゾ[a]キサンテン-12,3’-フタリド]、2-メチル-6-(Np-トリル-N-エチルアミノ)-フルオラン6-(ジエチルアミノ)-2-[(3-トリフルオロメチル)アニリノ]キサンテン-9-スピロ-3’-フタリド、3,3-ビス(p-ジエチルアミノフェニル)-6-ジメチルアミノフタリド、2’-アニリノ-6’-(ジブチルアミノ)-3’-メチルスピロ[フタリド-3,9’-キサンテン]、3-(4-ジエチルアミノ-2-メチルフェニル)-3-(1-エチル-2-メチルインドール-3-イル)-4-アザフタリド、1-エチル-8-[N-エチル-N-(4-メチルフェニル)アミノ]-2,2,4-トリメチル-1,2-ジヒドロスピロ[11H-クロメノ[2,3-g]キノリン-11,3’-フタリド]が挙げられる。
【0032】
示温材は、2種以上のロイコ染料を組み合わせて用いてもよい。
【0033】
(顕色剤)
顕色剤は、電子供与性のロイコ染料と接触することで、ロイコ染料の構造を変化させて呈色させるものである。顕色剤としては、感熱記録紙や感圧複写紙等に用いられる顕色剤として公知のものを利用できる。このような顕色剤の具体例としては、4-ヒドロキシ安息香酸ベンジル、2,2′-ビフェノール、1,1-ビス(3-シクロヘキシル-4-ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、2,2-ビス(3-シクロヘキシル-4-ヒドロキシフェニル)プロパン、ビスフェノールA、ビスフェノールF、ビス(4-ヒドロキシフェニル)スルフィド、パラオキシ安息香酸エステル、没食子酸エステル等のフェノール類等を挙げることができる。顕色剤は、これらに限定されるものではなく、電子受容体でありロイコ染料を変色させることができる化合物であれば用いることができる。また、カルボン酸誘導体の金属塩、サリチル酸およびサリチル酸金属塩、スルホン酸類、スルホン酸塩類、リン酸類、リン酸金属塩類、酸性リン酸エステル類、酸性リン酸エステル金属塩類、亜リン酸類、亜リン酸金属塩類等を用いてもよい。
【0034】
しかし、消色剤に用いる材料に応じて、顕色剤がロイコ染料を顕色させることができる色濃度が異なる。消色剤が顕色剤を取りこんだまま過冷却状態や非晶状態を形成する消色状態、消色剤が結晶化しロイコ染料と顕色剤を結合させる顕色状態、それぞれの色濃度は、顕色剤と消色剤の組み合わせ、およびその比率に依存する。そのため、ロイコ染料と、消色剤として後述するエステル化合物やステロイド化合物との組み合わせにおいて、十分に色濃度が薄い消色状態(消色性)を示し、十分に色濃度が濃い顕色状態(顕色性)を示す顕色剤を選定する必要がある。
【0035】
また、色の初期化や加熱式マーキング装置でのマーキング時において、温度検知材料や温度検知インクに用いる示温材の融点以上に加熱されるため、この加熱時に色味の変色等が発生しないための耐熱性が求められる。具体的には、120~180℃程度の高温加熱時に顕著な退色が生じないことが求められる。加熱式マーキング装置に適用する場合は、インクを液体状態の適正な粘度に長時間保持する必要があるため、120~180℃程度に数時間~数十時間晒されても顕著な退色が生じないことが求められる。
【0036】
さらに、インクやインジケータが長時間、屋内照明や屋外光に晒されてもインクが退色しない耐光性も求められる。温度検知材料および温度検知インクに用いられる材料の内、光劣化が最も生じやすい材料として、ロイコ染料と顕色剤が挙げられる。ロイコ染料はインクの色味に影響するため、顧客要求に対する選択性が高い方が良く、本実施形態では限定されない。一方で、顕色剤は他の特性が同等であれば、示温材の耐光性が高くなる材料が好ましい。
【0037】
このため、消色剤である種々のエステル化合物やステロイド化合物に対して高い消色性および顕色性を示し、耐熱性および耐光性が高い顕色剤が求められる。このような顕色剤の具体例としては、2,2’-ビスフェノール、4,4’-シクロヘキシリデンビス(2-シクロヘキシルフェノール)、2,2-ビス(3-シクロヘキシル-4-ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(2-ヒドロキシ-5-ビフェニルイル)プロパン、4,4’-シクロヘキシリデンビス(o-クレゾール)、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)プロパン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、ビスフェノールP、4,4’-(9-フルオレニリデン)ジフェノール、ビスフェノールA、ビスフェノールM、4,4’-チオジフェノール、ビスフェノールS、4,4’-ビフェノール、4,4’-オキシジフェノール、4,4’-ジヒドロキシジフェニルメタン、4,4’-(1,3-ジメチルブチリデン)ジフェノール、4,4’-(2-エチルヘキシリデン)ジフェノール、4,4’-エチリデンビスフェノール(ビスフェノールE)、4,4’-(2-ヒドロキシベンジリデン)ビス(2,3,6-トリメチルフェノール)、1,1’-メチレンビス(2-ナフトール)、テトラブロモビスフェノールAなどのビスフェノール化合物を好ましく用いることができる。
【0038】
本実施形態にかかる示温材は、これらの顕色剤を1種、または、2種類以上組み合わせてもよい。顕色剤を組合せることによりロイコ染料の呈色時の色濃度を調整可能である。本顕色剤の使用量は所望される色濃度に応じて選択する。例えば、通常、ロイコ色素1重量部に対して、0.1~100重量部程度の範囲内で選択すればよい。
【0039】
(消色剤)
消色剤は、ロイコ染料と顕色剤との結合を解離させることが可能な化合物であり、ロイコ染料と顕色剤との呈色温度を制御できる化合物である。一般的に、ロイコ染料が呈色した状態の温度範囲では、消色剤が相分離した状態で固化している。また、ロイコ染料が消色状態となる温度範囲では、消色剤は融解しているか、非晶質状態を形成しており、ロイコ染料と顕色剤との結合を解離させる機能が発揮された状態である。そのため、消色剤の状態変化温度が示温材の温度制御に対して重要になる。
【0040】
