(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-12
(45)【発行日】2024-09-24
(54)【発明の名称】回路基板、接合体、及びこれらの製造方法
(51)【国際特許分類】
C04B 37/02 20060101AFI20240913BHJP
H05K 3/38 20060101ALI20240913BHJP
【FI】
C04B37/02 B
H05K3/38 D
(21)【出願番号】P 2022512240
(86)(22)【出願日】2021-03-29
(86)【国際出願番号】 JP2021013392
(87)【国際公開番号】W WO2021200866
(87)【国際公開日】2021-10-07
【審査請求日】2023-06-12
(31)【優先権主張番号】P 2020060861
(32)【優先日】2020-03-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003296
【氏名又は名称】デンカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100185591
【氏名又は名称】中塚 岳
(72)【発明者】
【氏名】湯浅 晃正
(72)【発明者】
【氏名】中村 貴裕
(72)【発明者】
【氏名】江嶋 善幸
(72)【発明者】
【氏名】小橋 聖治
(72)【発明者】
【氏名】西村 浩二
【審査官】神▲崎▼ 賢一
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-051066(JP,A)
【文献】国際公開第2013/094213(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/221493(WO,A1)
【文献】特開2015-030658(JP,A)
【文献】特開2008-044009(JP,A)
【文献】特開2005-252087(JP,A)
【文献】特開平10-251075(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 37/02
H05K 3/38
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
窒化珪素基板と
銅回路板とが銀
と銅と錫とチタンとを含むろう材層を介して接合されている回路基板であって、
EBSP法によって求められる前記ろう材層における銀部のKAM値の平均値が0.55°以下である、回路基板。
【請求項2】
EBSP法によって求められる、前記銅回路板に含まれる銅のKAM値の平均値が0.36°以下である、請求項1に記載の回路基板。
【請求項3】
前記ろう材層が前記
銅回路板の端部から露出する露出部を有し、
前記露出部の長さLの平均値が20μm以上であり、
前記露出部の厚みTの平均値が4~30μmである、請求項1又は2に記載の回路基板。
【請求項4】
窒化珪素基板と
銅板とが銀
と銅と錫とチタンとを含むろう材層を介して接合されている接合体であって、
EBSP法によって求められる前記ろう材層における銀部のKAM値の平均値が0.55°以下である、接合体。
【請求項5】
EBSP法によって求められる、前記銅板に含まれる銅のKAM値の平均値が0.36°以下である、請求項4に記載の接合体。
【請求項6】
前記ろう材層における銀の含有量が70質量%以上であり、
前記ろう材層の厚みTの平均値が4~30μmである、請求項4又は5に記載の接合体。
【請求項7】
窒化珪素基板の主面に銀
と銅と錫と水素化チタンとを含むろう材を塗布する工程と、
前記ろう材を介して前記
窒化珪素基板と
銅板とを重ね合わせて積層体を得る工程と、
前記積層体を750℃以上の焼成温度で10分間以上保持して焼成する工程と、
焼成した積層体を550℃以上且つ750℃未満で10分間以上保持してアニール
して、前記窒化珪素基板と前記銅板とが銀と銅と錫とチタンとを含むろう材層を介して接合され、EBSP法によって求められる前記ろう材層における銀部のKAM値の平均値が0.55°以下である接合体を得る工程と、を有する、接合体の製造方法。
【請求項8】
前記積層体を750℃以上の焼成温度で保持する時間が3時間未満であり、
前記焼成温度から750℃未満になるまで1℃/分以上の降温速度で冷却する、請求項7に記載の接合体の製造方法。
【請求項9】
アニールして得られる前記接合体
の前記銅板に含まれる銅のKAM値の平均値が0.36°以下である、請求項7又は8に記載の接合体の製造方法。
【請求項10】
請求項7~9のいずれか一項に記載の製造方法で得られた接合体における前記
銅板の一部を除去して
銅回路板を形成し、回路基板を得る工程を有する、回路基板の製造方法。
【請求項11】
前記回路基板は、ろう材層が前記
銅回路板の端部から露出する露出部を有し、
前記露出部の長さLの平均値が20μm以上であり、
前記ろう材層の厚みTの平均値が4~30μmである、請求項10に記載の回路基板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、回路基板、接合体、及びこれらの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ロボット及びモーター等の産業機器の高性能化に伴い、パワーモジュールに搭載される半導体素子から発生する熱も増加の一途を辿っている。この熱を効率よく放散させるため、良好な熱伝導を有するセラミックス基板を備える回路基板が用いられている。このような回路基板には、セラミックス基板と金属板の接合時における加熱及び冷却工程、及び使用時のヒートサイクルによって熱応力が発生する。これに伴って、セラミックス基板にクラックが発生したり、金属板が剥離したりする場合がある。
【0003】
