(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-13
(45)【発行日】2024-09-25
(54)【発明の名称】化学療法誘発性脱毛症の治療のための組成物および装置
(51)【国際特許分類】
A61K 31/198 20060101AFI20240917BHJP
A61K 31/353 20060101ALI20240917BHJP
A61P 17/14 20060101ALI20240917BHJP
A61P 39/06 20060101ALI20240917BHJP
A61P 43/00 20060101ALN20240917BHJP
【FI】
A61K31/198
A61K31/353
A61P17/14
A61P39/06
A61P43/00 111
(21)【出願番号】P 2018566906
(86)(22)【出願日】2017-06-20
(86)【国際出願番号】 GB2017051804
(87)【国際公開番号】W WO2017220998
(87)【国際公開日】2017-12-28
【審査請求日】2020-06-16
【審判番号】
【審判請求日】2022-06-06
(32)【優先日】2016-06-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(73)【特許権者】
【識別番号】513025163
【氏名又は名称】パックスマン クーラーズ リミテッド
【氏名又は名称原語表記】PAXMAN COOLERS LIMITED
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】弁理士法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ゲオルゴポウロス、ニコラオス
(72)【発明者】
【氏名】コレット、アンドリュー
(72)【発明者】
【氏名】パックスマン、リチャード
(72)【発明者】
【氏名】アル - タミーミ、ワファア
【合議体】
【審判長】冨永 みどり
【審判官】齋藤 恵
【審判官】岡山 太一郎
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第1995/034303(WO,A1)
【文献】特開2012-193146(JP,A)
【文献】米国特許第06150405(US,A)
【文献】米国特許出願公開第2014/046410(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/EMBASE/MEDLINE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
化学療法薬誘発性の脱毛の治療のための冷却療法において使用するための、
N-アセチル-システイン(NAC)を含有する組成物であって、
前記組成物は局所的に投与され、前記冷却療法は、少なくとも、当該局所温度を低下させ、および/または前記組成物が適用された部位を冷却して、26℃以下とすることを含む、組成物。
【請求項2】
前記冷却療法が頭皮冷却を含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記組成物を頭皮に適用する、請求項1または2に記載の組成物。
【請求項4】
ケルセチンを含む、請求項1~3の何れか1項に記載の組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願が関連する発明は、化学療法誘発性脱毛症(CIA)、化学療法剤誘発性脱毛、毛包死および/または成長期脱毛症に対抗するための組成物および装置によるこの組成物の使用である。
【背景技術】
【0002】
以下の説明は、もっぱらヒトケラチノサイト、特に頭皮毛包における化学療法剤誘発毒性の予防に言及するが、当業者は、本発明が身体の異なる部分の毛包または実際に異なる動物の毛包に関して使用できることを理解する。
【0003】
