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特許7555614アルカリ第二鉄水溶液を生成および使用するための方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-13
(45)【発行日】2024-09-25
(54)【発明の名称】アルカリ第二鉄水溶液を生成および使用するための方法
(51)【国際特許分類】
   B01D 53/14 20060101AFI20240917BHJP
【FI】
B01D53/14 210
B01D53/14 220
【請求項の数】 18
(21)【出願番号】P 2022550654
(86)(22)【出願日】2020-10-21
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-12-26
(86)【国際出願番号】 US2020056681
(87)【国際公開番号】W WO2021081106
(87)【国際公開日】2021-04-29
【審査請求日】2023-10-20
(31)【優先権主張番号】62/924,166
(32)【優先日】2019-10-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】63/029,405
(32)【優先日】2020-05-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】63/032,600
(32)【優先日】2020-05-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】522159657
【氏名又は名称】ニュー スカイ エナジー,エルエルシー
(74)【代理人】
【識別番号】100114775
【弁理士】
【氏名又は名称】高岡 亮一
(74)【代理人】
【識別番号】100121511
【弁理士】
【氏名又は名称】小田 直
(74)【代理人】
【識別番号】100202751
【弁理士】
【氏名又は名称】岩堀 明代
(74)【代理人】
【識別番号】100208580
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 玲奈
(74)【代理人】
【識別番号】100191086
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 香元
(72)【発明者】
【氏名】リトル,チャールズ ディーン
(72)【発明者】
【氏名】イエーガー,ヤスミナ
【審査官】佐々木 典子
(56)【参考文献】
【文献】特開昭64-058323(JP,A)
【文献】米国特許第03622273(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 53/14-53/18、
53/34-53/85、
53/92、53/96
C01B 17/05
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
還元硫黄化合物を含有する流体から還元硫黄化合物を除去するための方法であって、
(a)アニオン性第二鉄-炭酸塩複合体を含有するアルカリ第二鉄塩水溶液を還元硫黄含有流体と接触させることであって、
(i)前記アルカリ第二鉄塩水溶液は、第二鉄イオン(Fe3+)、カリウムイオン(K)、炭酸イオン(CO 2-)、および重炭酸イオン(HCO )を備え、前記アルカリ第二鉄塩水溶液は、硝酸イオン(NO )を更に備え、任意選択的に1または複数の有機添加物を備え、
(ii)前記第二鉄イオンに対する前記カリウムイオンのモル比は以上であり、
(iii)前記1または複数の有機添加剤の合計に対する第二鉄イオンのモル比は1より大きく、
(iv)前記アルカリ第二鉄塩水溶液は、完全に溶解するアルカリ第二鉄塩水溶液であり、
(v)前記アルカリ第二鉄塩水溶液は、8以上のpH値を有する、
接触させること
(b)前記接触により、還元アルカリ鉄溶液を生成することであって、
(i)前記アルカリ第二鉄塩水溶液中に1または複数の硫化鉄を形成することにより、前記還元硫黄含有流体から前記還元硫黄化合物の少なくとも一部を除去することと、
(ii)少なくとも1つの前記還元硫黄化合物の少なくとも一部を酸化させ、前記第二鉄イオンの少なくとも一部を第一鉄イオン(Fe2+)に還元することと
を備える、生成することと
を備える方法。
【請求項2】
前記流体から前記還元硫黄化合物の少なくとも一部を除去した後、
(c)少なくとも部分的に還元されたアルカリ第二鉄水溶液中に形成された第一鉄の少なくとも一部を酸化させて、前記アルカリ第二鉄塩水溶液を少なくとも部分的に再生させ、それに伴い、前記少なくとも部分的に還元されたアルカリ第二鉄水溶液中の前記硫化鉄の硫化物の少なくとも一部を単体硫黄に酸化させること
を更に備える、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
再生アルカリ第二鉄塩水溶液には、酸化鉄系粒子またはオキシ水酸化鉄系粒子が含まれない、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記1または複数の有機添加物は、ポリオール、果実類の実、葉、または根、およびその任意の組み合わせの抽出物、任意の原料からのペクチン、およびアミノポリカルボン酸から成るグループから選択される、請求項2に記載の方法。
【請求項5】
前記第一鉄イオンの少なくとも一部を酸化させることは、前記少なくとも部分的に還元されたアルカリ第二鉄水溶液を酸化剤に暴露し、前記第一鉄イオンの少なくとも一部を第二鉄イオンに酸化させることにより、再生アルカリ第二鉄塩水溶液を生成することを備え、前記暴露することは、単体硫黄を生成することを備える、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
還元硫黄含有流体の流れは、前記還元硫黄含有流体から前記少なくとも1つの還元硫黄化合物を除去して精製流体を提供するために、選択された接触時間にわたり前記アルカリ第二鉄塩水溶液と接触し、その後、前記アルカリ第二鉄塩水溶液を少なくとも部分的に再生するために、前記少なくとも部分的に還元されたアルカリ第二鉄水溶液において硫化鉄(複数も可)が酸化する、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記アルカリ第二鉄塩水溶液は前記1または複数の有機添加物を備え、各有機添加物に対する第二鉄イオンのモル比は2以上である、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
(a)第二鉄イオン(Fe3+)、
(b)前記第二鉄イオンに対するモル比が以上であるカリウムイオン(K)、
(c)炭酸イオン(CO 2-)、
(d)重炭酸イオン(HCO )、
(e)水酸化物イオン(OH)、
(f)硝酸イオン(NO
を備えるアルカリ第二鉄塩水溶液であって、
第二鉄が炭酸塩、重炭酸塩、またはその両方と複合化し、本質的にアニオン性であり8.5より高いpH値の前記アルカリ第二鉄塩水溶液への高い溶解性を有する水溶性複合体を形成し、
前記アルカリ第二鉄塩水溶液のpHは、8.5以上である、アルカリ第二鉄塩水溶液。
【請求項9】
前記アルカリ第二鉄塩水溶液には第二鉄系粒子が含まれない、請求項に記載のアルカリ第二鉄塩水溶液。
【請求項10】
前記アルカリ第二鉄塩水溶液は、完全に溶解する第二鉄塩水溶液である、請求項に記載のアルカリ第二鉄塩水溶液。
【請求項11】
前記アルカリ第二鉄塩水溶液は、1または複数の有機添加物を備え、前記1または複数の有機添加物の各々に対する前記第二鉄イオンのモル比は、1.1~50である、請求項に記載のアルカリ第二鉄塩水溶液。
【請求項12】
前記アルカリ第二鉄塩水溶液を硫化水素(HS)と接触させることにより、硫化第一鉄を含む黒色沈殿物が形成される、請求項に記載のアルカリ第二鉄塩水溶液。
【請求項13】
前記第二鉄イオンのモル濃度が0.4~0.7mols/Lである、請求項に記載のアルカリ第二鉄塩水溶液。
【請求項14】
前記アルカリ第二鉄塩水溶液は、濃縮アルカリ第二鉄塩水溶液であり、前記第二鉄イオンに対する前記カリウムイオンの比は、~12である、請求項に記載のアルカリ第二鉄塩水溶液。
【請求項15】
前記アルカリ第二鉄塩水溶液は、希釈第二鉄塩水溶液であり、前記第二鉄イオンに対する前記カリウムイオンの比は、50より大きい、請求項に記載のアルカリ第二鉄塩水溶液。
【請求項16】
(a)第二鉄イオン(Fe3+)、
(b)前記第二鉄イオンに対するモル比が以上であるカリウムイオン(K)、
(c)炭酸イオン(CO 2-)、
(d)重炭酸イオン(HCO )、
(e)水酸化物イオン(OH)、
(f)硝酸イオン(NO )、
(g)1または複数の有機添加剤
を備える濃縮アルカリ第二鉄塩水溶液であって、
前記1または複数の有機添加物の各々に対する前記第二鉄イオンのモル比は、1.1~50であり、
第二鉄が炭酸塩、重炭酸塩、またはその両方と複合化し、本質的にアニオン性であり8.5より高いpH値の前記濃縮アルカリ第二鉄塩水溶液への高い溶解性を有する水溶性複合体を形成し、
前記濃縮アルカリ第二鉄塩水溶液のpHは、8.5以上であり、
前記第二鉄イオンのモル濃度は、0.4~0.7mols/Lである、濃縮アルカリ第二鉄塩水溶液。
【請求項17】
前記1または複数の有機添加物は、ポリオール、果実類の実、葉、または根、およびその任意の組み合わせの抽出物、任意の原料からのペクチン、およびアミノポリカルボン酸から成るグループから選択される、請求項16に記載の濃縮アルカリ第二鉄塩水溶液。
【請求項18】
(a)第二鉄イオン(Fe3+)、
(b)前記第二鉄イオンに対するモル比が50以上であるカリウムイオン(K)、
(c)炭酸イオン(CO 2-)、
(d)重炭酸イオン(HCO )、
(e)水酸化物イオン(OH)、
(f)硝酸イオン(NO )、
(g)1または複数の有機添加剤
を備える希釈アルカリ第二鉄塩水溶液であって、
前記1または複数の有機添加物の各々に対する前記第二鉄イオンのモル比は、1.1~50であり、
第二鉄が炭酸塩、重炭酸塩、またはその両方と複合化し、本質的にアニオン性であり8.5より高いpH値の前記希釈アルカリ第二鉄塩水溶液への高い溶解性を有する水溶性複合体を形成し、
前記希釈アルカリ第二鉄塩水溶液のpHは、8.5以上である、希釈アルカリ第二鉄塩水溶液。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、各々、参照によってその全体が本明細書に組み込まれた、2019年10月21日に出願された米国仮特許出願62/924,166号、2020年5月23日に出願された米国仮特許出願63/029,405号、および2020年5月30日に出願された米国仮特許出願63/032,600号の利益を主張するものである。
【背景技術】
【0002】
硫化水素(HS)は、一般に天然ガス、石油、バイオガス、および地熱蒸気中に存在する、極めて腐食性および毒性の高い気体である。硫化水素の除去は、たとえば天然ガス、石油、紙、地熱エネルギ、および(たとえば埋立地、酪農場、および廃水処理施設からの)バイオガスの生産など、エネルギ生産および様々な工業プロセスに不可欠なものである。たとえば化学捕捉剤(たとえば塩化第二鉄、モノエタノールアミントリアジン)、アミンクラウスプロセス、液体レドックスプロセス、および充填層技術(たとえばSulfaTreat(登録商標)(M-I LLC、テキサス州ヒューストン)および鉄スポンジ技術)など、硫化水素除去のための様々な技術が存在する。硫化水素捕捉剤は、硫化水素制御の非常に一般的な方法である。硫化水素捕捉剤は、一般に、HSと反応して硫化鉄または黄鉄鉱に変換する鉄系化合物である。これらは効果的であるが、1度しか使えない化学技術であるため、天然資源が消費され、危険な化学廃棄物が生成され、操業コストが高い。様々な工業用途に適した、コスト効率の良い硫化水素制御のための方法および材料に対する要望が未だ大きく存在する。
【発明の概要】
【0003】
本発明は、硫化水素および他の還元硫黄化合物を、そのような還元硫黄化合物を含有する気体および液体を含む流体から除去するための方法および材料に関する。この方法は、選択された濃度の第二鉄、Fe(III)を含有するアルカリ水溶液に流体を接触させることを含み、この第二鉄は、溶液を形成する水性媒体に少なくとも実質的にまたは完全に溶解している。接触の結果、流体内の還元硫黄化合物の少なくとも一部の捕捉および酸化が生じ、付随して、第一鉄Fe(II)の形成、および水溶液中に懸濁する硫化Fe(II)粒子の形成および流体からの還元硫黄化合物の少なくとも部分的な除去が生じる。流体と接触した後、還元硫黄を除去するために用いられた、少なくとも部分的に還元されたアルカリ水溶液およびその中に懸濁した硫化第一鉄粒子は、空気中の酸素または代替酸化剤を用いた処理によって再生され、溶液から沈殿して収集され得る単体硫黄の形成が生じ得る。実施形態において、還元硫黄化合物の捕捉の結果、たとえばFeSなどの1または複数の硫化鉄の形成が生じ、要望に応じて、その少なくとも一部が固形物として少なくとも部分的に還元された水溶液から分離され得る。硫化鉄は、当技術分野において知られるように、酸化によって単体硫黄および第二鉄に変換され得る。
