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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-13
(45)【発行日】2024-09-25
(54)【発明の名称】ポリアミンを溶出するための方法
(51)【国際特許分類】
   A23L 21/20 20160101AFI20240917BHJP
   A23L 33/10 20160101ALI20240917BHJP
   A61K 36/18 20060101ALN20240917BHJP
   A61P 43/00 20060101ALN20240917BHJP
   A61K 35/64 20150101ALN20240917BHJP
【FI】
A23L21/20
A23L33/10
A61K36/18
A61P43/00 111
A61K35/64
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2020026312
(22)【出願日】2020-02-19
(65)【公開番号】P2021130623
(43)【公開日】2021-09-09
【審査請求日】2022-12-26
(73)【特許権者】
【識別番号】591045471
【氏名又は名称】アピ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】加藤 真悟
(72)【発明者】
【氏名】瀧 萌子
【審査官】高山 敏充
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第101401821(CN,A)
【文献】特開2016-188184(JP,A)
【文献】特開2008-143893(JP,A)
【文献】特開2008-133270(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L
A61K
A61P
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
FSTA/AGRICOLA/BIOSIS/BIOTECHNO/CABA/CAplus/SCISEARCH/TOXCENTER(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
花粉荷に溶媒を加え、セルラーゼ及びプロテアーゼから選ばれる少なくとも一種の酵素で処理する工程、
酵素で処理された前記花粉荷を固液分離することなく、濃縮又は乾燥処理する工程を含む花粉荷からのポリアミン溶出するための方法。
【請求項2】
前記酵素は、セルラーゼ及び中性プロテアーゼである請求項1に記載のポリアミン溶出するための方法。
【請求項3】
前記花粉荷が、湿式超高圧粒子衝突型ホモジナイザーで処理される工程を含む請求項1又は2に記載のポリアミン溶出するための方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリアミン溶出するための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、花粉荷は、蜜蜂が植物の雄しべから花粉を得て、蜂蜜や唾液で丸めて団子状に固めたもので、良質なタンパク質、ビタミン及びミネラル等の多種多様な栄養素を含んでいる事から「パーフェクトフード」とも呼ばれている。花粉荷は、採集器等により蜜蜂から容易に回収され、主に栄養補助食品等として摂取されている。
【0003】
