(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-12
(45)【発行日】2024-09-24
(54)【発明の名称】送風装置および空気調和装置
(51)【国際特許分類】
F04D 29/42 20060101AFI20240913BHJP
F04D 29/44 20060101ALI20240913BHJP
【FI】
F04D29/42 M
F04D29/44 U
(21)【出願番号】P 2023506439
(86)(22)【出願日】2021-03-16
(86)【国際出願番号】 JP2021010593
(87)【国際公開番号】W WO2022195717
(87)【国際公開日】2022-09-22
【審査請求日】2023-04-18
(73)【特許権者】
【識別番号】000006013
【氏名又は名称】三菱電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001461
【氏名又は名称】弁理士法人きさ特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】安達 奈穂
(72)【発明者】
【氏名】寺本 拓矢
【審査官】森 秀太
(56)【参考文献】
【文献】中国実用新案第206035853(CN,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F04D 1/00-13/16
17/00-19/02
21/00-25/16
29/00-35/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
貫流ファンを収納して風路を形成するスクロールケーシング
と、前記貫流ファンとを備えた送風装置であって、
前記スクロールケーシングは、
前記スクロールケーシングのうち前記貫流ファンと最も接近する接近点を上流端として有し、
前記貫流ファンの回転中心の高さ位置よりも気流の上流側の高さ位置から前記貫流ファンの側方を通過して前記回転中心の高さ位置よりも気流の下流側に延びて形成され、前記風路の上流側を形成するスクロール部を備え、
前記スクロール部の前記上流端から前記スクロール部の下流端までの間は、前記風路を流れる気流の流れ方向に3つの領域に分けられており、
前記3つの領域は、前記スクロール部を前記貫流ファンの回転軸に直交する断面で見た場合に、前記貫流ファンの
前記回転中心と前記スクロール部との距離が、前記スクロール部の前記上流端から前記下流端にかけて、異なる変化率で拡大する領域であり、前記3つの領域を上流側から順に第1領域、第2領域および第3領域としたとき、前記第2領域の前記変化率が最も小さ
く形成されており、
前記第2領域は、前記貫流ファンの前記回転中心の高さ位置を跨ぐように設けられている送風装置。
【請求項2】
前記第1領域の前記変化率および前記第3領域の前記変化率は、設定風量にてファン入力が最小となるように前記貫流ファンの形状に応じて個別に設定されている請求項1記載の
送風装置。
【請求項3】
前記第1領域の前記変化率をα1、前記第2領域の前記変化率をα2、前記第3領域の前記変化率をα3とした場合、α2<α1<α3の関係を満たす請求項1または請求項2記載の
送風装置。
【請求項4】
前記貫流ファンを挟んで前記スクロールケーシングと対向する位置に設けられた側壁を有し、
前記第3領域の上流端は、前記側壁の舌部が位置する高さ位置よりも上流側に設けられている請求項
1~請求項3のいずれか一項に記載の
送風装置。
【請求項5】
請求項
1~請求項4のいずれか一項に記載の送風装置と、前記送風装置を収納する筐体と、前記送風装置によって発生する気流が通過する位置に配置された熱交換器と、を備えた空気調和装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ファンを収納するスクロールケーシングを備えた送風装置および空気調和装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
送風装置は、環状に配置された複数の翼を有する貫流ファンと、貫流ファンを収納するスクロールケーシングを有する送風部と、を備えている。送風部は、スクロールケーシングによって風路を構成し、この風路内において貫流ファンが回転することにより送風を行う。この種の送風部のスクロールケーシングは、貫流ファンが発生させた気流を渦巻状に導くスクロール部を有し、従来、スクロール部の巻き始めから巻き終わりにかけて対数螺旋形状に構成されたものがある(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
