(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-13
(45)【発行日】2024-09-25
(54)【発明の名称】レトルト製造方法、レトルト及びロータリーキルン
(51)【国際特許分類】
F27B 7/28 20060101AFI20240917BHJP
C22C 19/03 20060101ALI20240917BHJP
C22C 19/05 20060101ALI20240917BHJP
B23K 10/02 20060101ALI20240917BHJP
F27D 1/00 20060101ALI20240917BHJP
F27D 1/16 20060101ALI20240917BHJP
【FI】
F27B7/28
C22C19/03 Z
C22C19/05 Z
B23K10/02 A
F27D1/00 D
F27D1/16 Z
(21)【出願番号】P 2024023891
(22)【出願日】2024-02-20
【審査請求日】2024-03-29
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000217583
【氏名又は名称】株式会社タナベ
(74)【代理人】
【識別番号】100144749
【氏名又は名称】小林 正英
(74)【代理人】
【識別番号】100076369
【氏名又は名称】小林 正治
(72)【発明者】
【氏名】菊谷 和彦
(72)【発明者】
【氏名】阿部 和章
(72)【発明者】
【氏名】樋口 勇
(72)【発明者】
【氏名】斎藤 孝
【審査官】山内 隆平
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-080675(JP,A)
【文献】特開昭53-046452(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第101648314(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F27B 7/28
C22C 19/03
C22C 19/05
B23K 10/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ロータリーキルンのレトルトの製造方法において、
Ni:90.0重量%以上及びAl:2.0重量%以上を含むNi基合金製の母材の接合箇所を、フィラーを用いずにプラズマ溶接
し、
前記プラズマ溶接による接合箇所に生じた溶接金属部の外側に、前記母材と異なる材料にて余盛りを行う、
ことを特徴とするレトルト製造方法。
【請求項2】
請求項1記載のレトルト製造方法において、
母材と異なる材料として、JIS SNi6617を満足する材料を用いる、
ことを特徴とするレトルト製造方法。
【請求項3】
ロータリーキルンのレトルトにおいて、
Ni:90.0重量%以上及びAl:2.0重量%以上を含むNi基合金からなる母材と、母材の
プラズマ溶接による接合箇所に生じた溶接金属部
と、当該溶接金属部の外側に設けられた前記母材と異なる材料からなる余盛り部を備え、
前記母材は、前記溶接金属部の周囲に生じた熱影響部と当該母材の熱影響部以外の部分である母材部を備え、
(式1) (熱影響部の平均結晶粒径/母材部の平均結晶粒径)×100 によって得られる値が100~300%である、又は/及び、熱影響部の平均結晶粒径が250μm未満である、
ことを特徴とするレトルト。
【請求項4】
請求項3記載のレトルトにおいて、
余盛り部は、JIS SNi6617を満足する材料からなる、
ことを特徴とするレトルト。
【請求項5】
請求項
3記載のレトルトにおいて、
Alの含有量が2.0~5.0重量%である、
ことを特徴とするレトルト。
【請求項6】
請求項
3記載のレトルトにおいて、
Ni基合金は、Ni:90.0重量%以上及びAl:2.0重量%以上に加え、
Si:0.1~2.5重量%、
Mn:0.1~1.5重量%、
B:0.001~0.01重量%、
Zr:0.001~0.1重量%を含有する、
ことを特徴とするレトルト。
【請求項7】
請求項
3記載のレトルトにおいて、
Ni基合金は、Ni:90.0重量%以上及びAl:2.0重量%以上に加え、
Si:0.1~2.5重量%、
Cr:0.8~4.0重量%、
Mn:0.1~1.5重量%、
B:0.001~0.01重量%、
Zr:0.001~0.1重量%を含有する、
