(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-12
(45)【発行日】2024-09-24
(54)【発明の名称】窒化物半導体発光素子
(51)【国際特許分類】
H01L 33/12 20100101AFI20240913BHJP
H01L 33/32 20100101ALI20240913BHJP
【FI】
H01L33/12
H01L33/32
(21)【出願番号】P 2023206638
(22)【出願日】2023-12-07
【審査請求日】2023-12-07
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000226242
【氏名又は名称】日機装株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002583
【氏名又は名称】弁理士法人平田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】松倉 勇介
(72)【発明者】
【氏名】ペルノ シリル
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼尾 一史
【審査官】佐竹 政彦
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-258096(JP,A)
【文献】特開2020-070221(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2021/0047749(US,A1)
【文献】特開2022-084473(JP,A)
【文献】特開2009-081406(JP,A)
【文献】特開2009-231302(JP,A)
【文献】Sang Ho Oh et al.,Oscillatory Mass Transport in Vapor-Liquid-Solid Growth of Sapphire Nanowires,SCIENCE,2010年10月22日,Vol. 330,pp.489-493
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 33/00 - 33/64
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(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
c面が成長面である
サファイア基板と、
前記成長面上に形成されたバッファ層と、
前記バッファ層上に形成されたn型半導体層と、
前記n型半導体層上に形成されるとともに、中心波長が365nm以下の紫外光を発する活性層と、
前記活性層上に形成されたp型半導体層と、を備え、
前記バッファ層の膜厚は、500nmより大きく、
前記バッファ層の酸素濃度の平均値は、4.5×10
21atoms/cm
3以下を満たし、
前記
サファイア基板の酸素濃度の平均値に対する前記バッファ層の酸素濃度の平均値の比率は、3/20以下を満たす、
窒化物半導体発光素子。
【請求項2】
前記バッファ層の酸素濃度の平均値は、1.0×10
21atoms/cm
3以下を更に満たす、
請求項1に記載の窒化物半導体発光素子。
【請求項3】
前記
サファイア基板の酸素濃度の平均値に対する前記バッファ層の酸素濃度の平均値の比率は、13/100以下を更に満たす、
請求項1又は2に記載の窒化物半導体発光素子。
【請求項4】
前記
サファイア基板の酸素濃度の平均値に対する前記バッファ層の酸素濃度の平均値の比率は、1/100以下を更に満たす、
請求項3に記載の窒化物半導体発光素子。
【請求項5】
前記バッファ層は、アンドープの窒化アルミニウムより形成されたAlN層と、アンドープのAl
p
Ga
1-p
N(0≦p≦1)により形成された前記AlN層上に形成されたAlGaN層とを有する、
請求項1又は2に記載の窒化物半導体発光素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、窒化物半導体発光素子に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、発光ピーク波長が380nm以上425nm以下の半導体発光素子において、バッファ層の酸素濃度の分布を工夫することで、バッファ層上に成膜される各半導体層の結晶性を向上させようとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
