IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ トタルエナジーズ コービオン ビーブイの特許一覧

特許7555532安定化脂肪族ポリエステルの調製プロセス及びそれを用いて得られる組成物
<>
  • 特許-安定化脂肪族ポリエステルの調製プロセス及びそれを用いて得られる組成物 図1
  • 特許-安定化脂肪族ポリエステルの調製プロセス及びそれを用いて得られる組成物 図2
  • 特許-安定化脂肪族ポリエステルの調製プロセス及びそれを用いて得られる組成物 図3
  • 特許-安定化脂肪族ポリエステルの調製プロセス及びそれを用いて得られる組成物 図4
  • 特許-安定化脂肪族ポリエステルの調製プロセス及びそれを用いて得られる組成物 図5
  • 特許-安定化脂肪族ポリエステルの調製プロセス及びそれを用いて得られる組成物 図6
  • 特許-安定化脂肪族ポリエステルの調製プロセス及びそれを用いて得られる組成物 図7
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-13
(45)【発行日】2024-09-25
(54)【発明の名称】安定化脂肪族ポリエステルの調製プロセス及びそれを用いて得られる組成物
(51)【国際特許分類】
   C08G 63/78 20060101AFI20240917BHJP
   C08G 63/08 20060101ALI20240917BHJP
【FI】
C08G63/78
C08G63/08
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2021566522
(86)(22)【出願日】2020-05-29
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-10-20
(86)【国際出願番号】 EP2020065066
(87)【国際公開番号】W WO2020245063
(87)【国際公開日】2020-12-10
【審査請求日】2023-03-29
(31)【優先権主張番号】19177894.3
(32)【優先日】2019-06-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】521488358
【氏名又は名称】トタルエナジーズ コービオン ビーブイ
(74)【代理人】
【識別番号】100092277
【弁理士】
【氏名又は名称】越場 隆
(74)【代理人】
【識別番号】100155446
【弁理士】
【氏名又は名称】越場 洋
(72)【発明者】
【氏名】ゴビアス デュ サル,ゲリット
(72)【発明者】
【氏名】デ ラング,ウィルコ
【審査官】内田 靖恵
(56)【参考文献】
【文献】特開平09-077863(JP,A)
【文献】特開平09-110967(JP,A)
【文献】特表2000-514483(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G63
C08L67
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
環状エステルモノマーの開環重合による脂肪族ポリエステルを含む組成物の調製プロセスであって、前記プロセスが、
(a)環状エステルモノマー及び重合触媒を反応器に提供する工程と、
(b)前記環状エステルモノマーを溶融重合して脂肪族ポリエステルを含む組成物を形成する工程と、
(c)少なくとも1種の安定剤をそれに組み込むことにより又はそれに適用することにより脂肪族ポリエステル解重合に対して前記組成物を安定化させて溶融安定組成物を得る工程と、
(d)任意に、残留環状エステルモノマーの少なくとも一部分を除去する工程と、
を含み、前記安定剤が、式(I)
【化1】
[式中、
1は、水素又はC1~6アルキルであり、
2は、水素、C1~6アルキル、HO-C(=O)-CH(NHR7)-(CH2n-C(=O)-、及びC1~6アルキルカルボニルを含む群から選択され、
3は、ヒドロキシル、C1~6アルコキシ、及び-NH-(CH2p-C(=O)-OHを含む群から選択され、
mは、0、1、又は2から選択される整数であり、
nは、1又は2から選択される整数であり、
pは、1又は2から選択される整数であり、
各R4は、独立して、水素又はC1~6アルキルから選択され、
各R5は、独立して、水素又はC1~6アルキルから選択され、
6は、水素又は式
【化2】
(ここで、*は、式(I)のSへの装着点を表す)
の基から選択され、及び
7は、水素、C1~6アルキル、及びC1~6アルキルカルボニルを含む群から選択される]
の化合物である、プロセス。
【請求項2】
前記脂肪族ポリエステルが、ラクチドの開環重合により調製されるポリラクチドであり、前記プロセスが、(a)ラクチド及び重合触媒を反応器に提供する工程と、(b)前記ラクチドを溶融重合してポリラクチドを含む組成物を形成する工程と、(c)少なくとも1種の安定剤(ただし、前記安定剤は少なくとも1種の式(I)の化合物である)をそれに組み込むことにより又はそれに適用することによりポリラクチド解重合に対して前記組成物を安定化させて溶融安定組成物を得る工程と、(d)任意に残留ラクチドの少なくとも一部分を除去する工程と、を含む、請求項1に記載のプロセス。
【請求項3】
1が、水素であり、
2が、水素、C1~6アルキル、HO-C(=O)-CH(NHR7)-(CH2n-C(=O)-、及びC1~6アルキルカルボニルを含む群から選択され、
3が、ヒドロキシル又は-NH-CH2-C(=O)-OHであり、
mが、1又は2から選択される整数であり、
nが、2であり、
pが、1であり、
各R4及びR5が、水素であり、
6が、水素又は式
【化3】
の基から選択され、及び
7が、水素である、
請求項1又は2に記載のプロセス。
【請求項4】
式(I)の化合物が、システイン、シスチン、N-アセチル-システイン、N-アセチル-シスチン、グルタチオン、それらの立体異性体、及びそれらの混合物を含む群から選択される、請求項1~3のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項5】
式(I)の化合物が、前記脂肪族ポリエステルの組成物の合計重量を基準にして少なくとも0.010重量%の量で存在する、請求項1~4のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項6】
工程(c)の前又は工程(c)と同時に少なくとも1種の酸化防止剤を添加することを含む、請求項1~5のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項7】
工程(c)と同時又はその後に前記組成物が1つ以上の工程(d)に付され、工程(d)が脱揮発工程(d)である請求項1~6のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項8】
前記組成物がポリラクチド及び少なくとも1種の式(I)の化合物を含む、請求項1~のいずれか一項に記載のプロセスにより直接得られる組成物。
【請求項9】
解重合に対して脂肪族ポリエステルを安定化させるプロセスであって、(a)脂肪族ポリエステルを形成する工程と、(b)少なくとも1種の安定剤をそれに組み込むことにより又はそれに適用することにより解重合に対して前記ポリエステルを安定化させて溶融安定ポリエステルを得る工程と、を含み、前記安定剤が、式(I)
【化4】
[式中、
1は、水素又はC1~6アルキルであり、
2は、水素、C1~6アルキル、HO-C(=O)-CH(NHR7)-(CH2n-C(=O)-、及びC1~6アルキルカルボニルを含む群から選択され、
3は、ヒドロキシル、C1~6アルコキシ、及び-NH-(CH2p-C(=O)-OHを含む群から選択され、
mは、0、1、又は2から選択される整数であり、
nは、1又は2から選択される整数であり、
pは、1又は2から選択される整数であり、
各R4は、独立して、水素又はC1~6アルキルから選択され、
各R5は、独立して、水素又はC1~6アルキルから選択され、
6は、水素又は式
【化5】
(ここで、*は、式(I)のSへの装着点を表す)
の基から選択され、
7は、水素、C1~6アルキル、及びC1~6アルキルカルボニルを含む群から選択される]
の化合物である、プロセス。
【請求項10】
前記脂肪族ポリエステルが乳酸系ポリエステル、好ましくはポリ乳酸である、請求項9に記載のプロセス。
【請求項11】
前記式(I)の化合物が、システイン、シスチン、N-アセチル-システイン、N-アセチル-シスチン、グルタチオン、それらの立体異性体、及びそれらの混合物を含む群から選択される、請求項9又は10に記載のプロセス。
【請求項12】
さらに少なくとも酸化防止剤を組み込むこと又は適用することを含む、請求項9~11のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項13】