一方で、セラミックス回路基板に発生する熱応力を緩和して、信頼性を向上する技術が検討されている。例えば、特許文献1では、ろう材層のCuリッチ相の平均サイズ及び個数密度を所定の範囲とすることで、耐熱サイクル特性を向上することが検討されている。特許文献2では、セラミックス基板と回路パターンとの接合界面に沿ってAgリッチ相を形成することが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】国際公開第2018/221492号
【文献】国際公開第2019/022133号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
回路基板は、用いられる用途に応じて、信頼性に十分に優れることが求められる。例えば、電車の駆動部及び電気自動車等のパワーモジュールの分野では、ヒートサイクルが過酷な条件となっても、優れた信頼性を維持することが求められる。これは、例えば冷却温度が低くなるとセラミックス基板に発生する引張応力が増大し、セラミックス基板にクラックが発生し易くなるためである。そこで、本開示は、ヒートサイクルに対する耐久性に優れる回路基板及びその製造方法を提供する。また、本開示は、ヒートサイクルに対する耐久性に優れる接合体及びその製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の一側面に係る回路基板は、セラミックス基板と金属回路板とが銀を含むろう材層を介して接合されている回路基板であって、EBSP法によって求められるろう材層における銀部のKAM値の平均値が0.55°以下である。
【0007】
ここで、KAM(Kernel Average Misorientation)値とは、結晶粒内における隣接測定点間の方位差を示しており、EBSP(Electron Back Scattering Pattern)法を用いた結晶方位解析により求められる。このKAM値が小さいほど、結晶の歪が小さいといえる。
【0008】
セラミックス基板と金属回路板は、線熱膨張係数が大きく異なるため、セラミックスと金属回路板との接合部には、接合時の温度との差異によって残留応力が生じる。残留応力は、ろう材層に含まれる成分の結晶構造の歪となって現れる。この残留応力が大きくなると、セラミックス基板にクラックが生じやすくなり、ヒートサイクルに対する耐久性が損なわれる。本開示の回路基板は、ろう材層における銀部のKAM値の平均値が十分に小さいため、セラミックス基板と金属回路板の接合部における残留応力が十分に低減されている。したがって、本開示の回路基板は、ヒートサイクルに対する耐久性に優れる。
【0009】
金属回路板は銅回路板であってよい。EBSP法によって求められる、銅回路板に含まれる銅のKAM値の平均値は0.36°以下であってよい。これによって、回路基板の接合部における残留応力を十分に低減し、ヒートサイクルに対する耐久性を一層向上することができる。
【0010】
上記回路基板のろう材層は金属回路板の端部から露出する露出部を有してよい。この場合、露出部の長さLの平均値は20μm以上であり、露出部の厚みTの平均値は4~30μmであってよい。これによって、接合部における応力集中を十分に緩和してヒートサイクルに対する耐久性をさらに向上することができる。
【0011】
本開示の一側面に係る接合体は、セラミックス基板と金属板とが銀を含むろう材層を介して接合されている接合体であって、EBSP法によって求められるろう材層における銀部のKAM値の平均値が0.55°以下である。
【0012】
セラミックス基板と金属板は、線熱膨張係数が大きく異なるため、セラミックスと金属板との接合部には、接合時の温度との差異によって残留応力が生じる。残留応力は、ろう材層に含まれる成分の結晶構造の歪となって現れる。この残留応力が大きくなると、セラミックス基板にクラックが生じやすくなり、ヒートサイクルに対する耐久性が損なわれる。本開示の接合体は、ろう材層における銀部のKAM値の平均値は十分に小さいため、セラミックス基板と金属板の接合部における残留応力が十分に低減されている。したがって、本開示の接合体は、ヒートサイクルに対する耐久性に優れる。このような接合体を用いれば、ヒートサイクルに対する耐久性に優れる回路基板を得ることができる。
【0013】
上記金属板は銅板であってよい。金属板が銅板である場合、EBSP法によって求められる、銅板に含まれる銅のKAM値の平均値が0.36°以下であってよい。これによって、接合体の接合部における残留応力を十分に低減し、ヒートサイクルに対する耐久性を一層向上することができる。
【0014】
上記接合体のろう材層における銀の含有量は70質量%以上であり、ろう材層の厚みTの平均値は4~30μmであってよい。これによって、小型化及び薄型化を図りつつ、接合部に発生する応力を十分に緩和してヒートサイクルに対する耐久性をさらに向上することができる。
【0015】
本開示の一側面に係る接合体の製造方法は、セラミックス基板の主面に銀を含むろう材を塗布する工程と、ろう材を介してセラミックス基板と金属板とを重ね合わせて積層体を得る工程と、積層体を750℃以上の焼成温度で10分間以上保持して焼成する工程と、焼成した積層体を550℃以上且つ750℃未満で10分間以上保持してアニールする工程と、を有する。
【0016】
上記製造方法では、積層体を750℃以上の焼成温度で10分間以上保持して焼成する工程を行った後、焼成した積層体を550℃以上且つ750℃未満で10分間以上保持してアニールしている。通常、750℃以上の焼成温度で焼成して室温まで冷却すると、セラミックス基板と金属板との線熱膨張係数の差異に起因して、接合体の接合部には大きな残留応力が発生する。しかしながら、上記製造方法では、550℃以上且つ750℃未満で10分間以上保持するアニールを行っていることから、接合部の残留応力を緩和することができる。したがって、接合部における残留応力が十分に低減されて、ヒートサイクルに対する耐久性に優れる接合体を製造することができる。
