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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-12
(45)【発行日】2024-09-24
(54)【発明の名称】エアバッグ装置
(51)【国際特許分類】
   B60R 21/231 20110101AFI20240913BHJP
   B60R 21/207 20060101ALI20240913BHJP
   B60N 2/42 20060101ALI20240913BHJP
【FI】
B60R21/231
B60R21/207
B60N2/42
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2023511004
(86)(22)【出願日】2022-03-22
(86)【国際出願番号】 JP2022013067
(87)【国際公開番号】W WO2022210077
(87)【国際公開日】2022-10-06
【審査請求日】2023-09-06
(31)【優先権主張番号】P 2021063394
(32)【優先日】2021-04-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】503358097
【氏名又は名称】オートリブ ディベロップメント エービー
(74)【代理人】
【識別番号】110003155
【氏名又は名称】弁理士法人バリュープラス
(72)【発明者】
【氏名】清水 貴之
(72)【発明者】
【氏名】中島 敦
(72)【発明者】
【氏名】清水 陽介
(72)【発明者】
【氏名】別府 義則
【審査官】神田 泰貴
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-064632(JP,A)
【文献】特開2008-114648(JP,A)
【文献】特開2022-017983(JP,A)
【文献】国際公開第2021/166564(WO,A1)
【文献】国際公開第2021/100382(WO,A1)
【文献】特開2005-239129(JP,A)
【文献】特開2007-091083(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60R 21/16 - 21/33
B60N 2/42
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の座席に着座した乗員の一方の側部を覆うように膨張展開するサイドクッションを有するエアバッグと、
前記サイドクッションを膨張させるガスを噴射するインフレータとを備え、
前記エアバッグは、前記乗員の腰部の前方への移動が規制されるように、膨張してシートクッションの座面を隆起させる座面用エアバッグクッションと、前記サイドクッションと前記座面用エアバッグクッションとを連通させるダクト部とをさらに有する、エアバッグ装置。
【請求項2】
前記サイドクッションを第1サイドクッションとして、
前記エアバッグは、前記乗員の他方の側部を覆うように膨張展開する第2サイドクッションと、前記座席の幅方向に延びて前記第1サイドクッションと前記第2サイドクッションとを接続する接続部材とをさらに有する、請求項1に記載のエアバッグ装置。
【請求項3】
前記接続部材は、内部をガスが流通可能なダクトであり、
前記第2サイドクッションは、前記接続部材の内部を介して、前記第1サイドクッションに連通する、請求項2に記載のエアバッグ装置。
【請求項4】
前記接続部材を第1接続部材として、
前記シートクッションに内蔵されて、前記第2サイドクッションと前記座面用エアバッグクッションとを接続する第2接続部材をさらに備えている、請求項2又は3に記載のエアバッグ装置。
【請求項5】
前記インフレータは、前記第1サイドクッションに取り付けられ、
前記インフレータから噴射されるガスの一部は、前記第1サイドクッションから前記ダクト部を介して前記座面用エアバッグクッションに供給される、請求項2乃至4の何れか1つに記載のエアバッグ装置。
【請求項6】
前記第1サイドクッションは、前記座席用のドアに近いニアサイドに設けられる、請求項2乃至5の何れか1つに記載のエアバッグ装置。
【請求項7】
前記座面用エアバッグクッションは、前記シートクッション内の前部で膨張するように配置され、
前記ダクト部は、前記シートクッションにおける一方の側部内を前後方向に延びて、前記シートクッションの前部で前記座面用エアバッグクッションに繋がっている、請求項1乃至6の何れか1つに記載のエアバッグ装置。
【請求項8】
前記エアバッグは、前記シートクッションの座面の側部を隆起させるように膨張する座面側部クッションをさらに備えている、請求項1乃至7の何れか1つに記載のエアバッグ装置。
【請求項9】
前記座面側部クッションは、前記ダクト部に連続して形成され、前記ダクト部を流通するガスが流入する、請求項8に記載のエアバッグ装置。
【請求項10】
前記座面側部クッションは、前記座面用エアバッグクッションに連続して形成され、膨張完了状態では前記座面用エアバッグクッションの後部から後方に延びている、請求項8に記載のエアバッグ装置。
【請求項11】
前記座席に前記エアバッグを固定する1つ又は複数の固定部をさらに備え、
前記固定部の1つは、前記座面用エアバッグクッションの後部に取り付けられて、前記後部を前記シートクッションのシートフレームに固定する、請求項1乃至10の何れか1つに記載のエアバッグ装置。
【請求項12】
前記エアバッグは、前記サイドクッションに一体化されて前記乗員の頭部の前方で膨張展開する頭部前面保護クッションをさらに有する、請求項1乃至11の何れか1つに記載のエアバッグ装置。
【請求項13】
前記エアバッグは、膨張完了状態では前記シートクッションの座面のうち、前記乗員のニアサイド側の大腿部下の外側部分を隆起させる第1大腿部外側クッションをさらに備えている、請求項1乃至12の何れか1つに記載のエアバッグ装置。
【請求項14】
前記エアバッグは、
前記乗員のファーサイド側の大腿部下の外側部分を隆起させる第2大腿部外側クッションと、
前記ダクト部に接続されると共に、前記第1大腿部外側クッションと前記第2大腿部外側クッションを分岐する第4接続部材と、
前記第1大腿部外側クッション及び前記第2大腿部外側クッションのうち、衝突が発生した側のクッションにのみ前記インフレータからのガスが供給されるように、前記第4接続部材の開閉を制御する開閉制御手段と、
をさらに備えている、請求項13に記載のエアバッグ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乗員の側部等を保護するエアバッグ装置等に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、車両の側面衝突に対応した乗員の拘束性能を有するエアバッグ装置が知られている。この種のエアバッグ装置では、座席に着座した乗員の側部を覆うように、エアバッグが膨張展開する。特許文献1には、乗員に対してニアサイドからの衝撃に対してもファーサイドからの衝撃に対しても保護することができる乗員拘束装置が記載されている。