化学療法剤は、毛包発達の段階の移行を妨げる、毛包ジストロフィを刺激する、または早期毛包退行を誘導することによってCIAを誘導する(Paus et al.1994;Trueb,2009;Yeager et al.2011)。休止期脱毛症は、成長期の毛髪のより大きな割合が早期に休止期へと進行する場合に起こる;例えば、シクロホスファミドはこの機構によってCIAを引き起こす(Patel et al.2014)。成長期脱毛症は、任意の所与の時点で最大90%までの頭髪が成長期にあり、細胞傷害性薬剤の投与後数日から数週間以内に起こるため、最も一般的な種類のCIAである(Olsen et al.2011);これは、アルキル化剤、代謝拮抗物質、ビンカアルカロイド、トポイソメラーゼ阻害剤、アントラサイクリンおよびタキサンによって刺激される(Espinosa et al.2003;Yun et al.2007)。毛包は、上述したように、その90%までが成長期にあり(Batchelor et al.2001)、その関連するマトリックスケラチノサイトは最も急速に分裂する細胞サブセットであるため、化学療法剤に特に感受性であり、したがって細胞複製標的剤によって特に標的とされる。
【0004】
現在、頭皮冷却は化学療法誘発性脱毛症を予防するための唯一の利用可能なアプローチであり、様々な可能性のある機構を介してCIAを妨げ得る。第一に、冷却は血管の収縮を生じさせ、これは、頭皮の血流を通常の割合の20~40%に減少させることが示されている(Janssen et al.2007)。これは、毛包に送達される化学療法剤の減少をもたらすことが示唆されている(Bullow et al.1985)。別の可能性は、形質膜を横切る薬剤拡散の割合が冷却によって低減し、したがって細胞に侵入し得る有効薬剤用量がより低くなることである(Lane et al.1987)。さらに、細胞分裂は代謝によって駆動されるので、温度がG1およびSなどの期に特に影響を及ぼし得るため、この過程が冷却によって減速され得る可能性があり(Watanabe and Okada.1967)、これは、有糸分裂を標的とする微小管破壊薬などの、細胞周期の特定の期を標的とする薬剤にとって特に重要であり得る。また、毛包の細胞の代謝活性の低下も、化学療法剤の細胞傷害性のより全般的な低減を引き起こし得る(Bulow et al.1985)。実際には、これらの方法の組み合わせが、CIAを低減するうえでの頭皮冷却の成功に役割を担う可能性が高い。
【0005】
いずれにしても、頭皮冷却は全ての症例に奏効するわけではなく、効果は人によって異なる。
【0006】
化学療法剤誘発性脱毛、毛包死および/または成長期脱毛症を治療するための組成物を提供することが本発明の1つの目的である。
【0007】
化学療法剤誘発性脱毛、毛包死および/または成長期脱毛症を治療するための改善された方法を提供することが本発明のさらなる目的である。
【0008】
化学療法剤誘発性脱毛、毛包死および/または成長期脱毛症の治療を改善するための装置と組み合わせた組成物を提供することが本発明のなおさらなる目的である。
【0009】
組成物および/または患部を冷却するための組成物および/または装置を使用して化学療法剤誘発性脱毛、毛包死および/または成長期脱毛症を治療する改善された方法を提供することが本発明のなおさらなる目的である。
【発明の概要】
【0010】
本発明の第一の態様では、CIAの冷却療法に使用するための活性酸素種(ROS)阻害剤を含有する組成物が提供される。
【0011】
さらに、冷却することによっておよびROS阻害剤を含む組成物を使用することによって毛髪または毛包を保護するための方法が提供される。典型的には、少なくとも頭皮の局所領域を周囲温度より低い温度および/または体温より低い温度に冷却する。
【0012】
典型的には、組成物は、1種以上のROS阻害剤を含む。このように、1つ以上のROS阻害剤を含有する組成物は、例えば頭皮冷却と組み合わせて、冷却療法と組み合わせることによってケラチノサイトの化学療法薬誘発毒性からの保護を強化する。1種以上のROS阻害剤を含む組成物は、冷却療法との併用によって、例えば頭皮冷却と組み合わせて、化学療法剤誘発毒性からのケラチノサイトの保護を増強する。
【0013】
本発明の第二の態様では、化学療法誘発性脱毛症治療に使用するための活性酸素種(ROS)阻害剤を含む組成物が提供され、前記治療は冷却を含む。
【0014】
一態様では、本発明は、制御された温度環境でのROS阻害化合物または組成物の送達を含む。
【0015】
