(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-13
(45)【発行日】2024-09-25
(54)【発明の名称】内燃機関の制御装置
(51)【国際特許分類】
F02D 41/06 20060101AFI20240917BHJP
F02D 41/34 20060101ALI20240917BHJP
【FI】
F02D41/06
F02D41/34
(21)【出願番号】P 2021016938
(22)【出願日】2021-02-04
【審査請求日】2023-11-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000002967
【氏名又は名称】ダイハツ工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100085338
【氏名又は名称】赤澤 一博
(74)【代理人】
【識別番号】100148910
【氏名又は名称】宮澤 岳志
(72)【発明者】
【氏名】杉山 健太
【審査官】稲本 遥
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-162124(JP,A)
【文献】特開2011-012587(JP,A)
【文献】特開2004-076591(JP,A)
【文献】特開2004-108277(JP,A)
【文献】特開2020-197200(JP,A)
【文献】特開平06-229284(JP,A)
【文献】特開平07-042585(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02D 13/00-29/06
41/00-45/00
F02M 39/00-71/04
F01N 3/00
3/02
2/04- 3/38
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
停止した内燃機関を始動するにあたり、内燃機関を電動機により回転駆動するクランキングを行いながら気筒に対して燃料を噴射し、その燃料を燃焼させて内燃機関の回転を加速させるものであり、
クランキング中の燃料噴射量を、前回の内燃機関の運転期間の長さ、及び前回の運転を停止してから今回再び始動するまでの停止期間の長さに応じて調整する
こととし、
前回の内燃機関の運転期間の長さを、前回の運転の停止時の冷却水温と外気温との差分に基づき推定し、
前回の運転の停止から今回の始動までの停止期間の長さを、前回の運転の停止時の冷却水温と今回の始動時の冷却水温との差分に基づき推定する内燃機関の制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、動力源として車両等に搭載される内燃機関を制御する制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
周知の通り、停止している内燃機関を始動するにあたっては、内燃機関の出力軸であるクランクシャフトを電動機により回転駆動するクランキングを行いつつ、インジェクタから燃料を噴射してこれを気筒において燃焼させ、クランクシャフトの回転を加速させる。クランキングは、内燃機関が初爆から連爆へと至り、クランクシャフトの回転速度即ちエンジン回転数が閾値を超えたときに、完爆したものと見なして終了する(例えば、下記特許文献を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
内燃機関の始動のためのクランキング中の燃料噴射量は、水温センサを介して検出される内燃機関の冷却水温に応じて決定することが一般的である。即ち、始動時の冷却水温が低いほど燃料噴射量を増量して始動の安定性を確保し、逆に冷却水温が高いほど燃料噴射量を減量して燃料消費を節約する。
【0005】
しかしながら、始動時の冷却水温が同等であったとしても、先の内燃機関の運転の状況や、直近の運転停止から再始動までの期間の長さといった条件の差により、始動のために最適な燃料噴射量は変動すると考えられる。
【0006】
