(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-13
(45)【発行日】2024-09-25
(54)【発明の名称】シミュレーション方法、シミュレーション装置、膜形成装置、物品の製造方法及びプログラム
(51)【国際特許分類】
H01L 21/027 20060101AFI20240917BHJP
B29C 59/02 20060101ALI20240917BHJP
【FI】
H01L21/30 502D
B29C59/02 Z
(21)【出願番号】P 2020128506
(22)【出願日】2020-07-29
【審査請求日】2023-05-10
(73)【特許権者】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003281
【氏名又は名称】弁理士法人大塚国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】相原 泉太郎
(72)【発明者】
【氏名】大口 雄一郎
【審査官】今井 彰
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-212833(JP,A)
【文献】特開2019-201146(JP,A)
【文献】特開2017-163040(JP,A)
【文献】特開2010-183076(JP,A)
【文献】特開2011-038947(JP,A)
【文献】特開2014-211440(JP,A)
【文献】米国特許第07360851(US,B1)
【文献】米国特許出願公開第2015/0017329(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/027、21/30
G03F 7/00
B29C 59/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1部材の上に配置された硬化性組成物の複数の液滴と第2部材とを接触させ、前記第1部材と前記第2部材との間の空間に前記硬化性組成物の膜を形成する処理における前記硬化性組成物の挙動を予測するシミュレーション方法であって、
前記硬化性組成物の複数の液滴のそれぞれについて、隣接する液滴との接合の度合いに関する情報である接合情報を求める第1工程と、
前記第1工程で求めた前記接合情報と前記複数の液滴の広がり状態を示す情報とをともに表示する第2工程と、
を有することを特徴とするシミュレーション方法。
【請求項2】
前記第1工程では、前記接合情報として、前記硬化性組成物の複数の液滴のそれぞれについて、当該液滴の輪郭の全周のうちの隣接する液滴の輪郭と接している部分の割合を求めることを特徴とする請求項1に記載のシミュレーション方法。
【請求項3】
前記硬化性組成物の複数の液滴のそれぞれをノードとし、前記ノードを接続して生成されるリンクのそれぞれについて、前記リンクを構成する液滴が接合しているリンクを閉リンクと判定する工程を更に有し、
前記第1工程では、前記接合情報として、前記硬化性組成物の複数の液滴のそれぞれについて、当該液滴のリンクのうちの前記閉リンクの割合を求めることを特徴とする請求項1に記載のシミュレーション方法。
【請求項4】
前記第2工程では、前記第1工程で求めた前記割合を色で表示することを特徴とする請求項2又は3に記載のシミュレーション方法。
【請求項5】
前記硬化性組成物の複数の液滴のそれぞれをノードとし、前記ノードを接続して生成されるリンクのそれぞれについて、前記リンクを構成する液滴が接合しているリンクを閉リンクと判定する工程を更に有し、
前記第1工程では、前記接合情報として、互いに隣接する複数の前記閉リンクによって形成される閉領域に含まれる気泡の量を求めることを特徴とする請求項1に記載のシミュレーション方法。
【請求項6】
前記第2工程では、前記第1工程で求めた前記気泡の量を円の大きさで表示することを特徴とする請求項5に記載のシミュレーション方法。
【請求項7】
前記第1工程で求めた前記接合情報に基づいて、前記処理における前記硬化性組成物の挙動の異常の有無を判定する第3工程を更に有することを特徴とする請求項1乃至6のうちいずれか1項に記載のシミュレーション方法。
【請求項8】
前記第3工程で判定した前記処理における前記硬化性組成物の挙動の異常の有無を示す情報と前記硬化性組成物の複数の液滴の広がり状態を示す情報とをともに表示する第4工程を更に有することを特徴とする請求項7に記載のシミュレーション方法。
【請求項9】
前記第3工程では、前記処理における前記硬化性組成物の挙動に異常があると判定した場合に、前記硬化性組成物の複数の液滴のうち前記異常が発生している液滴を特定することを特徴とする請求項8に記載のシミュレーション方法。
【請求項10】
前記第3工程で特定した前記異常が発生している液滴を、前記異常が発生していない液滴と識別可能に表示する第5工程を更に有することを特徴とする請求項9に記載のシミュレーション方法。
【請求項11】
前記第5工程では、前記第3工程で特定した前記異常が発生している液滴と、前記異常が発生していない液滴とを互いに異なる色で表示することを特徴とする請求項10に記載のシミュレーション方法。
【請求項12】
前記第5工程では、前記第3工程で特定した前記異常が発生している液滴を点滅させることを特徴とする請求項10に記載のシミュレーション方法。
【請求項13】
第1部材の上に配置された硬化性組成物の複数の液滴と第2部材とを接触させ、前記第1部材と前記第2部材との間の空間に前記硬化性組成物の膜を形成する処理における前記硬化性組成物の挙動を予測するシミュレーション装置であって、
前記硬化性組成物の複数の液滴のそれぞれについて、隣接する液滴との接合の度合いに関する情報である接合情報を求め、前記接合情報と前記複数の液滴の広がり状態を示す情報とをともにディスプレイに表示させるプロセッサ、
を含むことを特徴とするシミュレーション装置。
【請求項14】
請求項13に記載のシミュレーション装置が組み込まれた膜形成装置であって、
第1部材を保持する第1保持部と、
第2部材を保持する第2保持部と、
前記第1保持部と前記第2保持部
とのうち少なくとも一方を駆動す
る駆動部と、
前記駆動部を制御する制御部と、を有し、
前記制御部は、前
記駆動部
の駆動
を制御して
、前記第1部材と前記第2部材との相対位置を調整し、前記シミュレーション装置による前記第1部材の上に配置された硬化性組成物の挙動の予測に基づいて、前記硬化性組成物の複数の液滴と前記第2部材とを接触させ、前記第1部材と前記第2部材との間の空間に前記硬化性組成物の膜を形成する処理を行う、
ことを特徴とする膜形成装置。
【請求項15】
請求項1乃至12のいずれか1項に記載のシミュレーション方法を繰り返しながら、第1部材の上に配置された硬化性組成物の複数の液滴と第2部材とを接触させ、前記第1部材と前記第2部材との間の空間に前記硬化性組成物の膜を形成する処理の条件を決定する工程と、
前記条件に従って前記処理を実行する工程と、
を含むことを特徴とする物品の製造方法。
【請求項16】
請求項1乃至12のうちいずれか1項に記載のシミュレーション方法をコンピュータに実行させることを特徴とするプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シミュレーション方法、シミュレーション装置、膜形成装置、物品の製造方法及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
基板上に硬化性組成物を配置し、硬化性組成物を型と接触させ、硬化性組成物を硬化させることによって基板上に硬化性組成物からなる膜を形成する膜形成技術がある。このような膜形成技術は、インプリント技術や平坦化技術に適用される。インプリント技術では、パターンを有する型を用いて、基板上の硬化性組成物と型のパターンとを接触させて硬化性組成物を硬化させることによって基板上の硬化性組成物に型のパターンが転写される。平坦化技術では、平坦面を有する型を用いて、基板上の硬化性組成物と平坦面とを接触させて硬化性組成物を硬化させることによって平坦な上面を有する膜が形成される。
