(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-13
(45)【発行日】2024-09-25
(54)【発明の名称】自然に設計された僧帽弁プロテーゼ
(51)【国際特許分類】
A61F 2/24 20060101AFI20240917BHJP
【FI】
A61F2/24
(21)【出願番号】P 2021561919
(86)(22)【出願日】2020-04-15
(86)【国際出願番号】 SG2020050237
(87)【国際公開番号】W WO2020214096
(87)【国際公開日】2020-10-22
【審査請求日】2023-02-14
(31)【優先権主張番号】10201903404Q
(32)【優先日】2019-04-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】SG
(73)【特許権者】
【識別番号】507335687
【氏名又は名称】ナショナル ユニヴァーシティー オブ シンガポール
(73)【特許権者】
【識別番号】521453758
【氏名又は名称】ナショナル ユニバーシティ ホスピタル (シンガポール) ピーティーイー エルティーディー
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】弁理士法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】コフィディス テオドロス
【審査官】二階堂 恭弘
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2018/0289484(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2004/0122512(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61F 2/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
心臓に移植される僧帽弁プロテーゼであって、
非対称リングであって、患者の生まれながらの僧帽弁輪を模倣するように寸法設定された非対称リングが、前記弁の外側に向かって自身に巻回された可撓性材料で構成されている、非対称リングと、
可撓性前尖及び可撓性後尖であって、前記非対称リングから吊り下げられ、互いに実質的に接合するように構成されており、前記可撓性前尖及び前記可撓性後尖の各々の形状は、生まれながらの僧帽弁の形状を模倣して構成されており、それにより、前記可撓性前尖及び前記可撓性後尖は、血液が一方向に流れるオリフィスを形成している、可撓性前尖及び可撓性後尖と、
少なくとも2組の索状体であって、各組の索状体が、第1の端部で前記可撓性前尖又は前記可撓性後尖に取り付けられ、第2の端部でキャップに取り付けられており、前記キャップは、前記キャップの別の端部で前記心臓の乳頭筋に取り付けられるように構成されて
おり、
前記非対称リングは、コイル状のコイル構造で構成された少なくとも2本のストランド、弾性を持たせるために共に折り畳まれた2つの材料の層及び構造的安定性を持たせるための層、又は、2層のウシ心膜及び強度を高めるためのグリシン若しくはプロリンの層、の少なくとも1つを備える、
ことを特徴とする僧帽弁プロテーゼ。
【請求項2】
前記可撓性前尖及び前記可撓性後尖の各々を継続し、前記各組の索状体に取り付けられた接合面をさらに備え、
前記接合面は、前記僧帽弁プロテーゼの密閉性を高めるように構成されている、
ことを特徴とする請求項1に記載の僧帽弁プロテーゼ。
【請求項3】
前記僧
帽弁プロテーゼの構成要素は、縫合部ステープラピン、接着剤又はそれらの任意の組み合わせを介して共に接続されている、
ことを特徴とする請求項
1に記載の僧帽弁プロテーゼ。
【請求項4】
前記非対称リング、前記可撓性前尖及び前記可撓性後尖、前記少なくとも2本の索状体、前記キャップ、又はそれらの任意の組み合わせが、ウシ心膜で作られている、
ことを特徴とする請求項1に記載の僧帽弁プロテーゼ。
【請求項5】
前記尖
に対して、長さが1~5mm
の延長部が取り付けられることにより、より良好な接合と索状体の取り付けが可能となる、
ことを特徴とする請求項1に記載の僧帽弁プロテーゼ。
【請求項6】
前記尖の形状は、前記可撓性前尖と前記可撓性後尖の長さの半分に沿って半円状に設計されており、両方の前記尖が接合されたときに「S」字型のシールを形成するように構成されている、
ことを特徴とする請求項1に記載の僧帽弁プロテーゼ。
【請求項7】
心臓に移植される僧帽弁プロテーゼであって、
非対称リングであって、患者の生まれながらの僧帽弁輪を模倣するように寸法設定された非対称リングが、前記弁の外側に向かって自身に巻回された可撓性材料で構成されている、非対称リングと、
可撓性前尖及び可撓性後尖であって、前記非対称リングから吊り下げられ、互いに実質的に接合するように構成されており、前記可撓性前尖及び前記可撓性後尖の各々の形状は、生まれながらの僧帽弁の形状を模倣して構成されており、それにより、前記可撓性前尖及び前記可撓性後尖は、血液が一方向に流れるオリフィスを形成している、可撓性前尖及び可撓性後尖と、
少なくとも2組の索状体であって、各組の索状体が、第1の端部で前記可撓性前尖又は前記可撓性後尖に取り付けられ、第2の端部でキャップに取り付けられており、前記キャップは、前記キャップの別の端部で前記心臓の乳頭筋に取り付けられるように構成されており、
少なくとも1本の二次索状体をさらに備え、
前記少なくとも1本の二次索状体は、一端が前記可撓性後尖の中間部に取り付けられ、別の一端が前記索状体の中間部に取り付けられている、
ことを特徴とす
る僧帽弁プロテーゼ。
【請求項8】
前記少なくとも2組の索状体が、前記キャップの開口部に取り付けられており、
前記開口部は前記キャップの中央に位置する、
ことを特徴とする請求項1に記載の僧帽弁プロテーゼ。
【請求項9】
前記少なくとも2組の索状体の各々は、前記可撓性前尖又は前記可撓性後尖の中間部に取り付けられて、生まれつきの僧帽弁を模倣する、
ことを特徴とする請求項1に記載の僧帽弁プロテーゼ。
【請求項10】
前記可撓性前尖及び前記可撓性後尖は、単体として作られ、前記非対称リングに接続され、前記少なくとも2組の索状体に取り付けられている、
ことを特徴とする請求項1に記載の僧帽弁プロテーゼ。
【請求項11】
一端が前記可撓性前尖に接続され、別の一端が前記少なくとも2組の索状体に接続され、前記可撓性前尖と前記可撓性後尖との間の接合を可能にするように構成された延長部をさらに備える、
ことを特徴とする請求項1に記載の僧帽弁プロテーゼ。
【請求項12】
前記少なくとも2組の索状体の少なくとも一部分が、前記患者自身の生まれながらの僧帽弁の索を含む、
ことを特徴とする請求項1に記載の僧帽弁プロテーゼ。
【請求項13】
前記少なくとも2組の索状体の少なくとも1つの部分は、患者自身の生まれながらの僧帽弁の索と、前記患者自身の生まれながらの弁尖の少なくとも一部分とを備える、
ことを特徴とする請求項1に記載の僧帽弁プロテーゼ。
【請求項14】
心臓に移植される僧帽弁プロテーゼであって、
非対称リングであって、患者の生まれながらの僧帽弁輪を模倣するように寸法設定された非対称リングが、前記弁の外側に向かって自身に巻回された可撓性材料で構成されている、非対称リングと、
可撓性前尖及び可撓性後尖であって、前記非対称リングから吊り下げられ、互いに実質的に接合するように構成されており、前記可撓性前尖及び前記可撓性後尖の各々の形状は、生まれながらの僧帽弁の形状を模倣して構成されており、それにより、前記可撓性前尖及び前記可撓性後尖は、血液が一方向に流れるオリフィスを形成している、可撓性前尖及び可撓性後尖と、
少なくとも2組の索状体であって、各組の索状体が、第1の端部で前記可撓性前尖又は前記可撓性後尖に取り付けられ、第2の端部でキャップに取り付けられており、前記キャップは、前記キャップの別の端部で前記心臓の乳頭筋に取り付けられるように構成されており、
前記非対称リングは、放射線不透過性マーカフィラメントをさらに備え、
前記放射線不透過性マーカフィラメントは、ロール状の可撓性材料の内部に挿入される、
ことを特徴とす
る僧帽弁プロテーゼ。
【請求項15】
心臓に移植される僧帽弁プロテーゼであって、
非対称リングであって、患者の生まれながらの僧帽弁輪を模倣するように寸法設定された非対称リングが、前記弁の外側に向かって自身に巻回された可撓性材料で構成されている、非対称リングと、
可撓性前尖及び可撓性後尖であって、前記非対称リングから吊り下げられ、互いに実質的に接合するように構成されており、前記可撓性前尖及び前記可撓性後尖の各々の形状は、生まれながらの僧帽弁の形状を模倣して構成されており、それにより、前記可撓性前尖及び前記可撓性後尖は、血液が一方向に流れるオリフィスを形成している、可撓性前尖及び可撓性後尖と、
少なくとも2組の索状体であって、各組の索状体が、第1の端部で前記可撓性前尖又は前記可撓性後尖に取り付けられ、第2の端部でキャップに取り付けられており、前記キャップは、前記キャップの別の端部で前記心臓の乳頭筋に取り付けられるように構成されており、
前記僧帽弁プロテーゼは、放射線不透過性の縫合材料で作られた縫合部をさらに備え、
前記縫合部は、前記リングを介して形成される、
ことを特徴とす
る僧帽弁プロテーゼ。
【請求項16】
心臓に移植される僧帽弁プロテーゼであって、
患者の生まれながらの僧帽弁輪を模倣した寸法の非対称リングであって、前記僧帽弁の外側に向かって自身に巻き付けられた可撓性材料で構成されている非対称リングと、
前記非対称リングから吊り下げられた2つの尖であって、前記尖は、前記非対称リングが構成されている材料と同様の材料に沿って作られた切開部の対向する両側に構成されており、前記切開部が、血液が一方向に流れるオリフィスを形成している、2つの尖と、
少なくとも2組の索状体であって、各組の索状体は、第1の端部で前記2つの尖のうちの一方に取り付けられ、第2の端部で束になって取り付けられている、少なくとも2組の索状体と、
キャップの一端で前記少なくとも2組の索状体に接続され、前記キャップの別の端で前記心臓の乳頭筋に縫合されるように構成されたキャップと、
を備え
、
前記非対称リングは、コイル状のコイル構造で構成された少なくとも2本のストランド、弾性を持たせるために共に折り畳まれた2つの材料の層及び構造的安定性を持たせるための層、又は、2層のウシ心膜及び強度を高めるためのグリシン若しくはプロリンの層、の少なくとも1つを備える、
ことを特徴とする僧帽弁プロテーゼ。
【請求項17】
前記索状体の各組は、前記2つの尖の間での接合を可能にするように構成された延長部を介して、前記2つの尖の一方に取り付けられる、
ことを特徴とする請求項
16に記載の僧帽弁プロテーゼ。
【請求項18】
前記索状体の各組は、一部が、患者自身の生まれながらの僧帽弁索状体を含む、
ことを特徴とする請求項
17に記載の僧帽弁プロテーゼ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
