(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-12
(45)【発行日】2024-09-24
(54)【発明の名称】複合材料、放熱材及び放熱材の製造方法
(51)【国際特許分類】
C01B 21/064 20060101AFI20240913BHJP
C08L 101/00 20060101ALI20240913BHJP
C08K 3/38 20060101ALI20240913BHJP
H01L 23/373 20060101ALI20240913BHJP
【FI】
C01B21/064 G
C08L101/00
C08K3/38
H01L23/36 M
(21)【出願番号】P 2023001850
(22)【出願日】2023-01-10
(62)【分割の表示】P 2022543999の分割
【原出願日】2021-08-19
【審査請求日】2023-02-07
(31)【優先権主張番号】P 2020139475
(32)【優先日】2020-08-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2021008753
(32)【優先日】2021-01-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003296
【氏名又は名称】デンカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100185591
【氏名又は名称】中塚 岳
(74)【代理人】
【識別番号】100218855
【氏名又は名称】田中 政輝
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 祐輔
(72)【発明者】
【氏名】宮田 建治
(72)【発明者】
【氏名】野村 謙二
【審査官】庄司 一隆
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-094542(JP,A)
【文献】特開2014-003144(JP,A)
【文献】特開2006-147801(JP,A)
【文献】特表2013-505194(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2005/0116336(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 21/064
C08L 101/00
C08K 3/38
H01L 23/373
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
無機基材と、
前記無機基材の一面上に配置された複数の窒化ホウ素粒子と、を備え、
前記複数の窒化ホウ素粒子が前記無機基材を起点として延伸しており、
前記複数の窒化ホウ素粒子の延伸方向における平均長さが50μm以上であり、
前記複数の窒化ホウ素粒子の平均アスペクト比が12.0以下である、複合材料。
【請求項2】
前記無機基材が、炭素及び窒化ホウ素からなる群より選ばれる一種を含む、請求項1に記載の複合材料。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の複合材料の前記複数の窒化ホウ素粒子間に樹脂を充填する工程を備える、放熱材の製造方法。
【請求項4】
前記工程の後に、前記無機基材を除去する工程を更に備える、請求項3に記載の放熱材の製造方法。
【請求項5】
複数の窒化ホウ素粒子と、樹脂と、を含有するシート状の放熱材であって、
前記複数の窒化ホウ素粒子が、前記放熱材の一面を起点として、前記一面に対向する他面に向けて延伸している、放熱材
(但し、金属複合体と、絶縁材料部とを備え、前記金属複合体が、金属体と、前記金属体の表面上に配置された複数の窒化ホウ素ナノチューブとを有し、前記絶縁材料部の表面上に、前記金属複合体が前記窒化ホウ素ナノチューブ側から配置されており、前記絶縁材料部が、熱硬化性化合物及び熱硬化剤を含む熱硬化性成分の硬化物部と、ナノチューブではない絶縁性フィラーとを含む、積層体を除く)。
【請求項6】
前記複数の窒化ホウ素粒子の延伸方向における平均長さが50μm以上である、請求項5に記載の放熱材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、複合材料、放熱材及び放熱材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