【0003】
基板上には、硬化性組成物が液滴の状態で配置され、その後、硬化性組成物の液滴に型が押し付けられる。これにより、基板上の硬化性組成物の液滴が広がって硬化性組成物の膜が形成される。この際、厚さが均一な硬化性組成物の膜を形成することや膜に気泡が残存しないことなどが重要であり、これを実現するために、硬化性組成物の液滴の配置や硬化性組成物への型の押し付けの方法及び条件などが調整される。このような調整を、装置を用いた試行錯誤によって実現するためには、膨大な時間と費用とを必要とする。そこで、このような調整を支援するシミュレータの開発が望まれている。
【0004】
特許文献1には、パターン形成面に配置された複数の液滴の濡れ広がり及び合一(液滴の接合)を予測するためのシミュレーション方法、及び、それを利用した液滴配置パターンの生成方法が開示されている。特許文献1には、生成された液滴配置パターンに対して液滴の高さ分布を算出し、かかる液滴の高さ分布が所定の範囲内に収まるように液滴の配置を調整することも開示されている。
【0005】
一方、インプリント処理では、硬化性組成物の液滴間に閉じ込められた気泡の量を把握することが必要である。これは、硬化性組成物の液滴間に閉じ込められた気泡の量が多い箇所において、型の押し付けを終えた時点でも液滴が広がらず、未充填による欠陥(異常)が発生するためである。
【0006】
しかしながら、硬化性組成物の液滴間に閉じ込められる気泡の量は、型と液滴との間の作用や液敵同士の接合などを含む複合的な作用で決まるものである。従って、硬化性組成物の液滴の高さ分布が所定の範囲内に収まるように液滴の配置を調整するだけでは、液滴間に閉じ込められる気体の量を所定の量以下に収めることができない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、このような従来技術の課題に鑑みてなされ、硬化性組成物の膜を形成する処理における硬化性組成物の挙動の異常を検出するのに有利な技術を提供することを例示的目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本発明の一側面としてのシミュレーション方法は、第1部材の上に配置された硬化性組成物の複数の液滴と第2部材とを接触させ、前記第1部材と前記第2部材との間の空間に前記硬化性組成物の膜を形成する処理における前記硬化性組成物の挙動を予測するシミュレーション方法であって、前記硬化性組成物の複数の液滴のそれぞれについて、隣接する液滴との接合の度合いに関する情報である接合情報を求める第1工程と、前記第1工程で求めた前記接合情報と前記複数の液滴の広がり状態を示す情報とをともに表示する第2工程と、を有することを特徴とする。
【0010】
本発明の更なる目的又はその他の側面は、以下、添付図面を参照して説明される実施形態によって明らかにされるであろう。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、例えば、硬化性組成物の膜を形成する処理における硬化性組成物の挙動の異常を検出するのに有利な技術を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の実施形態における膜形成装置及びシミュレーション装置の構成を示す概略図である。
【
図2】第1実施形態におけるシミュレーション方法を説明するためのフローチャートである。
【
図3】硬化性組成物の液滴要素の概念を示す図である。
【
図4】隣接する液滴要素が接合しているかどうかを判定する処理を説明するための図である。
【
図5】
図1に示すシミュレーション装置によって硬化性組成物の液滴の挙動を計算した一例を示す図である。
【
図6】18個の角度で定義された硬化性組成物の液滴要素を示す図である。
【
図7】ディスプレイに表示される画像の一例を示す図である。
【
図8】ディスプレイに表示される画像の一例を示す図である。
【
図9】ディスプレイに表示される画像の一例を示す図である。
【
図10】第2実施形態におけるシミュレーション方法を説明するためのフローチャートである。
【
図12】ディスプレイに表示される画像の一例を示す図である。
【
図13】ディスプレイに表示される画像の一例を示す図である。
【
図14】ディスプレイに表示される画像の一例を示す図である。
【
図15】第3実施形態におけるシミュレーション方法を説明するためのフローチャートである。
【
図16】閉領域の有無の判定を説明するための図である。
【
図17】閉領域の有無の判定を説明するための図である。
【
図18】閉領域に含まれる気泡の量を算出する手法を説明するための図である。
【
図19】ディスプレイに表示される画像の一例を示す図である。
【
図20】ディスプレイに表示される画像の一例を示す図である。
【
図21】硬化性組成物の挙動の異常を検出する手法を説明するための図である。
【
図22】ディスプレイに表示される画像の一例を示す図である。
【
図23】物品の製造方法を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、添付図面を参照して実施形態を詳しく説明する。なお、以下の実施形態は特許請求の範囲に係る発明を限定するものではない。実施形態には複数の特徴が記載されているが、これらの複数の特徴の全てが発明に必須のものとは限らず、また、複数の特徴は任意に組み合わせられてもよい。更に、添付図面においては、同一もしくは同様の構成に同一の参照番号を付し、重複した説明は省略する。
【0014】
図1は、本発明の実施形態における膜形成装置IMP及びシミュレーション装置1の構成を示す概略図である。膜形成装置IMPは、基板Sの上に配置された硬化性組成物IMの複数の液滴と型Mとを接触させ、基板Sと型Mとの間の空間に硬化性組成物IMの膜を形成する処理を実行する。膜形成装置IMPは、例えば、インプリント装置として構成されてもよいし、平坦化装置として構成されてもよい。ここで、基板Sと型Mとは相互に入れ替え可能であり、型Mの上に配置された硬化性組成物IMの複数の液滴と基板Sとを接触させることで、型Mと基板Sとの間の空間に硬化性組成物IMの膜を形成してもよい。従って、包括的には、膜形成装置IMPは、第1部材の上に配置された硬化性組成物IMの複数の液滴と第2部材とを接触させ、第1部材と第2部材との間の空間に硬化性組成物IMの膜を形成する処理を実行する装置である。本実施形態では、第1部材を基板Sとし、第2部材を型Mとして説明するが、第1部材を型Mとし、第2部材を基板Sとしてもよい。この場合、以下の説明における基板Sと型Mとを相互に入れ替えればよい。
【0015】
インプリント装置では、パターンを有する型Mを用いて、基板Sの上の硬化性組成物IMに型Mのパターンが転写される。インプリント装置では、パターンが設けられたパターン領域PRを有する型Mが用いられる。インプリント装置では、インプリント処理として、基板Sの上の硬化性組成物IMと型Mのパターン領域PRとを接触させ、基板Sのパターンを形成すべき領域と型Mとの間の空間に硬化性組成物IMを充填させ、その後、硬化性組成物IMを硬化させる。これにより、基板Sの上の硬化性組成物IMに型Mのパターン領域PRのパターンが転写される。インプリント装置では、例えば、基板Sの複数のショット領域のそれぞれに硬化性組成物IMの硬化物からなるパターンが形成される。
【0016】
平坦化装置では、平坦化処理として、平坦面を有する型Mを用いて、基板Sの上の硬化性組成物IMと型Mの平坦面とを接触させ、硬化性組成物IMを硬化させることによって、平坦な上面を有する膜が形成される。平坦化装置では、基板Sの全域をカバーする寸法(大きさ)を有する型Mが用いられる場合、基板Sの全域に硬化性組成物IMの硬化物からなる膜が形成される。
