(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-13
(45)【発行日】2024-09-25
(54)【発明の名称】介護用補助具
(51)【国際特許分類】
A61G 7/10 20060101AFI20240917BHJP
【FI】
A61G7/10
(21)【出願番号】P 2022199838
(22)【出願日】2022-12-14
【審査請求日】2022-12-14
(73)【特許権者】
【識別番号】521374822
【氏名又は名称】有限会社ハンド
(74)【代理人】
【識別番号】100149320
【氏名又は名称】井川 浩文
(74)【代理人】
【識別番号】240000235
【氏名又は名称】弁護士法人柴田・中川法律特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山田 裕子
【審査官】井出 和水
(56)【参考文献】
【文献】特開平09-276342(JP,A)
【文献】登録実用新案第3046377(JP,U)
【文献】実開平06-038965(JP,U)
【文献】特開平09-253150(JP,A)
【文献】特開2017-176780(JP,A)
【文献】特開2001-245950(JP,A)
【文献】特開2007-029675(JP,A)
【文献】特開2009-136358(JP,A)
【文献】特開2010-252942(JP,A)
【文献】特開2010-172630(JP,A)
【文献】特開2006-000232(JP,A)
【文献】登録実用新案第3040395(JP,U)
【文献】実公平04-048185(JP,Y2)
【文献】実開平06-038967(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61G 1/00 - A61G 7/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
仰臥姿勢の被介護者に対するオムツ交換時に膝裏部を支点として被介護者の下肢を持ち上げるための介護用補助具であって、
被介護者の両脚の膝裏部を同時に支持する長さを有する棒状の支持体と、該支持体を適宜高さに維持する基台とを備え、
前記基台は、被介護者が仰臥するベッドまたは敷き布団の左右両側に配置される2つの支柱と、該2つの支柱の上端において該2つの支柱を適宜幅に維持させつつ一体化する連結部材と、該連結部材の下面に装着されたカーテンレールと、該カーテンレールに吊下されたカーテンと、前記2つの支柱のそれぞれに突設され、前記基台から分離可能な前記支持体の両端近傍を前記2つの支柱に分かれて係止させる係止部とを備え、少なくとも前記2つの支柱がベッドまたは敷き布団の長手方向へ移動可能に設けられるものであ
り、
前記支持体は、外部断面形状が直径20mm~50mmの円形であり、
前記係止部は、単体において、または支柱とともに、少なくとも2箇所で前記支持体に当接する当接領域を形成し、被介護者の下肢の重量が前記支持体に作用するとき、該支持体の軸回りの回転を制限させるものであり、
前記2つの支柱のそれぞれに突設されるそれぞれの前記係止部は、該係止部の上部表面と前記支柱の側部表面との2箇所において、前記支持体の表面が当接するように、軸線方向を斜め上方としつつ前記支柱の側部表面から同じ方向へ突設されるものであることを特徴とする介護用補助具。
【請求項2】
前記係止部は、該係止部の上部表面側に、曲面状の切欠部が設けられている請求項1に記載の介護用補助具。
【請求項3】
前記係止部は、前記2つの支柱のそれぞれに同じ高さに配置されて一組となるものであり、前記2つの支柱には、1以上の組の係止部が設けられている請求項
1または2に記載の介護用補助具。
【請求項4】
前記基台は、前記2つの支柱をそれぞれ立設状態に保持する2つのベース部を備え、前記ベース部は、前記ベッドまたは敷き布団の長手方向に沿って長尺に設けられるものである請求項3に記載の介護用補助具。
【請求項5】
前記2つのベース部は、それぞれの底部にキャスタを備えており、該キャスタは少なくとも前記ベッドまたは敷き布団の長手方向へ転動可能に設けられ、該キャスタには転動の許容および停止を操作する転動操作部を備えるものである請求項4に記載の介護用補助具。
【請求項6】
前記転動操作部は、前記2つのベース部のキャスタに対して同時に操作できるように連結手段が設けられている請求項5に記載の介護用補助具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被介護者のおむつを交換する際に、被介護者の下肢を上昇させるために使用する介護用補助具に関するものである。
【背景技術】
【0002】