僧帽弁又は左房室弁は、二尖弁(2つの尖を備える弁)であり、左心房と左心室を分ける心臓の弁である。僧帽弁は、心室拡張中には左心房から左心室へ血液を流入させ、収縮中には逆流を防ぐ。生体の僧帽弁は、弁輪、2つの尖、心房心筋、腱索、乳頭筋、心室心筋で構成される。
【背景技術】
【0002】
僧帽弁置換術は、病気や機能不全に陥った弁を置換するために行われるように設計された処置である。僧帽弁置換術では、患者の僧帽弁を取り除き、人工弁に置換する。僧帽弁特有の構成が、長期的かつ正常に機能する僧帽弁プロテーゼを作る上での課題となっている。
【0003】
生体及び機械的僧帽弁プロテーゼが市場で入手可能となっている。ヒトの僧帽弁が柔らかい組織で左右非対称の形状をしているのとは対照的に、生体プロテーゼも機械的プロテーゼも剛性で円形状である。機械的弁のもう一つの欠点は、血液が弁の機械的構成要素上で凝固して、弁の機能異常を引き起こしやすいことである。機械的弁を有する患者は、抗凝固剤を服用して、脳卒中の原因となる血栓が弁に形成されるのを防ぐ必要がある。生体弁は血栓形成のリスクが少ないが、機械的弁に比べて耐久性が低く、頻繁に置換が必要となる。生体弁は、機械的弁と同様に、剛性の金属製の骨格を持ち、移植用の縫合糸を通すためにシリコン又はその他の合成材料で覆われた金属のリングを含んでいる。
【0004】
現在利用可能な僧帽弁プロテーゼは、一般的に不自然な円形状に作られており、剛性の材料でできていることが多い。また、僧帽弁には3つの対称的な尖があることが多いが、自然なヒトの僧帽弁には、大きな前尖と小さな後尖の2つの尖しかない。その剛性で不自然な構造をしているため、このような僧帽弁プロテーゼは、心臓の自然な解剖学的構造を歪めてしまう。このような僧帽弁プロテーゼの周囲にある心筋は、移植手術後の回復が十分ではない。プロテーゼは、平均7~10年しか持たず、患者は一生のうちに2回目、時には3回目の手術を受ける必要があり、開胸手術の高いリスクに繰り返しさらされることになる。
【0005】
市場で入手可能なプロテーゼでは、健康なヒトの生まれながらの僧帽弁の血行動態を実現することはできない。その結果、大幅な左の心腔のエネルギーの損失が起こり、時間の経過とともに大きなひずみが生じ、最終的には心不全や他の有害現象が発生する。
【0006】
他のいくつかの利用可能な僧帽弁プロテーゼは、特許文献1に記載されているように、ホモグラフトを補強することによって形成できるが、これは、医師が、患者ごとに最適な適合性を見つけるために、弁を採取する動物を犠牲にしながら様々なサイズの弁をスキャンする必要があることを意味する。さらに他の利用可能な僧帽弁プロテーゼは、特許文献2に記載されているように、心膜の複数の層を互いに縫合することによって形成できるが、この場合、複数の縫合部が存在する領域で凝固が生じる可能性がある。
【0007】
僧帽弁を含む他の形態の房室弁は、特許文献3に開示されており、そこでは、膜材料のテンプレートが患者の僧帽弁輪に縫合されている。このような弁は、高さのある不自然な形の弁輪であることが特徴で、人工弁の周囲は襟のように嵩だかく、隆起している。さらに、テンプレートは標準的なサイズで提供され、それを患者に合わせるために微調整する必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】米国特許第6,074,417号
【文献】米国特許第5,415,667号
【文献】米国特許第6,358,277号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
患者の生体の僧帽弁に似せて設計された人工弁が提供される。2つの可撓性の尖と、非対称で可撓性リングは、心周期中の心筋の自然な歪みに合わせて動くことができる。患者の生まれながらの腱索と同様の索状体が人工弁に含まれており、心房への血液の逆流の自然な防止を模倣して、収縮中の左心室をサポートする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
いくつかの実施形態によれば、心臓に移植される僧帽弁プロテーゼは、
非対称リングであって、患者の生まれながらの僧帽弁輪を模倣した寸法を有し、弁の外側に向かって自身に巻回された可撓性材料から構成されている、非対称リングと、
非対称リングから吊り下げられ、互いに実質的に接合するように構成されている、可撓性前尖と可撓性後尖であって、
前尖及び後尖の各々の形状は、生まれながらの僧帽弁の形状を模倣して構成されており、それにより、前尖及び後尖は、血液が一方向に流れるオリフィスを形成している、可撓性前尖と可撓性後尖と、
少なくとも2組の索状体であって、各組の索状体が、第1の端部で前尖又は後尖に取り付けられ、第2の端部でキャップに取り付けられており、キャップは、キャップの別の端部で心臓の乳頭筋に取り付けられるように構成されている、索状体と、を備える。
【0011】
いくつかの実施形態によれば、僧帽弁プロテーゼは、前尖及び後尖の各々を継続し、各組の索状体に取り付けられた接合面をさらに備えてもよく、接合面は、僧帽弁プロテーゼの密閉性を高めるように構成されている。
【0012】
いくつかの実施形態によれば、非対称リングは、コイル状のコイル構造で構成された少なくとも2本のストランドをさらに備えてもよい。
【0013】
いくつかの実施形態によれば、非対称リングは、弾性を持たせるために共に折り畳まれた2つの材料の層と、構造的安定性を持たせるための第3の層を備える。
【0014】
いくつかの実施形態によれば、非対称リングは、2層のウシ心膜、及び強度を高めるためのグリシン又はプロリンの第3の層を備える。
【0015】
いくつかの実施形態によれば、層は、縫合部ステープラピン、接着剤、又はそれらの任意の組み合わせを介して共に接続してもよい。
【0016】
いくつかの実施形態によれば、非対称リング、可撓性前尖及び可撓性後尖、少なくとも2本の索状体、キャップ、又はそれらの任意の組み合わせは、ウシ心膜で作られていてもよい。
【0017】
いくつかの実施形態によれば、尖の形状を1~5mm延長して、より良好な接合と索状体の取り付けを可能にしている。
【0018】
いくつかの実施形態によれば、尖の形状は、可撓性前尖と可撓性後尖の長さの半分に沿って半円状に設計されており、両方の尖が接合されたときに「S」字型のシールを形成する。
【0019】
いくつかの実施形態によれば、僧帽弁は、少なくとも1本の二次索状体をさらに備えてもよく、少なくとも1本の二次索状体は、一端が後尖の中間部に取り付けられ、別の端が一次索状体の中間部に取り付けられてもよい。
【0020】
いくつかの実施形態によれば、少なくとも2組の索状体が、キャップの開口部に取り付けられてもよく、開口部はキャップの中央に位置する。
【0021】
いくつかの実施形態によれば、少なくとも2組の索状体の各々は、前尖又は後尖の中間部に取り付けられて、生体の僧帽弁を模倣してもよい。
【0022】
いくつかの実施形態によれば、前尖及び後尖は、単一のユニットとして作られ、非対称リングに接続され、少なくとも2組の索状体に取り付けられていてもよい。
【0023】
いくつかの実施形態によれば、僧帽弁は、一端が可撓性前尖に接続され、別の端が少なくとも2組の索状体に接続され、可撓性前尖と可撓性後尖との間の接合を可能にするように構成された延長部をさらに備えてもよい。
【0024】
いくつかの実施形態によれば、心臓に移植される僧帽弁プロテーゼは、
患者の生まれながらの僧帽弁輪を模倣した寸法の非対称リングであって、弁の外側に向かって巻回された可撓性材料で構成されている非対称リングと、
非対称リングから吊り下げられた2つの尖であって、前記尖は、非対称リングが構成されている材料と同様の材料に沿って作られた切開部の対向する両側に構成されており、切開部が、血液が一方向に流れるオリフィスを形成している、2つの尖と、
少なくとも2組の索状体であって、各組の索状体は、第1の端部で2つの尖の一方に取り付けられ、第2の端部で束になって取り付けられている、少なくとも2組の索状体と、
キャップの一端で少なくとも2組の索状体に接続され、キャップの別の端で心臓の乳頭筋に縫合されるように構成されたキャップと、を備えてもよい。
【0025】
いくつかの実施形態によれば、索状体の各組は、2つの尖の間での接合を可能にするように構成された延長部を介して、2つの尖の一方に取り付けられている。
【0026】
いくつかの実施形態によれば、少なくとも2組の索状体の少なくとも1つの部分は、患者自身のうまれつきの僧帽弁の索を備える。
【0027】
いくつかの実施形態によれば、少なくとも2組の索状体の少なくとも1つの部分は、患者自身の生まれながらの僧帽弁の索と、患者自身の生まれながらの弁尖の少なくとも一部分と、を備える。
【0028】
いくつかの実施形態によれば、非対称リングは、放射線不透過性マーカフィラメントをさらに備え、放射線不透過性マーカフィラメントは、ロール状の可撓性材料の内部に挿入される。
【0029】
いくつかの実施形態によれば、僧帽弁プロテーゼは、放射線不透過性の縫合材料で作られた縫合部をさらに備え、前記縫合部は、リングを介して形成される。いくつかの実施形態によれば、心臓に移植される僧帽弁プロテーゼは、患者の生まれながらの僧帽弁輪を模倣するように寸法設定された非対称リングであって、僧帽弁の外側に向かって自身に巻回された可撓性材料で構成された、非対称リングと、非対称リングから吊り下げられた2つの尖であって、前記尖は、非対称リングが構成されている材料と同様の材料に沿って作られた切開部の対向する両側に構成され、切開部が、血液が一方向に流れるオリフィスを形成する、尖と、少なくとも2組の索状体であって、各組が、第1の端部で2つの尖の一方に取り付けられ、第2の端部で束に取り付けられる、少なくとも2組の索状体と、キャップの一端で少なくとも2組の索状体に接続され、キャップの別の端で心臓の乳頭筋に縫合されるように構成されたキャップと、を備える。
【0030】
いくつかの実施形態によれば、索状体の各組は、前記2つの尖の間での接合を可能にするように構成された延長部を介して、2つの尖の一方に取り付けられる。
【0031】
いくつかの実施形態によれば、各前記索状体のセットは、一部が患者自身の生まれながらの僧帽弁索状体から構成されている。
【0032】
いくつかの実施形態によれば、僧帽弁プロテーゼを作製する方法は、
患者の僧帽弁のサイズと形状を画像診断法で測定することと、
対象者の僧帽弁のレプリカを1つの材料から切り出すことと、
1つの材料に沿って切込みを入れることで、血流のためのオリフィスと、オリフィスの両側にある2つの尖を作ることと、
画像診断法で必要な索状体の長さを測定することと、
索状体を2つのキャップのうちの1つに取り付けることと、
尖に可撓性リングを取り付けることで、特定の患者の生まれながらの僧帽弁を模倣した僧帽弁プロテーゼ全体を作成することと、含んでもよい。
【0033】
いくつかの実施形態によれば、必要な索状体の長さを測定することは、対象者の僧帽弁のサイズ及び形状の測定と同時に行うことができる。
【0034】
いくつかの実施形態によれば、本方法は、索状体を2つのキャップのうちの1つに取り付ける前に、2つの尖の各々に延長部を取り付けて索状体を担持することをさらに含んでもよい。
