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特許7555541フッ素吸着剤の製造方法及びフッ素除去・回収方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-13
(45)【発行日】2024-09-25
(54)【発明の名称】フッ素吸着剤の製造方法及びフッ素除去・回収方法
(51)【国際特許分類】
   B01J 20/04 20060101AFI20240917BHJP
   C02F 1/28 20230101ALI20240917BHJP
   C01F 11/02 20060101ALI20240917BHJP
【FI】
B01J20/04 A
B01J20/04 B
C02F1/28 L
C01F11/02 B
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020197221
(22)【出願日】2020-11-27
(65)【公開番号】P2022085501
(43)【公開日】2022-06-08
【審査請求日】2023-11-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000189464
【氏名又は名称】上田石灰製造株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】391016842
【氏名又は名称】岐阜県
(74)【代理人】
【識別番号】100181250
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 信介
(72)【発明者】
【氏名】加藤 健治
(72)【発明者】
【氏名】杉浦 裕介
(72)【発明者】
【氏名】浅倉 秀一
【審査官】小久保 勝伊
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-223571(JP,A)
【文献】特開2005-342578(JP,A)
【文献】特開2017-178697(JP,A)
【文献】特開2005-97083(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2009/130012(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 20/04
C02F 1/28、1/58
C01F 11/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルカリ土類金属塩からなる一つまたは複数の無機粉体を、セルロースナノファイバーをバインダーとして任意の形状に成型したことを特徴とするフッ素吸着剤。
【請求項2】
無機粉体として、マグネシウム塩、カルシウム塩、ストロンチウム塩及びバリウム塩のうち一つまたは複数を用いることを特徴とする請求項1に記載のフッ素吸着剤。
【請求項3】
無機粉体として、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、リン酸カルシウムおよび炭酸カルシウムのうち一つまたは複数を用いることを特徴とする請求項1に記載のフッ素吸着剤。
【請求項4】
フッ素イオン含有水に、請求項1~請求項3の何れか1項に記載のフッ素吸着剤を接触させることを特徴とするフッ素イオンの除去方法。
【請求項5】
フッ素イオン含有水に、請求項1~請求項3の何れか1項に記載のフッ素吸着剤を接触させ、再利用可能なアルカリ土類フッ化物を得ることを特徴とするフッ素回収方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、排水中などに含まれるフッ素イオンの低減または回収のために使用するフッ素吸着剤とこれを用いたフッ素の除去または回収方法に関する。
【背景技術】
【0002】
金属、半導体、ガラス製造などの分野では、酸洗やエッチングなどの工程において、フッ素を含む薬剤が使用され、その工程水および排水中にはフッ素イオンが含まれている場合がある。
