(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-13
(45)【発行日】2024-09-25
(54)【発明の名称】微生物燃料電池及び蓄電システム
(51)【国際特許分類】
H01M 8/16 20060101AFI20240917BHJP
H01M 8/00 20160101ALI20240917BHJP
H01M 8/04 20160101ALI20240917BHJP
H01M 8/04537 20160101ALI20240917BHJP
H01M 8/04858 20160101ALI20240917BHJP
H01M 8/1016 20160101ALI20240917BHJP
【FI】
H01M8/16
H01M8/00 A
H01M8/04 Z
H01M8/04537
H01M8/04858
H01M8/1016
(21)【出願番号】P 2019184848
(22)【出願日】2019-10-07
【審査請求日】2022-10-04
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000002037
【氏名又は名称】新電元工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】507131908
【氏名又は名称】株式会社ニソール
(73)【特許権者】
【識別番号】513313129
【氏名又は名称】小野塚精機株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】508244500
【氏名又は名称】株式会社ランテクノ
(74)【代理人】
【識別番号】110002697
【氏名又は名称】めぶき弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】宮澤 亘
(72)【発明者】
【氏名】中原 康希
(72)【発明者】
【氏名】石渡 洋志
(72)【発明者】
【氏名】田崎 勝也
(72)【発明者】
【氏名】柳原 健也
(72)【発明者】
【氏名】江尻 充宏
(72)【発明者】
【氏名】水野 恒雄
【審査官】高木 康晴
(56)【参考文献】
【文献】特表2018-513017(JP,A)
【文献】特開2017-157517(JP,A)
【文献】特開2015-191856(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 8/16
H01M 8/00
H01M 8/04
H01M 8/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水分と、有機物又は糖と、前記有機物又は前記糖を分解してプロトンと電子を生成する 電流発生菌とを含む電解質と、
前記電解質に一部又は全部が埋入され、標準酸化還元電位がマイナスである
第1金属
としてのマグネシウムの表面処理により導電性が付与された酸化被膜を形成したものを用いたアノード電極と、
前記電解質に一部又は全部が埋入され、炭素若しくは炭素を成分に含む導電体又は標準酸化還元電位がプラスである
第2金属を用いたカソード電極と、を含
み、
前記アノード電極が埋入された前記電解質と前記カソード電極が埋入された前記電解質は分離されていないこと、を特徴とする微生物燃料電池。
【請求項2】
前記電解質は、植物栽培容器に収容され、植物が栽培されている土壌であり、
前記植物栽培容器には、水を貯留する供給容器が設けられ、
前記植物栽培容器と前記供給容器は開口部を介して連通していること、を特徴とする請求項1に記載の微生物燃料電池。
【請求項3】
前記植物栽培容器には、電気エネルギー源と植物への栄養補給源となるバイオマス生物群を収納するバイオマス収納容器が設けられ、前記バイオマス収納容器は開口部を介して前記植物栽培容器及び前記供給容器と連通していること、を特徴とする請求項2に記載の微生物燃料電池。
【請求項4】
前記電解質は、「鉄」、「鉄を水中に入れて酸化させて生成する鉄さび水」、又は、「カーボンの微粒子」のいずれか1以上が混入されている土壌であること、を特徴とする請求項1に記載の微生物燃料電池。
【請求項5】
前記導電性が付与された酸化被膜には、リン又はアルミニウムがドープされていることを特徴とする請求項1に記載の微生物燃料電池。
【請求項6】
前記第2金属として、銅、銀、白金又は金を用いたこと、を特徴とする請求項1に記載の微生物燃料電池。
【請求項7】
植物が生育し、水分と、有機物又は光合成により生成された糖と、前記有機物又は前記糖を分解してプロトンと電子を生成する電流発生菌とを含む土壌と、
前記土壌に一部又は全部が埋入され、標準酸化還元電位がマイナスである
第1金属
としてのマグネシウムの表面処理により導電性が付与された酸化被膜を形成したものを用いたアノード電極と、前記
土壌に一部又は全部が埋入され、炭素若しくは炭素を成分に含む導電体又は標準酸化還元電位がプラスである
第2金属を用いたカソード電極と
を含み、前記アノード電極が埋入された前記土壌と前記カソード電極が埋入された前記土壌は、分離されていない微生物燃料電池と、
前記微生物燃料電池の出力電圧を検出する微生物燃料電池電圧検出部と、
前記微生物燃料電池の出力電圧を昇圧する昇圧部と、
前記微生物燃料電池電圧検出部で検出された電圧に基づいて、前記昇圧部の昇圧を制御し、一定電圧とする昇圧制御部と、
電気エネルギーを蓄電する蓄電部と、
前記微生物燃料電池出力の前記蓄電部への蓄電機能と、前記昇圧部により昇圧された前 記微生物燃料電池出力を負荷に供給する供給機能を切り替える電力切替制御部と、
を備えることを特徴とする蓄電システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、植物が生育している原野や畑、植物を栽培している植物栽培容器から、電気エネルギーを取り出すことができる微生物燃料電池及び蓄電システムに関する。
【背景技術】
【0002】
微生物燃料電池は、微生物の異化代謝能を利用して有機物から電力を生産するシステムである。ヘドロは、産業排水及び家庭排水等に含まれる有機物が泥と共に、川底及び海底に堆積しているが、微生物によりヘドロ中の有機物を分解するバイオマス処理すると、プロトンと電子が発生して電力という形で直接電気エネルギーを回収できる。微生物燃料電池において,微生物から放出された電子はアノード電極(負極)へと受け渡される。電子はアノード電極から外部負荷を経てカソード電極(正極)へと移動し,そこで酸化剤(電子受容体)となる化合物およびアノード側から拡散してきたプロトン(H+)と反応する。このため、アノード電極とカソード電極の間に負荷を接続することにより電気回路として機能する。
【0003】
微生物燃料電池は、要するにプロトンと電子が発生すれば電気エネルギーとして取り出せる。土壌で生育している植物は、光合成により、二酸化炭素と水を用いて糖と酸素を作る。光合成によって作られた糖は、植物中には留まらず、排出されて一部の糖が植物の根から放出される。根から放出された糖は、土壌中に存在するバクテリアにより分解され、プロトンと電子を作り、このバクテリアは電流発生菌と呼ばれている。電子はアノード電極から外部負荷を経てカソード電極へと移動し,そこで電子受容体およびプロトン(H+)と反応する。
【0004】
微生物燃料電池の形状としては,大きく分けて2槽型(double-chanber)と1槽型(single-chanber)がある。2槽型の微生物燃料電池は、アノード槽とカソード槽がプロトン交換膜で仕切られており、プロトンがアノード槽からカソード槽へと供給される。このタイプは気密性が高いという利点がある。一方、1槽型の微生物燃料電池ではエアカソード(酸素正極)と呼ばれる膜タイプのカソードが使用される。エアカソードは酸素の透過性を持ち,大気中から透過した酸素は内側にコーティングされた白金触媒等によりプロトンとの反応が促進され水となる。この1槽型では有機物からのエネルギー回収効率は低くなるが,2槽型と比較してプロトン交換膜を使用しないため、コストが低く抑えられ,内部抵抗が低く、得られる出力が高くなる.
