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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-13
(45)【発行日】2024-09-25
(54)【発明の名称】溶接組立鋼材
(51)【国際特許分類】
   B23K 9/02 20060101AFI20240917BHJP
   B23K 31/00 20060101ALI20240917BHJP
【FI】
B23K9/02 D
B23K31/00 F
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020098501
(22)【出願日】2020-06-05
(65)【公開番号】P2021191582
(43)【公開日】2021-12-16
【審査請求日】2023-03-30
(73)【特許権者】
【識別番号】000003621
【氏名又は名称】株式会社竹中工務店
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】井上 泰彦
(72)【発明者】
【氏名】櫛部 淳道
(72)【発明者】
【氏名】大須賀 史朗
(72)【発明者】
【氏名】本村 達
(72)【発明者】
【氏名】河登 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】梅村 建次
(72)【発明者】
【氏名】石田 高義
(72)【発明者】
【氏名】鶴ケ野 翔平
【審査官】松田 長親
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-071868(JP,A)
【文献】特開2014-079768(JP,A)
【文献】特開2006-255758(JP,A)
【文献】特開2014-129567(JP,A)
【文献】特開平06-016175(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 9/00-9/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
三枚の鋼板を十字断面に組み立て、四つの隅部に隅肉溶接が施された溶接組立鋼材であり、
四つの前記隅部には、それぞれ断続隅肉溶接部が形成され
四つの前記隅部にそれぞれ形成された前記断続隅肉溶接部のそれぞれの溶接ビードの長さ方向の端部は、投影するといずれも重なっていない、
溶接組立鋼材。
【請求項2】
投影すると、一の前記溶接ビードの端部は、長さ方向に隣接する他の前記溶接ビードの端部と端部との間の中間部に重なっている、
請求項1に記載の溶接組立鋼材。
【請求項3】
投影すると、前記鋼板の両側の一方の前記溶接ビードの端部と端部との間に、前記一方の溶接ビードよりも短い他方の前記溶接ビードが重なっている、
請求項1に記載の溶接組立鋼材。
【請求項4】
前記鋼板は、少なくともCr、Niのいずれかを含有するFe-Mn-(Cr、Ni)-Si系の合金、又はさらにAlを含有する合金を材料として構成されている、
請求項1~請求項3のいずれか1項に記載の溶接組立鋼材。
【請求項5】
ブレース芯材又は方杖を構成する、
請求項1~請求項4のいずれか1項に記載の溶接組立鋼材。
【請求項6】
三枚の鋼板を十字断面に組み立て、四つの隅部に隅肉溶接が施された溶接組立鋼材であり、
四つの前記隅部には、それぞれ断続隅肉溶接部が形成され、
投影すると、それぞれの溶接ビードの長さ方向の端部はいずれも重なっておらず、且つ、前記鋼板の両側の一方の前記溶接ビードの端部と端部との間に前記一方の溶接ビードよりも短い他方の前記溶接ビードが重なっている、
溶接組立鋼材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶接組立鋼材に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、制振鋼板の隅肉溶接方法に関する技術が開示されている。この先行技術では、二枚の鋼板の間に粘弾性樹脂を挟んだ構造の制振鋼板の表面に普通鋼板の端面を当接し、この制振鋼板と普通鋼板のコーナー部をアーク溶接により千鳥隅肉溶接をしている。
【0003】
特許文献2には、十字すみ肉溶接継手における溶接方法に関する技術が開示されている。この先行技術では、溶接の最終パスを、製品として主応力の加わる主材側に実施している。
【0004】
