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▶ 三菱電機株式会社の特許一覧

(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-12
(45)【発行日】2024-09-24
(54)【発明の名称】回転電機
(51)【国際特許分類】
   H02K 1/276 20220101AFI20240913BHJP
【FI】
H02K1/276
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2023515730
(86)(22)【出願日】2022-12-16
(86)【国際出願番号】 JP2022046377
【審査請求日】2023-03-09
【早期審査対象出願】
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000006013
【氏名又は名称】三菱電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002941
【氏名又は名称】弁理士法人ぱるも特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】高橋 朋平
(72)【発明者】
【氏名】平尾 まい
(72)【発明者】
【氏名】北尾 純士
(72)【発明者】
【氏名】深山 義浩
(72)【発明者】
【氏名】日野 辰郎
(72)【発明者】
【氏名】有田 秀哲
【審査官】三島木 英宏
(56)【参考文献】
【文献】特開2021-097434(JP,A)
【文献】特開2017-077090(JP,A)
【文献】特開2021-044857(JP,A)
【文献】国際公開第2016/021651(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02K 1/276
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ステータコアおよび三相交流電流が入力されるコイルを有する円筒状のステータと、前記ステータの内径側に前記ステータとギャップを介して配置された円柱状のロータとを有する回転電機であって、
前記ロータは、複数の磁石スロットを有するロータコアと、複数の前記磁石スロット内にそれぞれ配置された複数の磁石とを有し、
複数の前記磁石は径方向に2層以上の多層構造に配置されて1極を構成しており、
複数の前記磁石スロットと前記ロータコアの外周面との間はブリッジとなっており、
前記ロータコアの前記外周面には前記1極に付きd軸に対して対称な一対の低透磁率部を2組以上有しており、
全ての前記低透磁率部の周方向の少なくとも一部の領域は前記ブリッジの周方向の領域に含まれており、
2組以上の前記一対の低透磁率部は、前記d軸を基準とする電気角で17.6°以上42.4°以下の範囲、52.4°以上71.6°以下の範囲および78.8°以上89.7°以下の範囲のいずれかの範囲に分散されて配置されており、前記磁石は貫通磁束の変動によって渦電流が生じる永久磁石であることを特徴とする回転電機。
【請求項2】
前記低透磁率部は、前記ロータコアの前記外周面に形成された切り欠き部であることを特徴とする請求項1に記載の回転電機。
【請求項3】
前記低透磁率部は、前記ロータコアの前記外周面に形成された切り欠き部に充填された低透磁率部材であることを特徴とする請求項1または2に記載の回転電機。
【請求項4】
前記低透磁率部は、前記ロータコアの前記外周面に前記ロータコアの他の部分よりも磁気抵抗が増大した応力印加部であることを特徴とする請求項1または2に記載の回転電機。
【請求項5】
前記低透磁率部は、前記ロータコアの前記外周面の内径側に形成された貫通孔であることを特徴とする請求項1または2に記載の回転電機。
【請求項6】
前記1極は3層で構成されており、1層目ブリッジの周方向の中心角は前記d軸を基準とする電気角で37.0°以上40.4°以下の範囲であり、2層目ブリッジの周方向の中心角は前記d軸を基準とする電気角で59.2°以上64.8°以下の範囲であり、3層目ブリッジの周方向の中心角は前記d軸を基準とする電気角で78.6°以上84.6°以下の範囲であることを特徴とする請求項1または2に記載の回転電機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、回転電機に関する。
【背景技術】
【0002】
永久磁石を備えた回転電機において、トルク出力向上のためにロータ内の永久磁石が多層化された構造が提案されている。永久磁石が多層化された構造を有する回転電機では、永久磁石の磁束量が多いために磁束の高調波成分に起因する鉄損およびトルクリップルの増加が顕著になる。永久磁石が多層化された構造を有する従来の回転電機においては、トルクリップルを低減するためにロータコアの外周側表面に切り欠き部を設ける構造が提案されている(例えば、特許文献1および特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2021-136798号公報
【文献】特開2021-197814号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
永久磁石が多層化された構造を有する従来の回転電機においては、厚さの薄い永久磁石が使用される。厚さの薄い永久磁石においては渦電流損失が増大するという問題がある。とくに、3層以上の多層化構造を有する回転電機においては、2層以下の構造に比べて格段に渦電流損失が増大する。
【0005】
しかしながら、従来の多層化構造を有する回転電機は、永久磁石における渦電流損失を低減できる構造ではなかった。なお、これ以降、永久磁石を単に磁石と表現する。
【0006】
本願は、上述の課題を解決するためになされたもので、磁石が多層化された構造を有する回転電機において磁石における渦電流損失を低減できる構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本願の回転電機は、ステータコアおよび三相交流電流が入力されるコイルを有する円筒状のステータと、ステータの内径側にステータとギャップを介して配置された円柱状のロータとを有する回転電機であって、ロータは、複数の磁石スロットを有するロータコアと、複数の磁石スロット内にそれぞれ配置された複数の磁石とを有し、複数の磁石は径方向に2層以上の多層構造に配置されて1極を構成しており、複数の磁石スロットとロータコアの外周面との間はブリッジとなっており、ロータコアの外周面には1極に付きd軸に対して対称な一対の低透磁率部を2組以上有しており、全ての低透磁率部の周方向の少なくとも一部の領域はブリッジの周方向の領域に含まれており、2組以上の一対の低透磁率部は、d軸を基準とする電気角で17.6°以上42.4°以下の範囲、52.4°以上71.6°以下の範囲および78.8°以上89.7°以下の範囲のいずれかの範囲に分散されて配置されており、前記磁石は貫通磁束の変動によって渦電流が生じる永久磁石である