消色剤の材料としては、ロイコ染料と顕色剤との結合を解離させることが可能である材料を幅広く用いることができる。極性が低くロイコ染料に対して顕色性を示さず、ロイコ染料と顕色剤を溶解させる程度に極性が高ければ、様々な材料が消色剤になり得る。代表的には、ヒドロキシ化合物、エステル化合物、ペルオキシ化合物、カルボニル化合物、芳香族化合物、脂肪族化合物、ハロゲン化合物、アミノ化合物、イミノ化合物、N-オキシド化合物、ヒドロキシアミン化合物、ニトロ化合物、アゾ化合物、ジアゾ化合物、アジ化合物、エーテル化合物、油脂化合物、糖化合物、ペプチド化合物、核酸化合物、アルカロイド化合物、ステロイド化合物など、多様な有機化合物を用いることができる。具体的には、トリカプリン、ミリスチン酸イソプロピル、酢酸 m-トリル、セバシン酸ジエチル、アジピン酸ジメチル、1,4-ジアセトキシブタン、デカン酸デシル、フェニルマロン酸ジエチル、フタル酸ジイソブチル、くえん酸トリエチル、フタル酸ベンジルブチル、ブチルフタリルブチルグリコラート、N-メチルアントラニル酸メチル、アントラニル酸エチル、サリチル酸2-ヒドロキシエチル、ニコチン酸メチル、4-アミノ安息香酸ブチル、p-トルイル酸メチル、4-ニトロ安息香酸エチル、フェニル酢酸2-フェニルエチル、けい皮酸ベンジル、アセト酢酸メチル、酢酸ゲラニル、こはく酸ジメチル、セバシン酸ジメチル、オキサル酢酸ジエチル、モノオレイン、パルミチン酸ブチル、ステアリン酸エチル、パルミチン酸メチル、ステアリン酸メチル、酢酸リナリル、フタル酸ジ-n-オクチル、安息香酸ベンジル、ジエチレングリコールジベンゾアート、p-アニス酸メチル、酢酸 m-トリル、けい皮酸シンナミル、プロピオン酸2-フェニルエチル、ステアリン酸ブチル、ミリスチン酸エチル、ミリスチン酸メチル、アントラニル酸メチル、酢酸ネリル、パルミチン酸イソプロピル、4-フルオロ安息香酸エチル、シクランデラート(異性体混合物)、ブトピロノキシル、2-ブロモプロピオン酸エチル、トリカプリリン、レブリン酸エチル、パルミチン酸ヘキサデシル、酢酸tert-ブチル、1,1-エタンジオールジアセタート、しゅう酸ジメチル、トリステアリン、アセチルサリチル酸メチル、ベンザルジアセタート、2-ベンゾイル安息香酸メチル、2,3-ジブロモ酪酸エチル、2-フランカルボン酸エチル、アセトピルビン酸エチル、バニリン酸エチル、イタコン酸ジメチル、3-ブロモ安息香酸メチル、アジピン酸モノエチル、アジピン酸ジメチル、1,4-ジアセトキシブタン、ジエチレングリコールジアセタート、パルミチン酸エチル、テレフタル酸ジエチル、プロピオン酸フェニル、ステアリン酸フェニル、酢酸1-ナフチル、ベヘン酸メチル、アラキジン酸メチル、4-クロロ安息香酸メチル、ソルビン酸メチル、イソニコチン酸エチル、ドデカン二酸ジメチル、ヘプタデカン酸メチル、α-シアノけい皮酸エチル、N-フェニルグリシンエチル、イタコン酸ジエチル、ピコリン酸メチル、イソニコチン酸メチル、DL-マンデル酸メチル、3-アミノ安息香酸メチル、4-メチルサリチル酸メチル、ベンジリデンマロン酸ジエチル、DL-マンデル酸イソアミル、メタントリカルボン酸トリエチル、ホルムアミノマロン酸ジエチル、1,2-ビス(クロロアセトキシ)エタン、ペンタデカン酸メチル、アラキジン酸エチル、6-ブロモヘキサン酸エチル、ピメリン酸モノエチル、乳酸ヘキサデシル、ベンジル酸エチル、メフェンピル-ジエチル、プロカイン、フタル酸ジシクロヘキシル、サリチル酸4-tert-ブチルフェニル、4-アミノ安息香酸イソブチル、4-ヒドロキシ安息香酸ブチル、トリパルミチン、1,2-ジアセトキシベンゼン、イソフタル酸ジメチル、フマル酸モノエチル、バニリン酸メチル、3-アミノ-2-チオフェンカルボン酸メチル、エトミデート、クロキントセット-メキシル、ベンジル酸メチル、フタル酸ジフェニル、安息香酸フェニル、4-アミノ安息香酸プロピル、エチレングリコールジベンゾアート、トリアセチン、ペンタフルオロプロピオン酸エチル、3-ニトロ安息香酸メチル、酢酸4-ニトロフェニル、3-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸メチル、くえん酸トリメチル、3-ヒドロキシ安息香酸エチル、3-ヒドロキシ安息香酸メチル、トリメブチン、酢酸4-メトキシベンジル、ペンタエリトリトールテトラアセタート、4-ブロモ安息香酸メチル、1-ナフタレン酢酸エチル、5-ニトロ-2-フルアルデヒドジアセタート、4-アミノ安息香酸エチル、プロピルパラベン、1,2,4-トリアセトキシベンゼン、4-ニトロ安息香酸メチル、アセトアミドマロン酸ジエチル、バレタマートブロミド、安息香酸2-ナフチル、フマル酸ジメチル、アジフェニン塩酸塩、4-ヒドロキシ安息香酸ベンジル、4-ヒドロキシ安息香酸エチル、酪酸ビニル、ビタミンK4、4-ヨード安息香酸メチル、3,3-ジメチルアクリル酸メチル、没食子酸プロピル、1,4-ジアセトキシベンゼン、メソしゅう酸ジエチル、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸ジメチル(cis-,trans-混合物)、1,1,2-エタントリカルボン酸トリエチル、ヘキサフルオログルタル酸ジメチル、安息香酸アミル、3-ブロモ安息香酸エチル、5-ブロモ-2-クロロ安息香酸エチル、フタル酸ビス(2-エチルヘキシル)、アリルマロン酸ジエチル、ブロモマロン酸ジエチル、エトキシメチレンマロン酸ジエチル、エチルマロン酸ジエチル、フマル酸ジエチル、マレイン酸ジエチル、マロン酸ジエチル、フタル酸ジエチル、1,3-アセトンジカルボン酸ジメチル、フタル酸ジメチル、3-アミノ安息香酸エチル、安息香酸エチル、4-(ジメチルアミノ)安息香酸エチル、ニコチン酸エチル、フェニルプロピオル酸エチル、ピリジン-2-カルボン酸エチル、2-ピリジル酢酸エチル、3-ピリジル酢酸エチル、安息香酸メチル、フェニル酢酸エチル、4-ヒドロキシ安息香酸アミル、2、5-ジアセトキシトルエン、4-オキサゾールカルボン酸エチル、1,3,5-シクロヘキサントリカルボン酸トリメチル(cis-,trans-混合物)、3-(クロロスルホニル)-2-チオフェンカルボン酸メチル、ペンタエリトリトールジステアラート、ラウリン酸ベンジル、アセチレンジカルボン酸ジエチル、メタクリル酸フェニル、酢酸ベンジル、グルタル酸ジメチル、2-オキソシクロヘキサンカルボン酸エチル、フェニルシアノ酢酸エチル、1-ピペラジンカルボン酸エチル、ベンゾイルぎ酸メチル、フェニル酢酸メチル、酢酸フェニル、こはく酸ジエチル、トリブチリン、メチルマロン酸ジエチル、しゅう酸ジメチル、1,1-シクロプロパンジカルボン酸ジエチル、マロン酸ジベンジル、4-tert-ブチル安息香酸メチル、2-オキソシクロペンタンカルボン酸エチル、シクロヘキサンカルボン酸メチル、4-メトキシフェニル酢酸エチル、4-フルオロベンゾイル酢酸メチル、マレイン酸ジメチル、テレフタルアルデヒド酸メチル、4-ブロモ安息香酸エチル、2-ブロモ安息香酸メチル、2-ヨード安息香酸メチル、3-ヨード安息香酸エチル、3-フランカルボン酸エチル、フタル酸ジアリル、ブロモ酢酸ベンジル、ブロモマロン酸ジメチル、m-トルイル酸メチル、1,3-アセトンジカルボン酸ジエチル、フェニルプロピオル酸メチル、酪酸1-ナフチル、o-トルイル酸エチル、2-オキソシクロペンタンカルボン酸メチル、安息香酸イソブチル、3-フェニルプロピオン酸エチル、マロン酸ジ-tert-ブチル