(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-13
(45)【発行日】2024-09-25
(54)【発明の名称】化粧料用粉末材料、化粧料用粉末材料の製造方法、及び化粧料
(51)【国際特許分類】
A61K 8/19 20060101AFI20240917BHJP
A61K 8/73 20060101ALI20240917BHJP
A61Q 15/00 20060101ALI20240917BHJP
【FI】
A61K8/19
A61K8/73
A61Q15/00
(21)【出願番号】P 2020185664
(22)【出願日】2020-11-06
【審査請求日】2023-08-04
(31)【優先権主張番号】P 2019220666
(32)【優先日】2019-12-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】391015373
【氏名又は名称】大東化成工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100141586
【氏名又は名称】沖中 仁
(72)【発明者】
【氏名】土屋 玲一郎
(72)【発明者】
【氏名】長谷 昇
(72)【発明者】
【氏名】後藤 武弘
【審査官】上坊寺 宏枝
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-178721(JP,A)
【文献】特開2017-190289(JP,A)
【文献】特開2006-232674(JP,A)
【文献】特開昭57-081407(JP,A)
【文献】特開平06-136679(JP,A)
【文献】福本和広 他,メソポーラスシリカによるトリメチルアミンの吸着,化学工学論文集,第38巻,第4号,2012年,p.221-225,https://doi.org/10.1252/kakoronbunshu.38.221
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 8/00-8/99
A61Q 1/00-90/00
Mintel GNPD
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水酸化マグネシウムと、
粉体である非水溶性多糖類とを含有
し、
水酸化マグネシウムは、前記非水溶性多糖類の表面に析出してあり、
前記非水溶性多糖類は、セルロース及び/又はデンプン化合物であり、
水酸化マグネシウムの含有量と、前記非水溶性多糖類の含有量との比率は、重量比で5:95~30:70である化粧料用粉末材料。
【請求項2】
シリカをさらに含有する
請求項1に記載の化粧料用粉末材料。
【請求項3】
前記シリカは、非晶質の多孔質シリカである
請求項2に記載の化粧料用粉末材料。
【請求項4】
水酸化マグネシウム及び前記非水溶性多糖類の合計の含有量と、シリカの含有量との比率は、重量比で50:50~90:10である
請求項2又は3に記載の化粧料用粉末材料。
【請求項5】
イソ吉草酸及び/又はジアセチルに対して消臭性能を有する
請求項1~4の何れか一項に記載の化粧料用粉末材料。
【請求項6】
化粧料用粉末材料の製造方法であって、
マグネシウム塩を含む水溶液に、非水溶性多糖類の粉体を分散させる分散工程と、
前記分散工程で得た液に、pH値が10~11になるようにアルカリを添加し、前記粉体を基材として水酸化マグネシウムを析出させる析出工程と、
水酸化マグネシウムが析出した粉体を濾別し、乾燥させる乾燥工程と、
を包含
し、
前記非水溶性多糖類は、セルロース及び/又はデンプン化合物であり、
前記分散工程において、水酸化マグネシウムの含有量と、前記非水溶性多糖類の含有量との比率が重量比で5:95~30:70となるように、前記水溶液に前記粉体を分散させる化粧料用粉末材料の製造方法。
【請求項7】
請求項1~5の何れか一項に記載の化粧料用粉末材料を配合した化粧料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ボディー化粧料、基礎化粧料等の原材料となる化粧料用粉末材料、化粧料用粉末材料の製造方法、及び当該化粧料用粉末材料を配合した化粧料に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ボディーパウダー、ベビーパウダー等のボディー化粧料や、乳液、クリーム等の基礎化粧料に配合される化粧料用粉末材料には、汗臭、腋臭、足臭等の体臭を消臭するデオドラント効果が付与されたものがある。