【発明の効果】
【0008】
本願の回転電機においては、ロータコアの外周面には1極に付きd軸に対して対称な一対の低透磁率部を2組以上有しており、全ての低透磁率部の周方向の少なくとも一部の領域はブリッジの周方向の領域に含まれており、2組以上の一対の低透磁率部は、d軸を基準とする電気角で17.6°以上42.4°以下の範囲、52.4°以上71.6°以下の範囲および78.8°以上89.7°以下の範囲のいずれかの範囲に分散されて配置されているので、磁石における渦電流損失を低減することができる。

【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】実施の形態1に係る回転電機の断面図である。
図2】実施の形態1に係る回転電機の1極の領域の断面図である。
図3】実施の形態1に係る回転電機の1極の領域の拡大断面図である。
図4】実施の形態1に係る比較例1の回転電機の1極の領域の断面図である。
図5】実施の形態1に係る回転電機のコイルに流す相電流を示す図である。
図6】実施の形態1に係る比較例1の回転電機の磁石渦電流損失を示す図である。
図7】実施の形態1における2種類の電流をdq変換した場合のd軸電流を示す図である。
図8】実施の形態1に係る比較例1の回転電機に2種類の電流を入力したときのd軸磁束の高調波成分の振幅を並べた解析結果を示す図である。
図9】実施の形態1に係る比較例1の回転電機に2種類の電流を入力したときのd軸電流の高調波成分の振幅を並べた解析結果を示す図である。
図10】実施の形態1に係る回転電機に2種類の電流を入力したときのd軸磁束の高調波成分の振幅を並べた解析結果を示す図である。
図11】実施の形態1に係る回転電機に2種類の電流を入力したときのd軸電流の高調波成分の振幅を並べた解析結果を示す図である。
図12】実施の形態1に係る比較例2の回転電機の1極の領域の断面図である。
図13】実施の形態1に係る回転電機におけるd軸磁束の12次成分振幅とd軸電流の12次成分振幅との関係を示す図である。
図14】実施の形態1に係る回転電機におけるd軸磁束の12次成分振幅と磁石渦電流損失との関係を示す図である。
図15】実施の形態1に係る回転電機における第1切り欠き部の構造に対するd軸磁束の12次成分振幅の差を示した図である。
図16】実施の形態1に係る回転電機における1層目ブリッジの構造に対するd軸磁束の12次成分振幅の差を示した図である。
図17】実施の形態1に係る回転電機における第2切り欠き部の構造に対するd軸磁束の12次成分振幅の差を示した図である。
図18】実施の形態1に係る回転電機における2層目ブリッジの構造に対するd軸磁束の12次成分振幅の差を示した図である。
図19】実施の形態1に係る回転電機における第2切り欠き部の構造に対するd軸磁束の12次成分振幅の差を示した図である。
図20】実施の形態1に係る回転電機における3層目ブリッジの構造に対するd軸磁束の12次成分振幅の差を示した図である。
図21】実施の形態1に係る回転電機における1層目ブリッジの構造に対するd軸磁束の12次成分振幅の差を示した図である。
図22】実施の形態1に係る回転電機における2層目ブリッジの構造に対するd軸磁束の12次成分振幅の差を示した図である。
図23】実施の形態1に係る回転電機における3層目ブリッジの構造に対するd軸磁束の12次成分振幅の差を示した図である。
図24】実施の形態2に係る回転電機の1極の領域の断面図である。
図25】実施の形態3に係る回転電機の1極の領域の断面図である。
図26】実施の形態4に係る回転電機の1極の領域の断面図である。
図27】実施の形態5に係る回転電機の1極の領域の断面図である。
図28】実施の形態6に係る回転電機の1極の領域の断面図である。
図29】実施の形態7に係る回転電機の1極の領域の断面図である。
図30】実施の形態8に係る回転電機の1極の領域の断面図である。
図31】実施の形態9に係る回転電機の1極の領域の断面図である。
図32】実施の形態10に係る回転電機の1極の領域の断面図である。
図33】実施の形態11に係る回転電機の1極の領域の断面図である。
図34】実施の形態12に係る回転電機の1極の領域の断面図である。
図35】実施の形態13に係る回転電機の1極の領域の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本願を実施するための実施の形態に係る回転電機について、図面を参照して詳細に説明する。なお、各図において同一符号は同一もしくは相当部分を示している。
【0011】
実施の形態1.
図1は、実施の形態1に係る回転電機の断面図である。図1は、回転軸に直交する方向の断面図である。本実施の形態に係る回転電機1は、ステータ10とこのステータ10の内径側に同軸に配置されたロータ20とで構成されている。
【0012】
図1に示すように、ステータ10は、円筒状のバックコア11と、このバックコア11から内径側に延伸されたティース12と、ティース12に巻き回されたコイル13とで構成されている。バックコア11とティース12とは一体で形成されており、バックコア11とティース12とでステータコアを構成している。コイル13は、隣り合うティース12とバックコア11とによって囲まれた領域であるスロットを利用してティース12に巻き回されている。ロータ20は、円筒状のロータコア21と、ロータコア21に形成された磁石スロット23に挿入された磁石22とで構成される。ロータコア21の中心には回転軸30が固定されている。回転軸30の軸方向の両側にはベアリングが配置されており、ロータ20は回転軸30を中心にステータ10に対して回転可能に設置されている。これ以降、回転軸30に平行な方向を軸方向、ロータ20が回転する方向を周方向、軸方向に直交する方向を径方向と称する。ステータコアおよびロータコア21は、例えば電磁鋼板が軸方向に積層されて構成されている。また、磁石22は永久磁石である。
【0013】
ティース12は、周方向に均等に48個配置されている。1つのスロットに配置されたコイル13は、周方向に6個のティース12を跨いだ別のスロットに配置されたコイル13と直列に接続されている。磁石スロット23は、内径側に向かってお互いの距離が狭くなるように対向して設けられた一対の磁石スロットが3層形成されている。磁石22は、合計6個の磁石スロット23にそれぞれ挿入されている。本実施の形態の回転電機1においては、6個の磁石スロット23にそれぞれ挿入された6個の永久磁石で1極を構成している。図1の白矢印は、それぞれの磁石22の着磁方向を示している。1極を構成するそれぞれの磁石22は、平板状の形状であり短辺と平行な方向でかつ径方向に同じ方向に向くように着磁されている。本実施の形態の回転電機1においては、ロータ20は8極で構成されており、隣り合う極の着磁方向が内径側と外径側とに交互になるように構成されている。本実施の形態の回転電機1は、8極48スロットの分布巻き埋め込み磁石回転電機である。