、セバシン酸ジブチル、アジピン酸ジエチル、テレフタル酸ジエチル、フタル酸ジプロピル、1,1-エタンジオールジアセタート、アジピン酸ジイソプロピル、フマル酸ジイソプロピル、けい皮酸エチル、2-シアノ-3,3-ジフェニルアクリル酸2-エチルヘキシル、ネオペンチルグリコールジアクリラート、トリオレイン、ベンゾイル酢酸エチル、p-アニス酸エチル、スベリン酸ジエチル、ソルビタントリステアレート、ソルビタンモノステアレート、ステアリン酸アミド、モノステアリン酸グリセロール、ジステアリン酸グリセロール、3-(tert-ブトキシカルボニル)フェニルボロン酸、ラセカドトリル、4-[(6-アクリロイルオキシ)ヘキシルオキシ]-4’-シアノビフェニル、2-(ジメチルアミノ)ビニル3-ピリジルケトン、アクリル酸ステアリル、4-ブロモフェニル酢酸エチル、フタル酸ジベンジル、3,5-ジメトキシ安息香酸メチル、酢酸オイゲノール、3,3’-チオジプロピオン酸ジドデシル、酢酸バニリン、炭酸ジフェニル、オキサニル酸エチル、テレフタルアルデヒド酸メチル、4-ニトロフタル酸ジメチル、(4-ニトロベンゾイル)酢酸エチル、ニトロテレフタル酸ジメチル、2-メトキシ-5-(メチルスルホニル)安息香酸メチル、3-メチル-4-ニトロ安息香酸メチル、2,3-ナフタレンジカルボン酸ジメチル、アジピン酸ビス(2-エチルヘキシル)、4’-アセトキシアセトフェノン、trans-3-ベンゾイルアクリル酸エチル、クマリン-3-カルボン酸エチル、BAPTA テトラエチルエステル、2,6-ジメトキシ安息香酸メチル、イミノジカルボン酸ジ-tert-ブチル、p-ベンジルオキシ安息香酸ベンジル、3,4,5-トリメトキシ安息香酸メチル、3-アミノ-4-メトキシ安息香酸メチル、ジステアリン酸ジエチレングリコール、3,3’-チオジプロピオン酸ジテトラデシル、4-ニトロフェニル酢酸エチル、4-クロロ-3-ニトロ安息香酸メチル、1,4-ジプロピオニルオキシベンゼン、テレフタル酸ジメチル、4-ニトロけい皮酸エチル、5-ニトロイソフタル酸ジメチル、1,3,5-ベンゼントリカルボン酸トリエチル、N-(4-アミノベンゾイル)-L-グルタミン酸ジエチル、酢酸2-メチル-1-ナフチル、7-アセトキシ-4-メチルクマリン、4-アミノ-2-メトキシ安息香酸メチル、4,4’-ジアセトキシビフェニル、5-アミノイソフタル酸ジメチル、1,4-ジヒドロ-2,6-ジメチル-3,5-ピリジンジカルボン酸ジエチル、4,4’-ビフェニルジカルボン酸ジメチル、オクタン酸-4-ベンジルオキシフェニルエチル、ノナン酸-4-ベンジルオキシフェニルエチル、デカン酸-4-ベンジルオキシフェニルエチル、ウンデカン酸-4-ベンジルオキシフェニルエチル、ドデカン酸-4-ベンジルオキシフェニルエチル、トリデカン酸-4-ベンジルオキシフェニルエチル、テトラデカン酸-4-ベンジルオキシフェニルエチル、ペンタデカン酸-4-ベンジルオキシフェニルエチル、ヘキサデカン酸-4-ベンジルオキシフェニルエチル、ヘプタデカン酸-4-ベンジルオキシフェニルエチル、オクタデカン酸-4-ベンジルオキシフェニルエチル、オクタン酸1,1-ジフェニルメチル、ノナン酸1,1-ジフェニルメチル、デカン酸1,1-ジフェニルメチル、ウンデカン酸1,1-ジフェニルメチル、ドデカン酸1,1-ジフェニルメチル、トリデカン酸1,1-ジフェニルメチル、テトラデカン酸1,1-ジフェニルメチル、ペンタデカン酸1,1-ジフェニルメチル、ヘキサデカン酸1,1-ジフェニルメチル、ヘプタデカン酸1,1-ジフェニルメチル、オクタデカン酸1,1-ジフェニルメチルなどのエステル化合物や、コレステロール、コレステリルブロミド、β-エストラジオール、メチルアンドロステンジオール、プレグネノロン、安息香酸コレステロール、酢酸コレステロール、リノール酸コレステロール、パルミチン酸コレステロール、ステアリン酸コレステロール、n-オクタン酸コレステロール、オレイン酸コレステロール、3-クロロコレステン、trans-けい皮酸コレステロール、デカン酸コレステロール、ヒドロけい皮酸コレステロール、ラウリン酸コレステロール、酪酸コレステロール、ぎ酸コレステロール、ヘプタン酸コレステロール、ヘキサン酸コレステロール、
こはく酸水素コレステロール、ミリスチン酸コレステロール、プロピオン酸コレステロール、吉草酸コレステロール、フタル酸水素コレステロール、フェニル酢酸コレステロール、クロロぎ酸コレステロール、2,4-ジクロロ安息香酸コレステロール、ペラルゴン酸コレステロール、コレステロールノニルカルボナート、コレステロールヘプチルカルボナート、コレステロールオレイルカルボナート、コレステロールメチルカルボナート、コレステロールエチルカルボナート、コレステロールイソプロピルカルボナート、コレステロールブチルカルボナート、コレステロールイソブチルカルボナート、コレステロールアミルカルボナート、コレステロール n-オクチルカルボナート、コレステロールヘキシルカルボナート、アリルエストレノール、アルトレノゲスト、9(10)-デヒドロナンドロロン、エストロン、エチニルエストラジオール、エストリオール、安息香酸エストラジオール、β-エストラジオール17-シピオナート、17-吉草酸β-エストラジオール、α-エストラジオール、17-ヘプタン酸β-エストラジオール、ゲストリノン、メストラノール、2-メトキシ-β-エストラジオール、ナンドロロン、(-)-ノルゲストレル、キネストロール、トレンボロン、チボロン、スタノロン、アンドロステロン、アビラテロン、酢酸アビラテロン、デヒドロエピアンドロステロン、デヒドロエピアンドロステロンアセタート、エチステロン、エピアンドロステロン、17β-ヒドロキシ-17-メチルアンドロスタ-1,4-ジエン-3-オン、メチルアンドロステンジオール、メチルテストステロン、Δ9(11)-メチルテストステロン、1α-メチルアンドロスタン-17β-オール-3-オン、17α-メチルアンドロスタン-17β-オール-3-オン、スタノゾロール、テストステロン、プロピオン酸テストステロン、アルトレノゲスト、16-デヒドロプレグネノロンアセタート、酢酸16,17-エポキシプレグネノロン、11α-ヒドロキシプロゲステロン、17α-ヒドロキシプロゲステロンカプロアート、17α-ヒドロキシプロゲステロン、酢酸プレグネノロン、17α-ヒドロキシプロゲステロンアセタート、酢酸メゲストロール、酢酸メドロキシプロゲステロン、酢酸プレグネノロン、5β-プレグナン-3α,20α-ジオール、ブデソニド、コルチコステロン、酢酸コルチゾン、コルチゾン、コルテキソロン、デオキシコルチコステロンアセタート、デフラザコート、酢酸ヒドロコルチゾン、ヒドロコルチゾン、17-酪酸ヒドロコルチゾン、6α-メチルプレドニゾロン、プレドニゾロン、プレドニゾン、酢酸プレドニゾロン、デオキシコール酸ナトリウム、コール酸ナトリウム、コール酸メチル、ヒオデオキシコール酸メチル、β-コレスタノール、コレステロール-5α,6α-エポキシド、ジオスゲニン、エルゴステロール、β-シトステロール、スチグマステロール、β-シトステロールアセタートなどのステロイド化合物などが挙げられる。ロイコ染料および顕色剤との相溶性の観点から、これらの化合物を含むことが好ましい。勿論、これらの化合物に限定されるものではなく、ロイコ染料と顕色剤との結合を解離させることが可能である材料であれば何でもよい。