特許文献3には、溶接材料を用いて構造物用の低合金鉄鋼材料を溶接する溶接方法に関する技術が開示されている。この先行技術では、溶接により生成する溶接金属を、溶接後の冷却過程でマルテンサイト変態を起こさせ、室温において該マルテンサイト変態の開始時よりも膨張している状態としている。
【0005】
特許文献4には、金属材料溶接部の疲労強度を向上させる溶接部疲労強度向上方法に関する技術が開示されている。この先行技術では、金属の隅肉溶接部の全表面または溶接止端に近い一部表面および当該金属の主板の一部に、継手の長手方向でかつ表面に沿った方向の繊維強化プラスチックの弾性率が当該金属主板の5%~150%で、(弾性率)×(厚み)が当該金属主板の1%~50%となる繊維強化プラスチック層を固着している。
【0006】
特許文献5には、隅肉継手部の疲労強度を向上させる疲労低減型溶接継手構造に関する技術が開示されている。この先行技術では、隅肉溶接の溶接金属の全面に被覆すると共に主板およびリブ板に固着するパテ層を、溶接部に向かって凹の円筒面を形成するように積層することにより、パテ層が隅肉溶接部にかかる応力を分担して負担すると共に溶接止端部への応力集中を緩和し、継手構造の疲労強度を向上している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開平2-46979号公報
【文献】特開平10-85934号公報
【文献】特許第3350726号
【文献】特開平8-243778号公報
【文献】特開2007-75826号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
鋼板を十字断面に組立溶接したブレース等の溶接組立鋼材では、鋼板を十字形状に配置し、四つの隅部に隅肉溶接を施すことによって構築される。そして、その隅肉溶接は全長にわたって施される場合もあれば、溶接材料の削減や溶接熱による部材のひずみを抑制させる目的で断続的に施される場合もある。
【0009】
一般に、溶接部の応力集中や引張残留応力によって疲労寿命は低下する。特に、断続隅肉溶接における溶接ビードの端部ではそれが顕著であり、疲労破壊の初期のき裂は、溶接ビードの端部から始まることが多い。
【0010】
断続隅肉溶接における複数の溶接ビードは、同じ位置に配置されることが一般的である。よって、溶接ビードにおける疲労破壊の初期のき裂発生位置が同一断面で重なることになり、疲労寿命の低下をもたらすことになる。
【0011】
本発明は、上記事実を鑑み、断続隅肉溶接で組み立てられた溶接組立鋼材の疲労寿命の向上が目的である。
【課題を解決するための手段】
【0012】
第一態様は、一方の鋼材と他方の鋼材とで形成された一方の前記鋼材の両側の隅部にそれぞれ断続隅肉溶接部が形成され、一方の溶接ビードの長さ方向の端部と他方の溶接ビードの長さ方向の端部とが、投影すると重なっていない部位を有する溶接組立鋼材である。
【0013】
第一態様の溶接組立鋼材では、一方の溶接ビードの長さ方向の端部と他方の溶接ビードの長さ方向の端部とが、投影すると重なっていない部位を有しているので、全ての端部が投影すると重なっている場合と比較し、溶接組立鋼材の疲労寿命が向上する。
【0014】
第二態様は、一方の前記溶接ビード及び他方の前記溶接ビードが互いに長さ方向にずれ、前記一方の溶接ビードの端部が前記他方の溶接ビードの端部と端部との間の中間部で投影すると重なっている、第一態様に記載の溶接組立鋼材である。
【0015】
第二態様の溶接組立鋼材では、一方の溶接ビード及び他方の溶接ビードが互いに長さ方向にずれている。よって、一方の溶接ビードの長さ方向の端部と他方の溶接ビードの長さ方向の端部とが、投影すると重なっている部位を有していないので、溶接組立鋼材の疲労寿命が向上する。また、一方の溶接ビードの端部が他方の溶接ビードの端部と端部との間の中間部で投影すると重なっているので、一方の溶接ビードの端部と他方の溶接ビードの中間部とが重なっていない場合よりも、溶接強度が向上する。
【0016】
第三態様は、前記鋼材は、少なくともCr、Niのいずれかを含有するFe-Mn-(Cr、Ni)-Si系の合金、又はさらにAlを含有する合金を材料として構成された鋼板であり、他方の前記鋼板の両面にそれぞれ一方の前記鋼板の端部が突き当てられて十字断面とされた、第一態様又は第二態様に記載の溶接組立鋼材である。
【0017】
