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  • 特許-化粧品用マイクロニードル 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-13
(45)【発行日】2024-09-25
(54)【発明の名称】化粧品用マイクロニードル
(51)【国際特許分類】
   A61M 37/00 20060101AFI20240917BHJP
【FI】
A61M37/00 530
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2020149425
(22)【出願日】2020-09-04
(65)【公開番号】P2022043919
(43)【公開日】2022-03-16
【審査請求日】2023-09-04
(73)【特許権者】
【識別番号】501296380
【氏名又は名称】コスメディ製薬株式会社
(72)【発明者】
【氏名】権 英淑
(72)【発明者】
【氏名】神山 文男
【審査官】竹下 晋司
(56)【参考文献】
【文献】特表2015-531644(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61M 37/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水溶性高分子を基剤とし、該基剤中にヒドロキシアパタイト粒子が分散している皮膚適用マイクロニードルアレイであって、ヒドロキシアパタイト粒子の粒径は2μm以下であり、ヒドロキシアパタイトの基剤中の含量は0.001質量%以上30質量%以下であるマイクロニードルアレイ
【請求項2】
水溶性高分子を基剤とし、該基剤中にヒドロキシアパタイト粒子が分散している皮膚適用マイクロニードルアレイからなる、皮膚溝部のケアを目的とする美容シートであって、ヒドロキシアパタイト粒子の粒径は2μm以下であり、ヒドロキシアパタイトの基剤中の含量は0.001質量%以上30質量%以下である美容シート
【請求項3】
水溶性高分子を基剤とし、該基剤中にヒドロキシアパタイト粒子が分散している皮膚適用マイクロニードルアレイからなる、眉間シワ、ほうれい線のシワ、又は乳房間溝のケアを目的とする美容シートであって、ヒドロキシアパタイト粒子の粒径は2μm以下であり、ヒドロキシアパタイトの基剤中の含量は0.001質量%以上30質量%以下である美容シート
【請求項4】
ヒドロキシアパタイト粒子の粒径が1μm以下であることを特徴とする、請求項1に記載のマイクロニードルアレイ又は請求項2もしくは3に記載の美容シート
【請求項5】
マイクロニードルの針サイズが0.1mm以上1.0mm以下であることを特徴とする、請求項1~のいずれか1項に記載のマイクロニードルアレイ又は美容シート。
【請求項6】
水溶性高分子がヒアルロン酸ナトリウム及びその誘導体、コラーゲン、プロテオグリカン、ヒドロキシプロピルセルロース、コンドロイチン硫酸、カルボキシメチルセルロース、ポリビニルピロリドン、ポリエチレングリコール、ポリビニルアルコール(PVA)並びにデキストランからなる群より選ばれる1種または2種以上である、請求項1~のいずれか1項に記載のマイクロニードルアレイ又は美容シート。
【請求項7】
ヒアルロン酸ナトリウム及びその誘導体がPEGグラフト化ヒアルロン酸ナトリウムであり、該PEGグラフト化ヒアルロン酸ナトリウムにヒドロキシアパタイト微粒子が分散している、請求項に記載のマイクロニードルアレイ又は美容シート。
【請求項8】
前記基剤中にヒドロキシアパタイト微粒子が界面活性剤により分散している、請求項1~のいずれか1項に記載のマイクロニードルアレイ又は美容シート。
【請求項9】
界面活性剤がPOE(20)アルキルエーテルである、請求項に記載のマイクロニードルアレイ又は美容シート。
【請求項10】
前記マイクロニードルアレイが、厚さが100μm以下の基板であって柔軟な基板部を有する、請求項1~のいずれか1項に記載のマイクロニードルアレイ又は美容シート。
【請求項11】