【0003】
また、特許文献2には、別のタイプのエアバッグ装置として、シートクッションエアバッグ装置が記載されている。この装置は、車両用シート等の乗物用シートの座部内に配置されたエアバッグを膨張用ガスにより膨張させて座面を隆起させ、座部上の乗員等の被拘束対象体が前方へ移動するのを規制するようにしたものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2018-135016号公報
【文献】特開2017-043328号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、従来は、1つの座席に対し複数のエアバッグ装置を設ける場合、エアバッグ装置ごとにインフレータが設けられる。この場合、エアバッグ装置の数に応じてインフレータの設置スペースが必要となる。それに対し、本願発明者は、自動運転の機能を搭載する乗用車では、乗員の姿勢の自由度が向上するため、乗員にとって自由度の高い車室空間の設計が求められるようになり、そのためにはエアバッグ装置の搭載スペースを縮小することが望ましいと考えた。
【0006】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、車両の側面衝突に対応した乗員の拘束性能と、前面衝突に対応した乗員の拘束性能とを有するエアバッグ装置において、その搭載スペースを縮小させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係るエアバッグ装置は、車両の座席に着座した乗員の一方の側部を覆うように膨張展開するサイドクッションを有するエアバッグと、サイドクッションを膨張させるガスを噴射するインフレータとを備え、エアバッグは、乗員の腰部の前方への移動が規制されるように、膨張してシートクッションの座面を隆起させる座面用エアバッグクッションと、サイドクッションと座面用エアバッグクッションとを連通させるダクト部とをさらに有する。
【0008】
本発明は、サイドクッションを第1サイドクッションとして、エアバッグは、乗員の他方の側部を覆うように膨張展開する第2サイドクッションと、座席の幅方向に延びて第1サイドクッションと第2サイドクッションとを接続する接続部材とをさらに有していてもよい。
【0009】
本発明は、接続部材は、内部をガスが流通可能なダクトであり、第2サイドクッションは、接続部材の内部を介して、第1サイドクッションに連通させてもよい。
【0010】
本発明は、接続部材を第1接続部材として、シートクッションに内蔵されて、第2サイドクッションと座面用エアバッグクッションとを接続する第2接続部材をさらに備えていてもよい。
【0011】
本発明は、インフレータは、第1サイドクッションに取り付けられ、インフレータから噴射されるガスの一部は、第1サイドクッションからダクト部を介して座面用エアバッグクッションに供給されるようにしてもよい。
【0012】
本発明は、第1サイドクッションは、座席用のドアに近いニアサイドに設けられていてもよい。
【0013】
本発明は、座面用エアバッグクッションは、シートクッション内の前部で膨張するように配置され、ダクト部は、シートクッションにおける一方の側部内を前後方向に延びて、シートクッションの前部で座面用エアバッグクッションに繋がっていてもよい。
【0014】
本発明は、エアバッグは、シートクッションの座面の側部を隆起させるように膨張する座面側部クッションをさらに備えていてもよい。
【0015】
本発明は、座面側部クッションは、ダクト部に連続して形成され、ダクト部を流通するガスが流入するようにしてもよい。
【0016】
本発明は、座面側部クッションは、座面用エアバッグクッションに連続して形成され、膨張完了状態では座面用エアバッグクッションの後部から後方に延びていてもよい。
【0017】
本発明は、座席にエアバッグを固定する1つ又は複数の固定部をさらに備え、固定部の1つは、座面用エアバッグクッションの後部に取り付けられて、後部をシートクッションのシートフレームに固定するようにしてもよい。
【0018】
本発明は、エアバッグは、サイドクッションに一体化されて乗員の頭部の前方で膨張展開する頭部前面保護クッションをさらに有していてもよい。
【発明の効果】
【0019】
本発明では、ダクト部を介してサイドクッションと座面用エアバッグクッションとが連通しているため、インフレータから噴射されたガスは、サイドクッション及び座面用エアバッグクッションの両方に供給される。これにより、サイドクッションは、車両の側面衝突に対応した乗員の拘束性能を発揮し、座面用エアバッグクッションは、前面衝突に対応した乗員の拘束性能を発揮する。ここで、従来は、サイドクッションと座面用エアバッグクッションとが、別々のエアバッグ装置に設けられ、サイドクッションと座面用エアバッグクッションは連通していない。そのため、サイドクッションと座面用エアバッグクッションのそれぞれにインフレータが必要となる。それに対し、本発明では、1つのインフレータで、サイドクッションと座面用エアバッグクッションを膨張させることができ、インフレータの設置スペースを削減することが可能である。本発明によれば、車両の側面衝突に対応した乗員の拘束性能と、前面衝突に対応した乗員の拘束性能とを有するエアバッグ装置の搭載スペースを縮小させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1A図1Aは、実施形態に係るエアバッグ装置において、膨張展開が完了した状態(膨張完了状態)のエアバッグを示す図であり、乗員が着座した座席を前方から見た図である。
図1B図1Bは、膨張完了状態のエアバッグを示す図であり、乗員が不在の座席を前方から見た図である。
図1C図1Cは、膨張完了状態のエアバッグを示す図であり、乗員が不在の座席を第1サイドクッション側から見た図である。
図1D図1Dは、膨張完了状態のエアバッグを示す図であり、乗員が不在の座席を上側から見た図である。
図2図2は、実施形態に係るエアバッグ装置において、平置き状態のエアバッグの平面図である。
図3図3は、収納形態のエアバッグの平面図である。
図4図4は、エアバッグの収納状態を示す座席の正面図である。
図5図5は、実施形態の第1変形例に係るエアバッグ装置において、平置き状態のエアバッグの平面図である。
図6A図6Aは、実施形態の第1変形例に係るエアバッグ装置において、膨張完了状態のエアバッグを示す図であり、乗員が不在の座席を前方から見た図である。
図6B図6Bは、膨張完了状態のエアバッグを示す図であり、乗員が不在の座席を上側から見た図である。
図7図7は、実施形態の第2変形例に係るエアバッグ装置において、平置き状態のエアバッグの平面図である。
図8A図8Aは、実施形態の第2変形例に係るエアバッグ装置において、膨張完了状態のエアバッグを示す図であり、乗員が不在の座席を前方から見た図である。
図8B図8Bは、膨張完了状態のエアバッグを示す図であり、乗員が不在の座席を第1サイドクッション側から見た図である。
