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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-12
(45)【発行日】2024-09-24
(54)【発明の名称】超高線量率放射線治療用装置
(51)【国際特許分類】
   A61N 5/10 20060101AFI20240913BHJP
【FI】
A61N5/10 E
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2022515663
(86)(22)【出願日】2020-09-24
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-12-23
(86)【国際出願番号】 EP2020076662
(87)【国際公開番号】W WO2021058624
(87)【国際公開日】2021-04-01
【審査請求日】2023-09-12
(31)【優先権主張番号】19199864.0
(32)【優先日】2019-09-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】513135026
【氏名又は名称】セントレ ホスピタリエ ユニヴェルシテール ヴォードワ (セ.アッシュ.ユ.ヴェ)
【氏名又は名称原語表記】CENTRE HOSPITALIER UNIVERSITAIRE VAUDOIS (C.H.U.V.)
(73)【特許権者】
【識別番号】522092480
【氏名又は名称】セルン - ヨーロピアン オーガナイゼーション フォー ニュークリア リサーチ
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(74)【代理人】
【識別番号】100165157
【弁理士】
【氏名又は名称】芝 哲央
(74)【代理人】
【識別番号】100126000
【弁理士】
【氏名又は名称】岩池 満
(72)【発明者】
【氏名】ブルヒス ジャン フランソワ マリー
(72)【発明者】
【氏名】ヴォゼニン マリー-カトリーヌ ソフィーヌ
(72)【発明者】
【氏名】ジェルモン ジャン-フランソワ
(72)【発明者】
【氏名】ヴエンシュ ヴァルター
(72)【発明者】
【氏名】シュタプネ シュタイナー
(72)【発明者】
【氏名】グルディエフ アレクセイ
【審査官】木村 立人
(56)【参考文献】
【文献】特表2016-537128(JP,A)
【文献】実開昭53-130397(JP,U)
【文献】特開昭57-3658(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61N 5/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
放射線ビームを提供する放射線源(2)と、
前記放射線ビームを所定のエネルギーまで加速する線形加速器(3)と、
加速された放射線ビームを前記線形加速器(3)から患者に送達して、標的体積を放射線量で治療するビーム送達モジュール(4)と、を含む患者に対する超高線量率放射線治療用装置(1)であって、
前記装置(1)は、約50MeV~約250MeV、より好ましくは約120MeV~約150MeVの所定のエネルギーを有する加速された放射線ビームを生成して、約200ms未満、好ましくは約100ms未満、好ましくは50ms未満、好ましくは約10ms未満の全治療期間で、少なくとも約10Gy、好ましくは最大約25Gy、好ましくは最大約35Gy、より好ましくは最大約40Gyの超高線量率放射線量を送達するように構成され
前記装置(1)は、前記超高線量率放射線量で少なくとも約30cm、好ましくは約30cm~約1000cmの標的体積を治療し、及び/又は前記超高線量率放射線量で患者の組織の少なくとも約5cmの深さ、好ましくは約5cm~約25cmの深さにある標的体積を治療するための放射線場を生成するように構成され
前記線形加速器(3)は、複数列の粒子バンチ、好ましくは2列又は3列の粒子バンチを含む単一の加速されたビームを生成するように構成され、前記ビーム送達モジュール(4)は、分離手段であって、単一の加速された放射線ビームを、決定された角度で分離された複数の加速されたビームラインに分離し、続いて、各ビームラインが粒子バンチのいくつかの列に対応している、患者に向かう前記ビームラインのそれぞれを、前記標的体積に同時に到達させるために患者に向けて集束させる、分離手段を含む、ことを特徴とする装置(1)。
【請求項2】
前記複数の加速されたビームラインは、前記全治療期間で送達された前記加速された放射線ビームを、ビームあたり約7Gy、好ましくはビームあたり約10Gy、より好ましくはビームあたり約20Gyの放射線量を有する、請求項1に記載の装置(1)。
【請求項3】
各列は、少なくとも約10%のエネルギー差を有し、及び/又は各ビームラインは、少なくとも約50MeVのエネルギーを有する、請求項に記載の装置(1)。
【請求項4】
前記分離手段は、磁気分光計を用いたエネルギーベースの分離手段、及び無線周波数偏向器ベースの手段を含むリストから選択される、請求項1~3のいずれか一項に記載の装置(1)。
【請求項5】
前記標的体積に到達するビームの原体照射を制御するビーム整形手段、例えば、前記線形加速器の後にある整形手段を含む、請求項1~のいずれか一項に記載の装置(1)。
【請求項6】
前記放射線量は、加速された放射線ビームの放射線パルスを含み、各放射線パルスは、少なくとも1つの粒子バンチを含み、前記装置(1)は、放射線パルスあたり少なくとも約2Gy、好ましくは放射線パルスあたり少なくとも約5Gy、より好ましくは放射線パルスあたり少なくとも約10Gyの超高線量率放射線量を、少なくとも約10Gy/秒、好ましくは少なくとも約10Gy/秒のパルスの線量率で、好ましくは10未満、より好ましくは3未満のパルスの総数で、送達するように構成される、請求項1~のいずれか一項に記載の装置(1)。
【請求項7】
少なくとも約85%の標的体積範囲の均質性を有する線量を送達するように構成される、請求項1~のいずれか一項に記載の装置(1)。
【請求項8】
前記放射線源(2)は電子源である、請求項1~のいずれか一項に記載の装置(1)。
【請求項9】
前記放射線源(2)は、前記全治療期間で、各バンチが250nCの粒子バンチを最多10列備えた一連の粒子バンチの列で放射線量を送達するように構成される、請求項1~のいずれか一項に記載の装置(1)。
