(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-12
(45)【発行日】2024-09-24
(54)【発明の名称】ヒステリシス応答を低減した2次元磁気センサ用磁気抵抗素子
(51)【国際特許分類】
H10N 50/10 20230101AFI20240913BHJP
H01F 10/32 20060101ALI20240913BHJP
G01R 33/09 20060101ALI20240913BHJP
【FI】
H10N50/10 M
H10N50/10 Z
H01F10/32
G01R33/09
(21)【出願番号】P 2023515805
(86)(22)【出願日】2021-09-14
(86)【国際出願番号】 IB2021058336
(87)【国際公開番号】W WO2022058875
(87)【国際公開日】2022-03-24
【審査請求日】2023-05-12
(32)【優先日】2020-09-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】524154452
【氏名又は名称】アレグロ・マイクロシステムズ・リミテッド・ライアビリティ・カンパニー
(74)【代理人】
【識別番号】100069556
【氏名又は名称】江崎 光史
(74)【代理人】
【識別番号】100111486
【氏名又は名称】鍛冶澤 實
(74)【代理人】
【識別番号】100191835
【氏名又は名称】中村 真介
(74)【代理人】
【識別番号】100221981
【氏名又は名称】石田 大成
(74)【代理人】
【識別番号】100208258
【氏名又は名称】鈴木 友子
(72)【発明者】
【氏名】ティモフィーエフ・アンドレイ
(72)【発明者】
【氏名】ストレルコフ・ニキータ
(72)【発明者】
【氏名】チルドレス・ジェフリー
【審査官】脇水 佳弘
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2017/0140781(US,A1)
【文献】国際公開第2009/054062(WO,A1)
【文献】特開2006-332527(JP,A)
【文献】特開2004-172599(JP,A)
【文献】特開2006-352062(JP,A)
【文献】特開2008-109118(JP,A)
【文献】特開2007-096092(JP,A)
【文献】国際公開第2007/015355(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H10N 50/00
H10N 52/00
H10N 59/00
H01F 10/32
G01R 33/09
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
2次元磁気センサ用の磁気抵抗素子であって、前記磁気抵抗素子は、基準磁化を持つ基準層と検知磁化を備えた検知層との間に含まれているトンネル障壁層を備え、
前記検知層が、前記トンネル障壁層と接触し、第1非磁性
検知スペーサ層によって強磁性の第2検知副層から分離された強磁性の第1検知副層を備える合成反強磁性(SAF)構造を備え、それにより、前記第1検知副層が前記第2検知副層に反強磁性的に結合されていて、
前記検知層は、検知磁化比ΔMが以下の数式に定義されているように構成されていて、
【数1】
上記の数式において、M
SFM1及びM
SFM2は、それぞれ、第1及び第2検知副層の自発磁化であり、t
FM1及びt
FM2は、それぞれ、第1及び第2検知副層の厚さである、磁気抵抗素子において、
検知磁化比ΔMが0.1と0.25の間の値であって、
前記第2検知副層が、
前記第1非磁性検知スペーサ層からの距離が増加するにつれて増加する自発磁化を備える、磁気抵抗素子。
【請求項2】
前記第1検知副層は、1nmから3nmの間の厚さを持ち、前記第2検知副層は、2nmから6nmの間の厚さを持つ、請求項1に記載の磁気抵抗素子。
