(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-12
(45)【発行日】2024-09-24
(54)【発明の名称】太陽集光器用の薄膜
(51)【国際特許分類】
H01L 31/055 20140101AFI20240913BHJP
H02S 40/22 20140101ALI20240913BHJP
G02B 5/28 20060101ALI20240913BHJP
B32B 7/023 20190101ALI20240913BHJP
【FI】
H01L31/04 622
H02S40/22
G02B5/28
B32B7/023
(21)【出願番号】P 2021571370
(86)(22)【出願日】2020-05-29
(86)【国際出願番号】 IB2020055108
(87)【国際公開番号】W WO2020240491
(87)【国際公開日】2020-12-03
【審査請求日】2023-03-24
(31)【優先権主張番号】102019000007722
(32)【優先日】2019-05-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】IT
(73)【特許権者】
【識別番号】521520809
【氏名又は名称】パワーグラックス ソチエタ レスポンサビリタ リミタータ
【氏名又は名称原語表記】POWERGLAX S.R.L.
【住所又は居所原語表記】Localita Maso Ariol 8,38096 Vallelaghi(Trento),Italy
(74)【代理人】
【識別番号】100159905
【氏名又は名称】宮垣 丈晴
(74)【代理人】
【識別番号】100142882
【氏名又は名称】合路 裕介
(74)【代理人】
【氏名又は名称】吉田 新吾
(74)【代理人】
【識別番号】100132698
【氏名又は名称】川分 康博
(74)【代理人】
【識別番号】100159916
【氏名又は名称】石川 貴之
(72)【発明者】
【氏名】トネッツェール,ミケーレ
(72)【発明者】
【氏名】デカーリ,パオロ
(72)【発明者】
【氏名】ヴィンチェンツィ,ドナート
(72)【発明者】
【氏名】ベルナルドーニ,パオロ
【審査官】丸橋 凌
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2015/0194555(US,A1)
【文献】国際公開第2019/065921(WO,A1)
【文献】特表2010-531067(JP,A)
【文献】特開2013-123037(JP,A)
【文献】特開2013-175513(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第103236462(CN,A)
【文献】特開2013-105752(JP,A)
【文献】特開2017-183720(JP,A)
【文献】国際公開第2005/097939(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 31/04-31/078
G02B 5/20-5/28
H02S 10/00-99/00
B32B 7/023
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
層状ガラスを製造するための薄膜であって、
PVB(ポリビニルブチラル)から製造され、第1屈折率を有し、内部に分散された発色団の添加剤を有する第1プラスチック層(19)と、
前記第1屈折率未満の第2屈折率及び前記第1プラスチック層(19)よりも大きな厚さを有し、添加剤を伴うことなしにPVB(ポリビニルブチラル)から製造され
、前記第1プラスチック層を被覆
する、少なくとも1つの第2透明プラスチック層(18)と、
を含み、
前記第2透明プラスチック層は、前記第1プラスチック層(19)の内側におけるルミナス放射の全反射による閉じ込めを促進するために、前記第1プラスチック層の第1面及び/又は第2面に結合され、
前記第1プラスチック層(19)は、前記発色団の存在によって増大した前記第1屈折率を有する
薄膜層である、
薄膜。
【請求項2】
前記第1プラスチック層(19)は、1μm~150μmの厚さを有する、