また、エアコンや冷蔵庫などの冷媒として大量に使用されてきたフロンガスのうち、オゾン層への影響の大きな特定フロン、およびオゾン層への影響は低いものの、温暖化への影響がある代替フロンについても製造が禁止され、新冷媒への移行が進んでいる。ただし、市中在庫分については、大気中に放出させないため、熱等で完全に分解処理していく必要がある。分解時に発生するフッ化水素ガスは、通常洗煙塔などで水に吸収させて回収しており、吸収水中にはフッ素イオンを含有することになる。
他にも、フッ素樹脂や潤滑剤等様々な分野の製品でフッ素が使用されており、その製造工程または製品廃棄処理時に排出されるフッ素含有排水を放流する際は、フッ素イオンを除去する必要がある。
【0003】
通常これら排水中のフッ素イオンは、粉末状の消石灰などのカルシウム塩を投入し、不溶性のフッ化カルシウムを生成させ、固液分離操作を行うことで排水中から除去されているが、生成するフッ化カルシウムは微細な結晶状となる。このため沈降分離や遠心分離などの比重差を利用する固液分離方法では、排水との比重差が僅かであるため分離が困難である。また、フィルタリングなどの方法で固液分離する場合、フィルターの目の粗さを細かくする必要があるため、僅かな処理量で目詰まりが発生し、効率が非常に悪くなる。
【0004】
これらの固液分離の困難さを解決するための方法の一つとして、カルシウム塩によるフッ化水素微結晶を生成させると同時に凝集剤を添加し、生成したフッ化水素微結晶を凝集させることで見掛けの粒子径および比重を大きくし、沈降分離、遠心分離またはフィルタリングなどで効率的に分離できるようにしているのが現状である。
【0005】
凝集剤としては、硫酸バンド、PAC(ポリ塩化アルミニウム)または高分子凝集剤などが使用されているが、一般に、高分子凝集剤は薬剤コストが高価であり、硫酸バンドおよびPACは安価であるものの、回収したフッ化カルシウムに相当量の鉄塩やアルミニウム塩を含有するため、フッ化カルシウムの再利用が困難となり、結果的に大量の廃棄物を発生することになり、廃棄コストもさることながら環境への負荷が大きくなる問題がある。
【0006】
このため、効率的にフッ素を除去するために様々な提案がなされてきた(例えば、特許文献1~4参照)。
特許文献1では、希土類元素含水酸化物を300℃から600℃で加熱熟成することによりつくった含水酸化物と樹脂との組成物から構成した吸着剤が提案されている。
【0007】
特許文献2では、BET比表面積10m2/g以上の酸化マグネシウムが提案されているが、BET比表面積の高い酸化マグネシウムを得るため、400~1000℃で焼成した上で、篩分けで粒度100μm~1mmの顆粒体を使用するとしている。実施例において、500ppmのフッ素含有水溶液100mlに対して、酸化マグネシウムを0.2g添加し、25℃で24時間吸着した結果が示されており、最もフッ素の含有量が少なくなった結果が53ppmとされている。
【0008】
特許文献3では、フッ素吸着元素化合物として、ジルコニウム水和化合物を用い、それと親水性有機高分子との組成物からなる吸着剤を特定の球状構造とすることにより耐久性のある吸着剤を提供している。
【0009】
特許文献4では、ジルコニウムを含有する含水酸化鉄粒子及び/又は酸化鉄粒子と有機高分子樹脂との複合造粒物からなる吸着剤が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】特開2005-28312号公報
【文献】特開2005-342578号公報
【文献】特許第4854999号
【文献】特許第5637708号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
ところが、特許文献1に記載の発明では、希少な希土類元素を使用すること、高温加熱工程が必要であること、形状の保持に樹脂を用いていることから、コストが高いという課題がある。
特許文献2に記載の発明では、液中のFの44.7mgが酸化マグネシウムと反応した計算となるが、これは0.2gの酸化マグネシウムが全てMgFとなった場合の理論値188.7mgと比べて小さく、材料の利用率は低いという課題がある。
特許文献3及び特許文献4に記載の発明では、高価なジルコニウムと親水性有機高分子の使用による高コストが課題となる。
さらに、特許文献1~4では、フッ素の吸着後の処理に関しての言及はなく、吸着剤で、回収したフッ素の再利用を前提とはしていないという課題もある。
