(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-13
(45)【発行日】2024-09-25
(54)【発明の名称】パラメトリック光の発生方法及び使用
(51)【国際特許分類】
G02F 1/39 20060101AFI20240917BHJP
G02F 1/383 20060101ALI20240917BHJP
【FI】
G02F1/39
G02F1/383
(21)【出願番号】P 2022560176
(86)(22)【出願日】2020-09-16
(86)【国際出願番号】 CN2020115434
(87)【国際公開番号】W WO2022056698
(87)【国際公開日】2022-03-24
【審査請求日】2022-09-30
(31)【優先権主張番号】202010964346.9
(32)【優先日】2020-09-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】521017642
【氏名又は名称】山東大学
【氏名又は名称原語表記】SHANDONG UNIVERSITY
【住所又は居所原語表記】No.17923, Jingshi Road, Lixia District Jinan, Shandong 250061, China
(74)【代理人】
【識別番号】100130111
【氏名又は名称】新保 斉
(72)【発明者】
【氏名】王 正平
(72)【発明者】
【氏名】趙 学志
(72)【発明者】
【氏名】于 法鵬
(72)【発明者】
【氏名】孫 洵
(72)【発明者】
【氏名】許 心光
【審査官】林 祥恵
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-048042(JP,A)
【文献】特開2011-034098(JP,A)
【文献】国際公開第2005/012996(WO,A1)
【文献】国際公開第2004/095124(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2013/0294467(US,A1)
【文献】国際公開第2009/108844(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2020/0059060(US,A1)
【文献】SHAH J.,“Ultrafast Luminescence Spectroscopy Using Sum Frequency Generation”,IEEE Journal of Quantum Electronics,1988年,Vol. 24, No.2,p.276-288
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02F 1/35-1/39
IEEE Xplore
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
パラメトリック光の発生方法であって、
和周波位相整合条件、すなわちω
p+ω
i=ω
sのエネルギー保存条件とn
pω
p+n
iω
i=n
sω
sの運動量保存条件を同時に満たす非線形光学材料を提供するステップであって、sはシグナル光、pはポンプ光、iはアイドラー光を表すステップと、
波長λ
pのレーザー光をポンプ光として、前記非線形光学材料に入射し、2次非線形光学効果と光子吸収、緩和効果との組み合わせにより、同調可能な和周波パラメトリック光を得、該材料から波長λ
sのシグナル光である同調可能な和周波パラメトリック光を出力するステップ
であって、次のいずれかの和周波光パラメトリック過程、すなわち、
(Aクラス和周波光パラメトリック過程)単一光子吸収、緩和及び和周波発生のカスケード遷移過程であり、χ
(1)
+χ
(2)
効果であり、周波数ω
p
<ω
s
≦2ω
p
の範囲のシグナル光を放出する過程;
(Bクラス和周波光パラメトリック過程)二光子吸収、緩和及び和周波発生のカスケード遷移過程であり、χ
(3)
+χ
(2)
効果であり、周波数2ω
p
<ω
s
≦3ω
p
の範囲のシグナル光を発生させる過程;
(Cクラス和周波光パラメトリック過程)三光子吸収、緩和及び和周波発生のカスケード遷移過程であり、χ
(5)
+χ
(2)
効果であり、周波数3ω
p
<ω
s
≦4ω
p
の範囲のシグナル光を発生させる過程;
(Dクラス和周波光パラメトリック過程)三光子吸収、緩和及び和周波発生のカスケード遷移過程であり、χ
(1)
+χ
(2)
効果又はχ
(3)
+χ
(2)
効果と比べて、ポンプ光の光子が最後の和周波発生過程に直接関与するのではなく、ω
i1
、ω
i2
の2種のアイドラー光の光子に緩和してから、和周波発生してシグナル光の光子ω
s
を生成し、2ω
p
<ω
s
<3ω
p
であり、これはχ
(3)
+χ
(1)
+χ
(2)
効果である過程;
とを含む、パラメトリック光の発生方法。
【請求項2】
非線形光学材料の空間的方向性、温度、電圧を調整して、和周波位相整合条件を連続的に変えることで、λ
sを連続的に変え、同調可能な和周波パラメトリック光を出力することを特徴とする請求項1に記載のパラメトリック光の発生方法。
【請求項3】
前記非線形光学材料は単一構造を有するバルク結晶、普通光ファイバー、又はフォトニック結晶光ファイバーであることを特徴とする請求項1に記載のパラメトリック光の発生方法。
【請求項4】
前記バルク単結晶はGdCOB、YCOB、KDP又はBBOであることを特徴とする請求項3に記載のパラメトリック光の発生方法。
【請求項5】
パルスレーザー光をポンプ光とすることを特徴とする請求項1に記載のパラメトリック光の発生方法。
【請求項6】
フォーカシング又はビーム縮小の方式によってポンプ光に空間的なシェーピングを行うことで、ポンプ光のパワー密度を高め、シグナル光の出力エネルギー及び変換効率を向上させることを特徴とする請求項1に記載のパラメトリック光の発生方法。
【請求項7】
パラメトリック光の発生装置であって、
光路に順次設けられるポンプ光光源と非線形光学材料を含み、前記非線形光学材料は和周波位相整合条件、即ち、ω
p+ω
i=ω
sのエネルギー保存条件とn
pω
p+n
iω
i=n
sω
sの運動量保存条件を同時に満たし、sはシグナル光、pはポンプ光、iはアイドラー光を表し、波長λ
pのレーザー光をポンプ光として、前記非線形光学材料に入射し、2次非線形光学効果と光子吸収、緩和効果との組み合わせにより、同調可能な和周波パラメトリック光を得、該材料から波長λ
sのシグナル光である同調可能な和周波パラメトリック光を出力する
構成において、
次のいずれかの和周波光パラメトリック過程、すなわち、
(Aクラス和周波光パラメトリック過程)単一光子吸収、緩和及び和周波発生のカスケード遷移過程であり、χ