窒化ホウ素は、潤滑性、高熱伝導性、及び絶縁性を有しており、固体潤滑材、離型材、化粧料の原料、放熱材、並びに、耐熱性を有する絶縁性焼結体等の種々の用途に利用されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、樹脂に充填して得られる樹脂組成物に高い熱伝導性と高い絶縁耐力を付与することが可能な六方晶窒化ホウ素粉末として、六方晶窒化ホウ素の一次粒子からなる凝集粒子を含み、BET比表面積が0.7~1.3m2/gであり、且つ、JIS K 5101-13-1に基づき測定される吸油量が80g/100g以下であることを特徴とする六方晶窒化ホウ素粉末が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記のような窒化ホウ素粒子は、例えば、樹脂中に分散されてシート状に成形された放熱材(放熱シート)の形態で用いられる場合がある。この場合、放熱材の厚み方向の熱伝導性を高めるため、放熱材中の窒化ホウ素粒子を、放熱材の厚み方向に連続的な熱伝導経路が形成されるように分散させることが望ましい。しかし、放熱材中において窒化ホウ素粒子により形成される熱伝導経路を制御することは必ずしも容易ではない。
【0006】
本発明の目的は、放熱材において窒化ホウ素粒子により形成される熱伝導経路の制御を容易にすることである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一側面は、無機基材と、無機基材の一面上に配置された複数の窒化ホウ素粒子と、を備え、複数の窒化ホウ素粒子が無機基材を起点として延伸している、複合材料である。
【0008】
この複合材料では、複数の窒化ホウ素粒子が、基材を起点として延伸するように配置されているため、この複合材料の窒化ホウ素粒子間、及び窒化ホウ素粒子の内部に樹脂を充填することにより、窒化ホウ素粒子が放熱材の厚み方向に延伸した状態を維持したまま、放熱材を作製できる。したがって、得られる放熱材の厚み方向において、窒化ホウ素粒子により連続的な熱伝導経路が形成されやすくなる。すなわち、この複合材料を用いることにより、例えば窒化ホウ素粒子の粉体を樹脂と混合して用いる場合に比べて、放熱材において、窒化ホウ素粒子により形成される熱伝導経路の制御が容易となる。
【0009】
無機基材は、炭素及び窒化ホウ素からなる群より選ばれる一種を含んでよい。
【0010】
複数の窒化ホウ素粒子の延伸方向における平均長さは、50μm以上であってよい。
【0011】
本発明の他の一側面は、複合材料の複数の窒化ホウ素粒子間に樹脂を充填する工程を備える、放熱材の製造方法である。この放熱材の製造方法は、上記工程の後に、無機基材を除去する工程を更に備えてよい。
【0012】
本発明の他の一側面は、複数の窒化ホウ素粒子と、樹脂と、を含有するシート状の放熱材であって、複数の窒化ホウ素粒子が、放熱材の一面を起点として、一面に対向する他面に向けて延伸している、放熱材である。複数の窒化ホウ素粒子の延伸方向における平均長さは、50μm以上であってよい。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、放熱材において窒化ホウ素粒子により形成される熱伝導経路の制御を容易にすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】実施例1の窒化ホウ素粒子のX線回折測定結果のグラフである。
【
図4】実施例3の放熱材の厚み方向の断面の顕微鏡観察像である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。一実施形態に係る複合材料は、無機基材と、無機基材の一面上に配置された複数の窒化ホウ素粒子とを備えている。
【0016】
無機基材は、後述する複合材料の製造方法の生成工程における加熱に耐え得る(耐熱性を有する)無機基材であってよい。無機基材は、例えば、融点又は昇華点が1500℃以上である無機材料を含む無機基材であってよい。融点又は昇華点が1500℃以上である無機材料の含有量は、無機基材全量を基準として、例えば、95質量%以上、98質量%以上、又は99質量%以上であってよい。無機基材は、融点又は昇華点が1500℃以上である無機材料のみからなる無機基材であってよい。当該無機材料の融点又は昇華点は、生成工程における加熱温度に応じて適宜選択されてよく、1600℃以上、1800℃以上、2000℃以上、2200℃以上、又は2400℃以上であってもよい。融点又は昇華点が1500℃以上である無機材料としては、炭素、炭化ホウ素、炭化ケイ素、窒化ケイ素、アルミナ、窒化ホウ素等が挙げられる。
