(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-13
(45)【発行日】2024-09-25
(54)【発明の名称】化学気相蒸着用原料、原子層堆積用原料、およびスズを含有する薄膜の製造方法
(51)【国際特許分類】
C23C 16/18 20060101AFI20240917BHJP
C23C 16/40 20060101ALI20240917BHJP
C07F 7/22 20060101ALN20240917BHJP
【FI】
C23C16/18
C23C16/40
C07F7/22 Z
(21)【出願番号】P 2023069076
(22)【出願日】2023-04-20
(62)【分割の表示】P 2019147033の分割
【原出願日】2019-08-09
【審査請求日】2023-04-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000143411
【氏名又は名称】株式会社高純度化学研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100101878
【氏名又は名称】木下 茂
(74)【代理人】
【識別番号】100187506
【氏名又は名称】澤田 優子
(72)【発明者】
【氏名】高橋 伸尚
(72)【発明者】
【氏名】水谷 文一
(72)【発明者】
【氏名】東 慎太郎
【審査官】安積 高靖
(56)【参考文献】
【文献】特開昭62-182279(JP,A)
【文献】国際公開第2012/132669(WO,A1)
【文献】特開2009-030162(JP,A)
【文献】特開2012-184449(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 16/18
C23C 16/40
C07F 7/22
CAplus(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で表されるビス(アルキルシクロペンタジエニル)スズまたはビス(アルキルテトラメチルシクロペンタジエニル)スズを主成分として含有し、
原子層堆積法により、スズを含有する薄膜を製造するための原子層堆積用原料。
【化1】
(式(1)中、R
1およびR
2はそれぞれ独立に水素または炭素数6以下のアルキル基を表し、R
3およびR
4はそれぞれ独立に炭素数6以下のアルキル基を表す。)
【請求項2】
下記式(1)で表されるビス(アルキルシクロペンタジエニル)スズまたはビス(アルキルテトラメチルシクロペンタジエニル)スズを含有する
原子層堆積用原料を化学蒸着装置の原料容器中で気化し、気化したビス(アルキルシクロペンタジエニル)スズまたはビス(アルキルテトラメチルシクロペンタジエニル)スズを反応室中の基板まで供給する、
原子層堆積法による、スズを含有する薄膜の製造方法。
【化2】
(式(1)中、R
1およびR
2はそれぞれ独立に
水素または炭素数6以下のアルキル基を表し、R
3およびR
4はそれぞれ独立に炭素数6以下のアルキル基を表す。)
【請求項3】
前記スズを含有する薄膜が酸化スズ(II)薄膜である、請求項
2に記載のスズを含有する薄膜の製造方法。
【請求項4】
酸化剤として水を用いる、請求項
3に記載のスズを含有する薄膜の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スズ薄膜またはスズ酸化物薄膜の前駆体を主成分として含有する化学気相蒸着用原料、およびスズを含有する薄膜の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
透明導電膜は、高い導電性や可視光領域での高い光透過性を有することから、太陽電池、フラットパネルディスプレイおよびタッチスクリーンなど、受光素子を含む種々の光電変換素子の電極として利用されている。また、近赤外域において優れた反射吸収特性を有することから、熱線反射膜、透明ヒーター、透明電磁波シールドおよび帯電防止膜などとしても利用されている。
【0003】
このような透明導電膜の材料としては、一般に、アンチモンおよびフッ素などをドーパントとして含む酸化スズ(IV)(SnO2)、アルミニウム、ガリウム、インジウムおよびスズなどをドーパントとして含む酸化亜鉛(ZnO)、ならびに、スズ、タングステンおよびチタンなどをドーパントとして含む酸化インジウム(III)(In2O3)などが用いられている。特に、スズをドーパントとして含む酸化インジウム(ITO)膜は、低抵抗の透明導電膜が容易に得られることから、工業的に幅広く使用されている。