【0005】
特許文献1には、ヘドロを利用した1槽型の微生物燃料電池が開示されている。
【0006】
図22は、特許文献1に開示されている微生物燃料電池の構造を示す図である。この微生物燃料電池は、絶縁性の材料からなる筒状の保持体102と、内部を満たす水層104及びヘドロ層108を有している。微生物燃料電池は、保持体102における内壁面の下部に貼り付けられたアノード電極106及び内壁面の上部に貼り付けられたカソード電極110を有している。アノード電極106は、ヘドロ層108中に配置されており、カソード電極110は水層104中に配置されている。アノード電極106及びカソード電極110
は負荷114を介して導電性の接続線112で接続されている。アノード電極106及びカソード電極110は、表面積を大きくすることが容易である炭素繊維からなるカーボンクロス等が使用されている。
【0007】
特許文献2には、植物を利用した2槽型の微生物燃料電池が開示されている。
【0008】
図23は、特許文献2に開示されている微生物燃料電池の構造を示す図である。容器120は、アノード区画122とカソード区画124を備えている。アノード区画122には、アノード電極132が配置され、カソード区画124には、カソード電極128が配置されている。カソード区画124とアノード区画122は、イオン交換膜126によってお互いが分離されている。植物138は、植物の根130をアノード区画122に存在させて収容している。太陽光などの光エネルギー140が植物138に照射されると、光合成により糖が植物の根130からアノード区画122に放出される。
【0009】
カソード電極128及びアノード電極132には、グラファイトフェルトが使用されている。
【0010】
アノード区画122の溶液は以下の組成を有し、1リットル当たりのmgでの濃度は括弧内に示されている:KNO3(606.60)、Ca(NO3)2.4H2O(944.64)、NH4H2PO4(230.16)、MgSO4.7H2O(246.49)、KCl(3.73)、H3BO3(1.55)、MnSO4.H2O(0.34)、ZnSO4.7H2O(0.58)、CuSO4.5H2O(0.12)、(NH4)6Mo7O24.4H2O(0.09)、85%のMoO3を含むH2MoO4(161.97)、CoCl2.6H2O(2.00)、Na2SeO3(0.10)、チトリプレックスIIとしてのEDTA(30.00)、FeCl2.4H2O(10.68)、Ni2Cl.6H2O(0.06)、Na2SiO3.9H2O(284.20)。
【0011】
カソード区画124の溶液は、約7のpHに中和された50mMのK3Fe(CN)6及び100mMのKH2PO4で満たされている。
【0012】
特許文献3では、微生物燃料電池において高出力電流を発生することが可能な微生物燃料電池用電極とそれを用いた微生物燃料電池が開示されている。微生物燃料電池のアノード電極として、電極基盤表面に導電性ポリマーによりナノワイヤ構造を形成させて電極表面積を増大することにより、微生物から電極への電荷移動効率が従来の微生物燃料電池用電極と比較して10倍~100倍も増強することを見出している。
【0013】
特許文献4では、電力生産力を向上させると共に発電コストを抑制することのできる微生物燃料電池、微生物燃料電池用電極およびその製造方法、微生物を利用した電力生産方法及びその電力生産方法に用いられる微生物の選択的培養方法を開示されている。有機性物質を含む液体とアノード電極とを有し、嫌気雰囲気下で微生物により有機性物質を生分解するアノード電極と、カソード電極と、アノード電極とカソード電極を電気的に接続する外部回路とを備え、アノード電極は、グラフェンを備えている。アノード電極に備えられたグラフェンは、優れた電子伝導材料であるので、グラフェンによって微生物から負極までの電子伝達を容易にすることができ、電力生産量を向上させることができるとしている。
【0014】
特許文献5では、電子を伝達するメディエータを使用せずに電流密度を増加させることができる微生物燃料電池が開示している。電流発生菌であるシュワネラ菌にナノサイズの酸化鉄微粒子-Fe2O3を添加し、全体として3次元構造からなる凝集体を形成することにより電流密度を向上させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【文献】特開2013-084541号公報
【文献】米国特許出願公開第2010/0190039号明細書
【文献】国際公開2011/025021号明細書
【文献】国際公開2013/073284号明細書
【文献】国際公開2009/119846号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
従来の微生物燃料電池では、取り出せる電力が著しく少なく、電圧も太陽電池に比べて低く、実用化に際してさらなる高電圧化、電力生産量の向上が必要であるという問題点があった。
【0017】
従来電力生産量の向上のために、電極の改良や植物栽培を特殊な溶液で行うことが提案されているが、まだ電力生産量は低く改良が必要であった。
【0018】
ナノカーボン材料を用いれば、電池特性を向上させることができるが、ナノカーボン材料の製造には高度な技術が要求され、電気伝導性に優れたものを低コストで量産することは困難である。また、容器全体に存在する微生物の内、アノード電極に接触する僅かな微生物から集電を行う仕組みであるため、アノード電極の改良によって電池性能が改良されても、電力生産を大幅に向上させることは困難であるという問題点があった。
【0019】
グラフェンをアノード電極に用いる技術は、グラフェンが水溶液の中で分散し効率的に触媒である酵素と接触することは難しいため、グラフェン非投入の2倍程度と限定的である。
【0020】
従って、上記技術を適用しても、高電圧化や電力生産を大幅に向上させることはできなかった。
【0021】
また、微生物燃料電池は大地から電気エネルギーを得るため、電流容量は十分であるが出力電圧が低く、直列接続できないため、昇圧の必要があり電圧が不安定となりやすい。このため、出力電圧の安定化と、天候に左右されず、常に発電している特徴を生かした蓄電システムが望まれている。
【0022】
本発明は、上記問題点を解決するためになされたものであり、植物が生育している自然界に存在する電気エネルギーを効率よく取り出し、高電圧化や電力生産力を向上させることのできる微生物燃料電池、及び、微生物燃料電池の特長を生かした蓄電システムを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0023】
本発明は、以下の手段により植物が生育している自然界に存在する電気エネルギーを効率よく取り出すことができる微生物燃料電池である。
【0024】
なお、「微生物」は微細な生物を意味し、代表的には細胞の機能や組織分化がほとんどみられない細胞・多細胞生物で生物であり、原核細胞を持つ単細胞のバクテリア(細菌類)や、吸収型の従属栄養を行う真核生物である菌類を含んだ広い意味で用いる。
【0025】
(1)本発明の微生物燃料電池は、水分と、有機物又は糖と、前記有機物又は前記糖を分解してプロトンと電子を生成する電流発生菌とを含む電解質と、標準酸化還元電位がマイナスである金属を用いたアノード電極と、炭素若しくは炭素を成分に含む導電体又は標準酸化還元電位がプラスある金属を用いたカソード電極とを含むことを特徴とする。
【0026】
(2)本発明の(1)に記載の微生物燃料電池は、前記電解質が、植物が生育している土壌であること、を特徴とする。
【0027】
(3)本発明の(2)に記載の微生物燃料電池は、前記土壌が、植物栽培容器に収容され、前記植物が栽培されていること、を特徴とする。
【0028】
(4)本発明の(2)又は(3)に記載の微生物燃料電池は、前記アノード電極及び前記カソード電極が、前記土壌に一部又は全部が埋入されていること、を特徴とする。
【0029】
(5)本発明の(3)に記載の微生物燃料電池は、前記植物栽培容器には、水を貯留する供給容器が設けられ、前記植物栽培容器と前記供給容器は開口部を介して連通していること、を特徴とする。
【0030】
(6)本発明の(5)に記載の微生物燃料電池は、前記植物栽培容器には、電気エネルギー源と植物への栄養補給源となるバイオマス生物群を収納するバイオマス収納容器が設けられ、前記バイオマス収納容器は開口部を介して前記植物栽培容器及び前記供給容器と連通していること、を特徴とする。
【0031】
(7)本発明の(6)に記載の微生物燃料電池は、前記バイオマス生物群が、野菜及び/又は果物の生ごみ、草、動物及び/又は鳥の糞のいずれか一つ又は2以上であること、を特徴とする。
【0032】
(8)本発明の(5)又は(6)に記載の微生物燃料電池は、前記アノード電極及び前記カソード電極が、前記供給容器の水中に一部又は全部が埋入されていること、を特徴とする。
【0033】
(9)本発明の(5)又は(6)に記載の微生物燃料電池は、前記アノード電極が、前記供給容器の水中に一部又は全部が埋入されていること、及び、前記カソード電極は、前記植物栽培容器の土壌中に一部又は全部が埋入されていること、を特徴とする。
【0034】
(10)本発明の(5)又は(6)に記載の微生物燃料電池は、前記カソード電極が、前記供給容器の水中に一部又は全部が埋入されていること、及び、前記アノード電極は、前記植物栽培容器の土壌中に一部又は全部が埋入されていること、を特徴とする。