【0017】
上記製造方法において、積層体を750℃以上の焼成温度で保持する時間が3時間未満であり、上記焼成温度から750℃未満になるまで1℃/分以上の降温速度で冷却してよい。これによって、製造効率が向上できるとともに、ろう材に含まれる銀が金属板中に拡散することを抑制できる。これによって、ヒートサイクル特性を向上することができる。
【0018】
アニールして得られる上記接合体は、セラミックス基板と金属板として銅板とが銀を含むろう材層を介して接合されており、EBSP法によって求められるろう材層における銀部のKAM値の平均値が0.55°以下であり、銅板に含まれる銅のKAM値の平均値が0.36°以下であってよい。このような接合体は、ろう材層における銀部及び銅板に含まれる銅のKAM値の平均値が十分に小さいため、セラミックス基板と金属板との接合部における残留応力が十分に低減されている。したがって、ヒートサイクルに対する耐久性に十分に優れる。
【0019】
本開示の一側面に係る回路基板の製造方法は、上述の製造方法で得られた接合体における金属板の一部を除去して金属回路板を形成し、回路基板を得る工程を有する。このようにして得られる回路基板は、上述の接合体を用いていることから、セラミックス基板と金属回路板との接合部における残留応力が十分に低減されている。したがって、ヒートサイクルに対する耐久性に優れる。
【0020】
上記製造方法で得られる回路基板のろう材層は金属回路板の端部から露出する露出部を有してよい。この場合、露出部の長さLの平均値は20μm以上であり、ろう材層の厚みTの平均値は4~30μmであってよい。これによって、小型化及び薄型化を図りつつ、接合部に発生する応力を十分に緩和してヒートサイクルに対する耐久性をさらに向上することができる。
【発明の効果】
【0021】
本開示によれば、ヒートサイクルに対する耐久性に優れる回路基板及びその製造方法を提供することができる。また、ヒートサイクルに対する耐久性に優れる接合体及びその製造方法を提供することができる。このような回路基板及び接合体は、例えばパワーモジュールに好適に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】
図1は、一実施形態に係る回路基板の平面図である。
【
図3】
図3は、一実施形態に係る接合体の斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、場合により図面を参照して、本開示の一実施形態について説明する。ただし、以下の実施形態は、本開示を説明するための例示であり、本開示を以下の内容に限定する趣旨ではない。説明において、同一要素又は同一機能を有する要素には同一符号を用い、場合により重複する説明は省略する。また、上下左右等の位置関係は、特に断らない限り、図面に示す位置関係に基づくものとする。更に、各要素の寸法比率は図示の比率に限られるものではない。
【0024】
図1は、本実施形態の回路基板の平面図である。回路基板100は、セラミックス基板10と、セラミックス基板10の主面10Aに接合されている3つの金属回路板20と、を備える。セラミックス基板10と金属回路板20とは、ろう材層30を介して接合されている。ろう材層30の端部は、金属回路板20の外縁部に沿って露出している。
【0025】
図2は、
図1のII-II線断面図である。
図2は、セラミックス基板10の主面10A,10Bに直交する面で切断したときの回路基板100の断面の一部を示している。セラミックス基板10と一対の金属回路板20との接合部40は、それぞれろう材層30を含む。
【0026】
セラミックス基板10の材質は、特に限定されない。セラミックス基板10に含まれるセラミックスとしては、例えば、窒化珪素、及び窒化アルミニウム等の窒化物系セラミックス、酸化アルミニウム、及び酸化ジルコニウム等の酸化物系セラミックス、炭化珪素等の炭化物系セラミックス、並びに、ほう化ランタン等のほう化物系セラミックス等が挙げられる。金属板を活性金属法で接合する場合、セラミックス基板10の材質は、窒化アルミニウム及び窒化珪素等の非酸化物系セラミックスであってよい。このうち、機械強度、及び破壊靱性の観点から、窒化珪素で構成されるセラミックス基板であってよい。
【0027】
セラミックス基板10の厚みは例えば0.1~3mmであってよく、0.2~1.2mmであってもよく、0.25~1.0mmであってもよい。金属回路板20の厚みは、例えば0.1~1.5mmであってよい。
【0028】
ろう材層30は、銀と、銅と、錫と、チタン、ジルコニウム、ハフニウム及びニオブからなる群より選択される少なくとも一種を含む活性金属と、を含有するAg-Cu-Sn系ろう材で構成されてよい。ろう材層30における銀の含有量は、70質量%以上であってよく、80質量%以上であってよく、85質量%以上であってもよい。これによって、接合部40における残留応力を十分に低減しつつ、ろう材層30の緻密性を向上することができる。
【0029】
ろう材層30における活性金属は、銀及び銅の合計100質量部に対して、0.5~5質量部であってよい。活性金属の含有量を0.5質量部以上とすることで、セラミックス基板10とろう材層30との接合性を向上することができる。一方、活性金属の含有量を5質量部以下とすることで、接合界面に脆弱な合金層が形成されることを抑制できる。活性金属は、水素化物として含まれていてよく、例えば水素化チタン(TiH2)を含んでいてよい。ろう材層30におけるTiH2の含有量は、銀と銅の合計100質量部に対して1~5質量部であってよい。これによって、セラミックス基板10と金属回路板20との接合強度を十分に高くすることができる。
【0030】