本発明は、このような課題に鑑みなされたものであり、安価に製造でき、フッ素含有排水中のフッ素を効率よく除去・回収し、回収後の固液分離が容易となり、かつフッ素の再利用が可能となるフッ素吸着剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の適用例として実現することが可能である。なお、本欄における括弧内の参照符号や補足説明等は、本発明の理解を助けるために、後述する実施例との対応関係を示したものであって、本発明を何ら限定するものではない。
【0013】
[適用例1]
適用例1に記載の発明は、アルカリ土類金属塩からなる一つまたは複数の無機粉体を、セルロースナノファイバーをバインダーとして任意の形状に成型したことを要旨とするフッ素吸着剤である。
このような、フッ素吸着剤では、容易にフッ素と化学反応し、フッ化物となるアルカリ土類金属塩を、セルロースナノファイバー(cellulose nanofiber:以下、CNFとも呼ぶ)をバインダーとして少量添加し成型した複合成型体が、適度な透水性と、フッ素含有水溶液中で崩壊しない強度を併せ持っている。したがって、この複合成型体をフッ素含有液と接触させることで、効率的にフッ素を回収できる。
【0014】
また、ありふれたアルカリ土類金属塩を使用し、特に高温での焼成等の必要はなく、製造コストも低いため安価に製造できる。さらに、フッ素の吸着は、物理的な吸着ではなく、フッ素との親和性の高いアルカリ土類とフッ素の間の化学反応を利用したものなので、吸着効率は高い。
【0015】
また、フッ素吸着後も崩壊することはないので、容易に回収でき、フッ化物として容易に再利用が可能となる。
【0016】
[適用例2]
適用例2に記載のフッ素吸着剤は、適用例1に記載のフッ素吸着剤において、無機粉体として、マグネシウム塩、カルシウム塩、ストロンチウム塩及びバリウム塩のうち一つまたは複数から選ばれることを要旨とする。
【0017】
[適用例3]
適用例3に記載のフッ素吸着材は、無機粉体として、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、リン酸カルシウムおよび炭酸カルシウムのうち一つまたは複数を用いることを要旨とする。
【0018】
フッ化水素の工業的な製造方法は、天然資源である蛍石を高温下で硫酸と反応させて生じる気体フッ化水素を回収する方法である。蛍石はほぼフッ化カルシウムからなるので、フッ素吸着剤をカルシウム塩から製造することにより、フッ素回収後のフッ素吸着剤は、蛍石の代替材料となる。
【0019】
また、アルカリ土類フッ化物は単結晶またはハロゲン化物ガラスの原料として使用されており、SiOに代表される通常の酸化物系ガラスとは異なる光学特性を利用して、光学レンズや光ファイバーなどに使用されている。
さらに、アルカリ土類フッ化物に希土類元素などを添加した材料は、蛍光特性を持ち、発光体や波長変換材料として使用されている。
【0020】
本発明によるフッ素吸着剤に使用する無機粉体として、これらフッ化物ガラスまたは蛍光材料に必要な組成となるようなアルカリ土類を選択することにより、フッ素吸収後のフッ素吸着剤を原料として利用できるようになる。
【0021】
[適用例4]
適用例4に記載のフッ素イオンの除去方法は、フッ素イオン含有水に、適用例1~適用例3の何れか1項に記載のフッ素吸着剤を接触させることを要旨とする。
【0022】
[適用例5]
適用例5に記載のフッ素回収方法は、フッ素イオン含有水に、適用例1~適用例3の何れか1項に記載のフッ素吸着剤を接触させ、再利用可能なアルカリ土類フッ化物を得ることを要旨とする。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】フッ素吸着剤の内部構造を模式的に示す模式図である。
図2】実施例1、比較例1及び比較例2において測定したフッ素含有液中のフッ素イオン濃度の経時変化を示す図である。
図3】実施例1~実施例4及び比較例1における成形体をフッ素含有溶液に投入した後のpH変化を示す図である。
図4】実施例6及び比較例1において測定したフッ素含有液中のフッ素イオン濃度の経時変化を示す図である。
