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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-12
(45)【発行日】2024-09-24
(54)【発明の名称】繊維物品の製造方法
(51)【国際特許分類】
   D04H 1/72 20120101AFI20240913BHJP
   D04H 1/4382 20120101ALI20240913BHJP
【FI】
D04H1/72
D04H1/4382
【請求項の数】 16
(21)【出願番号】P 2021543053
(86)(22)【出願日】2020-08-28
(86)【国際出願番号】 JP2020032652
(87)【国際公開番号】W WO2021039979
(87)【国際公開日】2021-03-04
【審査請求日】2023-06-14
(31)【優先権主張番号】P 2019158820
(32)【優先日】2019-08-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002901
【氏名又は名称】株式会社ダイセル
(74)【代理人】
【識別番号】110000556
【氏名又は名称】弁理士法人有古特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 義隆
(72)【発明者】
【氏名】大村 雅也
(72)【発明者】
【氏名】牧野 純子
(72)【発明者】
【氏名】塚本 裕紀
(72)【発明者】
【氏名】上原 風愛
(72)【発明者】
【氏名】新谷 博昭
【審査官】斎藤 克也
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-188774(JP,A)
【文献】国際公開第2017/009882(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/084119(WO,A1)
【文献】特表2014-525998(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D04H 1/00 - 18/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
連続して紡糸される複数本の第1繊維を搬送しながら、繊維化可能な高分子からなる複数の樹脂粒状物を、前記第1繊維に添着する添着ステップと、
前記複数の樹脂粒状物を添着され且つ連続して紡糸される前記複数本の第1繊維に対し、繊維間隙が縮小するように外力を付与する第1処理ステップと、
前記複数の樹脂粒状物を添着された前記複数本の第1繊維に付与した前記外力を緩和することにより、前記複数の樹脂粒状物から外径が前記第1繊維よりも小さく且つ30nm以上1.0μm以下の範囲の値に設定された第2繊維を形成し、前記第1繊維と前記第2繊維とを含む繊維複合体を形成する第2処理ステップと、を有する、繊維物品の製造方法。
【請求項16】
前記添着ステップでは、ポリテトラフルオロエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリアミドのうちの少なくとも1つからなる前記樹脂粒状物を用いる、請求項1~15のいずれか1項に記載の繊維物品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、繊維物品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
繊維物品は、例えば、流体中から不純物を濾過する濾過部材や、衛生用品等の吸収性部材として用いられる。特許文献1には、異なる種類の繊維を含む繊維物品である不織布が開示されている。本文献には、各種類の繊維を個別に紡糸且つ搬送しながら、一方の繊維の繊維流を他方の繊維の繊維流に挿入することで不織布を製造する製造方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平6-116854号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
異なる種類の繊維を含む繊維物品では、例えば、外径が異なる繊維を組み合わせて嵩高にすることで、各繊維が有する機能をそれぞれ発現させ、繊維物品の性能を向上できる。しかしながら、このような高機能性を有する繊維物品を効率よく製造することは困難な場合がある。この問題は、特に、外径が極細の繊維を用いる場合に顕著となる。
【0005】
そこで本開示は、外径が異なる種類の繊維を組み合わせてなる繊維物品を製造する場合において、高機能を有する嵩高な繊維物品を効率よく製造可能にすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本開示の一態様に係る繊維物品の製造方法は、複数本の第1繊維を搬送しながら、繊維化可能な高分子からなる複数の樹脂粒状物を、前記第1繊維に添着する添着ステップと、前記複数の樹脂粒状物を添着された前記複数本の第1繊維に対し、繊維間隙が縮小するように外力を付与する第1処理ステップと、前記複数の樹脂粒状物を添着された前記複数本の第1繊維に付与した前記外力を緩和することにより、前記複数の樹脂粒状物から外径が前記第1繊維よりも小さく且つ30nm以上1.0μm以下の範囲の値に設定された第2繊維を形成し、前記第1繊維と前記第2繊維とを含む繊維複合体を形成する第2処理ステップと、を有する。
【0007】
上記方法によれば、上記各ステップを行うことで、外径が30nm以上1.0μm以下の範囲の値に設定された極細の第2繊維と、外径が第2繊維よりも太い第1繊維とを含む嵩高な繊維物品を製造できる。また、極細の第2繊維を第1繊維と組み合わせ、第2繊維を第1繊維で支持することにより、例えば第2繊維のみで繊維物品を製造した場合に比べて嵩高な繊維物品を製造できると共に、長期にわたり第2繊維の機能を発揮可能な繊維物品を製造できる。また、例えば第1繊維に分散して添着した複数の樹脂粒状物により第2繊維を形成することで、繊維物品内に第2繊維を均一に分散して配置でき、均一な品質を有する繊維物品を製造できる。
