(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-13
(45)【発行日】2024-09-25
(54)【発明の名称】画像表示装置
(51)【国際特許分類】
G09F 9/00 20060101AFI20240917BHJP
C09J 7/38 20180101ALI20240917BHJP
C09J 133/04 20060101ALI20240917BHJP
B32B 27/00 20060101ALI20240917BHJP
B32B 27/30 20060101ALI20240917BHJP
【FI】
G09F9/00 342
G09F9/00 313
C09J7/38
C09J133/04
B32B27/00 M
B32B27/30 A
(21)【出願番号】P 2020014199
(22)【出願日】2020-01-30
【審査請求日】2022-12-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000003964
【氏名又は名称】日東電工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000154
【氏名又は名称】弁理士法人はるか国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100152571
【氏名又は名称】新宅 将人
(72)【発明者】
【氏名】下栗 大器
(72)【発明者】
【氏名】野中 崇弘
(72)【発明者】
【氏名】藤原 新
(72)【発明者】
【氏名】澤▲崎▼ 良平
(72)【発明者】
【氏名】山村 和広
【審査官】澤村 茂実
(56)【参考文献】
【文献】特表2014-502292(JP,A)
【文献】特開2019-099751(JP,A)
【文献】特開2016-000774(JP,A)
【文献】特開2019-131679(JP,A)
【文献】特開2009-155503(JP,A)
【文献】再公表特許第2015/155844(JP,A1)
【文献】特開2012-017386(JP,A)
【文献】特開2017-160416(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09J 1/00-201/10
G06F 3/041- 3/047
G09F 9/00,338-9/00,343
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
画像表示パネルと、前記画像表示パネルの視認側表面に配置された前面透明板
が粘着シートを介して貼り合わせ
られている画像表示装
置であって、
前記粘着シートは、透明フィルム基材;前記透明フィルム基材の第一主面に固着積層された第一粘着剤層;および前記透明フィルム基材の第二主面に固着積層された第二粘着剤層を備え、
前記第一粘着剤層
が前記前面透明板に
貼り合わせられており、前記第二粘着剤層が前記画像表示パネルに貼り合わせられており、
前記第一粘着剤層の厚みが前記第二粘着剤層の厚みよりも大きく、
前記第二粘着剤層は、温度25℃、引張速度300mm/分、剥離角度180°のピール試験により求められるガラスに対する接着力が、2N/10mm以上であ
り、
前記画像表示パネルがタッチセンサーを含み、前記前面透明板はタッチセンサーを含まない、画像表示装
置。
【請求項2】
前記第一粘着剤層の厚みが80μm以上である、請求項1に記載の
画像表示装置。
【請求項3】
前記第二粘着剤層の厚みが150μ以下である、請求項1または2に記載の
画像表示装置。
【請求項4】
前記透明フィルム基材の厚みが15~150μmである、請求項1~3のいずれか1項に記載の
画像表示装置。
【請求項5】
前記透明フィルム基材の正面レターデーションが50nm以下である、請求項1~4のいずれか1項に記載の
画像表示装置。
【請求項6】
前記第一粘着剤層は、温度25℃における剪断貯蔵弾性率が0.16MPa以上である、請求項1~5のいずれか1項に記載の
画像表示装置。
【請求項7】
前記第一粘着剤層は、温度70℃における損失正接が0.25以上である、請求項1~6のいずれか1項に記載の
画像表示装置。
【請求項8】
前記第一粘着剤層は、ガラス転移温度が-3℃以下である、請求項1~7のいずれか1項に記載の
画像表示装置。
【請求項9】
前記第一粘着剤層は、架橋構造を有するアクリル系ポリマーを含む、請求項1~8のいずれか1項に記載の
画像表示装置。
【請求項10】
前記第一粘着剤層は、ゲル分率が30~80%である、請求項9に記載の
画像表示装置。
【請求項11】
前記第一粘着剤層は、重合率が95%以上である、請求項9または10に記載の
画像表示装置。
【請求項12】
前記アクリル系ポリマーにウレタン系セグメントによる架橋構造が導入されている、請求項9~11のいずれか1項に記載の
画像表示装置。
【請求項13】
前記第一粘着剤層は、温度25℃、引張速度300mm/分、剥離角度180°のピール試験により求められるガラスに対する接着力が、2N/10mm以上である、請求項1~12のいずれか1項に記載の
画像表示装置。
【請求項14】
前記画像表示パネルは、画像表示セルの視認側表面に偏光板を備え、前記偏光板が前記第二粘着剤層と貼り合わせられている、請求項
1~13のいずれか1項に記載の画像表示装置。
【請求項15】
前記画像表示パネルが有機ELセルを含む、請求項
1~14のいずれか1項に記載の画像表示装置。
【請求項16】
前記有機ELセルは、樹脂フィルム基板上に電極および有機発光層を備える、請求項
15に記載の画像表示装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、画像表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
携帯電話、スマートフォン、カーナビゲーション装置、パソコン用モニタ、テレビ等の各種画像表示装置として、液晶表示装置や有機EL表示装置が広く用いられている。外表面からの衝撃による画像表示パネルの破損防止等を目的として、画像表示パネルの視認側に、透明樹脂板やガラス板等の前面透明板(「カバーウインドウ」等とも称される)が設けられることがある。
【0003】
前面透明板の周縁には、装飾や光遮蔽を目的とした着色層(加飾印刷層)が形成される場合がある。加飾印刷層を有する透明部材に粘着剤を貼り合わせると、印刷段差部の周辺に気泡が生じ易い。そのため、厚みの大きい粘着シートにより段差吸収性を持たせ、気泡混入等の不具合を抑制する方法が採用されている(例えば特許文献1)。表示装置の輝度上昇に伴い、遮光性を高めるために加飾印刷層の厚みが大きくなる傾向があり、これに付随して、前面透明板の貼り合わせには、より厚みが大きく柔らかい粘着シートが用いられるようになっている。
【0004】
特許文献2では、インセル型またはオンセル型のタッチセンサーを備える液晶パネルの偏光板にカバーウインドウを貼り合わせるための粘着シートとして、基材フィルムの両面に所定の厚みを有する粘着剤層を積層した基材フィルム付き粘着シートを用いることが提案されている。
【0005】
従来、画像表示装置としては、2枚のガラス基板の間に液晶層を狭持した液晶セルの表裏に偏光板を配置し、バックライト等の光源と組み合わせた液晶表示装置が主流であった。近年では、ポリイミドフィルム等の樹脂フィルム基板上に電極および発光層を設けた有機EL表示装置が実用化されている。有機ELは自発光型であり光源を必要としないため、画面の薄型化、曲面形状化、フレキシブル化等が可能となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】国際公開第2013/161666号
【文献】特開2017-160416号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
画像表示装置の形成においては、画像表示パネルと前面透明板との貼り合わせ時や、貼り合わせ後に、熱プレスや圧着等の加圧加工がおこなわれる場合がある。ガラス基板等のリジッド基板を用いた画像表示パネルでは、基板が変形し難いため、局所的な圧力が加わった場合でも画像表示パネルはほとんど変形しない。一方、フレキシブル基板を用いた画像表示パネルでは、加圧加工の際に部品の接続箇所等に局所的に大きな圧力が付与されると基板が局所的に変形する。圧力を開放後に局所的な変形が回復せずに「押し跡」として残存すると、画像表示の欠点となり得る。
【課題を解決するための手段】
【0008】
画像表示パネルと前面透明板との貼り合わせに、フィルム基材の両面に粘着剤層が設けられた基材付き両面粘着シートを用いることにより、裏面側からの局所的な加圧による画像表示パネルの変形に起因する押し跡を抑制可能である。
【0009】
本発明の画像表示装置の形成に用いられる粘着シートは、透明フィルム基材の一方の主面に第一粘着剤層を備え、他方の主面に第二粘着剤層を備える基材付き両面粘着シートである。第一粘着剤層の厚みは第二粘着剤層の厚みよりも大きい。
【0010】
前記第一粘着剤層の厚みは80μm以上が好ましく、第二粘着剤層の厚みは150μ以下が好ましい。透明フィルム基材の厚みは15~150μmが好ましい。透明フィルム基材の正面レターデーションは50nm以下が好ましい。
【0011】
基材付き両面粘着シートは、タッチセンサーを含む画像表示パネルの視認側にタッチセンサーを含まない前面透明板が配置された画像表示装置の形成に用いることができる。画像表示装置においては、第一粘着剤層が前面透明板に貼り合わせられ、第二粘着剤層が画像表示パネルに貼り合わせられる。
【0012】
画像表示パネルは有機ELセルを含む有機EL表示装置でもよい。有機ELセルは、樹脂フィルム基板上に電極および有機発光層を備えるものであってもよい。
【発明の効果】
【0013】
本発明の基材付き粘着シートを介して画像表示セルと前面透明板とを貼り合わせることにより、裏面側からの押圧に起因する押し跡の残存を低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】基材付き両面粘着シートの積層構成例を示す断面図である。
【
図3】粘着シート付き光学フィルムの積層構成例を示す断面図である。
【
図4】粘着シート付き光学フィルムの積層構成例を示す断面図である。
【
図5】耐衝撃試験における試料の配置を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
図1は、基材付き両面粘着シートの断面図である。基材付き両面粘着シート15は、透明フィルム基材59の一方の主面に第一粘着剤層51を備え、透明フィルム基材59の他方の主面に第二粘着剤層53を備える。
図1に示す形態では、粘着剤層51,53の表面に、離型フィルム21,23が仮着されている。
図2は、基材付き両面粘着シート15を用いて画像表示パネルの視認側表面に前面透明板7が固定された画像表示装置の構成例を示す断面図である。
【0016】
[画像表示パネル]
図2に示す画像表示装置201において、画像表示パネル10は、液晶セルや有機ELセル等の画像表示セル6を備える。
【0017】
画像表示セル6は、画像表示のための機能層と、機能層を支持する基板を備える。例えば、液晶セルでは、2枚の透明基板の間に液晶層が設けられており、液晶の配向状態を変化させて透過光の偏光状態を変化させることにより、偏光板を透過する光の量を調整している。有機ELセルでは、基板上に一対の電極が設けられ、電極間に設けられた有機発光層の発光量を調整している。
【0018】
画像表示セル6の基板は、ガラス等の剛性基板でもよく、樹脂フィルム等の可撓性基板でもよい。樹脂フィルム基板を用いることにより、薄型化や軽量化が可能となる。また、樹脂フィルム基板を用いれば、曲面ディスプレイやフレキシブルディスプレイを形成することも可能である。