ことを特徴とするレトルト。
【請求項8】
ロータリーキルンにおいて、
レトルトとして請求項
3から請求項
7のいずれか1項に記載のレトルトを備えた、
ことを特徴とするロータリーキルン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レトルト製造方法、レトルト及びロータリーキルンに関する。
【背景技術】
【0002】
粉体をはじめとする各種被処理物の熱処理には、レトルト(加熱炉)を備えたロータリーキルン(例えば、特許文献1)が利用されている。
【0003】
ロータリーキルンを用いて熱処理をする被処理物の中には、リチウムイオン電池の正極材料のように、酸化雰囲気で焼結されるものがあり、高温での耐酸化性(以下「耐高温酸化性」という)に優れるレトルトの開発が望まれている。
【0004】
耐高温酸化性に優れる材料としては、重量%で、アルミニウム(Al):2.0~5.0%、珪素(Si):0.1~2.5%、クロム(Cr):0.8~4.0%、マンガン(Mn):0.1~1.5%、ホウ素(B):0.001~0.01%、ジルコニウム(Zr):0.001~0.1%を含有し、残りがニッケル(Ni)および不可避不純物からなるニッケル基合金(Ni基合金)が知られている(特許文献2)。
【0005】
このほか、耐高温酸化性に優れる材料としては、重量%で、Al:2.0~5.0%、Si:0.1~2.5%、Mn:0.1~1.5%、B:0.001~0.01%、Zr:0.001~0.1%を含有し、残りがNiおよび不可避不純物からなるNi基合金も知られている(特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2011-080740号公報
【文献】特開2014-080675号公報
【文献】特開2015-045035号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところが、Alは他の含有成分に比べて融点が低いため、前記特許文献2及び3のNi基合金のようにAlを多く(2.0重量%以上)含有するNi基合金は溶接が難しく、このようなNi基合金を用いたレトルトは市場に流通していないのが実情である。
【0008】
本発明はかかる事情に鑑みてなされたものであり、その解決課題は、Alを2.0重量%以上含むNi基合金を用いたレトルトの製造方法、Alを2.0重量%以上含むNi基合金を用いたレトルト及び当該レトルトを備えたロータリーキルンを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
[レトルト製造方法]
本発明のレトルト製造方法は、ロータリーキルンのレトルトの製造方法であって、Ni:90.0重量%以上及びAl:アルミニウム2.0重量%以上を含むNi基合金製の母材の接合箇所を、フィラーを用いずにプラズマ溶接してレトルトを製造する方法である。
【0010】
[レトルト]
本発明のレトルトは、ロータリーキルンのレトルトであって、Ni:90.0重量%以上及びAl:2.0重量%以上を含むNi基合金からなる母材と、当該母材の接合箇所に生じた溶接金属部を備え、母材は、溶接金属部の周囲に生じた熱影響部と当該母材の熱影響部以外の部分である母材部を備え、(式1)(熱影響部の平均結晶粒径/母材部の平均結晶粒径)×100によって得られる値が100~300%、又は/及び、熱影響部の平均結晶粒径が250μm未満のものである。
【0011】
本願では、母材の材料として、Alの含有量が2.0~5.0重量%のNi基合金を用いることができる。
【0012】
本願では、母材の材料として、Ni:90.0重量%以上及びAl:2.0重量%以上に加え、Si:0.1~2.5重量%、Mn:0.1~1.5重量%、B:0.001~0.01重量%、Zr:0.001~0.1重量%を含有するNi基合金を用いることもできる。
【0013】
本願では、母材の材料として、Ni:90.0重量%以上及びAl:2.0重量%以上に加え、Si:0.1~2.5重量%、Cr:0.8~4.0重量%、Mn:0.1~1.5重量%、B:0.001~0.01重量%、Zr:0.001~0.1重量%を含有するNi基合金を用いることもできる。
【0014】
[ロータリーキルン]
本発明のロータリーキルンは、本発明のレトルトを備えたものである。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、耐高温酸化性に優れるNi基合金を用いたレトルトを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】(a)~(c)は筒状パーツの製造工程の一例を示すもの。