図5】実施例7における焼成後のフッ素吸着剤中の成分を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明が適用された実施例について図面を用いて説明する。なお、本発明の実施の形態は、下記の実施例に何ら限定されることはなく、本発明の技術的範囲に属する限り種々の形態を採りうる。
【0025】
[実施例1]
フッ素吸着剤1は、アルカリ土類金属塩からなる一つまたは複数の無機粉体を、セルロースナノファイバー(CNF)をバインダーとして任意の形状に成型したものである。
【0026】
アルカリ土類金属塩は、水への溶解度が低く、かつフッ素と反応しやすく、さらに反応後のフッ化物の水への溶解度が低いものであればよく、水酸化マグネシウム、炭酸マグネシウム、リン酸マグネシウム、水酸化カルシウム、炭酸カルシウム、硫酸カルシウム、リン酸カルシウム、水酸化ストロンチウム、炭酸ストロンチウム、硫酸ストロンチウム、リン酸ストロンチウム、水酸化バリウム、炭酸バリウム、硫酸バリウム、リン酸バリウムのうちの一つまたは複数から選ばれ、好ましくは水酸化マグネシウム、炭酸マグネシウム、水酸化カルシウム、炭酸カルシウム、リン酸カルシウムから一つまたは複数、より好ましくは水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、リン酸カルシウムから一つまたは複数が選ばれる。
【0027】
CNFは、木材等に含まれるセルロースをナノレベルまで細かくほぐしたバイオマス由来の素材であり、物理的解砕や化学的処理など様々な製造方法が開発されており、1~10%程度のスラリーの形で提供されているものであれば任意に選択できる。
【0028】
(フッ素吸着剤の製法)
フッ素吸着剤1は、下記(ア)~(ウ)に示す工程により製造される。
(ア)上述の複数のアルカリ土類金属塩のうちから選択した1又は2以上のアルカリ土類金属塩とCNFスラリーを混合撹拌する(混合撹拌工程)。
【0029】
この際市販のCNFスラリー中に含有される水分だけでは粘度が高すぎて撹拌動力が不足する場合は、任意の水を加えても良い。混合撹拌は目的に適えば方法は問わないが、比較的粘度の高いスラリーに用いられる一般的な撹拌機、混練機、ミキサーなどを用いれば良い。
【0030】
(イ)混合撹拌工程で作製したスラリーを、鋳込み、押し出し、射出成型、シート成型、抄紙などの一般に使用される成型方法によって、任意の形状・寸法の仮成型体とする(成型工程)。なお、実施例1では、型に入れて成型する鋳込み成型を行った。
【0031】
(ウ)成型工程で成型した仮成型体を、真空または常圧下で加熱乾燥し成型体であるフッ素吸着剤を得る(乾燥工程)。加熱温度は120℃を上限とし、20~80℃の範囲が好ましく、40~60℃がさらに好ましい。真空下での乾燥の場合、低真空と呼ばれる10Pa~10Paの範囲の、好ましくは10~10Paの範囲の真空度であればよい。
【0032】
これは、乾燥温度が高い、または真空度が高いと、乾燥初期に成型体からの脱水が一気に生じるため、水から蒸気への体積膨張へ本来の成型体が持つ気孔では追い付かず、局部的に膨張が生じ、結果として成型体の形状が崩れる場合があるからである。一方、乾燥温度または真空度が低すぎると、乾燥時間が長くなり不効率となるからである。
【0033】
適切な乾燥条件で乾燥処理した後の仮成型体は、乾燥前と比べて膨張・収縮などの外形的変化がほとんどないことが確認された。これは、乾燥前の段階で、CNFが3次元的に強固なネットワーク骨格を形成するためであると考えられる。
【0034】
さらに、CNFネットワーク骨格が形成した際に成型体中に残存する水が、乾燥工程で蒸気となって系外へ排出された後の空隙がそのまま気孔となると考えられ、乾燥前に成型体中に残存する水分量を制御することによって、乾燥後の成型体中の気孔率を任意に選択できる。
【0035】
(フッ素吸着剤の特徴)
このような方法で製造した成型体5は、図1に示すように、CNFの3次元ネットワーク(CNFネットワーク10)により適度な強度を維持しつつ、大きな気孔率によって透水性を確保することが可能となるので、フッ素イオンを含有する液体と接触させた際、アルカリ土類金属塩20がフッ素と反応してアルカリ土類フッ化物へと変換される反応が成型体5の内部に渡って効率よく進行するとともに、反応後のアルカリ土類フッ化物はCNFネットワーク10上に保持されるため、成型体5の崩壊は起こらない。したがって、強度と透水性を併せ持ち、効率的なフッ素回収と同時に固液分離が容易なフッ素吸着剤としての利用が可能となる。