図9図9は、実施形態の第3変形例に係るエアバッグ装置において、平置き状態のエアバッグの平面図である。
図10A図10Aは、実施形態の第3変形例に係るエアバッグ装置において、膨張完了状態のエアバッグを示す図であり、乗員が不在の座席を前方から見た図である。
図10B図10Bは、膨張完了状態のエアバッグを示す図であり、乗員が不在の座席を第1サイドクッション側から見た図である。
図11図11は、実施形態の第4変形例に係るエアバッグ装置において、平置き状態のエアバッグの平面図である。
図12A図12Aは、実施形態の第4変形例に係るエアバッグ装置において、膨張完了状態のエアバッグを示す図であり、乗員が着座した座席を前方から見た図である。
図12B図12Bは、膨張完了状態のエアバッグを示す図であり、乗員が着座した座席を第1サイドクッション側から見た図である。
図12C図12Cは、膨張完了状態のエアバッグを示す図であり、乗員が着座した座席を上側から見た図である。
図13図13は、実施形態の第5変形例に係るエアバッグ装置において、平置き状態のエアバッグの平面図である。
図14A図14Aは、実施形態の第5変形例に係るエアバッグ装置において、膨張完了状態のエアバッグを示す図であり、乗員が着座した座席を前方から見た図である。
図14B図14Bは、膨張完了状態のエアバッグを示す図であり、乗員が不在の座席を第1サイドクッション側から見た図である。
図15図15は、実施形態の第6変形例に係るエアバッグ装置において、平置き状態のエアバッグの平面図である。
図16A図16Aは、実施形態の第6変形例に係るエアバッグ装置において、膨張完了状態のエアバッグを示す図であり、乗員が着座した座席を前方から見た図である。
図16B図16Bは、膨張完了状態のエアバッグを示す図であり、乗員が不在の座席を第1サイドクッション側から見た図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施形態を詳細に説明する。なお、以下の実施形態は、本発明の一例であって、本発明、その適用物、あるいはその用途の範囲を制限することを意図するものではない。
【0022】
また、本明細書において、「上」、「上側」とは座席1の正規の位置に着座した乗員5の頭部方向を、「下」、「下側」とは乗員5の足元方向を意味する場合がある。ここで、「正規の位置」とは、座席1におけるシートクッション2の左右方向の中心位置で、背もたれ部3に乗員5の背中が上下に亘って接する位置をいう。また、「前」、「前側」とは座席1の正規の位置に着座した乗員5の正面方向を、「後」、「後ろ側」とは乗員5の背面方向を意味する場合がある。また、「左」、「左側」とは座席1の正規の位置に着座した乗員5の左手方向を、「右」、「右側」とは乗員5の右手方向を意味する場合がある。また、乗員5は、WorldSID(国際統一側面衝突ダミー:World Side Impact Dummy)のAM50(米国人成人男性の50パーセンタイル)を想定したものである。
【0023】
本実施形態は、車両の座席1の両サイドに設けられる一対のサイドクッション21,22と、シートクッション2に内蔵される座面用エアバッグクッション23とが1つのエアバッグ11に集約されたエアバッグ装置10である。以下では、エアバッグ装置10について説明を行う前に、エアバッグ装置10が搭載される座席1について説明を行う。
【0024】
[座席の概略構成について]
座席1は、図1A図1Dに示すように、シートクッション2と、背もたれ部3とを備えている。背もたれ部3の上端部には、棒状の支持部材6を介して、ヘッドレスト4が取り付けられている。なお、座席1は、背もたれ部3とヘッドレスト4とが一体形成されたものであってもよい。また、以下では、座席1用のドアに近い側を「ニアサイド」、座席1用のドアから遠い側を「ファーサイド」と言う場合がある。
【0025】
シートクッション2では、シートフレームの一部を構成するシートパン(下部支持部材)2aの上側にパッド8が設けられ、パッド8が表皮材9により被覆されている。シートクッション2の座面(上面)では、表皮材9が露出している。また、背もたれ部3では、シートフレームの一部を構成するシートバックフレーム3aの前側にパッド8が設けられ、パッド8が表皮材9により被覆されている。
【0026】
[エアバッグ装置の構成について]
エアバッグ装置10は、エアバッグ11と、インフレータ12(図1C参照)とを備えている。エアバッグ11は、布製の袋体である。インフレータ12は、エアバッグ11を膨張させるガスを噴射する装置である。以下では、左右に隣り合う運転席又は助手席に設けられるエアバッグ装置10を例にして説明を行う。
【0027】
[膨張完了状態のエアバッグについて]
まず、膨張展開が完了した状態(以下、「膨張完了状態」と言う。)のエアバッグ11について、図1を参照しながら説明を行う。なお、膨張完了状態のエアバッグ11の説明では、乗員5は正規の位置に着座しているものとしている。
【0028】
エアバッグ11は、図1A及び図1Bに示すように、乗員5の一方の側部を覆うように膨張展開する第1サイドクッション21と、乗員5の他方の側部を覆うように膨張展開する第2サイドクッション22と、座席1のシートクッション2に内蔵されて乗員5の腰部の前方への移動が規制されるように膨張する座面用エアバッグクッション23と、第1サイドクッション21と第2サイドクッション22とを連通させる第1ダクト24と、第1サイドクッション21と座面用エアバッグクッション23とを連通させる第2ダクト25と、を備えている。第1ダクト24は、第1サイドクッション21と第2サイドクッション22とを接続する接続部材に相当する。第2ダクト25は、第1サイドクッション21と座面用エアバッグクッション23とを接続する部材であり、ダクト部に相当する。
【0029】
第1サイドクッション21は、座席1のニアサイドに設けられている。第1サイドクッション21の後ろ側は、座席1のニアサイドに固定されている。第1サイドクッション21は、図1C及び図1Dに示すように、座席1への固定箇所から前方に延びている。第1サイドクッション21は、乗員5の頭部における一方の側部を覆うように膨張展開する第1頭部用クッション部31と、乗員5の胴体(肩部から腹部)における一方の側部を覆うように膨張展開する第1胴体用クッション部41とを備えている。第1頭部用クッション部31は、第1胴体用クッション部41の前側部分から、後ろ向きの斜め上方に立設されている。
【0030】
第2サイドクッション22は、座席1のファーサイドに設けられている。第2サイドクッション22の後ろ側は、座席1のファーサイドに固定されている。第2サイドクッション22は、図1Dに示すように、座席1への固定箇所から前方に延びている。第2サイドクッション22は、乗員5の頭部における他方の側部を覆うように膨張展開する第2頭部用クッション部32と、乗員5の胴体(肩部)における他方の側部を覆うように膨張展開する第2胴体用クッション部42とを備えている。第2頭部用クッション部32は、第2胴体用クッション部42の前側部分から、後ろ向きの斜め上方に立設されている。
【0031】