(1)
+χ
(2)
効果であり、周波数ω
p
<ω
s
≦2ω
p
の範囲のシグナル光を放出する過程;
(Bクラス和周波光パラメトリック過程)二光子吸収、緩和及び和周波発生のカスケード遷移過程であり、χ
(3)
+χ
(2)
効果であり、周波数2ω
p
<ω
s
≦3ω
p
の範囲のシグナル光を発生させる過程;
(Cクラス和周波光パラメトリック過程)三光子吸収、緩和及び和周波発生のカスケード遷移過程であり、χ
(5)
+χ
(2)
効果であり、周波数3ω
p
<ω
s
≦4ω
p
の範囲のシグナル光を発生させる過程;
(Dクラス和周波光パラメトリック過程)三光子吸収、緩和及び和周波発生のカスケード遷移過程であり、χ
(1)
+χ
(2)
効果又はχ
(3)
+χ
(2)
効果と比べて、ポンプ光の光子が最後の和周波発生過程に直接関与するのではなく、ω
i1
、ω
i2
の2種のアイドラー光の光子に緩和してから、和周波発生してシグナル光の光子ω
s
を生成し、2ω
p
<ω
s
<3ω
p
であり、これはχ
(3)
+χ
(1)
+χ
(2)
効果である過程;
を備える発生装置。
【請求項8】
ポンプ光光源と前記非線形光学材料との間にフォーカシングレンズがさらに設けられることを特徴とする請求項7に記載のパラメトリック光の発生装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はパラメトリック光の発生方法及び使用に関し、レーザー光及び非線形光学の分野に属する。
【背景技術】
【0002】
現在、レーザー光は人間の社会のさまざまな分野に応用されている。さまざまなニーズを満たすために、非線形光学変換技術を使用してさまざまなレーザー光波長を取得する場合が多い。20世紀60年代、周波数逓倍現象が発見されて間もなく、位相整合技術が開発されており、現在、それはすでに最も有効で、最も重要な非線形光学周波数変換方法となっている。位相整合技術は和周波数と差周波の2つに大別される。周波数逓倍とカスケード3逓倍が代表的な和周波数である。従来から、例えば光パラメトリックの発生、光パラメトリックの発振、光パラメトリックの増幅など、位相整合の光パラメトリック周波数変換過程であれば、差周波に属すると考えられる。
【0003】
バルク結晶の複屈折位相整合と周期的構造結晶の準位相整合では、エネルギー変換関係がωp=ωs+ωi(すなわちωs=ωp―ωi)であり、ωsはシグナル光、ωpはポンプ光、ωiはアイドラー光であり、2次非線形光学効果に属し、2次電気分極率χ(2)と関係がある。光ファイバーの近縮退四波混合では、エネルギー変換関係が2ωp=ωs+ωi(すなわちωs=2ωp-ωi)であり、3次非線形光学効果に属し、3次電気分極率χ(3)と関係がある。上記のいずれの光パラメトリック過程も、シグナル光ωsから見れば、ポンプ光ωpとアイドラー光ωiとの差周波によって生じるので、その基本原理はすべて光学差周波である。
【0004】
現在、光学差周波原理に基づいて、多くの特許文献がパラメトリック光に関する技術を報道しており、例えば、特許文献1は光パラメトリック波形合成器及び光波形合成方法を開示しており、特許文献2はパラメトリック光発生器を開示しており、特許文献3は、偏光もつれ光子対発生器及びその発生方法を開示しており、特許文献4はモノリシック集積サブバンド間光デバイスにおける位相整合パラメトリック光の発生を開示しており、特許文献5は、ダイオードレーザ及びパラメトリック光の発生を開示しており、特許文献6はパラメトリック放射線発生装置を開示している。
【0005】
特許文献7は、結合導波路に基づいて非線形周波数変換を実現する導波路チップを開示しており、このデバイスの理論の核心は3波と3波の非線形差周波発生過程であり、複数の導波路領域を加工し、印加電界を利用して位相を調整し、導波路の間隔を変化させることによって出力光の同調を実現し、ポンプ光の波長が1550nmで、導波路の間隔が400nmから900nmに変化すると、もつれ光子の波長が1200nmから2300nmの同調を実現できる。特許文献8は、カスケード光パラメトリック変換システム及び光パラメトリック変換方法を開示しており、システムはカスケードKTP結晶及びKTA結晶を含み、KTP結晶はポンプ源から発生したポンプ光に対して2種類の位相整合パラメトリック変換プロセスを行うために用いられ、KTA結晶はKTP結晶の出力に対して非臨界位相整合や90°の臨界位相整合パラメトリック変換プロセスを行うために用いられ、この方法は、KTP結晶を用いてポンプ源から発生するポンプ光に対して2種類の位相整合パラメトリック変換プロセスを行い、KTA結晶を用いてKTP結晶の出力に対して非臨界位相整合や90°の臨界位相整合パラメトリック変換プロセスを行う。
【0006】
上記した従来技術はいずれも差周波に基づいているものであり、非線形光学媒体が結晶である場合、シグナル光の周波数はポンプ光とアイドラー光の周波数の差に等しく、非線形光学媒体が導波路、光ファイバーである場合、シグナル光の周波数は、ポンプ光の周波数の2倍とアイドラー光の周波数との差に等しく、周波数変換範囲はωs<2ωpに制限される。現在、和周波数過程、特に3波以上の非線形和周波数によってパラメトリック光を得る技術は報告されておらず、そのため、本発明を提案する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】EP3273550A1
【文献】RU2688860C1
【文献】US20120134377A1
【文献】US6940639B1
【文献】DE60000851T2
【文献】RU2099839C1
【文献】CN109739061A
【文献】CN101895053A
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従来技術の欠点、特に従来技術では、全ての位相整合光パラメトリック周波数変換が差周波に制限され、結晶の場合は長波方向へのみ同調可能な光パラメトリック周波数変換ができ、短波方向へ同調可能な光パラメトリック周波数変換(ωs<ωp)ができず、導波路、光ファイバーの場合はポンプ光の付近の限られる周波数範囲内でのみ周波数変換(ωs<2ωp)を行うことができ、そして、シグナル光の同調がポンプ光の同調に依存するという欠点に対して、本発明は、和周波方式によってパラメトリック光を発生させるパラメトリック光の発生方法及び使用を提供する。この方法によれば、周波数アップコンバージョンレーザー光の出力を簡便に実現することができ、対応する基本的な物理メカニズムがωs=ωp+ωiであり、短波方向周波数変換(ωs>ωp)が可能であり、周波数シフト量が大きく(ωsは2ωp、さらに3ωpよりも大きい)、ポンプ光の同調が不要であるなどの利点がある。
用語の説明