第三態様の溶接組立鋼材では、鋼材はCr、Niのいずれかを含有するFe-Mn-(Cr、Ni)-Si系の合金、又はさらにAlを含有する優れた耐疲労特性を有する合金を材料として構成されているので、疲労寿命の向上効果が、例えばSN材やLY材等の鋼材を母材として使用した場合よりも高い。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、断続隅肉溶接で組み立てられた溶接組立ての疲労寿命を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】実施形態の制振ブレースを示す(A)は(B)の1A-1A線に沿った長手方向と直交する断面の断面図であり、(B)は制振ブレースを長手方向と直交する方向から見た図である。
図2】実施形態のブレース芯材を示す(A)は(B)の2A-2A線に沿った長手方向と直交する断面の断面図であり、(B)はブレース芯材を長手方向と直交する方向から見た図である。
図3】第一変形例のブレース芯材を示す(A)は(B)の3A-3A線に沿った長手方向と直交する断面の断面図であり、(B)はブレース芯材を長手方向と直交する方向から見た図である。
図4】第二変形例のブレース芯材を示す(A)は(B)の4A-4A線に沿った長手方向と直交する断面の断面図であり、(B)はブレース芯材を長手方向と直交する方向から見た図である。
図5】第三変形例のブレース芯材を示す(A)は(B)の5A-5A線に沿った長手方向と直交する断面の断面図であり、(B)はブレース芯材を長手方向と直交する方向から見た図である。
図6】第四変形例のブレース芯材を示す(A)は(B)の6A-6A線に沿った長手方向と直交する断面の断面図であり、(B)はブレース芯材を長手方向と直交する方向から見た図である。
図7】第五変形例のブレース芯材を示す(A)は(B)の7A-7A線に沿った長手方向と直交する断面の断面図であり、(B)はブレース芯材を長手方向と直交する方向から見た図である。
図8】第六変形例のブレース芯材を示す(A)は(B)の8A-8A線に沿った長手方向と直交する断面の断面図であり、(B)はブレース芯材を長手方向と直交する方向から見た図である。
図9】参考例のブレース芯材を示す(A)は(B)の9A-9A線に沿った長手方向と直交する断面の断面図であり、(B)はブレース芯材を長手方向と直交する方向から見た図である。
図10】(A)は図9の参考例のブレース芯材の溶接ビードの端部を通る長手方向と直交する断面における初期亀裂を示す断面図であり、(B)は図2の実施形態のブレース芯材の溶接ビードの端部を通る長手方向と直交する断面における初期亀裂を示す断面図である。
図11】一方の溶接ビードの端部の先端と他方の溶接ビードの端部の先端との距離を説明するための説明図である。
図12】一方の溶接ビードの端部の先端と他方の溶接ビードの端部の先端との距離を説明するための説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
<実施形態>
本発明の一実施形態の溶接組立鋼材について説明する。
【0021】
[構造]
まず、溶接組立鋼材の構造について説明する。なお、各図の(A)図は、それぞれ断面図であるが、図を見やすくするために、断面を示すハッチングの図示を省略している。
【0022】
(制振ブレース)
溶接組立鋼材を用いた制振ブレースの全体構成について説明する。
【0023】
図1に示すように、制振ブレース10は、ブレース芯材30と、補剛部20と、を有して構成されている。
【0024】
溶接組立鋼材の一例としてのブレース芯材30は、鋼板50の一方の面50Aと他方の面50B(図1(A)参照)とに、それぞれ鋼板52の端部53及び鋼板54の端部55(図1(A)参照)を突き当て、四つの隅部70A、70B、70C、70D(図1(A))に隅肉溶接を施すことによって、組立溶接した断面十字状の部材である。なお、本実施形態の鋼板50、52、54は、平たい帯状の鋼材である平鋼で構成されている。
【0025】
図1(B)に示すように、ブレース芯材30の軸方向の端部は、ガセットプレート等にボルト締結されるためのボルト孔42が形成されたボルト接合部40となっている。また、ブレース芯材30の軸方向の中央部分は、凹部43が形成されている。なお、ブレース芯材30の軸方向の両端部分を拡幅部44とし、凹部43が形成された中央部分を形状変形部46とする。そして、このブレース芯材30における中央部分の形状変形部46は塑性変形部であり、両端部分の拡幅部44は弾性変形部である。
【0026】