【0004】
一般に、第二鉄塩は、pH6を超える水溶液において実質的に不溶性である。1つの態様において、本発明は、アルカリ性状態の水溶液に異例の溶解性を有する第二鉄塩を生成するための方法に関する。本発明の1つの実施形態において、これらの塩は、アニオン性第二鉄-重炭酸塩複合体、アニオン性第二鉄-炭酸塩複合体、またはアニオン性第二鉄-炭酸塩/重炭酸塩複合体を含有し、任意選択的に、陰電荷を持ち、自由な第二鉄カチオンとは異なりアルカリ性状態で完全に水溶性である水酸基を有する。実施形態において、水溶性第二鉄塩は、炭酸塩、重炭酸塩、またはその混合物を備える。実施形態において、水溶性第二鉄複合体は、炭酸塩、重炭酸塩、またはその混合物、および水酸化物を備える。実施形態において、アニオン性水溶性第二鉄複合体の対イオンは、カリウムである。実施形態において、水溶性第二鉄塩は、様々な塩の混合物であってよい。
【0005】
本発明は、水溶性第二鉄塩、そのような塩を含有する水溶液、およびそのような溶液から水および水性溶媒を除去することによって調製される固形物にも関する。また本発明は、たとえば本明細書の例において説明するようにアルカリ第二鉄塩水溶液の抽出、またはアルカリ第二鉄塩水溶液に1または複数の有機溶媒を加えることによる沈殿によってアルカリ第二鉄塩水溶液から精製または分離されうる水溶性第二鉄塩にも関する。本発明の第二鉄塩および第二鉄含有固形物、およびそのような塩および固形物が溶解した水溶液は、様々な工業プロセスにおいて有用である。これらの塩を備える水および水溶液は、特に、流体から還元硫黄化合物(たとえばHS)を除去するために有用である。本発明の特定の溶液は、COを含有する流体からCOを少なくとも部分的に除去するためにも有用である。本発明の特定の溶液は、流体から酸素を除去するためにも有用である。硫化水素、二酸化炭素、および酸素の同時除去は、多くの場合これらの気体を含有するバイオガス流の処理に非常に役立ち得る。
【0006】
水溶性第二鉄塩の様々な合成方法が本明細書において提供される。
【0007】
また、本発明は、アルカリ第二鉄塩水溶液を用いて還元硫黄含有流体を処理するための方法に関する。たとえば、アルカリ第二鉄塩水溶液は、HS含有ガス(たとえば天然ガス、バイオガス、酸性ガス、地熱ベントガス、または農業、工業、または廃水処理業からの汚染空気)を処理するために用いられ得る。
【0008】
第二鉄塩(Fe3+)は、酸性水溶液(たとえばpH5未満)で溶解する。一般に、約pH5を超えると、第二鉄は水に溶けず、既知の酸化鉄(たとえば酸化第二鉄、オキシ水酸化第二鉄)の1または複数の粒子を形成する。本発明の方法は、還元硫黄含有流体の処理のために極めて効果的な、第二鉄塩が溶解したアルカリ水溶液の生成を可能にする。高いpH値で第二鉄を溶解させる従来の方法と対照的に、そのようなアルカリ第二鉄塩水溶液は、詳しく後述するように、有機添加物を用いても用いなくても生成され得る。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】アルカリ第二鉄水溶液で還元硫黄含有流体を処理するための方法の実施形態である。
図2】本発明のアルカリ第二鉄塩溶液で還元硫黄含有流体を処理し、使用後にアルカリ第二鉄塩水溶液を再生するための典型的なシステムの概略図である。
図3】例6において説明されるような緩衝液で希釈された精製アルカリ第二鉄塩溶液のUV-Vスペクトルである。
図4】例8において説明されるようなアルカリ第二鉄塩水溶液による二酸化炭素の捕捉および放出に伴うpH値の変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明は、還元硫黄化合物を除去するための、特に、そのような還元硫黄化合物を含む流体から硫化水素(HS)を除去するための方法および材料に関する。材料は、流体から還元硫黄化合物を除去するために用いられ得るアルカリ第二鉄塩溶液を含む。実施形態において、材料は、アルカリ溶液への異例の溶解性を有する複合体に自己形成し、流体から還元硫黄化合物を除去するために効率的に用いられ得る第二鉄塩溶液を含む。また材料は、本明細書の方法において有用なアルカリ第二鉄溶液を調製するために用いられ得る第二鉄含有固体物質または塩も含む。本発明は更に、本明細書におけるアルカリ第二鉄塩溶液を生成するための方法、ならびに少なくとも本明細書におけるアルカリ第二鉄塩溶液の調製に有用な水溶性第二鉄塩および第二鉄含有材料を生成するための方法を提供する。
【0011】
実施形態において、本発明は、流体から還元硫黄化合物を除去するための方法を提供する。実施形態において、流体は気体である。実施形態において、流体は液体である。特定の実施形態において、還元硫黄化合物は硫化水素である。本明細書の方法は、特に、たとえば硫化水素を含む炭化水素含有ガスなどのガスの処理に有用である。硫化水素を含有する流体は、実施形態において、たとえばメルカプタン、二硫化アルキル、硫化カルボニル、または二硫化炭素などの1または複数の他の還元硫黄化合物も含有し得る。硫化水素および/または他の還元硫黄化合物を含有する流体は、実施形態において、二酸化炭素、酸素、またはそれらの組み合わせも含有し得る。
【0012】
実施形態において、還元硫黄化合物を除去するための方法は、本明細書で説明するようなアルカリ第二鉄塩水溶液を、少なくとも1つの還元硫黄化合物を含有する還元硫黄含有流体に接触させることを含む。実施形態において、アルカリ第二鉄塩水溶液は、第二鉄イオン(Fe3+)、カリウムイオン(K)、炭酸イオン(CO32-)、および重炭酸イオン(HCO3-)と、任意選択的に水酸化イオンおよび硝酸イオンとを備え、任意選択的に1または複数の有機添加物を含有する。第二鉄塩溶液と還元硫黄含有流体を接触させることにより、還元アルカリ第二鉄溶液が生成され、これは、流体中の少なくとも1つの還元硫黄化合物の少なくとも一部を酸化させること、および溶液中の第二鉄イオンの少なくとも一部を第一鉄イオン(Fe2+)に還元することを備える。接触させることはまた、アルカリ第二鉄水溶液中に1または複数の硫化鉄化合物の形成をもたらし、それによって還元硫黄化合物の少なくとも一部を流体から除去する。硫化鉄を生成する鉄と硫化物との直接反応により、この化学現象は、鉄を可溶化するために有機系キレート剤を用いる他の「液体レドックス」プロセスと区別されると考えられる。実施形態において、接触の間、第二鉄の少なくとも一部はアルカリ第二鉄溶液中に溶解したままである。
【0013】
実施形態において、方法は更に、流体から還元硫黄化合物の少なくとも一部を除去した後、少なくとも部分的に還元されたアルカリ第二鉄水溶液から硫化鉄化合物を除去することを備える。実施形態において、方法は更に、沈殿、沈下、遠心分離、および濾過によって、少なくとも部分的に還元されたアルカリ第二鉄水溶液から硫化鉄化合物を分離することを備える。そのような分離は、当技術分野において周知の方法によって実現され得る。実施形態において、方法は更に、還元アルカリ第二鉄水溶液中に形成された第一鉄の少なくとも一部を酸化させて第二鉄に戻し、少なくとも部分的に第二鉄水溶液を再生することを備える。実施形態において、方法は更に、第一鉄イオンの少なくとも一部を第二鉄イオンに酸化させるために還元アルカリ鉄溶液を酸化剤に暴露することにより、少なくとも部分的に再生したアルカリ第二鉄塩水溶液を生成することを備える。実施形態において、暴露ステップは、単体硫黄を生成することを備える。
【0014】
実施形態において、接触ステップの前、アルカリ第二鉄塩水溶液は少なくとも幾らかの鉄系粒子を備え、接触ステップ(a)、生成ステップ(b)、および暴露(酸化)ステップ(c)の少なくとも1つにより、再生アルカリ第二鉄水溶液には、鉄系粒子が含まれない。
【0015】
実施形態において、還元硫黄化合物を除去するためのプロセスは、連続的プロセスである。実施形態において、接触ステップ(a)、生成ステップ(b)、および暴露ステップ(c)は、存在する場合、付随的に発生する。実施形態において、方法は、ステップ(a)~(c)を少なくとも1回反復することを備える。
【0016】
方法の実施形態において、流体の流れは、流体から還元硫黄化合物を除去して精製流体を提供するために、選択された接触時間にわたりアルカリ第二鉄水溶液と接触する。実施形態において、流体との接触後、少なくとも部分的に還元されたアルカリ第二鉄溶液は、少なくとも1つの硫化鉄を含有し、その後、少なくとも部分的に還元されたアルカリ第二鉄水溶液において硫化鉄は単体硫黄および第二鉄に酸化される。実施形態において、そのような除去は連続的である。実施形態において、少なくとも部分的に還元されたアルカリ第二鉄水溶液は、アルカリ第二鉄水溶液を少なくとも部分的に再生するために酸化される。酸化は、少なくとも部分的に還元された第二鉄塩溶液を、たとえば空気中の酸素または他の酸素含有ガスなどの酸化剤に接触させることによって行われ得る。
【0017】
実施形態において、アルカリ第二鉄塩水溶液は、第二鉄イオン(Fe3+)、カリウムイオン(K)、炭酸イオン(CO32-)、重炭酸イオン(HCO )、および任意選択的に硝酸イオンを備え、第二鉄イオンに対するカリウムイオンのモル比は1.0以上である。実施形態において、アルカリ鉄塩水溶液は、アニオン性かつアルカリ溶液への極めて高い溶解性を示す第二鉄炭酸塩複合体を備える。実施形態において、アルカリ第二鉄塩水溶液は、硝酸イオンを備える。実施形態において、アルカリ第二鉄塩水溶液は、重炭酸イオンを備える。
【0018】
実施形態において、アルカリ第二鉄塩水溶液は、10,000ppm以下のレベルのハライドイオンを含有する。実施形態において、アルカリ第二鉄塩水溶液は、1,000ppm以下のレベルのハライドイオンを含有する。実施形態において、アルカリ第二鉄塩水溶液は、100ppm以下のレベルのハライドイオンを含有する。実施形態において、アルカリ第二鉄塩水溶液は、10ppm以下のレベルのハライドイオンを含有する。実施形態において、アルカリ第二鉄塩水溶液は、検出可能なレベルのハライドイオンを含有しない。実施形態において、アルカリ第二鉄塩水溶液は、10,000ppm以下のレベルの塩化物イオンを含有する。実施形態において、アルカリ第二鉄塩水溶液は、1,000ppm以下のレベルの塩化物イオンを含有する。実施形態において、アルカリ第二鉄塩水溶液は、100ppm以下のレベルの塩化物イオンを含有する。実施形態において、アルカリ第二鉄塩水溶液は、10ppm以下のレベルの塩化物イオンを含有する。実施形態において、アルカリ第二鉄塩水溶液は、検出可能なレベルの塩化物イオンを含有しない。
【0019】
実施形態において、アルカリ第二鉄塩水溶液は、10,000ppm以下のレベルの硫酸イオンを含有する。実施形態において、アルカリ第二鉄塩水溶液は、1,000ppm以下のレベルの硫酸イオンを含有する。実施形態において、アルカリ第二鉄塩水溶液は、100ppm以下のレベルの硫酸イオンを含有する。実施形態において、アルカリ第二鉄塩水溶液は、10ppm以下のレベルの硫酸イオンを含有する。実施形態において、アルカリ第二鉄塩水溶液は、検出可能なレベルの硫酸イオンを含有しない。実施形態において、アルカリ第二鉄塩水溶液は、10,000ppm以下のレベルのナトリウムイオンを含有する。実施形態において、アルカリ第二鉄塩水溶液は、1,000ppm以下のレベルのナトリウムイオンを含有する。実施形態において、アルカリ第二鉄塩水溶液は、100ppm以下のレベルのナトリウムイオンを含有する。実施形態において、アルカリ第二鉄塩水溶液は、10ppm以下のレベルのナトリウムイオンを含有する。実施形態において、アルカリ第二鉄塩水溶液は、検出可能なレベルのナトリウムイオンを含有しない。実施形態において、アルカリ第二鉄塩水溶液は、NaClを含有しない。実施形態において、アルカリ第二鉄塩水溶液は、エタノールを含有しない。実施形態において、アルカリ第二鉄塩水溶液は、1~6の炭素原子を有するアルコールを含有しない。
【0020】