【請求項3】
前記第2検知副層は、前記第1検知副層よりも大きな厚さを持つ、請求項2に記載の磁気抵抗素子。
【請求項4】
前記第1検知副層は、第1検知副層の自発磁化を減少させる非磁性要素を備える、請求項3に記載の磁気抵抗素子。
【請求項5】
前記
第1非磁性検知スペーサ層は、Ru、W、Mo又はIrか、左記の元素の組合せを含有する、請求項1に記載の磁気抵抗素子。
【請求項6】
前記第2検知副層は、前記
第1非磁性検知スペーサ層からの距離が増すにつれて減る濃度で非磁性不純物を含有する強磁性材料を含有する、請求項1に記載の磁気抵抗素子。
【請求項7】
前記第2検知副層は、複数の強磁性検知二重層を備え、各検知二重層は、低自発検知層と、前記低自発検知層の自発磁化よりも高い自発磁化を持つ高自発検知層とを備え、
前記高自発検知層の厚さに対する前記低自発検知層の厚さは、前記
第1非磁性検知スペーサ層からの距離が増加するにつれて減少している、
請求項1に記載の磁気抵抗素子。
【請求項8】
前記第2検知副層は、前記第1
非磁性検知スペーサ層の近位にある近位の第2検知副層と、前記第1
非磁性検知スペーサ層の遠位にあり、前記近位
の第2検知副層に強磁性的に結合された遠位の第2検知副層とを備え、
前記遠位の第2検知副層は、前記近位の第2検知副層よりも少なくとも2倍大きな自発磁化を持つ、請求項1に記載の磁気抵抗素子。
【請求項9】
前記近位の第2検知副層は、強磁性材料の前記自発磁化を減少させる非磁性不純物を含有する前記強磁性材料を含有している、請求項8に記載の磁気抵抗素子。
【請求項10】
前記第2検知副層は、
前記第1非磁性検知スペーサ層の近位にある、近位の第2検知副層と、
前記第1非磁性検知スペーサ層の遠位にある、遠位の第2検知副層とを備え、
前記近位の第2検知副層が、第2非磁性検知スペーサ層によって前記遠位の第2検知副層から離されていて、
前記近位の第2検知副層が、前記遠位の第2検知副層に反強磁性的に結合されている、請求項1に記載の磁気抵抗素子。
【請求項11】
前記遠位の第2検知副層の前記自発磁化は、前記第1検知
副層及び前記近位の第2検知副層の前記自発磁化よりも高い、請求項10に記載の磁気抵抗素子。
【請求項12】
前記第1検知副層を備えた前記SAF構造と、前記第2検知副層を備えた別のSAF構造と、前記第1非磁性検知スペーサ層を備えたさらに別のSAF構造とを備える、複数の検知SAF構造を備える、請求項10に記載の磁気抵抗素子。
【請求項13】
前記検知層は、前記
第1非磁性検知スペーサ層の両側にあり、前記
第1非磁性検知スペーサ層と接触している中間強磁性検知層をさらに備える、請求項1に記載の磁気抵抗素子。
【請求項14】
請求項1に記載の磁気抵抗素子を複数備えた2次元磁気センサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、外部磁界を感知するように適合され、外部磁界の変化する角度に対する応答のヒステリシスが低減された磁気抵抗素子に関する。本発明は、更に、複数の磁気抵抗素子を持つ2次元(2D)磁気センサに関する。
【背景技術】
【0002】
図1は、基準磁化210を持つ基準層21と、トンネル障壁層22と、検知磁化230を持つ検知層23とを備える従来の磁気抵抗素子10を示す。
図1において、基準層21は、第1基準副層211が第2基準副層212に反強磁性的に結合されているように、第1非磁性スペーサ層213によって第2基準副層212から分離された第1基準副層211を備えた合成反強磁性(SAF)構造を備える。
【0003】
磁気抵抗素子10のセンサ用途は、基準磁化210が、計測されるべき外部磁場によって配向できないように固定されることが必要である。そのために、基準磁化210は、交換結合によって、反強磁性層などのピニング層24によってピン止めされている。対照的に、検知磁化230は、検知される外部磁場によって整列されるように自由である。
【0004】