【
図2】(a)~(d)はレトルトの製造工程の一例を示すもの。
【発明を実施するための形態】
【0017】
(本願で使用する用語の定義)
本発明の実施形態の説明に先立ち、本願で使用する主な用語の定義について説明する。本願において、「溶接部」とは溶接金属部と熱影響部を含んだ部分をいう。ここでいう「溶接金属部」とは溶融部と溶着金属部を、「熱影響部」とは溶接、切断などの熱で組織、冶金的性質、機械的性質などが変化を生じた、溶融していない母材の部分をいう。
【0018】
また、「溶融部」とは母材が溶融した部分を、「溶着金属部」とは溶加材から溶接部に移行した金属をいう。なお、本願では、母材のうち熱影響部以外の部分を「母材部」という。
【0019】
このほか、本願において、「結晶」とは原子あるいはイオンが周期的な三次元格子状に配列している固体物質を、「結晶粒」とは金属やセラミックスなどの結晶性固体のように微細な結晶が集まってできている物質の個々の結晶を、「平均結晶粒径」とは、金属内に含まれる結晶粒の平均粒径のことをいう。以下、これらの用語を用いて、本願の実施形態について説明する。
【0020】
(レトルト製造方法の実施形態)
はじめに、本発明のレトルト製造方法の一例について説明する。本実施形態のレトルト製造方法では、
図1(a)~(c)に示す要領で、レトルト10を構成する筒状の部品(以下「筒状パーツ」という)10aを製造する。
【0021】
前記筒状パーツ10aは、ベースとなる板状の母材11をその両端面が対向するように筒状に曲げ、筒状に曲げて対向した両端面の接合箇所を溶接することによって製造することができる。母材11の曲げ加工は、既存の装置を用いて既存の方法で行うことができる。
【0022】
母材11には、ニッケル(Ni):90.0重量%以上及びアルミニウム(Al):2.0重量%以上を含むニッケル基合金(Ni基合金)を用いることができる。
【0023】
具体的には、Ni:90.0重量%以上及びAl:2.0重量%以上に加え、珪素(Si)、マンガン(Mn)、ホウ素(B)、ジルコニウム(Zr)、クロム(Cr)のいずれか一又は二以上を含むものを用いることができる。
【0024】
例えば、Ni:90.0重量%以上及びAl:2.0~5.0重量%に加え、Si:0.1~2.5重量%、Mn:0.1~1.5重量%、B:0.001~0.01重量%、Zr:0.001~0.1重量%を含有するものが挙げられる。
【0025】
このほか、例えば、Ni:90.0重量%以上及びAl:2.0~5.0重量%に加え、Si:0.1~2.5重量%、Cr:0.8~4.0重量%、Mn:0.1~1.5重量%、B:0.001~0.01重量%、Zr:0.001~0.1重量%を含有するもの等を用いることができる。ここで示したNi基合金の含有成分や含有比率は一例であり、含有成分や含有比率はこれ以外であってもよい。
【0026】
接合箇所の溶接は、例えば、プラズマを用いる方法(プラズマ溶接)で行うことができる。一般的なプラズマ溶接では溶接の際にフィラー(溶加材)を用いるが、この実施形態のレトルト製造方法では、フィラーを用いずにプラズマ溶接を行う。
【0027】
フィラーを用いる場合、フィラーを溶融する必要があり、その分だけ出力は大きくなり、溶射時間は長くなる。出力が大きくなり、溶射時間が長くなると、熱影響部11aの結晶粒が肥大化し、母材11と熱影響部11aの平均結晶粒径の差が大きくなる。母材11と熱影響部11aの平均結晶粒径の差が大きくなると、機械的強度が低下し、曲げた際に割れが発生することがある。
【0028】
この点、本実施形態のようにフィラーを用いずにプラズマ溶接をする場合、出力を抑え、溶射時間を短縮できるため、熱影響部11aの結晶粒の肥大化を抑制し、母材11と熱影響部11aの平均結晶粒径の差を最小限に抑えることができ、結果として、曲げた際の割れの発生を抑止することができる。
【0029】
また、プラズマ溶接の場合、電子ビーム溶接と異なり、溶接対象物(ワーク)を入れるチャンバーが必要ない。このため、電子ビーム溶接では対応できないような大型の対象物(例えば、φ1700×長さ2000mmのレトルト10等)であっても、溶接することができるというメリットがある。
【0030】