【0017】
硬化性組成物としては、硬化用のエネルギーが与えられることにより硬化する材料が使用される。硬化用のエネルギーとしては、電磁波や熱などが用いられる。電磁波は、例えば、その波長が10nm以上1mm以下の範囲から選択される光、具体的には、赤外線、可視光線、紫外線などを含む。このように、硬化性組成物は、光の照射、或いは、加熱により硬化する組成物である。光の照射により硬化する光硬化性組成物は、少なくとも重合性化合物と光重合開始剤とを含有し、必要に応じて、非重合性化合物又は溶剤を更に含有してもよい。非重合性化合物は、増感剤、水素供与体、内添型離型剤、界面活性剤、酸化防止剤、ポリマー成分などの群から選択される少なくとも一種である。硬化性組成物の粘度(25℃における粘度)は、例えば、1mPa・s以上100mPa・s以下である。
【0018】
基板の材料としては、例えば、ガラス、セラミックス、金属、半導体、樹脂などが用いられる。必要に応じて、基板の表面に、基板とは別の材料からなる部材が設けられてもよい。基板は、例えば、シリコンウエハ、化合物半導体ウエハ、石英ガラスを含む。
【0019】
本明細書及び添付図面では、基板Sの表面に平行な方向をXY平面とするXYZ座標系で方向を示す。XYZ座標系におけるX軸、Y軸及びZ軸のそれぞれに平行な方向をX方向、Y方向及びZ方向とし、X軸周りの回転、Y軸周りの回転及びZ軸周りの回転のそれぞれをθX、θY及びθZとする。X軸、Y軸、Z軸に関する制御又は駆動は、それぞれ、X軸に平行な方向、Y軸に平行な方向、Z軸に平行な方向に関する制御又は駆動を意味する。また、θX軸、θY軸、θZ軸に関する制御又は駆動は、それぞれ、X軸に平行な軸の周りの回転、Y軸に平行な軸の周りの回転、Z軸に平行な軸の周りの回転に関する制御又は駆動を意味する。また、位置は、X軸、Y軸及びZ軸の座標に基づいて特定される情報であり、姿勢は、θX軸、θY軸及びθZ軸の値で特定される情報である。位置決めは、位置及び/又は姿勢を制御することを意味する。
【0020】
膜形成装置IMPは、基板Sを保持する基板保持部SHと、基板保持部SHを駆動することで基板Sを移動させる基板駆動機構SDと、基板駆動機構SDを支持するベースSBとを有する。また、膜形成装置IMPは、型Mを保持する型保持部MHと、型保持部MHを駆動することで型Mを移動させる型駆動機構MDとを有する。
【0021】
基板駆動機構SD及び型駆動機構MDは、基板Sと型Mとの相対位置が調整されるように、基板S及び型Mの少なくとも一方を移動させる相対移動機構を構成する。かかる相対移動機構による基板Sと型Mとの相対位置の調整は、基板Sの上の硬化性組成物IMと型Mとの接触のための駆動、及び、基板Sの上の硬化した硬化性組成物IMからの型Mの分離のための駆動を含む。また、相対移動機構による基板Sと型Mとの相対位置の調整は、基板Sと型Mとの位置合わせを含む。基板駆動機構SDは、基板Sを複数の軸(例えば、X軸、Y軸及びθZ軸の3軸、好ましくは、X軸、Y軸、Z軸、θX軸、θY軸及びθZ軸の6軸)に関して駆動するように構成されている。型駆動機構MDは、型Mを複数の軸(例えば、Z軸、θX軸及びθY軸の3軸、好ましくは、X軸、Y軸、Z軸、θX軸、θY軸及びθZ軸の6軸)に関して駆動するように構成されている。
【0022】
膜形成装置IMPは、基板Sと型Mとの間の空間に充填された硬化性組成物IMを硬化させるための硬化部CUを有する。硬化部CUは、例えば、型Mを介して硬化性組成物IMに硬化用のエネルギーを与えることによって、基板Sの上の硬化性組成物IMを硬化させる。
【0023】
膜形成装置IMPは、型Mの裏面側(基板Sに対面する面の反対側)に空間SPを形成するための透過部材TRを有する。透過部材TRは、硬化部CUからの硬化用のエネルギーを透過させる材料で構成され、基板Sの上の硬化性組成物IMに対して硬化用のエネルギーを与えることを可能にする。
【0024】
膜形成装置IMPは、空間SPの圧力を制御することによって、型MのZ軸方向への変形を制御する圧力制御部PCを有する。例えば、圧力制御部PCが空間SPの圧力を大気圧よりも高くすることによって、型Mは、基板Sに向けて凸形状に変形する。
【0025】
膜形成装置IMPは、基板Sの上に硬化性組成物IMを配置、供給又は分配するためのディスペンサDSPを有する。但し、膜形成装置IMPには、他の装置によって硬化性組成物IMが配置された基板Sが供給(搬入)されてもよい。この場合、膜形成装置IMPは、ディスペンサDSPを有していなくてもよい。
【0026】
膜形成装置IMPは、基板S(又は基板Sのショット領域)と型Mとの位置ずれ(位置合わせ誤差)を計測するためのアライメントスコープASを有していてもよい。
【0027】
シミュレーション装置1は、膜形成装置IMPにおいて実行される処理における硬化性組成物IMの挙動を予測する計算を実行する。具体的には、シミュレーション装置1は、基板Sの上に配置された硬化性組成物IMの複数の液滴と型Mとを接触させ、基板Sと型Mとの間の空間に硬化性組成物IMの膜を形成する処理における硬化性組成物IMの挙動を予測する計算を実行する。
【0028】
シミュレーション装置1は、例えば、汎用又は専用のコンピュータにシミュレーションプログラム21を組み込むことによって構成される。また、シミュレーション装置1は、FPGA(Field Programmable Gate Arrayの略。)などのPLD(Programmable Logic Deviceの略。)、又は、ASIC(Application Specific Integrated Circuitの略。)によって構成されてもよい。
【0029】
シミュレーション装置1は、本実施形態では、プロセッサ10と、メモリ20と、ディスプレイ30と、入力デバイス40とを有するコンピュータにおいて、メモリ20にシミュレーションプログラム21を格納することによって構成される。メモリ20は、半導体メモリであってもよいし、ハードディスクなどのディスクであってもよいし、他の形態のメモリであってもよい。シミュレーションプログラム21は、コンピュータによって読み取り可能なメモリ媒体に格納されて、又は、電気通信回線などの通信設備を介してシミュレーション装置1に提供されてもよい。
【0030】
本発明のシミュレーション方法及びシミュレーション装置は、基板と型との間の空間に硬化性組成物の膜を形成する処理、例えば、インプリント処理における硬化性組成物の挙動のシミュレーションに関するものである。具体的には、本発明のシミュレーション方法及びシミュレーション装置は、基板上の硬化性組成物の液滴同士の相互作用も含めて液滴の広がりをシミュレーションすることによって、任意の時間における液滴の広がりを予測して視覚的に表示する。また、本発明のシミュレーション方法及びシミュレーション装置は、基板上の硬化性組成物の液滴の接合状態やその変化から液滴間に閉じ込められた気泡に起因する異常(液滴の広がりの異常)を検出して視覚的に表示する。これにより、基板上の硬化性組成物の液滴の広がりの挙動(様子)を視覚的に確認できるとともに、液滴の広がりの異常を事前に把握することができ、かかる情報に基づいて液滴の配置を調整することで、未充填による欠陥を抑制することが可能となる。
【0031】
以下、各実施形態において、シミュレーション装置1によって実行されるシミュレーション方法について具体的に説明する。
【0032】
<第1実施形態>
図2は、第1実施形態におけるシミュレーション方法を説明するためのフローチャートである。かかるシミュレーション方法は、工程として、S001、S002、S003、S004、S005、S006、S007、S008及びS009を含む。シミュレーション装置1は、第1実施形態におけるシミュレーション方法の各工程を実行するハードウェア要素の集合体として理解されてもよい。