【0003】
例えば、酸化亜鉛、セルロース粉末、及び多糖類からなる複合粒子がある(例えば、特許文献1を参照)。特許文献1の複合粒子に用いられている酸化亜鉛は、臭気物質である低級脂肪酸を金属塩に変換することによって消臭する作用を有する。
【0004】
また、ダイアトマイト、及びセルロース粉末を含む複合粉体がある(例えば、特許文献2を参照)。特許文献2の複合粉体に用いられているダイアトマイトは、臭気物質を吸着することによって消臭する作用を有する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2006-232674号公報
【文献】特開2017-190289号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1の複合粒子に用いられている酸化亜鉛は、肌への刺激が大きいという問題がある。また、特許文献2の複合粉体に用いられているダイアトマイトは、酸化亜鉛よりも肌への刺激性は小さいが、化粧料においてはさらに刺激性を抑制することが望まれる。
【0007】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであり、優れたデオドラント効果を有し、肌への刺激性を抑制した化粧料用粉末材料、化粧料用粉末材料の製造方法、及び当該化粧料用粉末材料を配合した化粧料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するための本発明に係る化粧料用粉末材料の特徴構成は、
水酸化マグネシウムと、非水溶性多糖類とを含有することにある。
【0009】
本構成の化粧料用粉末材料によれば、水酸化マグネシウムと、非水溶性多糖類とを含有することにより、水酸化マグネシウムが臭気物質を金属塩に変換することによる化学的消臭機能と、非水溶性多糖類が臭気物質を吸着することによる物理的消臭機能との相乗効果により、優れたデオドラント効果を奏することができる。水酸化マグネシウムは、特許文献1の複合粒子に用いられている酸化亜鉛、及び特許文献2の複合粉体に用いられているダイアトマイトと比較して肌への刺激性が小さいため、本構成の化粧料用粉末材料を化粧料に配合すると、肌への刺激性を抑制することができる。さらに、非水溶性多糖類に由来する吸油性によって皮脂等が吸着され、肌に塗布したときの使用感(しっとり感、のびの良さ等)が優れたものとなる。
【0010】
本発明に係る化粧料用粉末材料において、
前記非水溶性多糖類は、セルロース及び/又はデンプン化合物であることが好ましい。
【0011】
本構成の化粧料用粉末材料によれば、非水溶性多糖類がセルロース及び/又はデンプン化合物であることにより、肌に塗布したときの使用感がより優れたものとなる。また、セルロース、及びデンプン化合物は天然由来の素材であり、肌への刺激性をさらに抑制することができる。
【0012】
本発明に係る化粧料用粉末材料において、
水酸化マグネシウムの含有量と、前記非水溶性多糖類の含有量との比率は、重量比で5:95~30:70であることが好ましい。
【0013】
本構成の化粧料用粉末材料によれば、水酸化マグネシウムの含有量と、非水溶性多糖類の含有量との比率が、重量比で5:95~30:70であることにより、水酸化マグネシウムの化学的消臭機能と、非水溶性多糖類の物理的消臭機能との相乗効果が向上し、より優れたデオドラント効果を奏することができる。
【0014】
本発明に係る化粧料用粉末材料において、
シリカをさらに含有することが好ましい。
【0015】
本構成の化粧料用粉末材料によれば、シリカをさらに含有することにより、シリカの表面の水酸基が臭気物質と水素結合することができるため、例えば、トリメチルアミン等のアミン類に対して、化学的消臭による優れたデオドラント効果を発揮することができる。
【0016】
本発明に係る化粧料用粉末材料において、
前記シリカは、非晶質の多孔質シリカであることが好ましい。
【0017】