図1に示すように、補剛部20は、ブレース芯材30におけるボルト接合部40を除く外側に設けられ、ブレース芯材30の座屈を防止又は抑制する機能を有している。本実施形態における補剛部20は、ブレース芯材30の周囲に設けられたモルタル及び鋼管で構成されているが、このような構成に限定されない。例えば、補剛部20は、鋼管のみで構成されていてもよい。或いは、ブレース芯材30に山形鋼をボルト締結した構成や鋼管及び鋼材プレートで構成されていてもよい。要は、補剛部20は、ブレース芯材30の座屈を防止又は抑制する機能を有する構成であればよい。
【0027】
(ブレース芯材)
図1及び図2に示すブレース芯材30は、前述したように、鋼板50の一方の面50Aと他方の面50B(図1(A)及び図2(A)参照)とに、それぞれ鋼板52及び鋼板54(図1(A)及び図2(A)参照)の端部53、55(図1(A)及び図2(A)参照)を突き当て、四つの隅部70A、70B、70C、70D(図1(A)及び図2(A))に隅肉溶接を施すことによって組立溶接した断面十字状の部材である。
【0028】
なお、本実施形態の鋼板50、52、54は、優れた耐疲労特性を有するFe-Mn-Si系の合金を材料として構成されている。更に詳しくは、特開2014-129567号公報(特許第6182725号)で開示されている少なくともCr、Niのいずれかを含有するFe-Mn-(Cr、Ni)-Si系の合金、又はさらにAlを含有する合金を材料としている。
【0029】
四つの隅部70A、70B、70C、70D(図1(A)及び図2(A)参照)におけるそれぞれの軸方向の両端部以外は、断続隅肉溶接が施されている。
【0030】
図1(B)及び図2(B)に示す四つの隅部70A、70B、70C、70D(図1(A)及び図2(A)参照)におけるそれぞれの断続隅肉溶接部の溶接ビード80A、80B、80C、80Dは、軸方向に間隔をあけて設けられている。
【0031】
ここで、四つの隅部70A、70B、70C、70D(図1(A)及び図2(A)参照)を第一隅部70A、第二隅部70B、第三隅部70C及び第四隅部70Dとする。また、第一隅部70Aの溶接ビードを第一溶接ビード80Aとし、第二隅部70Bの溶接ビードを第二溶接ビード80Bとし、第三隅部70Cの溶接ビードを第三溶接ビード80Cとし、第四隅部70Dの溶接ビードを第四溶接ビード80Dとする。なお、区別する必要が無い場合は、隅部70及び溶接ビード80とする。また、溶接ビード80の長さ方向の各図の(B)の左側が一方側で右側が他方側とする。
【0032】
図2(B)に示すように、四つの第一溶接ビード80A、第二溶接ビード80B、第三溶接ビード80C及び第四溶接ビード80Dは、それぞれ互いに長さ方向にずれている。なお、溶接ビード80の長さ方向は、ブレース芯材30の軸方向と一致する。
【0033】
そして、第一溶接ビード80Aの長さ方向の一方の端部82Aと他方の端部84Aとの間の中間部83Aに第二溶接ビード80Bの長さ方向の一方の端部82Bが投影すると重なり、第二溶接ビード80Bの一方の端部82Bと他方の端部84Bとの間の中間部83Bに第一溶接ビード80Aの他方の端部84Aが投影すると重なっている。
【0034】
以下、同様に、第二溶接ビード80Bの中間部83Bに第三溶接ビード80Cの一方の端部82Cが投影すると重なり、第三溶接ビード80Cの一方の端部82Cと他方の端部84Cとの間の中間部83Cに第二溶接ビード80Bの他方の端部84Bが投影すると重なっている。
【0035】
第三溶接ビード80Cの中間部83Cに第四溶接ビード80Dの一方の端部82Dが投影すると重なり、第四溶接ビード80Dの一方の端部82Dと他方の端部84Dとの間の中間部83Dに第三溶接ビード80Cの他方の端部84Cが投影すると重なっている。
【0036】
第四溶接ビード80Dの中間部83Dに第一溶接ビード80Aの一方の端部82Aが投影すると重なり、第一溶接ビード80Aの中間部83Aに第四溶接ビード80Dの他方の端部84Dが投影すると重なっている。
【0037】
このように、四つの溶接ビード80は、それぞれ互いに長さ方向にずれ、投影すると端部82、84と端部82、84とが重なる部位を有していない。
【0038】
ここで、溶接ビード80の端部82、84について説明する。
【0039】
図10に示すように、溶接ビード80の端部82、84は、鋼板50、52、54の応力集中及び引張残留応力が顕著に発生する部位であり、疲労破壊による初期亀裂Sが発生する部位である。なお、図10についての説明は後述する。また、図10では端部82のみを図示しているが、端部84も同様である。
【0040】