実施形態において、アルカリ第二鉄塩水溶液は、有機溶媒以外に1または複数の有機添加物を備える。実施形態において、1または複数の有機添加物は、キレート剤である。実施形態において、有機溶媒以外の任意の有機添加物は、各有機添加物に対する溶液中の第二鉄イオンのモル比が2以上であるような濃度で溶液中に存在する。溶液が1または複数の有機添加物を備える実施形態において、第二鉄は、有機添加物の各々に対してモル過剰、たとえば3倍以上、5倍以上、10倍以上、または20倍以上のモル過剰で溶液中に存在する。実施形態において、アルカリ第二鉄塩水溶液は、キレート剤を含有しない。実施形態において、アルカリ第二鉄塩水溶液は、EDTAイオンを含有しない。
【0021】
実施形態において、アルカリ第二鉄塩水溶液は、濃縮液の希釈によって作られる。実施形態において、濃縮液は、水性媒体によって1倍~最大60倍に希釈され、特定の実施形態において、希釈に用いられる水性媒体は、炭酸/重炭酸カリウム緩衝液である。より具体的な実施形態において、濃縮液は、水性媒体、特に炭酸/重炭酸カリウム水性緩衝液で10倍~30倍に希釈される。アルカリ第二鉄塩水溶液の異例の態様は、濃縮液が水ではなく炭酸/重炭酸カリウム緩衝液で好適に希釈される点である。水での希釈は、多くの場合、酸化鉄粒子の沈殿をもたらすが、炭酸/重炭酸カリウム緩衝液での希釈は、完全溶解性のアルカリ第二鉄塩水溶液をもたらす。本明細書の方法で用いるための第二鉄イオン塩溶液を希釈するために用いられる水性媒体は、含有する第二鉄イオンの溶解性に悪影響を及ぼすことなくこれを向上させ得る他のイオン性または非イオン性成分を含んでよい。
a.合成方法
【0022】
広範には、本特許出願は、アルカリ第二鉄塩水溶液を生成および使用するための方法にも関する。更に詳しく後述するように、新たなアルカリ第二鉄塩水溶液は、競合するHS制御技術よりも大幅に低いコストおよび化学的消費量で、様々な方法を介して現場で生成および再生され得る。
i.水中合成方法
【0023】
新たなアルカリ第二鉄塩水溶液を生成する水中合成方法は、一般に、少なくとも1つの第二鉄塩試剤を少なくとも1つのアルカリ金属炭酸塩試剤と反応させることを含む。いくつかの実施形態において、少なくとも1つの第二鉄塩試剤は、硝酸第二鉄(Fe(NO)を備える。一般に、少なくとも1つのアルカリ金属炭酸塩試剤は、炭酸カリウムまたは重炭酸カリウムおよびその組み合わせを備える。第二鉄塩試剤は、たとえば水溶液中に溶解した状態、または乾燥状態や吸湿性固形物の状態など、任意の適切な形態であってよい。たとえば、少なくとも幾らかの硝酸第二鉄が固形物として用いられる実施形態において、硝酸第二鉄は、六水和物塩または九水和物塩およびその組み合わせの形態であってよい。第二鉄塩を備える酸性水溶液は、たとえば、酸性溶液(たとえば硝酸第二鉄溶液を生成するための硝酸)を用いて金属くず(たとえば鉄または鋼鉄)から得た第二鉄を可溶化することによって生成され得る。
【0024】
同様に、炭酸カリウムおよび重炭酸カリウムは、任意の適切な形態であってよい。たとえば、炭酸カリウムは、無水塩またはセスキ水和物塩(KCO・1.5HO)およびその組み合わせの形態で用いられ得る。更に詳しく後述するように、理論に束縛されるものではないが、少なくとも炭酸イオンは、アルカリ第二鉄水溶液中の第二鉄と複合化し、その溶解性を大幅に高めると考えられる。また、硝酸塩を備えるアルカリ第二鉄塩溶液が好適であってよく、その理由として、異なる第二鉄およびアルカリ金属塩から作られた同様の混合物によると、沈殿物(たとえば第二鉄系粒子などの粒子)を含まないアルカリ第二鉄水溶液が生成されない(例1を参照)。実施形態において、第二鉄塩試剤として水溶性第二鉄塩が用いられ得る。特定の実施形態において、第二鉄塩試剤は塩化第二鉄ではない。特定の実施形態において、第二鉄塩試剤は硫酸第二鉄ではない。
【0025】
本明細書で用いられる場合、「アルカリ金属炭酸塩」とは、1または複数のアルカリ金属(たとえばLi、Na、およびK)の炭酸塩を意味する。したがって、本特許出願の目的のために、アルカリ土類金属(たとえばBa、Mg、Ca、Sr)の炭酸塩は、「アルカリ金属炭酸塩」という用語の範囲に含まれないものとする。
【0026】
「アルカリ水溶液」という用語は、7.0より高いpH値の水溶液を指す。好適なアルカリ水溶液は、8.0より高いpH値を有するものである。アルカリ水溶液は、9~13のpH値を有するものを含む。水溶液および水性媒体という用語は、水と有機溶媒との混和性混合物も含み、この場合、水が水性媒体または水溶液の主たる成分(体積で50%以上)である。特定の実施形態において、たとえばエタノールなどの水溶性の1または複数の有機溶媒が、体積で最大20%まで水性媒体中に存在する。特定の実施形態において、たとえばエタノールなどの1または複数の水溶性有機溶媒は、体積で最大10%まで水性媒体中に存在する。
【0027】
上述した反応ステップの後、結果として生じるアルカリ第二鉄塩水溶液は、一般に、第二鉄イオン(Fe3+)、カリウムイオン(K)、炭酸イオン(CO 2-)、および重炭酸イオン(HCO )を備え、任意選択的に1または複数の有機添加物を有する。更に詳しく後述するように、第二鉄イオンに対するカリウムイオンのモル比は、一般に2.0以上である。
【0028】
理論に束縛されるものではないが、アルカリ溶液中で高い溶解性を保つ第二鉄の能力は、新規的な第二鉄塩の組成、特に、本質的にアニオン性である、炭酸イオン、重炭酸イオン、および/または水酸化イオンまたは硝酸イオンを有する第二鉄複合体の構造に起因すると考えられる。また、アルカリ溶液中で高い溶解性を保つ第二鉄の能力は、第二鉄の炭酸イオン、重炭酸イオン、および/または水酸化物イオンまたは硝酸イオンとの自己形成により、本質的にアニオン性である複合体を形成することに起因すると考えられる。よって、アルカリ第二鉄塩水溶液を生成するために、任意の適切な水中合成方法(たとえば特定の試剤の使用または試剤の結合順序)が選択され得る。いくつかの適切な方法を後述する。
【0029】
本明細書で用いられる場合、「水溶液」は、(1)主たる溶媒(体積で50%超過)が水である溶液、および(2)水を含む。水が用いられる場合、水は、たとえば脱イオン水または蒸留水など、精製された状態の水であってよい。上述したように、水性媒体は、水と水溶性有機溶媒との混和性混合物であってよい。そのような水性媒体は単相であり、目視できる相分離を示さない。溶液という用語は、本明細書において、粒子を備える懸濁液と区別するため、特に、水性媒体中に第二鉄イオン複合体を備える溶液を、鉄系粒子を含有する懸濁液と区別するために用いられる。たとえば、フェリハイドライト、赤鉄鉱、アカガネイト、針鉄鉱、レピドクロサイト、およびマグネタイトなどの酸化鉄の懸濁液は、水溶性鉄イオンまたは水溶性のアニオン性炭酸鉄複合体を備える溶液と区別される。本明細書の実施形態において、溶液は、着色された場合でも、一般に目視検査で透明である。本明細書の実施形態において、目視検査によると懸濁粒子を有さない。本明細書の実施形態において、遠心分離にかけられた後の溶液は、目視検査によると固体ペレットを有さない。本明細書の実施形態において、0.3ミクロンの濾紙で濾過された溶液は、濾紙に目視できる固体粒子を示さない。本明細書の実施形態において、溶液は、当技術分野において理解される用語としてのコロイド溶液であってよい。本明細書の実施形態において、溶液は、当技術分野において理解される用語としてのコロイド溶液ではない。本明細書の実施形態において、溶液は、当技術分野において理解される現象としてのチンダル現象を示さない。
【0030】
溶液という用語は、本明細書において、当技術分野で用いられるのと同じく広範に用いられる。実施形態において、溶液という用語は、水または水性媒体に固形物、特に塩が溶けた溶液を指す。本明細書において、1グラム以上の固形物が100mLの水またはアルカリ緩衝液であってよい水性媒体に溶解する場合、その固形物は水または水性媒体への溶解性を有する。実施形態において、本発明の好適な固形物および塩は、2グラム以上の固形物または塩が100mLの水またはたとえばアルカリ緩衝液などの水性媒体に溶解するような水または水性媒体への高い溶解性を有する。溶解性は、周囲室温(25℃)および周囲圧力(1気圧)で査定される。所与の溶媒への所与の固形物の溶解性は、水または水性媒体中の他の溶質の存在に影響を及ぼされ得ることが理解される。実施形態において、本発明の特定の塩および固形物は、0.1グラム以上の塩または固形物が100mLの水または水性媒体に溶解するような水または水性媒体への溶解性を有する。実施形態において、本発明の特定の塩および固形物は、0.5グラム以上の塩または固形物が100mLの水または水性媒体に溶解するような水または水性媒体への溶解性を有する。実施形態において、本発明の特定の塩および固形物は、1グラム以上の塩または固形物が100mLの水または水性媒体に溶解するような水または水性媒体への溶解性を有する。実施形態において、本発明の特定の塩および固形物は、5グラム以上/100mLの水または水性媒体というレベルで水または水性媒体への溶解性を有する。実施形態において、本発明の特定の塩および固形物は、50グラム以上/100mLの水または水性媒体というレベルで水または水性媒体への溶解性を有する。
【0031】
1つの実施形態において、試剤を反応させることは、第1の水溶液と第2の水溶液とを結合させることを備える。1つの実施形態において、第1の水溶液は少なくとも1つの第二鉄塩試剤を備え、第2の水溶液は少なくとも1つのアルカリ金属炭酸塩試剤を備える。第1の水溶液および/または第2の水溶液は、1または複数の有機添加物の少なくとも1つを備えてよい。また、1または複数の有機添加物の少なくとも1つが、生成されたアルカリ第二鉄水溶液に加えられ得る。
【0032】
上述したように、必要な試剤は、少なくとも1つの第二鉄塩および少なくとも1つのアルカリ金属炭酸塩である。少なくとも1つの第二鉄塩の酸性およびアルカリ金属炭酸塩の塩基性により、接触ステップの結果、二酸化炭素ガスを発生させる、ある程度の発熱を伴う激しい反応が生じる。発生した二酸化炭素の少なくとも一部は、ガスとして反応混合物から放出される。実施形態において、炭酸塩中の総COの10%以上が放出される。実施形態において、CO中の総炭酸塩の最大20%が放出される。
【0033】
本明細書で用いられる場合、「有機添加物」とは、少なくとも1つの炭素原子および少なくとも1つの水素原子を有する任意の分子を意味する。有機添加物は、中でも特に、1または複数のキレート剤を含む。有機添加剤は、任意の適切な形態で含まれ得る。たとえば、エチレンジアミン四酢酸(「EDTA」)は、酸形態(EDTA)または塩形態(たとえばNaEDTA、NaEDTA、KEDTA、およびKEDTA)のいずれかで含まれ得る。
【0034】
いくつかの実施形態において、反応は、少なくとも1つの第二鉄塩試剤をアルカリ金属炭酸塩試剤と完全に結合させてアルカリ第二鉄水溶液を生成することを備える。実施形態において、第二鉄試剤は、反応時に水溶性アルカリ第二鉄塩に変換される。その結果生じるアルカリ第二鉄塩水溶液には、好適には、たとえば鉄系粒子などの粒子が含まれない。実施形態において、濾過、沈殿、または遠心分離のステップは、濾過または遠心分離された溶液が、溶液からの固形物または塩の更なる沈殿に対し安定している限り、反応時に形成された沈殿物を除去するために用いられ得る。実施形態において、完全に溶解性の溶液が形成されるため、濾過、沈殿、または遠心分離のステップは必要ではない。
【0035】
アルカリ第二鉄水溶液中の粒子、特に酸化鉄系またはオキシ水酸化物系粒子の存在は、いくつかの理由により好ましくない。たとえば、アルカリ第二鉄水溶液を還元硫黄含有流体と接触させ、その結果生じる溶液を酸化剤に暴露することにより、単体硫黄が生成される。単体硫黄は、水および本発明のアルカリ第二鉄水溶液への溶解性を有さない。したがって、単体硫黄は一般に、単純な液体固体分離プロセスによって除去され、その結果、アルカリ第二鉄水溶液の回収率が高くなり、有効第二鉄の損失が最小限になる。対照的に、鉄系粒子は単体硫黄内に留まる傾向があり、その結果、そのような液体固体分離プロセスにおいて第二鉄の損失が生じる。したがって、アルカリ第二鉄水溶液中の鉄系粒子の存在は、好ましくない。また、理論に束縛されるものではないが、粒子(たとえば鉄系粒子)の存在は、アルカリ第二鉄水溶液における他の化学的に非反応性または低反応性の鉄系粒子の形成を促進する(たとえば触媒作用をもたらす)ことがあり、その結果、還元硫黄捕捉剤としての有効鉄の損失が生じると考えられる。
【0036】
上述したように、アルカリ第二鉄塩水溶液には、好適には粒子が含まれない(たとえば鉄系粒子が含まれない)。ただし、本発明の発明者は、より高い濃度のアルカリ鉄水溶液の生成後、場合によっては粒子が形成され得ることを発見した。たとえば、第二鉄で過飽和したアルカリ第二鉄水溶液は、熱力学的に不安定であり、鉄系粒子を沈殿させ得る。いくつかの例において、これらのアルカリ鉄水溶液には、任意の有機添加物が含まれない。しかし、そのような鉄系粒子は、本明細書で説明するような(たとえば準化学量論的な)低濃度での有機添加物の添加によって、溶液中に溶解し得る。あるいは、そのような粒子は、溶液から濾過され得る。意外にも、本発明の発明者は、少なくとも幾らかの粒子(たとえば鉄系粒子)を備えるアルカリ第二鉄水溶液が還元硫黄含有流体と接触し、その後、酸化剤、たとえば空気または酸素に暴露されることにより、粒子が含まれないアルカリ第二鉄水溶液が生成され得ることを発見した。