【0017】
無機基材は、窒素雰囲気(例えば95体積%以上の窒素ガスを含む雰囲気)において1500℃、0.1MPaで1時間加熱した際に、加熱前後で無機基材の重量変化率が5%以下である無機基材であってよい。加熱前後の無機基材の重量変化率は、加熱前の無機基材の重量をW1、加熱後の無機基材の重量をW2として、下記式で算出される。重量変化率の測定に用いる無機基材は、200℃で2時間加熱して乾燥させたものとする。 重量変化率=(W1-W2)/W1×100
【0018】
無機基材は、例えばシート状、板状、棒状等であってよい。無機基材としては、カーボンシート(グラファイトシート)、カーボン板、カーボン棒、カーボンルツボ、窒化ホウ素シート、窒化ホウ素板、窒化ホウ素ルツボ等が挙げられる。シート状の無機基材の厚みは、例えば、100μm以上であってよく、500μm以下であってよい。
【0019】
複数の窒化ホウ素粒子は、それぞれ無機基材を起点として延伸している。無機基材と窒化ホウ素粒子とは、起点において互いに化学的に結合していてよい。窒化ホウ素粒子は、直線状に延伸していてもよく、曲線状に延伸していてもよい。窒化ホウ素粒子は、延伸する途中で二以上に分岐して延伸していてもよい。窒化ホウ素粒子の延伸方向は、窒化ホウ素粒子が配置されている無機基材の面に対して略垂直方向であってよく、垂直方向から角度をもった方向であってもよい。窒化ホウ素粒子の延伸方向とは、窒化ホウ素粒子の起点と、当該起点からの直線距離が最大となる点とを結ぶ方向を意味する。
【0020】
窒化ホウ素粒子の延伸方向の平均長さは、50μm以上、80μm以上、100μm以上、125μm以上、150μm以上、又は200μm以上であってよく、500μm以下、400μm以下、又は300μm以下であってよい。
【0021】
窒化ホウ素粒子の延伸方向の平均長さは、レーザー顕微鏡(例えば、レーザーテック社製の「Optelics HYBRID」)を使用して測定することができる。具体的には、まず、複合材料に対して、無機基材の厚み及び窒化ホウ素粒子の最大長さが含まれるように測定範囲を設定して、複合材料の表面形状を測定する。続いて、測定した複合材料の表面形状の断面プロファイルから、窒化ホウ素粒子の延伸方向の長さとして測定する。この延伸方向の長さの測定を20個の窒化ホウ素粒子について行い、その平均値を窒化ホウ素粒子の延伸方向の平均長さとする。
【0022】
窒化ホウ素粒子は、上記のように延伸する細長形状であってよい。窒化ホウ素粒子の平均アスペクト比は、例えば、1.2以上、1.3以上、1.4以上、1.5以上、2.0以上、3.0以上、5.0以上、又は7.0以上であってよく、12.0以下、9.0以下、又は8.0以下であってよい。
【0023】
窒化ホウ素粒子の平均アスペクト比は、20個の窒化ホウ素粒子について、窒化ホウ素粒子の延伸方向の長さ(L1)と、延伸方向に垂直な方向における窒化ホウ素粒子の長さ(L2)との比(L1/L2)の平均値として定義される。延伸方向に垂直な方向における窒化ホウ素粒子の長さは、延伸方向の長さと同様の方法で、複合材料の表面形状の断面プロファイルから測定することができる。
【0024】
各窒化ホウ素粒子は、中実又は中空であってよい。窒化ホウ素粒子が中空である場合、窒化ホウ素粒子は、窒化ホウ素により形成される外殻部と、外殻部に囲われた中空部とを有してよい。中空部は、窒化ホウ素粒子の延伸する方向に沿って形成されていてよく、窒化ホウ素粒子の外観形状と略相似形の形状であってもよい。窒化ホウ素粒子が中空である場合、窒化ホウ素粒子の先端が開口端であってよく、当該開口端が上述した中空部と連通していてよい。
【0025】
無機基材の単位面積当たりに配置されている窒化ホウ素粒子の数は、例えば、10個/mm2以上、20個/mm2以上、又は30個/mm2以上であってよく、300個/mm2以下、200個/mm2以下、又は100個/mm2以下であってよい。
【0026】
続いて、上述した複合材料の製造方法について以下に説明する。複合材料は、例えば、炭素材料で形成された容器内に、炭化ホウ素及びホウ酸を含有する混合物と、無機基材とを配置する工程(配置工程)と、容器内を窒素雰囲気にした状態で加熱及び加圧することにより、無機基材上に窒化ホウ素粒子を生成させる工程(生成工程)と、を備える製造方法により製造することができる。本発明の他の一実施形態は、このような複合材料の製造方法である。