従来より、花粉荷は、いくつかの薬理効果を有することが知られている。花粉荷の薬理効果を利用した発明として、例えば特許文献1,2に開示される組成物が知られている。特許文献1は、花粉荷を有効成分として含有する骨量増進組成物について開示する。特許文献2は、花粉荷を有効成分として含有する糖尿病性疾患の予防・治療用組成物について開示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2007-016014号公報
【文献】特開2008-105982号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明者らは、花粉荷の新たな生理作用を模索した。その結果、花粉荷にセルラーゼ又はプロテアーゼを用いて処理することにより、特定の有効成分が増加することを発見するに至った。
【0006】
本発明の目的とするところは、飲食品等の様々な用途に利用できる花粉荷からのポリアミン溶出するための方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、花粉荷をセルラーゼ又はプロテアーゼを用いて処理することにより、ポリアミンの溶出量を増加できることを見出したことに基づいてなされたものである。
上記目的を達成するために本発明の一態様の花粉荷処理物は、溶媒に懸濁された花粉荷をセルラーゼ及びプロテアーゼから選ばれる少なくとも一種の酵素で処理し、固液分離することなく、濃縮又は乾燥処理して得られたものであることを特徴とする。
【0008】
前記酵素は、セルラーゼ及び中性プロテアーゼであってもよい。
前記花粉荷は、さらに湿式超高圧粒子衝突型ホモジナイザーで処理されたものであってもよい。
【0009】
上記目的を達成するために本発明の別の態様である花粉荷の処理方法は、花粉荷に溶媒を加え、セルラーゼ及びプロテアーゼから選ばれる少なくとも一種の酵素で処理する工程、固液分離することなく、濃縮又は乾燥処理する工程を含むことを特徴とする。
【0010】
上記目的を達成するために本発明の別の態様であるアンチエイジング用組成物は、溶媒に懸濁された花粉荷をセルラーゼ及びプロテアーゼから選ばれる少なくとも一種の酵素で処理し、固液分離することなく、濃縮又は乾燥処理して得られたものである花粉荷処理物を有効成分として含有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、飲食品等の様々な用途に利用できる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の花粉荷処理物を具体化した一実施形態を説明する。本実施形態の花粉荷処理物は、原料となる花粉荷を溶媒に懸濁させて、セルラーゼ及びプロテアーゼから選ばれる少なくとも一種の酵素で処理し、固液分離することなく、濃縮又は乾燥処理して得られた物である。
【0013】
この花粉荷処理物は、従来の湿式粉砕装置であるホモミキサー等で処理された花粉荷よりもポリアミンの溶出量が増加している。なお、ポリアミンの種類としては、特に限定されないが、代表的なポリアミンとしてスペルミジン、スペルミン、プトレッシンが挙げられる。本発明の花粉荷処理物は、これらのポリアミンの溶出量の合計が増加していることが好ましい。
【0014】
原料となる花粉荷は、上述したように蜜蜂が植物の雄しべから花粉を得て、蜂蜜や唾液で丸めて団子状に固めたもので、ビタミン及びミネラル等の多種多様な栄養素を含んでいる。花粉荷の原産地は、特に限定されず、例えば日本、中国等のアジア諸国、ブラジル等の中南米諸国、アメリカ、カナダ等の北米諸国、スペイン等のヨーロッパ諸国、オセアニア諸国等のいずれであってもよい。特に外国の花粉荷を使用する場合、原料を産地から工場に輸送する際、輸送中の花粉荷の酸化防止や虫の発生を防止するために、真空処理、不活性ガス等によりガス置換包装を施すことが好ましい。例えば10~20秒の間、真空処理により容器内の酸素を排除し、さらに好ましくは1~5秒の間、窒素、或いは、窒素と二酸化炭素の混合ガスを容器に充填し、ガス置換包装を施す工程を実施できる。
