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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-12
(45)【発行日】2024-09-24
(54)【発明の名称】ナトリウムイオン電池用の正電極活物質
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/525 20100101AFI20240913BHJP
   H01M 4/505 20100101ALI20240913BHJP
   H01M 4/62 20060101ALI20240913BHJP
   H01M 4/131 20100101ALI20240913BHJP
   H01M 10/054 20100101ALI20240913BHJP
   C01G 53/00 20060101ALI20240913BHJP
【FI】
H01M4/525
H01M4/505
H01M4/62 Z
H01M4/131
H01M10/054
C01G53/00 A
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2021519643
(86)(22)【出願日】2019-10-10
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-01-13
(86)【国際出願番号】 FR2019052414
(87)【国際公開番号】W WO2020074836
(87)【国際公開日】2020-04-16
【審査請求日】2022-10-11
(31)【優先権主張番号】1859417
(32)【優先日】2018-10-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(73)【特許権者】
【識別番号】507308902
【氏名又は名称】ルノー エス.ア.エス.
【氏名又は名称原語表記】RENAULT S.A.S.
【住所又は居所原語表記】122-122 bis, avenue du General Leclerc, 92100 Boulogne-Billancourt, France
(73)【特許権者】
【識別番号】510021203
【氏名又は名称】サントル・ナショナル・ド・ラ・ルシェルシェ・シアンティフィーク(セーエヌエールエス)
【氏名又は名称原語表記】CENTRE NATIONAL DE LA RECHERCHE SCIENTIFIQUE(CNRS)
(73)【特許権者】
【識別番号】517218815
【氏名又は名称】コレージュ ドゥ フランス
(73)【特許権者】
【識別番号】518059934
【氏名又は名称】ソルボンヌ・ユニヴェルシテ
【氏名又は名称原語表記】SORBONNE UNIVERSITE
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】チャキール, モハメド
(72)【発明者】
【氏名】マリヤッパン, サティヤ
(72)【発明者】
【氏名】タラスコン, ジーン-マリー
(72)【発明者】
【氏名】ワン, チン
【審査官】梅野 太朗
(56)【参考文献】
【文献】特表2015-530960(JP,A)
【文献】国際公開第2018/080399(WO,A1)
【文献】特表2018-514908(JP,A)
【文献】特表2016-537294(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M4/00-4/62
H01M10/05-10/0587;10/36-10/39
C01G25/00-47/00;49/10-99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の式(I)
NaNi0.5-yCuMn0.5-zTi (I)
[式中、
xは0.9から1まで増減し;
yは0.05から0.1まで増減し;
zは0.1から0.3まで増減し、
zが0.1に等しく、xが1に等しいならば、yは0.05に等しくないと解される]
を有する、ナトリウムイオン電池用の正電極活物質。
【請求項2】
yが0.06から0.1まで増減することを特徴とする、請求項1に記載の物質。
【請求項3】
zが0.2から0.3まで増減することを特徴とする、請求項1または2に記載の物質。
【請求項4】