特許文献1のスクロールケーシングの対数螺旋形状とは、スクロールケーシングを貫流ファンの回転軸に直交する断面で見て次のような形状である。対数螺旋形状とは、貫流ファンの回転中心とスクロールケーシングとの距離が、巻き始めから巻き終わりかけて、一定の変化率で連続的に拡大する形状である。特許文献1では、スクロールケーシングを上記形状とすることで、騒音の低減を図っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1のスクロールケーシングは、騒音の低減に着目した技術であり、ファン入力の低減の面で改善の余地があった。
【0006】
本開示は、上記のような課題を解決するためのものであり、ファン入力の低減を行うことが可能なスクロールケーシングを備えた送風装置および空気調和装置を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示に係る送風装置は、貫流ファンを収納して風路を形成するスクロールケーシングと、貫流ファンとを備えた送風装置であって、スクロールケーシングは、スクロールケーシングのうち貫流ファンと最も接近する接近点を上流端として有し、貫流ファンの回転中心の高さ位置よりも気流の上流側の高さ位置から貫流ファンの側方を通過して回転中心の高さ位置よりも気流の下流側に延びて形成され、風路の上流側を形成するスクロール部を備え、スクロール部の上流端からスクロール部の下流端までの間は、風路を流れる気流の流れ方向に3つの領域に分けられており、3つの領域は、スクロール部を貫流ファンの回転軸に直交する断面で見た場合に、貫流ファンの回転中心とスクロール部との距離が、スクロール部の上流端から下流端にかけて、異なる変化率で拡大する領域であり、3つの領域を上流側から順に第1領域、第2領域および第3領域としたとき、第2領域の変化率が最も小さく形成されており、第2領域は、貫流ファンの回転中心の高さ位置を跨ぐように設けられているものである。
【0009】
本開示に係る空気調和装置は、上記の送風装置と、送風装置を収納する筐体と、送風装置によって発生する気流が通過する位置に配置された熱交換器と、を備えたものである。
【発明の効果】
【0010】
本開示によれば、第2領域の翼から吹出される風量を低減でき、その結果、第2領域の翼にかかるトルクを低減でき、ファン入力の低減を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】実施の形態1に係るスクロールケーシングを備えた空気調和装置の概略断面図である。
【
図2】実施の形態1に係る送風装置の概略断面図である。
【
図3】実施の形態1に係るスクロールケーシングの形状を従来と比較して示す図である。
【
図4】実施の形態1に係るスクロールケーシングにおける、ケーシング位置と距離Lとの関係を示したグラフを従来と比較して示す図である。
【
図5】従来のスクロールケーシングを壁掛け型空調室内機に適用した場合の、貫流ファンの吹出領域の風量分布を示す図である。
【
図6】従来のスクロールケーシングを壁掛け型空調室内機に適用した場合の、貫流ファンの吹出領域のファン入力分布を示す図である。
【
図7】実施の形態1に係るスクロールケーシングを壁掛け型空調室内機に適用した場合の、貫流ファンの吹出領域の各翼間から吹出される風量分布を従来と比較して示す図である。
【
図8】実施の形態1に係るスクロールケーシングを壁掛け型空調室内機に適用した場合の、貫流ファンの吹出領域におけるファン入力分布を従来と比較して示す図である。
【
図9】従来のスクロールケーシングを壁掛け型空調室内機に適用した場合の、低風量時の気流の流れを示した概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本開示の実施の形態に係るスクロールケーシングを備えた空気調和装置について図面等を参照しながら説明する。なお、
図1を含む以下の図面では、各構成部材の相対的な寸法の関係および形状等が実際のものとは異なる場合がある。また、以下の図面において、同一の符号を付したものは、同一またはこれに相当するものであり、このことは明細書の全文において共通することとする。
【0013】
実施の形態1.