なお、溶接後の接合箇所には余盛りを行うことができる。余盛り用の溶接材料(溶接棒)には、母材11と同じ材料を用いることも、異なる材料を用いることもできる。母材11と異なる材料としては、例えば、TIG617(JIS SNi6617該当)が挙げられる。溶接棒は、高温下での強度と耐高温酸化性に優れるものを用いるのが好ましい。なお、余盛りは必要に応じて行えばよく、不要な場合には省略することができる。
【0031】
以上の要領で筒状パーツ10aを複数製造した後、それらを用いて所望長のレトルト10を完成させる。具体的には、
図2(a)~(d)に示すように、二以上の筒状パーツ10aを内部空間同士が連通し、且つ、端面同士が対向するように並べ、突き合わされた両筒状パーツ10aの端面の接合箇所を溶接する。
【0032】
筒状パーツ10a同士の溶接は、前述した筒状パーツ10aを製造する際の溶接方法と同じ方法で行うことができる。筒状パーツ10aを製造する場合と同様、この場合も、溶融部には必要に応じて余盛りをすることができる。以降、前記要領で複数の筒状パーツ10aを接合し、所望長のレトルト10を完成させる。
【0033】
本実施形態のレトルト製造方法は一例であり、本発明のレトルト製造方法は本実施形態に限定されるものではない。本発明のレトルト製造方法は、所期の目的を達成できる範囲で工程の入れ替えや追加、省略等の変更を加えることができる。
【0034】
(レトルト及びロータリーキルンの実施形態)
次に、本発明のレトルト10及びロータリーキルン100の一例について説明する。一例として
図3に示すロータリーキルン100は、いわゆる外熱式のロータリーキルン100であり、主要構成として、レトルト10と、レトルト10の外周に設けられた外筒20と、レトルト10の長手方向一端側に設けられた供給部30と、他端側に設けられた排出部40を備えている。
【0035】
外筒20はレトルト10を加熱する部分、供給部30はレトルト10内に熱処理の対象物を供給する部分、排出部40は熱処理後の処理物や熱処理時に発生したガスを外部に排出する部分である。外筒20、供給部30、排出部40には、既存のものを用いることができる。
【0036】
前記レトルト10は、熱処理の対象物を加熱する炉(加熱炉)である。レトルト10は支持装置50によって回転可能に支持されている。レトルト10は、長手方向に並べて溶接された複数の筒状パーツ10aを備えている。筒状パーツ10aは、例えば、前述のレトルトの製造方法の実施形態で説明した方法(フィラーを用いずにプラズマ溶接する方法)で製造することができる。
【0037】
この実施形態のレトルト10は、母材11として前述のNi基合金が用いられている。Ni基合金については、レトルトの製造方法の実施形態において既に説明済みであるため、ここではその説明を省略する。
【0038】
図4はレトルト10の接合箇所の概念図である。ここでいう接合箇所には、筒状パーツ10aの製造に際して筒状に曲げて対向した両端面の部分のほか、隣り合う二つの筒状パーツ10aの突き合わされた端面の部分が含まれる。
【0039】
図4に示すように、本実施形態の筒状パーツ10aの接合箇所は、母材11と溶接金属部12を備え、母材11の溶接金属部12に近接する領域には熱影響部11aが存在する。また、溶接金属部12の上面側には余盛り部13が形成されている。
【0040】
本実施形態のレトルト10の特徴の一つとして、次の式1によって得られる値が100~300%である点が挙げられる。
(熱影響部の平均結晶粒径/母材部の平均結晶粒径)×100・・・(式1)
【0041】
後述する比較試験によれば、前記式1によって得られる値は、フィラーを用いてプラズマ溶接した場合では335%であったのに対し、フィラーを用いずにプラズマ溶接した場合では237%であった。
【0042】
前記式1によって得られる値が335%であった前者では、曲げ試験において多数の割れが確認されたのに対し、前記式1によって得られる値が237%であった後者では曲げ試験において割れは確認されなかった。
【0043】
このことから、本実施形態のレトルト10のように、式1によって得られる値が100~300%の範囲にある場合には、当該範囲外のレトルトとの比較で、少なくとも曲げ強度において有意性がある。
【0044】
本願では、母材11と熱影響部11aの平均結晶粒径を次の方法によって測定した。この測定方法は、顕微鏡写真の観察する円の領域に取り込む粒子数を10個とした以外は、JIS G 0551 附属書A(結晶粒度の評価)に基づく方法である。具体的な測定方法は次のとおりである。