【0015】
また、花粉荷の原料となる花粉の起源植物としては、特に限定されず、蜜蜂が採取したものであればいずれも使用できる。花粉の起源植物としては、例えば、ハンニチバナ科、ツツジ科、シソ科、ムラサキ科、ブナ科、キク科、モクセイ科、アブラナ科、マメ科、バラ科、ヤナギ科等が挙げられる。これらの中で、ハンニチバナ科、及びアブラナ科が入手容易性の観点から好ましい。ハンニチバナ科としては、例えばシスタス属ジャラ等が挙げられる。アブラナ科としては、例えばアブラナ属ナタネ、ダイコン属ダイコン等が挙げられる。花粉荷の採集方法としては、特に限定されず公知の方法を適宜採用できる。例えば、巣箱の出入り口に取り付けられ、格子状の剥取多孔板を備えてなる花粉採集器を用いる方法、巣板又は蜜蜂に付着した花粉荷を直接採集する方法等が挙げられる。得られた花粉荷は、酵素処理する前に選別、採取時に混入するゴミ等の夾雑物の除去、洗浄処理等を行ってもよい。選別は、目視による直接的な選別の他、比重選別機、風力選別機を通すことで異物除去を行うことができる。
【0016】
セルラーゼを用いた花粉荷の破砕処理は、花粉荷の細胞壁を構成するセルロース等のβ-1,4-グルカンのグリコシド結合を加水分解して低分子化する処理である。セルラーゼには、β-1,4-グルカンの末端から加水分解するエキソ型セルラーゼとβ-1,4-グルカンの途中位置から分解するエンド型セルラーゼとが存在するが、いずれのセルラーゼも使用できる。また、セルラーゼには、至適pHを酸性付近(例えば、pH6.0未満)、中性付近(例えば、pH5.0~9.0)、アルカリ性付近(例えば、pH8.0以上)に有する酸性セルラーゼ、中性セルラーゼ、アルカリ性セルラーゼがそれぞれ存在するが、いずれのセルラーゼも使用できる。セルラーゼの具体的としては、例えば麹菌由来の酸性セルラーゼを挙げることができる。麹菌由来の酸性セルラーゼとして、市販品としては、スミチームシリーズ(新日本化学工業社製)を使用できる。
【0017】
セルラーゼを用いた花粉荷の処理は、まず原料花粉荷を溶媒に懸濁することにより反応液が調製される。反応液には、原料に起因する粘度上昇を抑えてセルラーゼ処理を迅速に進行させるための溶媒として、水(又は緩衝液)が含有されている。反応液は、原料花粉荷の質量に対して2~15倍量、好ましくは2~14倍量、より好ましくは3~10倍量の水(又は緩衝液)が含有されていることが望ましい。原料花粉荷の質量に対して2倍量以上の溶媒が加えられる場合、原料花粉荷に起因する反応液の粘度上昇を十分に抑えることができ、セルラーゼ処理を迅速に進行できる。逆に、原料花粉荷の質量に対して15倍量以下の溶媒が加えられる場合、続く各処理を経て得られる花粉荷処理物を粉末化する際に、処理時間の短縮を図ることができる。
【0018】
セルラーゼを用いた処理の温度条件としては、酵素の種類により適宜設定されるが、例えば麹菌由来の酸性セルラーゼを用いた場合、好ましくは40~60℃、より好ましくは40~55℃、さらに好ましくは50~55℃である。セルラーゼを用いた処理の処理時間としては、酵素の種類により適宜設定されるが、例えば麹菌由来の酸性セルラーゼを用いた場合、好ましくは0.5~12時間、より好ましくは1~10時間、さらに好ましくは2~6時間である。なお、このセルラーゼ処理は、処理後の反応液を直ちに85~100℃で5~60分間加熱してセルラーゼを失活させることが望ましい。
【0019】