【0027】
炭素材料で形成された容器は、上記混合物及び無機基材を収容できるような容器である。当該容器は、例えばカーボンルツボであってよい。容器は、好ましくは、開口部に蓋をすることにより、気密性を高められるような容器である。配置工程では、例えば、混合物を容器内の底部に配置し、無機基材を容器内の側壁面や蓋の内側に固定するように配置してよい。無機基材の詳細は、上述した実施形態(複合材料)で説明したものと同様である。
【0028】
混合物中の炭化ホウ素は、例えば粉末状(炭化ホウ素粉末)であってよい。混合物中のホウ酸は、例えば粉末状(ホウ酸粉末)であってよい。混合物は、例えば、炭化ホウ素粉末とホウ酸粉末とを公知の方法で混合することにより得られる。
【0029】
炭化ホウ素粉末は、公知の製造方法により製造することができる。炭化ホウ素粉末の製造方法としては、例えば、ホウ酸とアセチレンブラックとを混合した後、不活性ガス(例えば窒素ガス)雰囲気中で、1800~2400℃にて、1~10時間加熱し、塊状の炭化ホウ素粒子を得る方法が挙げられる。この方法により得られた塊状の炭化ホウ素粒子を、粉砕、篩分け、洗浄、不純物除去、乾燥等を適宜行うことで炭化ホウ素粉末を得ることができる。
【0030】
塊状の炭素ホウ素粒子の粉砕時間を調整することによって、炭化ホウ素粉末の平均粒子径を調整することができる。炭化ホウ素粉末の平均粒子径は、5μm以上、7μm以上、又は10μm以上であってよく、100μm以下、90μm以下、80μm以下、又は70μm以下であってよい。炭化ホウ素粉末の平均粒子径は、レーザー回折散乱法により測定することができる。
【0031】
炭化ホウ素とホウ酸との混合比率は、適宜選択できる。混合物中のホウ酸の含有量は、窒化ホウ素粒子が大きくなりやすい観点から、炭化ホウ素100質量部に対して、好ましくは2質量部以上であり、より好ましくは5質量部以上であり、更に好ましくは8質量部以上であり、100質量部以下、90質量部以下、80質量部以下、又は70質量部以下であってよい。
【0032】
炭化ホウ素及びホウ酸を含有する混合物は、他の成分を更に含有してもよい。他の成分としては、炭化ケイ素、炭素、酸化鉄等が挙げられる。炭化ホウ素及びホウ酸を含有する混合物が炭化ケイ素を更に含むことで、開口端を有さない窒化ホウ素粒子を得やすくなる。
【0033】
容器内は、例えば95体積%以上の窒素ガスを含む窒素雰囲気となっている。窒素雰囲気中の窒素ガスの含有量は、好ましくは95体積%以上であり、より好ましくは99.9体積%以上であり、実質的に100体積%であってよい。窒素雰囲気中に、窒素ガスに加えて、アンモニアガス等が含まれてもよい。
【0034】
加熱温度は、窒化ホウ素粒子が大きくなりやすい観点から、好ましくは1450℃以上であり、より好ましくは1600℃以上であり、更に好ましくは1800℃以上である。加熱温度は、2400℃以下、2300℃以下、又は2200℃以下であってよい。
【0035】
加圧する際の圧力は、窒化ホウ素粒子が大きくなりやすい観点から、好ましくは0.3MPa以上であり、より好ましくは0.6MPa以上である。加圧する際の圧力は、1.0MPa以下、又は0.9MPa以下であってよい。
【0036】
加熱及び加圧を行う時間は、窒化ホウ素粒子が大きくなりやすい観点から、好ましくは3時間以上であり、より好ましくは5時間以上である。加熱及び加圧を行う時間は、40時間以下、又は30時間以下であってよい。
【0037】
以上のようにして、上述した窒化ホウ素粒子が無機基材上に生成し、複数の窒化ホウ素粒子が無機基材を起点として延伸している、複合材料が得られる。無機基材上に生成した粒子が窒化ホウ素粒子であることは、当該粒子の一部を無機基材から回収し、回収した粒子についてX線回折測定を行い、窒化ホウ素に由来するピークが検出されることにより確認できる。
【0038】
以上のようにして得られる複合材料は、複合材料の複数の窒化ホウ素粒子間に樹脂を充填して放熱材として用いることができる。すなわち、本発明の他の一実施形態は、上記複合材料の複数の窒化ホウ素粒子間に樹脂を充填する工程(充填工程)を備える、放熱材の製造方法である。
【0039】