中心波長が365nm以下の紫外光を発する窒化物半導体発光素子においては、バッファ層に含まれる酸素が紫外光を吸収することに起因して光出力の低下を招き得るという新たな課題が見出された。
【0005】
本発明は、前述の事情に鑑みてなされたものであり、光出力の向上を図ることができる窒化物半導体発光素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、前記の目的を達成するため、c面が成長面であるサファイア基板と、前記成長面上に形成されたバッファ層と、前記バッファ層上に形成されたn型半導体層と、前記n型半導体層上に形成されるとともに、中心波長が365nm以下の紫外光を発する活性層と、前記活性層上に形成されたp型半導体層と、を備え、前記バッファ層の膜厚は、500nmより大きく、前記バッファ層の酸素濃度の平均値は、4.5×1021atoms/cm3以下を満たし、前記サファイア基板の酸素濃度の平均値に対する前記バッファ層の酸素濃度の平均値の比率は、3/20以下を満たす、窒化物半導体発光素子を提供する。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、光出力の向上を図ることができる窒化物半導体発光素子を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】実施の形態における、窒化物半導体発光素子の構成を概略的に示す模式図である。
【
図2】実験例における、バッファ層の酸素濃度の平均値と光出力との関係を示すグラフである。
【
図3】実験例における、基板の酸素濃度の平均値に対するバッファ層の酸素濃度の平均値の比率と光出力との関係を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
[実施の形態]
本発明の実施の形態について、
図1を参照して説明する。なお、以下に説明する実施の形態は、本発明を実施する上での好適な具体例として示すものであり、技術的に好ましい種々の技術的事項を具体的に例示している部分もあるが、本発明の技術的範囲は、この具体的態様に限定されるものではない。
【0010】
(窒化物半導体発光素子1)
図1は、窒化物半導体発光素子1の構成を概略的に示す模式図である。なお、
図1において、窒化物半導体発光素子1(以下、単に「発光素子1」ともいう。)の各半導体層の積層方向の寸法比は、必ずしも実際のものと一致するものではない。以後、発光素子1の各半導体層の積層方向を上下方向という。また、上下方向の一方側であって、基板2における各半導体層が成長される側(例えば
図1の上側)を上側とし、その反対側(例えば
図1の下側)を下側とする。なお、上下の表現は便宜的なものであり、例えば発光素子1の使用時における、鉛直方向に対する発光素子1の姿勢を限定するものではない。
【0011】
発光素子1は、例えば発光ダイオード(LED:Light Emitting Diode)又は半導体レーザ(LD:Laser Diode)を構成するものである。本形態において、発光素子1は、紫外領域の波長の光を発する発光ダイオードを構成するものである。特に、本形態の発光素子1は、中心波長が240nm以上365nm以下の紫外光を発する。発光素子1は、例えば殺菌(例えば空気浄化、浄水等)、医療(例えば光線治療、計測・分析等)、UVキュアリング等の分野において用いることができる。
【0012】
発光素子1は、基板2上に、バッファ層3、n型半導体層4、組成傾斜層5、活性層6、電子ブロック層7及びp型半導体層8を順次備える。また、発光素子1は、n型半導体層4上に設けられたn側電極11と、p型半導体層8上に設けられたp側電極12とを備える。
【0013】
発光素子1を構成する半導体としては、例えば、AlaGabIn1-a-bN(0≦a≦1、0≦b≦1、0≦a+b≦1)にて表される2~4元系のIII族窒化物半導体を用いることができる。本形態においては、発光素子1を構成する半導体として、AlcGa1-cN(0≦c≦1)にて表される2元系又は3元系のIII族窒化物半導体を用いている。これらのIII族元素の一部は、ホウ素(B)、タリウム(Tl)等に置き換えてもよい。また、窒素の一部をリン(P)、ヒ素(As)、アンチモン(Sb)、ビスマス(Bi)等で置き換えてもよい。
【0014】
