(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-13
(45)【発行日】2024-09-25
(54)【発明の名称】スプール位置推定装置、航空機用油圧アクチュエータ装置、スプール位置推定方法、スプール位置推定プログラム
(51)【国際特許分類】
F16K 31/06 20060101AFI20240917BHJP
B64C 13/40 20060101ALI20240917BHJP
F16K 37/00 20060101ALI20240917BHJP
【FI】
F16K31/06 320A
B64C13/40
F16K37/00 D
(21)【出願番号】P 2020116649
(22)【出願日】2020-07-06
【審査請求日】2023-06-06
(73)【特許権者】
【識別番号】503405689
【氏名又は名称】ナブテスコ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105924
【氏名又は名称】森下 賢樹
(72)【発明者】
【氏名】安井 努
【審査官】藤森 一真
(56)【参考文献】
【文献】特開平05-045395(JP,A)
【文献】特許第6502554(JP,B1)
【文献】特開2020-016301(JP,A)
【文献】特開平09-014486(JP,A)
【文献】国際公開第2020/121086(WO,A1)
【文献】特開平03-182607(JP,A)
【文献】特開2019-113140(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0370754(US,A1)
【文献】特開2020-174514(JP,A)
【文献】特開2019-015657(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16K 31/06 - 31/11
F16K 37/00
G01B 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電磁弁のスプールを駆動するソレノイドに高周波信号を供給する供給部と、
前記高周波信号が供給された状態における前記ソレノイドに関する電気的情報を取得する取得部と、
前記取得部で取得された前記電気的情報と前記供給部から供給された前記高周波信号との
差分に基づいて前記スプールの位置を推定する推定部と
を備える電磁弁のスプール位置推定装置。
【請求項2】
予め取得したスプールの位置と当該位置に対応するソレノイドに関する電気的情報との対応関係情報を記憶する記憶部を備え、
前記推定部は前記対応関係情報を用いて前記スプールの位置を推定する
請求項1に記載のスプール位置推定装置。
【請求項3】
予め取得したスプールの位置と当該位置に対応するソレノイドに関する電気的情報とをもとに機械学習により生成されたスプール位置推定モデルを記憶する記憶部を備え、
前記推定部は前記スプール位置推定モデルを用いて前記スプールの位置を推定する
請求項1または2に記載のスプール位置推定装置。
【請求項4】
前記推定部は前記電気的情報からデジタルフィルタによって抽出された前記高周波信号の周波数成分と前記高周波信号との
差分に基づいて前記スプールの位置を推定する
請求項1から3のいずれかに記載のスプール位置推定装置。
【請求項5】
前記高周波信号は正弦波または矩形波である
請求項1から4のいずれかに記載のスプール位置推定装置。
【請求項6】
前記ソレノイドに関する電気的情報は前記ソレノイドの逆起電力を含む
請求項1から5のいずれかに記載のスプール位置推定装置。
【請求項7】
航空機の被駆動体を駆動する油圧アクチュエータと、
前記油圧アクチュエータを制御する電磁弁と、
前記電磁弁のスプールを駆動するソレノイドに高周波信号を供給する供給部と、
前記高周波信号が供給された状態における前記ソレノイドに関する電気的情報を取得する取得部と、
前記取得部で取得された前記電気的情報と前記供給部から供給された前記高周波信号との
差分に基づいて前記スプールの位置を推定する推定部と
を備える航空機用油圧アクチュエータ装置。
【請求項8】
電磁弁のスプールを駆動するソレノイドに高周波信号を供給するステップと、
前記高周波信号が供給された状態における前記ソレノイドに関する電気的情報を取得する取得ステップと、
前記取得ステップで取得された前記電気的情報と供給された前記高周波信号との
差分に基づいて前記スプールの位置を推定する推定ステップと
を含む電磁弁のスプール位置推定方法。
【請求項9】