請求項1に記載の薄膜。
【請求項3】
前記第2透明プラスチック層(18)は、160μm~3200μmの厚さを有する、
請求項1又は2に記載の薄膜。
【請求項4】
前記第1プラスチック層(19)は、個々の前記第2透明プラスチック層(18)によって前記第1面上及び前記第2面上の両方において被覆される、
請求項1乃至3のいずれか1項に記載の薄膜。
【請求項5】
2つの前記第2透明プラスチック層(18)は同一の厚さを有する、
請求項4に記載の薄膜。
【請求項6】
前記第1プラスチック層(19)は、ペリレン発色団、ナフタレン誘導体(2-(2-エチルヘキシル)-6,7-ジメトシ-1Hベンゾ[デ]イソチノリン-1,3(2H)-ジオン)、ローダミン化合物(C
28H
31ClN
2O
3)、3-ヒドロキシフラボン、及び4-ジシアノメチル-6-ジメチルアミノスチリル-4H-ピラン(DCM)から選択されるルミネセント有機化合物に基づく、1つ又は複数のタイプの発色団を含む、
請求項1乃至5のいずれか1項に記載の薄膜。
【請求項7】
前記第1プラスチック層(19)は、1.0mg/cm
3超の濃度を有する、ルミネセント有機化合物に基づく発色団を含む、
請求項6に記載の薄膜。
【請求項8】
前記第1プラスチック層(19)は、ユーロピウム(Eu)、イットリウム(Y)、ランタン(La)、ガドリニウム(Gd)、エルビウム(Er)、テルビウム(Tb)、ネオジム(Nd)、及びイッテルビウム(Yb)の化合物に基づく発色団から選択されるランタノイド化合物に基づく、1つ又は複数のタイプの発色団を含む、
請求項1乃至7のいずれか1項に記載の薄膜。
【請求項9】
前記第1プラスチック層(19)は、2.0mg/cm
3超の濃度を有する、ランタノイド化合物に基づく発色団を含む、
請求項8に記載の薄膜。
【請求項10】
前記第1プラスチック層(19)は、シリコン(Si)、セレン化カドミウム(CdSe)、硫化鉛(PbS)、セレン化鉛(PbSe)、セレン化亜鉛(ZnSe)、硫化銅インジウム(CuInS
2)、複合系CdSe/CdS、複合系PbS/CdS、銅に基づく複合系(Cu)及びCdSe、マンガンに基づく複合系(Mn)及びZnSeの間から選択されるルミネセント結晶及び/又はナノ結晶に基づく、1つ又は複数のタイプの発色団を含む、
請求項1乃至9のいずれか1項に記載の薄膜。
【請求項11】
前記第1プラスチック層(19)は、0.4mg/cm
3超の濃度を有する、ルミネセント結晶及び/又はナノ結晶に基づく発色団を含む、
請求項10に記載の薄膜。
【請求項12】
前記第1プラスチック層(19)及び前記第2透明プラスチック層(18)は、ローラーラミネーションによって互いに結合される、
請求項1乃至11のいずれか1項に記載の薄膜。
【請求項13】
前記第1プラスチック層(19)は、溶解したPVB(ポリビニルブチラル)の溶液と、有機化合物及び/又はランタノイド系に基づく化合物及び/又は無機結晶
及び/又はナノ結晶に基づく化合物に基づく発色団と、を含む混合体から製造され、
前記第1プラスチック層(19)は、エアブラシ又はロール印刷によって前記混合体を堆積することで得られる、
請求項1乃至12のいずれか1項に記載の薄膜。
【請求項14】
前記第1プラスチック層(19)は、溶解したPVB(ポリビニルブチラル)の溶液と、有機化合物及び/又はランタノイド系に基づく化合物及び/又は無機結晶
及び/又はナノ結晶に基づく化合物に基づく発色団と、を含む混合体から製造され、
前記第2透明プラスチック層(18)は、エアブラシ又はロール印刷によって前記混合体を堆積することで得られる、
請求項1乃至11のいずれか1項に記載の薄膜。
【請求項15】
ガラスの少なくとも2つのシート(2)と、
前記少なくとも2つのシートの間に介在する、請求項1乃至14のいずれか1項に記載の多層薄膜(1)と、
を含む、
層状ガラス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ルミネセント太陽集光器を製造するために設計される薄膜に関し、更に詳しくは、太陽集光器用の多層ルミネセント薄膜に関する。
【背景技術】
【0002】