【0004】
このような酸化物透明導電膜の製造には、スパッタリング法、化学蒸着法およびイオンプレーティング法などが用いられる。これらのうち、例えば、酸化スズや酸化亜鉛のような蒸気圧の比較的高い前駆体を持つ金属酸化物の薄膜は、原子層堆積法(ALD法)などの化学蒸着法(CVD法)により容易に形成される。
【0005】
一般にスズ前駆体として広く用いられているのは、4価のスズ化合物であるテトラアルキルスズである。テトラアルキルスズの他には、例えば、スズおよびスズ酸化物薄膜のための前駆体として、2価のスズ錯体、スズアミノアルコキシド錯体が特許文献1に開示されている。前記スズアミノアルコキシド錯体では、新しいリガンドとしてスズにジアルキルアミノ基を配位させることにより、炭素またはハロゲンの汚染を起こさず、熱安定性および揮発性が改善されるだけでなく、より低い温度でも容易にスズおよびスズ酸化物の薄膜を形成することができる。
また、特許文献2には、スズおよびスズ酸化物薄膜のための前駆体として、ビス(ジイソプロピルアミノ)ジメチルスズ(Sn[N(iPr)2]2Me2)が開示されている。さらに、非特許文献1では、2価のスズ錯体、N,N’-tert-ブチル-1,1-ジメチルエチレンアミンスズが用いられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2009-227674号公報
【文献】特開2018-90586号公報
【非特許文献】
【0007】
【文献】Jung-Hoon Lee, Mi Yoo, DongHee Kang, Hyun-Mo Lee, Wan-ho Choi, Jung Woo Park, Yeonjin Yi, Hyun You Kim, and Jin-Seong Park, ACS Applied Materials & Interfaces 10 (39), 33335-33342(2018)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1のスズアミノアルコキシド錯体では、スズ原子とリガンドとのSn-OまたはSn-N間の結合が比較的強固である。また、前記スズアミノアルコキシド錯体の蒸気圧は100~120℃において10-2torrであるため、化学蒸着法を用いて、大面積のスズおよびスズ酸化物薄膜を形成するためには、蒸気圧をより高くして、反応性を上げることがプロセスの効率化の点で望まれる。
また、特許文献2のスズ錯体は、80℃において0.6Torrの比較的高い蒸気圧を持つが、スズが4価であるため、酸化スズ(II)の成膜は困難である。広く用いられているテトラアルキルスズも4価あるため、同様に、酸化スズ(II)の成膜は困難である。さらに、非特許文献1のスズ錯体の蒸気圧は、75℃で0.2torrであるが、この錯体も特許文献1と同様にスズ原子とリガンドのSn-N間の結合が比較的強固である。
【0009】
本発明は、低温でも高い蒸気圧を持つ、スズ薄膜またはスズ酸化物薄膜の前駆体として、ビス(アルキルシクロペンタジエニル)スズまたはビス(アルキルテトラメチルシクロペンタジエニル)スズ、および、これらの前駆体を主成分とする化学気相蒸着用原料、および該化学気相蒸着用原料を用いたALD法によるスズを含有する薄膜の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、以下の事項からなる。
本発明の化学
気相蒸着用原料は、下記式(1)で表されるビス(アルキルシクロペンタジエニル)スズまたはビス(アルキルテトラメチルシクロペンタジエニル)スズを主成分として含有することを特徴とする。
【化1】
式(1)中、R
1およびR
2はそれぞれ独立に水素または炭素数6以下のアルキル基を表し、R
3およびR
4はそれぞれ独立に炭素数6以下のアルキル基を表す。
【0011】
本発明の
原子層堆積用原料は、原子層堆積法を用いてスズを含有する薄膜を製造するための原料であり、下記式(1)で表されるビス(アルキルシクロペンタジエニル)スズまたはビス(アルキルテトラメチルシクロペンタジエニル)スズを主成分として含有することを特徴とする。
【化2】