電磁弁のスプールを駆動するソレノイドに高周波信号を供給するステップと、
前記高周波信号が供給された状態における前記ソレノイドに関する電気的情報を取得する取得ステップと、
前記取得ステップで取得された前記電気的情報と供給された前記高周波信号との
差分に基づいて前記スプールの位置を推定する推定ステップと
を含む処理をコンピュータに実行させるための電磁弁のスプール位置推定プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スプール位置推定装置、航空機用油圧アクチュエータ装置、スプール位置推定方法、スプール位置推定プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、油圧システムに用いられる電磁切換弁が記載されている。この電磁切換弁は、ソレノイドのコイルを通電励磁して可動鉄心を固定鉄心に吸着移動させることによって、該可動鉄心に連動する弁スプールの位置が軸方向に変位してポート接続が切換えられ、油圧回路の流路を切り換えるものである。この電磁切換弁は、弁スプールの一方の端部側にソレノイドを備えており、ソレノイドの通電状態に応じて可動鉄心とともに弁スプールが所定位置に移動する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
油圧アクチュエータのモード切替にはソレノイドによって駆動される電磁弁による切替機構が使用される。この電磁弁では、スプールに加わる外力などにより、スプール位置が目標位置からずれ、モード切替が不完全になる場合がある。このため、スプール位置を検知する位置センサを取り付けることも考えられるが、この場合は部品点数が増えて小型軽量化の観点で不利である。
【0005】
特許文献1に記載の電磁切換弁は、多数の構成要素を組み合わせて構成されており、構成が複雑であるため、小型軽量化に十分に対応できるとはいえない。
【0006】
本発明は、こうした課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、簡易な構成で電磁弁のスプール位置を推定可能なスプール位置推定装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明のある態様の電磁弁のスプール位置推定装置は、電磁弁のスプールを駆動するソレノイドに高周波信号を供給する供給部と、高周波信号が供給された状態におけるソレノイドに関する電気的情報を取得する取得部と、取得部で取得された電気的情報と供給部から供給された高周波信号との比較結果に基づいてスプールの位置を推定する推定部とを備える。
【0008】
なお、以上の任意の組み合わせや、本発明の構成要素や表現を方法、装置、プログラム、プログラムを記録した一時的なまたは一時的でない記憶媒体、システムなどの間で相互に置換したものもまた、本発明の態様として有効である。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、簡易な構成で電磁弁のスプール位置を推定可能なスプール位置推定装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】第1実施形態に係る位置推定装置を備えたアクチュエータ装置を概略的に示す図である。
【
図2】
図1のアクチュエータ装置を示すブロック図である。
【
図5】高周波信号および駆動電圧の一例を示す波形図である。
【
図6】
図3の対応関係テーブルのデータを模式的に示す図である。
【
図8】
図7の位置推定モデルのデータセットを模式的に示す図である。
【
図9】
図7の位置推定モデルを模式的に示す図である。
【
図10】
図1のアクチュエータ装置の位置制御システムの一例を示すブロック図である。
【
図11】電磁弁のスプール位置推定方法の一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本開示の概要を説明する。例えば、油圧アクチュエータのモード切替にソレノイドを有する電磁弁による切替機構を用いることが考えられる。しかし、ソレノイドの可動子(例えば可動鉄心)の位置を検知しない構成では、実際に油圧アクチュエータのモードが切り替わったか否かは、アクチュエータの挙動から推測することになる。この場合、確実にモードが切り替わっているか否かは、実際に作動するまで確認できないため、レイテント(潜在的)な故障モードを誘発する可能性も考えられる。
【0012】