ルミネセント太陽集光器(以下、LSCと呼称する)は、透明光ルミネセント及び/又は着色物質(以下、発色団と呼称する)によって機能化されたシート又は薄膜に基づいた光起電装置であり、これらは、入射太陽放射の一部分をキャプチャすることができると共にこれを再導入することができる。発色団によって放出された放射の一部分は、全反射の現象に起因して、薄膜/シートの内側でトラップされた状態に留まっている。
【0003】
太陽集光器が十分にスムーズな空気インターフェイスを有する場合には、シート又は薄膜の内側でトラップされた蛍光光の部分は、1つのインターフェイスから他のものへの複数の反射プロセスを経験し、その境界線に到達する。集光器の横方向表面上には、シート/薄膜の内側でトラップされたルミネセンス放射の一部分を電流に変換する光起電セルが存在する。この電流は、有利には、外部ユーザー(照明システム、充電システム、シェーディング又は統合型の照明システム、など)への電力供給に使用されてもよく、ストレージシステム内に保存されてもよく、或いは、配電網に導入されてもよい。
【0004】
フラット光起電システム及び従来の濃縮光起電システム(以下、CPVと呼称する)と比較すると、LSC装置には、多数の且つ重要な利点が存在する。主な利点は以下のとおりである。
a)使用される半導体材料の量の大幅な低減。
b)直接及び拡散太陽放射コンポーネントの使用:太陽放射は、太陽に対して直接的に曝露される(即ち、南に対向する)面と拡散コンポーネントにのみ曝露される(即ち、北に対向する)面との両方においてLSC装置を使用可能であるという利点を結果的に伴って、パネルの位置及び向きとは無関係に、及びキャプチャ表面の傾斜(即ち、水平方向、垂直方向、及び/又は斜め傾斜)とは無関係に、同一の効率によって変換される。
c)外側環境と接触した状態で配置されるコレクタパネルの大きなエリアに起因した良好な熱放散。これは、シートのエッジに結合された光起電レシーバが、低減された温度条件下において機能することを許容しており、このことがこれらに対して高変換効率を付与する(実際の商用半導体の有効性は、動作温度の増大に伴って減少する)。
d)太陽追跡システムの欠如:LSC光起電パネルを従来のCPVパネルとの比較においてユニークなものにしているこの特徴は、一方では装置の建築上の統合を大幅に増大させ、他方では、費用、重量、及び保守活動を相当に低減する。
e)発色団自体の放出スペクトルと光起電セルのスペクトル応答曲線との間の高度なオーバーラップを許容する発色団を識別する可能性:これは、セルが、変換効率を極大化させ及びその過熱及び任意の損傷を極小化しつつ、動作することを許容する。
【0005】
但し、LSC装置の性能は様々な漏洩メカニズムに依存しており、第1のメカニズムは、シートの表面における光子の一部分の反射に起因してルミネセント発色団に到達しない太陽光に関係している。第2の損失メカニズムは、発色団システムに、及び、特に以下の現象に起因しうる。
i)発色団は、高吸収係数を有する特定のスペクトル領域と、その内部でルミナス放射が吸収されずシートの反対側の面まで到達するスペクトル領域と、によって特徴付けられる。
ii)吸収された光子の一部分は、発色団によって再放出されず、及び、熱の形態で放散される。
iii)発色団によって再放出された光は、その内側で発色団が内部的に反射される代わりに、所謂「逃散円錐」を通じて分散されるマトリックスによって屈折されている。
iv)発色団の第2部分による、ルミネセント薄膜の内側に存在する発色団の第1部分によって放出された光子の再吸収。この現象は、ルミネセント物質の放出及び吸収帯域の可能な部分的オーバーラップに起因して発生する。
【0006】
第3の漏洩メカニズムは透明マトリックスに起因しており、及び、以下の潜在的制限を含む。
i)シートの材料は、発色団によって放出される光の波長の範囲全体にわたって完全に透明ではなく、及び、これが光吸収を生成し、従って、性能の損失を生成している。
ii)表面の仕上げの不完全性が、ルミネセントシート/薄膜の外側における屈折を導入し、これにより、光起電セルによって知覚される光度を低減しうる。
【0007】
第4の損失メカニズムは、光起電セルにリンクしており、実際に、これらは、入射光子の波長に依存するスペクトル応答を有し、及び、最適な方式で放出スペクトル全体を変換することができない。