式(1)中、R
1
およびR
2
はそれぞれ独立に水素または炭素数6以下のアルキル基を表し、R
3
およびR
4
はそれぞれ独立に炭素数6以下のアルキル基を表す。
【0012】
本発明のスズを含有する薄膜の製造方法は、
化学蒸着法において、下記式(1)で表されるビス(アルキルシクロペンタジエニル)スズまたはビス(アルキルテトラメチルシクロペンタジエニル)スズを含有する化学気相蒸着用原料を化学蒸着装置の原料容器中で気化し、気化したビス(アルキルシクロペンタジエニル)スズまたはビス(アルキルテトラメチルシクロペンタジエニル)スズを反応室中の基板まで供給することを特徴とする。
【化3】
式(1)中、R
1
およびR
2
はそれぞれ独立に炭素数6以下のアルキル基を表し、R
3
およびR
4
はそれぞれ独立に炭素数6以下のアルキル基を表す。
前記製造方法において、前記化学蒸着法は原子層堆積法であることが好ましい。このとき、スズを含有する薄膜は具体的には酸化スズ(II)薄膜である。また、前記製造方法では、酸化剤として水を用いることが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、高い蒸気圧を持つ前駆体として、ビス(アルキルシクロペンタジエニル)スズまたはビス(アルキルテトラメチルシクロペンタジエニル)スズを使用し、酸化剤を適切に選択することで、化学蒸着、具体的にはALDにより効率良くn型またはp型のスズ酸化物薄膜を形成することができる。本発明は、特にp型透明導電膜である酸化スズ(II)薄膜を形成する場合に好適であると言える。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の化学
気相蒸着用原料は、下記式(1)で表されるビス(アルキルシクロペンタジエニル)スズまたは下記式(1)で表されるビス(アルキルテトラメチルシクロペンタジエニル)スズを主成分として含有する。
なお、本明細書等において化学蒸着(法)とは化学気相蒸着(法)をいう。以下同じ。
【化4】
【0015】
スズは、通常2価または4価の酸化数をとりうる。2価のスズ化合物はイオン結合性が強く還元性を有しており、4価のスズ化合物は共有結合性が強い。前記式(1)で表される、ビス(アルキルシクロペンタジエニル)スズまたはビス(アルキルテトラメチルシクロペンタジエニル)スズは2価のスズ化合物である。
【0016】
式(1)中、R1およびR2はそれぞれ独立に水素または炭素数6以下のアルキル基を表し、R3およびR4はそれぞれ独立に炭素数6以下のアルキル基を表す。炭素数が大きすぎると、前駆体がかさ高くなり、ALDの際の吸着量が少なくなるので、本発明のR1、R2、R3およびR4は炭素数6以下であり、好ましくは炭素数4以下である。
炭素数4以下のアルキル基には、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、およびtert-ブチル基が挙げられる。
【0017】
R1およびR2は、いずれも水素、またはいずれも同じ炭素数であることが好ましく、いずれも炭素数2または3であることがより好ましく、いずれも炭素数2のエチル基であることが特に好ましい。
【0018】
R3およびR4は、いずれも同じ炭素数であることが好ましく、いずれも炭素数1~3であることであることがより好ましく、いずれも炭素数1のメチル基であることが特に好ましい。
さらに、ALDにおける吸着量の観点からは、ビス(アルキルテトラメチルシクロペンタジエニル)スズよりもビス(アルキルシクロペンタジエニル)スズが好ましい。
【0019】
本発明の化学気相蒸着用原料は、高い蒸気圧を有し、化学蒸着を行うに際して気化が容易に起こるものであれば、固体でも液体でもよいが、プロセスの効率化の観点からは、23℃において液体であることが好ましい。それゆえ、化学気相蒸着用原料の主成分であるビス(アルキルシクロペンタジエニル)スズまたはビス(アルキルテトラメチルシクロペンタジエニル)スズの融点は、室温よりも低い温度、好ましくは35℃未満、より好ましくは23℃未満である。
【0020】
なお、R1およびR2が水素であるビスシクロペンタジエニルスズは23℃で固体であり、80℃での蒸気圧は0.1torrであり、R1およびR2がエチル基である、ビス(エチルシクロペンタジエニル)スズは、23℃で液体であり、80℃での蒸気圧は1.2torrであり、100℃での蒸気圧は2.3torrである。