本構成の化粧料用粉末材料によれば、非晶質の多孔質シリカを使用することで、臭気物質との接触性が高まるため、化学的消臭に加えて物理的消臭によるデオドラント効果も発揮することができ、相乗効果が得られる。
【0018】
本発明に係る化粧料用粉末材料において、
水酸化マグネシウム及び前記非水溶性多糖類の合計の含有量と、シリカの含有量との比率は、重量比で50:50~90:10であることが好ましい。
【0019】
本構成の化粧料用粉末材料によれば、水酸化マグネシウム及び非水溶性多糖類の合計の含有量と、シリカの含有量との比率が、重量比で50:50~90:10であることにより、非水溶性多糖類に由来する使用感の良さを損なうことなく、物理的消臭機能を向上させることができる。
【0020】
本発明に係る化粧料用粉末材料において、
イソ吉草酸及び/又はジアセチルに対して消臭性能を有することが好ましい。
【0021】
本構成の化粧料用粉末材料によれば、イソ吉草酸及び/又はジアセチルに対して消臭性能を有するものとすることで、不快な汗臭やミドル臭(加齢臭)に対して優れたデオドラント効果を奏することができる。
【0022】
上記課題を解決するための本発明に係る化粧料用粉末材料の製造方法の特徴構成は、
化粧料用粉末材料の製造方法であって、
マグネシウム塩を含む水溶液に、非水溶性多糖類の粉体を分散させる分散工程と、
前記分散工程で得た液に、pH値が10~11になるようにアルカリを添加し、前記粉体を基材として水酸化マグネシウムを析出させる析出工程と、
水酸化マグネシウムが析出した粉体を濾別し、乾燥させる乾燥工程と、
を包含することにある。
【0023】
本構成の化粧料用粉末材料の製造方法によれば、非水溶性多糖類の粉体が分散した分散液に、pH値が10~11になるようにアルカリを添加すると、粉体が基材となってその表面に水酸化マグネシウムが析出するため、これを乾燥させることで、非水溶性多糖類の粉体の表面が水酸化マグネシウムで少なくとも部分的に覆われた化粧料用粉末材料を得ることができる。この化粧料用粉末材料は、水酸化マグネシウムが臭気物質を金属塩に変換することによる化学的消臭機能と、非水溶性多糖類が臭気物質を吸着することによる物理的消臭機能との相乗効果により、優れたデオドラント効果を奏することができる。また、本構成の化粧料用粉末材料の製造方法により製造された化粧料用粉末材料を化粧料に配合すると、肌への刺激性を抑制することができる。さらに、非水溶性多糖類に由来する吸油性によって皮脂等が吸着され、肌に塗布したときの使用感(しっとり感、のびの良さ等)が優れたものとなる。
【0024】
上記課題を解決するための本発明に係る化粧料の特徴構成は、
上述の化粧料用粉末材料を配合したことにある。
【0025】
本構成の化粧料は、上述の化粧料用粉末材料を配合したことにより、肌への刺激性を抑制しながら、デオドラント効果に優れ、肌に触れる化粧料として好適な製品となる。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の化粧料用粉末材料、化粧料用粉末材料の製造方法、及び化粧料について、詳細に説明する。ただし、本発明は、以下に説明する実施形態及び実施例に限定されることを意図するものではない。
【0027】
〔化粧料用粉末材料〕
本発明の化粧料用粉末材料は、肌に触れる化粧料の原材料として使用可能なものであり、水酸化マグネシウムと、非水溶性多糖類とを含有するものである。ただし、本発明の化粧料用粉末材料は、これら以外の成分を含むことを排除するものではない。
【0028】
<水酸化マグネシウム>
水酸化マグネシウムは、汗臭等の原因物質とされる低級脂肪酸、特にイソ吉草酸との金属塩を形成することによる化学的消臭機能を有する。本発明の化粧料用粉末材料において水酸化マグネシウムは、基材となる非水溶性多糖類の粉体表面を少なくとも部分的に被覆するように付着している。これにより、本発明の化粧料用粉末材料は、水酸化マグネシウムと、非水溶性多糖類との複合粉体として構成されている。
【0029】
<非水溶性多糖類>