【0037】
本明細書で用いられる場合、「粒子が含まれない」とは、アルカリ第二鉄水溶液に、目視できる粒子が含まれないことを意味する。1つの実施形態において、アルカリ第二鉄水溶液には、鉄系粒子が含まれない。本明細書で用いられる場合、「鉄系粒子」とは、アルカリ第二鉄塩水溶液の生成中または生成後に形成され得る鉄を備える任意の粒子(たとえば沈殿物)を意味する。たとえば、鉄系粒子は、酸化鉄、オキシ水酸化鉄、混合金属酸化物、およびその任意の組み合わせであってよい。1つの実施形態において、アルカリ第二鉄水溶液には、酸化鉄粒子(たとえばフェリハイドライト、赤鉄鉱、アカガネイト、針鉄鉱、レピドクロサイト、およびマグネタイト)が含まれない。
【0038】
鉄系粒子は、一般に、当技術分野で知られている任意の分析方法によって検出され得る。たとえば、鉄系粒子は、液体媒体からあらゆる沈殿物を濾過した後、誘導結合プラズマ(ICP)を用いて沈殿物を分析することによって検出され得る。
ii.追加の方法
【0039】
上述したように、アルカリ第二鉄塩水溶液が生成され、その後、還元硫黄化合物(たとえばHS)を備える流体の処理に用いられ得る。そのような合成に加えて、アルカリ第二鉄塩溶液は、少なくとも部分的に反応した固体混合物および少なくとも部分的に反応した湿潤固体混合物を含む中間形態から生成され得る。たとえば、そのような少なくとも部分的に反応した混合物は、第二鉄塩試剤およびアルカリ炭酸塩試剤の固形物を、任意選択的に1または複数の第1の有機添加物と結合させ、その後、試剤の少なくとも一部を反応させるために力強く混合すること(たとえばボールミル)によって生成され得る。第二鉄塩試剤という用語は、本発明の溶液を調製するために用いられる第二鉄塩を示し、この塩試剤を、調製中に形成される溶解性第二鉄塩と区別するために用いられる。この混合は、追加の水なしで行われてよく(ただし、たとえば硝酸第二鉄六水和物塩および/または硝酸第二鉄一水和物塩に水が存在するように塩および固形物に水が存在し得る)、あるいは、第二鉄塩および/またはアルカリ金属炭酸塩試剤を完全に可溶化し反応させるには不十分な量の水または水性媒体で行われてよい。その後、反応時に形成される第二鉄塩を完全に可溶化するために水または水性媒体を追加することによって、溶液が調製される。
iii.乾燥および再水和
【0040】
生成後、濃縮されたアルカリ第二鉄塩溶液は、還元硫黄含有流体の処理に用いるために希釈され得る。アルカリ第二鉄塩水溶液の希釈は、アルカリ金属炭酸塩水溶液または水性アルカリ金属炭酸塩-重炭酸塩緩衝液に濃縮アルカリ第二鉄水溶液を加えることによって行われ得ることが分かっている。実施形態において、たとえば、濃縮アルカリ第二鉄水溶液は、8.5~11のpH値範囲の水性アルカリ金属炭酸塩-重炭酸塩緩衝液(たとえば水性炭酸-重炭酸カリウム塩緩衝液)に加えられる。実質的に中性付近のpH値の水溶液(たとえば蒸留水、脱イオン水)でアルカリ第二鉄水溶液を希釈することにより鉄系粒子の形成が生じ得ることが分かっているため、水性金属炭酸塩または水性金属炭酸塩-重炭酸塩緩衝液でアルカリ第二鉄塩水溶液を希釈することが好適であり得る。
【0041】
生成後、アルカリ第二鉄塩水溶液は、アルカリ第二鉄塩水溶液を生成するために再水和され得る固体第二鉄含有塩混合物を形成するために乾燥され得る。たとえば、乾燥は、中でも特に蒸発または噴霧乾燥およびその組み合わせによって行われ得る。乾燥後、固形材料は、たとえば水溶液(たとえば水)、アルカリ金属炭酸塩水溶液および/または水性アルカリ金属炭酸塩-重炭酸塩緩衝溶液(たとえば水性炭酸-重炭酸カリウム緩衝溶液)を用いて再水和され得る。固体材料に再水和溶液が加えられ、またはその逆であってよい。そのような固体第二鉄含有混合物は、有利な点として、集中処理施設で生成され、その後、使用点付近の場所で希釈され得る。
b.生成物および組成
i.アルカリ第二鉄水溶液
【0042】
一般に、結果として生じる本発明のアルカリ第二鉄塩水溶液は、第二鉄イオン(Fe3+)、カリウムイオン(K)、炭酸イオン(CO 2-)、および重炭酸イオン(HCO3-)を備える。いくつかの実施形態において、アルカリ第二鉄塩水溶液は、少なくとも幾らかの水酸化物イオン(OH)または硝酸イオン(NO )を更に備える。いくつかの実施形態において、アルカリ第二鉄水溶液は、1または複数の有機添加物を備える。いくつかの好適な実施形態において、アルカリ第二鉄塩水溶液には、粒子が含まれない。いくつかの実施形態において、アルカリ第二鉄水溶液には、第二鉄系粒子が含まれない。
【0043】
実施形態において、アルカリ第二鉄塩水溶液は、0.005~5.0mols/Lの第二鉄濃度を有する。より高濃度のアルカリ第二鉄塩水溶液は、水溶液(たとえば水またはアルカリ水性緩衝溶液)を加えると溶解し得る沈殿固形物(たとえば水溶性鉄系固形物)によって生成され得る。アルカリ第二鉄水溶液のpH値は、一般に8.0~13.0であってよい。1つの実施形態において、アルカリ第二鉄塩水溶液のpH値は、8.0以上である。他の実施形態において、アルカリ第二鉄塩水溶液のpH値は、8.5以上である。また他の実施形態において、アルカリ第二鉄塩水溶液のpH値は、9.0以上である。他の実施形態において、アルカリ第二鉄塩水溶液のpH値は、9.5以上である。他の実施形態において、アルカリ第二鉄塩水溶液のpH値は、10.0以上である。また他の実施形態において、アルカリ第二鉄塩水溶液のpH値は、10.5以上である。他の実施形態において、アルカリ第二鉄塩水溶液のpH値は、11.0以上である。また他の実施形態において、アルカリ第二鉄塩水溶液のpH値は、11.5以上である。1つの実施形態において、アルカリ第二鉄塩水溶液のpH値は、13.0以下である。他の実施形態において、アルカリ第二鉄塩水溶液のpH値は、12.5以下である。また他の実施形態において、アルカリ第二鉄塩水溶液のpH値は、12.0以下である。他の実施形態において、アルカリ第二鉄塩水溶液のpH値は、11.5以下である。また他の実施形態において、アルカリ第二鉄塩水溶液のpH値は、11.0以下である。
【0044】
実施形態において、アルカリ第二鉄塩水溶液は、8以上、または8.5以上、または9以上、または9.5以上、または10以上、または10.5以上、または11.0以上、または8~13.5、または8.5~13.5、または9~13.5、または10~13.5、または10.5~13.5、または11~13.5、または9~12.5、または9.5~12、または9~11、または9~10、または11~13.5、または11~13、または11~12、または12~13.5、または12~13、または9、または10、または11、または12、または13のpH値を有する。
ii.固体生成物
【0045】
上述したように、アルカリ第二鉄水溶液は、アルカリ第二鉄塩水溶液(すなわち「固体第二鉄含有材料」)を乾燥することによって生成された中間固体材料および/または固体材料から生成され得る。そのような固体生成物は、中でも特に、保管空間の低減および使用点への低い輸送費という利点を有し得る。理論に束縛されるものではないが、これらの材料中の第二鉄塩は、複合第二鉄金属塩として存在してよく、混合金属塩は、第二鉄イオンと、カリウムイオン、炭酸イオン、重炭酸イオン、(存在する場合)硝酸イオン、水酸化物イオン、および水の1または複数とを備えると考えられる。実施形態において、本明細書で説明するような反応時に形成される混合金属カリウム/第二鉄塩は、水または水性媒体への溶解性を有する。特定の実施形態において、塩中の第二鉄イオンに対するカリウムイオンのモル比は3以上である。実施形態において、塩は、そのような混合金属塩の1または複数の混合物であってよい。実施形態において、塩は、K[Fe(OH)(CO]を備える。特定の実施形態において、アルカリ塩水溶液中の第二鉄イオンに対するカリウムイオンのモル比は6以上、または6.6以上、または7以上、または8以上、または9以上、または10以上、または11以上、または12以上である。
【0046】
実施形態において、本発明の塩および固形物は、10,000ppmを超過するレベル、または1,000ppmを超過するレベル、または100ppmを超過するレベル、または10ppmを超過するレベル、または検出可能なレベルの硝酸イオンを含有しない。実施形態において、本発明の塩および固形物は、10,000ppmを超過するレベル、または1,000ppmを超過するレベル、または100ppmを超過するレベル、または10ppmを超過するレベル、または検出可能なレベルの塩化物イオン(Cl)を含有しない。実施形態において、本発明の塩および固形物は、10,000ppmを超過するレベル、または1,000ppmを超過するレベル、または100ppmを超過するレベル、または10ppmを超過するレベル、または検出可能なレベルのハライドイオン(たとえばCl、Fl、Br)を含有しない。実施形態において、本発明の塩および固形物は、10,000ppmを超過するレベル、または1,000ppmを超過するレベル、または100ppmを超過するレベル、または10ppmを超過するレベル、または検出可能なレベルの塩化ナトリウム(NaCl)を含有しない。実施形態において、本発明の塩および固形物は、10,000ppmを超過するレベル、または1,000ppmを超過するレベル、または100ppmを超過するレベル、または10ppmを超過するレベル、または検出可能なレベルのハロゲン化ナトリウムを含有しない。実施形態において、本発明の塩および固形物は、10,000ppmを超過するレベル、または1,000ppmを超過するレベル、または100ppmを超過するレベル、または10ppmを超過するレベル、または検出可能なレベルの硫酸イオンを含有しない。実施形態において、本発明の塩および固形物は、たとえばNaEDTAなど、存在し得る1または複数の有機添加物が添加された量を超過するナトリウムイオンを含有しない。実施形態において、本発明の塩および固形物は、10,000ppmを超過するレベル、または1,000ppmを超過するレベル、または100ppmを超過するレベル、または10ppmを超過するレベル、または検出可能なレベルのナトリウムイオンを含有しない。
【0047】
固体第二鉄含有材料を用いてアルカリ第二鉄塩水溶液を生成することに加えて、固体第二鉄含有材料自体が、還元硫黄含有流体を処理するためにその固体形態で役立ち得る。たとえば、固体第二鉄含有材料は、還元硫黄含有流体を処理するためのカラムへの充填物として用いられ得る粒子に加工(たとえば不活性基質に含浸)され得る。
iii.組成
【0048】
上述したように、セクションa.iおよびa.iiの合成方法の結果生じる生成物は、第二鉄、カリウム、炭酸塩、重炭酸塩、水酸化物、および任意選択的に硝酸を備え(場合によっては、これらで構成され、または主にこれらで構成され)、任意選択的に1または複数の有機添加物を有する。そのような生成物の組成が更に詳しく後述される。このセクションの目的のために、「生成物」という用語は、アルカリ第二鉄塩水溶液および固体第二鉄含有材料を含む。
【0049】
1つの実施形態において、生成物は、第二鉄(たとえば第二鉄イオン)および1または複数の有機添加物を備え、有機添加物の各々に対する第二鉄のモル比は2.0より大きい。この点に関して、第二鉄に対する1または複数の有機添加物のモル比は準化学量論的であってよく、すなわち生成物は、有機添加物より鉄のモル数を多く備える。鉄に対し準化学量論的量の有機化合物を使用することにより、大幅なコスト削減および他の利益がもたらされる。本明細書の方法は、たとえば化学量論的相当量で、または更に高頻度で第二鉄の化学量論的超過で存在するキレート剤などの有機添加物の使用を必要とする既存の技術(たとえばLoCat、Streamline、Eco-Tec)に対し大幅なコスト改善を提供する。また他の実施形態において、モル比は2.0以上である。他の実施形態において、モル比は3.0以上である。また他の実施形態において、モル比は4.0以上である。他の実施形態において、モル比は5.0以上である。また他の実施形態において、モル比は7.5以上である。他の実施形態において、モル比は10以上である。また他の実施形態において、モル比は15以上である。他の実施形態において、モル比は50以上である。1つの実施形態において、モル比は1000以下である。他の実施形態において、モル比は100以下である。上述したそのようなモル比は、生成物中に存在する任意の第1の有機添加物、第2の有機添加物、以下同様に個々に適用される。