電磁弁のスプール位置を検知するために、位置センサーを用いることが考えられる。例えば、LVDT(Linear Variable Differential Transformer:(線形可変差動変圧器)やリニアポテンショメータ等の位置センサーをソレノイドに付加してスプール位置を測定し、油圧アクチュエータのモード切替が確実に行われていたか確認することが考えられる。この場合、スプール位置を検知する為にLVDT等の位置センサーおよびその周辺電子回路を付加するため、構造が複雑になり、重量が増え、大型化するなどの懸念がある。また、部品点数が増えることにより、作動油の漏洩、信頼性およびコストパフォーマンスの悪化などの懸念もある。
【0013】
本発明者は、部品点数を削減してコスト及び故障率を改善し、また信頼性を向上する観点から、LVDT等の位置センサーを用いることなく、電磁弁のスプール位置を検知する技術を案出した。この技術では、まず、電磁弁のスプールを駆動するソレノイドに高周波信号を供給する。高周波信号が供給された状態のソレノイドに関する電気的情報を取得する。取得した電気的情報と供給部から供給された高周波信号との比較結果に基づいてスプールの位置を推定する。スプールは可動子と連動するので、可動子の位置からスプール位置を推定できる。この場合、簡易な構成で電磁弁のスプール位置を推定できる。
【0014】
高周波信号は、ソレノイドの駆動電圧に重畳できる。ソレノイドに関する電気的情報は、ソレノイドの駆動電圧および駆動電流、ソレノイドに発生する逆起電力等であってもよい。これらの電気的情報は、ソレノイドのコイルと可動子の相対位置によって変化するため、逆起電力と電流の振幅や位相を元の高周波信号と比較することでスプール位置を推定できる。また、逆起電力はスプールの移動速度に略比例するため、逆起電力の変化から電磁弁の劣化状態を把握できる。また、この技術によれば、可動子の移動速度も推定できるため、被駆動体の質量や負荷を推定できる。
以下、本開示の構成について実施形態を参照して詳述する。
【0015】
以下、本発明を好適な実施形態をもとに各図面を参照しながら説明する。実施形態および変形例では、同一または同等の構成要素、部材には、同一の符号を付するものとし、適宜重複した説明は省略する。また、各図面における部材の寸法は、理解を容易にするために適宜拡大、縮小して示される。また、各図面において実施形態を説明する上で重要ではない部材の一部は省略して表示する。
【0016】
また、第1、第2などの序数を含む用語は多様な構成要素を説明するために用いられるが、この用語は一つの構成要素を他の構成要素から区別する目的でのみ用いられ、この用語によって構成要素が限定されるものではない。
【0017】
[第1実施形態]
図1、
図2を参照して、本発明の第1実施形態に係る位置推定装置100を説明する。
図1は、位置推定装置100を備えるアクチュエータ装置10を概略的に示す図である。アクチュエータ装置10の用途に限定はなく、油圧や空圧により駆動力を生成する各種の動力源として使用できる。
図1の例では、アクチュエータ装置10は、航空機1の尾翼の舵面、主翼の可動翼および滑走用の車輪を支持する脚の少なくとも1つの被駆動体2に駆動力を付与する装置として使用される。主翼の可動翼としては、主翼のエルロン2a、フラップ2bが挙げられる。尾翼の舵面としては、尾翼の方向舵2c、昇降舵2dなどが挙げられる。滑走用の車輪を支持する着陸脚としては、主翼に設けられる主脚2fと、胴体に設けられる胴体脚2gなどが挙げられる。
【0018】
図2は、アクチュエータ装置10を示すブロック図である。アクチュエータ装置10は、位置推定装置100と、バルブユニット50とを含む。バルブユニット50は、駆動部40と、電磁弁52と、油圧アクチュエータ56とを含む。電磁弁52は、ソレノイド44とスプール54とを含み、ソレノイドバルブと称されることがある。油圧アクチュエータ56は、ピストン58を含む。
【0019】
駆動部40は、上位制御システムから供給される制御信号CNTに基づいて電磁弁52のソレノイド44を駆動するために駆動電圧D0を出力する駆動回路として機能する。駆動電圧D0は、制御信号CNTに基づいて振幅が変化する交流または直流であってもよい。本実施形態の駆動電圧D0は制御信号CNTに基づいてデューティ比が変化するPWM電圧である。駆動電圧D0には、後述する高周波信号Shが重畳されて駆動電圧D1となる。
【0020】