ろう材層30における錫は、銀及び銅の合計100質量部に対して、0.5~5質量部であってよい。これによって、残留応力を緩和する効果と、セラミックス基板10に対するろう材の濡れ性の両者を高水準に両立することができる。ろう材層30における銅の含有量は、銀100質量部に対して5~20質量部であってよい。これによって、接合部40における残留応力を十分に低減しつつ、ろう材層30の緻密性を向上することができる。
【0031】
ろう材層30における銀部のKAM(Kernel Average Misorientation)値の平均値は、0.55°以下である。このKAM値の平均値は、接合部40における残留応力を一層低減する観点から、0.53°以下であってよく、0.4°以下であってもよい。銀部のKAM値は、0.01°以上であってよく、0.05°以上であってよく、0.10°以上であってよく、0.20°以上であってよく、0.30°以上であってもよい。これによって、製造時のアニール時間を短くすることができる。
【0032】
KAM値は、銀部の結晶粒内における隣接測定点間の方位差を示す値であり、市販のOIM(Orientation Imaging Microscopy)結晶方位解析装置を用いて、EBSP(Electron Back Scattering Pattern)法によって求められる。OIM結晶方位解析装置に付属している解析ソフトを用いて結晶粒内の方位差を測定してよい。銀部のKAM値の平均値は、ろう材層30の5箇所において測定を行い、それぞれの測定値の算術平均値として求められる。なお、各測定視野において銀以外成分が含まれる場合には、エネルギー分散型X線分析(EDS)によって、銀部と他成分の部分とを分離処理したうえで、銀部のKAM値の平均値を求める。本開示における「銀部」とは、ろう材層のうち、EDSによって銀が検出される領域をいう。
【0033】
金属回路板20は、導電性及び放熱性を向上する観点から、銅回路板であってよい。銅回路板に含まれる銅のKAM値の平均値は0.36°以下であってよく、0.35°以下であってもよい。これによって、接合部40における残留応力を一層低減することができる。銅のKAM値の平均値は、0.01°以上であってよく、0.05°以上であってよく、0.10°以上であってよく、0.20°以上であってよく、0.30°以上であってもよい。これによって、製造時のアニール時間を短くすることができる。銅のKAM値の平均値は、ろう材層30における銀部のKAM値の平均値と同様にして求めることができる。
【0034】
金属回路板20の厚みは、0.1~1.5mmであってよい。放熱性向上の観点から、0.3mm以上であってよく、0.4mm以上であってもよい。金属回路板20の側部28は、
図2に示されるようにセラミックス基板10に近接するにつれて拡がるように形成されていてよい。ただし、金属回路板20の側部の形状は、
図2の形状に限定されない。
【0035】
ろう材層30の端部は、金属回路板20の外縁部において露出している。本開示では、このように金属回路板20に外縁部において金属回路板20に覆われずにはみ出しているろう材層30の端部を、露出部32と称する。露出部32を有することは必須ではないが、露出部32を有することによって、接合部40に生じる応力集中を緩和することができる。これによって、ヒートサイクルに対する耐久性をさらに向上することができる。
【0036】
露出部32の厚みT及び長さLの平均値は、それぞれ、露出部32の任意に選択される5箇所(5視野)で測定される厚みT及び長さLの測定値の算術平均値である。露出部32の長さLの平均値は、20μm以上であってよく、30μm以上であってもよい。セラミックス基板10と金属回路板20の線熱膨張係数の相違に起因して生じる残留応力は、金属回路板20の外縁部に集中する傾向がある。このため、露出部32の長さLの平均値が上述の範囲にあることによって、残留応力の集中が緩和され、ヒートサイクルに対する耐久性をさらに向上することができる。露出部32の長さLの平均値は、回路基板100の小型化を図る観点から、150μm以下であってよく、100μm以下であってよく、75μm以下であってよく、50μm以下であってもよい。
【0037】
露出部32の厚みTの平均値は、4~30μmであってよく、6~20μmであってよく、6~15μmであってもよい。これによって、接合部40における接合強度を十分に高くすることができる。露出部32の厚みTの平均値は、セラミックス基板10と金属回路板20の間にあるろう材層30の厚みの平均値と同じであってよい。ただし、変形例では、露出部32の厚みTの平均値は、セラミックス基板10と金属回路板20の間にあるろう材層30の厚みの平均値とは異なっていてもよい。これらの厚みの平均値は、両方ともに上述の範囲(厚みTの平均値の範囲)にあってよい。一つの視野において、厚みTが露出部32の位置によって異なる場合には、当該視野の厚みTの最大値と最小値の平均値が当該視野の厚みTとなる。
【0038】
金属回路板20は表面部分に、めっき膜を有していてもよい。めっき膜は、耐候性及び半田のぬれ性向上の観点から、Niめっき膜、Ni合金めっき膜、又は金めっき膜であってよい。Niめっき膜は、無電解Niめっき膜であってよい。無電解Niめっき膜は、ニッケルを1~12質量%含有するニッケル-リンめっき膜であってよい。このような無電解Niめっき膜を有することによって、ヒートサイクルに対する耐久性に優れつつ、半田のぬれ性にも優れる回路基板100とすることができる。露出部32も表面部分に同様のめっき膜を有していてもよい。
【0039】
図1では、セラミックス基板10の一方の主面10Aのみを示しているが、セラミックス基板10は、