【0050】
第二鉄に対し非化学量論的または準化学量論的比率の有機添加物を含有しない、8.0を超えるpH値の水溶性アルカリ第二鉄溶液の生成により、本明細書で説明する技術は優れたものとなり、鉄を可溶化するためにたとえばキレート剤などの有機添加物を高比率で用いる競合のHS技術に比べて、著しいコスト削減および他の利点が提供される。特に、これらの方法によって生成されたアルカリ第二鉄塩は、本質的に水または水性媒体への溶解性を有し、高いpH値で鉄を可溶化するために高比率の高価なキレート剤を必要としないと考えられる。実施形態において、これらの方法によって生成されたアルカリ第二鉄塩は、本質的にアニオン性であり、本質的に水または水性媒体への溶解性を有する第二鉄-炭酸塩複合体に自己形成し、高いpH値で鉄を可溶化するために高比率の高価なキレート剤を必要としないと考えられる。本明細書で説明するアルカリ溶液中の第二鉄イオンの大半は、有機キレート剤によってキレート化されず、還元硫黄含有流体中の還元硫黄化合物と自由に接触および反応することが可能であると考えられる。硫化水素と直接反応し、硫化第一鉄を形成する能力は、硫化水素の捕捉および酸化のための新規的かつ極めて高効率な反応経路であると考えられるものを提供する。この反応経路は、全ての鉄原子に関する1.5硫化水素分子から硫黄原子を捕捉すると理解される。対照的に、1:1またはそれ以上の有機添加物対鉄イオン比を用いる競合のHS制御技術は、鉄イオンを組み込む有機キレート剤を介した間接的な電子移動に依拠する必要があり、これは動力学的に緩慢であり、1つのHS分子を酸化させるために2つの鉄イオンが必要である。現在、本明細書で説明する技術に用いられる低レベルの有機添加物の役割は、比較的低いレベルの自由な(すなわち非複合化)第二鉄イオンを除去し、それらが結合して酸化鉄粒子を形成することを防ぐことであると考えられる。鉄イオンの大半は、任意の瞬間に、(HS捕捉後に硫化鉄として)硫黄と複合化するか、または(硫化水素の捕捉前かつ酸化再生後に)水溶性第二鉄塩として炭酸塩、重炭酸塩、およびカリウムと複合化するので、溶液中に自由な第二鉄イオンはほとんどなく、酸化第二鉄粒子を形成する機会は少ないと考えられる。本明細書で説明するように、ごく少量または低レベルの量の有機添加物は、低レベルの自由な第二鉄イオンを除去し、鉄粒子の形成の可能性を更に低減すると考えられる。
【0051】
1つの実施形態において、生成物は、第二鉄(たとえば第二鉄イオン)および1または複数の有機添加物を備え、有機添加物に対する第二鉄のモル比は、総計で2.0より大きい。また他の実施形態において、モル比は2.5以上である。他の実施形態において、モル比は3.0以上である。また他の実施形態において、モル比は4.0以上である。他の実施形態において、モル比は5.0以上である。また他の実施形態において、モル比は7.5以上である。他の実施形態において、モル比は10以上である。また他の実施形態において、モル比は15以上である。他の実施形態において、モル比は50以上である。1つの実施形態において、モル比は1000以下である。他の実施形態において、モル比は100以下である。上述したそのようなモル比は、生成物中に存在する全ての有機添加物の総和にも適用される。
【0052】
本明細書における溶液および固形物を含む生成物の実施形態において、1または複数の有機添加物の各々に対する第二鉄のモル比は、1より大きく、または1.5以上、または2以上、または2.5以上、または3以上、または4以上、または5以上、または7.5以上、または10以上、または15以上、または50以上、または1.1~50、または1.5~50、または2~50、または3~50、または4~50、または5~50、または7.5~50、または10~50、または15~50、または10~100、または50~100である。
【0053】
適切な有機添加物は、中でも特に、たとえば1または複数の水酸基、1または複数のカルボン酸基、および1または複数のアミノ基などの1または複数の官能基を備えてよい。1つの実施形態において、有機添加物は、ポリオール(すなわち少なくとも2つの水酸基を有する有機添加物)である。1つの実施形態において、有機添加物は、糖アルコールである(すなわち化学式C2n+2を有する)。1つの実施形態において、有機添加物は、たとえばC3-C24直鎖状糖アルコールなどの直鎖状糖アルコールである。1つの実施形態において、有機添加物は糖アルコールであり、この糖アルコールはソルビトール(たとえばD-ソルビトールまたはL-ソルビトールおよびその組み合わせ)である。用いられ得る他の糖アルコールは、グリセロール、エリスリトール、トレイトール、マンニトール、ガラクチトール、イジトール、アラビトール、リビトール、キシリトール、ボレミトール、ラクチトール、マルトトレイトール、マルトテトライトール、およびポリグリシトールの1または複数を含む。これらの化合物のD体またはL体のいずれか、ならびにその混合物(たとえばラセミ混合物)が用いられ得る。
【0054】
適切であり得る他のポリオール有機添加物は、単糖類、二糖類、少糖類、および多糖類を含む。1つの実施形態において、有機添加物は多糖類であり、この多糖類はペクチンである。また、植物抽出物、特に果実類の実、葉、または茎の抽出物が有機添加物として用いられ得る。たとえば、サクラ属の実、またはサクラ属の葉、またはサクラ属の茎の抽出物、およびその組み合わせが用いられ得る。他の植物の実、葉、および/または茎の抽出物も同様に用いられ得る。
【0055】
1つの実施形態において、有機添加物は、少なくとも1つのカルボン酸基を備える。1つの実施形態において、有機添加物は、少なくとも1つのアミノ基を備える。1つの実施形態において、有機添加物は、アミノポリカルボン酸である(すなわち、少なくとも1つのアミノ基および少なくとも2つのカルボン酸基を有する)。1つの実施形態において、アミノポリカルボン酸は、エチレンジアミン四酢酸(「EDTA」)である。理論に束縛されるものではないが、たとえばEDTAなどのアミノポリカルボン酸は、還元アルカリ鉄塩溶液の酸化速度を高めると考えられる。
【0056】
上述したように、新たなアルカリ第二鉄塩水溶液は、少なくとも幾らかの硝酸イオン(NO )を備えてよい。理論に束縛されるものではないが、硝酸アニオンは、他の市販の第二鉄塩(たとえば塩化第二鉄、硫化第二鉄)の対イオンに比べ、第二鉄の溶解性を高め得ると考えられる。また、硝酸イオンは、商業運転中にアルカリ第二鉄塩水溶液に暴露され得る鋼鉄、アルミニウム、および他の材料に対する腐食性が他のイオン(たとえばハライド)よりも低いことなど、追加の利益を有し得る。1つの実施形態において、生成物は、1.0以上の第二鉄に対する硝酸のモル比を備える。他の実施形態において、生成物は、1.2以上の第二鉄に対する硝酸のモル比を備える。また他の実施形態において、生成物は、1.5以上の第二鉄に対する硝酸のモル比を備える。他の実施形態において、生成物は、2.0以上の第二鉄に対する硝酸のモル比を備える。また他の実施形態において、生成物は、2.5以上の第二鉄に対する硝酸のモル比を備える。他の実施形態において、生成物は、3.0以上の第二鉄に対する硝酸のモル比を備える。
【0057】
濃縮液としての、または希釈された状態でのアルカリ第二鉄塩水溶液は、鉄または炭素鋼を腐食させない。
【0058】
上述したように、新たなアルカリ第二鉄塩水溶液は、一般に少なくとも幾らかのカリウム(K)を備える。理論に束縛されるものではないが、カリウムカチオンは、第二鉄-炭酸塩複合体の溶解性を高め、陰電荷を持つ第二鉄-炭酸塩複合体の対イオンとして機能し得ると考えられる。1つの実施形態において、生成物は、1.0以上の第二鉄に対するカリウムのモル比を備える。他の実施形態において、生成物は、2.0以上の第二鉄に対するカリウムのモル比を備える。また他の実施形態において、第二鉄に対するカリウムのモル比は3.0以上である。他の実施形態において、生成物は、4.0以上の第二鉄に対するカリウムのモル比を備える。また他の実施形態において、第二鉄に対するカリウムのモル比は5.0以上である。他の実施形態において、生成物は、6.0以上の第二鉄に対するカリウムのモル比を備える。また他の実施形態において、生成物は、7.0以上の第二鉄に対するカリウムのモル比を備える。また他の実施形態において、生成物は、9.0以上の第二鉄に対するカリウムのモル比を備える。また他の実施形態において、生成物は、10以上の第二鉄に対するカリウムのモル比を備える。また他の実施形態において、生成物は、12以上の第二鉄に対するカリウムのモル比を備える。
【0059】
本明細書のアルカリ第二鉄塩溶液の濃縮液において、第二鉄イオンに対するカリウムイオンの比は、6~11の範囲内、好適には6.6~12の範囲内である。特定の実施形態において、溶液中の第二鉄イオンに対するカリウムイオンの比は、8.5~9.5または8.9~9.1の範囲内である。実施形態において、溶液中の第二鉄イオンに対するカリウムイオンの比は、9である。
【0060】
実施形態において流体から還元硫黄化合物を除去するために用いられる使用液である、濃縮溶液の希釈によって調製される溶液において、第二鉄イオンに対するカリウムイオンの比は概して非常に高く、これは主に、濃縮液が、一般に炭酸重炭酸カリウム/緩衝液を用いて希釈されるためである。たとえば、希釈使用液において、第二鉄イオンに対するカリウムイオンの比率は20より大きく、または50より大きく、または75より大きく、または100より大きくなり得る。特定の希釈使用液において、第二鉄イオンに対するカリウムイオンの比率は65または95である。
【0061】
流体から還元硫黄化合物を除去するために用いられる他の液体レドックス技術とは異なり、本明細書で説明するアルカリ第二鉄塩水溶液は、酸化した時に検出可能な硫酸塩を生成することなく、HS捕捉再生サイクル中にアルカリ性を損失することがない。実験室試験において、HS捕捉/再生サイクルを繰り返し受けたアルカリ第二鉄塩水溶液の試料は、pH値7まで中和され、Quantofix硫酸試験紙(Machery-Nagel社、デューレン、ドイツ)を用いて試験された。硫酸塩の形跡は観察されなかった(<200mg/L)。加えて、40%のCOガス流が存在する中でも、HS捕捉再生サイクルを繰り返した結果、硫化物酸化中に硫酸塩またはチオ硫酸塩が生成されると予想されたものの、アルカリ性の段階的な損失はなかった。同じ70リットルのアルカリ第二鉄水溶液バッチを用いた7か月間のパイロットプロジェクトの間、観察されたpH値が8.5を下回ることはなかった。これにより、本明細書で説明するアルカリ第二鉄水溶液中の実質的に全ての捕捉硫化物は、硫酸塩またはチオ硫酸塩ではなく単体硫黄に変換されることが明らかになる。
【0062】
本明細書で説明する水性アルカリ第二鉄複合体による硫酸塩/チオ硫酸塩の生成がないこと、およびアルカリ性の保持は、競合するHS除去のための液体レドックスプロセスに対する主な利点である。理論に束縛されるものではないが、還元硫黄化合物と第二鉄-炭酸塩複合体との直接反応によって硫化鉄が瞬時に形成されることにより、実質的に全ての捕捉硫化物イオンが溶液から除去され、そのため、酸化再生中の硫酸塩の形成およびアルカリ性の損失が防がれると考えられる。LoCatおよび同様の液体レドックス技術において、硫化物は最初にアルカリ緩衝液によって捕捉され、硫化鉄への直接変換は生じない。捕捉された硫化物イオンは、再生中、部分的に酸化して硫酸塩およびチオ硫酸塩となる。その結果、溶液は徐々にアルカリ性を損失し、蓄積した硫酸塩を除去するために定期的なパージ流を必要とし、またアルカリ性を保持するために水酸化ナトリウムまたは他の塩基の定期的な追加を必要とする。実施形態において、本明細書で説明するアルカリ第二鉄塩水溶液は、還元硫黄化合物(特にHS)を含有する流体を除去するために用いられる場合、酸化時に検出可能な硫酸塩を生成することなく、複数回のHS捕捉再生サイクル中にアルカリ性を損失することがない。実施形態において、そのような除去用途で用いられる場合のアルカリ第二鉄塩水溶液において生成される硫酸塩のレベルは、500mg/L未満である。実施形態において、そのような除去用途で用いられる場合のアルカリ第二鉄塩水溶液において生成される硫酸塩のレベルは、400mg/Lである。実施形態において、そのような除去用途で用いられる場合のアルカリ第二鉄塩水溶液において生成される硫酸塩のレベルは、300mg/Lである。実施形態において、そのような除去用途で用いられる場合のアルカリ第二鉄塩水溶液において生成される硫酸塩のレベルは、200mg/Lである。
c.アルカリ第二鉄水溶液の使用方法
【0063】