前記マイクロニードルアレイの基剤が水溶性高分子以外に水溶性低分子化合物を2質量%以上含有する、請求項1~10のいずれか1項に記載のマイクロニードルアレイ又は美容シート。
【請求項12】
前記マイクロニードルアレイの背面に疎水性または非溶解フィルムを裏打ちしている、請求項1~11のいずれか1項に記載のマイクロニードルアレイ又は美容シート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、皮膚に適用するマイクロニードルの技術分野に関する。詳しくは、コラーゲンが定着しやすくかつ増殖により皮膚増大に効果的なヒドロキシアパタイトを含む組成物の投与のためのマイクロニードルアレイに関する。
【背景技術】
【0002】
皮膚は、表皮および真皮で構成されている。最も外側の表皮は、重層扁平上皮とその下の基底膜で生成されている。表皮は血管を含まず、真皮からの拡散作用により育成される。表皮は主に、角化細胞で構成され、黒色細胞およびランゲルハンス細胞も存在する。この皮膚層は、身体と外部環境の間のバリアとして機能し、水を体内に保持し、有害な化学薬品および病原の侵入を防ぐ。
【0003】
真皮は、表皮の下に存在し、血管、神経、毛包、平滑筋、腺およびリンパ組織をはじめとする複数の構造を含む。真皮(dermis)(または真皮(corium))は、典型的には0.1~3mm厚であり、ヒトの皮膚の主な構成要素である。真皮は、網目構造の結合組織と、優占的に存在し支持となるコラーゲン原線維と、柔軟性をもたらすエラスチン線維と、で構成される。真皮を構成する主な細胞型は、線維芽細胞、脂肪細胞(脂肪貯蔵体)およびマクロファージである。
【0004】
角皮下層は、真皮の下に存在し、下部の骨および筋肉に皮膚を付着させるため、そして皮膚に血管および神経を供給するために重要である。角皮下層は、緩い結合組織で生成され、線維芽細胞、マクロファージおよび脂肪細胞を含む。脂肪細胞は、角皮下層の脂肪貯蔵機能において主要な役割を担う。脂肪は、充填材料として、そして外部環境からの身体の絶縁体として働く。
【0005】
顔の加齢は、複数の要因の結果起こるが、中でも、本来備わる皮膚の変化、重力の作用、力学的な表情じわを生じる顔の筋肉の活性化、皮膚減少または移行、骨減少、組織弾性の低下、ならびに過酷な環境条件、詳細には日光または紫外線の照射および汚染物質への暴露が要因となる。皮膚は、表皮が薄くなり始めると老化して、真皮との接合が平坦化になる。ヒトの加齢に応じてコラーゲンが減少し、皮膚のツルゴールを与えるコラーゲン線維束が緩んで強度を低下させる。皮膚が弾性を損失すると、緊張にあまり耐えられなくなる。重力、筋肉の損傷および組織変化を伴うと、皮膚は縮めんじわを生じ始める。水分不足および細胞間結合の破壊もまた、皮膚のバリア機能を低下させ、皮膚の孔径を増加させる可能性がある。
【0006】
皮膚、特に顔の皮膚の外観を改善するために、縮めんじわなどの皮膚欠陥を修復する組成物、または対象の組織を増大する組成物を開発および使用することに、努力が注がれてきた。
【0007】
現在、自己移植可能材料、同種異系製品、異種製品および合成製品などの皮膚増大のための公知の皮膚充填剤は多数存在する。入手可能な皮膚充填剤は、生分解性天然物質(コラーゲン、ゼラチン、ヒアルロン酸、デキストラン、等)、生分解性合成ポリマー(ポリ-L-乳酸、カルボキシメチルセルロースなど)、非生分解性合成ポリマー(びシリコーンなど)およびそれらの組合せを含む。
【0008】
ヒドロキシアパタイトなどの生体適合性セラミック皮膚増大材料は、それらの性質により効率的な皮膚増大材料であることが知られている。
【0009】
ヒドロキシアパタイト(Ca(PO(OH))は、リン酸カルシウムの天然由来無機質形態である。ヒドロキシアパタイトは、骨の無機質成分を含み、それゆえ対象の体内に導入されると生体適合性および非免疫原性になる。ヒドロキシアパタイトは、小さなミクロスフェアとして注射されると、足場として働いて周囲環境と類似の新規組織形成を促進する。真皮などの皮膚内部では、付着したヒドロキシアパタイト粒子が、線維芽細胞内殖および新規コラーゲン形成を支持することが知られている。
【0010】