また、「投影すると重なっている」及び「投影すると重なってない」とは、鋼板50、52、54の両面の溶接ビード80を長さ方向と直交する方向(面外方向)から透視すると、重なっている又は重なっていないことである。
【0041】
[作用及び効果]
次に、本実施形態の作用及び効果について説明する。
【0042】
まず、参考例のブレース芯材900について説明する。
【0043】
図9に示す参考例のブレース芯材900では、図9(B)に示すように、四つの第一溶接ビード80A、第二溶接ビード80B、第三溶接ビード80C及び第四溶接ビード80Dは、長さ方向に同じ位置にあり、それぞれ端部82、84同士が投影すると重なっている。なお、図9(B)では、判りやすくするため、第三溶接ビード80C及び第四溶接ビード80Dの破線を若干ずらして図示しているが、実際は、四つの第一溶接ビード80A、第二溶接ビード80B、第三溶接ビード80C及び第四溶接ビード80Dは、長さ方向に同じ位置にある。
【0044】
前述したように溶接ビード80の端部82、84は、鋼板50、52、54の応力集中及び引張残留応力が顕著に発生する部位であり、図10(A)に示す疲労破壊による初期亀裂Sが発生する部位である。
【0045】
参考例では、前述したように、四つの溶接ビード80の端部82、84が投影すると重なっている。つまり、図10(A)に示すように、初期亀裂Sの発生位置が同一断面で重なることになり、初期亀裂Sが進行することによる破断が発生し易く、疲労寿命が低下する。前述したように、図10(A)では、端部82のみを図示しているが、端部84も同様である。
【0046】
これに対して、図2に示す本実施形態のブレース芯材30では、四つの溶接ビード80は、それぞれ互いに長さ方向にずれ、投影すると端部82、84と端部82、84とが重なった部位を有していない。したがって、図10(B)に示すように、初期亀裂Sの発生位置が同一断面で重ならないので、疲労寿命が向上する。
【0047】
また、長手方向に間隔をあけて並んだ一方の溶接ビード80の一方の端部82と他方の端部84とが、投影すると他方の溶接ビード80の一方の端部82と他方の端部84との間の中間部83で重なっているので、溶接強度が向上する。
【0048】
また、本実施形態のブレース芯材30を構成する鋼板50、52、54は、母材として優れた疲労寿命を有するFe-Mn-Si系の合金を使用している。したがって、ブレース芯材30を制振ブレース10として使用することで、優れた疲労寿命を発揮することができる。
【0049】
ここで、ブレース芯材30を構成する鋼板50、52、54は、母材として高い疲労寿命を有する合金を材料としているため、ブレース芯材30の軸方向の両端部の拡幅部44と凹部43が形成された中央部分の形状変形部46との境界部分における応力集中及び引張残留応力による破断は、発生し難い。
【0050】
よって、ブレース芯材30は、拡幅部44と形状変形部46との境界部分の応力集中及び引張残留応力による破断でなく、溶接ビード80の端部82、84に発生する初期亀裂Sの進行による破断によって疲労寿命が決まる場合が多い。
【0051】
したがって、本実施形態のように、ブレース芯材30を構成する鋼板50、52、54は、母材として高い疲労寿命を有する合金を材料とすると共に、溶接ビード80をそれぞれ互いに長さ方向にずらして端部82、84と端部82、84とが重なった部位を有していない構造とすることで、高い制振性能を発揮する共に高い疲労寿命を有する制振ブレース10とすることができる。
【0052】
なお、溶接ビード80の端部82、84は、鋼板50、52、54の応力集中及び引張残留応力が顕著に発生する部位であり、疲労破壊による初期亀裂S(図10参照)が発生する部位である。
【0053】
よって、一方の溶接ビード80の端部82、84と他方の溶接ビード80の端部82、84とが、重なっていなくても接近していると、初期亀裂S(図10参照)が繋がり、疲労寿命が十分に向上しない虞がある。
【0054】
したがって、図11及び図12に示すように、一方の溶接ビード80の端部82の先端81と他方の溶接ビード80の端部84の先端85との距離Lを十分に確保することが望ましい。また、この距離Lは、ブレース芯材30を構成する鋼板の板厚の2倍以上(鋼板50、52、54の板厚が異なる場合は、最も小さい板厚の2倍以上)とすることが望ましい。なお、図12は、後述する図3に示す第一変形例に代表される構造の場合である。
【0055】