【0019】
フィルム基板を用いた画像表示セルとして、トップエミッション型またはボトムエミッション型の機ELセルが挙げられる。トップエミッション型の有機ELセルは、基板上に、金属電極、有機発光層および透明電極を順に備え、透明電極側(基板と反対側)から光を出射する。ボトムエミッション型の有機ELセルは、基板上に、透明電極、有機発光層および金属電極を順に備え、基板側から光を出射する。有機発光層は、それ自身が発光層として機能する有機層の他に、電子輸送層、正孔輸送層等を備えていてもよい。ボトムエミッション型の有機ELセルでは、透明基板が用いられる。トップエミッション型の有機ELセルでは、基板は必ずしも透明である必要はない。
【0020】
画像表示セル6の裏面側には、基板の保護や補強を目的として補強用基板9が設けられていてもよい。補強用基板9としては、金属板、ガラス板、樹脂フィルム等が用いられる。補強基板の厚みは、例えば10~200μm程度である。
【0021】
画像表示セル6の外周端には、フレキシブルプリント配線板(FPC)95が接続されている。FPC95は画像表示セル6の裏面に回り込むように曲げられ、画像表示セルの裏面に配置されたメイン基板90に接続されている。
図2では、メイン基板90に設けられたコネクタ91にFPC95の端子を挿入することにより、FPCとメイン基板とを接続している。メイン基板上に半田付け等によりFPCを接続してもよい。また、リード線を介してFPCCとメイン基板とを接続することもできる。FPCの接続箇所では、コネクタや半田付け部分厚みが局所的に大きく、凸部が形成される場合がある。
【0022】
画像表示セル6の視認側表面には、粘着剤層4を介して光学フィルム3が配置されていてもよい。画像表示セル6の視認側表面に配置される光学フィルム3としては、偏光板が挙げられる。偏光板は、偏光子を含み、一般に、偏光子の両面には、偏光子保護フィルムとしての透明フィルムが積層されている。偏光子の一方の面または両面の偏光子保護フィルムを省略してもよい。
【0023】
偏光板は、偏光子の一方または両方の面に、必要に応じて適宜の接着剤層や粘着剤層を介して積層された光学機能フィルムを備えていてもよい。光学機能フィルムとしては、位相差板、視野角拡大フィルム、視野角制限(覗き見防止)フィルム、輝度向上フィルム等が挙げられる。
【0024】
画像表示セル6が有機ELセルである場合、有機ELセルの金属電極が光反射性であるため、外光が有機ELセルの内部に入射すると、金属電極で光が反射し、外部からは反射光が鏡面のように視認される。有機ELセルの視認側表面に、光学フィルム3として円偏光板を配置することにより、金属電極での反射光の外部への再出射を防止して、画面の視認性および意匠性を向上できる。
【0025】
画像表示パネル10は、タッチセンサーが組み込まれたインセル型またはオンセル型のタッチセンサー付き画像表示パネルであってもよい。画像表示パネル10がタッチセンサー機能を備えている場合、画像表示パネル10の視認側に別途タッチセンサーを設ける必要がない。そのため、画像表示装置201では、画像表示パネル10の視認側表面に、基材付き両面粘着シート15を介して前面透明板7が貼り合わせられる。
【0026】
[前面透明板]
前面透明板7は、透明な平板71の一方の面の周縁に印刷層76が設けられている。画像表示パネルの視認側表面に前面透明板が配置されることにより、外表面からの衝撃による画像表示パネル10の破損を防止できる。また、印刷層76が設けられていることにより、FPC95等の配線部材が外部から視認されないため、画像表示装置の意匠性が高められる。
【0027】
透明板71は、例えばアクリル系樹脂やポリカーボネート系樹脂のような透明樹脂板、あるいはガラス板等が用いられる。透明板71は、剛性を有していてもよく可撓性でもよい。画像表示パネル10に対する保護性を高める観点から、透明板71は剛性基板であることが好ましく、透明板71の厚みは200μm以上が好ましく、300μm以上がより好ましい。印刷層76の厚みは、10~100μm程度である。
【0028】
[基材付き両面粘着シート]
図2に示すように、基材付き両面粘着シート15は、透明フィルム基材59の一方の主面に設けられた第一粘着剤層51が前面透明板7と貼り合わせられ、透明フィルム基材59の他方の主面に貼り合わせられた第二粘着剤層53が画像表示パネル10と貼り合わせられる。
【0029】
粘着シート15は、第一粘着剤層51のガラスに対する接着力が、2N/10mm以上であることが好ましく、4N/10mm以上がより好ましく、5N/10mm以上がさらに好ましい。接着力が上記範囲であることにより、歪による応力や落下等による衝撃が生じた場合における、被着体からの粘着シートの剥離を防止できる。第二粘着剤層53も、第一粘着剤層と同様に、高い接着力を有することが好ましい。接着力は、ガラス板を被着体として、引張速度300mm/分、剥離角度180°のピール試験により求められる。特に断りがない限り、接着力は25℃での測定値である。
【0030】
粘着シート15の全光線透過率は、85%以上が好ましく、90%以上がより好ましい。粘着シート15のヘイズは1%以下が好ましい。粘着シート15の厚み(透明フィルム基材59と粘着剤層51,53の合計厚み)は、120~1000μmが好ましく、150~500μmがより好ましく、180~400μmがさらに好ましい。
【0031】
粘着シート15は、紫外線遮蔽性を有していることが好ましい。粘着シート15が紫外線遮蔽性を有することにより、画像表示パネル10の偏光板3や画像表示セル6に含まれる有機層(例えば有機発光層)の紫外線による劣化を抑制できる。粘着シート15の波長380nmの透過率は、20%以下が好ましく、15%以下がより好ましく、10%以下がさらに好ましい。粘着シート15に紫外線遮蔽性を持たせるためには、第一粘着剤層51、透明フィルム基材59および第二粘着剤層53のうちのいずれか1つまたは複数に紫外線遮蔽性を持たせればよい。例えば、透明フィルム基材59として、透明ポリイミドやポリエチレンナフタレート等の紫外線遮蔽性を有する樹脂材料を用いることにより紫外線遮蔽性を付与できる。また、透明フィルム基材59、粘着剤層51,53のいずれか1つまたは複数に紫外線吸収剤を含めてもよい。
【0032】
<透明フィルム基材>
透明フィルム基材59としては、透明樹脂フィルムが用いられる。透明フィルム基材59の全光線透過率は85%以上が好ましく、90%以上がより好ましい。透明フィルム基材59を構成する樹脂材料は、透明性を有していれば特に制限されず、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等のポリエステル;ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン;ノルボルネン系ポリマー等の環状ポリオレフィン;ジアセチルセルロース、トリアセチルセルロース等のセルロース系ポリマー;アクリル系ポリマー;スチレン系ポリマー;ポリカーボネート、ポリアミド、ポリイミド、ポリエーテルエーテルケトン等が挙げられる。
【0033】
透明フィルム基材59は、表面に易接着層や帯電防止層等の機能層を有していてもよい。透明フィルム基材59は、タッチセンサーとしての機能を有していてもよい。透明フィルム基材59がタッチセンサーとしての機能を有する場合、フィルムの表面には位置検出のための電極が設けられる。一方、画像表示パネル10がタッチセンサー機能を備えている場合、画像表示パネル10の視認側にはタッチセンサーを設ける必要がない。そのため、透明フィルム基材59は、位置検出のための電極を備えていなくてもよい。
【0034】
2つの粘着剤層51,53の間に透明フィルム基材が配置されていることにより、粘着シート15全体としての弾性が高められ、変形に対する復元力が大きくなる。そのため、画像表示パネル10の裏面側からの押圧により画像表示パネルが変形した場合でも、粘着シート15の塑性変形が小さく、フィルム基材の復元力により押し跡の残存を低減できる。透明フィルム基材59の厚みは、15~150μ程度が好ましく、25~120μmがより好ましく、35~100μmがさらに好ましい。
【0035】
画像表示装置の画面を視認した際の虹模様の着色(虹彩現象)を抑制する観点から、透明フィルム基材59は、光学等方性を有していることが好ましい。透明フィルム基材59の波長590nmにおける正面レターデーションは、50nm以下が好ましく、30nm以下がより好ましく、10nm以下がさらに好ましく、5nm以下が特に好ましい。
【0036】
<粘着剤層>
第一粘着剤層51の厚みは、第二粘着剤層53の厚みよりも大きい。第二粘着剤層53の厚みは、第一粘着剤層51の厚みの0.2~0.85倍が好ましく、0.3~0.8倍がより好ましく、0.4~0.75倍がさらに好ましい。
【0037】
第一粘着剤層51の厚みが相対的に大きいことにより、前面透明板7の印刷層76に対する段差吸収性が高められる傾向がある。段差吸収性および耐衝撃性を確保する観点から、第一粘着剤層51の厚みは80μm以上が好ましい。第一粘着剤層51の厚みは、100μm以上または120μm以上であってもよい。印刷層76を有する前面透明板に第一粘着剤層51を貼り合わせる場合、第一粘着剤層51の厚みは、印刷層76の厚みよりも大きいことが好ましい。
【0038】
第一粘着剤層51の厚みの上限は特に制限されないが、生産性や加工寸法安定性等の観点から、500μm以下が好ましく、300μm以下がより好ましく、250μm以下がさらに好ましい。
【0039】
第二粘着剤層53の厚みが相対的に小さいことにより、画像表示パネル10側からの押圧に対する塑性変形が低減する。裏面側からの押圧により画像表示パネルが10変形した場合でも、粘着シート15の塑性変形が少ないため、押し跡の残存を低減できる。
【0040】
塑性変形を小さくして、押し跡を低減する観点から、第二粘着剤層53の厚みは、150μm以下が好ましく、120μm以下がより好ましい。第二粘着剤層53の厚みは、100μm以下または80μm以下であってもよい。耐衝撃性付与の観点から、第二粘着剤層53の厚みは30μm以上が好ましく、50μm以上がより好ましい。
【0041】
単層の基材レス粘着シートを介して画像表示パネルと前面透明板とを貼り合わせる場合、粘着シートの厚みが小さいと、前面透明板の印刷段差に対する段差吸収性が不足し、粘着シートの厚みが大きいと、粘着シートの塑性変形が大きいためにパネル側からの押圧による押し跡が残存しやすい。2つの粘着剤層51,53の間に透明フィルム基材59を備える基材付き粘着シートは、相対的に厚みの大きい第一粘着剤層51により段差吸収性を確保できる。また、相対的に厚みの小さい第二粘着剤層53は塑性変形が小さく、透明フィルム基材59の弾性復元力により裏面側からの押圧による第二粘着剤層53の変形が復元しやすいため、押し跡の残存を抑制できる。
【0042】
粘着シート15を被着体と貼り合わせた際の接着保持力を高めるとともに、加工寸法安定性を確保する観点から、第一粘着剤層51の25℃における剪断貯蔵弾性率G’25℃は、0.16MPa以上が好ましく、0.18MPa以上がより好ましく、0.20MPa以上がさらに好ましく、0.21MPa以上が特に好ましい。
【0043】
一方、適度の粘性を持たせて濡れ性を確保するとともに、段差吸収性や、落下等の衝撃に対するクッション性を持たせる観点から、第一粘着剤層51のG’25℃は、0.5MPa以下が好ましく、0.4MPa以下がより好ましく、0.3MPa以下がさらに好ましく、0.28MPa以下が特に好ましい。
【0044】
