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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-12
(45)【発行日】2024-09-24
(54)【発明の名称】電子機器およびスライド機構
(51)【国際特許分類】
   G06F 1/16 20060101AFI20240913BHJP
【FI】
G06F1/16 312Q
G06F1/16 312E
G06F1/16 312Z
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2024030267
(22)【出願日】2024-02-29
【審査請求日】2024-02-29
(73)【特許権者】
【識別番号】505205731
【氏名又は名称】レノボ・シンガポール・プライベート・リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山内 武仁
(72)【発明者】
【氏名】堀内 茂浩
(72)【発明者】
【氏名】中西 爽
【審査官】漆原 孝治
(56)【参考文献】
【文献】特開2023-6941(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2021/0333686(US,A1)
【文献】特開2000-145249(JP,A)
【文献】特開平11-332210(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06F 1/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ディスプレイが設けられた筐体と、
前記筐体に設けられて前方を指向する光学デバイスと、
前記筐体を基準とした第1位置と第2位置との間で変位可能なスライダーと、
前記スライダーに設けられて、該スライダーが前記第1位置にあるとき前記光学デバイスの前方を覆う位置に配置され、前記第2位置にあるとき前記光学デバイスの前方を避ける位置に配置される遮蔽カバーと、
前記スライダーに設けられた可動磁石と、
前記筐体に設けられた固定磁石と、
を有し、
前記固定磁石は、前記可動磁石と対向する面で前記スライダーの変位方向に沿ってN極とS極との合計4極が交互に配列されており、
前記可動磁石は、前記固定磁石と対向する面で前記変位方向に沿って1つの第1磁性極および1つの第2磁性極が前記変位方向に沿い、前記スライダーが前記第1位置および前記第2位置にあるとき前記固定磁石と吸着し合う順に配置されており、
前記固定磁石は、両端の2極の前記変位方向の幅が中央の2極より狭く、
前記可動磁石は、N極およびS極の前記変位方向の幅が同幅で、且つ前記固定磁石の両端の2極より広く、合計幅が前記固定磁石の全幅の1/2以下である
ことを特徴とする電子機器。
【請求項2】
請求項1に記載の電子機器において、
前記スライダーが前記第1位置まで変位したときに該スライダーが当接して変位制限を受ける第1当接部と、
前記スライダーが前記第2位置まで変位したときに該スライダーが当接して変位制限を受ける第2当接部と、
を有し、
前記固定磁石と前記可動磁石とは、前記スライダーが前記第1位置にあるときに該スライダーを前記第1当接部に対して押圧させるように一方のN極と他方のS極とが前記スライダーの変位方向に沿ってずれて配置されており、前記スライダーが前記第2位置にあるときに該スライダーを前記第2当接部に対して押圧させるように一方のN極と他方のS極とが前記スライダーの変位方向に沿ってずれて配置されている
ことを特徴とする電子機器。
【請求項3】
請求項1または2に記載の電子機器において、
前記スライダーが前記第1位置または前記第2位置にあるとき、
前記固定磁石と前記可動磁石とにおける互いの対面部で同極同士がラップする幅は、前記固定磁石における両端の極の幅より狭い
ことを特徴とする電子機器。
【請求項4】
請求項1または2に記載の電子機器において、
前記第1位置は前記変位方向に沿った一方であり、前記第2位置は前記変位方向に沿った他方であり、
前記スライダーが前記第1位置にあるとき、前記固定磁石と前記可動磁石のそれぞれの一方の端部は同じ位置にあり、
前記スライダーが前記第2位置にあるとき、前記固定磁石と前記可動磁石のそれぞれの他方の端部は同じ位置にある
ことを特徴とする電子機器。
【請求項5】
筐体を基準とした第1位置と第2位置との間で変位可能なスライダーと、
前記スライダーに設けられた可動磁石と、
前記筐体に設けられた固定磁石と、
を有し、