ここで、溶接ビードの応力集中や引張残留応力を低減し、疲労寿命を向上させる方法として、溶接ビードをグラインダー等の機械的方法やTIG溶接による再溶融で平滑にする方法、ピーニング等の機械的方法や溶接後熱処理等で引張残留応力を除去する方法、低変態温度溶接材料を用いる方法(例えば、特許第3350726号)、溶接ビードに繊維強化プラスチックや樹脂系のパテを塗る方法(例えば、特開H8-243778号公報及び特開2007-75826号公報)等がある。これらの方法は、溶接ビードの長さ方向の端部における応力集中にも有効である可能性がある。しかし、これらの方法は、溶接施工後の後処理や高価な元素を含有する溶接材料の使用等が必要であり、製作コストを増大させる原因となる。
【0056】
これに対して本実施形態では、前述のように、四つの溶接ビード80を互いに長さ方向にずらして端部82、84同士が重ならないようにすることで、すなわち初期亀裂Sの発生位置が同一断面で重ならないようにすることで、疲労寿命を向上させている。よって、溶接施工後の後処理や高価な元素を含有する溶接材料を使用する場合と比較し、低コストで疲労寿命を向上させることができる。
【0057】
[変形例]
次に、本実施形態のブレース芯材の変形例について説明する。なお、上記実施形態と異なる構造部分以外の説明は、省略又は簡略化する。
【0058】
(第一変形例)
図3に示す第一変形例のブレース芯材31は、図3(B)に示すように、四つの第一溶接ビード80A、第二溶接ビード80B、第三溶接ビード80C及び第四溶接ビード80Dは、それぞれ互いに長さ方向にずれている。
【0059】
図3(B)に示すように、第一溶接ビード80Aの他方の端部84Aの長さ方向の他方外側に第二溶接ビード80Bの一方の端部82Bが配置されている。同様に、第二溶接ビード80Bの他方の端部84Bの長さ方向の他方外側に第三溶接ビード80Cの一方の端部82Cが配置され、第三溶接ビード80Cの他方の端部84Cの長さ方向の他方外側に第四溶接ビード80Dの一方の端部82Dが配置されている。そして、第四溶接ビード80Dの他方の端部84Dの長さ方向の他方外側に第一溶接ビード80Aの一方の端部82Aが配置されている。
【0060】
なお、本実施形態では、一方の溶接ビード80の端部82と端部84との間の中間部83に、他方の溶接ビード80の端部82、84は、投影すると重なっていない。
【0061】
このように、四つの溶接ビード80は、それぞれ互いに長さ方向にずれ、投影すると端部82、84と端部82、84とが重なった部位を有していない。したがって、初期亀裂S(図10参照)の発生位置が同一断面で重ならないので、疲労寿命が向上する。
【0062】
(第二変形例)
図4に示す第二変形例のブレース芯材32では、図4(B)に示すように、第一溶接ビード80Aと第三溶接ビード80Cとは、長さ方向に同位置にあり、第二溶接ビード80Bと第四溶接ビード80Dとは長さ方向に同位置にある。そして、第一溶接ビード80A及び第三溶接ビード80Cと、第二溶接ビード80B及び第四溶接ビード80Dとは、それぞれ互いに長さ方向にずれている。
【0063】
図4(B)に示すように、第一溶接ビード80A及び第三溶接ビード80Cの一方の端部82A、82Cと他方の端部84A、84Cの間の中間部83A、83Cに第二溶接ビード80B及び第四溶接ビード80Dの一方の端部82B、82Dが投影すると重なっている。
【0064】
また、第二溶接ビード80B及び第四溶接ビード80Dの一方の端部82B、82Dと他方の端部84B、84Dの間の中間部83B、83Dに第一溶接ビード80A及び第三溶接ビード80Cの他方の端部84A、84Cが投影すると重なっている。
【0065】
このように第一溶接ビード80Aの端部82A、84Aと第二溶接ビード80Bの端部82B、84Bとは投影すると重なっており、第二溶接ビード80Bの端部82B、84Bと第四溶接ビード80Dの端部82D、84Dとは投影すると重なっている。
【0066】
しかし、第一溶接ビード80A及び第三溶接ビード80Cの端部82A、82C、84A、84Cと、第二溶接ビード80B及び第四溶接ビード80Dの端部82B、82D、84B、84Dとは、投影すると重なっていない。したがって、参考例のブレース芯材900(図9、及び図10(A)参照)と比較すると、初期亀裂S(図10参照)の発生位置が同一断面で重なっている部位が減少しているので、疲労寿命が向上する。
【0067】
(第三変形例)