基板2は、活性層6が発する光を透過する材料からなる。本形態において、基板2は、サファイア(Al2O3)基板である。基板2の上面にて構成される成長面21は、c面である。このc面は、オフ角を有するものであってもよい。基板2のオフ角は、0.6°以上が好ましい。基板2のオフ角が0.6°よりも小さい場合、基板2の上面に形成されるステップ・テラス構造のテラス幅が広くなり、バッファ層3の上面にヒロックが形成されやすくなる結果、バッファ層3に酸素が取り込まれやすくなる。基板2のオフ角は、0.9°以上1.1°以下がより好ましい。また、基板2として、例えば窒化アルミニウム(AlN)基板又は窒化アルミニウムガリウム(AlGaN)基板等を用いてもよい。
【0015】
バッファ層3は、基板2上に形成されている。本形態において、バッファ層3は、基板2側から順に、アンドープの窒化アルミニウムより形成されたAlN層31と、アンドープのAlpGa1-pN(0≦p≦1)により形成されたAlGaN層32との2層からなる。アンドープの半導体層とは、その半導体層の形成時に意図的に不純物の添加が行われていない半導体層を意味し、不可避的に含まれる微量の不純物を含む半導体層もアンドープの半導体層とする。バッファ層3の全体の膜厚は、500nmより大きい。これにより、基板2とバッファ層3上に形成される半導体層との間の格子不整合を緩和しやすく、バッファ層3上に形成される半導体層の結晶性を向上させることができる。バッファ層3の全体の膜厚は、バッファ層3にクラックが発生することを抑制する観点から、5μm以下が好ましい。AlN層31の膜厚は、AlGaN層32の膜厚より大きい。例えば、AlN層31の膜厚は、380nm以上2200nm以下であり、AlGaN層32の膜厚は80nm以上120nm以下である。AlGaN層32のAl組成比pは、例えば45%以上65%以下である。AlN層31とn型半導体層4との間にAlGaN層32を介在させることで、バッファ層3とn型半導体層4との間のAl組成比の差が低減され、n型半導体層4への転位の伝播が抑制される結果、n型半導体層4の導電性が向上する。
【0016】
中心波長が365nm以下の紫外光を発する発光素子1においては、バッファ層3に不純物として不可避的に含まれる酸素濃度の平均値が高いと、活性層6から発される紫外光がバッファ層3中の酸素に吸収されて発光素子1の光出力が低下する。そこで、本形態の発光素子1においては、バッファ層3の酸素濃度の平均値が4.5×1021atoms/cm3以下となるよう構成されている。以下、バッファ層3の酸素濃度の平均値とは、バッファ層3の上下方向の各位置の酸素濃度を平均した値を意味するものとする。バッファ層3の酸素濃度の平均値は、1.0×1021atoms/cm3以下が好ましく、3.5×1020atoms/cm3以下が一層好ましく、3.0×1020atoms/cm3以下がより一層好ましい。バッファ層3の酸素濃度の調整方法は、例えば後述するように製造条件を工夫することで実現可能である。
【0017】
ここで、基板2としてのサファイア基板は、その構成元素として酸素を含むところ、バッファ層3の酸素濃度の平均値は、サファイア基板の酸素濃度の平均値よりも小さいことが好ましい。基板2の酸素濃度の平均値に対するバッファ層3の酸素濃度の平均値の比率は、3/20以下が好ましく、13/100以下がより好ましく、13/1000以下がより一層好ましく、1/100以下が更に好ましい。
【0018】
なお、バッファ層3は、単層であってもよいし、3層以上であってもよい。基板2が窒化アルミニウム基板又は窒化アルミニウムガリウム基板である場合、バッファ層3は、例えばAlGaN層32のみにて構成してもよい。
【0019】
n型半導体層4は、バッファ層3上に形成されている。n型半導体層4は、例えば、n型不純物がドープされたAlqGa1-qN(0≦q≦1)により形成されたn型クラッド層である。本形態において、n型不純物としては、シリコン(Si)を用いた。n型半導体層4以外の、n型不純物を含む半導体層においても同様である。なお、n型不純物としては、ゲルマニウム(Ge)、セレン(Se)又はテルル(Te)等を用いてもよい。n型半導体層4のAl組成比qは、例えば45%以上65%以下である。n型半導体層4は、単層構造でもよく、多層構造でもよい。
【0020】
組成傾斜層5は、n型半導体層4上に形成されている。組成傾斜層5は、AlrGa1-rN(0≦r≦1)からなる。組成傾斜層5の上下方向の各位置におけるAl組成比は、上側の位置程大きくなっている。なお、組成傾斜層5は、例えば上下方向の極一部の領域(例えば組成傾斜層5の上下方向の全体の5%以下の領域)に、上側に向かうにつれてAl組成比が大きくならない領域を含んでいてもよい。
