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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-13
(45)【発行日】2024-09-25
(54)【発明の名称】液化ガス運搬船
(51)【国際特許分類】
   B63B 11/02 20060101AFI20240917BHJP
   B63B 25/16 20060101ALI20240917BHJP
   B63B 43/02 20060101ALI20240917BHJP
【FI】
B63B11/02
B63B25/16 Z
B63B43/02
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2020113036
(22)【出願日】2020-06-30
(65)【公開番号】P2022011719
(43)【公開日】2022-01-17
【審査請求日】2022-11-30
(73)【特許権者】
【識別番号】518144045
【氏名又は名称】三井E&S造船株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001368
【氏名又は名称】清流国際弁理士法人
(74)【代理人】
【識別番号】100129252
【弁理士】
【氏名又は名称】昼間 孝良
(74)【代理人】
【識別番号】100155033
【弁理士】
【氏名又は名称】境澤 正夫
(72)【発明者】
【氏名】江川 俊太郎
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 廉彦
(72)【発明者】
【氏名】松本 拓久
(72)【発明者】
【氏名】木下 達弥
【審査官】三宅 龍平
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-184504(JP,A)
【文献】特開2014-008805(JP,A)
【文献】特開昭57-167890(JP,A)
【文献】特公昭46-021058(JP,B2)
【文献】米国特許第05363787(US,A)
【文献】韓国公開特許第10-2019-0058118(KR,A)
【文献】特開2019-026083(JP,A)
【文献】特開2005-219677(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B63B 11/02
B63B 25/16
B63B 43/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
貨物である液化ガスを貯蔵する独立タンクが設置された貨物区画を有する船体を備えた液化ガス運搬船であって、
船長方向から見て前記貨物区画の左右の船外側に配置された水密区画であり、船側外板及び前記貨物区画と接する複数の船側水密区画を備え、
複数の前記船側水密区画は、
左右の舷側に配置され、前記貨物区画と独立した水密区画である独立水密区画と、
左右の舷側に少なくとも一対が配置され、前記貨物区画と連通して一体となって一体型水密区画を構成する連通区画と、
を備えることを特徴とする液化ガス運搬船。
【請求項2】
前記船体の垂線間長をLpp、1つの前記連通区画の船長方向長さをLF、前記連通区画が設けられた前記貨物区画の船長方向長さをDとした場合に以下の式(1)に示す条件を満たすことを特徴とする請求項1に記載の液化ガス運搬船。
(1/3)Lpp(2/3)<L<(1/2)D…式(1)
【請求項3】
前記連通区画は、バラストタンクとして用いられないボイドスペースで構成される請求項1または2に記載の液化ガス運搬船。
【請求項4】
前記船側水密区画は、
前記船側外板と、前記船側外板の内側に配置され前記貨物区画の側壁を構成する内側側壁で囲まれ、前記船側外板と前記内側側壁を連結する船側内横隔壁で船長方向に複数に分割されてなる二重船側であり、
前記独立水密区画及び前記連通区画は、前記二重船側を構成する分割された区画の一部である請求項1~3のいずれかに記載の液化ガス運搬船。
【請求項5】
前記船側水密区画は、前記貨物区画の船底に配置された二重底区画である請求項1~3のいずれかに記載の液化ガス運搬船。
【請求項6】