ヒドロキシアパタイトを注射あるいは手術によらず皮膚内投与するための方策としてマイクロニードルがある。特許文献1には、ホロー型マイクロニードルデバイスを用いて皮膚充填剤組成物を対象の皮膚に送達させるデバイスおよび方法が開示されている。本開示は従来の注射法を小サイズ化したものである。
【0011】
特許文献2には、アプリケータ付きマイクロニードルにヒドロキシアパタイトを装填して皮膚に挿入するデバイスが開示されている。本内容は5ミクロン以上の粒径のヒドロキシアパタイトを複雑な構成のアプリケーターマイクロニードル一体のシステムにより皮内送達を図るものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【文献】国際公開第2008/072229号
【文献】特許6546091号号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明の目的は、皮膚の縮めんじわ、およびたるみじわ等にできた溝部に充填すること、ならびに皮膚に若々しい膨らみを回復させることであり、その目的のため、従来法とはデバイス的にも効果的にもはるかに簡単に実現できる美容ケアシートを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、マイクロニードルの基剤として体内溶解性の物質を選択し、ヒドロキシアパタイトの粒子径を所定の範囲内に調整し、基剤に分散させたマイクロニードルアレイを製造することに成功し、該マイクロニードルアレイを用いて試験を行ったところ、所期の目的を達成することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0015】
本発明は、以下に示す通りである。
〔1〕 水溶性高分子を基剤とし、該基剤中にヒドロキシアパタイト粒子が分散している皮膚適用マイクロニードルアレイ。
〔2〕 水溶性高分子を基剤とし、該基剤中にヒドロキシアパタイト粒子が分散している皮膚適用マイクロニードルアレイからなる、皮膚溝部のケアを目的とする美容シート。
〔3〕 水溶性高分子を基剤とし、該基剤中にヒドロキシアパタイト粒子が分散している皮膚適用マイクロニードルアレイからなる、眉間シワ、ほうれい線のシワ、又は乳房間溝のケアを目的とする美容シート。
〔4〕 ヒドロキシアパタイト粒子の粒径が5μm以下であることを特徴とする、〔1〕に記載のマイクロニードルアレイ又は〔2〕もしくは〔3〕に記載の美容シート。
〔5〕 ヒドロキシアパタイト粒子の粒径が1μm以下であることを特徴とする、〔4〕に記載のマイクロニードルアレイ又は美容シート。
〔6〕 ヒドロキシアパタイト粒子の基剤中の含量が0.0001質量%以上40質量%以下であることを特徴とする、〔1〕~〔5〕のいずれかに記載のマイクロニードルアレイ又は美容シート。
〔7〕 ヒドロキシアパタイトの基剤中の含量が0.001質量%以上30質量%以下であることを特徴とする、〔1〕~〔5〕のいずれかに記載のマイクロニードルアレイ又は美容シート。
〔8〕 マイクロニードルの針サイズが0.1mm以上1.0mm以下であることを特徴とする、〔1〕~〔7〕のいずれかに記載のマイクロニードルアレイ又は美容シート。
〔9〕 水溶性高分子がヒアルロン酸ナトリウム及びその誘導体、コラーゲン、プロテオグリカン、ヒドロキシプロピルセルロース、コンドロイチン硫酸、カルボキシメチルセルロース、ポリビニルピロリドン、ポリエチレングリコール、ポリビニルアルコール(PVA)並びにデキストランからなる群より選ばれる1種または2種以上である、〔1〕~〔8〕のいずれかに記載のマイクロニードルアレイ又は美容シート。
〔10〕 ヒアルロン酸ナトリウム及びその誘導体がPEGグラフト化ヒアルロン酸ナトリウムであり、該PEGグラフト化ヒアルロン酸ナトリウムにヒドロキシアパタイト微粒子が分散している、〔9〕に記載のマイクロニードルアレイ又は美容シート。
〔11〕 前記基剤中にヒドロキシアパタイト微粒子が界面活性剤により分散している、〔1〕~〔10〕のいずれかに記載のマイクロニードルアレイ又は美容シート。
〔12〕 界面活性剤がPOE(20)オレイルエーテルである、〔11〕に記載のマイクロニードルアレイ又は美容シート。