さらに、計測される外部磁界に対して良好な感度を得るために、検知磁化230は飽和されている。しかしながら、飽和した検知磁化230は、
図1の数字55によって示される、閉じた磁束構成で基準層21と結合する局所的な漂遊磁界を誘導する。局所漂遊磁界55の大きさは、磁気抵抗素子10の縁において1000Oeまでの値に達し得る。
【0005】
ピニング層24は、通常、外部磁界が加わると切替し得る、ある量の熱的に不安定な粒子を含む。漂遊磁界55は、ピニング層24の交換結合を局所的に乱す可能性があり、その結果、外部磁界の角度が変化したときに磁気抵抗素子10の応答にヒステリシスが生じる。
図2は、外部磁場が時計回り(正の角度)及び反時計回り(負の角度)に回転されたときの、
図1のものなどの磁気抵抗素子10を備える2Dセンサのシミュレートされた応答を報告する。時計回りの回転と反時計回りの回転との間にヒステリシスが見られる。
【0006】
このようなヒステリシスの最小化を目的とした可能な解決策には、ピニング層24と基準層21との間の交換結合の強化を含む。代替的に、基準層21が、より高い交換剛性を持つ強磁性材料、例えばCoリッチ合金を含有することがあるだろう。しかしながら、高い交換剛性を有し、トンネル磁気抵抗技術に適合する合金は非常に限られている。別の可能な解決策には、漂遊磁界55を減少させるように検知層23の厚さを減少させることが含まれるだろう。しかしながら、これは、磁気抵抗素子10の信号対雑音比にとって有害である。他の解決策には、ピニング層24の成長を最適化し、磁気抵抗素子10の縁部の相対的な寄与が応答信号を低減するように、より大きな磁気抵抗素子10の使用が含まれるだろう。後者の2つの解決策は満足のいくものではない。
【0007】
特許文献1には、それぞれ複数層の構造を持つ磁化固定層と、それぞれ複数層の構造を持つ磁化自由層との間にトンネル障壁層を挟んでなる積層構造が開示されている。複数層の構造の磁化固着層、トンネル障壁層、複数層の構造の磁化自由層は、基板上にこの順に積層されている。
【0008】
特許文献2は、不平衡SAF自由層構造を備えた読出センサを開示する。不平衡SAF自由層構造は、第1磁気モーメント値を持つ第1磁性層と、第1磁気モーメント値とは異なる第2磁気モーメント値を持つ第2磁性層とを備えている。分離層は、第1磁性層と第2磁性層との間に備わっている。第1磁性層と第2磁性層とは、反強磁性的に結合している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】米国特許出願公開第2010/316890号明細書
【文献】米国特許出願公開第2017/140781号明細書
【発明の概要】
【0010】
本開示は、基準磁化を持つ基準層と検知磁化を持つ検知層との間に含まれるトンネル障壁層を備える磁気抵抗素子に関する。検知層は、トンネル障壁層と接触し、第1検知副層が第2検知副層に反強磁性的に結合されているように第1非磁性スペーサ層によって強磁性の第2検知副層から分離された強磁性の第1検知副層を含むSAF構造を備える。検知層は、以下のように定義される検知磁化比を持つように構成されている。
【0011】
【0012】
上記の数式において、MSFM1及びMSFM2は、それぞれ、第1及び第2検知副層の自発磁化であり、tFM1及びtFM2は、それぞれ、第1及び第2検知副層の厚さである。検知磁化比は、0.1と0.25の間である。第2検知副層は、検知スペーサ層からの距離が増加するにつれて増加する自発磁化を持っている。
【0013】
本開示はさらに、本明細書に開示される複数の磁気抵抗素子を備える2次元(2D)磁気センサに関する。
【0014】
磁気モーメントの比は、検知層の非ヌル磁気モーメントをもたらし、ピン止め層の位置の上の正味の漂遊磁界は、大幅に抑制される。
【発明の効果】
【0015】
本明細書で開示される磁気抵抗素子は、角度的に変化する外部磁場の計測時に、低減されたヒステリシス応答を持つ。磁気抵抗素子は、改善された感度、信号対雑音比を有し、より良好なセンサ寿命を持つ。