【請求項10】
前記加速されたビームは、少なくとも約1000nC、好ましくは少なくとも約1500nCの電荷を有する超高エネルギー電子(VHEE)ビームである、請求項1~のいずれか一項に記載の装置(1)。
【請求項11】
前記放射線源は、無線周波数レーザ駆動インジェクタ及び熱電子インジェクタを含むリストから選択される、請求項1~10のいずれか一項に記載の装置。
【請求項12】
前記線形加速器(3)は、必要な全治療期間で放射線ビームを加速できる無線周波数加速構造を含む、請求項1~11のいずれか一項に記載の装置(1)。
【請求項13】
前記線形加速器(3)は、Xバンド、Cバンド、又はSバンドを含むリストから選択された周波数で動作する、請求項1~12のいずれか一項に記載の装置(1)。
【請求項14】
前記標的体積の走査を実行するように構成される、請求項1~13のいずれか一項に記載の装置(1)。
【請求項15】
前記装置(1)は、少なくとも2つのビーム送達モジュール(4)を含み、各送達モジュールは、1人の患者を治療するために構成される、請求項1~14のいずれか一項に記載の装置(1)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は超高線量率放射線治療用装置に関する。
【背景技術】
【0002】
癌は世界的に主要な死因であり、主に外科手術、放射線療法(RT)、化学療法によって治療される。最近の進歩、特に、免疫療法、ロボット手術における進歩、及び新しい分子標的薬の導入にもかかわらず、癌の完全治癒の可能性の向上は緩やかであり、その発生率は急速に増加している。
【0003】
20世紀初期のレントゲンとマリーキュリーの先駆的な研究以来、放射線療法は癌の治療に不可欠なツールであり続けている。放射線療法の最近の発展により、これらの治療はより正確でより効果的になったが、残存する副作用、例えば健康な組織への損傷は、その使用を制限する問題となっている。
【0004】
腫瘍に高い治癒放射線量を送達することは、放射線の有害な影響から正常組織を温存する能力に依存する。前世紀にわたって、分割(fractionation)と正確な体積の最適化の両方が、正常組織と腫瘍の間の異なる効果を得るための最も強力なツールとして出現し、副作用を最小限に抑える。
【0005】
正常組織への放射線誘発損傷を制限するための代替の補完的な新しい解決手段は、いわゆるFLASH放射線療法(Radiotherapy(RT))又はFLASH療法の照射時間を短縮することである。従来の放射線療法は、一般に、各腫瘍に20~70Gyの総線量を、通常1分割あたり(per fraction)2Gyの線量で、各分割を数分間にわたって投与するように投与している。過去数年の間に、超短照射時間(100ms未満)のRTが副作用を大幅に低減できることを証明する多くの実験が行われている。特に、放射線が、非常に高い線量を有するいくつかの超強力なパルスで、パルスの超高線量率(通常、パルスあたりの線量が1.5Gyを超え、パルスの平均線量率が10Gyを超える)で送達される場合、腫瘍組織の反応が変化しないまま健康な組織が温存され、より効果的な治療が可能になることが示されている。
【0006】
Radiotherapy and Oncology,2019,Radiother Oncol.,2019,Jul 11,SO-SI 40(19)32959-7におけるJ.Bourhisらによる文書「FLASH RTによる最初の患者の治療」は、FLASH RT治療の先駆的な臨床使用に関する。この文書は、既存のRT装置を使用して、線量を、150Gy/secの平均線量率に対応する、90msの全照射時間の1μs(μ second)ごとに10パルスの15Gyで与える5.6MeVの電子で、表在性皮膚腫瘍を治療することを開示している。20~21Gyの分割照射を使用した従来のRTへの曝露後の皮膚反応と比較して、90msで15Gyの投与(administration)に伴うFLASH RT反応は最小限でした。この経験は、数分間の照射にわたって分割された同等の従来の線量の代わりに、患者に高い単回線量を送達することの技術的実現可能性及び臨床的安全性を示した。
【0007】
FLASH RTの第1の重要な特徴は、放射線ビームの線量率であり、従来のRTでは一般に、分割されて数分間で与えられる高い放射線量は、FLASH RTでは、非常に限られた、1秒の何分の1かの間、通常はミリ秒の範囲で与えられなければならない。FLASH RTの第2の重要な特徴は、大照射野(10cm以上)における健康な組織の効果的な温存が、これまでに開示された、小照射野(small irradiation fields)(数cmの範囲)において健康な組織を温存するFLASHを得るために必要な送達(照射。伝達。delivery)時間と比較して、より短い送達時間が必要なことである。
【0008】
電子が水中で約2MeV/cmエネルギーを失うため、約6MeVの放射線ビームは皮膚腫瘍又は他の表在性腫瘍の治療にのみ使用できることが知られている。このため、電子ビームは一般に、体の奥深くにある腫瘍の治療に使用されない。FLASH電子による深在腫瘍の治療には、例えば30~250MeV以上の範囲のはるかに高いエネルギーの電子ビームが必要である。
【0009】
体積の大きな腫瘍をRT又はFLASH RTにより治療する場合、更なる問題が生じる。既存のRT機器は、生成する放射線ビームがFLASH条件で必要な線量を送達するために必要な特性を備えていないため、FLASH RTにより体積の大きな腫瘍を治療することができない。
【0010】
全体として、深在腫瘍及び/又は大きな腫瘍をFLASH RTにより治療する場合、既存の技術は、特に、大きな腫瘍及び/又は深在腫瘍の治療に必要なエネルギーを有する超高線量率電子ビームを生成するのに適していないため、満足のいく解決手段を提供しない。
【発明の概要】
【0011】
上記問題は、本発明の装置及び方法によって解決される。
【0012】
本発明に係る、患者に対する超高線量率放射線治療用装置は、
- 放射線ビームを提供する放射線源と、
- 放射線ビームを所定のエネルギーまで加速する線形(リニア)加速器と、
- 加速された放射線ビームを線形加速器から患者に送達して(deliver)、標的体積(target volume)を放射線量(radiation dose)で治療するビーム送達モジュールと、を含み、