【0045】
(1)電子顕微鏡を用いて接合箇所及び母材11を含む領域の撮影を行い、母材11の熱影響部11a及び母材部11bを含む顕微鏡写真を得る。
(2)前記(1)で得られた倍率が100倍の顕微鏡写真に観察円を設定し、当該観察円の中に入っている粒子数をn1、円周上に交差している粒子数をn2として、相当結晶粒数n100を次式(2)により求める。相当結晶粒数n100の算出は、熱影響部11aと母材部11bの夫々について行う。
n100=n1+n2/2・・・・(式2)
(3)次に、顕微鏡写真の倍率が100倍における試験片表面上にある1mm2当たりの結晶粒数mを次式(3)により求める。
m=2×n100・・・・(式3)
(4)前記(2)及び(3)で得られた値を用い、平均結晶粒径dを次式(4)により求める。
d=1/√m・・・・(式4)
【0046】
なお、ここで説明した平均結晶粒径の測定方法は一例であり、平均結晶粒径の測定はこれ以外の方法で行うこともできる。
【0047】
前記特徴のほか、本実施形態のレトルト10の他の特徴として、熱影響部11aの平均結晶粒径が250μm未満、好ましくは200μm未満である点が挙げられる。
【0048】
後述する比較試験によれば、フィラーを用いてプラズマ溶接した場合の熱影響部11aの平均結晶粒径が277μmであったのに対し、フィラーを用いずにプラズマ溶接した場合の熱影響部11aの平均結晶粒径は158μmであった。
【0049】
熱影響部11aの平均結晶粒径が277μmであった前者では、曲げ試験において多数の割れが確認されたのに対し、熱影響部11aの平均結晶粒径が158μmであった後者では曲げ試験において割れは確認されなかった。
【0050】
このことから、本実施形態のレトルト10のように、熱影響部11aの平均結晶粒径が250μm未満、好ましくは200μm未満の場合には、当該数値を満たさないものとの比較で、少なくとも曲げ強度において有意性がある。
【0051】
本実施形態のレトルト10及びロータリーキルン100は一例であり、本発明のレトルト10及びロータリーキルン100は本実施形態に限定されるものではない。本発明のレトルト10及びロータリーキルン100は、所期の目的を達成できる範囲で、適宜構成の入替えや追加、省略等の変更を加えることができる。
【0052】
(実験例)
本件出願人は、本願のレトルト製造方法で製造したレトルト10の効果を検証するため、複数の試験片を用いて比較試験を行った。比較試験の概要及び結果は次のとおりである。
【0053】
-比較試験の概要-
表1に示す三つの試験片を用意し、それぞれの試験片について、引張試験、曲げ試験及びミクロ試験を行った。
【表1】
【0054】
表1に示すように、実施例は前記レトルト製造方法の要領で溶接を行った試験片であり、Ni基合金(Ni-2Cr-4Al-1.5Si-0.5Mn)を、フィラーを用いずにプラズマ溶接し、溶融部に余盛りを行ったものである。余盛りには溶接棒としてTIG617(JIS SNi6617該当)を用いた。
【0055】
比較例1は、実施例と同じNi基合金(Ni-2Cr-4Al-1.5Si-0.5Mn)を、フィラーを用いてプラズマ溶接し、溶融部に余盛りを行ったものである。フィラーには、母材材料と同じNi基合金(Ni-2Cr-4Al-1.5Si-0.5Mn)を、余盛りには溶接棒として母材材料と同じNi基合金(Ni-2Cr-4Al-1.5Si-0.5Mn)を用いた。
【0056】
比較例2は、実施例と同じNi基合金(Ni-2Cr-4Al-1.5Si-0.5Mn)を、フィラーを用いずに電子ビーム溶接し、溶融部に余盛りを行ったものである。余盛りには溶接棒として母材材料と同じNi基合金(Ni-2Cr-4Al-1.5Si-0.5Mn)を用いた。
【0057】
前記引張試験では、引張強さ(N/mm2)及び継手効率(%)を測定した。引張試験は、JIS Z3121により、JIS Z3121 1A号試験片を用いて行った。
【0058】
前記曲げ試験では、表曲げ時の割れと裏曲げ時の割れを測定すると共に、表曲げ時及び裏曲げ時のそれぞれの写真を撮影した。曲げ試験は、JIS Z3122により、JIS Z3122 1A号試験片を用いて行った。
【0059】
前記ミクロ試験では熱影響部平均結晶粒径(μm)及び母材部平均結晶粒径(μm)の測定、並びにこれらの値を前記式1に当てはめて値を算出した。ミクロ試験は、JIS Z3122により、JIS Z3122 1A号試験片を用いて行った。