粘着シート15に段差吸収性を持たせる観点から、第一粘着剤層51の70℃における損失正接tanδ70℃は、0.25以上が好ましく、0.30以上がより好ましく、0.35以上がさらに好ましい。tanδ70℃は、0.40以上、0.45以上、0.50以上または0.55以上であってもよい。接着保持力の観点から、tanδ70℃は、1.0以下が好ましく、0.9以下がより好ましく、0.85以下がさらに好ましい。tanδ70℃は、0.80以下、0.75以下または0.70以下であってもよい。
【0045】
第一粘着剤層51のtanδのピークトップ値は、1.5以上が好ましく、1.6以上がより好ましく、1.7以上がさらに好ましい。tanδのピークトップ値が大きい粘着剤は、粘性挙動が大きく、耐衝撃性に優れる傾向がある。第一粘着剤層51のtanδのピークトップ値の上限は特に限定されないが、一般には3.0以下である。接着保持力の観点から、tanδのピークトップ値は、2.7以下が好ましく、2.5以下がより好ましい。
【0046】
第一粘着剤層51のガラス転移温度は、-3℃以下が好ましく、-4℃以下がより好ましい。第一粘着剤層51のガラス転移温度は、-20℃以上が好ましく、-15℃以上がより好ましく、-13℃以上がさらに好ましい。ガラス転移温度が上記範囲内であることにより、低温領域においても粘着剤が適宜の粘性を有し、落下等の衝撃による被着体の剥離が抑制される傾向がある。
【0047】
剪断貯蔵弾性率G’、損失性接tanδおよびガラス転移温度は、周波数1Hzの粘弾性測定により求められる。tanδは、貯蔵弾性率G’と損失弾性率G”の比G”/G’であり、ガラス転移温度は、tanδが極大となる温度(ピークトップ温度)である。貯蔵弾性率G’は、材料が変形する際に弾性エネルギーとして貯蔵される部分に相当し、硬さの程度を表す指標である。貯蔵弾性率が大きいほど、接着保持力が高く、歪による剥がれが抑制される傾向がある。損失弾性率G”は、材料が変形する際に内部摩擦等により散逸される損失エネルギー部分に相当し、粘性の程度を表す。tanδが大きいほど粘性の傾向が強く、変形挙動が液体的となり、反発弾性エネルギーが小さくなる傾向がある。
【0048】
G’25℃を0.16MPa以上として加工安定性を確保しつつ、段差吸収性付与のための適度な柔軟性を持たせる観点から、粘着剤のゲル分率は、30~80%が好ましく、35~70%がより好ましい。ゲル分率は、40%以上または45%以上であってもよく、65%以下、または60%以下であってもよい。
【0049】
粘着剤のゲル分率は、酢酸エチル等の溶媒に対する不溶分として求めることができ、具体的には、粘着剤を酢酸エチル中に23℃で7日間浸漬した後の不溶成分の、浸漬前の試料に対する重量分率(単位:重量%)として求められる。一般に、ポリマーのゲル分率は架橋度に等しく、ポリマー中の架橋された部分が多いほど、ゲル分率が大きくなる。ゲル分率(架橋構造の導入量)は、架橋構造の導入方法や、架橋剤の種類および量等により所望の範囲に調整できる。
【0050】
第二粘着剤層53は、上記の厚みを有する透明粘着剤層であれば特に限定されない。第一粘着剤層51の粘着剤と第二粘着剤層53の粘着剤は、同一でもよく、異なっていてもよい。接着保持力、寸法安定性および耐衝撃性を高める観点から、第二粘着剤層53は、25℃における剪断貯蔵弾性率G’25℃、70℃における損失正接tanδ70℃、tanδのピークトップ値、ガラス転移温度、およびゲル分率が、第一粘着剤層51について上述した範囲内であることが好ましい。
【0051】
<粘着剤の組成>
第一粘着剤層51および第二粘着剤層53を構成する粘着剤の組成は特に限定されず、アクリル系ポリマー、シリコーン系ポリマー、ポリエステル、ポリウレタン、ポリアミド、ポリビニルエーテル、酢酸ビニル/塩化ビニルコポリマー、変性ポリオレフィン、エポキシ系、フッ素系、天然ゴム、合成ゴム等のゴム系等のポリマーをベースポリマーとするものを適宜に選択して用いることができる。特に、光学的透明性に優れ、適度な濡れ性、凝集性および接着性等の粘着特性を示し、耐候性や耐熱性等にも優れることから、架橋構造が導入されたアクリル系ベースポリマーを含有するアクリル系粘着剤が好ましく用いられる。
【0052】
アクリル系ベースポリマーは、主たる構成モノマー成分として(メタ)アクリル酸アルキルエステルを含有する。なお、本明細書において、「(メタ)アクリル」とは、アクリルおよび/またはメタクリルを意味する。
【0053】
(メタ)アクリル酸アルキルエステルとしては、アルキル基の炭素数が1~20である(メタ)アクリル酸アルキルエステルが好適に用いられる。(メタ)アクリル酸アルキルエステルは、アルキル基が分枝を有していてもよく、環状アルキル基を有していてもよい。
【0054】
鎖状アルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステルの具体例としては、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸s-ブチル、(メタ)アクリル酸t-ブチル、(メタ)アクリル酸ペンチル、(メタ)アクリル酸イソペンチル、(メタ)アクリル酸ネオペンチル、(メタ)アクリル酸ヘキシル、(メタ)アクリル酸ヘプチル、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸オクチル、(メタ)アクリル酸イソオクチル、(メタ)アクリル酸ノニル、(メタ)アクリル酸イソノニル、(メタ)アクリル酸デシル、(メタ)アクリル酸イソデシル、(メタ)アクリル酸ウンデシル、(メタ)アクリル酸ドデシル、(メタ)アクリル酸イソトリドデシル、(メタ)アクリル酸テトラデシル、(メタ)アクリル酸イソテトラデシル、(メタ)アクリル酸ペンタデシル、(メタ)アクリル酸セチル、(メタ)アクリル酸ヘプタデシル、(メタ)アクリル酸オクタデシル、(メタ)アクリル酸イソオクタデシル、(メタ)アクリル酸ノナデシル等が挙げられる。
【0055】
脂環式アルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステルの具体例としては、(メタ)アクリル酸シクロペンチル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸シクロヘプチル、(メタ)アクリル酸シクロオクチル等の(メタ)アクリル酸シクロアルキルエステル;(メタ)アクリル酸イソボルニル等の二環式の脂肪族炭化水素環を有する(メタ)アクリル酸エステル;ジシクロペンタニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニルオキシエチル(メタ)アクリレート、トリシクロペンタニル(メタ)アクリレート、1-アダマンチル(メタ)アクリレート、2-メチル-2-アダマンチル(メタ)アクリレート、2-エチル-2-アダマンチル(メタ)アクリレート等の三環以上の脂肪族炭化水素環を有する(メタ)アクリル酸エステルが挙げられる。
【0056】
アクリル系ベースポリマーを構成するモノマー成分全量に対する、(メタ)アクリル酸アルキルエステルの量は、50重量%以上が好ましく、55重量%以上がより好ましく、60重量%以上がさらに好ましい。ガラス転移温度(Tg)を適切な範囲とする観点から、アクリル系ベースポリマーは、構成モノマー成分全量に対する炭素数4~10の鎖状アルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステルの量が、40重量%以上であることが好ましく、50重量%以上であることがより好ましく、55重量%以上であることがさらに好ましい。なお、アクリル系ベースポリマーを構成するモノマー成分とは、ポリマーを構成する全モノマー成分から、架橋構造の形成に用いられるモノマー(後述の多官能(メタ)アクリレート、ウレタン(メタ)アクリレート等)および架橋剤を除いたものである。
【0057】
アクリル系ベースポリマーは、構成モノマー成分として、水酸基含有モノマーやカルボキシ基含有モノマーを含んでいてもよい。イソシアネート架橋剤により架橋構造が導入される場合は水酸基がイソシアネート基との反応点となり、エポキシ系架橋剤により架橋構造が導入される場合は、カルボキシ基がエポキシ基との反応点となる。
【0058】
水酸基含有モノマーとしては、(メタ)アクリル酸2‐ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸2‐ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸4‐ヒドロキシブチル、(メタ)アクリル酸6‐ヒドロキシヘキシル、(メタ)アクリル酸8‐ヒドロキシオクチル、(メタ)アクリル酸10‐ヒドロキシデシル、(メタ)アクリル酸12‐ヒドロキシラウリルや(4‐ヒドロキシメチルシクロヘキシル)‐メチル(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリル酸エステルが挙げられる。アクリル系ベースポリマーに、ウレタン系セグメントによる架橋構造が導入される場合は、ウレタン系セグメントとの相溶性が高く、粘着剤の透明性を向上する観点から、アクリル系ベースポリマーは、構成モノマー成分として、炭素数4~8のヒドロキシアルキル基を有する(メタ)アクリル酸エステルを含むことが好ましい。
【0059】
アクリル系ベースポリマーが、構成モノマー成分として、水酸基含有モノマーを有することにより、粘着剤の透明性が向上するとともに、高温高湿環境下での白濁が抑制される傾向がある。また、水酸基含有モノマーの水酸基は、アクリル系ポリマーや、架橋セグメントと水素結合による物理架橋を形成可能である。そのため、アクリル系ベースポリマーを構成するモノマー成分における水酸基含有モノマーの比率を大きくすることにより、凝集力が高められ、G’25℃が大きくなる傾向がある。アクリル系ベースポリマーを構成するモノマー成分全量に対する、水酸基含有モノマーの量は、5~30重量%が好ましく、8~25重量%がより好ましく、10~20重量%がさらに好ましい。
【0060】
カルボキシ基含有モノマーとしては、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸カルボキシエチル、(メタ)アクリル酸カルボキシペンチル等のアクリル系モノマーや、イタコン酸、マレイン酸、フマール酸、クロトン酸等が挙げられる。
【0061】
アクリル系ベースポリマーは、構成モノマー成分として、窒素含有モノマーを含んでいてもよい。窒素含有モノマーとしては、N-ビニルピロリドン、メチルビニルピロリドン、ビニルピリジン、ビニルピペリドン、ビニルピリミジン、ビニルピペラジン、ビニルピラジン、ビニルピロール、ビニルイミダゾール、ビニルオキサゾール、ビニルモルホリン、(メタ)アクリロイルモルホリン、N-ビニルカルボン酸アミド類、N-ビニルカプロラクタム等のビニル系モノマーや、アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のシアノ基含有アクリル系モノマー等が挙げられる。これらの中でも、凝集力向上による接着力向上効果が高いことから、N-ビニルピロリドンが好ましい。
【0062】
アクリル系ベースポリマーが、構成モノマー成分として、水酸基含有モノマー、カルボキシ基含有モノマーおよび窒素含有モノマー等の高極性モノマーを含有することにより、粘着剤の凝集力が高められ、G’25℃が大きくなり、接着保持性が向上する傾向がある。一方、高極性モノマーの含有量が過度に大きいと、ガラス転移温度が高くなり、耐衝撃性が低下する場合がある。そのため、アクリル系ベースポリマーを構成するモノマー成分全量に対する高極性モノマー量(水酸基含有モノマー、カルボキシ基含有モノマー、および窒素含有モノマーの合計)は、15~45重量%が好ましく、20~40重量%がより好ましく、25~37重量%がさらに好ましい。特に、水酸基含有モノマーと窒素含有モノマーの合計が上記範囲内であることが好ましい。アクリル系ベースポリマーを構成するモノマー成分全量に対する窒素含有モノマーの量は、7~30重量%が好ましく、10~25重量%がより好ましく、12~22重量%がさらに好ましい。