樹脂としては、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂、シリコーンゴム、アクリル樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、ユリア樹脂、不飽和ポリエステル、フッ素樹脂、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリエーテルイミド、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレート、ポリフェニレンエーテル、ポリフェニレンスルフィド、全芳香族ポリエステル、ポリスルホン、液晶ポリマー、ポリエーテルスルホン、ポリカーボネート、マレイミド変性樹脂、ABS(アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン)樹脂、AAS(アクリロニトリル-アクリルゴム・スチレン)樹脂、AES(アクリロニトリル・エチレン・プロピレン・ジエンゴム-スチレン)樹脂等が挙げられる。
【0040】
樹脂の25℃での粘度は、0.1Pa・s以上、0.3Pa・s以上、又は0.5Pa・s以上であってよく、200Pa・s以下、150Pa・s以下、又は120Pa・s以下であってよい。本明細書における粘度は、回転式粘度計を用いて、せん断速度10(1/秒)の条件で測定される粘度を意味する。
【0041】
充填工程において、樹脂の充填量は、放熱材の使用形態、要求特性などに応じて適宜調整してよい。樹脂の充填量は、放熱材の全体積を基準として、例えば、15体積%以上、20体積%以上、30体積%以上、40体積%以上、50体積%以上、又は60体積%以上であってよく、70体積%以下、60体積%以下、50体積%以下、又は40体積%以下であってよい。
【0042】
充填工程においては、複合材料の複数の窒化ホウ素粒子間に、樹脂のみを充填してもよく、樹脂及びその他の成分を含む混合物を充填してもよい。その他の成分としては、例えば硬化剤が挙げられる。硬化剤は、樹脂を硬化させるものであればよく、樹脂の種類に応じて適宜選択される。エポキシ樹脂と共に用いられる硬化剤としては、フェノールノボラック化合物、酸無水物、アミノ化合物、イミダゾール化合物等が挙げられる。硬化剤の添加量は、樹脂100質量部に対して、例えば、0.5質量部以上又は1.0質量部以上であってよく、15質量部以下又は10質量部以下であってよい。
【0043】
その他の成分は、無機フィラー、硬化促進剤(硬化触媒)、カップリング剤、湿潤分散剤、表面調整剤等であってもよい。
【0044】
無機フィラーとしては、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、酸化ケイ素、酸化亜鉛、窒化ホウ素、窒化ケイ素、窒化アルミニウム、黒鉛等の熱伝導性フィラーであってよい。
【0045】
充填工程において、無機フィラーの充填量は、放熱材の使用形態、要求特性などに応じて適宜調整してよい。無機フィラーの充填量は、放熱材の全体積を基準として、例えば、体積%以上、3体積%以上、5体積%以上、10体積%以上、12体積%以上、又は15体積%以上であってよく、40体積%以下、35体積%以下、30体積%以下、又は20体積%以下であってよい。
【0046】
硬化促進剤(硬化触媒)としては、テトラフェニルホスホニウムテトラフェニルボレート、トリフェニルフォスフェイト等のリン系硬化促進剤、2-フェニル-4,5-ジヒドロキシメチルイミダゾール等のイミダゾール系硬化促進剤、三フッ化ホウ素モノエチルアミン等のアミン系硬化促進剤などが挙げられる。
【0047】
カップリング剤としては、シラン系カップリング剤、チタネート系カップリング剤、及びアルミネート系カップリング剤等が挙げられる。これらのカップリング剤に含まれる化学結合基としては、ビニル基、エポキシ基、アミノ基、メタクリル基、メルカプト基等が挙げられる。
【0048】
湿潤分散剤としては、リン酸エステル塩、カルボン酸エステル、ポリエステル、アクリル共重合物、ブロック共重合物等が挙げられる。
【0049】
表面調整剤としては、アクリル系表面調整剤、シリコーン系表面調整剤、ビニル系調整剤、フッ素系表面調整剤等が挙げられる。
【0050】
混合物の25℃での粘度は、0.1Pa・s以上、0.3Pa・s以上、又は0.5Pa・s以上であってよく、200Pa・s以下、150Pa・s以下、又は120Pa・s以下であってよい。混合物の充填量は、放熱材の全体積を基準として、例えば、15体積%以上、20体積%以上、30体積%以上、40体積%以上、50体積%以上、又は60体積%以上であってよく、70体積%以下、60体積%以下、50体積%以下、又は40体積%以下であってよい。
【0051】