[空気調和装置]
図1は、実施の形態1に係るスクロールケーシングを備えた空気調和装置の概略断面図である。
空気調和装置100は、熱交換器10と、気流を発生させて熱交換器10に送風する送風装置20と、これらを収納する筐体50と、を有する。筐体50の上面には、空気を筐体50内に吸込む吸込口51が形成されている。筐体50の前面下部には、筐体50内から空気を吹出す吹出口52が形成されている。吹出口52には、吹出口52から吹出される気流の方向を自在に変更するための風向板53が設けられている。筐体50内において、吸込口51から吹出口52に至る筐体内流路の上流側に熱交換器10が配置され、下流側に送風装置20が配置されている。
【0014】
空気調和装置100は、送風装置20の駆動によって生じる気流を吸込口51から筐体50内に吸込み、吸込んだ気流を熱交換器10にて冷媒と熱交換した後、吹出口52から室内へ吹出すことで、室内温度の調整を行うものである。以下の説明における上流とは空気調和装置100における気流の上流を意味し、下流とは空気調和装置100における気流の下流を意味する。
図1の点線矢印は、空気調和装置100における気流を示している。なお、
図1には、空気調和装置が壁掛け型空調室内機である例を示しているが、これに限られたものではなく、他に例えば、天井吊り下げ型空調室内機であってもよい。
【0015】
(送風装置20の構成)
送風装置20は、気流を発生させる貫流ファン30と、貫流ファン30を収納する送風部40と、を有する。貫流ファン30は、回転軸の回転中心Oを中心として環状に配置された複数の翼31と、複数の翼31が設置され、複数の翼31を一体に支持する支持板(図示せず)と、を有する羽根車が、回転軸方向に積層された構成を有する。貫流ファン30は、
図1の実線矢印の向きに回転し、熱交換器10側の翼31間から気流を吸込み、送風部40の後述のスクロールケーシング41側の翼31間から気流を吹出すものである。
【0016】
貫流ファン30において気流を吸込む吸込領域70は、貫流ファン30の全周を熱交換器10側(前面側)と送風部40側(背面側)との2つに分けたうちの熱交換器10側(前面側)の領域である。一方、貫流ファン30において気流を吹出す吹出領域80は、貫流ファン30の全周を熱交換器10側(前面側)と送風部40側(背面側)との2つに分けたうちの送風部40側(背面側)の領域である。
図1においてドットの円で示した吹出開始位置Sは、吹出領域80の周方向範囲の上流側の端部の位置を示している。
図1においてドットの円で示した吹出終了位置Eは、吹出領域の周方向範囲の下流側の端部の位置を示している。
【0017】
送風部40は、スクロールケーシング41と、リアガイド42と、側壁43と、吐出部44と、を有する。スクロールケーシング41は、貫流ファン30を収納して風路45を形成するものである。スクロールケーシング41は、貫流ファン30から吹出された空気を整流する。スクロールケーシング41の上流端P1は、スクロールケーシング41のうち貫流ファン30と最も接近する接近点である。スクロールケーシング41の下流端P2は、筐体50の吹出口52の周壁の一部を形成している。スクロールケーシング41は、スクロール部41aと、吐出部41bと、を有する。
【0018】
スクロール部41aは、貫流ファン30が発生させた気流を渦巻状に導く部分である。スクロール部41aは、貫流ファン30の回転中心Oの高さ位置よりも上流側の高さ位置から貫流ファン30の側方である背面を通過して回転中心Oの高さ位置よりも下流側まで延びて形成された壁部である。スクロール部41aの上流端P1は、スクロールケーシング41の上流端P1に一致している。スクロール部41aの下流端P3は、回転中心Oの高さ位置よりも下流側に位置している。スクロール部41aの上流端P1は渦巻状の巻き始め部分である。スクロール部41aの下流端P3は渦巻状の巻き終わり部分である。吐出部41bは、スクロール部41aの下流に位置し、スクロール部41aを通過した気流が吐出される部分である。吐出部41bは、スクロール部41aの下流端P3から筐体50の吹出口52に向かって延びて形成された壁部である。
【0019】