本発明の化粧料用粉末材料の基材となる非水溶性多糖類としては、セルロース及び/又はデンプン化合物を用いることが好ましく、セルロースを用いることがより好ましい。セルロースとしては、結晶セルロース、セルロース粉末等が挙げられ、デンプン化合物としては、デンプン、米粉、コーンスターチ、デキストリン等が挙げられる。これらのセルロース、及びデンプン化合物は、単独又は混合して使用することができる。非水溶性多糖類の粉体は、ミドル臭(加齢臭)の原因物質とされるジアセチルを吸着することによる物理的消臭機能を有する。非水溶性多糖類の中でもセルロースやデンプン化合物を基材とすることにより、本発明の化粧料用粉末材料は、肌に塗布したときの使用感(しっとり感、のびの良さ等)が優れたものとなる。さらに、天然由来の素材であるセルロース、及びデンプン化合物は、肌への刺激性を抑制することができる。非水溶性多糖類は、本発明の化粧料用粉末材料の基材となる粉体であり、平均粒子径1~50μmであることが好ましい。
【0030】
本発明の化粧料用粉末材料における水酸化マグネシウムの含有量と、非水溶性多糖類の含有量との比率は、重量比で5:95~30:70であることが好ましい。比率が上記の範囲にあれば、水酸化マグネシウムの化学的消臭機能と、非水溶性多糖類の物理的消臭機能との相乗効果が向上し、汗臭、ミドル臭(加齢臭)等の幅広い体臭に対して優れたデオドラント効果を奏することができる。比率が上記の範囲から外れると、水酸化マグネシウムの化学的消臭機能と、非水溶性多糖類の物理的消臭機能との一方に機能が偏り、これらの相乗効果が十分に発揮されない虞がある。
【0031】
本発明の化粧料用粉末材料は、臭気物質に対する消臭機能を向上させるために、シリカをさらに含有してもよい。シリカとしては、臭気物質との接触性を高めるために、湿式法のゲル法等により得られる非晶質の多孔質シリカを用いることが好ましい。シリカは、表面に形成される水酸基が臭気物質と水素結合することができるため、例えば、トリメチルアミン等のアミン類に対して、化学的消臭による優れたデオドラント効果を発揮することができる。また、非晶質の多孔質シリカを使用することで、臭気物質との接触性が高まるため、化学的消臭に加えて物理的消臭によるデオドラント効果も発揮することができ、相乗効果が得られる。本発明の化粧料用粉末材料における水酸化マグネシウム及び非水溶性多糖類の合計の含有量と、シリカの含有量との比率は、重量比で50:50~90:10であることが好ましい。比率が上記の範囲にあれば、アミン類に対する優れた消臭機能を付与することができる。比率が、上記の範囲よりもシリカの含有量が少ない側に外れると、アミン類に対する消臭機能を十分に付与できない虞がある。比率が、上記の範囲よりもシリカの含有量が多い側に外れると、肌に塗布したときの使用感が劣ったものとなる虞がある。
【0032】
<イソ吉草酸に対する消臭性能>
本発明の化粧料用粉末材料を用いたイソ吉草酸に対する消臭性能は、下記の手順により測定することができる。先ず、スタンダード溶液として3重量%イソ吉草酸水溶液を調製し、測定用のバイアル瓶に1mLを分注する。さらに、バイアル瓶中のスタンダード溶液に本発明の化粧料用粉末材料100mgを添加し、密栓して振蕩により混合する。混合後すぐにバイアル瓶中の気相を採取して、気相でのイソ吉草酸濃度をガスクロマトグラフィーにより分析する。得られた分析値に基づき、スタンダード溶液のみ分注したバイアル瓶の気相でのイソ吉草酸濃度C1(mg/m3)に対する化粧料用粉末材料を添加したバイアル瓶の気相でのイソ吉草酸濃度C2(mg/m3)の残存率を、以下の式(1):
残存率(%) = C2/C1 × 100 ・・・(1)
により算出する。
上記の式(1)から求められるイソ吉草酸の残存率は、30%以下であることが好ましい。イソ吉草酸の残存率が30%以下であれば、イソ吉草酸が原因物質の一つである汗臭等に対する優れたデオドラント効果を奏することができる。イソ吉草酸の残存率が30%を超えると、汗臭等に対するデオドラント効果が不十分なものとなる虞がある。
【0033】
<ジアセチルに対する消臭性能>
本発明の化粧料用粉末材料を用いたジアセチルに対する消臭性能は、上記の式(1)において、C1をスタンダード溶液のみ分注したバイアル瓶の気相でのジアセチル濃度とし、C2を化粧料用粉末材料を添加したバイアル瓶の気相でのジアセチル濃度とし、スタンダード溶液として0.1重量%ジアセチル水溶液を用いて、同様の手順により測定することができる。この場合、ジアセチルの残存率は、40%以下であることが好ましい。ジアセチルの残存率が40%以下であれば、ジアセチルが原因物質の一つであるミドル臭(加齢臭)等に対する優れたデオドラント効果を奏することができる。ジアセチルの残存率が40%を超えると、ミドル臭(加齢臭)等に対するデオドラント効果が不十分なものとなる虞がある。