前記固定磁石は、前記可動磁石と対向する面で前記スライダーの変位方向に沿ってN極とS極との合計4極が交互に配列されており、
前記可動磁石は、前記固定磁石と対向する面で前記変位方向に沿って1つの第1磁性極および1つの第2磁性極が前記変位方向に沿い、前記スライダーが前記第1位置および前記第2位置にあるとき前記固定磁石と吸着し合う順に配置されており、
前記固定磁石は、両端の2極の前記変位方向の幅が中央の2極より狭く、
前記可動磁石は、N極およびS極の前記変位方向の幅が同幅で、且つ前記固定磁石の両端の2極より広く、合計幅が前記固定磁石の全幅の1/2以下である
ことを特徴とするスライド機構。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子機器およびスライド機構に関する。
【背景技術】
【0002】
ノートブック型パーソナル・コンピュータ(ノートブック型PC)、タブレット型コンピュータ(タブレットPC)、または多機能携帯電話(スマートフォン)などの電子機器では、ディスプレイの周辺にカメラなどの光学デバイスが設けられるものが多くなってきている。
【0003】
ディスプレイ筐体に設けられるカメラは一般的にユーザ側を指向しており、ユーザはカメラが動作していないときであっても、意図しない撮影が行われているのではないかという不安を感じることがある。また、カメラが露呈していると、枠体とのデザイン的一体感が損なわれる場合がある。カメラを覆い隠す手段としては、特許文献1のように遮蔽カバーを人手によってスライドさせる機械的シャッターが考えられる。
【0004】
特許文献1に記載の電子機器は、ディスプレイを囲う枠体と、枠体の上枠に設けられたカメラとを備えており、遮蔽カバーは上枠に沿って第1位置と第2位置との間でスライド可能となっている。そして遮蔽カバーが第1位置にあるときカメラが覆われ、第2位置にあるとき露呈される。
【0005】
この電子機器では、スライダーが第1位置および第2位置にあるとき可動磁石と固定磁石とが吸着し合うようになっており、機械的な弾性材を用いていないことから部品のばらつきや機械的疲労の影響がなく、安定したクリック感が得られるとともに長寿命を実現することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2023-006941号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
近時の電子機器に搭載されるカメラは視野角が広いものがあり、これを覆うシャッターは一層大きいスライド量が必要になっていが、シャッター機構に許容される横幅には限度がある。
【0008】
本発明は、上記の課題に鑑みてなされたものであって、機構全体の幅を抑制しながらより大きいスライド量を実現することのできる電子機器およびスライド機構を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上述した課題を解決し、本発明の第1態様に係る電子機器は、ディスプレイが設けられた筐体と、前記筐体に設けられて前方を指向する光学デバイスと、前記筐体を基準とした第1位置と第2位置との間で変位可能なスライダーと、前記スライダーに設けられて、該スライダーが前記第1位置にあるとき前記光学デバイスの前方を覆う位置に配置され、前記第2位置にあるとき前記光学デバイスの前方を避ける位置に配置される遮蔽カバーと、前記スライダーに設けられた可動磁石と、前記筐体に設けられた固定磁石と、を有し、前記固定磁石は、前記可動磁石と対向する面で前記スライダーの変位方向に沿ってN極とS極との合計4極が交互に配列されており、前記可動磁石は、前記固定磁石と対向する面で前記変位方向に沿って1つの第1磁性極および1つの第2磁性極が前記変位方向に沿い、前記スライダーが前記第1位置および前記第2位置にあるとき前記固定磁石と吸着し合う順に配置されており、前記固定磁石は、両端の2極の前記変位方向の幅が中央の2極より狭く、前記可動磁石は、N極およびS極の前記変位方向の幅が同幅で、且つ前記固定磁石の両端の2極より広く、合計幅が前記固定磁石の全幅の1/2以下である。
【0010】
また、本発明の第2態様に係るスライド機構は、筐体を基準とした第1位置と第2位置との間で変位可能なスライダーと、前記スライダーに設けられた可動磁石と、前記筐体に設けられた固定磁石と、を有し、前記固定磁石は、前記可動磁石と対向する面で前記スライダーの変位方向に沿ってN極とS極との合計4極が交互に配列されており、前記可動磁石は、前記固定磁石と対向する面で前記変位方向に沿って1つの第1磁性極および1つの第2磁性極が前記変位方向に沿い、前記スライダーが前記第1位置および前記第2位置にあるとき前記固定磁石と吸着し合う順に配置されており、前記固定磁石は、両端の2極の前記変位方向の幅が中央の2極より狭く、前記可動磁石は、N極およびS極の前記変位方向の幅が同幅で、且つ前記固定磁石の両端の2極より広く、合計幅が前記固定磁石の全幅の1/2以下である。