上述したように、本発明のアルカリ第二鉄塩水溶液は、還元硫黄含有流体を処理するために用いられ得る。たとえば、新たなアルカリ第二鉄塩水溶液は、中でも特に、天然ガス流、(たとえば、中でも特に廃水、埋立地からの)バイオガス流、石油、地熱ベントガス、および製紙工場からの廃水を処理するために用いられ得る。また、新たなアルカリ第二鉄塩水溶液は、主に酸性ガス(COおよびHS)から成る、アミンプロセスからの流出物を処理するために用いられ得る。本明細書で説明する固体第二鉄含有材料もまた、これらの種類の還元硫黄含有流体を処理するために役立ち得る。
【0064】
ここで図1を参照すると、還元硫黄含有流体を処理するための方法(100)が示される。図示するように、方法(100)は一般に、最初にアルカリ第二鉄水溶液を還元硫黄含有流体と接触させること(110)を備える。アルカリ第二鉄水溶液は、第二鉄イオン(Fe3+)、カリウムイオン(K)、炭酸イオン(CO 2-)、および重炭酸イオン(HCO )を備え、任意選択的に1または複数の有機添加物を有する。還元硫黄含有流体は一般に、たとえばHSなど、少なくとも幾らかの少なくとも1つの還元硫黄化合物を備える。
【0065】
本明細書で用いられる場合、「還元硫黄化合物」とは、-2の酸化状態を有する任意の硫黄化合物を意味する。たとえば、硫化水素(HS)は、硫黄の酸化状態が-2である化合物である。他の還元硫黄化合物は、硫化カルボニル(COS)、二硫化炭素(CS)、およびメルカプタンを含む。本発明のアルカリ第二鉄水溶液を用いて生成され得る酸化型の硫黄は、0の酸化状態を有する単体硫黄を含む。
【0066】
接触(110)に付随して、方法は一般に、還元アルカリ鉄溶液または還元鉄粒子、たとえば硫化第一鉄(FeS)または関連する硫化鉄の懸濁液を生成すること(120)を備える。生成ステップ(120)は一般に、アルカリ第二鉄水溶液を介して少なくとも1つの還元硫黄化合物の少なくとも幾らかを酸化させることにより、第二鉄イオンの少なくとも幾らかを第一鉄イオンに還元することを備える。酸化還元反応は、一般に、たとえばHSなどの還元硫黄化合物を、たとえば硫化第一鉄または単体硫黄に変換する。また、生成ステップ(120)は、一般に、少なくとも幾らかの硫化鉄化合物を生成することを備える。理論に束縛されるものではないが、結果として生じる第一鉄イオン(Fe2+)は、最終的に還元硫黄化合物と反応し、黒色沈殿物である硫化第一鉄(たとえばFeS)を形成すると理解される。
【0067】
一般に、接触ステップ(a、110)および生成ステップ(b、120)に付随して、方法(100)は、還元硫黄化合物をほとんどまたは全く含有しない精製流体を排出することを備える。すなわち、精製流体(出口流体)は、還元硫黄含有流体(入口流体)よりも大幅に低い濃度の還元硫黄化合物を有する。たとえば、HSを備える入口天然ガス流または入口バイオガスガス流は、大幅に低減されたHS濃度を有する精製ガス流として排出され得る。この点に関して、実験室およびパイロット試験において、本発明のアルカリ第二鉄塩水溶液は、高濃度の(たとえば100,000ppmもの)HSを検出不可能なレベルまで低減し得ることがわかっている。第二鉄に対し1:1またはそれ以上の比でキレート剤を用いる他の「液体レドックス」HS制御技術は、HSを10ppm未満に低減するという問題を有し、この理由の一部は、鉄と硫化物との間の電子移動プロセスが有機キレート剤を介して間接的であるためと考えられる。対照的に、本発明は、硫化第一鉄を形成する、第二鉄と硫化水素との瞬時の直接反応を可能にすると考えられる。
【0068】
接触(110)および生成(120)ステップの後、またはそれらに付随して、方法は一般に、還元アルカリ鉄溶液または硫化第一鉄粒子の懸濁液を酸化剤に暴露すること(130)を備える。適切な酸化剤は、中でも特に(たとえば空気中の)酸素および過酸化水素であってよい。これにより、暴露ステップ(130)は、再生アルカリ第二鉄塩水溶液を生成する。また、このステップは一般に、(たとえば生成ステップ(120)で形成された硫化第一鉄から)少なくとも幾らかの単体硫黄を生成することを備える。したがって、再生アルカリ第二鉄水溶液は一般に、固体単体硫黄とアルカリ第二鉄水溶液との混合物である。接触(110)、生成(120)、および暴露(130)ステップは、少なくとも1回反復され得る。還元アルカリ第二鉄水溶液がアルカリ第二鉄塩水溶液に再生されるという能力により、これらのステップは無限に繰り返され得ることが分かっている。
【0069】
加えて、単体硫黄は、定期的または継続的に、再生アルカリ鉄溶液から分離され得る(140)。
【0070】
意外にも、発明者は、少なくとも幾らかの酸化鉄系粒子を備えるアルカリ第二鉄水溶液に接触ステップ(110)、生成ステップ(120)、および暴露ステップ(130)を行うことが、そのような鉄系粒子の濃度を低減するために有益であり得ることを発見した。たとえば、鉄系粒子は、これらのステップ(110、120、および130)を介して低減または完全に排除され得ることが分かっている。したがって、1つの実施形態において、接触ステップ(110)の前、アルカリ第二鉄水溶液は少なくとも幾らかの鉄系粒子を備え、接触ステップ(110)、生成ステップ(120)、および暴露ステップ(130)により、再生アルカリ第二鉄水溶液は、鉄系粒子の濃度が低減されている(たとえば鉄系粒子が含まれない)。硫化水素が酸化鉄粒子に働きかけることがあり、酸化すると、それらは溶解性水性アルカリ第二鉄塩に戻ると考えられる。
【0071】
いくつかの実施形態において、接触ステップ(110)、生成ステップ(120)、および暴露ステップ(130)は、付随的に発生する。たとえば、アルカリ第二鉄塩水溶液を用いる洗浄カラムは、低減硫黄含有流と接触し、付随して酸化剤に暴露され得る。これが役立ち得る例は、(たとえば製紙または都市廃水処理における)臭気制御のためである。燃焼の危険が考えられる濃度では存在していない、たとえばHSなどの還元硫黄化合物を含有する臭気性流体は、たとえば空気などの酸化流体と結合され得る。結果として生じるガス混合物が洗浄カラムを通過し得る。同様のプロセスは、可燃性炭化水素が少なくなり得るアミンプロセスからの酸性ガス排出流の処理に用いられ得る。これらの例は、可燃性流体(たとえばメタン)に酸化剤(たとえばO)を加えることに関する安全への懸念が存在する天然ガス流またはバイオガス流とは異なる。
【0072】
上述したように、単体硫黄は、方法(100)を介して生成される。したがって、方法(100)は一般に、固体液体混合物を生成し、液体成分はアルカリ第二鉄塩水溶液であり、固体成分は単体硫黄を備える(または主に単体硫黄で構成される)。したがって、固体単体硫黄は、任意の適切な固体液体分離技術を介してアルカリ第二鉄水溶液から分離され得る。たとえば、固体単体硫黄は、たとえば濾し器および/またはフィルタなど、少なくとも部分的に単体硫黄が貫通できない障壁に固体液体混合物を通すことによって、再生アルカリ第二鉄水溶液から容易に分離され得る。単体硫黄を更に精製し、および/またはアルカリ第二鉄水溶液を回収するために、追加の分離が用いられ得る。たとえば、硫黄の多い固体液体混合物は、アルカリ第二鉄塩水溶液から容易に分離する単体硫黄を形成するために、圧力下で加熱され得る。また、硫黄の多い固体液体混合物は、フロス浮選を介して分離され得る。
【0073】
図2を参照すると、還元硫黄化合物含有流体からたとえばHSなどの還元硫黄化合物を除去するための本発明の典型的なシステム(200)が概略的に示される。アルカリ第二鉄水溶液(スクラバー液)を保持するために、一次アキュムレータ(205)とも称されるリザーバが提供される。再生スクラバー液が再生後に戻されるのも、この一次アキュムレータ(205)である。
【0074】
スクラバー液は、たとえば遠心または容積型ポンプ(206)を介して、充填導管(207)を通りスクラバーカラム(210、接触器とも称される)へ汲み上げられる。スクラバー液は、たとえば複数の噴霧器(208)を介してスクラバーカラム(210)内へ注入される。スクラバーカラム(210)には、洗浄される流体とスクラバー液との接触を高めるために、任意選択的に充填剤(211)、好適には高表面積充填剤(たとえば、ランダムカラム充填剤などのカラム充填剤)が提供される。実施形態において、スクラバー液は、充填剤(211)を通って重力により下方に落ちる。たとえばバイオガスなどの還元硫黄化合物含有ガスとして示される、洗浄される流体は、入口導管(221)を介して、スクラバー液と接しているスクラバーカラム内への還元硫黄含有ガスの拡散を容易にするガス入口(220)を通り、スクラバーカラム内へ導入される。還元硫黄化合物(複数も可)が除去された洗浄後のガスは、ガス出口導管(222)を介してスクラバーカラム(210)から流出する。スクラバーカラム内への還元硫黄含有ガスおよびスクラバー液の流量は、ガス内の還元硫黄化合物レベル(複数も可)を所望のレベルまで低減するために調整される。実施形態において、還元硫黄化合物の98%(v/v)以上が還元硫黄含有流体から除去され得る。実施形態において、存在するHSの98%(v/v)以上が還元硫黄含有流体から除去され得る。実施形態において、存在するHSの99%(v/v)以上が還元硫黄含有流体から除去され得る。多数の実験室およびパイロット試験において、H2S除去率は99.9%を超過した。
【0075】
スクラバー液内の第二鉄は、還元硫黄含有流体と接触すると少なくとも部分的に第一鉄に還元される。加えて、還元硫黄含有流体との接触後、少なくとも部分的に還元されたスクラバー液は、特に硫化鉄の形態で、より具体的にはFeSとして硫黄を含有する。少なくとも部分的に還元されたスクラバー液は、沈殿単体硫黄も含有し得る。硫化鉄および任意の沈殿単体硫黄を含む少なくとも部分的に還元されたスクラバー液は、スクラバーカラム(210)のサンプ領域(213)からサンプ導管(214)を通り、サンプポンプ(216、たとえば遠心ポンプ)を介して再生タンク(230)へ汲み上げられる。第一鉄は酸化して第二鉄となり、再生タンク(230)内で単体硫黄が形成される。再生タンクには、単体硫黄を形成するために少なくとも部分的に還元されたスクラバー液の再生のための酸素を供給する空気入口(231)が設けられる。任意選択的に、空気は、1または複数の拡散器(232、たとえば分散板)を介して少なくとも部分的に還元されたスクラバー液内に拡散される。
【0076】
再生時に(すなわち空気による酸化によって)形成された単体硫黄は、再生タンク(230)内の液面に浮遊し、単体硫黄および再生スクラバー液の一部(単体硫黄を多く含む再生スクラバー液)を収集するために設けられた堰(234)内に溢れ出る。単体硫黄を有さない再生スクラバー液は、たとえば重力流によって、収集導管(239)を介して再生タンクから収集され、一次アキュムレータ(205)へ戻される。硫黄を多く含む再生スクラバー液は、同伴ガスを除去するために気泡トラップ(235)を通過し、硫黄リッチアキュムレータ(240)内に収集される。収集された硫黄を多く含む再生スクラバー液は、硫黄フィルタ(242)に渡され、ここで単体硫黄は再生スクラバー液から分離され、洗浄水供給路(243)を介して洗浄される。分離された再生スクラバー液は、アキュムレータ(244)内に収集され、戻りポンプ(246)を介して戻り導管(247)を通って一次アキュムレータ(205)へ汲み上げられる。概ね乾燥されている分離した硫黄は、乾燥硫黄アキュムレータ(250)へ移される。
【0077】
例示したようなシステムは、一般に、所望のレベルの還元硫黄除去を実現するために、スクラバーカラム(210)内への選択された流量のスクラバー液および還元硫黄含有流体で連続的に動作する。少なくとも部分的に還元されたスクラバー液は、連続的に再生タンクへ運搬され、再生スクラバー液は、一次蓄積タンクへ戻される。例示したシステムにおいて、硫黄濾過は、事前に選択された量の単体硫黄が蓄積すると、バッチ式モードで定期的に行われる。例示したスクラバーカラム(210)は、スクラバー液を流体と接触させるための数々の既知の方法の一例である。たとえば、スクラバー液を還元硫黄含有流体と接触させるための他の手段は、(充填剤(211)のない)流体充填接触器、静的ミキサ、およびベンチュリシステムを含む。当業者は、所与の流体から還元硫黄を除去するための所与の用途に関して適切な既知の接触器構成を容易に選択し得る。
d.雑感
【0078】
上述したように、本発明のアルカリ第二鉄塩水溶液は、従来技術に対する重大な利点を示す。たとえば、アルカリ第二鉄塩水溶液は、コストを削減する様々な方法によって生成することができ、アルカリ第二鉄水溶液は、還元硫黄含有流体を処理するためにHS捕捉酸化再生サイクルにおいて用いられ得る。追加の利点は、アルカリ第二鉄水溶液が少なくとも部分的に凍結され、その後、還元硫黄含有流体を処理する溶液の能力に悪影響を及ぼすことなく解凍され得る点である。溶液の結晶化は低い温度(たとえば1~5℃)で起こり得るが、室温まで加熱すると結晶は溶解し、有効なアルカリ第二鉄塩水溶液が再構成される。したがって、アルカリ第二鉄塩水溶液は、温度調節の必要なくマイナス20℃~55℃で保管され得る。これは、加熱または1回の凍結解凍サイクル後に還元硫黄含有流体を処理する能力を回復することができない、溶液(たとえば酸化鉄スラリー)中に懸濁した粒子を用いる技術とは異なる点である。
