(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-13
(45)【発行日】2024-09-25
(54)【発明の名称】フッ素樹脂改質剤、改質フッ素樹脂成形体及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C08F 293/00 20060101AFI20240917BHJP
C08L 53/00 20060101ALI20240917BHJP
C08J 7/02 20060101ALI20240917BHJP
C08J 7/043 20200101ALI20240917BHJP
C09K 3/00 20060101ALI20240917BHJP
【FI】
C08F293/00
C08L53/00
C08J7/02 A CEW
C08J7/043 A
C09K3/00 R
(21)【出願番号】P 2020120763
(22)【出願日】2020-07-14
【審査請求日】2023-06-27
(31)【優先権主張番号】P 2019134832
(32)【優先日】2019-07-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 第18回高分子表面研究討論会(開催日:令和1年10月24日~25日) 第57回高分子と水に関する討論会(開催日:令和1年12月3日)
(73)【特許権者】
【識別番号】598015084
【氏名又は名称】学校法人福岡大学
(74)【代理人】
【識別番号】100197642
【氏名又は名称】南瀬 透
(74)【代理人】
【識別番号】100099508
【氏名又は名称】加藤 久
(74)【代理人】
【識別番号】100182567
【氏名又は名称】遠坂 啓太
(72)【発明者】
【氏名】八尾 滋
(72)【発明者】
【氏名】平井 翔
(72)【発明者】
【氏名】中野 涼子
(72)【発明者】
【氏名】牛島 優太
【審査官】内田 靖恵
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-079389(JP,A)
【文献】特開2018-030927(JP,A)
【文献】特開2015-229725(JP,A)
【文献】国際公開第2019/073692(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F293
C08J7
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(A-1)または一般式(A-2)で表される、構成単位(A)
から構成されるブロックと、
下記一般式(B-1)、(B-2)、(B-3)、(B-4)、(B-6)または(B-7)で表される、構成単位(B)
から構成されるブロックとを含むブロック共重合体を含有する、フッ素樹脂改質剤。
【化1】
前記一般式(A-1)及び(A-2)において、
R
a1
は、水素原子又はメチル基を表し、
R
a2
は、炭素数8以上のアルキル基を表し、
mは、2~1,000である。
【化2】
前記一般式(B-1)~(B-4)において、
R
b1
は、水素原子又はメチル基を表し、
R
L
は、単結合又は炭素数1~4のアルキレン基を表し、
R
b2
は、水素原子、アミノ基、アンモニウム基、カルボキシル基、水酸基、スルホン酸基、アルコキシ基及び-(C
p
H
2p
-O)
q
-R
x1
(pは1~10の整数、qは1~10の整数、R
x1
は水素原子又は炭素数1~10のアルキル基を表す。)からなる群から選択されるいずれかを表し、
R
b3
は、水素原子又は炭素数1~5のアルキル基を表し、
nは、2~1,000である。
【化3】
前記一般式(B-6)、(B-7)において、
R
b4
は、水素原子又はメチル基を表し、
R
L
は、単結合又は炭素数1~4のアルキレン基を表し、
R
b5
は、アミノ基、アンモニウム基、カルボキシル基、水酸基、スルホン酸基、アルコキシ基及び-(C
p
H
2p
-O)
q
-R
x1
(pは1~10の整数、qは1~10の整数、R
x1
は水素原子又は炭素数1~10のアルキル基を表す。)からなる群から選択されるいずれかを表し、
nは、2~1,000である。
【請求項2】
前記一般式(B-1)~(B-4)において、R
b2
は、水素原子、アミノ基及び-(C
p
H
2p
-O)
q
-R
x1
(pは1~10の整数、qは1~10の整数、R
x1
は水素原子又は炭素数1~10のアルキル基を表す。)からなる群から選択されるいずれかを表し、
前記一般式(B-6)、(B-7)において、R
b5
は、アミノ基又は-(C
p
H
2p
-O)
q
-R
x1
(pは1~10の整数、qは1~10の整数、R
x1
は水素原子又は炭素数1~10のアルキル基を表す。)を表す、請求項1に記載のフッ素樹脂改質剤。
【請求項3】
前記ブロック共重合体と溶媒とを含有するブロック共重合体溶液である、請求項1又は2に記載のフッ素樹脂改質剤。
【請求項4】
請求項1~3のいずれかに記載のフッ素樹脂改質剤と、フッ素樹脂成形体とを接触させ、前記フッ素樹脂成形体の表面の少なくとも一部に前記フッ素樹脂改質剤を含む機能層を形成させる表面改質工程を有する、改質フッ素樹脂成形体の製造方
法。
【請求項5】
前記フッ素樹脂成形体が、延伸物である、請求項4に記載の改質フッ素樹脂成形体の製造方法。
【請求項6】
前記表面改質工程の前に、前記フッ素樹脂成形体の表面を粗面化する粗面化工程を有する、請求項4又は5に記載の改質フッ素樹脂成形体の製造方法。
【請求項7】
フッ素樹脂成形体と、前記フッ素樹脂成形体の表面の少なくとも一部に形成されたブロック共重合体を含む機能層とを有する改質フッ素樹脂成形体であって、
前記ブロック共重合体が、
下記一般式(A-1)または一般式(A-2)で表される、構成単位(A)
から構成されるブロックと、
下記一般式(B-1)、(B-2)、(B-3)、(B-4)、(B-6)または(B-7)で表される、構成単位(B)
から構成されるブロックとを含むブロック共重合体である、改質フッ素樹脂成形体。
【化4】
前記一般式(A-1)及び(A-2)において、
R
a1
は、水素原子又はメチル基を表し、
R
a2
は、炭素数8以上のアルキル基を表し、
mは、2~1,000である。
【化5】
前記一般式(B-1)~(B-4)において、
R
b1
は、水素原子又はメチル基を表し、
R
L
は、単結合又は炭素数1~4のアルキレン基を表し、
R
b2
は、水素原子、アミノ基、アンモニウム基、カルボキシル基、水酸基、スルホン酸基、アルコキシ基及び-(C
p
H
2p
-O)
q
-R
x1
(pは1~10の整数、qは1~10の整数、R
x1
は水素原子又は炭素数1~10のアルキル基を表す。)からなる群から選択されるいずれかを表し、
R
b3
は、水素原子又は炭素数1~5のアルキル基を表し、
nは、2~1,000である。
【化6】
前記一般式(B-6)、(B-7)において、
R
b4
は、水素原子又はメチル基を表し、
R
L
は、単結合又は炭素数1~4のアルキレン基を表し、
R
b5
は、アミノ基、アンモニウム基、カルボキシル基、水酸基、スルホン酸基、アルコキシ基及び-(C
p
H
2p
-O)
q
-R
x1
(pは1~10の整数、qは1~10の整数、R
x1
は水素原子又は炭素数1~10のアルキル基を表す。)からなる群から選択されるいずれかを表し、
nは、2~1,000である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フッ素樹脂改質剤に関する。また、本発明は、改質フッ素樹脂成形体及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
テトラフルオロエチレンの重合体であるポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等のフッ素樹脂は、化学的安定性、耐熱性、耐溶剤性、耐候性、電気絶縁性等に優れていることから様々な分野で利用されている。一方、フッ素樹脂表面は不活性であり、他の材料との接着性が悪い等の課題もあり、フッ素樹脂の利用拡大のために、種々の改質方法が検討されている。
【0003】
フッ素樹脂の改質方法として、プラズマやレーザーなどの物理的処理や、これと化学的処理を組み合わせた方法が知られている。例えば、特許文献1には、フッ素樹脂系成形物表面に対しプラズマ照射を行うに際して、成形物表面に負電圧を印加することにより、成形物表面にプラズマ中のイオンを注入して粗面化する物理的改質と成形物の表面におけるフッ素原子をフッ素原子以外の原子に置換する化学的改質を行う、フッ素樹脂系成形物の表面改質方法が開示されている。また、特許文献2には、フッ素樹脂系成形物表面にプラズマ照射することにより、成形物表面に活性点を導入する工程(1)と、不飽和結合を有する水溶性モノマーを必須とする雰囲気ガス中でプラズマ照射することにより、前記成形物表面の活性点で前記モノマーをグラフト重合させる工程(2)と、グラフト重合後の成形物表面に堆積した、前記モノマー由来のホモポリマーを除去する工程(3)と、を含む、フッ素樹脂系成形物の表面改質方法が開示されている。