xが0.95から1まで増減することを特徴とする、請求項1から3のいずれか一項に記載の物質。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか一項に記載の活物質を製造する方法であって、以下の工程:
(a)遷移金属の酸化物および/または塩から選択される少なくとも1種の化合物を、炭酸ナトリウム、硝酸ナトリウム、酢酸ナトリウム、硫酸ナトリウム、苛性ソーダ、およびNaO、ならびにその混合物から選択される少なくとも1種の前駆体と混合する工程;
(b)工程(a)の後で得られた混合物を、800~1000℃の範囲の温度まで加熱する工程;
(c)前記活物質を回収する工程
を含む、方法。
【請求項6】
請求項1から4のいずれか一項に記載の少なくとも1種の活物質を含む、正電極。
【請求項7】
少なくとも1種の導電性化合物をさらに含むことを特徴とする、請求項6に記載の正電極。
【請求項8】
導電性化合物が、金属粒子、炭素、およびその混合物から選択されことを特徴とする、請求項7に記載の正電極。
【請求項9】
炭素が、グラファイト、カーボンブラック、炭素繊維、カーボンナノワイヤー、カーボンナノチューブまたはカーボンナノスフェアの形態で存在することを特徴とする、請求項8に記載の正電極。
【請求項10】
請求項6から9のいずれか一項に記載の正電極、負電極、セパレータ、および電解質を含むナトリウムイオン電池のセル。
【請求項11】
請求項10に記載の少なくとも1種のセルを含む、ナトリウムイオン電池。
【請求項12】
負電極、セパレータ、電解質、および以下の式(II):
NaNi0.5-rCuMn0.5-tTi (II)
[式中、
pは0.9から1まで増減し;
rは0.05から0.1まで増減し;
tは0.1から0.3まで増減する]
を有する活物質を含む正電極を含むナトリウムイオン電池を充放電サイクルさせる方法であって、
上限電圧から下限電圧までの範囲の電圧での、複数の充放電サイクルの使用を含み、上限電圧が、4.2Vから4.7Vまでの範囲であり、下限電圧が、0.5Vから2.5Vまでの範囲であり、
サイクルが、C/20からCまでの範囲のサイクリング速度で実施され、Cがナトリウムイオン電池のサイクリング速度を示す、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、再充電可能なナトリウムイオン(Naイオン)電池の全般的な分野に関する。
【0002】
本発明は、より正確には、Naイオン電池用の正電極活物質およびそれを含む正電極に関する。
【0003】
本発明は、Naイオン電池を充放電サイクルさせる方法にも関する。
【背景技術】
【0004】
Naイオン電池は、最も有望なリチウムイオン電池の代替案の1つを表し、ナトリウムは、経済的な観点から、特にその豊富さおよびその低コストゆえに、リチウムよりもより多くの関心を集めている。
【0005】
しかし、Naイオン電池セルアセンブリは、試験が実施されたのみであるため、現在プロトタイプとしてのみ考えられ得る。
【0006】
Naイオン電池用の正電極について鋭意研究が実施されてきた。そのような研究により、正電極の2つの主なカテゴリーへの分類がもたらされた。
【0007】
第1のカテゴリーは、ポリアニオン化合物を含有する。これらのポリアニオン化合物の中で、化合物Na(POは、Naイオン電池での使用において、おそらく好適であると認められた。実際に、文献WO2014/009710に記載されるように、それは高湿度条件または高比エネルギーで使用される場合、特に合成が容易であり、安定性であると特徴づけられる。しかし、電極におけるバナジウムの存在によって、中期/長期でのNaイオン電池の使用中に、その毒性の性質をもたらすという問題を引き起こすことがある。さらに、このポリアニオン化合物でより良好な結果が得られるとしても、その相対的に高い分子質量のために、後半の比容量が限定される。
【0008】
第2のカテゴリーは、ナトリウムの層状酸化物を包含する。これらの特定の酸化物は、一般式NaMO(式中、bは1以下であり、Mは少なくとも1種の遷移金属を示す)を有する。これらの層状酸化物は特に、より低い分子質量を有するので、ポリアニオン化合物よりも有望であると考えられる。さらに、ナトリウムの層状酸化物の重量エネルギー密度は、化合物Na(POのものよりも大きい(およそ4.5g/cm対およそ3g/cm)。
【0009】
このように、ナトリウムの層状酸化物について多くの研究がなされてきた。
【0010】