【0008】
大きなストークスシフト(吸収スペクトルのピークと放出スペクトルのピークの間の波長の差)を有する発色団の使用は、発色団の自己吸収、即ち、第2の漏洩メカニズム、の劇的な低減を可能にしている。その一方で、不活性マトリックスによる吸収は、高透明性を有する材料を使用して低減することができる。
【0009】
LSCシートを製造するための最も周知の且つ広範に実験されている方式は、プラスチック材料、特に、ポリメチルメタクリレート(PMMA)又はポリカーボネート(PC)、の透明マトリックス中で発色団を分散させるステップを有する。プラスチック材料の使用は、(ガラスとの関係において)低減された重量及び相対的に大きな多様性及び相対的に低い製造費用という利点を有するが、これは、建築セクタにおける使用に特に適してはおらず、相対的に大きな程度の可燃性、燃焼の場合の煙霧の放出、及び引っ掻きに対する相対的に低い抵抗性は、建築セクタにおけるLSCシステムの適用可能性を大幅に制限する側面を構成している。
【0010】
他方では、ガラス質のマトリックスの内側における発色団の包含は、極めて困難であり、その理由は、発色団複合体は、通常、有機的特性のコンポーネントによって特徴付けられており、及び、これらは、通常150~200℃超の温度で不可逆的に劣化する一方で、ガラスを処理するための温度が格段に高いからである。
【0011】
ルミネセント太陽集光器の一例については、特許文献1(米国特許出願公開第2015/194555号明細書)に記述されており、この場合には、発色団によって機能化された単一層薄膜がガラス又はプラスチック材料の2つのシートの間に挿入されている。蛍光放射の閉じ込めが、外側シートの外側表面と空気の間の屈折率の差に起因して促進されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明の目的は、製造が容易且つ廉価であるルミネセント太陽集光器用の薄膜を提供することにあり、これは、上述の欠点を伴うことなしに建築セクタにおいて使用することができる。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的は、添付の請求項において特徴付けられる、本発明によるルミネセント太陽集光器用の薄膜によって十分に実現される。
【0014】
以下、次の添付図面を参照し、非限定的な例として、本発明について説明する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】ルミネセント太陽集光器(LSC)内で使用される発色団の吸収スペクトル(A)及び放出スペクトル(E)との比較において太陽ソース(S)のスペクトルパワー密度のグラフを示す。
【
図2】本発明に従って製造されたルミネセント太陽集光器(LSC)を示す。
【
図3】本発明に従って製造された及び
図2のルミネセント太陽集光器(LSC)で使用されている多層薄膜を示す。
【
図4】
図2を参照し、色中心によって放出される光線の光学経路を概略的に示す。
【
図5】
図2のルミネセント太陽集光器(LSC)の斜視図である。
【
図6】ペリレンの化合物に基づいた発色団と混合されたPVB(ポリビニルブチラル)のサンプル中で計測された屈折率の増大のグラフを示す。
【発明を実施するための形態】
【0016】
図3を参照すると、参照符号1は、ルミネセント太陽集光器を製造するために設計されたプラスチック薄膜の全体を示す。
【0017】
薄膜1は、その内部で分散された発色団と混合された、及び図示の例では第1層19よりも厚い個々の透明第2層(薄膜)18によって両方の側又は面上でカバーされた、第1プラスチック層(薄膜)19を含む。
【0018】
本発明による薄膜1は、層状ガラスを製造するために好ましくは更に詳しく後述するように設計された、以下において参照される多層薄膜である。
【0019】
第1層19は、1μm~150μmの厚さを有する。
【0020】
それぞれの第2層18は、160μm~3200μmの厚さを有する。好ましくは、それぞれの第2層18は、多層薄膜1の全体厚さが実質的に3200μm未満となるような方式により、実質的に1600μm未満の厚さを有する
好ましくは、2つの第2層18は同一の厚さを有する。