脂肪族ポリエステル解重合に対する安定剤としての、式(I)
【化6】
[式中、
1は、水素又はC1~6アルキルであり、
2は、水素、C1~6アルキル、HO-C(=O)-CH(NHR7)-(CH2n-C(=O)-、及びC1~6アルキルカルボニルを含む群から選択され、
3は、ヒドロキシル、C1~6アルコキシ、及び-NH-(CH2p-C(=O)-OHを含む群から選択され、
mは、0、1、又は2から選択される整数であり、
nは、1又は2から選択される整数であり、
pは、1又は2から選択される整数であり、
各R4は、独立して、水素又はC1~6アルキルから選択され、
各R5は、独立して、水素又はC1~6アルキルから選択され、
6は、水素又は式
【化7】
(ここで、*は、式(I)のSへの装着点を表す)
の基から選択され、及び
7は、水素、C1~6アルキル、及びC1~6アルキルカルボニルを含む群から選択される]
の化合物の使用。
【請求項14】
前記脂肪族ポリエステルがポリラクチドである、請求項13に記載の使用。
【請求項15】
前記式(I)の化合物が、システイン、シスチン、N-アセチル-システイン、N-アセチル-シスチン、グルタチオン、それらの立体異性体、及びそれらの混合物を含む群から選択される、請求項13又は14に記載の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、安定化脂肪族ポリエステルの調製プロセス、さらにはそれを用いて得られる組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
環状エステルモノマー、たとえば、ラクチド、グリコリド、トリメチレンカーボネート(TMC)、イプシロン-カプロラクトン、及びp-ジオキサノン、並びにそれらの組合せに基づく脂肪族ポリエステルは、多くの魅力的な性質を有する。それは多くの場合、高い生体適合性及び魅力的な再吸収性を有するので、ヒト又は動物の身体に使用されるスキャフォールド及びインプラントの作製に好適である。さらに、特定的には、ポリ乳酸ともいわれるポリラクチドは、たとえばパッケージング材料の技術用途の分野で有望な材料である。
【0003】
生分解性ポリマーを製造するための乳酸及びラクチドの使用は周知である。かかるポリマーは、食品接触用途及び医療産業で広範に使用されてきた。食品及び/又は医療産業で利用されるポリマーの製造のために開発されたプロセスは、最終生成物の高純度の必要性に応じた技術を取り入れてきた。
【0004】
一般に、かかるポリマーの製造業者は、できる限り残留モノマーを少なくして、モノマーをポリマービーズ、樹脂、又は他のペレット化物若しくは粉末化物に変換するであろう。こうした形態のポリマーは、次いで、有用な物品を形成するために昇温でポリマーの押出し、ブロー成形、キャスト成膜、ブロー成膜、サーモフォーム、射出成形、又はファイバースピニングを行うエンドユーザーに販売される。以上のプロセスは、一般に、溶融処理を介して進行する。
【0005】
天然ラクチドポリマー又はポリラクチドは、ポリマー樹脂のエンドユーザー購入者による溶融処理時などの昇温処理時に不安定であることが一般に知られている。提案された反応経路の1つとしては、末端ヒドロキシル基がラクチドを形成する「バックバイティング」反応が挙げられる。他の提案された反応経路としては、「バックバイティング」反応でヒドロキシル末端基が環状オリゴマーを形成する反応、エステル結合の加水分解を介する鎖切断、新しい酸末端基及び不飽和炭素-炭素結合を生成する分子内ベータ脱離反応、及びラジカル鎖分解反応が挙げられる。ポリマーが生分解又はコンポスト化性の品質を維持してとても望ましいものになるようにしつつ、商業的に許容可能な速度まで溶融処理時のポリマーの分解を低減しならなければならないことは明らかである。それは重合に使用される触媒の脱活性化を介して達成される。というのは、非触媒ラクチド再形成が実用上関連性のない程度に十分に遅いからである。
【0006】
そのうえ、ラクチドの溶融重合は、典型的には1%を十分に下回るまで除去される必要のある熱力学平衡量の残留ラクチドをもたらすであろう。この除去を打ち消すのは厳密にはバックバイティング反応であり、この平衡を再確立することが望まれる。したがって、すでにポリラクチドの生成時及び残留ラクチドの除去前に、触媒バックバイティング反応を安定化により防止しなければならない。
【0007】
触媒ラクチド再形成を打ち消すために安定剤が使用されてきた。多くの異なる添加剤が提案されてきたが、大多数は、食品接触用途でまったく許容可能でないか(添加剤が関与する健康リスクが理由で)、又は非常に低いマイグレーション限界でのみ許容可能であるかのどちらかである。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
それゆえ、溶融処理に共通する昇温下で溶融安定であり且つ食品接触用途に好適なラクチドポリマー組成物の必要性が存在する。
【0009】
本開示は、こうした必要性に対処する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
第1の態様では、本発明は、環状エステルモノマーの開環重合による脂肪族ポリエステルを含む組成物の調製プロセスであって、プロセスが、
(a)環状エステルモノマー及び重合触媒を反応器に提供する工程と、
(b)前記環状エステルモノマーを溶融重合して脂肪族ポリエステルを含む組成物を形成する工程と、
(c)少なくとも1種の安定剤をそれに組み込むことにより又はそれに適用することにより脂肪族ポリエステル解重合に対して組成物を安定化させて溶融安定組成物を得る工程と、
(d)任意に、残留環状エステルモノマーの少なくとも一部分を除去する工程と、
を含み、
前記安定剤が、式(I)
【化1】
[式中、
1は、水素又はC1~6アルキルであり、
2は、水素、C1~6アルキル、HO-C(=O)-CH(NHR7)-(CH2n-C(=O)-、及びC1~6アルキルカルボニルを含む群から選択され、
3は、ヒドロキシル、C1~6アルコキシ、及び-NH-(CH2p-C(=O)-OHを含む群から選択され、
mは、0、1、又は2から選択される整数であり、nは、1又は2から選択される整数であり、pは、1又は2から選択される整数であり、
各R4は、独立して、水素又はC1~6アルキルから選択され、
各R5は、独立して、水素又はC1~6アルキルから選択され、
6は、水素又は式
【化2】
(ここで、*は、式(I)のSへの装着点を表す)
の基から選択され、及び
7は、水素、C1~6アルキル、及びC1~6アルキルカルボニルを含む群から選択される]
の化合物である、プロセスを提供する。
【0011】
第2の態様では、本発明は、本発明の第1の態様に係るプロセスにより直接得られる組成物を提供する。本発明はまた、かかる組成物の用途、たとえば造形物品の作製に関する。本発明の組成物は、食品接触用途にとくに好適である。
【0012】
第3の態様では、本発明は、解重合に対して脂肪族ポリエステルを安定化させるプロセスであって、(a)脂肪族ポリエステルを形成する工程と、(b)少なくとも1種の安定剤をそれに組み込むことにより又はそれに適用することにより解重合に対してポリエステルを安定化させて溶融安定ポリエステルを得る工程と、を含み、前記安定剤が、式(I)
【化3】
[式中、
1は、水素又はC1~6アルキルであり、
2は、水素、C1~6アルキル、HO-C(=O)-CH(NHR7)-(CH2n-C(=O)-、及びC1~6アルキルカルボニルを含む群から選択され、
3は、ヒドロキシル、C1~6アルコキシ、及び-NH-(CH2p-C(=O)-OHを含む群から選択され、
mは、0、1、又は2から選択される整数であり、
nは、1又は2から選択される整数であり、
pは、1又は2から選択される整数であり、
各R4は、独立して、水素又はC1~6アルキルから選択され、
各R5は、独立して、水素又はC1~6アルキルから選択され、
6は、水素又は式
【化4】
(ここで、*は、式(I)のSへの装着点を表す)
の基から選択され、及び
7は、独立して、水素、C1~6アルキル、及びC1~6アルキルカルボニルを含む群から選択される]
の化合物である、プロセスを提供する。
【0013】
第4の態様では、本発明はまた、脂肪族ポリエステル解重合に対する安定剤としての、式(I)
【化5】
[式中、
1は、水素又はC1~6アルキルであり、
2は、水素、C1~6アルキル、HO-C(=O)-CH(NHR7)-(CH2n-C(=O)-、及びC1~6アルキルカルボニルを含む群から選択され、
3は、ヒドロキシル、C1~6アルコキシ、及び-NH-(CH2p-C(=O)-OHを含む群から選択され、
mは、0、1、又は2から選択される整数であり、
nは、1又は2から選択される整数であり、
pは、1又は2から選択される整数であり、
各R4は、独立して、水素又はC1~6アルキルから選択され、
各R5は、独立して、水素又はC1~6アルキルから選択され、