仮に、クランキングを開始する際に計測した冷却水の温度が同等である、例えば始動時の冷却水温が25℃であるとしても、直近の停止期間が極短い(前回の運転機会において、極低温の環境下で始動し、冷却水温が25℃以上に昇温してから内燃機関を停止し、その後短時間で再始動する)場合と、停止期間が長い(前回の運転機会において、冷却水温が80℃以上の完全暖機状態で内燃機関を停止し、長時間が経過して冷却水温が25℃まで低下したときに始動する)場合とでは、内燃機関自体の温度、換言すればインジェクタから噴射した燃料が気化し空気と混交する度合いが異なり得る。前者の場合と後者の場合とで燃料噴射量を均等に定めると、後者の場合に燃料の量が不足して始動遅延ないし始動不良を招く可能性が生じるか、前者の場合に不必要に多くの燃料が噴射されて燃費性能の低下に繋がることが懸念される。
【0007】
本発明は、以上の点に着目してなされたものであり、内燃機関の始動のためのクランキング中の燃料噴射量の最適化を図ることを所期の目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明では、停止した内燃機関を始動するにあたり、内燃機関を電動機により回転駆動するクランキングを行いながら気筒に対して燃料を噴射し、その燃料を燃焼させて内燃機関の回転を加速させるものであり、クランキング中の燃料噴射量を、前回の内燃機関の運転期間の長さ、及び前回の運転を停止してから今回再び始動するまでの停止期間の長さに応じて調整する内燃機関の制御装置を構成した。
【0009】
前回の内燃機関の運転期間の長さは、前回の運転の停止時の冷却水温と外気温との差分に基づいて推定できる。並びに、前回の運転の停止から今回の始動までの停止期間の長さは、前回の運転の停止時の冷却水温と今回の始動時の冷却水温との差分に基づいて推定できる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、内燃機関の始動のためのクランキング中の燃料噴射量の最適化を図り得る。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の一実施形態における車両用内燃機関及び制御装置の概略構成を示す図。
【
図2】同実施形態の制御装置が設定するクランキング中の燃料噴射量の補正量を例示する図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の一実施形態を、図面を参照して説明する。
図1に、車両用内燃機関の概要を示す。本実施形態における内燃機関は、ポート噴射式の4ストローク火花点火エンジンであり、複数の気筒1(例えば、三気筒。
図1には、そのうち一つを図示している)を具備している。各気筒1の吸気ポート近傍には、当該気筒1の吸気ポートに向けて燃料を噴射するインジェクタ11を設けている。また、各気筒1の燃焼室の天井部にそれぞれ、点火プラグ12を取り付けてある。点火プラグ12は、点火コイルにて発生した誘導電圧の印加を受けて、中心電極と接地電極との間で火花放電を惹起する。
【0013】
吸気を供給するための吸気通路3は、外部から空気を取り入れて各気筒1の吸気ポートへと導く。吸気通路3上には、エアクリーナ31、吸気絞り弁である電子スロットルバルブ32、サージタンク33、吸気マニホルド34を、上流からこの順序に配置している。
【0014】
排気を排出するための排気通路4は、気筒1内で燃料を燃焼させた結果発生した排気を各気筒1の排気ポートから外部へと導く。この排気通路4上には、排気マニホルド42及び排気浄化用の三元触媒41を配置している。
【0015】
排気ガス再循環(Exhaust Gas Recirculation)装置2は、排気通路4を流れる排気の一部を吸気通路3に還流させて吸気に混交する外部EGRを実現するものであり、排気通路4と吸気通路3とを連通する外部EGR通路21と、EGR通路21上に設けたEGRクーラ22と、EGR通路21を開閉し当該EGR通路21を流れるEGRガスの流量を制御するEGRバルブ23とを要素とする。EGR通路21の入口は、排気通路4における触媒41の下流の所定箇所に接続している。EGR通路21の出口は、吸気通路3におけるスロットルバルブ32の下流の所定箇所(特に、サージタンク33または吸気マニホルド34)に接続している。
【0016】
本実施形態の内燃機関の制御装置たるECU(Electronic Control Unit)0は、プロセッサ、メモリ、入力インタフェース、出力インタフェース等を有したマイクロコンピュータシステムである。ECU0は、複数基のECUまたはコントローラが、CAN(Controller Area Network)等の電気通信回線を介して相互に通信可能に接続されてなるものであることがある。
【0017】
