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特許7555716電極用触媒、ガス拡散電極形成用組成物、ガス拡散電極、膜・電極接合体、及び、燃料電池スタック
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-13
(45)【発行日】2024-09-25
(54)【発明の名称】電極用触媒、ガス拡散電極形成用組成物、ガス拡散電極、膜・電極接合体、及び、燃料電池スタック
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/86 20060101AFI20240917BHJP
   H01M 4/90 20060101ALI20240917BHJP
   H01M 4/92 20060101ALI20240917BHJP
   H01M 4/96 20060101ALI20240917BHJP
   H01M 8/10 20160101ALN20240917BHJP
【FI】
H01M4/86 M
H01M4/86 B
H01M4/90 M
H01M4/92
H01M4/90 B
H01M4/96 M
H01M8/10 101
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2020051422
(22)【出願日】2020-03-23
(65)【公開番号】P2021150249
(43)【公開日】2021-09-27
【審査請求日】2023-02-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000228198
【氏名又は名称】エヌ・イーケムキャット株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001885
【氏名又は名称】弁理士法人IPRコンサルタント
(72)【発明者】
【氏名】中村 匠
(72)【発明者】
【氏名】和田 佳之
(72)【発明者】
【氏名】水崎 智照
(72)【発明者】
【氏名】永森 聖崇
(72)【発明者】
【氏名】関 安宏
(72)【発明者】
【氏名】椎名 博紀
【審査官】川口 由紀子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/221168(WO,A1)
【文献】特開2011-016125(JP,A)
【文献】国際公開第2018/194008(WO,A1)
【文献】特開2020-021610(JP,A)
【文献】特開2006-253145(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2019-0009584(KR,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/86
H01M 4/90
H01M 4/92
H01M 4/96
H01M 8/10
C25B 1/04
B01J 27/13
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
細孔径が2~50nmのメソ孔を有する中空カーボン担体と、前記担体上に担持される複数のPtNi合金の触媒粒子と、を含む電極用触媒であって
前記触媒粒子は、前記担体の前記メソ孔の内部と前記メソ孔の外部の両方に担持されており、
STEM(走査型透過電子顕微鏡)を用いた電子線トモグラフィー計測により得られる三次元再構成画像を利用した前記触媒粒子の体積より算出した球相当径に基づく粒子径分布の解析を実施した場合に、前記メソ孔の内部に担持された前記触媒粒子の割合が50%以上であり、
前記触媒粒子の表面の少なくとも一部がNi酸化物被膜により被覆されている、
電極用触媒。
【請求項2】
STEM(走査型透過電子顕微鏡)を用いた電子線トモグラフィー計測により得られる三次元再構成画像を利用した前記触媒粒子の体積より算出した球相当径に基づく粒子径分布の解析を実施した場合に、前記メソ孔の内部に担持された前記触媒粒子の割合が60%以上である、
請求項1に記載の電極用触媒。
【請求項3】
STEM(走査型透過電子顕微鏡)を用いた電子線トモグラフィー計測により得られる三次元再構成画像を利用した前記触媒粒子の粒子径分布の解析を実施した場合に、下記式(1)及び(2)の条件を同時に満たしている、請求項1又は2に記載の電極用触媒。
D1<D2・・・(1)
(N1/N2)>1.0・・・(2)
[前記式(1)及び前記式(2)中、
D1は前記担体の前記メソ孔の内部に担持された前記触媒粒子のうち最大頻度を示す粒子の球相当径を示し、
D2は前記担体の前記メソ孔の外部に担持された前記触媒粒子のうち最大頻度を示す粒子球相当径を示し、
N1は前記担体の前記メソ孔の内部に担持された前記触媒粒子のうち最大頻度を示す粒子の頻度を示し、
N2は前記担体の前記メソ孔の外部に担持された前記触媒粒子のうち最大頻度を示す粒子の頻度を示す。]
【請求項4】
前記触媒粒子の表面の少なくとも一部がPt酸化物被膜により被覆されている、
請求項1~3のうちの何れか1項に記載の電極用触媒。
【請求項5】
更にPt(0価)からなる第2の触媒粒子が含まれている、
請求項1~4のうちの何れか1項に記載の電極用触媒。
【請求項6】
更にNi(0価)からなる第3の触媒粒子が含まれている、
請求項1~4のうちの何れか1項に記載の電極用触媒。
【請求項7】
前記中空カーボン担体のBET比表面積(窒素吸着比表面積)が750~850m/gである、
請求項に記載の電極用触媒。
【請求項8】
請求項1~のうちの何れか1項に記載の電極用触媒が10wt%以上含有されている、
電極用触媒の粉体。
【請求項9】
請求項1~のうちの何れか1項に記載の電極用触媒が含有されている、
ガス拡散電極形成用組成物。
【請求項10】
請求項1~のうちの何れか1項に記載の電極用触媒が含有されているガス拡散電極。
【請求項11】
請求項10記載のガス拡散電極が含まれている、膜・電極接合体(MEA)。
【請求項12】
請求項11記載の膜・電極接合体(MEA)が含まれている、燃料電池スタック。
【請求項13】
細孔径が2~50nmのメソ孔を有する中空カーボン担体と、前記担体上に担持される複数のPtNi合金の触媒粒子と、を含む電極用触媒であって
前記触媒粒子は、前記担体の前記メソ孔の内部と前記メソ孔の外部の両方に担持されており、
STEM(走査型透過電子顕微鏡)を用いた電子線トモグラフィー計測により得られる三次元再構成画像を利用した前記触媒粒子の体積より算出した球相当径に基づく粒子径分布の解析を実施した場合に、前記メソ孔の内部に担持された前記触媒粒子の割合が50%以上であり、
更にPt(0価)からなる第2の触媒粒子が含まれている、
電極用触媒。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コアシェル構造を有する電極用触媒に関する。より詳しくは、ガス拡散電極に好適に使用される電極用触媒に関し、燃料電池のガス拡散電極により好適に使用される電極用触媒に関する。
また本発明は、上記電極用触媒粒子を含む、ガス拡散電極形成用組成物、膜・電極接合体、及び、燃料電池スタックに関する。
【背景技術】
【0002】
固体高分子形燃料電池(Polymer Electrolyte Fuel Cell:以下、必要に応じて「PEFC」という)は、燃料電池自動車、家庭用コジェネレーションシステムの電源としての研究開発が行われている。
PEFCのガス拡散電極に使用される触媒には、白金(Pt)等の白金族元素の貴金属粒子からなる貴金属触媒が用いられている。
【0003】
例えば、典型的な従来の触媒としては、導電性カーボン粉末上にPt微粒子を担持させた触媒粒子の粉体である「Pt担持カーボン触媒」(以下、必要に応じ「Pt/C触媒」という)が知られている。
PEFCの製造コストの中でPt等の貴金属触媒が占めるコストの割合は大きく、PEFCの低コスト化、PEFCの普及に向けた課題になっている。
これらの研究開発の中で、白金の使用量を低減するため、従来、非白金元素からなるコア部とPtからなるシェル部から形成されるコアシェル構造を有する触媒粒子(以下、必要に応じ「コアシェル触媒粒子」という)の粉体(以下、必要に応じ「コアシェル触媒」という)が検討されており、多数の報告がなされている。