- 該装置は、約50MeV~約250MeV、より好ましくは約120MeV~約150MeVの所定のエネルギーを有する加速された放射線ビームを生成して、約200ms未満、好ましくは約100ms未満、好ましくは約50ms未満、好ましくは約10ms未満の全治療期間(overall time)で、少なくとも約10Gy、好ましくは最大約25Gy、好ましくは最大約35Gy、より好ましくは最大約40Gyの超高線量率放射線量を送達するように構成されるため、該装置は、超高線量率放射線量で少なくとも約30cm、好ましくは約30cm~約1000cmの標的体積を治療し、及び/又は超高線量率放射線量で患者の組織の少なくとも約5cmの深さ、好ましくは約5cm~約25cmの深さにある標的体積を治療するための放射線場(radiation field)を生成するように構成される、ことを特徴とする。
【0013】
本発明において、該装置は、少なくとも約50MeV~約250MeV、より好ましくは約120MeV~約150MeVの加速された放射線ビームを生成することができる。生成された加速されたビームの非常に高いエネルギー及び全電荷により、最大約25Gy、最大約35Gy、より好ましくは最大約40Gyの放射線量をミリ秒の範囲の全治療期間で送達することができる。
【0014】
好ましい実施形態では、該装置は、約50MeV~約250MeV、より好ましくは約120MeV~約150MeVの所定のエネルギーを有する加速された放射線ビームを生成して、約200ms未満、好ましくは100ms未満、好ましくは50ms未満、好ましくは約10ms未満の全治療期間で、少なくとも約10Gy、好ましくは最大約25Gy、好ましくは最大約35Gy、より好ましくは最大約40Gyの超高線量率放射線量を送達するように構成される。
【0015】
一実施形態では、全治療期間は、約1ms未満である。
【0016】
例えば、少なくとも約30cm、好ましくは約30cm~約1000cm、より好ましくは約30cm~少なくとも約1000cmの標的体積に対してFLASH条件(超高線量率)で大きな放射線場を生成する場合、既存の機器は、FLASH条件で必要な線量を送達することができない。特に、加速されたビームが、ミリ秒の範囲の期間の全治療期間で標的体積全体に必要な線量を提供するのに十分なほど強力ではないためである。これは、標的体積が患者の組織の少なくとも約5cmの深さにある場合にも同様であり、既存の装置は、超高線量率放射線(即ち、FLASH)を提供できない。
【0017】
電子ビームのエネルギーは、水又は組織への侵入の深さを決定する。6MeVの放射線ビームを使用する既存のFLASH療法を考慮すると、2cmの深さに85%の線量がある。2cmを超えると、ビームの減衰が非常に強くなるため、FLASH条件で標的体積を治療することができない。言い換えれば、放射線ビームのエネルギーレベルは、標的体積が組織のどのくらいの深さに位置するかに依存する。それは、既存の装置がFLASH条件で表在性(superficial)標的体積を治療するためにのみ使用される理由である。
【0018】
本発明において、加速された高エネルギービームは、大きな標的体積でも、深在(deep seated)標的体積でも、標的体積全体に必要な線量を送達するのに適している。例えば、30MeVの放射線ビームにより、約10cmの深さに85%の線量が見られる。その結果として、このタイプの高エネルギービームは、侵入能力の点で高エネルギーの超高圧X線と同等である。放射線ビームのエネルギーを増加させることにより、侵入深さを調整することができる。大きな標的体積又は深在標的体積を標的するには、少なくとも30MeVの放射線ビームが必要である。エネルギーの上限がないが、50MeV~150MeVの範囲内の放射線ビームは、一般に、全ての患者に必要な深さに達する。FLASH条件でのこれらのエネルギーでの照射は、患者ではこれまで達成されておらず、大野(large fields)(直径10cm以上)では更に達成されていない。
【0019】
有利には、本発明は、従来のRTと比較して、腫瘍に対する効果を無傷に維持しながら、健康な組織において副作用を著しく減少させることができる。
【0020】
本発明によれば、治療時間が非常に短く、かつビーム送達手段によって加速されたビーム送達を制御又は調整する(例えば、磁石により電子ビームを曲げる)ことができる。そのため、加速されたビームをある部屋/ある患者から、別の部屋/別の患者に容易に切り替えることができる。本発明は、単一の加速ビームラインが多数の、場合によっては無制限の治療室にサービスを提供することができるため、費用対効果の高い装置である。必要な線量を多数の患者に連続して送達することができる。
【0021】
本発明において、従来のRTと比較して、より多くの生物学的等価線量(biological equivalent dose(BED))を大きな腫瘍に送達することができるため、多剤耐性腫瘍に対する効果が大幅に向上する。一例として、処方線量の約33%の健康な組織に対するFLASH温存効果(sparing effect)を可能にする本発明の特徴は、治療計画システムに統合され、従来のRTと比較された。これは、同じ患者で同じ腫瘍(same patient and the same tumor)に対して、従来の緩和放射線療法では46Gyを23分割で送達していたのに対して、28Gyの単回FLASH線量を患者に安全に送達できる可能性を意味する。この28Gyの単回線量照射の腫瘍に対する生物学的等価線量(BED)は、100Gyを超え、特に実際に与えられた従来の46Gyと比較して、治癒効果が高いことが知られている。
【0022】
有利には、本発明は、従来のRTと比較して著しく減少した放射線療法分割の総数で、必要な治癒線量で患者を治療する可能性を提供する。例えば、従来のRTでは、複数の分割(通常、約12又は14分割)が必要であったのに対して、28Gyの総線量を1回の単回FLASH分割(one single FLASH fraction)で投与することができる。従来のRTでは、放射線療法中に腫瘍の運動を監視して、腫瘍の周辺部を減少させ、高線量の放射線に曝された健康な組織の体積を制限する必要がある。本発明において、ミリ秒の範囲の線量の超高速送達は、照射中の腫瘍の運動管理を不要にする。また、ビーム送達のためのより高いコンフォーマル性(適合性)を可能にするため、健康な組織をより効果的に温存することができる。
【0023】
特に、加速されたビーム(即ち、放射線ビーム)は、少なくとも約1000nC、好ましくは少なくとも約1500nCの電荷を有する超高エネルギー電子(VHEE)ビームである。有利には、線量は電荷に正比例する。本発明において、該装置は、少なくとも1000nCの高電荷及び高線量を提供するように構成される。