前記船側水密区画は、トップサイドタンクである請求項1~3のいずれかに記載の液化ガス運搬船。
【請求項7】
前記連通区画は前記貨物区画の最後部の横隔壁に接して配置される請求項1~6のいずれか一項に記載の液化ガス運搬船。
【請求項8】
前記船体は、船尾側から船首側に向けて順に機関区画、前記貨物区画、船首区画が配置され、
前記船首区画と前記貨物区画は水密の横隔壁である貨物倉隔壁で分離され、
前記連通区画は前記貨物倉隔壁に接する請求項1~7のいずれか一項に記載の液化ガス運搬船。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は液化ガス運搬船に関する。
【背景技術】
【0002】
LNG(液化天然ガス)やLPG(液化石油ガス)のような液化ガスを貨物として運搬する液化ガス運搬船は、液化ガスを貯蔵する液化ガスタンクを貨物区画に備える。
液化ガス運搬船は船体が損傷して貨物区画に浸水すると貨物区画が浮力を失うだけでなく、液化ガスタンクも損傷して液化ガスが流出する可能性がある。そこで損傷時に船体が十分な復原性を保つようにIGC Codeと呼ばれる規格がIMO(国際海事機関)により定められている。
IGC Codeで規定する損傷時の復原性を確保するための構造としては、船幅を広くして船側とタンクの距離を離すことで浸水時のメタセンタ高さを確保する構造もあるが、船体が大型化して重くなり、船価が高くなる。
貨物区画やその周囲の水密区画を細分化して1区画の容積を小さくすることで損傷時に消失する浮力を小さくする構造もあるが、隔壁やタンクの数が増えて船体重量が増加し、船価が高くなる。またこの構造では損傷時の浸水が左右非対称となるため、損傷した舷側に船体が沈むように横傾斜するヒールと呼ばれる現象が生じ易い(特許文献1)。
特許文献1にはクロスフラッディング装置のように浸水した舷側と逆舷の水密区画に注水してヒールを緩和する注水構造が記載されているが、この構造では注水構造の分だけ船体重量が増加し、船価が高くなる。
バイローブタンクのように円筒状タンクよりも重心が低いタンクを液化ガスタンクとして用いることで船体の重心を下げて復原性を確保する構造もあるが、バイローブタンクは円筒状タンクより構造が複雑で重いため、船体重量が増加し、船価が高くなる。またこの構造だけではヒールを緩和できない(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2016-055672号公報
【文献】特表2019-515209号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このように従来の液化ガス運搬船でIGC Codeが規定する損傷時の復原性を確保するためには、船体重量の増加が避けられない問題があった。また構造によっては損傷時のヒールを緩和する構造を別途設ける必要があり、さらに船体重量が増加する問題があった。
本発明は上記課題に鑑みてなされたもので、船体重量を増加させずに衝突時のヒールを緩和でき、復原性の確保が可能な液化ガス運搬船の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の液化ガス運搬船は、貨物である液化ガスを貯蔵する独立タンクが設置された貨物区画を有する船体を備えた液化ガス運搬船であって、船長方向から見て前記貨物区画の左右の船外側に配置された水密区画であり、船側外板及び前記貨物区画と接する複数の船側水密区画を備え、複数の前記船側水密区画は、左右の舷側に配置され、前記貨物区画と独立した水密区画である独立水密区画と、左右の舷側に少なくとも一対が配置され、前記貨物区画と連通して一体となって一体型水密区画を構成する連通区画と、を備えることを特徴とする。
【0006】
この構成では、複数の船側水密区画の一部を貨物区画と連通させ、片舷から貨物区画に浸水した場合に貨物区画を介して逆舷の連通区画も浸水してヒールを緩和するため、水密隔壁の数が従来よりも少なくても復原性が確保できる。そこで貨物区画の横隔壁の数を減らして船体重量を軽減する。横隔壁の数が減ると貨物区画内の水密区画が船長方向に長くなるためタンク長を長くすることができるため、タンク容積を減らさずにタンク数を減らしタンク重量も軽減できる。