【0035】
いくつかの実施形態によれば、本方法は、可撓性材料を可撓性リングに加えることをさらに含んでもよく、可撓性リングは、可撓性材料の少なくとも1つの層と材料の1つの層から形成される。
【0036】
いくつかの実施形態によれば、本方法は、放射線不透過性材料を可撓性リングに加えることをさらに含み、可撓性リングは、放射線不透過性材料の少なくとも1つの層と材料の1つの層から形成される。可撓性リングは、X線不透過性の縫合材料を用いて尖に取り付けてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【
図1A】本発明の開示のいくつかの実施形態による、開位置にある僧帽弁プロテーゼを描いており、尖に取り付ける前の索を示している概略図である。
【
図1B】本発明の開示のいくつかの実施形態による、閉位置にある僧帽弁プロテーゼを描いており、尖に取り付けた後の索を示している概略図である。
【
図2】本開示のいくつかの実施形態による、心臓に移植された本発明の実施形態の概略図である。
【
図3】本開示のいくつかの実施形態による、三次元CT画像解析ソフトウェアにおける僧帽弁領域の三次元再構成の画像である。
【
図4】本開示のいくつかの実施形態による、三次元印刷された弁成形品とブタ心膜僧帽弁尖の弁成形品の写真である。
【
図5】本開示のいくつかの実施形態による、生体外試験中の人工弁の写真である。
【
図6A】本開示のいくつかの実施形態による、僧帽弁プロテーゼの前尖及び後尖の側面視の概略図である。
【
図6B】本開示のいくつかの実施形態による、僧帽弁プロテーゼの前尖及び後尖が互いに接合しているときの上面視の概略図である。
【
図6C】本開示の実施形態による、左心房から左心室に向かって下方を見た僧帽弁プロテーゼの平面視(拡張中、弁が開いて血液が左心室に入るようにしているとき)の概略図である。
【
図6D】本開示の実施形態による、前尖及び後尖を備える1つの材料を示す概略図である。
【
図7A】本開示の実施形態による、索状体を心臓の乳頭筋に接続するためのキャップを示す概略図である。
【
図7B】本開示の実施形態による、索状体に取り付けられた2つのキャップを有する僧帽弁プロテーゼの概略図である。
【
図8A】本開示のいくつかの実施形態による、尖に対する索状体の可能な位置を示す概略図である。
【
図8B】本開示のいくつかの実施形態による、尖に取り付けられたときの索状体の断面を示す概略図である。
【
図9A】本開示のいくつかの実施形態による、2つの尖が取り付けられた僧帽弁プロテーゼを示す概略図であり、接合面を拡大するような湾曲した(楕円体/液滴)構成代替設計を示す概略図である。
【
図9B】本開示のいくつかの実施形態による、2つの尖が取り付けられた僧帽弁プロテーゼの可能な接合面構成を示す概略図である。
【
図10】本開示のいくつかの実施形態による、二次元又は三次元心エコー画像から得られた、患者の僧帽弁の測定コピーを示す概略図である。
【
図11】本開示のいくつかの実施形態による、2つの尖のプロテーゼの形成を示す概略図である。
【
図12】本開示のいくつかの実施形態による、尖部に沿って形成された開口部を示す概略図である。
【
図13】本開示のいくつかの実施形態による、患者の左の心腔又は心室の心エコー又はMRIスキャンを示す概略図である。
【
図14A】本開示のいくつかの実施形態による、拡張中の患者の左心室を示す概略図である。
【
図14B】本開示のいくつかの実施形態による、収縮中の患者の左心室を示す概略図である。
【
図15A】本開示のいくつかの実施形態による、前尖に取り付けられた延長部を示す概略図である。
【
図15B】本開示のいくつかの実施形態による、後尖に取り付けられた延長部を示す概略図である。
【
図16A】本開示のいくつかの実施形態による、延長部及び取り付けた索状体を備えた僧帽弁プロテーゼの、拡張中における側面視の概略図である。
【
図16B】本開示のいくつかの実施形態による、延長部及び取り付けた索状体を備えた僧帽弁プロテーゼの、収縮中における側面視の概略図である。
【
図17】本開示のいくつかの実施形態による、生まれながらの弁輪を模倣するために、非対称の可撓性リングを弁プロテーゼの外周に取り付ける様子を示す概略図である。
【
図18A】本開示のいくつかの実施形態による、ロール状の弁輪に挿入される弾性材料の概略図であり、リングがその上に巻回される手順を示す。
【
図18B】本開示のいくつかの実施形態による、ロール状の弁輪に挿入される弾性材料の概略図であり、リングがその上に巻回される手順を示す。
【
図18C】本開示のいくつかの実施形態による、ロール状の弁輪に挿入される弾性材料の概略図であり、リングがその上に巻回される手順を示す。
【
図18D】本開示のいくつかの実施形態による、ロール状の弁輪に挿入される弾性材料の概略図であり、リングがその上に巻回される手順を示す。
【
図18E】本開示のいくつかの実施形態による、ロール状の弁輪に挿入される弾性材料の概略図であり、リングがその上に巻回される手順を示す。
【
図19】本開示のいくつかの実施形態による、僧帽弁プロテーゼを作製する方法を示す概略フローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0038】
以上のことは、本発明の例示的な実施形態についての以下のより具体的な説明から明らかになるであろう。添付の図面には、同様の参照文字は、異なる図を通して同じ部品を参照している。図面は必ずしも縮尺通りではなく、本発明の実施形態を示すことに重点を置いている。
【0039】
本発明の僧帽弁プロテーゼを
図1A及び
図1Bに示す。僧帽弁プロテーゼ100は、ヒトの生体の僧帽弁と同様の生理学的な形状をしている。僧帽弁プロテーゼは、可撓性の非対称リング1と、非対称リング1から吊り下げられた2つの可撓性の膜様の尖2を含む。また、僧帽弁プロテーゼには、心臓の腱索を模倣した2組の索状体3がある。各組の索状体3は、一端で尖2の縁部及び/又は本体に取り付けられ、別の端で固定キャップ8に収束するように構成されている。固定キャップ8は、左心室の乳頭筋に縫合するように構成されている。
【0040】
僧帽弁100は、
図1Aにおいては、索状体3が尖2に取り付けられていない状態で、また、
図1Bにおいては、取り付けられた状態で示されている。索状体3は、手術前に尖2に取り付けられていてもよいし、手術中に取り付けられていてもよい。例えば、索状体3と尖2の間の取り付け部9は、縫合部であってもよいし、一体人工物であってもよい。僧帽弁100は、
図1Aでは開状態で示されており、
図1Bでは閉じた状態で示されている。閉じた状態では、尖2は接合して示されている。
【0041】
図2は、心臓に移植された僧帽弁100を示す。僧帽弁100は、生まれながらの僧帽弁輪12の位置に移植された状態で示されており、一方の側は大動脈7の根元が左心室と接続する大動脈弁6に隣接し、別の側は対向する心室壁5に当接している。索状体3は、乳頭筋4に取り付けられている状態で示されている。
【0042】
可撓性リング1は、患者の心臓を超音波で検査した後、特注で作ることができる。特に、三次元心エコー検査を実施して、詳細な解剖学的測定値を得ることができ、さらに/又は、患者の心臓の三次元モデルをレンダリングして、そこからカスタマイズされた僧帽弁を製作することができる。尖2と索状体3は、対象者の生まれながらの僧帽弁とその周辺の解剖学的構造の超音波画像診断に基づいてカスタマイズすることもできる。また、心臓CTや心臓MRIなど、三次元情報が得られる他の画像診断技術で得られたデータからも、カスタマイズされた僧帽弁を作ることができる。このように、本発明の僧帽弁プロテーゼは、患者の特定の解剖学的構造に合わせて選択又は設計することができる。
【0043】
可撓性リング1は、例えば、弾性のある環状リングから形成することができる。尖2は、天然の材料や生体適合性のある複合材料で形成することができ、これにより、凝固を起こしにくく、患者の生まれながらの前尖及び後尖と同様に機能できる。少なくとも2組の索状体があり、第1の端は2つの尖の一方に、第2の端は乳頭筋に取り付けられており、患者の生まれながらの腱索と同様に機能するように構成されている。索状体3は、尖2を患者の乳頭筋につなぐことで、心周期を通して左心室の壁を支え、尖が心房腔内に開くのを防ぐ。
【0044】
可撓性リング1、尖2、及び索状体3を含む僧帽弁プロテーゼ100は、健康な、生まれながらの僧帽弁と同様の外観及び動作をする。さらに、本発明の僧帽弁プロテーゼは、天然材料で製作することができ、綿撒糸などの異物の混入を避けることができる。可撓性リング、尖、索状体、及びキャップを製作するために、ホモグラフト材料及び/又は複合材料(ホモグラフト、ゼノグラフト、及び/又はオートグラフト材料の様々な組み合わせを含む)を使用することができる。弁輪と弁尖を形成する材料としては、ヒト、ウシ、ブタの心膜、脱細胞化された生体材料、細胞を組み込んだ生分解性ポリマーの織物、細胞外材料などが考えられるが、これらに限定されるものではない。生分解性の天然ポリマーには、トフィブリン、コラーゲン、キトサン、ゼラチン、ヒアルロン酸、及びそれに類似した材料があるが、これらに限定されるものではない。細胞や細胞外マトリックス材料を浸潤させることができる生分解性の合成高分子骨格(スカッフォールドscaffold)としては、ポリ(L-ラクチド)、ポリグリコリド、ポリ(乳酸-コ-グリコール酸)、ポリ(カプロラクトン)、ポリオルトエステル、ポリ(ジオキサノン)、ポリ(無水物)、ポリ(トリメチレンカーボネート)、ポリホスファゼン、及びこれらの類似材料を挙げることができるが、これらに限定されるものではない。可撓性リングは、さらにカスタマイズすることで、患者に合わせた可撓性や剛性を持たせることができる。さらに、索状体3を含む僧帽弁プロテーゼの一部の構成要素は、患者の自己心膜によって手術中に形成することができる。
【0045】
例えば、患者自身の心膜から僧帽弁プロテーゼを製作することができる。あるいは、異種材料(例えば、既存の弁などの動物組織)の上に、患者自身の培養細胞の層を組織工学的に適用して、僧帽弁プロテーゼを作製することもできる。
【0046】
人工弁は、グルタルアルデヒドで固定されることが多く、これは、毒素として知られており、再生を促す。本発明の僧帽弁プロテーゼは、色素を介在させた光固定など、グルタルアルデヒドを使用しない方法で固定することができる。また、本発明の僧帽弁は、エポキシ化合物、カルボジイミド、ジグリシジル、ロイテリン、ゲニピン、ジフェニルホスホリラジド、アシルアジド、シアナミドなどの代替架橋剤を用いるか、又は紫外線や脱水などの物理的な方法で固定することもできる。
【0047】
僧帽弁プロテーゼ、又はプロテーゼの一部の構成要素は、生体材料を用いた生物学的三次元(3D)印刷で直接製作することができる。また、僧帽弁プロテーゼ又はプロテーゼの一部の構成要素は、術前に行われた三次元画像撮影で得られた詳細な寸法に基づいて、三次元印刷で構築されたテンプレートや成形品を使用して製作することもできる。
【0048】