【0033】
S001は、シミュレーションに必要な条件(シミュレーション条件)を設定する工程である。S002は、S001で設定されたシミュレーション条件に基づいて、硬化性組成物IMの初期状態を設定する工程である。S001及びS002は、それらを併せた1つの工程、例えば、準備工程として理解されてもよい。S003は、型Mの運動を計算して、型Mの位置(基板Sと型Mとの間の距離)を更新(計算)する工程である。S004は、S003で更新された型Mの位置に基づいて、硬化性組成物IMの複数の液滴のそれぞれについて、型Mで押し広げられる液滴の挙動(液滴の流動)を計算する工程である。S005は、S004で計算された液滴の挙動に基づいて、硬化性組成物IMの複数の液滴のうち隣接する液滴(液敵同士)が接合したかどうかを判定する工程である。S006は、S004で判定された隣接する液滴と接合したかどうかに基づいて、硬化性組成物IMの複数の液滴のそれぞれについて、接合情報を算出する工程である。S007は、S006で算出された接合情報、及び、その時系列的な変化に基づいて、その時刻での硬化性組成物IMの挙動の異常の有無を判定する(即ち、硬化性組成物IMの挙動の異常を検出する)工程である。S008は、計算(シミュレーション)における時刻が終了時刻に到達したかどうかを判定する工程である。計算における時刻が終了時刻に到達していなければ、時刻を次の時刻に進めて、S003に移行する。一方、計算における時刻が終了時刻に到達していれば、S009に移行する。S009は、S006で算出された接合情報、及び、S007で判定された硬化性組成物の挙動の異常の有無を示す異常情報の少なくとも一方を、硬化性組成物IMの複数の液滴の状態(硬化性組成物IMの挙動)を示す情報とともに表示する工程である。
【0034】
以下、第1実施形態におけるシミュレーション方法の各工程について詳細に説明する。
【0035】
S001では、シミュレーションに必要な条件として各種のパターンが設定される。パラメータは、基板Sの上における硬化性組成物IMの液滴の配置、各液滴の体積、硬化性組成物IMの物性値、型Mの表面の凹凸(例えば、パターン領域PRのパターンの情報)に関する情報、基板Sの表面の凹凸に関する情報などを含む。また、パラメータは、型駆動部MDが型Mに与える力の時間プロファイル、圧力制御部PCが空間SP(型M)に与える圧力のプロファイルなどを含む。
【0036】
S002では、硬化性組成物IMの複数の液滴のそれぞれの初期状態(シミュレーションを開始する際の液滴の状態)が設定される。かかる初期状態は、基板Sの上に配置された硬化性組成物IMの各液滴が濡れ広がった際の各液滴の輪郭(の形状)及び高さを含む。かかる初期状態は、硬化性組成物IMの物性値を用いて静的な釣り合い状態を仮定して算出することも可能である。また、硬化性組成物IMの物性値に加えて、硬化性組成物IMの液滴を基板Sの上に配置してからの経過時間などを入力とし、一般的な流体シミュレーションを実行することで、動的な濡れ広がり挙動から初期状態を算出することも可能である。
【0037】
本実施形態におけるシミュレーション方法では、硬化性組成物IMの各液滴は、
図3に示すように、液滴要素DRPとしてモデル化される。
図3は、硬化性組成物IMの液滴要素DRPの概念を示す図である。
図3を参照するに、計算領域内のi番目の液滴要素をDRP
iと表記し、以後、下付き添え字iは、液滴要素DRPの番号を表すものとする。
【0038】
まず、硬化性組成物IMの液滴要素の内部に代表点が設定される。かかる代表点の座標をCi(x0,y0)とする。硬化性組成物IMの液滴要素の代表点は、液滴の重心としてもよいし、液滴の重心とは異なる点(位置)としてもよいが、液滴の輪郭の内側に設定する必要がある。また、硬化性組成物IMの液滴要素の代表点から見て、角度θ(代表点と液滴の輪郭上の点とを結ぶ線と基準線とのなす角)の位置にある液滴要素の輪郭上(外周上)の点までの距離を半径r(θ)と表現する。半径r(θ)は、角度θごとに異なる値となる。ここで、液滴要素の輪郭上の各点が隣接する液滴要素に接合(貫入)しているかどうかを示す情報を併せて保持する。隣接する液滴要素に接合した輪郭上の点は、その時点で位置(半径r(θ))が固定される。このように半径r(θ)が固定された角度θの領域を、
図3に斜線で示すように、固定領域FIX
iとする。一方、半径r(θ)が固定されていない角度θの領域を、
図3に実線で示すように、自由領域FRE
iとする。硬化性組成物IMの液滴の初期状態において、全ての角度θは自由領域に属する。
【0039】
実際のプログラムとして、本実施形態のシミュレーション方法を実装する場合には、角度θを有限個に分割して取り扱う(即ち、液滴の輪郭を定義するために、液滴の輪郭上に有限個の点が設定される)ことが考えられる。
図6は、18個の角度θ(θ1~θ20)で定義(分割)された硬化性組成物IMの液滴要素を示す図である。この際、角度θは、360度を等分割して設定してもよいし、任意の角度を設定してもよい。有限個の角度で表される輪郭上の隣接する点同士の間の輪郭を求める際には、任意の補間を適用することができる。例えば、隣接する輪郭上の点を線で結んでもよいし、より高次の補間を適用することもできる。
【0040】
S003では、型Mの運動が計算され、型Mの位置が更新される。型Mの運動は、硬化性組成物IMの液滴や液敵同士が接合した液膜が押しつぶされる際に発生する力、型Mと基板Sとの間の空間SPでの気体の流動に起因する力、型Mに印加する荷重、型Mの弾性変形の影響などを考慮した力学計算によって計算される。
【0041】
S004では、型Mで押し広げられる液滴要素DRPの挙動が計算される。S004は、液滴要素DRPが型Mと接触しているかどうかを判定する工程を含む。S002で得られた液滴要素DRPiの高さhdrp,iと、液滴要素DRPiの代表点(x0,y0)における型Mと基板Sとの間の距離hiとを比較し、以下の式(1)を満たす場合には、液滴要素DRPiが型Mと接触したと判定する。
【0042】
【0043】
一方、式(1)を満たさない場合、計算における現在の時刻において、液滴要素DRPiは、型Mと接触していないと判定する。この場合、液滴要素DRPiの挙動の計算は行われない。
【0044】
型Mと接触したと判定された液滴要素DRPiについて、型Mの運動によって押し広げられる挙動を計算する。この過程において、硬化性組成物IMの液滴の体積は保存(維持)される。従って、液滴要素DRPiの体積Viと、現在の時刻における液滴要素位置における距離hiとを用いて、現在の時刻における液滴要素DRPiの面積Snewは、以下の式(2)で表すことができる。
【0045】
【0046】
S005では、隣接する液滴要素が接合したかどうかが判定される。S004において、液滴要素の輪郭を計算した結果、自由領域FREに属する角度θの輪郭上の点が、隣接する液滴要素の内部(輪郭の内側)に入ることが発生する。この場合、かかる角度θにおける半径r(θ)が固定される(即ち、液滴の接合した部分に対応する、代表点から輪郭上の点までの距離を固定する)。換言すれば、かかる角度θは、固定領域FIXに含まれるようになり、それ以降の時刻において、かかる角度θの方向には、硬化性組成物IMの液滴要素の広がり(流動)は発生しない。S005では、隣接する液滴要素の全ての組について、上述したように、液滴同士が接合したかどうかを判定する。
【0047】
図4を参照して、隣接する液滴要素が接合しているかどうか、即ち、液滴の輪郭上の点が隣接する液滴の輪郭の内側に位置しているかどうかを判定する処理について説明する。まず、液滴要素DRP
iに着目し、液滴要素DRP
iの自由領域FRE
iに属する角度方向の輪郭上の点Pを考える。液滴要素DRP
iに隣接する液滴要素を液滴要素DRP