【0016】
本発明は更に、複数の磁気抵抗素子を持つ2D磁気センサに関する。
【0017】
本発明の例示的な実施形態は、説明において開示され、図面によって示される。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】
図1は、従来の磁気抵抗素子を概略的に示す図である。
【
図2】
図2は、
図1の磁気抵抗素子を含む2Dセンサのシミュレートされた応答を報告する。
【
図3】
図3は、一実施形態による、基準層、検知層、及びトンネル障壁層を備える磁気抵抗素子を概略的に示し、検知層は、非磁性検知スペーサ層によって第2検知副層から分離された第1検知副層を含む検知SAF構造を備える。
【
図4】
図4は、第2検知副層の磁気モーメントに対する第1検知副層の磁気モーメントの比の関数として、従来の磁気抵抗素子のFM漂遊磁界に対する本発明の磁気抵抗素子のSAF漂遊磁界の比を報告する。
【
図5】
図5は、本発明の磁気抵抗素子の第2検知副層の厚さの関数として、SAF漂遊磁界とFM漂遊磁界との比を報告する。
【
図6】
図6は、外部磁界の角度の関数として、本発明の磁気抵抗素子によって計測された信号の変化を示す。
【
図7】
図7は、別の実施形態による磁気抵抗素子を示す。
【
図8】
図8は、別の実施形態による第2検知副層の詳細を示す。
【
図9】
図9は、さらに別の実施形態による磁気抵抗素子を示す。
【
図10】
図10は、さらに別の実施形態による磁気抵抗素子を示す。
【発明を実施するための形態】
【0019】
図3を参照すると、基準磁化方向210を持つ基準層21と、検知磁化方向230を持つ検知層23とを備えた磁気抵抗素子10が示されている。トンネル障壁層22は、基準層21と検知層23との間に備わっている。基準層21は、第1基準副層211と、トンネル障壁層22と接触する第2基準副層212と、第1基準副層211が第2基準副層212に反強磁性的に結合されているように、第1基準副層211と第2基準副層212との間の非磁性基準スペーサ層213とを備えた基準SAF構造を備える。検知層23は、第1検知副層231が第2検知副層232に反強磁性的に結合されているように、トンネル障壁層22と接触し、非磁性の第1検知スペーサ層233によって第2検知副層232から分離された第1検知副層231を備えた検知SAF構造を備える。
【0020】
好ましくは、検知磁化層230は飽和している。
【0021】
一実施形態では、第1検知副層231の磁気モーメントは、第2検知副層232の磁気モーメントよりも小さい。
より具体的には、検知磁化比ΔM、すなわち、第2検知副層232の磁気モーメントに対する第1検知副層231の磁気モーメントの比は、下記の数式(1)によって定義可能である。
【0022】
【0023】
上記の式において、MSFM1は、第1検知副層231の自発磁化に相当し、tFM1は、第1検知副層231の厚さに相当し、MSFM2は、第2検知副層232の自発磁化に相当し、tFM2は、第2検知副層232の厚さに相当する。
【0024】
好ましい1実施形態では、検知磁化比ΔMは、0.1と0.25の間の値である。
【0025】
図4は、SAF漂遊磁界H
AFMとFM漂遊磁界H
FMとの比を検知磁化比ΔMの関数として示す。ここで、SAF漂遊磁界H
AFMは、検知SAF構造23によって生成される正味の漂遊磁界55、すなわち、異なる検知副層231、232から生じる漂遊磁界に相当する。FM漂遊磁界H
FMは、単一の強磁性層又は強磁性的に結合されたいくつかの強磁性層を備えた検知層23によって生成される漂遊磁界に相当する。SAF漂遊磁界H
AFMは、2nmの厚さを持つ第1検知副層231及び2nmと6nmとの間の厚さを持つ第2検知副層232について計算された。FM漂遊磁界H
FMは、0nmと4nmとの間の厚さを持つ強磁性層について計算された。