リアガイド42は、スクロールケーシング41の上流端P1よりも上流側に延びた壁部である。側壁43は、回転軸の回転中心Oの高さ位置よりも下流側の高さ位置で、貫流ファン30を挟んでスクロール部41aと対向する壁部である。側壁43は、貫流ファン30の外周面に沿って形成されている。側壁43の下流側の端部には、気流を絞る絞り部である舌部43aが形成されている。吐出部44は、側壁43の舌部43aから送風部40の吐出口に向かって延びて形成された壁部である。送風部40の吐出口は、送風装置20の吐出口に相当し、筐体50の吹出口52に一致している。なお、送風部40の吐出口は筐体50の吹出口52に一致する構成に限らず、送風部40の吐出口と筐体50の吹出口52との間にこれらを滑らかに接続する部材を別途設けて接続した構成としてもよい。吐出部44は、スクロールケーシング41の吐出部41bと対向して形成されている。
【0020】
スクロールケーシング41のスクロール部41aおよびリアガイド42は、風路45の上流側を形成している。吐出部44およびスクロールケーシング41の吐出部41bは、風路45の下流側を形成している。風路45の下流側は、貫流ファン30から吹出された気流を外部に導く吐出風路46となっている。吐出風路46は、上流から下流にかけて流路断面積が拡大する拡大風路となっている。
【0021】
(送風装置20の動作)
送風装置20において、貫流ファン30が回転すると、吸込領域70の翼31間から貫流ファン30内に空気が取り込まれる。貫流ファン30内に取り込まれた空気は、吹出領域80の翼31間から径方向外側に吹出される。貫流ファン30から径方向外側に吹出された気流は、スクロールケーシング41のスクロール部41aに沿って流れた後、吐出風路46に吐出され、吐出風路46から送風部40の吐出口(筐体50の吹出口52)を介して室内に吹出される。
【0022】
(ファン入力低減効果)
本実施の形態1のスクロールケーシング41を備えた送風装置20は、ファン入力低減効果を有する。以下、この効果を可能にする具体的な構成について説明する。
【0023】
図2は、実施の形態1に係る送風装置の概略断面図である。以下、
図2を用いてスクロールケーシング41の形状について説明する。
スクロール部41aは、風路45を流れる気流の流れ方向に3つの領域に分けられる。3つの領域は、スクロール部41aを回転軸に直交する断面で見た場合に、回転軸の回転中心Oとスクロール部41aとの距離Lが、スクロール部41aの上流端P1から下流端P3にかけて、異なる変化率αで拡大する領域である。つまり、スクロール部41aは、変化率αの異なる3つの領域から構成されている。以下では、この3つの領域を、気流の上流側から順に、第1領域A、第2領域Bおよび第3領域Cという。第1領域A、第2領域Bおよび第3領域Cはこの順に連続している。
【0024】
また、以下では、第1領域Aに対応する貫流ファン30の翼31を第1領域Aの翼31という。第1領域Aに対応する貫流ファン30の翼31とは、スクロール部41aを回転軸に直交する断面で見たとき、第1領域Aの上流端および下流端のそれぞれと回転中心Oとを結ぶ各線と、第1領域Aと、によって囲まれる断面扇状の領域内に位置する翼31を指す。同様の趣旨で、以下では、第2領域Bに対応する貫流ファン30の翼31を第2領域Bの翼31という。また、第3領域Cに対応する貫流ファン30の翼31を、第3領域Cの翼31という。
【0025】
第1領域Aの上流端は、スクロール部41aの上流端P1であり、上述したように貫流ファン30に最も接近する部分である。第1領域Aの下流端は、第2領域Bの上流端に一致する。第2領域Bの上流端は、回転軸の回転中心Oの高さ位置よりも上流側に設けられている。第2領域Bの下流端は、回転軸の回転中心Oの高さ位置よりも下流側に設けられている。第2領域Bの下流端は、第3領域Cの上流端に一致する。第3領域Cの上流端は、側壁43の舌部43aの高さ位置よりも上流側に設けられている。第3領域Cの下流端は、側壁43の舌部43aの高さ位置よりも下流側に設けられている。
【0026】
スクロール部41aにおいて、第1領域Aの変化率αをα1、第2領域Bの変化率αをα2、第3領域Cの変化率αをα3とする。スクロールケーシング41は、第2領域Bの変化率α2が第1領域Aの変化率αおよび第3領域Cの変化率α3よりも小さく設定されている。つまり、第2領域Bの変化率α2は、スクロール部41aの中で最も小さく設定されている。また、第3領域Cの変化率α3は、第1領域Aの変化率α1よりも大きく設定されている。以上を整理すると、スクロールケーシング41は、α2<α1<α3の関係を満たしている。
【0027】
図3は、実施の形態1に係るスクロールケーシングの形状を従来と比較して示す図である。
図3において、スクロールケーシング41の背面側(