放熱材の製造方法は、充填工程の後に、無機基材を除去する工程(除去工程)を更に備えてよい。除去工程において、無機基材の除去方法としては、無機基材の剥離等が挙げられる。
【0052】
放熱材の製造方法は、充填工程の後に、樹脂を硬化させる工程(硬化工程)を更に備えてよい。樹脂を硬化させる方法は、樹脂(及び必要に応じて用いられる硬化剤)の種類に応じて適宜選択される。例えば、樹脂がエポキシ樹脂であり、上述した硬化剤が共に用いられる場合、硬化工程では、加熱により樹脂を硬化させることができる。
【0053】
放熱材の製造方法は、充填工程及び硬化工程の後に、得られる放熱材を所望の形状に加工する加工工程を更に備えてよい。加工工程は、例えば複合材料がシート状である場合、複合材料の無機基材とは反対側の面を研磨して、得られる放熱材の厚みを調整する工程であってよい。放熱材の製造方法は、上述した除去工程の前及び/又は後に加工工程を備えてよい。
【0054】
以上のようにして、複数の窒化ホウ素粒子と、樹脂と、を含有する放熱材を得ることができる。上述した製造方法により得られる放熱材は、複合材料において複数の窒化ホウ素粒子が無機基材を起点として延伸していることから、放熱材においても、複数の窒化ホウ素粒子が特定の方向に向けて延伸している。例えば、放熱材がシート状である場合、複数の窒化ホウ素粒子は、放熱材の一面(無機基材と接していた面)を起点として、当該一面に対向する他面(当該一面に平行な面)に向けて延伸していてよい。すなわち、本発明の他の一実施形態は、複数の窒化ホウ素粒子と、樹脂と、を含有するシート状の放熱材であって、複数の窒化ホウ素粒子が、放熱材の一面(一方の主面)を起点として、一面に対向する他面(他方の主面)に向けて延伸している、放熱材である。
【0055】
シート状の放熱材において、複数の窒化ホウ素粒子が、放熱材の一面を起点として、一面に対向する他面に向けて延伸していることは、放熱材の厚み方向の断面を顕微鏡観察することにより確認することができる。
【0056】
「一面に対向する他面に向けて延伸している」とは、複数の窒化ホウ素粒子の延伸方向が、一面と他面とを結ぶ垂線方向(すなわちシート状の放熱材の厚み方向)と一致している場合だけでなく、当該垂線方向に対して傾いている場合も包含する。複数の窒化ホウ素粒子の延伸方向は、当該垂線方向に対して、45°以下、40°以下、30°以下、20°以下、又は10°以下の角度をもって傾いていてよい。複数の窒化ホウ素粒子の延伸方向は、互いに同じであってよく異なっていてもよい。また、「一面に対向する他面に向けて延伸している」とは、複数の窒化ホウ素粒子が他面に到達している場合及び到達していない場合の両方を包含する(すなわち、複数の窒化ホウ素粒子が上記の延伸方向に延伸していればよい)。
【0057】
窒化ホウ素粒子の延伸方向の平均長さは、50μm以上、80μm以上、100μm以上、125μm以上、150μm以上、又は200μm以上であってよく、500μm以下、400μm以下、又は300μm以下であってよい。
【0058】
窒化ホウ素粒子の延伸方向の平均長さは、放熱材の厚みの方向の断面を顕微鏡観察して、測定することができる。具体的には、まず、放熱材の厚み方向の断面を顕微鏡観察し、窒化ホウ素粒子の起点から延伸方向の長さを測定する。この延伸方向の長さの測定を20個の窒化ホウ素粒子について行い、その平均値を窒化ホウ素粒子の延伸方向の平均長さとする。
【0059】
放熱材の一面の単位面積当たりに配置されている窒化ホウ素粒子の数は、例えば、10個/mm2以上、20個/mm2以上、又は30個/mm2以上であってよく、300個/mm2以下、200個/mm2以下、又は100個/mm2以下であってよい。放熱材の一面の単位面積当たりに配置されている窒化ホウ素粒子の数は、放熱材の一面に沿った断面をSEMで観察することにより測定することができる。
【0060】
窒化ホウ素粒子の含有量は、放熱材の全体積を基準として、例えば、30体積%以上、40体積%以上、50体積%以上、又は60体積%以上であってよく、85体積%以下、80体積%以下、70体積%以下、60体積%以下、50体積%以下、又は40体積%以下であってよい。
【0061】
樹脂の含有量は、放熱材の全体積を基準として、例えば、15体積%以上、20体積%以上、30体積%以上、40体積%以上、50体積%以上、又は60体積%以上であってよく、70体積%以下、60体積%以下、50体積%以下、又は40体積%以下であってよい。
【0062】