冷却は、典型的には冷却装置を用いて身体部分上で局所的に実施される。典型的には、身体部分は頭皮である。さらに典型的には、冷却装置はスカルキャップおよび/または同様のものである。
【0016】
一実施形態では、組成物を局所的に投与する。典型的には、組成物は、身体に適用されるROS阻害剤を含む。さらに典型的には、ROS阻害剤を含有する組成物を頭皮に適用する。
【0017】
一実施形態では、組成物を、冷却された環境でまたは周囲の温度が環境温度未満であるように投与する。
【0018】
一実施形態では、組成物を適用し、少なくとも低い局所温度および/または冷却を適用する。
【0019】
典型的には、温度は体温(実質的に37℃)未満である。さらに典型的には、組成物を適用し、隣接温度または周囲環境を26℃以下に低下させるかまたは冷却する。
【0020】
一実施形態では、組成物を適用し、隣接温度または周囲環境を24℃以下に低下させるかまたは冷却する。
【0021】
一実施形態では、組成物を適用し、隣接温度または周囲環境を22℃以下に低下させるかまたは冷却する。典型的には、冷却は、実質的に18~26℃の範囲にする。
【0022】
本発明の第三の態様では、化学療法誘発性脱毛症(CIA)の治療のための方法において使用するための活性酸素種(ROS)阻害剤を含有する組成物が提供される。
【0023】
本発明のさらなる態様では、毛包の保護剤として頭皮冷却の方法において使用するためのROS阻害剤を含有する物質が存在する。
【0024】
典型的には、保護は、化学療法治療の間および/またはCIAから存在する。
【0025】
一実施形態では、物質は局所適用のために提供される。典型的には、物質は、クリーム、ゲル、ペーストおよび/または同様のものなどの液体である。
【0026】
一実施形態では、物質を冷却キャップに適用する。典型的には、使用前に物質を冷却キャップに適用する。
【0027】
本発明のさらなる態様では、薬剤がROS阻害剤を含むことを特徴とする、局所冷却によるCIAの治療のための薬剤を製造するための、1種以上のROS阻害剤を含有する化合物の使用が提供される。
【0028】
このアプローチは、頭皮冷却の使用と、ヒトケラチノサイトにおけるROSの産生を媒介する分子細胞内シグナル伝達経路の阻害剤とを組み合わせる。
【0029】
典型的には、冷却装置(Paxman Orbis冷却キャップなど)を用いて患部または頭皮の領域を冷却する。
【0030】
一実施形態では、ROS阻害剤は、細胞透過性抗酸化剤および/またはROSスカベンジャーである。典型的には、ROS阻害剤は直接薬理学的阻害剤である。
【0031】
一実施形態では、ROS阻害剤はN-アセチル-システイン(NAC)である。
【0032】
一実施形態では、ROS阻害剤は合成物である。典型的には、阻害剤は合成されたNAC誘導体である。
【0033】
一実施形態では、ROS阻害剤は、1種以上の天然化合物を含む。一実施形態では、ROS阻害剤はビタミンCを含む。
【0034】
一実施形態では、ROS阻害剤は、1種以上のフラボノイドを含む。典型的には、ROS阻害剤は、1種以上のフラバノールを含む。一実施形態では、ROS阻害剤はケルセチンを含む。
【0035】
一実施形態では、1種以上のROS阻害剤は細胞透過性である。典型的には、ROS阻害剤は、ROS生合成(ROS生成細胞シグナル伝達経路)を妨げる、細胞透過性の生物学的または薬理学的阻害剤である。
【0036】
本発明のなおさらなる態様では、化学療法誘発性脱毛症の治療のための薬剤が提供され、前記薬剤は、ROS阻害剤および局所適用に適した担体を含む。
【0037】
典型的には、ROS阻害剤はNACまたはその誘導体である。
【0038】
典型的には、ROS送達方法には、
-皮膚による直接吸収(例えばクリームを介して)による、局所的
-ナノ粒子またはリポソームベースの標的化経路
-他のベクター/生物学的ツール(例えばウイルス)
の任意の1つまたはこれらの任意の組み合わせが含まれる。
【0039】
本発明のなおさらなる態様では、化学的に誘発された脱毛症(CIA)の冷却療法および治療における使用および/またはそれらの増強のための組成物であって、活性酸素種(ROS)阻害剤を含有する組成物が提供される。
【0040】