一定数の利点を有する特定の物質が、特に認められた。実際に、文献「Study on the reversible electrode reaction of Na1-xNi0.5Mn0.5 for a rechargeable sodium ion battery」、S.Komaba、N.Yabuuchi、T.Nakayama、A.Ogata、T.Ishikawa、I.Nakai、J.Inorg Chem.51、6211~6220(2012)で記載されたように、物質NaNi0.5Mn0.5は、およそ240mAh/gの理論的な容量を有する。しかし、この物質の容量は、Naイオン電池の充放電サイクルにわたって、低下することが分かる。
【0011】
したがって、ナトリウムイオン電池用の新規の正電極活物質を開発して、容量の低下の問題を克服することを可能にする必要がある。
【0012】
特定の正電極活物質により、充放電サイクルの繰り返しで低下しない、改善された容量を得ることができることを見出した。
【発明の概要】
【0013】
したがって、本発明の目的は、以下の式(I):
NaNi0.5-yCuMn0.5-zTi (I)
[式中、
- xは0.9から1まで増減し;
- yは0.05から0.1まで増減し;
- zは0.1から0.3まで増減し、
zが0.1に等しく、xが1に等しいならば、yは0.05に等しくないと解される]
を有する、ナトリウムイオン電池用の正電極活物質である。
【0014】
本発明の別の目的は、本発明による活物質を調製する方法である。
【0015】
本発明の目的は、本発明による活物質を含む正電極でもある。
【0016】
本発明の別の目的は、本発明による電極を含める、Naイオン電池のセルである。
【0017】
本発明はまた、本発明による、少なくとも1種のセルを含むNaイオン電池にも関する。
【0018】
最後に、本発明はまた、特定の正電極活物質を含むNaイオン電池のための、特定の充放電サイクルさせる方法にも関する。
【0019】
本発明の他の利点および他の特徴は、詳細な説明の考察および添付の図面の考察でより明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】充放電サイクル回数の関数として、Naイオン電池のセルの容量を表すグラフである。
図2】容量の関数として、Naイオン電池のセルの電圧を表すグラフである。
図3】充放電サイクル回数の関数として、Naイオン電池のセルの容量を表すグラフである。
図4】容量の関数として、Naイオン電池のセルの電圧を表すグラフである。
図5】容量の関数として、Naイオン電池のセルの電圧を表すグラフである。
図6】容量の関数として、Naイオン電池のセルの電圧を表すグラフである。
図7】容量の関数として、Naイオン電池のセルの電圧を表すグラフである。
図8】容量の関数として、Naイオン電池のハーフセルの電圧を表すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明の現在の説明において用いられる表現「~から~まで」は、言及される端点のそれぞれを含めるものとして理解されねばならないと明記される。
【0022】
本発明によるNaイオン電池用の正電極活物質は、前述された式(I)を満たす。
【0023】
好ましくは、yは0.06から0.1まで増減し、より好ましくは、yは0.1に等しい。
【0024】
有利には、zは0.2から0.3まで増減する。
【0025】
本発明の特定の一実施形態によれば、xは0.95から1まで増減し、好ましくは、xは1に等しい。
【0026】
本発明の目的は、本発明による活物質を調製する方法であって、以下の工程:
(a)遷移金属の酸化物および/または塩から選択される、少なくとも1種の化合物を、炭酸ナトリウム、硝酸ナトリウム、酢酸ナトリウム、硫酸ナトリウム、苛性ソーダ、およびNaO、ならびにその混合物から選択される、少なくとも1種の前駆体と混合する工程;
(b)工程(a)の後で得られた混合物を、800~1000℃の範囲の温度まで加熱する工程;
(c)前記物質を回収する工程
を含む、方法でもある。
【0027】
好ましくは、化合物は酸化物から選択される。
【0028】
好ましくは、酸化物は、NiO、CuO、Mn、MnO、TiO、およびその混合物から選択される。
【0029】
有利には、前駆体は炭酸ナトリウムである。したがって、好ましくは、NiO、CuO、Mn、MnO、TiO、およびその混合物から選択される酸化物は、炭酸ナトリウムと混合される。
【0030】