【0004】
フッ素樹脂の化学的な改質方法としては、金属ナトリウム-アンモニア溶液等の薬剤による化学的エッチング処理も知られている。
【0005】
また、本発明者等は、特許文献3において、第1のモノマー(A)由来の構造単位と、第2のモノマー(B)由来の構造単位とを有する共重合体であって、前記モノマー(A)が、その側鎖に特定の構造式で表されるフッ素化アルキル基を有する、(メタ)アクリレート、(メタ)アクリルアミド、ビニルエーテル、ビニルエステル、シロキサン、αオレフィン及び置換スチレンからなる群より選ばれるいずれかのモノマーであり、前記モノマー(B)が、機能性基を有するモノマーである共重合体を用いるフッ素樹脂改質方法を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2009-263529号公報
【文献】特開2009-13310号公報
【文献】特開2016-79389号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1や2のように、プラズマ処理によりフッ素樹脂表面に活性点を導入し、この活性点において化学反応させる方法は、プラズマが照射される部分しか表面改質されず、複雑な形状の成形品の改質には適さない等の問題があった。
【0008】
金属ナトリウム-アンモニア溶液等の薬剤による化学的エッチング処理は、反応性の高い金属ナトリウムを用いるため安全性や環境負荷の観点から問題があった。
【0009】
特許文献3に開示の方法は、化学的改質を行うために、プラズマ処理などによりフッ素樹脂の表面にラジカルを生成する必要がなく、より簡単にフッ素樹脂表面を改質することができる。しかしながら、パーフルオロオクタンスルホン酸(PFOS、CF3-(CF2)6-SO3H)やその塩、パーフルオロオクタン酸(PFOA、CF3-(CF2)6-COOH)といった有機フッ素化合物は、分解されにくく、高い蓄積性も有し、近年、環境への影響が問題視されている。そのため、フッ素化アルキル基を側鎖に有するポリマーの使用についても規制が検討されている。具体的には、パーフルオロオクタンスルホン酸及びその塩、パーフルオロオクタン酸に加えて、フッ素化したC8~16の側鎖をもつポリマーなど、部分構造の一つに直鎖又は分岐鎖のパーフルオロへプチル基((C7F15)C-)をもつ物質で、分解してPFOAを排出しうる物質に対して、様々な規制が検討されている。そのため、フッ素化アルキル基を側鎖に有するモノマーの設計が制限される懸念がある。
【0010】
係る状況下、本発明の目的は、フッ素樹脂の改質に用いることができる新たなフッ素樹脂改質剤を提供することである。また、本発明の目的は、所望の様々な機能性が付与された改質フッ素樹脂成形体及びその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、下記の発明が上記目的に合致することを見出し、本発明に至った。
【0012】
すなわち、本発明は、以下の発明に係るものである。
<1> 側鎖に炭素数8以上のアルキル基を有する、(メタ)アクリレート、(メタ)アクリルアミド、ビニルエーテル、ビニルエステル、シロキサン、αオレフィン及び置換スチレンからなる群より選ばれるいずれかのモノマー(A)に由来する構成単位(A)と、極性基を有するモノマー(B)に由来する構成単位(B)とを含むブロック共重合体を含有する、フッ素樹脂改質剤。
<2> 前記構成単位(B)が、側鎖に、アミノ基、水酸基及びオキシアルキレン基からなる群から選択される1種以上を有する、前記<1>に記載のフッ素樹脂改質剤。
<3> 前記ブロック共重合体と溶媒とを含有するブロック共重合体溶液である、前記<1>又は<2>に記載のフッ素樹脂改質剤。
<4> フッ素樹脂改質剤と、フッ素樹脂成形体とを接触させ、前記フッ素樹脂成形体の表面の少なくとも一部に前記フッ素樹脂改質剤を含む機能層を形成させる表面改質工程を有する、改質フッ素樹脂成形体の製造方法であって、前記フッ素樹脂改質剤が、側鎖に炭素数8以上のアルキル基を有する、(メタ)アクリレート、(メタ)アクリルアミド、ビニルエーテル、ビニルエステル、シロキサン、αオレフィン及び置換スチレンからなる群より選ばれるいずれかのモノマー(A)に由来する構成単位(A)と、極性基を有するモノマー(B)に由来する構成単位(B)とを含むブロック共重合体を含有するものである、改質フッ素樹脂成形体の製造方法。
<5> 前記フッ素樹脂成形体が、延伸物である、前記<4>に記載の改質フッ素樹脂成形体の製造方法。
<6> 前記表面改質工程の前に、前記フッ素樹脂成形体の表面を粗面化する粗面化工程を有する、前記<4>又は<5>に記載の改質フッ素樹脂成形体の製造方法。
<7> フッ素樹脂成形体と、前記フッ素樹脂成形体の表面の少なくとも一部に形成されたブロック共重合体を含む機能層とを有する改質フッ素樹脂成形体であって、前記ブロック共重合体が、側鎖に炭素数8以上のアルキル基を有する、(メタ)アクリレート、(メタ)アクリルアミド、ビニルエーテル、ビニルエステル、シロキサン、αオレフィン及び置換スチレンからなる群より選ばれるいずれかのモノマー(A)に由来する構成単位(A)と、極性基を有するモノマー(B)に由来する構成単位(B)とを含むブロック共重合体である、改質フッ素樹脂成形体。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、フッ素樹脂成形体の改質に用いることができる新たなフッ素樹脂改質剤が提供される。また、本発明によれば、所望の様々な機能性が付与された改質フッ素樹脂成形体及びその製造方法が提供される。例えば、本発明によれば、他の材料との接着性に優れた改質フッ素樹脂成形体及びその製造方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】(a)に未延伸PTFEフィルムの表面のSEM画像、(b)に延伸PTFEフィルムの表面のSEM画像を示す。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に本発明の実施の形態を詳細に説明するが、以下に記載する構成要件の説明は、本発明の実施態様の一例(代表例)であり、本発明はその要旨を変更しない限り、以下の内容に限定されない。なお、本明細書において「~」という表現を用いる場合、その前後の数値又は物性値を含む表現として用いるものとする。
【0016】
<フッ素樹脂改質剤>
本発明は、側鎖に炭素数8以上のアルキル基を有する、(メタ)アクリレート、(メタ)アクリルアミド、ビニルエーテル、ビニルエステル、シロキサン、αオレフィン及び置換スチレンからなる群より選ばれるいずれかのモノマー(A)に由来する構成単位(A)と、極性基を有するモノマー(B)に由来する構成単位(B)とを含むブロック共重合体を含有するフッ素樹脂改質剤(以下、「本発明のフッ素樹脂改質剤」と記載する場合がある)に関する。
【0017】
上記のように、フッ素樹脂は、他の材料との接着性に乏しいため、一般的に、フッ素樹脂を化学的に改質させる改質剤は、フッ素樹脂とラジカル反応できるような反応性の官能基を導入したものや、フッ素化アルキル基のような、フッ素樹脂と同一の構造の官能基を導入したものであった。
一方、本発明者らは、フッ素樹脂と異なる構造である、側鎖に炭素数8以上のアルキル基を有するモノマー(A)に由来する構成単位(A)と、極性基を有するモノマー(B)に由来する構成単位(B)とを含むブロック共重合体が、驚くべきことに、フッ素樹脂の表面に接着できることを見出した。さらに、このようなブロック共重合体を用いれば、構成単位(B)に由来する機能性をフッ素樹脂に付与でき、特に、フッ素樹脂を他の材料との接着性に優れるものに改質できることを見出した。
上記のように、長鎖のフッ素化アルキル基を有するポリマーは、環境面から、使用できる構造の制限が懸念される。本発明に用いられるブロック共重合体は、環境負荷が少なく、設計の自由度も高く、改質対象のフッ素樹脂の構造等に応じて、設計を適宜変更することも容易である。
【0018】
[ブロック共重合体]
本発明のフッ素樹脂改質剤に含まれるブロック共重合体は、側鎖に炭素数8以上のアルキル基を有する、(メタ)アクリレート、(メタ)アクリルアミド、ビニルエーテル、ビニルエステル、シロキサン、αオレフィン及び置換スチレンからなる群より選ばれるいずれかのモノマー(A)に由来する構成単位(A)と、極性基を有するモノマー(B)に由来する構成単位(B)とを含むブロック共重合体である。
ブロック共重合体は、構成単位(A)と構成単位(B)とからなるものであってもよく、本発明の目的を損なわない範囲でさらにその他の構成単位を含んでいてもよい。ブロック共重合体は、実質的に構成単位(A)及び構成単位(B)から構成されるものであることが好ましく、ブロック共重合体において、構成単位(A)と構成単位(B)の合計の含有量が95質量%以上や98質量%以上などとすることができる。