jとし、点Pと液滴要素DRP
jの代表点C
j(中心)とを結ぶ線分PC
jの長さを求める。また、線分PC
jと液滴要素の基準線とのなす角(角度)θ
jを求め、角度θ
jにおける液滴要素DRP
jの半径QC
jの長さを求める。そして、半径QC
jの長さと線分PC
jの長さとを比較して、半径QC
jの長さが線分PC
jの長さよりも長い場合に、液滴要素DRP
iの輪郭上の点Pが隣接する液滴要素DRP
jの輪郭の内側に位置している、即ち、接合していると判定する。一方、半径QC
jの長さが線分PC
jの長さよりも短い場合には、液滴要素DRP
iの輪郭上の点Pが隣接する液滴要素DRP
jの輪郭の内側に位置していない、即ち、接合していないと判定する。なお、
図4では、液滴要素DRP
iの輪郭上の点Pが隣接する液滴要素DRP
jの内部に大きく貫入しているように図示しているが、これは、本実施形態の特徴を強調して表現したものである。実際の計算においては、時刻の間隔を十分に細かくすることで、液滴要素DRP
iの輪郭上の点Pが隣接する液滴要素DRP
jの内部に貫入する貫入量を無視可能な大きさにすることができる。
【0048】
図5は、本実施形態のシミュレーション方法を実装したシミュレーション装置1によって硬化性組成物IMの液滴の挙動(広がり)を計算した一例を示す図である。型Mと基板Sとの間の距離は、
図5の中心ほど近く、
図5の中心から離れるほど遠くなっている。
図5を参照するに、基板Sの上の硬化性組成物IMの液滴の配置に応じて、複雑な液滴同士の接合の様子などが表現できていることがわかる。
【0049】
S006では、隣接する液滴要素が接合したかどうかの判定の結果を用いて、接合情報が算出される。接合情報は、隣接する液滴との接合の度合いに関する関係を評価する評価値を意味する。例えば、本実施形態では、硬化性組成物IMの各液滴の輪郭のうちどれくらいの部分で他の液滴の輪郭と接しているかを示す情報を接合情報とする。具体的には、硬化性組成物IMの液滴の輪郭長に対し、他の液滴と接していると判定された部分の割合、即ち、液滴の輪郭の全周のうちの隣接する液滴の輪郭と接している部分の割合を接合情報とする。この際、硬化性組成物IMの液滴の輪郭を複数の角度で分割し、他の液滴と接していると判定された角度の割合を接合情報としてもよい。
【0050】
図6を参照して、硬化性組成物IMの液滴の輪郭長に対する隣接する液滴との接合の割合、即ち、本実施形態における接合情報の概要について説明する。
図6において、601は、注目する液滴要素の輪郭を示し、602は、注目する液滴要素に隣接する液滴要素の輪郭を示している。注目する液滴要素の輪郭601を複数の点603にサンプリングし、複数の点603のそれぞれについて、隣接する液滴要素602と接しているかどうかを判定する。例えば、複数の点603のうち、点604は、隣接する液滴要素602と接していると判定された点である。最終的に、注目する液滴要素の輪郭601をサンプリングした点603の全数に対する、隣接する液滴要素602に接している点604の割合を接合情報とする。
【0051】
このようにして求められた接合情報は、S009において、かかる接合情報に対する硬化性組成物IMの液滴の状態(広がり状態)を示す情報とともに、ディスプレイ30に表示される。
図7は、S009でディスプレイ30に表示される、接合情報を含む画像の一例を示す図である。
図7では、基板Sのショット領域STに配置された液滴要素DRP
iの分布に対して接合情報を色で表示している。本実施形態では、液滴要素DRP
iのそれぞれについて、液滴の輪郭長に対する隣接する液滴との接合の割合に応じて、液滴要素DRP
iの領域内の色を変更している。
【0052】
型Mと基板Sの上の硬化性組成物IMとを接触させる際に型Mを基板Sに向けて凸形状に変形させる場合を考える。この場合、ショット領域STの中央に配置された液滴要素DRP
iからショット領域STの外側に配置された液滴要素DRP
iに向けて、順次、液滴要素DRP
iが押し広げられる。従って、ショット領域STの中央に配置された液滴要素DRP
iは、ショット領域STの外側に配置された液滴要素DRP
iに比べて、隣接する液滴と接合する割合が高くなる傾向がある。
図7では、液滴要素DRP
iごとに、隣接する液滴と接合する割合に応じて、液滴要素DRP
iの領域内の明暗度を変更しており、隣接する液滴と接合する割合が高い液滴要素DRP
iの領域を、より暗い色で表示している。具体的には、液滴要素DRP
1、液滴要素DRP
2、液滴要素DRP
3の順に、即ち、ショット領域STの中央から距離が遠くなる順に、それらの領域内の色を明るい色で表示している。また、液滴要素DRP
4のように、隣接する液滴と接していない場合には、その領域の色を白で表示している。なお、液滴要素DRP
iの領域と、液滴要素DRP
iの輪郭とを互いに異なる色で区別して(識別可能に)表示することで、隣接する液滴との境界も確認することができる。
【0053】
本実施形態では、接合情報の大小に応じて、かかる接合情報に対応する液滴の領域の明暗度を変更する場合について説明したが、これに限定されるものではない。例えば、接合情報の大小に応じて、かかる接合情報に対応する液滴の領域の色相を変更してもよい。また、接合情報の大小を表す色と、かかる色が示す接合情報の大小関係(本実施形態では、隣接する液滴と接合する割合)とを対応づける凡例も表示することで、接合情報を数値的にも捉えることができる。これにより、硬化性組成物IMの複数の液滴のそれぞれについて、液滴の広がり状態である液滴の接触状態を視覚的に捉えることができる。
【0054】
S007では、S006で算出された接合情報、及び、その時系列的な変化から、その時刻での硬化性組成物IMの挙動の異常の有無が判定される(即ち、硬化性組成物IMの挙動の異常が検出される)。通常、基板Sの上の硬化性組成物IMと型Mとの接触が進む際には、ショット領域STの中央付近に配置された液滴要素DRPiから隣接する液滴と接合する割合が大きくなり、次第に、ショット領域STの周辺に広がる。一方、硬化性組成物IMの挙動に異常が発生している場合には、ショット領域STの中央付近に配置された液滴要素DRPiのうちに、周囲の液滴要素DRPiと比べて、隣接する液滴と接合する割合が小さい液滴要素DRPiが存在する。
【0055】
図8は、硬化性組成物IMの挙動に異常が発生している場合において、S009でディスプレイ30に表示される、接合情報を含む画像の一例を示す図である。
図8では、基板Sのショット領域STに配置された液滴要素DRP
iの分布に対して接合情報を色で表示している。本実施形態では、液滴要素DRP
iのそれぞれについて、液滴の輪郭長に対する隣接する液滴との接合の割合に応じて、液滴要素DRP
iの領域内の色を変更している。
図8では、隣接する液滴と接合する割合が高い液滴要素DRP
iの領域を、より暗い色で表示している。
【0056】
通常であれば、ショット領域STの中央の近くに配置された液滴要素DRP
iは、ショット領域STの中央から離れて配置された液滴要素DRP
iと比べて、隣接する液滴と接合する割合が高く、その領域内も暗い色で表示される。但し、
図8では、ショット領域STの中央付近に配置された液滴要素DRP
1の領域が、周囲の液滴要素の領域の色よりも明るい色で表示されている。具体的には、液滴要素DRP
1よりもショット領域STの外側に配置された液滴要素DRP
2の領域が、液滴要素DRP
1の領域の色よりも明るい色で表示され、液滴要素DRP
2の挙動に異常が発生していることがわかる。
【0057】