【0041】
また、これらの消色剤を1種、または2種類以上組み合わせてもよい。消色剤を組合せることにより、凝固点、結晶化速度、融点、ガラス転移点の調整が可能である。
【0042】
示温材Aに用いる消色剤としては、消色剤が融解している温度から、急冷過程において結晶化せず、ガラス転移点近傍で非晶化する必要がある。そのため、結晶化しにくい材料が好ましい。急冷速度を非常に速くすればほとんどの材料で非晶状態を形成するが、実用性を考慮すると、汎用的な冷却装置による急冷で非晶状態を形成する程度に結晶化にしにくい方が好ましい。さらに最も好ましいのは、融点以上の融解状態から自然に冷却する過程で非晶状態を形成する程度に結晶化しにくい材料が好ましい。この条件として、少なくとも20℃/分以下の速度でも融点からガラス転移点まで冷却したときに非晶状態を形成する消色剤が好ましく、1℃/分以下の速度でも融点からガラス転移点まで冷却したときに非晶状態を形成する消色剤が最も好ましい。
【0043】
示温材Bに用いる消色剤としては、過冷却状態の温度範囲が広いこと、すなわち消色剤の凝固点と融点の温度差が大きいことが望ましい。また、融点または凝固点の温度は、対象とする温度管理範囲に依存する。
【0044】
示温材の色を初期化するためには、示温材の消色剤の融点以上に温度を上げる必要がある。色の初期化温度としては、管理温度付近では起こりづらい程度に高温である必要があるが、実用性を考慮すると、汎用的な加熱装置により加熱可能な温度域であることが望ましい。また温度検知材料としては、示温材を保護するためにマトリックス材やマイクロカプセルを用いるため、これらの耐熱性も考慮する必要がある。具体的には、40℃~250℃程度が好ましく、60℃~150℃程度が最も好ましい。
【0045】
示温材には、少なくとも上記のロイコ染料、顕色剤、消色剤を含む。ただし、顕色作用および消色作用を1分子中に含む材料である場合、顕色剤および消色剤は無くてもよい。また、結晶化により色が変わる性能が保持されれば、ロイコ染料、顕色剤、消色剤以外の材料を含むこともできる。例えば、ロイコ染料ではない染料や顔料を含むことで、消色時、顕色時の色を変更することが可能である。
【0046】
<温度検知材料>
温度検知材料は、以上説明した示温材とマトリックス材とを混合することで形成される相分離構造体を少なくとも含む。その形態の例を以下に示す。
【0047】
(マトリックス材)
マトリックス材は、示温材と混合したときに、示温材の顕色性および消色性を損なわない材料である必要がある。そのため、それ自身が顕色性を示さない材料であることが好ましい。このような材料として、電子受容体ではない非極性材料を用いることができる。
【0048】
また、マトリックス材中に示温材が分散した相分離構造を形成させるために、マトリックス材としては次の2つの条件を満たす材料を用いる必要がある。2つの条件とは、温度検知材料の使用温度で固体状態であること、ロイコ染料、消色剤、および顕色剤と相溶性の低い材料であること、である。ロイコ染料、顕色剤、消色剤、いずれかの材料がマトリックス材と固溶した状態では、温度検知機能が損なわれてしまうためである。また、使用温度で固体状態のマトリックス材を用いることにより、温度検知材料が取り扱いやすくなる。
【0049】
以上の条件を満たすマトリックス材としては、ハンセン溶解度パラメーターにより予測される分子間の双極子相互作用によるエネルギーδpおよび分子間の水素結合によるエネルギーδhがそれぞれ3以下である材料を好ましく用いることができる。具体的には、極性基を有さない材料、炭化水素のみで構成される材料を好ましく用いることができる。具体的には、パラフィン系、マイクロクリスタリン系、オレフィン系、ポリプロピレン系、ポリエチレン系などのワックスや、プロピレン、エチレン、スチレン、シクロオレフィン、シロキサン、テルペンなどの骨格を多く持つ低分子材料や高分子材料、これらの共重合体などが挙げられる。
【0050】
これらの中でも、融点以上で低粘度の溶融液になり、融点以下で容易に固体化する材料が取扱い性がよい。また、有機溶媒に溶け、有機溶媒の揮発過程で固体化する材料も取扱い性がよい。具体的には、パラフィンワックス、マイクロクリスタリンワックス、ポリオレフィン、ポリエチレン、ポリプロピレン、シクロオレフィン、ポリスチレン、テルペン樹脂、シリコーン樹脂、シリコーンオイルなどが挙げられる。
【0051】
ポリオレフィンとしては、例えば、低分子ポリエチレン、低分子ポリプロピレンなどが挙げられる。ポリオレフィンの分子量および液体状態での粘度は特に限定されないが、液体状態で低粘度であると気泡の内包が少なく成形性がよい。具体的には、分子量5万以下であって、融点近傍での粘度が5~50000mPa・sであることが好ましく、分子量1万以下であって、融点近傍での粘度が10~10000mPa・sであることがさらに好ましい。
【0052】
また、これらのマトリックス材は、複数種を併用することも可能である。
【0053】
<相分離構造体>
図3A,Bは、温度検知材料の相分離構造を示す模式図であり、図3Aは消色している状態の場合、図3Bは顕色している状態の場合である。温度検知材料1は、マトリックス材3中に示温材2が分散した相分離構造を形成している。つまり、ロイコ染料と、顕色剤と、消色剤とを含む相が、マトリックス材中に分散した構造を形成している。
【0054】
図4A,Bは、温度検知材料の光学顕微鏡写真であり、図4Aは消色している状態の場合、図4Bは顕色している状態の場合である。すなわち、図4Aは示温材が消色している状態の温度検知材料1の光学顕微鏡写真、図4Bは示温材が顕色している状態の温度検知材料1の光学顕微鏡写真である。光学顕微鏡写真から、温度検知材料1が、マトリックス材3中に示温材2が分散した相分離構造を形成していることが確認できる。
【0055】
本実施形態に係る温度検知材料は、マトリックス材の融点が示温材の融点と近いものを用いている。示温材の変色温度は示温材のガラス転移点近傍であり、その温度においてマトリックス材は融解しないため、示温材の色変化過程において温度検知材料は固体状態を保持する。一方で、示温材が融点以上において固体から液体に状態変化し、色の初期化が生じる際、マトリックス材も融解する。そのため、後述する加熱式マーキング装置に適用する際など、示温材の色の初期化とともに温度検知材料を融解することができ、初期化温度よりわずかに高い温度に加熱することで温度検知材料を吐出、マーキングすることが可能である。