〔13〕 前記マイクロニードルアレイが、厚さが100μm以下の基板であって柔軟な基板部を有する、〔1〕~〔12〕のいずれかに記載のマイクロニードルアレイ又は美容シート。
〔14〕 前記マイクロニードルアレイの基剤が水溶性高分子以外に水溶性低分子化合物を2質量%以上含有する、〔1〕~〔13〕のいずれかに記載のマイクロニードルアレイ又は美容シート。
〔15〕 前記マイクロニードルアレイの背面に疎水性または非溶解フィルムを裏打ちしている、〔1〕~〔14〕のいずれかに記載のマイクロニードルアレイ又は美容シート。
【発明の効果】
【0016】
本発明は、皮膚増大組成物として微粒子状ヒドロキシアパタイト(以下HAP)を含むマイクロニードルアレイに関する。詳細には本発明のマイクロニードルアレイは、5μm以下の微粒子HAPを皮膚内溶解性基剤に均一に分散させた1mm以下の針長さを有するものであり、溶解対象の皮膚の望ましくない縮めんじわ、たるみじわに充填するのに有用である。本発明によれば、マイクロニードルは皮膚内溶解性基剤中のHAP微粒子を、定期的に対象の皮膚の表皮層、真皮層に注入し、それゆえそこで長期間蓄積し、充填及びコラーゲンの増殖効果を誘導し続ける。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明のマイクロニードルアレイの有効性試験での使用期間及び測定スケジュールを示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明のマイクロニードルアレイは、微粒子HAPを皮膚内溶解性基剤に均一に分散させたマイクロニードルアレイであり、基板と基板上の複数のマイクロニードルからなり、水溶性高分子を基剤として一体的に形成されている。
本発明の美容シートは、皮膚溝部のケアを目的とする美容シートであってもよく、眉間シワ、ほうれい線のシワ、又は乳房間溝のケアを目的とする美容シートであってもよい。
【0019】
マイクロニードルアレイ(又は美容シート)の基剤
マイクロニードルアレイの基剤は、水溶性高分子である。このような素材を用い均一にHAPを含有するマイクロニードルアレイを常法により作製すると、HAPはマイクロニードル部のみならず基板部にも含まれることとなる。このようなマイクロニードルアレイであっても、HAPを基板部には含まないマイクロニードルアレイであってもいい。このマイクロニードルアレイを顔の皮膚の外観を改善したい部位に適用すると、マイクロニードル部は表皮内及び真皮内に到達することができ、マイクロニードル基剤の皮膚内溶解により、含まれるHAPの目的部位への送達を可能とする。
【0020】
水溶性高分子としては、ヒアルロン酸ナトリウム及びその誘導体(例、ポリエチレンオキサイドグラフトヒアルロン酸ナトリウム、PEGグラフト化ヒアルロン酸ナトリウムともいう)、コラーゲン、プロテオグリカン、ヒドロキシプロピルセルロース、コンドロイチン硫酸、カルボキシメチルセルロース、ポリビニルピロリドン、ポリエチレングリコール、ポリビニルアルコール(PVA)又はデキストラン等が挙げられ、これらから選ばれる1種又は2種以上を混合して用いてもよい。特に、ヒアルロン酸ナトリウム又はその誘導体が好ましい。
【0021】
ヒアルロン酸は、典型的にはナトリウム塩を使用するが、グリコサミノグリカン(ムコ多糖)の一種であり、N-アセチルグルコサミンとグルクロン酸の二糖単位が連結した構造を有している。ヒアルロン酸としては、例えば、鶏冠、臍帯等から単離される生物由来のヒアルロン酸、乳酸菌、連鎖球菌等により大量生産される培養由来のヒアルロン酸等が挙げられる。生物由来のヒアルロン酸は、その由来となる生物が有するコラーゲンを完全には除去できず、残存するコラーゲンが悪い影響を与える可能性があるので、コラーゲンを含有しない培養由来のヒアルロン酸が好ましい。従って、ヒアルロン酸は培養由来のヒアルロン酸を50質量%以上含んでいるのが好ましい。
【0022】