【0034】
<トリメチルアミンに対する消臭性能>
本発明の化粧料用粉末材料を用いたトリメチルアミンに対する消臭性能は、上記の式(1)において、C1をスタンダード溶液のみ分注したバイアル瓶の気相でのトリメチルアミン濃度とし、C2を化粧料用粉末材料を添加したバイアル瓶の気相でのトリメチルアミン濃度とし、スタンダード溶液として0.1重量%トリメチルアミン水溶液を用いて、同様の手順により測定することができる。この場合、トリメチルアミンの残存率は、30%以下であることが好ましい。トリメチルアミンの残存率が30%以下であれば、臭気物質であるトリメチルアミンに対する優れたデオドラント効果を奏することができる。トリメチルアミンの残存率が30%を超えると、トリメチルアミンに対するデオドラント効果が不十分なものとなる虞がある。
【0035】
本発明の化粧料用粉末材料は、比表面積が、10.0~13m2/gであることが好ましい。比表面積が上記の範囲にあれば、水酸化マグネシウム、及び非水溶性多糖類が臭気物質と効率的に接触することで、それらの消臭機能が適切に発揮される。比表面積が10.0m2/g未満であると、消臭機能が十分に発揮されない虞がある。比表面積が13m2/gを超えると、化粧料用粉末材料が脆くなり複合粉体としての構造を維持できない虞がある。
【0036】
本発明の化粧料用粉末材料は、100mgあたりの吸油量が、130~160mLであることが好ましい。吸油量が上記の範囲にあれば、皮脂等を吸着する機能が効果的に発揮される。吸油量が130mL未満であると、皮脂等を吸着する機能が発揮されず、デオドラント効果の持続性が劣ったものとなる虞がある。吸着量が160mLを超えると、皮脂を過剰に吸着することで使用感が劣ったものとなる虞がある。
【0037】
〔化粧料用粉末材料の製造方法〕
本発明の化粧料用粉末材料は、下記(I)~(III)の工程を実施することで製造することができる。
【0038】
(I)分散工程
分散工程では、マグネシウム塩を含む水溶液に、セルロース、デンプン化合物等の非水溶性多糖類の粉体を分散させ、スラリーを調製する。非水溶性多糖類の平均粒子径は、1~50μmであることが好ましい。マグネシウム塩は、20℃における溶解度が40g/100cm3以上であるものが好ましい。このようなマグネシウム塩としては、塩化マグネシウム(溶解度:54.6g/100cm3)、過塩素酸マグネシウム(溶解度:49.6g/100cm3)、酢酸マグネシウム(溶解度:53.4g/100cm3)、臭化マグネシウム(溶解度:101.0g/100cm3)、及び硝酸マグネシウム(溶解度:69.5g/100cm3)等が挙げられるが、取扱いの容易さから塩化マグネシウムが好ましい。水溶液のpH値は、7以上であることが好ましい。pH値が7以上であれば、後述の析出工程において容易に水酸化マグネシウムを析出させることができる。pH値が7未満であると、析出工程において必要となるアルカリの量が多くなり、経済的なデメリットとなる虞がある。溶媒としては、水が好ましく、中でも精製水、イオン交換水、水道水等の不純物が少ない水がより好ましい。また、水にアルコール等の水と親和性のある有機溶媒を混合してもよい。水溶液への非水溶性多糖類の粉体の分散方法としては、スラリーの粘度などに応じて適当な方法を選択することができる。好適な例としては、ディスパー、ヘンシェルミキサー、レディゲミキサー、ニーダー、V型混合機、ロールミル、ビーズミル、2軸混練機等の混合機による方法が挙げられる。
【0039】
(II)析出工程
析出工程では、分散工程で得た液に、pH値が10~11になるまでアルカリを添加する。アルカリは、pH値を好適に調整するために、水溶液として添加することが好ましい。アルカリとしては、例えば、水酸化ナトリウムを用いることができる。アルカリの添加によりpH値が10~11になると、非水溶性多糖類の粉体を基材として水酸化マグネシウムが析出する。これにより、非水溶性多糖類の粉体表面を水酸化マグネシウムが少なくとも部分的に被覆した複合粉体が、水中に分散したスラリーが得られる。
【0040】
(III)乾燥工程