図3の右側)に点線で示した曲線は従来のスクロールケーシングを示している。従来のスクロールケーシングとは、スクロール部の変化率を一定にしたものである。
図4は、実施の形態1に係るスクロールケーシングにおける、ケーシング位置と距離Lとの関係を示したグラフを従来と比較して示す図である。
図4において、グラフの傾きは変化率αを示している。
図3および
図4は、第1領域Aの変化率を従来の変化率に一致させた場合を示している。
【0028】
本実施の形態1のスクロール部41aは、第2領域Bの変化率α2が最も小さいため、
図4に示すように第2領域Bのグラフの傾きが第1領域Aおよび第3領域Cのグラフの傾きよりも小さくなっている。また、第2領域Bのグラフの傾きは、従来よりも小さくなっている。つまり、第2領域Bの変化率α2は、第1領域Aの変化率α1を従来の変化率と一致させた場合で比較すると、従来よりも小さくなっている。第2領域Bの変化率α2が従来よりも小さいことで、
図3において第2領域Bの位置が、点線で示した従来の位置よりも貫流ファン30側に寄った位置となっている。
【0029】
ここで、スクロール部41aにおける第2領域Bの位置は、ファン入力の低減に効果的な位置に設定される。この点について次の
図5および
図6を参照して説明する。
【0030】
図5は、従来のスクロールケーシングを壁掛け型空調室内機に適用した場合の、貫流ファンの吹出領域の風量分布を示す図である。
図5の横軸は吹出領域内の位置、縦軸は風量[m
3/min]である。
図6は、従来のスクロールケーシングを壁掛け型空調室内機に適用した場合の、貫流ファンの吹出領域のファン入力分布を示す図である。
図6の横軸は吹出領域内の位置、縦軸はファン入力[W]である。ファン入力[W]は、貫流ファンの吹出領域の吹出開始位置から吹出終了位置までの間の各位置における翼にかかるトルクに、角速度を乗算して算出された入力電力量である。
【0031】
図5および
図6における中間領域は、従来のスクロール部の気流方向の中間部である。この中間領域は、貫流ファンとスクロール部との間の風路における風量が比較的多く、翼から吹出された気流の流れが混合する際の圧力損失が高い領域である。圧力損失が高いことで、
図6に示すように中間領域のファン入力は比較的高くなる。実施の形態1では、このように圧力損失が高くなる中間領域の変化率αを小さく設定することで、以下に説明するようにファン入力の低減を図る。つまり、実施の形態1では、圧力損失が高くなる中間領域を第2領域Bに設定する。
【0032】
図3に示した壁掛け型空調室内機は、筐体50の吹出口52が筐体前面下部に設けられ、送風部40の吐出口が下方に向く姿勢で送風装置20が用いられる。このような姿勢で送風装置20が用いられる場合、スクロール部41aは、上下方向に延びて形成されている。具体的には、スクロール部41aは、貫流ファン30の回転中心Oの高さ位置よりも上流の高さ位置から、貫流ファン30の側方である背面を通過し、回転中心Oの高さ位置よりも下流の高さ位置まで、に延びて形成されている。スクロール部41aがこのように形成されている場合、圧力損失が高くなる領域は、概ね回転軸の回転中心Oの高さ位置付近となる。よって、第2領域Bは、
図2に示したように回転軸の回転中心Oの高さ位置付近、具体的には貫流ファン30の回転中心Oの高さ位置を跨ぐように設けられている。
【0033】
(スクロールケーシング41の作用)
次に、本実施の形態1のスクロールケーシング41の作用を説明する。
図3に示したように、実施の形態1の第2領域Bを示す実線と従来を示す点線とを比較して明らかなように、実施の形態1の第2領域Bは、従来よりも貫流ファン30の外周に近づいて貫流ファン30との間の空間が狭くなる。貫流ファン30と第2領域Bとの間の空間が狭くなることで、当該空間の静圧が高くなり、第2領域Bの翼31から吹出される風量(以下、翼間吹出風量という)が低減する。第2領域Bの翼間吹出風量が低減することで第2領域Bの翼31にかかるトルクを低減でき、貫流ファン30の回転に対する抵抗が小さくなり、貫流ファン30の駆動に必要なファン入力を低減できる。
【0034】
図7は、実施の形態1に係るスクロールケーシングを壁掛け型空調室内機に適用した場合の、貫流ファンの吹出領域の各翼間から吹出される風量分布を従来と比較して示す図である。
図7の横軸は吹出領域内の位置、縦軸は風量[m
3/min]である。
図8は、実施の形態1に係るスクロールケーシングを壁掛け型空調室内機に適用した場合の、貫流ファンの吹出領域におけるファン入力分布を従来と比較して示す図である。