【0035】
(11)本発明の(2)に記載の微生物燃料電池は、前記土壌に、バイオマス生物群が混入されていること、を特徴とする。
【0036】
(12)本発明の(2)又は(6)に記載の微生物燃料電池は、前記土壌に、鉄が混入されていること、を特徴とする。
【0037】
(13)本発明の(2)又は(6)に記載の微生物燃料電池は、前記土壌に、鉄を水中に入れて酸化させて生成する鉄さび水が混入されていること、を特徴とする。
【0038】
(14)本発明の(2)又は(6)に記載の微生物燃料電池は、前記土壌に、カーボンの微粒子が混入されていること、を特徴とする。
【0039】
(15)本発明の(2)又は(6)に記載の微生物燃料電池は、前記土壌が、培養土又は腐葉土であること、を特徴とする。
【0040】
(16)本発明の蓄電システムは、植物が生育し、水分と、有機物又は光合成により生成された糖と、前記有機物又は前記糖を分解してプロトンと電子を生成する電流発生菌とを含む土壌と、標準酸化還元電位がマイナスである金属を用いたアノード電極と、炭素又は標準酸化還元電位がプラスである金属を用いたカソード電極とから構成される微生物燃料電池と、前記微生物燃料電池の出力電圧を検出する微生物燃料電池電圧検出部と、前記微生物燃料電池の出力電圧を昇圧する昇圧部と、前記微生物燃料電池電圧検出部で検出された電圧に基づいて、前記昇圧部の昇圧を制御し、一定電圧とする昇圧制御部と、電気エネルギーを蓄電する蓄電部と、前記微生物燃料電池出力の前記蓄電部への蓄電機能と、前記昇圧部により昇圧された前記微生物燃料電池出力を負荷に供給する供給機能を切り替える電力切替制御部と、を備えることを特徴とする。
【0041】
(17)本発明の蓄電システムは、植物が生育し、水分と、有機物又は光合成により生成された糖と、前記有機物又は前記糖を分解してプロトンと電子を生成する電流発生菌とを含む土壌と、標準酸化還元電位がマイナスである金属を用いたアノード電極と、炭素又は標準酸化還元電位がプラスである金属を用いたカソード電極とから構成される微生物燃料電池と、前記微生物燃料電池の出力電圧を検出する微生物燃料電池電圧検出部と、前記微生物燃料電池の出力電圧を昇圧する昇圧部と、前記微生物燃料電池電圧検出部で検出された電圧に基づいて、前記昇圧部の昇圧を制御し、一定電圧とする昇圧制御部と、電気エネルギーを蓄電する蓄電部と、前記蓄電部の蓄電された蓄電電圧を検出する蓄電電圧検出部と、前記昇圧部により昇圧された前記微生物燃料電池出力が過負荷により低下し、前記蓄電電圧検出部で検出された電圧以下となった場合に、前記蓄電部から負荷へ電力を供給する電力切替制御部と、を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0042】
(1)水分を含んだ電解質中において、有機物又は糖がバクテリアにより分解されてプロトンと電子を生成する。このとき、電子はアノード電極から接続線を介してカソード電極に流れ、カソード電極ではプロトンと水分中の溶存酸素が電子により結合し水を生成する。アノード電極に標準酸化還元電位がマイナスとなる金属を使用すれば、有機物又は糖がバクテリアにより分解されて生成された電子を集中させ、導線を介してカソード電極へ流すことができる。カソード電極は、標準酸化還元電位がプラスの金属を用いることでプロトンを集中させることができる。カソード電極は、炭素若しくは炭素を成分に含む導電体を用いてもプロトンを集中させることができる。標準酸化還元電位の異なる電極を使用しているため、カソード電極及びアノード電極にカーボンを用いた従来の方法に対して、効率よく電気エネルギーを取り出すことができる。
【0043】
(2)電解質を、植物が生育している土壌とすることにより、植物の光合成により生成された糖が土壌中のバクテリア(電流発生菌)によって分解され、プロトンと電子が生成される。さらに、植物の様々な部分、例えば落ち葉や根は、有機物又は糖となりバクテリアにより分解されてプロトンと電子を生成する。従って、自然に存在する土壌をそのまま電気エネルギー源として使用することができるだけでなく、生育している植物の光合成により、継続的に電気エネルギーが供給されている状態となる。
【0044】
(3)土壌が、植物栽培容器に収容され、植物が栽培されていることにより、植物の光合成により生成された糖が、根から一部が放出され、土壌中のバクテリア(電流発生菌)により分解される。植物栽培容器は、室外や室内に手軽に置くことができ、植物を育てながら電気エネルギーを得ることができる。
【0045】
(4)アノード電極及びカソード電極は、土壌に一部又は全部が埋入されている構造であり、カソード電極をエアカソードとすることが無いので、簡単に設置できる。
【0046】
(5)植物栽培容器には、水を貯留する供給容器が設けられ、植物栽培容器と供給容器は開口部を介して連通している。このため、水を植物栽培容器の土壌に供給でき、植物に水を与える他、植物の根から放出される糖から分解して生成されたプロトン及び電子を、水を介して供給容器に移動させることができる。
【0047】
(6)植物栽培容器には、電気エネルギー源と植物への栄養補給源となるバイオマス生物群を収納するバイオマス収納容器が設けられ、バイオマス収納容器は開口部を介して植物栽培容器及び供給容器と連通している。バイオマス収納容器では、バイオマス生物群がバクテリア(電流発生菌)により分解され、電気エネルギー源としてのプロトン及び電子が生成されており、このプロトン及び電子を、水を介して供給容器に移動させることができる。
【0048】
さらに、バイオマス生物群を分解して生成される養分は、植物の肥料として水を介して植物栽培容器の土壌に移動し、植物の生長を促進させることができる。
【0049】
(7)バイオマス生物群は、野菜及び/又は果物の生ごみ、草、動物及び/又は鳥の糞から生成される肥料のいずれか一つ又は2以上である。野菜及び/又は果物の生ごみは、料理において野菜及び/又は果物の不用な部分であり、これを利用することができる。草は、庭等に生い茂っているため、簡単に利用できる。さらに、動物及び/又は鳥の糞から生成される肥料は、牛糞及び/又は鶏糞として販売されており、安価に入手できる。野菜及び/又は果物の生ごみ、草、牛糞及び/又は鶏糞を組み合わせることにより、有機物の分解が促進される。即ち、電子供与微生物及び微生物の代謝に必要な栄養基質生成することができる。微生物燃料電池は、この電子供与微生物を生体触媒に、バイオマス生物群を燃料として発電を行うため、多くの電気エネルギーを発生させることができる。
【0050】
(8)アノード電極及びカソード電極は、供給容器の水中に一部又は全部が埋入されている。カソード電極は、エアカソードとする必要が無く、アノード電極及びカソード電極の一部又は全部を供給容器の水中に埋めるだけで簡単に配置することができる。供給容器には、植物栽培容器及びバイオマス収納容器からのプロトンが移動できるため、効率的に電気エネルギーを取り出すことができる。
【0051】
(9)供給容器の水中にアノード電極の一部又は全部を埋入し、植物栽培容器の土壌中にカソード電極の一部又は全部を埋入してもよい。プロトン及び電子は、土壌や水の中を移動できるため、アノード電極とカソード電極を、水を介して連結している供給容器と植物栽培容器に、個別に配置してもよい。この場合、プロトンは植物栽培容器の土壌に移動し、電子は供給容器の水に移動する。カソード電極を植物栽培容器の土壌に置くことで、植物の根から放出される糖の分解により生成されるプロトンを効率的にカソード電極へ移動させることができ、効率的に電気エネルギーを取り出すことができる。
【0052】
(10)供給容器の水中にカソード電極の一部又は全部を埋入し、植物栽培容器の土壌中にアノード電極の一部又は全部を埋入してもよい。プロトン及び電子は、土壌や水中を移動できるため、アノード電極とカソード電極を、水を介して連結している供給容器と植物栽培容器に、個別に配置してもよい。この場合、プロトンは供給容器の水に移動し、電子は植物栽培容器の土壌に移動する。カソード電極を供給容器の水中に置くことで、水中の溶存酸素との反応が促進され、効率的に電気エネルギーを取り出すことができる。
【0053】
(11)土壌に、バイオマス生物群が混入されていてもよい。微生物燃料電池は、電子供与微生物を生体触媒に、バイオマスを燃料として発電を行う。このため、土壌中のバイオマス生物群により発生する電流を増大させることができる。
【0054】
(12)土壌に鉄を混入することにより、鉄が土壌中の水分により酸化され、酸化鉄を生成する。この酸化鉄は、土壌中での電子の導電補助剤として機能し、発生する電流を増大させることができる。
【0055】
(13)土壌に、鉄を水中に入れて酸化させて生成する鉄さび水を混入させてもよい。鉄さび水は、酸化鉄のナノコロイドとして存在し、シュワネラ菌の増加を促進するとともに、電子の移動度を高くする導電補助剤として機能し、発生する電流を増大させることができる。
【0056】
(14)土壌にカーボンの微粒子を混入させてもよい。カーボンの微粒子は、プロトンの移動度を高め、発生する電流を増大させることができる。
【0057】
(15)土壌は培養土又は腐葉土であってもよい。培養土や腐葉土は、バイオマス生物群が混入しているため、電流を増大させることができる。