図4は、0.2の検知磁化比ΔMが、14%のFM漂遊磁界H
FMに対するSAF漂遊磁界H
AFMの比をもたらすことを示している。
【0026】
図5は、SAF漂遊磁界H
AFMのFM漂遊磁界H
FMに対する比を、第2検知副層232の厚さの関数として報告する。第1検知副層231は、2nmの厚さを持つ。SAF漂遊磁界H
AFMとFM漂遊磁界H
FMとの比がゼロであり、検知磁化比ΔMがゼロである場合、検知層23は外部磁界を感知する能力を失う。これは、
図5の例における3nmの厚さを持つ第2検知副層232に相当する。
【0027】
0.1と0.25との間の検知磁化比ΔMは、外部磁界に対する磁気抵抗素子10の良好な感度を提供する。さらに、角度的に変化する外部磁界に対する磁気抵抗素子10の応答が実質的にヒステリシスを示さないように、基準層21上の正味の漂遊磁界55を減少させる。
図6は、磁気抵抗素子10によって計測される信号(抵抗値など)の変化を、計測される外部磁界の角度の関数として示す。ここで、検知層23によって生成される正味の漂遊磁界55は、400Oeの大きさを持つ。ヒステリシスはほとんど観察されない。
【0028】
本明細書に記載の磁気抵抗素子10は、検知層23に厚い磁性層を使用することによって、より低い磁気ノイズ及びより高いトンネル磁気抵抗(TMR)を備えられる。検知層23によって生成され、ピン止め基準層21に作用する正味の漂遊磁界55の低減は、さらに、高温に対する安定性を高め、寿命安定性を改善し、全体的な性能を改善できる。
【0029】
図4及び
図5に示すように、第1及び第2検知副層231、232の厚さの選択によって、第1及び第2検知副層231、232の組成の選択と、検知層23の他の変数との少なくとも一方によって、正味の漂遊磁界55を最適化のため、第1及び第2検知副層231、232の磁気モーメントの比を変えられる。
【0030】
一観点では、第1及び第2検知副層231、232は、Fe、Co、Ni(鉄、コバルト、ニッケル)のいずれか1つをベースとする強磁性合金、例えばCoFe又はNiFe(コバルト鉄又はニッケル鉄)などの強磁性材料を含有してよい。第1及び第2検知副層231、232のうちの少なくとも1つは、B、Ta、Ru、もしくはW(ホウ素、タンタル、ルテニウム、タングステン)などの非磁性元素、又はこれらの元素の組合せをさらに含有してよい。より具体的には、第1検知副層231は、第1検知副層231を構成する強磁性材料を希釈し、その自発磁化230を減少させるために、非磁性元素を含有する。
【0031】
別の観点では、第2検知副層232は、第1検知副層231よりも大きな厚さを持つ。
【0032】
一観点では、第1検知スペーサ層233は、限定はしないが、Ru、W、Mo、又はIr(ルテニウム、タングステン、モリブデン、イリジウム)か、これらの元素の組合せなどの非磁性材料を含有し得る。
【0033】
図7を参照すると、別の実施形態による磁気抵抗素子10が示されていて、第1検知副層231は、第2検知副層232に反強磁性的に結合され、第2検知副層232は、検知自発磁化230の勾配を備えている。より具体的には、第2検知副層232内の検知自発磁化230は、第1検知スペーサ層233からの距離が増加するにつれて増加する。
【0034】
第2検知副層232の正味の自発磁化230を調整して、第1検知副層231の自発磁化230を補償し、検知磁化比ΔMを、例えば、0.1と0.25との間に調整してよい。ここで、MSFM2は、第2検知副層232の正味の自発磁化に相当する。
【0035】
漂遊磁界55の大きさは、距離の三乗に比例して減少するので、基準層21から最も遠い第2検知副層232の部分におけるより大きな検知磁化方向230は、基準層21の位置(レベル)における正味の漂遊磁界55に大きくは寄与しない。一方、検知磁化230が大きいほど、磁気抵抗効果素子10のTMRを大きくすることができる。
【0036】