【0014】
図2は、本実施の形態に係る回転電機の1極の領域の断面図である。1極の磁束の中心方向をd軸とし、このd軸に対して電気的に直角の方向をq軸とする。図2に示すように、ロータコア21のd軸を中心として内径側に向かってお互いの距離が狭まるように対向して設けられた1対の1層目磁石スロット231、2層目磁石スロット232および3層目磁石スロット233が形成されている。そして、一対の1層目磁石スロット231には一対の1層目磁石221が、一対の2層目磁石スロット232には一対の2層目磁石222が、一対の3層目磁石スロット233には一対の3層目磁石223がそれぞれ挿入されている。ロータコア21の外周面には、d軸を中心として対称位置に設けられた1対の第1切り欠き部241と、第1切り欠き部241よりもd軸から離れた位置に設けられた1対の第2切り欠き部242とが形成されている。第1切り欠き部241および第2切り欠き部242は空間であるため、第1切り欠き部241および第2切り欠き部242の透磁率は、ロータコア21の透磁率よりも小さい。すなわち、第1切り欠き部241および第2切り欠き部242は、それぞれ第1低透磁率部および第2低透磁率部とも称する。
【0015】
図3は、本実施の形態に係る回転電機の1極の領域の拡大断面図である。図3は、第1切り欠き部241および第2切り欠き部242の近傍の拡大断面図である。図3に示すように、フラックスバリアである1層目磁石スロット231、2層目磁石スロット232および3層目磁石スロット233がロータコア21の外周面と対向する部分のロータコア21に、1層目ブリッジ271、2層目ブリッジ272、3層目ブリッジ273がそれぞれ構成される。
【0016】
第1切り欠き部241は、第1切り欠き部241のd軸に最も近い端点である第1切り欠き部の始点241aとd軸に最も遠い端点である第1切り欠き部の終点241bとの間の外周面がロータコア21の最外周面よりも内周側になるように形成されている。そして、第1切り欠き部の終点241bは、1層目ブリッジ271のd軸に最も近い端点である1層目ブリッジの始点271aとd軸に最も遠い端点である1層目ブリッジの終点271bとの間に位置する。すなわち、第1切り欠き部241の少なくとも一部は、1層目ブリッジ271の領域に形成されている。言い換えると、第1切り欠き部241の周方向の少なくとも一部の領域は、1層目ブリッジ271の周方向の領域に含まれている。
【0017】
第2切り欠き部242は、第2切り欠き部242のd軸に最も近い端点である第2切り欠き部の始点242aとd軸に最も遠い端点である第2切り欠き部の終点242bとの間の外周面がロータコア21の最外周面よりも内周側になるように形成されている。そして、第2切り欠き部の始点242aは、3層目ブリッジ273のd軸に最も近い端点である3層目ブリッジの始点273aとd軸に最も遠い端点である3層目ブリッジの終点273bとの間に位置する。すなわち、第2切り欠き部242の少なくとも一部は、3層目ブリッジ273の領域に形成されている。言い換えると、第2切り欠き部242の周方向の少なくとも一部の領域は、3層目ブリッジ273の周方向の領域に含まれている。
【0018】
次に、このように構成された回転電機において磁石渦電流損失を低減できる作用効果について詳細に説明する。
図4は、本実施の形態において、第1切り欠き部および第2切り欠き部を備えていない比較例1の回転電機の1極の領域の断面図である。図4に示す黒矢印は、磁石を貫通する磁束(これ以降、磁石貫通磁束と記す)である。図5は、本実施の形態において、回転電機のコイル13に流す相電流を示す図である。図5において、実線は一般的な三角波キャリア比較方式のPWM(Pulse Width Modulation)インバータ駆動制御によるPWM電流の波形である。破線はPWM電流から全ての高調波成分を排除して基本波成分のみを抽出した理想電流の波形である。PWM電流は、PWMインバータ駆動制御のシミュレーションにより算出した電流である。PWMインバータ駆動制御の条件は、三相電流の基本波1周期の中にキャリア波形が15周期含まれる同期15パルス制御の条件とした。なお、図5は三相電流のうちの一相の電流のみを示しており、残り二相の電流は示していない。残り二相の電流波形は、図5に示した電流波形をそれぞれ電気角で120°ずつ位相が異なる電流波形となる。
【0019】
図6は、図4に示す比較例1の回転電機に2種類の電流を入力したときの磁石渦電流損失を示す図である。図6において、左側は理想電流を入力したときの磁石渦電流損失を示しており、右側はPWM電流を入力したときの磁石渦電流損失を示している。図6において、縦軸はPWM電流を入力したときの磁石渦電流損失を基準とした相対値である。理想電流入力時に比べて、PWM電流入力時はおよそ5倍の磁石渦電流損失が発生する。図7は、図5に示す2種類の電流をdq変換した場合のd軸電流を示す図である。図7に示すように、理想電流は高調波成分を含まないためdq変換したd軸電流には当然ながらほとんど脈動がない。一方、PWM電流は高調波成分を含むためdq変換したd軸電流には大きな脈動がある。このd軸電流の脈動により、図4に示す磁石貫通磁束の経路において高調波の磁束変動が発生し、結果として磁石渦電流損失が増大する。
【0020】
図8は、図4に示す比較例1の回転電機に2種類の電流を入力したときのd軸磁束波形をフーリエ級数展開し、高調波成分の振幅を並べた解析結果を示す図である。また、図9は、図4に示す比較例1の回転電機に2種類の電流を入力したときのd軸電流波形をフーリエ級数展開し、高調波成分の振幅を並べた解析結果を示す図である。さらに、図10は、図2に示す本実施の形態の回転電機に2種類の電流を入力したときのd軸磁束波形をフーリエ級数展開し、高調波成分の振幅を並べた解析結果を示す図である。また、図11は、図2に示す本実施の形態の回転電機に2種類の電流を入力したときのd軸電流波形をフーリエ級数展開し、高調波成分の振幅を並べた解析結果を示す図である。
【0021】
図9および図11に示すPWM電流入力時のd軸電流振幅を比較すると、図11に示す本実施の形態の回転電機の12次成分の振幅の方が図9に示す比較例1の回転電機の12次成分の振幅よりも小さい。一方、図8および図10に示すPWM電流入力時のd軸磁束振幅を比較すると、図10に示す本実施の形態の回転電機の12次成分の振幅と図8に示す比較例1の回転電機の12次成分の振幅との差はほとんどない。しかし、理想電流入力時のd軸磁束振幅を比較すると、図8に示す比較例1の回転電機の12次成分の振幅は、図10に示す本実施の形態の回転電機の12次成分の振幅よりも著しく小さい。そのため、比較例1の回転電機においては、PWM電流入力時のd軸磁束の12次成分の振幅と理想電流入力時のd軸磁束の12次成分の振幅との差が大きい。一方、本実施の形態の回転電機においては、PWM電流入力時のd軸磁束の12次成分の振幅と理想電流入力時のd軸磁束の12次成分の振幅との差は小さい。