プロテアーゼ処理は、原料花粉荷に含有されるタンパク質のペプチド結合を加水分解して低分子化する処理である。プロテアーゼには、ペプチドの末端から加水分解するエキソ型プロテアーゼとペプチドの途中位置から分解するエンド型プロテアーゼとが存在するが、いずれのプロテアーゼも使用できる。また、プロテアーゼには、至適pHを酸性付近(例えば、pH6.0未満)、中性付近(例えば、pH5.0~9.0)、アルカリ性付近(例えば、pH8.0以上)に有する酸性プロテアーゼ、中性プロテアーゼ、アルカリ性プロテアーゼがそれぞれ存在するが、いずれのプロテアーゼも使用できる。さらに、プロテアーゼは、微生物由来、動物由来、植物由来等、様々なものに由来するプロテアーゼが存在するが、いずれのものに由来するプロテアーゼも使用できる。これらのプロテアーゼの中でも、ポリアミンの溶出性に優れる酸性プロテアーゼ又は中性プロテアーゼが好ましい。
【0020】
酸性プロテアーゼとして、具体的には、アスペルギルス・ニガー(Aspergillus niger)由来の酸性プロテアーゼを挙げることができる。中性プロテアーゼとして、具体的には、バチルス・サブティリス(Bacillus subtilis)由来の中性プロテアーゼ、アスペルギルス・オリザエ(Aspergillus oryzae)由来の中性プロテアーゼ、バチルス・ステアロサーモフィラス(Bacillus stearothermophilus)由来の中性プロテアーゼ、及びパパイヤ由来のプロテアーゼを挙げることができる。アルカリ性プロテアーゼとして、具体的には、バチルス・リケニフォルミス(Bacillus licheniformis)由来のアルカリ性プロテアーゼを挙げることができる。
【0021】
各種プロテアーゼを用いたプロテアーゼ処理は、原料花粉荷、プロテアーゼ、及び水(又は緩衝液)を含む反応液を、各種プロテアーゼに応じた反応条件下でインキュベートすることにより実施される。前記セルラーゼ処理後の反応液にプロテアーゼをさらに添加し、プロテアーゼに応じた反応条件下でインキュベートすることにより実施してもよい。プロテアーゼ処理の処理時間は、反応温度、酵素の力価等により適宜設定されるが、好ましくは1~30時間、より好ましくは4~20時間である。処理pHは好ましくは各酵素の至適pH付近で行なわれる。なお、このプロテアーゼ処理は、インキュベート後の反応液を直ちに85~100℃で5~60分間加熱してプロテアーゼを失活させることが望ましい。
【0022】
上述したセルラーゼ又はプロテアーゼ処理は、いずれか一方のみを行ってもよく、両方行ってもよい。両方の酵素で処理する場合、いずれを先に行ってもよく、また条件が合えば同時に行ってもよい。花粉荷処理物は、上述した酵素処理の中で、セルラーゼ及び中性プロテアーゼで処理されたものであることが好ましい。かかる処理を行うことにより、ポリアミンの溶出量をより増加できる。
【0023】
花粉荷処理物は、さらに湿式超高圧粒子衝突型ホモジナイザー処理が加えられていてもよい。湿式超高圧粒子衝突型ホモジナイザー処理を加えることにより、ポリアミンの溶出量をより増加できる。湿式超高圧粒子衝突型ホモジナイザー処理は、上述した酵素処理の前又は後の工程のいずれに行ってもよいが、酵素処理の効率化を高めて、ポリアミンの溶出量をより増加させるために、酵素処理の前に行うことが好ましい。
【0024】
湿式超高圧粒子衝突型ホモジナイザーは、試料溶液を超高圧に加圧して試料同士を衝突させて粉砕する粉砕装置である。このホモジナイザーを用いた処理により、特に花粉を構成する細胞壁が破壊される。市販品としては、例えばスギノマシン社製の湿式微粒化装置「スターバースト」を挙げることができる。スターバーストは、超高圧(例えば200MPa以上)に加圧した粒子同士を、超高速で斜向衝突させることにより、対象物を粉砕させる。
【0025】