好ましい一実施形態によれば、工程(a)の後で得られた混合物は、850~950℃の範囲の温度まで加熱される。
【0031】
好ましくは、工程(b)は、6時間~20時間の範囲、好ましくは9時間~15時間の範囲、より好ましくは11~13時間の範囲の時間長にわたって、特に好ましいようには12時間の時間長にわたって起こる。
【0032】
有利には、工程(b)に、冷却する工程および乾燥させる工程が続く。
【0033】
例えば、混合物は、オーブンで900℃まで12時間加熱され、次いで300℃まで冷却され、次いでオーブンから取り出される。
【0034】
本発明の別の目的は、本発明による活物質を含む正電極である。
【0035】
好ましくは、本発明による正電極は、少なくとも1種の導電性化合物をさらに含む。
【0036】
特定の一実施形態によれば、導電性化合物は、金属粒子、炭素、およびその混合物から選択され、好ましくは炭素である。
【0037】
上記金属粒子は、銀、銅、またはニッケルの各粒子であってもよい。
【0038】
炭素は、グラファイト、カーボンブラック、炭素繊維、カーボンナノワイヤー、カーボンナノチューブ、カーボンナノスフェアの形態、好ましくはカーボンブラックの形態であってもよい。
【0039】
特に、本発明による正電極は、有利には、Timcalによって販売されるカーボンブラックSuperC65(登録商標)を含む。
【0040】
好ましくは、本発明による活物質の含有量は、正電極の全重量に対して、50重量%から90重量%まで、好ましくは70重量%から90重量%まで増減する。
【0041】
有利には、導電性化合物の含有量は、正電極の全重量に対して、10重量%から50重量%まで、好ましくは10重量%から30重量%まで、より好ましくは15重量%から25重量%まで増減する。
【0042】
本発明は、本発明による活物質を含む正電極、負電極、セパレータ、および電解質を含むNaイオン電池のセルにも関する。
【0043】
好ましくは、電池セルは、電極間に位置し、電気絶縁体として作用するセパレータを含む。いくつかの物質をセパレータとして使用することができる。セパレータは、一般に、多孔質ポリマー、好ましくは、ポリエチレンおよび/またはポリプロピレンからなる。それらは、ガラスマイクロファイバー製であってもよい。
【0044】
有利には、使用されるセパレータは、Whatmanによって販売される、CAT番号1823-070(登録商標)ガラスマイクロファイバー製のセパレータである。
【0045】
好ましくは、上記電解質は液体である。
【0046】
この電解質は、1種または複数のナトリウム塩および1種または複数の溶媒を含むことができる。
【0047】
ナトリウム塩(複数可)は、NaPF、NaClO、NaBF、NaTFSI、NaFSI、およびNaODFBから選択することができる。
【0048】
ナトリウム塩(複数可)は、好ましくは、非プロトン性極性溶媒、例えば、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、ならびにメチルカーボネートおよびエチルカーボネートから選択される、1種または複数の溶媒に溶解させる。
【0049】
有利には、電解質は、1Mのナトリウム塩NaPFとの混合物中にプロピレンカーボネートを含む。
【0050】
本発明の目的は、前述されたように、少なくとも1種のセルを含むNaイオン電池でもある。
【0051】
本発明は、負電極、セパレータ、電解質、および以下の式(II):
NaNi0.5-rCuMn0.5-tTi (II)
[式中、
- pは0.9から1まで増減し;
- rは0.05から0.1まで増減し;
- tは0.1から0.3まで増減する]
を有する活物質を含む正電極を含むナトリウムイオン電池を充放電サイクルさせる方法であって、
上限電圧から下限電圧までの範囲の電圧での、複数の充放電サイクルの使用を含み、上限電圧が、4.2Vから4.7Vまでの範囲であり、好ましくは4.4Vから4.6Vまでの範囲であり、より好ましくは4.5Vに等しく、下限電圧が、0.5Vから2.5Vまでの範囲であり、好ましくは1.5Vから2.5Vまでの範囲であり、より好ましくは2Vに等しく、
サイクルが、C/20からCまでの範囲のサイクリング速度で実施され、Cがナトリウムイオン電池のサイクリング速度を示す、
方法にも関する。
【0052】