【0004】
例えば、特許文献1には、パラジウム(Pd)又はPd合金(コア部に相当)がPt原子の原子的薄層(シェル部に相当)によって被覆された構成を有する粒子複合材(コアシェル触媒粒子に相当)が開示されている。更に、この特許文献1には、実施例としてコア部がPd粒子で、シェル部がPtからなる層の構成を有するコアシェル触媒粒子が記載されている。
一方、電極用触媒の担体としては、内部に細孔を多く有する中空カーボン、当該中空カーボンと比較して内部の細孔が少ない中実カーボンがあり、それぞれの特徴を活かした性能向上のための検討がなされている。
【0005】
例えば、特許文献2には、担体として中空カーボンを採用した検討例が開示されている。また、特許文献3には、担体として中実カーボンを採用した検討例が開示されている。
例えば、特許文献2では、図10に示すように、平均粒子径が20~100nmである多孔質担体(中空カーボン)220の空孔直径4~20nmの空孔(一次空孔、メソ孔)P220の空孔容積と空孔分布のモード径とが所定範囲に制御され、当該担体220の一次空孔(メソ孔)P220内に触媒粒子230が担持された電極用触媒200の構成が開示されている。
特許文献2では、これにより、一次空孔(メソ孔)P220内に存在する触媒粒子230表面への高分子電解質の吸着が防止され、触媒の有効反応表面積の低下を防止しつつ、ガス輸送性を十分に確保することが可能となることが言及されている。更にその結果、触媒重量あたりの活性が向上し、触媒量を低減した場合であっても、優れた発電性能を示す燃料電池用触媒層が提供されうると言及されている。
【0006】
また、例えば、特許文献3では、中実カーボン担体と、当該担体に担持された白金とコバルトとの合金とを含む触媒粒子とを有する燃料電池向けの電極用触媒(PtCo/C触媒)が開示されている。この電極用触媒は合金における白金とコバルトとのモル比が4~11:1であり、70~90℃で酸処理されている。
特許文献3では、中空カーボン担体にPtCo合金を担持すると、一部のPtCo合金が中空カーボン担体の内部に包含されることになり、Coの溶出を抑制するための酸処理を行っても、担体内部に存在するPtCo合金を十分に処理することは困難とり、その結果、担体内部に存在するPtCo合金からCoが溶出しやすくなることが課題視されている。
そこで、特許文献3では、中空カーボン担体の代わりに中実カーボン担体を使用することにより、担体内部にPtCo合金が包含されることを回避できることが言及されている。更に。これにより、PtCo合金を十分に酸処理することが可能となり、Coの溶出を抑制することができることが開示されている。その結果、燃料電池の初期性能及び耐久性能を両立することが可能となるということが言及されている。
【0007】
ここで、特許文献3では、中実カーボンを以下のように定義している。
即ち、特許文献3においては、中実カーボンとは、中空カーボンと比較して、カーボン内部の空隙が少ないカーボンであり、具体的は、N2吸着によって求められるBET表面積とt-Pot(粒子サイズから粒子外部の表面積を算出した)による外表面積との比率(t-Pot表面積/BET表面積)が40%以上あるカーボンであるということが言及されている。
なお、特許文献3に記載の「t-Pot表面積」とは、例えば、「MCエバテック社」が2019年2月1日付けでインターネット上に公開している技術レポート「t-plot法によるミクロ細孔表面積の解析」に記載されている「tープロット(t-plot)表面積」を示すものと解される。t-plot法によるミクロ細孔表面積の解析は、窒素の吸着等温線(吸着温度:77K)から解析する方法の一つである。この方法は、吸着等温線のデータを標準等温線と比較・変換して、吸着層の厚みtと吸着量の関係をグラフにする方法である。比表面積を細孔の内部と外部に分離して数値化できることに加えて、グラフの形状から細孔の傾向を知ることができる。
また、中実カーボンの例としては、例えば、特許第4362116号に記載のカーボンを挙げることができ、具体的には、電気化学工業株式会社製のデンカブラック(登録商標)等を挙げることができることが開示されている。
【0008】
更に、特許文献4には、触媒粒子を中空カーボン担体のメソ孔の内部と外部との両方に担持させた電極用触媒(コアシェル触媒)が開示されている。この電極用触媒は、STEM(走査型透過電子顕微鏡)を用いた電子線トモグラフィー計測により得られる三次元再構成画像を利用した触媒粒子の粒子径分布の解析を実施した場合に、メソ孔の内部に担持された触媒粒子の割合が50%以上となる構成を有している。
なお、下記の非特許文献1及び非特許文献2には中空カーボン担体に担持された触媒粒子について、細孔の内部に担持された触媒粒子の割合と細孔の外部に担持された触媒粒子の割合とを上述の特許文献4と異なる方法で解析した例が開示されている。
より詳しく説明すると、非特許文献1において、Strasserらベルリン工科大学のグループは、市販の中空カーボン(商品名:「ketjenblack EC-300J」、Akzo Nobel社製、比表面積:約839 m2 g-1)にPt粒子を高分散させたPt/C触媒について、着目した特定のPt/C触媒粒子のSEM(Scanning Electron Microscopy)像とTSEM(Transmission SEM)像を同一の測定エリアで同時に撮影した結果を報告している。例えば、非特許文献1の表1、図2及びP.79右欄を参照。
【0009】
彼らの方法では、SEM像からは中空カーボン担体粒子の外表面のうち観察した部分(片側の外表面)だけに存在するPt粒子の情報が得られる。即ち、中空カーボン担体粒子の外部に担持された触媒粒子の粒子数の情報が得られる。一方、TSEM像(透過像)からは、観察したPt/C触媒粒子において中空カーボン担体粒子の外部及び内部に担持された全ての触媒粒子(Pt粒子)の情報が得られる。そして、彼らは、TSEM像からの情報とSEM像からの情報から、中空カーボン担体粒子に担持されたPt粒子のうち、外表面に担持されたPt粒子と、内部に担持されたPt粒子とを区別する試みを実施している。
ここで彼らは、SEM像について、中空カーボン担体粒子の外表面のうち観察した部分(「片側の外表面」)に対する「反対側の裏表面」の測定を実施していない。彼らは、「片側の外表面」の状態と「反対側の裏表面」の状態とが同一の状態と仮定している。即ち、「片側の外表面」に担持された触媒粒子の粒子数と「反対側の裏表面」に担持された触媒粒子の粒子数が同一と仮定している。
【0010】
次に 非特許文献2において、内田氏ら山梨大のグループは、Pt/C触媒粒子のSEM像及びTEM(transmission electron microscopy)像を撮影できるSTEM(Scanning Transmission Electron Microscope)装置を使い、市販の中空カーボン(商品名:「Ketjenblack」、 Ketjen Black International社製、比表面積:約875 m2 g-1)にPt粒子を高分散させたPt/C触媒を撮影した結果を報告している。例えば、非特許文献2の図1、表2及びP.181右下欄を参照。
彼らは、まず、着目した特定のPt/C触媒粒子のTEM像から中空カーボン担体粒子に担持された全てのPt粒子の粒子数の情報を取得している。次に、彼らは、TEM像で撮影したものと同一のPt/C触媒粒子のSEM像の測定から中空カーボン担体粒子の裏側の表面のみに存在するPt粒子の粒子数の情報を取得している。次に、彼らは特殊な3Dサンプルホルダーを使い、着目した特定のPt/C触媒粒子(測定サンプル)を正確に180℃回転させることで、同一のPt/C触媒粒子の裏表面のみのSEM像を測定している。これらの情報を使用して中空カーボン担体粒子に担持されたPt粒子のうち、外表面に担持されたPt粒子と、内部に担持されたPt粒子とを区別する試みを実施している。
この方法で測定した「内部担持率」=「100×(内部に担持されたPt粒子数)/(全Pt粒子数)」について、彼らは、市販の30wt%Pt/C触媒(商品名:「TEC10E30E」、田中金属工業社製、当該明細書中では「c-Pt/CB,」と表記)では62%、市販の46wt%Pt/C触媒(商品名:「TEC10E50E」、田中金属工業社製、当該明細書中では「Pt/CB」と表記)では50%以上であったと報告している。