湿式超高圧粒子衝突型ホモジナイザーを用いた花粉荷の処理は、まず花粉荷を含む処理用試料を所定の粉砕用容器内に処理用溶媒とともに投入し、所定時間懸濁することにより処理溶液を調製する。処理用溶媒としては、水、又は水/親水性有機溶媒混合液が用いられる。親水性有機溶媒としては、水に溶解する性質を有するエタノール、メタノール、イソプロパノール等の低級アルコールのほか、プロピレングリコール(PG)、1,3-ブチレングリコール(BG)、ポリエチレングリコール(PEG)、グリセリン等の多価アルコール、アセトンやエーテル類、クロロホルム等を適宜選択して使用できる。これらの中で、生体適用性の観点から水、又は水/エタノール混合液が適用される。処理用溶媒の使用量は、装置等の種類に応じて適宜設定されるが、花粉荷(固形分)の質量に対して好ましくは0.5~10倍量、より好ましくは1~5倍量である。溶媒の使用量が0.5倍量以上の場合には、流動性を向上させ、粉砕効率をより向上できる。一方、処理用溶媒の使用容量が10倍量以下の場合には、装置をより大きくする必要がなく、濃縮・乾燥等の後の工程の処理時間をより短縮でき、作業性をより向上できる。なお、処理用溶媒中には、pH調整剤、界面活性剤等の添加剤を添加して処理中の溶媒の安定性を高めてもよい。
【0026】
市販の湿式超高圧粒子衝突型ホモジナイザーを用いた加圧処理条件としては、好ましくは100MPa以上、より好ましくは150MPa以上、さらに好ましくは200MPa以上の条件が採用される。加圧処理条件が100MPa以上の場合、花粉荷の粉砕効率が向上する。加圧処理の圧力上限としては、特に限定されず、湿式超高圧粒子衝突型ホモジナイザーの装置の加圧上限に応じて適宜決定される。また、湿式超高圧粒子衝突型ホモジナイザーを用いた加圧処理の回数は、必要に応じて1回(パス)のみならず2回(パス)以上の複数回繰り返されてもよい。
【0027】
処理用試料として酵素処理前の原料花粉荷が用いられる場合、原料花粉荷は予めホモミキサー等の湿式粉砕装置により前処理されることが好ましい。かかる処理が行われることにより、花粉荷の顆粒をほぐすことができ、湿式超高圧粒子衝突型ホモジナイザーでの処理をより効率化できる。湿式粉砕装置としては、例えばホモミキサー、ホモジナイザー、ホモディスパー等が挙げられる。それらの装置は、花粉荷を所定の粉砕用の容器内に撹拌用溶媒とともに投入し、所定時間撹拌することにより行われる。撹拌用溶媒としては、上述したホモジナイザーの処理用溶媒が挙げられる。
【0028】
上記のように花粉荷がセルラーゼ又はプロテアーゼ処理され、必要により湿式超高圧粒子衝突型ホモジナイザー処理が加えられた後、固液分離することなく、濃縮又は乾燥処理する工程が行われる。花粉荷処理物は、上記処理された後、加熱処理されることが好ましい。加熱処理は、カビ、細菌等の微生物を死滅させ、生体適用性を向上させる。また、特に経口摂取する場合の花粉荷の生臭さを消すために実施される。また、加熱処理は、上述したセルラーゼ又はプロテアーゼを用いた酵素処理が行われた際、酵素の失活処理と同時に行ってもよい。加熱処理は、均質・均等に行う観点から液状の分散液の状態で処理することが好ましい。加熱処理するための分散液は、加熱処理前に濃縮・希釈等により花粉荷の固形分濃度を適宜調整してもよいが、処理の効率化の観点から湿式ホモジナイザー処理又は酵素処理された処理液をそのまま加熱処理することがより好ましい。
【0029】
加熱処理温度は、処理時間等を考慮し、花粉荷の変性・変質を抑制しながら、殺菌処理効果が得られる範囲内において適宜設定できる。好ましくは70~95℃である。処理温度が70℃以上の場合には、殺菌効率をより向上できる。一方、処理温度が95℃以下の場合には、花粉荷の変性・変質をより抑制できる。
【0030】
加熱処理時間は、処理温度等を考慮し、花粉荷の変性・変質を抑制しながら、殺菌処理効果が得られる範囲内において適宜設定できるが、好ましくは5~60分である。処理時間が5分以上の場合には、殺菌効率をより向上できる。一方、処理時間が60分以下の場合には、花粉荷の変性・変質をより抑制できる。
【0031】