【0008】
また、上記各ステップを行うことで、上記繊維物品を単一の搬送設備で効率よく連続的に製造できる。これにより、第2繊維を形成するための個別の工程を省略でき、製造工程を簡素化して、製造コストを低減できる。結果として、高機能を有する嵩高な繊維物品を効率よく製造できる。
【0009】
前記第1処理ステップでは、前記複数の樹脂粒状物を添加された前記第1繊維に対して前記外力を付与して前記第1繊維を捲縮することによりトウバンドを形成してもよい。これにより、トウバンドを用いながら第1繊維及び第2繊維を含む繊維物品を効率よく製造できる。
【0010】
前記第1処理ステップでは、前記トウバンドを搬送しながら、前記トウバンド中の前記複数の樹脂粒状物を添着された前記複数本の第1繊維に対して、前記外力として張力を搬送方向に付与してもよい。また前記第1処理ステップでは、前記複数本の第1繊維を一対のニップロール間に挿通して前記一対のニップロールにより押圧することで、前記複数の樹脂粒状物を添着された前記第1繊維に対して前記外力を付与してもよい。これにより、第1処理ステップにおいて、第1繊維に外力を効率よく付与できる。
【0011】
前記添着ステップでは、前記複数の樹脂粒状物が分散された分散液を用いてもよい。このように分散液を用いることで、分散液の流動性を利用して、第1繊維の表面の広い範囲に複数の樹脂粒状物を添着し易くできる。
【0012】
前記添着ステップと前記第1処理ステップとの間で、前記第1繊維に添着された前記分散液の少なくとも一部を乾燥する乾燥ステップを更に有していてもよい。これにより、トウバンドを形成する前に分散液の一部を乾燥することで、第1繊維からの樹脂粒状物の脱落量を低減でき、第1繊維と第2繊維との重量比を調整し易くすることができる。また、第1繊維に樹脂粒状物を適切に添着させて、第2処理ステップでの第2繊維の形成を促進できる。
【0013】
前記分散液として、前記複数の樹脂粒状物を水に分散させた水分散液を用いてもよい。これにより、分散液を比較的安価に製造できると共に、分散液を扱い易くすることができる。
【0014】
前記添着ステップでは、前記第1処理ステップにおいて前記第1繊維から脱離した前記分散液を再利用してもよい。これにより、製造コストを更に低減し易くすることができる。
【0015】
前記添着ステップでは、粉体状の前記複数の樹脂粒状物を前記第1繊維に直接添着してもよい。これにより、比較的簡素な方法で、第1繊維に複数の樹脂粒状物を添着できる。
【0016】
前記第1処理ステップでは、前記複数の樹脂粒状物を添着された前記複数本の第1繊維に対し、0.05MPa以上の値に設定されたニップ圧を前記外力として付与してもよい。このようにニップ圧を設定することで、第2繊維を適切に形成し易くできる。
【0017】
前記添着ステップでは、ラメラ構造を有する前記複数の樹脂粒状物を用いてもよい。これにより、第2処理ステップにおいて、複数の樹脂粒状物から第2繊維を形成し易くできる。
【0018】
前記第2処理ステップでは、前記第1繊維の総重量W1と、前記第2繊維及び残留する前記樹脂粒状物を合わせた総重量W2との重量比W1/W2が3.00以上200.00以下の範囲の値に設定された前記繊維複合体を形成してもよい。これにより、第1繊維からなる支持体に第2繊維を安定して担持させ、第2繊維の機能を発揮させ易くすることができる。
【0019】
前記第2処理ステップでは、前記第1繊維の長さ寸法が、前記第2繊維の長さ寸法よりも長い前記繊維複合体を形成してもよい。これにより、例えば、第1繊維を繊維物品の骨格として用い、第1繊維に第2繊維を担持させて、第2繊維の機能を安定して発揮させることができる。
【0020】
前記添着ステップでは、外径が5μm以上50μm以下の範囲の値に設定された前記第1繊維を用いてもよい。これにより、繊維物品の設計自由度を向上できる。
【0021】
前記添着ステップでは、レーヨン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレン、セルロースアセテートのうちの少なくとも1つからなる前記第1繊維を用いてもよい。また前記添着ステップでは、ポリテトラフルオロエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリアミドのうちの少なくとも1つからなる前記樹脂粒状物を用いてもよい。
【0022】
上記方法によれば、第1繊維と第2繊維とを含む繊維物品を効率よく製造できると共に、それぞれ特定の材料からなる第1繊維と第2繊維とを組み合わせることで、第1繊維と第2繊維との各機能を発揮し易くさせることができる。
【発明の効果】
【0023】
本開示の各態様によれば、外径が異なる種類の繊維を組み合わせてなる繊維物品を製造する場合において、高機能を有する嵩高な繊維物品を効率よく製造できる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】第1実施形態に係るトウバンド製造装置の概略図である。
図2図1のトウバンド製造装置により製造されたトウバンドの模式的な断面図である。
図3】第1実施形態に係る繊維物品製造装置の概略図である。
図4図3の第1開繊ロール対と第2開繊ロール対との間を搬送されるトウバンドの模式的な断面図である。
図5図4の繊維物品製造装置により製造された繊維物品の断面図である。
図6】第1実施形態の変形例に係るトウバンド製造装置の概略図である。
図7】第2実施形態に係るトウバンド製造装置の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、各実施形態について図を参照して説明する。
(第1実施形態)