【0011】
以上説明したように、非特許文献1及び非特許文献2の解析手法は特許文献4の解析手法と以下の点で異なると本発明者らは認識している。即ち、特許文献4の電子線トモグラフィー計測による解析手法は、電子顕微鏡を用いた3次元再構成法であり、測定サンプルの同一視野を様々な方向から投影された電子顕微鏡像をコンピュータの中で三次元像に再構成し、コンピュータを使って断層像(トモグラム)を作成する手法である。
一方、非特許文献1の解析手法は、測定サンプルを特定の1方向から撮影したSEM像とTSEM像といった2次元の画像を使用した解析をしている。また、非特許文献2の解析手法は、測定サンプルを特定の2方向(サンプルホルダー180℃回転させることで得られる2方向)から撮影したSEM像と、測定サンプルを特定の1方向から撮影したTSEM像といった2次元の画像を使用した解析をしている。これらの非特許文献1及び非特許文献2の解析手法では、例えば、測定サンプル(電極用触媒粒子)に凹凸がある場合など、触媒粒子の中に、その担持位置が中空カーボン担体上の内部にあるのか外部にあるのか十分に判定できないものが存在する可能性が高くなる。
特許文献4の解析手法は、測定サンプルの3次元の断層像(トモグラム)を使用し、これを様々な報告から観察できるので、測定サンプルの電極用触媒粒子に含まれる触媒粒子の担体上の担持位置を視覚的に確認しながらより正確に把握することができる。
なお、本件特許出願人は、上記文献公知発明が記載された刊行物として、以下の刊行物を提示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【文献】米国特許出願公開第2007/31722号公報
【文献】特開2013-109856号公報
【文献】WO2016/063968号公報
【文献】WO2019/221168号公報
【非特許文献】
【0013】
【文献】Nature Materials Vol 19 (January 2020)77-85
【文献】Journal of Power Sources 315(2016)179-191
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
PEFCの普及に向けて、電極触媒はPt使用量の低減及び材料コスト低減を図るために触媒活性の更なる向上が求められている。
本発明者らは、PtNi合金の粒子がカーボン担体に担持されたPtNi/C触媒について、STEM(走査型透過電子顕微鏡)を用いた電子線トモグラフィー計測により得られる三次元再構成画像を利用した触媒粒子の粒子径分布の解析を実施した場合に、触媒粒子が中空カーボンのメソ孔の外部よりも内部に多く担持された構成有する改良品を実際に合成できた報告はこれまでになく、未だ改善の余地があることを本発明者らは見出した。
本発明は、かかる技術的事情に鑑みてなされたものであって、PEFCの低コスト化に寄与できる優れた触媒活性を有する電極用触媒(PtNi/C触媒)を提供することを目的とする。
また、本発明は、上記電極用触媒を含む、ガス拡散電極形成用組成物、ガス拡散電極、膜・電極接合体(MEA)、及び、燃料電池スタックを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本件発明者等は、PtNi/C触媒の触媒粒子が中空カーボンのメソ孔内に数多く担持された電極用触媒の構成について、触媒活性の更なる向上を実現する構成について鋭意検討を行った。
その結果、触媒粒子が下記の条件を満たすように担体に担持されていることが触媒活性の向上に有効であることを見出し、本発明を完成するに至った。
より具体的には、本発明は、以下の技術的事項から構成される。
【0016】
即ち、本発明は、
細孔径が2~50nmのメソ孔を有する中空カーボン担体と、前記担体上に担持される複数の触媒粒子と、を含んでおり、
前記触媒粒子がPtNi合金を含んでおり、
前記触媒粒子は、前記担体の前記メソ孔の内部と前記メソ孔の外部の両方に担持されており、
STEM(走査型透過電子顕微鏡)を用いた電子線トモグラフィー計測により得られる三次元再構成画像を利用した前記触媒粒子の粒子径分布の解析を実施した場合に、前記メソ孔の内部に担持された前記触媒粒子の割合が50%以上である、
電極用触媒を提供する。
【0017】
上記のようにメソ孔の内部に担持された触媒粒子の割合が50%以上であるという条件を満たすように中空カーボン担体へPtNi/C触媒の触媒粒子を担持することにより、本発明の電極用触媒はPEFCの低コスト化に寄与できる優れた触媒活性を発揮することができる。
本発明の電極用触媒が優れた触媒活性を有することについて詳細な理由は十分に解明されていない。
しかし、本発明者らは、以下のように考えている。即ち、メソ孔の内部に担持された触媒粒子の割合が50%以上であるPtNi/C触媒は、従来の電極用触媒に比較して、担体のメソ孔の内部に活性の高い触媒粒子が比較的小さな粒子径で数多く存在することになる。
このような担体のメソ孔の内部に担持された触媒粒子は、触媒層内に存在する高分子電解質に直接接触しにくい状態で担体に担持されている。そのため、本発明の電極用触媒はPt成分の被毒による触媒活性の低下が低減され、従来の電極用触媒に比較して電極化された際に優れた触媒活性を発揮できる。また本発明の電極用触媒はPt成分及びNi成分の溶解も低減される。
更に、本発明の電極用触媒においては、本発明の効果をより確実に得る観点から、STEM(走査型透過電子顕微鏡)を用いた電子線トモグラフィー計測により得られる三次元再構成画像を利用した前記触媒粒子の粒子径分布の解析を実施した場合に、前記メソ孔の内部に担持された前記触媒粒子の割合が60%以上であることが好ましい。
【0018】
更に、本発明の電極用触媒においては、本発明の効果を更に確実に得る観点から、STEM(走査型透過電子顕微鏡)を用いた電子線トモグラフィー計測により得られる三次元再構成画像を利用した前記触媒粒子の粒子径分布の解析を実施した場合に、下記式(1)及び(2)の条件を同時に満たしている、ことが好ましい。
D1<D2・・・(1)
(N1/N2)>1.0・・・(2)
ここで、前記式(1)及び前記式(2)中、D1は前記担体の前記メソ孔の内部に担持された前記触媒粒子のうち最大頻度を示す粒子の球相当径を示す。前記式(1)及び前記式(2)中、D2は前記担体の前記メソ孔の外部に担持された前記触媒粒子のうち最大頻度を示す粒子球相当径を示す。
また、前記式(1)及び前記式(2)中、N1は前記担体の前記メソ孔の内部に担持された前記触媒粒子のうち最大頻度を示す粒子の頻度を示す。前記式(1)及び前記式(2)中、N2は前記担体の前記メソ孔の外部に担持された前記触媒粒子のうち最大頻度を示す粒子の頻度を示す。
【0019】
上述の式(1)及び式(2)の条件を同時に満たすように中空カーボン担体へコアシェル触媒の触媒粒子を担持することにより、本発明の電極用触媒はPEFCの低コスト化に寄与できる優れた触媒活性をより確実に発揮することができる。
ここで、本発明において「中空カーボン」とは、先に述べた中実カーボンと比較してカーボンの内部の空隙が多いカーボンであり、IUPACで定義されている細孔径が2~50nmのメソ孔を有する導電性カーボンを示す。
【0020】
更に、本発明の電極用触媒においては、触媒粒子が優れた触媒活性を発揮しうる範囲で、触媒粒子の表面の少なくとも一部がPt酸化物被膜により被覆されていてもよい。
また、本発明の電極用触媒においては、触媒粒子が優れた触媒活性を発揮しうる範囲で、触媒粒子の表面の少なくとも一部がNi酸化物被膜により被覆されていてもよい。
更に、本発明の電極用触媒においては、本発明の効果を得られる範囲で、Pt(0価)からなる第2の触媒粒子が含まれていてもよい。
また、本発明の電極用触媒においては、本発明の効果を得られる範囲で、Ni(0価)からなる第3の触媒粒子が含まれていてもよい。
また、本発明の効果をより確実に得る観点から、本発明の電極用触媒においては、中空カーボン担体がケッチェンブラックEC300Jであることが好ましい。
また、本発明においては、この場合、中空カーボン担体(ケッチェンブラックEC300J)のBET比表面積(窒素吸着比表面積)が750~850m/gであることが好ましい。