【0021】
第1層19は、好ましくはPVB(ポリビニルブチラル)から製造されている。
【0022】
また、第2層18も、好ましくはPVB(ポリビニルブチラル)から製造されている。
【0023】
有利には、層18及び19は同一の材料から製造されており、且つ第1層内の発色団の存在が材料の屈折率を変更し、これにより、全反射による閉じ込めを促進している。図示されていない一変形実施形態において、第1層19は、個々の第2透明プラスチックカバリング層18と、2つの面のうちの1つのみにおいて結合されている。この場合には、第2層18は、実質的に3600μm未満の厚さを有することが好ましい。
【0024】
図示されていない更なる一変形実施形態において、薄膜1は、この場合にも1~150μmの厚さを有する光学的に活性を有する中間層(層19)を伴って、3つ超の数nの層を含むことができる。
【0025】
上述のすべてのケース(即ち、対称的であるか若しくはそうではない3つ以上の層を有する構造、又は2層若しくは多層構造)において、薄膜1の合計厚さは、層状ガラス内の中間層として後者を含むことができるようなものであり、具体的には、例えば、窓又はカバリングパネルを製造するために、建築作業において使用することができる。
【0026】
従って、
図2~
図5に示されているように、薄膜1は、構造的強度を増大させるように及び破損の場合にガラスの断片の分散を防止するように、結合を最適化するためにガラス2の2つのシートの間に薄膜の形態において介在させることができる。同時に、この結果、本発明による薄膜1が提供された層状ガラスは、バイパスダイオード4の組(任意)、電気コネクタ5、及び光起電セル6を含む既知のタイプのLSC装置と関連しうる。
【0027】
実際に、薄膜1は、太陽放射の一部分を吸収可能である、及びこれを等方性を有するように挿入可能である発色団の存在によって特徴付けられた、ルミネセントプラスチック薄膜である。
【0028】
層状ガラスをもたらすプロセスは、発色団系の非劣化と適合した、加熱されたローラーを使用することにより、或いは、120℃~150℃の温度にてオートクレーブ内で発生しうる、ラミネーションプロセスである。
【0029】
層18(或いは、単一層18)が製造されているPVBは、ロールから切断される一方で、層19が製造されているPVBは、後述する特定のプロセスから到来している。
【0030】
第1に、PVBの本質的な物理-化学プロパティは、発色団をその内側に内蔵するべく、この材料の溶解を許容していないことに留意されたい。従って、溶剤中でPVBを分解させるステップと、発色団粉体を混合するステップと、溶剤の蒸発によって追加されるPVBの後続する再堆積のステップと、を含む技法を使用することが必要である。
【0031】
第1実施形態によれば、第1層19は、ペリレン発色団、ナフタレン誘導体(2-(2-エチルヘキシル)-6,7-ジメトシ-1Hベンゾ[デ]イソチノリン-1,3(2H)-ジオン)、ローダミン化合物(C28H31ClN2O3)、3-ヒドロキシフラボン、4-ジシアノメチル-6-ジメチルアミノスチリル-4H-ピラン(DCM)から好ましくは選択されたルミネセント有機化合物に基づいた発色団の1つ又は複数のタイプ又は種類を含む。
【0032】
このケースにおいては、後述するように、第1層19は、1.0mg/cm3超の発色団の濃度を有するルミネセント有機化合物に基づいた発色団を含む。
【0033】
第2の実施形態によれば、第1層19は、ユーロピウム(Eu)、イットリウム(Y)、ランタン(La)、ガドリニウム(Gd)、エルビウム(Er)、及びテルビウム(Tb)、ネオジム(Nd)、イッテルビウム(Yb)の化合物に基づいた発色団から好ましくは選択されたランタノイド化合物に基づいた発色団の1つ又は複数のタイプ又は種類を含む。
【0034】
このケースにおいては、後述するように、第1層19は、2.0mg/cm3超の発色団の濃度を有するランタノイド化合物に基づいた発色団を含む。
【0035】
第3実施形態によれば、第1層19は、シリコン(Si)、セレン化カドミウム(CeSe)、硫化鉛(PbS)、セレン化鉛(PbSe)、セレン化亜鉛(ZeSe)、硫化銅インジウム(CuInS2)、複合系CdSe/CdS、複合系PbS/CdS、銅に基づいた複合系(Cu)及びCdSe、マンガンに基づいた複合系(Mn)及びZeSeから好ましくは選択されたルミネセント結晶及び/又はナノ結晶に基づいた発色団の1つ又は複数のタイプ又は種類を含む。