【発明の効果】
【0011】
本発明の上記態様によれば、機構全体の幅を抑制しながらより大きいスライド量を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1は、本発明の実施形態にかかる電子機器の斜視図である。
図2図2は、ディスプレイ筐体の上方部分における溝を含む部分の断面斜視図である。
図3図3は、スライダーが第1位置にある状態のディスプレイ筐体における上枠の拡大正面図である。
図4図4は、上枠とスライダーとの分解正面図である。
図5図5は、ディスプレイ筐体の上方部分における第2ガイド突出片を含む部分の断面斜視図である。
図6図6は、可動磁石および固定磁石とその周辺部を示す模式図であり、(a)はスライダーが第1位置にある状態を示す図であり、(b)はスライダーが第2位置にある状態を示す図である。
図7図7は、可動磁石および固定磁石のそれぞれの対面部を示す模式図であり、(a)はスライダーが第1位置にある状態を示す図であり、(b)はスライダーが第2位置にある状態を示す図である。
図8図8は、ディスプレイ筐体の上方部分における固定磁石および可動磁石を含む部分の断面斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に、本発明にかかる電子機器およびスライド機構の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施形態によりこの発明が限定されるものではない。
【0014】
図1は、本発明の実施形態にかかる電子機器10の斜視図である。電子機器10は、本発明の実施形態にかかるスライド機構12を有している。電子機器10はノートブック型PCである。本発明にかかる電子機器はノートブック型PCに限らず、例えばデスクトップ型PC、モバイル型タブレット端末または多機能携帯電話などでもよい。
【0015】
電子機器10は、本体筐体14に対してディスプレイ筐体(筐体)16がヒンジ18により開閉可能となっており、ディスプレイ筐体16を閉じることによってコンパクトになりモバイル用途に好適である。本体筐体14の上面にはキーボード20が設けられている。
【0016】
以下の説明では、ディスプレイ筐体16を基準として左右方向をX方向、上下方向をY方向、ディスプレイ22の厚み方向をZ方向とも表す。ディスプレイ筐体16については、ヒンジ18で本体筐体14と接続されている側を下方、その逆側を上方とする。X方向は、後述するスライダー36の変位方向である。Y方向は、後述するスライダー36の変位方向と前後方向とに直交する方向である。Z方向については、ディスプレイ22を基準として表示面側を前方、その逆側を後方とする。つまりZ方向は前後方向である。
【0017】
ディスプレイ筐体16は、前面つまりディスプレイ面に設けられたディスプレイ22と、該ディスプレイ22の周辺部を囲む枠体(筐体)24と、背面カバー(筐体)26とを有する。枠体24および背面カバー26は筐体の一部を構成している。背面カバー26および枠体24は樹脂材である。背面カバー26はディスプレイ22よりも面積がやや大きく該ディスプレイ22の後面を覆っている。ディスプレイ22は薄型矩形のカラー液晶型であって、ディスプレイ筐体16における前面の大部分を占めている。枠体24は狭幅となっており、いわゆるナローベゼルである。
【0018】
図2は、ディスプレイ筐体16の上方部分における溝31aを含む部分の断面斜視図である。図1図2に示すように、背面カバー26における枠体24の上枠24aの後ろ側位置にはカメラ(光学デバイス)28およびカメラランプ(光学デバイス)29が前方を指向して設けられている。
【0019】
ディスプレイ筐体16の前面にはガラス34が設けられている。ガラス34はディスプレイ22および上枠24aの前方部分を覆っている。ガラス34は上枠24aを覆う部分が黒色で塗装されており、該上枠24aの構造が視認されないようになっている。ただし、カメラ28およびカメラランプ29の前方部分は着色がない透明窓を形成しており露呈される。カメラ28およびカメラランプ29は後述する第1遮蔽カバー46a、第2遮蔽カバー46bによって遮蔽することも可能である。カメラ28は上枠24aにおける略左右中央位置に設けられている。上枠24aにはマイクや赤外線ポートなどが設けられていてもよい。