図8の横軸は吹出領域内の位置、縦軸はファン入力[W]である。ファン入力[W]は、吹出領域80の吹出開始位置から吹出終了位置までの間の各位置における翼31にかかるトルクに角速度を乗算して算出された入力電力量である。
【0035】
実施の形態1のスクロールケーシング41は、
図7の下向き矢印に示すように、第2領域Bの翼間吹出風量、言い換えれば従来風量が多かった中間領域の翼間吹出風量を低減できる。その結果、
図8に示すように、第2領域Bの翼31に係るトルクに基づくファン入力を従来よりも低減できる。
【0036】
なお、第2領域Bの翼間吹出風量が低減される分、
図7の上向き矢印で示すように第3領域Cの翼間吹出風量が増大する。このため、第3領域Cにおける圧力損失の増加が懸念される。しかし、第3領域Cは、第2領域Bよりも貫流ファン30との間の空間が広いため、第3領域Cにおける圧力損失は第2領域Bにおける圧力損失よりも低い。よって、第3領域Cの翼間吹出風量が増加することによるファン入力の増加量は大きくなく、第3領域Cのファン入力は、
図8に示すように従来と略変わらない。したがって、第2領域Bのファン入力の低減効果が高いことで、ファン全体としてのファン入力は低減する。このように、第2領域Bの変化率α2がスクロール部41aの中で最も小さいことで、ファン全体におけるファン入力を低減できる。
【0037】
また、第2領域Bの翼間吹出風量が低減される分、第3領域Cの翼間吹出風量が増大するとしたが、以下の理由によっても第3領域Cの翼間吹出風量が増大する。具体的には、第3領域Cの変化率α3が第1領域Aの変化率α1よりも大きいことから、第3領域Cの翼間吹出風量が増大する。
【0038】
第3領域Cの変化率α3が第1領域Aの変化率α1よりも大きいことで、第3領域Cと貫流ファン30との間の空間が広く確保され、静圧が低いことで、第3領域Cの翼間吹出風量が増大する。ここで、第3領域Cの上流端(=第2領域Bの下流端)は、側壁43の舌部43aの高さ位置よりも上流側に設けられており、側壁43の舌部43aの高さ位置よりも下流側に設けられるよりも第3領域Cの気流方向の長さが長く確保されている。これにより、翼間吹出風量が増大する領域を広く確保できる。
【0039】
第3領域Cの翼間吹出風量が増大することで、以下の(A)および(B)の効果が得られる。
(A)第3領域Cの翼間吹出風量が増大すると、第3領域Cから筐体50の吹出口52へ向かう気流が増大する。第3領域Cから筐体50の吹出口52へ向かう気流が増大することで、貫流ファン30の吹出領域80から吹出された後、舌部43aと貫流ファン30との間の隙間を通り、再度吸込領域70へ向かう循環流が減少する。循環流は、吹出口52から吹出される吹出量の低下を招くため、循環流を減少できることで、結果的にファン入力を低減できる。
【0040】
(B)第3領域Cは筐体50の吹出口52に近い領域であるため、第3領域Cの翼間吹出風量が増大することで、筐体50の吹出口52を構成する吐出風路46の入口における動圧が増大する。吐出風路46の入口における動圧が増大することで、吐出風路46において動圧が静圧として回収される静圧回復量が増大し、貫流ファン30の高性能化を図ることができる。
【0041】
ここで、第1領域Aの変化率α1および第3領域Cの変化率α3は、搭載する貫流ファン30の形状に応じて個別に設定されている。例えば、第1領域Aの変化率α1および第3領域Cの変化率α3は、貫流ファン30の翼31の設置角度等に応じて個別に設定されている。翼31の設置角度は、翼31の後縁側端部(流れ方向下流側端部)の翼厚の中心線と、複数の翼31の後縁端を結ぶ周方向の円弧と、のなす角度で定義され、翼31間から吹き出される気流の流出角度に影響を及ぼすものである。翼31の設置角度は、翼31の後縁側端部の翼厚の中心線と、羽根車の径方向に延びる線と、のなす角度で定義されることもある。第1領域Aの変化率α1および第3領域Cの変化率α3には、貫流ファン30の形状に応じて、設定風量にてファン入力を最小にできる最適値が存在すると考えられる。このため、第1領域Aの変化率α1および第3領域Cの変化率α3をそれぞれ最適値に設定することで、設定風量にてファン入力を最小にできる最適なスクロールケーシング形状を構成できる。
【0042】
(低風量時のスクロールケーシング41の作用)
空気調和装置100では、筐体50の吸込口51に埃等が堆積する等して筐体50内を通過する気流の風量が低風量となる場合がある。以下、低風量時のスクロールケーシング41の作用について説明する。