【0056】
一方で、マトリックス材の融点が示温材の融点と離れた温度のものを用いても問題ない。例えば、マトリックス材の融点が示温材の融点よりも高い場合、示温材が固体から液体に状態変化し、色の初期化が生じる際、マトリックス材が融解しないため、温度検知材料は固体状態を保持することが可能である。
【0057】
また、マトリックス材と示温材とは相分離しており、かつマトリックス材が示温材の色変化に影響を与えないことから、示温材の温度検知機能をそのまま保持することが可能である。
【0058】
マトリックス材中に内包する示温材の濃度は特に限定されないが、示温材1重量部に対して、マトリックス材0.1重量部以上100重量部以下含むことが好ましい。示温材1重量部に対するマトリックス材の濃度が100重量部以下であると、温度検知材料としての視認性の低下を抑制できる。また、マトリックス材の濃度を、示温材の濃度と同等以上とすることにより、マトリックス材および示温材それぞれが繋がりあった構造(以下、共連続構造という)になるのを抑制することができる。共連続構造でもマトリックス材と示温材とは相分離しているため、温度検知材料としての機能は損なわれないが、マトリックス材中から示温材が液漏れすることで長期安定性を損なうおそれがある。また、示温材が結晶化する際、隣接する示温材間にて結晶成長が進展してしまい、顕色時間の再現性の低下や色ムラ発生のリスクが高まることが懸念される。そのため、示温材1重量部に対して、マトリックス材は1~10重量部程度にすることがさらに好ましい。
【0059】
マトリックス材中に分散した示温材からなる相の長径は、100nm以上1mm以下であることが好ましく、100nm以上100μm以下であることがより好ましい。示温材からなる相の大きさは特に限定されないが、100nm以上とすることにより示温材とマトリックス材の界面による検知温度への影響を抑制できる。また、1mm以下とすることにより、示温材とマトリックス材とを区別して視認することが困難となり、温度検知材料の色ムラを抑えることができる。示温材からなる相の大きさは、界面活性剤を添加することや冷却工程において攪拌しながら冷却することにより、小さくすることができる。なお、示温材からなる相の長径とは、示温材からなる相を楕円に近似したときの近似楕円の長径である。
【0060】
温度検知材料中には、結晶化により色が変わる性能が保持されれば、ロイコ染料、顕色剤、消色剤以外の材料を含むこともできる。たとえば、マイクロカプセルなどを含むこともできる。示温材をマイクロカプセルで包み、温度検知材料に混合することで、2種以上の示温材を温度検知材料に含むことが可能であり、2通り以上の温度変化を検知する温度検知材料を作製することが可能である。
【0061】
示温材をマイクロカプセル化することにより、示温材の光や湿度等に対する耐環境性が向上し、保存安定性、変色特性の安定化等が可能となる。また、マイクロカプセル化により、インクを調製した際に、ロイコ染料、顕色剤、消色剤が他の樹脂剤、添加剤等の化合物から受ける影響を抑制することが可能である。
【0062】
マイクロカプセル化には、公知の各種手法を適用することが可能である。例えば、乳化重合法、懸濁重合法、コアセルベーション法、界面重合法、スプレードライング法等を挙げることができるが、これらに限定されるものではない。また、2種以上異なる方法を組み合わせてもよい。
【0063】
マイクロカプセルに用いる樹脂被膜としては、多価アミンとカルボニル化合物から成る尿素樹脂被膜、メラミン・ホルマリンプレポリマ、メチロールメラミンプレポリマ、メチル化メラミンプレポリマーから成るメラミン樹脂被膜、多価イソシアネートとポリオール化合物から成るウレタン樹脂被膜、多塩基酸クロライドと多価アミンから成るアミド樹脂被膜、酢酸ビニル、スチレン、(メタ)アクリル酸エステル、アクリロニトリル、塩化ビニル等の各種モノマー類から成るビニル系の樹脂被膜が挙げられるが、これらに限定されるものではない。さらに、形成した樹脂被膜の表面処理を行い、インクや塗料化する際の表面エネルギーを調整することで、マイクロカプセルの分散安定性を向上させる等、追加の処理をすることもできる。
【0064】
また、マイクロカプセルの直径は、装置適合性、保存安定性等が課題となるため、0.1~100μm程度の範囲が好ましく、さらに好ましくは、0.1~10μmの範囲がよい。
【0065】
相分離構造体は、乳鉢などで砕いて、粉体化することも可能である。これによりマイクロカプセルと同様の取り扱いが可能である。
【0066】
相分離構造体およびマイクロカプセルは、インク化のための分散安定化や、溶剤への耐性向上や、光や湿度等に対する耐環境性が向上などのため、シランカップリング処理、表面グラフト化、コロナ処理などにより表面処理をしても構わない。また、相分離構造体およびマイクロカプセルを、さらにマトリックス材やマイクロカプセルで被覆することも可能である。
【0067】
<相分離構造体の製造方法>
本実施形態に係る温度検知材料は、例えば、以下の方法で作製することができる。温度検知材料の製造方法は、ロイコ染料と、顕色剤と、消色剤と、マトリックス材と、をマトリックス材の融点以上の温度に加温し、混合する混合工程と、混合工程で得られる混合物を、マトリックス材の凝固点以下の温度に冷却する冷却工程と、を備える。冷却工程において、マトリックス材と示温材とは速やかに相分離し、マトリックス材中にロイコ染料と、顕色剤と、消色剤とからなる相が分散した相分離構造を形成する。
【0068】
マトリックス材の融点以上に加温し液体状態にする際、示温材と、マトリックス材の相溶性次第で、示温材とマトリックス材が相溶する(示温材が微小に分散し、目視上相溶しているように見える)場合と、相溶しない(示温材とマトリックス材が2相に分離する)場合がある。このとき、相溶している方が取扱いやすさの観点において好ましい。示温材とマトリックス材は、マトリックス材が固体状態である使用温度のときは相分離する必要があるが、マトリックス材が液体状態である加温状態ではその限りではない。使用温度で示温材とマトリックス材とが相分離し、加温状態で示温材とマトリックス材とが相溶するためには、特に含有量の多い消色剤の極性がある程度の範囲内にあるとよい。消色剤の極性が小さすぎると使用温度でマトリックス材と相溶してしまい、極性が大きすぎると、加温状態でマトリックス材と分離してしまう。具体的な極性の計算方法としてハンセン溶解度パラメーターにより予測される分子間の双極子相互作用によるエネルギーδpおよび分子間の水素結合によるエネルギーδhがそれぞれ1以上10以下である材料を好ましく用いることができる。しかしながら、消色剤の極性が大きく、加温状態でも示温材とマトリックス材が相溶しない材料についても、撹拌しながら冷却することで、相分離構造を形成させることは可能である。また、界面活性剤を添加して、相溶させてもよい。