6は、水素又は式
【化6】
(ここで、*は、式(I)のSへの装着点を表す)
の基から選択され、及び
7は、水素、C1~6アルキル、及びC1~6アルキルカルボニルを含む群から選択される]
の化合物の使用を提供する。
【0014】
本発明によれば、前記ポリエステル組成物、好ましくはポリラクチド組成物が、少なくとも1種の式(I)の化合物で、好ましくは溶融物中でのラクチドの発生を阻害するのに十分な量で安定化されたとき、溶融安定脂肪族ポリエステル組成物、好ましくは溶融安定ポリラクチド組成物が得られる。
【0015】
この群の模範的化合物は、L-システイン、L-シスチン、グルタチオン、及びN-アセチル-L-システインであり、これらの化合物は、既知の食品添加物であるので、食品接触用途に好ましい化学安定化対策を提供する。
【0016】
本発明の以上及び他の特性、特徴、及び利点は、例として本発明の原理を例示する下記の詳細な説明から明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】非安定化PLAサンプル及びL-システイン安定化PLAサンプルの複素粘度を時間の関数としてプロットしたグラフを表す。
図2】非安定化PLAサンプル及びL-シスチン安定化PLAサンプルの複素粘度を時間の関数としてプロットしたグラフを表す。
図3】非安定化PLAサンプル及びN-アセチル-L-システイン安定化PLAサンプルの複素粘度を時間の関数としてプロットしたグラフを表す。
図4】非安定化PLAサンプル及びグルタチオン安定化PLAサンプルの複素粘度を時間の関数としてプロットしたグラフを表す。
図5】いくつかの比較PLAサンプルの複素粘度を時間の関数としてプロットしたグラフを表す。
図6】いくつかの比較PLAサンプルの複素粘度を時間の関数としてプロットしたグラフを表す。
図7】いくつかの比較PLAサンプルの複素粘度を時間の関数としてプロットしたグラフを表す。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明を説明するときに用いられる用語は、とくに文脈上規定されない限り、下記の定義に従って解釈されるべきである。
【0019】
とくに定義がない限り、科学技術用語を含めて、本発明の開示に用いられる用語はすべて、本発明が属する技術分野の当業者が通常理解している意味を有する。さらなるガイダンスにより、本発明の教示をより良く認識するために用語の定義が含まれる。
【0020】
下記の節では、本発明のさまざま態様がより詳細に定義される。そのように定義される各態様は、明らかに相反する指定がない限り、いずれかの他の一態様又は複数の態様と組み合わされうる。特定的には、好ましい又は有利であるとして指示される特徴はいずれも、好ましい又は有利であるとして指示されるいずれかの他の一特徴又は複数の特徴と組み合わされうる。
【0021】
本明細書全体を通して「一実施形態」又は「ある実施形態」への言及は、本実施形態との関連で記載された特定の特徴、構造、又は特性が本発明の少なくとも一実施形態に含まれることを意味する。そのため、本明細書全体を通して「一実施形態では」又は「ある実施形態では」という語句が各種場所に現われても、必ずしもすべてが同一の実施形態を参照しているとは限らないが、そうであってもよい。さらに、当業者には本開示から明らかであろうが、特定の特徴、構造、又は特性は、1つ以上の実施形態でいずれかの好適な方式で組み合わされうる。さらに、本明細書に記載のいくつかの実施形態は、他の実施形態に含まれる、他のものではないいくつかの特徴を含むが、異なる実施形態の特徴の組合せは、当業者であれば理解されるであろうが、本発明の範囲内であり異なる実施形態を形成するものとみなされる。
【0022】
本明細書で用いられる「comprising(~を含む)」、「comprises(~を含む)」、及び「comprised of(~で構成される)」という用語は、「including(~を含む)」、「includes(~を含む)」、又は「containing(~を含有する)」、「contains(~を含有する)」と同義であるとともに、包括的又はオープンエンドであり、追加の列挙されなかったメンバー、要素、又は方法工程を除外するものではない。本明細書で用いられる「comprising(~を含む)」、「comprises(~を含む)」、及び「comprised of(~で構成される)」という用語は、「consisting of(~からなる)」、「consists(依拠する)」、及び「consists of(~からなる)」という用語を含むことは、分かるであろう。
【0023】
本明細書及び添付の特許請求の範囲で用いられる場合、単数形の「a」、「an」、及び「the」は、とくに文脈上明確に規定されない限り、複数形の参照語を含む。例として、「a step(工程)」とは、1つの工程又は2つ以上の工程を意味する。
【0024】
とくに定義がない限り、本明細書で用いられる科学技術用語はすべて、当業者により通常理解されるものと同一の意味を有する。本明細書で参照される刊行物のすべては、それを参照することにより組み込まれる。
【0025】
端点による数値範囲の列挙は、すべての整数及び適宜その範囲内に包含される小数を含む(たとえば、1~5は、たとえばいくつかの要素を参照したとき1、2、3、4を含みうるとともに、たとえば測定値を参照したとき1.5、2、2.75、及び3.80も含みうる)。端点の列挙は、端点の値自体も含む(たとえば、1.0~5.0は、1.0及び5.0の両方を含む)。本明細書に列挙された数値範囲はいずれも、それに包含されるすべての部分範囲を含むことが意図される。
【0026】
「置換」という用語が本発明で用いられる場合は常に、「置換」を用いた表現における指示原子上の1個以上の水素が、指示基からの選択で置き換えられることを意味するものとみなされる。ただし、指示原子の通常の価数を超えず、且つ置換が化学的に安定な化合物をもたらすものとする。基が置換可能な場合、かかる基は、1個以上、好ましくは1、2、又は3個の置換基で置換されうる。
【0027】
基又は基の一部としての「アルキル」という用語は、式Cn2n+1のヒドロカルビル基(式中、nは少なくとも1の数である)を意味する。アルキル基は、線状であっても分岐状であってもよく、本明細書に指示されるように置換されていてもよい。好ましくは、アルキル基は、1~6個の炭素原子、好ましくは1~5個の炭素原子、好ましくは1~4個の炭素原子、好ましくは1~3個の炭素原子、好ましくは1~2個の炭素原子を含む。炭素原子に続いて下付き文字が本明細書で用いられるとき、下付き文字は、指定基が含有しうる炭素原子の数を意味する。たとえば、基又は基の一部として「C1~6アルキル」という用語は、式Cn2n+1のヒドロカルビル基(式中、nは1~6の範囲内の数である)を意味する。たとえば、C1~6アルキルは、1~6個の炭素原子を有するすべての線状又は分岐状アルキル基を含むので、たとえば、メチル、エチル、n-プロピル、i-プロピル、2-メチルエチル、ブチル及びその異性体(たとえば、n-ブチル、i-ブチル、及びt-ブチル)、ペンチル及びその異性体、ヘキシル及びその異性体などを含む。たとえば、C1~4アルキルは、1~4個の炭素原子を有するすべての線状又は分岐状アルキル基を含むので、たとえば、メチル、エチル、n-プロピル、i-プロピル、2-メチル-エチル、ブチル及びその異性体(たとえば、n-ブチル、i-ブチル、及びt-ブチル)などを含む。
【0028】
「C1~6アルキルカルボニル」という用語は、アルキル基に連結されたカルボニル基、すなわち、-C(=O)Ra(式中、Raは、C1~6アルキルに対して以上に定義された通りである)を形成するものを意味する。
【0029】
「C1~6アルコキシ」という用語は、式-O-Raの基(式中、Raは、C1~6アルキルに対して以上に定義された通りである)を意味する。
【0030】
以上に記載の用語及び本明細書で用いられる他の用語は、当業者にはよく理解されている。
【0031】
本発明のプロセス、組成物、及び使用の好ましい記述(特徴)及び実施形態は、これ以降に定められる。そのように定義される本発明の各記述及び実施形態は、明らかに相反する指示がない限り、いずれかの他の記述及び/又は実施形態と組み合わされうる。特定的には、好ましい又は有利であるとして指示される特徴はいずれも、好ましい又は有利であるとして指示されるいずれかの他の特徴又は記述と組み合わされうる。これに関して、本発明は、特定的には、いずれかの他の態様及び/又は実施形態とともに、以下の番号付き記述及び実施形態のいずれか1つ又は1つ以上のいずれかの組合せにより把握される。
【0032】
1. 環状エステルモノマーの開環重合による脂肪族ポリエステルを含む組成物の調製プロセスであって、前記プロセスが、(a)環状エステルモノマー及び重合触媒を反応器に提供する工程と、(b)前記環状エステルモノマーを溶融重合して脂肪族ポリエステルを含む組成物を形成する工程と、(c)少なくとも1種の式(I)の化合物をそれに組み込む又はそれに適用する工程と、(d)任意に残留(未反応)環状エステルモノマーの少なくとも一部分を除去する工程と、を含み、