図2に示すように他方の主面10Bにもろう材層30を介して金属回路板20が接合されている。変形例では、主面10A及び主面10Bの一方には、金属回路板20ではなく、ろう材層を介して放熱板が接合されていてもよい。この場合、金属回路板20と放熱板は同じ材質で構成されていてもよいし、異なる材質で構成されていてもよい。金属回路板20は電気信号を伝達する機能を有するのに対し、放熱板は熱を伝達する機能を有するものであってよい。ただし、放熱板は、電気信号を伝達する機能を有してもよい。
【0040】
放熱板をセラミックス基板の主面に接合するろう材層は、金属回路板を接合するろう材層と同様の組成及び厚みを有していてよい。また、ろう材層30と同様に、放熱板の外縁部からろう材層の端部が露出していてよい。
【0041】
回路基板100は、ろう材層30における銀部のKAM値の平均値が十分に小さいため、セラミックス基板10と金属回路板20の接合部40における残留応力が十分に低減されている。したがって、回路基板100は、ヒートサイクルに対する耐久性に優れる。一例として、回路基板100のヒートサイクル試験後のクラック率は、1面積%未満であってよく、0.5面積%未満であってよく、0.3%面積未満であってもよい。ここでいうヒートサイクル試験は、-55℃にて15分間、25℃にて15分間、150℃にて15分間、25℃にて15分間保持する一連の工程を1サイクルとして、これを2000サイクル行う試験である。また、クラック率は、金属回路板20の面積に対するクラックの面積の比率である。
【0042】
図3は、一実施形態に係る接合体の斜視図である。接合体200は、互いに対向するように配置された一対の金属板11と、一対の金属板11の間にセラミックス基板10を備える。
【0043】
図4は、
図3の接合体200のIV-IV線断面図である。セラミックス基板10の主面10A及び主面10Bには、それぞれ、ろう材層31を介して金属板11が接合されている。すなわち、接合体200は、2つの接合部41を有している。接合体200は、回路基板100の原材料として用いることができる。すなわち、接合体200におけるセラミックス基板10は、回路基板100におけるセラミックス基板10
と同じ組成(材質)、形状及び厚
みであってよい。接合体200における金属板11及びろう材層31の組成(材質)及び厚みも、回路基板100における金属回路板20及びろう材層30と同じであってよい。
【0044】
接合部41を構成するろう材層31における銀部のKAM(Kernel Average Misorientation)値の平均値も、回路基板100のろう材層30における銀部と同様に0.55°以下である。このKAM値の平均値は、接合部41における残留応力を一層低減する観点から、0.53°以下であってよく、0.4°以下であってもよい。ろう材層31における銀部のKAM値の平均値は、0.01°以上であってよく、0.05°以上であってもよい。これによって、製造時のアニール時間を短くすることができる。KAM値の平均値の求め方は、回路基板100のろう材層30における銀部の場合と同じである。
【0045】
金属板11は、導電性及び放熱性を向上する観点から、銅板であってよい。銅板に含まれる銅のKAM値の平均値は0.36°以下であってよく、0.35°以下であってもよい。これによって、接合部41における残留応力を一層低減することができる。銅板における銅のKAM値の平均値は、0.01°以上であってよく、0.05°以上であってもよい。これによって、製造時のアニール時間を短くすることができる。銅板における銅のKAM値の平均値の求め方は、銅回路板に含まれる銅の場合と同じである。
【0046】
金属板11の厚みは、0.1~1.5mmであってよい。放熱性向上の観点から、0.3mm以上であってよく、0.4mm以上であってもよい。なお、セラミックス基板10の主面10A及び主面10Bの両面に金属板11を備えることは必須ではなく、どちらか一方の面にのみ金属板11を備えていてもよい。また、セラミックス基板10の主面10A及び主面10Bの両面に金属板11を備える場合に、2つの金属板11の材質、厚み及び形状等は同一であってよく、互いに異なっていてもよい。ろう材層31は、セラミックス基板10と金属板11の間の全体に設けられていてよく、金属回路板20が形成される部分にのみ設けられていてもよい。
【0047】
接合体200におけるろう材層31における銀部のKAM値の平均値は十分に小さいため、セラミックス基板10と金属板11の接合部41における残留応力が十分に低減されている。したがって、接合体200は、ヒートサイクルに対する耐久性に優れる。このような接合体200を用いて、ヒートサイクルに対する耐久性に優れる回路基板100を得ることができる。
【0048】
本開示の接合体及び回路基板の製造方法の一例を説明する。まず、無機化合物の粉末、バインダ樹脂、焼結助剤、可塑剤、分散剤、及び溶媒等を含むスラリーを成形してグリーンシートを得る工程を行う。
【0049】
無機化合物の例としては、窒化珪素、及び窒化アルミニウム等の窒化物系セラミックス、酸化アルミニウム、及び酸化ジルコニウム等の酸化物系セラミックス、炭化珪素等の炭化物系セラミックス、並びに、ほう化ランタン等のほう化物系セラミックス等が挙げられる。焼結助剤としては、希土類金属、アルカリ土類金属、金属酸化物、フッ化物、塩化物、硝酸塩、及び硫酸塩等が挙げられる。これらは一種のみ用いてもよいし二種以上を併用してもよい。焼結助剤を用いることにより、無機化合物粉末の焼結を促進させることができる。バインダ樹脂の例としては、メチルセルロース、エチルセルロース、ポリビニルアルコール、ポリビニルブチラール、及び(メタ)アクリル系樹脂等が挙げられる。
【0050】
可塑剤の例としては、精製グリセリン、グリセリントリオレート、ジエチレングリコール、ジ-n-ブチルフタレート等のフタル酸系可塑剤、セバシン酸ジ-2-エチルヘキシル等の二塩基酸系可塑剤等が挙げられる。分散剤の例としては、ポリ(メタ)アクリル酸塩、及び(メタ)アクリル酸-マレイン酸塩コポリマーが挙げられる。溶媒としては、エタノール及びトルエン等の有機溶媒が挙げられる。