Naイオン電池を充放電サイクルさせる方法における、4.2から4.7までの上限電圧の使用によって、より低い上限電圧、例えば4.1V未満の使用に関して、正極電解液相間(CEI)と称される、より保護的な固体の安定な層が生じる。正極と電解質との間に位置する、このCEIは、ナトリウムイオンを極めて適切に導くだけでなく、電解質の触媒分解を止める利点も有するので、Naイオン電池の的確な作動のための重要な要素である。
【0053】
有利には、式(II)を有する活物質は、式(I)を有する。
【0054】
好ましくは、サイクリング速度はC/10である。
【0055】
本発明は、以下の実施例によって、非限定的に説明される。
【実施例
【0056】
実施例1
I.電気化学セルの作製
1.活物質の合成
1.1 活物質NaNi0.5Mn0.5の合成
NiO373.45mg、MnO434.7mg、および炭酸ナトリウム529.95mgを添加する。温度を、3℃毎分の速度で850℃まで到達させ、次いで全体を、オーブンで、850℃で12時間か焼する。次いで、混合物を1℃毎分の速度で300℃まで冷却する。この比較活物質を物質Aと称する。
【0057】
1.2 活物質NaNi0.5Mn0.4Ti0.1の合成
NiO373.45mg、Mn315.74mg、TiO79.87mg、および炭酸ナトリウム529.95mgを添加する。温度を、3℃毎分の速度で900℃まで到達させ、次いで全体を、オーブンで、900℃で12時間か焼する。次いで、混合物を1℃毎分の速度で300℃まで冷却する。この比較活物質を物質Bと称する。
【0058】
1.3 活物質NaNi0.44Cu0.06Mn0.4Ti0.1の合成
NiO328.64mg、CuO47.73mg、Mn315.74mg、TiO79.87mg、および炭酸ナトリウム529.95mgを添加する。温度を、3℃毎分の速度で900℃まで到達させ、次いで全体を、オーブンで、900℃で12時間か焼する。次いで、混合物を1℃毎分の速度で300℃まで冷却する。この本発明による活物質を物質Cと称する。
【0059】
1.4 活物質NaNi0.4Cu0.1Mn0.4Ti0.1の合成
NiO286.76mg、CuO79.55mg、Mn315.74mg、TiO79.87mg、および炭酸ナトリウム529.95mgを添加する。温度を、3℃毎分の速度で900℃まで到達させ、次いで全体を、オーブンで、900℃で12時間か焼する。次いで、混合物を1℃毎分の速度で300℃まで冷却する。この本発明による活物質を物質Dと称する。
【0060】
1.5 活物質NaNi0.45Cu0.05Mn0.3Ti0.2の合成
NiO345.11mg、CuO39.78mg、Mn236.81mg、TiO159.74mg、および炭酸ナトリウム529.95mgを添加する。温度を、3℃毎分の速度で900℃まで到達させ、次いで全体を、オーブンで、900℃で12時間か焼する。次いで、混合物を1℃毎分の速度で300℃まで冷却する。この本発明による活物質を物質Eと称する。
【0061】
1.6 活物質NaNi0.45Cu0.05Mn0.2Ti0.3の合成
NiO345.11mg、CuO39.78mg、Mn157.87mg、TiO239.61mg、および炭酸ナトリウム529.95mgを添加する。温度を、3℃毎分の速度で900℃まで到達させ、次いで全体を、オーブンで、900℃で12時間か焼する。次いで、混合物を1℃毎分の速度で300℃まで冷却する。この本発明による活物質を物質Fと称する。
【0062】
2.正電極の作製
これらの物質を用いて、EN-A、EN-B、EN-C、EN-D、EN-E、およびEN-Fとそれぞれ称される、6種の正電極を作製した。正電極EN-Aおよび正電極EN-Bは、比較電極である。電極EN-Cから電極EN-Fは、本発明による電極である。
【0063】
正電極EN-Aは、空気に暴露されることなく、オーブンからグローブボックスに直接移される活物質A80重量%、およびカーボンブラックSuperC65(登録商標)20重量%を混合し、次いで混合物を、SPEX8000M混合機を用いて30分間すりつぶすことによって製造される。
【0064】
他の正電極EN-Bから正電極EN-Fは、活物質Bから活物質Fそれぞれ80重量%、およびカーボンブラックSuperC65(登録商標)20重量%を混合し、次いで混合物を正電極EN-Aの場合と同様にすりつぶすことによって製造される。活物質Aの場合と同様に、活物質Bから活物質Fは、空気に暴露されることなく、オーブンからグローブボックスに直接移される。
【0065】
3.電気化学セルのアセンブリ
次いで、正電極EN-Aから正電極EN-Fをそれぞれ含む、6種の電気化学セルを作製した。セルは、それぞれCE-A、CE-B、CE-C、CE-D、CE-E、およびCE-Fと称する。