図5に示す第三変形例のブレース芯材33では、図5(B)に示すように、第一溶接ビード80Aと第二溶接ビード80Bとは、長さ方向に同位置にあり、第三溶接ビード80Cと第四溶接ビード80Dとは長さ方向に同位置にある。そして、第一溶接ビード80A及び第二溶接ビード80Bと、第三溶接ビード80C及び第四溶接ビード80Dとは、それぞれ互いに長さ方向にずれている。
【0068】
図5(B)に示すように、第一溶接ビード80A及び第二溶接ビード80Bの一方の端部82A、82Bと他方の端部84A、84Bの間の中間部83A、83Bに第三溶接ビード80C及び第四溶接ビード80Dの一方の端部82C、82Dが投影すると重なっている。
【0069】
また、第三溶接ビード80C及び第四溶接ビード80Dの一方の端部82C、82Dと他方の端部84C、84Dの間の中間部83C、83Dに第一溶接ビード80A及び第二溶接ビード80Bの他方の端部84A、84Bが投影すると重なっている。
【0070】
このように第一溶接ビード80Aの端部82A、84Aと第二溶接ビード80Bの端部82B、84Bとは投影すると重なっており、第三溶接ビード80Cの端部82C、84Cと第四溶接ビード80Dの端部82D、84Dとは投影すると重なっている。
【0071】
しかし、第一溶接ビード80A及び第二溶接ビード80Bの端部82A、82B、84A、84Bと、第三溶接ビード80C及び第四溶接ビード80Dの端部82C、82D、84C、84Dとは、投影すると重なっていない。したがって、参考例のブレース芯材900(図9、及び図10(A)参照)と比較すると、初期亀裂S(図10参照)の発生位置が同一断面で重なっている部位が減少しているので、疲労寿命が向上する。
【0072】
(第四変形例)
図6に示す第四変形例のブレース芯材34では、図6(B)に示すように、第一溶接ビード80Aと第二溶接ビード80Bとは、長さ方向に同位置にあり、第三溶接ビード80Cと第四溶接ビード80Dとは長さ方向に同位置にある。そして、第一溶接ビード80A及び第二溶接ビード80Bと、第三溶接ビード80C及び第四溶接ビード80Dとは、それぞれ互いに長さ方向にずれている。
【0073】
図6(B)に示すように、第一溶接ビード80A及び第二溶接ビード80Bの一方の端部82A、82Bと他方の端部84A、84Bとの間の中間部83A、83Bに、第三溶接ビード80C及び第四溶接ビード80Dの一方の端部82C、82D及び他方の端部84C、84Dが投影すると重なっている。
【0074】
また、第三溶接ビード80C及び第四溶接ビード80Dの一方の端部82C、82Dと他方の端部84C、84Dとの間の中間部83C、83Dに、第一溶接ビード80A及び第二溶接ビード80Bの一方の端部82A、82B及び他方の端部84A、84Bが投影すると重なっている。
【0075】
このように第一溶接ビード80Aの端部82A、84Aと第二溶接ビード80Bの端部82B、84Bとは投影すると重なっており、第三溶接ビード80Cの端部82C、84Cと第四溶接ビード80Dの端部82D、84Dとは投影すると重なっている。
【0076】
しかし、第一溶接ビード80A及び第二溶接ビード80Bの端部82A、82B、84A、84Bと、第三溶接ビード80C及び第四溶接ビード80Dの端部82C、82D、84C、84Dとは、投影すると重なっていない。したがって、参考例のブレース芯材900(図9、及び図10(A)参照)と比較すると、初期亀裂S(図10参照)の発生位置が同一断面で重なっている部位が減少しているので、疲労寿命が向上する。
【0077】
また、第三変形例と比較し、溶接ビード80が密に連続しているので、溶接強度が高い。
【0078】
(第五変形例)
図7に示す第五変形例のブレース芯材35では、第一溶接ビード80Aと第二溶接ビード80Bとは、長さ方向に同位置にあり、第三溶接ビード80Cと第四溶接ビード80Dとは長さ方向に同位置にある。第一溶接ビード80A及び第二溶接ビード80Bと、第三溶接ビード80C及び第四溶接ビード80Dとは、それぞれ互いに長さ方向にずれている。
【0079】
第二溶接ビード80Bは、第一溶接ビード80Aよりもビード長が短く、第二溶接ビード80Bの一方の端部82Bの長さ方向の一方外側に第一溶接ビード80Aの一方の端部82Aが配置され、第二溶接ビード80Bの他方の端部84Bの長さ方向の他方外側に第一溶接ビード80Aの他方の端部84Aが配置されている。
【0080】
同様に、第三溶接ビード80Cは、第四溶接ビード80Dよりもビード長が短く、第三溶接ビード80Cの一方の端部82Cの長さ方向の一方外側に第四溶接ビード80Dの一方の端部82Dが配置され、第三溶接ビード80Cの他方の端部84Cの長さ方向の他方外側に第四溶接ビード80Dの他方の端部84Dが配置されている。