以下、硬化性組成物IMの挙動の異常を検出する手法の一例を説明する。かかる手法は、隣接する液滴に輪郭が全て接合している液滴に囲まれた、隣接する液滴に接合していない輪郭の部分を有する液滴を探索し、このような液滴を、異常が発生している液滴として検出する手法である。具体的には、周囲の液滴と比べて、隣接する液滴と接合する割合が低い液滴を、異常が発生している液滴として検出する。本実施形態では、以下の(1)、(2)及び(3)の手順を踏むことで、異常の有無を判定する(異常を検出する)。なお、隣接する液滴に輪郭が全て接合していない状態の液滴の接合情報を0、隣接する液滴に輪郭が全て接合している状態の液滴の接合情報を1、隣接する液滴に輪郭の一部が接合している状態の液滴の接合情報を0から1の間としている。
【0058】
(1)全ての液滴から、隣接する液滴に接合していない輪郭の部分を有する液滴、即ち、接合情報が1以外の液滴を抽出し、かかる液滴を液滴群DG1(例えば、
図8に示す液滴要素DRP
1)とする。
【0059】
(2)液滴群DG1に含まれる全ての液滴から、液滴群DG1に含まれる液滴の代表点から予め設定された距離Dの範囲内に代表点を含む液滴を抽出し、かかる液滴を液滴群DG2(例えば、
図8に示す液滴要素DRP
2)とする。
図8において、801は、液滴要素DRP
1から距離Dの範囲、即ち、液滴の抽出範囲を示している。
【0060】
(3)液滴群DG1に含まれる全ての液滴に対して、各液滴群DG2に含まれる全ての液滴が、輪郭が全て接合している状態(接合情報が1)である場合に、異常と判定する。また、液滴群DG1に含まれる液滴に対して、各液滴群DG2に含まれる液滴がより大きな接合情報を有している場合にも、異常と判定する。
【0061】
このようにして検出された硬化性組成物IMの挙動の異常は、S009において、硬化性組成物IMの挙動の有無を示す異常情報として、硬化性組成物IMの液滴の状態(広がり状態)を示す情報とともに、ディスプレイ30に表示される。
図9は、S009でディスプレイ30に表示される、異常情報を含む画像の一例を示す図である。
図9では、
図8に示す各液滴要素DRP
iに対して異常を判定し、異常と判定された液滴要素DRP
1の領域を黒色で表示している。また、異常と判定された液滴要素DRP
1は、正常と判定された(異常と判定されていない)液滴要素、例えば、液滴要素DRP
2とは、異なる色で表示されている。このように、異常と判定された液滴と、正常と判定された液滴とを互いに異なる色で区別して(識別可能に)表示することで、異常の有無を視覚的に捉えることができる。また、異常と判定された液滴と、正常と判定された液滴とを互いに異なる表示態様で表示する、例えば、異常と判定された液滴を点滅させ、正常と判定された液滴を点滅させないようにしてもよい。
【0062】
S003、S004、S005、S006及びS007を含む計算工程は、予め設定された複数の時刻について実行される。複数の時刻は、例えば、型Mが初期位置から降下を開始する時刻から、複数の液滴と接触し、複数の液滴がつぶされながら広がり、複数の液滴が相互に結合し、最終的に1つの膜を形成し、硬化性組成物の硬化がなされるべき時刻までの期間内で任意に設定される。複数の時刻は、典型的には、一定の時間間隔で設定される。
【0063】
S008では、計算における時刻が終了時刻に達したかどうかが判定される。上述したように、計算における時刻が終了時刻に達していなければ、時刻を次の時刻に進めてS003に移行し、計算における時刻が終了時刻に達していれば、S009に移行する。一例において、S008では、現在の時刻が指定された時間刻み分だけ進められて、新たな時刻とされる。そして、新たな時刻が終了時刻に達した場合、S009に移行する。
【0064】
S009では、上述したように、
図7に示す画像、
図8に示す画像及び
図9に示す画像の少なくとも1つがディスプレイ30に表示される。S009では、例えば、ユーザの要求に応じて、
図7に示す画像、
図8に示す画像及び
図9に示す画像を切り替えながら表示してもよいし、
図7に示す画像、
図8に示す画像及び
図9に示す画像のうちの一部の画像又は全部の画像を表示してもよい。
【0065】
本実施形態によれば、基板Sの上に配置された硬化性組成物IMの複数の液滴の挙動、特に、液滴の広がりの異常の有無を判定して視覚的に認識することが可能となる。従って、膜形成装置IMPにおいて硬化性組成物IMの膜を形成する処理における硬化性組成物IMの挙動の異常を検出するのに有利な技術を提供することができる。また、本実施形態におけるシミュレーション方法及びその結果を用いて硬化性組成物IMの液滴配置パターンの調整を繰り返すことで、硬化性組成物IMの膜を形成する処理における異常を軽減しながら、かかる処理の条件を容易に設定することが可能となる。
【0066】
<第2実施形態>
図10は、第2実施形態におけるシミュレーション方法を説明するためのフローチャートである。かかるシミュレーション方法は、工程として、S101、S102、S103、S104、S105、S106、S107、S108及びS109を含む。シミュレーション装置1は、第2実施形態におけるシミュレーション方法の各工程を実行するハードウェア要素の集合体として理解されてもよい。
【0067】
S101は、シミュレーションに必要な条件(シミュレーション条件)を設定する工程である。S102は、S101で設定された硬化性組成物IMの液滴の配置情報に基づいて、隣接する液滴同士を結び付けるリンク構造を生成する工程である。S101及びS102は、それらを併せた1つの工程、例えば、準備工程として理解されてもよい。S103は、型Mの運動を計算して、型Mの位置を更新する工程である。S104は、S103で更新された型Mの位置に基づいて、硬化性組成物IMの複数の液滴のそれぞれについて、型Mで押し広げられる液滴の挙動を計算する工程である。S105は、S102で生成されたリンク構造の各リンクが閉じたかどうか、即ち、リンクの開閉を判定する工程である。S106は、S105で判定されたリンク構造の各リンクが閉じたかどうかに基づいて、硬化性組成物IMの複数の液滴のそれぞれについて、接合情報を算出する工程である。S107は、S106で算出された接合情報、及び、その時系列的な変化に基づいて、その時刻での硬化性組成物IMの挙動の異常の有無を判定する(即ち、硬化性組成物IMの挙動の異常を検出する)工程である。S108は、計算(シミュレーション)における時刻が終了時刻に到達したかどうかを判定する工程である。計算における時刻が終了時刻に到達していなければ、時刻を次の時刻に進めて、S103に移行する。一方、計算における時刻が終了時刻に到達していれば、S109に移行する。S109は、S106で算出された接合情報、及び、S107で判定された硬化性組成物の挙動の異常の有無を示す異常情報の少なくとも一方を、硬化性組成物IMの複数の液滴の状態(硬化性組成物IMの挙動)を示す情報とともに表示する工程である。
【0068】
以下、第2実施形態におけるシミュレーション方法の各工程について詳細に説明する。但し、S101、S103及びS104は、それぞれ、
図2に示すS001、S003及びS004と同様であるため、ここでの詳細な説明は省略する。
【0069】
S102では、硬化性組成物IMの液滴の配置情報に基づいて、隣接する液滴同士を結び付けるリンク構造が生成される。
図11を参照して、リンク構造について説明する。硬化性組成物IMの各液滴は、
図11に示すように、液滴要素DRPとしてモデル化される。
図11を参照するに、液滴要素DRPの代表点CにノードNDが生成され、隣接するノード同士を接続してリンクが生成される。具体的には、リンクは、硬化性組成物IMの液滴同士の接合が発生する箇所の近傍に存在する液滴要素に生成されたノード同士に対して生成され、両ノードを結んだ線分として定義される。また、リンクを構成する2つの液滴要素同士が接合している場合には、かかるリンクを閉リンクLNCと称し、リンクを構成する2つの液滴要素同士が接合していない場合には、かかるリンクを開リンクLNOと称する。なお、閉リンクと開リンクとを区別せずにリンクを表す場合には、リンクLNと表記する。また、リンク同士が交差するのは、必ずノードであって、それ以外の部分では互いに交差することがないように生成される(即ち、隣接する液滴要素のみにリンクが生成される)。このようなリンク構造を生成する生成手法としては、例えば、デローニ分割を用いた手法などがある。