【0022】
図12は、本実施の形態に係る比較例2の回転電機の1極の領域の断面図である。比較例2の回転電機においては、3層目ブリッジの周方向の中心角度が本実施の形態の回転電機に比べて小さくなっている。具体的には、d軸を電気角の基準0°とした場合、比較例2の回転電機においては、3層目ブリッジの中心と回転軸中心とを結ぶ直線とd軸とのなす電気角が78.4°に設定されている。そのため、第2切り欠き部の始点242aが、3層目ブリッジのd軸に最も遠い端点である3層目ブリッジの終点273bよりもq軸側に位置する。言い換えると、第2切り欠き部242の周方向の領域は、3層目ブリッジ273の周方向の領域に含まれていない。
比較例2の回転電機においても、2種類の電流を入力したときのd軸磁束波形をフーリエ級数展開し、図8および図9に示したように高調波成分の振幅を算出した。
【0023】
図13は、本実施の形態に係る回転電機において、PWM電流を入力したときのd軸磁束の12次成分振幅から理想電流を入力したときのd軸磁束の12次成分振幅を減算した振幅差と、PWM電流を入力したときのd軸電流の12次成分振幅との関係を示す図である。図13において、横軸はPWM電流を入力したときのd軸磁束の12次成分振幅から理想電流を入力したときのd軸磁束の12次成分振幅を減算した振幅差であり、縦軸はPWM電流を入力したときのd軸電流の12次成分振幅である。図13において、Aは本実施の形態の回転電機、Bは図4に示す比較例1の回転電機、Cは図12に示す比較例2の回転電機の特性値である。
【0024】
図14は、本実施の形態に係る回転電機において、PWM電流を入力したときのd軸磁束の12次成分振幅から理想電流を入力したときのd軸磁束の12次成分振幅を減算した振幅差と、PWM電流を入力したとき磁石渦電流損失との関係を示す図である。図14において、横軸はPWM電流を入力したときのd軸磁束の12次成分振幅から理想電流を入力したときのd軸磁束の12次成分振幅を減算した振幅差であり、縦軸はPWM電流を入力したときの磁石渦電流損失である。図14において、Aは本実施の形態の回転電機、Bは図4に示す比較例1の回転電機、Cは図12に示す比較例2の回転電機の特性値である。
【0025】
図13に示す各回転電機の関係と図14に示す各回転電機の関係とはほぼ一致している。理想電流を入力したときのd軸磁束の12次成分振幅がPWM電流を入力したときのd軸磁束の12次成分振幅に近いときすなわち横軸の零に近いときに、図13に示すようにPWM電流を入力したときのd軸電流の12次成分振幅が小さくなり、かつ図14に示すように磁石渦電流損失も小さくなる。例えば、第1切り欠き部および第2切り欠き部を備えていない比較例1の回転電機における磁石渦電流損失に対して、第1切り欠き部および第2切り欠き部を備えた本実施の形態の回転電機における磁石渦電流損失は、約31%低減する。このように、理想電流を入力したときのd軸磁束の12次成分振幅とPWM電流を入力したときのd軸磁束の12次成分振幅との差を小さくすることで磁石渦電流損失を低減させることができる。
【0026】
PWM電流を入力したときのd軸磁束の12次成分は、第1切り欠き部241および第2切り欠き部242の構造を変化させても通常大きく変化しない。一方で、理想電流を入力したときのd軸磁束の12次成分は、第1切り欠き部241および第2切り欠き部242の構造によって大きく変化する。そのため、ロータ20を設計するときには、理想電流を入力したときのd軸磁束の12次成分振幅に着目し、理想電流を入力したときのd軸磁束の12次成分振幅とPWM電流を入力したときのd軸磁束の12次成分振幅とが等しくなるように設計すればよい。実際の設計においては、電磁界解析により理想電流を入力し、効果の予測および検討を行うことが想定される。
【0027】
本実施の形態の回転電機において、磁石渦電流損失を低減する効果を奏するための第1切り欠き部および第2切り欠き部の構造について説明する。第1切り欠き部および第2切り欠き部を備えた本実施の形態の回転電機において、第1切り欠き部および第2切り欠き部の異なる各部寸法を様々に組み合わせた形状の複数のロータを設計し、2種類の電流を入力したときの電磁界解析を行った。なお、第1切り欠き部および第2切り欠き部の径方向の深さは一定とし、その径方向の深さはステータとロータとの間のギャップ長の1/3とした。
【0028】
図15は、第1切り欠き部の周方向の少なくとも一部の領域が1層目ブリッジの周方向の領域に含まれている場合の第1切り欠き部の構造に対する理想電流を入力したときのd軸磁束の12次成分振幅とPWM電流を入力したときのd軸磁束の12次成分振幅との差を示した図である。図15において、横軸はd軸を電気角の基準0°とした場合の電気角であり、縦軸は理想電流を入力したときのd軸磁束の12次成分振幅とPWM電流を入力したときのd軸磁束の12次成分振幅との差である。また、図15において、破線は第1切り欠き部の始点の位置を電気角で示したものであり、一点破線は第1切り欠き部の終点の位置を電気角で示したものである。
【0029】
図16は、1層目ブリッジの構造に対する理想電流を入力したときのd軸磁束の12次成分振幅とPWM電流を入力したときのd軸磁束の12次成分振幅との差を示した図である。図16において、横軸はd軸を電気角の基準0°とした場合の電気角であり、縦軸は理想電流を入力したときのd軸磁束の12次成分振幅とPWM電流を入力したときのd軸磁束の12次成分振幅との差である。また、図16において、破線は1層目ブリッジの始点の位置を電気角で示したものであり、一点破線は1層目ブリッジの終点の位置を電気角で示したものである。
【0030】
PWM電流を入力したときのd軸磁束の12次成分振幅と理想電流を入力したときのd軸磁束の12次成分振幅とが一致し、双方の差が0となる範囲が磁石渦電流損失を低減させる効果が得られる構造となる。図15に示すように、本実施の形態の回転電機においては、電気角17.6°~42.4°の有効範囲に第1切り欠き部を形成したときに磁石渦電流損失を低減させる効果が得られる。
【0031】
また、図16に示すように、磁石渦電流損失を低減させる効果が得られる1層目ブリッジの電気角の有効範囲は、第1切り欠き部の有効範囲と一部重なる範囲がある。第1切り欠き部と1層目ブリッジとの周方向位置が互いに重なっている場合、ティースとロータコアとを渡るトルク発生源となる磁束の経路になりにくい1層目ブリッジに第1切り欠き部が設けられる状態となる。その結果、本実施の形態の回転電機においては、第1切り欠き部がトルク発生源となる磁束を阻害せず、トルク減少の影響が現れにくいという効果も得られる。
【0032】
図17は、第2切り欠き部の周方向の少なくとも一部の領域が2層目ブリッジの周方向の領域に含まれている場合の第2切り欠き部の構造に対する理想電流を入力したときのd軸磁束の12次成分振幅とPWM電流を入力したときのd軸磁束の12次成分振幅との差を示した図である。図17において、横軸はd軸を電気角の基準0°とした場合の電気角であり、縦軸は理想電流を入力したときのd軸磁束の12次成分振幅とPWM電流を入力したときのd軸磁束の12次成分振幅との差である。また、図17において、破線は第2切り欠き部の始点の位置を電気角で示したものであり、一点破線は第2切り欠き部の終点の位置を電気角で示したものである。