【0069】
マトリックス材の凝固点以下に冷却し、相分離構造を形成させる際、示温材とマトリックス材との相溶性次第で、示温材の分散構造の大きさが異なる。特に含有量の多い消色剤とマトリックス材について、ある程度相溶性がよいと細かく分散し、相溶性が悪いと大きく分散する。分散構造の大きさは特に限定されないが、100nm未満になると、示温材とマトリックス材との界面の影響が出てくるため、検知温度に影響が出ることがある。また、1mmを超えると、示温材とマトリックス材のそれぞれを視認することが可能になり、温度検知体の色ムラが大きくなる。そのため、分散構造の大きさは100nm以上、1mm以下が好ましく、特に、100nm以上、100μm以下が最も好ましい。この分散構造を実現するためにも、具体的な極性の計算方法としてハンセン溶解度パラメーターにより予測される分子間の双極子相互作用によるエネルギーδpおよび分子間の水素結合によるエネルギーδhがそれぞれ1以上10以下である消色剤を好ましく用いることができる。また、冷却工程において、撹拌しながら冷却することや界面活性剤を添加することで、分散構造の大きさを小さくすることも可能である。
【0070】
<加熱式マーキング装置>
本実施形態に係る温度検知材料は、様々な加熱式マーキング装置に適用することができる。加熱式マーキング装置は、加熱により材料を低粘度に制御し、材料を吐出、印刷する装置であり、加熱式インクジェットプリンタや加熱式ディスペンサやグルーガン等が挙げられる。相分離構造体からなる温度検知材料は、マトリックス材および示温材の融点以上に加熱することで低粘度な液体状態となるため、インク化することなく、加熱式マーキング装置にて印刷可能である。さらに、印刷時の加熱により色の初期化が可能であるため、印刷直後からの温度検知材料による温度管理が可能である。このことは、加熱式マーキング装置とは別に、温度検知材料を初期化するための加熱装置が不要になることを意味するため、設備コストの観点から有用である。加熱式マーキング装置により印刷するタイミングとしては、管理温度下にて温度管理した被印字対象物に温度検知材料を印刷したり、室温下などにて被印字対象物に温度検知材料を印刷した後、温度検知材料が顕色する前に管理温度帯に被印字対象物を移動させたりすること等が考えられる。
【0071】
<温度インジケータの構成>
本実施形態に係る温度インジケータは、温度検知材料が、少なくともロイコ染料、顕色剤、消色剤およびマトリックス材を含み、温度検知材料は、基材および接着剤に接触しており、基材若しくは接着剤の少なくとも一方が透明性を有している。図5は、温度インジケータの構成を示す模式図である。温度インジケータ4は、基材5と温度検知材料1と接着剤6とを有し、温度検知材料1を基材5上に配置し、接着剤6で覆った構造をしている。温度検知材料1はそのマトリックス材の材料が限定されるため、接着剤6がない場合、基材5の材質によっては簡単に基材5から剥離してしまう。そのため、通常は温度検知材料1を固体材料で内包させることで温度インジケータとしている。これに対して、本実施形態では、種々の基材上に温度検知材料をマーキングし、その上から接着剤を塗布することで、基材から簡単には剥離できない温度インジケータを簡便な工程にて作製可能としている。
【0072】
基材5と接着剤6の材料を選定する際、前述したとおり、温度検知材料1内の示温材の変色特性が種々の材料の影響を受けてしまうことに注意する必要がある。これは、示温材の色変化が状態変化を伴うことに起因する。
【0073】
示温材が消色状態から顕色状態に変色する際の結晶化現象は、不純物の存在や容器の壁面などの界面の影響を強く受ける。しかし、本実施形態の温度検知材料は、示温材が非極性材料のマトリックス材に内包されているため、この影響を無くすことができる。
【0074】
示温材が顕色状態から消色状態に変色する際の融解現象により、示温材が液化する。このとき、マトリックス材の融点が示温材の融点と近い温度である場合、マトリックス材も液化する。すなわち、温度検知材料1が流動性を持った状態においては、温度検知材料1の示温材が、基材5や接着剤6と接触する可能性が高くなる。このとき、基材5や接着剤6に非極性材料以外の材料が用いられていると、基材5や接着剤6と示温材とが固溶し、変色特性が損なわれてしまうことがある。
【0075】
これを抑制するため、温度検知材料1と、基材5及び接着剤6とは、温度インジケータの作製過程において、いずれか一方が固体状態にしておくことが望ましい。たとえば、液化した温度検知材料1を固体の基材5上に塗布した場合、基材5上にて温度検知材料1は相分離構造体を形成し固化するため、変色特性が損なわれることがない。また、固化した温度検知材料1の上に液体の接着剤6を塗布しても、マトリックス材に内包された示温材と接着剤6は接触することがないため、この場合も変色特性が損なわれることがない。
【0076】
(基材)
本実施形態において、基材の材料は、温度検知材料を初期化する際に固体状態を保持する材料であれば、要求される機能によって自由に選択できる。温度検知材料の初期化温度としては、60℃~150℃程度が最も好ましいため、この温度より耐熱性が高い基材であれば材質に依らず適用可能である。たとえば、紙やプラスチックなどの有機材料や、セラミックスや金属などの無機材料や、それらの複合材料など自由に選択可能である。高強度、耐熱性、耐候性、耐薬品性、断熱性、導電性など、温度インジケータに要求される特性に合わせて選択する。シールを用いることで、検知したい対象物に対して密着させる(ラベル化する)ことも可能である。また、透明性の有無も特に限定されない。接着剤に透明性があれば、基材の透明性の有無関係なしに、接着剤の外側から温度検知材料の色変化過程を観察可能である。一方で、接着剤に透明性が無い場合でも、基材に透明性があれば、基材の外側から温度検知材料の色変化過程を観察可能である。
【0077】
基材は、温度検知材料を接着剤との間に挟み込むため、温度検知材料がマーキングされる領域よりも大きいことが好ましい。
【0078】
基材のデザイン等も限定されない。温度検知材料の変色特性以外の情報を印刷することや、温度検知材料の色を検査するために有効になる色を印刷することなどが可能である。
【0079】
基材は、数種の材料で層構造を形成してもよい。たとえば、図6のように、温度検知材料1の周りを囲うように基材5を形成させてもよい。これにより、温度検知材料1の基材5に対する平滑性が高くなるため、温度検知材料1の色濃度の濃淡が少なくなる。