【0024】
本発明に係る装置は、線量分布の高いコンフォーマル性を達成するための以下の2つの補完的手段を含む。
1)異なる角度及び/又はある分割から別の分割に使用された異なる角度から、同時に収束するいくつかのビームライン(好ましくは、FLASH条件が維持されるように2つ又は3つ)、
2)各ビームラインを個別に整形する手段。
これにより、FLASH特性を追加しながら、高いコンフォーマル性を維持することができる。
【0025】
好ましい実施形態では、ビーム送達モジュールは、全治療期間で送達された、単一の加速されたビームと呼ばれる加速された放射線ビームを、ビームあたり約7Gy、好ましくはビームあたり約10Gy、より好ましくはビームあたり約20Gyの放射線量を有する複数の加速されたビームラインに分離する分離手段を含む。
【0026】
一実施形態では、線形加速器は、複数列の粒子バンチ、好ましく2列又は3列の粒子バンチ(two or three trains of particles bunches)を含む単一の加速されたビームを生成するように構成される。ビーム送達モジュールは、分離手段であって、単一の加速された放射線ビームを、決定された角度で分離された複数の加速されたビームラインに分離し、続いて各ビームラインを患者に向けて集束させて標的体積に同時に到達させ、各ビームラインが1列の粒子バンチに対応する分離手段を含む。
【0027】
有利には、この実施形態では、線形加速器は、離散エネルギーでビームの様々な部分を加速し、輸送するために構成される。従来の療法では、必要なコンフォーマル性を達成するために、患者に対して多くの角度から放射する。これは、患者の周りで放射線源を回転させることにより、行われる。FLASH条件で、即ち最大数ミリ秒の期間で、大きな物体(object)を移動するのに十分な時間がない。代わりに、本実施形態では、必要なコンフォーマル性を達成するために、ビームは、例えば、FLASH時間スケールで2~3つの軌道から来る。例えば、ms(ミリ秒)の範囲の全治療期間で、加速されたビームの前半はある方向から来て、後半は別の方向から来る。本発明において、オブジェクトの移動の代わりに、ビームを異なるエネルギーまで加速することにより、異なるビームラインを通してビームを伝搬することができる。エネルギーは、例えば、最小で約10%異なり、これは、双極子磁石によって分離されるのに十分な値である。全エネルギーは、臨床的考察によって選択されることが好ましい。
【0028】
有利には、加速された放射線ビームは、いくつかのビームラインに分割することができる。加速されたビーム放射線は、単回治療で1つ又は複数の方向から同時に(数ミリ秒の範囲で)患者に到達することができる。ビーム分割の利点は、腫瘍に線量を送達するための高いコンフォーマル性を達成することである。
【0029】
好ましい実施形態において、本発明者らは、標的体積に収束する3つ、好ましくは2つの同時ビームが非常に満足のいく結果を提供して、例えば20Gyの総線量を送達するために、腫瘍上の高いコンフォーマル性と、個々のビームのトラック(即ち、軌道)に沿った健康な組織の最適なFLASH温存(FLASHによる健康な組織の温存が高線量でよりよく動作し、即ちビームあたり10Gyよりも優れている)との両方を達成することを発見した。
【0030】
健康な組織を大量に温存するには、FLASH効果が必要である。FLASHは本質的に、分割あたりの高線量で観察され、つまり、各ビームに沿った正常組織の効果的な温存を達成するには、腫瘍に収束するビームを非常に少なくすることが重要である。例えば、2つのビームのみが使用される(各10Gy)か又は3つのビームが使用される(各7Gy)と、2つのビームで与えられた20Gyは、各ビームのトラックに沿ったFLASH温存効果を維持できるはずである。より多くのビームが使用されると、各ビームのトラックに沿ったFLASH温存効果は消えるはずである(7Gy未満であれば消えるはずである)。有利には、2つ又は3つのビームがある場合、装置は、最適なFLASH温存効果を得る可能性と、非常に優れた線量分布のコンフォーマル性とを兼ね備える。既存の装置では、高いコンフォーマル性のみが使用できるのに対して、高いコンフォーマル性とFLASHの両方は正常組織の効果的な温存に貢献する。
【0031】
特に、1つ以上、例えば2分割が使用されると、弾道の観点から(in terms of ballistics)のビーム配置は、例えば患者のコーチ(coach)を90°移動させることだけで、分割ごとに異なるものにすることができる。また、コンフォーマル性を高めることができる。
【0032】
一実施形態では、各列は、最小で約10%のエネルギー差を有し、及び/又は各ビームラインは、少なくとも約50MeVのエネルギーを有する。
【0033】
一実施形態では、分離手段は、磁気分光計(magnetic spectrometer)を用いたエネルギーベースの分離手段、及び無線周波数偏向器ベース(radio frequency deflector based means)の手段を含むリストから選択される。
【0034】
一実施形態では、無線周波数偏向器は、異なる軌道に沿ったビームラインで加速されたビームを分離するために使用される。この実施形態では、単一のエネルギービームを複数のビームラインに分離することができる。
【0035】
一実施形態では、各列の粒子バンチは、最小で約10%のエネルギー差を有し、ビーム送達システムにおける軌道の分離は、磁気分光計を使用して行われる。
【0036】
磁気分光計を使用してエネルギーにより分離するために、線形加速器は、ビームを2つ以上のエネルギーで加速してビーム送達システムに輸送する。これらのエネルギーは、好ましくは最小で約10%異なる。例えば、これは、入力無線周波数電力レベルを変化させることにより、ある粒子バンチの列から別の粒子バンチの列(例えば、治療ごとに約10列の粒子バンチがある)に行われる。或いは、バンチの位置する無線周波数位相を変化させることにより、無線周波数パルス内で行うことができる。異なるエネルギービームは、磁気分光計の場合と同様に、最初の双極子で異なる角度で偏向される。次に、ビームは別個の経路を進み(辿り)、標的体積に同時に(数ミリ秒の範囲で)収束する。
【0037】
高エネルギービームは、双極子磁石で低エネルギービームよりも小さく曲げられる。全ての列の粒子バンチは、同じラインに沿って線形加速器から出るが、最初の双極子で異なる角度で曲げられる。ある程度の長さを与えることにより、それらは互いに離れた軌道を移動する。十分な距離があれば、それらは患者に向かって後ろに曲げられて腫瘍に収束することができる。