【0019】
[構成単位(A)]
構成単位(A)は、炭素数8以上のアルキル基を有する、(メタ)アクリレート、(メタ)アクリルアミド、ビニルエーテル、ビニルエステル、シロキサン、αオレフィン及び置換スチレンからなる群より選ばれるいずれかのモノマー(A)に由来するものである。
構成単位(A)は、炭素数8以上のアルキル基を有することで側鎖結晶性を示す部位となり、この側鎖結晶性を示す部分とフッ素樹脂と相互作用することで、ブロック共重合体がフッ素樹脂に強固に接着すると推察される。
【0020】
なお、本願において、「(メタ)アクリレート」とは、アクリレート及びメタアクリレートの両者を意味する。同様に、「(メタ)アクリルアミド」とは、アクリルアミド及びメタアクリルアミドの両者を意味する。
【0021】
構成単位(A)において、側鎖の炭素数8以上の長さのアルキル基は、構成単位(A)の主鎖に直接結合又は連結基(エステル結合、アミド結合、エーテル結合、ベンゼン環等)を介して結合している。
【0022】
構成単位(A)において、側鎖の炭素数8以上の長さのアルキル基は、フッ素樹脂とブロック共重合体とがより強固に接着できるため、炭素数12以上のアルキル基が好ましく、炭素数16以上のアルキル基がより好ましい。また、アルキル基は直鎖状のアルキル基であることが好ましい。一方、その上限は、溶媒への分散性等を考慮し、ブロック共重合体とフッ素樹脂との接着性を維持することができる範囲で適宜設定することができる。具体的な上限としては、現実的には炭素数50以下が好ましく、炭素数40以下がより好ましく、炭素数30以下がさらに好ましい。また、炭素数28以下や25以下としてもよい。アルキル基の炭素数が多すぎるとブロック共重合体として適当な立体構造がとれず、ブロック共重合体のフッ素樹脂への接着性が低下したり、溶媒への分散性が低下する。また、ブロック共重合体を製造するための重合条件の設定が難しくなったりする場合がある。
【0023】
具体的には構成単位(A)が有する、側鎖の炭素数8以上のアルキル基としては、例えば、デシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ヘキサデシル基、オクタデシル基(ステアリル基)、ドコシル基(ベヘニル基)等が挙げられる。
【0024】
構成単位(A)の重合度は、2以上である。構成単位(A)の重合度は、モノマー(A)やモノマー(B)の構造等に応じて、フッ素樹脂との接着性が維持できる範囲で適宜選択すればよい。フッ素樹脂との接着性を向上させるためには、構成単位(A)の重合度は、7以上が好ましく、8以上や10以上としてもよい。また、構成単位(A)の重合度は、1,000以下であることが好ましく、800以下や、500以下、300以下、100以下、50以下、30以下、20以下としてもよい。
【0025】
ブロック共重合体において、構成単位(A)に対応する分子量(g/mol)は、3,000以上であることが好ましい。構成単位(A)に対応する分子量が3,000以上であることで、フッ素樹脂に、より強固に接着することができる。構成単位(A)に対応する分子量は、4,000以上や5,000以上としてもよい。また、20,000以下や15,000以下、10,000以下、8,000以下としてもよい。
【0026】
なお、これらの分子量は、GPCにより得られる結果から、ポリスチレン換算で求めることができる値「Mw:重量平均分子量」である。また、改質用共重合体が溶媒に溶けにくく分子量を測定しにくい場合がある。そのような場合には、元素分析、IR、NMRなどの手法により各々の分子量を算出することができる。
【0027】
構成単位(A)は、側鎖に炭素数8以上の長さのアルキル基を有する、(メタ)アクリレート又はαオレフィンのモノマーに由来する構成単位であることが好ましい。
より具体的には、構成単位(A)は、以下の一般式(A-1)又は(A-2)で表されるいずれかであることが好ましい。
【0028】
【0029】
一般式(A-1)及び(A-2)において、Ra1は、水素原子又はメチル基を表す。
【0030】
一般式(A-1)及び(A-2)において、Ra2は、炭素数8以上のアルキル基を表す。上記の通り、Ra2は直鎖状のアルキル基であることが好ましい。また、Ra2で表されるアルキル基の炭素数は、12以上が好ましく、16以上がより好ましい。また、その上限は、50以下や40以下、30以下、28以下、25以下などにすることができる。
【0031】
一般式(A-1)及び(A-2)において、mは、2以上の整数である。mは、7以上が好ましく、8以上や10以上であることが好ましい。また、mは、1,000以下であることが好ましく、800以下や、500以下、300以下、100以下、50以下、30以下、20以下としてもよい。
【0032】
ブロック共重合体の原料となるモノマーの入手のしやすさや、重合条件の制御のしやすさ、炭素数8以上のアルキル基同士の相互作用のしやすさなどの観点から、構成単位(A)は、一般式(A-1)であることがより好ましい。
【0033】
[構成単位(B)]
構成単位(B)は、極性基を有するモノマー(B)に由来する構成単位である。構成単位(A)が、フッ素樹脂と接着する機能を発揮するのに対して、構成単位(B)は、その機能性をフッ素樹脂に付与し、フッ素樹脂を改質する機能を有する。例えば、構成単位(B)は、他の材料との接着性の向上に寄与する。
【0034】
極性基とは、極性のある原子団であり、その基を有するモノマーを用いた重合体に存在することで、重合体内に極性を示す構造を形成するものを指す。極性基が重合後の重合体内に存在することで、フッ素樹脂の表面に付与された極性により他の材料との接着性等に優れたフッ素樹脂に改質することができる。
【0035】
極性基は、構成単位(B)の主鎖構造中に存在してもよいし、側鎖に存在してもよい。また、構成単位(B)は、2以上の極性基を有してもよい。
改質フッ素樹脂の表面に、構成単位(B)の極性基に由来する極性が発現しやすく、改質効果が大きいため、構成単位(B)は、その側鎖に極性基を有することが好ましい。側鎖に極性基を有する場合、主鎖がフッ素樹脂の改質に与える影響は少ないため主鎖の構造は特に限定されない。また、側鎖の極性基は、構成単位(B)の主鎖に直接結合又は連結基(エステル結合、アミド結合、エーテル結合、ベンゼン環等)を介して結合した構造とすることができる。例えば、構成単位(B)は、側鎖に極性基を有する、(メタ)アクリレート、(メタ)アクリルアミド、ビニルエーテル、ビニルエステル、シロキサン、αオレフィン及び置換スチレンからなる群から選択されるいずれかのモノマーに由来する構成単位とすることができる。
【0036】
代表的な極性基としては、アミノ基、アンモニウム基、カルボキシル基、水酸基、スルホン酸基、アルコキシ基、オキシアルキレン基、カルボニル基、エーテル基、スルホニル基、エステル基、アミド基などが挙げられる。
【0037】
構成単位(B)は、アミノ基、水酸基及びオキシアルキレン基からなる群から選択されるいずれかを有することが好ましい。より好ましくは、構成単位(B)を構成するモノマー(B)が、その側鎖に、アミノ基、水酸基及びオキシアルキレン基からなる群から選択されるいずれかを有するモノマーである。
【0038】
ここで、アミノ基は、無置換であっても置換基を有してもよい。アミノ基は、一般式「-NRy3Ry4(ただし、Ry3及びRy4はそれぞれ独立に、水素原子又は炭素数1~4のアルキル基である)」で表される基であることが好ましい。このようなアミノ基としては、-NH2、-N(CH3)2、-N(C2H5)2、-NH(tert-C4H9)などが挙げられる。
【0039】
アミノ基の置換基としては、アルキル基やカルボキシアルキル基などが挙げられる。
【0040】
また、オキシアルキレン基とは、「-(CpH2p-O)-」(pは1以上の整数である)で表される2価の基である。モノマー(B)がオキシアルキレン基を有する場合、以下の一般式(X)で表される基を有するモノマーであることが好ましい。
【0041】
-(CpH2p-O)q-Rx1 ・・・・式(X)
(式(X)において、pは1~10の整数、qは1~10の整数、Rx1は水素原子又は炭素数1~10のアルキル基を表す。)
【0042】
より好ましくは、一般式(X)において、pが1~5の整数、qが2~10の整数、Rx1が水素原子又は炭素数1~5のアルキル基である。さらに好ましくは、pが1~2の整数、qが2~10の整数、Rx1が水素原子又は炭素数1~2のアルキル基である。
【0043】
構成単位(B)の重合度は2以上の整数である。構成単位(B)の重合度は、モノマー(A)やモノマー(B)の構造に応じて適宜決定される。構成単位(B)の重合度は、2~1,000であることが好ましい。より安定した改質効果を発揮するためには、5以上や、10以上とすることがより好ましい。また、20以上、30以上、40以上としてもよい。また、構成単位(B)の重合度は、800以下や、500以下、300以下、100以下、60以下としてもよい。