【0033】
図18は、2層目ブリッジの構造に対する理想電流を入力したときのd軸磁束の12次成分振幅とPWM電流を入力したときのd軸磁束の12次成分振幅との差を示した図である。図18において、横軸はd軸を電気角の基準0°とした場合の電気角であり、縦軸は理想電流を入力したときのd軸磁束の12次成分振幅とPWM電流を入力したときのd軸磁束の12次成分振幅との差である。また、図18において、破線は2層目ブリッジの始点の位置を電気角で示したものであり、一点破線は2層目ブリッジの終点の位置を電気角で示したものである。
【0034】
PWM電流を入力したときのd軸磁束の12次成分振幅と理想電流を入力したときのd軸磁束の12次成分振幅とが一致し、双方の差が0となる範囲が磁石渦電流損失を低減させる効果が得られる構造となる。図17に示すように、本実施の形態の回転電機においては、電気角52.4°~71.6°の有効範囲に第2切り欠き部を形成したときに磁石渦電流損失を低減させる効果が得られる。
【0035】
また、図18に示すように、磁石渦電流損失を低減させる効果が得られる2層目ブリッジの電気角の有効範囲は、第2切り欠き部の有効範囲と一部重なる範囲がある。第2切り欠き部と2層目ブリッジとの周方向位置が互いに重なっている場合、ティースとロータコアとを渡るトルク発生源となる磁束の経路になりにくい2層目ブリッジに第2切り欠き部が設けられる状態となる。その結果、本実施の形態の回転電機においては、第2切り欠き部がトルク発生源となる磁束を阻害せず、トルク減少の影響が現れにくいという効果も得られる。
【0036】
図19は、第2切り欠き部の周方向の少なくとも一部の領域が3層目ブリッジの周方向の領域に含まれている場合の第2切り欠き部の構造に対する理想電流を入力したときのd軸磁束の12次成分振幅とPWM電流を入力したときのd軸磁束の12次成分振幅との差を示した図である。図19において、横軸はd軸を電気角の基準0°とした場合の電気角であり、縦軸は理想電流を入力したときのd軸磁束の12次成分振幅とPWM電流を入力したときのd軸磁束の12次成分振幅との差である。また、図19において、破線は第2切り欠き部の始点の位置を電気角で示したものであり、一点破線は第2切り欠き部の終点の位置を電気角で示したものである。
【0037】
図20は、3層目ブリッジの構造に対する理想電流を入力したときのd軸磁束の12次成分振幅とPWM電流を入力したときのd軸磁束の12次成分振幅との差を示した図である。図20において、横軸はd軸を電気角の基準0°とした場合の電気角であり、縦軸は理想電流を入力したときのd軸磁束の12次成分振幅とPWM電流を入力したときのd軸磁束の12次成分振幅との差である。また、図20において、破線は3層目ブリッジの始点の位置を電気角で示したものであり、一点破線は3層目ブリッジの終点の位置を電気角で示したものである。
【0038】
PWM電流を入力したときのd軸磁束の12次成分振幅と理想電流を入力したときのd軸磁束の12次成分振幅とが一致し、双方の差が0となる範囲が磁石渦電流損失を低減させる効果が得られる構造となる。図19に示すように、本実施の形態の回転電機においては、電気角78.8°~89.7°の有効範囲に第2切り欠き部を形成したときに磁石渦電流損失を低減させる効果が得られる。
【0039】
また、図20に示すように、磁石渦電流損失を低減させる効果が得られる3層目ブリッジの電気角の有効範囲は、第2切り欠き部の有効範囲と一部重なる範囲がある。第2切り欠き部と3層目ブリッジとの周方向位置が互いに重なっている場合、ティースとロータコアとを渡るトルク発生源となる磁束の経路になりにくい3層目ブリッジに第2切り欠き部が設けられる状態となる。その結果、本実施の形態の回転電機においては、第2切り欠き部がトルク発生源となる磁束を阻害せず、トルク減少の影響が現れにくいという効果も得られる。
【0040】
次に、第1切り欠き部および第2切り欠き部を備えた本実施の形態の回転電機において、1層目ブリッジ、2層目ブリッジおよび3層目ブリッジの異なる各部寸法を様々に組み合わせた形状の複数のロータを設計し、2種類の電流を入力したときの電磁界解析を行った。なお、第1切り欠き部および第2切り欠き部の少なくとも一部の領域がブリッジの周方向の領域に重なっていれば、以下に示す電磁界解析において、ブリッジの周方向の幅はd軸磁束の12次成分振幅には影響を与えないことが確認できている。
【0041】
図21は、1層目ブリッジの構造に対する理想電流を入力したときのd軸磁束の12次成分振幅とPWM電流を入力したときのd軸磁束の12次成分振幅との差を示した図である。図21において、横軸はd軸を電気角の基準0°とした場合の電気角であり、縦軸は理想電流を入力したときのd軸磁束の12次成分振幅とPWM電流を入力したときのd軸磁束の12次成分振幅との差である。図21において、実線は1層目ブリッジの周方向の中心の位置を電気角で示したものである。
【0042】
PWM電流を入力したときのd軸磁束の12次成分振幅と理想電流を入力したときのd軸磁束の12次成分振幅とが一致し、双方の差が0となる範囲が磁石渦電流損失を低減させる効果が得られる構造となる。図21に示すように、本実施の形態の回転電機においては、1層目ブリッジの周方向の中心角を電気角37.0°~40.4°の有効範囲に設定したときに磁石渦電流損失を低減させる効果が得られる。
【0043】
図22は、2層目ブリッジの構造に対する理想電流を入力したときのd軸磁束の12次成分振幅とPWM電流を入力したときのd軸磁束の12次成分振幅との差を示した図である。図22において、横軸はd軸を電気角の基準0°とした場合の電気角であり、縦軸は理想電流を入力したときのd軸磁束の12次成分振幅とPWM電流を入力したときのd軸磁束の12次成分振幅との差である。図22において、実線は2層目ブリッジの周方向の中心の位置を電気角で示したものである。
【0044】
PWM電流を入力したときのd軸磁束の12次成分振幅と理想電流を入力したときのd軸磁束の12次成分振幅とが一致し、双方の差が0となる範囲が磁石渦電流損失を低減させる効果が得られる構造となる。図22に示すように、本実施の形態の回転電機においては、2層目ブリッジの周方向の中心角を電気角59.2°~64.8°の有効範囲に設定したときに磁石渦電流損失を低減させる効果が得られる。
【0045】
図23は、3層目ブリッジの構造に対する理想電流を入力したときのd軸磁束の12次成分振幅とPWM電流を入力したときのd軸磁束の12次成分振幅との差を示した図である。図23において、横軸はd軸を電気角の基準0°とした場合の電気角であり、縦軸は理想電流を入力したときのd軸磁束の12次成分振幅とPWM電流を入力したときのd軸磁束の12次成分振幅との差である。図23において、実線は3層目ブリッジの周方向の中心の位置を電気角で示したものである。