【0080】
基材は連続多孔質材料からなり、連続多孔質材料に温度検知材料が含浸されていてもよい。温度検知材料を連続多孔質材料に含浸させることで、加工性を変更することができる。加工性は連続多孔質材料の材質に依存する。
【0081】
連続多孔質材料としては、温度検知材料が長期間接触していても変性しないような材質が求められる。そのため、具体的には、ポリエチレン、ポリプロピレン、セルロースなど、通常の有機溶媒に溶解しにくい材質が好適である。無機化合物としては、二酸化珪素も好適である。
【0082】
連続多孔質材料の構造としては、スポンジ、不織布、織布等が挙げられる。セルロースの場合は書籍や書類を作成時に用いられる用紙でもかまわない。二酸化珪素、ポリエチレン、ポリプロピレンの粉体を同様の化学構造のバインダーで保持して連続多孔質体を形成し、使用することも可能である。
【0083】
(接着剤)
本実施形態において、接着剤の材料は、温度検知材料が固化した状態にて温度検知材料に接触させるのであれば、要求される機能によって自由に選択できる。例えば、ホットメルト接着剤のような低融点で低粘度の接着剤などは、長時間放置時に接着剤が温度検知材料中に浸透し、示温材の変色特性に影響を与える可能性があるため、長期安定性が求められる用途には適さない。また、接着剤は、透明性を有することが好ましい。接着剤に透明性があれば、基材の透明性の有無とは関係なしに、接着剤の外側から温度検知材料の色変化過程を観察可能である。
【0084】
温度検知材料の融点以上の温度に加熱した接着剤を温度検知材料に接触させると、接着剤が温度検知材料内部に浸透し、変色特性が損なわれる可能性がある。このため、少なくとも大部分の温度検知材料が固化した状態のまま、温度検知材料が液体の接着剤に接触させられる接着工程を実施する必要がある。
【0085】
例えば、ホットメルト接着剤の場合、流動性を失った、すなわち凝固した状態では接着剤として適用することができない。このため、ホットメルト接着剤の凝固点が温度検知材料の融点よりも低い場合、この接着剤を好ましく用いることが可能である。
【0086】
ただし、接着剤が温度検知材料内部に浸透する程度は接着剤の粘度も関係しており、接着剤の粘度が高い程、接着剤が温度検知材料内部に浸透するまでに時間を要する。接着工程の自然冷却において、接着剤の温度が温度検知材料の融点以下の温度か、接着剤の凝固点以下の温度まで下がるならば、接着剤の温度検知材料内部への浸透は停止する。このため、接着工程における温度が、温度検知材料の融点よりも若干高い温度であったとしても、影響を温度検知材料の最表面の一部の変色特性に留め、温度検知材料の大半の変色特性は保持することが可能である。具体的には、温度検知材料の融点より50℃高い温度以下の凝固点を有し、融点近傍での粘度が0.1Pa・s以上、200Pa・s以下のホットメルト接着剤を好ましく用いることができる。温度検知材料の融点より30℃高い温度以下の凝固点を有し、融点近傍での粘度が1Pa・s以上、50Pa・s以下のホットメルト接着剤をさらに好ましく用いることができる。
【0087】
ホットメルト接着剤を用いた温度インジケータの場合、初期化処理を行うと、温度検知材料が液化した状態で、低融点かつ低粘度の接着剤と接触することによって、接着剤と示温材とが固溶し、温度検知機能が損なわれてしまう。すなわち、この接着剤を用いる場合には、接着剤を塗布した後に温度検知材料を再初期化することはできない。
【0088】
接着剤として溶剤系接着剤を用いる場合も、温度検知材料が固化している状態にて接着剤を温度検知材料に接触させる。この接着剤の場合には、溶剤が揮発し、接着剤が固化した後は、温度検知材料を再初期化することが可能である。ただし、溶剤系接着剤において、極性が低い有機溶剤のものは、温度検知材料中に浸透し、示温材を溶かしてしまうため、変色特性が損なわれてしまう。そのため、温度検知材料に適用するには、極性の高い溶剤の接着剤を用いる必要がある。具体的には、水、グリセリン、メタノール、エタノール、プロパノールなどのアルコール類などの接着剤を好ましく用いることができる。
【0089】
接着剤として無溶剤系の反応型接着剤を用いる場合も、温度検知材料が固化している状態にて接着剤を温度検知材料に接触させ、その状態にて接着剤を硬化させればよい。この接着剤の場合にも、接着剤を固化させた後であれば、温度検知材料を再初期化することが可能である。反応型接着剤としては、紫外線や可視光で硬化するアクリル系等の光硬化性接着剤や、ウレタン系やエポキシ系等の2種材料間の架橋反応型や熱硬化反応型の接着剤や、水分等によって硬化するシアノアクリレート系やシリコーン系等の常温硬化型の接着剤等が挙げられる。
【0090】
接着剤には、高強度、耐熱性、耐光性、耐薬品性、酸化防止性、断熱性、導電性や、急冷に対する熱衝撃への耐性など、温度インジケータに要求される特性に合わせて選択できる。これらの特性を付与する、酸化防止剤や光安定剤などを添加してもよい。
【0091】
接着剤のさらに上に、接着剤を塗布したり、フィルムを貼り付けたりして、数種の材料で層構造を形成してもよい。たとえば、紫外線、湿度、酸素などを検知して透明性が損なわれる材料を設けるなど、温度検知材料の変色特性以外の機能を温度インジケータに持たせることも可能である。
【0092】
<温度インジケータ製造工程>
温度インジケータの製造工程を図7A,Bを用いて説明する。図7Aは温度インジケータの製造フローチャートであり、図7Bは、温度インジケータ製造システムにおける温度インジケータの製造工程を模式的に示すものである。図7Bの温度インジケータ製造工程は品質管理対象の製造工程、または流通工程の一部として実施される。図7Bは、温度インジケータの基材を対象製品のパッケージ11とする例である。パッケージ11は、コンベア(搬送機構)10により温度検知材料をマーキングするマーキング装置12の前に運ばれ、温度検知材料がマーキングされる(S01)。マーキング装置12により温度検知材料1が基材5(この例では対象製品が梱包されたパッケージ11)にマーキングされた状態が図7Bに示す状態16である。温度検知材料がマーキングされたパッケージ11はさらに、コンベア10により接着剤を塗布する接着剤塗布装置13の前に運ばれ、固化した温度検知材料1の上に接着剤6が塗布される(S02)。温度検知材料1上に接着剤6が塗布された状態が図7Bに示す状態17である。なお、パッケージ11は対象製品を梱包する、あるいは対象製品に付されるものであればよく、温度検知材料1がマーキングされることによる加熱で液化しない限り、その材料にも限定されない。対象製品によっては対象製品そのものにマーキングすることも可能である。
【0093】