【0044】
ブロック共重合体において、構成単位(B)に対応する分子量(g/mol)は、500以上であることが好ましい。構成単位(B)に対応する分子量が500以上であることで、他の材料との接着性にさらに優れた共重合体とすることができる。構成単位(B)に対応する分子量は、1,000以上であることが好ましく、5,000以上であることがより好ましく、10,000以上がさらに好ましい。また、20,000以下や15,000以下、12,000以下としてもよい。
【0045】
構成単位(B)は、例えば、下記一般式(B-1)~(B-4)の構造とすることができる。
【0046】
【0047】
一般式(B-1)~(B-4)において、Rb1は、水素原子又はメチル基を表す。
【0048】
一般式(B-1)~(B-4)において、RLは、単結合又はアルキレン基を表し、単結合又は炭素数1~4のアルキレン基であることが好ましい。
【0049】
アルキレン基は、無置換であっても置換基を有してもよい。置換基を有するアルキレン基としては、例えば、ヒドロキシ基やヒドロキシアルキル基で置換されたアルキレン基などが挙げられる。
【0050】
一般式(B-1)~(B-4)において、Rb2は、水素原子、アルキル基、アミノ基、アンモニウム基、カルボキシル基、水酸基、スルホン酸基、アルコキシ基及び上記一般式(X)で表される基からなる群から選択されるいずれかを表す。
Rb2は、水素原子、炭素数1~5のアルキル基、アミノ基及び上記一般式(X)で表される基からなる群から選択されるいずれかであることが好ましく、水素原子、アミノ基及び上記一般式(X)で表される基からなる群から選択されるいずれかであることがより好ましく、アミノ基であることがさらに好ましい。
なお、好ましいアミノ基及び一般式(X)で表される基の態様は上記の通りである。
【0051】
一般式(B-2)において、Rb3は、水素原子又はアルキル基を表し、水素原子又は炭素数1~5のアルキル基が好ましく、水素原子又は炭素数1~3のアルキル基がより好ましい。
【0052】
一般式(B-1)~(B-4)において、nは、2以上の整数である。nは、8以上が好ましく、10以上や、20以上、30以上、40以上としてもよい。また、nは、1,000以下であることが好ましく、800以下や、500以下、300以下、100以下、60以下としてもよい。
【0053】
また、構成単位(B)は、下記一般式(B-5)~(B-7)の構造とすることができる。
【0054】
【0055】
一般式(B-5)~(B-7)において、Rb4は、水素原子又はメチル基を表す。
【0056】
一般式(B-5)~(B-7)において、RLは、単結合又はアルキレン基を表し、単結合又は炭素数1~4のアルキレン基であることが好ましい。
【0057】
アルキレン基は、無置換であっても置換基を有してもよい。置換基を有するアルキレン基としては、例えば、ヒドロキシ基やヒドロキシアルキル基で置換されたアルキレン基などが挙げられる。
【0058】
一般式(B-5)~(B-7)において、Rb5は、アミノ基、アンモニウム基、カルボキシル基、水酸基、スルホン酸基、アルコキシ基及び一般式(X)で表される基からなる群から選択されるいずれかを表す。
Rb5は、アミノ基又は上記一般式(X)で表される基であることが好ましく、アミノ基であることがさらに好ましい。なお、好ましいアミノ基及び一般式(X)で表される基の態様は上記の通りである。
【0059】
一般式(B-5)~(B-7)において、nは、2以上の整数である。nは、5以上や、10以上、20以上、30以上、40以上としてもよい。また、nは、1,000以下であることが好ましく、800以下や、500以下、300以下、100以下、60以下としてもよい。
【0060】
構成単位(B)は、原料となるモノマーの入手のしやすさや、重合条件の制御のしやすさから、一般式(B-1)であることが好ましい。
【0061】
構成単位(B)として好適なものをより具体的に例示すると、一般式(B-1)において、Rb1が水素原子又はメチル基であり、RLがアルキレン基であり、Rb2がアミノ基である。また、一般式(B-1)において、Rb1が水素原子又はメチル基であり、RLが単結合であり、Rb2が一般式(X)で表される基である。また、(メタ)アクリル酸に由来する構成単位(一般式(B-1)において、Rb1が水素又はメチル基であり、RLが単結合であり、Rb2が水素原子)である。
【0062】
好ましいブロック共重合体のひとつは、一般式(A-1)で表される構成単位(A)と、一般式(B-1)で表される構成単位(B)とを含む共重合体である。このようなブロック共重合体を用いることで、構成単位(A)とフッ素樹脂とが強固に接着し、構成単位(B)による機能を強く発現させやすいものとなる。
【0063】
ブロック共重合体の重合方法は、特に限定されず、各種リビング重合法(ラジカル、アニオン、カチオン)等の公知の技術により重合することが可能である。リビングラジカル重合法としては、NMP法やATRP法、RAFT法などを用いることができる。
【0064】
例えば、モノマー(A)を重合溶媒に開始剤と共に混合して、モノマー(A)混合溶液を調製するモノマー(A)混合溶液調製工程を行う。次に、この混合溶液調製工程で調製されたモノマー(A)混合溶液を、適当な重合温度(例えば約90~120℃)で、リアクター内で適宜撹拌しながら、窒素雰囲気等の下でリビングラジカル重合等の開始剤の重合機構に基づくモノマー(A)重合工程を行い、モノマー(A)ブロック重合体を得る。さらに、このモノマー(A)ブロック重合体を混合させている溶液に、モノマー(B)を混合して、溶液中のラジカル等によってさらにモノマー(B)を重合させるモノマー(B)重合工程を行う。これにより、モノマー(A)由来ブロックとモノマー(B)由来ブロックを有するブロック共重合体を得ることができる。モノマー(A)とモノマー(B)との重合を行う順序は、重合させようとするモノマー種や分子量、それぞれの重合条件等に応じて変更することもできる。
【0065】
その他の構成単位を含むときには、第3のモノマーとして、モノマー(A)及びモノマー(B)と重合させればよい。
【0066】
モノマー(A)をより具体的に例示すると、ドデシルアクリレート(ラウリルアクリレート)、ドデシルメタクリレート(ラウリルメタクリレート)、オクタデシルアクリレート(ステアリルアクリレート)、オクタデシルメタクリレート(ステアリルメタクリレート)、ドコシルアクリレート(ベヘニルアクリレート)、ドコシルメタクリレート(ベヘニルメタクリレート)等が挙げられる。
【0067】
モノマー(B)を具体的に例示すると、2-(ジメチルアミノ)エチルメタクリレート(2-(Dimethylamino) ethyl Methacrylate、DMAEMA)、2-(ジメチルアミノ)エチルアクリレート(2-(Dimethylamino) ethyl Acrylate、DMAEA)、2-(ジエチルアミノ)エチルメタクリレート(2-(Diethylamino) ethyl Methacrylate、DEAEMA)、2-(ジエチルアミノ)エチルアクリレート(2-(Diethylamino) ethyl Acrylate、DEAEA)、2-(tert-ブチルアミノ)エチルメタクリレート(2-(tert- Butylamino) ethyl Methacrylate、TBAEMA)、N、N-ジメチルアクリルアミド(N、N-Dimethylacrylamide、DMAA)、N、N-ジメチルアミノプロピルアクリルアミド(N、N-Dimethylaminopropyl Acrylamide、DMAPAA)、及びN、N-ジエチルアクリルアミド(N、N-Diethylacrylamide、DEAA)等のアミノ基を有するモノマーが挙げられる。
【0068】
また、モノマー(B)として、メトキシ-ポリエチレングリコール-アクリレート(CH2=CH(CO)O(CH2-CH2-O-)qCH3)(q=2~9)、エトキシ-ポリエチレングリコール-アクリレート(CH2=CH(CO)O(CH2-CH2-O-)qC2H5)(q=2~9)、ポリエチレングリコール-モノアクリレート(CH2=CH(CO)O(CH2-CH2-O-)qH)(q=2~10)などのオキシアルキレン基を有するモノマーが挙げられる。より具体的には、ジ(エチレングリコール)エチルエーテルアクリレート(CH2=CH(CO)O(CH2-CH2-O-)2C2H5、Diethylen Glycol Monoethyl Ether Acrylate、DEEA)や、デカ(エチレングリコール)エチルエーテルアクリレート(CH2=CH(CO)O(CH2-CH2-O-)10C2H5)等のモノマーが挙げられる。また、(メタ)アクリル酸等が挙げられる。
【0069】