【0046】
PWM電流を入力したときのd軸磁束の12次成分振幅と理想電流を入力したときのd軸磁束の12次成分振幅とが一致し、双方の差が0となる範囲が磁石渦電流損失を低減させる効果が得られる構造となる。図23に示すように、本実施の形態の回転電機においては、3層目ブリッジの周方向の中心角を電気角78.6°~84.6°の有効範囲に設定したときに磁石渦電流損失を低減させる効果が得られる。
【0047】
例えば、図12に示す比較例2の回転電機においては、3層目ブリッジの周方向の中心の位置の電気角は78.4°であり、図23に示された有効範囲である電気角78.6°~84.6°の範囲外となる。
【0048】
なお、PWM電流を入力したときのd軸磁束の12次成分振幅と理想電流を入力したときのd軸磁束の12次成分振幅とが完全に一致し、双方の差が0となる必要はない。磁石渦電流損失が無視できる程度に低減できるのであれば、PWM電流を入力したときのd軸磁束の12次成分振幅と理想電流を入力したときのd軸磁束の12次成分振幅との差は0でなくてもよい。
【0049】
上述のように本実施の形態の回転電機は、ステータコアおよび三相交流電流が入力されるコイルを有する円筒状のステータと、ステータの内径側にステータとギャップを介して配置されたロータとを有する回転電機であって、ロータは、複数の磁石スロットを有するロータコアと、複数の磁石スロット内にそれぞれ配置された複数の磁石とを有している。そして、複数の磁石は径方向に2層以上の多層構造に配置されて1極を構成しており、複数の磁石スロットとロータコアの外周面との間はブリッジとなっており、ロータコアの外周面には1極に付きd軸に対して対称な一対の低透磁率部を2組以上有しており、全ての低透磁率部の周方向の少なくとも一部の領域はブリッジの周方向の領域に含まれている。
【0050】
このように構成された回転電機においては、ロータコアの外周面には1極に付きd軸に対して対称な一対の低透磁率部を2組以上有しており、全ての低透磁率部の周方向の少なくとも一部の領域はブリッジの周方向の領域に含まれているので、磁石における渦電流損失を低減することができる。
【0051】
本実施の形態の回転電機においては、同期15パルスのPWM制御を用いている。そのため、PWM制御に起因するd軸磁束およびd軸電圧の高調波成分は主にパルス数の±3次すなわち12次と18次とに発生している。本実施の形態の回転電機において、同期パルス数が15と異なる同期制御を行う場合は、理想電流を入力したときのd軸磁束の12次または18次以外の高調波に着目することで同様の効果が得られる。また、非同期PWM制御であっても一定の回転速度で駆動させる用途の回転電機において特定の次数の高調波成分が現れる場合に、理想電流を入力したときのd軸磁束の高調波に着目することで同様の効果が得られる。
【0052】
なお、本実施の形態の回転電機として、8極48スロットの分布巻き埋め込み磁石回転電機を用いて説明したが、他の構成の回転電機であってもよい。例えば8極48スロット以外の極数とスロット数との組み合わせの回転電機でもよく、分布巻きではなく集中巻きの回転電機であってもよい。
【0053】
実施の形態2.
図24は、実施の形態2に係る回転電機の1極の領域の断面図である。図24は、回転軸に直交する方向の断面図である。本実施の形態の回転電機においては、第1切り欠き部241の全領域が1層目ブリッジ271の領域に形成されている。本実施の形態の回転電機においては、第1切り欠き部241は電気角17.6°~42.4°の有効範囲に形成されており、第2切り欠き部242は電気角78.8°~89.7°の有効範囲に形成されている。
【0054】
第1切り欠き部241および第2切り欠き部242が上記のような有効範囲に形成されていれば、第1切り欠き部241の全領域が1層目ブリッジ271の領域に形成されていても、理想電流入力時のd軸磁束の12次成分振幅がPWM電流入力時のd軸磁束の12次成分振幅にほぼ等しくなり、磁石渦電流損失を抑制することができる。
【0055】
また、本実施の形態の回転電機においては、第1切り欠き部241の全領域が1層目ブリッジ271の領域に完全に含まれるため、ティース12とロータコア21とを渡る磁束を極力阻害せず、トルク減少の影響が極めて現れにくいという効果も得られる。
【0056】
なお、図示してはいないが、第2切り欠き部242が上記のような有効範囲に形成されていれば、第2切り欠き部242の全領域が3層目ブリッジ273の領域に形成されていてもよい。
【0057】
実施の形態3.
図25は、実施の形態3に係る回転電機の1極の領域の断面図である。図25は、回転軸に直交する方向の断面図である。本実施の形態の回転電機においては、第1切り欠き部241が1層目ブリッジ271の全領域を含んだ範囲に形成されている。本実施の形態の回転電機においては、第1切り欠き部241は電気角17.6°~42.4°の有効範囲に形成されており、第2切り欠き部242は電気角78.8°~89.7°の有効範囲に形成されている。
【0058】
第1切り欠き部241および第2切り欠き部242が上記のような有効範囲に形成されていれば、第1切り欠き部241が1層目ブリッジ271の全領域を含んだ範囲に形成されていても、理想電流入力時のd軸磁束の12次成分振幅がPWM電流入力時のd軸磁束の12次成分振幅にほぼ等しくなり、磁石渦電流損失を抑制することができる。
【0059】
なお、図示してはいないが、第2切り欠き部242が上記のような有効範囲に形成されていれば、第2切り欠き部242が3層目ブリッジ273の全領域を含んだ範囲に形成されていてもよい。
【0060】
実施の形態4.
図26は、実施の形態4に係る回転電機の1極の領域の断面図である。図26は、回転軸に直交する方向の断面図である。実施の形態1の回転電機においては、第1切り欠き部および第2切り欠き部の径方向の深さはギャップ長の1/3であった。本実施の形態の回転電機においては、第1切り欠き部241の径方向の深さが1層目磁石スロット231近傍まで延伸されている。本実施の形態の回転電機においては、第1切り欠き部241は電気角17.6°~42.4°の有効範囲に形成されており、第2切り欠き部242は電気角78.8°~89.7°の有効範囲に形成されている。
【0061】
第1切り欠き部241および第2切り欠き部242が上記のような有効範囲に形成されていれば、第1切り欠き部241の径方向の深さが1層目磁石スロット231近傍まで延伸されていても、理想電流入力時のd軸磁束の12次成分振幅がPWM電流入力時のd軸磁束の12次成分振幅にほぼ等しくなり、磁石渦電流損失を抑制することができる。
【0062】
なお、図示してはいないが、第2切り欠き部242が上記のような有効範囲に形成されていれば、第2切り欠き部242の径方向の深さが3層目磁石スロット233近傍まで延伸されていてもよい。
【0063】
実施の形態5.