加熱処理された花粉荷処理物は、水を蒸発させて濃縮処理、又は乾燥及び粉末化される。処理液の濃縮及び乾燥には、公知の減圧濃縮、膜濃縮、凍結濃縮、真空乾燥、噴霧乾燥、又は凍結乾燥が採用可能である。
【0032】
花粉荷処理物は、好ましくは飲食品等に適用される。飲食品とする場合、花粉荷処理物を飲食品そのものとして、又は種々の食品素材若しくは飲料品素材に配合して使用できる。飲食品の形態としては、特に限定されず、液状、粉末状、ゲル状、固形状のいずれであってもよく、また剤形としては、粉末、所定形状の顆粒、錠剤、カプセル剤(ハードカプセル、ソフトカプセル)、ドリンク剤のいずれであってもよい。前記飲食品としては、その他の成分としてゲル化剤含有食品、糖類、香料、甘味料、油脂、基材、賦形剤、食品添加剤、副素材、増量剤等を適宜配合してもよい。また、飲食品の用途としては、特に限定されず、いわゆる一般食品、健康食品、機能性食品、栄養補助食品、サプリメント、特定保健用食品、機能性表示食品、病者用食品として適用できる。
【0033】
本実施形態の花粉荷処理物の作用について説明する。
本実施形態の花粉荷処理物は、未処理の花粉荷に比べてポリアミンの溶出量が大幅に増加している。ポリアミンは、従来よりアンチエイジング(抗老化)作用、髪質改善作用、美肌作用、認知機能改善作用、動脈硬化改善作用、心血管疾患の予防作用、神経保護作用、抗炎症作用、抗腫瘍作用を有する。したがって、本実施形態の花粉荷処理物は、これらの作用の発現を目的としたアンチエイジング用組成物、髪質改善用組成物、美肌向上用組成物、認知機能改善用組成物、動脈硬化改善用組成物、心血管疾患の予防用組成物、神経保護用組成物、抗炎症用組成物、抗腫瘍用組成物として適用してもよい。飲食品において用途を表示する場合、包装、容器等のパッケージへの表示の他、パンフレット等の広告媒体への表示も含まれる。本実施形態の花粉荷処理物の各種用途の表示内容としては、上述したアンチエイジング作用等の表示の他、皮膚老化等の各症状の改善、予防、悪化の防止、又は症状の遅延を示唆する表示も含まれる。
【0034】
本実施形態の花粉荷処理物の効果について説明する。
(1)本実施形態の花粉荷処理物は、花粉荷がセルラーゼ又はプロテアーゼ処理され、花粉の内容物が溶出しやすくなっている。また、この花粉荷処理物は、従来のホモミキサー等で処理された花粉荷よりもポリアミンの溶出量が増加している。したがって、ポリアミンの生体吸収量を増加でき、ポリアミン由来の生体に有用な効能・効果を有効に発現できる。よって、飲食品、医薬品等の様々な分野の用途に利用できる。
【0035】
(2)上記花粉荷処理物は、製造工程において固液分離処理、例えばろ過処理、フィルタ処理、遠心分離等は行われていない。したがって、ポリアミンの溶出量を増加できる。また、溶媒中に不溶性の成分、例えば食物繊維、食物繊維に吸着している成分等も懸濁している。そのため、不溶性画分の分離処理を行わないことにより、それらの栄養成分をともに摂取できる。
【0036】
(3)さらに、花粉荷の破壊処理において湿式超高圧粒子衝突型ホモジナイザーが用いられる場合、花粉荷処理物からのポリアミンの溶出量をより増加できる。また、湿式超高圧粒子衝突型ホモジナイザーは、例えばビーズミルに比べて、コンタミネーションが少なく、処理が容易である。また、ジェットミル等の乾式粉砕方法に比べて、粒子同士の衝突効率が高く、短時間に処理を完了できる。
【0037】
(4)本実施形態の花粉荷処理物が、プロテアーゼ処理が行われている場合、タンパク質が例えば分子量1万以下に低分子化されている。したがって、花粉荷中の遊離アミノ酸、ペプチドの含有量が増加するため、花粉荷特有の風味がマスキングされ、呈味改善効果を得ることができる。また、液体中に分散させた場合、分散性を向上できる。
【0038】
尚、上記実施形態は、以下のように変更して実施できる。上記実施形態及び以下の変更例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施できる。