1.GdCOB:ホウ酸オキシカルシウムガドリニウムの略語、分子式GdCa4O(BO3)3。
2.YCOB: ホウ酸オキシカルシウムイットリウム結晶の略語、分子式YCa4O(BO3)3。
3. KDP:リン酸二水素カリウム結晶の略語、分子式KH2PO4。
4.BBO:β相メタホウ酸バリウム結晶の略語、分子式β-BaB2O4。
5.(θ,φ):極座標で表される空間的方向性、ここで、θは該方向と結晶光軸Zとの夾角、φは方位角であって、該方向の結晶XY主平面内の投影とX軸との夾角である。
【0009】
本発明のパラメトリック光の発生のメカニズムは以下のとおりである。
【0010】
本発明に記載の光パラメトリックの発生プロセスにおいては、エネルギー移動メカニズムが
図1に示される。
図1(A)は単一光子吸収、緩和及び和周波発生のカスケード遷移過程であり、χ
(1)+χ
(2)効果であり、周波数ω
p<ω
s≦2ω
pの範囲のシグナル光を放出し、本発明では、これをAクラス和周波光パラメトリック過程という。
図1(B)は二光子吸収、緩和及び和周波発生のカスケード遷移過程であり、χ
(3)+χ
(2)効果であり、周波数2ω
p<ω
s≦3ω
pの範囲のシグナル光を発生させ、本発明では、これをBクラス和周波光パラメトリック過程という。
図1(C)は三光子吸収、緩和及び和周波発生のカスケード遷移過程であり、χ
(5)+χ
(2)効果であり、周波数3ω
p<ω
s≦4ω
pの範囲のシグナル光を発生させ、本発明では、これをCクラス和周波光パラメトリック過程という。
図1(D)は三光子吸収、緩和及び和周波発生の別のカスケード遷移過程であり、最初の2種類の効果と比べて、ポンプ光の光子が最後の和周波発生過程に直接関与するのではなく、ω
i1、ω
i2の2種のアイドラー光の光子に緩和してから、和周波発生してシグナル光の光子ω
sを生成し、2ω
p<ω
s<3ω
pであり、これはχ
(3)+χ
(1)+χ
(2)効果であり、本発明では、Dクラス和周波光パラメトリック過程という。シグナル光発生の点から、上記の光パラメトリックの発生過程は全て和周波発生過程(ω
s=ω
p+ω
i又はω
s=ω
i1+ω
i2)であり、前記の差周波光パラメトリックの発生効果とは本質的に異なる。要するに、2次非線形光学効果と光子吸収、緩和効果との組み合わせにより、有効で帯域同調可能な和周波パラメトリック光を得ることができる。上記のメカニズムや類似のメカニズムを利用して和周波によるパラメトリック光の発生方法及び関連する使用であれば、関与するポンプ光光子の数、ポンプ光光子の直接関与か間接的関与に関わらず、本発明の特許範囲内である。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の技術形態は以下の通りである。
【0012】
パラメトリック光の発生方法であって、
和周波位相整合条件、即ちωp+ωi=ωs(つまり1/λp+1/λi=1/λs) のエネルギー保存条件とnpωp+niωi=nsωsの運動量保存条件を同時に満たす非線形光学材料を提供するステップであって、sはシグナル光、pはポンプ光、iはアイドラー光を表すステップと、
波長λpのレーザー光をポンプ光として、前記非線形光学材料に入射し、該材料から波長λsのシグナル光である同調可能な和周波パラメトリック光を出力するステップとを含む。
本発明によれば、好ましくは、非線形光学材料の空間的方向性、温度、電圧又は微細構造パラメータを調整して、和周波位相整合条件を連続的に変えることで、λsを連続的に変え、同調可能な和周波パラメトリック光を出力する。
【0013】
本発明によれば、好ましくは、波長λi、λsの光波は非線形光学材料がパラメトリック散乱又はパラメトリック蛍光によって自発的に発生させて増幅される。波長λi、λsの光波は外界から入力されず、本発明では、この形態を「和周波光パラメトリック発生」という。
【0014】
本発明によれば、好ましくは、波長λi、λsの光波は非線形光学材料がパラメトリック散乱又はパラメトリック蛍光によって自発的に発生させて増幅され、非線形光学材料の両端にスコープが設けられて共振空洞が形成されることにより、シグナル光が複数回往復し大きなゲインが得られ、出力が顕著に増強される。波長λi、λsの光波は外界から入力されず、本発明では、この形態を「和周波光パラメトリック発振」という。
【0015】
本発明によれば、好ましくは、入力端に低エネルギーのシグナル光λsを供給し、λpとλsが和周波位相整合条件を満たす場合に相互作用し、ポンプ光を消費することでシグナル光を出力端で顕著に増強する。本発明では、この形態を「和周波光パラメトリック増幅」という。
【0016】
本発明によれば、好ましくは、前記非線形光学材料は単一構造を有するバルク結晶、準位相整合を実現しうる周期的構造の結晶、普通光ファイバー、又はフォトニック結晶光ファイバーである。
【0017】
さらに好ましくは、前記バルク単結晶はGdCOB、YCOB、KDP又はBBOである。これらの材料に希土類イオンを加えることにより、その特徴的波帯の蛍光放射が増強され、位相整合理論と組み合わせてシグナル光λs又はアイドラー光λiをこれらの波帯に設計することにより、和周波光パラメトリック効果のポンプしきい値が低下し、シグナル光の出力パワー、出力エネルギーが増強され、変換効率が向上する。
【0018】
本発明によれば、好ましくは、パルスレーザー光(例えばフェムト秒スケールの超高速レーザー光)をポンプ光とし、さらに好ましくは、フォーカシング又はビーム縮小の方式によってポンプ光に空間的なシェーピングを行うことで、ポンプ光のパワー密度を高め、シグナル光の出力エネルギー及び変換効率を向上させる。
【0019】
本発明によれば、「和周波光パラメトリック発生」及び「和周波光パラメトリック増幅」の2つの形態に対しては、好ましくは、パルスレーザー光(例えばパルス幅1ps以下の超高速レーザー光)をポンプ源とし、フォーカシング又はビーム縮小の方式によってポンプ光に空間的なシェーピングを行うことで、ポンプ光のパワー密度を高め、シグナル光の出力エネルギー及び変換効率を向上させる。「和周波光パラメトリック発振」の形態に対しては、共振空洞の存在によってシステムによる入射ポンプ光のパワー密度への要件が大幅に低下し、ポンプ源はパルス的に作動しても、連続的に作動してもよい。「和周波光パラメトリック発生」、「和周波光パラメトリック増幅」の2つの形態と同様に、「和周波光パラメトリック発振」の形態でも、フォーカシング又はビーム縮小の方式によってポンプ光のパワー密度を高めることができる。
【0020】