【0036】
このケースにおいては、後述するように、第1層19は、0.4mg/cm3超の発色団の濃度を有するルミネセント結晶及び/又はナノ結晶に基づいた発色団を含む。
【0037】
以上を参照し、使用される分子のタイプに応じて閾値超の発色団の密度を有する薄膜層19の製造が、材料の屈折率の大きな変動を結果的にもたらすことが実際に実験的に見出された。
【0038】
図6は、ペリレンの化合物に基づいた発色団と混合されたPVBのサンプル中で計測された屈折率の増大を示している。また、類似の振る舞いは、ナフタレン錯体、ランタノイド錯体、及びコロイド結晶質錯体に基づいた発色団についても見出された。
【0039】
この屈折率における増大の結果として、発色団によって再放出されたルミナス放射は、主には、第1層19の内側に閉じ込められた状態で留まり、これにより、透明層18とのインターフェイスの内側で全反射を経験している。
【0040】
実際に、第1プラスチック層19は第1屈折率を有しており、及び、第2の混合されていない層18は、第1層19の内側でルミナス放射の全反射による閉じ込めを促進するように、第1屈折率未満の第2屈折率を有する。
【0041】
有利には、全反射は、主には、層18との関係における発色団自体の存在によって促進される屈折率の増大に起因して、発色団と混合された層19の内側で発生する。
【0042】
上述のすべての発色団に共通するこの効果が有意であるのは、発色団の既定の濃度超においてのみである。
【0043】
「閾値」濃度は、使用される発色団の種類に従って変化する。
i.有機発色団のケースにおいては、1.1mg/cm3の発色団の閾値濃度が見出されている。
ii.ランタノイドに基づいた発色団のケースにおいては、2.1mg/cm3の発色団の閾値濃度が見出されている。
iii.コロイドナノ結晶に基づいた発色団のケースにおいては、0.5mg/cm3の閾値濃度が見出されている。
【0044】
更なる一実施形態によれば、第1層19は、上述の個々の濃度と共に共存する状態において、上述のタイプ又は種類の1つ又は複数のものの発色団を含むことができる。
【0045】
上述の技法の任意のものによれば、第1層19は、上述のように、有機錯体及び/又はランタノイド系に基づいた錯体及び/又は無機結晶/ナノ結晶に基づいた錯体に基づいた発色団と共に分解及び混合されたPVB(ポリビニルブチラル)の溶液から製造されている。混合体は、第1層19を形成するために不活性基材上でエアブラシ又はロール印刷によって堆積され、次いで、乾燥された後に不活性基材から引き剥がされる。
【0046】
次いで、層19が、ローラーラミネーションによって1つ又は複数の第2層18に結合される。
【0047】
或いは、この代わりに、上述の混合体は、第2層18上に直接的にロール印刷することにより堆積される。
【0048】
後者のケースにおいて、層18及び19の組は、必要に応じて、ローラーラミネーションにより、少なくとも1つの更なる層18の後に結合することもできる。
【0049】
エアブラシを利用した堆積の技法は、広く設計及び産業化されている自動化された装置を利用した大きな表面の堆積を許容するという利点を有する。この堆積技法にリンクされている別の側面は、高表面/容積比率に起因して溶剤の蒸発を促進するというものである。実際に、相対的に大きな厚さを有する層は、溶剤の表面に向かう拡散及び後続の蒸発の相対的に低速のプロセスに起因して、薄膜の固化を得るために格段に長い時間を必要とする。
【0050】
但し、この堆積技法によって得られる層(薄膜)の厚さは極めて低減されており、及び一般には、使用される溶剤の量とは無関係に10μm未満である。堆積後、生成された薄膜は、容易に取り扱われうるような、及び不活性且つ透明な支持基材を必要とするような厚さを有さない。更には、この技法によって製造可能である薄膜の極めて低減された厚さは、層状ガラス用のカプセル化材料としてそれ自体が使用されることにあまり適さないものにしている。これを理由として、上述のように、このようにして得られた層19は、1つ又は複数の層18に結合されている(或いは、層18上に直接的に形成されている)。