この工程の特徴は、マーキング工程(S01)において、温度検知材料の初期化が同時に行えることである。工場あるいは流通倉庫においては、温度検知材料や接着剤を管理温度とは無関係に、常温で管理することができることで、温度インジケータに係る管理の手間や管理コストを低減できる。また、温度インジケータの製造の中で初期化が同時に行われるため、温度インジケータのトータルの工数を少なくできる。すなわち、対象製品の個別温度管理が開始されるタイミングで、温度インジケータの製造工程を実行することが望ましい。
【0094】
図8は対象製品の温度管理がなされる流通過程の例を示す。工場S11、保管倉庫S12、出荷場S13を経て、搬送車S14により店舗S15に運ばれ、顧客S16に届く。例えば、工場S11で製品パッケージに温度インジケータを付与して出荷することにより、以降の流通過程において温度インジケータによる温度管理がなされる。
【0095】
次に、実施例および比較例を示しながら本発明を更に具体的に説明する。本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例
【0096】
(実施例1)
(温度検知材料の作製)
ロイコ染料として3,3-ビス(p-ジメチルアミノフェニル)-6-ジメチルアミノフタリド(山田化学工業製CVL)を1重量部、顕色剤として東京化成工業製没食子酸オクチルを1重量部、消色剤として東京化成工業製ビタミンK4を100重量部、マトリックス材料として三井化学製ハイワックス200Pを100重量部用いた。これらの材料を、消色剤およびマトリックス材の融点以上である150℃で溶かして混合し、自然冷却により固化させることで、相分離構造を有する温度検知材料を作製した。
【0097】
(マーキング装置への適用、および温度インジケータの作製)
作製した温度検知材料について、武蔵エンジニアリング製ジェットディスペンサAeroJetにて150℃で加熱し、液体状態にすることで、被印字対象物に吐出した。被印字対象物としては、汎用のコート紙を用いた。温度検知材料を吐出し、温度検知材料が固化した直後に、接着剤として、ホットメルト接着剤であるEARTHMAN製グルースティックをEARTHMAN製AC100Vグルーガンにて加熱塗布することで温度インジケータを作製した。EARTHMAN製グルースティックの融点は約85℃であり、温度検知材料の融点は約120℃である。接着工程において、接着剤を加熱吐出し温度検知材料に接着する際、接着剤の表面温度をサーモグラフィカメラFLIR E5-XTで測定したところ、約110℃程度であり、温度検知材料が液化することはなかった。
【0098】
(比較例1)
比較例1では、実施例1同様に作製した温度検知材料について、武蔵エンジニアリング製ジェットディスペンサAeroJetにて150℃で加熱し、液体状態にすることで、被印字対象物であるコート紙に吐出した。その後、接着剤の塗布を実施しなかった。
【0099】
(変色特性の評価)
温度インジケータ作製後、1分以内に物品の管理温度として想定し、消色剤のガラス転移点以下である5℃に5分保持した後、30℃/分で示温材のガラス転移点以上の25℃まで昇温し、その状態での温度検知材料の色濃度の時間変化を観察した。その結果を、図9及び図10に示す。図9の画像、および図10の色濃度データより、25℃の温度下において、実施例1・比較例1ともに、温度検知材料が時間とともに顕色していく様子が確認された。これは25℃という温度が、消色剤のガラス転移点以上であり、示温材が結晶化したためである。
【0100】
実施例1と比較例1において、色濃度が増加していく様子に顕著な変化が見られなかったことから、実施例1の接着剤の塗布工程が温度検知材料の変色特性に影響を与えなかったことが確認できた。
【0101】
(基材との密着性の評価)
実施例1と比較例1の温度インジケータの基材との密着性を調べるために、新東科学製トライボギア表面性測定機TYPE:14FWを用いて、表面引掻きへの耐性を評価した。実施例では、接着剤の上から摺動子を押し当て、比較例では温度検知材料の上から摺動子を押し当て、それぞれ擦り試験を実施した。摺動子として、段ボール片若しくは鉛筆を用い、速度1000mm/min、往復回数10回の条件にて、荷重を5~100gの条件にて変更し、摺動試験を実施した。比較例1では全ての条件で温度検知材料がコート紙から剥離したのに対し、実施例1では全ての条件で温度検知材料および接着剤がコート紙から剥離することなく、接着剤の摩耗もほとんど見られなかった。
【0102】
以上より、実施例1に係る温度インジケータは、時間と温度の積算で色が変化することで温度検知可能であり、マーキング対象物に対して高密着性を有することを確認できた。
【0103】
(比較例2)
実施例1の温度検知材料について、実施例1と同様の手法で被印字対象物であるコート紙に吐出した。その後、接着剤として、ホットメルト接着剤であるTEXYEAR製TY-863H1をBOSCH製ホットボンダーにて加熱塗布することで温度インジケータを作製した。TEXYEAR製TY-863H1は融点が145℃程度であり、200℃での粘度が3Pa・s程度である。接着工程において、接着剤を加熱吐出し温度検知材料に接着する際、接着剤の表面温度をサーモグラフィカメラFLIR E5-XTで測定したところ、約175℃程度であり、温度検知材料が液化してしまった。この温度インジケータの温度検知材料は、25℃の温度下においても消色したままであり、時間とともに顕色していく様子は確認できなかった。
【0104】
(実施例2)
実施例同様に作製した温度検知材料について、実施例と同様の手法にて、被印字対象物であるコート紙に吐出した。その後、接着剤として、ホットメルト接着剤であるMORESCO製MORESCO-MELT(登録商標)TN-286Zを武蔵エンジニアリング製ジェットディスペンサAeroJetにて150℃で加熱し、塗布することで温度インジケータを作製した。MORESCO製MORESCO-MELT TN-286Zは融点が97℃程度であり、140℃での粘度が12Pa・s程度である。接着工程において、接着剤を加熱吐出し温度検知材料に接着する際、接着剤の表面温度をサーモグラフィカメラFLIR E5-XTで測定したところ、約130℃程度であった。これは実施例1の温度検知材料の融点である約120℃よりも高いが、接着剤の粘度が高く温度検知材料が液化する前に接着剤が固化した。この温度インジケータの温度検知材料では、25℃の温度下において、時間とともに顕色していく様子が確認できた。
【符号の説明】
【0105】
1:温度検知材料、2:示温材、3:マトリックス材、4:温度インジケータ、5:基材、6:接着剤、10:コンベア、11:パッケージ、12:マーキング装置、13:接着剤塗布装置、15,16,17:状態。
図1A
図1B
図2A
図2B
図3A
図3B
図4A
図4B
図5
図6
図7A
図7B
図8
図9
図10