第1実施形態の繊維物品の製造方法は、複数本の第1繊維を搬送しながら、繊維化可能な高分子からなる複数の樹脂粒状物を、第1繊維に添着する添着ステップと、前記複数の樹脂粒状物を添着された前記複数本の第1繊維に対し、繊維間隙が縮小するように外力を付与する第1処理ステップと、前記複数の樹脂粒状物を添着された前記複数本の第1繊維に付与した前記外力を緩和することにより、前記複数の樹脂粒状物から外径が前記第1繊維よりも小さく且つ30nm以上1.0μm以下の範囲の値に設定された第2繊維を形成し、前記第1繊維と前記第2繊維とを含む繊維複合体を形成する第2処理ステップとを有する。この第1処理ステップを行うため、本実施形態では、複数本の第1繊維を捲縮することにより、複数本の第1繊維に前記外力を付与する。以下、この製造方法に用いるトウバンド製造装置及び繊維物品製造装置について説明する。
【0026】
[トウバンド製造装置]
図1は、第1実施形態に係るトウバンド製造装置1の全体図である。図1に示すトウバンド製造装置1は、乾式紡糸法により、第1繊維であるフィラメント61を紡糸する。またトウバンド製造装置1は、複数本のフィラメント61により、ヤーン62、エンド63、及びトウバンド64を製造する。フィラメント61の原料は、例えば選択しようとする紡糸方法でヤーン62、エンド63、及びトウバンド64が適切に得られるものであればよい。本実施形態のフィラメント61は、レーヨン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレン、セルロースアセテートのうちの少なくとも1つからなる。一例としてフィラメント61は、セルロースアセテートからなる。
【0027】
トウバンド製造装置1は、混合装置2、濾過装置3、紡糸ユニット4、油剤添着ユニット5、ゴデットロール6、ガイドピン7、添着装置8、第1乾燥装置9、捲縮装置10、及び第2乾燥装置11を備える。
【0028】
トウバンド製造装置1では、所定の紡糸原液60が用いられる。紡糸原液60は、一例として、セルロースジアセテート等のフレークが、所定濃度で有機溶媒に溶解されてなる。トウバンド製造装置1の駆動時には、紡糸原液60は、混合装置2により混合された後、濾過装置3により濾過される。濾過装置3を通過した紡糸原液60は、紡糸ユニット4の紡糸筒14上に備えられた紡糸口金15が有する複数の紡糸孔15aから吐出される。
【0029】
紡糸孔15aは、周縁形状が所定形状(一例として円形)に形成されている。紡糸孔15aの直径は、製造後のフィラメント61の単繊度(FD)に合わせて適宜設定される。各紡糸孔15aから吐出された紡糸原液60は、不図示の乾燥ユニットから紡糸筒14内に供給される熱風により加熱されて有機溶媒が蒸発することで乾燥する。これにより、固体のフィラメント61が形成される。
【0030】
図1に示すように、1つの紡糸筒14を通過した複数本のフィラメント61は、ガイドピン7により集束されてヤーン62となる。ヤーン62は、油剤添着ユニット5により繊維油剤を添着された後、ゴデットロール6により巻き取られる。その後ヤーン62は、所定の巻取装置により引き取られる。
【0031】
ヤーン62を製造する一連のユニット、即ち、紡糸口金15からの紡糸原液60を吐出してフィラメント61を紡糸する紡糸ユニット4、乾燥ユニット、油剤添着ユニット5、及び、ゴデットロール6を有する巻取ユニットは、併せてステーションと称される。通常では、複数のステーションが、一列に並べて配置されている。
【0032】
各ステーションを通過した複数のヤーン62は、ステーションの配列方向に沿って搬送され、順次集積又は積層される。これにより、複数のヤーン62が収束されて、ヤーン62の偏平な集合体であるエンド(トウ)63が形成される。エンド63は、複数のヤーン62を収束して所定の総繊度(TD)に設定したものである。エンド63は、搬送されて添着装置8へと導かれる。
【0033】
なお、フィラメント61の紡糸法は限定されず、乾式紡糸法以外の方法(例えば溶融紡糸法、湿式紡糸法)であってもよい。フィラメント61の紡糸法は、トウバンド64が適切に得られる方法であればよい。
【0034】
添着装置8は、複数本の第1繊維(ここではエンド63)を搬送しながら、樹脂粒状物66を含む分散液を、フィラメント61に添着する。一例として、添着装置8は、分散液を貯留する貯留部と、貯留部内の分散液を周面に付着させてフィラメント61に添着するように軸支された添着ロールとを有する。本実施形態の分散液は、複数の樹脂粒状物66を水に分散させた水分散液である。分散液は、水以外の液体を含んでいてもよい。
【0035】
樹脂粒状物66は、ラメラ構造を内包する。ここで言うラメラ構造とは、樹脂粒状物66の樹脂を構成する高分子鎖が、連なり且つ折り畳まれた構造を指す。樹脂粒状物66が内包するラメラ構造は、具体的にはこの高分子鎖が数百万単位でリボン状に連なって形成された微細繊維である。樹脂粒状物66の内部には、この微細繊維が折り畳まれて収納されている。
【0036】
樹脂粒状物66は一次粒子であり、複数の樹脂粒状物66が、互いに結合することで二次粒子が構成される。樹脂粒状物66同士が引き離されるように、この二次粒子(言い換えると2つの結合した樹脂粒状物66)に外力を付与すると、樹脂粒状物66内から微細繊維が引き出され、樹脂粒状物66から樹脂繊維66aが形成される。本実施形態の分散液には、複数の樹脂粒状物66からなる一次粒子が、溶媒中に分散した状態で含まれている。添着装置8が分散液をフィラメント61に添着することで、複数の樹脂粒状物66が、フィラメント61の表面に分散して添着される。複数本のフィラメント61に対し、繊維間隙が縮小するように外力を与えることで、異なるフィラメント61の表面に添着した複数の樹脂粒状物66同士が接着する。また、複数本のフィラメント61に付与した前記外力を緩和することで、接着した樹脂粒状物66同士が離隔されて樹脂繊維66aが形成される。
【0037】
本実施形態の樹脂粒状物66は、例えば、重合反応により生成され、ラメラ構造を内包するものであればよい。樹脂粒状物66は、例えば、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリアミドのうちの少なくとも1つからなる。樹脂粒状物66は、一例としてPTFEからなる。