【化7】
[式中、
1は、水素又はC1~6アルキルであり、
2は、水素、C1~6アルキル、HO-C(=O)-CH(NHR7)-(CH2n-C(=O)-、及びC1~6アルキルカルボニルを含む群から選択され、
3は、ヒドロキシル、C1~6アルコキシ、及び-NH-(CH2p-C(=O)-OHを含む群から選択され、
mは、0、1、又は2から選択される整数であり、
nは、1又は2から選択される整数であり、
pは、1又は2から選択される整数であり、
各R4は、独立して、水素又はC1~6アルキルから選択され、
各R5は、独立して、水素又はC1~6アルキルから選択され、
6は、水素又は式
【化8】
(ここで、*は、式(I)のSへの装着点を表す)
の基から選択され、及び
7は、水素、C1~6アルキル、及びC1~6アルキルカルボニルを含む群から選択される]
プロセス。
【0033】
2. 環状エステルモノマーの開環重合による脂肪族ポリエステルを含む組成物の調製プロセスであって、前記プロセスが、
(a)環状エステルモノマー及び重合触媒を反応器に提供する工程と、
(b)前記環状エステルモノマーを溶融重合して脂肪族ポリエステルを含む組成物を形成する工程と、
(c)少なくとも1種の安定剤をそれに組み込むことにより又はそれに適用することにより脂肪族ポリエステル解重合に対して組成物を安定化させて溶融安定組成物を得る工程と、
(d)任意に残留環状エステルモノマーの少なくとも一部分を除去する工程と、
を含み、前記安定剤が、式(I)
【化9】
[式中、
1は、水素又はC1~6アルキルであり、
2は、水素、C1~6アルキル、HO-C(=O)-CH(NHR7)-(CH2n-C(=O)-、及びC1~6アルキルカルボニルを含む群から選択され、
3は、ヒドロキシル、C1~6アルコキシ、及び-NH-(CH2p-C(=O)-OHを含む群から選択され、
mは、0、1、又は2から選択される整数であり、
nは、1又は2から選択される整数であり、
pは、1又は2から選択される整数であり、
各R4は、独立して、水素又はC1~6アルキルから選択され、
各R5は、独立して、水素又はC1~6アルキルから選択され、
6は、水素又は式
【化10】
(ここで、*は、式(I)のSへの装着点を表す)
の基から選択され、及び
7は、水素、C1~6アルキル、及びC1~6アルキルカルボニルを含む群から選択される]
の化合物である、プロセス。
【0034】
3. 前記脂肪族ポリエステルが、ラクチドの開環重合により調製されるポリラクチドであり、前記プロセスが、(a)ラクチド及び重合触媒を反応器に提供する工程と、(b)前記ラクチドを溶融重合してポリラクチドを含む組成物を形成する工程と、(c)少なくとも1種の式(I)の化合物をそれに組み込む又はそれに適用する工程と、(d)任意に残留(未反応)ラクチドの少なくとも一部分を除去する工程と、を含む、記述1又は2に記載のプロセス。
【0035】
4. 前記脂肪族ポリエステルが、ラクチドの開環重合により調製されるポリラクチドであり、前記プロセスが、(a)ラクチド及び重合触媒を反応器に提供する工程と、(b)前記ラクチドを溶融重合してポリラクチドを含む組成物を形成する工程と、(c)少なくとも1種の安定剤(ただし、前記安定剤は少なくとも1種の式(I)の化合物である)をそれに組み込むことにより又はそれに適用することによりポリラクチド解重合に対して組成物を安定化させて溶融安定組成物を得る工程と、(d)任意に残留ラクチドの少なくとも一部分を除去する工程と、を含む、記述1~3のいずれか一つに記載のプロセス。
【0036】
5. 前記式(I)の化合物がポリラクチド組成物の溶融物中でのラクチドの発生を阻害する、記述1~4のいずれか一つに記載のプロセス。
【0037】
6. R1が、水素であり、
2が、水素、C1~6アルキル、HO-C(=O)-CH(NHR7)-(CH2n-C(=O)-、及びC1~6アルキルカルボニルを含む群から選択され、
3が、ヒドロキシル又は-NH-CH2-C(=O)-OHであり、
mが、1又は2から選択される整数であり、
nが、1又は2から選択される整数であり、
pが、1又は2から選択される整数であり、
各R4及びR5が、水素であり、
6が、水素又は式
【化11】
の基から選択され、及び
7が、水素である、
記述1~5のいずれか一つに記載のプロセス。
【0038】
7. 式(I)の化合物が、システイン、シスチン、N-アセチル-システイン、N-アセチル-シスチン、グルタチオン、それらの立体異性体、及びそれらの混合物を含む群から選択される、記述1~6のいずれか一つに記載のプロセス。
【0039】
8. 式(I)の化合物が、ポリラクチドの合計重量を基準にして少なくとも0.010重量%、好ましくは少なくとも0.025重量%の量で存在する、記述1~7のいずれか一つに記載のプロセス。たとえば、前記式(I)の化合物は、前記脂肪族ポリエステル組成物、好ましくは前記ポリラクチド組成物の合計重量を基準にして少なくとも0.010重量%、たとえば少なくとも0.020重量%、たとえば少なくとも0.050重量%、たとえば少なくとも0.075重量%、たとえば少なくとも0.090重量%、たとえば少なくとも0.10重量%の量でそれに組込み可能又はそれに適用可能である。たとえば、前記式(I)の化合物は、前記脂肪族ポリエステル組成物、好ましくは前記ポリラクチド組成物の合計重量を基準にして多くとも0.50重量%の量でそれに組込み可能又はそれに適用可能である。たとえば、前記式(I)の化合物は、前記脂肪族ポリエステル組成物、好ましくは前記ポリラクチド組成物の合計重量を基準にして多くとも0.30重量%、たとえば多くとも0.20重量%、たとえば多くとも0.18重量%、たとえば多くとも0.15重量%の量でそれに組込み可能又はそれに適用可能である。
【0040】
9. 式(I)の化合物が、前記脂肪族ポリエステル組成物、好ましくは前記ポリラクチド組成物の合計重量を基準にして0.010重量%~0.5重量%、たとえば0.025重量%~0.5重量%、好ましくは0.050重量%~0.40重量%、たとえば0.075重量%~0.30重量%、たとえば少なくとも0.090重量%~0.20重量%、たとえば0.095重量%~0.15重量%の範囲内の量でそれに組み込まれる又はそれに適用される、記述1~8のいずれか一つに記載のプロセス。
【0041】
10. 工程(c)の前又は工程(c)と同時に少なくとも1種の酸化防止剤を添加することを含む、記述1~9のいずれか一つに記載のプロセス。
【0042】
11. UV吸収剤及び/又は光安定剤などの添加剤をさらに含む、記述1~10のいずれか一つに記載のプロセス。
【0043】
12. 工程(c)と同時又はその後に組成物が1つ以上の脱揮発工程(d)に付される、記述1~11のいずれか一つに記載のプロセス。
【0044】
13. 重合がそのラクチド平衡に達した後に工程(c)が実施される、記述1~12のいずれか一つに記載のプロセス。
【0045】
14. 重合プロセスがバッチ溶融プロセス又は連続溶融プロセスである、記述1~13のいずれか一つに記載のプロセス。
【0046】
15. i)第1の重合のためにラクチド及び重合触媒を連続混合反応器に連続提供する工程と、ii)前記第1の重合反応混合物を連続混合反応器から連続除去して前記第1の重合反応混合物を栓流反応器に連続提供する工程と、iii)組成物を栓流反応器から連続除去する工程と、(iv)少なくとも1種の式(I)の化合物をそれに組み込む又はそれに適用する工程と、を含む、記述1~14のいずれか一つに記載のプロセス。
【0047】
16. 第1の反応器がループ反応器である、記述15に記載のプロセス。
【0048】
17. 第1の反応器が連続撹拌タンク反応器である、記述15に記載のプロセス。
【0049】
18. 連続混合反応器及び/又は栓流反応器がスタティックミキサー反応器である、記述15に記載のプロセス。
【0050】
19. 重合が、少なくとも100℃、たとえば少なくとも110℃、たとえば少なくとも120℃、たとえば少なくとも130℃で実施される、記述1~18のいずれか一つに記載のプロセス。
【0051】
20. 前記組成物がポリラクチド及び少なくとも1種の安定剤を含み、前記安定剤が式(I)の化合物である、記述1~19のいずれか一つに記載のプロセスにより直接得られる組成物。
【0052】
21. 解重合に対して脂肪族ポリエステルを安定化させるプロセスであって、少なくとも1種の式(I)
【化12】
[式中、
1は、水素又はC1~6アルキルであり、
2は、水素、C1~6アルキル、HO-C(=O)-CH(NHR7)-(CH2n-C(=O)-、及びC1~6アルキルカルボニルを含む群から選択され、
3は、ヒドロキシル、C1~6アルコキシ、及び-NH-(CH2p-C(=O)-OHを含む群から選択され、