【0021】
また、本発明は、上述の本発明の電極用触媒が10wt%以上含有されている、電極用触媒の粉体を提供する。
なお、電極用触媒の粉体において、「上述の本発明の電極用触媒以外の含有成分」は、「上述の本発明の電極用触媒以外の電極用触媒」である。すなわち、本発明の電極用触媒の粉体には電極用触媒として機能しない粉体は含まれない。
本発明の電極用触媒の粉体には、上述の本発明の電極用触媒を含んでいるので、PEFCの低コスト化に寄与できる優れた触媒活性を発揮することができる。
ここで、本発明の効果をより確実に得る観点から、本発明の電極用触媒の粉体中における上述の本発明の電極用触媒の含有割合は30wt%以上であることが好ましく、50wt%以上であることがより好ましく、70wt%以上であることが更に好ましく、90wt%以上であることが最も好ましい。
本発明の電極用触媒の粉体には、上述の本発明の電極用触媒以外に、以下の構成の電極用触媒(便宜上、「電極用触媒P」という)が含まれていてもよい。
【0022】
すなわち、電極用触媒Pは、細孔径が2~50nmのメソ孔を有する中空カーボン担体と、この担体上に担持される複数の触媒粒子と、を含んでおり、
当該触媒粒子がPtNi合金を含んでおり、
当該触媒粒子は、前記担体の前記メソ孔の内部と前記メソ孔の外部の両方に担持されており、
STEM(走査型透過電子顕微鏡)を用いた電子線トモグラフィー計測により得られる三次元再構成画像を利用した前記触媒粒子の粒子径分布の解析を実施した場合に、前記メソ孔の内部に担持された前記触媒粒子の割合が「50%未満」である構成を有している。
本発明の電極用触媒の粉体は、上述の本発明の電極用触媒と、電極用触媒Pとからなっていてもよい。
この場合にも、本発明の効果をより確実に得る観点から、本発明の電極用触媒の粉体中における上述の本発明の電極用触媒の含有割合は30wt%以上であることが好ましく、50wt%以上であることがより好ましく、70wt%以上であることが更に好ましく、90wt%以上であることが最も好ましい。
【0023】
更に、本発明は、上述の本発明の電極用触媒が含有されている、ガス拡散電極形成用組
成物を提供する。
本発明のガス拡散電極形成用組成物は、本発明の電極用触媒を含んでいるため、PEF
Cの低コスト化に寄与できる優れた触媒活性(分極特性)を有するガス拡散電極を容易に
製造することができる。
【0024】
また、本発明は上述の本発明の電極用触媒が含有されているガス拡散電極を提供する。
本発明のガス拡散電極は、本発明の電極用触媒を含んで構成されている。そのため、P
EFCの低コスト化に寄与できる優れた触媒活性(分極特性)を有する構成とすることが
容易となる。
【0025】
更に、本発明は、上述の本発明のガス拡散電極が含まれている、膜・電極接合体(ME
A)を提供する。
本発明の膜・電極接合体(MEA)は、本発明のガス拡散電極を含んでいるため、PE
FCの低コスト化に寄与できる電池特性を有する構成とすることが容易となる。
【0026】
また、本発明は、上述の本発明の膜・電極接合体(MEA)が含まれていることを特徴
とする燃料電池スタックを提供する。
本発明の燃料電池スタックによれば、本発明の膜・電極接合体(MEA)を含んでいる
ことから、PEFCの低コスト化に寄与できる電池特性を有する構成とすることが容易と
なる。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、PEFCの低コスト化に寄与できる優れた触媒活性を有する電極用触
媒が提供される。
また、本発明によれば、かかる電極用触媒を含む、ガス拡散電極形成用組成物、ガス拡
散電極、膜・電極接合体(MEA)、燃料電池スタックが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1】本発明のMEAの好適な一形態を示す模式断面図である。
図2図1に示したMEAのカソード触媒層及びアノード触媒層のうちの少なくとも一方に含まれる本発明の電極用触媒の好適な一形態を示す模式断面図である。
図3図2に示した電極用触媒の概略構成を示す拡大模式断面図である。
図4】本発明のMEAの別の好適な一形態を示す模式断面図である。
図5】本発明のCCMの好適な一形態を示す模式断面図である。
図6】本発明のCCMの別の好適な一形態を示す模式断面図である。
図7】本発明のGDEの好適な一形態を示す模式断面図である。
図8】本発明のGDEの別の好適な一形態を示す模式断面図である。
図9】本発明の燃料電池スタックの好適な一実施形態を示す模式図である。
図10】従来の電極用触媒を示す模式断面図である。
図11】実施例1の電極用触媒のSTEMを用いた3D-電子線トモグラフィー計測条件(ボリュームサイズ)を示すSTEM像である。
図12】実施例1の触媒の3D-STEM像(三次元再構成像)である。
図13図12に示した実施例1の触媒の3D-STEM像の画像解析により得られた触媒粒子のうちの内部粒子の粒径分布を示すグラフである。
図14図12に示した実施例1の触媒の3D-STEM像の画像解析により得られた触媒粒子のうちの外部粒子の粒径分布を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、適宜図面を参照しながら、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。
【0030】
<膜・電極接合体(MEA)>
図1は、本発明のMEAの好適な一形態を示す模式断面図である。
図1に示すMEA10は、互いに対向した状態で配置された平板状の2つのガス拡散電極(カソード1及びアノード2)と、カソード1とアノード2との間に配置された高分子電解質膜(Polymer Electrolyte Membrane、以下、必要に応じて「PEM」という)3とを備えた構成を有している。
このMEA10の場合、カソード1及びアノード2のうちの少なくとも一方に後述するコアシェル触媒が含有された構成を有している。
MEA10は、カソード1、アノード2、及び、PEM3を図1に示すように積層させた後、圧着することにより製造することができる。
【0031】
<ガス拡散電極(GDE)>
ガス拡散電極であるカソード1は、ガス拡散層1gdと、ガス拡散層1gdのPEM3側の面に形成された触媒層1cと、を備えた構成を有している。更に、カソード1はガス拡散層1gdと触媒層1cとの間に配置された撥水層(Micro Porous Layer、以下、必要に応じて「MPL」という)1mを有している。
ガス拡散電極であるアノード2もカソード1と同様に、ガス拡散層2gdと、ガス拡散層2gdのPEM3側の面に形成された触媒層2cと、ガス拡散層2gdと触媒層2cとの間に配置されたMPL2mを備えた構成を有している。
【0032】
(触媒層(CL))
カソード1において、触媒層1cは、ガス拡散層1gdから送られる空気(酸素ガス)と、アノード2からPEM3中を移動してくる水素イオンとから水が生成する反応が進行する層である。
また、アノード2において、触媒層2cは、ガス拡散層2gdから送られる水素ガスから水素イオンと電子を生成する反応が進行する層である。
カソード1の触媒層1c及びアノード2の触媒層2cのうちの少なくとも一方には本発明の電極用触媒に係るコアシェル触媒が含まれている。
【0033】
(本発明の電極用触媒の好適な一形態)
以下、図2を用いて本発明の電極用触媒の好適な一形態について説明する。
図2は、図1に示したMEA10のカソード触媒層1c及びアノード触媒層2cのうちの少なくとも一方に含まれる電極用触媒(PtNi/C触媒)の好適な一形態を示す模式断面図である。また、図3は、図2に示した電極用触媒20の概略構成を示す拡大模式断面図である。
図2及び図3に示すように、電極用触媒20は、中空カーボン担体である担体22と、担体22上に担持されたPtNi合金を含む触媒粒子23とを含んでいる。
【0034】
また、図2図3に示した電極用触媒20は、本発明の効果をより確実に得る観点から以下の条件を満たしていることが好ましい。
ここで、触媒粒子23はPtNi合金を含んでおり、好ましくはPtNi合金からなる。ただし、本発明の効果を得ることができる範囲で触媒粒子の表面にはPt酸化物の層、Ni酸化物の層が形成されていてもよい。