【0038】
この樹脂粒状物66は、ここでは平均粒径が100nm以上100μm以下の範囲の値(一例として約300nm)に設定されている。この平均粒径は、一例として、200nm以上700nm以下の範囲の値がより好ましく、250nm以上400nm以下の範囲の値が一層好ましい。なお平均粒径とは、動的光散乱法による測定結果から算出されるメディアン径(累積50%径(D50))を指す。樹脂粒状物66は、一例として、ペースト押出成形により成形されている。
【0039】
第1乾燥装置9は、フィラメント61に添着された分散液の少なくとも一部を乾燥する。捲縮装置10は、フィラメント61を捲縮する。一例として、捲縮装置10は、一対のニップロールN1,N2と、スタッフィングボックス18とを有する。一対のニップロールN1,N2は、互いの回転軸が平行に配置されている。一対のニップロールN1,N2は、互いの周面間においてエンド63を押圧する。
【0040】
スタッフィングボックス18は、一対のニップロールN1,N2よりも搬送方向Pの後方に配置されている。スタッフィングボックス18は、搬送方向Pに延びる板面を有する一対の板材C1,C2と、付勢部材12とを有する。一対の板材C1,C2は、互いの板面を間隙Gをおいて対向させ且つ間隙Gが、搬送方向Pにおけるスタッフィングボックス18の前方から後方に向けて減少するように配置されている。この間隙G内には、一対のニップロールN1,N2を通過したエンド63(複数本のフィラメント61)が搬送される。
【0041】
付勢部材12は、一例として板材であり、板材C1の板面に沿って、搬送方向Pに垂直な方向に延びている。付勢部材12は、その搬送方向Pの前端が、板材C1の板面に沿った搬送方向Pに垂直な方向に延びる軸線Q周りに回転自在に板材C1に軸支されている。付勢部材12は、板材C2の板面に向けて付勢され、一対の板材C1,C2の間を搬送されるエンド63を押圧する。
【0042】
エンド63は、一対のニップロールN1,N2の間において一対のニップロールN1,N2により押圧された後、スタッフィングボックス18の内部に押し込まれる。エンド63は、板材C1,C2の板面の間で蛇行して搬送されながら、付勢部材12により、板材C2の板面に押圧される。エンド63が板材C1,C2と付勢部材12とから受ける力よりも大きな力で、エンド63が一対のニップロールN1,N2によりスタッフィングボックス18内に押し込まれることで、エンド63に捲縮が付与される。エンド63が捲縮装置10を通過することで、トウバンド64が形成される。また、エンド63中の複数のフィラメント61は、捲縮装置10において加圧されることで、繊維間隙が縮小し、フィラメント61に添着された複数の樹脂粒状物66が互いに接合する。これにより、樹脂粒状物66の二次粒子が形成される。
【0043】
捲縮装置10では、フィラメント61を適切に捲縮し、且つ、フィラメント61からの分散液の脱落量を低減するために、一対のニップロールN1,N2のニップ圧を適切な圧力範囲の値に設定することが望ましい。捲縮装置10を通過したトウバンド64は、第2乾燥装置11により更に乾燥される。
【0044】
図2は、図1のトウバンド製造装置1により製造されたトウバンド64の模式的な断面図である。図2に示すように、トウバンド64は、捲縮された複数本のフィラメント61と、トウバンド64の内部に分散し且つフィラメント61に担持された複数の樹脂粒状物66とを有する。フィラメント61の表面は、複数の樹脂粒状物66により部分的に覆われている。複数の樹脂粒状物66は、互いに結合した状態でフィラメント61に担持されている。捲縮されたフィラメント61を用いたことにより、トウバンド64は嵩高に形成されている。
【0045】
トウバンド64のTDとFDとは、適宜設定可能である。一例として、トウバンド64のFDは、1.0以上10.0以下の範囲の値に設定されている。フィラメント61の適度な強度を保持しつつ、適切に繊維間隙を確保する観点から、トウバンド64のFDは、更に2.0以上6.0以下の範囲の値に設定されていることが望ましい。図1に示すように、第2乾燥装置11を通過したトウバンド64は、集積された後に梱包容器19に圧縮梱包されてベール状となる。図1の梱包容器19は、断面構造を示している。
【0046】
[樹脂粒状物66の材料として用いられるPTFE]
次に、樹脂粒状物66の材料として用いられるPTFEについて説明する。このPTFEは、繊維化可能な高分子として構成されている。このようなPTFEは、例えばTFE(テトラフルオロエチレン)の乳化重合、又は懸濁重合から得られた高分子量PTFEである。高分子量PTFEは、変性PTFE及びホモPTFEのうち少なくともいずれかであってもよい。
【0047】
変性PTFEとは、TFEと、TFE以外のモノマー(変性モノマー)とからなる。変性PTFEは、変性モノマーにより均一に変性されたもの、重合反応の初期又は終期に変性されたものが一般的であるが、特に限定されない。変性PTFEは、TFEに基づくTFE単位と、変性モノマーに基づく変性モノマー単位とを含む。
【0048】
また変性モノマー単位とは、変性PTFEの分子構造の一部であり、変性モノマーに由来する部分である。全単量体単位とは、変性PTFEの分子構造における全ての単量体に由来する。変性モノマーは、TFEとの共重合が可能なものであれば、特に限定されない。
【0049】
ここで言う高分子量PTFEの「高分子量」とは、トウバンド64の製造時に繊維化し易く、繊維長の長いフィブリルが得られる分子量であって、標準比重(SSG)が、2.130以上2.230以下の範囲の値であり、溶融粘度が高いために実質的に溶融流動しない分子量を指す。なお繊維化可能なPTFEについては、例えば国際公開第2013/157647号を参照できる。
【0050】
[繊維物品製造装置]