本発明によれば、好ましくは、1540nmのフェムト秒レーザー光をポンプ光とし、非線形光学材料が(θ=146°、φ=0°)タンジェンシャル方向のGdCOB結晶である場合、結晶を回転させて和周波位相整合条件を調整し、485~770nmの可視帯域の同調可能なレーザー光出力を取得し、非線形光学材料が(θ=140°、φ=0°)タンジェンシャル方向のYCOB結晶である場合、結晶を回転させて和周波位相整合条件を調整し、450~770nmの可視帯域の同調可能なレーザー光出力を取得してもよい。
【0021】
本発明によれば、好ましくは、1056nmのフェムト秒レーザー光をポンプ光とし、非線形光学材料が(θ=149°、φ=0°)タンジェンシャル方向のYCOB結晶である場合、結晶を回転させて和周波位相整合条件を調整し、425~528nmの可視帯域の同調可能なレーザー光出力を取得してもよい。
【0022】
本発明によれば、好ましくは、1056nmのフェムト秒レーザー光をポンプ光とし、非線形光学材料が(θ=41°、φ=45°)タンジェンシャル方向のKDP結晶である場合、結晶を回転させて和周波位相整合条件を調整し、390~670nmの可視帯域の同調可能なレーザー光出力を取得してもよい。
【0023】
本発明によれば、好ましくは、1053nmのフェムト秒レーザー光をポンプ光とし、非線形光学材料が(θ=23°、φ=30°)タンジェンシャル方向のβ-BBO結晶である場合、結晶を回転させて和周波位相整合条件を調整し、185~526.5nmの可視帯域の同調可能なレーザー光出力を取得してもよい。
【0024】
本発明によれば、パラメトリック光の発生方法の下記使用も提供される。
【0025】
アライナー(193nm)、医療診断及び照射療法(325nm)用の和周波パラメトリック光の発生
紫外差分吸収レーザーライダー用の二波長和周波パラメトリック光の発生
一酸化炭素中毒ヘモグロビン検査用の二波長和周波パラメトリック光の発生
難治性火炎状母斑治療用の二波長和周波パラメトリック光の発生
白色光を出力する和周波パラメトリック光の発生
【0026】
本発明によれば、光路に順次設けられるポンプ光光源と非線形光学媒体を含み、前記非線形光学材料は和周波位相整合条件、即ち、ωp+ωi=ωs(つまり1/λp+1/λi=1/λs)のエネルギー保存条件とnpωp+niωi=nsωsの運動量保存条件を同時に満たし、sはシグナル光、pはポンプ光、iはアイドラー光を表すパラメトリック光の発生装置も提供される。
【0027】
本発明によれば、好ましくは、ポンプ光光源と非線形光学媒体との間にフォーカシングレンズがさらに設けられる。
【0028】
本発明によれば、好ましくは、光路において非線形光学媒体よりも後にカラーフィルターがさらに設けられる。
【0029】
本発明によれば、好ましくは、光路においてフォーカシングレンズと非線形光学媒体との間に光パラメトリック発振入力ミラーが設けられ、非線形光学媒体よりも後に光パラメトリック発振出力ミラーが設けられる。
【0030】
本発明によれば、好ましくは、シグナル光光源、シグナル光反射ミラー、ポンプ光、シグナル光ビーム結合ミラーをさらに含み、シグナル光光源によるシグナル光がシグナル光反射ミラーの反射、ポンプ光、シグナル光ビーム結合ミラーによるビーム結合を受けてポンプ光光源によるポンプ光とともにフォーカシングレンズに入る。
【0031】
本発明によれば、好ましくは、光路において非線形光学媒体よりも後に第1非線形光学媒体がさらに設けられ、ポンプ光光源と非線形光学媒体との間にビーム縮小システムフロントミラーとビーム縮小システムリアミラーが設けられ、第1非線形光学媒体よりも後にカラーフィルターが設けられる。
【0032】
本発明の理論の核心は和周波であり、即ち、シグナル光の周波数がポンプ光とアイドラー光との周波数の和に等しく、このため、周波数アップコンバージョンが実現され、最終的に出力されるシグナル光は周波数がポンプ光よりも大きく、波長がポンプ光よりも小さい。和周波発生装置は、構造がシンプルであり、操作されやすく、より柔軟に調整可能であり、しかも、ポンプ光よりも離れた波帯に同調することができ、例えば、ポンプ光波長が1550nmである場合、400~700nmの可視帯域の同調出力が可能である。
【発明の効果】
【0033】
本発明の有益な効果は以下のとおりである。
1、本発明は、光学和周波を基本原理としたパラメトリック光の発生方法及び使用を提供しており、従来の光パラメトリック技術では差周波発生しかできないという欠点を解決し、単一波長ポンプ光を用いる場合、長波方向だけではなく、短波方向への同調可能な光パラメトリック周波数変換も可能であり、これによって、簡便で柔軟であり、スペクトル制限がなく、ほぼ完璧な周波数変換方式が得られる。
2、本発明は、同調可能な深紫外レーザー光を発生する上で特に顕著な利点があり、従来技術では、先端の周波数逓倍、三周波数逓倍、中部の差周波光パラメトリック、及び後端の周波数逓倍、和周波などを含む複数の2次非線形光学過程を直列接続するのが一般的であり、4枚や5枚の非線形光学媒体を必要とする。一方、本発明によれば、
図2に示すような装置は、1つの非線形光学媒体だけで十分であり、よって、価格の上顕著な優位性があり、しかも、構造がシンプルであり、調整されやすく、サイズが小さく、信頼性が高く、商品価値が高い。
3、本発明は、位相整合光パラメトリック周波数変換技術の新しい分野を開発し、工業的生産、通信情報、バイオ医療、環境検出、国防軍事、科学研究などにおいて将来性が期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【
図1】本発明の和周波パラメトリック光の発生メカニズムを示す図である。Aは単一光子吸収、緩和及び和周波発生のカスケード遷移過程であり、Bは二光子吸収、緩和及び和周波発生のカスケード遷移過程であり、Cは三光子吸収、緩和及び和周波発生のカスケード遷移過程であり、Dは三光子吸収、緩和及び和周波発生の別のカスケード遷移過程である。
【
図2】本発明の実施例1、3、4、5、6、7に記載の「和周波光パラメトリック発生」の形態の装置の概略図である。
【
図3】本発明の「和周波光パラメトリック発振」の形態の装置の概略図である。
【
図4】本発明の「和周波光パラメトリック増幅」の形態の装置の概略図である。
【
図5】本発明の実施例1に記載の1540nmポンプ、GdCOB結晶の「和周波光パラメトリック発生」の形態で取得されるスペクトルである。
【
図6】本発明の実施例1に記載の1540nmポンプ、GdCOB結晶の「和周波光パラメトリック発生」の形態で取得される理論及び実験のデータである。
【
図7】本発明の実施例2に記載の1540nmポンプ、GdCOB結晶の「和周波光パラメトリック発生」の形態の装置の概略図である。
【
図8】本発明の実施例2に記載の1540nmポンプ、GdCOB結晶の「和周波光パラメトリック発生」の形態で取得されるスペクトルである。
【
図9】本発明の実施例1、実施例2に記載の1540nmポンプ、GdCOB結晶の「和周波光パラメトリック発生」の形態で取得されるスポットの比較図である。