電極用触媒20は、粉末X線回折(XRD)により測定される結晶子サイズの平均値が3~16.0nmであることが好ましい。
電極用触媒20は、Pt担持率が好ましくは10.0~40.0wt%とされており、Ni担持率が好ましくは1.0~25.0wt%とされている。
【0035】
担体22は、細孔径が2~50nmのメソ孔(IUPACで定義されたメソ孔)を有し、コア部24とシェル部26(又はシェル部26a)とからなる複合体を担持することができ、かつ表面積が比較的大きい中空カーボン担体であれば特に制限されない。
更に、担体22は、コアシェル触媒20(又は、20A)を含んだガス拡散電極形成用組成物中で良好な分散性を有し、優れた導電性を有する中空カーボン担体であることが好ましい。
【0036】
中空カーボン担体としては、ケッチェンブラックEC300J、ケッチェンブラックEC600JDを例示することができる。例えば、これらの市販品としては、商品名「カーボンEPC」、「カーボンEPC600JD」等(ライオン化学株式会社製のものなど)を例示することができる。ケッチェンブラックEC300J、ケッチェンブラックEC600JDについては、例えば、「機能性カーボンフィラー研究会」がインターネット上で公開している文献[導電性カーボンブラック「ケッチェンブラックEC」の特徴および用途展開]に詳細な特徴が記載されている。
【0037】
他の中空カーボン担体としては、商品名「MCND(Mesoporous Carbon Nano-Dendrite)」(新日鉄住金化学社製)、商品名「クノーベル(CNovel)」(東洋炭素社製)、商品名「Black pearls 2000」(Cabot社製)を例示することができる。
ここで、本発明の効果をより確実に得る観点からは、中空カーボン担体はケッチェンブラックEC300J、ケッチェンブラックEC600JD及びクノーベル(CNovel)のうちの1種であることが好ましい。そして、ケッチェンブラックEC300Jの場合、同様の観点から中空カーボン担体の窒素を用いて測定したBET比表面積(窒素吸着比表面積)は750~850m/gであることが好ましい。クノーベル(CNovel)の場合、同様の観点から中空カーボン担体の窒素を用いて測定したBET比表面積(窒素吸着比表面積)は750~1300m/gであることが好ましい。
【0038】
ここで、図2に示すように、触媒粒子23は,担体22のメソ孔P22の内部とメソ孔P22の外部の両方に担持されている。
そして、電極用触媒20は、3D-STEMによる電子線トモグラフィーの測定を実施した場合に、下記式(1)及び(2)の条件を同時に満たしている、
電極用触媒。
D1<D2・・・(1)
(N1/N2)>1.0・・・(2)
【0039】
ここで、式(1)及び式(2)中、D1は担体22のメソ孔P22の内部に担持された触媒粒子23(又は23a)のうち最大頻度を示す粒子の球相当径(nm)を示す。
また、式(1)及び式(2)中、D2は担体22のメソ孔P22の外部に担持された触媒粒子23(又は23a)のうち最大頻度を示す粒子球相当径を示す。
更に、式(1)及び式(2)中、N1は担体22のメソ孔P22の内部に担持された触媒粒子23(又は23a)のうち最大頻度を示す粒子の頻度(粒子数)を示す。
また、式(1)及び式(2)中、N2は担体22のメソ孔P22の外部に担持された触媒粒子23(又は23a)のうち最大頻度を示す粒子の頻度頻度(粒子数)を示す。
【0040】
式(1)及び式(2)の条件を同時に満たす電極用触媒20は、従来の電極用触媒に比較して、担体22のメソ孔P22の内部に活性の高い触媒粒子23が比較的小さな粒子径で数多く存在することになる。このような担体22のメソ孔P22の内部に担持されたコアシェル構造を有する触媒粒子23(又は23a)は、従来の電極用触媒に比較して電極化された際に優れた触媒活性を発揮する。また、触媒内に含まれるNafionのような高分子電解質に直接接触しにくい状態で担体22に担持されることになりPt成分やNi成分の溶解も低減される。
【0041】
電極用触媒20の製造方法としては、式(1)及び式(2)の条件を満たすようにするための「Pt塩溶液調製工程」、「担体添加工程」、「Ni塩溶液滴下工程」、「洗浄工程」、「乾燥工程」及び「還元工程」を含むこと以外は、特に限定されず公知の方法で製造することができる。
【0042】
「Pt塩溶液調製工程」では、水溶性Pt塩を超純水に溶解した水溶液を室温で調製すする。
なお、このPt塩溶液調製工程において上述の水溶液の調製に使用される「超純水」は、以下の式(3)で表される比抵抗R(JIS規格試験法(JIS K0552)により測定される電気伝導率の逆数)が3.0MΩ・cm以上である水である。また、「超純水」はJISK0557「用水・排水の試験に用いる水」に規定されている「A3」のに相当する水質又はそれ以上の清浄な水質を有していることが好ましい。
【0043】
この超純水は、下記式(3)で表される関係を満たす電気伝導率を有している水であれば、特に限定されない。例えば、上記超純水として、超純水製造装置「Milli-Qシリーズ」(メルク株式会社製)、「Elix UVシリーズ」(日本ミリポア株式会社製)を使用して製造される超純水を挙げることができる。
R=1/ρ ・・・(3)
上記式(3)において、Rは比抵抗を表し、ρはJIS規格試験法(JIS K0552)により測定される電気伝導率を表す。
【0044】
「Pt塩溶液調製工程」の次の工程は「担体添加工程」である。この「担体添加工程」では、「Pt塩溶液調製工程」を経て得たPt塩溶液に、室温で担体22を投入する。そして担体を分散させた分散液を撹拌しながら温度を80~99℃、好ましくは90~99℃で所定時間保持(ただし、沸騰させない状態を保持)し、その後、室温まで降温する。次に、得られた分散液にpH調整剤を添加して、pHを9~13に調節した分散液を調製する。更に、この分散液を撹拌しながら温度を40℃以上の所定温度で所定時間保持(ただし、沸騰させない状態を保持)する。その後、分散液を室温まで降温する。
これにより、担体22のメソ孔P22の内部のガスが除去されメソ孔P22の内部へPt塩水溶液が十分に侵入できるようになる。そして、担体22のメソ孔P22内に触媒粒子の前駆体が数多く担持されることとなる。
【0045】
「担体添加工程」の次の工程は、「Ni塩溶液滴下工程」である。「Ni塩溶液滴下工程」では、「担体添加工程」を経て得た分散液に、水溶性Ni塩を超純水に溶解した水溶液を室温で添加する。次に、得られた分散液にpH調整剤を添加して、pHを9~13に調節した分散液を調製する。更に、この分散液を撹拌しながら温度を40℃以上の所定温度で所定時間保持(ただし、沸騰させない状態を保持)する。その後、分散液を室温まで降温する。
【0046】
「Ni塩溶液滴下工程」の次の工程は、「洗浄工程」である。この「洗浄工程」では、「Ni塩溶液滴下工程」を経て得た液中の固形成分と液体成分とを分離し、固形分(PtNi/C触媒の前駆体とこれ以外の不純物の混合物))を洗浄する。例えば、ろ紙、ろ布などのろ過手段を使用して「Ni塩溶液滴下工程」を経て得た液中の固形成分を液体成分から分離してもよい。固形分の洗浄は上述の超純水、純水(上述の式(3)で表される比抵抗Rが0.1MΩ・cm以上で3.0MΩ・cm未満)、純温水(純水の温度を40~80℃としたもの)を使用してもよい。例えば、純温水を使用する場合、洗浄後のろ液の電気伝導度が20μS/cm未満となるまで繰り返し洗浄する。
「洗浄工程」の次の工程は「乾燥工程」である。この「乾燥工程」では、「洗浄工程」を経て得た固形成分(PtNi/C触媒の前駆体と水との混合物)から水分を分離する。先ず、固形成分を風乾し、次に、乾燥機中で所定温度・所定時間乾燥させる。
「乾燥工程」の次の工程は「還元工程」である。この「粉砕工程」では「乾燥工程」を得て得た固形成分(PtNi/C触媒の前駆体)の還元処理を行う。
還元処理法としては、還元炉を使用し、固形成分(PtNi/C触媒の前駆体)を水素ガスを使用して800℃以上の所定温度で還元する。
【0047】