高齢または事故や病気が原因で自ら洗面所で排泄行為が行えず、他者の介護を受けなければならない被介護者は、おむつを使用することとなるが、介護者は、1日に数回のおむつ交換を行わなければならない。おむつを交換するためには、下肢を高く持ち上げなければならず、被介護者が小児等であれば問題ではないが、成人の場合には、その行為が容易ではなく、おむつ交換そのものが介護者にとって負担となる行為であった。
【0003】
そこで、被介護者(特に成人)のおむつ交換に際して、下肢を持ち上げて負担を軽減するためのベッドまたは補助装置が開発されてきた(特許文献1および2参照)。特許文献1に開示される発明は、高さ調整可能なベッドが使用されることを前提とし、揺動可能な脚保持部によって構成されたものであり、脚保持部の揺動により、被介護者の膝裏部を保持しつつベッドの下降に伴って被介護者の膝の位置を上方かつ頭部方向へ誘導するものであった。また、特許文献2に開示される発明は、ベッドの側部に回転中心を有する支持アームを回転可能に設け、この支持アームの先端にフットバーによって膝の位置を移動するように構成したものであった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平11-192271号公報
【文献】特開2006-000232号公報
【文献】実用新案登録第3132423号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前掲の特許文献1および2に開示される発明は、いずれも被介護者の膝裏部に当接する部材を支持するアームを、回転または揺動させることにより膝裏部の位置を移動させるものであるが、特許文献1の発明は、ベッドが昇降可能でなければならず、特許文献2の発明は、ベッドに回転駆動させる駆動部を備えることが必要となっていた。ところが、被介護者が使用するベッドが、必ずしも当該機能を有しているとは限らず、汎用性に欠けるものとならざるを得なかった。
【0006】
そこで、被介護者の膝部分をロープ等で吊り上げる構成の保護装置が開発されるに至っている(特許文献3参照)。この発明は、被介護者の膝裏部が当接するように配置された円筒状の保持部の両端にロープを係止させ、梁を支点として上記ロープを上方に牽引するものであり、複数の動滑車によりロープの牽引に要する操作力を軽減するものであった。ベッドそのものを変更する必要はなく、介護者の人力によってロープを牽引し得る点では優れているものであった。
【0007】
ところが、そもそも保持部を被介護者の膝裏部に当接させるためには、少なからず被介護者の下肢の一部(膝部分)を持ち上げなければならず、そのような事前の準備においても容易ではなかった。また、牽引ロープを人力で巻き取る行為を要するが、膝の位置が頭部方向へ移動するため梁を含むフレーム全体を移動させながら行わなければならず、決して簡単に操作できるものではなかった。
【0008】
本発明は、上記諸点に鑑みてなされたものであって、その目的とするところは、簡単に操作でき、準備段階から難しい操作を要せず、被介護者の下肢を持ち上げることのできる介護用補助具を提供し、併せてその使用方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
そこで、介護用補助具に係る本発明は、仰臥姿勢の被介護者に対するオムツ交換時に膝裏部を支点として被介護者の下肢を持ち上げるための介護用補助具であって、被介護者の両脚の膝裏部を同時に支持する長さを有する棒状の支持体と、該支持体を適宜高さに維持する基台とを備え、前記基台は、被介護者が仰臥するベッドまたは敷き布団の左右両側に配置される2つの支柱と、該2つの支柱を適宜幅に維持させつつ一体化する連結部材と、前記2つの支柱のそれぞれに形成され、前記支持体の両端近傍を前記2つの支柱に分かれて係止させる係止部とを備え、少なくとも前記2つの支柱がベッドまたは敷き布団の長手方向へ移動可能に設けられるものであることを特徴とする。
【0010】
上記構成によれば、支持体を被介護者の膝裏部に当接させ、この支持体が被介護者の左右両側に配置される支柱の係止部によって係止された状態において、被介護者は、大腿部から臀部に至る範囲を持ち上げられる姿勢となるから、おむつ交換時に下肢を持ち上げる負担を軽減させることができる。そして、支持体は棒状であり適度な長さを有しているため、被介護者が大腿を開いた状態においても同様の姿勢を維持させることができる。また、支柱はベッドまたは敷き布団の長手方向へ移動可能に設けられることから、使用に際しては、被介護者の下肢先端(足首付近)を支持させた状態から、徐々に支柱を被介護者の頭部の方向へ移動させることにより、膝裏部に到着させることができる。従って、被介護者を所望の体勢に誘導するためには、下肢先端(足首付近)を支持体に支持させることと、支柱を移動させることを行えばよいこととなる。
【0011】