【0081】
このように、第一溶接ビード80Aと第二溶接ビード80Bとは、長さ方向に同位置にあり、第三溶接ビード80Cと第四溶接ビード80Dとは長さ方向に同位置にあるが、ビード長が異なるので、投影すると端部82、84と端部82、84とが重なった部位を有していない。したがって、初期亀裂S(図10参照)の発生位置が同一断面で重ならないので、疲労寿命が向上する。
【0082】
(第六変形例)
図8に示す第六変形例のブレース芯材36は、鋼板50の一方の面50Aに鋼板52の端部53(図8(A)参照)を突き当て、二つの隅部70A、70Bに断続隅肉溶接を施すことによって組立溶接した断面T字状の部材である。
【0083】
二つの第一溶接ビード80A及び第二溶接ビード80Bは、それぞれ互いに長さ方向にずれている。第一溶接ビード80Aの一方の端部82Aと他方の端部84Aとの間の中間部83Aに第二溶接ビード80Bの一方の端部82Bが投影すると重なり、第二溶接ビード80Bの一方の端部82Bと他方の端部84Bとの間の中間部83Bに第一溶接ビード80Aの他方の端部84Aが投影すると重なっている。
【0084】
このように、二つの第一溶接ビード80A及び第二溶接ビード80Bは、それぞれ互いに長さ方向にずれ、投影すると端部82A、84Aと端部82B、84Bとが重なった部位を有していない。したがって、初期亀裂S(図10参照)の発生位置が同一断面で重ならないので、疲労寿命が向上する。
【0085】
<その他>
尚、本発明は上記実施形態に限定されない。
【0086】
例えば、上記実施形態及び変形例では、ブレース芯材は、断面十字状又は断面T字状であったが、これらに限定されない。例えば、ブレース芯材は、断面H字状であってもよい。
【0087】
また、鋼板以外の鋼材であってもよい。例えば、鋼管の外面(板面)に鋼板の端部を突き当てて溶接した溶接組立鋼材にも本発明を適用することができる。
【0088】
また、例えば、上記実施形態及び変形例では、溶接組立鋼材は、制振ブレースを構成するブレース芯材であったが、これに限定されない。例えば、溶接組立鋼材は、制振機能を有しないブレースであってもよいし、方杖であってもよい。
【0089】
また、例えば、上記実施形態及び変形例では、溶接組立鋼材と一例としてのブレース芯材は、特開2014-129567号公報(特許第6182725号)で開示されている少なくともCr、Niのいずれかを含有するFe-Mn-(Cr、Ni)-Si系の合金、又はさらにAlを含有する合金で構成されていたが、これに限定されない。溶接組立鋼材は、特開2014-129567号公報(特許第6182725号)で開示されている合金以外のFe-Mn-Si系の合金で構成されていてもよい。更に、溶接組立鋼材は、Fe-Mn-Si系の合金以外のSN材やLY材等よりも優れた耐疲労特性を有する鋼材で構成されていてもよいし、SN材やLY材等の一般的な鋼材で構成されていてもよい。
【0090】
なお、優れた耐疲労特性を有する鋼材とは、例えば、ひずみ振幅±1%引張圧縮変形における破断繰り返し数2000回以上の鋼材であり、具体的には、Fe-Mn-Si系合金、Fe-Mn-Si-Al系合金の他に鉄系形状記憶合金及び鉄系超弾性合金等に優れた耐疲労特性を有する鋼材がみられる。
【0091】
また、溶接ビードの長さ方向の端部同士が重なっていない部位が一以上ある溶接組立鋼材であればよい。
【0092】
更に、本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々なる態様で実施し得る。複数の実施形態及び変形例等は、適宜、組み合わされて実施可能である。
【符号の説明】
【0093】
30 ブレース芯材
31 ブレース芯材
32 ブレース芯材
33 ブレース芯材
34 ブレース芯材
35 ブレース芯材
36 ブレース芯材
50 鋼板(鋼材の一例)
52 鋼板(鋼材の一例)
54 鋼板(鋼材の一例)
70A 第一隅部
70B 第二隅部
70C 第三隅部
70D 第四隅部
80A 第一溶接ビード
80B 第二溶接ビード
80C 第三溶接ビード
80D 第四溶接ビード
82A 端部
82B 端部
82C 端部
82D 端部
83A 中間部
83B 中間部
83C 中間部
83D 中間部
84A 端部
84B 端部
84C 端部
84D 端部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12