【
図10】本発明の実施例3に記載の1540nmポンプ、YCOB結晶の「和周波光パラメトリック発生」の形態で取得されるスペクトルである。
【
図11】本発明の実施例3に記載の1540nmポンプ、YCOB結晶の「和周波光パラメトリック発生」の形態で取得される理論及び実験のデータである。
【
図12】本発明の実施例4に記載の1056nmポンプ、YCOB結晶の「和周波光パラメトリック発生」の形態で取得されるスペクトルである。
【
図13】本発明の実施例4に記載の1056nmポンプ、YCOB結晶の「和周波光パラメトリック発生」の形態で取得される理論及び実験のデータである。
【
図14】本発明の実施例5に記載の1056nmポンプ、KDP結晶の「和周波光パラメトリック発生」の形態で取得されるスペクトルである。
【
図15】本発明の実施例5に記載の1056nmポンプ、KDP結晶の「和周波光パラメトリック発生」の形態で取得される理論及び実験のデータである。
【
図16】本発明の実施例8、9、10に記載の二波長シグナル光を出力可能な「和周波光パラメトリック発生」の形態の装置の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0035】
以下、明細書の図面及び実施例を参照して本発明についてさらに限定するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0036】
本発明のパラメトリック光の発生方法は、和周波位相整合条件、即ちωp+ωi=ωs(つまり1/λp+1/λi=1/λs)のエネルギー保存条件とnpωp+niωi=nsωsの運動量保存条件を同時に満たす非線形光学材料を提供するステップと、波長λpのレーザー光をポンプ光として、非線形光学材料に入射し、該材料から波長λsのシグナル光を出力するステップとを含む。非線形光学材料の空間的方向性、温度、電圧、マイクロ構造などのパラメータを調整しで、和周波位相整合条件を連続的に変えることで、λsを連続的に変え、同調可能な和周波パラメトリック光を出力してもよい。これに基づいて、さまざまなニーズに応じて異なる技術スキームを利用してもよく、このような場合、装置も異なる。
【0037】
(1)
図2に示すように、光路においては、ポンプ光光源1は波長λ
pのポンプ光を供給し、フォーカシングレンズ3はフォーカシングの役割を果たし、波長λ
pのポンプ光2のパワー密度を高める。非線形光学媒体4では、ポンプ光だけは外界から入力され、波長λ
i、λ
sの光波は非線形光学媒体がパラメトリック散乱又はパラメトリック蛍光によって自発的に発生させて増幅され、非線形光学媒体4の出力端では、残りのポンプ光(
p及びアイドラー光λ
iがカラーフィルター5によりフィルタリングされ、純粋な波長λ
sのシグナル光6が得られる。本発明では、この形態を「和周波光パラメトリック発生」と命名する。
【0038】
(2)
図3に示すように、光路においては、ポンプ光光源1は波長λ
pのポンプ光を供給し、フォーカシングレンズ3はフォーカシングの役割を果たし、波長λ
pのポンプ光2のパワー密度を高める。非線形光学媒体4では、ポンプ光だけは外界から入力され、波長λ
i、λ
sの光波は非線形光学媒体がパラメトリック散乱又はパラメトリック蛍光によって自発的に発生させて増幅される。非線形光学媒体の両端にスコープが設けられ、共振空洞が形成され、シグナル光が複数往復し大きなゲインが得られ、出力が顕著に増強される。ここでは、光パラメトリック発振入力ミラー7はポンプ光に対して高透過性であり、シグナル光の波帯では高反射性であり、光パラメトリック発振出力ミラー8はポンプ光に対して高反射性、シグナル光の波帯では部分透過性であり、波長λ
sのシグナル光6が出力される。本発明では、この形態を「和周波光パラメトリック発振」と命名する。
【0039】
(3)
図4に示すように、光路においては、ポンプ光光源1は高強度、波長λ
pのポンプ光2を供給し、シグナル光光源9は低強度、波長λ
sのシグナル光6を供給し、このシグナル光6はシグナル光反射ミラー10、ポンプ光、シグナル光ビーム結合ミラー11を透過した後、波長λ
pのポンプ光2とビーム結合する(シグナル光反射ミラー10はシグナル光に対して高反射性であり、ポンプ光、シグナル光ビーム結合ミラー11はシグナル光に対して高反射性、ポンプ光に対して高透過性である)。ビーム結合光はフォーカシングレンズ3によって非線形光学媒体4内にフォーカシングされ、λ
pとλ
sが和周波位相整合条件を満たす場合に相互作用し、ポンプ光を消費することでシグナル光を出力端で顕著に増強し、残りのポンプ光λ
p及び新しく発生させたアイドラー光λ
iがカラーフィルター5によってフィルタリングされ、高エネルギーの純粋な波長λ
sのシグナル光6が得られる。シグナル光光源9の波長が同調可能であれば、波長調整非線形光学媒体4及び和周波位相整合条件が出力され、出力端では、高エネルギーで波長同調可能なシグナル光が得られる。本発明では、この形態を「和周波光パラメトリック増幅」と命名する。
【0040】
上記の3種類の形態では、フォーカシングレンズ3の代わりに焦点距離の異なる2つの凸透で構成される光学ビーム縮小システムが使用されてもよく、このようにして、出力光のビーズの品質が向上し、発散度が減少する。
【0041】
以上、3種類の代表的な技術形態を例示しているが、低コスト、小型化、広波帯が同調可能で、正確性や信頼性が高く、簡単で有効な周波数アップコンバージョンレーザー装置を製造することができ、発生させるシグナル光は多くの分野における同調可能なレーザー光の需求を満たす。本発明の記載及び周波光パラメトリックの発生メカニズムを利用して、上記形態から誘導される和周波パラメトリック光の発生方法及び関連する使用であれば、本発明の特許範囲内である。
【0042】
実施例1
1540nmポンプの、GdCOB結晶を非線形光学媒体とした「和周波光パラメトリック発生」の形態
そのメカニズムは
図1のB、Cに示される。装置は
図2に示され、各部材は光路に設けられる。ポンプ光光源1は波長1540nm、パルス幅160fs、繰り返し周波数100kHzの超高速レーザーであり、フォーカシングレンズ3の焦点距離は200mmであり、非線形光学媒体4は、サイズ6×6×10mm
3、タンジェンシャル方向(θ=146°、φ=0°)のGdCOB結晶であり、カラーフィルター5は1540nmに対して高反射性であり、300~800nmに対して高透過性である。該形態の試験効果を
図5、
図6に示す。
図5は、GdCOB結晶を回転させる場合、各位置で取得されるシグナル光スペクトルであり、
図Aはポンプ光のスペクトル(λ
p=1540nm)であり、
図Bは結晶に直入射する場合に実現される周波数逓倍出力のスペクトル(λ