上記構成の発明において、前記係止部は、単体において、または支柱とともに、少なくとも2箇所で前記支持体に当接する当接領域を形成し、被介護者の下肢の重量が前記支持体に作用するとき、該支持体の軸回りの回転を制限させるものとすることができる。
【0012】
このような構成の場合には、支持体が、係止部単体または係止部と支柱とで少なくとも2箇所に当接し、適度な摩擦抵抗を生じさせることとなることから、支持体が円形断面のように回転しやすい形状であっても軸回りの回転が制限され、被介護者の下肢の支持状態を安定させることができる。
【0013】
また、上記構成の発明において、前記係止部は、前記2つの支柱のそれぞれに同じ高さに配置されて一組となるものであり、前記2つの支柱には、1以上の組の係止部が設けられているものとすることができる。
【0014】
上記構成によれば、棒状の支持体が被介護者の下肢を左右同時かつ同じ高さまで持ち上げることが可能となり、おむつ交換時の姿勢が安定することとなる。また、複数組の係止部を設ける場合には、被介護者の下肢の長さ、特に大腿部の長さに応じて最適な高さに支持することが可能となり、被介護者を限定することなく汎用性のある介護用補助具を提供することができる。
【0015】
さらに、上記構成の発明において、前記基台は、前記2つの支柱をそれぞれ立設状態に保持する2つのベース部を備え、前記ベース部は、前記ベッドまたは敷き布団の長手方向に沿って長尺に設けられるものとすることができる。
【0016】
上記構成によれば、被介護者の下肢を持ち上げた状態において、その下肢重量は支持体を介して支柱に伝達され、支柱を傾倒する方向に作用することとなるが、基台のベース部がベッド等の長手方向(すなわち被介護者の頭部から足先への方向)に長尺に設けられることにより、支柱の傾倒方向への荷重に耐える構成とすることができる。また、使用時に支柱を移動させるときの傾倒も防止できることとなる。
【0017】
そして、上記構成の発明において、前記2つのベース部は、それぞれの底部にキャスタを備えており、該キャスタは少なくとも前記ベッドまたは敷き布団の長手方向へ転動可能に設けられ、該キャスタには転動の許容および停止を操作する転動操作部を備えるものとすることができる。このような構成の場合には、使用時において支柱を移動させる際、キャスタの転動によって基台全体を移動させることができ、当該基台の移動を容易にすることができる。なお、操作部は、例えば、キャスタ用の回転体に接触・非接触を切り替えることが可能なストッパ構造としたものがある。
【0018】
さらに、上記構成の発明において、前記転動操作部は、前記2つのベース部のキャスタに対して同時に操作できるように連結手段が設けられているものとすることができる。このような構成の場合には、被介護者の左右いずれか一方において、介護者による基台の移動と、その停止を操作することができる。特に、ベッドの場合には左右で個別に操作する必要がないことから極めて簡便となる。なお、連結手段としては、左右双方に設けられるキャスタ用に設けられるストッパを単に物理的に連結したものがある。
【0019】
上記構成の発明において、前記支持体は、外部断面形状が直径20mm~50mmの円形であることが好ましい。すなわち、支持体の外部顔面形状が円形であることにより、被介護者の下肢が当接しても当該被介護者に苦痛を与えることがなく、使用時に支持する位置を足首付近から膝裏部まで移動させることが円滑に行えるものとなる。また、直径が20mm~50mmの範囲内であれば、介護者において把持しつつ持ち上げることが容易かつ可能であり、膝裏部を持ち上げられる被介護者においても痛みを伴うことがない。20mmよりも小径の場合には、被介護者の下肢重量が集中するため膝裏部に痛みを伴うこととなり、50mmを超える大径の場合には、介護者が持ち上げる際に把持し辛い大きさとなるものである。
【0020】
他方、前記各構成の介護用補助具の使用方法に係る発明は、予め前記基台は、前記支柱が被介護者の足首付近の両側に配置しておき、前記支持体を前記基台の前記係止部による係止を解除し、該支持体を該基台から分離させ、該支持体に仰臥する被介護者の足首付近の踵側を乗せるように準備し、この状態で前記支持体を持ち上げて両端を左右の前記支柱の前記係止部に係止させて、介護用補助具によって被介護者の足首付近を持ち上げる状態とし、この状態から介護用補助具の全体を被介護者の頭部の方向へ移動させることにより、前記支持体による被介護者の下肢の当接位置を足首付近から膝裏部まで移動させつつ下肢全体を上昇させ、さらに介護用補助具を被介護者の頭部の方向へ移動させることにより被介護者の大腿部を腹部に接近させる状態として臀部周辺を持ち上げた状態で介護用補助具の移動を停止させることを特徴とする。
【0021】