【0038】
有利には、磁気分光計を用いたエネルギーベースの分離手段は、例えば、無線周波数偏向器ベースの手段よりも安価であるため、好ましい解決手段である。
【0039】
無線周波数偏向器を備えたビーム送達モジュールは、静磁場の代わりに無線周波数場を使用してビームを偏向させる。線形加速器と同じようにパルス化されるため、各列を個別に偏向させることができる。
【0040】
特に、主双極子で分離された後、加速された放射線は別個のビームラインに沿って移動する。放射線を患者に向けて曲げた後、これらのビームラインは、典型的には30~90°、より好ましくは30°~60°、特に好ましくは30°及び60°の角度で分離され、腫瘍に収束する。好ましくは、各ビームラインの曲げ要素は、決定された角度に沿ってビームラインを患者に向ける。ビームの数及び角度の総合最適化は、臨床線量分布の考慮事項と合わせて選択される。
【0041】
RT及び粒子線療法では、線量分布の最適なコンフォーマル性を達成するために、異なる方向から標的体積に線量を提供することが有利であることが知られる。従来のRT機器では、移動線形コリメータを使用して、標的体積に提供された線量を最適化する。しかしながら、FLASH時間スケール(ミリ秒の範囲、即ちmsの範囲)では機械的移動を行うことができない。一実施形態では、本発明の解決手段は、正確に同じ時間、即ち数ミリ秒の範囲で、標的体積内の同じ場所に正確に収束する別個のビームライン、好ましくは2つ又は3つのビームラインを提供することである。これにより、ビーム送達のための高いコンフォーマル性とFLASH効果の両方により、健康な組織を温存することができる。
【0042】
より多くの経路/ビームラインを使用すると、本質的に分割あたりの高線量で機能するFLASH効果が大幅に低下するか又は完全に抑制されるため、経路(path)、即ちビームラインの数は好ましくは、2つ又は3つである。
【0043】
有利には、本発明は、線量分布の最適なコンフォーマル性を達成するために両方とも補完的である2つの手段を有することができる。第1の手段は、各加速されたビームラインの形状を制御するものであり、第2の手段は、最初のビームを、腫瘍に同時に収束するいくつかのビームラインに分割するものである。全体として、本発明は、FLASHモードで大きな腫瘍を治療するために必要な最適なパラメータとともに、高度なコンフォーマル放射線送達を提供する独特の能力を有する。
【0044】
一実施形態では、装置は、標的体積に到達するビームの原体照射(conformal irradiation)を制御するビーム整形手段、例えば、送達システムにあり、好ましくは線形加速器の後にある整形手段を含む。例えば、ビーム整形手段は、加速されたビーム又は加速されたビームラインの横方向サイズを制御して、複雑な形状を有する標的体積に対する、ビームの最適な整形及び最適な治療コンフォーマル性を達成する集束手段を含む。
【0045】
横方向のビームプロファイルを制御する複数の手段を設けることができる。例えば、装置の各主要素は、ビームコリメーション、即ち、放射線源(即ち、インジェクタ(injector))、線形加速器(即ち、リニアック(linac))及びビーム送達システムにおけるビームを有することができる。放射線源及び線形加速器でのコリメーション(collimation)は、異なるビームラインに同じ形状(通常は円形)を与えるが、ビーム送達システムでのコリメーションは、異なるラインに独立した形状を与える。ビーム送達システムの最終的な集束四重極は、また、例えば円形から楕円形にするように焦点形状を調整するために用いることができる。好ましくは、最も重要なコリメーションは、線形加速器の端部にあるコリメーションであるべきであり、このコリメーションのみを備えた装置を設けることができる。
【0046】
一実施形態では、放射線量は、加速された放射線ビームの放射線パルスを含み、各放射線パルスは、少なくとも1つの粒子バンチを含む。該装置は、放射線パルスあたり少なくとも約2Gy、好ましくは放射線パルスあたり少なくとも約5Gy、より好ましくは放射線パルスあたり少なくとも約10Gyの超高線量率放射線量を、少なくとも約10Gy/秒、好ましくは少なくとも約10Gy/秒の放射線パルスの線量率で、10未満、より好ましくは3未満の放射線パルスの総数で、送達するように構成される。したがって、該装置は、大照射野(10cm以上)でもFLASH効果を得るのに必要なFLASH条件、数ミリ秒(50ms未満、好ましくは10ms未満)の範囲内の25Gyの線量の全治療時間で、10未満、好ましくは3未満の放射線パルスの総数で、送達するように構成される。
【0047】
一実施形態では、該装置は、少なくとも約85%の標的体積範囲(target volume coverage)の均質性(homogeneity)(即ち、均一性)を有する線量を送達するように構成される。有利には、均質性は、放射線源の設計(例えば、特にインジェクタ内のレーザスポットプロファイルの形状)、線形加速器の設計(例えば、集束格子及び航跡場の制御)及び送達モジュール(例えば、線形加速器の端部のビーム及びコリメーションの拡張)の組み合わせによって達成される。例えば、コリメーションとは、ビームを開口に通して外側の部分を切り取り、ビームに明確に規定された形状を与えることである。
【0048】
一実施形態では、放射線源は電子源である。したがって、線量は電子の形で患者に送達される。
【0049】
好ましくは、放射線源は大電流電子源である。
【0050】
一実施形態では、放射線源は電子源であり、該装置は、電子ビームを光子ビームに変換する変換モジュールを更に含む。したがって、線量は光子の形で患者に送達される。
【0051】
一実施形態では、放射線源は陽子源である。したがって、線量は陽子の形で患者に送達される。
【0052】
一実施形態では、放射線源(2)は、全治療期間で、各バンチが250nCの粒子バンチを最多10列備えた一連(in sequence)の粒子バンチの列で放射線量を送達するように構成される。
【0053】
一実施形態では、放射線源は、無線周波数レーザ駆動インジェクタ(rfガンと呼ばれる)及び熱電子インジェクタを含むリストから選択される。
【0054】
rfガンは、無線周波数キャビティシステム(S、C、又はXバンド)と短パルス(1~2ps)レーザシステムで構成される。レーザは、キャビティシステムのカソードに当たり、約1nCの電子バンチを放出する。ビームは、例えば、最大約5MeVまで加速される。