また、モノマー(A)と、その側鎖にオキシラニル基等の反応性基を有するモノマー(B)とを重合させて前駆体ポリマーを合成した後、アミノ基等と反応させて、ブロック共重合体を得ることができる。
【0070】
具体的には、上記と同様に、モノマー(A)を重合溶媒に開始剤と共に混合して、適当な重合温度(例えば約90~120℃)で、リアクター内で適宜撹拌しながら、窒素雰囲気等の下でリビングラジカル重合等の開始剤の重合機構に基づくモノマー(A)重合工程を行い、モノマー(A)ブロック重合体を得る。このモノマー(A)ブロック重合体を混合させている溶液に、オキシラニル基を有するモノマー(B)(例えば、オキシラニル基を有する、(メタ)アクリレート、(メタ)アクリルアミド、ビニルエーテル、ビニルエステル、シロキサン、αオレフィン及び置換スチレンからなる群より選ばれるいずれかのモノマー)を混合して、溶液中のラジカル等によってさらにモノマー(B)を重合させるモノマー(B)重合工程を行う。これにより、モノマー(A)由来ブロックとモノマー(B)由来ブロックを有する前駆体ポリマーが混合した溶液が得られる。次いで、この前駆体ポリマーにイミノ二酢酸を反応させると、オキシラニル基とイミノ二酢酸とが反応し、イミノ二酢酸由来のアミンの構造を有する(カルボキシアルキル基置換のアミノ基を側鎖に有する構造)ブロック共重合体が得られる。
【0071】
このような重合後に側鎖にアミノ基等を導入できるモノマー(B)としては、グリシジルアクリレートやグリシジルメタクリレート等が挙げられる。
【0072】
[ブロック共重合体溶液]
本発明のフッ素樹脂改質剤は、上記ブロック共重合体以外のその他の成分を含んでもよい。例えば、本発明のフッ素樹脂改質剤は、ブロック共重合体と溶媒とを含有するブロック共重合体溶液とすることができる。ブロック共重合体と溶媒とを含有するブロック共重合体溶液とすることで、任意の粘度や濃度に調整することによって、フッ素樹脂成形体の所望の範囲に、接着性等の所望の性質を付与しやすくなる。
【0073】
なお、本願において、ブロック共重合体溶液は、ブロック共重合体が溶媒に完全に溶解した均一溶液だけでなく、懸濁液・分散液も含む概念である。ブロック共重合体の構造によっては、溶媒に完全にブロック共重合体を溶解させることが困難な場合もあるため、ブロック共重合体が溶媒に懸濁・分散した、懸濁液や分散液としてもよい。
【0074】
(溶媒)
ブロック共重合体と溶媒とを含有するフッ素樹脂改質剤において、溶媒としては、特に限定されず、トルエン、キシレン、ヘキサン、酢酸ブチル、アセトニトリル、エタノール、ジメチルスルホキシド、テトラヒドロフランなどが挙げられる。また、溶媒は、1種のみからなる単独溶媒であっても、2種以上の溶媒からなる混合溶媒であってもよい。
好ましくは、トルエン、酢酸ブチル、キシレン及びテトラヒドロフランからなる群から選択される1種以上を含む溶媒である。フッ素樹脂改質剤が混合溶媒を含有する場合、トルエン、酢酸ブチル、キシレン及びテトラヒドロフランからなる群から選択される1種以上を主たる溶媒とするものが好ましい。具体的には、トルエン、酢酸ブチル、キシレン及びテトラヒドロフランからなる群から選択されるいずれかが、溶媒の全体積において、50体積%以上占めることが好ましく、70体積%以上、90体積%以上、95体積%以上を占めるものであってもよい。
【0075】
(濃度)
ブロック共重合体と溶媒とを含有するフッ素樹脂改質剤において、フッ素樹脂改質剤中のブロック共重合体の濃度は、ブロック共重合体の種類やフッ素樹脂改質剤の使用方法等に応じて適宜設定することができる。フッ素樹脂改質剤中のブロック共重合体の濃度は、0.01~2.0質量%であることが好ましい。ブロック共重合体の濃度の下限は、0.02質量%以上が好ましく、0.05質量%以上がより好ましい。ブロック共重合体の濃度が薄すぎる場合、フッ素樹脂に対する改質効果が不足する場合がある。ブロック共重合体の濃度の上限は、1.5質量%以下が好ましく、1.0質量%以下がより好ましい。0.8質量%以下や0.6質量%以下、0.5質量%以下とすることもできる。ブロック共重合体の濃度を高くしてもフッ素樹脂に対する改質効果は飽和する場合がある。またブロック共重合体の濃度が高すぎると、ブロック共重合体自体の自己集合によるミセル化が生じてしまいフッ素樹脂の改質剤として十分に機能しない場合がある。
【0076】
本発明のフッ素樹脂改質剤を用いることで、所望の様々な機能性(例えば、優れた接着性)が付与されたフッ素樹脂成形体に改質することができる。すなわち、本発明は、フッ素樹脂成形体の改質方法であって、フッ素樹脂改質剤と、前記フッ素樹脂成形体とを接触させ、前記フッ素樹脂成形体の表面の少なくとも一部に前記フッ素樹脂改質剤を含む機能層を形成させる表面改質工程を有し、前記フッ素樹脂改質剤が、側鎖に炭素数8以上のアルキル基を有する、(メタ)アクリレート、(メタ)アクリルアミド、ビニルエーテル、ビニルエステル、シロキサン、αオレフィン及び置換スチレンからなる群より選ばれるいずれかのモノマー(A)に由来する構成単位(A)と、極性基を有するモノマー(B)に由来する構成単位(B)とを含むブロック共重合体を含有するものである、フッ素樹脂成形体の改質方法とすることもできる。本発明のフッ素樹脂成形体の改質方法を利用することで、後述する改質フッ素樹脂成形体を製造することができる。
【0077】
<改質フッ素樹脂成形体の製造方法>
本発明は、本発明のフッ素樹脂改質剤と、フッ素樹脂成形体とを接触させ、前記フッ素樹脂成形体の表面の少なくとも一部に前記フッ素樹脂改質剤を含む機能層を形成させる表面改質工程をする、改質フッ素樹脂成形体の製造方法(以下、「本発明の改質フッ素樹脂成形体の製造方法」と記載する場合がある)に関する。
本発明の改質フッ素樹脂成形体の製造方法は、上記の本発明のフッ素樹脂改質剤を用いてフッ素樹脂成形体を改質し、改質フッ素樹脂成形体を得る方法である。
このような製造方法で改質フッ素樹脂成形体を製造することにより、フッ素樹脂成形体の形状等によらず、簡単に、所望の種々の機能性を、所望の部分に付与した改質フッ素樹脂成形体を得ることができる。特に、このような製造方法とすることで、簡単に、他の材料との接着性に優れた改質フッ素樹脂成形体を得ることができる。
【0078】
本発明のフッ素樹脂成形体の製造方法は、本発明のフッ素樹脂改質剤の粘度等を調整することで、複雑な形状の成形体であっても均一にフッ素樹脂改質剤で処理することができるため、形状によらず改質が可能である。
また、プラズマ処理などの物理的な手法では、薄膜などフッ素樹脂成形体の形状によっては、成形体が損傷し力学強度が低下する場合がある。本発明の改質フッ素樹脂成形体の製造方法は化学的な手法であり、物理的な手法により損傷や力学強度の低下等が生じやすい成形体に対しても、成形体の損傷や力学強度の低下を抑えて、改質が可能である。
さらに、従来のプラズマ処理等の改質方法では多孔質材料の内部まで改質することが困難であったが、本発明の改質フッ素樹脂成形体の製造方法では、成形体の孔内など、その内部にもフッ素樹脂改質剤を浸透させて多孔質材料の全体を容易に改質することができる。
【0079】
[フッ素樹脂成形体]
本発明の改質フッ素樹脂成形体の製造方法に用いられる、フッ素樹脂成形体は、用途等に応じてフッ素樹脂を任意の形状に成形加工したものである。前記フッ素樹脂としては、特に限定されず、フッ素を含有するモノマーの単独重合体や、他のモノマーとの共重合体を用いることができる。具体的には、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン-ビニリデンフルオライド(THV)、ポリビニリデンフルオライド(PVDF)、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)、クロロトリフルオロエチレン-エチレン(ECTFE)、テトラフルオロエチレン-エチレン(ETFE)、テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン(FEP)、テトラフルオロエチレン-パーフルオロアルキルビニルエーテル(PFA)などが挙げられる。
【0080】
中でも、フッ素樹脂成形体は、ポリテトラフルオロエチレン単独重合体や共重合体、他の樹脂との混合物などを任意の形状に加工した、ポリテトラフルオロエチレンを含む成形体が好ましい。
【0081】
フッ素樹脂成形体の形状は、特に限定されず、例えば、シート、フィルム、粒子、板、多孔質材料、各種部材などの成形体が挙げられる。
【0082】
また、延伸シートや延伸フィルムなど延伸物を用いてもよい。特に、ポリテトラフルオロエチレンは延伸により多孔化することができ、ブロック共重合体がより強固に相互作用し、より高い改質効果が得られるため好ましい。
延伸方法は特に限定されず、縦一軸延伸、横一軸延伸、逐次二軸延伸、同時二軸延伸、多軸延伸等のいずれの方法であってもよいが、逐次二軸延伸や同時二軸延伸などの二軸延伸が好ましい。延伸は、延伸方法に応じて、ロール延伸機、テンター延伸機、チューブラー延伸機、引張試験機等を用いることができる。