触媒層1c、触媒層2cに含有される高分子電解質は、水素イオン伝導性を有していれば特に限定されず、公知のものを使用することができる。例えば、高分子電解質は、公知のスルホン酸基、カルボン酸基を有するパーフルオロカーボン樹脂を例示することができる。容易に入手可能な水素イオン伝導性を有する高分子電解質としては、ナフィオン(登録商標、デュポン社製)、アシプレックス(登録商標、旭化成株式会社製)、フレミオン(登録商標、旭硝子株式会社製)を好ましく例示することができる。
そして、図1に示したカソード1の触媒層1c及びアノード2の触媒層2cのうちの少なくとも一方は、担体22の質量Cと高分子電解質の質量Nとの質量比N/Cが0.5~1.2とされており、より好ましくは質量比N/Cが0.7~1.0とされている。
【0048】
(ガス拡散層(GDL))
図1に示すカソード1に備えられるガス拡散層1gdは、触媒層1cへ酸化剤ガス(例えば、酸素ガス、空気)を供給するために設けられている層である。また、ガス拡散層1gdは、触媒層1cを支持する役割を有している。
また、アノード2に備えられるガス拡散層2gdは、触媒層2cへ還元剤ガス(例えば、水素ガス)を供給するために設けられている層である。また、ガス拡散層2gdは、触媒層2cを支持する役割を有している。
【0049】
図1に示すガス拡散層(1gd)は、水素ガス又は空気(酸素ガス)を良好に通過させて触媒層に到達させる機能・構造を有している。このため、ガス拡散層は撥水性を有していることが好ましい。例えば、ガス拡散層は、ポリエチレンテレフタレート(PTFE)等の撥水成分を有している。
ガス拡散層(1gd)に用いることができる部材は、特に制限されるものではなく、公知の部材を使用することができる。例えば、カーボンペーパー、カーボンペーパーを主原料とし、その任意成分としてカーボン粉末、イオン交換水、バインダーとしてポリエチレンテレフタレートディスパージョンからなる副原料をカーボンペーパーに塗布したものが好ましく挙げられる。
【0050】
(撥水層(MPL))
図1に示すように、カソード1には、ガス拡散層1gdと触媒層1cとの間に撥水層(MPL)1mが配置されている。撥水層1mは電子電導性、撥水性、ガス拡散性を有し、触媒層1gdへの酸化剤ガスの拡散と触媒層1gdで発生する反応生成水の排出とを促進するために設けられているものである。撥水層1mの構成は特に限定されず公知の構成を採用することができる。
【0051】
(高分子電解質膜(PEM))
図1に示す高分子電解質膜(PEM)3は、水素イオン伝導性を有していれば特に限定されず、従来からPEFCに使用されている公知のものを採用することができる。例えば、先に述べた触媒層1c、触媒層2cに含有される高分子電解質として例示されたものを構成成分として含む膜であってもよい。
【0052】
<MEAの変形態様>
以上、本発明のMEA(及び、本発明の触媒層、本発明のガス拡散電極)の好適な実施形態について説明したが、本発明のMEAは図1に示したMEA10の構成に限定されない。
例えば、本発明のMEAは、図4に示すMEA11の構成を有していてもよい。
図4は本発明のMEAの別の好適な一形態を示す模式断面図である。図4に示したMEA11は高分子電解質膜(PEM)3の片面のみに、図1に示したMEA10におけるカソード1と同様の構成を有するガス拡散電極(GDE)1Aを配置した構成を有する。ただし、ガス拡散電極(GDE)1Aの触媒層1cは本発明の触媒層の構成を有している。即ち、GDE1Aの触媒層1cはコアシェル触媒の担体の質量Cと高分子電解質の質量Nとの質量比N/Cが0.5~1.2、より好ましくは0.7~1.0とされている。
【0053】
<膜・電極接合体(CCM)>
次に、本発明の膜・電極接合体(CCM)の好適な実施形態について説明する。
図5は本発明のCCMの好適な一形態を示す模式断面図である。図5に示すCCM12は、カソード触媒層1cと、アノード触媒層2cとの間に高分子電解質膜(PEM)3が配置された構成を有している。そして、カソード触媒層1c及びアノード触媒層2cのうちの少なくとも一方は、本発明の触媒層の構成を有する。即ち、カソード触媒層1c及びアノード触媒層2cのうちの少なくとも一方は、電極用触媒の担体の質量Cと高分子電解質の質量Nとの質量比N/Cが0.5~1.2、より好ましくは0.7~1.0とされている。
【0054】
<膜・電極接合体(CCM)の変形態様>
以上、本発明のCCMの好適な実施形態について説明したが、本発明のCCMは図5に示したCCM12の構成に限定されない。
例えば、本発明のCCMは、図6に示すCCM13の構成を有していてもよい。
図7は本発明のCCMの別の好適な一形態を示す模式断面図である。図6に示したCCM13は高分子電解質膜(PEM)3の片面のみに、図5に示したCCM12におけるカソード1と同様の構成を有する触媒層1cを配置した構成を有する。ただし、ガス拡散電極(GDE)1Aの触媒層1cは本発明の触媒層の構成を有している。即ち、CCM13の触媒層1cは電極用触媒の担体の質量Cと高分子電解質の質量Nとの質量比N/Cが0.5~1.2、より好ましくは0.7~1.0とされている。
【0055】
<ガス拡散電極(GDE)>
次に、本発明のガス拡散電極(GDE)の好適な実施形態について説明する。
図8は、本発明のGDEの好適な一形態を示す模式断面図である。図7に示すガス拡散電極(GDE)1Bは、図1に示したMEA10に搭載されたカソード1と同様の構成を有する。ただし、ただし、ガス拡散電極(GDE)1Bの触媒層1cは本発明の触媒層の構成を有している。即ち、ガス拡散電極(GDE)1Bの触媒層1cは電極用触媒の担体の質量Cと高分子電解質の質量Nとの質量比N/Cが0.5~1.2、より好ましくは0.7~1.0とされている。
【0056】
<ガス拡散電極(GDE)の変形態様>
以上、本発明のGDEの好適な実施形態について説明したが、本発明のGDEは図7に示したGDE1Bの構成に限定されない。
例えば、本発明のGDEは、図8に示すGDE1Cの構成を有していてもよい。
図9は本発明のGDEの別の好適な一形態を示す模式断面図である。図8に示したGDE1Cは、図8に示したGDE1Bと比較して触媒層1cとガス拡散層1gdとの間に撥水層(MPL)が配置されていない構成となってきる。
【0057】
<触媒層形成用組成物>
次に、本発明の触媒層形成用組成物の好適な実施形態について説明する。
本実施形態の触媒層形成用組成物は、電極用触媒と、高分子電解質と、主成分を含んでおり、電極用触媒の担体の質量Cと高分子電解質の質量Nとの質量比N/Cが0.5~1.2、より好ましくは0.7~1.0とされている。
ここで、高分子電解質を含む液の組成は特に限定されない。例えば、高分子電解質を含む液には、先に述べた水素イオン伝導性を有する高分子電解質と水とアルコールとが含有されていてもよい。
【0058】
触媒層形成用組成物に含まれる電極用触媒、高分子電解質、その他の成分(水、ア
ルコールなど)の組成比は、得られる触媒層内における電極用触媒の分散状態が良好
となり、当該触媒層を含むMEAの発電性能を向上させることができるように適宜設定される。
触媒層形成用組成物は、電極用触媒、高分子電解質を含む液を混合し、撹拌することにより調製することができる。塗工性を調整する観点からグリセリンなどの多価アルコール及び/又は水を含有させてもよい。電極用触媒、高分子電解質を含む液を混合する場合、ボールミル、超音波分散機等の粉砕混合機を使用してもよい。
図1に示したカソード1の触媒層1c及びアノード2の触媒層2cのうちの少なくとも一方は、本発明の触媒層形成用組成物の好適な実施形態を用いて形成することができる。
【0059】
(ガス拡散電極の製造方法)
次に、本発明のガス拡散電極の製造方法の一例について説明する。ガス拡散電極は本発明の触媒層を含むように形成されていればよく、その製造方法は公知の方法を採用することができる。本発明の触媒層形成用組成物を用いればより確実に製造することができる。
例えば、触媒層形成用組成物をガス拡散層(又はガス拡散層上に撥水層を形成した積層体の当該撥水層)上に塗布し、乾燥させることにより製造してもよい。
【0060】
<燃料電池スタック>
図9は本発明の燃料電池スタックの好適な一実施形態を示す模式図である。
図9に示された燃料電池スタック30は、図1に示したMEA10を一単位セルとし、この一単位セルを複数積み重ねた構成を有している。また、燃料電池スタック30は、セパレータ4とセパレータ5との間にMEA10が配置された構成を有している。セパレータ4とセパレータ5とにはそれぞれガス流路が形成されている。