上記構成によれば、支持体に被介護者の足首付近を乗せて支柱の位置を移動させることにより、徐々に被介護者の姿勢がおむつ交換に好適な体勢に変化することから、介護者に負担なくおむつ交換を行える状態を提供できる。特に、おむつ交換の間は、当該姿勢が維持されるため、余裕を持って交換作業ができ、交換時に被介護者の下腹部をゆっくり清拭するなど清潔な環境を被介護者に提供することができる。また、使用後は、支柱を元の位置まで後退させれば、支持体は被介護者の足首付近のみを持ち上げた状態となるため、被介護者の下肢を元の状態に戻す際の負担も軽減することとなる。
【0022】
また、前記各構成の介護用補助具の使用方法に係るもう一つの発明は、予め前記基台は、前記支柱が被介護者の足首付近の両側に配置しておき、前記支持体を前記基台の前記係止部に係止させた状態で準備し、この状態で被介護者の下肢を片方ずつ持ち上げて、足首付近を支持体によって支持させる状態とし、この状態から介護用補助具の全体を被介護者の頭部の方向へ移動させることにより、前記支持体による被介護者の下肢の当接位置を足首付近から膝裏部まで移動させつつ下肢全体を上昇させ、さらに介護用補助具を被介護者の頭部の方向へ移動させることにより被介護者の大腿部を腹部に接近させる状態として臀部周辺を持ち上げた状態で介護用補助具の移動を停止させることを特徴とする。
【0023】
上記構成による場合においても、支柱の位置を移動させることにより、徐々に被介護者の姿勢がおむつ交換に好適な体勢に変化することから、介護者に負担なくおむつ交換を行えることとなる。被介護者の体型や介護者の筋力などにより、被介護者の足首付近であっても同時に支持体を介して係止部まで持ち上げられない場合には、片方ずつ持ち上げてもよいものである。係止部に係止される高さの支持体に被介護者の足首付近が支持された状態となれば、前記発明と同様に、介護者は支柱を移動させることのみで被介護者を所望の姿勢に誘導できるものとなる。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、被介護者のおむつを交換する際に、支持体に足首付近を支持させ、支柱を移動させれば、被介護者の姿勢を所望の状態に誘導できるものであるから、準備段階から難しい操作を要することなく、簡単な操作により被介護者の下肢を持ち上げることができる。このとき、介護者の負担は極めて限定的となることから、介護者の負担を軽減することができる。介護用補助具の使用方法に係る発明は、上記のような介護者の負担を軽減するものとなる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】介護用補助具に係る実施形態の概要を示す説明図である。
【
図2】介護用補助具に係る実施形態の細部を示す説明図である。
【
図3】介護用補助具に係る実施形態の使用時の状態を示す説明図である。
【
図4】介護用補助具に係る実施形態の使用時の状態を示す説明図である。
【
図5】介護用補助具の使用形態(使用方法に係る実施形態)を示す説明図である。
【
図6】介護用補助具の使用形態(使用方法に係る実施形態)を示す説明図である。
【
図7】介護用補助具の使用形態(使用方法に係る実施形態)を示す説明図である。
【
図10】介護用補助具の他の変形例を示す説明図である。
【
図11】介護用補助具の他の変形例を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。説明の都合上、まず、介護用補助具の実施形態を説明し、当該実施形態の使用形態とともに、使用方法に係る実施形態について説明する。
【0027】
<介護用補助具の実施形態>
図1は、介護用補助具の実施形態を示している。この図に示すように、本実施形態の介護用補助具100は、被介護者の下肢を支持するための支持体1と、この支持体1を適宜な高さに維持するための基台2とで構成されるものである。
【0028】
支持体1は、直線的な棒状部材で構成されるものであり、基本的には、外部断面形状が円形としている。円形断面とするのは、被介護者の下肢(特に膝裏部)を支持する目的であるため、被介護者が苦痛とならないようにする目的と、介護者が握りやすい形状とすることが目的である。従って、円形断面に限定されるものではないが、表面が円滑な曲面であることが望ましい。円形断面には、真円断面ものほか楕円断面も含まれる。後述するように、支持体1の回転を制限する場合には、楕円断面が適するが、真円断面とすることによって適度な回転を許容させるものとしてもよい。また、外部断面形状を円形とすることを基本としたのは、中空筒状または丸棒状のいずれの構成でもよいことを意味している。支持体1は、被介護者の下肢を所定の位置に持ち上げた状態で支持するものであるから、適度な強度を有する必要があり、材質によっては丸棒状でもよいが、重量を軽量化するために円筒状としてもよい。例えば、木製による場合は丸棒状であっても適度な重量で製造可能であるが、金属製(例えばステンレス製)の場合には、筒状として軽量化することが好ましい。