【0021】
組成傾斜層5は、その下端部のAl組成比が、組成傾斜層5の下側に隣接するn型半導体層4の上端部のAl組成比と略同一(例えば差が5%以内)であることが好ましい。また、組成傾斜層5は、その上端部のAl組成比が、組成傾斜層5の上側に隣接する障壁層61の下端部のAl組成比と略同一(例えば差が5%以内)であることが好ましい。
【0022】
活性層6は、組成傾斜層5上に形成されている。本形態の活性層6は、複数の井戸層621,622を有する多重量子井戸構造である。活性層6は、中心波長が240nm以上365nm以下の紫外光を発することができるよう、バンドギャップが調整されている。本形態のように、活性層6が多重量子井戸構造である場合、光出力の向上の観点から、活性層6が発する紫外光の中心波長は、250nm以上320nm以下が好ましく、260nm以上290nm以下がより好ましい。本形態において、活性層6は、障壁層61と井戸層621,622とを3つずつ有し、障壁層61と井戸層621,622とが交互に積層されている。活性層6においては、下端に障壁層61が位置しており、上端に井戸層622が位置している。
【0023】
各障壁層61は、AlsGa1-sN(0<s≦1)により形成されている。各障壁層61のAl組成比sは、例えば75%以上95%以下である。また、各障壁層61の膜厚は、例えば2nm以上50nm以下である。
【0024】
井戸層621,622は、AltGa1-tN(0<t<1)により形成されている。各井戸層621,622のAl組成比tは、障壁層61のAl組成比sよりも小さい(すなわちt<s)。
【0025】
3つの井戸層621,622は、最も下側に配された井戸層である最下井戸層621と、最下井戸層621以外の2つの井戸層である上側井戸層622とで構成が異なっている。例えば、最下井戸層621の膜厚は、2つの上側井戸層622のそれぞれの膜厚よりも1nm以上大きく、かつ、最下井戸層621のAl組成比は、2つの上側井戸層622のそれぞれのAl組成比よりも2%以上大きい。本形態において、上側井戸層622は、2nm以上4nm以下の膜厚を有するとともに25%以上45%以下のAl組成比を有し、最下井戸層621は、4nm以上6nm以下の膜厚を有するとともに35%以上55%以下のAl組成比を有する。最下井戸層621の膜厚と各上側井戸層622との膜厚の差は、2nm以上4nm以下とすることができる。
【0026】
最下井戸層621のAl組成比を、上側井戸層622のAl組成比よりも大きくすることにより、最下井戸層621の結晶性が向上する。これは、最下井戸層621とn型半導体層4とのAl組成比の差が小さくなるためである。最下井戸層621の結晶性が向上することにより、最下井戸層621から上側に形成される活性層6の各半導体層の結晶性も向上する。これにより、活性層6におけるキャリアの移動度が向上し、光出力が向上する。かかる効果は、最下井戸層621の膜厚が大きくなるほど顕著であるが、発光素子1全体の電気抵抗値が増加することを抑制する観点から最下井戸層621の膜厚は所定値以下となるよう設計される。
【0027】
なお、本形態において、活性層6は、井戸層621,622が3つの多重量子井戸構造である例を示したが、これに限られず、井戸層621,622が2つ又は4つ以上である多重量子井戸構造であってもよい。また、活性層6は、井戸層621,622を1つのみ有する単一量子井戸構造であってもよい。
【0028】
電子ブロック層7は、活性層6上に形成されている。電子ブロック層7は、活性層6からp型半導体層8側へ電子がリークするオーバーフロー現象の発生を抑制すること(以後、電子ブロック効果ともいう)によって活性層6への電子注入効率を向上させる役割を有する。電子ブロック層7は、下側から順に、第1層71と第2層72とを積層した積層構造を有する。
【0029】
第1層71は、活性層6上に設けられている。第1層71は、例えばAluGa1-uN(0<u≦1)からなる。第1層71のAl組成比uは、例えば90%以上であり、本形態においては窒化アルミニウムにて構成されている。第1層71の膜厚は、例えば0.5nm以上5.0nm以下である。
【0030】