s=770nm)である。GdCOB結晶を回転させることによって、ポンプ光の結晶内の光路を連続的に変えて、さまざまな和周波位相整合条件を満たすようにし、シグナル光の波長λ
sを連続的に変え、同調可能な和周波パラメトリック光を出力する。屈折の法則によれば、結晶の外部回転角度から結晶内の光の伝搬方向を算出することができ、
図C~
図Hはいくつかの代表的な方向で得られたシグナル光のスペクトルであり、それぞれθ=149.4°、151.1°、153.3°、156.0°、157.8°、161.5°に対応し、ここでは、φは常に0°であり、即ち、結晶がそのXZ主平面内で回転するように維持する。試験の結果、該装置は485~770nmの和周波パラメトリック光を発生できる。
図6においては、Aは実施例1について算出された和周波位相整合曲線(1/λ
p+1/λ
i=1/λ
s、λ
p=1540nm、λ
sは底部の横座標、対応するλ
iは頂部の横座標である。縦座標は位相整合角θである)、及び対応する実験点であり、
図Aから理論結果が実測値とうまく一致することが分かり、これにより、この効果が和周波発生過程であることが確認されている。さらに、ポンプ光の偏光とシグナル光の偏光とが互いに垂直であることも認められ、これにより、このような位相整合がIクラスであることが確認されている。
図Bはシグナル光波長λ
sに対する実効非線形光学係数d
effの変化の関係であり、
図Bからd
effはλ
sの増加に伴い増大することが分かり、このような計算法則は
図Cで得られた実験法則と一致し、即ち、λ
sの増加に伴い、シグナル光の出力パワー及び変換効率が上昇しながら、ポンプのしきい値が低下する。
図Dは、λ
s=622nmにおける、ポンプ光のパワーに対するシグナル光の出力パワーの変化関係であり、ここでは、ポンプのしきい値は86mWであり、対応するポンプのパワー密度は826 MW/cm
2であり、124mWのポンプパワーでは、シグナル光の出力は3.7mWであり、光学変換効率は3.0%である。ポンプ光光源及び非線形光学媒体を変更しない条件下で、
図3に示す「和周波光パラメトリック発振」の形態を使用すれば、ポンプのしきい値を低下させ、出力パワー及び変換効率をさらに高めることができる。
【0043】
実施例2
1540nmポンプ、GdCOB結晶を非線形光学媒体とした「和周波光パラメトリック発生」の形態
そのメカニズムは
図1のB、Cに示される。装置は
図7に示され、各部材は光路に設けられる。
図2に比べて、フォーカシングレンズ3の代わりに、焦点距離の異なる2つの凸レンズからなる光学ビーム縮小システムが使用される点が異なる。ビーム縮小システムフロントミラー12、ビーム縮小システムリアミラー13かなるポンプ光ビーム縮小システムが、
図2のフォーカシングレンズ3の代わりに使用されることによって、結晶の入射ポンプ光束は良好な平行度を有する。
ポンプ光光源1は、波長1540nm、パルス幅160fs、繰り返し周波数100kHzの超高速レーザーである。ビーム縮小システムフロントミラー12、ビーム縮小システムリアミラー13の焦点距離はそれぞれ300mm、100mmであり、このため、ビーム縮小比が3:1である。非線形光学媒体4は、サイズ6×6×10mm
3、タンジェンシャル方向(θ=146°、φ=0°)のGdCOB結晶であり、カラーフィルター5は1540nmに対して高反射性であり、300~800nmに対して高透過性である。
該形態の試験効果、即ち、GdCOB結晶を回転させる場合、各位置で取得されるシグナル光スペクトルを
図8に示す。GdCOB結晶を回転させることによって、ポンプ光の結晶内の光路を連続的に変えて、さまざまな和周波位相整合条件を満たすようにし、シグナル光の波長λ
sを連続的に変え、同調可能な和周波パラメトリック光を出力する。試験の結果から、該装置は490~770nmの和周波パラメトリック光を発生できることが示されている。この実験では、使用される結晶サンプルは、両端面の平行度がよく、膜がめっきされていない条件下で共振空洞が部分的に形成され、正接方向(即ち1540nm周波数逓倍方向)で周波数逓倍光を出力するのに有利であり、このため、各スペクトルにおいて波長770nmの周波数逓倍信号が多少検出される。周波数逓倍光が不要である場合、結晶端面の平行度を低下させたり、両端面にベースバンド反射防止膜をめっきしたり、出力端に周波数逓倍高反射性膜をめっきしたりするなどの技術手段によって同調可能な出力中の周波数逓倍信号を解消することができる。
図9は
図2の装置及び
図7の装置によって取得されるスポット図であり、
図Aは
図2の装置によって取得されたシグナル光のスポット(λ
s=497nm)であり、
図Bは
図7の装置によって取得されたシグナル光のスポット(λ
s=490nm)であり、比較した結果、ポンプ光のビーム縮小形態が高ビーム品質のスポットを得るのにより有利である。
【0044】
実施例3
1540nmポンプ、YCOB結晶を非線形光学媒体とした「和周波光パラメトリック発生」の形態
そのメカニズムは
図1のBに示される。装置は
図2に示され、各部材は光路に設けられる。ポンプ光光源1は波長1056nm、パルス幅160fs、繰り返し周波数100kHzの超高速レーザーであり、レンズ3の焦点距離は200mmであり、非線形光学媒体4は、サイズ4×4×10mm
3、タンジェンシャル方向(θ=149°、φ=0°)のYCOB結晶であり、カラーフィルター5は1064nmに対して高反射性であり、300~800nmに対して高透過性である。該形態の試験効果を
図10、
図11に示す。
図10は、YCOB結晶を回転させた場合、各位置で取得されるシグナル光スペクトルであり、
図Aはポンプ光のスペクトル(λ
p=1540nm)であり、
図Bは結晶に直入射する場合に実現される周波数逓倍出力のスペクトル(λ
s=770nm)である。YCOB結晶を回転させることによって、ポンプ光の結晶内の光路を連続的に変えて、さまざまな和周波位相整合条件を満たすようにし、シグナル光の波長λ
sを連続的に変え、同調可能な和周波パラメトリック光を出力する。屈折の法則によれば、結晶の外部回転角度から結晶内の光の伝搬方向を算出することができ、
図C~
図Fはいくつかの代表的な方向で得られたシグナル光のスペクトルであり、それぞれθ=142.8°、144.6°、147.0°、149.8°に対応し、ここでは、φは常に0°であり、即ち、結晶がそのXZ主平面内で回転するように維持する。試験の結果、該装置は450~770nmの和周波パラメトリック光を発生できる。
図11は実施例3について算出された和周波位相整合曲線(1/λ
p+1/λ
i=1/λ
s、λ
p=1540nm、λ
sは底部の横座標、対応するλ
iは頂部の横座標である。縦座標は位相整合角θである)、及び対応する実験点である。