【0029】
なお、支持体1が円形断面の場合、外径寸法は直径20mm~50mmとすることが好ましい。20mmよりも小径の場合には、被介護者の下肢重量が集中するため膝裏部に痛みを伴うこととなり、他方、介護者が支持体1を容易に握ることができる限界が直径50mmであり、50mmを超える大径の場合には、持ち上げる際に把持し辛く、余計な握力を要するため、介護の負担が大きくなり得るためである。
【0030】
このような支持体1を所定高さに維持するための基台2の概略は、適宜幅に配置される2つの支柱21,21と、これを連結して一体化するための連結部材23とで構成されるものである。2つの支柱21,22は、被介護者が使用するベッドまたは敷き布団の両側に分かれて配置できる間隔が保持できるものとし、当該間隔を保持させるように連結部材23で連結するものである。図は、連結部材23を2つの支柱21,22の上端において連結しているが、これは、使用時に被介護者の下肢等が接触しないためであり、基台2の内部に十分な空間を確保するためである。従って、他の位置、例えば、ベッドの床部下方に空間を利用する場合は、下端近傍において連結させてもよい。
【0031】
また、基台2を構成する2つの支柱21,22には、それぞれ係止部24,25が設けられている。この係止部24,25は、所定の高さに設けられるものであり、支持体1の両端付近を、それぞれ両側の係止部24,25にそれぞれ係止させることにより、支持体1を当該所定の高さに維持させるものである。
【0032】
この係止部24,25は、基本的には、2つの支柱21,22の側部表面から同じ方向へ突設することによって形成されている。支柱21,22に十分な強度および断面積が確保される場合には、支柱21,22に切欠部を形成することによって支持体1を係止可能としてもよい。いずれの形態においても、係止部24,25は、2つの支柱21,22の同じ高さに各1個ずつ設けて一組とし、この組数は適宜増加させることができる。
【0033】
図示のように係止部24,25を突設して形成する場合には、その軸線方向を斜め上方として設けることが好ましい。このように係止部24,25の軸線を斜状に配置することにより、係止された状態の支持体1は、自重により当該傾斜に沿って下方へ誘導されることとなり、その表面が、支柱21,22の側部表面と、係止部24,25の上部表面の2箇所に当接する(ここで当接する部分を当接領域と称する)こととなり、当接部分における相互の摩擦抵抗により、円形断面による支持体1の周方向への回転を抑制させている。なお、係止部24,25が支柱21,22を切り欠いて構成されるものである場合には、切欠部において、少なくとも2箇所(面状に当接する領域としてもよい)が当接するように当接領域を確保するように構成されるものである。
【0034】
また、支柱21,22の下端は、それぞれベース部26,27に固定されており、この各1個(2つの)ベース部26,27によって、それぞれの支柱21,22が立設状態に保持されるものである。また、このベース部26,27は、適宜長さに構成されており、その軸線が、支持体1の長手方向に直交し、ベッド等が設置される床面に平行な状態で(ベッドまたは敷き布団の長手方向に沿った方向に向けて)配置されている。このベース部26,27の軸線方向の向きを調整することにより、支柱21,22の傾倒を防止させている。すなわち、支持体1は被介護者の下肢を持ち上げて支えるための部材であり、この支持体1の両端が支柱21,22の係止部24,25に係止されることにより、当該支柱21,22に懸架された状態の支持体1に対し、被介護者から受ける荷重(下肢の重量等)の大部分は、支持体1の長手方向に対して直交方向に作用することとなる。そのため、この直交方向の荷重によって支柱21,22が傾倒する方向は、必然的に支持体1の長手方向に対する直交方向であるから、その方向に長尺にベース部26,27を配置することで、当該荷重による支柱21,22の傾倒を防止し得るのである。
【0035】
さらに、このベース部26,27の底部にキャスタ28,29を設置してもよい。このキャスタ28,29は、介護用補助具1を使用する際に移動を容易にするためであり、ベース部26,27による支柱21,22の傾倒防止効果を減殺させないために、ベース部26,27の長手方向に沿って複数(図は2個)設けるものとしている。
【0036】
ところで、係止部24,25を斜状に設けることによって、支持体1の表面が、支柱21,22の側部表面と、係止部24,25の上部表面の2箇所に当接するように構成し、摩擦抵抗を利用して支持体1の回転を制限することとしたが、この係止部24,25には、支持体1の支持を確実にするために切欠部を設ける構成としてもよい。
【0037】