また、僧帽弁プロテーゼを移植する方法も提供されている。移植に先立ち、患者の心エコー検査解析(又はその他の画像解析)を行う。画像解析では、心腔の大きさや動きを測定する。また、取得した画像から、患者の僧帽弁輪、尖、及び索状体の詳細な寸法を測定する。さらに、置換する弁を三次元的に描写することもできる。患者の生まれながらの弁の測定値と三次元の模型製作から、既存の病状に合わせて修正した患者の生まれながらの僧帽弁に近い僧帽弁プロテーゼを製作することができる。
【0049】
三次元心エコー解析は、例えば、経食道心エコー(TEE)プローブや経胸壁心エコー(TTE)プローブを用いて行うことができる。僧帽弁の各部分は、eSieValves(登録商標)のようなソフトウェアを使って、三次元及び四次元的にモデル化され、測定される。(シーメンス・メディカル・ソリューションズUSA・インコーポレイテッド ペンシルベニア州マルヴァーン)関連する測定値としては、弁輪の外径と内径、弁輪の面積、三角部間及び交連間の距離、前尖及び後尖の様々な軸に沿った長さなどがある。
【0050】
さらに、又は代替的に、コンピュータ断層撮影(CT)や磁気共鳴画像(MRI)を用いて、僧帽弁の三次元的な解析を行うこともできる。例えば、
図3に示すように、ブタの心臓の三次元再構成をCT画像撮影(SOMATOM.RTM、Definition Flash, Siemens Healthcare, Erlangen,ドイツ)を使用して得た。そこでは、心臓の僧帽弁領域が画像の右側に見えている。画像解析ソフトを使って僧帽弁領域の細分化を行い、関連する測定値を得ることができる。
【0051】
この僧帽弁プロテーゼは、患者に合わせて完全にカスタマイズすることができ、各構成要素(リング、尖、索状体、キャップなど)は、患者の生まれながらの弁の寸法に合わせて作製される。例えば、
図4に示すように、僧帽弁の三次元印刷成形品が、撮影した弁の三次元再構成に基づいて作成された。
図4に示す三次元印刷された弁が、心周期の拡張(開心)期中に模型製作された。また、この三次元成形品を用いた人工弁を
図4に示す。この成形品は、ブタの心膜を切断して心尖及び索の取り付け部位を作成する際のガイドとなる。あるいは、既成の僧帽弁、又は僧帽弁の既成構成要素を、患者の生まれながらの弁又は生まれながらの弁構成要素に形状及びサイズが最も近くなるように、選択して移植することができる。
【0052】
図5は、生体外試験システムで縫合された人工弁のプロトタイプの画像を示す。摘出された全心臓に縫合された弁のプロトタイプを示している。生理食塩水のボーラスをチューブで心臓の左心室に注入し、大動脈をクランプして生理食塩水を左心室に封じ込め、圧力を生じさせる。射出圧力は、例えば、射出ラインに接続された圧力計で監視することができる。そして、生理学的血圧値下での弁のプロトタイプの性能(例えば、弁尖の逆流や脱出がないこと)を監視することができる。弁の性能は、左心室が収縮しているときに、生まれながらの弁が閉じる収縮期圧で測定又は監視することができる。
【0053】
図6A及び
図6Bは、本開示のいくつかの実施形態による、それぞれ、僧帽弁プロテーゼの僧帽弁前尖と僧帽弁後尖、及び互いに接合しているときの尖の概略図である。
図6A及び
図6Bによると、人工的な僧帽弁は、僧帽弁プロテーゼ600であってもよい。いくつかの実施形態によれば、弁600は、2つの尖、例えば、僧帽弁前尖602A及び僧帽弁後尖602Pを備えてもよい。僧帽弁後尖及び前尖602P及び602Aの各々は、それぞれ、患者の心臓の断面画像に基づいて、患者の特定の生理学的及び解剖学的に適合するようにモノコック構造(単体)として手術前に設計され、作成されてもよい。患者自身の心臓から計測した測定値を使用して、各尖が患者の生体の尖と実質的に同じになるように、尖の例えば602A、602Pの各々の長さ、幅、及び高さを決定してもよい。尖の各々は、索(例えば、索状体604、606、608、610)及び追加の材料を含むように形成して、リング部分(例えば、前側リング部分601A及び後側リング部分601P)を形成するようにしてもよい。索の長さは、以下でさらに説明するように、外科医が患者に合わせて決定してもよい。尖は、ナイフやハサミを使って1つの材料から切り出してもよく、僧帽弁置換術の際に外科医が縫合して、患者の生体の僧帽弁に似た僧帽弁を形成してもよい。
【0054】
例えば、前尖(AL)の高さは約30mm、ALの長さは約45mm、後尖(PL)の高さは約15mm、後尖の長さは約60mmとすることができる。
図6Aに示すように、医学界では630Aを前尖602Aの高さ、630Pを後尖602Pの高さと呼び、各尖の長さは尖の外周の一部と呼んでおり、例えば、632Aを、前尖602Aの長さ、632Pを、後尖602Pの長さと呼んでいる。
【0055】
いくつかの実施形態によれば、尖602A及び602Pの各々を同じ又は異なる材料片から別々に切断すること、並びにリング部分601A及び601Pの各々を別々に切断することにより、移植のために僧帽弁プロテーゼを準備している人、例えば、外科医が楽になる。尖を2つの別の部分に切断するとともに、リング部分を2つの別の部分に分けて切断し、尖をリングに取り付け、さらに索状体を各尖に取り付けることで、尖と索状体を1つの材料から単体で切断する場合に比べて、準備時間と人工弁を移植する外科的処置に要する時間を短縮することができる。尖と索状体を単体として切断し、1つの人工装具を移植することは、本明細書に開示されている方法論よりも複雑で時間がかかる。なぜなら、尖部分と索状体部分の接続をそのまま維持しつつ、尖と索状体の各々を切断する際に高い精度が要求されるからである。
【0056】
いくつかの実施形態では、各々のリング部分601A及び601Pは、各尖後面が、弁600の外側に向かって、それ自体の上に折り畳まれる又は巻回される(例えば、巻回された前部605A、及び巻回された後部605P)ように、各尖後面を巻回することによって作成される。本実施形態によれば、各尖の後端部のサイズは、5~10mmの追加材料によって増加してもよく、これは、尖の後端部を自身に巻回してリング部分(僧帽弁前尖のリング部分601A及び僧帽弁後尖のリング部分601Pなど)を作成する際に使用してもよい。弁600の外側に向かってリング(又は各リング部分601A及び601P)をそれ自体に巻回したり、折り曲げたりすることにより、弁600の内側での血栓の生成を回避するのに役立つ可能性があり、また、血栓が生成されたとしても、リング又はリング部分の折り目又は巻回の領域で弁600の外側にのみ現れることになり、弁600の効率的な動作を損うリスクが少なくなる。いくつかの追加の実施形態によれば、リング(又は各リング部分601A及び601P)は、適切な生物医学繊維又はポリマーなどの材料片(図示せず)を追加することによって、さらに強化されてもよい。そのような片は、弁600が作られた材料の断片から作り、各リング部分601A、601P内に収まるように寸法設定されてもよい。そのような片は、1~3mmの幅と10~20mmの長さであるのが好ましい。このような材料片は、各リング部分601A、601Pが巻回される際に、弁600に追加して、前記材料片を各リング部分601A、601P内に配置してもよい。これらの材料片は、弾性であってもよく、生体適合性のあるゴム、反跳金属線、合成材料など、さまざまな組成物でできていてよい。
【0057】
図6Bによると、尖602Aは半楕円形又は平凸形であり、尖602Pは平凹形であってもよい。いくつかの実施形態では、弁600は、少なくとも2組の索状体を備えてもよい。いくつかの実施形態では、少なくとも2組の索状体の各々が、生まれながらの僧帽弁を模倣するように、それぞれの尖の中間部に取り付けられている。例えば、いくつかの実施形態では、尖602Aは、少なくとも1組の索状体603Aを備えてもよく、この索状体603Aは、典型的には、リング部分601Aが尖602Aに接続されている端部とは反対側にある尖602Aの一端で、尖602Aの中間部に接続されていてもよい。いくつかの実施形態では、少なくとも1組の索状体603Aは、少なくとも2つの索状体のサブセット、例えば、索状体のサブセット604及び索状体のサブセット606を備えてもよい。いくつかの実施形態によれば、これらの索状体のサブセット604及び606は、2つの索状体のサブセット間に約3~5ミリメートルのギャップが維持されるように間隔が置かれて、より効率的な接合が可能となっている。索状体のサブセット604と606の間のギャップは、尖上の張力をより均等に分布させるのにも役立ち、潜在的に摩耗や破損を減少させる。これらの索状体のサブセット604及び606は、
図7A及び
図7Bに関して詳細に説明するように、異なる別個のキャップに接続されて、索状体のサブセットを心臓の乳頭筋に接続してもよい。
【0058】
いくつかの実施形態では、尖602Pは、少なくとも1組の索状体603Pを備えてもよく、この索状体603Pは、典型的には、リング部分601Pが尖602Pに接続されている端部とは反対側にある尖602Pの一端で、尖602Pの中間部に接続されていてもよい。
【0059】
いくつかの実施形態では、少なくとも1組の索状体603Pは、少なくとも2つの索状体のサブセット、例えば、索状体のサブセット608及び索状体のサブセット610を備えてもよい。これらの索状体のサブセット608及び610は、2つの索状体のサブセットの間に約5~8ミリメートルのギャップが維持されるように間隔が置かれて、より効率的な接合が可能となっている。これらの索状体のサブセット608及び610は、
図7A及び
図7Bに関して詳細に説明するように、異なる別個のキャップに接続されて、索状体のサブセットを心臓の乳頭筋に接続してもよい。
【0060】
いくつかの実施形態では、索状体603A及び/又は索状体603Pの幅は、1mmから2mmの間であってもよいが、他の幅で実装してもよい。いくつかの実施形態では、僧帽弁後尖602Pは、非対称リングのリング部分601Pに片側で接続されてもよい。リング部分601Aが、例えば、縫合部、ファスナなどを介して、リング部分601Pに取り付けられると、完全な非対称で可撓性リングが形成できる。いくつかの実施形態では、リング部分601Aを患者の弁輪に取り付けるために使用される縫合部は、放射線不透過性材料で構成されている。
【0061】
いくつかの実施形態によれば、僧帽弁前尖634Aにおける索間距離は、8~10mmであってもよい。いくつかの実施形態では、僧帽弁後尖634Pにおける索間距離は、10~15mmの間であってもよい。いくつかの実施形態では、距離636及び/又は638として記される、交連部における前尖及び後尖の間の索間距離は、5~7mmの間であってもよい。
【0062】
いくつかの実施形態によれば、