【0020】
背面カバー26の四周には幅の狭い縁壁30が設けられている。枠体24のほぼ全周には幅の狭い外周壁31が設けられている。外周壁31は縁壁30の内周にほぼ接している。外周壁31は縁壁30の前面端よりもわずかに突出している。
【0021】
外周壁31の上枠24a部分における略中央部には溝31aが形成されている。溝31aには操作ノブ32が設けられている。操作ノブ32は溝31aよりX方向幅が狭い。操作ノブ32と外周壁31とはY方向幅が等しい。操作ノブ32は縁壁30とガラス34との間から前方に向かって外周壁31と同程度に突出している。操作ノブ32は小さく、Y方向およびZ方向について外周壁31の幅内に収まって目立つことがなく、外観上好適である。
【0022】
操作ノブ32は後述するスライダー36(図3参照)の一部であり、該スライダー36とともにX方向にスライドする。換言すると、スライダー36はディスプレイ筐体16を基準とした第1位置と第2位置との間でX方向に変位可能となっている。操作ノブ32は溝31aの横幅の範囲内で、第1位置(図6(a)参照)と第2位置(図6(b)参照)との間でスライド可能になっている。操作ノブ32には切欠32aが形成されており、指または爪で操作しやすい。切欠32aは、スライダー36が第1位置にあるときカメラ28のちょうど上方部分に位置するように設けられており、カメラ28を覆うための直感的操作が可能である。
【0023】
図3は、スライダー36が第1位置にある状態のディスプレイ筐体16における上枠24aの拡大正面図である。図3では上枠24aの構造が視認されるようにガラス34を取り除いた状態で示している。図4は、上枠24aとスライダー36との分解正面図である。
【0024】
図3図4に示すように、上枠24aにはスライダー36が設けられている。スライダー36は、縁壁30に沿った方向(つまり、X方向)に変位可能となっている。スライダー36が正面視で最も左側に変位したとき、操作ノブ32が溝31aの左端である第1当接部31aaに当接して左方への変位制限を受ける(図3参照)。スライダー36のこの位置を第1位置とする。スライダー36が正面視で最も右側に変位したとき、操作ノブ32が溝31aの右端である第2当接部31abに当接して右方への変位制限を受ける。スライダー36のこの位置を第2位置とする。本実施例で第1位置はX方向に沿った左側(変位方向に沿った一方)であり、第2位置は右側(変位方向に沿った他方)である。
【0025】
スライダー36は、金属板38をベースとして構成されている。金属板38はフェライト材である。金属板38は左側の略矩形の主部38aと、該主部38aの下方から右方へ突出しているアーム38bとを有する。主部38aの上方左寄り部分には操作ノブ32が一体成型されている。操作ノブ32の後方には第1ガイド突出片39(図2参照)および第1摺動片40(図2参照)が設けられている。主部38aの上方右寄り部分には後方に突出する第2摺動片41(図5参照)および該第2摺動片41の後方端から上方に突出する第2ガイド突出片42(図5参照)が一体成型されている。
【0026】
主部38aの略中央部分には横長の露呈孔44が形成されている。主部38aにおける露呈孔44よりも左側の部分が第1遮蔽カバー46aであり、右側の部分が第2遮蔽カバー46bである。スライダー36が第1位置にあるとき(図3参照)、第1遮蔽カバー46aはカメラ28の前方を覆う位置に配置され、第2遮蔽カバー46bはカメラランプ29の前方を覆う位置に配置される。スライダー36が第2位置にあるとき、第1遮蔽カバー46aはカメラ28の前方を避ける位置に配置され、第2遮蔽カバー46bはカメラランプ29の前方を避ける位置に配置される。スライダー36が第2位置にあるときカメラランプ29は露呈孔44から露呈される。
【0027】
図2に戻り、第1ガイド突出片39は、操作ノブ32と連続しながら後方にやや突出している。背面カバー26は、縁壁30と底面43との隅部にガイド台座47を有している。ガイド台座47は下方部から前方に向かってやや突出する突出片47aを有している。突出片47aと縁壁30との間には第1ガイド溝49が形成されている。
【0028】
第1摺動片40は、第1ガイド突出片39よりやや下方で、該第1ガイド突出片39と並列して後方に突出にしている。第1摺動片40は、底面43に当接および摺動する。第1摺動片40はY方向に適度な幅を有しておりスライダー36を背面カバー26に対して安定して支持およびスライドさせることができる。第1ガイド突出片39と第1摺動片40との間には第2ガイド溝50が形成されている。
【0029】