そのため、船体重量を増加させずに衝突時のヒールを緩和でき、復原性の確保が可能となる。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、船体重量を増加させずに衝突時のヒールを緩和でき、復原性の確保が可能な液化ガス運搬船を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本実施形態に係る液化ガス運搬船の概要を示す側面図である。
図2図1の正面図である。
図3図1の平面図である。
図4図1の貨物区画上方の暴露甲板及び上部構造物の記載を省略した平面図である。
図5図4において、左舷の連通区画及び当該連通区画に接する独立水密区画に浸水した場合を示す図であって、ハッチングした箇所は浸水した領域を示す。
図6図4で連通区画を設けない構造において、図5と同じ場所が損傷して浸水した場合を示す図であって、ハッチングした箇所は浸水した領域を示す。
図7】船側水密区画の変形例を示す船体の横断面図である。
図8図4において、機関区画と貨物区画の間にコファーダムを設けた場合を示す変形例である。
図9図4において、船首区画に接する位置に連通区画を設けた場合を示す変形例である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図1図9を参照して本実施形態に係る液化ガス運搬船1の構成を説明する。
図1図4に示すように液化ガス運搬船1は、船体3、貨物区画7、液化ガスタンク17、及び船側水密区画79を備える。
【0010】
船体3は液化ガス運搬船1の船殻となる構造体であり、図1に示すように船底71、船側外板73、及び暴露甲板61で船内を囲むように構成される。具体的な船型や船殻構造は液化ガス運搬船1の用途に応じて適宜設計される。
【0011】
液化ガス運搬船1の吃水は航行する水路の水深によるが、液化ガス運搬船1が河川用船舶である場合、図2に示す計画吃水FDが6m未満であるのが好ましい。計画吃水FDは船底71の最深部から計画吃水線LWLまでの鉛直距離である。
計画吃水FDが6m未満であれば、液化ガス運搬船1が長江のような大陸の河川を少なくとも中流域まで航行できる。
また、河川用船舶のような浅吃水船は海上よりも水路が狭いことが多く、復原性を確保するために船幅を広くし難いため、船幅を広くしなくても復原性を確保できる本実施形態が特に有用である。
【0012】
図1に示すように船体3は液化ガスが積載される貨物区画7を備える。より具体的には、船体3は船内区画として船尾から船首に向けて順に設けられた機関区画5、貨物区画7、及び船首区画9を備える。
【0013】
機関区画5は主機等の液化ガス運搬船1の推進機構の動力源が配置される区画であり、船長方向において船体3の最も船尾側の区画である。
機関区画5の船首方向最先端には水密構造の横隔壁である機関隔壁15が設けられ、機関区画5と貨物区画7は機関隔壁15で船長方向に分離される。
機関区画5の上方の暴露甲板61上には主機の燃焼で生じた排ガスを排気する排気管が配置される化粧煙突13や、排ガス処理設備等が収納されたエンジンケーシング11が必要に応じて設けられる。
【0014】
貨物区画7は液化ガス運搬船1が輸送する貨物が配置される区画であり、図1に示すように船長方向において、機関区画5と船首区画9の間に設けられる。
貨物区画7の船首方向最先端には水密構造の横隔壁である貨物倉隔壁21が設けられ、船首区画9と貨物区画7は貨物倉隔壁21で船長方向に分離される。
【0015】
貨物区画7には液化ガスタンク17が設置される。
液化ガスタンク17は液化ガスを貨物として貯蔵するタンクである。液化ガスとは、常温、常圧で気体のガスを冷却や圧縮で液体にしたものであり、LNG、LPG、エタン、エチレン、アンモニア、水素を例示できる。
【0016】
液化ガスタンク17は独立タンクである。独立タンクとは、液密とタンク内圧をタンク自体で保持でき、船体3から独立しているタンクを意味する。
独立タンクであれば、タンク形状は円筒状タンク、球形タンク、バイローブタンク、マルチローブタンク等のタンクを適宜選択できる。
液化ガスタンク17は円筒状タンクであることが、より好ましい。他の独立タンクと比べてタンク構造及び支持構造が単純なのでタンクや支持構造を構成する部材の数が少なく軽量化しやすいためである。