【0051】
スラリーの成形方法の例としては、ドクターブレード法及び押出成形法が挙げられる。次に、成形して得られたグリーンシートを脱脂して焼結する工程を行う。脱脂は、例えば、400~800℃で、0.5~20時間加熱して行ってよい。これによって、無機化合物の酸化及び劣化を抑制しつつ、有機物(炭素)の残留量を低減することができる。焼結は、窒素、アルゴン、アンモニア又は水素等の非酸化性ガス雰囲気下、1700~1900℃に加熱して行う。これによって、セラミックス基板10を得ることができる。必要に応じてセラミックス基板10はレーザー加工によって端部を切断し、形状を整えてもよい。また、セラミックス基板10の主面10A及び/又は主面10Bにスクライブラインを形成してもよい。
【0052】
上述の脱脂及び焼結は、グリーンシートを複数積層した状態で行ってもよい。積層して脱脂及び焼結を行う場合、焼成後の基材の分離を円滑にするため、グリーンシート間に離型剤による離型層を設けてよい。離型剤としては、例えば、窒化ホウ素(BN)を用いることができる。離型層は、例えば、窒化ホウ素の粉末のスラリーを、スプレー、ブラシ、ロールコート、又はスクリーン印刷等の方法により塗布して形成してよい。積層するグリーンシートの枚数は、セラミックス基板の量産を効率的に行いつつ、脱脂を十分に進行させる観点から、例えば5~100枚であってよく、10~70枚であってもよい。
【0053】
このようにして、
図3及び
図4に示すようなセラミックス基板10が得られる。続いて、セラミックス基板10と、一対の金属板11を用いて接合体を得る工程を行う。具体的には、まず、セラミックス基板10の主面10A及び主面10Bにろう材を塗布し、主面10A及び主面10Bに一対の金属板11をそれぞれ貼り合わせる。金属板11は、セラミックス基板10と同様の平板形状であってよい。
【0054】
ろう材は、セラミックス基板10の主面10A及び主面10Bに、ロールコーター法、スクリーン印刷法、又は転写法等の方法によって塗布する。ろう材は、例えば、銀粉末、銅粉末、錫粉末及び活性金属又はその化合物(水素化物)の粉末、有機溶媒、及びバインダ等を含有する。銀粉末と銅粉末の合計100質量部に対する錫粉末の含有量は0.5~5質量部であってよい。銀粉末と銅粉末の合計100質量部に対する金属水素化物の粉末の含有量は1~8質量部であってよい。ろう材の粘度は、例えば5~20Pa・sであってよい。ろう材における有機溶媒の含有量は、例えば、5~25質量%、バインダ量の含有量は、例えば、2~15質量%であってよい。
【0055】
銀粉末としては、例えば比表面積が0.1~0.5m2/gのものを用いてよい。これによって、接合性を向上し、Ag-Cu-Sn系のろう材層の組織の均一性を向上することができる。比表面積の測定はガス吸着法で測定することができる。銅粉末は、Ag-Cu-Sn系のろう材の融解性を向上する作用を有する。錫粉末は、セラミックス基板10に対するろう材の接触角を小さくし、ろう材の濡れ性を向上する作用を有する。
【0056】
ろう材が塗布されたセラミックス基板10の主面10A及び主面10Bに、金属板11を重ね合わせて積層体を得る。続いて、この積層体を加熱炉で焼成する焼成工程を行う。焼成時の炉内温度(焼成温度)は、750℃以上であり、750~950℃であってよく、780~900℃であってもよい。上記焼成温度で保持する時間(焼成時間)は、10分間以上であり、15分間以上であってもよい。上記焼成時間は、金属板11への銀の拡散を抑制する観点から、3時間未満であってよく、90分間未満であってもよい。
【0057】
焼成時の加熱炉内の雰囲気は窒素等の不活性ガスであってよく、大気圧未満の減圧下(1.0×10-3Pa以下)で行ってもよいし、真空下で行ってもよい。このような条件で積層体を焼成することによって、セラミックス基板10と金属板11とを十分に接合させることができる。加熱炉は、複数の接合体を連続的に製造する連続式のものであってもよいし、一つ又は複数の接合体をバッチ式で製造するものであってもよい。加熱は、積層体を積層方向に押圧しながら行ってもよい。
【0058】
次に、焼成した積層体を500℃以上且つ750℃未満の炉内温度で10分間以上保持してアニールするアニール工程を行う。アニール時の炉内温度(アニール温度)は、550℃以上且つ700℃以下であってよく、550℃以上且つ650℃以下であってもよい。アニールの時間は、接合部における残留応力を十分に低減する観点から20分間以上であってよい。アニールの時間は、製造効率を向上する観点から4時間未満であってよい。アニールは、焼成時に用いた加熱炉と同じものを用いてよく、別の加熱炉を用いてもよい。アニールは窒素等の不活性ガス雰囲気下で行ってよく、大気圧未満の減圧下で行ってもよく、真空下で行ってもよい。
【0059】
焼成工程後、炉内を1℃/分以上の降温速度で冷却して、上述のアニール温度にまで下げてよい。これによって、製造効率を向上できるとともに、ろう材に含まれる銀が金属板中に拡散することを抑制できる。同様の観点から、上記降温速度は2℃/分以上であってよく、3℃/分以上であってもよい。一方、熱衝撃を低減する観点から、上記降温速度は20℃/分未満であってよい。
【0060】
以上の工程によって、セラミックス基板10と、その主面10A及び主面10Bに、それぞれろう材層31を介して金属板11が接合された接合体200を得ることができる。この製造方法では、焼成後にアニールする工程を有していることから、接合部41の残留応力を低減することができる。したがって、ヒートサイクルに対する耐久性に優れる接合体200を製造することができる。
【0061】