本発明のなおさらなる態様では、活性酸素種(ROS)阻害剤を含有する組成物を使用した、化学的に誘発された脱毛症(CIA)の冷却療法治療の増強が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【0042】
実験および例
HaCaTa細胞を6ウェルプレートにおいてKSFM培地中で培養し、37℃で2時間、3μg/mLのドキソルビシンで処理し、次いで、細胞内ROSのレベルを測定するために、処理後の指示されている時点で5μMのH2DCF-DAで標識した(30分間)。その後、細胞を採取し、フローサイトメトリによって分析した。細胞内ROS産生レベルの指標としての蛍光強度をFL-1(またはFL-2チャネル)で検出し、
図1において蛍光測定の時点(x軸)に対する中央値蛍光強度またはMFI(y軸)として表示した。
【0043】
結果は、化学療法剤による細胞の処理後のROS検出のための最適な時点が30分であることを示す。この特定の最適時点で、フローサイトメトリ法は、細胞内ROSの正確で高感度な検出を可能にする。
【0044】
図2を参照すると、HaCaTa細胞を、種々の冷却条件を模倣するために3μg/mLのドキソルビシンで37℃で2時間、または22℃、18℃および14℃で処理した。上記で最適化したように(
図1)、細胞を5μMのH2DCF-DAで標識した後、フローサイトメトリによって分析した。代表的な結果をオーバーレイヒストグラムとしてプロットし、表示されている条件を脚注に示す(図の右側に、Con 37℃を2として、37℃を4として、Con 22℃を6として、ならびに22℃、18℃および14℃を8として示している)。
【0045】
結果は、冷却がヒトケラチノサイトにおけるROSの産生を防止できること、および使用される温度が低いほどROS産生の程度が低下することを示す。興味深いことに、22℃はROS産生を有意に減少させるが、温度を18℃および14℃に低下させると、ROS産生をほぼ完全に減弱させ、これは、これら2つの温度値がこれらの細胞における細胞傷害性をほぼ完全に予防する能力と直接相関する(Al-Tameemi et al 2014に報告されているように、本発明者らの公表所見)。
【0046】
図3を参照すると、HaCaTa細胞を96ウェルプレートにおいてKSFM中で5×10
3/ウェルの密度で培養し、細胞を37℃/5%CO
2で一晩インキュベートした。細胞の一部を0.625mMのNACで1時間前処理した(NACの最適濃度は予め滴定実験によって決定した)。その後、細胞を、37℃で2時間(対照条件)、またはNACを含むおよび含まない適切な培地(pH7.4)中で冷却条件(22℃)下に、様々な濃度のドセタキセル、ドキソルビシン(Sigma)またはシクロホスファミドの活性代謝物である4-ヒドロキシシクロホスファミド(4-OH-CP)(Niomech)で処理した。溶媒(DMSO)対照(最も高い薬剤濃度に対応するDMSOの最大量である)を全ての実験に含めた。処理後、薬剤を除去し、PBSを用いて細胞を2回洗浄し、新鮮な培地を添加した。次いで、培養物を37℃で72時間インキュベートした後、CellTiter 96 AQueous One細胞増殖アッセイ(Promega)を用いて細胞増殖を評価した。簡単に述べると、CellTiter試薬20μlを各ウェルに添加し、プレートを5%CO
2条件下に37℃で4時間インキュベートした後、492nmで分光光度的に吸光度読み取り値を得た。結果を対照(未処理細胞)に対する%として表す。「dox」、「dce」および「CP」は、それぞれドキソルビシン、ドセタキセルおよび4-OH-CPを意味する。37℃での薬剤処理を10として示し、22℃での薬剤を12として、37℃での薬剤+NACを14として、および22℃での薬剤+NACを16として示している。
【0047】
結果は、冷却またはNAC単独での処理はある程度の細胞保護作用を提供することができるが、冷却と抗酸化剤/ROSスカベンジャーNACとの組み合わせは、各薬剤単独よりもはるかに良好な保護を提供することを示す。結果は、より高い薬剤濃度(ボックスで示している)について特により顕著であった。
【0048】
図4を参照すると、HaCaTa細胞を96ウェルプレートにおいてKSFM中で5×10
3/ウェルの密度で培養し、細胞を37℃/5%CO