座面用エアバッグクッション23は、シートクッション2内の前部で膨張して、座面の前部を隆起させる。ここで、「シートクッション2の前部」とは、シートクッション2のうち着座可能な範囲(シートクッション2の上面のうち背もたれ部3に覆われた範囲以外)の前側半分を言う。座面用エアバッグクッション23は、図1Cに示すように、例えばシートパン2aとパッド8の間で膨張する。座面用エアバッグクッション23は、図1Dに示すように、座席1の幅方向において、シートクッション2の一方の側部から他方の側部まで延びている。なお、座面用エアバッグクッション23の設置範囲は、シートクッション2の後部まで及んでいてもよい。
【0032】
第1ダクト24は、内部をガスが流通可能な管状のダクトである。第1ダクト24は、図1Bに示すように、背もたれ部3の上端面に沿って座席1の幅方向に延びている。第1ダクト24の一端は第1サイドクッション21内に開口し、第1ダクト24の他端は第2サイドクッション22内に開口している。
【0033】
第1ダクト24は、座席1の上部の高さ範囲における、乗員5の頭頂部より下側の範囲に位置する。本実施形態では、第1ダクト24が、背もたれ部3とヘッドレスト4との隙間の前方に位置する。第1ダクト24は、背もたれ部3の上端部からヘッドレスト4の下端部までの範囲を覆う程度の太さを有する。なお、「座席1の上部の高さ範囲」とは、上下方向における背もたれ部3の真ん中よりも上側の範囲を言う。
【0034】
第2ダクト25は、内部をガスが流通可能な管状のダクトである。第2ダクト25は、ガスの流路面積(膨張状態の断面積)が第1ダクト24よりも小さい。但し、設計上の要求によっては、第2ダクト25のガスの流路面積は、第1ダクト24より大きくしてもよいし、第1ダクト24と同じにしてもよい。第2ダクト25は、シートクッション2における一方の側部(ニアサイド側の側部)内を前後方向に延び、シートクッション2の前部で座面用エアバッグクッション23に繋がっている。第2ダクト25は、図1Cにおいて破線で示すように、例えばシートパン2aとパッド8の間に位置している。なお、シートクッション2の側部とは、シートクッション2の側面近傍であり、例えばシートクッション2の側面から10cmの範囲である。
【0035】
[平置き状態のエアバッグについて]
次に、未膨張のエアバッグ11を広げて平坦面に平置きした状態(以下、「平置き状態」と言う。)におけるエアバッグ11の構成について、図2を参照しながら説明を行う。
【0036】
エアバッグ11は、同じ形状で同じ大きさの2枚の基布を重ねた状態で、外周部など所定の箇所を縫製することにより構成された袋体である。図2では、太線の破線により縫製箇所を表す。エアバッグ11は、図2に示すように、第1サイドクッション21及び第2サイドクッション22により構成された本体部21,22が、横長の略長方形状を呈する。平置き状態のエアバッグ11の説明では、エアバッグ11の本体部21,22の長手方向を「左右方向」、短手方向を「前後方向」と言い、その前後方向において、各サイドクッション21,22が座席1に固定される側(図2において上側)を「後ろ側」、その反対側を「前側」と言う。
【0037】
エアバッグ11は、左右方向に延びる第1ダクト24と、第1ダクト24の一端に接続された第1サイドクッション21と、第1ダクト24の他端に接続された第2サイドクッション22と、第1サイドクッション21の外端(図2において右端)に接続された第2ダクト25と、第2ダクト25の外端(図2において右端)に接続された座面用エアバッグクッション23とを備えている。なお、第1ダクト24と第1サイドクッション21と第2サイドクッション22は、図2の上側が膨張完了状態で後ろ側となる。第2ダクト25と座面用エアバッグクッション23は、膨張完了状態で、図2の右側(符号23aの側)が前側、左側(符号23bの側)が後ろ側、上側がニアサイド側、下側がファーサイド側となる。
【0038】
第1ダクト24は、横長の略長方形状を呈する。第1ダクト24は、エアバッグ11の後ろ側に設けられている。第1ダクト24の前端(図2において、横スリット35の位置)は、第1サイドクッション21及び第2サイドクッション22の各々の前端より後ろ側に位置している。第1ダクト24の前後方向の寸法(太さ)は、各サイドクッション21,22の前後方向の寸法の半分以下である。
【0039】
第1サイドクッション21は、左右方向において第1ダクト24の外側に位置する第1胴体用クッション部41と、第1ダクト24の前側に位置する第1頭部用クッション部31とを有する。第1胴体用クッション部41は、第1ダクト24の前端よりも前側に延び出ている。第1頭部用クッション部31は、第1胴体用クッション部41のうち前側に延び出た部分から、左右方向の内側(図2において左側)に延びている。
【0040】
第1頭部用クッション部31は、略長方形状を呈する。第1頭部用クッション部31は、左右方向に延びる横スリット35を介して、第1ダクト24に隣り合う。また、第1胴体用クッション部41は、横長の略長方形状を呈する。厳密には、第1胴体用クッション部41は、左右方向における外側部分で、前後方向の寸法が外端に近づくに従って徐々に短くなっている。第1胴体用クッション部41における第1ダクト24側の部分は、乗員5の肩部の側部を保護するための上側クッション部41aを構成している。第1胴体用クッション部41における第2ダクト25側の部分は、乗員5の胸部及び腹部の側部を保護するための下側クッション部41bを構成している。なお、本明細書において「長方形」は正方形を含む。
【0041】
第1胴体用クッション部41の後ろ側には、インフレータ12の収納部45が形成されている。収納部45内には、ガスガイド18が設けられている。ガスガイド18は、インフレータ12から噴射されるガスの出口として、上側クッション部41aに開口する第1出口18aと、下側クッション部41bに開口する第2出口18bを有する。本実施形態では、ニアサイドの衝突時に、衝突から乗員5を保護するまでに時間の猶予の少ない第1胴体用クッション部41を、他のクッション部に先んじて膨張展開させることができる。
【0042】
第2サイドクッション22は、左右方向において第1ダクト24の外側に位置する第2胴体用クッション部42と、第1ダクト24の前側に位置する第2頭部用クッション部32とを有する。第2胴体用クッション部42は、第1ダクト24の前端よりも前側に延び出ている。第2頭部用クッション部32は、第2胴体用クッション部42のうち前側に延び出た部分から、左右方向の内側(図2において右側)に延びている。
【0043】
第2頭部用クッション部32は、略長方形状を呈する。第2頭部用クッション部32は、上述の横スリット35を介して、第1ダクト24に隣り合う。また、第2胴体用クッション部42は、やや縦長の略長方形状を呈する。第2胴体用クッション部42は、乗員5の肩部の側部を保護するための部分である。
【0044】