図3は、第1実施形態に係る繊維物品製造装置20の全体図である。図3の梱包容器19は、断面構造を示している。図3に示すように、繊維物品製造装置20は、一例として、収束リング21、第1開繊ユニット22、ターンバッフル23、第2開繊ユニット24、プレテンションロール対25、第1開繊ロール対26、第2開繊ロール対27、第3開繊ユニット28、搬送ロール対29、及び巻取ロール30を備える。
【0051】
収束リング21とターンバッフル23とは、梱包容器19内から繰り上げられたベール状のトウバンド64を第1開繊ユニット22側に案内する。第1開繊ユニット22、第2開繊ユニット24、及び第3開繊ユニット28は、気体(一例として加圧空気)により、トウバンド64をその幅方向に開繊する。プレテンションロール対25、第1開繊ロール対26、及び第2開繊ロール対27は、トウバンド64に搬送方向Pに張力を掛けた状態で、トウバンド64を幅方向と搬送方向Pとに開繊する。
【0052】
プレテンションロール対25は、周面を対向して配置された一対のロールR1,R2を有する。第1開繊ロール対26は、周面を対向して配置された一対のロールR3,R4を有する。第2開繊ロール対27は、周面を対向して配置された一対のロールR5,R6を有する。ロールR3~R6の周面には、一例として、周方向に延びる溝が形成され、トウバンド64を開繊し易いように構成されている。
【0053】
搬送ロール対29は、周面を対向して配置された一対のロールR7,R8を有する。搬送ロール対29は、第2開繊ロール対27を通過したトウバンド64を巻取ロール30側へ搬送する。巻取ロール30は、搬送ロール対29を通過したトウバンド64を巻き取る。
【0054】
繊維物品製造装置20の駆動時には、梱包容器19内から繰り上げられたトウバンド64が、収束リング21に挿通された後、第1開繊ユニット22により幅方向に開繊される。その後トウバンド64は、ターンバッフル23により第2開繊ユニット24側に案内される。
【0055】
次にトウバンド64は、第2開繊ユニット24により更に幅方向に開繊された後、ロールR1,R2間、ロールR3,R4間、及びロールR5,R6間に順に挿通される。トウバンド64は、ロールR1~R6と接触する。一対のロールR5,R6の回転速度は、一対のロールR3,R4の回転速度よりも速い。これによりトウバンド64は、第1開繊ロール対26と第2開繊ロール対27とにより、搬送方向Pに張力を付与されながら、搬送方向Pと幅方向とに開繊される。
【0056】
ここで図4は、図3の第1開繊ロール対26と第2開繊ロール対27との間を搬送されるトウバンド64の模式的な断面図である。図4に示すように、トウバンド64はロール対26,27により搬送方向P(紙面の左右方向)及び幅方向(紙面の垂直な方向)に開繊されることで、フィラメント61及び樹脂粒状物66に搬送方向Pと幅方向とに張力が作用する。これにより、トウバンド64中の複数本のフィラメント61が開繊される。
【0057】
またこのとき、互いに結合している樹脂粒状物66同士を引き離すように樹脂粒状物66に張力(延伸力)が作用することで、樹脂粒状物66中に折り畳まれていた微細繊維が効率よく引き延ばされ、樹脂繊維66aが形成される。これによりトウバンド64は、フィラメント61と樹脂繊維66aとを含む繊維複合体67となる。
【0058】
このように本実施形態では、トウバンド64中の複数本のフィラメント61を開繊しながら、当該開繊時にトウバンド64に付与される張力を利用して樹脂繊維66aを形成できる。従って、樹脂繊維66aを別途形成するための専用の工程や設備が不要である。
【0059】
なお、ここではトウバンド64を開繊する際に樹脂繊維66aを形成したが、樹脂繊維66aは、複数の樹脂粒状物66を添着された複数本のフィラメント61に対して繊維間隙を縮小するように外力を付与した後、この外力を緩和することで形成される。本実施形態では、複数本のフィラメント61に対し、添着装置8により分散液を添着した後に少なくとも1度前記外力を付与した後、この外力を緩和することで、樹脂繊維66aが形成される。従って、例えば、複数の樹脂粒状物66を添着された複数本のフィラメント61に対し、一対のニップロールN1、N2、第1開繊ロール対26、及び第2開繊ロール対27の少なくともいずれかよりニップ圧を前記外力として付与することでも、樹脂繊維66aを形成できる。樹脂繊維66aを形成するためには、例えば上記した外力の少なくとも1つを用いればよい。
【0060】
樹脂繊維66aの外径は、例えば、トウバンド64を開繊する際にトウバンド64に付与される張力により調整できる。例えば、張力を増大させると、樹脂繊維66aの外径を小さく設定でき、且つ、樹脂繊維66aの長さ寸法を長く設定できる。張力を低減すると、樹脂繊維66aの外径を大きく設定でき、且つ、樹脂繊維66aの長さ寸法を短く設定できる。
【0061】
このような調整により、本実施形態では、樹脂繊維66aの外径を30nm以上1.0μm以下の範囲の値に設定できる。図3に示すように、第2開繊ロール対27間を通過した繊維複合体67は、搬送ロール対29のロールR7,R8間に挿通される。一対のロールR7,R8の回転速度は、一対のロールR5,R6の回転速度よりも遅い。これにより、第1開繊ロール対26と第2開繊ロール対27との間で繊維複合体67に搬送方向Pに作用していた張力は、第2開繊ロール対27と搬送ロール対29との間において緩和される。この張力の緩和により、繊維複合体67は嵩高に調整される。
【0062】
搬送ロール対29を通過した繊維複合体67は、巻取ロール30に巻き取られる。この繊維複合体67が所定の長さ寸法に切断されることで、繊維物品65が製造される。図5は、図4の繊維物品製造装置20により製造された繊維物品65の断面図である。
【0063】
図5に示すように、繊維物品65の内部では、樹脂繊維66aは、フィラメント61と絡み合いながらフィラメント61に担持されている。このため、樹脂繊維66aがフィラメント61に比べて細い場合でも、樹脂繊維66aの切断を防止しながら樹脂繊維66aをフィラメント61に担持させることができる。よって、樹脂繊維66aが有する機能を長期間にわたり維持できる。樹脂繊維66aは、トウバンド64の内部全体に拡散するように配置されている。なお繊維物品65の内部には、樹脂繊維66aの形成に伴い、樹脂粒状物66が縮小した部分や、消失した部分も存在する場合がある。