第2検知副層232は、第1検知副層231の検知自発磁化230よりも小さい、例えば少なくとも2倍小さい検知自発磁化230を有し、したがって、基準層21上により小さな正味漂遊磁界55を生成する。基準層21の位置(レベル)では、第2検知副層232によって生成される正味の漂遊磁界55は、第1検知副層231によって生成される正味の漂遊磁界よりも小さい。
【0037】
一観点では、第2検知副層232は、非磁性不純物の勾配を備える。より具体的には、第2検知副層232は、第1検知スペーサ層233からの距離が増加するにつれて減少する濃度の非磁性不純物を含む。非磁性不純物の含有量の増加は、第1検知スペーサ層233に向かって第2検知副層232の強磁性材料を希釈する。
【0038】
図8は、別の観点による第2検知副層232の詳細を示す。ここで、第2検知副層232は、複数の強磁性検知二重層232blを備え、各検知二重層232blは、低自発検知層237及び高自発検知層238を備える。高自発検知層238は、低自発検知層237の検知自発磁化よりも高い検知自発磁化230を持つ。高自発検知層238の厚さに対する低自発検知層237の厚さは、第1検知スペーサ層233からの距離が増加するにつれて減少する。
【0039】
第2検知副層232の磁気モーメントに対する第1検知副層231の磁気モーメントの比を0.1から0.25の間にするため、かつ基準層21に加わる正味の漂遊磁界55を減少させるため、第2検知副層232の厚さ、検知自発磁化230の勾配、又は検知二重層232blの配置のいずれか1つを単独で調整してもよく、あるいはそれらの組み合わせを調整してもよい。
【0040】
図7及び
図8に示す磁気抵抗素子10の構成は、低い漂遊磁界55を得るのに許容される。そして図示の構成は、単一の検知スペーサ層233のみを使用して0.1と0.25との間の検知磁化比ΔMを持つ。第2検知副層232が複数の強磁性検知二重層232blを備える場合、(先に記載した数式の)項M
SFM2は、複数の強磁性検知二重層232blの正味の自発磁化に相当し、t
FM2は、複数の強磁性検知二重層232blを備える第2検知副層232の厚さに相当する。
図9は、さらに別の実施形態による磁気抵抗素子10を示していて、第2検知副層232は、近位の第2検知副層232a及び遠位の第2検知副層232bを備える。遠位の第2検知副層232bは、近位の第2検知副層232aの検知自発磁化230よりも少なくとも2倍大きな(高い)検知自発磁化230を持つ。近位の第2検知副層232aは、遠位の第2検知副層232bに強磁性的に結合されている。
【0041】
ここで、検知磁化比ΔMは、第1及び第2検知層231、232a、232bの特定の配置に依存せず、むしろこれらの層の正味の磁気モーメントに依存する。
より具体的には、数式(1)の項MSFM2 tFM2は、MSFM2a tFM2a+MSFM2b tFM2bに相当する。ここで、MSFM2a及びtFM2aは、それぞれ、近位の第2検知副層232aの自発磁化及び厚さに相当し、MSFM2b及びtFM2bは、それぞれ、遠位の第2検知副層232bの自発磁化及び厚さに相当する。
【0042】
一観点では、遠位の第2検知副層232bに対して近位の第2検知副層232aのより低い検知自発磁化230は、強磁性材料の自発磁化を希釈するように、強磁性の近位の第2検知副層232aに非磁性不純物を含有させることで得られる。代替的又は組み合わせて、近位の第2検知副層232aの相対的に低い検知自発磁化230は、近位の第2検知副層232aの厚さよりも大きい厚さを持つ遠位の第2検知副層232bによって得られる。
【0043】
近位の第2検知副層232aの検知自発磁化230は、第1検知副層231によって生成される漂遊磁界を補償し、基準層21における正味の漂遊磁界55を減少させるべく調整できる。漂遊磁界55の大きさは距離の三乗で減少するので、より厚い遠位の第2検知副層232bによって生成される漂遊磁界の寄与は、基準層21における正味の漂遊磁界55において無視できる程度である。遠位の第2検知副層232bのより大きな検知磁化230は、磁気抵抗素子10のTMRの増加を可能にする。