ヒアルロン酸ナトリウム又はその誘導体から選ばれた水溶性高分子物質を成分として用いてマイクロニードルアレイを作製するに当たっては、これら高分子物質から成形されたマイクロニードルアレイは、重量平均分子量が小さくなると硬くなり適用部位に刺さりやすくなり、逆に重量平均分子量が大きくなると機械的強度が向上し粘り強くなるので、柔軟になり、歯茎等の屈曲に適用しやすくなる傾向がある。本発明目的においては、重量平均分子量は5千~200万が好ましい。
【0023】
マイクロニードルアレイを皮膚に適用する際には、適度な硬度で折れにくいので、重量平均分子量が10万以上の高分子量高分子物質と重量平均分子量が5万以下の低分子量高分子物質の混合物からマイクロニードルアレイを形成してもよい。上記高分子量高分子物質の重量平均分子量は5万以上であればよく、200万以下が好ましい。また、低分子量高分子物質の重量平均分子量は5万以下であればよく、1000以上が好ましい。尚、本発明において、重量平均分子量はゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)によって測定された値である。
【0024】
高分子量高分子物質と低分子量高分子物質を混合する際の比率は、各高分子物質の種類及び重量平均分子量によっても異なるので、好ましい機械的強度及び硬さになるように適宜決定されればよいが、一般に、高分子量高分子物質1質量%以上、低分子量高分子物質99質量%以下であることが好ましい。
PEGグラフト化ヒアルロン酸ナトリウムは、国際公開第2017-010518号に記載されており、本発明においても好適に使用することができる。
【0025】
マイクロニードルの皮膚内溶解を促進するために、上記高分子物質に可溶解剤を添加してもよい。可溶解剤としては、トレハロース、グルコースなどの単糖、二糖類、グリセリン、プロピレングリコール(PG)、ブチレングリコール(BG)、ポリエチレングリコール(PEG)など多価アルコールなどが挙げられる。可溶解剤の添加量は、基剤中の濃度として1質量%以上50質量%以下が望ましい。
【0026】
マイクロニードルアレイの基剤は、水溶性高分子以外に水溶性低分子化合物を含有することができる。水溶性低分子化合物としては、上記した可溶解性剤として使用される単糖、二糖類、多価アルコールであって、分子量が500以下の化合物である。単糖としては、グルコース、フルクトース等が挙げられ、二糖類としては、シュクロース、ラクトース、トレハロース、マルトース等が挙げられる。多価アルコールとしては、グリセリン、プロピレングリコール(PG)、ブチレングリコール(BG)、ポリエチレングリコール(PEG)200、PEG400等が挙げられる。
水溶性低分子化合物の添加量は、基剤中の濃度として0.1質量%以上50質量%以下であり、好ましくは0.5質量%以上40質量%以下であり、より好ましくは1質量%以上30質量%以下である。
【0027】
HAPを水溶性基剤中に均一分散させるため、界面活性剤を添加してもよい。界面活性剤としては、
ノニオン系界面活性剤が好ましい。特に水溶性界面活性剤がより好ましい。添加量はHAPの質量に対して1:0.001~1:100である。本発明のマイクロニードル用塗布液の界面活性剤としては、ポリソルベート80、ポリソルベート40、ポリソルベート20、等ポリオキシエチレンソルビタンモノ高級脂肪酸エステル、ポリオキスエチレン(5)セチルエーテル、ポリオキシエチレン(20)セチルエーテル, 等のポリオキシエチレンアルキルエーテル、又はこれらの混合物を好適に用いることができる。
【0028】
マイクロニードルアレイの形状
マイクロニードルの高さは、50μm以上1,000μm以下であることが望ましく、100μm以上250μm以下がより好ましい。50μm未満では、局所麻酔剤の送達に不利である。1,000μmを超えると、適用時に痛みや出血を伴うことがある。
【0029】
マイクロニードルの先端は、直径1μm以上であり直径50μm以下の円形あるいはそれと同面積を有する平面であることが望ましい。この範囲内であると、マイクロニードルの皮膚内送達に有利である。針形状は、棒状、円錐台形状又はコニーデが挙げられ、円錐台又はコニーデ形状が望ましい。
【0030】
マイクロニードルアレイの基板の厚さは5μm以上100μm以下であることが望ましく、10μm以上60μm以下がより好ましい。