図11から理論結果が実測値とうまく一致することが分かり、これにより、この効果が和周波発生過程であることが確認されている。さらに、ポンプ光の偏光とシグナル光の偏光とが互いに垂直であることも認められ、これにより、このような位相整合がIクラスであることが確認されている。ポンプ源及び非線形光学媒体を変更しない条件下で、
図3に示す「和周波光パラメトリック発振」の形態を使用すれば、ポンプのしきい値を低下させ、出力パワー及び変換効率をさらに高めることができる。
【0045】
実施例4
1056nmポンプ、YCOB結晶を非線形光学媒体とした「和周波光パラメトリック発生」の形態
そのメカニズムは
図1のB、Cに示される。装置は
図2のものと類似しており、各部材は光路に設けられる。ポンプ光光源1は、波長1540nm、パルス幅160fs、繰り返し周波数100kHzの超高速レーザーであり、フォーカシングレンズ3の焦点距離は200mmであり、非線形光学媒体4は、サイズ6×6×10mm
3、タンジェンシャル方向(θ=140°、φ=0°)のYCOB結晶であり、適切なカラーフィルターがないため、ここでは光学素子であるカラーフィルター5が使用されていない。該形態の試験効果を
図12、
図13に示す。
図12は、YCOB結晶を回転させる場合、各位置で取得されるシグナル光のスペクトルであり、
図Aはポンプ光のスペクトル(λ
p=1056nm)であり、
図Bは結晶に直入射する場合に実現される周波数逓倍出力のスペクトル(λ
s=528nm)である。YCOB結晶を回転させることによって、ポンプ光の結晶内の光路を連続的に変えて、さまざまな和周波位相整合条件を満たすようにし、シグナル光の波長λ
sを連続的に変え、同調可能な和周波パラメトリック光を出力する。屈折の法則によれば、結晶の外部回転角度から結晶内の光の伝搬方向を算出することができ、
図C~
図Fはいくつかの代表的な方向で得られたシグナル光のスペクトルであり、それぞれθ=150.6°、152.5°、154.9°、157.3°に対応し、ここでは、φは常に0°であり、即ち、結晶がそのXZ主平面内で回転するように維持する。試験の結果、該装置は425~528nmの和周波パラメトリック光を発生できる。
図13は実施例4について算出された和周波位相整合曲線(1/λ
p+1/λ
i=1/λ
s、λ
p=1056nm、λ
sは底部の横座標、対応するλ
iは頂部の横座標である。縦座標は位相整合角θである)、及び対応する実験点である。図から理論結果が実測値とうまく一致することが分かり、これにより、この効果が和周波発生過程であることが確認されている。さらに、ポンプ光の偏光とシグナル光の偏光とが互いに垂直であることも認められ、これにより、このような位相整合がIクラスであることが確認されている。ポンプ源及び非線形光学媒体を変更しない条件下で、
図3に示す「和周波光パラメトリック発振」の形態を使用すれば、ポンプのしきい値を低下させ、出力パワー及び変換効率をさらに高めることができる。
【0046】
実施例5
1056nmポンプ、KDP結晶を非線形光学媒体とした「和周波光パラメトリック発生」の形態
そのメカニズムは
図1のA、B、Dに示される。装置は
図2と類似しており、各部材は光路に設けられる。ポンプ光光源1は、波長1056nm、パルス幅160fs、繰り返し周波数100kHzの超高速レーザーであり、レンズ3の焦点距離は200mmであり、非線形光学媒体4は、サイズ50×30×13mm
3、タンジェンシャル方向(θ=41°、φ=45°)のKDP結晶であり、適切なカラーフィルターがないため、ここでは光学素子であるカラーフィルター5が使用されていない。該形態の試験効果を
図14、15に示す。
図14は、YCOB結晶を回転させる場合、各位置で取得されるシグナル光のスペクトルであり、
図Aはポンプ光のスペクトル(λ
p=1056nm)であり、
図Bは結晶に直入射する場合に実現される周波数逓倍出力のスペクトル(λ
s=528nm)である。KDP結晶を回転させることによって、ポンプ光の結晶内の光路を連続的に変えて、さまざまな和周波位相整合条件を満たすようにし、シグナル光の波長λ
sを連続的に変え、同調可能な和周波パラメトリック光を出力する。屈折の法則によれば、結晶の外部回転角度から結晶内の光の伝搬方向を算出することができ、
図C~
図Eはいくつかの代表的な方向で得られたシグナル光のスペクトルであり、それぞれθ =42.6°、43.7°、44.4°に対応し、ここでは、φは常に45°である。試験の結果、該装置はλ
s 390~670nmの和周波パラメトリック光を発生できる。
図15においては、Aは実施例5について算出された和周波位相整合曲線(1/λ
p+1/λ
i=1/λ
s、λ
p=1056nm、λ
sは底部の横座標、対応するλ
iは頂部の横座標である。縦座標は位相整合角θである)、及び対応する実験点である。ここでは、それぞれ文献「F. Zernike,J. Opt. Soc. Am. 54,1215-1220,1964」及び「D. Eimerl,Ferroelectrics. 72,95-139,1987」に記載の2つのKDPの屈折率分散方程式を計算の根拠として参照し、これらの計算結果をそれぞれ実線及び点線で表す。この図から、全体的には理論結果が実測値とうまく一致することが分かり、これにより、この効果が和周波発生過程であることが確認されている。記録された出力光スペクトルから、より多くの実験点が得られ、
図Bに示すように、可視光和周波の理論計算値も実験値とうまく一致し、これにより、この効果が和周波発生過程であることがさらに確認されている。さらに、実験では、別のシグナル光λ
s’が見つけられ、その発生メカニズムは
図1のD図に対応し、即ち1/λ
i1’+1/λ
i2’=1/λ
s’である。
図C、
図Dに示すように、λ
sが397nmから484nmに変わると、λ
s’は447nmから518nmになり、対応するλ
i1’の変化範囲は536~803nmであり、λ
i2’の変化範囲は2681~1458nmである。ポンプ源及び非線形光学媒体を変更しない条件下で、
図3に示す「和周波光パラメトリック発振」の形態を使用すれば、ポンプのしきい値を低下させ、出力パワー及び変換効率をさらに高めることができる。
【0047】
実施例6
1053nmポンプ、BBO結晶を非線形光学媒体とした「和周波光パラメトリック発生」の形態
具体的な装置は
図2のものと同じであり、各部材は光路に設けられる。ポンプ光光源1は波長1053nmのYb
3+超高速レーザーを用い、フォーカシングレンズ3の焦点距離は300mmであり、非線形光学媒体4は、サイズ10×10×10mm
3、タンジェント角度(θ=45.8°、φ=30°)のBBO結晶であり、該方向は和周波シグナル光の波長236nmに対応する。結晶がφ =30°の平面内で回転し、直入射方向に対する外角が+30°から-30°に変わると、その内部の和周波位相整合角θも62.9°から28.7°になり、対応するλ