【0064】
繊維物品65は、内部に豊富な繊維間隙を有する状態で、開繊された複数本のフィラメント61により嵩高く形成されている。このため、繊維物品65はふんわりとした良好な触感を有している。繊維物品65は、一例としてシート状である。なお繊維物品65は、シート状の複数の繊維複合体67を重ねて圧着することにより形成されてもよい。この場合、例えば、繊維複合体67の枚数を調節することにより繊維物品65の厚み寸法を設計し易くできる。また繊維物品65は、シート状の複数の繊維複合体67を幅方向に並べて形成されてもよい。この場合、例えば、繊維複合体67の枚数を調節することにより繊維物品65の幅寸法を設計し易くできる。
【0065】
樹脂繊維66aを形成するために複数のフィラメント61に対して付与される外力の値は、適宜設定可能であるが、例えば、0.05MPa以上の値を例示できる。繊維物品65をフィルター用途で用いる場合、複数のフィラメント61に対して付与される外力の値は、例えば0.10Mpa以上の値であることが、良好なフィルター性能を得る上で望ましい。なお外力の上限値は、一例として、1MPa又はこれ以上(例えば数十MPa以上)の値であってもよい。
【0066】
以上のように、繊維物品65は、トウバンド製造装置1と繊維物品製造装置20とを用いた製造方法により製造される。この製造方法は、添着ステップ、第1処理ステップ、及び第2処理ステップを有する。また本実施形態の製造方法は、乾燥ステップを更に有する。
【0067】
添着ステップは、複数本のフィラメント61を搬送しながら、繊維化可能な高分子からなる複数の樹脂粒状物66(本実施形態では、ラメラ構造を内包し且つ互いに結合した複数の樹脂粒状物66を含む分散液)を、フィラメント61に添着するステップである。第1処理ステップは、複数の樹脂粒状物66を添着された複数本のフィラメント61に対し、繊維間隙が縮小するように外力を付与するステップである。
【0068】
また本実施形態の第1処理ステップでは、複数の樹脂粒状物66を添加されたフィラメント61に外力を付与してフィラメント61を捲縮することによりトウバンド64を形成する。また一例として、第1処理ステップでは、トウバンド64を搬送しながら、トウバンド64中の複数の樹脂粒状物66を添着された複数本のフィラメント61に対して、前記外力として張力を搬送方向Pに付与する。
【0069】
また本実施形態の第1処理ステップでは、一例として、複数の樹脂粒状物66を添着された複数本のフィラメント61に対し、0.05MPa以上の値に設定されたニップ圧を更に前記外力として付与する。このニップ圧は、一例として、一対のニップロールN1、N2、第1開繊ロール対26、及び第2開繊ロール対27の少なくともいずれか(ここでは全て)により付与される。これにより、豊富な樹脂繊維66aが形成される。
【0070】
第2処理ステップは、樹脂粒状物66を添着された複数本のフィラメント61に付与した前記外力を緩和することにより、複数の樹脂粒状物66から樹脂繊維66aを形成し、フィラメント61と樹脂繊維66aとを含む繊維複合体67を形成するステップである。
【0071】
乾燥ステップは、添着ステップと第1処理ステップとの間で、フィラメント61に添着された分散液の少なくとも一部を乾燥するステップである。本実施形態では、一例として、第1処理ステップにおいてフィラメント61から脱離した分散液を回収し、回収した分散液を添着ステップで用いる。
【0072】
また繊維複合体67において、フィラメント61の総重量W1と、樹脂繊維66a及び残留する樹脂粒状物66を合わせた総重量W2との重量比W1/W2は、適宜設定が可能である。本実施形態の第2処理ステップでは、一例として、重量比W1/W2が3.00以上200.00以下の範囲の値に設定された繊維複合体67を形成する。これにより繊維物品65では、フィラメント61からなる支持体に樹脂繊維66aを安定して担持させ、樹脂繊維66aの機能を発揮させ易くすることができる。好ましい別の例として、重量比W1/W2としては、9.00以上200以下の範囲の値が挙げられる。この重量比W1/W2の範囲は、PTFEで樹脂粒状物66を構成する場合、繊維複合体67のPTFEの添着濃度の0.5%以上10%以下の範囲の値に相当する。また添着ステップでは、外径が5μm以上50μm以下の範囲の値に設定されたフィラメント61を用いる。これにより、繊維物品の設計自由度を向上できる。
【0073】
なお、重量比W1/W2を上記範囲の値に設定することで、フィラメント61(第1繊維)の総体積V1と、樹脂繊維66a(第2繊維)及び残留する樹脂粒状物66を合わせた総体積V2との体積比V1/V2は、最大値が124.0以下となる。これにより、繊維物品65の内部に繊維間隙を適切に確保しつつ、フィラメント61により樹脂繊維66aを安定して保持しながら、樹脂繊維66aの機能を発揮させ易くできる。
【0074】
また、フィラメント61の長さ寸法と、樹脂繊維66aの長さ寸法とは、適宜設定が可能である。本実施形態の第2処理ステップでは、フィラメント61の長さ寸法が、樹脂繊維66aの長さ寸法よりも長い繊維複合体67を形成する。これにより、例えば、フィラメント61を繊維物品65の骨格として用い、フィラメント61に樹脂繊維66aを担持させて、樹脂繊維66aの機能を安定して発揮させることができる。
【0075】