第1ガイド突出片39は第1ガイド溝49に嵌り込み、突出片47aは第2ガイド溝50に嵌り込んでいる。これにより、スライダー36はY方向の変位が規制され、スライドする際にX方向に適切に案内される。このように、突出片47aはスライダー36をX方向に案内するレールガイドとなっている。
【0030】
ただし、第1ガイド突出片39と突出片47aとの間にはY方向の狭い隙間G1が形成され、突出片47aと第1摺動片40との間にはY方向の狭い隙間G2が形成されており、スライダー36は多少の傾動が許容されている。スライダー36が第1位置または第2位置にあるときには、後述する可動磁石54と固定磁石56との吸着作用によってスライダー36は上方に付勢されており、第1ガイド突出片39と縁壁30との間には隙間が生じることがなく、好適な外観が得られる。
【0031】
図5は、ディスプレイ筐体16の上方部分における第2ガイド突出片42を含む部分の断面斜視図である。第2摺動片41の後面と第2ガイド突出片42の後面とは連続面を形成しており、底面43に当接および摺動する。第2摺動片41および第2ガイド突出片42の後面は適度な面積を有しており、スライダー36を背面カバー26に対して安定して支持およびスライドさせることができる。
【0032】
上枠24aの一部は、後方に突出する突出片24aaを形成している。突出片24aaと底面43との間にはガイド隙間52が形成されている。第2ガイド突出片42はガイド隙間52に嵌り込んでいる。これにより、スライダー36はZ方向の変位が規制され、スライドする際にX方向に適切に案内される。このように、突出片24aaはスライダー36をX方向に案内するレールガイドとなっている。スライダー36が第1位置または第2位置にあるときには、後述する固定磁石56と可動磁石54との吸着作用によってスライダー36は上方に付勢されており、第2ガイド突出片42は縁壁30に当接しており上方向への変位規制がなされて安定している。なお、第2ガイド突出片42は下方向には変位規制されていない。
【0033】
図3図4に戻り、アーム38b右側端部には可動磁石54が設けられている。可動磁石54はアーム38bの一部が折り曲げられて包まれるようにして保持されている(図8も参照)。可動磁石54は角形の上下両面多極着磁型であり、上面側では左から右に向かってN極およびS極が並ぶように着磁されて2極の構成となっている。また、下面側では左から右に向かってS極およびN極が並ぶように着磁されている。便宜上これらの着磁部を左から右に向かって磁石54a,54bと呼ぶが、磁極部等の別名称で呼ぶことも可能である。なお本願の各図では、極性の識別が容易となるようにN極をドット地で示している。
【0034】
上枠24aにおいて可動磁石54がX方向に移動する範囲の上方部分には、固定磁石56が設けられている。すなわち固定磁石56と可動磁石54とは、Y方向に並んで設けられており、ディスプレイ筐体16のZ方向の厚みを抑制することができる。
【0035】
固定磁石56は上枠24aの一部によって保持されている(図8も参照)。固定磁石56は角形の上下両面多極着磁型であり、下面側では左から右に向かってS極、N極、S極およびN極が並ぶように着磁されて4極の構成となっている。また、上面側では左から右に向かってN極、S極、N極およびS極が並ぶように着磁されている。便宜上これらの着磁部を左から右に向かって磁石56a,56b,56c,56dと呼ぶが、磁極部等の別名称で呼ぶことも可能である。
【0036】
換言すると、固定磁石56は、可動磁石54と対向する面でX方向に沿ってN極とS極とが合計4極が交互に配列されている。また、可動磁石54は、固定磁石56と対向する面でX方向に沿ってN極とS極とが合計2極配列されており、スライダー36が第1位置および第2位置にあるとき固定磁石56と吸着し合う順に配置されている(図6参照)。可動磁石54は固定磁石56よりも2極少なくなっている。
【0037】
図6は、可動磁石54および固定磁石56とその周辺部を示す模式図であり、(a)はスライダー36が第1位置にある状態を示す図であり、(b)はスライダー36が第2位置にある状態を示す図である。
【0038】
可動磁石54および固定磁石56のサイズについて説明するが、全て例示であることは勿論である。可動磁石54のX方向の幅L1は4mmである。固定磁石56のX方向の幅L2は9mmである。磁石54a,54bのX方向の幅L10はそれぞれL1の半分の2mmである。固定磁石56における両端の磁石56a,56dの幅はそれぞれL21で等しく、L21は1.4mmである。中央の磁石56b,56cの幅はそれぞれL22で等しく、L22は3.1mmである。固定磁石56は1つの磁性材料を着磁して形成されていることから磁石56bと磁石56cとの間に隙間はなく、幅L22を適度に大きく確保することで強い磁力を発生させることができる。