第2層72は、例えばAlvGa1-vN(0<v<1)からなる。第2層72のAl組成比vは、第1層71のAl組成比uよりも小さく(すなわちu<t)、例えば70%以上90%以下である。第2層72の膜厚は、第1層71の膜厚よりも大きく、例えば15nm以上100nm以下である。
【0031】
Al組成比が大きい半導体層ほど電気抵抗値が大きくなるため、Al組成比が比較的高い第1層71の膜厚を大きくし過ぎると発光素子1の全体の電気抵抗値の過度な上昇を招く。そのため、第1層71の膜厚はある程度小さくすることが好ましい。一方、第1層71の膜厚を小さくすると、トンネル効果によって電子が第1層71を下側から上側にすり抜ける確率が増大し得る。そこで、本形態の発光素子1においては、第1層71上に第2層72を形成することで、電子ブロック層7の全体を電子がすり抜けることを抑制している。
【0032】
第1層71及び第2層72のそれぞれは、アンドープの層、n型不純物を含有する層、p型不純物を含有する層、又はn型不純物及びp型不純物の双方を含有する層とすることができる。p型不純物としては、マグネシウム(Mg)を用いることができるが、マグネシウム以外にも、亜鉛(Zn)、ベリリウム(Be)、カルシウム(Ca)、ストロンチウム(Sr)、バリウム(Ba)又は炭素(C)等を用いてもよい。他のp型不純物を含む半導体層においても同様である。各電子ブロック層7が不純物を含有する場合において、各電子ブロック層7が含有する不純物は、各電子ブロック層7の全体に含まれていてもよいし、各電子ブロック層7の一部に含まれていてもよい。
【0033】
p型半導体層8は、電子ブロック層7上に形成されている。p型半導体層8は、電子ブロック層7よりもAl組成比が小さく、p型不純物がドープされたAlwGa1-wN(0≦w≦1)により形成されている。本形態において、p型半導体層8は、下側から順に、第1p型クラッド層81と第2p型クラッド層82とp型コンタクト層83とを積層した積層構造を有する。
【0034】
第1p型クラッド層81は、第2層72に接するよう設けられている。第1p型クラッド層81は、p型不純物を含むAlxGa1-xN(0<x≦1)からなる。第1p型クラッド層81のAl組成比xは、例えば45%以上65%以下である。第1p型クラッド層81の膜厚は、例えば15nm以上35nm以下である。
【0035】
第2p型クラッド層82は、p型不純物を含むAlyGa1-yN(0<y≦1)からなる。第2p型クラッド層82の上下方向の各位置におけるAl組成比は、上側の位置程小さくなっている。なお、第2p型クラッド層82は、積層方向の極一部の領域(例えば第2p型クラッド層82の積層方向の全体の5%以下の領域)に、上側に向かうにつれてAl組成比が小さくならない領域を含んでいてもよい。
【0036】
第2p型クラッド層82は、その下端部のAl組成比が第1p型クラッド層81のAl組成比と略同一(例えば差が5%以内)であり、その上端部のAl組成比がp型コンタクト層83のAl組成比と略同一(例えば差が5%以内)であることが好ましい。第2p型クラッド層82の膜厚は、例えば2nm以上4nm以下とすることができる。
【0037】
p型コンタクト層83は、後述するp側電極12が接続された層であり、p型不純物が高濃度にドープされている。p型コンタクト層83は、p側電極12とのオーミックコンタクトを実現すべくAl組成比が低くなるよう構成されており(例えば10%以下)、かかる観点からp型の窒化ガリウム(GaN)により形成することが好ましい。p型コンタクト層83の膜厚は、例えば10nm以上25nm以下である。なお、p型半導体層8は、単層でも複数層でもよい。
【0038】
n側電極11は、n型半導体層4における活性層6から上側に露出した露出面41に形成されている。n側電極11は、例えば、n型半導体層4の上にチタン(Ti)、アルミニウム、チタン、窒化チタン(TiN)が順に積層された多層膜とすることができる。また、後述するように発光素子1がフリップチップ実装される場合、n側電極11は、活性層6が発する紫外光を反射可能な材料にて構成されていてもよい。
【0039】
p側電極12は、p型半導体層8の上面に形成されている。p側電極12は、例えば、ロジウム(Rh)から構成することができる。本形態において、p側電極12は、活性層6が発する光の中心波長において50%以上、好ましくは60%以上の反射率を有する反射電極であるが、これに限られない。
【0040】