ソレノイド44は、コイル46と可動子48とを含む。スプール54は、シャフト48sを介して可動子48に接続されており、可動子48の移動に連動して移動する。駆動電圧D1が供給されると、ソレノイド44のコイル46には駆動電圧D1に応じて駆動電流が流れる。駆動電流がコイル46に流れることによりコイル46の内部に磁界が発生する。可動子48は、コイル46が磁界を発生させるとシャフト48sを介してスプール54を押し出す方向(図中で下向き)に移動し、磁界がなくなるとスプリング(不図示)の付勢力により反対方向(図中で上向き)に移動する。つまり、スプール54の位置(以下、「スプール位置」という)は、可動子48位置に連動して、駆動電圧D1に応じて変化する。電磁弁52は、スプール位置が変化することにより油圧の供給経路を切り替えて油圧アクチュエータ56を制御する。油圧アクチュエータ56は、電磁弁52の制御に基づいてピストン58に油圧を加え、ピストン58に接続された被駆動体2を駆動する。
【0021】
位置推定装置100は、電磁弁52のスプールの位置を推定する。上位制御システムは、位置推定装置100の推定結果Esに応じて、制御信号CNTを変化させる。例えば、上位制御システムは、スプール位置の変化量が不足している場合、ソレノイド44の駆動力を増加させるように駆動部40を制御する。
【0022】
図2に示すように、位置推定装置100は、供給部20と、取得部24と、推定部30とを備える。供給部20は、電磁弁52のスプール54を駆動するソレノイド44に高周波信号Shを供給する。取得部24は、高周波信号Shが供給された状態におけるソレノイド44に関する電気的情報Jeを取得する。推定部30は、取得部24で取得された電気的情報Jeと供給部20から供給された高周波信号Shとの比較結果に基づいてスプール54の位置を推定する。電気的情報Jeと高周波信号Shとの比較結果は、後述する振幅差Cpによって例示される。
【0023】
図3は、推定部30を示すブロック図である。
図3を含む各図に示す各機能ブロックは、ハードウェア的には、コンピュータのCPUをはじめとする電子素子や機械部品などで実現でき、ソフトウェア的にはコンピュータプログラムなどによって実現されるが、ここでは、それらの連携によって実現される機能ブロックを描いている。したがって、これらの機能ブロックはハードウェア、ソフトウェアの組合せによっていろいろなかたちで実現できることは、当業者には理解されるところである。
【0024】
図4は、供給部20を示すブロック図である。供給部20は、信号発生部20gと、信号注入部20jとを含む。信号発生部20gは、高周波信号Shの元となる源信号Gsを発生する。信号注入部20jは、源信号Gsを増幅して駆動電圧D0に重畳する。高周波信号Shは、正弦波、矩形波または3以上のレベルの間でステップ状に変化する階段波など各種の波形を有し得る。本実施形態の高周波信号Shは、正弦波または矩形波である。ここで、正弦波は、厳密な正弦波に限定されず、三角波または台形波と称される波形を含む。
【0025】
図5は、駆動電圧D0、高周波信号Sh、駆動電圧D1および電流波形Icの一例を示す波形図である。電流波形Icは、駆動電圧D1によってコイル46に流れる駆動電流の電流波形であり、駆動電圧D1によって生じる。この例では、駆動電圧D0は、ハイレベルとローレベルを有するPWM波形であり、高周波信号Shは正弦波である。ハイレベルは駆動部40のオン期間であり、ローレベルは駆動部40のオフ期間である。駆動電圧D1は、駆動電圧D0のハイレベルとローレベルの少なくとも一方に重畳されている。高周波信号Shの振幅は、駆動電圧D0よりも小さく設定される。高周波信号Shの周波数は、ソレノイド44が応答できない高さに設定される。
【0026】
電流波形Icにおいて、高周波信号Shによって生じる高周波成分は、コイル46のインダクタンスの大きさによって変化する。例えば、可動子48がコイル46から離れており、コイル46のインダクタンスが小さいときは電流波形Icの高周波成分の振幅は大きくなる(
図5のAで示す領域)。可動子48がコイル46に接近しており、コイル46のインダクタンスが大きくなれば電流波形Icの高周波成分の振幅は小さくなる(
図5のBで示す領域)。したがって、駆動電流Icの電流波形高周波成分の振幅の大きさによってコイル46に対する可動子48の位置(すなわちスプール位置)を推定できる。
【0027】
図5の例で示すように、PWM波形の繰り返し周期は、高周波信号Shの繰り返し周期より長いことが望ましい。一例として、PWM波形の周波数が6kHz~8kHzである場合に、高周波信号Shの周波数は10kHz以上であってもよい。高周波信号Shの周波数は、PWM波形の周波数の2倍以上が好ましく、4倍以上はより好ましく、10倍以上は一層好ましい。高周波信号Shの周波数が過度に高いと、推定部30の動作が追いつかず誤動作することが考えられる。このため、高周波信号Shの周波数は100kHz以下であってもよい。