図27は、実施の形態5に係る回転電機の1極の領域の断面図である。図27は、回転軸に直交する方向の断面図である。本実施の形態の回転電機においては、第1切り欠き部241の全領域が2層目ブリッジ272の領域に形成されている。本実施の形態の回転電機においては、第1切り欠き部241は電気角52.4°~71.6°の有効範囲に形成されており、第2切り欠き部242は電気角78.8°~89.7°の有効範囲に形成されている。
【0064】
第1切り欠き部241および第2切り欠き部242が上記のような有効範囲に形成されていれば、第1切り欠き部241の全領域が2層目ブリッジ272の領域に形成されていても、理想電流入力時のd軸磁束の12次成分振幅がPWM電流入力時のd軸磁束の12次成分振幅にほぼ等しくなり、磁石渦電流損失を抑制することができる。
【0065】
実施の形態6.
図28は、実施の形態6に係る回転電機の1極の領域の断面図である。図28は、回転軸に直交する方向の断面図である。本実施の形態の回転電機においては、第2切り欠き部242の全領域が2層目ブリッジ272の領域に形成されている。本実施の形態の回転電機においては、第1切り欠き部241は電気角17.6°~42.4°の有効範囲に形成されており、第2切り欠き部242は電気角52.4°~71.6°の有効範囲に形成されている。
【0066】
第1切り欠き部241および第2切り欠き部242が上記のような有効範囲に形成されていれば、第2切り欠き部242の全領域が2層目ブリッジ272の領域に形成されていても、理想電流入力時のd軸磁束の12次成分振幅がPWM電流入力時のd軸磁束の12次成分振幅にほぼ等しくなり、磁石渦電流損失を抑制することができる。
【0067】
実施の形態7.
図29は、実施の形態7に係る回転電機の1極の領域の断面図である。図29は、回転軸に直交する方向の断面図である。本実施の形態の回転電機においては、第1切り欠き部241の一部の領域が1層目ブリッジ271の領域に形成されており、第2切り欠き部242の一部の領域が2層目ブリッジ272の領域に形成されており、第3切り欠き部243の一部の領域が3層目ブリッジ273の領域に形成されている。本実施の形態の回転電機においては、実施の形態1と同様に、第1切り欠き部241は電気角17.6°~42.4°の有効範囲に形成されており、第2切り欠き部242は電気角52.4°~71.6°の有効範囲に形成されており、第3切り欠き部243は電気角78.8°~89.7°の有効範囲に形成されている。
【0068】
このように構成された回転電機においては、理想電流入力時のd軸磁束の12次成分振幅がPWM電流入力時のd軸磁束の12次成分振幅にほぼ等しくなり、磁石渦電流損失を抑制することができる。
【0069】
実施の形態8.
図30は、実施の形態8に係る回転電機の1極の領域の断面図である。図30は、回転軸に直交する方向の断面図である。本実施の形態の回転電機においては、第1切り欠き部241および第2切り欠き部242が円弧状に形成されている。本実施の形態の回転電機においては、第1切り欠き部241は電気角17.6°~42.4°の有効範囲に形成されており、第2切り欠き部242は電気角78.8°~89.7°の有効範囲に形成されている。
【0070】
第1切り欠き部241および第2切り欠き部242が上記のような有効範囲に形成されていれば、第1切り欠き部241および第2切り欠き部242が円弧状に形成されていても、理想電流入力時のd軸磁束の12次成分振幅がPWM電流入力時のd軸磁束の12次成分振幅にほぼ等しくなり、磁石渦電流損失を抑制することができる。
【0071】
実施の形態9.
図31は、実施の形態9に係る回転電機の1極の領域の断面図である。図31は、回転軸に直交する方向の断面図である。本実施の形態の回転電機においては、第1切り欠き部および第2切り欠き部が円弧状に形成された実施の形態8の回転電機において、第1切り欠き部および第2切り欠き部の部分にロータコア21の透磁率よりも低い透磁率を有する第1低透磁率部材251および第2低透磁率部材252がそれぞれ充填されている。この第1低透磁率部材251および第2低透磁率部材252がそれぞれ第1低透磁率部および第2低透磁率部となる。低透磁率部材としては電磁鋼板よりも透磁率が低い、例えばアルミニウムなどの非磁性体を用いることができる。本実施の形態の回転電機においては、第1低透磁率部材251は電気角17.6°~42.4°の有効範囲に配置されており、第2低透磁率部材252は電気角78.8°~89.7°の有効範囲に配置されている。
【0072】
このように構成された回転電機においては、理想電流入力時のd軸磁束の12次成分振幅がPWM電流入力時のd軸磁束の12次成分振幅にほぼ等しくなり、磁石渦電流損失を抑制することができる。
【0073】
なお、本実施の形態の回転電機においては、ロータコアの第1切り欠き部および第2切り欠き部に低透磁率部材を充填して第1低透磁率部および第2低透磁率部をそれぞれ形成している。これ以外に、第1切り欠き部および第2切り欠き部を備えていないロータコアの第1低透磁率部および第2低透磁率部となる位置に応力を印加して第1低透磁率部および第2低透磁率部を形成してもよい。電磁鋼板で構成されたロータコアに応力を印加することでその部分の磁気抵抗が増加する。応力が印加された応力印加部は磁気抵抗が増加するので、その部分が第1低透磁率部および第2低透磁率部となる。
【0074】
このように構成された回転電機においても、理想電流入力時のd軸磁束の12次成分振幅がPWM電流入力時のd軸磁束の12次成分振幅にほぼ等しくなり、磁石渦電流損失を抑制することができる。また、本実施の回転電機においては、ロータコアの外周面が平坦になるので、ロータが回転したときの騒音が低減する。
【0075】
実施の形態10.