mは、0、1、又は2から選択される整数であり、
nは、1又は2から選択される整数であり、
pは、1又は2から選択される整数であり、
各R4は、独立して、水素又はC1~6アルキルから選択され、
各R5は、独立して、水素又はC1~6アルキルから選択され、
6は、水素又は式
【化13】
(ここで、*は、式(I)のSへの装着点を表す)
の基から選択され、及び
7は、水素、C1~6アルキル、及びC1~6アルキルカルボニルを含む群から選択される]
の化合物をそれに組み込むこと又はそれに適用することを含む、プロセス。
【0053】
22. 解重合に対して脂肪族ポリエステルを安定化させるプロセスであって、(a)脂肪族ポリエステルを形成する工程と、(b)少なくとも1種の安定剤をそれに組み込むことにより又はそれに適用することにより解重合に対してポリエステルを安定化させて溶融安定ポリエステルを得る工程と、を含み、前記安定剤が、式(I)
【化14】
[式中、
1は、水素又はC1~6アルキルであり、
2は、水素、C1~6アルキル、HO-C(=O)-CH(NHR7)-(CH2n-C(=O)-、及びC1~6アルキルカルボニルを含む群から選択され、
3は、ヒドロキシル、C1~6アルコキシ、及び-NH-(CH2p-C(=O)-OHを含む群から選択され、
mは、0、1、又は2から選択される整数であり、
nは、1又は2から選択される整数であり、
pは、1又は2から選択される整数であり、
各R4は、独立して、水素又はC1~6アルキルから選択され、
各R5は、独立して、水素又はC1~6アルキルから選択され、
6は、水素又は式
【化15】
(ここで、*は、式(I)のSへの装着点を表す)
の基から選択され、
7は、水素、C1~6アルキル、及びC1~6アルキルカルボニルを含む群から選択される]
の化合物である、プロセス。
【0054】
23. 前記脂肪族ポリエステルが乳酸系ポリエステル、好ましくはポリ乳酸である、記述21~22のいずれか一つに記載のプロセス。
【0055】
24. 前記式(I)の化合物が、システイン、シスチン、N-アセチル-システイン、N-アセチル-シスチン、グルタチオン、それらの立体異性体、及びそれらの混合物を含む群から選択される、記述21~23のいずれか一つに記載のプロセス。
【0056】
25. 前記式(I)の化合物が、前記脂肪族ポリエステルの合計重量を基準にして少なくとも0.025重量%の量でそれに組み込まれる又はそれに適用される、記述21~24のいずれか一つに記載のプロセス。
【0057】
26. 少なくとも1種の酸化防止剤を組み込むこと又は適用することを含む、記述21~25のいずれか一つに記載のプロセス。
【0058】
27. 脂肪族ポリエステル解重合に対する安定剤としての、式(I)
【化16】
[式中、
1は、水素又はC1~6アルキルであり、
2は、水素、C1~6アルキル、HO-C(=O)-CH(NHR7)-(CH2n-C(=O)-、及びC1~6アルキルカルボニルを含む群から選択され、
3は、ヒドロキシル、C1~6アルコキシ、及び-NH-(CH2p-C(=O)-OHを含む群から選択され、
mは、0、1、又は2から選択される整数であり、
nは、1又は2から選択される整数であり、
pは、1又は2から選択される整数であり、
各R4は、独立して、水素又はC1~6アルキルから選択され、
各R5は、独立して、水素又はC1~6アルキルから選択され、
6は、水素又は式
【化17】
(ここで、*は、式(I)のSへの装着点を表す)
の基から選択され、及び
7は、水素、C1~6アルキル、及びC1~6アルキルカルボニルを含む群から選択される]
の化合物の使用。
【0059】
28. 前記脂肪族ポリエステルがポリラクチドである、記述27に記載の使用。
【0060】
29. ポリラクチド組成物の溶融物中でのラクチドの発生を阻害するための、ポリラクチド組成物における少なくとも1種の式(I)の化合物の使用。
【0061】
30. 前記式(I)の化合物が、システイン、シスチン、N-アセチル-システイン、N-アセチル-シスチン、グルタチオン、それらの立体異性体、及びそれらの混合物を含む群から選択される、記述27~29のいずれか一つに記載の使用。
【0062】
31. 前記組成物が、ビタミンや有機ホスファイト酸化防止剤などの少なくとも1種の酸化防止剤をさらに含む、記述29~30のいずれか一つに記載の使用。
【0063】
本発明によれば、環状エステルモノマーの開環重合による脂肪族ポリエステルを含む安定化組成物の調製プロセスが提供される。前記プロセスは、(a)環状エステルモノマー及び重合触媒を反応器に提供する工程と、(b)前記環状エステルモノマーを溶融重合して脂肪族ポリエステルを含む組成物を形成する工程と、(c)式(I)の化合物である少なくとも1種の安定剤をそれに組み込むことにより又はそれに適用することにより脂肪族ポリエステル解重合に対して組成物を安定化させて溶融安定組成物を得る工程と、(d)任意に残留環状エステルモノマーの少なくとも一部分を除去する工程と、を含む。
【0064】
好ましくは、前記プロセスは、ポリラクチドを含む組成物が式(I)の化合物で安定化されたとき、溶融安定ポリエステル組成物、好ましくはポリラクチド組成物を得ることを可能にし、好ましくは、前記化合物は、溶融物中でのラクチドの発生を阻害するのに十分な量で使用される。
【0065】
好ましくは、溶融安定ポリラクチドは、既存又は市販の溶融処理装置で処理される溶融処理温度で安定粘度を有するとともに十分に低いラクチド再形成速度を有することにより、同一温度で処理時の分解量が最終ポリマー物品の物理的性質に実質的に影響を及ぼしたり処理装置に有意なプレーティングやファウリングを引き起こしたりしないポリマーである。こうした物理的性質としては、分子量及び粘度さらには本明細書に開示される他のものが挙げられる。
【0066】
溶融安定性の試験は、ポリラクチドの脱揮発サンプルを大気圧で250℃に20分間加熱することと、ラクチド発生の重量パーセントを測定することと、を含みうる。
【0067】
本発明は、溶媒の実質的不在下で行われる重合を用いた組成物の調製すなわち溶融重合に関する。所望により、マイナー量の溶媒をプロセス時に存在させてもよく、たとえば、触媒又はさらなる反応成分のための溶媒として添加してもよい。プロセスは、好ましくは、反応混合物が反応混合物の合計重量を基準にして5重量%未満の溶媒、好ましくは2重量%未満、より好ましくは1重量%未満、さらにより好ましくは0.5%重量未満の溶媒を含有する状況を包含することが意図される。
【0068】
重合プロセスは、バッチ溶融プロセス又は連続溶融プロセスでありうる。
【0069】
重合は、好ましくは、乾燥窒素下やアルゴンガスシール下などのイナート条件で実施される。
【0070】
開環重合は、少なくとも100℃の温度で実施可能である。たとえば、重合は、100℃~240℃、好ましくは100℃~220℃、さらにより好ましくは100℃~200℃の範囲内の温度で実施可能である。
【0071】
反応器に提供される主反応剤は、ラクチド及び重合触媒を含む。所望により、追加の成分、たとえば、共触媒、分子量制御用開始剤、及び/又は添加剤も添加されうる。成分は、純物質若しくは溶媒のどちらかで反応器に直接添加可能であるか、又は反応剤(のいくつか)は、反応器への添加前に組み合わされうる。添加剤の添加ポイントは、添加剤の機能に依存するであろう。たとえば、酸化防止剤は、第1の重合前に添加されうるが、一方、触媒失活剤は、重合完了後に一般に添加される。
【0072】
好適な環状エステルモノマーは、環中の5~7個の共有結合炭素原子と、環中の少なくとも1個、一般的には1又は2個の酸素原子と、環中の酸素原子に隣接する炭素原子上に置換されたカルボニル酸素原子(一緒になってエステル結合を生成する)と、を包含するモノマーである。環中に2個以上の酸素原子が存在する場合、すべての又はちょうど1個の酸素原子の隣接炭素原子上に酸素原子が置換されうる。環中の炭素原子は、C1~4アルキル基で置換されうる。好適なモノマーとしては、ラクチド、グリコリド、トリメチレンカーボネート、イプシロン-カプロラクトン、p-ジオキサノン、及びそれらの混合物が挙げられる。2タイプ以上のモノマーが使用される場合、ポリエステルコポリマーが得られるであろう。
【0073】
ラクチドは、グリコリド、トリメチレンカーボネート、及びイプシロン-カプロラクトンの1種以上との組合せか否かにかかわらず、出発材料として使用される好ましい環状エステルモノマーである。本発明に使用されるラクチドは、L-ラクチド(2個のL-乳酸分子から誘導される)、D-ラクチド(2個のD-乳酸分子から誘導される)、meso-ラクチド(L-乳酸分子及びD-乳酸分子から誘導される)、又は上記の2種以上の混合物。約126℃の融点を有するL-ラクチドとD-ラクチドとの50/50混合物は、文献では、D,L-ラクチド又はrac-ラクチドといわれることが多い。上述したラクチドの混合物もまた、本プロセスで使用するのに好適である。
【0074】