【0021】
化学蒸着を行うためには、前駆体として蒸気圧が高い化合物を用いる必要がある。本発明の化学気相蒸着用原料は、23℃において液体であり、かつ、低温でも高い蒸気圧を有することが好ましい。本発明における式(1)で表される、ビス(アルキルシクロペンタジエニル)スズまたはビス(アルキルテトラメチルシクロペンタジエニル)スズの蒸気圧は、80℃で0.05~10torrであるので、CVD、特にALDによる薄膜形成に好適である。
【0022】
前記化学気相蒸着用原料中、式(1)で表される、ビス(アルキルシクロペンタジエニル)スズまたはビス(アルキルテトラメチルシクロペンタジエニル)スズの含有量は100wt%に近いほうがよい。具体的には、ビス(アルキルシクロペンタジエニル)スズまたはビス(アルキルテトラメチルシクロペンタジエニル)スズの含有量は、化学気相蒸着用原料中、95~100wt%が好ましく、99~100wt%がより好ましい。ただし、化学蒸着を行う際に原料を気化させる温度において、ビス(アルキルシクロペンタジエニル)スズまたはビス(アルキルテトラメチルシクロペンタジエニル)スズと反応せず、気化しない物質が、本発明の目的に支障のない範囲で含まれていてもよい。
【0023】
本発明の化学気相蒸着用原料は、種々の方法で製造することができる。例えば、R1およびR2がエチル基である、ビス(エチルシクロペンタジエニル)スズは、エチルシクロペンタジエンおよび金属カリウムをテトラヒドロフラン(THF)に溶解させた溶液に、塩化スズ(II)のTHF溶液を-78℃の温度下で添加して攪拌した後、減圧蒸留することにより黄色液体の生成物として高収率で得ることができる。
【0024】
本発明の化学気相蒸着用原料を用いた薄膜形成は、CVD法により行う。
CVDでは、式(1)で表される、ビス(アルキルシクロペンタジエニル)スズまたはビス(アルキルテトラメチルシクロペンタジエニル)スズを充填した原料容器を加熱して気化させ、反応室に供給する。気化は、CVDにおける通常の有機金属化合物の気化方法で行うことができ、例えば、CVD装置の原料容器中で加熱や減圧をする。次いで、気化したビス(アルキルシクロペンタジエニル)スズまたはビス(アルキルテトラメチルシクロペンタジエニル)スズを反応室中の基板まで供給する。このとき、原料容器から反応室までの配管および反応室は、原料であるビス(アルキルシクロペンタジエニル)スズまたはビス(アルキルテトラメチルシクロペンタジエニル)スズが熱分解せず、気体の状態を保つ温度、すなわち、原料容器の温度(原料を気化させる温度)よりも高く、原料の熱分解温度よりも低くする。本発明における化学蒸着法の場合、加熱温度は、23~200℃程度である。成膜温度(基板温度)設定の自由度を高くするには、加熱温度はできるだけ低い方がよい。それゆえ、化学気相蒸着用原料は低温で十分な蒸気圧を持つことが好ましいと言える。
【0025】
化学蒸着法には、基板上で連続的に熱分解させて堆積する熱CVD法や、一原子層ずつ堆積させるALD法などがあり、本発明の化学気相蒸着用原料は熱CVD法にも適するが、特にALD法が好ましい。
ALDでは、化学気相蒸着用原料と酸化剤とを交互に供給することで、基板上でのビス(アルキルシクロペンタジエニル)スズまたはビス(アルキルテトラメチルシクロペンタジエニル)スズと酸化剤との反応により、酸化スズ(II)または酸化スズ(IV)の薄膜を原子層の単位で制御して成膜する。酸化剤には、例えば、水、オゾンまたはプラズマ活性化酸素などが用いられる。酸化剤に水を用いた場合、p型透明導電膜である酸化スズ(II)の薄膜が形成され、オゾンまたはプラズマ活性化酸素を用いた場合、n型透明導電膜である酸化スズ(IV)の薄膜が形成される。
【0026】
ALDでは、(i)ヒータ上に基板を配置したチャンバー内に気相の化学気相蒸着用原料を導入して、気相の該原料を基板上に吸着させる工程と、(ii)チャンバー内の余剰の化学気相蒸着用原料を不活性ガスによりパージする工程と、(iii)気相の酸化剤を投入し、基板上のビス(アルキルシクロペンタジエニル)スズまたはビス(アルキルテトラメチルシクロペンタジエニル)スズと反応させて、スズ酸化物を形成する工程と、(iv)チャンバー内の余剰の酸化剤を不活性ガスによりパージする工程とからなる成膜サイクルを繰り返すことにより成膜する。成膜サイクルの回数は、基板の面積や、スズを含有する薄膜の厚みによって異なるが、通常100~10000回である。