以上説明したように、本実施形態の製造方法によれば、上記各ステップを行うことで、外径が30nm以上1.0μm以下の範囲の値に設定された極細の樹脂繊維66aと、外径が樹脂繊維66aよりも太いフィラメント61とを含む嵩高な繊維物品65を製造できる。また、極細の樹脂繊維66aをフィラメント61と組み合わせ、樹脂繊維66aをフィラメント61で支持することにより、例えば樹脂繊維のみで繊維物品を製造した場合に比べて嵩高な繊維物品65を製造できると共に、長期にわたり樹脂繊維66aの機能を発揮可能な繊維物品65を製造できる。また、例えばフィラメント61に分散して添着した複数の樹脂粒状物66により樹脂繊維66aを形成することで、繊維物品65内に樹脂繊維66aを均一に分散して配置でき、均一な品質を有する繊維物品65を製造できる。
【0076】
また、上記各ステップを行うことで、繊維物品65を単一の搬送設備で効率よく連続的に製造できる。これにより、樹脂繊維66aを形成するための個別の工程を省略でき、製造工程を簡素化して、製造コストを低減できる。結果として、高機能を有する嵩高な繊維物品65を効率よく製造できる。
【0077】
ここで従来、嵩高な繊維物品を製造しようとした場合、例えば、短繊維からなる繊維シートをニードルパンチ処理する工程や、複数の当該繊維シートを積層して積層体を形成する工程が必要となる。本実施形態では、このような工程が不要である。また本実施形態によれば、従来は両立が困難であった、良好な嵩高さと空隙率とを併せ持つ繊維物品65を比較的簡易且つ効率よく製造できる。また本実施形態によれば、従来は安定した量産が困難であった、外径が1.0μm以下の極細繊維を含み且つ嵩高い繊維物品65を良好に製造できる。
【0078】
また、本実施形態の第1処理ステップでは、複数の樹脂粒状物66を添加されたフィラメント61に前記外力を付与してフィラメント61を捲縮することによりトウバンド64を形成する。これにより、トウバンド64を用いながらフィラメント61及び樹脂繊維66aを含む繊維物品65を効率よく製造できる。
【0079】
また一例として、第1処理ステップでは、トウバンド64を搬送しながらトウバンド64に前記外力として張力を搬送方向に付与する。これにより、第1処理ステップにおいて、フィラメント61に前記外力を効率よく付与できる。
【0080】
また、本実施形態の添着ステップでは、複数の樹脂粒状物66が分散された分散液を用いる。このように分散液を用いることで、分散液の流動性を利用して、フィラメント61の表面の広い範囲に複数の樹脂粒状物66を添着し易くできる。
【0081】
また上記製造方法は、乾燥ステップを有するので、トウバンド64を形成する前に分散液の一部を乾燥することで、フィラメント61からの樹脂粒状物66の脱落量を低減でき、フィラメント61と樹脂繊維66aとの重量比を調整し易くすることができる。また、フィラメント61に樹脂粒状物66を適切に添着させて、第2処理ステップでの樹脂繊維66aの形成を促進できる。
【0082】
また分散液として、複数の樹脂粒状物66を水に分散させた水分散液を用いるため、分散液を比較的安価に製造できると共に、分散液を扱い易くすることができる。また添着ステップでは、第1処理ステップにおいてフィラメント61から脱離した分散液を再利用するので、製造コストを更に低減し易くすることができる。
【0083】
また第1処理ステップでは、一例として、複数の樹脂粒状物66を添着された複数本のフィラメント61に対し、0.05MPa以上の値に設定されたニップ圧を前記外力として付与する。このようにニップ圧を設定することで、樹脂繊維66aを適切に形成し易くできる。
【0084】
また添着ステップでは、ラメラ構造を有する複数の樹脂粒状物66を用いる。これにより、第2処理ステップにおいて、複数の樹脂粒状物66から樹脂繊維66aを形成し易くできる。
【0085】
添着ステップでは、レーヨン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレン、セルロースアセテートのうちの少なくとも1つからなるフィラメント61を用いてもよい。また添着ステップでは、ポリテトラフルオロエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリアミドのうちの少なくとも1つからなる樹脂粒状物66を用いてもよい。
【0086】
上記方法によれば、フィラメント61と樹脂繊維66aとを含む繊維物品65を効率よく製造できると共に、それぞれ特定の材料からなるフィラメント61と樹脂繊維66aとを組み合わせることで、フィラメント61と樹脂繊維66aとの各機能を発揮し易くさせることができる。
【0087】
なお第1処理ステップにおいて、複数本のフィラメント61に対して付与する外力は、フィラメント61を捲縮する際、又は、捲縮したフィラメント61を含むトウバンドを開繊する際以外のタイミングで複数本のフィラメント61に付与する力であってもよい。
【0088】
(変形例)
図6は、第1実施形態の変形例に係るトウバンド製造装置101の概略図である。図6に示すように、トウバンド製造装置101は、添着装置8と第1乾燥装置9とが省略され、代わりに粒状物添加装置(フィーダー)16を備えている。粒状物添加装置16は、捲縮装置10よりも紡糸筒14側(ここでは搬送方向Pのゴデットロール6と捲縮装置10との間)において、フィラメント61に樹脂粒状物66を粉体状のまま添加可能に配置されている。
【0089】
このようなトウバンド製造装置101を用いることで、本変形例の添着ステップでは、粉体状の複数の樹脂粒状物66をフィラメント61に直接添着する。ここで通常、捲縮装置10に導入されるフィラメント61には、水や繊維油剤が添着されている。これにより樹脂粒状物66は、フィラメント61の表面に良好に付着する。この方法によれば、比較的簡素な方法で、フィラメント61に複数の樹脂粒状物66を添着できる。以下、第2実施形態について、第1実施形態との差異を中心に説明する。
【0090】
(第2実施形態)
図7は、第2実施形態に係る繊維物品製造装置201の概略図である。本実施形態では、樹脂粒状物66を含まず且つ捲縮されていないベール状のトウバンド164が用いられる。トウバンド164は、梱包容器119に圧縮梱包されている。
【0091】