【0036】
また、フッ素吸着剤中に含まれるアルカリ土類の当量以上のフッ素イオンと接触させることによって、フッ素吸着剤はCNFを少量含有するアルカリ土類フッ化物とすることができる。有機物であるCNFは、焼成によって比較的簡易に除去可能であるので、純度の高いアルカリ土類フッ化物として再利用が可能となる。
【0037】
(製造結果)
原料に水酸化カルシウムスラリーとCNFスラリーを用い、これを撹拌混合して、PTFE(polytetrafluoroethylene)製ビーカーに流し入れた後、ビーカーごと乾燥処理を行った。乾燥後に取り出した成型体は、型崩れ等は見られなかった。
【0038】
上記成型体をフッ素濃度65ppmのフッ素含有液を循環させたカラムに設置し、フッ素イオンを吸着させた。一定時間毎に、フッ素含有液中のフッ素イオン濃度を測定した。
【0039】
[比較例1]
実施例1で循環させたのと同量のフッ素濃度65ppmのフッ素含有液を入れたビーカーへ、粉末状のJIS特号消石灰を所定量撹拌しながら入れた後、撹拌しながら一定時間保持した。
【0040】
[比較例2]
原料に水酸化カルシウムスラリーのみを用い、PTFE製ビーカーに流し入れた後、ビーカーごと乾燥処理を行った。乾燥後の成型体は脆いが、注意深く取り出すことで型崩れすることなく取り出すことができた。
【0041】
上記成型体を実施例1と同様にしてフッ素イオンを吸着させた。図2に、実施例1、比較例1及び比較例2において測定したフッ素含有液中のフッ素イオン濃度の経時変化を示す。なお、図2において横軸は経過時間、縦軸はフッ素濃度を示している。また、図2の中で、比較例1である粉末消石灰の場合を「〇」で示し、比較例2であるCNFなしの成型体の場合を「△」で示す、実施例1であるCNFあり成型体の場合を「□」で示してある。
【0042】
図2に示すように、実施例1では、比較例1と比べてF濃度が減少する時間が長いが、最終的には10mg/L前後とほぼ同等のF濃度まで下がっている。これに対して、比較例2では、実施例1と比べ、完全にはF濃度は下がりきらない。
【0043】
[実施例2]
次に、実施例2について説明する。実施例2では、原料に水酸化カルシウムスラリーとCNFスラリーを用い、これを撹拌混合して、遠心分離用2mlチューブ複数に2mlづつ混合スラリーを封入した後、遠心分離を行い、上澄み液を除去し、チューブごと60℃で乾燥した。
乾燥完了後はチューブ底部に残存した水酸化カルシウムとCNF混合物は一体化し、実施例1と同様の成型体を作製できた。
【0044】
[実施例3]
次に、実施例3について説明する。実施例3では、原料に水酸化カルシウムスラリーとCNFスラリーを用い、これを撹拌混合して、粘土状にした後、φ5の穴を開けた金型から押出した円筒状成型体を長さ10mm毎に切断した上で110℃で乾燥した。
【0045】
[実施例4]
次に、実施例4について説明する。実施例4では、原料に水酸化カルシウムスラリーとCNFスラリーを用い、これを撹拌混合してできたスラリーを、φ46の濾紙を設置したろ過フィルターに通してできたろ物層を濾紙ごと110℃で乾燥した。乾燥後の消石灰とCNFは濾紙上で一体化し、かつ透水性を持つ薄膜層を形成した。
【0046】
[実施例5]
次に、実施例5について説明する。実施例5では、原料に水酸化カルシウムスラリーとCNFスラリーを用い、これを撹拌混合してできたスラリーを、パルプ用の漉き網に繰り返し通した後、網上に生成した消石灰とCNF混合薄膜を110℃で乾燥した。この薄膜は適度な透水性を持ち、濾紙としての使用が可能であるとともに、適当な大きさに切断して、カラムに詰め込んで、処理水を通水することも可能であった。
【0047】
(従来品との比較結果)