いくつかの実施形態では、出発材料として使用されるラクチドは、50重量%までの他のラクチドを含むL-ラクチドである。たとえば、出発材料として使用されるラクチドは、50~10%D-ラクチドを含有するL-ラクチドでありうる。他の実施形態では、ラクチドは、実質的に純粋なL-ラクチドであり、この場合、実質的に純粋なという表現は、10重量%まで、たとえば5重量%まで又は1重量%までの他のラクチドを含有しうることを意味する。他の実施形態では、ラクチドは、実質的に純粋なD-ラクチドであり、この場合、実質的に純粋なという表現は、10重量%まで、たとえば5重量%まで又は1重量%までの他のラクチドを含有しうることを意味する。
【0075】
本プロセスに利用される重合触媒は、一般式M(Y1,Y2,…Ypqを有しうる。式中、Mは、元素周期表の3~12列の元素を含む群から選択される金属、さらには元素Al、Ga、In、Tl、Ge、Sn、Pb、Sb、Ca、Mg、及びBiであり;一方、Y1、Y2、…Ypは、各々、1~20個の炭素原子を有する線状又は分岐状アルキル、6~30個の炭素原子を有するアリール、1~20個の炭素原子を有するアルコキシ、6~30個の炭素原子を有するアリールオキシ、並びに他のオキサイド基、カルボキシレート基、及びハライド基、さらには周期表の第15及び/又は16族の元素を含む群から選択される置換基であり、p及びqは、1~6の整数である。好適な触媒の例として、とりわけ、Sn、Ti、Zr、Zn、及びBiの触媒、好ましくはアルコキサイド又はカルボキシレート、より好ましくはSn(Oct)2、Ti(OiPr)4、Ti(2-エチルヘキサノエート)4、Ti(2-エチルヘキシルオキサイド)4、Zr(OiPr)4、国際公開第2014/177543号パンフレットに挙げられるジルコニウムトリス(フェノラート)、(2,4-ジ-tert-ブチル-6-(((2-(ジメチルアミノ)エチル(メチル)アミノ)メチル)フェノキシ)(エトキシ)亜鉛、又はZn(ラクテート)2が挙げられうる。
【0076】
触媒濃度は、金属重量として計算したとき、一般的には少なくとも5ppm、より特定的には少なくとも10ppm、たとえば少なくとも30ppm、たとえば少なくとも40ppmでありうる。触媒濃度は、一般的には多くとも300ppm、特定的には多くとも150ppmでありうる。
【0077】
所望により、共触媒、すなわち、重合速度をさらに増加させる化合物をラクチド及び触媒に添加しうる。好適な共触媒は、当技術分野で公知である。たとえば、米国特許第6,166,169号明細書を参照されたい。
【0078】
本プロセスは、式R9-OHの共開始剤の存在下で実施可能である。式中、R9は、ハロゲン、ヒドロキシル、及びC1~6アルキルからなる群から選択される1個以上の置換基により任意に置換されていてもよいC1~20アルキル、C6~30アリール、及びC6~30アリールC1~20アルキルからなる群から選択される。好ましくは、R9は、ハロゲン、ヒドロキシル、及びC1~6アルキルからなる群から各々独立して選択される1個以上の置換基により任意に置換されていてもよいC3~12アルキル、C6~10アリール、及びC6~10アリールC1~12アルキルから選択され、好ましくは、R9は、ハロゲン、ヒドロキシル、及びC1~4アルキルからなる群から各々独立して選択される1個以上の置換基により任意に置換されていてもよいC3~12アルキル、C6~10アリール、及びC6~10アリールC1~12アルキルから選択される。開始剤は、モノアルコールでありうる。アルコールは、ポリオール、たとえば、ジオール、トリオール、又はより高級の機能性多価アルコールでありうる。アルコール、たとえば、グリセロール又はプロパンジオール又はいずれかの他の糖系アルコールなど、たとえばエリトリトールなどは、バイオマスから誘導されうる。アルコールは、単独又は他のアルコールとの組合せで使用可能である。ある実施形態では、開始剤の非限定的例としては、1-オクタノール、1-デカノール、イソプロパノール、プロパンジオール、トリメチロールプロパン、2-ブタノール、3-ブテン-2-オール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,7-ヘプタンジオール、ベンジルアルコール、4-ブロモフェノール、1,4-ベンゼンジメタノール、及び(4-トリフルオロメチル)ベンジルアルコールが挙げられ、好ましくは、前記化合物は、1-オクタノール、イソプロパノール、及び1,4-ブタンジオールから選択される。アミン基のような他の求核基をさらに有する類似の開始剤もまた、使用されうるものと理解される。ヒドロキシル末端基やアミン末端基のような好適な末端基を含有する限り、マクロ分子もまた、開始剤として使用されうる。
【0079】
適切な共触媒、開始剤、及び任意の添加剤、たとえば、酸化防止剤、ホスフェート、エポキシ化植物油、可塑剤、触媒キラーなどの選択は、当業者の範囲内である。
【0080】
好ましくは、重合反応はラクチド平衡まで進められる。変換は、重合直後に、又は中IR、近IR、ラマン分光などのオンライン技術により、たとえば、ラマン分光でオンラインによりリアルタイムに、及びガスクロマトグラフィーによりオフラインで決定できる。
【0081】
一実施形態では、こうして得られた組成物は、組成物のモノマー含有率を低減するために脱揮発工程に付される。脱揮発工程の前又はそれと同時に、組成物は、少なくとも1種の式(I)の化合物を用いて安定化工程に付される。
【0082】
したがって、本発明はまた、解重合に対して脂肪族ポリエステル組成物を安定化させるプロセスであって、少なくとも1種の式(I)の化合物をそれに組み込むこと又はそれに適用することを含むプロセスを包含する。好ましくは、解重合に対して脂肪族ポリエステルを安定化させる前記プロセスは、(a)脂肪族ポリエステルを形成する工程と、(b)少なくとも1種の安定剤をそれに組み込むことにより又はそれに適用することにより解重合に対してポリエステルを安定化させて溶融安定ポリエステルを得る工程と、を含み、前記安定剤は式(I)の化合物である。
【0083】
本発明はまた、脂肪族ポリエステル解重合に対する、好ましくはポリラクチド解重合に対する安定剤としての、式(I)の化合物の使用を包含する。本発明はまた、ポリラクチド組成物の溶融物中でのラクチドの発生を阻害するための、ポリラクチド組成物における少なくとも1種の式(I)の化合物の使用を包含する。
【0084】
前記式(I)の化合物は、前記脂肪族ポリエステル組成物の合計重量の重量基準で少なくとも0.010重量%、たとえば、前記脂肪族ポリエステル組成物、好ましくは前記ポリラクチド組成物の合計重量を基準にして少なくとも0.025重量%の量でそれに組込み可能又はそれに適用可能である。たとえば、前記式(I)の化合物は、前記脂肪族ポリエステル組成物、好ましくは前記ポリラクチド組成物の合計重量を基準にして少なくとも0.050重量%、たとえば少なくとも0.075重量%、たとえば少なくとも0.090重量%、たとえば少なくとも0.10重量%の量でそれに組込み可能又はそれに適用可能である。たとえば、前記式(I)の化合物は、前記脂肪族ポリエステル組成物、好ましくは前記ポリラクチド組成物の合計重量を基準にして多くとも0.50重量%の量でそれに組込み可能又はそれに適用可能である。たとえば、前記式(I)の化合物は、前記脂肪族ポリエステル組成物、好ましくは前記ポリラクチド組成物の合計重量を基準にして多くとも0.30重量%、たとえば多くとも0.20重量%、たとえば多くとも0.18重量%、たとえば多くとも0.15重量%の量でそれに組込み可能又はそれに適用可能である。
【0085】
好適な式(I)の化合物は、
1が、水素又はC1~6アルキルであり、好ましくはR1が、水素又はC1~4アルキルであり、好ましくはR1が、水素又はC1~2アルキルであり、好ましくはR1が、水素又はメチルであり、好ましくはR1が、水素であり、
2が、水素、C1~6アルキル、HO-C(=O)-CH(NHR7)-(CH2n-C(=O)-、及びC1~6アルキルカルボニルを含む群から選択され、好ましくはR2が、水素、C1~4アルキル、HO-C(=O)-CH(NH2)-(CH22-C(=O)-、及びC1~4アルキルカルボニルを含む群から選択され、好ましくはR2が、水素、C1~2アルキル、HO-C(=O)-CH(NH2)-(CH22-C(=O)-、及びC1~2アルキルカルボニルを含む群から選択され、好ましくはR2が、水素、メチル、エチル、HO-C(=O)-CH(NH2)-(CH22-C(=O)-、及びメチルカルボニルを含む群から選択され、
3が、ヒドロキシル、C1~6アルコキシ、及び-NH-(CH2p-C(=O)-OHを含む群から選択され、好ましくはR3が、ヒドロキシル、C1~4アルコキシ、及び-NH-(CH2p-C(=O)-OHを含む基から選択され、好ましくはR3が、ヒドロキシル、C1~2アルコキシ、及び-NH-CH2-C(=O)-OHを含む基から選択され、好ましくはR3が、ヒドロキシル、メトキシ、及び-NH-CH2-C(=O)-OHを含む群から選択され、好ましくはR3が、ヒドロキシル又は-NH-(CH2p-C(=O)-OHであり、