【0063】
アクリル系ベースポリマーは、上記以外のモノマー成分として、酸無水物基含有モノマー、(メタ)アクリル酸のカプロラクトン付加物、スルホン酸基含有モノマー、燐酸基含有モノマー、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、スチレン、α-メチルスチレン、等のビニル系モノマー;アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のシアノ基含有アクリル系モノマー;(メタ)アクリル酸グリシジル等のエポキシ基含有モノマー;(メタ)アクリル酸ポリエチレングリコール、(メタ)アクリル酸ポリプロピレングリコール、(メタ)アクリル酸メトキシエチレングリコール、(メタ)アクリル酸メトキシポリプロピレングリコール等のグリコール系アクリルエステルモノマー;(メタ)アクリル酸テトラヒドロフルフリル、フッ素(メタ)アクリレート、シリコーン(メタ)アクリレートや(メタ)アクリル酸2-メトキシエチル等のアクリル酸エステル系モノマー等を含んでいてもよい。
【0064】
アクリル系ベースポリマーは、上記のモノマー成分の中で、(メタ)アクリル酸アルキルエステルの含有量が最も多いことが好ましい。ベースポリマーの構成モノマーの中で最も含有量の多いモノマー(主モノマー)の種類により、粘着剤の特性が左右されやすい。例えば、主モノマーが炭素数6以下の鎖状アルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステルである場合に、tanδ70℃が大きくなり、段差吸収性が向上する傾向がある。特に、アクリル酸ブチル等のアクリル酸C4アルキルエステルが主モノマーである場合に、tanδ70℃が大きくなる傾向がある。アクリル系ベースポリマーを構成するモノマー成分全量に対する、炭素数6以下の鎖状アルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステルの量は、40~85重量%が好ましく、45~80重量%がより好ましく、50~75重量%がさらに好ましい。特に、構成モノマー成分としてのアクリル酸ブチルの含有量が上記範囲であることが好ましい。
【0065】
アクリル系ベースポリマーの理論Tgは、-50℃以上が好ましい。アクリル系ベースポリマーの理論Tgは、-10℃以下が好ましく、-20℃以下がより好ましく、-25℃以下がさらに好ましい。理論Tgは、アクリル系ベースポリマーの構成モノマー成分のホモポリマーのガラス転移温度Tgiと、各モノマー成分の重量分率Wiから、下記のFoxの式により算出される。
1/Tg=Σ(Wi/Tgi)
【0066】
Tgはポリマーのガラス転移温度(単位:K)、Wiはセグメントを構成するモノマー成分iの重量分率(重量基準の共重合割合)、Tgiはモノマー成分iのホモポリマーのガラス転移温度(単位:K)である。ホモポリマーのガラス転移温度としては、Polymer Handbook 第3版(John Wiley & Sons, Inc., 1989年)に記載の数値を採用できる。上記文献に記載されていないモノマーのホモポリマーのTgは、動的粘弾性測定による損失正接(tanδ)のピークトップ温度を採用すればよい。
【0067】
架橋構造が導入されたポリマーは、例えば、(1)架橋剤と反応可能な官能基を有するポリマーを重合後に、架橋剤を添加して、ポリマーと架橋剤とを反応させる方法;および(2)ポリマーの重合成分に多官能化合物を含めることにより、分枝構造(架橋構造)を導入する方法、等により得られる。これらを併用して、ベースポリマーに複数種の架橋構造を導入してもよい。
【0068】
上記(1)のベースポリマーと架橋剤とを反応させる方法における架橋剤の具体例としては、イソシアネート系架橋剤、エポキシ系架橋剤、オキサゾリン系架橋剤、アジリジン系架橋剤、カルボジイミド系架橋剤、金属キレート系架橋剤等が挙げられる。中でも、ベースポリマーの水酸基やカルボキシ基との反応性が高く、架橋構造の導入が容易であることから、イソシアネート系架橋剤およびエポキシ系架橋剤が好ましい。これらの架橋剤は、ベースポリマー中に導入された水酸基やカルボキシ基等の官能基と反応して架橋構造を形成する。ベースポリマーがカルボキシ基を含まない酸フリーの粘着剤では、イソシアネート系架橋剤を用いて、ベースポリマー中の水酸基と、イソシアネート架橋剤との反応により架橋構造を形成することが好ましい。
【0069】
イソシアネート系架橋剤としては、1分子中に2個以上のイソシアネート基を有するポリイソシアネートが用いられる。イソシアネート系架橋剤としては、例えば、ブチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート等の低級脂肪族ポリイソシアネート類;シクロペンチレンジイソシアネート、シクロへキシレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート等の脂環族イソシアネート類;2,4-トリレンジイソシアネート、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート等の芳香族イソシアネート類;トリメチロールプロパン/トリレンジイソシアネート3量体付加物(例えば、東ソー製「コロネートL」)、トリメチロールプロパン/へキサメチレンジイソシアネート3量体付加物(例えば、東ソー製「コロネートHL」)、キシリレンジイソシアネートのトリメチロールプロパン付加物(例えば、三井化学製「タケネートD110N」)、ヘキサメチレンジイソシアネートのイソシアヌレート体(例えば、東ソー製「コロネートHX」)等のイソシアネート付加物等が挙げられる。また、イソシアネート系架橋剤として、末端にイソシアネート基を有するウレタンプレポリマーを用いることにより、ウレタン系セグメントによる架橋構造を導入できる。
【0070】
上記(2)のベースポリマーの重合成分に多官能化合物を含める方法では、アクリル系ベースポリマーを構成するモノマー成分および架橋構造を導入するための多官能化合物の全量を一度に反応させてもよく、多段階で重合を行ってもよい。多段階で重合を行う方法としては、ベースポリマーを構成する単官能モノマーを重合(予備重合)して、部分重合物(プレポリマー組成物)を調製し、プレポリマー組成物に多官能(メタ)アクリレート等の多官能化合物を添加して、プレポリマー組成物と多官能モノマーとを重合(本重合)する方法が好ましい。プレポリマー組成物は、低重合度の重合物と未反応のモノマーとを含む部分重合物である。
【0071】
アクリル系ベースポリマーの構成成分の予備重合を行うことにより、多官能化合物による分枝点(架橋点)を、ベースポリマーに均一に導入できる。また、低分子量のポリマーまたは部分重合物と未重合のモノマー成分との混合物(粘着剤組成物)を基材上に塗布した後、基材上で本重合を行って、粘着剤層を形成することもできる。プレポリマー組成物等の低重合組成物は低粘度で塗布性に優れるため、プレポリマー組成物と多官能化合物との混合物である粘着剤組成物を塗布後に基材上で本重合を行う方法によれば、粘着剤層の生産性を向上できると共に、粘着剤層の厚みを均一とすることができる。
【0072】
架橋構造の導入に用いる多官能化合物としては、不飽和二重結合を有する重合性の官能基(エチレン性不飽和基)を、1分子中に2個以上含有する化合物が挙げられる。多官能化合物としては、アクリル系ベースポリマーのモノマー成分との共重合が容易であることから、多官能(メタ)アクリレートが好ましい。活性エネルギー線重合(光重合)により分枝(架橋)構造を導入する場合は、多官能アクリレートが好ましい。
【0073】
多官能(メタ)アクリレートとしては、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリテトラメチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールAエチレンオキサイド変性ジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールAプロピレンオキサイド変性ジ(メタ)アクリレート、アルカンジオールジ(メタ)アクリレート、トリシクロデカンジメタノールジ(メタ)アクリレート、エトキシ化イソシアヌル酸トリ(メタ)アクリレート、ペンタエリストールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリストールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート、エトキシ化ペンタエリストールテトラ(メタ)アクリレート、ペンタエリストールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリストールポリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリストールヘキサ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、グリセリンジ(メタ)アクリレート、エポキシ(メタ)アクリレート、ブタジエン(メタ)アクリレート、イソプレン(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0074】
多官能(メタ)アクリレートとして、ウレタン鎖の末端に(メタ)アクリロイル基を有するウレタン(メタ)アクリレートを用いることにより、ウレタン系セグメントによる架橋構造を導入できる。アクリル系ベースポリマーがウレタン系セグメントにより架橋されることにより、低ガラス転移温度と、高い接着保持力を両立可能な粘着剤が得られやすい。ウレタン系セグメントは、ウレタン結合を有する分子鎖であり、ウレタン系セグメントの両末端が、アクリル系ベースポリマーと共有結合することにより、ウレタン系セグメントによる架橋構造が導入される。ウレタン系セグメントは、典型的にはジオールとジイソシアネートとを反応させて得られポリウレタン鎖を含む。
【0075】
ウレタン系セグメントにおけるポリウレタン鎖の分子量は、5000~30000が好ましく、6000~23000がより好ましく、7000~20000がさらに好ましい。ウレタン系セグメントにおけるポリウレタン鎖の分子量が大きいほど、架橋点間距離が長くなる。ポリウレタン鎖の分子量が上記範囲であれば、架橋構造が導入されたポリマーが、適度の凝集性と流動性を有するため、接着力と段差吸収性および耐衝撃性とを両立できる。
【0076】
ポリウレタン鎖の分子量が過度に小さく架橋点間距離が短い場合は、凝集力の増大に伴ってtanδが小さくなり、段差吸収性や耐衝撃性が低下する傾向がある。一方、ポリウレタン鎖の分子量が過度に大きく架橋点間距離が長い場合は、貯蔵弾性率が小さく、接着保持力が不足する場合がある。ポリウレタン鎖の分子量が大きい場合でも、ウレタン系セグメントの量を増加させてゲル分率を高めることにより、貯蔵弾性率を大きくできる。ただし、分子量の大きいポリウレタン鎖は、アクリル系ポリマーとの相溶性が低いため、ウレタン系セグメント量の増大に伴って、粘着剤のヘイズが大きくなり、透明性が低下する場合がある。
【0077】