発光素子1は、図示しないパッケージ基板にフリップチップ実装されて使用される。すなわち、発光素子1は、上下方向におけるn側電極11及びp側電極12が設けられた側をパッケージ基板側に向け、n側電極11及びp側電極12のそれぞれが、金バンプ等の接続部材を介してパッケージ基板に実装される。フリップチップ実装された発光素子1は、基板2側(すなわち下側)から光が取り出される。
【0041】
(窒化物半導体発光素子1の製造方法)
次に、本形態の発光素子1の製造方法の一例につき説明する。
本形態においては、有機金属化学気相成長法(MOCVD:Metal Organic Chemical Vapor Deposition)により、円板状の基板2上に、バッファ層3、n型半導体層4、組成傾斜層5、活性層6、電子ブロック層7及びp型半導体層8を順次エピタキシャル成長させる。すなわち、本形態においては、チャンバ内に円板状の基板2を設置し、基板2上に形成される各半導体層の原料ガスをチャンバ内に導入することによって基板2上に各半導体層が形成される。各半導体層をエピタキシャル成長させるための原料ガスとしては、アルミニウム源としてトリメチルアルミニウム(TMA)、ガリウム源としてトリメチルガリウム(TMG)、窒素源としてアンモニア(NH3)、シリコン源としてテトラメチルシラン(TMSi)、マグネシウム源としてビスシクロペンタジエニルマグネシウム(Cp2Mg)を用いることができる。
【0042】
なお、MOCVD法は、有機金属化学気相エピタキシ法(MOVPE:Metal Organic Vapor Phase Epitaxy)と呼ばれることもある。基板2上に500nmより大きい膜厚のバッファ層3を形成する観点から、MOCVD法、ハイドライド気相エピタキシ法(HVPE:Hydride Vapor Phase Epitaxy)又は物理気相成長法(PVT:Physical Vapor Transport)のエピタキシャル成長法を用いることが好ましい。本形態において、バッファ層3は、スパッタ法で成長されたものが除かれる。スパッタ法を用いて500nmより大きい膜厚のバッファ層3を成膜することは困難である。ただし、スパッタ法で500nmより大きい膜厚のバッファ層3が成膜可能であれば、スパッタ法を用いてもよい。
【0043】
本形態の発光素子1の製造方法においては、バッファ層3の酸素濃度が前述したように低くなるよう製造条件が設計される。例えば、基板2上に各半導体層を成膜する前に、チャンバ内の真空度が比較的高くなるようチャンバ内の真空引きを行うことで、成膜されるバッファ層3内に酸素が含まれ難くなる。また、チャンバ内の空間に臨むチャンバの壁面の素材によっては、バッファ層の成膜温度の高温環境下において壁面から酸素が発生することもあるため、チャンバの壁面の素材もバッファ層3の酸素濃度に影響を及ぼし得る。以上例示したように、バッファ層3の酸素濃度に影響し得る製造条件を適宜設計することで、バッファ層3の酸素濃度を調整可能である。
【0044】
円板状の基板2上に各半導体層を形成した後、p型半導体層8上の一部、すなわちn型半導体層4の露出面41になる部分以外の部位にマスクを形成する。そして、マスクを形成していない領域を、p型半導体層8の上面から上下方向のn型半導体層4の途中までエッチングにより除去する。これにより、n型半導体層4に、上側に向かって露出する露出面41が形成される。露出面41の形成後、マスクを除去する。
【0045】
次いで、n型半導体層4の露出面41上にn側電極11を形成し、p型半導体層8上にp側電極12を形成する。n側電極11及びp側電極12は、例えば、電子ビーム蒸着法やスパッタリング法などの周知の方法により形成してよい。以上により完成したものを、所望の寸法に切り分けることにより、1つのウエハから
図1に示すような発光素子1が複数製造される。
【0046】
(実施の形態の作用及び効果)
本形態の発光素子1は、活性層6が中心波長365nm以下の紫外光を発し、バッファ層3の膜厚が500nmより大きい。このような前提構成を有する場合、バッファ層3の比較的大きい膜厚によって基板2とn型半導体層4との間の格子不整合を緩和しやすいものの、バッファ層3に含まれる酸素が紫外光を吸収することに起因して発光素子1の光出力が低下する課題が顕著になりやすい。そこで、本形態においては、バッファ層3の酸素濃度の平均値を4.5×1021atoms/cm3以下としている。これにより、発光素子1の光出力の向上を図ることができる。この数値については、後述する実験例にて裏付けられる。また、基板2の成長面21がc面であるため、成長面21がr面等と比べ、基板2上に形成されるバッファ層3の酸素濃度が低減される。