【0058】
(16)本発明の蓄電システムは、微生物燃料電池と、微生物燃料電池の出力電圧を昇圧して、負荷に供給する機能と蓄電する機能を備えている。微生物燃料電池は、常時発電していることが特徴であるが、植物の光合成機能や土壌の水分量等の天候による影響があり出力電圧は変動する。このため、微生物燃料電池電圧を検出し、一定の電圧になるように昇圧を制御して負荷に供給する。負荷に供給する必要の無いときは、切り替え制御により、電気エネルギーを蓄電することで効率的な電力の利用ができる。
【0059】
(17)本発明の蓄電システムは、微生物燃料電池と、微生物燃料電池の出力電圧を昇圧して、負荷に供給する機能と蓄電する機能を備えている。微生物燃料電池は、常時発電していることが特徴であるが、植物の光合成機能や土壌の水分量等の天候による影響があり出力電圧は変動する。このため、微生物燃料電池出力が過負荷により低下し、蓄電電圧以下となった場合は、電力切替制御部により蓄電部から負荷へ電力を供給する切り替え制御を行うことにより、過負荷の場合でも安定した電力が負荷に供給できる。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【
図1】本発明による微生物燃料電池の概念を示したブロック図である。
【
図2】土壌を利用した微生物燃料電池を示す図である。
【
図3】植物栽培容器での植物栽培を示した概略図である。
【
図4】土壌へ水を供給するために、植物栽培容器に供給容器を設けた概略図である。
【
図5】土壌へ水を供給するための供給容器を、植物栽培容器と分離して個別に設けた概略図である。
【
図6】有機物と電流発生菌の発生源としてバイオマス収納容器を設けた構造を示す図である。
【
図7】供給容器及びバイオマス収納容器を設け、電極を供給部の水に配置した構造を示す図である。
【
図8】供給容器及びバイオマス収納容器を設け、アノード電極を供給部の水に配置した構造を示す図である。
【
図9】供給容器及びバイオマス収納容器を設け、カソード電極を供給容器の水中に配置した構造を示す図である。
【
図10】従来のエアカソードを用いた微生物燃料電池の概略図である。
【
図11】本発明による
標準酸化還元電位の差を利用した微生物燃料電池の概略図である。
【
図12】畑を微生物燃料電池とした実験状態を示す図である。
【
図13】畑を微生物燃料電池として、電極材質と開放電圧の関係を測定した結果を示す図表である。
【
図14】樹木を育てている植木鉢を利用し、供給容器を備えた微生物燃料電池Aの構成を示した概略図である。
【
図15】樹木を育てている植木鉢を利用した微生物燃料電池Aの実際の実験装置を示す図である。
【
図16】微生物燃料電池Aでの電極位置と開放電圧の測定データを示す図表である。
【
図17】供給容器とバイオマス収納容器を備え、植木鉢でトマトを栽培しながら電気エネルギーを取り出す微生物燃料電池Bの構成を示した概略図である。
【
図18】供給容器とバイオマス収納容器を備え、植木鉢でトマトを栽培しながら電気エネルギー取り出す微生物燃料電池Bの実際の実験装置を示す図である。
【
図19】微生物燃料電池Bでの電極位置と開放電圧66の測定データを示す図表である。
【
図20】ニッケル水素電池への充電結果を示す図表である。
【
図21】微生物燃料電池を利用した蓄電システムの概略図である。
【
図22】特許文献1に開示されている微生物燃料電池の構造を示す図である。
【
図23】特許文献2に開示されている微生物燃料電池の構造を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0061】
微生物燃料電池は、微生物の異化代謝能を利用して有機物から電力を生産するシステムであり、燃料として汚泥、生ごみ等のバイオマスを使用できることから、持続可能な発電システムでもある。微生物自体が有機物から電子を取り出す生体触媒として機能するため、低コストである利点もある。
【0062】
土壌中に存在する微生物には、水素を電子放出源とし硫黄で電子を受容する、高度好熱性硫黄依存古細菌が存在し、この菌は硫化水素を生成する。さらに、二酸化炭素を電子受容体とするメタン細菌や、硫酸塩を電子受容体にする硫酸塩還元細菌、炭酸塩を電子受容体にする酢酸生成細菌や、鉄を電子受容体にする異化的鉄還元細菌が存在する。
【0063】
微生物の中には、有機物を分解する過程で電子を外部に放出する性質を持つ電流生成菌と呼ばれる細菌が存在する。電流生成菌は、この異化的鉄還元細菌のことで、異化的鉄還元細菌は、アモルファス状の鉄酸化物に直接触れることで、三価鉄を二価鉄に還元し、ナノサイズの磁性粒子を生産する。
【0064】
異化的鉄還元細菌として、ジオバクター菌やシュワネラ菌などがある。これらの菌は、空気中の酸素を嫌い、地中や海底、沼底など、酸素のほとんどない環境で生息している。この電流生成菌は、有機物と一緒に水を与えると電流発生菌が有機物を分解し、プロトンと電子を放出する。放出した電子をアノード電極に渡し、カソード電極側に流せば、電流が流れ、カソード電極側ではプロトンが酸素と反応して水となる。このため、有機物と水を継続的に微生物に与えれば、持続的に発電が可能となる。
【0065】
有機物を継続的に土壌に与えるために、植物の光合成を利用することができる。植物は、葉緑体で太陽の光により光合成を行い、根から導管により吸い上げた水と空気中の二酸化炭素から、有機物、例えばショ糖(C6H12O6)やデンプンを合成する。水を分解する過程で生じた酸素は、空気中に放出する。光合成により生産された有機物の一部は、植物の根から土壌中に放出される。このため、エネルギー源となる有機物を継続的に供給することができる。
【0066】
微生物燃料電池アノード電極とカソード電極は、カーボンを成分に含む電子導電体である。ここでいうカーボンとは、いわゆる炭素原子(C)からなる物質であって、例えば、グラファイト(黒鉛)や炭(活性炭、木炭)、カーボンブラック、カーボンフェルト、カーボンナノチューブ等が挙げられる。カソード電極はエアカソードと呼ばれ、プロトンを酸素と反応させるために空気に触れている必要がある。このため、カソード電極とアノード電極が同じ材質である炭素を用いても、エアカソードが陽極となる。
【0067】
従来の微生物燃料電池は、電極にカーボンを成分に含む導電体を用いており、カソード電極とアノード電極が同じ材質であるため、取り出せる電気エネルギーが少なく、例えば、開放電圧で数百mV程度であった。
【0068】
このため、ボルタ電池の原理を利用して、標準酸化還元電位の異なる材料をアノード電極とカソード電極に適用する新たな電気エネルギーの取り出し技術を考案した。
【0069】
図1は、本発明による微生物燃料電池の概念を示したブロック図である。微生物燃料電池は、アノード電極10と電解質14とカソード電極12とを含む。アノード電極10とカソード電極12は、負荷16を介して導線18で結ばれ、電気回路を構成している。
【0070】
アノード電極10とカソード電極12は、標準酸化還元電位の異なる材料を使用している。アノード電極10は、標準酸化還元電位がマイナスである金属を使用する。カソード電極は、炭素若しくは炭素を成分に含む導電体又は、標準酸化還元電位がプラスである金属を使用する。
【0071】
標準酸化還元電位がマイナスである金属は、例えば、マグネシウム(標準酸化還元電位:-2.36V)、アルミニウム(標準酸化還元電位:-1.68V)、チタン(標準酸化還元電位:-1.63V)、亜鉛(標準酸化還元電位:-0.76V)、鉄(標準酸化還元電位:-0.44V)、ニッケル(標準酸化還元電位:-0.26V)等がある。
【0072】
標準酸化還元電位がプラスである金属は、例えば、銅(標準酸化還元電位:0.34V)、銀(標準酸化還元電位:0.80V)、白金(標準酸化還元電位:1.19V)、金(標準酸化還元電位:1.52V)等がある。
【0073】
カーボンを成分に含む電子導電体は、前述のように、グラファイト(黒鉛)や炭(活性炭、木炭)、カーボンブラック、カーボンフェルト、カーボンナノチューブ等がある。
【0074】
電解質14は、水分と、少なくとも有機物又は糖と、有機物又は糖を分解してプロトンと電子を生成する電流生成菌が含まれている。このため、有機物又は糖が電流生成菌により分解されてプロトン(H+)と電子(e-)を生成し、継続的に電気エネルギーが供給される状態となる。このとき、電子はアノード電極から接続線を介してカソード電極に流れ、カソード電極ではプロトンと水分中の溶存酸素が電子により結合し水を生成する。アノード電極に標準酸化還元電位がマイナスとなる金属を使用すれば、有機物又は糖がバクテリアにより分解されて生成された電子を集中させ、導線を介してカソード電極へ流すことができる。このため、カソード電極及びアノード電極にカーボンを用いた従来の方法に対して、効率よく電気エネルギーを取り出すことができる。
【0075】
ボルタ電池は、カソード電極となる銅とアノード電極となる亜鉛を銅線でつないで希硫酸溶液に浸けている。亜鉛を希硫酸と化学反応させて亜鉛イオン(Zn2+)と電子(e-)を取り出し、電子は導線を通って銅側に流れ、プロトンと反応して水素(H2)を発生する。このボルタ電池の原理を参考にして、本発明の微生物燃料電池の原理が考案された。即ち、プロトンと電子の発生を有機物と電流生成菌となる微生物で行い、標準酸化還元電位の差を利用して電子をアノード電極からカソード電極に流す。カソード電極では、プロトンと水中の溶存酸素により水が生成される。これが本発明の原理であり、基本的には化学反応によるプロトンや電子の発生を必要としない。