ウレタン系セグメントの量が過度に大きくなると、ゲル分率の上昇に伴って粘着剤の粘性が低下し、段差吸収性や耐衝撃性が低下する場合がある。また、ウレタン系セグメントの量が過度に大きくなると、粘着剤の透明性が低下しヘイズが上昇する場合がある。そのため、ベースポリマーにおけるウレタン系セグメントの量は、アクリル系ポリマー100重量部に対して、10重量部以下が好ましく、7重量部以下がより好ましく、5重量部以下がさらに好ましい。一方、ゲル分率を高めて接着保持力を持たせる観点から、ベースポリマーにおけるウレタン系セグメントの量は、アクリル系ポリマー100重量部に対して、0.3重量部以上が好ましく、0.4重量部以上がより好ましく、0.5重量部以上がさらに好ましい。ベースポリマーにおけるウレタン系セグメントの量は、アクリル系ポリマー100重量部に対して、4重量部以下または3重量部以下であってもよく、0.7重量部以上または1重量部以上であってもよい。
【0078】
ポリウレタン鎖の形成に用いられるジオールとしては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、ヘキサメチレングリコール等の低分子量ジオール;ポリエステルポリオール、ポリエーテルポリオール、ポリカーボネートポリオール、アクリルポリオール、エポキシポリオール、カプロラクトンポリオール等の高分子量ポリオールが挙げられる。
【0079】
ポリウレタン鎖の形成に用いられるジイソシアネートは、芳香族ジイソシアネートおよび脂肪族のいずれでもよい。ジイソシアネートとして、イソシアネート化合物の誘導体を用いることもできる。イソシアネート化合物の誘導体としては、ポリイソシアネートの2量体、イソシアネートの3量体(イソシアヌレート)、ポリメリックMDI、トリメチロールプロパンとの付加体、ビウレット変性体、アロファネート変性体、ウレア変性体等が挙げられる。ジイソシアネート成分として、末端にイソシアネート基を有するウレタンプレポリマーを用いてもよい。
【0080】
例示のポリウレタン鎖の中でも、アクリル系ポリマーとの相溶性が高いことから、ジオール成分としてポリエーテルポリオールを有するポリエーテルウレタン、および/またはジオール成分としてポリエステルポリオールを有するポリエステルウレタンを含むことが好ましい。特に、ポリエステルウレタンにより架橋構造を導入した場合に、常温の貯蔵弾性率が大きくなり、接着保持力や加工性が向上する傾向がある。1つの理由として、ポリエステルは、ポリエーテル等に比べて剛直な分子構造を有することが挙げられる。剛直なセグメントにより架橋構造が導入されると、ポリマーの動きが制限されるために貯蔵弾性率が高められ、一方で、ポリマーの架橋点間距離が保持されるため、耐衝撃性や段差吸収性を示すと考えられる。
【0081】
ポリウレタン鎖の末端に、アクリル系ポリマーを構成するモノマー成分と共重合可能な官能基を有する化合物、またはポリウレタン鎖の末端に、アクリル系ポリマーに含まれるカルボキシ基、水酸基等と反応可能な官能基を有する化合物を用いることにより、アクリル系ポリマーに、ウレタン系セグメントによる架橋構造を導入できる。アクリル系ポリマーに均一に架橋点を導入しやすく、かつ、アクリル系ポリマーとウレタン系セグメントとの相溶性に優れることから、上記の多官能(メタ)アクリレートとして、ポリウレタン鎖の両末端に(メタ)アクリロイル基を有するウレタンジ(メタ)アクリレートを用いて、ウレタン系セグメントによる架橋構造を導入することが好ましい。
【0082】
両末端に(メタ)アクリロイル基を有するウレタンジ(メタ)アクリレートは、例えば、ポリウレタンの重合において、ジオール成分に加えて、水酸基を有する(メタ)アクリル化合物を用いることにより得られる。ウレタン系セグメントの鎖長(分子量)を制御する観点からは、ジオールとジイソシアネートとをイソシアネートが過剰となるように反応させてイソシアネート末端ポリウレタンを合成した後、水酸基を有する(メタ)アクリル化合物を添加して、ポリウレタンの末端イソシアネート基と(メタ)アクリル化合物の水酸基とを反応させることが好ましい。
【0083】
多価アルコールとポリイソシアネート化合物とを、ポリイソシアネート化合物が過剰となるように反応させることにより、末端にイソシアネート基を有するポリウレタン鎖が得られる。イソシアネート末端ポリウレタンを得るためには、NCO/OH(当量比)が、好ましくは1.1~2.0、より好ましくは1.15~1.5となるように、ジオール成分とジイソシアネート成分を使用すればよい。ジオール成分とジイソシアネート成分とを略等量混合して反応させた後に、ジイソシアネート成分を追加してもよい。
【0084】
水酸基を有する(メタ)アクリル化合物としては、(メタ)アクリル酸ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシブチル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシへキシル、ヒドロキシメチルアクリルアミド、ヒドロキシエチルアクリルアミド等が挙げられる。
【0085】
ウレタン(メタ)アクリレートとして、荒川化学工業、新中村化学工業、東亜合成、共栄社化学、日本化薬、日本合成化学工業、根上工業、ダイセルオルネクス等の各社から販売されている市販品を用いてもよい。ウレタン(メタ)アクリレートの重量平均分子量は、5000~30000が好ましく、6000~23000がより好ましく、7000~20000がさらに好ましい。
【0086】
ウレタン(メタ)アクリレートのガラス転移温度は、0℃以下が好ましく、-10℃以下がより好ましく、-20℃以下がさらに好ましい。低Tgのウレタン(メタ)アクリレートを用いることにより、ウレタン系セグメントにより架橋構造を導入してベースポリマーの凝集力を高めた場合でも、低温接着力に優れる粘着剤が得られる。ウレタン(メタ)アクリレートのガラス転移温度の下限は特に限定されないが、高温保持力に優れる粘着剤を得る観点からは、-100℃以上が好ましく、-90℃以上がより好ましく、-80℃以上がさらに好ましい。
【0087】
ウレタン(メタ)アクリレートを用いて、アクリル系ポリマーにウレタン系セグメントによる架橋構造を導入する場合は、ベースポリマーのウレタン系セグメントのガラス転移温度は、ウレタン(メタ)アクリレートのガラス転移温度に略等しい。
【0088】
<粘着剤組成物>
ベースポリマーを含む粘着剤組成物を基材上に塗布し、必要に応じて溶媒の乾燥やベースポリマーの架橋・硬化を行うことにより粘着剤層が形成される。
【0089】
ベースポリマーは、溶液重合、光重合(UV重合)、塊状重合、乳化重合等の公知の重合方法により調製できる。粘着剤の透明性、耐水性、コスト等の点で、溶液重合法、または光重合が好ましい。光重合では溶媒を用いずにポリマーを調製できるため、粘着剤層の形成時に溶媒の乾燥除去を必要とせず、厚みの大きい粘着剤層を均一に形成できる。
【0090】
ベースポリマーの調製に際しては、重合反応の種類に応じて、光重合開始剤や熱重合開始剤等の重合開始剤を用いてもよい。光重合開始剤としては、ベンゾインエーテル系光重合開始剤、アセトフェノン系光重合開始剤、α-ケトール系光重合開始剤、芳香族スルホニルクロリド系光重合開始剤、光活性オキシム系光重合開始剤、ベンゾイン系光重合開始剤、ベンジル系光重合開始剤、ベンゾフェノン系光重合開始剤、ケタール系光重合開始剤、チオキサントン系光重合開始剤、アシルフォスフィンオキサイド系光重合開始剤等を用いることができる。熱重合開始剤としては、アゾ系開始剤、過酸化物系開始剤、過酸化物と還元剤とを組み合わせたレドックス系開始剤(例えば、過硫酸塩と亜硫酸水素ナトリウムの組み合わせ、過酸化物とアスコルビン酸ナトリウムの組み合わせ等)を用いることができる。
【0091】
ベースポリマーの分子量を調整するために、連鎖移動剤が用いられていてもよい。連鎖移動剤としては、例えば、α-チオグリセロール、ラウリルメルカプタン、グリシジルメルカプタン、メルカプト酢酸、2-メルカプトエタノール、チオグリコール酸、チオグルコール酸2-エチルヘキシル、2,3-ジメルカプト-1-プロパノール等のチオール類や、α-メチルスチレン二量体等が挙げられる。
【0092】
ベースポリマーを形成するモノマー成分として、単官能モノマーに加えて多官能モノマーを用いる場合、先に単官能モノマーを重合して、低重合度のプレポリマー組成物を形成し(予備重合)、プレポリマー組成物のシロップ中に多官能モノマーを添加して、プレポリマーと多官能モノマーとを重合(本重合)してもよい。このように、プレポリマーの予備重合を行うことによって、多官能モノマー成分に起因する分枝点を、ベースポリマー中に均一に導入できる。また、プレポリマー組成物と未重合のモノマー成分との混合物(粘着剤組成物)を基材上に塗布した後、基材上で本重合を行って、粘着剤層を形成してもよい。プレポリマー組成物は低粘度で塗布性に優れるため、プレポリマー組成物と未重合モノマーとの混合物である粘着剤組成物を塗布後に基材上で本重合を行う方法によれば、粘着剤層の生産性が高められると共に、粘着剤層の厚みを均一とすることができる。
【0093】
プレポリマー組成物は、例えば、アクリル系ベースポリマーを構成するモノマー成分と重合開始剤とを混合した組成物(「プレポリマー形成用組成物」と称する)を、部分重合(予備重合)させることにより調製できる。なお、プレポリマー形成用組成物中のモノマーは、アクリル系ポリマーを構成するモノマー成分のうち、(メタ)アクリル酸アルキルエステルや極性基含有モノマー等の単官能モノマーであることが好ましい。プレポリマー形成用組成物は多官能モノマーを含んでいてもよい。例えば、ベースポリマーの原料となる多官能モノマー成分の一部をプレポリマー形成用組成物に含有させ、プレポリマーを重合後に多官能モノマー成分の残部を添加して本重合に供してもよい。
【0094】
プレポリマー形成用組成物は、モノマーおよび重合開始剤以外に、必要に応じて連鎖移動剤等を含んでいてもよい。プレポリマーの重合方法は特に限定されないが、反応時間を調整して、プレポリマーの分子量(重合率)を所望の範囲とする観点から、UV光等の活性光線照射による重合が好ましい。予備重合に用いられる重合開始剤や連鎖移動剤は特に限定されず、例えば、上述の光重合開始剤や連鎖移動剤を用いることができる。
【0095】
プレポリマーの重合率は特に限定されないが、基材上への塗布に適した粘度とする観点から、3~50重量%が好ましく、より好ましくは5~40重量%である。プレポリマーの重合率は、光重合開始剤の種類や使用量、UV光等の活性光線の照射強度・照射時間等を調整することによって、所望の範囲に調整できる。プレポリマーの重合率は、130℃で3時間加熱した際の加熱前後の重量から、下記式により算出される。粘着剤の重合率も同様の方法により算出される。
重合率(%)=乾燥後の重量/乾燥前の重量×100
【0096】
上記プレポリマー組成物に、アクリル系ベースポリマーを構成するモノマー成分の残部(後添加モノマー)、および必要に応じて、重合開始剤、連鎖移動剤、シランカップリング剤、架橋剤等を混合して、粘着剤組成物を形成する。後添加モノマーは、多官能モノマーを含有することが好ましい。ウレタンジ(メタ)アクリレートを用いてウレタン系セグメントによる架橋構造を導入する場合は、後添加モノマーとしてウレタンジ(メタ)アクリレートを添加することが好ましい。
【0097】
本重合に用いられる光重合開始剤や連鎖移動剤は特に限定されず、例えば、上述の光重合開始剤や連鎖移動剤を用いることができる。予備重合の際の重合開始剤がプレポリマー組成物中で失活せずに残存している場合は、本重合のための重合開始剤の添加を省略できる。
【0098】
本重合においては、粘着剤組成物に連鎖移動剤を含めることにより、分子量を調整することが好ましい。本重合に用いられる連鎖移動剤は特に限定されず、例えば、上述の連鎖移動剤を用いることができる。粘着剤組成物中の連鎖移動剤の量は、ベースポリマーの構成成分100重量部に対して、0.001~2重量部が好ましく、0.005~1重量部がより好ましく、0.01~0.5重量部がさらに好ましい。なお、予備重合の際に用いた連鎖移動剤がプレポリマー組成物中で失活せずに残存している場合は、粘着剤組成物への連鎖移動剤の添加を省略してもよい。