図1では2つの液化ガスタンク17が船長方向に直列配置されている。2つの液化ガスタンク17の間には水密隔壁である貨物倉横隔壁31が配置されている。貨物区画7は船尾寄りの船尾側貨物区画7aと船首寄りの船首側貨物区画7bに貨物倉横隔壁31で分割されている。そのため、船尾側貨物区画7aと船首側貨物区画7bの一方の区画が浸水しても、他方の区画への浸水は貨物倉横隔壁31に阻止される。
【0017】
船側水密区画79は貨物区画7の左右の船外側に配置された水密区画であり、船体3の舷側の外壁である船側外板73、及び貨物区画7と接する区画である。
図4では船側水密区画79として二重船側構造が例示されている。
この構造では船側外板73と、船側外板73の内側に配置され貨物区画7の側壁を構成する内側側壁75との間の空間が船側水密区画79である。船側外板73と内側側壁75とは横隔壁である複数の船側内横隔壁77で連結され、船側外板73、内側側壁75、船側内横隔壁77、船底71、及び暴露甲板61で囲まれた複数の区画が船側水密区画79を構成する。
【0018】
図4に示すように船側水密区画79は独立水密区画80と連通区画81を備える。
独立水密区画80は貨物区画7と分離された水密区画であり、仮に貨物区画7が浸水した場合でも水圧が内側側壁75の耐圧を超えない限りは浸水しない。独立水密区画80は船体3の浮力の調整のための水密区画であり、例えばバラストタンクである。独立水密区画80は両舷に設けられるので、数は少なくとも片舷に1つずつ、つまり左右両舷に一対であるのが好ましい。
連通区画81は貨物区画7と連通している区画である。図4では連通区画81は内側側壁75が設けられておらず、その部分が貨物区画7と連通する連通部83を構成する。ただし連通部83は貨物区画7と連通区画81の間で同一区画として浸水が進行する程度の寸法、形状であればよいので、内側側壁75に設けた孔でもよい。
連通区画81は連通部83を介して貨物区画7と一体となって、図4のハッチングで示す水密区画である一体型水密区画85を構成する。連通区画81は単独で水密区画にならないので、バラストタンクとして用いられないボイドスペースである。
二重船側区画は左右両舷に設けられるので、連通区画81は貨物区画7内で左右両舷に少なくとも一対設けられる。つまり片舷に1つずつ設けられる。例えば図4では船尾側貨物区画7aの左右両舷に一対(左舷連通区画81a及び右舷連通区画81b)設けられる。
なお、図4に示すように貨物区画7が複数ある場合は、少なくとも1つの貨物区画7に一対の連通区画81が設けられる。図4では船尾側貨物区画7aの左右両舷に連通区画81が1つずつ設けられる。
【0019】
このように、船側水密区画79の一部を貨物区画7と連通させる理由を説明する。
図5に示すように船体3の片舷、ここでは左舷に他船が衝突する等して左舷側の独立水密区画80と左舷側の連通区画81である左舷連通区画81aの近傍の船側外板73が損傷したとする。IGC Codeでは水密区画が損傷した場合は規則で規定される損傷の範囲によっては長手方向で隣接する2区画が損傷したものとして設計を行うため、ここでは独立水密区画80と左舷連通区画81aの両方に浸水したものと仮定する。また一般的な配置においては、損傷の深さを考慮し内側側壁75も損傷すると仮定し、独立水密区画80へも浸水するとして設計を行う。
この場合、浸水は独立水密区画80と左舷連通区画81aから船尾側貨物区画7aを介して損傷個所と逆舷の連通区画81である右舷連通区画81bに達する。一方で損傷個所と逆舷の独立水密区画80は船尾側貨物区画7aと分離されているため浸水しない。そのため、浸水により一体型水密区画85と1つの独立水密区画80に相当する容積分の浮力が失われるが、船体中心線Cに対する左右両舷の浸水容積の差は、1つの独立水密区画80の容積のみである。船体中心線Cとは、平面視で船体3の幅方向の中心位置を通る船長方向に平行な直線を意味する。
一方で図6に示すように連通区画81がなく、全ての船側水密区画79が独立水密区画80だった場合、図5と同じ場所が損傷して浸水すると、浸水は船尾側貨物区画7aに流れ込む。しかしながら右舷側の船側水密区画79は全てが独立水密区画80なので浸水せず、浸水箇所は船尾側貨物区画7aと、左舷側の2つの独立水密区画80となる。
そのため、連通区画81を設けた場合と比べて、浸水容積は連通区画81の1つ分だけ小さいものの、浸水箇所が左舷に偏るためヒールが大きくなる。
【0020】