すなわち、
図2(a)に示すように、係止部24,25の上部表面側に、曲面状の切欠部11を設け、係止部24,25の上部表面から凹状となる凹面部として構成してもよい。このような切欠部11の形成により、支持体1は、凹状の内部に嵌入し、使用時に支持体1が係止部24,25による係止が解除されないようにすることができる。また、この種の凹面部分(凹面部)11は、曲率を変化させた曲面とすることにより、部分的に支持体1の表面の曲率に近時させることができる。このような凹面部11に形成することにより、その表面が比較的広い範囲で支持体1の表面と当接することとなり、摩擦抵抗を得ることができ、支柱21,22との2箇所による当接でなくとも、適宜な当接領域を形成させることができる。なお、使用時には支柱21,22に対する抵抗を考慮し、当該凹面部11と支柱21,22との双方に当接可能とすることが好ましい。なお、凹面部11の曲率を変化させることにより、係止部24,25の先端側における窪み状態を緩やかにすることができ、この緩やかな窪み状態によって、支持体1の係止を解除させる際の操作を比較的容易なものとすることができる。
【0038】
また、係止部24,25の突設位置は、適宜調整可能としており、
図2(b)に示すように、支柱21,22に複数の貫通孔12を穿設し、係止部24,25の基端側に雌ネジ13を刻設し(またはナットを埋設し)ておき、固定ネジ14によって、係止部24,25の反対側から貫通孔12を貫挿させたうえで、雌ネジ13に螺合させるようにすれば、適度な高さの貫通孔12を使用することで高さを調整し得るものとなる。なお、ネジ止めする場合は、係止部24,25が固定ネジ14の軸回りに回転させない目的で2箇所でメジ止めするように構成してもよい。
【0039】
<介護用補助具の使用時の状態>
介護用補助具100の実施形態の構成は上記のとおりであるから、
図3に示すように、2つの支柱21,22をベッド(
図3(a)参照)BDの左右両側に配置させることにより、支持体1は、ベッドBDのベッドマット上面よりも上方において、係止部24,25によって所定の高さに維持され得るものとなる。また、畳などの床面に布団を敷いた状態で介護する場合(
図3(b)参照)には、短く構成した支柱21,22の低位に係止部24,25を設けることにより、敷き布団SFの左右両側に配置する支柱21,22の低位の係止部24,25によって支持体1を維持させることができる。
【0040】
介護用補助具100を使用する場合には、
図4に示すように(ベッドBDを使用する場合を代表として例示する)、支柱21,22に設ける係止部24,25が被介護者HMの頭部側に向けて配置する(
図3も同様)。これは、本発明の介護用補助具100が、
図4に示されているように、おむつ交換の際に、仰臥する被介護者HMの下肢LEを支持体1によって持ち上げた状態とするためのものであって、被介護者HMの下肢LEが持ち上げられた状態において、被介護者HMの下肢LEが介護用補助具100の全体を押すように作用するため、これを支柱21,22で受け止めるためである。すなわち、支持体1が係止部24,25から離脱しないようにするためである。
【0041】
なお、このような使用状態は、布団SFを使用している場合であっても同様である。そのため、すなわち、本実施形態の支柱21,22の長さ(係止部24,25の位置)が異なることを除けば、全体構造は同一であるから、使用に際して異なることがないのである。そのため、以下においてはベッドBDを使用する場合における使用態様および使用方法を説明する。
【0042】
<介護用補助具の使用態様(使用方法に係る実施形態)>
次に、上述のような構成における介護用補助具100の使用態様を説明する。この使用態様が、使用方法に係る本発明の実施形態である。
図5~
図7に使用の手順を示す。被介護者HMに苦痛を与えることなく、介護者において容易に被介護者HMの下肢LEを持ち上げることができるような手順である。
【0043】
まず、
図5(a)に示すように、支持体1を係止部24,25から取り出して、支持体1のみを使用し、仰臥する被介護者HMに対し、足首AKの近傍の踵側を支持体1に乗せるように配置するのである。このとき、支持体1の先端を、片方の足首AKの下部(裏側)とベッドマットBMの上面との間に挿入し、他方の足首AKの下部(裏側)に到達するように、支持体1を操作してもよく、また、踵AKの近傍においてベッドマットBMの表面に支持体1を載置し、そのうえに、介護者が被介護者HMの足首AKを持ち上げながら支持体1に乗せてもよい。これで準備が完了する。
【0044】
引き続き、