図6Bに示されているように、前尖602Aを後尖602Pに接続し、リング部分601Aをリング部分601Pに接続して僧帽弁プロテーゼ600を構築してもよい。尖602Aが尖602Pに接続されると、尖602Aと尖602Pの間に生成されるオリフィス620により、血液が一方向、すなわち、左心房から左心室へ流れることができるようになる。したがって、尖602Aと尖602Pの間に生成されたオリフィス620は、逆流、すなわち、左心室から左心房への逆流を禁止するように構成されてもよい。尖602A、尖602P、及びこれらの尖が特定の接合で互いに接続される方法、並びにリング部分601A及びリング部分601Pは、ヒトの生体の僧帽弁の形状、サイズ、したがって機能を模倣するように構成されてもよい。具体的には、リング部分601Aは、前弁輪を模倣するように構成されてもよく、一方、リング部分601Pは、生体の僧帽弁の後弁輪を模倣するように構成されてもよい。いくつかの実施形態では、各尖は、リング部分と索状体の間に位置する、約1~5mm延長された形状を有していてもよく、それにより2つの尖間の、より良好な接合が可能となり、索状体を尖の各々へより良好に取り付けることができるようになる。
【0063】
いくつかの実施形態では、前尖602Aは、少なくとも2つの索状体のサブセット、例えば、索状体のサブセット604及び索状体のサブセット606を備えてもよく、これらは、尖602Aの異なる端部で尖602Aに接続されてもよい。いくつかの実施形態では、後尖602Pは、少なくとも2つの索状体のサブセット、例えば、索状体のサブセット608及び索状体のサブセット610を備えてもよく、これらは、尖602Pの異なる端部で接続されてもよい。生体の僧帽弁のように、索状体は心臓の乳頭筋に接続されていなければならない。より具体的には、ヒトの生体の僧帽弁では、索状体の各サブセットが乳頭筋の異なる領域に取り付けられている。したがって、人口僧帽弁600は、各尖ごとに少なくとも2つの索状体のサブセットを備え、それによって、索状体の各サブセットは、異なる乳頭筋領域に取り付けられて、生体の僧帽弁の構成及びそれによる動作に厳密に模倣するようになる。
図6C、
図7A及び
図7Bを参照して説明する。キャップを介して索状体の各サブセットを乳頭筋に接続することにより、索状体のサブセットと乳頭筋との間での取り付けが、簡単でありながら十分な安定と耐久性を有するようにしてもよい。索状体の各サブセット、例えば、604、606、608、610の索状体の数は、異なっていても、同じであってもよい。いくつかの実施形態では、索状体の各サブセットは、少なくとも2つの索状体を含んでもよい。
【0064】
いくつかの実施形態によれば、本開示のツーピース弁は、尖間のより長い接合長さを確保でき、三次元超音波短軸視から対象者自身の弁を正確に複写でき、1対1で再現することができる。
【0065】
図6Cは、本開示の実施形態による、左心房から左心室に向かって下方を見た僧帽弁プロテーゼの上面視の概略図である。
図6Cによると、後尖602Pは、取り付け線、例えば、縫合線609を介して前尖602Aに取り付けられてもよい。いくつかの実施形態では、リング部分601Aは、例えば線609に沿って、リング部分601Pに取り付けられてもよく、弁600の外側に向かってそれ自体に巻回されてもよい。いくつかの実施形態では、前尖602Aは、2つの索状体のサブセット、例えば、サブセット604及び606を備えてもよく、これにより、これらの索状体のサブセットの各々は、別個のキャップ要素700を介して異なる乳頭筋720に接続されてもよい。したがって、後尖602Pは、2つの索状体のサブセット608及び610を備えてもよく、それによって、索状体の各サブセットは、異なるキャップ要素700を介して乳頭筋720に取り付けられてもよい。例えば、前索状体604は、第1のキャップ700を介して第1乳頭筋720に接続されてもよく、一方、後索状体608も、同じ第1のキャップ700を介して同じ第1乳頭筋に接続されてもよい。同様に、前索状体606は、第2のキャップ700を介して第2の乳頭筋720に接続されてもよく、一方、後索状体610も、同じ第2のキャップ700を介して同じ第2乳頭筋に接続されてもよい。
【0066】
図6Dによると、いくつかの実施形態では、尖602P及び602Aは、単一のモノコック構造体から切断されてもよく、完全な弁を形成するための接続、例えば、縫合は、縫合線609に沿って行われてもよい。いくつかの実施形態によれば、索状体は、患者の術前スキャンに基づいて、レシピエント/患者の個々の最適な索状体の長さごとに調整されてもよい。
【0067】
図7A及び
図7Bは、本開示の実施形態による、索状体を心臓の乳頭筋に接続するためのキャップ、及び索状体に2つのキャップが取り付けられた僧帽弁プロテーゼをそれぞれ示す概略図である。いくつかの実施形態では、レイアウト構成のときのキャップ700の形状は、円弧の形状であってもよい。いくつかの実施形態では、閉じた構成のキャップ700の形状は、その上端702に小さな開口部730を有し、その下端704に広い開口部を有する先細りの円錐の形状に似ていてもよく、それによって、外科的縫合706を用いて、円弧の端部を互いに縫合、又は一方を別の上に重ねて縫合して閉じた構成を形成してもよい。縫合706は、キャップ700を乳頭筋720の上に配置する前に行ってもよい。いくつかの実施形態では、キャップ700のサイズは、直径が5mm~10mm、高さが5~10mmの間である。いくつかの実施形態によれば、キャップ700は、キャップの形状をした1つの材料で作られていてもよいが、他の実施形態によれば、キャップ700は、2つの開いた尖又は同じ材料のピースで作られ、それらは、共に、一度に乳頭筋に縫合されていてもよい。例えば、縫合糸は、キャップ700の材料の2つの部分の片側から始まり、キャップ700の一部を通って出て、キャップ700を乳頭筋等に取り付けるようなものであり、キャップ700の2つの部分が互いに、また心臓の乳頭筋に完全に接続されるまで、それを繰り返す。
【0068】
いくつかの実施形態によれば、僧帽弁プロテーゼ600のキャップ700は、心膜(例えば、ヒト由来、ウシ由来、ブタ由来)を巻回して閉じた構成で形成してもよい。いくつかの別の構成では、キャップはバイオメディカルポリマーで形成されてもよい。いくつかの実施形態では、キャップ700のサイズは、5mm以上であってもよい。いくつかの実施形態では、僧帽弁プロテーゼの索は、尖及び/又はキャップの材料と同じ材料で作られてもよい。いくつかの実施形態では、索は、キャップ700、前尖602A及び後尖602Pが採取されるのと同じ起源、例えば、同じ動物、例えば、同じ牛から採取された索でもよく、キャップ700、前尖602A及び後尖602Pと同じ細胞構造及び同じ起源を有するという利点を加えてもよい。
【0069】
キャップ700が乳頭筋720上に配置されると、索状体のサブセット604、608などの索状体は、縫合部710を用いてキャップ700に接続し、それによって索状体、キャップ700、乳頭筋720を共に接続してもよい。いくつかの実施形態によれば、キャップ開口部730は、キャップ700と乳頭筋720との間にぴったり嵌めることができる。なぜなら、キャップ開口部730により、キャップの形状を乳頭筋720の形状に調整できるからである。いくつかの実施形態では、キャップ700は、例えば、縫合部710を介して、その端部の一方で索状体のサブセット604及び608に取り付けられてもよく、一方、キャップ700は、例えば、縫合部706を介して、下端704に近接するキャップ700の別の、典型的には、反対側の端部から心臓の乳頭筋に取り付けられてもよい。キャップ700は、キャップ700の下端704の全周を介して乳頭筋720に接続されてもよいが、いくつかの実施形態では、キャップ700は、キャップ700の下端704の周に沿った特定の部分を介して乳頭筋720に接続されてもよい。
【0070】
いくつかの実施形態によれば、索状体は、互いに接続されて、索状体の束を形成してもよい。索状体は、キャップ700に接続される索状体の端部(例えば、尖602に接続された索状体のサブセット604及び608の端部)で束として接続されてもよい。いくつかの実施形態によれば、キャップ700を介して索状体、例えば索状体のサブセット604及び608を乳頭筋720に接続することは、索状体を乳頭筋720に直接接続するよりも容易である。なぜなら、後者はより広範な取り付け手順を必要とするからである。例えば、取り付け方法が縫合である場合、索状体の一つ一つを乳頭筋720に縫合することは、索状体を配置されたキャップ700に縫合することや、単体の大きな要素であるキャップ700を乳頭筋720に縫合することに比べて、より複雑で時間がかかる。本開示のプロテーゼを受ける患者は、一般に人工心肺装置としても知られる心肺バイパスに接続されているので、僧帽弁置換を適切に実施することが好ましい。
【0071】
一方、
図7Aは、キャップ700に取り付けられた2つの索状体のサブセット604、及び2つの索状体のサブセット608のみを示しているが、追加の索状体がキャップ700に接続されてもよいことは理解すべきである。索状体のサブセット604、608は、1つ以上の索状体を備えてもよい。いくつかの実施形態では、
図6Cに示すように、僧帽弁前尖602Aの右襞部(スカラップscallop)からの4本の索状体604と、僧帽弁後尖602Pの左襞部(スカラップscallop)からの4本の索状体608がキャップ700に接続されている。
【0072】
いくつかの実施形態では、索状体のサブセット604、606、608及び610の各々は、キャップ700の外側に沿ってキャップ700に接続されてもよい。他の実施形態では、人工弁の索状体又は索状体の少なくとも一部は、開口部730を介してキャップ700に取り付けられてもよく、開口部730は、キャップ700の中央部に位置してもよい。すなわち、索状体は、開口部730を通過して、キャップ700の内側に取り付けられてもよい。
【0073】
いくつかの実施形態では、索状体の各サブセット604、606、608及び610は、まず、互いに接続されて束を形成し、その後、キャップ700に接続されてもよい。
【0074】
図7Bに示すように、僧帽弁プロテーゼ600は、2つの尖(例えば、尖602A及び602P)に取り付けられた可撓性の非対称リング601を備えてもよい。いくつかの実施形態では、2つの尖の各々には、1組の索状体、例えば、索状体のサブセット604(図示せず)、606(図示せず)、608及び610を取り付けてもよい。いくつかの実施形態では、2つの尖の各々の索状体の各組が、単一のキャップ700に取り付けられてもよく、一方、各キャップ700は、索状体の各サブセット610のそれぞれのキャップ700への接続を介して、僧帽弁プロテーゼ600を心臓の乳頭筋720に接続してもよい。
【0075】