第1頭部用クッション部31と第2頭部用クッション部32とは、前後方向に延びる縦スリット36を介して、互いの先端が隣り合う。第1頭部用クッション部31と第2頭部用クッション部32は、縦スリット36を挟んで左右対称に形成されている。縦スリット36は、エアバッグ11の前端から前後方向に延びる切れ込みであり、後ろ側で横スリット35の中心位置に繋がる。横スリット35は、縦スリット36の後ろ端の位置から、左右にそれぞれ延びている。横スリット35及び縦スリット36を合わせると、略T字状の切れ込みとなる。なお、本実施形態では、各スリット35,36が、隙間がほとんどない切れ込みであるが、ある程度の隙間がある切れ込みであってもよい。
【0045】
第2ダクト25は、横長の略長方形状を呈する。第2ダクト25は、エアバッグ11の後ろ側に設けられている。第2ダクト25は、第1サイドクッション21の後部から延び出て、座面用エアバッグクッション23の後部に接続している。第2ダクト25の前端は、第1サイドクッション21及び座面用エアバッグクッション23の各々の前端より後ろ側に位置している。第2ダクト25は、前後方向の寸法(太さ)が第1ダクト24に比べて短い。但し、設計上の要求によっては、第2ダクト25の前後方向の寸法は、第1ダクト24より長くしてもよいし、第1ダクト24と同じにしてもよい。
【0046】
座面用エアバッグクッション23は、略長方形状を呈する。座面用エアバッグクッション23は、第2ダクト25の前端よりも前側に延び出ている。座面用エアバッグクッション23は、前後方向(後述する収納状態では座席1の幅方向)の寸法が、左右方向(収納状態では座席1の前後方向)の寸法に比べて大きい。座面用エアバッグクッション23の前後方向の寸法は、シートクッション2の幅に合わせて調整することができる。
【0047】
エアバッグ11には、座席1のシートフレーム2a,3aにエアバッグ11を固定するための固定部として、複数のタブ16a~16cが設けられている(図2参照)。具体的に、エアバッグ11には、第1サイドクッション21の後ろ側の外周部における第2ダクト25の近傍に設けられた第1タブ16aと、第2サイドクッション22の後ろ側の外周部における外端部(図2において左端部)に設けられた第2タブ16bと、座面用エアバッグクッション23における内側の外周部23bに設けられた第3タブ16cとが設けられている。
【0048】
[エアバッグの収納形態、及び、座席内におけるエアバッグの収納状態等について]
続いて、座席1にエアバッグ11を収納する時の収納形態、及び、座席1内にエアバッグ11が収納されている収納状態について、図3及び図4を参照しながら説明を行う。
【0049】
エアバッグ11は、平置き状態において、第1ダクト24と第1サイドクッション21と第2サイドクッション22とを、前後方向の寸法が短くなるように折り畳むことにより、座席1に収納される時の収納形態(図3参照)となる。エアバッグ11の折り畳み方法としては、例えば、各頭部用クッション部31,32を付け根で外側に折って各胴体用クッション部41,42に重ねた後に、前側から後ろ側に向かってロール状に巻く方法を採用することができる。なお、エアバッグ11の折り畳み方法は、蛇腹状に折り畳む方法など他の方法を採用してもよい。また、図示しないが、タブ16a,16bの取付位置又は第2ダクト25の折り曲げ箇所(後述)には、エアバッグ11の膨張展開時に破断する布材を巻いてもよい。
【0050】
収納形態のエアバッグ11は、図4に示すように、第1ダクト24と第1サイドクッション21と第2サイドクッション22が、シートバックフレーム3aに沿って折り曲げられた状態で座席1に収納される。具体的に、第1ダクト24は背もたれ部3の上端部に収納され、第1サイドクッション21は座席1のニアサイドに収納され、第2サイドクッション22は座席1のファーサイドに収納される。
【0051】
第2ダクト25は、シートクッション2のニアサイド側の側部において、シートパン2aとパッド8との間に、折り畳むことなく広げた状態で収納される。第2ダクト25は、シートバックフレーム3aのニアサイド側の下端部近傍から、前方に向かって延びている。また、座面用エアバッグクッション23は、シートクッション2の前部におけるシートパン2aとパッド8との間に、折り畳むことなく広げた状態で収納される。座面用エアバッグクッション23は、第2ダクト25が接続されたニアサイド側から、ファーサイド側に向かって延びている。座面用エアバッグクッション23は、平置き状態で外端に位置する辺23aが、シートクッション2の前端に沿って座席1の幅方向に延びている。
【0052】
座席1に収納された収納状態のエアバッグ11は、3つのタブ16a~16cと、インフレータ12の収納部45との4箇所で、座席1のシートフレーム2a,3aに固定される。具体的に、各胴体用クッション部41,42は、第1タブ16a及び第2タブ16bにより、シートバックフレーム3aにそれぞれ固定される。座面用エアバッグクッション23は、平置き状態で内側に位置する辺23bの中心部が、第3タブ16cによりシートパン2aに固定される。また、収納部45には、インフレータ12から突出するスタッドボルト(図示省略)の挿通孔が形成されている。インフレータ12がスタッドボルトによりシートバックフレーム3aに固定されることで、挿通孔にスタッドボルトが通された収納部45も、シートバックフレーム3aに固定される。なお、タブ16a~16cの配置や個数は、本実施形態に限定されない。
【0053】
[エアバッグ装置の動作]
続いて、エアバッグ装置10の動作について説明を行う。
【0054】
衝突や横転などによって車両に衝撃が加わると、センサーからの信号を受けたインフレータ12が、第1サイドクッション21内にガスを噴射する。これにより、第1サイドクッション21が膨張展開する。また、第1サイドクッション21に噴射されたガスの一部は、第1ダクト24を通じて第2サイドクッション22に供給される。これにより、第2サイドクッション22が膨張展開する。また、第1サイドクッション21に噴射されたガスの一部は、第2ダクト25を通じて座面用エアバッグクッション23に供給される。これにより、座面用エアバッグクッション23がその設置場所で膨張する。
【0055】
ここで、車両の側面衝突が生じると、衝突初期は、慣性力により乗員5が衝突発生側に移動し、その後、衝突の衝撃力により、その反対側に移動する。具体的に、ファーサイドの側面衝突の場合、衝突初期に、乗員5は、第2サイドクッション22に衝突する。そして、この衝突に伴って、第2サイドクッション22と共に、第1ダクト24を介して接続された第1サイドクッション21もファーサイド側に移動する。その後、乗員5が衝突初期とは反対側に移動する時、乗員5は第1サイドクッション21に衝突する。一方、ニアサイドの側面衝突の場合、衝突初期に、乗員5が第1サイドクッション21に衝突し、第1サイドクッション21及び第2サイドクッション22がニアサイド側に移動する。その後、乗員5が衝突初期とは反対側に移動する時、乗員5は第2サイドクッション22に衝突する。
【0056】