このように、船側水密区画79の一部を貨物区画7と連通させることで、一方の舷側に浸水した場合に浸水が貨物区画7を介して逆舷側の連通区画81に流れて浸水区画を左右対称にし、ヒールを緩和して復原性を確保する。これにより、全ての船側水密区画79が独立水密区画80の場合と比べてヒールを緩和でき、水密隔壁の数を減らしても復原性が確保できるため、貨物区画7の横隔壁である貨物倉横隔壁31の数を減らして船体重量を軽減できる。貨物倉横隔壁31の数が減ると貨物区画7内の水密区画が船長方向に長くなり、液化ガスタンク17のタンク長を長くできるため、タンク容積を減らさずにタンク数を減らすことができ、タンク重量を軽減できる。また、この構造では一方の舷側に浸水した場合に浸水時の水圧で貨物区画7を介して逆舷側の連通区画81に浸水が流れ込むため、逆舷側に注水するクロスフラッディング装置等の構造を別途設ける必要がなく、注水構造で重量が増加する恐れもない。
そのため液化ガス運搬船1は船体重量を増加させずに衝突時のヒールを緩和でき、復原性の確保が可能である。
以上が船側水密区画79の一部を貨物区画7と連通させる理由の説明である。
【0021】
液化ガス運搬船1は、以下の式(1)に示す条件を満たすのが好ましい。
(1/3)Lpp(2/3)<LF<(1/2)D…式(1)
式(1)において「Lpp」は図1に示す船体3の垂線間長である。「LF」は1つの連通区画81の船長方向長さであり、全ての連通区画81が式(1)を満たすのが好ましい。図4では左舷連通区画81aの長さLfa1と右舷連通区画81bの長さLfb1の両方がLFであり、式(1)を満たすのが好ましい。「D」は連通区画81が設けられた貨物区画7の船長方向長さである。図4に示すように貨物区画7が船長方向に分割されている場合、Dは、連通区画81が設けられた区画のみの長さである。図4では船尾側貨物区画7aのみに連通区画81が設けられているため、Dは船尾側貨物区画7aのみの船長方向長さである。
【0022】
Fは長い方が連通区画81の船長方向長さが長くなり、一方の舷側が損傷した場合に逆舷の連通区画81の浸水容積が大きくなるのでヒールを緩和する効果の観点からは好ましい。しかしながら連通区画81の船長方向長さが長くなり過ぎると舷側が損傷した際に浸水で浮力が失われる区画の容積が大きくなり、船体3の吃水が下がりすぎて沈没する恐れがある。また貨物区画7と連通していない独立水密区画80の容積が減るため、独立水密区画80をバラストタンクとして使用する場合にタンク容量が不足する可能性がある。よってLFは(1/2)D未満が好ましい。
【0023】
Fは短い方が連通区画81の船長方向長さが短くなり、舷側が損傷した際に浸水して浮力が失われる区画の容積が小さくなるため、損傷時に浮力を確保する観点からは好ましい。しかしながら連通区画81の船長方向長さが短すぎると連通区画81の容積が小さすぎてヒールを緩和する効果が十分に得られない可能性がある。またIGC Codeで区画として認められる最小寸法を下回ると、設計上は連通区画81が区画として存在しないものとして扱われる。そのためLFは(1/3)Lpp(2/3)超であるのが好ましい。
【0024】
液化ガス運搬船1は以下の式(2)に示す条件を満たすのが、より好ましい。
(1/3)Lpp(2/3)<LF<(1/3)D…式(2)
式(2)は式(1)において上限をより小さな(1/3)Dにしたものである。式(2)の上限を満たすことで、連通区画81の船長方向長さが式(1)よりも短くなり、一体型水密区画85への浸水時に船体3が喪失する浮力をさらに減らせる。
【0025】
図4では船側水密区画79は二重船側構造であり、連通区画81は二重船側構造を構成する分割された水密区画の一部である。
このように船側水密区画79が二重船側構造で、二重船側の水密区画の一部が連通区画81である構造では、既存の二重船側の一部を貨物区画7と連通させるだけで連通区画81を形成できるので、連通区画81の設計・製造コストが抑制される。
【0026】
ただし船側水密区画79は、船長方向から見て貨物区画7の左右の船外側に配置されており、かつ船側外板73及び貨物区画7と接する区画であれば二重船側構造でなくてもよい。
例えば図7に示すように貨物区画7の底面93の下方に配置された二重底区画91を船側水密区画79として用いてもよい。二重底区画91は船長方向に複数の図示しない横隔壁で複数の区画に分離されているので、分離された区画の1つに連通部83を設けて貨物区画7と連通させて連通区画81とし、他の区画を独立水密区画80とすればよい。