【0044】
図10は、
図9に示す磁気抵抗素子10の変形例を示し、第2検知副層232は、非磁性の第2検知スペーサ層235によって遠位の第2検知副層232bから分離された近位の第2検知副層232aを備える。
第2検知スペーサ層235は、限定はしないが、Ru、W、Mo、又はIrか、これらの元素の組合せのような、非磁性材料を含有してよい。この構成では、遠位の第2検知副層232bは、近位の第2検知副層232aに反強磁性的に結合されている。
【0045】
図9に示す磁気抵抗素子10の構成と同様に、近位の第2検知副層232aの厚さは、第1検知副層231によって生成される漂遊磁界を補償し、基準層21における正味の漂遊磁界55を減少させるべく調整してよい。より厚い遠位の第2検知副層232bによって生成される漂遊磁界の寄与は、基準層21における正味の漂遊磁界55において無視できる程度である。遠位の第2検知副層232bのより大きな検知磁化230は、磁気抵抗素子10のTMRの増加を可能にする。
【0046】
不図示の変形例では、「第1検知層231/第1検知スペーサ層233/第2検知層232」という順序を複数回繰り返して、複数層の構造を形成できる。そのような複数層の構造は、遠位の第2検知層232bの自発磁化よりも低い自発磁化を持てる。複数層の構造は、遠位の第2検知層232bに強く結合できる。
【0047】
図9及び
図10の構成による磁気抵抗素子10における第1検知層231と第2検知層232の厚さの少なくとも一方と、近位及び遠位の第2検知層232a、232bの厚さとは、漂遊磁界55を減少させるべく調整できる。
【0048】
図11は、一実施形態による検知層23の詳細を示し、検知層23は、第1検知スペーサ層233の(
図11中では上下)両側にあり、第1検知スペーサ層233と接触している中間強磁性検知層236をさらに備える。中間強磁性検知層236は、例えば約1nmの厚さを持つナノ層としてよい。中間強磁性検知層236は、Co又はCoFeベースの合金のいずれか1つを含有してよい。中間強磁性検知層236は、高い自発磁化を持つことが好ましい。例えば、中間強磁性検知層236は、25から50重量%のFeを含有するCoFe合金を含有してよい。
【0049】
2つ以上の反強磁性結合された副層を持つ改良された検知層の構造。
検知層の材料及び検知層の厚さを適切に選択することにより、センサの角度応答におけるヒステリシスが大幅に低減され、感度、信号対雑音比、及びセンサの寿命が改善される。
【0050】
一実施形態において、2次元磁気センサは、本明細書に開示される複数の磁気抵抗素子10を備える。
別の観点による本願の実施の形態を以下列挙する。
(イ)2次元磁気センサ用の磁気抵抗素子(10)であって、前記磁気抵抗素子(10)は、基準磁化(210)を持つ基準層(21)と検知磁化(230)を備えた検知層(23)との間に含まれているトンネル障壁層(22)を備え、
前記検知層(23)が、前記トンネル障壁層(22)と接触し、第1非磁性スペーサ層(233)によって強磁性の第2検知副層(232)から分離された強磁性の第1検知副層(231)を備える合成反強磁性(SAF)構造を備え、それにより、前記第1検知副層(231)が前記第2検知副層(232)に反強磁性的に結合されていて、
前記検知層(23)は、検知磁化比(ΔM)が以下の数式に定義されているように構成されていて、
【数3】
上記の数式において、M
SFM1及びM
SFM2は、それぞれ、第1及び第2検知副層(231、232)の自発磁化であり、t
FM1及びt
FM2は、それぞれ、第1及び第2検知副層(231、232)の厚さである、磁気抵抗素子(10)において、
検知磁化比(ΔM)が0.1と0.25の間の値であって、
前記第2検知副層(232)が、前記検知スペーサ層(233)からの距離が増加するにつれて増加する自発磁化(230)を備える