本実施形態では、乗員5が衝突初期にサイドクッション21,22に衝突する高さ範囲に、第1ダクト24が位置する。そのため、第1ダクト24には横方向の荷重が作用し、両サイドクッション21,22は一体的に横方向に移動する。これにより、衝突初期とは反対側に移動する乗員5がもう一方のサイドクッション21,22に衝突するまでの移動距離が短くなり、乗員5が早期に拘束される。また、乗員5が衝突初期に衝突するサイドクッション21,22は、第1ダクト24によりある程度引き止められるため、座席1の外側への移動量が抑制され、衝突発生側でも早期に拘束される。このように、各サイドクッション21,22は、車両の側面衝突に対応した乗員の拘束性能を発揮する。
【0057】
なお、車両が横転する場合、車両の回転に応じて乗員5は左右に移動する。この場合においても、エアバッグ装置10は、両サイドのサイドクッション21,22が一体的に挙動するため、乗員5を早期に拘束することができる。
【0058】
また、前面衝突の直後、乗員5が座席1の前方に移動しようとするのに対し、乗員5の大腿部の下方では、座面用エアバッグクッション23が膨張して、シートクッション2の座面の前部が幅方向に亘って隆起する。そして、この座面の隆起部により、乗員5の大腿部が持ち上げられて拘束され、乗員5の腰部の前方への移動が規制される。このように、座面用エアバッグクッション23は、前面衝突に対応した乗員の拘束性能を発揮する。
【0059】
[本実施形態の効果等]
本実施形態では、第1ダクト24及び第2ダクト25を設けているため、1つのインフレータ12で、一対のサイドクッション21,22と座面用エアバッグクッション23を膨張させることができ、クッション21~23ごとにインフレータ12を設置する必要がない。クッションのそれぞれにインフレータを設置する場合に比べて、インフレータ12の設置スペースが削減される。本実施形態によれば、車両の側面衝突に対応した乗員5の拘束性能と、前面衝突に対応した乗員5の拘束性能とを有するエアバッグ装置10の搭載スペースを縮小させることができる。そのため、自動運転の機能を搭載する乗用車において、乗員にとって自由度の高い車室空間を設計することが可能となる。また、1つのインフレータ12によりエアバッグ11全体を膨張させることができるため、エアバッグ装置10の部品点数の増加を抑制することができる。
【0060】
ここで、特許文献2に記載のシートクッションエアバッグ装置では、シートクッションに内蔵されるエアバッグの下側に、インフレータが配置される。この場合、シートパン側のフレームにインフレータの搭載スペースが必要となる。また、シートクッションに送風用ダクトを設けることが容易ではない。それに対し、本実施形態では、シートクッション2内にインフレータ12の設置スペースが必要なく、座席1における各種装備のパッケージ性及び意匠性の幅を広げることが可能となる。
【0061】
本実施形態では、乗員5に近い位置で膨張展開する各サイドクッション21,22を有するエアバッグ11に、乗員5に近い位置で膨張する座面用エアバッグクッション23を一体化するため、1つの座席1に設けられるエアバッグ用の構造を効率的に簡素化することができる。また、各クッション21~23が乗員5に近い位置で膨張するため、高い拘束性能を発揮することもできる。
【0062】
本実施形態では、第2ダクト25が、シートクッション2における一方の側部内に内蔵されている。第2ダクト25の内蔵箇所は、例えば自動運転の機能が搭載された乗用車で、乗員5が自由な姿勢を取る場合であっても、乗員5の体重が作用しにくい。そのため、第2ダクト25におけるガスの流通が乗員5の体重によって阻害されにくく、乗員5の姿勢によらず、座面用エアバッグクッション23をスムーズに膨張させることができる。
【0063】
本実施形態では、一対のサイドクッション21,22のうち、インフレータ12が取り付けられた第1サイドクッション21に第2ダクト25を取り付けている。そのため、インフレータ12の噴射ガスを座面用エアバッグクッション23に速やかに供給することができ、座面用エアバッグクッション23を速やかに膨張させることができる。
【0064】
本実施形態では、乗員5の体重により座面用エアバッグクッション23が潰された際に、第2ダクト25を介して座面用エアバッグクッション23のガスを第1サイドクッション21に逃がすことができる。すなわち、第2ダクト25はベントホールとして機能する。そのため、座面用エアバッグクッション23へのベントホールの設置を省略することができる。
【0065】
本実施形態では、第3タブ16cが、座面用エアバッグクッション23の後部に取り付けられて、その後部をシートパン2aに固定する。そのため、前面衝突時などに、座面用エアバッグクッション23による隆起部に対し、後ろ側から乗員5の大腿部が当たる場合でも、座面用エアバッグクッション23の前方への位置ずれを抑制することができる。
【0066】
なお、エアバッグ装置10は、車両のフロントシートとリアシートの何れにも設置することができるし、1人乗りの車両の座席にも設置することができる。また、エアバッグ装置10は、車両レイアウトに依存したものとはならないため、エアバッグ装置10の一部又は全部について、複数車種に適用できるようにモジュール化が可能である。
【0067】
[実施形態の第1変形例]
本変形例では、エアバッグ装置10が、第2サイドクッション22と座面用エアバッグクッション23とを接続する第2接続部材26をさらに備えている。第2接続部材26は、紐状又は細い帯状の部材(例えば、テザー)である。図5に示す平置き状態では、第2接続部材26の一端が、第2胴体用クッション部42の外端42aの後ろ寄りの位置に固定されている。また、座面用エアバッグクッション23に連続して、第2接続部材26の他端を固定する非膨張部23dが設けられている。非膨張部23dは、第2ダクト25が接続されている側とは反対側に設けられている。
【0068】
第2接続部材26は、座席1内にエアバッグ11を収納する際に、背もたれ部3における表皮材9の内側及びシートクッション2における表皮材9の内側を通す。例えば、第2接続部材26は、背もたれ部3ではシートバックフレーム3aとパッド8の間を通すことができ、シートクッション2ではシートパン2aとパッド8の間を通すことができる。そして、第2接続部材26の他端は、縫い付け等により、ファーサイド側に配置された非膨張部23dに固定される(図6A図6B参照)。具体的に、第2接続部材26は、第2胴体用クッション部42の端から、背もたれ部3内におけるシートバックフレーム3aのファーサイド側に沿って下方に延びて、シートクッション2内に到達する。そして、第2接続部材26は、シートクッション2内で前方に折れ曲がり、ファーサイド側を前方に延びて非膨張部23dに至る。
【0069】
本変形例では、前面衝突時などに、座面用エアバッグクッション23による隆起部に対し、後ろ側から乗員5の大腿部が当たって座面用エアバッグクッション23が前方に移動しようとする場合に、第2ダクト25を介して第1サイドクッション21の反力が作用し、第2接続部材26を介して第2サイドクッション22の反力が作用する。特に、第1サイドクッション21は、第2ダクト25の近傍で第1タブ16aによりシートバックフレーム3aに固定され、第2サイドクッション22は、第2接続部材26の近傍で第2タブ16bによりシートバックフレーム3aに固定され、上述の各反力は比較的強くなる。そのため、座面用エアバッグクッション23の前方への位置ずれを抑制することができる。また、シートパン2aに座面用エアバッグクッション23を固定する固定部(第3タブ16c)を省略することもできる。