延伸倍率は特に限定されないが、例えば、縦方向及び横方向の延伸倍率をそれぞれ1.05~10倍や、2~5倍とすることができる。
【0083】
[表面改質工程]
表面改質工程は、本発明のフッ素樹脂改質剤と、フッ素樹脂成形体とを接触させ、前記フッ素樹脂成形体の表面の少なくとも一部に前記フッ素樹脂改質剤を含む機能層を形成させる工程である。
【0084】
本発明の改質フッ素樹脂成形体の製造方法に用いられる本発明のフッ素樹脂改質剤は、上記の通りであり、ブロック共重合体であっても、ブロック共重合体と溶媒とを含むブロック共重合体溶液のようにブロック共重合体以外の成分を含むものであってもよい。得られる改質フッ素樹脂成形体の改質効果の観点からは、本発明のフッ素樹脂改質剤として、ブロック共重合体と溶媒とを含むブロック共重合体溶液を用いることが好ましい。ブロック共重合体溶液とすることで任意の粘度に調整しやすく、フッ素樹脂成形体とより均一に接触させることができる。これにより、得られる改質フッ素樹脂成形体の所望の部位に、より均一に機能性を付与でき、付与される機能性が全体的に向上したものとなりやすい。例えば、得られる改質フッ素樹脂成形体の所望の部位における、他材料との接着性を、より均一に、全体的に向上させやすい。さらに、フッ素樹脂成形体との接触時のブロック共重合体の自由度が向上するため、ブロック共重合体がフッ素樹脂成形体と相互作用しやすい構造をとりやすく、ブロック共重合体とフッ素樹脂成形体とがより強固に作用できる。また、ブロック共重合体の構成単位(B)がフッ素樹脂成形体の最表面に存在する構成を取りやすくなるため、改質フッ素樹脂成形体の表面に付与される機能性(例えば、他材料との接着性)がより優れたものとなる。また、フッ素樹脂成形体の上に形成される機能層の厚みの制御も容易となる。
【0085】
本発明のフッ素樹脂改質剤と、フッ素樹脂成形体との接触方法は、フッ素樹脂成形体の表面の少なくとも一部に本発明のフッ素樹脂改質剤を含む機能層を形成することができれば特に限定されない。接触方法としては、ディップコートなどの浸漬や、スピンコート、アプリケーター塗布、スリットコート、ダイコート、バーコート、スクリーン印刷、インクジェット印刷、グラビア印刷などのコーティング(塗工)、スプレーコートなどの噴霧などが挙げられる。
【0086】
共重合体溶液とフッ素樹脂成形体との接触は、共重合体溶液とフッ素樹脂成形体の改質しようとする部分と接触させることができる方法であればよく、フッ素樹脂成形体の形状や改質しようとする範囲等に応じて適宜選択すればよい。
【0087】
表面改質工程において、フッ素樹脂改質剤とフッ素樹脂成形体とを接触させるときの処理温度は、接触方法やフッ素樹脂改質剤の組成、フッ素樹脂成形体の種類等に応じて適宜決定すればよい。処理温度は、室温であってもよく、安全性等を考慮した上で、室温よりも高い温度条件下で行ってもよい。例えば、処理温度は20℃以上や25℃以上とすることができる。また、処理温度は高すぎると、フッ素樹脂成形体が変形したり、分解したりするおそれもあるため、その上限は200℃以下や150℃以下とすることができる。
【0088】
処理温度を室温よりも高い温度に設定する場合には、接触方法等に応じて、予め設定した温度にフッ素樹脂改質剤やフッ素樹脂成形体を加熱した後、フッ素樹脂改質剤とフッ素樹脂成形体とを接触させてもよいし、フッ素樹脂改質剤とフッ素樹脂成形体とを接触させた後、設定した温度まで昇温してもよい。
【0089】
接触方法が浸漬のとき、フッ素樹脂改質剤とフッ素樹脂成形体とを接触させる処理時間は、フッ素樹脂改質剤の組成、フッ素樹脂成形体の種類等に応じて適宜決定することができる。例えば、処理温度を高めるなどフッ素樹脂改質剤やフッ素樹脂成形体の反応性を高めた状態で行う場合には、処理時間は1秒以上や30秒以上と比較的短めにしてもよい。また、機能層を十分に形成させるために、処理時間は1分以上や5分以上とすることもできる。フッ素樹脂成形体の変形等が生じない範囲であれば、処理時間は長くてもよく、60分以下や40分以下とすることができる。また、接触時間がある一定時間以上となると改質効果は飽和するため、処理温度などの条件に応じて、30分以下や20分以下としてもよい。
【0090】
接触方法がコーティングや噴霧のとき、フッ素樹脂改質剤の塗布量は、フッ素樹脂成形体の改質しようとする部分に均一に塗布することができる量であれば特に限定されない。例えば、塗布量は、10~300g/m2や、50~250g/m2、100~250g/m2などとすることができる。
【0091】
本発明の改質フッ素樹脂成形体の製造方法において、フッ素樹脂改質剤としてブロック共重合体溶液を用いて表面改質工程を行った場合、通常、表面改質工程の後に溶媒を除去する溶媒除去工程を行うことで、機能層を形成させる。
溶媒を除去する方法としては、通気性のよい環境下、常温付近で乾燥してもよいし、適宜、減圧乾燥や加熱乾燥等を行ってもよい。また、これらの乾燥方法を併用してもよい。
【0092】
また、本発明のフッ素樹脂成形体の製造方法は、フッ素樹脂成形体の形状等に応じて、フッ素樹脂成形体の力学強度を著しく損なわない範囲において、表面改質工程の前に、フッ素樹脂成形体の表面を粗面化する工程を有するものとしてもよい。
【0093】
[粗面化工程]
粗面化工程は、表面改質工程の前に実施される工程であり、フッ素樹脂成形体の表面を粗面化する工程である。
粗面化の方法は特に限定されず、やすりやブラスト、エッチングなどの従来公知の方法を用いることができる
【0094】
また、粗面化工程において、フッ素樹脂成形体の表面を粗面化しすぎると得られる改質フッ素樹脂成形体の力学特定が損なわれたり、改質効果にむらが生じやすくなる。そのため、粗面化の程度は粗面化方法やフッ素樹脂成形体の形状等に応じて、得られるフッ素樹脂成形体の力学特性や目的を考慮して、適宜決定すればよい。
例えば、粗面化工程では、フッ素樹脂成形体の表面の最大高さ粗さ(Rz)が80μm以下や60μm以下となるように粗面化することができる。フッ素樹脂成形体の表面の最大高さ粗さ(Rz)の下限値は10μm以上や20μm以上とすることができる。
また、フッ素樹脂成形体の表面の算術平均粗さ(Ra)が15μm以下や10μm以下、8μm以下となるように粗面化することができる。フッ素樹脂成形体の表面の算術平均粗さ(Ra)の下限値は、1μm以上や3μm以上となるようにすることができる。
なお、表面の最大高さ粗さ(Rz)や算術平均粗さ(Ra)は、JIS B 0633(2001)で定義される表面粗さである。
【0095】
<改質フッ素樹脂成形体>
また、本発明は、フッ素樹脂成形体と、前記フッ素樹脂成形体の表面の少なくとも一部に形成されたブロック共重合体を含む機能層とを有する改質フッ素樹脂成形体であって、前記ブロック共重合体が、側鎖に、炭素数8以上のアルキル基を有する、(メタ)アクリレート、(メタ)アクリルアミド、ビニルエーテル、ビニルエステル、シロキサン、αオレフィン及び置換スチレンからなる群より選ばれるいずれかのモノマー(A)に由来する構成単位(A)と、極性基を有するモノマー(B)に由来する構成単位(B)とを含むブロック共重合体である、改質フッ素樹脂成形体(以下、「本発明の改質フッ素樹脂成形体」と記載する場合がある。)に関する。
【0096】
このような改質フッ素樹脂成形体とすることで、構成単位(B)の極性基に起因した種々の機能性が付与された成形体とすることができる。特に、他の材料に対する接着性に優れたものとすることができる。
【0097】
本発明の改質フッ素樹脂成形体は、本発明の改質フッ素樹脂成形体の製造方法により好適に製造することができ、本発明の改質フッ素樹脂成形体の機能層に含まれるブロック共重合体は、本発明のフッ素樹脂改質剤に含まれるブロック共重合体と同様の構成である。ブロック共重合体の好適な態様も上記と同様である。
フッ素樹脂成形体の表面に機能層が形成されていることは、各層をFT-IRなどで成分分析したり、切断面の成分分析を行うなどの手法で確認することができる。
【0098】
また、改質フッ素樹脂成形体の表面の少なくとも一部にブロック共重合体を含む機能層を有する構造であればよく、目的に応じて、機能層は、フッ素樹脂成形体の所望の範囲に形成されていればよい。例えば、シート状や粒子状の成形体の表層全体が機能層を有する構成であってもよいし、表層に斑状や縞状に機能層を有する構成であってもよい。また、多孔膜等の孔内などに機能層を有する構成であってもよい。
【0099】
機能層は、ブロック共重合体からなる層であっても、ブロック共重合体とは異なるその他の成分を含んでもよい。他の部材に対する、改質フッ素樹脂成形体の接着性をより優れたものとするためには、機能層はブロック共重合体を主の成分とすることが好ましい。機能層におけるブロック共重合体の含有量は、50質量%以上や、60質量%以上、70質量%以上、80質量%以上、90質量%以上、95質量%以上などとすることができる。
【0100】
フッ素樹脂成形体の形状は、特に限定されず、例えば、シート、フィルム、粒子、板、多孔質材料、各種部材などの成形物が挙げられる。