【0039】
換言すると、固定磁石56のX方向の幅は、両端の2極の磁石56a,56dが中央の2極の磁石56c,56dより狭い。また、可動磁石54のX方向の幅は、磁石54a,54bが同幅で、且つ磁石56a,56dより広く、合計幅L1は固定磁石56の全幅L2の1/2以下になっている。可動磁石54の幅L1は、固定磁石56の幅L2より十分短く設定されることにより動作ストロークを長く確保することができる。また、移動体であるスライダー36が軽量化されるために動的特性が向上する。
【0040】
スライダー36が第1位置(図6(a))または第2位置(図6(b))にあるとき、固定磁石56と可動磁石54とにおける互いの対面部で一部の同極同士がラップする。つまり、第1位置ではN極の磁石54aと磁石56bとがラップし、第2位置ではS極の磁石54bと56cとがラップする。これらのラップの幅L3は固定磁石56における両端の磁石56aおよび56dの幅L21より狭くなっている。
【0041】
図6(a)に示すように、スライダー36が第1位置にある状態では、可動磁石54と固定磁石56とは、異なる極同士が対面しており吸着し合うように配置される。具体的には、磁石54aのN極の一部と磁石56aのS極の一部とが対向するとともに、磁石54bのS極の一部と磁石56bのN極の一部とが対向してそれぞれ吸着し合っており、スライダー36が第1位置に維持される。スライダー36が第1位置にある状態では第1当接部31aa(図3参照)により、左方向への移動が規制される。このとき、可動磁石54と固定磁石56は左端部がほぼ一致する位置にある。
【0042】
図6(b)に示すように、スライダー36が第2位置にある状態では、可動磁石54と固定磁石56とは、異なる極同士が対面しており吸着し合うように配置される。具体的には、磁石54aのN極の一部と磁石56cのS極の一部とが対向するとともに、磁石54bのS極の一部と磁石56dのN極の一部とが対向してそれぞれ吸着し合っており、スライダー36が第2位置に維持される。スライダー36が第2位置にある状態では第2当接部31ab(図3参照)により、右方向への移動が規制される。このとき、可動磁石54と固定磁石56は右端部がほぼ一致する位置にある。
【0043】
このように、スライダー36が第1位置にあるとき、固定磁石56と可動磁石54のそれぞれの左端部は同じ位置にあり、スライダー36が第2位置にあるとき、固定磁石56と可動磁石54のそれぞれの右端部は同じ位置にあり、可動磁石54は固定磁石56の幅L2の全長を有効に利用して長いストローク量を確保している。仮に、可動磁石54の第1位置における左端部および第2位置における右端部が固定磁石56の幅L2の範囲外にまで突出するとスライド機構12が占有するスペースが大きくなってしまうため、幅L2の範囲に収めることが望ましい。本実施例でスライダー36の第1位置と第2位置との間のストローク量は4.9mmを実現している。
【0044】
図7は、可動磁石54および固定磁石56のそれぞれの対面部を示す模式図であり、(a)はスライダー36が第1位置にある状態を示す図であり、(b)はスライダー36が第2位置にある状態を示す図である。図7では、可動磁石54および固定磁石56におけるS極とN極との吸引力を矢印で模式に示している。
【0045】
図7(a)に示すように、スライダー36が第1位置にある状態では、磁石54aの中心は磁石56aの中心よりもX方向に沿ってやや右側にずれており、磁石54bの中心は磁石56bの中心よりもX方向に沿ってやや右側にずれている。このため、可動磁石54と固定磁石56の左半分とはY方向に吸着し合うとともに、X方向についてはスライダー36を左側に付勢し、スライダー36の操作ノブ32を第1当接部31aaに対して押圧させるよう作用させる。
【0046】
また、可動磁石54と固定磁石56の左端はほぼ一致した位置にあるが、磁石54aの幅L10は磁石56aの幅L21より広いためこの間の吸引力の方向は適度に大きく傾斜し、可動磁石54を左側に向けて確実に付勢させることができ、多少の外力があってもスライダー36が右方向にふらつくことがない。さらに、磁石56bの幅L22は磁石54bの幅L10より大きく確保されており強い磁力を生じ、磁石56bと磁石54bとの間に適度に強い吸引力が得られる。
【0047】