【0055】
熱電子インジェクタは、熱電子放出により加熱されたカソードによって生成された連続電子ビームに基づくものである。ビームは、例えば、最大約5MeVまで無線周波数キャビティシステムによってバンチ化(bunch)され、加速される。
【0056】
線形加速器は、放射線源からのビームを少なくとも約30MeVの最終エネルギーまで加速することを目的とする。
【0057】
一実施形態では、該装置は、標的体積の走査を実行するように構成される。走査中に、連続する領域は、それぞれFLASH条件下で照射される。連続するFLASH照射の間に、ビーム送達システムにおけるビームの軌道をリセットすることにより、標的領域を移動させる。したがって、体積は、同じ分割で、一連の独立したFLASHボクセルによってカバーされる。
【0058】
一実施形態では、線形加速器は、必要な全治療期間で放射線ビーム(即ち、必要な全電荷)を加速できる無線周波数加速構造を含む。
【0059】
一実施形態では、線形加速器は、10ms以内に、それぞれが約250nsの長さを有し、かつ1nCあたりの250の粒子バンチを含む粒子バンチ列を1から少なくとも10列加速するように構成されるため、FLASH条件を満たす。好ましくは、線形加速器は、最大約1000Hz、好ましくは約100~1000Hzの周波数で、バーストモードで動作するように構成される。
【0060】
一実施形態では、線形加速器は、ビームが少なくとも約35MeV/mを超える加速勾配でビームを加速するように構成される。
【0061】
一実施形態では、線形加速器は、Xバンド、Cバンド、又はSバンド、好ましくはXバンドを含むリストから選択された周波数で動作する。
【0062】
一実施形態では、線形加速器は、マルチGHz無線周波数システムに基づくリニアックである。
【0063】
好ましくは、線形加速器は、大電流線形加速器、例えば、大電流Xバンドリニアックである。例えば、コリメーション前の2500nCの治療に必要な全電荷は、250nC/粒子バンチの列の10列の粒子バンチで作成される。バンチの列は250nsの長さを有するため、電流は1Aである。
【0064】
一実施形態では、該装置は、ビームを安定化して、1か月間で約+/-2%の放射線量の最大変動を達成する手段を含む。例えば、ビームはフィードバックによって安定化される。患者に送達する直前に、ビームは主双極子(送達モジュールが磁気分光計を用いたエネルギーベースの分離手段を含む場合)をオフにすることにより、直進軌道を移動する。一連の放射線パルス(粒子バンチの列)は、診断及び機械のパラメータによってキャプチャされ、電荷を必要な値にするように調整される。完了すると、ビームは患者に向けられる。また、各放射線パルス(粒子バンチの列)の線量を監視し、後続の放射線パルス(粒子バンチの列)の偏差を補正することにより、治療中にフィードバックがある。
【0065】
一実施形態では、該装置は、組織の少なくとも約15cm、好ましくは約20cmの深さにある少なくとも約80%、好ましくは少なくとも約85%の標的体積内の線量均一性を提供するように構成される。主な利点は、線量の腫瘍内変動が少ないことである。
【0066】
一実施形態では、線量は、3~20個の放射線パルス、好ましくは10個の放射線パルスで送達される。有利には、パルスの数をできるだけ少なくすべきであり、理想的には1~3である。放射線パルスの数は、(無線周波数)パルスあたりの電荷量に依存し、電荷量は主に放射線源の能力によって制限される。それはまた、好ましくは約1Aまでの線形加速器を通るビームの輸送の安定性に依存する。最後に、それは、設置された線形加速器電力供給システムのコストにも関係する。
【0067】
一実施形態では、該装置は、少なくとも2つのビーム送達モジュールを含み、各送達モジュールは、1人の患者を治療するために構成される。この実施形態では、複数の治療室は、単一の電子源及び単一の線形加速器によって供給することができる。機器のコストの大部分は、線形加速器の端部まで、即ち放射線源から線形加速器までのシステムにあることが知られている。より多くの送達モジュールを追加することは、費用対効果が非常に高い。また、治療時間は患者のセットアップ時間よりもはるかに短い。そのため、複数の送達モジュールを使用すると、施設のスループットは送達モジュールの数に正比例して増加する。
【0068】
本発明は更に、超高線量率放射線で患者の腫瘍標的体積を治療する方法に関し、該方法は、
本発明に係る装置を提供するステップと、
該装置が約50MeV~約250MeV、より好ましくは約120MeV~約150MeVの所定のエネルギーを有する加速された放射線ビームを生成して、約200ms未満、好ましくは約100ms未満、好ましくは約50ms未満、好ましくは約10ms未満の全治療期間で、少なくとも約10Gy、好ましくは最大約25Gy、好ましくは最大約35Gy、より好ましくは最大約40Gyの超高線量率放射線量を送達するように設定するステップと、
少なくとも約30cm、好ましくは約30cm~約1000cmの標的体積及び/又は患者の組織の少なくとも約5cmの深さ、好ましくは約5cm~約25cmの深さに位置する標的体積に放射線量を送達するステップと、を含む。
【0069】
該方法の具体的な利点は、本明細書に記載の本発明の装置のものと同様であるため、ここでは繰り返さない。
【0070】
一実施形態では、治療は、患者の組織の少なくとも約10cmの深さに位置する標的体積及び/又は少なくとも約10cmの直径を有する標的体積に放射線量を送達することを含む。
【0071】
一実施形態では、治療は、加速された放射線ビームの放射線パルスにおいて、放射線パルスあたり少なくとも約2Gy、好ましくは放射線パルスあたり少なくとも約5Gy、より好ましくは放射線パルスあたり少なくとも約10Gyの線量を、少なくとも約10Gy/秒の放射線パルスの線量率で、好ましくは10未満、より好ましくは3未満の放射線パルスの総数で、投与することを含む。言い換えれば、治療は、大照射野(直径が10cm以上である)でFLASH効果を得るのに必要な条件、即ち、少なくとも2Gy、好ましくはそれ以上の放射線パルスの線量、10Gy/秒、好ましくはそれ以上のパルスの線量率、数ミリ秒(50ms未満、好ましくは10ms未満)の範囲、10未満、好ましくは3未満の放射線パルスの総数という条件で、線量を投与することを含む。
【0072】
線量は、任意の数の放射線パルスで送達することができる。好ましくは、放射線パルスの数は、20未満である。一実施形態では、治療は、1~10放射線パルス、例えば1、2、3、4、5、6、7、8、9又は10の放射線パルスで送達された線量を投与することを含む。