【0066】
電気化学セルのアセンブリは、2032型のボタン型セルで構成されるデバイスを用いて、グローブボックスにおいて実施される。セルのそれぞれは、セパレータ、負電極、および電解質を含む。
【0067】
3.1 セルCE-Aのアセンブリ
正電極
次いで、粉末形態の、質量8.13mgの電極EN-Aを、セルCE-Aに設置された、アルミニウム製のシートにわたって広げる。
【0068】
セパレータ
充放電サイクル中の、正電極と負電極との間の任意の短絡を避けるために、CAT番号1823-070(登録商標)ガラスマイクロファイバー製の、2層のセパレータを使用する。これらのセパレータは、直径16.6mmおよび厚さ400μmに準じて切断される。
【0069】
負電極
1cmの電極は、アルミニウム製の集電体の膜に被覆硬質炭素のディスクを突き刺すことによって得られる。硬質炭素の活物質は、およそ5.20mg/cmである。
【0070】
電解質
使用される電解質は、プロピレンカーボネート中に溶解させた、1MのNaPFからなる溶液を含む。
【0071】
3.2 セルCE-BからセルCE-Fのアセンブリ
正電極
次いで、粉末形態の、それぞれ、質量8.50mg、9.35mg、9.36mg、9.35mg、および8.75mgの電極EN-Bから正電極EN-Fを、セルCE-BからセルCE-Fそれぞれに設置された、アルミニウム製のシートにわたって広げる。
【0072】
セパレータ、負電極、および電解質は、セルCE-Aで使用されるものと同じである。
【0073】
II.電気化学試験
1.比較セルCE-A
定電流サイクリング(Galvanostatic cycling)は、4.2Vから1.5Vまでの範囲の電圧で、BioLogicサイクラーを用いて、サイクリング速度C/20(Cはセルの容量を示す)で実施された。図1で示すように、セルCE-Aの容量は、サイクル回数の関数として測定された。容量の増減が曲線Aで観測される。
【0074】
したがって、容量の劣化は、充放電サイクルと共に観測され得る。およそ130mAh.g-1の容量は、30サイクル後に測定された。
【0075】
2.比較セルCE-B
定電流サイクリングは、4.4Vから1.2Vまでの範囲の電圧で、BioLogicサイクラーを用いて、サイクリング速度C/20で実施された。Cはセルの容量を示す。図2で示すように、セルCE-Bの電圧は、容量の関数として測定された。
【0076】
この図2において、曲線B1は、第1の充放電サイクルに対応する。曲線B2は、第2の充放電サイクルに対応し、第5の充放電サイクルに対応する曲線B5まで同様である。
【0077】
極めて明らかなショルダーが、およそ3.6Vから3.8Vまでの範囲の領域に観測される。相転移の過程に対応する、いくつかのプラトーを、これらの曲線B1から曲線B5において観測することができる。
【0078】
したがって、セルCE-Bの容量の劣化を観測することができる。
【0079】
3.本発明によるセルCE-C
定電流サイクリングは、4.4Vから1.2Vまでの範囲の電圧で、BioLogicサイクラーを用いて、サイクリング速度C/20で実施された。Cはセルの容量を示す。図3で示すように、セルCE-Cの容量はサイクル回数の関数として測定された。容量の増減が曲線Cで観測される。
【0080】
したがって、およそ170mAh.g-1の容量は、20サイクル後に測定された。
【0081】
図1で観測される比較セルCE-Aの容量と比較して、本発明によるセルCE-Cの容量は、充放電サイクルにわたって、より大きく、かつより安定である。
【0082】
したがって、本発明による活物質を含むセルの容量は改善される。
【0083】
さらに、図4で示すように、セルCE-Cの電圧は、容量の関数として測定された。
【0084】
この図4において、曲線C1は、第1の充放電サイクルに対応し、第5の充放電サイクルに対応する曲線C5まで同様である。
【0085】
曲線C1から曲線C5は、曲線B1から曲線B5よりもより線形である。
【0086】
したがって、セルCE-Cの容量の劣化は、セルCE-Bの場合のようには観測されない。実際に、セルCE-Cの容量はより安定である。
【0087】
4.本発明によるセルCE-D
定電流サイクリングは、4.4Vから1.2Vまでの範囲の電圧で、BioLogicサイクラーを用いて、サイクリング速度C/20で実施された。Cはセルの容量を示す。図5で示すように、セルCE-Dの電圧は、容量の関数として測定された。