図7(b)に示すように、スライダー36が第2位置にある状態では、磁石54aの中心は磁石56aの中心よりもX方向に沿ってやや左側にずれており、磁石54bの中心は磁石56bの中心よりもX方向に沿ってやや左側にずれている。このため、可動磁石54と固定磁石56の右半分とはY方向に吸着し合うとともに、X方向についてはスライダー36を右側に付勢し、スライダー36の操作ノブ32を第2当接部31abに対して押圧させるよう作用させる。
【0048】
また、可動磁石54と固定磁石56の右端はほぼ一致した位置にあるが、磁石54bの幅L10は磁石56dの幅L21より広いためこの間の吸引力の方向は適度に大きく傾斜し、可動磁石54を右側に向けて確実に付勢させることができ、多少の外力があってもスライダー36が左方向にふらつくことがない。さらに、磁石56cの幅L22は磁石54aの幅L10より大きく確保されており強い磁力を生じ、磁石56cと磁石54aとの間に適度に強い吸引力が得られる。
【0049】
つまり概念的には、幅の狭い磁石56a,56dは可動磁石54を左右方向に付勢させることができる一方吸引力自体は小さくなる傾向があるが、幅が広く吸引力の大きい磁石56c,56dにより上方向への静的付勢力、およびスライド途中の動的付勢力を補うことができる。
【0050】
また、磁石56a,56dの幅L21は比較的狭いが、必要最低限度として少なくとも対面部で同極同士がラップする幅L3(図6参照)よりは広く確保されている。さらに、幅L3が過度に広いと同極同士の斥力が大きくなって異なる極同士の吸引力を低減させることになるが、本実施例では幅L3が幅21より狭くなるように制限されているため好適な吸引力が確保される。
【0051】
さらにまた、可動磁石54と固定磁石56とは常に離間しており、スライダー36が第1位置および第2位置にある状態では狭い隙間G3が形成されている(図8も参照)。これにより、スライダー36は可動磁石54によって上方に引き寄せられるように付勢され、第2ガイド突出片42を縁壁30に対して押圧させるような作用がある(図5参照)。隙間G3を適度に設定することにより、多少の寸法誤差や動作時の揺れなどがあっても可動磁石54と固定磁石56とを離間した状態に保つことができる。
【0052】
このように、スライダー36が第1位置または第2位置にある場合に、操作ノブ32は第1当接部31aaまたは第2当接部31abに対して隙間なく当接するとともに、第2ガイド突出片42が縁壁30に対して隙間なく当接して、それぞれ適度に押圧されており、X方向およびY方向にガタのない安定した状態となりユーザビリティが向上する。
【0053】
図8は、ディスプレイ筐体16の上方部分における固定磁石56および可動磁石54を含む部分の断面斜視図である。上記のとおり固定磁石56は樹脂材の上枠24aによって保持され、可動磁石54はフェライト材のアーム38bによって保持されている。ディスプレイ筐体16は薄型であり、しかも上枠24aは樹脂材であって強度および成型条件から適度な厚みが必要であり、固定磁石56はZ方向の幅H1が制限を受けてやや狭くなる。一方、アーム38bは金属板であるフェライト材であり、強度を維持しながら薄くすることができるため可動磁石54の幅H2(H2>H1)は適度に広く設定することができる。すなわち、固定磁石56の幅H1がある程度小さくとも、可動磁石54の幅H2がある程度大きく設定されているため、両者間の磁力(引力、斥力)は適度に大きくすることができる。
【0054】
また、可動磁石54では吸着面と反対側の非吸着面にフェライトを設けることで、非吸着面への磁気漏洩を防止するとともに、吸着面側に磁束を導いて吸着面側の磁束密度を上げることができる。これにより可動磁石54の吸着力が増してフィーリングが良好になる。さらに、フェライト材は磁気に吸着するため、組み立て時に可動磁石54に対して吸着し、組み立てが容易になる。固定磁石56のY方向の幅Y1、および可動磁石54のY方向の幅Y2は通常のディスプレイ筐体16におけるディスプレイ22の周囲領域に搭載可能な寸法とすればよい。
【0055】
図3に示すように、スライダー36が第1位置にあるときには、カメラ28は第1遮蔽カバー46aによって覆われ、カメラランプ29は第2遮蔽カバー46bによって覆われている。また、上記のようにスライダー36は可動磁石54と固定磁石56との吸引作用により、第1位置に維持されるとともに、左方向および上方向に付勢されていてガタつきがない。
【0056】
カメラ28を使用する場合には操作ノブ32を右向きに操作してスライダー36を第2位置に移動させる。この際、可動磁石54と固定磁石56とは隙間G3が確保されていることから、スライダー36は少なくともこの部分で不快な摩擦抵抗を生じることはなく操作ノブ32の動き始めがスムーズである。ただし、第1位置においては可動磁石54と固定磁石56とは吸着し合っていることから、スライダー36を動かすには磁気的な適度な抵抗感が生じ、該抵抗感は変位量に応じて増大する。