【0028】
この例の取得部24は、電気的情報Jeとして駆動電圧D1とコイル46に流れる駆動電流Icとを取得する。駆動電流Icのセンサとしては、DCCT(直流カレントトランス)や電流センス抵抗など、種々の電流センサを採用できる。本実施形態では、ホール効果を利用して駆動電流Icの周りに生じる磁界を電圧に変換するホール素子方式電流センサである。この場合、直流から高周波まで電流に比例した出力が得られる点で有利である。
【0029】
図3に示すように、推定部30は、第1受信部30aと、第2受信部30bと、第3受信部30cと、高周波成分抽出部30eと、逆起電力抽出部30fと、振幅比較部30gと、位置推定部30jとを有する。第1受信部30aは、供給部20から高周波信号Shを受信する。第2受信部30bは、取得部24で取得された電気的情報Jeのうち駆動電流Icを受信する。第3受信部30cは、取得部24で取得された電気的情報Jeのうち駆動電圧D1を受信する。高周波成分抽出部30eは、駆動電流Icから高周波信号Shの周波数成分Ihを抽出するデジタルフィルタである。一例として、周波数成分Ihはフーリエ変換を用いて抽出できる。
【0030】
逆起電力抽出部30fは、駆動電流Icと駆動電圧D1とから逆起電力Ebを抽出する。一例として、逆起電力Ebは、コイル46の抵抗値に駆動電流Icを乗じた結果(電圧降下)と駆動電圧D1との差分を得る演算により抽出できる。振幅比較部30gは、高周波信号Shの振幅と周波数成分Ihの振幅とを比較し、これらの振幅差Cpを特定する。振幅比較部30gは、公知の振幅比較器を用いて構成できる。位置推定部30jは、振幅差Cpに基づいて、対応関係テーブル32dを用いて、スプール位置の推定結果Esを特定する。
【0031】
記憶部32は、予め取得したスプール54の位置Psと当該位置Psに対応するソレノイド44に関する電気的情報Jeとの対応関係情報として対応関係テーブル32dを記憶している。位置Psおよび電気的情報Jeは、実験、シミュレーションまたはこれらの組合せによって予め取得することができる。記憶部32は、推定部30に含まれてもよいし、推定部30とは別に設けられて公知の情報伝達機構により接続されてもよい。記憶部32は、1つの位置推定装置100に対応して1つ設けられてもよいし、複数の位置推定装置100に対応して1つ設けられてもよい。
【0032】
図6を参照して、対応関係テーブル32dを説明する。
図6は、対応関係テーブル32dのデータを模式的に示す図である。発明者の検討により、コイル46と可動子48の相対位置によってコイル46のインダクタンスが変化し、駆動電圧D1に対する駆動電流Icの振幅が変化するため、振幅差Cpと可動子48の位置(スプール位置)との間には一定の相関があることが判明している。
【0033】
本実施形態の対応関係テーブル32dは、予め実測されたスプール位置(Ps(0)、Ps(1)・・・)に対応する振幅差(Cp(0)、Cp(1)・・・)と逆起電力(Eb(0)、Eb(1)・・・)の対応関係を示す図である。対応関係テーブル32dは、予め実験により実測された測定値に基づいて生成できる。例えば、電磁弁52にスプール54の位置を検知するためのセンサを取り付け、電磁弁52を作動させ、スプール位置Psを変化させながら対応する振幅差Cpと逆起電力Ebとを計測してもよい。
【0034】
位置推定部30jは、振幅差Cpをキーにして対応関係テーブル32dを用いて、スプール位置Psを特定する。またこの例では、位置推定部30jは、逆起電力Ebをキーにして対応関係テーブル32dを用いて、スプール位置Psを特定している。位置推定部30jは、振幅差Cpから特定したスプール位置Psと、逆起電力Ebから特定したスプール位置Psとの一方を推定結果Esとして出力してもよいし、両方を推定結果Esとして出力してもよい。本実施形態では、位置推定部30jは、振幅差Cpから特定したスプール位置Psと、逆起電力Ebから特定したスプール位置Psの平均を推定結果Esとして出力する。複数の電気的情報に基づいてスプール位置Psを推定するため、推定精度が高い。また、逆起電力Ebは可動子48の移動速度に略比例するため、逆起電力Ebの変化から電磁弁52の劣化状態、負荷状態等を把握できる。
【0035】
図7、
図8、
図9を参照して、位置推定モデル32mを用いてスプール位置Psを推定する推定部30の別例を説明する。
図7は、推定部30の別例を示すブロック図であり、