本明細書で述べたように、いくつかの実施形態によれば、索状体の各サブセット604(図示せず)、606(図示せず)、608及び610は、前尖及び後尖が作られる材料と同じ1つの材料で作られてもよい。それぞれが尖602A、602Pの延長部上にあると考えられるこのような索状体は、一次索状体と呼ばれることがある。いくつかの実施形態によれば、さらなる索状体が、前尖602A及び後尖602Pの両方に取り付けられてもよい。これらの二次索状体は、各々、尖や一次索状体を構成するのに使用した材料とは異なる別の材料で作られていてもよい。二次索状体は、尖602A及び602Pの各々の下側を一次索状体に沿った点に接続するように構成されていてもよい。一次索状体に沿った二次索状体の接続点は、一次索状体の中央であってもよいが、一次索状体に沿った別の場所を接続点として実装して、尖のより良好な接合を実現してもよい。二次索状体は、典型的には、その一方の端部を前尖602A又は後尖602Pに縫合し、その別の端で、二次索状体を一次索状体に縫合してもよい。二次索状体を前尖602A又は後尖602Pにそれぞれ、例えば縫合部を介して取り付ける際には、取り付け線、例えば縫合線に沿って凝固するのを防ぐために、前尖602Aの外面又は後尖602Pの外面の損傷を避ける必要がある。例えば、顕微縫合を使用する場合、尖602Aと602Pのいずれも傷つける可能性が低くなる。二次索状体の目的は、収縮期中に人工弁の心室側にかかる圧力に対して、人工弁をさらに支持することである。
【0076】
図8A及び
図8Bは、本開示のいくつかの実施形態による、後尖に対する二次索状体の可能な位置、並びに後尖に取り付けられたときの一次索状体及び二次索状体の断面をそれぞれ示す概略図である。
図8Aに示すように、後尖602Pをその後端部で巻回してリング601を形成してもよい。いくつかの実施形態では、僧帽弁後尖602Pを数個の領域に分割してもよい。領域812及び814は、二次索状体、例えば、索状体603が接続される領域であってもよい。しかし、後尖602Pに沿った領域816があってもよく、この領域は索状体がないことが望ましい、すなわち、二次索状体が領域816に接続されるべきではない。これは、領域816は、心室収縮期中に人工弁の一部として後尖602Pが心臓に接続された際に、高い圧力がかかる領域であるからである。いくつかの実施形態では、領域816は、後尖602Pの中央線810の右側に約2~5mm、後尖602Pの中央線810の左側に約2~5mmを含んでもよい。いくつかの実施形態では、領域816は、後尖602Pの中央線810の右に3mm、左に3mmであってもよい。二次索状体は、心室の収縮期中に圧力勾配が増大したときに、後尖602Pをさらに支持するのに役立つように設計されてもよい。
【0077】
いくつかの実施形態では、二次索状体603は、配置された構成のときに、後尖602Pの領域812及び814の端部に達してはならない。いくつかの実施形態では、リング601に近接している領域812及び814の端部に索状体を接続してはならない。例えば、索状体は、後尖602Pの中央線810を基準として、後尖602Pのレイアウト全体の約20度から70度に沿って、領域812及び814のいずれかに沿って配置されてもよい。それ以外として、中央線810と中央線810の両側から約15~20度の間に位置する後尖602Pの領域には、二次索状体がないままでよい。
【0078】
図8Bは、後尖602Pに取り付けられたときの一次索状体及び二次索状体を示す後僧帽弁の断面を概略的に示している。
図8Bは、尖と同じ1つの材料で作られている一次索状体608を示している。一方の端部が後尖602Pから延びる一次索状体608は、別の端がキャップ700に取り付けられている。いくつかの実施形態では、一次索状体608は、束(図示せず)を形成するように互いに接続されてもよく、その場合、その束はキャップ700の外側に接続されてもよい。これにより、キャップ700は、乳頭筋720に接続することができる。
【0079】
いくつかの実施形態によれば、一次索状体608は、二次索状体603に接続されてもよく、それによって、二次索状体603の各々は、一端、例えば端部823で後尖602Pに接続されてもよく、二次索状体603の各々の反対側の端部、例えば端部825で一次索状体に沿って接触する点に接続されてもよい。いくつかの実施形態によれば、二次索状体603は、一次索状体608と比較して、約30~40%の厚さと幅を持つことが望ましい。所望のプロテーゼに応じて、僧帽弁後尖(602P)の各襞部(スカラップScallop)に1~4本の二次索状体を使用することができる。
【0080】
図9A及び
図9Bは、本開示のいくつかの実施形態による、接合面を拡大するような湾曲した(楕円体/滴)構成代替設計で取り付けられた2つの尖を有する僧帽弁プロテーゼ、及び可能な接合面構成をそれぞれ示す概略図である。
図9Aによると、僧帽弁プロテーゼ1100は、2つの尖、例えば、前尖1602A及び後尖1602Pを備えてもよく、それによって、尖1602A及び1602Pの各々が半円形状を有していてもよく、これら2つの尖が協働して「陰と陽」の形状を作り出してもよい。いくつかの実施形態では、尖の形状は、各尖の長さの半分に沿って半円状に設計されており、両方の尖が接合したときに「S」字型のシールを形成するようになっていてもよい。
【0081】
この独特の形状により、特に領域1120において、前尖1602Aと後尖1602Pとの間の十分な接合を可能とすることができる。いくつかの実施形態では、領域1120に沿って、前尖1602Aと後尖1602Pとの間に、接合や重なりがあってもよい。対称的に、後尖1602Pと前尖1602Aの間(図示せず)には、同様の接合又は重なりの領域が存在してもよい。本明細書で詳述した弁600と同様に、尖の各々は、それぞれのリング、例えば、リング601A及びリング601Pを備えてもよく、これらのリングは、尖の各々が構成された材料の端部を自身に巻回することによって形成されてもよい。
【0082】
図9Bによると、癒着の領域に近接して、前尖1602Aから後尖1602Pまでの間に、2つの接合が構成されていてもよい。いくつかの実施形態では、僧帽弁プロテーゼ600に関する場合と同じように、人工弁1100は、一次索状体と二次索状体の2種類の索状体を備えてもよい。いくつかの実施形態によれば、一次索状体は、前尖1602A及び後尖1602Pのいずれかにそれぞれ延長部として構成されてもよい。すなわち、一次索状体、例えば、一次索状体1102A及び1102Pは、それぞれの尖である前尖1602A及び後尖1602Pと同じ1つの材料から構成されてもよい。一次索状体1102A及び/又は1102Pは、一端がそれぞれの尖の中間部から延び、別の端がキャップに接続されていてもよい。いくつかの実施形態によれば、二次索状体、例えば、索状体1104Pは、後尖1602P上にのみ取り付けられてもよい。二次索状体、例えば、索状体1104Pは、一端が後尖1602Pの中間部に接続され、別の端が一次索状体1102Pの中間部に接続されてもよい。いくつかの実施形態によれば、二次索状体1104Pを追加して、生まれながらの僧帽弁、すなわち後尖と後一次索状体との間を接続する追加の短い索状体を含む僧帽弁をより模倣し易くしてもよい。二次索状体を追加することで、収縮期に後尖にかかる圧力に耐え、心周期の収縮期中に尖を適切に接合(又は閉鎖)させ、さらに心臓の拡張期中に尖を開くことができるようになる。
【0083】
例えば、後尖1602Pは、尖1602Pの後端に二次索状体1104Pを取り付けてもよい。なお、二次索状体1104Pは、一次索状体1102Pの中間部にさらに接続されていてもよい。
【0084】
いくつかの実施形態では、索状体の各束及び/又は各索状体は、キャップ、例えば、キャップ700に取り付けられてもよく、このキャップは、索状体を心臓の乳頭筋に接続してもよい。
【0085】
図10は、本開示のいくつかの実施形態による、患者の僧帽弁の測定コピーの概略図である。いくつかの実施形態では、尖部の長さ、幅、及び高さの測定値は、心エコーを介して得てもよいが、他の画像診断法、例えば、心臓CT、又は心臓MRIなどを使用してもよい。したがって、僧帽弁プロテーゼ1200の寸法及び形状は、患者の生体の又は生まれながらの僧帽弁の実質的に正確なコピーであってもよい。
【0086】
図11は、本開示のいくつかの実施形態による、2つの尖のプロテーゼの形成を概略図に示している。
図12に示すように、いくつかの実施形態では、弁の基礎部分、すなわち尖部は、意図されたレシピエントの心臓の断面画像に基づいて、1つの材料1210から切り出されてもよい。尖部のサイズは、プロテーゼ画像を1:1の縮尺で再現するような方法で切断してもよく、開口部1230を設けるために、尖部の中央に沿って、三日月形又は半円状の切開部1220を作り、
図12に示すように、2つの尖、例えば前尖1202A、及び後尖1202Pの画定を行ってもよい。
【0087】
図12は、本開示のいくつかの実施形態による、尖部に沿って形成された開口部を概略的に示している。いくつかの実施形態では、開口部又はオリフィス1230が、1つの材料1210に形成(例えば、切断)されてもよく、2つの尖1202A及び1202Pが、開口部1230の反対側に形成されてもよい。一旦、1つの材料1210を切り開いたことによりオリフィス1230が存在する場合、2つの尖、例えば前尖1202A及び後尖1202Pは、オリフィス1230内に折り曲げるフラップの形態であってもよく、こうすることにより、オリフィス1230を通る、すなわち、心臓の左心房から左心室へ、一方向に血液の流れをさらに形成することができる。
【0088】
図13は、本開示のいくつかの実施形態による、患者の左の心腔又は心室の心エコー又はMRIスキャンを概略的に示している。いくつかの実施形態では、患者の左心室1500は、心エコー、CT又はMRI、又は他の画像撮影技術によって撮影又はスキャンされてもよい。左心室1500のこのような画像又はスキャンは、乳頭筋1520の先端から弁尖1502A及び1502Pまでの、必要な患者の索状体の正確な又は実質的に正確な長さを提供することができる。これにより、患者の解剖学的、生理学的要件に応じて、カスタマイズされた僧帽弁プロテーゼを作製することができる。
【0089】
図14A及び
図14Bは、本開示のいくつかの実施形態による、拡張中及び収縮中のそれぞれの患者の左心室の概略図である。いくつかの実施形態では、
図14Bに示されているように、収縮期中の左心室、すなわち左心室1610は、
図14Aに示された拡張期中の左心室1612の弁輪径1650と比べて小さい環直径1640を有していてもよい。拡張中に左心室に血液が流入すると、左心室1612が血液で満たされ、その結果、弁輪径1650が大きくなることがある。血液が左心室から患者の体の血液系に流れ、臓器に到達するようになった後、血液は、収縮期中に左心室1610から出る。したがって、収縮中の左心室1610の容積は、拡張中の左心室1612の容積に比べて小さく、これにより、収縮期中の弁輪径1640は、拡張中の弁輪径1650に比べて小さくなる。
【0090】
弁輪及び尖1502A及び1502Pは、心臓の機能の繰り返し起こる状態(すなわち、収縮期及び拡張期)において、その直径及びサイズを繰り返し変化させる際に、可撓であることが要求されるので、弁輪及び尖は、生体の僧帽弁を作る組織のように、弾性材料で作られることが望まれることは明らかであろう。したがって、ステント、金属リング、剛性の材料を使用しないプロテーゼが開示されており、尖1502A、1502P及びリングを製作するために選択された材料には、ある程度のコンプライアンスと弾性が要求される。
【0091】
図15A及び
図15Bは、本開示のいくつかの実施形態による、前尖及び後尖に、それぞれ取り付けられた延長部の概略図である。いくつかの実施形態では、