【0051】
ロール印刷堆積技法は、層(薄膜)が、低減された溶剤含有量により、一般的に10μm超の厚さを有するように製造されることを許容する。ロール印刷によって製造された薄膜の厚さは、150μm未満であり、一般的には100μm未満である。
【0052】
また、このケースにおいて、薄膜の厚さは、層状ガラスのラミネーションのために直接的に使用されうるようなものではない。また、このケースにおいて、上述のように、このようにして得られた層19は、1つ又は複数の層18に結合されている(或いは、層18上に直接的に形成されている)。
【0053】
第1層19(活性薄膜)を製造するために記述されている技法及び相対的に大きな厚さを有する少なくとも第2透明層18上におけるその接着(或いは、形成)は、多層薄膜1が、層状ガラスを製造するために薄膜として直接的に使用されるのに適した合計厚さを有するように製造されることを許容している。
【0054】
換言すれば、記述されている本発明は、プラスチックマトリックス多層の使用に基づいており、この場合に、1つの層のみ(第1層19)が、発色団と混合されている一方で、少なくとも1つのその他の層(第2層18)は、ガラスの構造、透明性、及び接着プロパティを保証するように最適化されている。この解決策は、露出したガラス表面を有するルミネセントソーラー装置の製造を許容しており、これは、活性材料としてプラスチックマトリックス中に適切に分散された広範囲の発色団系を使用している。
【0055】
本発明から導出される利点の1つは、第1薄層19内の放射の相対的に効果的な閉じ込めに起因して、ルミナス放射11(
図4)を透過する効率を改善しているという点にある。
【0056】
従って、有利には、発色団によって再放出される及び主に第1薄層19の内側に閉じ込められる光11は、ルミナス放射10が層状ガラスの厚さ全体の内側で透過される場合よりも、明らかに良好な方式で透過されている。ガラス2のシートの外側表面は、実際には、粉体の薄層によって塗布又はカバーされていてもよく、従って、蛍光放射10の正しい透過に悪影響を及ぼしうる。その一方で、本発明によれば、ルミナス放射11は、第1層19の内側で閉じ込められた状態に留まっており、その分離インターフェイスは、常に、クリアであり、クリーンであり、及び、埃又は汚れから保護されている。従って、多層薄膜1の及び特に第1層19のエッジは、最適且つ効率的な方式でルミナス放射をLSC装置の光起電セル6に向かって伝達することができる。
【0057】
更に詳しくは、
図2、
図4、及び
図5は、ガラス2の2つのシートの間に内蔵された発色団が豊富な領域をその内側に収容している多層薄膜1を示す。多層薄膜1は、カプセル化の機能のみならず、ルミネセンスを目的とした光学的に活性を有する材料の機能をも実行している。上述の光起電セル6は、ルミナス放射を電気に変換するために、アレイの形態で境界線上に位置決めされている。
【0058】
ガラスシート2の境界線部分は、有利には、シートを固定するための任意の要素が光起電セル6に向かってルミナス放射を透過する効率を低減することを防止するように設計された反射性ストリップ8によってカバーされている。上述のバイパスダイオード4及び上述の電気コネクタ5は、光起電セル6がその上部に収容されている印刷回路9上に取り付けられている。
【0059】
入射太陽放射3は、多層薄膜1の内側に貫通し、及び、部分的に吸収されている。発色団によって吸収された放射の残りの部分7が透過している。多層薄膜1は、第1層19の内側で蛍光放射の大きな部分11を透過している。高屈折率を有する第1層19によって導入される相対的に大きな閉じ込め効果に起因して、ガラス2のシートの内側に閉じ込められるルミナス放射10の部分は、ルミナス放射11の部分よりも相当に小さい強度を有する。この現象は、セル6の周辺領域内に存在する任意の再結合中心から離れたその中央領域で光起電セル6を照明することを可能にする。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0060】
【文献】米国特許出願公開第2015/194555号明細書