【実施例
【0061】
以下、実施例により本発明を更に具体的に説明するが、本発明は、以下の実施例に限定
されるものではない。
【0062】
(I)MEAのカソードの触媒層に使用する電極用触媒の準備
【0063】
(1)実施例1のMEAのカソードに使用するPtNi/C触媒の製造
[PtNi合金粒子担持カーボン触媒「PtNi/C触媒」の粉末]
PtNi合金を含む触媒粒子がカーボンブラック粉末上に担持されたPtNi/C触媒の粉末{Pt担持率28.0wt%,Ni担持率8.0wt%商品名「SA30ABKN8」、N.E.CHEMCAT社製)}を用意した。
このPtNi/C触媒の粉末は以下の手順にて調整した。
【0064】
(第1工程(Pt塩溶液調製工程))
水溶性Pt塩を超純水に溶解した水溶液を室温で調製した。
なお、この第1工程(Pt塩溶液調製工程)において使用した「超純水」は、以下の式(3)で表される比抵抗R(JIS規格試験法(JIS K0552)により測定される電気伝導率の逆数)が3.0MΩ・cm以上である水を使用した。また、この「超純水」はJISK0557「用水・排水の試験に用いる水」に規定されている「A3」のに相当する水質又はそれ以上の清浄な水質を有している。
この超純水は超純水製造装置「Milli-Qシリーズ」(メルク株式会社製)、「Elix UVシリーズ」(日本ミリポア株式会社製)を使用して製造した。
R=1/ρ (3)
上記一般式(3)において、Rは比抵抗を表し、ρはJIS規格試験法(JIS K0552)により測定される電気伝導率を表す。
【0065】
(第2工程(担体添加工程))
「Pt塩溶液調製工程」を経て得たPt塩溶液に、室温で担体22を投入した。担体22としては、市販の中空カーボン担体{ライオン株式会社製、商品名「カーボンECP」(登録商標)(ケッチェンブラックEC300J)、比表面積750~800m/g}を使用した。
そして担体を分散させた分散液を撹拌しながら温度を80~99℃、好ましくは90~99℃で所定時間保持(ただし、沸騰させない状態を保持)し、その後、室温まで降温した。次に、得られた分散液にpH調整剤を添加して、pHを9~13に調節した分散液を調製した。更に、この分散液を撹拌しながら温度を40℃以上の所定温度で所定時間保持(ただし、沸騰させない状態を保持)した。その後、分散液を室温まで降温した。
【0066】
(第3工程(Ni塩溶液滴下工程))
第2工程(担体添加工程)」を経て得た分散液に、水溶性Ni塩を超純水に溶解した水溶液を室温で添加した。次に、得られた分散液にpH調整剤を添加して、pHを9~13に調節した分散液を調製した。更に、この分散液を撹拌しながら温度を40℃以上の所定温度で所定時間保持(ただし、沸騰させない状態を保持)した。その後、分散液を室温まで降温した。
【0067】
(第4工程(洗浄工程))
第3工程(Ni塩溶液滴下工程)を経て得た液中の固形成分と液体成分とを分離し、固形分(PtNi/C触媒の前駆体とこれ以外の不純物の混合物))を洗浄した。ろ紙を使用して「Ni塩溶液滴下工程」を経て得た液中の固形成分を液体成分から分離した。固形分の洗浄は上述の超純水、純水(上述の式(3)で表される比抵抗Rが0.1MΩ・cm以上で3.0MΩ・cm未満)、純温水(純水の温度を40~80℃としたもの)を使用した。純温水を使用し、洗浄後のろ液の電気伝導度が20μS/cm未満となるまで繰り返し洗浄した。
【0068】
(第5工程(乾燥工程))
次に、ろ紙上の固形成分(PtNi/C触媒の前駆体と水との混合物)をこの状態のまま空気中で風乾した。この風乾後、ろ紙上の固形成分を磁性皿に移し、電気乾燥機中で60℃以上の所定温度で所定時間乾燥させた。乾燥後の固形成分をミキサーを使用して粉砕しPtNi/C触媒の前駆体の粉体を得た。
【0069】
(第6工程(還元工程))
「乾燥工程」を得て得た固形成分(PtNi/C触媒の前駆体)の還元処理を行った。
固形成分(PtNi/C触媒の前駆体)を焼成皿に入れ還元炉中に設置した。次に還元炉に窒素ガスを所定流量流通させ残存酸素をパージした。次に、還元炉に水素ガスを導入し800℃以上の所定温度、所定時間で還元処理を行った。その後、還元炉内の温度を降温させるとともに、還元処理後の固形成分の徐酸化処理を行った。これによりPtNi/C触媒を得た。
【0070】
<担持率の測定(ICP分析)>
このコアシェル触媒Aについて、Pt担持率(wt%)と、Ni担持率(wt%)を以下の方法で測定した。
PtNi/C触媒を王水に浸し、金属を溶解させた。次に、王水から不溶成分のカーボンを除去した。次に、カーボンを除いた王水をICP分析した。
ICP分析の結果、このPtNi/C触媒については、Pt担持率が28.0wt%と、Ni担持率が8.0wt%であった。
【0071】
<電極用触媒の表面観察・構造観察>
このPtNi/C触媒について、その3次元構造を観察するため、STEMによる電子戦トモグラフィーの測定を以下の条件で実施した。
・STEM装置:日本電子社製 JEM-ARM200F 原子分解能分析電子顕微鏡
・データ解析ソフト: システムインフロンティア製 3D 再構成ソフトComposer、3D データ可視化ソフトVisualizer-kai、画像解析ソフトColorist
・測定条件
加速電圧:60 kV
観察倍率 800,000 ~1,000,000 倍
測定試料の傾斜角:-80 ° ~ +80 °
測定試料の傾斜ステップ角 2 °
画素数 512 ×512 pixels 512 × 512 pixels
画素サイズ:0.350 nm/pixel ~ 0.500 nm/pixel
ボリュームサイズ:図11に示した。
【0072】
PtNi/C触媒について、STEM(走査型透過電子顕微鏡)を用いた電子線トモグラフィー計測により得られた三次元再構成像(3D-STEM像)の画像解析により、カーボン担体内部に存在するPtNi/C触媒粒子( 以下、内部粒子)及びカーボン担体表面部に存在するPtNi/C触媒粒子( 以下、外部粒子)を分離し、それぞれの領域におけるPtNi/C触媒粒子の粒子径分布を算出した。
コアシェル触媒Aの三次元再構成像(3D-STEM像)を図12に示す。
画像解析により求めた内部粒子および外部粒子の粒径解析結果を図13図14に示す。
3D-STEM像は上記の測定条件で試料ステージを段階的に傾斜して得られた複数の2次元のSTEM像を再構成することにより得た。
【0073】
また、三次元再構成像(3D-STEM像)の画像解析(粒子径解析)は以下の手順で行った。はじめに三次元再構成像より触媒粒子の領域を選択し、それぞれの触媒粒子をラベル化した(図示せず)。次に、ラベル化したPt粒子の体積より球相当径を算出し、粒子径分布(図13図14)を求めた。
ここで、球相当径は、単位をnmとし小数点以下の数値(1nm未満の数値)は四捨五入することで算出した。
PtNi/C触媒について、担体のメソ孔の内部に担持された触媒粒子の割合と、担体のメソ孔外部に担持された触媒粒子の割合とを求めた。また、D1,D2,N1、N2の値も求めた。結果を表1及び表2に示す。
更に、STEM像から測定したPtNi/C触媒の触媒粒子の粒子径の平均値は5.5
nmであった。
【0074】
(2)比較例1のMEAのカソードに使用するPt/C触媒の粉末の準備
Pt/C触媒として、N.E.CHEMCAT社製のPt担持率50wt%のPt/C触媒(商品名:「SA50BK」)を用意した。なお、このPt/C触媒の担体には、市販の中空カーボン担体{ライオン株式会社製、商品名「カーボンECP」(登録商標)(ケッチェンブラックEC300J)、比表面積750~800m/g}を使用した。
このPt/C触媒についてXRD分析を実施した。その結果、結晶子サイズの平均値は、2.6nmであった。
【0075】
(II)実施例1、比較例1のMEAのアノードに使用するP/C触媒の準備
比較例1のMEAのカソードに使用したPt/C触媒Bと同一のPt/C触媒を実施例1、比較例1のMEAのアノードに使用するP/C触媒とした。
【0076】
<実施例1>
以下の手順で、図1に示したMEA10と同様の構成を有するMEAを作成した。
【0077】
(1)カソードの作成
カソードのGDL
GDLとして、カーボンペーパー(東レ株式会社製 商品名「TGP-H-60」)を準備した。