【0043】
本実施の形態1のスクロールケーシング41は、第1領域Aの変化率α1が第2領域Bの変化率α2よりも大きいことで、貫流ファン30の吹出領域が反回転方向へ向かうことを抑制でき、結果としてファン入力の低減効果が得られる。この点について、変化率が一定である従来のスクロールケーシングと比較して説明する。
【0044】
図9は、従来のスクロールケーシングを壁掛け型空調室内機に適用した場合の、低風量時の気流の流れを示した概略図である。
筐体500内を通過する気流の風量が低風量となると、従来のスクロールケーシング410では、吐出風路46内の圧力損失に打ち勝つことができず、スクロールケーシング410側(背面側)に寄った流れとなる。これにより、貫流ファン300の吹出領域800が反回転方向へ向かう。すなわち、
図9と
図1とを比較すると、
図9の吹出開始位置Sおよび吹出終了位置Eは、
図1の吹出開始位置Sおよび吹出終了位置Eよりも回転軸の回転方向とは逆の反回転方向に移動している。
【0045】
貫流ファン300の吹出領域が反回転方向へ向かうと、貫流ファン300の吹出領域から吹出された気流の一部が、スクロール部410a側(
図9の下側)へ向かわず、リアガイド420側(
図9の上側)へ向かう。リアガイド420側へ向かった気流は、ファン上部に配置された熱交換器110から直接リアガイド420に向かって流れてくる気流と衝突し、損失となる。また、貫流ファン300の吹出領域800からリアガイド420側へ向かった気流は、再度貫流ファン30に流入する気流(
図9の矢印60)となり、損失となる。上記損失が生じることで、設定風量を確保しようとした場合に必要なファン入力が増大する。
【0046】
また、低風量時において、従来のスクロールケーシング410では、貫流ファン300の吹出領域800が反回転方向へ向かうことで、吹出終了位置Eにおいて、以下の循環流が生じる。貫流ファン300の吹出領域の翼310間から吹出された気流は、吹出口520から舌部430aに向かう逆流と共に舌部430aと貫流ファン300との隙間を通り、再度貫流ファン30の吸込領域700へ向かう循環流(
図9の矢印61)となる。このような循環流が生じることで、設定風量を確保しようとした場合に必要なファン入力が増大する。
【0047】
これに対し、本実施の形態1では、第1領域Aの変化率α1が第2領域Bの変化率α2よりも大きいため、第1領域A(
図2参照)における翼間吹出風量を確保でき、低風量時に貫流ファン300の吹出領域800が反回転方向へ向かうことを抑制できる。よって、貫流ファン30からリアガイド420側へ向かう流れを抑制することができる。その結果、貫流ファン30からリアガイド420側へ向かう流れが生じることに起因した損失を低減でき、ファン入力の増大を抑制することができる。
【0048】
また、本実施の形態1では、第3領域Cの翼間吹出流量が増大することで、低風量時に以下の(C)の効果が得られる。
(C)第3領域Cの翼間吹出流量が増大することで、吐出風路46から吹出口52に向かう気流が増大する。このため、低風量時に吹出口52から舌部43aに向かう逆流を抑制でき、再度貫流ファン30の吸込領域70へ向かう循環流を低減できる。その結果、ファン入力を低減できる。
【0049】
なお、上記では、スクロールケーシング41を壁掛け型空調室内機に適用した例で説明したが、他のタイプの室内機に適用された場合にも同様の効果が得られる。
【0050】
[効果]
本実施の形態1のスクロールケーシング41は、貫流ファン30を収納して風路45を形成するスクロールケーシング41である。スクロールケーシング41は、スクロールケーシング41のうち貫流ファン30と最も接近する接近点を上流端P1として有し、風路の上流側を形成するスクロール部41aを備える。スクロール部41aの上流端P1からスクロール部41aの下流端P3までの間は、風路45を流れる気流の流れ方向に3つの領域に分けられている。3つの領域は、スクロール部41aを貫流ファンの回転軸に直交する断面で見た場合に、スクロール部41aの上流端P1から下流端P3にかけて、貫流ファン30の回転中心とスクロール部41aとの距離が、異なる変化率αで拡大する領域である。スクロールケーシング41は、3つの領域を上流側から順に第1領域A、第2領域Bおよび第3領域Cとしたとき、第2領域Bの変化率α2が最も小さい。
【0051】