sの同調範囲は185~395nmであり、空気中を伝搬可能な紫外波帯全体をカバーする。このような同調可能な光源は紫外線コヒーレント光に対するさまざまなニーズに対応することができ、例えば193nmはアライナーの紫外光源として機能でき、325nmは大体積、高騒音のHe-Cdイオンレーザーの代わりに医療診断や照射療法、例えば五感関連癌の検査、穴位へ照射することによる高血圧や慢性肝炎の治療などに有用である。
【0048】
実施例7
超高速超高強度レーザー装置用の同調周波数変換可能な「和周波光パラメトリック発生」の形態
装置は
図2のものと類似しており、各部材は光路に設けられる。ポンプ光光源1は波長1053nm、ピークパワーTW~EWの超高速超高強度レーザー装置を用いる。ポンプ源自体が高いパワー密度を有するため、フォーカシングが不要であり、ここでは、フォーカシングレンズ3が省略される。非線形光学媒体4は厚さ10mmで、装置の口径に依存するが断面サイズが100×100mm
2~500×500mm
2の間であるKDP結晶を用いる。結晶のタンジェント角度が(θ=46.2°、φ=45°)であり、該方向は和周波シグナル光の波長660nm及び370nmに対応する。結晶がφ=45°の平面内で回転し、直入射方向に対する外角が+7.5°から-7.5°に変化する場合、その内部の和周波位相整合角θも51.2°から41.2°に変わり、対応するλ
sの同調範囲は318~710nmであり、可視帯域全体をカバーする。該装置はレーザー核融合、超相対性理論現象の研究、実験室の天体物理学などに有用である。
【0049】
実施例8
紫外差分吸収レーザーライダー用の二波長和周波パラメトリック光発生装置
構成は
図16に示され、各部材は光路に設けられる。ポンプ光光源1は波長1053nmのYb
3+超高速レーザーを用い、ビーム縮小システムフロントミラー12、ビーム縮小システムリアミラー13の焦点距離はそれぞれ300mm及び100mmである。第1非線形光学媒体14は、サイズ10×10×10mm
3、タンジェント角度(θ=43°、φ=30°)のBBO結晶を用い、該方向は和周波シグナル光の波長250nmに対応し、第1非線形光学媒体15は、サイズ10×10×10mm
3、タンジェント角度(θ=30°、φ=30°)のBBO結晶を用い、該方向は和周波シグナル光の波長370nmに対応する。250nm及び370nmはそれぞれオゾンの吸収ピーク及び吸収谷に対応するため、この二波長光源は紫外差分吸収レーザーライダーに用いられて、大気成層中のオゾン濃度を精密に測定することができる。さらに、2つの結晶の方向や温度を調整することにより出力波長を同調することができ、これにより、他の気体の紫外差分吸収測定に簡便且つ柔軟に利用できる。
【0050】
実施例9
一酸化炭素中毒ヘモグロビン検査用の二波長和周波パラメトリック光発生装置
構成は
図16に示され、各部材は光路に設けられる。ポンプ光光源1は波長1550nmの超高速レーザーを用い、ビーム縮小システムフロントミラー12、ビーム縮小システムリアミラー13の焦点距離はそれぞれ300mm及び100mmである。第1非線形光学媒体14は、サイズ10×10×10mm
3、タンジェント角度(θ=156°、φ=0°)のGdCOB結晶を用い、該方向は和周波シグナル光の波長555nmに対応し、第1非線形光学媒体15は、サイズ10×10×10mm
3、タンジェント角度(θ=147°、φ=0°)のYCOB結晶を用い、該方向は和周波シグナル光の波長540nmに対応する。ヘモグロビンの吸収ピークが555nm付近、カルボキシヘモグロビンの吸収ピークが540nm付近であるので、555nm、540nm二波長光源はカルボキシヘモグロビンを検出して、一酸化炭素中毒の程度を判断することに用いられる。さらに、2つの結晶の方向や温度を調整することにより出力波長を同調することができ、これにより、アルコールなどの物質の血液測定に簡便且つ柔軟に利用できる。
【0051】
実施例10
難治性火炎状母斑治療用の二波長和周波パラメトリック光発生装置
構成は
図7のものと類似しており、各部材は光路に設けられる。ポンプ光光源1は波長1053nmのYb
3+超高速レーザーを用い、ビーム縮小システムフロントミラー12、ビーム縮小システムリアミラー13の焦点距離はそれぞれ300mm及び100mmである。非線形光学媒体4は、サイズ10×10×10mm
3、タンジェント角度(θ=42.5°、φ=45°)のKDP結晶を用い、該方向は和周波シグナル光の波長595nmに対応する。ここでは、カラーフィルター5が使用されていないため、残りのポンプ光がシグナル光とともに出力され、1053nm、595nm二波長レーザー光が形成される。595nmの光は血管内の酸素とヘモグロビンにより特異的に吸収され、酸素とヘモグロビンがエネルギーを吸収すると、メトヘモグロビンが一瞬で形成される。メトヘモグロビンは595nmレーザー光に対する吸収が極めて少なく、1053nmのレーザー光により吸収され得る。このような相乗的な熱効果は難治性火炎状母斑の治療効果を大幅に高め、不良反応を低減させることができる。さらに、KDP結晶の方向や温度を調整することによりシグナル光波長を同調することができ、これにより、他の皮膚疾患の治療に簡便且つ柔軟に適用できる。
【0052】
実施例11
白色光を出力する和周波パラメトリック光発生装置
構成は
図16に示され、各部材は光路に設けられる。ポンプ光光源1は波長1550nmの超高速レーザーを用い、ビーム縮小システムフロントミラー12、ビーム縮小システムリアミラー13の焦点距離はそれぞれ300mm及び100mmである。第1非線形光学媒体14は、サイズ10×10×10mm
3、タンジェント角度(θ=24.4°、φ=30°)のBBO結晶を用い、該方向は和周波シグナル光の波長445nmに対応し、第1非線形光学媒体15は、サイズ10×10×10mm
3、タンジェント角度(θ=21.3°、φ=30°)のBBO結晶を用い、該方向は和周波シグナル光の波長580nmに対応する。445nmと580nmが出力方向に重畳するため、白色光レーザー光が出力され得る。2つの結晶の方向や温度を調整することにより出力波長を同調することができ、これにより、白色光の色温を柔軟に調整することができる。
【符号の説明】
【0053】
1. ポンプ光光源、2. 波長λpのポンプ光、3.フォーカシングレンズ、4.非線形光学媒体、5.カラーフィルター、6.波長λsのシグナル光、7.光パラメトリック発振入力ミラー、8.光パラメトリック発振出力ミラー、9.シグナル光光源、10.シグナル光反射ミラー、11.ポンプ光、シグナル光ビーム結合ミラー、12.ビーム縮小システムフロントミラー、13.ビーム縮小システムリアミラー、14.第1非線形光学媒体、15.第1非線形光学媒体。