【0027】
成膜温度は、基板温度を反応温度と同一にし、その基板温度は、吸着したビス(アルキルシクロペンタジエニル)スズまたはビス(アルキルテトラメチルシクロペンタジエニル)スズが熱分解する温度よりも低く、酸化剤と十分に反応する程度に高くする。
なお、化学気相蒸着用原料や酸化剤は、基板が設置された反応室に外部から気相で供給されるが、基板上で凝縮しないように、基板温度よりも低い温度で昇華または蒸発させる必要がある。このとき、化学気相蒸着用原料が室温で固体であると、流量制御装置による気相の供給速度の制御が難しいが、化学気相蒸着用原料が室温で液体であると、流量制御装置によって気相の供給速度を精密かつ容易に制御することができ、ALDに適していると言える。
【実施例】
【0028】
以下、本発明を実施例に基づいてさらに具体的に説明するが、本発明は下記実施例により制限されるものではない。
[実施例1]ビス(エチルシクロペンタジエニル)スズ(Sn[C5H4(C2H5)]2)
1Lの四ツ口フラスコにTHF 400ml、金属カリウム21.7g(0.55mol)およびエチルシクロペンタジエン(C5H5(C2H5)) 70.8g(0.75mol)を入れ、26時間反応させた後、40℃で減圧留去し、C5H4(C2H5)Kを得た。
得られたC5H4(C2H5)Kに、-78℃でTHF 600ml、SnCl2 50.7g(0.27mol)を加え、室温で23時間攪拌した。その後、50℃で減圧留去し、固形分を得た。
得られた固形分を単蒸留装置に仕込み、110℃、0.1torrで真空蒸留を2回行ったところ、黄色の液体が得られた。収量は61.3g(0.20mol)、収率76.2%(SnCl2基準)であった。
【0029】
得られた試料について、以下(1)-(3)の分析を行ったところ、Sn[C5H4(C2H5)]2と確認された。
(1)組成分析
湿式分解して得られた液のICP発光分光分析の結果、Snの含有量は38.2%であった(理論値:38.9%)。
(2)1H-NMR
測定条件(装置:AVANCE NEO 500(500MHz)、Bruker BioSpin、 溶媒:THF-d8、 方法:1D)
CH2CH
3
、1.15(6H,triplet)ppm:CH
2
CH3、2.48(4H,quartet)ppm:C5
H
4
、 5.71(4H,multiplet)ppm:C5
H
4
、5.79(4H,multiplet)ppm
(3)13C-NMR
測定条件(装置:AVANCE NEO 500(125MHz)、Bruker BioSpin、 溶媒:THF-d8、 方法:1D)
133.61、110.31、108.37ppm:C5、
22.53、16.88ppm:C2H5
【0030】
次に、圧力計(型式:121A,メーカー名:mks)を用いて、70-130℃における蒸気圧を直接測定し、次式を得た。
log P(torr)=-1930/T(K)+5.54
この式から、80℃での蒸気圧を1.2torr、100℃での蒸気圧を2.3torrと求めた。
Sn[C5H4(C2H5)]2は、蒸気圧が高く、化学蒸着に求められる揮発性を有していると言える。
また、合成したSn[C5H4(C2H5)]2は、室温で水と反応して白色固体を生じた。このことは、酸化剤として水を用いることが可能であることを示しており、ALDによって、p型透明導電膜である酸化スズ(II)の薄膜を好適に形成できると言える。
【0031】
[実施例2]ジシクロペンタジエニルスズ(Sn(C5H5)2)
ジシクロペンタジエニルスズは、Christoph Janiak, Z. Anorg. Allg. Chem. 2010, 636, 2387-2390にも示されているように、新規物質ではないが、化学気相蒸着用原料として使用された報告は見当たらない。前記の文献によると、Sn(C5H5)2は常温で固体であるが、80℃、0.1torrで昇華精製できており、化学蒸着に求められる性能を有している。
【0032】
[比較例1]ビス(ジメチルアミノ-2-メチル-2-プロポキシ)スズ(Sn(dmamp)2)
特許文献1の実施例1に記載された合成方法では、100℃、0.01torrで分別蒸留しており、100℃においても、蒸気圧は約0.01torrしかなく、自圧のみで化学蒸着に用いるのは困難であり、バブラーを用いるなどの工夫が必要となる。