【0047】
また、バッファ層3の酸素濃度の平均値は、1.0×1021atoms/cm3以下を更に満たす。これにより、発光素子1の光出力の一層の向上を図ることができる。
【0048】
また、基板2は、サファイア基板であり、バッファ層3の酸素濃度の平均値は、基板2の酸素濃度の平均値よりも小さい。このように、バッファ層3の酸素濃度の平均値を、構成元素として酸素を含むサファイア基板の酸素濃度の平均値よりも小さくすることで、発光素子1の光出力の一層の向上を図ることができる。
【0049】
また、基板2の酸素濃度の平均値に対するバッファ層3の酸素濃度の平均値の比率は、3/20以下を満たす。これにより、発光素子1の光出力の一層の向上を図ることができる。
【0050】
基板2の酸素濃度の平均値に対するバッファ層3の酸素濃度の平均値の比率は、13/100以下を更に満たす。これにより、発光素子1の光出力の一層の向上を図ることができる。
【0051】
以上のごとく、本形態によれば、光出力の向上を図ることができる窒化物半導体発光素子を提供することができる。
【0052】
[実験例]
本実験例は、バッファ層における酸素濃度の平均値とウエハの光出力との関係を評価した例である。なお、本実験例にて用いた構成要素の名称のうち、既出の形態において用いた名称と同一のものは、特に示さない限り、既出の形態におけるものと同様の構成要素を表す。
【0053】
まず、試料1~4のそれぞれに係るウエハについて表1を用いて説明する。試料1~4は、以下、特に言及する場合を除き、実施の形態における発光素子と基本構成を同じくするウエハである。
【0054】
【0055】
表1に示すごとく、試料1~4は、互いにバッファ層の酸素濃度の平均値及びバッファ層のAlN層の膜厚を変更したものである。なお、試料1~4の基板の酸素濃度の平均値は、互いに微小に異なっているが、意図的に変えているものではなく個体差の範囲内である。
【0056】
表1においては、試料1~4に共通する構成については試料1~4を区別せずに表しており、AlN層の膜厚、基板の酸素濃度の平均値及びAlN層の酸素濃度の平均値のそれぞれについては、試料1~4のそれぞれについて示している。表1に記載の各層のAl組成比は、二次イオン質量分析法(SIMS:Secondary Ion Mass Spectrometry)により測定したAlの二次イオン強度から推定した値である。また、表1における組成傾斜層の欄は、組成傾斜層の上下方向の各位置のAl組成比が、組成傾斜層の下端から上端までにかけて、55%から85%まで漸増していることを表している。また、表1における第2p型クラッド層の欄は、第2p型クラッド層の上下方向の各位置のAl組成比が、第2p型クラッド層の下端から上端までにかけて、55%から0%まで漸減していることを表している。
【0057】
表1に記載の各層の酸素濃度の平均値は、SIMSの測定値から算出されたものである。各試料における基板及びAlN層の酸素濃度は、各試料を製造する際の製造条件と同等の製造条件でAlN層まで成長させたウエハを用いて測定した。また、SIMSによる前述のウエハの各層の酸素濃度の測定値は、ウエハを上側から測定したときの結果である。なお、バッファ層を構成するAlGaN層については、その膜厚が小さく、正確な酸素濃度が困難であるが、AlN層の酸素濃度と同等と見込まれる。前述のごとく、バッファ層の酸素濃度はその製造環境(すなわちチャンバ内の温度やチャンバの壁面の素材等)によって変わり得るが、本実験例においては、各試料のAlN層とAlGaN層とは同じ製造環境で製造しており、AlN層の酸素濃度とAlGaN層の酸素濃度とは同じであるとみなした。つまり、本実験例においては、表1に記載のAlN層の酸素濃度は、バッファ層全体の酸素濃度とみなした。
【0058】
そして、試料1~4のそれぞれにおいて、オンウエハの状態で20mAの電流を流し、光出力を測定した。各試料の光出力は、各試料の下側(すなわち基板側)に設置した光検出器によって測定した。結果を
図2に示す。
図2は、バッファ層の酸素濃度の平均値と光出力との関係を示すグラフである。
【0059】
図2から分かるように、バッファ層の酸素濃度の平均値が上昇すると、バッファ層の酸素濃度の平均値が4.5×10
21atoms/cm
3までは緩やかに光出力が減少するが、酸素濃度の平均値が4.5×10
21atoms/cm
3を超えると光出力が急減することが分かる。そのため、バッファ層の酸素濃度の平均値は、4.5×10