2で一晩インキュベートした。細胞の一部を0.625mMのNACで1時間前処理した(NACの最適濃度は予め滴定実験によって決定した)。その後、細胞を、37℃で2時間(対照条件)、またはNACを含むおよび含まない適切な培地(pH7.4)中で冷却条件(26℃)下に、様々な濃度のドキソルビシン(Sigma)または4-ヒドロキシシクロホスファミド(4-OH-CP、Niomech)で処理した。溶媒(DMSO)対照(最も高い薬剤濃度に対応するDMSOの最大量である)を全ての実験に含めた。処理後、薬剤を除去し、PBSを用いて細胞を2回洗浄し、新鮮な培地を添加した。次いで、培養物を37℃で72時間インキュベートした後、CellTiter 96 AQueous One細胞増殖アッセイ(Promega)を用いて細胞増殖を評価した。簡単に述べると、CellTiter試薬20μlを各ウェルに添加し、プレートを5%CO
2条件下に37℃で4時間インキュベートした後、492nmで分光光度的に吸光度読み取り値を得た。結果を対照(未処理細胞)に対する%として表す。「dox」および「CP」は、それぞれドキソルビシンおよび4-OH-CPを意味する。37℃での薬剤処理を10として示し、37℃での薬剤+NACを14として、26℃での薬剤を18として、および26℃での薬剤+NACを20として示している。
【0049】
結果は、冷却またはNAC単独での処理はある程度の細胞保護作用を提供することができるが、冷却と抗酸化剤/ROSスカベンジャーNACとの組み合わせは、各薬剤単独よりもはるかに良好な保護を提供することを示す。結果は、より高い薬剤濃度(ボックスで示している)について特により顕著であった。重要な点として、この図のボックス内のデータを同じCP濃度について
図3のデータと比較すると、26℃では、細胞は22℃と比較してより高いレベルの細胞傷害性を示すが、ROSの阻害により、26℃での冷却は高度に細胞保護的になる。
【0050】
図5を参照すると、HaCaTa細胞を96ウェルプレートにおいてKSFM中で5×10
3/ウェルの密度で培養し、細胞を37℃/5%CO
2で一晩インキュベートした。細胞の一部を0.625mMのNACで1時間前処理した(NACの最適濃度は予め滴定実験によって決定した)。その後、細胞を、37℃で2時間(対照条件)、またはNACを含むおよび含まない適切な培地(pH7.4)中で冷却条件(22℃)下に、様々な濃度のドキソルビシン(Sigma)または4-ヒドロキシシクロホスファミド(4-OH-CP、Niomech)で処理した。溶媒(DMSO)対照(最も高い薬剤濃度に対応するDMSOの最大量である)を全ての実験に含めた。処理後、薬剤を除去し、PBSを用いて細胞を2回洗浄し、新鮮な培地を添加した。次いで、培養物を37℃で72時間インキュベートした後、CellTiter 96 AQueous One細胞増殖アッセイ(Promega)を用いて細胞増殖を評価した。簡単に述べると、CellTiter試薬20μlを各ウェルに添加し、プレートを5%CO
2条件下に37℃で4時間インキュベートした後、492nmで分光光度的に吸光度読み取り値を得た。結果を任意の吸光度単位として示す。37℃での薬剤処理を10として示し、37℃での薬剤+NACを14として、22℃での薬剤を12として、および22℃での薬剤+NACを16として示している。
【0051】
この図の結果は、4-OH-CPの薬剤濃度範囲を拡大することによって
図3に示す本発明者らの所見を強化した。結果は、薬剤の用量が完全な細胞毒性(完全な死滅)をもたらすこの特定の薬剤の極めて高い用量(赤色のボックス)でさえも、冷却+ROS阻害剤の組み合わせは薬剤誘発毒性からの著しく高いレベルの保護を提供することを実証する。
【0052】
図6を参照すると、HaCaTa細胞を96ウェルプレートにおいてKSFM中で5×10
3/ウェルの密度で培養し、細胞を37℃/5%CO
2で一晩インキュベートした。細胞の一部を0.625mMのNACで1時間前処理した(NACの最適濃度は予め滴定実験によって決定した)。その後、細胞を、37℃で2時間(対照条件)、またはNACを含むおよび含まない適切な培地(pH7.4)中で冷却条件(26℃)下に、様々な濃度のドキソルビシン(Sigma)で処理した。溶媒(DMSO)対照(最も高い薬剤濃度に対応するDMSOの最大量である)を全ての実験に含めた。処理後、薬剤を除去し、PBSを用いて細胞を2回洗浄し、新鮮な培地を添加した。次いで、培養物を37℃で72時間インキュベートした後、CellTiter 96 AQueous One細胞増殖アッセイ(Promega)を用いて細胞増殖を評価した。簡単に述べると、CellTiter試薬20μlを各ウェルに添加し、プレートを5%CO