【実施例】
【0101】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明は、その要旨を変更しない限り以下の実施例に限定されるものではない。
【0102】
[1]ブロック共重合体の製造
(1-1)共重合体(BHA-TBAEMA)の製造
セパラブルフラスコに、酢酸ブチル5.0g、ベヘニルアクリレート(BHA)5.0gを入れて、酢酸ブチルとBHAを混合した後、脱気、窒素置換をした。窒素雰囲気下で、酢酸ブチルとBHAの混合液を撹拌し、BHAを酢酸ブチルに溶解させた後、開始剤(Blocbuilder MA)0.38gを加えた。窒素雰囲気下、110℃で24時間、BHAを重合させて、BHA重合体の溶液を得た。BHA重合体の溶液に2-(tert-ブチルアミノ)エチルメタクリレート(TBAEMA)5.0gと酢酸ブチル5.0gを加えて、さらに窒素雰囲気下、110℃で24時間重合を行った。メタノールを加えて再沈殿し、BHAとTBAEMAのブロック共重合体(BHA-TBAEMA)を得た。
【0103】
得られたBHA-TBAEMAの構造式を以下に一般式(I)として示す。
【0104】
【0105】
(1-2)共重合体(STA-TBAEMA)の製造
ベヘニルアクリレート(BHA)5.0gに代えてステアリルアクリレート(STA)5.0gを用いた以外は、前記(1-1)と同様にして、STAとTBAEMAのブロック共重合体(STA-TBAEMA)を得た。
【0106】
得られたSTA-TBAEMAの構造式を以下に一般式(II)として示す。
【0107】
【0108】
(1-3)共重合体(STA-DEEA)の製造
セパラブルフラスコに、酢酸ブチル3.0g、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアクリレート(DEEA)3.0gを入れて、酢酸ブチルとDEEAを混合した後、脱気、窒素置換をした。窒素雰囲気下で、酢酸ブチルとDEEAの混合液を撹拌し、DEEAを酢酸ブチルに溶解させた後、開始剤(Blocbuilder MA)0.29gを加えた。窒素雰囲気下、105℃で4時間、DEEAを重合させて、DEEA重合体の溶液を得た。DEEA重合体の溶液にステアリルアクリレート(STA)5.8gと酢酸ブチル4.9gを加えて、さらに窒素雰囲気下、105℃で4時間重合を行った。メタノールを加えて再沈殿し、STAとDEEAのブロック共重合体(STA-DEEA)を得た。
得られたSTA-DEEAの重量平均分子量(Mw)を、GPCを用いてポリスチレン換算で求めたところ、STA由来の構成単位の重量平均分子量が約5,000であり、DEEA由来の構成単位の重量平均分子量が約10,000であった。
【0109】
得られたSTA-DEEAの構造式を以下に一般式(III)として示す。
【0110】
【0111】
(1-4)共重合体(STA-AA)の製造
セパラブルフラスコに、酢酸ブチル6.6g、ステアリルアクリレート(STA)6.6gを入れて、酢酸ブチルとSTAを混合した後、脱気、窒素置換をした。窒素雰囲気下で、酢酸ブチルとSTAの混合液を撹拌し、STAを酢酸ブチルに溶解させた後、開始剤(Blocbuilder MA)0.386gを加えた。窒素雰囲気下、105℃で4.5時間、STAを重合させて、STA重合体の溶液を得た。STA重合体の溶液にアクリル酸(AA)3.42gと酢酸ブチル3.42gを加えて、さらに窒素雰囲気下、105℃で27時間重合を行った。メタノールを加えて再沈殿し、STAとAAのブロック共重合体(STA-AA)を得た。
得られたSTA-AAの重量平均分子量(Mw)を、GPCを用いてポリスチレン換算で求めたところ、STA由来の構成単位の重量平均分子量が約4,500であり、AA由来の構成単位の重量平均分子量が約3,400であった。
【0112】
得られたSTA-AAの構造式を以下に一般式(IV)として示す。
【0113】
【0114】
[2]ブロック共重合体溶液(フッ素樹脂改質剤)の調製
(2-1)ブロック共重合体溶液(1)の調製
ブロック共重合体としてBHA-TBAEMAを用い、溶媒としてテトラヒドロフラン(THF)を用いた。ブロック共重合体の濃度が0.1wt%となるようにBHA-TBAEMAをTHFに加えて混合し、ブロック共重合体溶液(1)を100g調製した。
【0115】
(2-2)ブロック共重合体(2)~(11)の調製
表1に示す組成となるように、ブロック共重合体、溶媒、ブロック共重合体の添加量を変更した以外はブロック共重合体溶液(1)と同様にして、ブロック共重合体溶液(2)~(11)を調製した。
【0116】
【0117】
[3]PTFEフィルムの準備
フィルム(F1-a):厚さ100μmのPTFEフィルム(サンプラテック社製)を12.5±0.5mm×100mmの大きさに切り出してフィルム(F1-a)とした。
フィルム(F1-b):厚さ500μmのPTFEフィルム(サンプラテック社製)を12.5±0.5mm×100mmの大きさに切り出してフィルム(F1-b)とした。
フィルム(F2-a):厚さ100μmのPTFEフィルム(サンプラテック社製)を130mm×200mmの大きさに切り出してフィルム(F2-a)とした。
フィルム(F2-b):厚さ500μmのPTFEフィルム(サンプラテック社製)を130mm×200mmの大きさに切り出してフィルム(F2-b)とした。
【0118】
[実施例1]改質フッ素樹脂成形体の製造(浸漬)
(実施例1-1)
セパラブルフラスコにブロック共重合体溶液(1)(100g)を入れ、オイルバスにて60℃(改質温度)に昇温した。60℃に達したところで、フィルム(F1-a)10枚を針金でつるして浸漬させた。10分後、全てのフィルムをブロック共重合体溶液(1)から取り出した。ブロック共重合体溶液(1)で処理後のフィルムを真空乾燥(45℃、30min)させ、改質フィルム(A1)を10枚得た。
【0119】
(実施例1-2~実施例1-13)
ブロック共重合体溶液、改質温度を、表2に示すように変更した以外は、実施例1-1と同様にして、改質フィルム(A2)~(A13)を得た。
【0120】
【0121】
[実施例1で得られた改質フィルムの接着性の評価]
・試験片の作製
得られた改質フィルムを用いて、JIS K6854-3(1999)に準拠してT型剥離試験用の試験片を作製した。同一の製造条件で得られた改質フィルム10枚を用いて、同一の製造条件の試験片を5個ずつ作製した。
まず、アロンアルファ(登録商標)を用いて2枚の改質フィルムを接着させた。次いで、100℃、20minで乾燥させ、試験片を得た。
また、比較例として、未改質のフィルム(F1-a)同士をアロンアルファで同様に接着させた試験片を得た。
【0122】
・T型剥離試験
作製した5個の試験片を用いて、K6854-3(1999)に準拠してT型剥離試験を行い、5個の試験片の最大試験力と平均試験力の平均値を算出した。結果を表2に示す。
【0123】
表2に示すように、未改質のフィルム(F1-a)に対して、改質フィルムA1~A13は平均試験力及び最大試験力に優れ、接着性が向上していることがわかる。
【0124】
[実施例2]改質フッ素樹脂成形体の製造(コーティング)
フィルム(F2-a)の短辺(130mmの辺)を横に長辺(200mmの辺)を縦にして卓上コーターのガラス板上に配置した。溶液を引き延ばすアプリケーターとフィルムの間の距離が1mmになるように、スリット幅(ガラス板とアプリケータの間の距離)を1.1mmに設定した。フィルム(F2-a)の上にブロック共重合体溶液(6)(約3mL)を滴下した後、塗布速度10mm/minでブロック共重合体溶液(6)を引き伸ばし、フィルム(F2-a)上に塗布した。次いで、ブロック共重合体溶液(6)を塗布したフィルム(F2-a)を真空乾燥(45℃、30min)させ、改質フィルム(b1)を得た。得られた改質フィルム(b1)を12.5±0.5mm×100mmの大きさに切り出して、改質フィルム(B1)を合計で10枚得た。
【0125】
[実施例3]改質フッ素樹脂成形体の製造(噴霧)
(実施例3-1)
ブロック共重合体溶液(6)をスプレー容器に充填し、フィルム(F1-a)の表面にブロック共重合体溶液を噴霧した。次いで、ブロック共重合体溶液(6)が噴霧されたフィルム(F1-a)を真空乾燥(45℃、30min)させ、改質フィルム(C1)を得た。同様の操作を行い、改質フィルム(C1)を合計で10枚得た。なお、改質フィルム10枚を製造するために使用したブロック共重合体溶液の量は約3mLであった。
【0126】
(実施例3-2)
ブロック共重合体溶液(6)に代えてブロック共重合体溶液(3)を用い、フィルム(F1-a)に代えてフィルム(F2-a)を用いた以外は実施例3-1と同様にして改質フィルム(C2)を10枚得た。
【0127】
[実施例2及び実施例3で得られた改質フィルムの接着性の評価]