mが、0、1、又は2から選択される整数であり、好ましくはmが、1又は2から選択される整数であり、好ましくはmが、1であり、
nが、1又は2から選択される整数であり、好ましくはnが、2であり、
pが、1又は2から選択される整数であり、好ましくはpが、1であり、
各R4が、独立して、水素又はC1~6アルキルから選択され、好ましくは各R4が、独立して、水素又はC1~4アルキルから選択され、好ましくは各R4が、独立して、水素又はC1~2アルキルから選択され、好ましくは各R4が、独立して、水素又はメチルから選択され、好ましくは各R4が、水素であり、
各R5が、独立して、水素又はC1~6アルキルから選択され、好ましくは各R5が、独立して、水素又はC1~4アルキルから選択され、好ましくは各R5が、独立して、水素又はC1~2アルキルから選択され、好ましくは各R5が、独立して、水素又はメチルから選択され、好ましくは各R5が、水素であり、
6が、水素又は式
【化18】
(ここで、*は、式(I)のSへの装着点を表す)
の基から選択され、及び
7が、水素、C1~6アルキル、及びC1~6アルキルカルボニルを含む基から選択され、好ましくはR7が、水素又はC1~4アルキルから選択され、好ましくはR7が、水素又はC1~2アルキルから選択され、好ましくはR7が、水素又はメチルから選択され、好ましくはR7が、水素である、
化合物である。
【0086】
好ましい式(I)の化合物は、R1が、水素であり、R2が、水素、C1~6アルキル、HO-C(=O)-CH(NHR7)-(CH2n-C(=O)-、及びC1~6アルキルカルボニルを含む群から選択され、R3が、ヒドロキシル又は-NH-CH2-C(=O)-OHであり、mが、1又は2から選択される整数であり、nが、2であり、pが、1であり、各R4及びR5が、水素であり、R6が、水素又は式
【化19】
の基から選択され、及びR7が、水素である、化合物である。
【0087】
好ましい式(I)の化合物は、R1が、水素であり、R2が、水素、HO-C(=O)-CH(NH2)-(CH22-C(=O)-、及びメチルカルボニルを含む群から選択され、R3が、ヒドロキシル又は-NH-CH2-C(=O)-OHであり、mが、1であり、nが、2であり、pが、1であり、各R4及びR5が、水素であり、R6が、水素又は式
【化20】
の基から選択される、化合物である。
【0088】
好ましくは、前記式(I)の化合物は、システイン、シスチン、N-アセチル-システイン、N-アセチル-シスチン、グルタチオン、それらの立体異性体、及びそれらの混合物を含む群から選択される。最も好ましい化合物は、L-システイン、L-シスチン、N-アセチル-L-システイン、N-アセチル-L-シスチン、グルタチオン、D-システイン、D-シスチン、N-アセチル-D-システイン、N-アセチル-D-シスチン、及びそれらの混合物である。
【0089】
とくに明記されていない限り、化合物の化学表記は、すべての可能な立体化学異性形の混合物を表し、前記混合物は、基本分子構造のジアステレオマー及びエナンチオマー(式(I)の化合物が少なくとも1つのキラル中心を有するため)さらには立体化学的に純粋な又は富化された化合物をすべて含有する。本明細書で用いられる場合、とくに明記されていない限り、「エナンチオマー」という用語は、少なくとも80%(すなわち、あるエナンチオマーが少なくとも90%且つ他のエナンチオマーが多くとも10%)、好ましくは少なくとも90%、より好ましくは少なくとも98%の光学純度又はエナンチオマー過剰率(当技術分野の標準的方法により決定される)を有する化合物の各個別光学活性形を意味する。
【0090】
式(I)の化合物を添加することに加えて、酸化防止剤や他の安定剤などのさらなる添加剤を組成物に添加可能である。
【0091】
安定化に好適な追加化合物の非限定的例としては、酸化防止剤、たとえば、ビタミン、ホスファイト含有化合物、多官能性カルボン酸、ヒンダードフェノール系化合物、有機ペルオキシド、触媒失活剤、たとえば、ヒンダードアルキル、アリール、及びフェノール系ヒドラジド、脂肪族及び芳香族のモノ及びジカルボン酸のアミド、環状アミド、脂肪族及び芳香族アルデヒドのヒドラゾン及びビスヒドラゾン、脂肪族及び芳香族のモノ及びジカルボン酸のヒドラジド、ビスアシル化ヒドラジン誘導体、ヘテロ環式化合物、アンハイドライドによるエンドキャッピング、及びそれらの混合物が挙げられる。
【0092】
好ましい酸化防止剤は、ホスファイト含有化合物、ヒンダードフェノール系化合物、又は他のフェノール系化合物である。酸化防止剤としては、トリアルキルホスファイト、混合アルキル/アリールホスファイト、アルキル化アリールホスファイト、立体障害アリールホスファイト、脂肪族スピロ環式ホスファイト、立体障害フェニルスピロ環式化合物、立体障害ビスホスホナイト、ビタミン、ヒドロキシフェニルプロピオネート、ヒドロキシベンジル、アルキリデンビスフェノール、アルキルフェノール、芳香族アミン、チオエーテル、ヒンダードアミン、ハイドロキノン、それらの混合物などの化合物が挙げられる。
【0093】
好ましくは、酸化防止剤は、式(II)又は(III):
【化21】
(式中、R40、R41、R42、及びR43は、独立して、C1~8アルキルであり、又はR40及びR42は、独立して、水素であってもよく、R44、R45、及びR46は、独立して、水素又はC1~8アルキルである)
の化合物でありうるホスファイトである。
【0094】
好適なホスファイトとしては、限定されるものではないが、
【化22】
が挙げられる。
【0095】
本明細書に挙げられる添加剤及び安定剤の大部分は、市販されている。
【0096】
ポリマーは、安定化用化合物と組成物とをたとえば重合温度と同程度の温度で混ぜることにより、安定化化合物で処理される。これは、スタティックミキサー、押出し機、又は少なくとも1種がきわめて粘性である材料を混合するいずれかの他の従来法を利用して行うことが可能である。
【0097】
組成物はまた、脱揮発工程(d)に付すことも可能である。脱揮発工程は、溶融又は固形ポリマーから揮発性物質とくに未反応モノマーを除去するために行われる。揮発性物質は、減圧下たとえば真空下で温度を増加させて除去される。
【0098】
脱揮発器の例としては、押出し機とりわけ2軸スクリュー押出し機、ワイプフィルム蒸発器、フォーリングフィルム蒸発器、ロータリー脱揮発器、ロータリーディスク脱揮発器、遠心分離脱揮発器、フラットプレート脱揮発器、及び静的膨張チャンバー、たとえば、欧州特許第1800724号明細書に記載のSulzer脱揮発技術などの特殊ディストリビューターが関与するものが挙げられる。
【0099】
静的膨張チャンバーの使用が考慮されうるとともに、各種段階及び/又は各種タイプの装置の組合せでの脱揮発もまた可能である。脱揮発を促進するために、窒素などのストリッピングガスを1つ又は複数の段階に適用可能である。脱揮発はまた、重合後の固形状態を介して、又は真空下若しくは不活性ガスフロー下での固形ペレット化物の乾燥により、たとえばタンブル乾燥機で、行われうる。任意に、乾燥工程前に結晶化工程が実施されうる。
【0100】
次いで、組成物は、有用な物品を形成するために、押出し、ブロー成形、フィルムキャスティング、フィルムブローイング、サーモフォーミング、フォーミング、又は昇温ファイバースピニングによりさらに最終使用に向けて直接処理可能である。所望により、ポリマーは、酸化防止剤、核形成剤、鉱物充填剤、ガラス繊維若しくは天然繊維、処理助剤、UV安定剤、又は当業者に公知の他のポリマー添加剤などの添加剤とコンパウンドされうる。
【0101】
また、当技術分野で公知の方式によりビーズ、チップ、又は他のペレット化物若しくは粉末化物などの粒子に組成物を処理してからエンドユーザーに販売することも可能である。
【0102】
本発明は、下記の実施例により明らかにされるであろうが、それらに又はそれらにより限定されるものではない。
【実施例
【0103】
材料
使用する場合は下記の化学品
・ラクチド:Puralact L B3樹脂グレード、Corbion Thailand、≧99%(w/w)
・開始剤:2-エチル-1-ヘキサノール、Acros、99%
・触媒及び溶媒:TinOctoate、Sigma、92.5~100.0%、トルエン、Fisher、99.8+%、分析用
・表Aに列挙された試験安定剤:
【0104】
【表1】
【0105】
分析
絶対分子量
絶対分子量パラメーターMn、Mw、及び多分散性指数(PDI)は、とくに記載がない限り、光散乱検出によりゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)を用いて決定された。特定的には、0.7mL/minの流量で溶媒として0.02M CF3COOK入り1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロ-2-プロパノール(ヘキサフルオロイソプロパノール又はHFiPとしても知られる)を用いて、Viscotek GPC Mx VE2001システムを使用した。