2条件下に37℃で4時間インキュベートした後、492nmで分光光度的に吸光度読み取り値を得た。結果を対照(未処理細胞)に対する%として表す。37℃での薬剤処理を10として示し、37℃での薬剤+NACを14として、26℃での薬剤を18として、および26℃での薬剤+NACを20として示している。
【0053】
この図の結果は、ドキソルビシンの薬剤濃度範囲を拡大することによって
図3および
図4に示す本発明者らの所見を強化した。結果は、薬剤の用量がほぼ完全な細胞毒性(死滅)をもたらすこの特定の薬剤の極めて高い用量(赤色のボックス)でさえも、冷却+ROS阻害剤の組み合わせは、26℃でも薬剤誘発毒性からの著しく高いレベルの保護を提供することを実証する。
【0054】
図7を参照すると、HaCaTa細胞を96ウェルプレートにおいてKSFM中で5×10
3/ウェルの密度で培養し、細胞を37℃/5%CO
2で一晩インキュベートした。細胞の一部を0.625mMのNACで1時間前処理した(NACの最適濃度は予め滴定実験によって決定した)。その後、細胞を、37℃でのACの組み合わせ(対照条件)で、またはNACを含むおよび含まない適切な培地(pH7.4)中にて冷却条件(26℃または22℃)下で処理した。特に、ドキソルビシン(アドリアマイシンのA)および4-OH-CP(シクロホスファミドのC)での連続的な処理を、3μg/mlのドキソルビシン(1時間)および5μg/mlの4-OH-CP(1時間)を使用して行った。その後、細胞を洗浄し、培地を交換した後、CellTiter 96 AQueous One細胞増殖アッセイ(Promega)を用いて72時間後に細胞増殖を評価した。簡単に述べると、CellTiter試薬20μlを各ウェルに添加し、プレートを5%CO
2条件下に37℃で4時間インキュベートした後、492nmで分光光度的に吸光度読み取り値を得た。結果を対照(未処理細胞)に対する%として表す。37℃での処理を22として示し、26℃での処理を24として、および22℃での処理を26として示している。
【0055】
結果は、26℃または22℃での冷却は有意な細胞保護作用を示すが、ROS阻害剤/スカベンジャーNACと冷却の組み合わせはより良好な細胞保護をもたらすことを示す。これらの所見は、冷却+ROS阻害が、冷却単独よりも、単剤のみならず併用薬剤治療によって引き起こされる細胞毒性からもより良好に保護することを実証する。
【0056】
抗酸化剤ケルセチンの使用による結果を
図8に示す。HaCaTa細胞(5×10
3細胞/ウェル)を、96ウェルプレートにおいて100μl/ウェルのKSFM中で培養し、37℃/5%CO
2で一晩インキュベートした。24時間後、細胞を3μMのケルセチンまたは0.625mMのNACで前処理した。抗酸化剤を含有しない対照も含めた。1時間の前処理後、細胞を0.25μg/ml、0.5μg/mlおよび1μg/mlのドキソルビシンで処理した。次いで、細胞を37℃で2時間(対照条件)または冷却条件(26℃)下でインキュベートした。次いで、培養物を37℃で72時間インキュベートした後、CellTiter 96 AQueous One細胞増殖アッセイ(Promega)を用いて細胞増殖を評価した。結果を、抗酸化剤を含有するがドキソルビシンを含まない対照に対する%として表す。
【0057】
結果は、冷却またはケルセチン単独での処理はある程度の細胞保護を提供することができるが、冷却+抗酸化剤/ROSスカベンジャーケルセチンの組み合わせは、各薬剤単独よりもはるかに良好な保護を提供することを示す(赤色のボックスで示すように)。
【0058】
37℃でのDOX単独を30として示し、26℃でのDOX単独を32として、37℃でのNAC+DOXを34として、26℃でのNAC+DOXを36として、37℃でのケルセチン+DOXを38として、26℃でのケルセチン+DOXを40として、+NACを14として、26℃での薬剤を18として、および26℃での薬剤+NACを20として示している。