図7に示すように、繊維物品製造装置201は、梱包容器119から繰り出されたトウバンド164を搬送方向Pに案内するように分散して配置された複数のガイド部材(一例としてガイドロールR9~R16)と、搬送されるトウバンド164に分散液を添着する添着装置108と、分散液が添着されたトウバンド164をニップ点N3に通過させる一対のニップロールN4、N5と、ニップロールN4,N5を通過したトウバンド164(繊維複合体67)を乾燥する乾燥装置131とを備える。添着装置108の内部では、ディップコート法に基づき、トウバンド164が、ガイドロールR12に案内されて分散液中に浸漬されることで分散液を添着される。添着装置108で分散液が添着され且つ乾燥装置31により乾燥されたトウバンド164は、別の梱包容器120に一旦圧縮梱包される。
【0092】
また繊維物品製造装置201は、梱包容器120から繰り出されたトウバンド164を拡幅する第1開繊ユニット22と、トウバンド164を案内するターンバッフル123と、ターンバッフル123を通過したトウバンド164を拡幅する第2開繊ユニット24と、第2開繊ユニット24を通過したトウバンド164をニップ点N6に通過させる一対のニップロールN7、N8を備える。
【0093】
繊維物品製造装置201によれば、複数の樹脂粒状物66を添着されたトウバンド164がニップロールN4、N5のニップ点N3を通過することで、複数本のフィラメント61に対し、繊維間隙が縮小するように外力(ニップ圧)が付与される。またその後、フィラメント61に付与した外力が緩和される。このとき繊維間隙には、多数の樹脂粒状物66が複数のフィラメント61の表面に分散して添着しており、外力により繊維間隙が縮小することで、異なるフィラメント61の表面に添着した樹脂粒状物66同士が接着される。
【0094】
その後、外力が緩和されて繊維間隙が再び拡大することで、接着された樹脂粒状物66同士が離隔する。これにより、トウバンド164のフィラメント61に添着された樹脂粒状物66から樹脂繊維66aが形成され、繊維複合体67が形成される。樹脂繊維66aは、ニップロールN7、N8のニップ点N6を通過することでも形成される。繊維複合体67は、所定の巻取ロール30に巻き取られる。この巻き取られた繊維複合体67を所定寸法に切断することで繊維物品65が得られる。
【0095】
このように本実施形態の繊維物品65の製造方法は、第1処理ステップでは、複数本のフィラメント61を一対のニップロールN4、N5間に挿通して一対のニップロールN4、N5により押圧することで、樹脂粒状物66を添着されたフィラメント61に対して外力を付与する。このような方法によっても、繊維物品65を効率よく製造できる。また本実施形態によれば、捲縮されていないフィラメント61を用いた繊維物品65が得られるため、繊維物品65の設計自由度を向上できる。なお、本実施形態のようにニップロールN4、N5とニップロールN7、N8とを用いる場合には、例えばニップロールN7、N8を省略してもよい。
【0096】
(確認試験)
第1処理ステップにおいて樹脂繊維66aを形成可能な外力の数値範囲を確認するための確認試験を行った。第1実施形態のトウバンド製造装置1において、一対のニップロールN1、N2の圧力(ニップ圧)を0.05MPa以上0.06MPa以下の範囲で変化させた。また繊維物品製造装置20において、第1開繊ロール対26と第2開繊ロール対27との各圧力(ニップ圧)を0.10MPa以上0.41MPa以下の範囲で変化させた。これにより、実施例1~7の設定条件を準備した。また、一対のニップロールN1、N2、第1開繊ロール対26、及び第2開繊ロール対27のいずれの圧力(ニップ圧)も0MPaとする比較例1を準備した。試験結果を表1に示す。
【0097】
【表1】
【0098】
表1に示すように、比較例1では、樹脂繊維66aは形成不可能である一方、実施例1~7では、いずれも樹脂繊維66aを形成可能であることが確認された。また実施例1~7の各繊維物品65を拡大観察したところ、実施例5~7の繊維物品65は、実施例1~4の繊維物品65に比べて豊富な樹脂繊維66aがより広範囲に分布して形成されていることが確認された。このことから、繊維物品65の製造時において、例えば複数のタイミングで第1処理ステップを行うことで、豊富な樹脂繊維66aが広範囲に分布して形成された繊維物品65を製造し易くできるものと考えられる。
【0099】
各実施形態における各構成及びそれらの組み合わせ等は、一例であって、本開示の趣旨から逸脱しない範囲内で、適宜、構成の付加、省略、置換、及びその他の変更が可能である。本開示は、実施形態によって限定されることはなく、請求の範囲によってのみ限定される。また、本明細書に開示された各々の態様は、本明細書に開示された他のいかなる特徴とも組み合わせることができる。
【0100】
第1実施形態では、トウバンド製造装置1,101により製造されたトウバンド64を梱包容器19に梱包する工程を示したが、トウバンド64を梱包することなく繊維物品製造装置20に導入して、繊維物品65を製造してもよい。また繊維物品製造装置20の構成は、上記したものに限定されない。また、添着ステップで用いる分散液として、例えば、樹脂粒状物66を比較的多く含むスラリーを用いてもよい。また樹脂粒状物66は、ヤーン62又はエンド63を形成する前のフィラメント61に添着されてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0101】
以上のように本開示によれば、外径が異なる種類の繊維を組み合わせてなる繊維物品を製造する場合において、高機能を有する嵩高な繊維物品を効率よく製造できる優れた効果を有する。従って、この効果の意義を発揮できる繊維物品の製造方法に広く適用すると有益である。
【符号の説明】
【0102】
N1、N2、N4、N5、N7、N8 一対のニップロール
P 搬送方向
61 フィラメント(第1繊維)
64、164 トウバンド
65 繊維物品
66 樹脂粒状物
66a 樹脂繊維(第2繊維)
67 繊維複合体
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7