ECU0の入力インタフェースには、車両の実車速を検出する車速センサから出力される車速信号a、内燃機関のクランクシャフトの回転角度及び回転速度を検出するクランク角センサ(エンジン回転センサ)から出力されるクランク角信号b、アクセルペダルの踏込量またはスロットルバルブ32の開度をアクセル開度(いわば、要求されるエンジン負荷率またはエンジントルク)として検出するセンサから出力されるアクセル開度信号c、気筒1に連なる吸気通路3(特に、サージタンク33または吸気マニホルド34)内の吸気温及び吸気圧を検出する温度・圧力センサから出力される吸気温・吸気圧信号d、内燃機関の冷却水の温度を検出する水温センサから出力される冷却水温信号e、車両が所在する場所の外気温を検出する外気温センサから出力される外気温信号f、内燃機関の吸気カムシャフトまたは排気カムシャフトの複数のカム角にてカム角センサから出力されるカム角信号g、車両が所在する場所の大気圧を検出する大気圧センサから出力される大気圧信号h等が入力される。
【0018】
ECU0の出力インタフェースからは、点火プラグ12のイグナイタに対して点火信号i、インジェクタ11に対して燃料噴射信号j、スロットルバルブ32に対して開度操作信号k、EGRバルブ23に対して開度操作信号l等を出力する。
【0019】
ECU0のプロセッサは、予めメモリに格納されているプログラムを解釈、実行し、運転パラメータを演算して内燃機関の運転を制御する。ECU0は、内燃機関の運転制御に必要な各種情報a、b、c、d、e、f、g、hを入力インタフェースを介して取得し、エンジン回転数を知得するとともに気筒1に吸入される空気量を推算する。そして、吸入空気量に見合った要求燃料噴射量、燃料噴射タイミング(一度の燃焼に対する燃料噴射の回数を含む)、燃料噴射圧、点火タイミング(一度の燃焼に対する火花点火の回数を含む)、要求EGR率(または、EGRガス量)等といった各種運転パラメータを決定する。ECU0は、運転パラメータに対応した各種制御信号i、j、k、lを出力インタフェースを介して印加する。
【0020】
また、ECU0は、停止した内燃機関を始動(冷間始動であることもあれば、アイドリングストップからの再始動であることもある)するに際して、電動機(スタータモータ(セルモータ)やISG(Integrated Starter Generator)等。図示せず)に制御信号oを入力し、電動機によりクランクシャフトを回転駆動しながら燃料噴射及び火花点火を行うクランキングを実行する。電動機は、車載のバッテリから必要な電力の供給を受ける。クランキングは、内燃機関が初爆から連爆へと至り、クランクシャフトの回転速度即ちエンジン回転数が閾値を超えたときに、内燃機関が完爆したものと見なして終了する。通常、当該閾値は、始動時の内燃機関の冷却水温が低いほど高く設定する。
【0021】
ECU0は、内燃機関の始動のためのクランキング中にインジェクタ11から噴射する燃料の基本量を、そのときの内燃機関の冷却水温に応じて決定する。原則として、始動時の冷却水温が低いほど燃料噴射量の基本量を多く、始動時の冷却水温が低いほど燃料噴射量の基本量を少なくする。
【0022】
その上で、本実施形態では、上記の基本量に、前回の内燃機関の運転期間の長さ、及び前回の運転を停止してから今回再び始動するまでの停止期間の長さに応じた補正を加えて、クランキング中の燃料噴射量を決定することとしている。
【0023】
クランキング中の燃料噴射量は、前回の内燃機関の運転期間が長いほど減量する。内燃機関を停止する前の運転期間が長いほど、その運転の最中に内燃機関が昇温し、今回再び始動するときの内燃機関の温度、特に気筒1の吸気ポート近傍の温度が高くなると考えられるからである。当然ながら、気筒1の吸気ポート近傍の温度が高いほど、インジェクタ11から噴射した燃料が気化しやすく、その燃料が吸入空気と混交しやすい。
【0024】
並びに、クランキング中の燃料噴射量は、前回の運転の停止から今回の始動までの停止期間が短いほど減量する。内燃機関の運転を停止している期間が短いほど、その間の内燃機関の温度降下が小さく、今回再び始動するときの気筒1の吸気ポート近傍の温度が高くなると考えられるからである。
【0025】