【0088】
この図5において、曲線D1は、第1の充放電サイクルに対応し、第5の充放電サイクルに対応する曲線D5まで同様である。
【0089】
曲線D1から曲線D5は、曲線B1から曲線B5よりもより線形である。
【0090】
したがって、セルCE-Dの容量の劣化は、セルCE-Bの場合のようには観測されない。実際に、セルCE-Dの容量はより安定である。
【0091】
5.本発明によるセルCE-E
定電流サイクリングは、4.4Vから1.2Vまでの範囲の電圧で、BioLogicサイクラーを用いて、サイクリング速度C/20で実施された。Cはセルの容量を示す。図6で示すように、セルCE-Eの電圧は、容量の関数として測定された。
【0092】
この図6において、曲線E1は第1の充放電サイクルに対応し、第5の充放電サイクルに対応する曲線E5まで同様である。
【0093】
曲線E1から曲線E5は、曲線B1から曲線B5よりもより線形である。
【0094】
したがって、セルCE-Eの容量の劣化は、セルCE-Bの場合のようには観測されない。実際に、セルCE-Eの容量はより安定である。
【0095】
6.本発明によるセルCE-F
定電流サイクリングは、4.4Vから1.2Vまでの範囲の電圧で、BioLogicサイクラーを用いて、サイクリング速度C/20で実施された。Cはセルの容量を示す。図7で示すように、セルCE-Fの電圧は、容量の関数として測定された。
【0096】
この図7において、曲線F1は、第1の充放電サイクルに対応し、第5の充放電サイクルに対応する曲線F5まで同様である。
【0097】
曲線F1から曲線F5は、曲線B1から曲線B5よりもより線形である。
【0098】
したがって、セルCE-Fの容量の劣化は、セルCE-Bの場合のようには観測されない。実際に、セルCE-Fの容量はより安定である。
【0099】
実施例2
I.電気化学ハーフセルの作製
1.活物質NaNi0.45Cu0.05Mn0.4Ti0.1の合成
NiO345.11mg、CuO39.78mg、Mn315.74mg、TiO79.87mg、および炭酸ナトリウム529.95mgを添加する。温度を、3℃毎分の速度で900℃まで到達させ、次いで全体を、オーブンで、900℃で12時間か焼する。次いで、混合物を1℃毎分の速度で300℃まで冷却する。
【0100】
2.正電極の作製
正電極は、空気に暴露されることなく、オーブンからグローブボックスに直接移される活物質NaNi0.45Cu0.05Mn0.4Ti0.180重量%、およびカーボンブラックSuperC65(登録商標)20重量%を混合し、次いで混合物を、SPEX8000M混合機を用いて30分間すりつぶすことによって製造される。
【0101】
3.電気化学ハーフセルのアセンブリ
次いで、上記の正電極を含むハーフセルを作製した。
【0102】
ハーフセルのアセンブリは、直径12mmを有するSwagelok(登録商標)コネクタで構成されるデバイスを用いて、グローブボックスにおいて実施される。ハーフセルは、セパレータ、負電極、および電解質を含む。
【0103】
正電極
粉末形態の、質量10mgの正電極を、ハーフセルに設置されたアルミニウム製のピストンにわたって広げる。
【0104】
セパレータ
充放電サイクル中の、正電極と負電極との間の任意の短絡を避けるために、CAT番号1823-070(登録商標)ガラスマイクロファイバー製の、2層のセパレータを使用する。これらのセパレータは、直径12mmおよび厚さ500μmに準じて切断される。
【0105】
負電極
直径11mmを有するパッドを、金属ナトリウムのシートから切断する。得られたパッドを、ステンレス鋼製の集電体に圧力で接着する。次いで、この集電体をセルのセパレータ薄膜に堆積させる。
【0106】
電解質
使用される電解質は、プロピレンカーボネート中に溶解させた1MのNaPFからなる溶液を含む。
【0107】
II.電気化学試験
2Vから4.5Vまでの範囲の電圧での、複数の充放電サイクルの使用を含む充放電サイクルさせる方法を、サイクリング速度C/10で実施した。
【0108】
図8で示すように、ハーフセルの電圧は、容量の関数として測定された。
【0109】
この図8において、曲線Gは、実施された、複数の充放電サイクルを示す。
【0110】
したがって、ハーフセルの容量は、充放電サイクルの繰り返しにわたって安定である。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8