【0076】
本発明では、カソード電極12はエアカソードとする必要が無く、このため、金属板でもカソード電極12として使用することができる。
【0077】
庭、畑や野原の土壌は雑草の光合成により放出された糖や、微生物、雨水による水が含まれており、電解質14として好適である
【0078】
図2は、土壌を利用した微生物燃料電池を示す図である。電解質を、植物が生育している土壌とすることにより、植物の光合成により生成された糖が土壌中のバクテリア(電流発生菌)によって分解され、プロトンと電子が生成される。さらに、植物の様々な部分、例えば落ち葉や根は、有機物又は糖となりバクテリアにより分解されてプロトンと電子を生成する。従って、自然に存在する土壌をそのまま電気エネルギー源として使用することができるだけでなく、生育している植物の光合成により、継続的に電気エネルギーが供給されている状態となる。土壌20に、アノード電極10とカソード電極12を埋入し、それぞれの電極に絶縁された導線でアノード端子22とカソード端子24を設ける。アノード電極10とカソード電極12は、
図2に示したように垂直に対抗して配置することができるが、この他に、水平方向や斜め方向など任意の位置に配置することができる。
【0079】
アノード電極10は、標準酸化還元電位がマイナスである金属、カソード電極は、カーボンを成分に含む電子導電体又は、標準酸化還元電位がプラスである金属を使用する。アノード端子22とカソード端子24から、電気エネルギーを取り出すことができる。土壌20には、植物26が生育しており、光合成により植物から生成された糖が、根28から土壌に放出されている。土壌20には電流生成菌となる微生物と、例えば雨水等が浸透して滞留している水が含まれている。
【0080】
土壌に電極を埋入する場合には、長期的に安定な電気エネルギーを得るために、金属の腐食を考慮しなければならない。
【0081】
アルミニウムは、通常その表面にアルミニウムと酸素が結合した酸化被膜が形成されている。酸化皮膜は、アモルファスの酸化アルミニウムからなる密なバリヤ層と、酸化アルミニウムの水和物からなる粗なポーラス層から構成されている。このため、酸化皮膜はこれ以上の酸化を防ぐ保護膜となり、アルミニウムは耐食性を備えている。本実施例からは、アルミニウムが酸化皮膜で覆われ、化学反応が生じない不働態状態でも、電圧が発生することから、原理的に化学反応を必要としていないことが分かる。このため、アルミニウム板を電極に使用すれば、長期安定性のある微生物燃料電池となる。
【0082】
一方、マグネシウムは標準酸化還元電位が低く、水と電気化学的に反応し、水素を発生しながら腐食する。この腐食に対しては、アノード電極10にマグネシウムを使用する場合は、定期的に交換すればよい。
【0083】
マグネシウムの腐食に対しては、表面処理により耐食性を向上させる方法がある。化学処理や陽極酸化処理等である。マグネシウムの表面に化学的に防食被膜を形成する方法は、クロム酸系で処理する方法がある。クロム酸処理、重クロム酸処理、硝酸第2鉄処理等である。陽極酸化処理は、マグネシウムを陽極として電解質溶液中で通電し、マグネシウム表面に酸化皮膜を生成させる処理方法である。ガルバニック陽極酸化処理方法(MX-5)、HAE陽極酸化処理方法(MX-11)やAC/DC陽極酸化処理方法(MX-12、Dow 17)等の方法がある。化学処理では対処できない過酷な環境下で使用される場合に適している。
【0084】
マグネシウムへの陽極酸化処理は、耐食性に優れるが、表面被膜は絶縁性のため、電気的な導電性が問題となる場合がある。これに対しては、酸化マグネシウムを主体とする表面の酸化被膜にリンやアルミニウムをドープして導電性を付与することができる。
【0085】
カソード電極12に使用する金属は標準酸化還元電位が高く、金の他、銀、白金は耐食性が良好であり、長期的に安定な電極となる。勿論、カーボンも耐食性が良好であり、長期的に安定な電極となる。銅は耐食性が劣るため、長期的な使用には適していない。
【0086】
カソード電極をエアカソードとする必要が無いので、アノード電極10とカソード電極12は、土壌20に全て埋入することができる。このため、土壌20深くに設置することができ、晴れの日が続いて土壌20の表面が乾燥していても土壌20の深くには水が存在しているため、電気エネルギーを取り出すことができる。
【0087】
アノード電極10及びカソード電極12は、土壌20に一部又は全部が埋入されている構造でよく、アノード電極10とカソード電極12は、一方の一部を地表に出した場合は、他方の一部を、土壌20中の水を含んだ場所に存在させる。カソード電極をエアカソードとすることが無いので、簡単に設置できる。
【0088】
土壌20には、植物の光合成により生成された糖の他、植物の様々な部分、例えば、落ち葉や根は有機物として土壌20に残り、電気エネルギー源に利用できる。植物が蓄えた太陽エネルギーの大部分は、根が死んで呼吸することによって、滲出液が放出され土壌20に残る。このプロセスは土壌20中の微生物の成長を促進する。このプロセスは根粒沈着と呼ばれている。
【0089】
その他、植物26から生成される成分は、例えばアミノ酸、有機酸、ホルモンおよびビタミンなどの炭水化物である。これらの成分は、その起源に応じて滲出液、分泌物、溶解物、およびガスの4つのグループに分類される。滲出液は代謝エネルギーの関与なしに根から染み出し、分泌物の場合は植物内で適切な代謝プロセスが行われる。溶解物は根が死んでいるためである。ガスは植物の根から来ていると言われている。枝、葉などの枯れた植物部分は、土壌20中の有機物の増加に寄与する。
【0090】
このように、植物26の生育と枯れることの長年にわたるサイクルの中で土壌20中に有機物成分が蓄積されており、一部は電気エネルギーとして利用できる。従って、土壌20には常に電気エネルギー源が供給されている状態であり、バクテリアの作用により有機物成分を分解するため、微生物燃料電池として庭、畑や野原の土壌20は好適な電解質となる。
【0091】
図3は、植物栽培容器での植物栽培を示した概略図である。土壌20は、植物栽培容器30に収納され、植物26が栽培されている。土壌20に、アノード電極10とカソード電極12を埋入し、それぞれの電極に絶縁された導線でアノード端子22とカソード端子24を設ける。アノード端子22とカソード端子24から、電気エネルギーを取り出すことができる。アノード電極10は、標準酸化還元電位がマイナスである金属、カソード電極は、カーボンを成分に含む電子導電体又は、標準酸化還元電位がプラスである金属を使用する。
【0092】
植物26の光合成により生成された糖が、根28から一部が放出され、土壌20中の電流発生菌により分解され、プロトンと電子を生成する。電子はアノード端子22側に移動し、プロトンはカソード端子24側に移動する。このため、アノード端子22からカソード端子24へ電子を流すことにより、電気エネルギーを取り出すことができる。植物栽培容器30は、室外や室内に手軽に置くことができ、植物を育てながら電気エネルギーを得ることができる。
【0093】
図4は、土壌へ水を供給するために、植物栽培容器に供給容器を設けた概略図である。植物栽培容器30での植物栽培構成は
図3と同様であるが、土壌20に水34を供給するために、水34を満たした供給容器32を設けている。植物栽培容器30には、複数の開口部36を設け、開口部36が供給容器32の水34の中に位置するように、植物栽培容器30を配置する。アノード電極10及びカソード電極12は、土壌20に一部又は全部が埋入されている構造でよい。
【0094】
複数の開口部36により、土壌20と水34が連通しており、土壌20の表面から蒸発したり、植物26に吸い上げられたりした水34は、表面張力により、供給容器32から土壌20へ吸い上げられ、常に補給されている。このため、水を植物栽培容器の土壌に供給でき、植物に水を与える他、植物の根から放出される糖から分解して生成されたプロトン及び電子を、水を介して供給容器に移動させることができる。これにより安定した電気エネルギーが得られる。
【0095】
プロトンと電子は、土壌20や水34の中を移動できるため、アノード電極10とカソード電極12土壌20中に配置する場合に限らず、水34中に配置することもできる。また、アノード電極10とカソード電極12を、水34を介して連結している植物栽培容器30と供給容器32に、個別に配置してもよい。
【0096】
図5は、土壌へ水を供給するための供給容器を、植物栽培容器と分離して個別に設けた概略図である。植物栽培容器30での植物栽培構成は
図3と同様であるが、土壌20に水34を供給するために、水34を満たした供給容器32を植物栽培容器30とは別に個別に設けている。植物栽培容器30と供給容器32は、連結開口部38により結合され、供給容器32の水34は、連結開口部38から土壌20に供給されている。供給容器32を、植物栽培容器30と分離することで、供給容器32を小型化できる。
【0097】