図15Aに示されているように、前尖1202Aは、前尖1202Aのサイズを延長するための追加材料を備える延長部1703を備えてもよい。延長部1703は、長さが約1~5mm、幅が実質的に前尖を形成するために行われた切開部(例えば、
図11の切開1220)の寸法である。いくつかの実施形態では、延長部1703は、一端が前尖1202Aの端部に縫合され(
図11の切開部1220を参照)、別の端は、
図6Aの索状体604、606に類似している場合もある、索状体1704を備え得る。
【0092】
図15Bに示されているように、後尖1202Pは、後尖1202Pのサイズを拡張するための追加材料からなる延長部1709を備えてもよい。延長部1709は、長さが約1~5mm、幅が実質的に前尖を形成するために行われた切開部(例えば、
図11の切開1220)の寸法である。いくつかの実施形態では、延長部1709は、一端が後尖1202Pの端部に縫合され(
図11の切開部1220を参照)、別の端は、
図6Aの索状体608、610に類似し得る索状体1708を備えてもよい。
【0093】
図15Bに示すように、後尖1202Pは、一端(尖端)に延長部1709を取り付け、別の端に索状体1708を取り付けている。索状体1708は、一端が延長部109に接続され、別の端がキャップ1870に接続されており、このキャップは、
図7Aに関連して説明したキャップと構造が類似していてもよい。前尖1202Aは、一端(尖端)に延長部1703を取り付け、別の端に索状体1704を取り付けている。索状体1704は、一端が延長部1703に接続され、別の端がキャップ1870に接続されるが、このキャップは、
図7Aに関連して説明したキャップと構造が類似していてもよい。
【0094】
索状体1704及び1708の各々は、本明細書で一次索状体としても記載されている複数の索状体、例えば4つの一次索状体を備えてもよいが、各患者の特定の要件に応じて他の数の索状体を実装してもよい。いくつかの実施形態では、索状体は、本明細書で上述されているような二次索状体(図示せず)を備えてもよい。
【0095】
図16A及び
図16Bは、本開示のいくつかの実施形態による、延長部及び取り付けられた索状体を備えた僧帽弁プロテーゼの、それぞれ拡張中及び収縮中における側面視の概略図である。ここで、
図16Aを参照すると、心臓が拡張期にあるときの僧帽弁プロテーゼのプロファイルを示す僧帽弁プロテーゼの側面図であり、
図16Bを参照すると、心臓が拡張期にあるときの僧帽弁プロテーゼの側面図である。前尖1202Aと後尖1202Pは、互いに距離を置いて配置されており、血液が尖1202Aと1202Pの間のオリフィスを通って左心室に流れることを可能にし、延長部1703、1709は、弁プロテーゼの接合プロファイルを強化することができる。尖1202A及び1202Pの各々は、前尖及び後尖に追加の材料を提供して取り付けられ、収縮中に必要な接合を提供する延長部1703、1709を有し、心房内への血液の逆流を防ぎ、収縮中に左心室を支持することができるようにしてもよい。
【0096】
いくつかの実施形態では、延長部1703及び延長部1709は、異なるサイズ(例えば、長さ、幅、及び形状)で用意される。いくつかの実施形態では、索状体1704、1708は、キャップ1870に取り付けられる前に、縫合によって共に束にして固定されてもよい。
【0097】
延長部1703及び1709はそれぞれ、それぞれの索状体(1704、1708)を担持するように構成されており、これらの索状体は、生まれながらの心臓弁の索状体に類似しており、支持されて、心腔に挿入され、心臓の壁の筋肉又は乳頭筋の上に取り付けられる。例えば、延長部1703は、索状体又は索状体のセット1704を担持してもよく、延長部1709は、索状体又は索状体の組1708を担持してもよい。少なくとも2つの索状体の各々は、別の端部(延長部の各々に接続された端部とは反対側)で、弁を乳頭筋に取り付けるように構成されたキャップ1870に接続されてもよい。
【0098】
いくつかの実施形態では、
図16Aに示されているように、拡張期中は、尖1202A及び1202P、並びにそれぞれの延長部1703及び1709は、互いに距離を置いて配置されているので、血液が左心房から左心室に向かって一方向に流れるようになる。
【0099】
いくつかの実施形態では、
図16Bに示されているように、収縮期中、尖1202A及び1202P、並びにそれらのそれぞれの延長部1703及び1709が互いに近接して配置されているので、反対方向、すなわち左心室から左心房への血液の逆流又は漏出を防止している。いくつかの実施形態によれば、延長部、例えば延長部1703及び1709は、左心室から左心房へ血液が逆流して漏れないようにするために、弁の必要な接合又は閉止を行う。
【0100】
いくつかの実施形態によれば、延長部は尖の縁に合わせてカットされ、十分な接合を確保するために5mm以上の異なる幅としてもよい。延長部は、尖の縁に縫合、接着、ステープラ留め、又はその他の方法で尖に取り付けられる。
【0101】
いくつかの実施形態によれば、索状体、例えば、索状体1704及び1708は、特定の患者ごとに最適と判断される設計に応じて、心腔壁又は乳頭筋に個別に取り付けられ、例えば、縫合されてもよく、又は、例えば、対、4本組などのように束ねられてもよい。
【0102】
いくつかの実施形態によれば、索状体は非対称であってもよい。すなわち、索状体の大きさは異なっていてもよい。なぜなら、左の心腔には2つの乳頭筋があり、尖延長部の様々な箇所から延びる索状体は、それらの筋肉の上端からの長さと距離が異なるからである。そのため、各索状体や索状体の束は、別の索状体と比べて個別に異なる長さを持っていてもよい。これにより、人工弁は完全に閉止でき、十分な接合長を確保することができる。
【0103】
いくつかの実施形態では、尖延長部、例えば延長部1703及び1709からそれぞれ生じる索状体、例えば索状体1704及び1708は、前尖延長部及び後尖延長部の縁に沿って分配され、弁がインビボで動くときに、それらの尖の縁に沿って張力を均等に分配し、したがって、人工弁の摩耗及び破損を低減するようにしてもよい。
【0104】
図17は、本開示のいくつかの実施形態による、生まれながらの弁輪を模倣するために、非対称の可撓性リングを人工弁の外周に取り付けることを示す概略図である。いくつかの実施形態によれば、可撓性リング1901は、細長い材料の一部を自身の上に巻回してリング状に閉じることで形成されてもよいし、中央に穴のある材料の一部を、材料の外側に向かって自身の上に巻回すことで形成されてもよい。いくつかの実施形態では、巻回されたリング1901は、僧帽弁プロテーゼ1200の外周に取り付け、外科的取り付け、例えば、患者の弁輪への縫合を可能にし、弁輪の剛性を向上させ、また、弾性材料が使用される場合には、収縮期と拡張期との間で変化する心臓サイクルの間に、弾性を向上するようにしてもよい。巻回したリング1901は、最初にカットした弁1200(
図10)の外周にぴったり嵌めてもよい。いくつかの実施形態では、外科的に取り付けて、リング形状を形成するために使用される縫合材料は、放射線不透過性材料である。いくつかの実施形態では、外科的に取り付けて、僧帽弁プロテーゼを患者の弁輪に取り付けるために使用される縫合材料は、放射線不透過性材料である。
【0105】
いくつかの実施形態によれば、外輪補強材1901は、拡張期及び収縮期のそれぞれの心臓サイクル中に人工弁を可変的に拡張及び収縮できるように、可変的な弾性を有する弾性材料で作ってもよい。いくつかの実施形態では、リング1901の弾性は、三次元心エコー解析に基づく患者の生まれながらの弁輪の動きを継続的に研究して得てもよい。
【0106】
いくつかの実施形態では、補強リング19010は、心臓内部の血液環境に曝されてもよく、あるいは、弾性材料を巻き込んで挟むように巻回されてもよく、この弾性材料は、それを取り囲む尖と同じ材料から作られていてもよい。
【0107】
図17に示すように、人工弁1200は、索状体1704及び1706を備え、索状体1704及び1706は、前尖1202Aに(延長部を介して、又は、延長部なしで)取り付けてもよく、さらに、索状体1708及び1710を備え、索状体1708及び1710は、後尖1202Pに(延長部を介して、又は、延長部なしで)取り付けられてもよい。
図16A及び
図16Bに示すように、索状体は、僧帽人工弁1200を心臓の乳頭筋に取り付けるように構成された少なくとも2つのキャップに取り付けられ、よって、特定の患者の特定の解剖学的及び生理学的要件ごとに、患者の左心室に適切に僧帽弁プロテーゼ1200を取り付けできるようにしてもよい。
【0108】
図18A~
図18Eは、それぞれ、本開示のいくつかの実施形態による、巻回された弁輪に挿入される弾性材料の概略図であり、リングがその上に巻回される手順を示す概略図である。いくつかの実施形態によれば、
図18A~
図18Cに示すように、弁輪2201が、追加で弾性材料2205を備え、リング2201が弾性材料2205の上を巻回するようにしてリング2201内に挿入され、弾性材料2205がリング2201内で「挟まれる」ように構成してもよい。リング2201内に弾性材料2205を追加するのは、リング2201に特別な弾性を提供するためであり、これにより、生体の僧帽弁の弾性特性をより模倣し易くできる。いくつかの実施形態では、弾性材料2205は、ゴム又は任意の別の生体適合性のある合成材料であってもよい。いくつかの実施形態では、弾性材料2205の形状は、それが挿入されるリング2201の形状と同様であり、それにより、弾性材料2205をリング2201へ容易に挿入できる。
【0109】
いくつかの実施形態によれば、
図18Bに示されているように、リング2201(尖と同じ材料で作られていてもよいし、尖の外側の縁に取り付けられた別の材料の延長部から作られていてもよい)が、弾性材料2205の上を、合成弁の内側に向かって、例えば、切開部2220に向かって巻回されてもよく、その切開部は、尖部の中央に沿って、三日月形又は半円状に作られて、切開2220によって画定される2つの尖、例えば、前尖2202A、及び後尖2202Pの間に開口部を設けるようにしてもよい。切開部2220は、実際には、血液が左心房から左心室に流れる、実際の僧帽弁プロテーゼのオリフィスである。したがって、僧帽弁プロテーゼの外縁部は、リング2201を備え、次に、リング2201には、尖、例えば尖2201A及び2202Pの主表面が接続され、それら主表面は、索状体、例えば索状体2204を介してキャップ2270を介して乳頭筋に接続される。
【0110】
いくつかの実施形態によれば、