【0073】
一実施形態では、治療は、総線量を1つの分割で投与することを含む。
【0074】
他の実施形態では、治療は、いくつかの分割、例えば2又は3分割に分割された線量を投与することを含む。好ましくは、分割の数は3未満であり、これはFLASH効果を得るのに適切である。
【0075】
本発明において、大きな標的体積とは、少なくとも約5cm(同等か又はそれ以上)の直径を有する標的体積を意味する。直径は、標的体積が球形ではないと、標的体積全体にわたる一次元を意味する。標的体積は、任意のサイズ又は形状にすることができる。例えば、直径は、約5cm~約30cm、好ましくは約5cm~約20cmである。
【0076】
本発明において、深在標的体積とは、組織の少なくとも約5cmの深さ、好ましくは組織の約5cm~30cmの深さ、好ましくは約5cm~約25cmの深さ、好ましくは10cm~20cmの深さにある標的体積を意味する。
【0077】
本発明において、超高線量率放射線は、FLASH放射線療法又はFLASH療法を意味する。FLASH放射線療法は、腫瘍に対する効果を無傷に維持しながら、従来のRT線量と比較して少なくとも約33%少ない線量に相当する健康な組織の温存を得る放射線治療として定義することができる。
【0078】
本明細書で使用される「治療する」又は「治療」という用語は、腫瘍又は腫瘍と診断された患者に治療を施すことを意味する。治療は、腫瘍細胞を殺し、腫瘍の成長を遅らせ、腫瘍のサイズを縮小するか、又は患者から腫瘍を完全に除去するのに十分又は効果的な量又は治療量(即ち、治療上有効量)で施すことができる。この用語には、治療又は治療計画の選択、及び医療サービス提供者又は患者への治療オプションの提供も含まれる。
【0079】
いくつかの実施形態では、本明細書に記載されるように、超高線量率放射線で患者の腫瘍標的体積を治療する方法は、治療剤(化学療法の薬剤、放射線防護剤、放射線増感剤など)、免疫調節剤(例えば、免疫チェックポイント阻害剤分子、免疫チェックポイント活性化因子、ケモカイン阻害剤、マクロファージ遊走阻止因子(MIF)の阻害剤、成長因子、サイトカイン、インターロイキン、インターフェロン、T細胞及び腫瘍抗原に結合する二重特異性抗体など、免疫系細胞に結合する抗体、CAR-T細胞などの細胞性免疫調節因子、ワクチン、腫瘍溶解性ウイルス、及びそれらの任意の組み合わせ)、老化細胞除去剤、放射線増感剤、ナノ粒子又はそれらの組み合わせを含む群から選択される1つ以上の追加の療法を施すことを更に含む。追加の療法は、併用して施すか、又はアジュバント(adjuvant)として、又はネオアジュバント処置で施すことができる。
【0080】
本明細書で使用される「約」という用語は、数値又は数値の範囲に適用され、当業者が列挙された値と同等であるとみなす数値の範囲、即ち+/-10%を意味する。例えば、「約10cm」とは、10cmの+/-10%、即ち9cm~11cmを意味する。本発明において、線量は、患者に送達されるGy単位の総放射線量を意味する。線量は、いくつかの分割で投与することができる。
【0081】
本明細書で使用される「患者」という用語は、当技術分野でよく認識され、イヌ、ネコ、ラット、マウス、サル、ブタ、及び最も好ましくは人間を含む哺乳動物を意味する。いくつかの実施形態では、患者は、治療を必要とする患者又は癌を患っている患者である。この用語は、特定の年齢や性別を示さない。したがって、成人及び新生児の患者は、男性でも女性でも、対象となることが意図される。
【0082】
本明細書で使用される「電波パルス」という用語は、線形加速器に使用される電波のパルスを意味する。線形加速器は、マイクロ波パワーの電波パルスを使用して、放射線源からの放射線ビーム、例えば、電子源からの電子ビームを加速する。例えば、これらの電波パルスは、約250nsの長さを有し、バーストモードで1kHzの繰り返し率、即ち1msの周期で繰り返すことができる。好ましくは、長期間動作の場合、最適な繰り返し率は約100Hzである。例えば、マイクロ波の周波数はXバンド、具体的には12GHzであるが、C(5.7GHz)又はS(3GHz)バンドであってもよい。
【0083】
本明細書で使用される「放射線パルス」という用語は、線形加速器の後の粒子のパルスを意味する。各パルスは、少なくとも1列の粒子バンチを加速し、例えば、放射線ビームが電子ビームである場合、電子バンチを加速し、放射線ビームが陽子ビームである場合、陽子バンチを加速する。例えば、粒子バンチは約10psの長さを有し、1nsごとに発生するため、250nsの電波パルスには250個の粒子バンチがある。各粒子バンチは1nCの電荷を有するため、全電荷は(コリメーション前に)2500nCであり、パルス中の平均電流は1Aである。
【0084】
装置について本明細書に記載された実施形態は、必要な変更を加えて本発明に係る方法にも適用される。
【0085】
いずれかの方法について本明細書に記載された実施形態は、必要な変更を加えて、本発明に係る装置にも適用される。
【0086】
本発明の更なる具体的な利点及び特徴は、添付の図面を参照しながら、本発明の少なくとも1つの実施形態の以下の非限定的な説明からより明らかになる。
【図面の簡単な説明】
【0087】
図1】第1の実施形態に係る本発明に係る装置を示す。
図2】第1の実施形態に係る本発明に係る装置を示す。
図3】大きな肺癌(直径10cm)を有する患者における本発明を用いたFLASH療法のシミュレーションを示す。
図4】6MeV電子ビームによる10Gy脳照射後のマウス脳の認知温存(cognitive sparing)の進化を示す。
図5】25MeV~140MeVのエネルギー範囲での単一電子ビームによる照射の人間胸部への浸入の線量測定シミュレーションを示す。
【発明を実施するための形態】
【0088】
一実施形態の任意の特徴を有利な方法で異なる実施形態の他の任意の特徴と組み合わせることができる。従って、本発明の詳細な説明は、非限定的方法で本発明を説明することを意図している。
【0089】
図1及び図2は、第1の実施形態に係る本発明に係る装置1を示す。
【0090】
装置1は、放射線源2、線形加速器2、及びビーム送達モジュール3を含む。装置1は、患者(図示せず)の標的体積5に放射線量を送達するように構成される。
【0091】