【0031】
マイクロニードルアレイの基板の形状は、適用部位に応じて適宜設定することができ、円形、楕円形、三角形、四角形、多角形等が挙げられる。形状の大きさは、直径(長径)又は一辺(長辺)の長さで代表して表すと、通常2mm以上200mm以下であり、5mm以上100mm以下が好ましい。また、マイクロニードルアレイの大きさを面積で表すと、通常5mm以上2000mm以下であり、10mm以上1000mm以下が好ましい。
【0032】
HAP
本発明のマイクロニードルアレイに含まれる有効成分は、HAPである。皮膚内に送達されたHAP粒子が、線維芽細胞内殖および新規コラーゲン形成を促進する。コラーゲン形成促進はHAP粒子表面から反応するから、HAPのコラーゲン形成促進さらにはシワの低減効果は同一量のHAPを皮膚内に送達してもその粒径によって異なる。即ち粒径が小さいことが望ましい。本発明のHAPの粒径は5μm以下が望ましく、2μm以下がより望ましく、1μm以下がさらに望ましい。粒径が5μm以上であればコラーゲン形成効果があるとはいえ同一重量当たりの表面積が小さくそれゆえコラーゲン形成効果も小さい。またマイクロニードルの先端部の直径は1μmあるいはそれ以上の円形平面であるのでHAPの粒径が5μm以上であると針の形成にも不利である。
【0033】
上記HAPの外に、医薬品、化粧品として通常含まれる添加剤を含んでいてもよい。本発明のマイクロニードルアレイに含まれる添加剤の濃度は、添加剤の種類及び添加目的等に応じて、適切な範囲に設定することができる。
【0034】
HAPの基剤中の濃度は、0.0001質量%以上40質量%以下であり、0.001質量%以上30質量%以下がより好ましい。ここで、HAPの基剤中の濃度とは、マイクロニードルアレイの総重量中の質量である。HAPの基剤中の濃度が0.0001質量%以下であれば皮膚抗シワ効果が発揮しにくく、40質量%以上であればマイクロニードルがもろくなり皮膚挿入に困難を生じがちとなる。
【0035】
本発明のマイクロニードルアレイの製造方法は、特に限定されず、従来公知の任意の方法で製造されればよく、例えば、マイクロニードルの形状が穿設された型に、上記水溶性高分子及びHAP、必要に応じてその他の成分を含む水溶液を流延し、乾燥した後剥離する方法が挙げられる。剥離したマイクロニードルアレイシートは、皮膚の適用部位の形状に則して裁断して用いる。
【0036】
本発明のマイクロニードルアレイは、下記マイクロニードルパッチとして使用するのが便利である。
【0037】
マイクロニードルパッチ
本発明のマイクロニードルパッチは、前記マイクロニードルアレイと、該マイクロニードルアレイの背面に備えられた支持体とからなる。ここで、マイクロニードルアレイの背面とは、マイクロニードルが突出している面とは反対側の基板部である。支持体は必須ではないが、支持体があれば扱いやすく、貼付部位から滑ることを防止することができる。マイクロニードルアレイの背面に疎水性または非溶解フィルムを支持体として裏打ちしたマイクロニードルパッチは、化粧用抗シワ製剤の一実施形態である。
マイクロニードルパッチを皮膚に貼付しその背面から水又は化粧水、乳液、美容液など液体により迅速溶解も可能である。
【0038】
本発明における製剤剤形は様々な様態が可能である。それらを順次説明する。
1.上記マイクロニードルアレイの製造方法によって製造された乾燥したマイクロニードルアレイの背面に、高分子フィルムが支持体として裏打ちされたマイクロニードルパッチ。本製剤は、高分子フィルムとマイクロニードルアレイの背面に接着剤もしくは粘着剤により一体化されている。マイクロニードルアレイと高分子フィルムとのサイズは高分子フィルムがより大きくフィルム面に皮膚接着性を有するような処理をしてもよい。高分子フィルムは多孔性あるいは織り布、のような水透過性であっても良い。典型的には、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、エチレン酢酸ビニルコポリマー(EVA)等のプラスチックシート又はフィルム;滅菌紙、セロハン、不織布、織布等の紙シート等が挙げられる。