使用されたサイズ排除カラムは、直列接続された2つのPSS PFG分析用リニアカラム(M、300×8.00mm、7μm)であった。20~25mgの重合混合物サンプルを20mlクリンプキャップバイアルに秤取し、それに17グラムのHFiPを添加した。得られたサスペンジョンを室温で少なくとも16時間シェイクした。16時間後、1mlのサンプルをPVDF 0.45μmフィルターに通して濾過し、2mlバイアルに移し、そして分析のためにGPCシステムに注入した。
【0106】
残留ラクチドの量
ポリラクチドサンプル中の残留ラクチドの量は、重合混合物中のポリマーラクチドからモノマーラクチドを分離する沈殿法により決定された。第1の重合混合物(ポリラクチド及びラクチドモノマーを含む)のサンプルを既知量のジクロロメタンに溶解させた(内部標準を含む)。次いで、ジクロロメタン溶液を過剰量の5/95アセトン/ヘキサン溶媒混合物に導入することにより、重合混合物のポリラクチド画分を沈殿により除去した。半時間の沈殿後、高分子画分を0.45μmフィルターに通して濾過することにより除去した。次いで、ガス液体クロマトグラフィーを用いて残留溶液を分析し、サンプル中のラクチドモノマーの量を決定した。
【0107】
立体化学純度
破壊的メチル化後、PLAの立体化学純度を評価した。その目的で、0.1gのPLAをクリンプキャップバイアルに入れ、続いて2.0gのジクロロメタン(純粋、Acros Organics)及び5.0gのメタノール(J.T.Baker)を添加し、そしてサンプルを70℃で2時間溶解させた。室温に冷却した後、3.0gのAmberlyst 15(イオン交換樹脂、乾燥、Acros Organics)を添加し、そして鹸化反応を80℃で22時間進行させた。室温に冷却した後、サンプルをCP-Chirasil-dex CB分離カラムを備えたThermo Focus GCによるキラルガスクロマトグラフィー分離に付した。これによりR-及びS-メチルラクテートの分離を達成し、その比によりサンプルの立体化学純度を最終的に決定した。
【0108】
開環重合
ラクチドの開環重合は、2リットルバッチ反応器内で実施された。重合はすべて、150ppmスズオクトエート及び20Meq/kg 1-エチル-2-ヘキサノールを用いて実施された。
【0109】
バッチ反応器にラクチドを供給する前、反応器を3mbarの真空に付した。続いて、反応器に窒素を添加することにより、真空を解除した。この真空/窒素サイクルを3回実施して、いかなる残留周囲雰囲気も除去した。乾燥反応器に対して、750グラムのPuralact Lポリマーグレードを反応器に添加した。続いて、冷反応器内でラクチドフレークに対して真空/窒素サイクルを実施した。L-ラクチドを窒素雰囲気下で130℃まで溶融した後、開始剤:1.97g 2-エチル-1-ヘキサノール及び触媒:1.13gr 10%(w/w)スズオクトエート/トルエン溶液を添加して重合を開始した。スズオクトエートの添加量をより良好に制御するために、それを最初にトルエンに溶解させ、そして反応器に注入した。溶融物の温度を180℃まで増加させた。120分間にわたり温度を180℃に保持し、溶融物を50rpmで撹拌した。
【0110】
次いで、安定剤はすべて、ラクチド平衡に達した後、それらを反応器に添加することにより試験された。バッチ反応器内で0.1重量%の安定剤を重合混合物に添加した後、それを180℃で15分間混合した。その直後、氷水で冷却された鋼バケット中に反応器内容物をオフロードし、続いてミリメートルサイズのチップに細断した。チップをペトリ皿中に展延し、続いてそれを130℃の真空オーブン内に配置した。少し窒素ブリードを行って5mbarの真空を適用し、こうした条件下で16時間にわたり脱ガス工程を進行させた。
【0111】
元のPLA及び対応する安定化PLAのサンプルは、分子量及び残留ラクチドモノマー含有率さらにはラクチド再形成及びレオロジー挙動に関して分析された。
【0112】
安定剤の有効性は、ラクチド再形成実験を用いて評価された。この試験時、メルトフローインデクサーを250℃に加熱して5グラムのサンプルで満たす。通常大気且つ250℃下で、20分間にわたりサンプルを静止状態に維持する。熱エージングサンプルをオフロードしてラクチド含有率を分析する。熱エージングサンプルのラクチド含有率は、非熱エージングサンプルのラクチド含有率と比較される。熱安定試料として定量されるためには、サンプルは、非熱エージングサンプルと比較して0.3%未満のラクチド増加を有すべきである。結果は表1に示される。
【0113】
【表2】
【0114】
比較例1~8
表1に見られるように、本発明に使用される化合物を除いて、試験された他の化合物はすべて、0.3重量%超のラクチド再形成を示す。したがって、これらの添加剤は、効果的な触媒失活剤ではない。
【0115】
実施例1~6
また、表1には本発明の実施例1~6が示されており、この場合、L-システイン、L-シスチン、n-アセチル-L-システイン、及びグルタチオンはすべて、ラクチド再形成の阻害で好結果を示す。これらの化合物は、バックバイティング反応を効果的に防止するので、触媒失活剤としてのそれらの効果が証明される。本発明に使用される化合物は、250℃に20分間暴露したとき、一様に0.3重量%未満の再形成ラクチドを示した。これらの化合物は、効果的に良好な安定剤である。
【0116】
また、実施例6から、酸化防止剤Irgafos126とL-システインとの組合せは、熱安定PLAをもたらすと結論付けられる。そのうえ、ラクチド平衡の重合へのIrgafos126の組込みは、実施例5と対比して安定化PLAの色を改善した。
【0117】
L-システイン、n-アセチル-L-システイン、L-シスチン、及びグルタチオンを含有するPLAのサンプルは、250℃でレオロジー時間スイープ(30分間、10%振幅、1s-1角周波数)に晒され、非安定化PLAサンプルは、安定化サンプルと対比して比較された。測定前、サンプルはすべて、100ppm未満の含湿率に低減されるように乾燥空気乾燥機で乾燥させた。25mmのプレート-プレートジオメトリーを備えたAnton Paar MCR301回転レオメーターを使用し、電気オーブンでボトムプレートを加熱してトッププレート及び大気を250℃に加熱した。おおよそ2gのサンプルを250℃のボトムプレートに添加するとともに、トッププレートを5mmのギャップ距離まで低下させた。この設定でサンプルを5分間溶融させ、その後、トッププレートを0.5mmのギャップ距離まで低下させて過剰のサンプルを除去した。続いて、電気オーブンをプレート及びサンプルに戻して測定を開始した。30分間にわたり、トッププレートを250℃で1s-1のスピード及び10%の振幅で振動させた。この30分間で、レオメーターにより振動に対する抵抗を測定した。これは複素粘度のための測定である。
【0118】
安定化PLAは、測定の開始時により高い複素粘度を有すべきであり、且つより長い時間にわたりより高レベルを維持すべきである。これらの結果は、図1~4に提示される。比較例の結果は、図5~7に提示される。
【0119】
図1~7は、時間スイープ実験の結果がラクチド再形成実験に匹敵することを示す。本発明に使用される化合物は、試験された他の作用剤(図5~7)と比較して最高の安定化効果(図1~4)を示した。250℃での時間スイープは、本発明に使用される化合物の元のPLAと対比して安定化サンプルの増加及び安定化された粘度を示す。これにより、L-システイン、n-アセチル-L-システイン、L-シスチン、及びグルタチオンの安定化効果が確認される。図1~4に示されるレオロジーデータから、より高く且つより安定な粘度レベルが安定化PLAで達成されることを観測可能である。
【0120】
L-システイン及びL-シスチンを含有するPLAの分子量保持及びラセミ化も調べて、結果を表2に示す。
【0121】
【表3】
【0122】
表2に示される分子量結果(Mw)から、本発明に使用される試験化合物は、添加により分子量にまったく悪影響を及ぼさないことが分かる。表2の結果はまた、試験化合物の1種により引き起こされるラセミ化の増加が見られないことも示している。
【0123】
実験結果から、
L-システイン、n-アセチル-L-システイン、L-シスチン、及びグルタチオンはすべて、熱分解に対してPLAを安定化させること、
試験化合物の添加後のラセミ化は、式Iに示される化合物では起こらないこと、
が分かる。
【0124】
PLAは、安定剤としてのL-システイン、n-アセチル-L-システイン、L-シスチン、及びグルタチオンの使用により高粘度保持を示す。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7