微生物燃料電池において、電気エネルギーの発生源は有機物と電流発生菌である。植物栽培を利用した微生物燃料電池では、有機物は植物の光合成により生成される糖であり、電流発生菌は土壌中に存在するシュワネラ菌である。植物栽培を利用した微生物燃料電池で電流容量を増大させるためには、有機物と電流発生菌の発生源を補助的に設けることで効果を得ることができると考えられる
【0098】
図6は、有機物と電流発生菌の発生源としてバイオマス収納容器を設けた構造を示す図である。植物栽培容器30は、電気エネルギー源と植物への栄養補給源となるバイオマス生物群42を収納するバイオマス収納容器40を備えている。バイオマス収納容器40は、開口部36を介して植物栽培容器30及び供給容器32と連通している。バイオマス収納容器40は、供給容器32の一部を利用しており、水34とバイオマス生物群42が混在している。バイオマス収納容器40には蓋44をし、バイオマス生物群42の分解により発生する臭いを抑制する。
バイオマス収納容器では、バイオマス生物群がバクテリア(電流発生菌)により分解され、電気エネルギー源としてのプロトン及び電子が生成されており、このプロトン及び電子を、水を介して供給容器に移動させることができる。さらに、バイオマス生物群を分解して生成される養分は、植物の肥料として水を介して植物栽培容器の土壌に移動し、植物の生長を促進させることができる。
【0099】
バイオマス生物群42は、野菜及び/又は果物の生ごみ、草、動物及び/又は鳥の糞又はこれらから生成される肥料のいずれか一つ又は2以上である。野菜及び/又は果物の生ごみは、料理において野菜及び/又は果物の不用な部分であり、これを利用することができる。草は、庭等に生い茂っているため、簡単に利用できる。さらに、動物及び/又は鳥の糞又はこれらから生成される肥料は、牛糞及び/又は鶏糞として販売されており、安価に入手できる。野菜及び/又は果物の生ごみ、草、牛糞及び/又は鶏糞を組み合わせることにより、有機物の分解が促進される。即ち、電子供与微生物及び微生物の代謝に必要な栄養基質生成することができる。微生物燃料電池は、この電子供与微生物を生体触媒に、バイオマス生物群を燃料として発電を行うため、多くの電気エネルギーを発生させることができる。
【0100】
一般に、バイオマス生物群42は、有機物資源として有機質肥料に利用されることが多いが、生ごみを始めとする食品廃棄物は高水分で排出され、空気が中まで浸透せずに嫌気性となる。一方、肥料化は、好気性条件で働く微生物が重要であり、好気性条件を確保し、微生物を活発に活動させる条件を整備する必要がある。
【0101】
好気性条件を確保する肥料化の条件に対して、
図6に示したバイオマス収納容器40は水34で満たされ、その中にバイオマス生物群42を混入していため、嫌気性環境となっている。自然界においてシュワネラ菌は、嫌気性環境となっている海底の堆積物上に多く存在している。従って、水34での嫌気性環境によりシュワネラ菌が増殖され、バクテリアによる有機物の分解が促進されるものと考えられる。
【0102】
野菜及び/又は果物の生ごみ、草、牛糞及び/又は鶏糞を組み合わせることによっても、有機物の分解が促進される。電子供与微生物及び微生物の代謝に必要な栄養基質生成することができるからである。
【0103】
即ち、バイオマス収納容器40は、電子供与微生物及び微生物の代謝に必要な栄養基質生成することができ、この電子供与微生物を生体触媒に、バイオマス生物群を燃料として多くの電気エネルギーを補助的に発生させることができる。
【0104】
図7は、供給容器及びバイオマス収納容器を設け、電極を供給部の水に配置した構造を示す図である。バイオマス収納容器40で発生したプロトンと電子は、土壌20を介することにより移動し難くなるため、プロトンと電子が移動しやすい水34中にアノード電極10及びカソード電極12の一部又は全部(
図7では全部)を埋入している。植物26を栽培している植物栽培容器30の土壌20からもプロトンと電子を水34に移動させている。植物栽培容器30及びバイオマス収納容器40からのプロトン及び電子を水34に集中させているため、アノード電極10及びカソード電極12で効率的に電気エネルギーを取り出すことができる。カソード電極は、エアカソードとする必要が無く、アノード電極及びカソード電極の一部又は全部を供給容器の水中に埋めるだけで簡単に配置することができる。供給容器には、植物栽培容器及びバイオマス収納容器からのプロトンが移動できるため、効率的に電気エネルギーを取り出すことができる。
【0105】
図8は、供給容器及びバイオマス収納容器を設け、アノード電極を供給部の水に配置した構造を示す図である。カソード電極12の全部は植物26を栽培している土壌20に配置し、アノード電極10の全部を供給部32の水34の中に配置している。この場合、プロトンは植物栽培容器30の土壌20に移動し、電子は供給容器32の水34に移動する。カソード電極12を植物栽培容器30の土壌20中に置くことで、植物26の根28から放出される糖の分解により生成されるプロトンを効率的にカソード電極12へ移動させることができ、効率的に電気エネルギーを取り出すことができる。アノード電極は供給容器の水中に一部が埋入されていてもよく、カソード電極は植物栽培容器の土壌中に一部が埋入されていてもよい。カソード電極を植物栽培容器の土壌に置くことで、植物の根から放出される糖の分解により生成されるプロトンを効率的にカソード電極へ移動させることができ、効率的に電気エネルギーを取り出すことができる。
【0106】
図9は、供給容器及びバイオマス収納容器を設け、カソード電極を供給容器の水中に配置した構造を示す図である。アノード電極10bのの全部を植物26を栽培している土壌20に配置し、カソード電極12の全部を供給容器32の水34の中に配置している。この場合、プロトンは供給容器32の水34に移動し、電子は植物栽培容器30の土壌20に移動する。カソード電極12を供給容器32の水34中に置くことで、水34中の溶存酸素との反応が促進され、効率的に電気エネルギーを取り出すことができる。カソード電極は供給容器の水中に一部が埋入されていてもよく、アノード電極は植物栽培容器の土壌中に一部が埋入されていてもよい。カソード電極を供給容器の水中に置くことで、水中の溶存酸素との反応が促進され、効率的に電気エネルギーを取り出すことができる。
【0107】
供給容器32及びバイオマス収納容器40を設けた場合におけるアノード電極10及びカソード電極12の配置は
図7~8で説明したが、どの配置にするかは、栽培している植物26、特に植物26の根28の生長状態や、バイオマス生物群42の生物の種類等に依存する場合も多く、実施状態で最も効率よく電気エネルギーを取り出せるように配置すればよい。なお、アノード電極10及びカソード電極12の配置は、土壌20及び水34の中に全部を埋入する必要は無く、一部が埋入されていてもよい
【0108】
バイオマス生物群42は、植物26を栽培する土壌20に混入させてもよい。微生物燃料電池は、電子供与微生物を生体触媒に、バイオマスを燃料として発電を行う。このため、土壌中のバイオマス生物群により発生する電流を増大させることができる。土壌20中は、酸素が欠乏した嫌気性雰囲気となっており、シュワネラ菌が増殖する。このため、土壌中のバイオマス生物群42により発生する電流を増大させることができる。
【0109】
図2~
図6に示す例においては、アノード電極10及びカソード電極12は植物を栽培している土壌20に埋入して配置されており、アノード電極10へは電子が移動し、カソード電極12へはプロトンが移動する。このため、電子とプロトンは土壌20の中を移動する必要があり、土壌20での電子とプロトンの移動度を向上させることにより電流容量が増加する。
【0110】
電子の移動度を向上させるためには、導電性の物質又は金属イオンを混入させるとよい。そのために、土壌20に鉄を混入することが好ましい。鉄が土壌20中の水分により酸化され、酸化鉄を生成し、酸化鉄のナノコロイドは、シュワネラ菌の増加を促進するとともに、土壌20中での電子の導電補助剤として機能し、発生する電流を増大させることができる。
【0111】
また、導電性の金属イオンを土壌20に混入するために、鉄を水中に入れて酸化させることにより生成された鉄さび水を、土壌20に混入させてもよい。鉄さび水は、酸化鉄のナノコロイドとして存在し、シュワネラ菌の増加を促進するとともに、電子の移動度を高くする導電補助剤として機能し、発生する電流を増大させることができる。
【0112】
土壌にカーボンの微粒子を混入させてもよい。カーボンは還元物質であり、水を還元してプロトンを発生させる性質を持ち、プロトンの移動を補助するプロトン移動促進剤として機能する。このため、カーボンの微粒子は、プロトンの移動度を高め、発生する電流も増大させることができる。
【0113】
土壌20は、培養土又は腐葉土であってもよい。培養土又は腐葉土は、バイオマス生物群が混入しているため、植物26に与える養分が含まれているのに加えて、電気エネルギー源としての有機物も含まれていることから、電流を増大させることができる。植物26の培養土は、一般的には土、有機物、肥料などを混ぜたものである。赤玉(あかだま)土に腐葉土を混合し、さらに牛糞などが用いられる。特に有機物の存在は、電流発生菌で分解されてプロトンと電子を生成するため、電気エネルギー源としての効果がある。腐葉土は、一般的には樹木の葉や枝が堆積・発酵して腐葉土となるが、人工的には米ぬかなどの発酵促進剤が使用する場合もある。樹木の葉や枝は有機物であり、醗酵した腐葉土に含まれた有機物が電流発生菌で分解されてプロトンと電子を生成するため、電気エネルギー源としての効果がある。