図3に、比較例1の粉末消石灰をpH3.3のフッ素含有溶液に投入した後のpH変化と、実施例1のビーカーで作製したCNF/消石灰複合成型体をpH3.3のフッ素含有溶液に投入した後のpH変化と、実施例2の遠心力を用いて成型したCNF/消石灰複合成型体をpH3.3のフッ素含有溶液に投入した後のpH変化と、実施例3の押出し成型で成型したCNF/消石灰複合成型体をpH3.3のフッ素含有溶液に投入した後のpH変化と、実施例4のCNF/消石灰層を形成した濾紙を通して初期pH3.3のフッ素含有溶液を循環させたときのpH変化と、実施例5の紙漉きによって作製したCNF/消石灰複合成型膜を通して初期pH3.3のフッ素含有溶液を循環させたときのpH変化を比較したグラフを示す。
【0048】
なお、図3において縦軸はpH値を示し、横軸は経過時間を示している。また、図3の中で「〇」は比較例1の場合、「△」は実施例1の場合、「+」は実施例2の場合、「=」は実施例3の場合、「×」は実施例4の場合、「□」は実施例5の場合を示している。
【0049】
本材料によるフッ素の吸着は、以下の化学式による
Ca(OH)+2HF→CaF+2H
本式から、液中のフッ素の減少に伴い、pHは酸性から中性に変化していくことがわかるが、pHの変化速度は、フッ素の減少速度に他ならない。このため、フッ素の吸着速度はpH変化速度と相関を取ることが可能である。
【0050】
したがって、図3に示す試験結果は、上記実施例に示した各CNF/消石灰の製造方法によって、フッ素吸着速度に差があることを示すとともに、最終的にはいずれの製造方法であっても、液中のすべてのHFと反応して液を中和できる、言い換えればフッ素を十分に吸着する能力があることを示す。
【0051】
[実施例6]
次に実施例6について説明する。実施例6では、原料に水酸化カルシウムスラリーとCNFスラリーを用い、これにさらに水を加えて希薄スラリーに調製した液を、液体ポンプにて循環させた。
ポリプロピレン(PP)製、目の粗さ1μmの円筒フィルターを、フィルターハウジングに挿入した上で、希薄スラリー中の固形分を円筒フィルターにてフィルタリングできるように循環ラインの途中に設置した。
【0052】
循環開始直後は相当数の固形分が円筒フィルターを通り抜けたが、フィルター上のろ過物の厚みが増えるにつれ、通り抜け量は減少し、循環を一定時間継続することで、PP製ろ過フィルター上に、一定厚の水酸化カルシウム/CNF複合層を形成することができた。
【0053】
循環終了後、フィルターハウジング内に残存する液を圧縮空気で排除した後、円筒フィルターをフィルターハウジングから回収し、110℃で乾燥した。乾燥後もPPフィルター上の水酸化カルシウム/CNF複合層に剥離は見られず、PPフィルター表面に一定厚みでコーティングされた。
【0054】
上記方法で水酸化カルシウム/CNF複合層を生成したPPフィルターを、フッ素イオン含有液の循環ラインに設置したフィルターハウジング内に挿入し、フッ素を吸着させたところ、実施例1、実施例2で作製した成型体同様に、液中のフッ素イオン濃度は減少し、しかも図4に示すように比較例1と同等のフッ素濃度減少速度を示した。またフッ素との反応後も、崩壊や剥離は見られなかったことから、本方法で作製した水酸化カルシウム/CNF複合層もフッ素吸着剤として機能していることを確認した。
【0055】
なお、図4において横軸は経過時間、縦軸はフッ素濃度を示している。また、図4の中で、比較例1である粉末消石灰の場合を「〇」で示し、実施例6であるPPフィルター成型体の場合を「□」で示してある。
【0056】
(実施例7)
次に実施例7について説明する。実施例7では、実施例1と同様の方法で作製したフッ素吸着剤を、フッ素吸着剤が含有する水酸化カルシウムの2倍当量のフッ素イオンを含む水溶液と接触させ、水溶液中のフッ素イオンを除去した。
【0057】
除去終了後フッ素吸着剤を水溶液から取り出し、110℃で24時間乾燥して水分を取り除いた後、電気炉で400℃、2時間の焼成を行った。焼成前後のフッ素吸着剤のX線回折分析を行った結果を図5に示す。
図5に示すように、焼成後のフッ素吸着剤の回折ピーク(図5中に「A」で示す)は、CaFの回折ピーク(図5の中で複数の回折ピークを「B」で示す)と完全に一致し、純度の高いフッ化カルシウムとなっていることがわかった。
なお、図5において縦軸はエックス線回折強度を示し、横軸はエックス線スペクトルのエネルギーを示している。
【符号の説明】
【0058】
5… 成型体 10… CNFネットワーク 20… アルカリ土類金属塩。
図1
図2
図3
図4
図5