実施例1の接着性の評価と同様にして、改質フィルム(B1)、改質フィルム(C1)、改質フィルム(C2)の最大試験力と平均試験力の平均値を算出した。表3に、実施例2と実施例3-1、実施例3-2の結果を実施例1-5の結果とあわせて示す。
【0128】
【0129】
表3に示すように、ブロック共重合体溶液をコーティングや噴霧させて改質した改質フィルムも、接着性が向上していることがわかる。
【0130】
[実施例4]改質フッ素樹脂成形体の製造(粗面化工程を有する製造方法)
(実施例4-1)
フィルム(F1-b)を紙やすり180番を使用してフィルム表面をほぼ同一方向に5回研磨することで、フィルム表面を粗面化して、フィルム(f1-b)を得た。同様の操作を行い、フィルム(f1-b)を10枚準備した。
このフィルム(f1-b)の粗面化の程度を、3D測定レーザー顕微鏡OLS4100(SIMADZU製)(カットオフ波長:80μm、対物レンズ:MPLFLN10x、画像サイズ:1280×1280μm)を用い、JIS B 0663(2001)に準じて測定したところ、最大高さ粗さ(Rz)は43μm、算術平均粗さ(Ra)は6.5μmであった。
次いで、フィルム(F1-a)に代えてフィルム(f1-b)を用いた以外は実施例1-5と同様の操作を行い、改質フィルム(A5-R)を10枚得た。
【0131】
(実施例4-2)
フィルム(F2-b)を紙やすり180番を使用してフィルム表面をほぼ同一方向に5回研磨することで、フィルム表面を粗面化して、フィルム(f2-b)を得た。
次いで、フィルム(F2-a)に代えてフィルム(f2-b)を用い、スリット幅(ガラス板とアプリケータの間の距離)を1.5mmに設定した以外は実施例2と同様の操作を行い、改質フィルム(B1-R)(12.5±0.5mm×100mm)を10枚得た。
【0132】
(実施例4-3)
実施例4-1と同様にして、フィルム(f1-b)を10枚準備した。
次いで、フィルム(F1-a)に代えてフィルム(f1-b)を用いた以外は実施例3-1と同様の操作を行い、改質フィルム(C1-R)をそれぞれ10枚得た。
【0133】
(実施例4-4~実施例4-6)
実施例4-1と同様にして、フィルム(f1-b)を10枚準備した。
次いで、フィルム(F1-a)に代えてフィルム(f1-b)を用い、ブロック共重合体溶液(6)に代えて表4に示すブロック共重合体溶液を用いた以外は実施例3-1と同様の操作を行い、改質フィルム(C2-R)~(C4-R)をそれぞれ10枚得た。
【0134】
[実施例4で得られた改質フィルムの接着性の評価]
実施例1の接着性の評価と同様にして、改質フィルム(A5-R)、改質フィルム(B1-R)、改質フィルム(C1-R)~(C4-R)の最大試験力と平均試験力の平均値を算出した。結果を表4に示す。
【0135】
【0136】
表4に示すように、PTFEフィルムを粗面化してからブロック共重合体溶液で処理することで、接着性が優れたフィルムが得られた。
【0137】
[実施例5]改質フッ素樹脂成形体の製造(延伸PTFEフィルムの使用)
(PTFEフィルムの延伸)
フッ素樹脂成形体として、厚さ800μmのPTFEフィルム(サンプラテック社製)を逐次2軸延伸処理した延伸PTFEフィルムを用いた。PTFEフィルムの延伸は、小型卓上試験機(EZ-LX-5Z,島津製作所製)を用いて行った。まず120mm×60mm(長さ×幅)に切り出したフィルムを長さが120mmから240mmになるように延伸した。その後、60mm×40mm(長さ×幅)に切り出したフィルムを幅が40mmから100mmになるようにもう一度延伸し、延伸PTFEフィルムとした。
この延伸PTFEフィルムを適宜切り出して、改質PTFEフィルムの製造に用いた。
【0138】
(延伸PTFEフィルムの表面観察)
延伸処理を施したPTFEフィルムと未延伸のPTFEフィルムの表面をSEM(日立ハイテクノロジース製走査型電子顕微鏡TM4000plus)で観察した。
図1の(a)に未延伸PTFEフィルムの表面のSEM画像、
図1の(b)に延伸PTFEフィルムの表面のSEM画像を示す。
図1に示すように、延伸PTFEフィルムでは、フィルムの表面に細孔の発生が確認できた。一方、未延伸PTFEフィルムでは、表面に細孔は確認できなかった。
【0139】
(実施例5-1)
BHA-TBAEMAの濃度が0.5wt%となるようにBHA-TBAEMAをトルエンに溶解させた溶液(ブロック共重合体溶液(7))をブロック共重合体溶液として用いた。
セパラブルフラスコにブロック共重合体溶液(7)(100g)を入れ、オイルバスにて30℃(改質温度)に昇温した。30℃に達したところで、延伸PTFEフィルム(10±0.5mm×60mm)10枚を針金でつるして浸漬させた。10分後、全てのフィルムをブロック共重合体溶液(7)から取り出した。ブロック共重合体溶液(7)で処理後のフィルムを真空乾燥(45℃、30min)させ、改質フィルム(E1)を10枚得た。
【0140】
(実施例5-2~実施例5-6)
ブロック共重合体溶液、改質温度を、表5に示すように変更した以外は、実施例5-1と同様にして、改質フィルム(E2)~(E6)を得た。
【0141】
【0142】
[実施例5で得られた改質フィルムの接着性の評価]
接着部の面積を12.5±0.5mm×75mmから、10±0.5mm×50mmに変更した以外は、実施例1と同様にして試験片5個を作製し、T型剥離試験を行った。5個の試験片の平均はく離力(平均試験力/試験片の幅)の平均値を求めた。
表5に、実施例5-1~実施例5-6の結果を示す。
【0143】
表5に示すように、実施例5-1~実施例5-4の結果から、延伸PTFEフィルムを用いた場合も、未延伸のPTFEフィルムを用いた場合と同様に、ブロック共重合体溶液により改質することができた。また、改質温度が高温になるほど接着力が向上した。
また、実施例5-4~実施例5-6の結果から、ブロック共重合体の濃度を変更しても、延伸PTFEフィルムを改質することができた。特に、ブロック共重合体の濃度が0.7wt%の溶液を用い改質した改質フィルム(E6)は、T型剥離試験の途中でフィルム自体が破壊するほどの強固な接着性を示した。
なお、未改質の延伸PTFEフィルムの平均はく離力は、未改質の未延伸のPTFEフィルムと同程度であった。
【0144】
[改質フィルム(E4)のFT-IR測定]
改質フィルム(E4)の表面をFT-IRで観察したところ、改質フィルム(D4)では、C-H由来のピーク(2950cm-1、2850cm-1)、C=O由来のピーク(1700cm-1)が確認できた。一方、未改質の延伸PTFEフィルムでは、これらのピークは確認できなかった。この結果から、改質フィルム(E4)では延伸PTFEの表面上にBHA-TBAEMAが存在することが確認できた。
【0145】
[改質フィルム(E4)の接触角]
水接触角測定装置(協和界面科学社製“Dropmaster100”)を用いて、表面の接触角を測定した。延伸PTFEフィルム(未改質)は137°であり、改質フィルム(E4)は116°であり、BHA-TBAEMAで改質することでフィルムの親水性を向上できることを確認できた。
【0146】
[参考例1]共重合体(4)の製造
ベヘニルアクリレート(BHA)5.0gに代えて、2,2,3,3,4,4,5,5,6,6,7,7-ドデカフルオロヘプチルアクリレート(DFHA)5.0gを用いた以外は(1-1)のBHA-TBAEMAの製造と同様にして、DFHAとTBAEMAのブロック共重合体(DFHA-TBAEMA)を得た。
【0147】
[参考例2]改質フィルムの製造及び接着性の評価
DFHA-TBAEMAの濃度が0.1wt%となるようにDFHA-TBAEMAをトルエンに加えて混合し、DFHA-TBAEMA溶液を100g調製した。
ブロック共重合体溶液(6)に代えてDFHA-TBAEMA溶液を用いた以外は実施例3-1、実施例4-3と同様にして改質フィルム(D1)、改質フィルム(D2)を得た。
実施例1の接着性の評価と同様にして、得られた改質フィルム(D1)の最大試験力と平均試験力の平均値を算出したところ、最大試験力1.5[N]、平均試験力0.8[N]であった。
また、改質フィルム(D2)の最大試験力と平均試験力の平均値を算出したところ、最大試験力9.8[N]、平均試験力5.6[N]であった。
【0148】
実施例3-1及び実施例4-3の改質フィルムと参考例2の改質フィルムの比較から、本発明のフッ素樹脂改質剤中のブロック共重合体(BHA-TBAEMA)は、改質対象であるPTFEと類似の構造を有さないにもかかわらず、改質対象であるPTFEと類似の構造を有するブロック共重合体溶液(DFHA-TBAEMA)で処理した場合と同等以上の接着力を付与できることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0149】
本発明によれば、本発明のフッ素樹脂改質剤を用いて、他の材料との接着性に優れたPTFE等の所望の機能性を付与した改質フッ素樹脂成形体を製造することができ、フッ素樹脂の利用用途を拡大することができる。