【0070】
ここで、第3タブ16cを用いる場合は、それに伴ってシートパン2aの構造変更が必要となるし、シートパン2aの真上に座面用エアバッグクッション23を配置する方が、第3タブ16cによる固定が容易である。それに対し、第3タブ16cを省略する場合は、シートパン2aの構造変更が必要なく、パッド8と表皮材9との間に座面用エアバッグクッション23を配置することが容易となる。この場合、座面用エアバッグクッション23の膨張時の形状に対し座面形状が追従しやすくなり、前面衝突に対応した乗員5の拘束性能を向上させることができる。
【0071】
[実施形態の第2変形例]
本変形例では、エアバッグ装置10が、シートクッション2の座面の側部(ニアサイド側の側部)を隆起させるように膨張する座面側部クッション27をさらに備えている。座面側部クッション27は、図7に示すように、第2ダクト25に連続して形成されている。第2ダクト25及び座面側部クッション27からなる袋体では、第1サイドクッション21側の入口25a、及び、座面用エアバッグクッション23側の出口25bに比べて、座面側部クッション27が形成された部分のダクト径(平置き状態では前後方向の寸法)が大きくなっている。
【0072】
本変形例では、インフレータ12からガスが噴射されると、第2ダクト25を流通するガスが座面側部クッション27に流入する。そうすると、図8A及び図8Bに示すように、座面側部クッション27が膨張して、シートクッション2の座面の側部を隆起させる。これにより、側面衝突時にニアサイド側に移動しようとする乗員5が、座面側部クッション27により隆起した部分に当たる。本変形例によれば、側面衝突に対応した乗員5の拘束性能を向上させることができ、大腿部への障害値を低下させることが可能になる。さらに、大腿部におけるエネルギー吸収量が増加するため、胸部や腰部に作用する荷重を減らすことができる。
【0073】
[実施形態の第3変形例]
本変形例では、エアバッグ装置10が、シートクッション2の座面の一方の側部を隆起させるように膨張する第1座面側部クッション28aと、シートクッション2の座面の他方の側部を隆起させるように膨張する第2座面側部クッション28bとをさらに備えている。各座面側部クッション28a,28bは、座面用エアバッグクッション23に連続して形成されている。
【0074】
図9に示す平置き状態では、座面用エアバッグクッション23の外周のうち内側部分の後部(図9において上部)から、第1座面側部クッション28aが第1サイドクッション21側に延び、その内側部分の前部(図9において下部)から、第2座面側部クッション28bが第1サイドクッション21側に延びている。第2ダクト25は、第1座面側部クッション28aの前側に隣り合うように延びており、第1座面側部クッション28aの直ぐ前側で座面用エアバッグクッション23に繋がっている。
【0075】
本変形例では、インフレータ12からガスが噴射されると、座面用エアバッグクッション23介して各座面側部クッション28a,28bにガスが供給され、図10A及び図10Bに示すように、各座面側部クッション28a,28bが膨張して、シートクッション2の座面の各側部を隆起させる。膨張完了状態では、各座面側部クッション28a,28bが、座面用エアバッグクッション23の後部から後方に向かって延びた状態となる。これにより、側面衝突時にニアサイド側に移動しようとする乗員5も、ファーサイド側に移動しようとする乗員5も、座面側部クッション28a又は座面側部クッション28bにより隆起した部分に当たる。本変形例によれば、側面衝突に対応した乗員5の拘束性能を向上させることができ、大腿部への障害値を低下させることが可能になる。さらに、大腿部におけるエネルギー吸収量が増加するため、胸部や腰部に作用する荷重を減らすことができる。
【0076】
なお、本変形例において、第1座面側部クッション28aの代わりに、第2変形例の座面側部クッション27を設けてもよい。
【0077】
[実施形態の第4変形例]
本変形例では、エアバッグ装置10が、乗員5の頭部の前方で膨張展開する頭部前方保護クッション50をさらに備えている。頭部前方保護クッション50は、第3ダクト29を介して第1サイドクッション21に連通している。第3ダクト29は、第3接続部材に該当する。
【0078】
図11に示す平置き状態では、頭部前方保護クッション50が、第1頭部用クッション部31の前側に隣り合うように配置されている。頭部前方保護クッション50の入口は、第3ダクト29を介して、第1サイドクッション21の前側部分に接続されている。
【0079】
本変形例では、インフレータ12からガスが噴射されると、第1サイドクッション21及び第3ダクト29を介して、頭部前方保護クッション50にガスが供給され、図12A図12Cに示すように、頭部前方保護クッション50が膨張展開する。膨張完了状態では、第3ダクト29が第1サイドクッション21の内面から内側に延び、頭部前方保護クッション50が第3ダクト29の接続箇所から上方に延びている。なお、図12A及び図12Bにおける太線の破線は、縫製箇所を表す。
【0080】
また、シートベルト15が乗員5の胴体にニアサイド側から斜め下向きに掛け渡される場合、膨張完了状態では、第1サイドクッション21及び第3ダクト29が、シートベルト15と乗員5の間に介在する。第3ダクト29は、シートベルト15により受け止められた状態となる。そのため、前面衝突時などに乗員5の頭部が頭部前方保護クッション50に衝突した場合の反力がある程度得られ、前面衝突に対応した乗員5の拘束性能を向上させることができる。
【0081】
[実施形態の第5変形例]
本変形例では、エアバッグ装置10が、シートクッション2の座面のうち、乗員5のニアサイド側の大腿部下の外側部分を隆起させる第1大腿部外側クッション61をさらに備えている。第1大腿部外側クッション61は、乗員5のニアサイド側の大腿部の下側の左右方向における外側部分にのみ設けられており、ファーサイド側の大腿部の下側には存在しない。第1大腿部外側クッション61は、少し縦長形状に膨張して乗員5の大腿部から腰部まで延びている。本変形例では座面用エアバッグクッション23がシートクッション2の座面の左右方向全域に膨張することはなく、第1大腿部外側クッション61が乗員5のニアサイド側の大腿部下の外側部分で膨張する。
【0082】
図13に示す平置き状態では、座面用エアバッグクッション23の後部(図13において上部)において、第1大腿部外側クッション61が第1サイドクッション21側に延びている。第2ダクト25は、第1大腿部外側クッション61に繋がっている。第1大腿部外側クッション61が存在しない座面用エアバッグクッション23の前部(図13において下部)には、非膨張部62が形成されている。
【0083】