回路基板を製造する場合、上述の工程で得られた接合体200における金属板11の一部を除去して金属回路板20を形成する工程を行う。この工程は、例えば、フォトリソグラフィによって行ってよい。具体的には、まず、接合体200の主面(金属板11の主面)に感光性を有するレジストを印刷する。そして、露光装置を用いて、所定形状を有するレジストパターンを形成する。レジストはネガ型であってもよいしポジ型であってもよい。未硬化のレジストは、例えば洗浄によって除去する。
【0062】
レジストパターンを形成した後、エッチングによって、金属板のうちレジストパターンに覆われていない部分を除去する。これによって、当該部分にはセラミックス基板10の主面10A及び主面10Bの一部が露出する。その後、レジストパターンを除去すれば、回路基板100が得られる。なお、エッチングの条件又はエッチングの回数を変えることによって、金属回路板20の側部28の形状、並びに、ろう材層30の露出部32の長さL及び厚みTを調整することができる。
【0063】
エッチング液は特に制限はなく、例えば、塩化第二鉄溶液、塩化第二銅溶液、硫酸、及び過酸化水素水等が使用できる。エッチング後、ろう材層等がセラミックス基板10の主面10A及び主面10Bに残存している場合には、ハロゲン化アンモニウム水溶液、硫酸及び硝酸等の無機酸、並びに、過酸化水素水からなる群より選ばれる少なくとも一種を含む溶液を用いて、それらを除去してもよい。レジストパターンの除去方法は特に限定されず、例えばアルカリ水溶液に浸漬する方法によって行ってもよい。
【0064】
このようにして得られる回路基板100は、接合体200を用いていることから、セラミックス基板10と金属回路板20との接合部40における残留応力が十分に低減されている。つまり、回路基板100のろう材層30における銀部のKAM値の平均値と、接合体200のろう材層31における銀部のKAM値の平均値は同等になる。また、回路基板100の金属回路板20に含まれる金属のKAM値の平均値と、接合体200の金属板11に含まれる金属のKAM値の平均値も同等になる。したがって、回路基板100も接合体200と同様にヒートサイクルに対する耐久性に優れる。以上、接合体200及び回路基板100の製造方法の一例を説明したが、これに限定されるものではない。
【0065】
回路基板100は、ヒートサイクルに対する耐久性に優れることから、例えば大電流を扱うパワーモジュールに用いられてよい。
【0066】
以上、本開示の実施形態を説明したが、本開示は上記実施形態に何ら限定されるものではない。例えば、接合体200におけるろう材層31は、
図4に示されるように、金属回路板20となる部分、又は当該部分とその近傍にのみ形成されていてもよい。また、セラミックス基板10の主面10A及び主面10Bの全体を覆うように形成されていてもよい。
図4では、セラミックス基板10の主面10A及び主面10Bの両方にろう材層31及び金属板11が設けられているが、別の例では、どちらか一方のみに、ろう材層31及び金属板11が設けられていてもよい。
【実施例】
【0067】
実施例及び比較例を参照して本開示の内容をより詳細に説明するが、本開示は下記の実施例に限定されるものではない。
【0068】
(実施例1)
[接合体の作製]
ろう材を調製するため、以下の原料粉末を準備した。
銀粉末:福田金属箔粉工業(株)製、Ag-HWQ(商品名)、平均粒子径D50:2.5μm、比表面積0.4m2/g
銅粉末:福田金属箔粉工業(株)製、Cu-HWQ(商品名)、平均粒子径D50:3.0μm、比表面積:0.4m2/g
錫粉末:福田金属箔粉工業(株)製:Sn-HPN(商品名)、平均粒子径D50:3μm、比表面積0.1m2/g
水素化チタン粉末:トーホーテック(株)製、TCH-100(商品名)
【0069】
銀粉末(90質量部)と銅粉末(10質量部)の合計100質量部に対して、錫粉末を1質量部及び水素化チタン粉末を3.5質量部の割合で配合し、有機溶媒、及びバインダ等を添加してろう材を調製した。市販の窒化珪素基板(厚み:0.32mm)の両方の主面に、ろう材を塗布量が8mg/cm2となるようにスクリーン印刷法で塗布した。
【0070】
窒化珪素基板の両方の主面上にそれぞれ銅板(厚さ:0.5mm、純度:99.60%の無酸素銅板(JIS H 3100,C1020))を重ねて積層体を得た。電気炉を用いて、窒素雰囲気中、積層体を860℃の炉内温度で18分間加熱して、ろう材粉末を融解させて、セラミック基板と金属板を接合した(焼成工程)。その後、平均10℃/分の降温速度で炉内温度を600℃まで冷却した。窒素雰囲気中、600℃の炉内温度で10分間保持するアニールを行った(アニール工程)。その後、加熱を停止し、窒素雰囲気中で室温まで自然冷却した。アニール工程後の炉内温度の降温速度の平均値は6℃/分であった。このようにして、セラミックス基板と一対の金属板とがろう材層を介して接合された接合体を作製した。
【0071】
[KAM値の測定]
接合体を樹脂包埋後、コーターマシンを用い、接合体の重心を通るように厚さ方向に沿って切断した。接合体の断面のフラットミリング処理を行い、EBSD測定用の試料を得た。株式会社TSLソリューションズ社製のOIM(Orientation Imaging Microscopy)結晶方位解析装置を用いて切断面のEBSD測定を行った。測定電圧は15kV、ワーキングディスタンスは17mm、試料傾斜角度は70°とした。
【0072】
測定視野は240μm×160μm、測定間距離d=0.2μmとして、ろう材層と銅板のそれぞれについて5箇所でOIM結晶方位解析装置を用いてKAM値を測定した。ろう材層については、EDS測定によってろう材層における銀部と銅部とを分離処理し、銀部のKAM値を求めた。5箇所で測定した銀部のKAM値の平均値は表1に示すとおりであった。また、銅板の5箇所で測定した銅のKAM値の平均値は表1に示すとおりであった。
【0073】
[回路基板の作製]