図18C、18Dに示されているように、弾性材料2205の一部又は全部が、放射線不透過性マーカフィラメント2240で作られている。いくつかの実施形態によれば、放射線不透過性マーカフィラメント2240が追加され、弾性材料2205と並んでリング2201の内部に配置される。放射線不透過性マーカフィラメント2240は、弾性材料2205の内部に配置されてもよいし、弾性材料2205と並んで配置された別個の構成要素としてもよい。放射線不透過性マーカフィラメントは、リング2201が放射線不透過マーカフィラメントの上を巻回すように、リング2201内でポリプロピレン縫合材料2242を用いて所定の位置に縫合されてもよく、放射線不透過マーカフィラメントはリング2201内で「挟まれて」いる。いくつかの実施形態では、放射線不透過性マーカフィラメントと弾性材料2205の両方が共に「挟まれて」いる。他のいくつかの実施形態では、放射線不透過性マーカフィラメント2240は、リング2201を巻回す必要なく、リング2201のリムに縫合される。放射線不透過性マーカフィラメントは、円形縫合糸2244又は水平縫合糸2246を用いて所定の位置に縫合してもよい。放射線不透過性マーカフィラメント2240は、好ましくは、白金、白金-イリジウム、金、ニチノール、タングステン又はパラジウムで作られていてもよい。本明細書に記載されているような放射線不透過マーカ2240の使用は、例えば、経カテーテルプロテーゼ移植のためのバルブインバルブなど、将来必要となるあらゆる介入に有用である。リング2201内に、放射線不透過性マーカが存在すれば、又はリング2201に取り付けられていれば、従来の画像スキャン(CT、MRI、X線など)での視認性により、医師へのガイダンスになるとともに、僧帽弁輪の識別が可能となる。
【0111】
図18Eに示されたいくつかの実施形態では、生まれながらの僧帽弁の切除中、生まれながらの僧帽弁尖2250、2252の1つ以上の小片が、術前の患者から採取される。患者の生まれながらの僧帽弁の病状に応じて、患者の生まれながらの僧帽弁の健康な部分が、外科医によって特定され、健康な索2254、2256の取り付け部分と共に切除される。次いで、取り付けられた索2254、2256を有する1つ以上の健全な、切除された、生まれながらの僧帽弁尖部2250、2252が保存され、例えば、僧帽弁プロテーゼ後尖2202に取り付けられる。生まれながらの僧帽弁尖部2250、2252の1つ以上の切除された、生まれながらの健康な僧帽弁片は、縫合又は接着によって後尖に接続されてもよい。また、索2254、2256は、本明細書に記載されているように、患者の乳頭筋2270に取り付けられている。切除された、生まれながらの僧帽弁尖及び索は、患者自身の状態に依存するので、患者がより健康な組織を持つことにより、自分自身の僧帽弁プロテーゼの構築に使用される自己移植材料の恩恵を受けることになる。このような追加的に切除された、生まれながらの僧帽弁尖及び索は、本明細書に記載された僧帽弁プロテーゼの二次索状体として支持され、前記プロテーゼにかかるせん断応力を低減でき、その結果、プロテーゼの耐久性及び寿命が長くなる。
【0112】
図19は、本開示のいくつかの実施形態による、僧帽弁プロテーゼを作製する方法を示す概略フローチャートである。いくつかの実施形態によれば、患者ごとにカスタマイズされた僧帽弁プロテーゼを作製するための方法2000は、画像診断法を介して、患者の僧帽弁のサイズ及び形状を測定することを含み得る、動作2002を含んでもよい。特定の患者の僧帽弁の形やサイズを測定する画像診断法は、心エコー、心臓CT、心臓MRIなど、あらゆる画像診断法が考えられる。方法2000は、1つの材料から患者の僧帽弁のレプリカを1:1の縮尺で切断する、動作2004をさらに含んでもよい。いくつかの実施形態では、方法2000は、1つの材料に沿って切込みを入れ、それにより血液を流すためのオリフィスを形成し、オリフィスの両側に1つずつ、2つの尖を形成する、動作2006を含んでもよい。方法2000は、画像診断法を介して必要な索状体の長さを測定する、動作2008を含んでもよく、これは、動作2002のように、僧帽弁の形状及びサイズを測定する画像診断法と同様であってもよい。
【0113】
いくつかの実施形態では、方法2000は、索状体を心臓の乳頭筋に取り付けるように構成された2つのキャップのうちの1つに索状体を取り付ける、動作2010をさらに含んでもよい。
【0114】
いくつかの実施形態では、方法2000は、動作2012を含んでもよく、この動作は、可撓性リングを尖に取り付けることを含み、それによって、特定の患者ごとに生まれながらの僧帽弁を模倣した僧帽弁プロテーゼ全体を作成してもよい。
【0115】
いくつかの実施形態では、方法2000は、任意の動作をさらに含んでもよく、この動作は、動作2008で測定されたように、索状体を担持するために2つの尖の各々に延長部を取り付けることを含んでもよい。これらの延長部は、心周期の収縮期中に適切に接合し、閉止するのに役立つ。
【0116】
いくつかの実施形態によれば、開示されている任意の前尖及び後尖、任意のリング、任意の索状体(及び索状体の任意のサブセット)、任意のキャップ、及び/又はそれらの任意の組み合わせは、天然材料から製作することができ、綿撒糸などの異物の混入を避けることができる。可撓性リング、尖、索状体、及びキャップを製作するために、ホモグラフト材料及び/又は複合材料(ホモグラフト、ゼノグラフト、及び/又はオートグラフト材料の様々な組み合わせを含む)をさらに使用してもよい。弁輪と尖を形成する材料としては、ヒト、ウシ、ブタの心膜、脱細胞化された生体材料、細胞を組み込んだ生分解性ポリマーの織物、細胞外材料などが含まれるが、これらに限定されるものではない。生分解性の天然ポリマーには、トフィブリン、コラーゲン、キトサン、ゼラチン、ヒアルロン酸、及びそれに類似した材料があるが、これらに限定されるものではない。細胞や細胞外マトリックス材料を浸潤させ得る生分解性の合成高分子の骨格(スカッフォールド:scaffold)としては、ポリ(L-ラクチド)、ポリグリコリド、ポリ(乳酸-コ-グリコール酸)、ポリ(カプロラクトン)、ポリオルトエステル、ポリ(ジオキサノン)、ポリ(無水物)、ポリ(トリメチレンカーボネート)、ポリホスファゼン、及びこれらの類似材料を挙げることができるが、これらに限定されるものではない。可撓性リングは、さらにカスタマイズすることで、患者に合わせた可撓性や剛性を持たせることができる。さらに、索状体を含む僧帽弁プロテーゼの一部の構成要素は、患者の自己心膜によって手術中に形成してもよい。
【0117】
いくつかの実施形態によれば、開示されている非対称可撓性リングのいずれも、前側リング部分と後側リング部分を含んでもよいし、又は、単体として作られていてもよく、尖(複数可)の端部をそれ自体に巻回したり折り曲げたりして形成してもよい。別の実施形態では、可撓性リングは、少なくとも2つのストランド又は層の材料、例えば、ヒト、ウシ、ブタの心膜、又は上記の材料のいずれかをさらに含んでもよく、それによって、少なくとも2つのストランド又は層は、一方が別の方の周囲に巻回されても、ねじられても、編み込まれても、又はループ状になっていてもよい。コイル状のコイルに構成されたリングは、尖の端を巻回しただけのリングに比べて強度が高くなるが、コイル状のリングは弾力性を保たなければならない。
【0118】
いくつかの実施形態によれば、リングは、弾性を持たせるために折り曲げられた2本のストランド又は層の材料を備え、構造的安定性を持たせるために第3の層が加えられている。いくつかの実施形態では、リングはウシ心膜でできた2つの層を備え、第3のストランド又は層は、リングに強度を与えるためにグリシン又はプロリンでできていてもよい。
【0119】
いくつかの実施形態では、少なくとも2つの層又はストランドは、互いに取り付けられ、例えば、縫合されてもよい。いくつかの実施形態では、第3の層は、リングの少なくとも2つの層に取り付けられていてもよく、例えば、縫合されていてもよい。
【0120】
いくつかの実施形態によれば、僧帽弁プロテーゼの構成要素は、いくつかの接続方法を介して互いに取り付け又は接続することができる。例えば、僧帽弁プロテーゼの構成要素は、縫合糸、ステープラピン、接着剤、又はその他の取り付け手段を介して互いに接続されてもよい。
【0121】
いくつかの実施形態では、縫合部又はステッチは、例えば、ナイロン(エチロン)、プロレン(ポリプロピレン)、ノバルフィル、ポリエステルなどの非生分解性合成材料で作られていてもよい。いくつかの実施形態では、縫合部やステッチは、外科用シルクや外科用コットンなどのような、生分解性のない天然材料で作られていてもよい。
【0122】
いくつかの実施形態では、ステープラピンは、例えば、ステンレス鋼やチタンなどの生体適合性のある材料で作られていてもよい。
【0123】
いくつかの実施形態では、接着剤は、アルデヒドベースの接着剤、フィブリンシーラント、コラーゲンベースの接着剤、ポリエチレングリコールポリマー(ヒドロゲル)、又はシアノアクリレートなどの生体適合性のある材料で作られていてもよい。
【0124】
いくつかの実施形態によれば、尖、リング、索状体(及び索状体のサブセット)及び/又はそれらの組み合わせのいずれかは、患者の生まれつきの僧帽弁及び周辺の解剖学的構造の超音波画像診断に基づいて、患者ごとにカスタマイズすることができる。さらに、心エコー、心臓CT、心臓MRIなど、三次元情報を提供する他の画像診断技術で得られたデータに基づいて、カスタマイズされた僧帽弁を製作することもできる。このように、本開示の僧帽弁プロテーゼは、患者の特定の解剖学的構造に一致するように選択又は設計されてもよく、それによって、患者の周囲の組織、例えばプロテーゼを囲む心筋がプロテーゼを受け入れる可能性を高めることができる。
【0125】
患者への移植に備えて、僧帽弁の手術では通常、患者の心臓を停止させる。移植の際には、プロテーゼの可撓性リングは生まれながらの弁輪に縫合で固定され、乳頭キャップは生まれながらの乳頭筋に縫合される。例えば、生まれながらの乳頭筋の各々の先端に2針縫合で、筋肉にキャップを固定する。臨床医は、心室内に生理食塩水を適切な圧力で満たし、置換した弁がかけられた圧力によって閉じる際の動きと能力を確認することで、弁が完全に開閉することを確認する。移植後、心臓を閉じて拍動を再開した後、経食道心エコー(TEE)で弁を検査する。
【0126】
必要であれば、対象者は、移植後に抗凝固剤を投与することも可能である。自然な形状と天然の材料を使用して本発明の僧帽弁プロテーゼを構築していることを考慮すると、ほとんどの患者に対し、抗凝固薬の使用量を軽減する、又は抗凝固薬を使用しないことが期待される。
【0127】
現在使用されている生体及び機械的プロテーゼには、かさばる異物が含まれていること、強力な抗凝固剤が必要なこと、耐用年数が短く、置換の際には再度手術を受けなければならないこと、移植後の心臓の回復を効率的に支援しないことなど、いくつかの欠点がある。本発明は、上述の生体及び機械的なプロテーゼに対していくつかの利点を提供する。患者の生まれながらの僧帽弁により近い設計であり、天然の材料で作られた記載の僧帽弁プロテーゼは、患者の回復時間を短縮し、より長い耐用年数を実現し、抗凝固剤の投与を軽減又は省略することが期待される。
【0128】
本明細書で引用されているすべての特許、公開された出願、及び参考文献の教示は、その全体が参照により組み込まれている。
【0129】
これまで、本発明を例示的な実施形態を参照しながら説明してきたが、添付の特許請求の範囲に包含される本発明の範囲を逸脱することなく、形態や細部に様々な変更を加えることができることが当業者には理解されるであろう。