【0099】
連鎖移動剤は、成長ポリマー鎖からラジカルを受け取ってポリマーの伸長を停止させるとともに、ラジカルを受け取った連鎖移動剤がモノマーを攻撃して再び重合を開始させる。連鎖移動剤を用いることにより、反応系中のラジカル濃度を低下させることなく、ポリマーの分子量の増大を抑止できる。
【0100】
単官能モノマーと多官能モノマーの比率が一定である場合、分子量が大きいほど、1つのポリマー鎖に多官能モノマーによる架橋点(分岐点)が含まれる確率が高くなるため、ゲル分率が大きくなる傾向がある。連鎖移動剤を用いて、ポリマーの伸長を抑制することにより、ポリマーの分子量が小さくなり、ゲル分率の上昇が抑制される傾向がある。そのため、粘着剤組成物が連鎖移動剤を含むことにより、tanδが大きく、段差吸収性に優れる粘着剤が形成されやすい。
【0101】
(紫外線吸収剤)
粘着剤層51,53に紫外線吸収性を持たせるために、紫外線吸収剤を用いてもよい。紫外線吸収剤としては、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤、ベンゾフェノン系紫外線吸収剤、トリアジン紫外線吸収剤、サリチレート系紫外線吸収剤、シアノアクリレート系紫外線吸収剤等が挙げられる。紫外線吸収性が高く、かつアクリル系ポリマーとの相溶性に優れ、高透明性のアクリル系粘着剤が得られやすいことから、トリアジン系紫外線吸収剤およびベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤が好ましく、中でも、水酸基を含有するトリアジン系紫外線吸収剤、および1分子中にベンゾトリアゾール骨格を1個有するベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤が好ましい。
【0102】
紫外線吸収剤として市販品を用いてもよい。トリアジン系紫外線吸収剤の市販品としては、2-(4,6-ビス(2,4-ジメチルフェニル)-1,3,5-トリアジン-2-イル)-5-ヒドロキシフェニルと[(アルキルオキシ)メチル]オキシランとの反応生成物(BASF社製「TINUVIN 400」)、2-(2,4-ジヒドロキシフェニル)-4,6-ビス-(2,4-ジメチルフェニル)-1,3,5-トリアジンと(2-エチルヘキシル)-グリシド酸エステルとの反応生成物(BASF社製「TINUVIN 405」)、(2,4-ビス[2-ヒドロキシ-4-ブトキシフェニル]-6-(2,4-ジブトキシフェニル)-1,3,5-トリアジン(BASF社製「TINUVIN 460」)、2-(4,6-ジフェニル-1,3,5-トリアジン-2-イル)-5-[(ヘキシル)オキシ]-フェノール(BASF社製「TINUVIN 577」)、2-(2-ヒドロキシ-4-[1-オクチルオキシカルボニルエトキシ]フェニル)-4,6-ビス(4-フェニルフェニル)-1,3,5-トリアジン(BASF社製「TINUVIN 479」), 2,4-ビス-[{4-(4-エチルヘキシルオキシ)-4-ヒドロキシ}-フェニル]-6-(4-メトキシフェニル)-1,3,5-トリアジン(BASF製「Tinosorb S」)、2-(4,6-ジフェニル-1,3,5-トリアジン-2-イル)-5-[2-(2-エチルヘキサノイルオキシ)エトキシ]-フェノール(ADEKA製「ADK STAB LA-46」)等が挙げられる。
【0103】
ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤の市販品としては、2-(2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)-6-(1-メチル-1-フェニルエチル)-4-(1,1,3,3-テトラメチルブチル)フェノール(BASF製「TINUVIN 928」)、2-(2-ヒドロキシ-5-tert-ブチルフェニル)-2H-ベンゾトリアゾール(BASF製「TINUVIN PS」)、2-(2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)-4,6-ビス(1-メチル-1-フェニルエチル)フェノール(BASF製「TINUVIN 900」)、2-(2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)-6-(1-メチル-1-フェニルエチル)-4-(1,1,3,3-テトラメチルブチル)フェノール(BASF製「TINUVIN 928」)、2-(2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)-6-ドデシル-4-メチルフェノール(BASF製「TINUVIN571」)、2-(2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)-p-クレゾール(BASF製「TINUVIN P」)、2-(2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)-4-6-ビス(1-メチル-1-フェニルエチル)フェノール(BASF製「TINUVIN 234」)、2-〔5-クロロ(2H)-ベンゾトリアゾール-2-イル〕-4-メチル-6-(tert-ブチル)フェノール(BASF製「TINUVIN 326、」)、2-(2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)-4,6-ジ-tert-ペンチルフェノール(BASF製「TINUVIN 328」)、2-(2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)-4-(1,1,3,3-テトラメチルブチル)フェノール(BASF製「TINUVIN 329」)、ベンゼンプロパン酸と3-(2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)-5-(1,1-ジメチルエチル)-4-ヒドロキシ(C7-9側鎖および直鎖アルキル)とのエステル化合物(BASF製「TINUVIN384-2」)、メチル-3-(3-(2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)-5-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネートとポリエチレングリコールとの反応生成物(BASF製「TINUVIN1 130」)、メチル3-(3-(2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)-5-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネートとポリエチレングリコール300との反応生成物(BASF製「TINUVIN 213」)、2-[2-ヒドロキシ-3-(3、4、5,6-テトラヒドロフタルイミドーメチル)-5-メチルフェニル]ベンゾトリアゾール(住友化学製「Sumisorb250」)等が挙げられる。
【0104】
粘着剤組成物に紫外線吸収剤が添加される場合、その添加量は、ベースポリマー100重量部に対し通常0.05~10重量部程度であり、0.1~5重量部が好ましい。紫外線吸収剤の含有量を上記範囲とすることにより、紫外線吸収剤のブリードアウト等による透明性の低下を抑制しつつ、粘着剤層による紫外線遮蔽性を向上できる。
【0105】
(オリゴマー)
粘着剤組成物は、粘着剤の接着力の調整や粘度調整等を目的として、各種のオリゴマーを含んでいてもよい。オリゴマーとしては、例えば重量平均分子量が1000~30000程度のものが用いられる。オリゴマーとしては、アクリル系ベースポリマーとの相溶性に優れることから、アクリル系オリゴマーが好ましい。
【0106】
アクリル系オリゴマーは、主たる構成モノマー成分として(メタ)アクリル酸アルキルエステルを含有する。中でも、構成モノマー成分として、鎖状アルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステル(鎖状アルキル(メタ)アクリレート)、および脂環式アルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステル(脂環式アルキル(メタ)アクリレート)を含むものが好ましい。鎖状アルキル(メタ)アクリレートおよび脂環式アルキル(メタ)アクリレートの具体例は、アクリル系ポリマーの構成モノマーとして先に例示した通りである。
【0107】
アクリル系オリゴマーのガラス転移温度は、20℃以上が好ましく、40℃以上がより好ましい。アクリル系オリゴマーのガラス転移温度は、60℃以上、80℃以上、100℃以上または110℃以上であってもよい。架橋構造が導入された低Tgのアクリル系ベースポリマーと高Tgのアクリル系オリゴマーとを併用することにより、粘着剤の接着保持力が向上する傾向がある。アクリル系オリゴマーのガラス転移温度の上限は特に限定されないが、一般には200℃以下であり、180℃以下が好ましく、160℃以下がより好ましい。アクリル系オリゴマーのガラス転移温度は、前述のFox式により算出される。
【0108】
例示の(メタ)アクリル酸アルキルエステルの中でも、鎖状アルキル(メタ)アクリレートとしては、ガラス転移温度が高く、ベースポリマーとの相溶性に優れることから、メタクリル酸メチルが好ましい。脂環式アルキル(メタ)アクリレートとしては、アクリル酸ジシクロペンタニル、メタクリル酸ジシクロペンタニル、アクリル酸シクロヘキシル、およびメタクリル酸シクロヘキシルが好ましい。すなわち、アクリル系オリゴマーは、構成モノマー成分として、アクリル酸ジシクロペンタニル、メタクリル酸ジシクロペンタニル、アクリル酸シクロヘキシル、およびメタクリル酸シクロヘキシルからなる群より選択される1種以上と、メタクリル酸メチルとを含むものが好ましい。
【0109】
アクリル系オリゴマーを構成するモノマー成分全量に対する脂環式アルキル(メタ)アクリレートの量は、10~90重量%が好ましく、20~80重量%がより好ましく、30~70重量%がさらに好ましい。アクリル系オリゴマーを構成するモノマー成分全量に対する鎖状アルキル(メタ)アクリレートの量は、10~90重量%が好ましく、20~80重量%がより好ましく、30~70重量%がさらに好ましい。
【0110】
アクリル系オリゴマーの重量平均分子量は、1000~30000が好ましく、1500~10000がより好ましく、2000~8000がさらに好ましい。当該範囲の分子量を有するアクリル系オリゴマーを用いることにより、粘着剤の接着力や接着保持力が向上する傾向がある。
【0111】
アクリル系オリゴマーは、上記モノマー成分を各種の重合方法により重合することにより得られる。アクリル系オリゴマーの重合に際しては、各種の重合開始剤を用いてもよい。また、分子量の調整を目的として連鎖移動剤を用いてもよい。
【0112】
粘着剤組成物にアクリル系オリゴマー等のオリゴマー成分を含める場合、その含有量は、上記のベースポリマー100重量部に対して、0.5~20重量部が好ましく、1~15重量部がより好ましく、2~10重量部がさらに好ましい。粘着剤組成物中のオリゴマーの含有量が上記範囲である場合に、高温での接着性および高温保持力が向上する傾向がある。
【0113】
(シランカップリング剤)
接着力の調整を目的として、粘着剤組成物中に、シランカップリング剤を添加してもよい。粘着剤組成物にシランカップリング剤が添加される場合、その添加量は、ベースポリマー100重量部に対し通常0.01~5.0重量部程度であり、0.03~2.0重量部程度であることが好ましい。