作製した接合体における銅板の両方の主面の所定箇所にエッチングレジストを印刷し、露光装置を用いて銅板の主面に所定形状を有するレジストパターンを形成した後、塩化第二鉄溶液を用いてエッチングを行った。さらにフッ化アンモニウムと過酸化水素の混合溶液を用いてエッチングを行って、レジストパターンが形成されていない部分を除去し、所定の回路パターンと回路パターンの外縁に沿うろう材層の露出部を形成した。
【0074】
続いて、脱脂、化学研磨による前処理を行った後、ベンゾトリアゾール系化合物を用いて防錆処理を行った。このようにして、
図1に示すような、セラミックス基板と金属回路板とが銀を含むろう材層を介して接合されている回路基板を得た。
【0075】
[露出部の長さLと厚みTの測定]
回路基板におけるろう材層の露出部を、走査型電子顕微鏡(株式会社日立ハイテクノロジーズ製、SU6600形)を用いて観察した。反射電子像観察(倍率:200倍)を、5視野(各視野は、縦400μm×横600μm)で行って、視野毎の露出部の長さと厚みを求めた。視野毎の厚みは露出部の最大厚みと最小厚みの平均値とした。5視野の長さL及び厚みTの平均値を求めた。結果は表1に示すとおりであった。
【0076】
[ヒートサイクル特性の評価]
作製した回路基板のヒートサイクル試験を行った。具体的には、-78℃にて5分間、25℃にて5分間、350℃にて5分間、25℃にて5分間保持する一連の工程を1サイクルとして、これを15サイクル繰り返して行った。その後、塩化第二鉄溶液を用いてエッチングを行った後、フッ化アンモニウムと過酸化水素の混合溶液を用いてエッチングを行って回路パターン及びろう材層を除去した。
【0077】
スキャナーを用い、600dpi×600dpiの解像度で、回路パターン及びろう材層が除去されたセラミックス基板の主面の画像を取得した。画像解析ソフトGIMP2(閾値140)を用いて画像の二値化処理を行って、クラックの面積を算出した。算出したクラック面積を、回路パターンの面積で除してクラック率を求めた。結果は表1に示すとおりであった。
【0078】
(実施例2)
実施例1と同じ手順で積層体を得た。焼成工程及びアニール工程の条件を表2に示すとおりに変更したこと以外は、実施例1と同様にして、セラミックス基板と一対の金属板とがろう材層を介して接合された接合体を作製した。なお、焼成工程及びアニール工程は、真空雰囲気中(1.0×10-3Pa以下)で行った。アニール工程後、加熱を停止し、真空雰囲気中で室温まで自然冷却した。アニール工程後の平均降温速度は3℃/分であった。
【0079】
実施例1と同じ手順で、KAM値の測定、回路基板の作製、露出部の長さLと厚みTの測定、及びヒートサイクル特性の評価を行った。結果は表3に示すとおりであった。
【0080】
(実施例3,4)
実施例1と同じ手順で積層体を得た。焼成工程及びアニール工程の条件を表2に示すとおりに変更したこと以外は、実施例1と同様にして、セラミックス基板と一対の金属板とがろう材層を介して接合された接合体を作製した。アニール工程後、加熱を停止し、真空雰囲気中で室温まで自然冷却した。アニール工程後の炉内温度の降温速度の平均値は6℃/分であった。
【0081】
実施例1と同じ手順で、KAM値の測定、回路基板の作製、露出部の長さLと厚みTの測定、及びヒートサイクル特性の評価を行った。結果は表3に示すとおりであった。
【0082】
(実施例5,6)
ろう材の配合を表1に示すとおりとしたこと以外は、実施例1と同じ手順で積層体を得た。そして、焼成工程及びアニール工程の条件を表2に示すとおりに変更したこと以外は、実施例1と同様にして、セラミックス基板と一対の金属板とがろう材層を介して接合された接合体を作製した。実施例5では、アニール工程後、加熱を停止し、真空雰囲気(1.0×10-3Pa以下)中で室温まで自然冷却した。アニール工程後の炉内温度の降温速度の平均値は3℃/分であった。実施例6では、アニール工程後、加熱を停止し、窒素雰囲気中で室温まで自然冷却した。アニール工程後の炉内温度の降温速度の平均値は6℃/分であった。
【0083】
実施例1と同じ手順で、KAM値の測定、回路基板の作製、露出部の長さLと厚みTの測定、及びヒートサイクル特性の評価を行った。結果は表3に示すとおりであった。
【0084】
(比較例1)
接合体の作製の際に、アニール工程を行わなかったこと以外は、実施例1と同様にして接合体を得た。焼成工程後、室温までの平均降温速度は6℃/分であった。実施例1と同じ手順で、KAM値の測定、回路基板の作製、露出部の長さLと厚みTの測定、及びヒートサイクル特性の評価を行った。結果は表3に示すとおりであった。
【0085】
(比較例2)
ろう材の配合を表1に示すとおりとしたこと以外は、比較例1と同じ手順で接合体を作製した。焼成工程後、室温までの平均降温速度は6℃/分であった。実施例1と同じ手順で、KAM値の測定、回路基板の作製、露出部の長さLと厚みTの測定、及びヒートサイクル特性の評価を行った。結果は表3に示すとおりであった。
【0086】
【0087】
【0088】
【0089】
表3に示すとおり、アニール工程を行った実施例1~6は、比較例1,2よりも、ろう材層及び銅板にそれぞれ含まれる銀部及び銅の結晶歪が小かった。これによって、クラック率が低減できることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0090】
本開示によれば、ヒートサイクルに対する耐久性に優れる回路基板及びその製造方法が提供される。また、ヒートサイクルに対する耐久性に優れる接合体及びその製造方法を提供するヒートサイクルに対する耐久性に優れる回路基板が提供される。
【符号の説明】
【0091】
10…セラミックス基板,10A,10B…主面,11…金属板,20…金属回路板,28…側部,30,31…ろう材層,32…露出部,40,41…接合部,100…回路基板,200…接合体。