乾燥工程では、非水溶性多糖類の粉体表面に水酸化マグネシウムが析出した複合粉体を濾別し、乾燥させる。これにより、本発明の化粧料用粉末材料が得られる。なお、濾別の前には、デカンテーションにより複合粉体をよく洗浄することが好ましい。複合粉体を乾燥させるときの温度は、60~130℃であることが好ましい。乾燥温度が上記の範囲にあれば、水酸化マグネシウムの水酸基が脱水して酸化マグネシウムに変化することがなく、水酸化マグネシウムと非水溶性多糖類の粉体との複合体を得ることができる。また、乾燥後には、粉砕処理を施すことが好ましい。乾燥後に粉砕を行う場合においては、ハンマーミル、ボールミル、サンドミル、ジェットミル等の通常の粉砕機を用いることができる。何れの粉砕機によっても同等の品質のものが得られるため、特に限定されるものではない。
【0041】
以上のように、(I)~(III)の工程を実施することで得られる化粧料用粉末材料は、基材となる非水溶性多糖類の粉体表面を、水酸化マグネシウムが少なくとも部分的に被覆するように付着したものとなる。なお、本発明の化粧料用粉末材料の製造方法では、(I)~(III)の工程の実施後に、シリカを複合化させる工程を実施してもよい。この工程では、(I)~(III)の工程を順に実施することで得られた粉体にシリカを加え、ハンマーミル等を用いて均一になるまで混合することが好ましい。
【0042】
〔化粧料〕
本発明の化粧料は、上述した化粧料用粉末材料を配合したものである。化粧料用粉末材料の配合量は特に限定されないが、好ましくは0.1~95重量%である。上述した化粧料用粉末材料を配合することによって、肌へ塗布する時の感触(しっとり感とのびの良さの両立)、付着性が良いものでありながら、優れたデオドラント効果を奏するものとなる。化粧料の剤型としては、ボディーパウダー、及びベビーパウダー等のボディー化粧料、並びに乳液、及びクリーム等の基礎化粧料等の肌に触れる化粧料とすることができる。
【0043】
さらに、本発明の化粧料には通常化粧料に用いられる成分、例えば、粉体、界面活性剤、油剤、ゲル化剤、高分子、美容成分、保湿剤、色素、防腐剤、香料等を本発明の効果を損なわない範囲で使用することができる。
【0044】
本発明の化粧料の形態としては、パウダー状、乳液状、クリーム状、スティック状、固形状、スプレー、多層分離型など何れの剤型を用いても構わない。
【実施例】
【0045】
本発明の化粧料用粉末材料(実施例1~3)を作製し、イソ吉草酸吸着試験、ジアセチル吸着試験、及びトリメチルアミン吸着試験を実施した。また、比較のため、本発明の範囲外となる化粧料用粉末材料(比較例1~3、参考例1)を作製し、同様の評価を実施した。なお、イソ吉草酸は、汗臭の原因物質の一つである。ジアセチルは、ミドル臭(加齢臭)の原因物質の一つである。トリメチルアミンは、魚の腐敗臭の原因物質の一つである。
【0046】
〔実施例1〕
イオン交換水1000gに塩化マグネシウム六水和物34.9gを添加し、完全に溶解させて塩化マグネシウム水溶液を調製した。次に、塩化マグネシウム水溶液に、セルロース粉末90gを添加し、均一になるまで混合してスラリーとした。このスラリーに5重量%水酸化ナトリウム水溶液を添加してpH値を10.3に調整することにより、セルロース粉末を核に水酸化マグネシウムを析出させた。デカンテーションにより、粉末をよく洗浄した後に濾別し、105℃で乾燥させて乾燥粉体を得た。得られた乾燥粉体をハンマーミルで粉砕することにより、実施例1の化粧料用粉末材料を得た。実施例1の化粧料用粉末材料は、水酸化マグネシウムの含有量と、セルロースの含有量との比率が、重量比で10:90であった。
【0047】
〔実施例2〕
実施例1の化粧料用粉末材料に、シリカ粉末(ゾル-ゲル法により得られた非晶質の多孔質シリカ)25.0gを加え、ハンマーミルを用いて均一になるまで混合することにより、実施例2の化粧料用粉末材料を得た。実施例2の化粧料用粉末材料は、水酸化マグネシウムの含有量と、セルロースの含有量との比率が、重量比で10:90であった。水酸化マグネシウム及びセルロースの合計の含有量と、シリカの含有量との比率は、重量比で80:20であった。
【0048】
〔実施例3〕
実施例1の化粧料用粉末材料において、セルロース粉末に替えて、デンプン粉末を用いた。それ以外は、実施例1と同様とし、実施例3の化粧料用粉末材料を得た。実施例3の化粧料用粉末材料は、水酸化マグネシウムの含有量と、デンプンの含有量との比率が、重量比で10:90であった。