【0114】
(他の添加剤)
上記例示の各成分の他、粘着剤組成物は、粘着付与剤、可塑剤、軟化剤、劣化防止剤、充填剤、着色剤、酸化防止剤、界面活性剤、帯電防止剤等の添加剤を含んでいてもよい。
【0115】
<粘着剤層の形成>
粘着剤組成物が光硬化性である場合は、支持基材上に粘着剤組成物を塗布後に、紫外線および/または短波長の可視光を照射して光硬化を行うことにより粘着剤層が形成される。光硬化を行う際は、塗布層の表面にカバーシートを付設して、粘着剤組成物を2枚のシート間に挟持した状態で光を照射して、酸素による重合阻害を防止することが好ましい。
【0116】
粘着剤層の形成に用いられる基材およびカバーシートとしては、任意の適切な基材が用いられる。基材およびカバーシートは、粘着剤層との接触面に離型層を備える離型フィルムでもよい。基材またはカバーシートとして、粘着シート15の透明フィルム基材59を用いてもよい。
【0117】
粘着剤組成物の塗布方法としては、ロールコート、キスロールコート、グラビアコート、リバースコート、ロールブラッシュ、スプレーコート、ディップロールコート、バーコート、ナイフコート、エアーナイフコート、カーテンコート、リップコート、ダイコーター等の各種方法が用いられる。
【0118】
基材上に層状に塗布した粘着剤組成物に活性光線を照射することにより、本重合が行われる。本重合では、プレポリマー組成物中の未反応のモノマー成分およびウレタンジ(メタ)アクリレート等の多官能化合物が反応して、架橋構造が導入されたポリマーが得られる。
【0119】
活性光線は、重合性成分の種類や、光重合開始剤の種類等に応じて選択すればよく、一般には、紫外線および/または短波長の可視光が用いられる。照射光の積算光量は、100~5000mJ/cm2程度が好ましい。光照射のための光源としては、粘着剤組成物に含まれる光重合開始剤が感度を有する波長範囲の光を照射できるものであれば特に限定されず、LED光源、高圧水銀ランプ、超高圧水銀ランプ、メタルハライドランプ、キセノンランプ等が好ましく用いられる。未反応のモノマーの残存量が多いと、粘着剤層のG’25℃が小さくなり接着保持力が低下する場合がある。そのため、本重合後の粘着剤の重合率は、95%以上が好ましく、97%以上がより好ましく、98%以上がさらに好ましく、99%以上が特に好ましい。重合率を高めるために、粘着剤層を加熱して、残存モノマーや未反応の重合開始剤等を揮発させてもよい。
【0120】
前述のように、粘着剤のゲル分率は、30~80%が好ましく、35~70%がより好ましい。ゲル分率が30%以上であることにより、粘着剤の接着保持力が高められるとともに、加工時の糊欠けや、部材間の位置ズレが生じ難く、加工性および加工寸法安定性に優れている。また、ゲル分率が80%以下であることにより、優れた段差吸収性を発揮できる。
【0121】
粘着剤のゾル分の重量平均分子量は、15万~45万が好ましく、18万~42万がより好ましい。ゾル分は、ベースポリマーをテトラヒドロフラン(以下、THF)で抽出した可溶分である。架橋されたポリマー(ゲル分)は、個々のポリマー鎖の分子量の測定が困難であるため、ゾル分(架橋されていないポリマー)の分子量が、ポリマー鎖の伸長の程度を表す指標となる。ゾル分の分子量が過度に大きい場合は、ガラス転移温度が高くなり、耐衝撃性が低下する場合がある。一方、ゾル分の分子量が過度に小さい場合は、接着保持力が低下する場合がある。
【0122】
<基材付き両面粘着シートの作製>
透明フィルム基材59の表裏それぞれに第一粘着剤層51および第二粘着剤層53を積層することにより、基材付き両面粘着シートが得られる。上記のように、粘着剤層を形成する際に、透明フィルム基材59上に粘着剤組成物を塗布して、透明フィルム基材と粘着剤層との積層体を形成してもよい。
【0123】
第一粘着剤層51および第二粘着剤層53の表面に離型フィルム21,23を貼り合わせることにより、
図1に示すように、両面に離型フィルムが仮着された基材付き両面粘着シートが得られる。粘着剤層の形成時基材やカバーシートとして用いた離型フィルムを、そのまま離型フィルム21,23として用いてもよい。
【0124】
[画像表示装置の形成]
上述の通り、粘着シート15は、画像表示装置の形成において、画像表示パネル10の視認側表面への前面透明板7の貼り合わせに好適に用いられる。貼り合せの順序は特に限定されず、画像表示パネル10への粘着シート15の貼り合せが先に行われてもよく、前面透明板7への粘着シート15の貼り合せが先に行われてもよい。また、両者の貼り合せを同時に行うこともできる。第二粘着剤層53と偏光板3とを貼り合わせた後に、粘着剤層4を介して、偏光板3と画像表示セル6との貼り合わせを行ってもよい。
【0125】
基材付き両面粘着シート15は、
図1に示すように粘着剤層51,53に離型フィルムが仮着された形態に加えて、第二粘着剤層53が偏光板等の光学フィルムに固着されている粘着剤付きフィルムとして用いることもできる。例えば、
図3に示す形態では、第一粘着剤層51の表面に離型フィルム21が仮着され、第二粘着剤層53には光学フィルム3が固着されている。
図4に示す形態では、偏光板3上に、さらに粘着剤層4が設けられ、その上に離型フィルム24が仮着されている。
【0126】
粘着シート15を介して画像表示パネル10と前面透明板7とを貼り合わせた後に、熱プレスや圧着等の加圧加工が行われる。この際、FPCの接続箇所等の部分的に厚みの大きい凸部が存在すると、画像表示パネルの裏面側から局所的に大きな圧力が加わり、画像表示パネル10が変形する。上記のように、画像表示パネル10と前面透明板7とが基材付き両面粘着シート15を介して貼り合わせられていることにより、粘着シート15の塑性変形が小さく、変形に対する復元力が作用するため、裏面側からの押圧に起因する押し跡の残存を低減できる。
【実施例】
【0127】
以下に実施例および比較例を挙げて、本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0128】
[アクリルオリゴマーの作製]
メタクリル酸ジシクロペンタニル(DCPMA)60重量部、メタクリル酸メチル(MMA)40重量部、連鎖移動剤としてα-チオグリセロール3.5重量部、および重合溶媒としてトルエン100重量部を混合し、窒素雰囲気下にて70℃で1時間撹拌した。次に、熱重合開始剤として2,2’-アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)0.2重量部を投入し、70℃で2時間反応させた後、80℃に昇温して2時間反応させた。その後、反応液を130℃に加熱して、トルエン、連鎖移動剤および未反応モノマーを乾燥除去して、固形状のアクリルオリゴマーを得た。アクリルオリゴマーの重量平均分子量は5100であった。
【0129】
[プレポリマー組成物の調製]
<プレポリマー組成物1>
プレポリマー形成用モノマー成分として、アクリル酸ブチル(BA):70重量部、N-ビニル-2-ピロリドン(NVP):17重量部、およびアクリル酸4-ヒドロキシブチル(4HBA):13重量部、ならびに光重合開始剤(BASF製「イルガキュア184」:0.05重量部、およびBASF製「イルガキュア651」:0.05重量部)を配合し、粘度(BH粘度計No.5ローター、10rpm、測定温度30℃)が約20Pa・sになるまで紫外線を照射して重合を行い、プレポリマー組成物1(重合率;約9%)を得た。
【0130】
<プレポリマー組成物2>
プレポリマー形成用モノマー成分を、アクリル酸2-エチルヘキシル(2EHA):68重量部、NVP17重量部、およびアクリル酸4-ヒドロキシブチル(4HBA):17量部に変更し、上記と同様に重合を行い、プレポリマー組成物2を得た。
【0131】
[光硬化性粘着剤組成物の調製]
<粘着剤組成物A>
上記のプレポリマー組成物1:100重量部に、重量平均分子量12500のポリエステルウレタンジアクリレート(根上工業製「アートレジン UN‐350」):2重量部;上記のアクリルオリゴマー:5重量部;光重合開始剤として、「イルガキュア184」:0.05重量部、および「イルガキュア651」:0.55重量部;連鎖移動剤として、α‐メチルスチレン二量体(日油製「ノフマー MSD」):0.07重量部;ならびにシランカップリング剤として信越化学製「KBM-403」:0.3重量部を添加した後、これらを均一に混合して、粘着剤組成物Aを調製した。
【0132】
<粘着剤組成物B>
紫外線吸収剤(BASF製「Tinosorb S」):0.70重量部を添加したこと、ならびに光重合開始剤として、BASF製「イルガキュア184」:0.05重量部、BASF製「イルガキュア651」:0.05重量部、およびBASF製「イルガキュア819」:0.40重量部を配合した。これらの変更以外は、粘着剤組成物Aの調製と同様にして、粘着剤組成物Bを調製した。
【0133】
<粘着剤組成物C>
連鎖移動剤の配合量を0.03重量部に変更したこと以外は、粘着剤組成物Bの調製と同様にして、粘着剤組成物Cを調製した。
【0134】
<粘着剤組成物D>
多官能モノマーとして、ポリエステルウレタンジアクリレートに代えて、ヘキサンジオールジアクリレート(HDDA):0.1重量部を配合したこと以外は、粘着剤組成物Bの調製と同様にして、粘着剤組成物Dを調製した。
【0135】
<粘着剤組成物E>
上記のプレポリマー組成物2:100重量部に、HDDA:0.1重量部;上記のアクリルオリゴマー:5重量部;光重合開始剤として、「イルガキュア184」:0.04重量部、「イルガキュア651」:0.04重量部、および「イルガキュア819」:0.12重量部;ならびにシランカップリング剤0.3重量部を添加した後、これらを均一に混合して、粘着剤組成物Eを調製した。
【0136】
[粘着剤層の作製]
<粘着剤層A1>
表面にシリコーン系離型層が設けられた厚み75μmのポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムを基材として、基材上に上記の光硬化性粘着剤組成物を厚み150μmになるように塗布して塗布層を形成した。この塗布層上に、カバーシートとして片面がシリコーン剥離処理された厚み75μmのPETフィルムを貼り合わせた。この積層体に、カバーシート側から、ランプ直下の照射面における照射強度が5mW/cm2になるように位置調節したブラックライトにより、紫外線を照射して光硬化を行い、厚み220μm、重合率99%の粘着剤層A1を得た。
【0137】
<粘着剤層A2~A4>
粘着剤層の厚みを、150μm、100μm、70μmに変更したこと以外は、粘着剤層A1の作製と同様にして、粘着剤層A2,A3,A4を作製した。
【0138】
<粘着剤層B1~B4、C2,C3、D2,D3、E1~E3>
粘着剤組成物の種類および厚みを表1に示すように変更したこと以外は、粘着剤層A1の作製と同様にして、粘着剤層を作製した。
【0139】
[粘着剤層の評価]
上記の各粘着剤層について、下記の方法により、ガラス転移温度、貯蔵弾性率、損失正接、ゲル分率およびゾル分の分子量を測定した。
【0140】
<貯蔵弾性率、損失正接およびガラス転移温度>
表裏の離型フィルム(基材およびカバーシート)を剥離除去した粘着剤層を、厚みが約1.5mmとなるように複数積層したものを測定用サンプルとした。Rheometric Scientific社製「Advanced Rheometric Expansion System (ARES)」を用いて、以下の条件により、動的粘弾性測定を行った。
(測定条件)
変形モード:ねじり
測定周波数:1Hz
昇温速度:5℃/分
形状:パラレルプレート 7.9mmφ