【0027】
二重底区画91を船側水密区画79とすることで、二重船側がない液化ガス運搬船でも既存の二重底区画91の1つと貨物区画7を連通させるだけで連通区画81を形成できるので、連通区画81の設計・製造コストが抑制される。
【0028】
図7に示すようにトップサイドタンク63の一部を船側水密区画79としてもよい。
トップサイドタンク63とは、貨物区画7の舷側近傍の上方に設けられた水密区画であり、主にバラストタンクとして用いられる。図7に示すようにトップサイドタンク63は船側外板73、暴露甲板61、及び連結壁62で囲まれた水密区画である。連結壁62は、船側外板73と貨物区画7の天井壁である暴露甲板61とを連結する側壁であり、貨物区画7の船長方向に延在する、ここでは船長方向から見てL字状に曲がった形状を有する。トップサイドタンク63も船長方向に複数の図示しない横隔壁で複数の区画に分離されているので、分離された区画の1つに連通部83を設けて貨物区画7と連通させて連通区画81とし、他の区画を独立水密区画80とすればよい。
トップサイドタンク63を船側水密区画79とすることで、船側の一部が二重船側でない場合でも既存のトップサイドタンク63の1つと貨物区画7を連通させるだけで連通区画81を形成できる。そのため連通区画81の設計・製造コストが抑制できる。また、この構造は液化ガスタンク17が図7に示すバイローブタンク17aのように幅広で船側外板73に近い位置に配置されるタンクである等の理由で、船側の全てを二重船側にするスペースが船体3に確保し難い場合に有利である。
【0029】
図4に示すように左右両舷に一対の連通区画81は、平面視で船体中心線Cに対し左右対称に配置されるのが好ましい。
左右両舷に一対の連通区画81が左右対称に配置されると、貨物区画7への浸水の際に船体中心線Cを中心軸として船体3がヒールするため、船体中心線Cに対して傾斜した軸中心にヒールせず、ヒール時に船体3にねじりモーメントが加えられ難い。
ただしねじりモーメントを許容できるのであれば左右両舷に一対の連通区画81は、平面視で船体中心線Cに対し左右非対称に配置してもよい。
【0030】
連通区画81の船長方向の設置位置は、液化ガスタンク17が設置された貨物区画7内であれば適宜設定できる。ただし貨物区画7の最後部の横隔壁に隣接配置されるのが好ましい。図4では貨物区画7の最後部の横隔壁は機関区画5と貨物区画7を分離する機関隔壁15なので、連通区画81は機関隔壁15に接して配置されるのが好ましい。この構成では機関隔壁15が連通区画81の船尾側の横隔壁になる。連通区画81を機関区画5に隣接配置するのが好ましい理由は以下の通りである。
IGC Codeでは1つの水密区画が浸水した場合は規則で規定される損傷の範囲によっては、長手方向に隣接する2区画が浸水したものとして設計を行うため、連通区画81を機関区画5に接して配置すれば、機関区画5が損傷して浸水した場合に、損傷の範囲によっては長手方向に隣接する連通区画81にも浸水する設計になる。この場合、浸水が左右の連通区画81に達するためヒールを緩和する効果が生じる。特に機関区画5は船体3の推進に要する動力を生成する主機が配置される区画であるため、船内区画の中でも容積が大きく、浸水時にヒールが大きくなりやすい。そのため、連通区画81を機関区画5に隣接配置することでヒールの緩和に益々有利となる。
なお、貨物区画7の最後部の横隔壁は機関隔壁15ではない場合がある。例えば図8に示すように船長方向において機関区画5と貨物区画7の間に燃料タンク等のコファーダム6が設けられている場合、貨物区画7の最後部の横隔壁は、コファーダム6と貨物区画7を分離する横隔壁であるコファーダム隔壁16になる。この場合、連通区画81はコファーダム隔壁16に接して配置されるのが好ましい。
【0031】
連通区画81の船長方向の設置位置は、船首区画9に接する位置でもよい。具体的には図9に示すように貨物区画7と船首区画9を分離する水密の横隔壁である貨物倉隔壁21に接する位置でもよい。この構成では貨物倉隔壁21が連通区画81の船首側の横隔壁になる。連通区画81を船首区画9に隣接配置するのが好ましい理由は以下の通りである。