【0049】
〔比較例1〕
セルロース粉末を比較例1の化粧料用粉末材料とした。比較例1の化粧料用粉末材料は、水酸化マグネシウムを含有しない。
【0050】
〔比較例2〕
タルク粉末を比較例2の化粧料用粉末材料とした。比較例2の化粧料用粉末材料は、水酸化マグネシウムを含有しない。
【0051】
〔比較例3〕
デンプン粉末を比較例3の化粧料用粉末材料とした。比較例3の化粧料用粉末材料は、水酸化マグネシウムを含有しない。
【0052】
〔参考例1〕
実施例1の化粧料用粉末材料において、セルロース粉末に替えて、タルク粉末を用いた。それ以外は実施例1と同様とし、参考例1の化粧料用粉末材料を得た。参考例1の化粧料用粉末材料は、水酸化マグネシウムの含有量と、タルクの含有量との比率が、重量比で10:90であった。
【0053】
<イソ吉草酸吸着試験>
上述の「イソ吉草酸に対する消臭性能」において説明した手順で、実施例1~3、比較例1~3、並びに参考例1の化粧料用粉末材料についてイソ吉草酸吸着試験を実施し、イソ吉草酸の残存率を測定した。試験結果を表1に示す。
【0054】
【0055】
試験の結果、実施例1~3の化粧料用粉末材料では、気相中にイソ吉草酸濃度が減少し、イソ吉草酸に対する優れたデオドラント効果を奏することが確認された。
【0056】
一方、比較例1~3の化粧料用粉末材料では、気相中のイソ吉草酸濃度に変化はなかった。このことから、実施例1~3の化粧料用粉末材料におけるイソ吉草酸に対するデオドラント効果は、水酸化マグネシウムに由来すると考えられる。
【0057】
<ジアセチル吸着試験>
上述の「ジアセチルに対する消臭性能」において説明した手順で、実施例1~3、比較例1~3、並びに参考例1の化粧料用粉末材料についてジアセチル吸着試験を実施し、ジアセチルの残存率を測定した。試験結果を表2に示す。
【0058】
【0059】
試験の結果、実施例1~3の化粧料用粉末材料では、気相中のジアセチル濃度が減少し、ジアセチルに対する優れたデオドラント効果を奏することが確認された。参考例1の化粧料用粉末材料は、基材としてジアセチルに対してある程度の物理的消臭機能を有するタルクを用いることでデオドラント効果を高めたものであるが、これと比較しても、実施例1~3の化粧料用粉末材料は、ジアセチル濃度の残存率に大きな差がなく、実用上同等のデオドラント効果を奏すると考えられる。
【0060】
比較例1の化粧料用粉末材料では、気相中のジアセチル濃度に変化はなかった。比較例2の化粧料用粉末材料では、気相中のジアセチル濃度が減少したが、実施例1~3の化粧料用粉末材料に比較して減少幅は小さかった。比較例3の化粧料用粉末材料では、気相中のジアセチル濃度の減少は極僅かであった。このことから、実施例1~3の化粧料用粉末材料におけるジアセチルに対するデオドラント効果は、マグネシウムに由来すると考えられる。
【0061】
<トリメチルアミン吸着試験>
上述の「トリメチルアミンに対する消臭性能」において説明した手順で、実施例1~3、比較例1~3、並びに参考例1の化粧料用粉末材料についてトリメチルアミン吸着試験を実施し、トリメチルアミンの残存率を測定した。試験結果を表3に示す。
【0062】
【0063】
試験の結果、実施例1の化粧料用粉末材料では、気相中のトリメチルアミン濃度が減少した。実施例2の化粧料用粉末材料では、気相中のトリメチルアミン濃度が顕著に減少した。このように、シリカを加えることでトリメチルアミンに対するデオドラント効果が大幅に向上することが確認された。また、デンプン粉末を使用した実施例3の化粧料用粉末材料についても、気相中のトリメチルアミン濃度が減少し、トリメチルアミンに対する一定のデオドラント効果が見られた。
【0064】
一方、比較例1~3の化粧料用粉末材料では、気相中のトリメチルアミン濃度に変化はなかった。
【0065】
<デオドラント剤>
表4に示す組成のデオドラント剤を製造した。なお、各成分の配合量の単位は重量部とする。得られたデオドラント剤を腋に塗布したところ、長時間に亘って腋臭の発生が抑制され、優れたデオドラント効果が確認された。
【0066】
【産業上の利用可能性】
【0067】
本発明の化粧料用粉末材料は、デオドラント剤、ボディーパウダー、及びベビーパウダー等のボディー化粧料、並びに乳液、及びクリームなどの基礎化粧料等に利用可能である。