【0060】
-比較試験の結果-
比較試験の結果を、表2に示す。
【表2】
【0061】
[引張試験について]
表2に示すように、実施例の引張強さは643N/mm2、比較例1の引張強さは811N/mm2、比較例2の引張強さは670N/mm2であった。また、実施例の継手効率は95.3%、比較例1の継手効率は120.1%、比較例2の継手効率は99.3%であった。
【0062】
[曲げ試験について]
表2に示すように、実施例と比較例2では表曲げ及び裏曲げのいずれにおいても割れは発生しなかった。一方、比較例1では表曲げの際に多数の割れが観察された。
【0063】
[ミクロ試験について]
表2に示すように、実施例では、熱影響部平均結晶粒径が158μm、母材平均結晶粒径が67μmであった。また、これらの値を前記式1に当てはめて得られた値は237%であり、100~300%の範囲内に収まっていた。
【0064】
比較例1では、熱影響部平均結晶粒径が277μm、母材部平均結晶粒径が83μmであった。また、これらの値を前記式1に当てはめて得られた値は335%であり、100~300%の範囲内に収まらなかった。
【0065】
比較例2では、熱影響部平均結晶粒径が69μm、母材部平均結晶粒径が68μmであった。また、これらの値を前記式1に当てはめて得られた値は102%であり、100~300%の範囲内に収まっていた。
【0066】
本比較試験の結果から、フィラーを用いてプラズマ溶接を行った試験片(比較例1)では、熱影響部11aの結晶粒が肥大化すること、熱影響部11aと母材部11bの平均結晶粒径の差が大きくなること、熱影響部11aと母材部11bの平均結晶粒径の差が大きくなることにより、曲げ試験において割れが発生することが確認された。
【0067】
一方で、フィラーを用いずにプラズマ溶接を行った試験片(実施例)では、熱影響部11aの結晶粒の肥大化が抑制されること、熱影響部11aと母材部11bの平均結晶粒径の差が大きくならないこと、熱影響部11aと母材部11bの平均結晶粒径の差が大きくならないことにより、曲げ試験において割れが発生しないことが確認された。
【0068】
なお、フィラーを用いずに電子ビーム溶接を行った試験片(比較例2)でも実施例と同様の結果が得られた。ただし、電子ビーム溶接ではワークを入れるチャンバーが必要であり、大型のレトルトを入れるチャンバーを用意することは現実的ではないため、大型のレトルトの製造には、フィラーを用いずにプラズマ溶接を行う方法が好適である。
【産業上の利用可能性】
【0069】
本発明のレトルト10及びその製造方法は、各種用途に用いることができるが、特に、リチウムイオン電池の正極材料の焼結に用いるレトルト10及びその製造方法として、好適に利用することができる。特に、Crを含まないNi基合金を用いたレトルト10は、リチウムイオン電池の正極材料の焼結に用いるレトルト10として好適に用いることができる。
【0070】
Crを多く含む合金(例えば、Crを20重量%以上含む合金)の場合、合金中のCrがリチウム(Li)と反応し、Crが正極材料中に取り込まれて不具合を引き起こす場合があるが、Cr含有量が少ないNi基合金を用いたレトルト10の場合、そのようなリスクを低減することができる。
【符号の説明】
【0071】
10 レトルト
10a 筒状パーツ
11 母材
11a 熱影響部
11b 母材部(母材の熱影響部以外の部分)
12 溶接金属部
13 余盛り部
20 外筒
30 供給部
40 排出部
50 支持装置
100 ロータリーキルン
【要約】
【課題】 Al:2.0重量%以上含むNi基合金を用いたレトルトの製造方法、当該Ni基合金を用いたレトルト及び当該レトルトを備えたロータリーキルンを提供する。
【解決手段】 本発明のレトルト製造方法は、Ni基合金製の母材の接合箇所を、フィラーを用いずにプラズマ溶接してレトルトを製造する方法である。本発明のレトルトは、Ni:90.0重量%以上及びAl:2.0重量%以上を含むNi基合金からなる母材と母材の接合箇所に生じた溶接金属部を備え、母材は、溶接金属部の周囲に生じた熱影響部と当該母材の熱影響部以外の部分である母材部を備え、(式1)(熱影響部の平均結晶粒径/母材部の平均結晶粒径)×100によって得られる値が100~300%、又は/及び、熱影響部の平均結晶粒径が250μm未満のものである。本発明のロータリーキルンは、本発明のレトルトを備えたものである。
【選択図】
図1