船首区画9は船体3において船長方向最先端に位置するため、操船時に概ね進行方向最先端に位置し、船内区画の中でも他船と衝突し易く、浸水し易い区画である。そこで浸水が起こりやすい船首区画9に連通区画81を隣接配置することで、浸水時のヒールの緩和に益々有利となる。
【0032】
船側水密区画79の船幅方向の幅は、液化ガスタンク17や、その支持構造と船側水密区画79が干渉しない範囲で適宜設定する。船側水密区画79をバラストタンクとして用いる場合は、必要な量のバラスト水を確保できる範囲で設定すればよい。
【0033】
連通区画81は少なくとも左右両舷に一対が設けられれば良いが、左右両舷に2対以上設けてもよい。ただし連通区画81の数が多くなるほど独立水密区画80の容積が小さくなり、舷側が損傷した際に浸水して浮力が失われる区画の容積が大きくなり、船体3の吃水が下がりすぎて沈没する恐れがある。さらに貨物区画7と連通していない独立水密区画80の容積が減るため、独立水密区画80をバラストタンクとして使用する場合にタンク容量が不足する可能性がある。よって連通区画81の数は浸水時に必要な浮力とタンク容量を確保できる範囲等を考慮して適宜設定する。
一対の連通区画81は、容積が同じであると、浸水時にヒールが生じ難くなるため好ましい。
また、同じ貨物区画7内の一対の連通区画81は船長方向の長さの差が小さいのが好ましく、同じ長さであるのが最も好ましい。例えば図4では船尾側貨物区画7aに設けられた左舷連通区画81aの船長方向長さLfa1と、右舷連通区画81bの船長方向長さLfb1は同じ長さであるのが好ましい。
【0034】
液化ガスタンク17を軽量化する観点からは液化ガスタンク17の数は少ない方が好ましく、1つであるのが最も好ましい。ただし液化ガスタンク17の数が減るほど貨物区画7内の水密区画の数が減って浸水時に喪失する浮力が増えることになる。また液化ガスタンク17は製造工場の設備の大きさで製造できるタンクサイズが制約される。そのため液化ガスタンク17の数は、浸水時に喪失が許容される浮力の観点で決定される貨物倉横隔壁31の数と船長方向の設置間隔、及び液化ガスタンク17を製造する工場が製造可能な液化ガスタンク17のタンクサイズで決まる。図1ではタンク数が2つの場合を例示しているが、浮力やタンクサイズの条件次第ではタンク数が1つでもよいし、3つでもよい。あるいは4つ以上でもよい。
以上が本実施形態に係る液化ガス運搬船1の構成の説明である。
【0035】
このように本実施形態の液化ガス運搬船1は、貨物区画7の船外側に配置した複数の船側水密区画79の一部を貨物区画7と連通させた左右両舷に一対の連通区画81とする。
この構成では一方の舷側から貨物区画7に浸水した場合に浸水が貨物区画7を介して他方に流れてヒールを緩和して復原性を確保するため、貨物区画7内の貨物倉横隔壁31の数を減らして船体重量を軽減する。貨物倉横隔壁31の数が減ると貨物区画7内の水密区画が船長方向に長くなるため、液化ガスタンク17のタンク長を長くすることができ、タンク容積を減らさずにタンク数を減らし、タンク重量を軽減する。
そのため、液化ガス運搬船1は船体重量を増加させずに衝突時のヒールを緩和でき、復原性の確保が可能である。
【0036】
以上、実施形態を参照して本発明を説明したが、本発明は実施形態に限定されない。当業者であれば、本発明の技術思想の範囲内において各種変形例及び改良例に想到するのは当然のことであり、これらも本発明に含まれる。
【符号の説明】
【0037】
1 :液化ガス運搬船
3 :船体
5 :機関区画
6 :コファーダム
7 :貨物区画
7a :船尾側貨物区画
7b :船首側貨物区画
9 :船首区画
11 :エンジンケーシング
13 :化粧煙突
15 :機関隔壁
16 :コファーダム隔壁
17 :液化ガスタンク
17a :バイローブタンク
19 :貨物タンクカバー
21 :貨物倉隔壁
23 :船橋
31 :貨物倉横隔壁
61 :暴露甲板
62 :連結壁
63 :トップサイドタンク
71 :船底
73 :船側外板
75 :内側側壁
77 :船側内横隔壁
79 :船側水密区画
80 :独立水密区画
81 :連通区画
81a :左舷連通区画
81b :右舷連通区画
83 :連通部
85 :一体型水密区画
91 :二重底区画
93 :底面
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9