ことを特徴とする。
(ロ)前記第1検知副層(231)は、1nmから3nmの間の厚さを持ち、前記第2検知副層(232)は、2nmから6nmの間の厚さを持つ、上述の(イ)に記載の磁気抵抗素子(10)。
(ハ)前記第2検知副層(232)は、前記第1検知副層(231)よりも大きな厚さを持つ、上述の(ロ)に記載の磁気抵抗素子(10)。
(ニ)前記第1検知副層(231)は、第1検知副層(231)の自発磁化(230)を減少させる非磁性要素を備える、上述の(ハ)に記載の磁気抵抗素子(10)。
(ホ)前記検知スペーサ層(233)は、Ru、W、Mo又はIrか、左記の元素の組合せを含有する、上述のイからニのいずれか一つに記載の磁気抵抗素子(10)。
(ヘ)前記第2検知副層(232)は、前記検知スペーサ層(233)からの距離が増すにつれて減る濃度で非磁性不純物を含有する強磁性材料を含有する、上述のイからホのいずれか一つに記載の磁気抵抗素子(10)。
(ト)前記第2検知副層(232)は、複数の強磁性検知二重層(232bl)を備え、各検知二重層(232bl)は、低自発検知層(237)と、前記低自発検知層(237)の自発磁化よりも高い自発磁化(230)を持つ高自発検知層(238)とを備え、
前記高自発検知層(238)の厚さに対する前記低自発検知層(237)の厚さは、前記検知スペーサ層(233)からの距離が増加するにつれて減少している、
上述のイからホのいずれか一つに記載の磁気抵抗素子(10)。
(チ)前記第2検知副層(232)は、前記第1検知スペーサ層(233)の近位にある近位の第2検知副層(232a)と、前記第1検知スペーサ層(233)の遠位にあり、前記近位第2検知副層(232a)に強磁性的に結合された遠位の第2検知副層(232b)とを備え、
前記遠位の第2検知副層(232b)は、前記近位の第2検知副層(232a)よりも少なくとも2倍大きな自発磁化(230)を持つ、上述のイからホのいずれか一つに記載の磁気抵抗素子(10)。
(リ)前記近位の第2検知副層(232a)は、強磁性材料の前記自発磁化(230)を減少させる非磁性不純物を含有する前記強磁性材料を含有している、上述のチに記載の磁気抵抗素子(10)。
(ヌ)前記第2検知副層(232)は、非磁性の第2検知スペーサ層(235)によって遠位の第2検知副層(232b)から分離され、前記遠位の第2検知副層(232b)に反強磁性的に結合された近位の第2検知副層(232a)を備える、上述のイからホのいずれか一つに記載の磁気抵抗素子(10)。
(ル)前記遠位の第2検知副層(232b)の前記自発磁化(230)は、前記第1検知層(231)及び前記近位の第2検知副層(232a)の前記自発磁化(230)よりも高い、上述のヌに記載の磁気抵抗素子(10)。
(ヲ)複数の前記検知SAF構造(231、232、233)を備える、上述のヌ又はルに記載の磁気抵抗素子(10)。
(ワ)前記検知層(23)は、前記検知スペーサ層(233)の両側にあり、前記検知スペーサ層(233)と接触している中間強磁性検知層(236)をさらに備える、上述の(イ)から(ヲ)のいずれか一つに記載の磁気抵抗素子(10)。
(カ)
上述の(イ)から(ワ)のいずれか一つに記載の磁気抵抗素子(10)を複数備えた2次元磁気センサ。
【符号の説明】
【0051】
10 磁気抵抗素子
21 基準層、基準SAF構造
210 基準磁化
211 第1基準副層
212 第2基準副層
213 基準スペーサ層
22 トンネル障壁層
23 検知層、検知SAF構造
230 検知磁化
231 第1検知副層
232 第2検知副層
232a 近位の第2検知副層
232b 遠位の第2検知副層
232bl 検知二重層
233 第1検知スペーサ層
234 第3検知副層
235 第2検知スペーサ層
236 中間強磁化検知層
237 低自発検知層
238 高自発検知層
24 ピニング層、反強磁性層
55 局所の磁気漂遊磁場、正味の漂遊磁場
ΔM 検知磁化比
HAFM SAF漂遊磁場
HFM FM漂遊磁場