図3に対応する。
図8は、位置推定モデル32mのデータセット32nを模式的に示す図である。
図9は、位置推定モデル32mを模式的に示す図である。
図7の位置推定部30jは、スプール位置Psを推定するために、対応関係テーブル32dに代えて位置推定モデル32mを用いる点で
図3の例と相違し、他の構成は同様である。
【0036】
位置推定モデル32mは、スプール位置Psと、当該位置Psに対応するソレノイド44に関する電気的情報Jeとをもとに予め機械学習により生成される。この例では、位置推定モデル32mは、
図9に示すように、予め取得されたスプール位置(Ps(0)、Ps(1)・・・)と、振幅差(Cp(0)、Cp(1)・・・)と、逆起電力(Eb(0)、Eb(1)・・・)と、駆動電流(Ic(0)、Ic(1)・・・)とをデータセット32nとし、このデータセット32nを教師データとして機械学習(教師有り学習)により生成している。
【0037】
位置推定モデル32mは、例えば、サポートベクターマシン、ニューラルネットワーク(ディープラーニングを含む)、ランダムフォレスト等、公知の機械学習手法を用いて生成できる。位置推定モデル32mは、記憶部32に格納される。位置推定モデル32mは、当該電磁弁52の実測値をもとに生成されてもよいし、他の同種のソレノイドバルブについて収集された過去の実測値をもとに生成されてもよい。
【0038】
位置推定部30jは、
図9に示すように、新たに取得された振幅差Cpと、逆起電力と、駆動電流Icとを入力データとして位置推定モデル32mに入力し、位置推定モデル32mから出力データとしてスプール位置Psを得る。位置推定部30jは、位置推定モデル32mから得られたスプール位置Psを推定結果Esとして出力する。
【0039】
このように構成された本実施形態の位置推定装置100の特徴を説明する。位置推定装置100は、電磁弁52のスプール54を駆動するソレノイド44に高周波信号Shを供給する供給部20と、高周波信号Shが供給された状態におけるソレノイド44に関する電気的情報Jeを取得する取得部24と、取得部24で取得された電気的情報Jeと供給部20から供給された高周波信号Shとの比較結果に基づいてスプール54の位置を推定する推定部30とを備える。
【0040】
この構成によれば、位置センサを使用せずに簡易な構成で電磁弁のスプール位置を推定できるので、小型軽量化に有利である。また、相対的な比較結果に基づいて推定するため、高周波信号の変化による影響が打ち消され、推定精度の低下を防止できる。また、油圧アクチュエータのモードが切り替わったか否かを高精度に推定できるので、潜在的な故障モードの見落としを防止できる。
【0041】
位置推定装置100は、予め取得したスプール54の位置Psと、当該位置Psに対応するソレノイド44に関する電気的情報Jeとの対応関係情報を記憶する記憶部32を備える。推定部30は、対応関係情報を用いてスプール54の位置Psを推定する。この場合、予め記憶された対応関係情報を用いて推定するので、高い推定精度を得られる。
【0042】
位置推定装置100は、予め取得したスプール54の位置Psと、当該位置Psに対応するソレノイド44に関する電気的情報Jeとをもとに機械学習により生成された位置推定モデル32mを記憶する記憶部32を備える。推定部30は、位置推定モデル32mを用いてスプール54の位置Psを推定する。この場合、機械学習により予め生成された位置推定モデルを用いて推定するので、データ処理の高速化に有利であり、高い推定精度を得られる。
【0043】
本実施形態では、推定部30は、電気的情報Jeからデジタルフィルタによって抽出された高周波信号Shの周波数成分Chと高周波信号Shとの比較結果に基づいてスプール54の位置Psを推定する。この場合、周波数成分Chと高周波信号Shとの振幅差に基づいて推定できるので、波形の歪み、温度変化、経時変化等の環境変化の影響による推定精度の低下を抑制できる。
【0044】
本実施形態では、高周波信号Shは、正弦波または矩形波である。この場合、外部からのランダムなノイズの影響を受けにくく、外部ノイズによる推定精度の低下を抑制できる。
【0045】
本実施形態では、ソレノイド44に関する電気的情報Jeは、ソレノイド44の逆起電力Ebを含む。この場合、逆起電力Ebから可動子48の移動速度に関する情報を抽出できるので、移動速度の変化から電磁弁52の劣化状態を把握できる。
【0046】
次に、本実施形態の位置推定装置100を備えるアクチュエータ装置10の位置制御システム90を説明する。