・上記実施形態により得られた花粉荷処理物は、上述した飲食品の他、医薬品、医薬部外品、化粧品等として適用できる。
【実施例
【0039】
以下に試験例を挙げ、前記実施形態をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
(実施例1)
まず、原料花粉荷(スペイン産)2.5gを20質量%となるように水に懸濁させ、反応液を調製した。次に、セルラーゼを0.02g(原料花粉荷に対して0.8質量%)添加し、50℃にて4時間反応させ、花粉荷の細胞壁の破壊処理を行なった。セルラーゼとしてスミチーム(新日本化学工業社製)を使用した。
【0040】
次に、得られた破壊処理物を殺菌及び酵素の失活を目的として加熱処理した。加熱処理は、懸濁状態で80℃、60分間の条件で行った。次に、50℃まで冷却し、凍結乾燥機を用いて固体状に乾燥させた。得られた固形物をハンマーミルで粉砕し、実施例1の粉末状の花粉荷処理物を得た。
【0041】
(実施例2)
まず、原料花粉荷(スペイン産)2.5gを20質量%となるように水に懸濁させ、反応液を調製した。次に、中性プロテーゼを0.02g(原料花粉荷に対して0.8質量%)添加し、50℃にて4時間反応させ、花粉荷の細胞壁の破壊処理を行なった。中性プロテアーゼとして、プロテアーゼM「アマノ」SD(天野エンザイム社製)を使用した。
【0042】
次に、実施例1と同様の方法にて、得られた破壊処理物を加熱処理、乾燥処理、及び粉砕処理を順に行い、実施例2の粉末状の花粉荷処理物を得た。
(実施例3)
まず、原料花粉荷(スペイン産)が20質量%となるように、反応液を調製した。次に、セルラーゼを0.02g(原料花粉荷に対して0.8質量%)添加し、50℃にて4時間反応させ、花粉荷の細胞壁の破壊処理を行なった。セルラーゼとして、スミチーム(新日本化学工業社製)を使用した。
【0043】
次に、得られた反応液に、さらに酸性プロテアーゼを0.02g(原料花粉荷に対して0.8質量%)添加し、50℃にて16時間分解処理を行なった。酸性プロテアーゼとして、プロテアーゼHF「アマノ」150SD(天野エンザイム社製)を使用した。
【0044】
次に、実施例1と同様の方法にて、得られた破壊処理物を加熱処理、乾燥処理、及び粉砕処理を順に行い、実施例3の粉末状の花粉荷処理物を得た。
(実施例4)
原料花粉荷(スペイン産)90kgに、撹拌用溶媒としての水135kg(原料花粉荷に対し1.5倍量)を200Lドラムに投入した。ホモミキサーとして特殊機化工業社製のTK HOMO MIXERを使用し、室温(25℃)で10分間の湿式粉砕処理を行った。次に、湿式超高圧粒子衝突型ホモジナイザーとしてスギノマシン社製の湿式微粒化装置スターバーストを使用して、花粉荷の細胞壁の破壊処理を行った。処理時の圧力は245MPaに調整し、室温(25℃)で2パスの処理を行った。
【0045】
次に、得られた処理液の一部を取り出し、さらに中性プロテアーゼを0.02g(原料花粉荷に対して0.8質量%)添加し、50℃にて16時間分解処理を行なった。中性プロテアーゼとして、プロテアーゼM「アマノ」SD(天野エンザイム社製)を使用した。
【0046】
次に、実施例1と同様の方法にて、得られた破壊処理物を加熱処理、乾燥処理、及び粉砕処理を順に行い、実施例4の粉末状の花粉荷処理物を得た。
(実施例5)
まず、原料花粉荷(スペイン産)2.5gを20質量%となるように水に懸濁させ、反応液を調製した。次に、セルラーゼを0.02g(原料花粉荷に対して0.8質量%)添加し、50℃にて4時間反応させ、花粉荷の細胞壁の破壊処理を行なった。セルラーゼとして、スミチーム(新日本化学工業社製)を使用した。
【0047】