これにより、第2領域Bの翼31から吹出される風量を低減でき、その結果、第2領域Bの翼31にかかるトルクを低減でき、ファン入力の低減を行うことができる。特に、第2領域Bは、翼31から吹出された気流が混合する際の圧力損失が比較的高い領域であるため、この第2領域Bの翼31のトルクを低減できることで、ファン全体としてのファン入力を低減できる。
【0052】
また、第1領域Aの変化率α1および第3領域Cの変化率α3は、設定風量にてファン入力が最小となるように、貫流ファン30の形状に応じて個別に設定されている。
【0053】
これにより、設定風量にてファン入力を最小にできる最適なスクロールケーシング形状を構成できる。
【0054】
本実施の形態1のスクロールケーシング41は、第1領域Aの変化率をα1、第2領域Bの変化率をα2、第3領域Cの変化率をα3とした場合、α2<α1<α3の関係を満たす。
【0055】
このように第2領域Bの変化率α2をスクロール部41aの中で最も小さく設定することで、第2領域Bの翼31から吹出される風量を低減できる。第2領域Bと貫流ファン30との間の空間は圧力損失が比較的高くなりやすい領域であるため、この領域における風量を低減できることで、第2領域Bの翼31にかかるトルクの低減によるファン入力低減効果が高い。その結果、ファン全体におけるファン入力を低減できる。
【0056】
また、第3領域Cの変化率α3が第1領域Aの変化率α1よりも大きいため、第3領域Cの翼間吹出風量が増大する。第3領域Cの翼間吹出風量が増大することで、上記(A)、(B)および(C)の効果が得られる。
【0057】
また、第1領域Aの変化率α1が第2領域Bの変化率α2よりも大きいため、第1領域A(
図2参照)における翼間吹出風量を確保することができ、低風量時に貫流ファン30の吹出領域80が反回転方向へ向かうことを抑制できる。よって、貫流ファン30からリアガイド42側へ向かう流れを抑制することができる。その結果、貫流ファン30からリアガイド42側へ向かう流れが生じることに起因した損失を低減でき、ファン入力の増大を抑制することができる。
【0058】
本実施の形態1のスクロールケーシング41は、スクロール部41aが、貫流ファン30の回転中心Oの高さ位置よりも気流の上流側の高さ位置から貫流ファン30の側方を通過し、回転中心Oの高さ位置よりも気流の下流側の高さ位置に延びて形成されている。そして、第2領域Bは、貫流ファン30の回転中心Oの高さ位置を跨ぐようにして設けられている。
【0059】
これにより、翼31間から吹出された気流が混合する際の圧力損失が比較的高い領域を通過する翼31にかかるトルクを低減でき、ファン入力を低減できる。
【0060】
本実施の形態1のスクロールケーシング41は、貫流ファン30を挟んでスクロールケーシング41と対向する位置に設けられた側壁43を有し、第3領域Cの上流端P1は、側壁43の舌部43aが位置する高さ位置よりも上流側に設けられている。
【0061】
これにより、第3領域Cの翼間吹出風量が増大し、上記(A)、(B)および(C)の効果が得られる。
【0062】
本実施の形態1の送風装置20は、上記のスクロールケーシング41と、貫流ファン30とを備えている。また、本実施の形態1の空気調和装置100は、上記の送風装置20と、送風装置20を収納する筐体50と、送風装置20によって発生する気流が通過する位置に配置された熱交換器10と、を備えている。
【0063】
これにより、ファン入力を低減できる送風装置20および空気調和装置100を得ることができる。
【0064】
以上の実施の形態に示した構成は、一例を示すものであり、別の公知の技術と組み合わせることも可能であるし、要旨を逸脱しない範囲で、構成の一部を省略、変更することも可能である。
【符号の説明】
【0065】
10 熱交換器、20 送風装置、30 貫流ファン、31 翼、40 送風部、41 スクロールケーシング、41a スクロール部、41b 吐出部、42 リアガイド、43 側壁、43a 舌部、44 吐出部、45 風路、46 吐出風路、50 筐体、51 吸込口、52 吹出口、53 風向板、60 矢印、61 矢印、70 吸込領域、80 吹出領域、100 空気調和装置、110 熱交換器、300 貫流ファン、310 翼、410 スクロールケーシング、410a スクロール部、420 リアガイド、430a 舌部、500 筐体、520 吹出口、700 吸込領域、800 吹出領域、A 第1領域、B 第2領域、C 第3領域、E 吹出終了位置、L 距離、O 回転中心、P1 上流端、P2 下流端、P3 下流端、S 吹出開始位置。