放射線源2は、大電流電子源、特に無線周波数レーザ駆動フォトインジェクタである。フォトインジェクタは、電子バンチを生成し、相対論的エネルギーまで加速する。フォトインジェクタは、クライストロン変調器システムによって駆動される(電力が供給される)一連の結合された共振キャビティで構成される。短レーザパルスが第1のキャビティの背面に衝突し、電子の放出を引き起こして、光電効果によりバンチを形成する。光電カソードの背面は、量子効率を高めるためにCsTeでコーティングされ、波長262nmのレーザが使用される。約110MV/mのマイクロ波場はバンチを加速する。rfパルス中の連続するレーザパルスは、バンチの列を形成する。連続するrfパルスは、複数の列を提供する。
【0092】
図1及び2に示される実施形態では、フォトインジェクタは、Sバンド、具体的には2.9985GHzで動作し、1.5セルを有し、ビームを最大5MeVまで加速する。フォトインジェクタは、クライストロンによって駆動され、約30MWの入力電力を必要とする。
【0093】
フォトインジェクタは、0.308nCの電荷を有するバンチを生成し、バンチ間の間隔が1/3nsであり、パルス中の平均電流が約1Aである。列ごとに953個のバンチがある。各バンチの長さは、約300マイクロメートルである。
【0094】
線形加速器3又はリニアックは、大電流Xバンドリニアックである。図1及び2に示される実施形態では、リニアックは、35MV/mのビーム負荷勾配で動作する、8つの半分メートル(half meter)の長さの加速構造のパラメータを有する。リニアックは、2つの50MWピーパワーXバンドクライストロンと高周波パルス圧縮器によって駆動される。リニアックは、治療エネルギーまでビームを加速する。本実施例では、リニアックは、クライストロン変調器、rfパルス圧縮器、導波管ネットワーク、及び複数の加速構造で構成されたrfユニットを繰り返すことにより、構成される。
【0095】
図1及び2に示される実施形態では、リニアックは、インジェクタから出てくる5MeVのビームを、最大140MeVまでの調整可能なエネルギーまで加速する。リニアックは、Xバンド、具体的には11.994GHzで動作する。rfユニットは、50MWのクライストロンを駆動する変調器、パルス圧縮器、及び4つの加速構造で構成される。パルス圧縮器は、パワーゲインで2.8倍になる。各加速構造は、長さが0.5であり、2TT/3 位相進め進行波(phase advance travelling wave)モードで動作する。各rfユニットは、ビームに70MeVのエネルギーゲインを与える。公称ビーム電流が約1Aの加速勾配は、最大35MV/mである。2つのrfユニットは140MeVの最大エネルギーを与える。
【0096】
磁気要素とrf集束の組み合わせにより、ビームの特性が制御される。加速構造は、大電流ビームを不安定にすることなく輸送するための高次モード減衰を備える。
【0097】
ビーム送達モジュールは、常電導磁石であって、異なるエネルギービームを偏向及び分離する1つの主双極子磁石と、定義された角度で患者に入る軌道を与える双極子磁石と、ビームをガイドし、患者に入るビームの照射スポットサイズを制御する四重極磁石とを含む常電導磁石で構成される。
【0098】
本実施例で示されるビーム送達システムは、それぞれ単一の加速されたビームを複数のビームラインに分離し、複数のビームラインを患者に向ける(分離手段としての)セパレータ磁石及び偏向磁石で構成される。セパレータ磁石は、単一のビームの離散エネルギーの列を複数のビームラインに向けるために使用される。複数のビームラインは、セパレータ磁石の後で発散する。個々のラインの中央近くの偏向磁石は、粒子軌道を標的体積に向ける。各ビームラインにおける四重極磁石は、ビームをリニアックのmmサイズから、15cmを超える最終治療寸法に拡張する。
【0099】
図1及び2に示される実施形態では、セパレータ磁石は、55.5cmの長さ及び15mmの半分の開口を有する。偏向磁石は、80cmの長さ及び25mmの半分の開口を有する。
【0100】
ビームラインにおける四重極磁石は、20cmの長さ及び18~35mmの半分の開口を有する。
【0101】
図3は、大きな肺癌を有する患者における本発明を用いたFLASH療法のシミュレーションを示す。この場合、本発明に係る装置を使用して、10cmの大きな腫瘍サイズを有するT4-N0肺癌患者におけるFLASH-RT治療をシミュレートした。
【0102】
図3では、腕神経叢及び食道などの重要な器官に腫瘍が近接するため、図2に示すように、この患者は、従来のRTで23分割で46Gyしか受けられず、腫瘍の生物学的等価線量(BED)が46Gyである。本発明に係る装置を用いたFLASH治療のシミュレーションは、28Gyの単回線量を安全に送達することができる。これは、腫瘍に対する115Gyの非常に高い治癒力を有するBEDに相当する。有利には、このシミュレーションは、FLASH条件のため、33%の正常組織温存係数を統合する。
【0103】
図4は、6MeV電子ビームによる10Gy脳照射後のマウス脳の認知温存の進化を示す。実験データは、P. Montay-GruelらによるRadiother Oncol,2017;124:365-9から引用される。曲線は、データ全体のロジスティックフィットである。この図は、新規物体認識試験(縦軸:認識率(パーセント))によって評価された神経保護に対する効果が、10Gy(横軸(ms))を送達するための全治療期間とともにどのように変化するかを示す。それは、本発明によって提案されるように、FLASH保護効果の恩恵を受けるように、200ms未満、好ましくは100ms未満、より好ましくは50ms未満で照射を送達する必要性を明確に強調する。
【0104】
図5は、25MeV~140MeVのエネルギー範囲での単一電子ビームによる照射の人間胸部への浸入の線量測定シミュレーションを示す。細い線は、最大深度で20Gyを照射した場合の線量変動(等線量)に対応する。太い線は、11cmの深さにある直径8cmの腫瘍体積を表す。図5は、本発明に記載されるように、腫瘍のより深い部分への過少投与を回避するために、50MeVを超えるエネルギーを達成する必要性を示す。
【0105】
実施形態は、いくつかの実施形態と合わせて説明されたが、多くの代替、修正、及び変形が、当業者にとって明らかとなるであろうこと、又は明らかであることは、明白である。それ故に、この開示は、この開示の範囲内にある全てのそのような代替、修正、同等物及び変形を包含することを意図される。これは、例えば、特に、使用できる異なる装置に関する場合である。
【符号の説明】
【0106】
1 第1の実施形態に係る装置
2 放射線源
3 線形加速器
4 ビーム送達モジュール
図1
図2
図3
図4
図5