シート状の放熱材の厚みは、例えば、80μm以上、100μm以上、20μm以上、又は300μm以上であってよく、800μm以下、600μm以下、又は400μm以下であってよい。
【0063】
放熱材は、上記の窒化ホウ素粒子及び樹脂に加えて、その他の成分を更に含有してもよい。その他の成分の詳細は、上記の放熱材の製造方法で説明したその他の成分と同様である。
【0064】
放熱材は、単独で用いてもよく、別の部材と組合わせて用いてもよい。例えば、シート状の放熱材は、他のシート状の部材が積層された状態で用いられてよい。すなわち、本発明の他の一実施形態は、上記のシート状の放熱材である第一のシートと、当該第一のシートの一面(上記の複数の窒化ホウ素粒子の延伸の起点となっている面)側及び他面側の少なくとも一方に設けられた第二のシートと、を備える積層シートである。一実施形態において、積層シートは、第一のシートと、第一のシートに一面側に設けられた第二のシートと、第一のシートの他面側に設けられた第三のシートと、を備えていてもよい。これらの実施
形態において、第二のシート及び第三のシートは、第一のシートに直接積層されていてよく、接着剤等を介して積層されていてもよい。
【0065】
第二のシート及び第三のシートは、例えば、樹脂、金属等により形成されていてよい。第二のシート及び第三のシートは、樹脂及び上述したような無機フィラーを含んでいてもよい。第二のシート及び第三のシートが樹脂を含む場合、当該樹脂は、第一のシートに含まれる樹脂と同じ樹脂であってもよく、異なる樹脂であってもよい。
【実施例】
【0066】
以下、実施例により本発明を具体的に説明する。ただし、本発明は下記の実施例に限定されるものではない。
【0067】
(実施例1) 塊状の炭化ホウ素粒子を粉砕機により粉砕し、平均粒子径が10μmである炭化ホウ素粉末を得た。得られた炭化ホウ素粉末100質量部と、ホウ酸9質量部とを混合し、カーボンルツボに充填し、カーボンルツボの開口部をカーボンシート(NeoGraf社製、厚み:130μm、融点:4730℃、重量変化率:1%以下(1500℃、0.1MPaの条件で1時間加熱した際の加熱前後の重量変化率))で覆い、カーボンルツボの蓋とカーボンルツボとでカーボンシートを挟むことで、カーボンシートを固定した。蓋をしたカーボンルツボを抵抗加熱炉内で、窒素ガス雰囲気下で、2000℃、0.85MPaの条件で20時間加熱することで、カーボンシートを起点として延伸する複数の粒子が生成した複合材料を得た。
【0068】
カーボンシート上に生成した粒子の一部を回収し、X線回折装置(株式会社リガク製、「ULTIMA-IV」)を用いてX線回折測定した。このX線回折測定結果、及び比較対象としてデンカ株式会社製の窒化ホウ素粉末(GPグレード)のX線回折測定結果をそれぞれ
図1に示す。
図1から分かるように、窒化ホウ素に由来するピークのみが検出され、窒化ホウ素粒子が生成したことを確認できた。また、得られた複合材料のSEM画像を
図2に示す。
図2より、カーボンシートを起点として複数の窒化ホウ素粒子が延伸していることが確認できた。
【0069】
また、窒化ホウ素粒子の延伸方向の長さ(L1)と、延伸方向に垂直な方向における長さ(L2)を、レーザー顕微鏡(レーザーテック社製の「Optelics HYBRID」)を使用して測定した。具体的には、まず、複合材料に対して、カーボンシートの厚み及び窒化ホウ素粒子の最大高さが含まれるように測定範囲を設定して、複合材料の表面形状を測定した。続いて、測定した複合材料の表面形状の断面プロファイルから、窒化ホウ素粒子の延伸方向の長さ(L1)として測定した。また、当該延伸方向に垂直な方向における長さ(L2)も測定した。これらの長さの測定を20個の窒化ホウ素粒子について行った。窒化ホウ素粒子の延伸方向の平均長さは254μmであり、平均アスペクト比は3.4であった。
【0070】
(実施例2) 実施例1において、カーボンシートを窒化ホウ素板(p-BN板、厚み:500μm、昇華点:2400℃)に変更して、カーボンルツボの開口部に窒化ホウ素板を配置し、カーボンルツボの蓋とカーボンルツボとで窒化ホウ素板を挟むことで、窒化ホウ素板を固定した。蓋をしたカーボンルツボを抵抗加熱炉内で、窒素ガス雰囲気下で、1600℃、0.85MPaの条件で5時間加熱することで、窒化ホウ素板を起点として延伸する複数の粒子が生成した複合材料を得た。
【0071】
窒化ホウ素板上に生成した粒子の一部を回収し、X線回折装置(株式会社リガク製、「ULTIMA-IV」)を用いてX線回折測定したところ、窒化ホウ素粒子が生成したことを確認できた。また、得られた複合材料のSEM画像を