【0079】
本明細書においてマーカッシュグループまたは他のグループ分けが用いられる場合、グループの全ての個々の要素およびグループから可能な全ての組み合わせおよび部分的組み合わせは、本開示に個々に含まれることが意図されている。特に記載されない限り、説明または例示された構成要素の全ての組織化または組み合わせが本発明を実施するために用いられ得る。化合物の特定の名称は、典型例であることが意図されており、当業者は、同じ化合物を異なるように名付け得ることが知られている。
【0080】
当業者は、具体的に実験されたもの以外の、調製方法および分析方法を含む方法、材料、およびデバイスおよびシステム要素が、過度な実験を用いることなく本発明の実施において用いられ得ることを理解する。任意のそのような方法または材料の当技術分野で知られている機能的均等物は全て、本発明に含まれることが意図されている。
【0081】
本明細書において範囲、たとえば組成範囲、プロセス条件の範囲、圧力または温度などの範囲が記載される場合、全ての中間範囲および部分的範囲、ならびに記載された範囲内に含まれる全ての個々の値は、本開示に含まれることが意図されている。本開示に挙げられる全ての範囲は、挙げられた範囲の端点を含んでいる。
【0082】
本明細書で例示的に説明される本発明は、本明細書において具体的に開示されていない任意の要素または複数の要素、制約または複数の制約がなくとも実施され得る。
【0083】
特定の理論に束縛されるものではないが、本明細書において、本発明に関連する動作の基礎となる原理または機構の確信または理解が論説され得る。任意の機構的説明または仮説の根本的な正当性にかかわらず、本発明の実施形態は、なお有効かつ有用であり得ることが認識される。
【0084】
本出願全体を通して全ての参照文献、たとえば交付または付与された特許や均等物を含む特許文献、特許出願公開、および非特許文献または他の資料は、参照によってその全体が本明細書に組み込まれており、参照によって個々に組み込まれたものとする。
【0085】
Sengupta AKおよびNandi AK(1974)による“Complex Carbonates of Iron(III)Z,anorg.Allg.Chem.,403,327~336および文中の引用文献は、各々が参照によってその全体が本明細書に組み込まれており、Fe(III)の錯炭酸塩およびFe(III)の特定の水溶性塩を説明するものである。この参照文献は、塩K[Fe(OH)(CO]・HOの合成、ならびに中でも特にU.V./可視分光法および赤外線分光法によってそのような塩を識別および特徴化する方法も含む。この参照文献は、460nmの最大吸光度を示すKHCO溶液(35%)内の1.198mgのFe3+の可視スペクトル(文献中の図1)を含む。そのような方法および塩の特徴化の説明は、参照によって本明細書に組み込まれる。
【0086】
本明細書において言及された全ての特許文献および出版物は、本発明が関与する技術分野の当業者の水準で示される。本明細書に引用された参照文献は、場合によってはそれらの出願日の最先端技術を示すものとして参照によってその全体が本明細書に組み込まれており、この情報は、必要であれば、従来技術に存在する特定の実施形態を除外(たとえば放棄)するために本明細書で用いられ得ることが意図されている。用いられている用語および表現は、限定ではなく説明のための言葉として使用され、そのような用語および表現の使用には、図示および説明された特徴またはその一部の任意の均等物を除外する意図はなく、様々な変更が、特許請求の範囲に記載される本発明の範囲内で可能であることが認識される。したがって、本発明は、好適な実施形態および任意選択の特徴によって具体的に開示されたが、本明細書に開示される概念の変更および変形が当業者によって行われ得ること、およびそのような変更および変形は本発明の範囲内であると見なされることを理解すべきである。

例1
【0087】
様々な第二鉄塩およびアルカリ金属塩基を用いて実験パネルが行われた。(1)第二鉄塩(FeCl、Fe(SO・XHO、およびFe(NO・9HO)の乾燥粉末、および(2)アルカリ金属塩基(NaOH、KOH、NaCO、KCO、NaHCO、およびKHCO)が2つ1組で試験管内に載置された。アルカリ金属塩基は、鉄のモル数に対するアルカリ金属のモル数に関して6.8の比率で加えられた。各試験官に約5mLの水が加えられ、水と第二鉄塩およびアルカリ金属塩基とを完全に混合するために各試験官が振り動かされた。アルカリ金属炭酸塩の場合、CO生成を伴う激しい反応が生じた。各実験の結果として生じる混合物は、その後、粒子(たとえば酸化鉄粒子)の存在について目視で観察された。実験パネルの結果は、以下の表1にまとめられる。「PPT」の表記は、結果として生じる混合物に沈殿物が観察されたことを示す。
【表1】
【0088】
上の表1に示すように、最初の混合時に完全に溶解する混合物が生じた唯一の組み合わせは、Fe(NO・9HOおよびKCOのペアであった。
例2
【0089】
アルカリ第二鉄塩水溶液は、213.7gの硝酸第二鉄九水和物(Fe(NO・9HO)、250gの無水炭酸カリウム(KCO)、および9.62gのD-ソルビトールを有する固体混合物を最初に調製することによって製造された。この固体混合物は、ビーカー内で磁気攪拌棒と共に磁気攪拌板上に載置された。攪拌中、19.7gのEDTAのジナトリウム塩を有する793mLの水溶液がビーカーに追加された。水を追加した結果、COガスを放出する激しい反応が生じた。アルカリ第二鉄塩水溶液は、アルカリ第二鉄水溶液を水性炭酸/重炭酸カリウム緩衝液に加えることによって、アルカリ第二鉄塩水溶液と水性炭酸-重炭酸カリウム緩衝液との比が1:25で、水性炭酸-重炭酸カリウム緩衝液を用いて希釈された。濃縮第二鉄溶液を希釈するために用いられる典型的な緩衝溶液は、pH値10.1で、0.9Mの水性KCOおよび1.8MのKHCOの50:50(体積:体積)の混合物であった。濃縮溶液を炭酸-重炭酸カリウム緩衝液で希釈することによって、有用な第二鉄溶液が調製され得る。有用な第二鉄溶液は、炭酸-重炭酸カリウム緩衝液で濃縮溶液を希釈することによって調製することができ、ここで希釈は、濃縮液:緩衝液が1:1(体積:体積)~1:60(体積:体積)である。
【0090】
アルカリ第二鉄水溶液の濃縮液は、適切な希釈(たとえば緩衝液による1:20の希釈)によって使用液の調製に用いるために1年以上安定している。
【0091】
その後、希釈されたアルカリ第二鉄水溶液は、硫化水素含有ガスから硫化水素を除去するために用いられた。硫化水素ガスの捕捉後、アルカリ第二鉄水溶液は、室温の空気を溶液に散布することにより再生され、その結果、固体硫黄が生成され、第二鉄塩溶液が再生される。固体硫黄は、硫黄-アルカリ第二鉄水溶液を25マイクロメートルのスクリーンに通すことによって混合物から除去された。捕捉再生サイクルは、何回も繰り返され、その結果、元の混合物中の全ての鉄原子に関して平均して100超過の硫化水素分子が捕捉および酸化され、実験の行程中、HS捕捉または再生活動の明らかな損失はなかった。
例3
【0092】
濃縮液および希釈使用液におけるカリウムと第二鉄と有機添加物との好適なモル比
【0093】
高い溶解性を維持する好適なモル比を決定することを目的とし、濃縮アルカリ鉄水溶液の短期的および長期的溶解性を決定するために、カリウム、ソルビトール、EDTA、および第二鉄の様々なモル比が試験された。これらの実験において、全ての化学物質の乾燥固形物が混合され、混合固形物に脱イオン水(10mL)が加えられた。試験試料は全て、1.3465gのFe(NO・9HOを含有し、その結果、最終モル比0.278MのFe(NOが生じた。炭酸カリウム、D-ソルビトール、およびNA-EDTAは、表2に挙げたモル比を実現するために必要に応じて加えられた。乾燥固形物に水を加えると、激しい反応が起こり、その結果、透き通った暗色の完全溶解性溶液、または酸化鉄粒子の沈殿物を有する溶液のいずれかが生じた。
【0094】
これらの試験の結果は、表2に挙げられる。ソルビトールおよびEDTAがない場合(以下の表2の試料1~4)、完全溶解性アルカリ第二鉄水溶液は、9:1および12:1のK:Feモル比で発生したが、酸化鉄粒子の実質的な沈殿物は、より低いK:Feモル比(4:1および6.6:1)で発生した。K:Feが9:1および12:1の溶液は、透き通った状態を保ち、4~5日間にわたり溶解性であったが、1週間後に沈殿した。しかし、K:Feが9:1および12:1の濃縮液と炭酸-重炭酸カリウム緩衝液(0.9MのKHCO:0.45MのKCO)との1:20の希釈液は、完全な溶解性を維持した。これらの希釈液のK:Feモル比は大幅に高く、9:1濃縮液および12:1濃縮液のそれぞれについて138:1および141:1である。これらの結果により、K:Feモル比>8において、本明細書で説明するアルカリ第二鉄水溶液は、有機添加物がなくとも本質的に高い溶解性を有することが示される。これは、通常5~6より高いpH値で実質的に不溶性である第二鉄化合物に関して、極めて異例の結果である。
【0095】
第二鉄に対し1:10のモル比でD-ソルビトールおよびEDTAが存在する場合(試料5~8)、幾分異なる結果が生じた。K:Feが6.6:1、9:1、および12:1の濃縮溶液は完全に水溶性であり、7日間以上その状態を保つが、K:Feが4:1の試験は直ちに沈殿した。これらの溶解性濃縮液と、上述したものと同じ炭酸-重炭酸カリウム緩衝液との1:20の希釈液は、同様に完全な溶解性を維持した。留意すべき点として、本明細書で説明する高いK:Fe比を有する希釈液は、ガス流から硫化水素および他の還元硫黄化合物を除去するために用いられる、水性アルカリ第二鉄塩の「使用液」である。典型的な使用液は、1:10、1:20、または1:30の希釈比率で、たとえば表2に挙げたような濃縮液を炭酸-重炭酸カリウム緩衝液(0.9MのKHCO:0.45MのKCO)で希釈することによって作られる。
【表2】
例4
【0096】
アルカリ第二鉄水溶液からの混合金属塩の精製
【0097】
抽出溶媒として80:20のアセトン-水混合物を用いて、濃縮アルカリ第二鉄水溶液から様々な混合金属塩が集められ精製された。一般に、所与の体積の濃縮アルカリ第二鉄塩水溶液が、10倍量の80:20のアセトン-水によって連続的に抽出された。抽出の度、体積が低減した粘性で暗色の完全水溶性第二鉄溶液がアセトン-水層の下に形成された。その後、アセトン-水層は除去され、第二鉄溶液の分離層が脱イオン水の追加によって元の体積まで作られ、その後、アセトン-水抽出が繰り返された。精製されたアルカリ第二鉄塩水溶液の最終的な体積は、脱イオン水の追加によって元の体積にされ、精製第二鉄塩試料およびアセトン-水抽出物は、鉄、カリウム、ナトリウム、硝酸、および炭酸塩/重炭酸塩の総計について分析された。また、アルカリ第二鉄塩水溶液の濃縮液の試料も分析された。
【0098】
精製されたアルカリ第二鉄溶液の濃縮液は、以下の組成を有した。
鉄:32,600mg/L 0.58M
カリウム:133,000mg/L 3.41M
ナトリウム:4,050mg/L 0.176M
硝酸塩:14,700mg/L 0.245M
炭酸塩:7.4mg/L
重炭酸塩:104,000mg/L
【0099】
上述した濃縮液の10倍アセトン-水抽出を1回行った後、わずかに精製された第二鉄溶液は、以下を含有した。
鉄:28,400mg/L 0.507M
カリウム:55,300mg/L 1.42M
ナトリウム:2,720mg/L 0.118M
硝酸塩:2,520mg/L 0.042M
炭酸塩:4.4mg/L
重炭酸塩:67,200mg/L
【0100】
1回精製した第二鉄複合体におけるカリウム対第二鉄のモル比は2.8~1であり、KFe-炭酸塩複合体、またはKFe-炭酸塩複合体が示唆される。重炭酸塩対第二鉄のモル比は2.17であるが、この値は、重炭酸塩分析の制約に起因して低い可能性がある。
【0101】
3回の連続した10倍アセトン-水抽出の後、精製第二鉄溶液は、以下を含有した。
鉄:23,200mg/L 0.414M
カリウム:38,700mg/L 0.992M
硝酸:不検出
【0102】
カリウム対第二鉄のモル比は2.4~1である。これはなお、KFeまたはKFe混合金属炭酸塩複合体を示唆するが、以前の結果よりもその傾向は低い。場合によっては、複合体はKFeまたはKFeまたはKFe混合金属炭酸塩複合体である。3回の連続的な抽出後に硝酸塩が消失したことは、硝酸塩が混合金属第二鉄複合体(複数も可)の一部ではないことを示唆する。硝酸塩は、抽出によって明らかに除去されている。炭酸塩および重炭酸塩はこの分析で試験されなかったが、COの放出を示す著しい気泡を生じる精製溶液と8Mの塩酸との反応によって明確に存在が示されている。