図32は、実施の形態10に係る回転電機の1極の領域の断面図である。図32は、回転軸に直交する方向の断面図である。本実施の形態の回転電機においては、第1切り欠き部および第2切り欠き部が形成された実施の形態2の回転電機において、第1切り欠き部および第2切り欠き部に替えてロータコア21を軸方向に貫通した第1貫通孔261および第2貫通孔262がそれぞれ形成されている。第1貫通孔261および第2貫通孔262は、ロータコア21の外周面の内径側に形成されている。本実施の形態の回転電機においては、第1貫通孔261は電気角17.6°~42.4°の有効範囲に形成されており、第2貫通孔262は電気角78.8°~89.7°の有効範囲に形成されている。第1貫通孔261および第2貫通孔262は空間であるため、第1貫通孔261および第2貫通孔262の透磁率はロータコア21の透磁率よりも小さい。すなわち、第1貫通孔261および第2貫通孔262は、それぞれ第1低透磁率部および第2低透磁率部となる。
【0076】
このように構成された回転電機においては、理想電流入力時のd軸磁束の12次成分振幅がPWM電流入力時のd軸磁束の12次成分振幅にほぼ等しくなり、磁石渦電流損失を抑制することができる。また、本実施の回転電機においては、ロータコア21の外周面が平坦になるので、ロータが回転したときの騒音が低減する。
【0077】
実施の形態1から実施の形態10で説明したように、磁石渦電流損失を低減するための回転電機の構造は次のような構造である。すなわち、回転電機はロータコアの外周面に磁気抵抗が変化する構造を備えており、この構造によってPWM制御によるキャリア高調波成分を含まない電流を入力したときのd軸磁束の高調波成分のうち少なくとも1つの次数成分の振幅と、PWM制御によるキャリア高調波成分を含む電流を入力したときのd軸磁束の高調波成分のうち前記少なくとも1つの次数成分の振幅とが等しくなる。
【0078】
実施の形態11.
図33は、実施の形態11に係る回転電機の1極の領域の断面図である。図33は、回転軸に直交する方向の断面図である。本実施の形態の回転電機においては、3層で1極を構成する1層目磁石221、2層目磁石222および3層目磁石223がそれぞれ1つの平板状の磁石で構成されている。また、本実施の形態の回転電機において、1層目ブリッジ271の中心は電気角37.0°~40.4°の範囲内であり、2層目ブリッジ272の中心を電気角59.2°~64.8°の範囲内であり、3層目ブリッジ273の中心を電気角78.6°~84.6°の範囲内である。さらに、本実施の形態の回転電機においては、実施の形態2と同様に、第1切り欠き部241は電気角17.6°~42.4°の有効範囲に形成されており、第2切り欠き部242は電気角78.8°~89.7°の有効範囲に形成されている。
【0079】
このように構成された回転電機においては、理想電流入力時のd軸磁束の12次成分振幅がPWM電流入力時のd軸磁束の12次成分振幅にほぼ等しくなり、磁石渦電流損失を抑制することができる。
【0080】
実施の形態12.
図34は、実施の形態12に係る回転電機の1極の領域の断面図である。図34は、回転軸に直交する方向の断面図である。本実施の形態の回転電機においては、3層で1極を構成する1層目磁石221、2層目磁石222および3層目磁石223がそれぞれ1つの円弧状の磁石で構成されている。また、本実施の形態の回転電機において、1層目ブリッジ271の中心は電気角37.0°~40.4°の範囲内であり、2層目ブリッジ272の中心を電気角59.2°~64.8°の範囲内であり、3層目ブリッジ273の中心を電気角78.6°~84.6°の範囲内である。さらに、本実施の形態の回転電機においては、実施の形態2と同様に、第1切り欠き部241は電気角17.6°~42.4°の有効範囲に形成されており、第2切り欠き部242は電気角78.8°~89.7°の有効範囲に形成されている。
【0081】
このように構成された回転電機においては、理想電流入力時のd軸磁束の12次成分振幅がPWM電流入力時のd軸磁束の12次成分振幅にほぼ等しくなり、磁石渦電流損失を抑制することができる。
【0082】
実施の形態13.
図35は、実施の形態13に係る回転電機の1極の領域の断面図である。図35は、回転軸に直交する方向の断面図である。本実施の形態の回転電機は、実施の形態2の回転電機において、1層目磁石221のみ1つの平板状の磁石で構成されている。また、本実施の形態の回転電機において、1層目ブリッジ271の中心は電気角37.0°~40.4°の範囲内であり、2層目ブリッジ272の中心を電気角59.2°~64.8°の範囲内であり、3層目ブリッジ273の中心を電気角78.6°~84.6°の範囲内である。さらに、本実施の形態の回転電機においては、実施の形態2と同様に、第1切り欠き部241は電気角17.6°~42.4°の有効範囲に形成されており、第2切り欠き部242は電気角78.8°~89.7°の有効範囲に形成されている。
【0083】
このように構成された回転電機においては、理想電流入力時のd軸磁束の12次成分振幅がPWM電流入力時のd軸磁束の12次成分振幅にほぼ等しくなり、磁石渦電流損失を抑制することができる。
【0084】
本願は、様々な例示的な実施の形態および実施例が記載されているが、1つまたは複数の実施の形態に記載された様々な特徴、態様、および機能は特定の実施の形態の適用に限られるのではなく、単独で、または様々な組み合わせで実施の形態に適用可能である。
したがって、例示されていない無数の変形例が、本願明細書に開示される技術の範囲内において想定される。例えば、少なくとも1つの構成要素を変形する場合、追加する場合または省略する場合、さらには、少なくとも1つの構成要素を抽出し、他の実施の形態の構成要素と組み合わせる場合が含まれるものとする。
【符号の説明】
【0085】
1 回転電機、10 ステータ、11 バックコア、12 ティース、13 コイル、20 ロータ、21 ロータコア、22 磁石、23 磁石スロット、30 回転軸、221 1層目磁石、222 2層目磁石、223 3層目磁石、231 1層目磁石スロット、232 2層目磁石スロット、233 3層目磁石スロット、241 第1切り欠き部、242 第2切り欠き部、243 第3切り欠き部、251 第1低透磁率部材、252 第2低透磁率部材、261 第1貫通孔、262 第2貫通孔、271 1層目ブリッジ、272 2層目ブリッジ、273 3層目ブリッジ。
【要約】
磁石が多層化された構造を有する回転電機において、磁石渦電流損失を低減できる構造を提供する。
ステータとロータとを有する回転電機であって、ロータは複数の磁石スロット(231、232、233)を有するロータコア(21)と、複数の磁石(221、222、223)とを有し、複数の磁石は径方向に2層以上の多層構造に配置されて1極を構成しており、複数の磁石スロットとロータコアの外周面との間はブリッジとなっており、ロータコアの外周面には1極に付きd軸に対して対称な一対の切り欠き部(241、242)を2組以上有しており、全ての切り欠き部の周方向の少なくとも一部の領域はブリッジの周方向の領域に含まれている。
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