本変形例では、インフレータ12からガスが噴射されると、第1大腿部外側クッション61にガスが供給され、図14A及び図14Bに示すように、第1大腿部外側クッション61が膨張して、乗員5のニアサイド側の大腿部下の外側部分を隆起させる。膨張完了状態では、第1大腿部外側クッション61が、乗員5の大腿部下の外側部から腰部まで延びた状態となる。これにより、ニアサイド側からの側面衝突時、第1サイドクッション21が膨張するのと同時に乗員5のニアサイド側の大腿部下の外側部分が膨張し、乗員5の腰部が押される状態となって、乗員5の体をサイドドアから離れる方向に傾斜させることができる。
【0084】
ここで、第1大腿部外側クッション61は、乗員5の体を完全に傾かせる必要はない。初期衝突時、膨張した第1大腿部外側クッション61は、乗員5が慣性力によって衝突方向に移動してサイドドアとぶつかるのを防ぐことができる程度に、適度に乗員5の体を傾斜させる。これにより、本変形例では、初期衝突時に乗員5が衝突方向に移動してサイドドアとぶつかるのを防止し、乗員5の保護性能を高めることが可能になる。
【0085】
本変形例では、初期衝突後、乗員5が反動により逆方向(ファーサイド側)に動き始めると、乗員5の体の傾きは殆どなくなる。また、乗員5が反動により逆方向に動き始める段階では、ニアサイド側の第1サイドクッション21に少し遅れてファーサイド側の第2サイドクッション22が展開し始めている。これにより、本変形例では、乗員5の体がファーサイド側に動いても、第2サイドクッション22により乗員5を適切に保護できる。また、助手席の乗員との衝突を効果的に避けることができる。
【0086】
[実施形態の第6変形例]
本変形例では、エアバッグ装置10が、上述の第1大腿部外側クッション61に加え、シートクッション2の座面のうち、乗員5のファーサイド側の大腿部下の外側部分を隆起させる第2大腿部外側クッション63をさらに備えている。第2大腿部外側クッション63は、乗員5のファーサイド側の大腿部の下側の左右方向における外側部分に設けられている。第2大腿部外側クッション63は、少し縦長形状に膨張して乗員5の大腿部から腰部まで延びている。
【0087】
図15に示す平置き状態では、座面用エアバッグクッション23の後部(図15において上部)において、第1大腿部外側クッション61が第1サイドクッション21側に延びている。座面用エアバッグクッション23の前部(図15において下部)では、第2大腿部外側クッション63が第1サイドクッション21側に延びている。第4ダクト64は、第2ダクト25に接続されると共に、第1大腿部外側クッション61と第2大腿部外側クッション63とを分岐している。第4ダクト64は、第4接続部材に相当する。座面用エアバッグクッション23の右端部には、非膨張部62が形成されている。
【0088】
第4ダクト64にはアクティブ弁65が設けられている。アクティブ弁65は、制御装置(不図示)と接続されており、衝突が発生した方向に応じて第4ダクト64の開閉を制御することができる。具体的に、アクティブ弁65は、ニアサイド側からの衝突が生じた場合は、第1大腿部外側クッション61側を開放する一方、第2大腿部外側クッション63側は閉塞する。これとは逆に、ファーサイド側からの衝突が生じた場合は、第2大腿部外側クッション63側を開放する一方、第1大腿部外側クッション61側は閉塞する。アクティブ弁65と、アクティブ弁65を作動させて第4ダクト64の開閉を制御する制御装置は、開閉制御手段に相当する。
【0089】
本変形例では、インフレータ12からガスが噴射されると、アクティブ弁65の作用により、第1大腿部外側クッション61及び第2大腿部外側クッション63のうち、衝突が発生した側のクッションにのみガスが供給され、当該クッションのみが膨らむように制御される。図16A及び図16Bでは、一例として、第2大腿部外側クッション63が膨張して、乗員5のファーサイド側の大腿部下の外側部分が隆起した状態を示している。膨張完了状態では、第2大腿部外側クッション63が、乗員5の大腿部下の外側部から腰部まで延びた状態となる。これにより、ファーサイド側からの側面衝突時、第2サイドクッション22が膨張するのと同時に乗員5のファーサイド側の大腿部下の外側部分が膨張し、乗員5の腰部が押される状態となって、乗員5の体を助手席側から離れる方向に適度に傾斜させることができる。
【0090】
本変形例では、座面用エアバッグクッション23に左右に分離した第1大腿部外側クッション61と第2大腿部外側クッション63が設けられており、衝突が発生した方向に応じて、初期衝突時に乗員5の体を傾斜させる方向を切り換えることができる。本変形例では、初期衝突時に乗員5の体が衝突方向に移動してサイドドアとぶつかることや助手席の乗員と衝突することを防止し、乗員5の保護性能を高めることが可能になる。
【0091】
[その他の変形例]
上述の実施形態において、第2サイドクッション22を省略してもよい。つまり、エアバッグ11は、ニアサイド側のサイドクッション21と座面用エアバッグクッション23を集約したものであってもよい。また、エアバッグ11は、ファーサイド側のサイドクッション22と座面用エアバッグクッション23を集約したものであってもよい。この場合、第2ダクト25は、ファーサイド側に設けられて、ファーサイド側のサイドクッション22と座面用エアバッグクッション23を連通させる。
【0092】
上述の実施形態では、第1サイドクッション21と第2サイドクッション22とを接続する接続部材24がダクトであったが、接続部材24は、内部をガスが流通不能な部材であってもよい。この場合、第2サイドクッション22に第2のインフレータを取り付けてもよいし、二又に分岐する管路を用いて、1つのインフレータから両方のサイドクッション21,22にガスが供給されるようにエアバッグ装置10を構成してもよい。
【0093】
上述の実施形態では、第1サイドクッション21にインフレータ12を取り付けたが、第2サイドクッション22にインフレータ12を取り付けてもよい。また、例えば第4変形例のように、エアバッグ11の容積が大きくなる場合に、第1サイドクッション21及び第2サイドクッション22に1つずつインフレータ12を取り付けてもよい。
【0094】
上述の実施形態では、座面用エアバッグクッション23が、シートクッション2内に折り畳むことなく広げた状態で収納されるが、座面用エアバッグクッション23を折り畳んだ状態で収納してもよい。
【0095】
上述の実施形態において、第1サイドクッション21と第2サイドクッション22の一方だけに頭部用クッション部31,32を設けてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0096】
本発明は、乗員の側部等を保護するエアバッグ装置等に適用可能である。
【符号の説明】
【0097】
1 座席
2 シートクッション
3 背もたれ部
5 乗員
10 エアバッグ装置
11 エアバッグ
12 インフレータ
21 第1サイドクッション
22 第2サイドクッション
23 座面用エアバッグクッション
24 第1ダクト(接続部材、第1接続部材)
25 第2ダクト(ダクト部)
図1A
図1B
図1C
図1D
図2
図3
図4
図5
図6A
図6B
図7
図8A
図8B
図9
図10A
図10B
図11
図12A
図12B
図12C
図13
図14A
図14B
図15
図16A
図16B