【0103】
これらの結果により、カリウム、第二鉄、および重炭酸塩は、精製化合物の一部であることが示される。精製化合物において、第二鉄の約3倍のカリウムが存在する。複合体には、第二鉄の少なくとも2倍の重炭酸塩が存在する。硝酸塩は、存在しないと思われる。少量のナトリウムが存在するが、ナトリウムが複合体に存在するかを決定することはできない。留意すべき点として、精製材料内には複数の複合体が存在し得る。
例5
【0104】
アルカリ第二鉄塩水溶液は、1.3465gの硝酸第二鉄九水和物、1.5755gの炭酸カリウム、0.0605gのD-ソルビトール、および0.124gのNa-EDTAを用いて調製された。有機化合物(D-ソルビトールおよびNaEDTA)のモル比は、各々、第二鉄に対し1:10であった。アルカリ第二鉄塩水溶液の生成後、アセトン-水混合物(80-20(v/v)の溶液)を用いて、例4と一致する方法で精製第二鉄塩溶液が得られた。アルカリ第二鉄塩水溶液に2回の連続する抽出ステップが行われた。この手順で用いられた材料の純度および製造元が表3に記載される。
【表3】
【0105】
4つの試料用ガラスバイアル(2つの実験バイアルおよび2つの対照バイアル)に、1/4インチのイオン交換樹脂ベッドが充填された。2つのバイアルにはダウエックス21K(Cl)アニオン交換樹脂が充填され、他の2つのバイアルにはアンバーライトIR120(Na)カチオン交換樹脂が充填された。
【0106】
バイアルにイオン交換樹脂を充填した後、実験バイアルは、以下のように準備された。カチオン交換樹脂のバイアルの1つおよびアニオン交換樹脂のバイアルの1つには3mLの1.8Mの重炭酸カリウム緩衝液が充填された。約5分後、余分な流体がイオン交換樹脂ビーズからデカントされた。イオン交換樹脂ビーズは、その後、余分な緩衝溶液を除去するために蒸留水ですすがれ、0.45Mの重炭酸カリウム緩衝液中に懸濁された。緩衝液での懸濁の後、余分な緩衝液はデカントされ、200マイクロリットルの精製第二鉄塩溶液が実験バイアルの各々に加えられた。約2分後に、実験バイアルは、余分な液体をバイアルから除去するためにデカントされた。デカントの後、イオン交換樹脂を完全にすすいで未結合の第二鉄塩を除去するために、実験バイアルに0.45Mの重炭酸カリウム緩衝溶液が加えられた。
【0107】
バイアルにイオン交換樹脂を充填した後、対照バイアルは、以下のように準備された。各カチオン交換樹脂およびアニオン交換樹脂の1つが蒸留水に懸濁された。その後、対照バイアルは、余分な液体をバイアルから除去するために約2分後にデカントされた。デカントの後、イオン交換樹脂を完全にすすぐために制御バイアルに0.45Mの炭酸カリウム緩衝溶液が加えられた。
【0108】
実験バイアルおよび制御バイアルの両方を0.45Mの緩衝溶液で洗浄した後、実験用カチオン交換樹脂は、カチオン交換樹脂の対照用試料と同じ色(銅色)であった。逆に、精製された混合金属第二鉄塩で処理されたアニオン交換樹脂は、精製アルカリ第二鉄塩溶液と同様に深い飴色であった。また、対照用アニオン交換樹脂試料は、薄茶色であった。対照用アニオン交換樹脂に比べて著しく濃いアニオン交換樹脂の色は、単離した第二鉄塩溶液からの陰電荷を持つ(アニオン性)第二鉄種の結合を示す。対照的に、処理されたカチオン交換樹脂と対照用カチオン交換樹脂との間に著し色の差がないことは、カチオン性第二鉄種の有意な結合がないことを示す。
【0109】
本質的にアニオン性であってもカチオン性であっても、第二鉄複合体が本明細書で説明する溶液における暗い飴色の要因となることへの信頼性は高いと推測される。したがって、対照用に対して実験用カチオン交換樹脂に色の変化が観察されないことにより、本明細書で説明する溶液の第二鉄複合体は、本質的にカチオン性ではないと思われる。対照的に、アニオン交換樹脂が濃い飴色に変化するということは、本明細書で説明する溶液の第二鉄イオン複合体が陰電荷を持つ、すなわち第二鉄複合体がアニオン性であることを示す。このアニオン性第二鉄複合体は、高いpH値(>8)での第二鉄の異例の溶解性、および還元硫黄含有流体中の還元硫黄化合物(たとえばHS)との直接反応性に不可欠であると思われる。逆に、陽電荷を持つ第二鉄イオンは、6より大きいpH値で実質的に不溶性である。
【0110】
まとめると、熱力学的に安定した完全水溶性の陰電荷を持つ第二鉄複合体を生成および使用する能力は、本特許出願の焦点である還元硫黄含有流体の処理のみならず、幅広い潜在的工業用途をもたらし得る。
例6
【0111】
精製アルカリ第二鉄塩水溶液の試料のUV-Visスペクトルを取得するために、Thermo Scientific UV-VIS分光光度計が用いられた。分析に用いられた試料は、最初に、1.3465gの硝酸第二鉄九水和物、1.5755gの炭酸カリウム、0.0605gのD-ソルビトール、および0.124gのNA-EDTAから濃縮アルカリ第二鉄塩水溶液を生成することによって調製された。第二鉄に対するD-ソルビトールおよびEDTAのモル比は、各々、1:10である。この濃縮液から、例4と一致する方法で抽出によって精製第二鉄塩溶液が精製された。濃縮アルカリ第二鉄塩水溶液と80:20(v/v)のアセトン-水混合物とを1:10の比率で用いて、2回の連続的な抽出が行われた。その後、精製第二鉄塩溶液は、精製第二鉄溶液と緩衝溶液とが1:200(v/v)の比率で希釈された。この希釈に用いられた緩衝液は、等しい体積の1.8Mの重炭酸カリウムおよび0.9Mの炭酸カリウムを用いて調製された。希釈後、3.5mLの希釈第二鉄塩溶液が清潔なキュベット内に入れられ、分光光度計で分析された。希釈第二鉄塩溶液のスペクトルは、190nm~1100nmで取られた。希釈第二鉄塩溶液のスペクトルは、図3から分かる。図に示すように、約250nm~500nmにわたり、約325nmを中心として、約298nmのλ最大値を有する強いピークが存在する。この強いピークは、298ナノメートルのピークから吸光度が減少し、スペクトルの可視部分に向かって次第に弱くなり、最終的に、約550nmでほぼ0の吸光度に到達する。この近UV範囲における青色-紫色の吸光度は、精製アルカリ第二鉄塩水溶液に懸濁した化合物(複数も可)の強い飴色を説明する。
例7
【0112】
高い硫化水素レベルを含有するバイオガスに対するアルカリ第二鉄水溶液のパイロット試験
【0113】
パルプ製紙工場において約16,000ppmの硫化水素を含有するバイオガスを処理するために、体積70リットルのアルカリ第二鉄水溶液が用いられた。この70リットルの溶液は、過去、150~450ppmのHSを含有するバイオガスを洗浄するために廃水処理所で7か月間にわたり1週間に4~5日用いられており、空気による酸化によって繰り返し再生されたものであった。パイロットシステムは、このパイロットには硫黄濾過システムが含まれないという点を除き、図2に示すように構成された。
【0114】
6scfmの温かく湿ったバイオガスが、2インチのPVCパイプを介してスクラバーカラムの基部に流入し、プラスティック(ポリプロピレン)充填物の層を通って上昇し、2インチのPVCパイプを介してカラムから流出した。再生溶液は、毎分8リットルの容積型ポンプによってスクラバーカラムの上部に汲み上げられ、そこで、シャワーヘッド型噴霧器がアルカリ第二鉄溶液を充填物の上に均一に散布した。溶液は、バイオガスの上昇流と密接に接触した状態で充填物を通って滴り落ちた。バイオガス内の硫化水素は、溶液に吸収され、硫化第一鉄(FeS)または硫化第二鉄(Fe)に急速に変換されたと思われる。カラムの底部では、部分的に還元された溶液が浅いサンプに蓄積し、そこから、同じ毎分8リットルの容積型ポンプによって直径1フィート×高さ30インチの再生カラムの基部へ連続的に汲み上げられた。約3scfmの空気がスパージャを介して再生カラム内に汲み上げられ、還元アルカリ鉄溶液を有効第二鉄形態に再生させ、同時に、捕捉された硫黄を単体硫黄に酸化させた。その後、再生溶液は一次アキュムレータへ汲み上げられ、次にスクラバーカラムの頂部へ汲み上げられて、HS捕捉再生サイクルは完了する。
【0115】
高いHSレベルが存在することにより、未処理ガス内のHSを測定するために、測色ドレガー管が用いられた。高域ドレガーガラス検知管(モデル#CH28101)は、0.2~7体積%の範囲の測定範囲MfrでHSを検出する。高域ドレガー管を用いて測定された未処理ガス中のレベルは、複数の試料において約16~18,000ppmHSであった。処理されたバイオガス内の硫化水素レベルは、AMIデジタルHSモニタおよび低域ドレガー管を用いて測定された。低域ドレガーガラス検知管(モデル#810146)は、0.2~5ppmの範囲でHSを検出する。6scfmのガス流において、AMIモニタは、処理されたバイオガスにおける約4ppmのHSレベルを一貫して報告し、低域ドレガー管は、複数の試料において、処理されたバイオガスにおける0~3ppmのHSレベルを記録した。
例8
【0116】
アルカリ第二鉄塩水溶液による二酸化炭素の捕捉および放出
【0117】
実験室および現場でのパイロット研究の両方において、HS除去のために用いられたアルカリ第二鉄塩水溶液は、バイオガスガスHS除去サイクル中に二酸化炭素も捕捉し、空気再生サイクル中に二酸化炭素を放出する。アルカリ第二鉄塩水溶液によるCOの捕捉および放出は、実験室内でのバッチ試料におけるpH値研究により、またパイロット研究中にサンプリングされた再生空気流のpH値測定およびガス分析により、確認されている。HS除去実験中、アルカリ第二鉄水溶液が、20%以上のCO量を含有するバイオガス流に暴露されると、急速な0.75-1単位のpH値下降が生じる。スクラバー液におけるpH値下降は、酸性ガスCOがバイオガスから捕捉され、スクラバー液内で炭酸カリウムと反応して重炭酸カリウムを形成することにより、溶液のpH値を下降させるためと考えられる。再生サイクル中、スクラバー液のpH値は、COが空気中に放出されることにより安定したレベルまで0.75~1pH単位上昇する。図4に示すグラフは、実験室で行ったバッチ式ガス洗浄実験において、4回のHS捕捉/空気再生サイクルにわたる規則的なpH値の揺れを示す。この図に示される最初のpH測定値は、1.5pH単位高いことが後に決定された。修正されたpH単位が図4に提供される。
【0118】
CO捕捉/放出は、パイロット研究における洗浄および生成サイクル中のpHレベルの同様の変化により、また空気再生流からのガス試料のガスクロマトグラフ(GC)分析により確認された。再生空気流は、GCによって、バイオガス流から除去され、再生中に空気中に放出された4%を超える二酸化炭素を含有することが示された。同様に、短時間のバイオガス洗浄サイクル中にスクラバー液において0.5pH単位の下降が観察され、その後、使用されたスクラバー液の空気再生中に同様の上昇が観察された。
例9
【0119】
アルカリ水性第二鉄塩濃縮液の試料は、様々な比率の0.9Mの炭酸カリウムおよび1.8Mの重炭酸カリウムを蒸留水に含有する緩衝溶液により、1:10および1:20で希釈された。用いられた緩衝液比は、100%(0.9M)の炭酸塩、100%(1.8M)の重炭酸塩、および4:1、3:1、2:1、1:1、1:2、1:3、および1:4体積:体積の炭酸塩:重炭酸塩であった。
【0120】
1:20の濃縮液:緩衝溶液の全てが最初は完全に溶解性であったが、14日後、100%(1.8M)の重炭酸塩緩衝液、100%(0.9M)の炭酸塩緩衝液、および4:1体積:体積の重炭酸塩-炭酸塩緩衝液において、酸化鉄沈殿物が観察された。34日後、3:1体積:体積の重炭酸塩-炭酸塩緩衝液においても鉄沈殿物が観察された。
【0121】
1:10の濃縮液:緩衝溶液は全て、全ての混合緩衝液において溶解性を維持したが、例外として、100%(0.9M)の炭酸塩緩衝液での1:10の希釈は、56日間にわたり溶解性を維持したが、70日目に沈殿した。これらの結果により、鉄塩濃縮液と炭酸-重炭酸カリウム緩衝液との1:10および1:20の希釈液はどちらも、幅広い炭酸塩:重炭酸塩比にわたり幅広く安定して溶解性であるが、1:20の濃縮液:緩衝液の希釈液は、非常に高い比および低い~非常に低い比の炭酸塩-重炭酸塩緩衝液において安定性が低いことが明らかである。
【表4】
【0122】
本明細書において、本発明の様々な実施形態が詳しく説明されたが、当業者は、これらの実施形態の変更および適合に思い至ることが明らかである。ただし、そのような変更および適合は、ここで開示される発明の主旨および範囲に収まることが明確に理解される。
図1
図2
図3
図4