図10は、アクチュエータ装置10の位置制御システム90を示すブロック図である。
図10に示す位置制御システム90は、第1フィードバックループ70と、第2フィードバックループ80とを有する。第1フィードバックループ70は、アクチュエータ装置10の油圧アクチュエータ56のピストン58の位置Pqをフィードバックする。第2フィードバックループ80は、電磁弁52のスプール位置Psの推定結果Esをフィードバックする。
【0047】
第1フィードバックループ70は、油圧アクチュエータ56と、LVDT62と、第1誤差増幅器72とを含む。LVDT62は、ピストン58の位置Pqを検知する。第1誤差増幅器72は、位置指令信号Acmdとピストン58の位置Pqとの差(ピストン位置の誤差)を増幅してスプール位置の指令信号Pcmdを駆動部40に供給する。アクチュエータの位置指令信号Acmdは、上位制御システムから供給される。第1フィードバックループ70は、ピストン58の位置Pqが位置指令信号Acmdに追従するように制御を行う。
【0048】
第2フィードバックループ80は、位置制御システム90は、位置推定装置100と、駆動部40と、電磁弁52と、第2誤差増幅器84とを含む。第2誤差増幅器84は、スプール位置の指令信号Pcmdと推定結果Esとの差(スプール位置の誤差)を増幅して制御信号CNTを駆動部40に供給する。駆動部40は、制御信号CNTに基づいて電磁弁52を駆動する。電磁弁52は、駆動部40の駆動に応じて油圧アクチュエータ56を駆動する。第2フィードバックループ80は、推定結果Esが指令信号Pcmdに追従するように制御を行う。
【0049】
以下、本発明の第2~第4実施形態を説明する。第2~第4実施形態の図面および説明では、第1実施形態と同一または同等の構成要素、部材には、同一の符号を付する。第1実施形態と重複する説明を適宜省略し、第1実施形態と相違する構成について重点的に説明する。
【0050】
[第2実施形態]
本発明の第2実施形態は、航空機用油圧アクチュエータ装置10である。アクチュエータ装置10は、航空機1の被駆動体2を駆動する油圧アクチュエータ56と、油圧アクチュエータ56を制御する電磁弁52と、電磁弁52のスプール54を駆動するソレノイド44に高周波信号Shを供給する供給部20と、高周波信号Shが供給された状態におけるソレノイド44に関する電気的情報Jeを取得する取得部24と、取得部24で取得された電気的情報Jeと供給部20から供給された高周波信号Shとの比較結果に基づいてスプール54の位置を推定する推定部30とを備える。アクチュエータ装置10は、システムであってもよい。
【0051】
本実施形態によれば、第1実施形態と同様の作用および効果を奏する。加えて、位置センサが不要で部品点数が少ないため、信頼性を向上可能な航空機用油圧アクチュエータ装置を提供できる。
【0052】
[第3実施形態]
本発明の第3実施形態は、電磁弁52のスプール位置推定方法S110である。
図11は、位置推定方法S110の一例を示すフローチャートである。スプール位置推定方法S110は、電磁弁52のスプール54を駆動するソレノイド44に高周波信号Shを供給するステップS112と、高周波信号Shが供給された状態におけるソレノイド44に関する電気的情報Jeを取得する取得ステップS114と、取得ステップS114で取得された電気的情報Jeと供給された高周波信号Shとの比較結果に基づいてスプール54の位置を推定する推定ステップS116とを含む。
【0053】
本実施形態によれば、第1実施形態と同様の作用および効果を奏する。
【0054】
[第4実施形態]
本発明の第4実施形態は、電磁弁のスプール位置推定プログラム(コンピュータプログラム)である。本実施形態の位置推定プログラムは、電磁弁52のスプール54を駆動するソレノイド44に高周波信号Shを供給するステップS112と、高周波信号Shが供給された状態におけるソレノイド44に関する電気的情報Jeを取得する取得ステップS114と、取得ステップS114で取得された電気的情報Jeと供給された高周波信号Shとの比較結果に基づいてスプール54の位置を推定する推定ステップS116とを含む処理をコンピュータに実行させる。
【0055】
本実施形態の位置推定プログラムの機能は、位置推定装置100の機能ブロックに対応する複数のモジュールが実装されたアプリケーションプログラムとして位置推定装置100のストレージ(不図示)にインストールされてもよい。この位置推定プログラムは、位置推定装置100の推定部30を構成するコンピュータのプロセッサ(例えばCPU)のメインメモリに読み出しされて実行されてもよい。