【0070】
S105では、全てのリンクLNに対して、リンクLNの開閉が判定される。本実施形態では、各リンクLNにおいて、リンクLNを構成する液滴要素同士が接合していない場合には、かかるリンクLNを開リンクLNOと判定し、リンクLNを構成する液滴要素同士が接合している場合には、かかるリンクLNを閉リンクLNCと判定する。隣接する液滴要素が接合しているかどうかの判定には、
図4を参照して説明したように、液滴の輪郭上の点が隣接する液滴の輪郭の内側に位置しているかどうかを判定する処理を用いればよい。具体的には、
図4に示すように、半径QC
jの長さと線分PC
jの長さとを比較して、半径QC
jの長さが線分PC
jの長さよりも長い場合には、リンクLNが閉じていると判定する。一方、半径QC
jの長さと線分PC
jの長さとを比較して、半径QC
jの長さが線分PC
jの長さよりも短い場合には、リンクLNが開いていると判定する。
【0071】
S106では、リンクLNの開閉の判定の結果を用いて、接合情報が算出される。接合情報は、隣接する液滴との接合の度合いに関する関係を評価する評価値を意味する。例えば、本実施形態では、硬化性組成物IMの各液滴のリンクのうちどれくらいのリンクが閉じているかを示す情報を接合情報とする。具体的には、液滴要素DRPに対して生成されたリンクLNのうちの閉リンクLNCの割合を接合情報とする。
【0072】
このようにして求められた接合情報は、S109において、かかる接合情報に対する硬化性組成物IMの液滴の状態(広がり状態)を示す情報とともに、ディスプレイ30に表示される。
図12は、S109でディスプレイ30に表示される、接合情報を含む画像の一例を示す図である。
図12では、基板Sのショット領域STに配置された液滴要素DRP
iの分布に対して接合情報を色で表示している。また、
図12では、液滴要素DRP
iのそれぞれに対して、液滴要素DRP
iをノードとするリンクLNのうち、閉リンクLNCを実線で示し、開リンクLNOを破線で示している。本実施形態では、液滴要素DRP
iのそれぞれについて、閉リンクLNCの割合に応じて、液滴要素DRP
iの領域内の色を変更している。
【0073】
型Mと基板Sの上の硬化性組成物IMとを接触させる際に型Mを基板Sに向けて凸形状に変形させる場合を考える。この場合、ショット領域STの中央に配置された液滴要素DRP
iからショット領域STの外側に配置された液滴要素DRP
iに向けて、順次、液滴要素DRP
iが押し広げられる。従って、ショット領域STの中央に配置された液滴要素DRP
iは、ショット領域STの外側に配置された液滴要素DRP
iに比べて、閉リンクLNCの割合が高くなる傾向がある。
図12では、液滴要素DRP
iごとに、閉リンクLNCの割合に応じて、液滴要素DRP
iの領域内の明暗度を変更しており閉リンクLNCの割合が高い液滴要素DRP
iの領域を、より暗い色で表示している。具体的には、液滴要素DRP
1、液滴要素DRP
2、液滴要素DRP
3の順に、即ち、ショット領域STの中央から距離が遠くなる順に、それらの領域内の色を明るい色で表示している。また、液滴要素DRP
4のように、隣接する液滴と接していない場合、即ち、閉リンクLNCの割合がゼロである場合には、その領域の色を白で表示している。なお、液滴要素DRP
iの領域と、液滴要素DRP
iの輪郭とを互いに異なる色で区別して(識別可能に)表示することで、隣接する液滴との境界も確認することができる。
【0074】
本実施形態では、接合情報の大小に応じて、かかる接合情報に対応する液滴の領域の明暗度を変更する場合について説明したが、これに限定されるものではない。例えば、接合情報の大小に応じて、かかる接合情報に対応する液滴の領域の色相を変更してもよい。また、接合情報の大小を表す色と、かかる色が示す接合情報の大小関係(本実施形態では、閉リンクLNCの割合)とを対応づける凡例も表示することで、接合情報を数値的にも捉えることができる。これにより、硬化性組成物IMの複数の液滴のそれぞれについて、液滴の広がり状態である液滴の接触状態を視覚的に捉えることができる。また、
図12では、閉リンクLNCを実線で示し、開リンクLNOを破線で示すことで、液滴間の接合の有無を視覚的に捉えることができる。
【0075】
S107では、S106で算出された接合情報、及び、その時系列的な変化から、その時刻での硬化性組成物IMの挙動の異常の有無が判定される(即ち、硬化性組成物IMの挙動の異常が検出される)。通常、基板Sの上の硬化性組成物IMと型Mとの接触が進む際には、ショット領域STの中央付近に配置された液滴要素DRPiから閉リンクLNCの割合が大きくなり、次第に、ショット領域STの周辺に広がる。一方、硬化性組成物IMの挙動に異常が発生している場合には、ショット領域STの中央付近に配置された液滴要素DRPiのうちに、周囲の液滴要素DRPiと比べて、閉リンクLNCの割合が小さい液滴要素DRPiが存在する。
【0076】
図13は、硬化性組成物IMの挙動に異常が発生している場合において、S009でディスプレイ30に表示される、接合情報を含む画像の一例を示す図である。
図13では、基板Sのショット領域STに配置された液滴要素DRP
iの分布に対して接合情報を色で表示している。本実施形態では、液滴要素DRP
iのそれぞれについて、閉リンクLNCの割合に応じて、液滴要素DRP
iの領域内の色を変更している。
図13では、閉リンクLNCの割合が高い液滴要素DRP
iの領域を、より暗い色で表示している。
【0077】
通常であれば、ショット領域STの中央の近くに配置された液滴要素DRP
iは、ショット領域STの中央から離れて配置された液滴要素DRP
iと比べて、閉リンクLNCの割合が高く、その領域内も暗い色で表示される。但し、
図13では、ショット領域STの中央付近に配置された液滴要素DRP
1の領域が、周囲の液滴要素の領域の色よりも明るい色で表示されている。具体的には、液滴要素DRP
1よりもショット領域STの外側に配置された液滴要素DRP
2の領域が、液滴要素DRP
1の領域の色よりも明るい色で表示され、液滴要素DRP
2の挙動に異常が発生していることがわかる。
【0078】
以下、硬化性組成物IMの挙動の異常を検出する手法の一例を説明する。かかる手法は、リンクLNが全て閉リンクLNCである液滴に囲まれた、リンクLNに開リンクLNOを含む液滴を探索し、このような液滴を、異常が発生している液滴として検出する手法である。本実施形態では、以下の(1)、(2)及び(3)の手順を踏むことで、異常の有無を判定する(異常を検出する)。なお、リンクLNが全て開リンクLNOである液滴の接合情報を0、リンクLNが全て閉リンクLNCである液滴の接合情報を1、リンクLNの一部が閉リンクLNCである液滴の接合情報を、閉リンクLNCの割合に応じて、0から1の間としている。
【0079】
(1)全ての液滴から、開リンクLNOを含む液滴、即ち、接合情報が1以外の液滴を抽出し、かかる液滴を液滴群DG1(例えば、
図13に示す液滴要素DRP
1)とする。
【0080】
(2)液滴群DG1に含まれる全ての液滴から、液滴群DG1に含まれる液滴の代表点から予め設定された距離Dの範囲内に代表点を含む液滴を抽出し、かかる液滴を液滴群DG2(例えば、
図13に示す液滴要素DRP
2)とする。
図13において、1301は、液滴要素DRP
1から距離Dの範囲、即ち、液滴の抽出範囲を示している。
【0081】
(3)各液滴群DG2に含まれる全ての液滴をノードとする全てのリンクLNが閉リンクLNC(接合情報が1)である場合に、異常と判定する。また、液滴群DG1に含まれる液滴に対して、各液滴群DG2に含まれる液滴がより大きな接合情報を有している場合にも、異常と判定する。