【0114】
(実施例1)
従来のエアカソードを用いた微生物燃料電池と、本発明による標準酸化還元電位の差を利用した微生物燃料電池を比較する実験を行った。
【0115】
図10は、従来のエアカソードを用いた微生物燃料電池の概略図である。容器46の底に土壌20を入れ、アノード電極10となるカーボンフェルトを置く。さらにカーボンフェルトの上に土壌20を入れ、カソード電極12となるカーボンフェルトを置き、上部を水34で満たす。水34は、カソード電極12の表面が空気と触れる程度の量とする。
【0116】
土壌20は、畑から採取し、水道水で混ぜて泥状態として容器に入れた。アノード電極10からは、絶縁被膜された導線でアノード端子22を取り出し、カソード電極12からは、絶縁被膜された導線でカソード端子24を取り出した。
【0117】
この状態で数時間放置し、テスターでアノード端子22とカソード端子24の間の開放電圧を測定した。その結果、451mVを得た。
【0118】
図11は、本発明による
標準酸化還元電位の差を利用した微生物燃料電池の概略図である。容器46の土壌20は、上記従来の微生物燃料電池による実験装置から、上部の水34を取り除いて使用し、アノード電極10となるアルミニウム板とカソード電極12となるカーボンフェルトを土壌20に埋入した。アルミニウムはマイナスの
標準酸化還元電位を有し、標準酸化還元電位が-1.68Vである。アノード電極10からは、絶縁被膜された導線でアノード端子22を取り出し。カソード電極12からは、絶縁被膜された導線でカソード端子24を取り出した。
【0119】
この状態で数時間放置し、テスターでアノード端子22とカソード端子24の間の開放電圧を測定した。その結果、721mVを得た。
【0120】
以上の結果より、本発明による標準酸化還元電位の差を利用した微生物燃料電池の有効性が確認できた
【0121】
(実施例2)
実際の畑において、標準酸化還元電位の異なる電極材料と開放電圧を測定した。
【0122】
図12は、畑を微生物燃料電池とした実験状態を示す図である。畑での実験場所は、樹木が生い茂り、樹木の落ち葉や雑草はそのままの状態で放置されて、通常はほとんど手入れがされていない畑の片隅である。ここに、雑草を取り除いて実験スペースを確保した。この場所での土壌20中に、アノード電極10とカソード電極12を埋入し、アノード電極10からは、絶縁被膜された導線でアノード端子22を取り出し、カソード電極12からは、絶縁被膜された導線でカソード端子24を取り出した。
【0123】
アノード電極10には、アルミニウム板とマグネシウム板を使用した。カソード電極12には、カーボンフェルト、銅板、金メッキ板を使用した。アルミニウムの標準酸化還元電位は-1.68V、マグネシウムの標準酸化還元電位は-2.36Vである。また、銅の標準酸化還元電位は0.34V、金の標準酸化還元電位は1.52Vである。
【0124】
図13は、畑を微生物燃料電池として、電極材質と開放電圧の関係を測定した結果を示す図表である。電極材質と開放電圧48は、それぞれの電極材質を組み合わせて開放電圧を測定した。
【0125】
アノード電極10にアルミニウム板を使用した場合は、カソード電極12がカーボンフェルトで1131mV、銅板で837mV、金メッキ板で924mVが得られた。アノード電極10にマグネシウム板を使用した場合は、カソード電極12がカーボンフェルトで1909mV、銅板で1672mV、金メッキ板で1842mVが得られた。アノード電極10に使用した材料とカソード電極12に使用した材料の標準酸化還元電位の差が大きいほど、高い開放電圧が得られた。
【0126】
(実施例3)
植物を栽培している植物栽培容器を利用し、供給容器を備えた微生物燃料電池Aを構成して電気エネルギー取り出す実験を行った。
【0127】
図14は、樹木を育てている植木鉢を利用し、供給容器を備えた微生物燃料電池Aの構成を示した概略図である。樹木を育てている植木鉢はそのまま利用した。植木鉢は、植物栽培容器30、土壌20、植物26及び植物の根28から構成されており、アノード電極A52とカソード電極A54を土壌に埋入した。供給容器32には水34が入っており、土壌20の表面が供給容器32の水34の水面より上となるように、植木鉢を供給容器に入れている。
【0128】
供給容器32には、アノード電極B56とカソード電極B58を配置するためのスペースを取っている。電極の位置に依存した開放電圧を測定するためである。開口部36により、土壌20と水34が連通しているため、植物26により水34が吸収され、土壌20の表面から水34が蒸発して失われても、土壌20へは表面張力により供給容器32の水34が常に供給されている。これは、カソード電極24へ常に酸素が供給されことを意味し、長期に亘って安定した電気エネルギーが取り出せることになる。
【0129】
図15は、樹木を育てている植木鉢を利用した微生物燃料電池Aの実際の実験装置を示す図である。
植物栽培容器30は、庭にあった植木鉢
(樹木26を育てている植木鉢)を利用し、供給容器32は、水槽を利用した。水34は、水道水を使用した。
【0130】
図16は、微生物燃料電池Aでの電極位置と開放電圧の測定データを示す図表である。微生物燃料電池Aでの電極位置と開放電圧60の測定は、微生物燃料電池Aを構成してから2週間程度放置してから行った。
カソード電極Aと
カソード電極Bはカーボンフェルトを使用し、
アノード電極Aと
アノード電極Bはアルミニウム板とマグネシウム板を使用してデータを取得した。
【0131】
土壌にカソード電極Aとアノード電極Aを埋入した場合は、アノード電極Aがアルミニウム板の場合に946mV,マグネシウム板の場合に1855mVが得られた。
【0132】
供給容器32の水34中にカソード電極Bとアノード電極Bを配置した場合は、アノード電極Aがアルミニウム板の場合に1004mV、マグネシウム板の場合に1792mVが得られた。
【0133】
土壌にカソード電極Aを埋入し、供給容器32の水34中にアノード電極Bを配置した場合は、アノード電極Bがアルミニウム板の場合に861mV、マグネシウム板の場合に1805mVが得られた。
【0134】
供給容器32の水34中にカソード電極Bを配置し、土壌にアノード電極Aを埋入した場合は、アノード電極Aがアルミニウム板の場合に1009mV、マグネシウム板の場合に1744mVが得られた。
【0135】
(実施例4)
供給容器とバイオマス収納容器を備え、植木鉢でトマトを栽培しながら電気エネルギー取り出す微生物燃料電池Bを構成し、実験を行った。
【0136】
図17は、供給容器とバイオマス収納容器を備え、植木鉢でトマトを栽培しながら電気エネルギーを取り出す微生物燃料電池Bの構成を示した概略図である。微生物燃料電池Bの構成62において、底部に複数の開口部36を備えた植木鉢を植物栽培容器30とし、小石64を敷いて畑の土壌20を入れ、畑で育てていたトマト66を土壌20に植樹した。土壌20には、アノード電極A52とカソード電極A54を埋入した。供給容器30には水34が入っており、土壌20の表面が供給容器32の水34の水面より上となるように、植木鉢を供給容器32に入れている。
【0137】
供給容器32には、アノード電極B56とカソード電極B58を配置するためのスペースの他、供給容器32の一部をバイオマス収納容器40とするためのスペースも取っている。バイオマス収納容器40は、有機物の分解に伴い発生する臭いを抑制するため、蓋44がされている。複数の開口部36により、土壌20と水34が連通しているため、植物26により水34が吸収され、土壌20表面から水34が蒸発して失われても、土壌20へは表面張力により供給容器32から水34が常に供給されている。
【0138】
バイオマス収納容器40のバイオマス生物群42の有機物が分解されて生成したプロトンと電子は水34に移動する。このため、アノード電極A52とカソード電極A54が土壌20中にある場合は、水34を介してプロトンと電子が土壌20に移動する。カソード電極A54が土壌20中にあり、アノード電極B56が水34中にある場合は、プロトンは水34を介して土壌20に移動する。カソード電極B58が水34中にあり、アノード電極A52が土壌20中にある場合は、電子が水34を介して土壌20に移動する。
【0139】
図18は、供給容器とバイオマス収納容器を備え、植木鉢でトマトを栽培しながら電気エネルギー取り出す微生物燃料電池Bの実際の実験装置を示す図である。供給容器32は、水槽を利用した。水34は水道水を使用した。バイオマス生物群42を高分子フィルムで覆って、蓋44とした。バイオマス生物群42は、生ゴミとして廃棄されるキウリ、トマト、キャベツの他、庭の雑草と牛糞及び鶏糞を混ぜ合わせている。この状態で約2週間放置して、トマト66が根付いたころから実験を開始した。
【0140】
図19は、微生物燃料電池Bでの電極位置と開放電圧の測定データを示す図表である。微生物燃料電池Bでの電極位置と開放電圧68は、カソード電極A54とカソード電極B56はカーボンフェルトを使用し、アノード電極A52とアノード電極B58はアルミニウム板とマグネシウム板を使用してデータを取得した。
【0141】