21atoms/cm
3以下が好ましい。また、
図2から分かるように、光出力を向上させる観点から、バッファ層の酸素濃度の平均値は、1.0×10
21atoms/cm
3以下が好ましく、3.5×10
20atoms/cm
3以下が一層好ましく、3.0×10
20atoms/cm
3以下がより一層好ましい。
【0060】
また、表2及び
図3を用いて、
図2の結果を別視点で検討する。表2は、各試料における、基板の酸素濃度の平均値、バッファ層の酸素濃度の平均値、基板の酸素濃度の平均値に対するバッファ層の酸素濃度の平均値の比率(以後、「酸素濃度比率」という。)、及び光出力の結果を示したものである。
図3は、酸素濃度比率と光出力との関係を示した図である。
【0061】
【0062】
表2及び
図3から分かるように、酸素濃度比率は、0.150以下(すなわち3/20以下)が好ましく、0.130以下(すなわち13/100以下)がより好ましく、0.013以下(すなわち13/1000以下)がより一層好ましく、0.010以下(すなわち1/100以下)が更に好ましい。
【0063】
(実施の形態のまとめ)
次に、以上説明した実施の形態から把握される技術思想について、実施の形態における符号等を援用して記載する。ただし、以下の記載における各符号等は、特許請求の範囲における構成要素を実施の形態に具体的に示した部材等に限定するものではない。
【0064】
[1]本発明の第1の実施態様は、c面が成長面21である基板2と、前記成長面21上に形成されたバッファ層3と、前記バッファ層3上に形成されたn型半導体層4と、前記n型半導体層4上に形成されるとともに、中心波長が365nm以下の紫外光を発する活性層6と、前記活性層6上に形成されたp型半導体層8と、を備え、前記バッファ層3の膜厚は、500nmより大きく、前記バッファ層3の酸素濃度の平均値は、4.5×1021atoms/cm3以下を満たす、窒化物半導体発光素子1である。
これにより、窒化物半導体発光素子1の光出力の向上を図ることができる。
【0065】
[2]本発明の第2の実施態様は、第1の実施態様において、前記バッファ層3の酸素濃度の平均値が、1.0×1021atoms/cm3以下を更に満たすことである。
これにより、窒化物半導体発光素子1の光出力の一層の向上を図ることができる。
【0066】
[3]本発明の第3の実施態様は、第1又は第2の実施態様において、前記基板2が、サファイア基板であり、前記バッファ層3の酸素濃度の平均値が、前記基板2の酸素濃度の平均値よりも小さいことである。
これにより、窒化物半導体発光素子1の光出力の一層の向上を図ることができる。
【0067】
[4]本発明の第4の実施態様は、第3の実施態様において、前記基板2の酸素濃度の平均値に対する前記バッファ層3の酸素濃度の平均値の比率が、3/20以下を満たすことである。
これにより、窒化物半導体発光素子1の光出力の一層の向上を図ることができる。
【0068】
[5]本発明の第5の実施態様は、第4の実施態様において、前記基板2の酸素濃度の平均値に対する前記バッファ層3の酸素濃度の平均値の比率が、13/100以下を更に満たすことである。
これにより、窒化物半導体発光素子1の光出力の一層の向上を図ることができる。
【0069】
(付記)
以上、本発明の実施の形態を説明したが、前述した実施の形態は特許請求の範囲に係る発明を限定するものではない。また、実施の形態の中で説明した特徴の組合せの全てが発明の課題を解決するための手段に必須であるとは限らない点に留意すべきである。また、本発明は、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変形して実施することが可能である。
【符号の説明】
【0070】
1…窒化物半導体発光素子
2…基板
21…成長面
3…バッファ層
4…n型半導体層
6…活性層
8…p型半導体層
【要約】
【課題】光出力の向上を図ることができる窒化物半導体発光素子を提供する。
【解決手段】窒化物半導体発光素子1は、c面が成長面21である基板2と、成長面21上に形成されたバッファ層3と、バッファ層3上に形成されたn型半導体層4と、n型半導体層4上に形成されるとともに、中心波長が365nm以下の紫外光を発する活性層6と、活性層6上に形成されたp型半導体層8と、を備える。バッファ層3の膜厚は、500nmより大きい。バッファ層3の酸素濃度の平均値は、4.5×10
21atoms/cm
3以下を満たす。
【選択図】
図1