カソードのMPL形成用インク
テフロン(登録商標)製ボールを入れたテフロン(登録商標)製のボールミル容器に、カーボン粉末(電気化学工業株式会社製 商品名「デンカブラック」)1.5gと、イオン交換水1.1gと、界面活性剤(ダウ・ケミカル社製 商品名「トライトン」(35wt%水溶液))6.0gとを入れて混合した。
次に、ボールミル容器に、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)ディスパージョン(三井・デュポン フロロケミカル社製 商品名「31-JR」)1.75gを入れて混合した。これにより、カソードのMPL形成用インクを作成した。
カソードのMPL
GDLの片面にカソードのMPL形成用インクをバーコーダーを使用して塗布し塗工膜を形成した。その後、塗工膜を乾燥器中で十分に乾燥させ、更に加熱圧着処理を行い、GDL上にMPLが形成された積層体を作成した。
カソードの触媒層形成用インク
テフロン(登録商標)製ボールを入れたテフロン(登録商標)製のボールミル容器に、上述のPtNi/C触媒と、イオン交換水と、10wt%ナフィオン水分散液(デュポン社製 商品名「DE1021CS」)と、グリセリンと、を入れて混合し、カソードの触媒層形成用インクを作成した。なお、このインクについて、N/C=0.7とした。また、コアシェル触媒A中のカーボン:イオン交換水:グリセリン=1:10:0.8(質量比)とした。
カソードの触媒層(CL)
上述のGDL上にMPLにMPLが形成された積層体のMPLの表面に上述のカソードの触媒層形成用インクをバーコート法にて塗布し、塗布膜を形成した。この塗布膜を室温にて30分乾燥させた後、60℃にて1.0時間乾燥することにより、触媒層とした。このようにして、ガス拡散電極であるカソードを作成した。なお、カソードの触媒層のPt担持量は表1に示す数値となるようにした。
【0078】
(2)アノードの作成
アノードのGDL
GDLとして、カソードと同一のカーボンペーパーを用意した。
アノードのMPL形成用インク
テフロン(登録商標)製ボールを入れたテフロン(登録商標)製のボールミル容器に、カーボン粉末(電気化学工業株式会社製 商品名「デンカブラック」)1.5gと、イオン交換水1.0gと、界面活性剤(ダウ・ケミカル社製 商品名「トライトン」(35wt%水溶液))6.0gとを入れて混合した。
次に、ボールミル容器に、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)ディスパージョン(三井・デュポン フロロケミカル社製 商品名「31-JR」)2.5gを入れて混合した。これにより、アノード用のMPL形成用インクを作成した。
アノードのMPL
GDLの片面にアノードのMPL形成用インクをバーコーダーを使用して塗布し塗工膜を形成した。その後、塗工膜を乾燥器中で十分に乾燥させ、更に加熱圧着処理を行い、GDL上にMPLが形成された積層体を作成した。
アノードの触媒層形成用インク
テフロン(登録商標)製ボールを入れたテフロン(登録商標)製のボールミル容器に、SA50BK(Pt担持率50wt%)と、イオン交換水と、5wt%ナフィオンアルコール分散液(SIGMA-ALDRICH社製 商品名「Nafion 5wt.% dispersion」、製品番号「274704」)と、グリセリンと、を入れて混合しアノードの触媒層形成用インクを作成した。なお、このインクについて、N/C=1.2とした。また、SA50BK中のカーボン:イオン交換水:グリセリン=1:6:4(質量比)とした。
アノードの触媒層(CL)
上述のGDL上にMPLにMPLが形成された積層体のMPLの表面に上述のアノードの触媒層形成用インクをバーコート法にて塗布し、塗布膜を形成した。この塗布膜を室温にて30分乾燥させた後、60℃にて1.0時間乾燥することにより、触媒層とした。このようにして、ガス拡散電極であるアノードを作成した。なお、アノードの触媒層のPt担持量は0.3mg/cmとした。
【0079】
(3)MEAの作成
高分子電解質膜(デュポン社製 商品名「ナフィオンNR212」)を準備した。カソードとアノードとの間にこの高分子電解質膜を配置した積層体を作成し、ホットプレス機により加熱圧着させ、MEAを作成した。なお、加熱圧着の条件は、140℃、5KNにて5分間、更に140℃、25KNにて3分間プレスした。
【0080】
<比較例1>
カソードの触媒層について、以下の条件を変更したこと以外は、実施例1と同様の条件・手順にて各々のMEAを作成した。
即ち、カソードの触媒層形成用インクの作成において、
・PtNi/C触媒の代わりに、先に述べたP/C触媒(商品名:「SA-50BK」)
を使用した。
・10wt%ナフィオン水分散液の代わりに5wt%ナフィオンアルコール分散液(デュポン社製 商品名「DE520CS」;1-プロパノール48wt%含有)を使用した。
・Pt担持量と、N/Cとが表1に示す数値となるようにカソードの触媒層形成インクの組成と、当該インクの塗工条件を調節した。
・P/C触媒(商品名:「SA50BH」)中のカーボン:イオン交換水:グリセリン=1:10:1(質量比)とした。
【0081】
<電池性能評価>
実施例1及び比較例1のMEAの電池性能を以下の電池性能評価方法で実施した。
実施例1及び比較例1のMEAを燃料電池単セル評価装置に設置した。
次に、以下の条件でMEA内での発電反応を進行させた。
単セル(MEA)温度を80℃とした。アノードには飽和水蒸気にて加湿した1.0気圧の純水素を利用率が70%となるように流量を調節して供給した。また、カソードには80℃の飽和水蒸気にて加湿した1.0気圧の純酸素を利用率が50%となるように流量を調節して供給した。
単セル(MEA)の評価は、燃料電池単セル評価装置付属の電子負荷装置により電流を制御して行い、電流値を0~1.0A/cmまで走査して得られる電流-電圧曲線をデータとして取得した。
上記電流-電圧曲線のデータからX軸(電流密度)を対数目盛としてプロットしたグラフを作成し(図示せず)、電圧850mVでの電流密度値(電極の単位面積当たりの電流値)を得た。
【0082】
このようにして得られた電流密度値をカソードの単位面積当たりの白金重量で除することにより、カソードに含有される白金についての単位重量当たり活性(Mass.Act.)として算出し、カソードに含有される触媒の酸素還元能の指標とした。その結果を表1に示す。
なお、表1には、比較例1で得られたMass.Act.を基準(1.0)とした相対値(相対比)として他の実施例及び比較例で得られたMass.Act.を比較した結果を示す。
【表1】

【表2】
【0083】
表1に示した結果から、実施例1のMEAは、比較例1のMEAと比較し、高いPt質量活性を有していることが明らかとなった。
【産業上の利用可能性】
【0084】
本発明の電極用触媒は優れた触媒活性を発揮する。また、本発明の触媒層を含むGDE、CCM、MEA、及び、燃料電池スタックは、PEFCの低コスト化に寄与できる優れた電池特性を発揮する。
従って、本発明は、燃料電池、燃料電池自動車、携帯モバイル等の電機機器産業のみならず、エネファーム、コジェネレーションシステム等に適用することができ、エネルギー産業、環境技術関連の発達に寄与する。
【符号の説明】
【0085】
1・・・カソード、
1A、1B、1C・・・ガス拡散電極(GDE)
1c・・・触媒層(CL)、
1m・・・撥水層(MPL)、
1gd・・・ガス拡散層(GDL)、
2・・・アノード、
2c・・・触媒層(CL)、
2m・・・撥水層(MPL)、
2gd・・・ガス拡散層(GDL)、
3・・・高分子電解質膜(PEM)、
4、5・・・セパレータ
10、11・・・膜・電極接合体(MEA)、
12、13・・・膜・触媒層接合体(CCM)
20・・・PtNi/C触媒、
22・・・担体、
23・・・触媒粒子、
30・・・燃料電池スタック、
P22・・・担体のメソ孔
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
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図9
図10
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