土壌20にカソード電極A54とアノード電極A52を埋入した場合は、アノード電極A52がアルミニウム板の場合に824mV,マグネシウム板の場合に1737mVが得られた。
【0142】
供給容器32の水34にカソード電極B58とアノード電極B56を配置した場合は、アノード電極A52がアルミニウム板の場合に683mV、マグネシウム板の場合に1779mVが得られた。
【0143】
土壌20にカソード電極A54を埋入し、供給容器32の水34にアノード電極B56を配置した場合は、アノード電極B56がアルミニウム板の場合に713mV、マグネシウム板の場合に1818mVが得られた。
【0144】
供給容器32の水34にカソード電極B58を配置し、土壌20にアノード電極A52を埋入した場合は、アノード電極A52がアルミニウム板の場合に728mV、マグネシウム板の場合に1803mVが得られた。
【0145】
引き続き微生物燃料電池Bで、ニッケル水素電池への充電実験を行った。ニッケル水素電池の仕様は、定格電圧1200mV,電流容量600mAhである。土壌20にカソード電極A54とアノード電極A52を埋入し、カソード電極A54とアノード電極A52から取り出した導線をニッケル水素電池充電器の入力端子に接続した。
【0146】
図20は、ニッケル水素電池への充電結果を示す図表である。ニッケル水素電池への充電結果70は、ニッケル水素電池A~Cの3個に充電した結果であり、初期電圧(充電前)と最終電圧(充電後)を示している。ニッケル水素電池Aは、充電前の初期電圧588mVに対して、充電後の最終電圧は1301mVであった。ニッケル水素電池Bは、充電前の初期電圧870mVに対して、充電後の最終電圧は1313mVであった。ニッケル水素電池Cは、充電前の初期電圧710mVに対して、充電後の最終電圧は1311mVであった。いずれもニッケル水素電池の定格を超えて充電された。充電は、1日で1200mVを超え、2日で1300mVに達した。
【0147】
(実施例5)
バイオマス生物群は、土壌に混入させてもよく、土壌を電気的に改良できる。さらに、電子及びプロトンの移動促進剤を加えて電気的な土壌の改良を行った。
【0148】
土壌は畑の土壌を利用した。この土壌の電気的改良点は、以下の3点である。
(1)有機物を分解し、電流発生菌(シュワネラ菌)を増殖させる。
(2)電子の移動を補助する移動促進剤として鉄イオンを加える。
(3)プロトンの移動を補助する移動促進剤としてカーボンの微粒子を加える。
【0149】
まず、(1)の有機物の分解とシュワネラ菌の増殖している物質は、バイオ生物群として生ゴミとなるキュウリ、トマト、キャベツ、ブロッコリーに、牛糞と水を混ぜ、ビニール容器で密封して2週間放置して作製した。この物質を土壌に混ぜた。
【0150】
土壌に混ぜるときに、木炭を粉砕して微粒子としたカーボンと、鉄を水に入れて2週間放置して作製した鉄イオン入りの鉄さび水を加えた。これにより、土壌の電気的な改良を行った。
【0151】
土壌の改良効果は、土壌のみの電気的特性を評価するため、
図10に示した従来のエアカソードを用いた微生物燃料電池の構成による実験装置を使用した。容器46には、上記の方法で電気的に改良された土壌20と水34を入れ、アノード電極10とカソード電極12を
図10のように配置した。
【0152】
この状態で数時間放置し、テスターでアノード端子22とカソード端子24の間の開放電圧を測定し、849mVを得た。実施例1で示した改良前の畑の土壌は451mVであり、電気的な改良効果が確認された。
【0153】
(微生物燃料電池を用いた蓄電システム)
微生物燃料電池は、常時発電していることが特徴であるが、植物の光合成機能や土壌の水分量等の天候による影響があり出力電圧は変動する。このため、微生物燃料電池の出力を一定電圧に昇圧し、蓄電機能を備えることにより有効な利用が可能となる。
【0154】
図21は、微生物燃料電池を利用した蓄電システムの概略図である。蓄電システム80は、
図21に示すように、微生物燃料電池82、昇圧部84、微生物燃料電池出力電圧検出部86、昇圧制御部88、蓄電部90、蓄電電圧検出部92、双方向切替部94と電力切替制御部96で構成され、負荷98に電力を供給する。
【0155】
すなわち、本例の蓄電システム80は、植物が生育し、水分と、有機物又は光合成により生成された糖と、有機物又は糖を分解してプロトンと電子を生成する電流発生菌とを含む土壌と、標準酸化還元電位がマイナスである金属を用いたアノード電極と、炭素若しくは炭素を成分に含む導電体又は標準酸化還元電位がプラスである金属を用いたカソード電極とを含む微生物燃料電池82と、微生物燃料電池82の出力電圧を検出する微生物燃料電池電圧検出部86と、微生物燃料電池82の出力電圧を昇圧する昇圧部84と、微生物燃料電池電圧検出部86で検出された電圧に基づいて昇圧部の昇圧を制御し一定電圧とする昇圧制御部88と、電気エネルギーを蓄電する蓄電部90と、微生物燃料電池出力の蓄電部90への蓄電機能と、昇圧部84により昇圧された微生物燃料電池出力を負荷98に供給する供給機能を切り替える電力切替制御部96と、を備える蓄電システムであり、また、植物が生育し、水分と、有機物又は光合成により生成された糖と、有機物又は糖を分解してプロトンと電子を生成する電流発生菌とを含む土壌と、標準酸化還元電位がマイナスである金属を用いたアノード電極と、炭素若しくは炭素を成分に含む導電体又は標準酸化還元電位がプラスである金属を用いたカソード電極とを備える微生物燃料電池82と、微生物燃料電池82の出力電圧を検出する微生物燃料電池電圧検出部86と、微生物燃料電池82の出力電圧を昇圧する昇圧部84と、微生物燃料電池電圧検出部86で検出された電圧に基づいて昇圧部84の昇圧を制御し一定電圧とする昇圧制御部88と、電気エネルギーを蓄電する蓄電部90と、蓄電部90の蓄電された電圧を検出する蓄電電圧検出部92と、昇圧部90により昇圧された微生物燃料電池出力が過負荷により低下し、蓄電電圧検出部92で検出された電圧以下となった場合に蓄電部90から負荷98へ電力を供給する電力切替制御部96と、を備える蓄電システムである。
【0156】
微生物燃料電池82は、植物が生育し、水分と、有機物又は光合成により生成された糖と、有機物又は前記糖を分解してプロトンと電子を生成する電流発生菌とを含む土壌と、標準酸化還元電位がマイナスである金属を用いたアノード電極と、炭素又は標準酸化還元電位がプラスである金属を用いたカソード電極とから構成されている。微生物燃料電池82の出力電圧は、昇圧部により昇圧される。昇圧は、微生物燃料電池80の出力電圧を、微生物燃料電池出力電圧検出部86により検出して、一定の電圧となるように昇圧制御部88で制御されている。
【0157】
蓄電部90は、微生物燃料電池82で発生した電力を蓄える。蓄電部90には、蓄電部90に蓄えられた電力を検出する蓄電電圧検出部92が設けられている。さらに、蓄電部90への電力の蓄電と蓄電部90からの電力供給を切り替える双方向切替部94を備えている。
【0158】
電力切替制御部96は、昇圧された微生物燃料電池82の出力の負荷98への供給、及び、負荷が無い場合に双方向切替部94を介して、昇圧された微生物燃料電池82の出力の蓄電部90での蓄電を切り替える制御を行っている。これにより、常時発電している微生物燃料電池82の特徴を生かして有効に電気エネルギーを利用する蓄電システムとなる。また、微生物燃料電池は、常時発電していることが特徴であるが、植物の光合成機能や土壌の水分量等の天候による影響があり出力電圧は変動する。このため、微生物燃料電池電圧を検出し、一定の電圧になるように昇圧を制御して負荷に供給する。負荷に供給する必要の無いときは、切り替え制御により、電気エネルギーを蓄電することで効率的な電力の利用ができる。
【0159】
蓄電部90には、蓄電電圧検出部92が備えられており、蓄電部90に蓄電されている蓄電電圧を検出している。昇圧された微生物燃料電池82の出力電圧が、過負荷により低下し、蓄電電圧検出部92で検出された電圧以下になった場合は、電力切替制御部96により蓄電部90から負荷98へ電力を供給する切り替え制御を行うことにより、過負荷の場合でも安定した電力が負荷に供給できる。
【0160】
以上、本発明の実施例を説明したが、本発明は、その目的と利点を損なうことのない適宜の変形を含み、さらに、上記の実施形態による限定は受けない。
【符号の説明】
【0161】
10 アノード電極
12 カソード電極
14 電解質
16 負荷
18 導線
20 土壌
22 アノード端子
24 カソード端子
26 植物
28 根
30 植物栽培容器
32 供給容器
34 水
36 開口部
38 連結開口部
40 バイオマス収納容器
42 バイオマス生物群
44 蓋
46 容器
48 電極材質と開放電圧
50 微生物燃料電池Aの構成
52 アノード電極A
54 カソード電極A
56 アノード電極B
58 カソード電極B
60 微生物燃料電池Aでの電極位置と開放電圧
62 微生物燃料電池Bの構成
64 小石
66 トマト
68 微生物燃料電池Bでの電極位置と開放電圧
70 ニッケル水素電池への充電結果
80 蓄電システム
82 微生物燃料電池
84 昇圧部
86 微生物燃料電池出力電圧検出部
88 昇圧制御部
90 蓄電部
92 蓄電電圧検出部
94 双方向切替部
96 電力切替制御部
98 負荷