【0039】
支持体の大きさは、マイクロニードルアレイの皮膚での密着力を背面から補強するため、マイクロニードルアレイより大きいことが好ましい。支持体は、適用部位に応じて、取り扱い易い大きさと形状に設定することができ、例えば、マイクロニードルアレイの外縁から3~20mm程度大きくすることが適当である。支持体の厚さは、マイクロニードルアレイ基板の厚さと同等であっても、それよりも厚くても薄くてもよく、柔軟で薄いマイクロニードルアレイを支持することができ、かつ、取り扱い易い厚さに適宜設定することができる。
【0040】
支持体は、マイクロニードルアレイの皮膚での密着力を背面から補強するために、皮膚粘着性を有することが望ましい。
【0041】
支持体の皮膚粘着性を確保するための1つの態様として、支持体に粘着性物質がコーティングされている、すなわち、粘着剤を塗布した支持体が挙げられる。ここで、粘着性物質としては、パッチ製剤に通常使用される粘着剤が挙げられ、例えば、アクリル系、シリコン系、ゴム系粘着剤の湿潤面接着性があるグレードが好ましい。
【0042】
本発明のマイクロニードルパッチは、前記マイクロニードルアレイの背面を支持体で覆うことにより、製造することができる。
【実施例
【0043】
以下に実施例を例示して本発明を説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。
【0044】
実施例1
ヒドロキシアパタイト(平均粒径=2μm)を2.5質量部(和研薬(株)より購入)、ヒアルロン酸ナトリウム50質量部(FCH-SU、キッコーマン)を計り、水を加えて10質量%固形分になる溶液を調製した。その水溶液を針長さ200μmのコニーデ型、マイクロニードル基板直径10mmの鋳型に流して、室温において24時間乾燥し、型抜きし、マイクロニードルアレイを製造した。その後、アレイの背面にポリエチレン(PE)粘着フィルムを接着させた(マイクロニードル基板厚さ=40~50μm、支持体厚さ=40~60μm)。
【0045】
実施例2~7、比較例1~3
表2に記載の基剤及びヒドロキシアパタイトを含むマイクロニードル製剤を、実施例1に記載の方法に準じて製造した。
比較例として、ゲル軟膏(比較例2)の製剤を表1の組成に基づいて製造した。
【0046】
試験例1
有効性試験の概要
1)試料
実施例1、2及び比較例1、2、3
2)貼付部位
パネラーの両目じり下
3)使用方法
洗顔後、基礎化粧品で顔を整えた後に、顔の水分や油分が残っていないのを確認した後、就寝前に各部位に貼付し、翌朝はがした。
4)貼付頻度
各試料は、1日おきに4週間使用。その後、使用を中止し効果の持続性を確認するため、開始より8週間後に肌の測定を行った。
5)パネラー数
4名
6)測定項目
目元シワのレプリカ解析(面積)
7)測定時期・スケジュール
図1に概要を示す。
【0047】
<測定方法>
三次元画像解析システムPrimos・lite 4530 (GFMesstechnik GmbH社)で目元付近のシワの解析を行った。
シワ部の面積%を画像解析した。結果を表1に示す。
【0048】
【表1】
【0049】
比較例1,参考例1において使用4週間でシワ低減効果が認められたのは、HAPの効果ではなくヒアルロン酸によると思われる。実施例1、2より、HAPの効果は中止後2週間経過しても持続することから判断される。
【0050】
試験例2
マイクロニードル成型用基剤溶液(5~10質量%水溶性高分子水溶液)中HAPを添加し、高速攪拌を行い、15分静置後HAPの沈殿の有無により基剤溶液中のHAP分散性を確認した。成形できたマイクロニードルパッチ中ニードルが正常に成形できた数を数え成形率を求めた。さらにパッチの脆さ(靭性が十分であるかどうか、具体的にはパッチを90度曲げて折れるかどうかで評価)を確認した。結果を表2に示す。
【0051】
【表2】
【0052】
表2より、実施例3~7に示すようにマイクロニードル成型性は良好でありかつ靭性も十分である。参考例から、HAPの粒径が大きすぎるとHAP含有マイクロニードルの成型が不可能であり、また小粒径であっても含量が多いともろくなることが分かる。

図1