図5(b)に示すように、上記のように足首AKの近傍を支持体1に乗せた状態のまま、当該支持体1を持ち上げ、支持体1を係止部24,25によって係止させるのである。持ち上げるべきは支持体1と被介護者HMの足首AKの部分であるから、大重量とはならず、比較的容易に持ち上げることができる。このとき、僅かながら基台2を被介護者HMの頭部HDの側へ移動させておく必要がある。これは、支持体1を係止部24,25に係止させるためである。なお、足首AKの近傍を乗せた状態の支持体1を持ち上げることが難しい場合は、予め支持体1を係止部24,25に係止させた状態で、片足ずつ持ち上げて、踵AKを支持体1に乗せるようにしてもよい。
【0045】
上記の状態から、
図6(a)に示すように、介護用補助具100の全体を移動させて、支持体1が当接する位置を、足首AKの近傍から下腿部LLに沿って大腿部FMへ向かって移動させるのである。具体的には、ベース部26,27の裏面に設けられるキャスタ28,29を利用して、基台2を被介護者HMの頭部HDの方向へ移動させることにより、係止されている支持体1の位置も同様に被介護者HMの頭部HDの方向に移動させるのである。この支持体1の移動により、支持体1は被介護者HMの下肢LE(特に下腿部LL)の裏側部分を摺動しつつ、足首AKから大腿部FMに向かって当接位置を変化させることとなる。なお、足首AKから膝KNまでの間には関節がないため、下肢LEは延びた状態が維持され、股関節の角度をやや変化させる程度となる。
【0046】
引き続き、
図6(b)に示すように、さらに基台2を被介護者HMの頭部HDの方向へ移動することにより、支持体1は、被介護者HMの膝KNの裏側(膝裏部)に到着させることができる。この状態において、下肢LEは、膝KNの関節によって折れ曲がり、支持体1を越えて自由な状態となり、また、支持体1が股関節に接近するため、股関節を曲げて前屈姿勢となり、大腿部FMを上向きの状態とすることができる。
【0047】
上記のような状態とすることにより、被介護者HMに対するおむつ交換か可能な状態となる。すなわち、上記のような状態で、被介護者HMの下肢LEの重量は支持体1によって支えられる状態となり、被介護者HMに苦痛を与えることなく、下肢LEを持ち上げることができるのである。
【0048】
上記の状態によりおむつ交換が可能であるが、さらに、
図7(a)に示すように、基台2を移動することにより、被介護者HMの姿勢を大きく前屈させるような状態としてもよい。被介護者HMの姿勢を図示のように大きく前屈させる場合には、臀部BTが緩やかに持ち上げられた状態となる。このような状態において、おしめを交換する際に、臀部BTとベッドマットとの間に敷かれた状態のおむつの一部を取り出し、新しいおむつを(その一部を)臀部BTの下に敷くことも容易となる。
【0049】
また、上記のような状態において、
図7(b)に示すように、被介護者HMの膝KNが支持体1に支持される状態であるから、左右の大腿部FM1,FM2を開脚させるとき、膝KNの関節が支持体1で折れ曲がり、左右の下腿部LL1,LL2は、同様に開脚状体となり得る。このように、被介護者HMの下肢を持ち上げた状態で開脚状態として支持できることから、被介護者HMの下腹部周辺には空間が形成されることとなり、おむつ交換を容易に行うことができる。
【0050】
上記のいずれか(
図6(b)または
図7(a)のいずれか)のように、被介護者を適度な前屈姿勢に誘導させた時点で、本実施形態の使用のための手順は完了することとなる。なお、おむつを交換した後は、上記の操作の逆を行えば、本実施形態を取り外し、被介護者を元の仰臥姿勢に戻すことができる。具体的には、基台2を後退させ、支持体1を足首AKの近傍に当接する状態まで移動させ、最後に、支持体1から足首AKの当接を解除し、ベッドに戻せばよいのである。
【0051】
<変形例>
本発明の実施形態は以上のとおりであるが、上記実施形態は本発明の一例であって、構成要素を適宜変更し、または他の構成を追加するものであってもよい。例えば、
図8(a)に示すように、ベース部26,27の底部に設けられるキャスタ28,29は、ストッパ機構を有するストッパ3を使用するものとすることができる。この場合のストッパ機能付きのキャスタ3は、転動部(車輪)30の表面にブレーキパッドが摺接する形態があり、このブレーキパットを操作する転動操作部31を操作して転動部(車輪)30の転動の許容し、または停止させることができるものである。そして、この種のストッパ機能付きキャスタ3を使用する場合には、基台を移動させる際の後方側のみに用いればよい。全てにストッパ機能がついていなくとも、ベース部26,27の移動を停止させることができるうえ、後方側に用いることで操作が容易となるからである。また、左右のベース部26,27において同時に操作するために、転動操作部31を連結する長尺な連結手段4を設置してもよい。長尺な連結手段4は、一方に係入溝41が設けられ、左右のキャスタ3の転動操作部31を係入溝41に係入させておくのである。これにより、一方の側でキャスタ3の転動・停止を操作する際、左右を同時に操作できることとなる。