次に、得られた反応液に、さらに中性プロテアーゼを0.02g(原料花粉荷に対して0.8質量%)添加し、50℃にて16時間分解処理を行なった。中性プロテアーゼとして、プロテアーゼM「アマノ」SD(天野エンザイム社製)を使用した。
【0048】
次に、実施例1と同様の方法にて、得られた破壊処理物を加熱処理、乾燥処理、及び粉砕処理を順に行い、実施例5の粉末状の花粉荷処理物を得た。
(比較例1)
原料花粉荷として、実施例1と同様のものを使用した。まず、原料花粉荷を100℃を超える過熱水蒸気で10分間の条件で殺菌処理した。次に、得られた処理物をハンマーミル等で粉砕し、比較例1の粉末状の花粉荷処理物を得た。
【0049】
(比較例2)
原料花粉荷として、実施例1と同様のものを使用した。まず、原料花粉荷90kgに、撹拌用溶媒としての水135kg(原料花粉荷に対し1.5倍量)を200Lドラムに投入した。ホモミキサーとして特殊機化工業社製のTK HOMO MIXERを使用し、室温(25℃)で10分間の湿式粉砕処理を行った。次に、得られた粉砕処理物を加熱(殺菌)処理した。加熱処理は、懸濁状態で90℃、15分間加熱する条件で行った。次に、実施例1と同様の方法にて乾燥及び粉砕処理を順に行い、比較例2の粉末状の花粉荷処理物を得た。
【0050】
(比較例3)
原料花粉荷(スペイン産)90kgに、撹拌用溶媒としての水135kg(原料花粉荷に対し1.5倍量)を200Lドラムに投入した。ホモミキサーとして特殊機化工業社製のTK HOMO MIXERを使用し、室温(25℃)で10分間の湿式粉砕処理を行った。次に、湿式超高圧粒子衝突型ホモジナイザーとしてスギノマシン社製の湿式微粒化装置スターバーストを使用して、花粉荷の細胞壁の破壊処理を行った。処理時の圧力は245MPaに調整し、室温(25℃)で2パスの処理を行った。
【0051】
次に、実施例1と同様の方法にて、得られた破壊処理物を加熱処理、乾燥処理、及び粉砕処理を順に行い、比較例3の粉末状の花粉荷処理物を得た。
(比較例4)
実施例5の構成において、中性プロテアーゼで処理した後、次に、珪藻土とフィルタープレスを用いて加圧ろ過を行い、不溶性成分を分離し、上清のみを回収した。
【0052】
次に、実施例1と同様の方法にて、得られた破壊処理物の上清を加熱処理、乾燥処理、及び粉砕処理を順に行い、比較例4の粉末状の花粉荷処理物を得た。
(ポリアミンの溶出量)
各例の処理物において、水溶媒中へのポリアミンの溶出量を求めた。まず、各例の処理物0.2gを過塩素酸溶液25mLで懸濁し、ダンシル化処理して上清を取り、HPLC測定用の試料を調製した。HPLC(島津製作所社製LC-30AD)により試料を分析した。
【0053】
3種類のポリアミンとしてスペルミジン、スペルミン、プトレッシンの各標準品を用いて検量線を作成し、上清中の3種類のポリアミンの含有量を求めた。その値から処理物100g当たりの水溶媒中への3種類のポリアミンの溶出量(mg/100g)を求めた。結果を表1に示す。
【0054】
【表1】
表1に示されるように、ハンマーミルを用いた比較例1、ホモミキサーを用いた比較例2、及び湿式超高圧粒子衝突型ホモジナイザーを用いた比較例3は、ともにポリアミンの溶出量の合計が20mg/100g以下であった。
【0055】
一方、花粉荷をセルラーゼ又はプロテアーゼ処理した実施例1~5は、ポリアミンの溶出量の合計が25mg/100g以上と、各比較例に比べて大幅に増加していることが確認された。また、湿式超高圧粒子衝突型ホモジナイザーと中性プロテアーゼ処理を行った実施例4、及びセルラーゼと中性プロテアーゼ処理を行った実施例5は、特にスペルミジンの溶出量が大幅に増加していた。
【0056】
なお、最後に固液分離した比較例4は、スペルミジンは検出されず、また各実施例と比べて、ポリアミンの溶出量が大幅に減少することを確認している。