図3に示す。
図3より、窒化ホウ素板を起点として複数の窒化ホウ素粒子が延伸していることが確認できた。
【0072】
また、窒化ホウ素粒子の延伸方向の長さ(L1)と、延伸方向に垂直な方向における長さ(L2)を、実施例1と同様の方法で測定した。窒化ホウ素粒子の延伸方向の平均長さは139μmであり、平均アスペクト比は1.5であった。
【0073】
(実施例3) 円筒状の治具(内径20mm)を用意し、実施例1で得られた複合材料をカーボンシートが下に、窒化ホウ素粒子が上になるようにして治具の内側に配置した。エポキシ樹脂(DIC社製、製品名:HP4032D)41.5部と硬化剤(DIC社製、製品名:VH4150)5.1部と、硬化促進剤(硬化触媒)A(北興化学社製、製品名:TPP)0.3体積部及び硬化促進剤B(四国化成工業社製、製品名:2PHZ-PW)0.5体積部の混合物(25℃での粘度:150Pa・s)を治具の内側に流し入れ、複合材料の複数の窒化ホウ素粒子間に樹脂を充填した。樹脂を温度150℃の条件で60分間加熱することにより硬化させた後、治具を取り外した。得られた樹脂の硬化物の無機基材とは反対側の面を平面研削盤により研削して、樹脂の硬化物の厚みを200μmに調整した。次いで、樹脂の硬化物をカーボンシートから剥離して、厚み200μm、直径20mmのシート状の放熱材を得た。得られた放熱材における窒化ホウ素粒子の充填量は、放熱材の全体積を基準として9体積%であった。
【0074】
得られた放熱材の厚み方向の断面の顕微鏡観察像を
図4に示す。
図4より、放熱材の一面を起点として、一面に対向する他面に向けて複数の窒化ホウ素粒子が延伸していることが確認できた。放熱材の複数の窒化ホウ素粒子の延伸方向の平均長さは、174μmであった。また、得られた放熱材の熱抵抗を後述の方法で測定したところ、1.1℃/Wであった。
【0075】
(参考例1) 実施例1で得られた複合材料から窒化ホウ素粒子を回収した。回収した窒化ホウ素粒子をエポキシ樹脂(DIC社製、製品名:HP4032D)41.5部と硬化剤(DIC社製、製品名:VH4150)5.1部と、硬化促進剤(硬化触媒)A(北興化学社製、製品名:TPP)0.3体積部及び硬化促進剤B(四国化成工業社製、製品名:2PHZ-PW)0.5体積部の混合物(25℃での粘度:150Pa・s)と混合した後、温度150℃の条件で60分間の加熱することにより硬化させて、厚み200μm、直径20mmのシート状の放熱材を得た。得られた放熱材における窒化ホウ素粒子の充填量は、放熱材の全体積を基準として10体積%であった。得られた放熱材の熱抵抗を後述の方法で測定したところ、1.82℃/Wであった。
【0076】
[熱抵抗の測定方法] 得られた放熱材の熱抵抗測定は、ASTM D5470に準拠して、樹脂材料熱抵抗測定装置(株式会社日立テクノロジーアンドサービス製)用いて測定した。得られた放熱材を10mm×10mmに切断し、両面にグリースを塗布した放熱材を熱電対間に配置し、試料温度50℃、熱源出力10W、荷重1MPaの条件で加熱及び加圧して、試験片表裏の温度差ΔTと熱源出力Qより、A=ΔT/Qより熱抵抗値Aを求めた。
【0077】
(参考例2)
窒化ホウ素粒子を、窒化ホウ素(デンカ社製「GP」)に変更した以外は参考例1と同様にして放熱材を作製した。
【0078】
(参考例3)
窒化ホウ素粒子を用いない以外は参考例1と同様にして、放熱材を作製した。
【0079】
[誘電率の測定方法]
実施例3及び参考例1~3の放熱材の誘電特性を評価するために、インピーダンスアナライザ(IWATSU PSM3750+IAI2)を用いて、周波数10-1~107Hzの範囲で放熱材の静電容量(C)を測定した。この測定において、印加電圧は10V、評価温度は室温25℃とした。また、放熱材の一方の面には、金スパッタを施して全面に電極を設け、他方の面には、金スパッタを施して直径15mmの円形の電極を設けた。放熱材の誘電特性は、周波数1kHzにおける放熱材の比誘電率εの比較で評価した。なお、放熱材の比誘電率εは、下記の関係式から算出した。
C=ε×ε0×S/d(C:放熱材の静電容量、S:円形の電極の面積、d:放熱材の厚み、ε0:真空の誘電率)
【0080】
実施例3及び参考例1~3の放熱材の比誘電率は、以下のとおりであった。
実施例3:4.58
参考例1:5.10
参考例2:4.83
参考例3:4.50
この結果から、実施例3の放熱材において、誘電特性が低下することはなく、一定水準以上の誘電特性が示されることが確認された。