【0057】
スライダー36が第2位置に移行すると、第1遮蔽カバー46aはカメラ28の前方を避ける位置に退避し、第2遮蔽カバー46bはカメラランプ29を避ける位置に退避する。カメラ28およびカメラランプ29は前方が露呈されて光学デバイスとして機能が有効になる。上記のようにスライダー36は可動磁石54と固定磁石56との吸引作用により、第2位置に維持されるとともに、右方向および上方向に付勢されていてガタつきがない。なお、スライダー36を第2位置から第1位置へ変位させるのは、上記と逆の動作なので説明を省略する。
【0058】
スライダー36を変位させている途中で第1位置と第2位置との中間にあるときには(図示略)、磁石54aのN極と磁石56bのN極とが対面し、磁石54bのS極と磁石56cのS極とが対面し同極同士が対面して斥力により反発し合うため適度な抵抗感があり、中間点を越えると吸引力によって作用する力の向きが反転することが知覚され、適度なクリック感が得らえる。
【0059】
なお、上記のとおり、第1ガイド突出片39と突出片47aとの間には隙間G1が形成され、突出片47aと第1摺動片40との間には隙間G2が形成されており、しかも第2ガイド突出片42は下方向には変位規制されていないことからスライダー36は多少の傾動が許容されている。そのため、可動磁石54と固定磁石56との間に斥力が発生しているとき、スライダー36は左側の主部38aを起点として右側のアーム38bが傾動し、可動磁石54と固定磁石56とが上記の隙間G3よりもさらに離間することになる。このため、可動磁石54と固定磁石56との間に作用する斥力は多少緩和され、スライダー36を変位させるのに過大な抵抗が生じることが防止される。また、第1ガイド突出片39(図2参照)や第1摺動片40と第1ガイド溝48および第2ガイド溝50との間に過大な摩擦が生じることが防止される。さらに、特許文献1に示すような板バネを用いた機構による操作ノブの操作では、板バネの作用によって操作ノブが多少傾動するが、本実施の形態でも同様の傾動が実現されるため、従来機構と比較して違和感のない操作が可能である。
【0060】
上記のとおり電子機器10では、固定磁石56のX方向の幅は、両端の2極である磁石56a,56dが中央の2極である磁石56b,56cより狭くなっている。また、可動磁石54のX方向の幅は、磁石54a,54aが同幅で、且つ固定磁石56の磁石56a,56dより広くなっている。これにより、主に磁石54aと磁石56aとの吸引力、および磁石54bと磁石56dとの吸引力の方向が適度に傾斜し左右に向けて適切な付勢力が得られるため、スライド機構12のX方向幅を抑制しながらスライダー36のスライド量を大きく確保することができる。また、合計幅L1が固定磁石56の全幅L2の1/2以下となっているため、幅L2の全長に亘ってスライドさせると、少なくともL2/2のストローク量を確保することができる。
【0061】
本発明は、上記した実施形態に限定されるものではなく、本発明の主旨を逸脱しない範囲で自由に変更できることは勿論である。
【符号の説明】
【0062】
10 電子機器
12 スライド機構
14 本体筐体
16 ディスプレイ筐体
28 カメラ(光学デバイス)
29 カメラランプ
31aa 第1当接部
31ab 第2当接部
32 操作ノブ
36 スライダー
46a 第1遮蔽カバー
46b 第2遮蔽カバー
54 可動磁石
54a,54b 磁石
56 固定磁石
56a,56b,56c,56d 磁石
【要約】      (修正有)
【課題】機構全体の幅を抑制しながらより大きいスライド量を実現する電子機器およびスライド機構を提供する。
【解決手段】電子機器は、第1位置と第2位置との間で変位可能なスライダーと、スライダーに設けられて、該スライダーが第1位置にあるときカメラの前方を覆う位置に配置され、第2位置にあるときカメラの前方を避ける位置に配置される遮蔽カバーと、スライダーに設けられた可動磁石54と、筐体に設けられた固定磁石56と、を有する。固定磁石56は、X方向に沿って磁石56a~56dの合計4極が配列されている。可動磁石54は、X方向に沿って磁石54a、54bが配置されている。磁石56a、56dの幅L21は、磁石56b、56cの幅L22より狭く、磁石56a、56bは同幅で、且、磁石56a、56dの幅L21より広く、可動磁石54の幅L1は固定磁石56の幅L2の1/2以下である。
【選択図】図6
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8