【0052】
また、キャスタ28,29を所定の位置で停止させるための手段として、
図8(b)および(c)に示すような車輪ストッパ5を床面に設置する方法もあり得る。この車輪ストッパ5は、キャスタ28,29の車輪部が乗り上げることができる緩やかな傾斜の先に陥没部51が設けられるものであり、この陥没部51までキャスタ28,29を移動させることで、車輪部が嵌入して転動を停止させることができる。このような車輪ストッパ5を使用する場合には、基台の移動方向前方に配置される一方のキャスタ28,29のみについて作用するものとして設置すればよい。なお、陥没部51から転動部を脱する場合には、ベース部26,27を傾斜させて嵌入した車輪を持ち上げるように操作すればよいこととなる。
【0053】
第2の変形例を
図9に示す。なお、
図9の(a)および(b)は、同じ形態であるが、正面視(被介護者側からの状態)と裏面視(介護者側からの状態)を示している。第2の変形例は、
図9に示すように、基台2にカーテン6を設置したものである。本実施形態の基台2は、支柱21,22の上端に連結部材23を設ける構成としたことから、この連結部材23の下面にカーテンレールを装着し、そのカーテンレールにカーテン6を吊下させるのである。カーテンレールを用いるため、カーテン6は、一方向へ移動させてまとめることができる。従って、被介護者の羞恥心を排除させるべき場合、すなわち、正におむつ交換の間のみ、カーテンを拡張させて視界を遮断するように使用することができるものとなるのである。
【0054】
その他の変形例としては、例えば、
図10(a)に示すように、支柱21,22の立設状体を頑強にするため、支柱21,22の上端に設けた連結部材23のほかに、下端近傍においても連結するための第2の連結部材23aを設けた構成とすることができる。さらに第3の連結部材23bを設ける構成としてもよい。また、
図10(b)に示すように、支柱21,22とベース部26,27との間に補強部材21a,21b,22a,22bを設けたものである。上述した実施形態は、基本的に被介護者の重量による支柱21,22の傾倒をベース部26,27によって支持させるものであったが、この両者の強度(支柱21,22の立設強度)を補強するために、補強部材21a~22bを設けたものである。
【0055】
さらに、係止部24,25の高さによって、被介護者の下肢を持ち上げるべき高さが決定するため、この係止部24,25の高さを調節できるように構成してもよい。この場合の調節方法としては、例えば、
図11(a)に示すように、支柱(2つの支柱)21,22に突設する係止部24,25の近傍に第2の係止部24a,25aを設ける方法がある。さらに追加の第3の係止部24b,25bを設けてもよい。この場合、上位に位置する係止部が下位の係止部よりも突出長を短く構成することが好ましい。その理由は、高さを調整しながら支持体1を係止させる際、下位の係止部に係止させた後、上位の係止部にケイさせるとき、支持体1の移動範囲を小さくすることができるからである。
【0056】
また、高さ調整可能な機構の変形例としては、
図11(b)に示すように、支柱21,22に高さ調整の貫通孔(単独孔のほか、だるま孔でもよい)を設け、スライダ7が支柱21,22に沿って摺動可能としておき、スライダ7を締着部材8によって締着させる構成とてもよい。この場合の係止部24,25は、スライダ7から突出するように構成するものである。
【0057】
<まとめ>
本発明の実施形態および変形例は上記のとおりであるから、被介護者HMのおむつを交換する際に、支持体1に足首AKの近傍を支持させ、支柱21,22を移動させれば、被介護者HMの姿勢を所望の状態に誘導することができる。これにより、準備段階から難しい操作を要することなく、簡単な操作により被介護者HMの下肢LEを持ち上げることができる。このような介護用補助具100を使用すれば、介護者の負担は極めて限定的となり、介護者の負担を軽減することができる。
【符号の説明】
【0058】
1 支持体
2 基台
3 ストッパ機能付きキャスタ
4 連結手段
5 車輪ストッパ
6 カーテン
7 スライダ
8 締着部材
11 切欠部(凹面部)
12 通し孔
13 雌ネジ
14 固定ネジ
21,22 支柱
23,23a,23b 連結部材
24,24a,24b,25,25a,25b 係止部
26,27 ベース部
28,29 キャスタ
30 転動部(車輪)
31 転動操作部
41 係入溝
51 陥没部
100 介護用補助具
BD ベッド
BM ベッドマット
SF 敷き布団
HM 被介護者
HD 被介護者の頭部
AK 被介護者の足首
BT 被介護者の臀部
HL 被介護者の踵
FM 被介護者の大腿
KN 被介護者の膝
LE 被介護者の下肢
LL 被介護者の下腿部