図2に、クランキング中の燃料噴射量の基本量に乗じる補正係数を例示している。本実施形態のECU0は、前回の内燃機関の運転停止時の冷却水温から、同停止時の外気温を減算した差分に基づいて、その前回の内燃機関の運転期間の長さを推定する。既に述べた通り、内燃機関の冷却水温は水温センサの出力信号eを参照して知得でき、外気温は外気温センサの出力信号fを参照して知得できる。因みに、外気温は、吸気温センサの出力信号d等から既知の手法に則って推測することも可能である。ECU0は、その差分(=前回運転停止時の冷却水温-前回運転停止時の外気温)が大きいほど、前回の内燃機関の運転期間が長かったとして、クランキング中の燃料噴射量の基本量に乗じるべき補正係数を小さくする、即ちクランキング中の燃料噴射量を減らす。逆に、その差分が小さいほど、前回の内燃機関の運転期間が短かったとして、クランキング中の燃料噴射量の基本量に乗じるべき補正係数を大きくする、即ちクランキング中の燃料噴射量を増す。
【0026】
また、本実施形態のECU0は、前回の内燃機関の運転停止時の冷却水温から、今回の始動時の冷却水温を減算した差分に基づいて、前回の運転の停止から今回の始動までの停止期間の長さを推定する。ECU0は、その差分(=前回運転停止時の冷却水温-今回始動時の冷却水温)が小さいほど、内燃機関の停止期間が短かったとして、クランキング中の燃料噴射量の基本量に乗じるべき補正係数を小さくする、即ちクランキング中の燃料噴射量を減らす。逆に、その差分が大きいほど、内燃機関の停止期間が長かったとして、クランキング中の燃料噴射量の基本量に乗じるべき補正係数を大きくする、即ちクランキング中の燃料噴射量を増す。
【0027】
ECU0のメモリには予め、
図2に例示しているような、前回の内燃機関の運転期間の長さ及び今回の始動までの停止期間の長さと、今回の始動の際のクランキング中の燃料噴射量の補正量との関係を規定するマップデータが格納されている。停止した内燃機関を再び始動するに際し、ECU0は当該マップデータを検索して、クランキング中の燃料噴射量の補正量を得、ひいてはクランキング中の燃料噴射量を決定する。
【0028】
本実施形態では、停止した内燃機関を始動するためのクランキング中の燃料噴射量を、前回の内燃機関の運転期間の長さ、及び前回の運転を停止してから今回再び始動するまでの停止期間の長さに応じて調整する内燃機関の制御装置0を構成した。本実施形態によれば、内燃機関の始動のためのクランキング中の燃料噴射量を最適化し、始動遅延ないし始動不良を防止しながら、不必要な燃料消費を削減することが可能である。
【0029】
前回の内燃機関の運転期間の長さは、前回の運転の停止時の冷却水温と外気温との差分に基づき推定し、前回の運転の停止から今回の始動までの停止期間の長さを、前回の運転の停止時の冷却水温と今回の始動時の冷却水温との差分に基づき推定するようにしている。これらは、前回の運転期間及び停止期間を簡便かつ比較的高精度に推定する方法である。しかも、運転者によりイグニッションスイッチ(または、イグニッションキー、パワースイッチ)がOFFに操作されて内燃機関の運転を停止している最中にECU0への通電を遮断し、その後イグニッションスイッチが再びONに操作されて内燃機関を再始動するときにECU0への通電を再開するようにしても、当該ECU0において前回の運転期間及び停止期間を把握することが可能になる。
【0030】
本実施形態の始動制御を採用するために、気筒1の吸気ポート近傍の現在温度を検出する温度センサ等の新たなハードウェアを追加的に設置することは不要である。つまり、これを低コストで具現することができる。
【0031】
なお、本発明は以上に詳述した実施形態に限られるものではない。例えば、上記実施形態では、前回の内燃機関の運転期間の長さを、前回の運転の停止時の冷却水温と外気温との差分に基づき推定していた。だが、前回の内燃機関の運転期間の長さを、その運転中に制御装置たるECU0が計数しておき、その運転停止時にECU0のメモリに記憶保持し、後の内燃機関の始動時に参照することとしても構わない。
【0032】
また、上記実施形態では、前回の運転の停止から今回の始動までの停止期間の長さを、前回の運転の停止時の冷却水温と今回の始動時の冷却水温との差分に基づき推定していた。だが、停止期間の長さを、内燃機関の停止中に制御装置たるECU0が計数し、またはECU0と連動するカーナビゲーションシステム等において計数しておき、後の内燃機関の始動時に参照することとしても構わない。
【0033】
その他、各部の具体的な構成や処理の手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変形が可能である。
【符号の説明】
【0034】
0…制御装置(ECU)
1…気筒
11…インジェクタ
3…吸気通路
b…クランク角信号
e…冷却水温信号
f…外気温信号
i…点火信号
j…燃料噴射信号
o…クランキング用の電動機の制御信号