【0141】
測定結果から、25℃における剪断貯蔵弾性率G’25℃、および70℃における損失正接tanδ70℃を読み取った。また、損失正接(tanδ)が極大となる温度(ピークトップ温度)を粘着剤層のガラス転移温度とした。
【0142】
<ゲル分率>
粘着剤層から約0.2gの粘着剤を掻き取り、100mm×100mmのサイズに切り出した細孔径0.2μmの多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜(日東電工製「NTF-1122」)で包み、包んだ口をタコ糸で縛った。この試料の重量から、予め測定しておいた多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜及びタコ糸の重量の合計(A)を差し引いて、粘着剤試料の重量(B)を算出した。多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜で包まれた粘着剤試料を、約50mLの酢酸エチル中に、23℃で7日間浸漬し、粘着剤のゾル成分を多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜外へ溶出させた。浸漬後、多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜で包まれた粘着剤を取出し、130℃で2時間乾燥させ、約20分間放冷した後、乾燥重量(C)を測定した。粘着剤のゲル分率は、次式により算出した。
ゲル分率(%)=100×(C-A)/B
【0143】
<ゾル分の重量平均分子量>
粘着剤層から約0.2gの粘着剤を掻き取り、10mMのリン酸テトラヒドロフラン溶液に12時間浸漬してゾル分を抽出した。リン酸テトラヒドロフラン溶液の量は、粘着剤のゲル分率を考慮して、抽出後の溶液のゾル分含有量が0.1重量%になるように調整した。抽出後の溶液を0.45μmのメンブレンフィルターにて濾過した濾液を試料として、東ソー製のGPC(ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー)装置(製品名「HLC-8120GPC」)により、下記の条件でGPC分析を行い、ゾル分の重量平均分子量Mwを算出した。
(測定条件)
カラム:東ソー社製、G7000HXL+GMHXL+GMHXL
カラムサイズ:各7.8mmφ×30cm(合計カラム長さ:90cm)
カラム温度:40℃・流量:0.8mL/min
注入量:100μL
溶離液:テトラヒドロフラン
検出器:示差屈折計(RI)
標準試料:ポリスチレン
【0144】
各粘着剤層(粘着剤組成物)の組成、および厚み、ならびに評価結果を表1に示す。
【0145】
【0146】
[実施例1]
厚み50μmの環状オレフィンポリマー(COP)フィルム(日本ゼオン製「ゼオノアフィルムZF16」;正面レターデーション3nm)の一方の主面に第一粘着剤層として粘着剤層A2を貼り合わせ、他方の主面に第二粘着剤層として粘着剤層A3を貼り合わせ、フィルム基材の両面に粘着剤層が積層されたフィルム基材付き両面粘着シートを作製した。
【0147】
[実施例2]
フィルム基材として厚み50μmの二軸延伸ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム(東レ製「ルミラー S10」;正面レターデーション920nm)を用いたこと以外は実施例1と同様にして、フィルム基材付き両面粘着シートを作製した。
【0148】
[実施例3~9、比較例3~5]
フィルム基材の種類および粘着剤層の種類を表2に示すように変更して、フィルム基材付き両面粘着シートを作製した。
【0149】
[比較例1,2,6,7]
単層の粘着剤層A1,B1,E1,E3を、基材レス粘着シートとして用いた。
【0150】
[評価]
実施例および比較例の粘着シートについて、下記の方法により、接着力、段差吸収性、落下衝撃耐久性および押し跡の評価を実施した。
【0151】
<接着力>
第二粘着剤層から剥離フィルムを剥離して、厚み50μmのPETフィルムを貼り合わせ、幅10mm×長さ100mmにカットした後、第一粘着剤層から剥離フィルムを剥離して、5kgのローラでガラス板に圧着して接着力測定用試料を作製した。基材レスの単層の粘着シートを用いた比較例1,2,6,7では、一方の面の離型フィルムを剥離してPETフィルムを貼り合わせた後、他方の面の離型フィルムを剥離してガラス板を貼り合わせた(以降の他の評価においても同様)。
【0152】
接着力測定用試料を、25℃の環境下で30分間保持した後、引張試験機を用いて、引張速度300mm/分、剥離角度180°の条件でガラス板から試験片を剥離して、剥離力を測定した。
【0153】
<ヘイズ>
第二粘着剤層から離型フィルムを剥離して厚み800μmの無アルカリガラス(全光線透過率92%、ヘイズ0.4%)に貼り合わせた後、第一粘着剤層から離型フィルムを剥離したものを試験片として、ヘイズメータ(村上色彩技術研究所製「HM-150」)を用いて、ヘイズを測定した。測定値から無アルカリガラスのヘイズ(0.4%)を差引いた値を粘着シートのヘイズとした。
【0154】
<段差吸収性>
粘着シートを75mm×45mmのサイズに切り出し、第二粘着剤層から離型フィルムを剥離して、100mm×50mmに切り出した厚み125μmのPETフィルムの中央にロールラミネータ(ロール間圧力:0.2MPa、送り速度:100mm/分)により貼り合わせた。その後、第一粘着剤層から離型フィルムを剥離して、黒色インク(印刷厚み:25μmまたは40μm)が周縁部に枠状に印刷された厚み500μmのガラス板(100mm×50mm)を、ロールラミネータ(ロール間圧力:0.2MPa、送り速度:100mm/分)により貼り合わせた。ガラス板のインク印刷領域は、短辺方向が両端から5mm、長辺方向が両端から15mmであり、粘着シートの4辺の端から5mmの領域に、黒色インク層が接していた。この試料を、オートクレーブ(50℃、0.5MPa)で30分処理した後、黒色インクの印刷領域の境界付近を、倍率20倍のデジタルマイクロスコープで観察して、気泡の有無を確認した。黒色インクの印刷厚み25μmおよび40μmのそれぞれの試料について、下記の基準により、段差吸収性を評価した。
◎:全周にわたって気泡の発生がみられなかったもの
〇:4つの角のうち1か所に気泡がみられたが、4つの辺のいずれにも気泡の発生がみられなかったもの
×:4つの角のうち2か所以上、または4つの辺のうち1つ以上に気泡がみられたもの
【0155】
<耐衝撃性>
粘着シートを75mm×45mmのサイズに切り出し、第二粘着剤層から離型フィルムを剥離して、厚み500μmのガラス板(100mm×70mm)の中央にロールラミネータ(ロール間圧力:0.2MPa、送り速度:100mm/分)により貼り合わせた。その後、第一粘着剤層から離型フィルムを剥離して、厚み30μmの黒色インクが周縁部に枠状に印刷された厚み500μmのガラス板(50mm×100mm)を、真空圧着(面圧0.3MPa,圧力100Pa)により貼り合わせた。ガラス板のインク印刷領域は、短辺方向が両端から5mm、長辺方向が両端から15mmであり、粘着シートの4辺の端から5mmの領域に、黒色インク層が接していた。この試料を、オートクレーブ(50℃、0.5MPa)で30分処理した。
【0156】
図5に示すように、印刷層76が設けられたガラス板7が下側となるように、試験用試料85の短辺方向の両端を、60mmの間隔を隔てて配置された台83の上に載置し、印刷層が設けられていないガラス板8の端部の上面を台83の上に粘着テープ(不図示)で固定した。台83の上に粘着テープで固定した試験用試料85を、-5℃の環境下で24時間保持した後、室温に取り出してから40秒以内に、ガラス板7上に質量11gの金属球87を300mmの高さから落下させて、耐衝撃性試験を行った。
【0157】
耐衝撃性試験では、金属球の落下位置を一定とするために筒状のガイド89を用い、印刷層76の印刷領域の枠の内縁の角から短辺方向および長辺方向のそれぞれに10mm隔てた位置に、金属球87を落下させた。2回の試験を行い、いずれの試験においても、ガラス板の剥がれが生じなかったものを〇,2回のいずれか一方または両方でガラス板の剥がれが生じたものを×とした。
【0158】
<押し跡試験>
第二粘着剤層から離型フィルムを剥離して厚み50μmのPETフィルムにロールラミネータ(ロール間圧力:0.2MPa、送り速度:100mm/分)により貼り合わせた。その後、第一粘着剤層から離型フィルムを剥離して、厚み500μmのガラス板にロールラミネータ(ロール間圧力:0.2MPa、送り速度:100mm/分)により貼り合わせた。この試料を、オートクレーブ(50℃、0.5MPa)で30分処理した。
【0159】
ダイプラ・ウィンテス製のSAICASにより、上記の試料のPETフィルム側の面から、直径1mmの鋼球圧子を、押し込み速度5μm/sで垂直荷重が1Nとなるまで押し込み、180秒保持した後、速度5μm/sで圧子を引き上げた。試験から6時間後に、非接触式干渉顕微鏡(WYKO)によりPETフィルムの表面形状を測定し、試料の押し跡の深さを求め、下記の基準により評価した。
◎:押し跡の深さが3μm以下
〇:押し跡の深さが3μmより大きく4μm以下
×:押し跡の深さが4μmより大きい
【0160】
[評価結果]
各粘着シートの積層構成および評価結果を表1および表2に示す。表2の第一粘着剤層、フィルム基材および第二粘着剤層の括弧内の数値は、各層の厚み(単位:μm)である。
【0161】
【0162】
透明フィルム基材の視認側に相対的に厚みの大きい粘着剤層を設け、透明フィルム基材の画像表示パネル側に相対的に厚みの小さい粘着剤層を設けた実施例1~4の基材付き両面粘着シートは、段差吸収性に優れ、かつ第二粘着剤層側から圧子を押し込んだ際の変形による押し跡の残存が少なく、良好な特性を示した。一方、厚み220μmの粘着剤層A1からなる比較例1の基材レス両面粘着シートは、段差吸収性は良好であったが、粘着剤層に圧子を押し込んだ際の変形による押し跡が残存しやすく、押し跡不良が生じていた。
【0163】
粘着剤の組成を変更した実施例5,6と比較例2との対比、および実施例9と比較例6との対比においても、同様の傾向がみられた。粘着剤の組成を変更した実施例7および実施例8においても、他の実施例と同様、段差吸収性に優れ、かつ押し跡が残存し難く、良好な特性を示した。
【0164】
フィルム基材の一方の主面に第二粘着剤層として厚み220μmの粘着剤層B1を設け、フィルム基材の他方の主面に第一粘着剤層として相対的に厚みの小さい粘着剤層B2,B3,B4を設けた比較例3~5の基材付き両面粘着シートは、粘着剤層B2からなる比較例2の基材レス粘着シートと同様、押し跡不良が生じていた。
【0165】
厚み100μmの粘着剤層E3からなる比較例7の基材レス粘着シートは、押し跡試験の結果は良好であったが、粘着シートの厚みが小さいために、段差吸収性が劣っていた。
【0166】
以上の結果から、透明フィルム基材の視認側に第一粘着剤層として相対的に厚みの大きい粘着剤層を備え、透明フィルム基材の画像表示パネル側に第二粘着剤層として相対的に厚みの小さい粘着剤層を備える基材付き両面粘着シートを用いることにより、前面透明板の印刷段差に対する段差吸収性に優れ、かつ画像表示パネル側からの押圧による押し跡に起因する不良を抑制できることが分かる。
【符号の説明】
【0167】
51,53 粘着剤層
21,23 離型フィルム
59 透明フィルム基材
15 基材付き両面粘着シート
3 光学フィルム(偏光板)
4 粘着剤層
6 画像表示セル
10 画像表示パネル
7 前面透明板
9 補強用基板
95 FPC
91 メイン基板
92 接続部(コネクタ)
201 画像表示装置