【0056】
本実施形態によれば、第1実施形態と同様の作用および効果を奏する。
【0057】
以上、本発明の実施形態の例について詳細に説明した。上述した実施形態は、いずれも本発明を実施するにあたっての具体例を示したものにすぎない。実施形態の内容は、本発明の技術的範囲を限定するものではなく、請求の範囲に規定された発明の思想を逸脱しない範囲において、構成要素の変更、追加、削除などの多くの設計変更が可能である。上述の実施形態では、このような設計変更が可能な内容に関して、「実施形態の」「実施形態では」等との表記を付して説明しているが、そのような表記のない内容に設計変更が許容されないわけではない。
【0058】
[変形例]
以下、変形例について説明する。変形例の図面および説明では、実施形態と同一または同等の構成要素、部材には、同一の符号を付する。実施形態と重複する説明を適宜省略し、第1実施形態と相違する構成について重点的に説明する。
【0059】
実施形態の説明では、バルブユニット50が、電磁弁52と、油圧アクチュエータ56とを含む例を示したが、本発明はこれに限定されない。電磁弁52は公知の様々な構成のソレノイドバルブであってもよい。例えば、バルブユニット50は、油圧アクチュエータを有せず、電磁弁52は、4ポート単動電磁弁、5ポート単動電磁弁等の単純なソレノイドバルブであってもよい。
【0060】
実施形態の説明では、対応関係テーブル32dまたは位置推定モデル32mを用いてスプール位置を推定する例を示したが、本発明はこれに限定されない。例えば、所定の閾値を設定し、振幅差Cpなどの比較結果が閾値を超えるか否かによってスプール位置を推定してもよい。
【0061】
実施形態の説明では、対応関係テーブル32dは3以上のスプール位置に対応するデータを含む例を示したが、本発明はこれに限定されない。例えば、対応関係テーブル32dは2以下のスプール位置に対応するデータであってもよい。
【0062】
実施形態の説明では、対応関係テーブル32dが、スプール位置に対応する振幅差Cpおよび逆起電力Ebのデータを含む例を示したが、本発明はこれに限定されない。例えば、対応関係テーブルは、振幅差または逆起電力のデータを含まないものであってもよい。
【0063】
実施形態の説明では、位置推定モデル32mは、振幅差Cp、逆起電力Ebおよび駆動電流Icの3つの入力データに基づいて推定を行う例を示したが、本発明はこれに限定されない。入力データに限定はなく、位置推定モデルは2以下または4以上の入力データに基づいて推定を行うものであってもよい。
【0064】
実施形態の説明では、バルブユニット50が、電磁弁52と、油圧アクチュエータ56とを含む例を示したが、本発明はこれに限定されない。油圧アクチュエータを含むことは必須ではない。
【0065】
実施形態の説明では、推定部30が駆動電流Icの周波数成分Ihと高周波信号Shとの比較結果に基づいてスプール位置を推定する例を示したが、本発明はこれに限定されない。例えば、推定部30は、逆起電力Ebと高周波信号Shとの比較結果に基づいてスプール位置を推定するものであってもよい。
【0066】
実施形態の説明では、推定部30が駆動電流Icの周波数成分Ihと高周波信号Shとの振幅の比較結果に基づいてスプール位置を推定する例を示したが、本発明はこれに限定されない。推定部は、周波数成分Ihと高周波信号Shとの位相の比較結果(位相差)に基づいてスプール位置を推定するものであってもよい。
【0067】
実施形態の説明では、コイル46は、駆動部40に電圧駆動される例を示したが、本発明はこれに限定されない。例えば、電流フォロワーアンプ等を用いてコイルを電流駆動し、コイルに一定の電流が流れるように制御してもよい。この場合、コイルのインダクタンスの変化に応じてコイル電圧が変化するので、コイル電圧の変化に基づいてスプール位置を推定できる。
【0068】
上述の変形例は、第1実施形態と同様の作用および効果を奏する。
【0069】
上述した各実施形態および変形例の任意の組み合わせもまた本発明の実施形態として有用である。組み合わせによって生じる新たな実施形態は、組み合わされる実施形態および変形例それぞれの効果をあわせもつ。
【符号の説明】
【0070】
10 アクチュエータ装置、 20 供給部、 24 取得部、 30 推定部、 32 記憶部、 32d 対応関係テーブル、 32m 位置推定モデル、 40 駆動部、 44 ソレノイド、 46 コイル、 48 可動子、 50 バルブユニット、 52 電磁弁、 54 スプール、 56 油圧アクチュエータ、 100 位置推定装置。