【0082】
このようにして検出された硬化性組成物IMの挙動の異常は、S109において、硬化性組成物IMの挙動の有無を示す異常情報として、硬化性組成物IMの液滴の状態(広がり状態)を示す情報とともに、ディスプレイ30に表示される。
図14は、S109でディスプレイ30に表示される、異常情報を含む画像の一例を示す図である。
図14では、
図13に示す各液滴要素DRP
iに対して異常を判定し、異常と判定された液滴要素DRP
1の領域を黒色で表示している。また、異常と判定された液滴要素DRP
1は、正常と判定された(異常と判定されていない)液滴要素、例えば、液滴要素DRP
2とは、異なる色で表示されている。このように、異常と判定された液滴と、正常と判定された液滴とを互いに異なる色で区別して(識別可能に)表示することで、異常の有無を視覚的に捉えることができる。また、異常と判定された液滴と、正常と判定された液滴とを互いに異なる表示態様で表示する、例えば、異常と判定された液滴を点滅させ、正常と判定された液滴を点滅させないようにしてもよい。なお、
図14では、閉リンクLNCを実線で示し、開リンクLNOを破線で示すことで、異常が発生している箇所における液滴間の接合の有無を視覚的に捉えることができる。
【0083】
S103、S104、S105、S106及びS107を含む計算工程は、予め設定された複数の時刻について実行される。複数の時刻は、例えば、型Mが初期位置から降下を開始する時刻から、複数の液滴と接触し、複数の液滴がつぶされながら広がり、複数の液滴が相互に結合し、最終的に1つの膜を形成し、硬化性組成物の硬化がなされるべき時刻までの期間内で任意に設定される。複数の時刻は、典型的には、一定の時間間隔で設定される。
【0084】
S108では、計算における時刻が終了時刻に達したかどうかが判定される。上述したように、計算における時刻が終了時刻に達していなければ、時刻を次の時刻に進めてS103に移行し、計算における時刻が終了時刻に達していれば、S109に移行する。一例において、S108では、現在の時刻が指定された時間刻み分だけ進められて、新たな時刻とされる。そして、新たな時刻が終了時刻に達した場合、S109に移行する。
【0085】
S109では、上述したように、
図12に示す画像、
図13に示す画像及び
図14に示す画像の少なくとも1つがディスプレイ30に表示される。S109では、例えば、ユーザの要求に応じて、
図12に示す画像、
図13に示す画像及び
図14に示す画像を切り替えながら表示してもよいし、
図12に示す画像、
図13に示す画像及び
図14に示す画像のうちの一部の画像又は全部の画像を表示してもよい。
【0086】
本実施形態によれば、基板Sの上に配置された硬化性組成物IMの複数の液滴の挙動、特に、液滴の広がりの異常の有無を判定して視覚的に認識することが可能となる。従って、膜形成装置IMPにおいて硬化性組成物IMの膜を形成する処理における硬化性組成物IMの挙動の異常を検出するのに有利な技術を提供することができる。また、本実施形態におけるシミュレーション方法及びその結果を用いて硬化性組成物IMの液滴配置パターンの調整を繰り返すことで、硬化性組成物IMの膜を形成する処理における異常を軽減しながら、かかる処理の条件を容易に設定することが可能となる。
【0087】
<第3実施形態>
図15は、第3実施形態におけるシミュレーション方法を説明するためのフローチャートである。かかるシミュレーション方法は、工程として、S201、S202、S203、S204、S205、S206、S207、S208、S209及びS210を含む。シミュレーション装置1は、第3実施形態におけるシミュレーション方法の各工程を実行するハードウェア要素の集合体として理解されてもよい。
【0088】
S201は、シミュレーションに必要な条件(シミュレーション条件)を設定する工程である。S202は、S201で設定された硬化性組成物IMの液滴の配置情報に基づいて、隣接する液滴同士を結び付けるリンク構造を生成する工程である。S201及びS202は、それらを併せた1つの工程、例えば、準備工程として理解されてもよい。S203は、型Mの運動を計算して、型Mの位置を更新する工程である。S204は、S203で更新された型Mの位置に基づいて、硬化性組成物IMの複数の液滴のそれぞれについて、型Mで押し広げられる液滴の挙動を計算する工程である。S205は、S202で生成されたリンク構造の各リンクが閉じたかどうか、即ち、リンクの開閉を判定する工程である。S206は、押し広げられた液滴同士が接合した際に、隣接する液滴同士で形成される閉領域の有無を判定する。S207は、S205及びS206での判定の結果に基づいて、硬化性組成物IMの複数の液滴のそれぞれについて、接合情報を算出する工程である。S208は、S207で算出された接合情報、及び、その時系列的な変化に基づいて、その時刻での硬化性組成物IMの挙動の異常の有無を判定する(即ち、硬化性組成物IMの挙動の異常を検出する)工程である。S209は、計算(シミュレーション)における時刻が終了時刻に到達したかどうかを判定する工程である。計算における時刻が終了時刻に到達していなければ、時刻を次の時刻に進めて、S203に移行する。一方、計算における時刻が終了時刻に到達していれば、S210に移行する。S210は、S207で算出された接合情報、及び、S208で判定された硬化性組成物の挙動の異常の有無を示す異常情報の少なくとも一方を、硬化性組成物IMの複数の液滴の状態(硬化性組成物IMの挙動)を示す情報とともに表示する工程である。
【0089】
以下、第3実施形態におけるシミュレーション方法の各工程について詳細に説明する。但し、S201、S202、S203、S204及びS205は、それぞれ、
図10に示すS101、S102、S103、S104及びS105と同様であるため、ここでの詳細な説明は省略する。また、硬化性組成物IMの各液滴は、液滴要素DRPとしてモデル化される。
【0090】
S206では、隣接する液滴同士で形成される閉領域の有無が判定される。閉領域の有無は、S205で判定されたリンク構造の各リンクが閉じたかどうかを参照し、隣接する閉リンク同士が連結して、閉じた図形(輪)を形成しているかどうかで判定する。
【0091】
図16(a)及び
図16(b)を参照して、閉領域の有無の判定について具体的に説明する。
図16(a)は、ある時刻での液滴要素の広がり状態を示し、
図16(b)は、
図16(a)に示す状態からある時間が経過した際の液滴要素の広がり状態を示している。
図16(a)及び
図16(b)において、リンクLNは、S202で生成された隣接する液滴要素を結び付けるものである。
【0092】
図16(a)に示す時刻において、液滴要素DRP
1の代表点C
1と液滴要素DRP
3の代表点C
3とを結び付けるリンクは、開リンクLNO
13であると判定される。同様に、液滴要素DRP
2の代表点C
2と液滴要素DRP
3の代表点C
3とを結び付けるリンクは、開リンクLNO
23であると判定される。同様に、液滴要素DRP
1の代表点C
1と液滴要素DRP
2の代表点C
2とを結び付けるリンクは、開リンクLNO
12であると判定される。これらのリンクは、ある時間が経過することで、
図16(b)に示すように、閉リンクLNC
13、LNC
23及びLNC
12である(即ち、液低要素DRP
1と液滴要素DRP
2と液滴要素DRP
3とが接合している)と判定される。
図16(b)に示すように、閉リンクLNCが存在する場合に、閉領域の有無が判定される。
【0093】
次に、閉領域の有無を判定する手法について説明する。まず、リンクの開閉の判定の結果に基づいて、開リンクから閉リンクに遷移したリンクのうち、着目領域における閉リンクを起点として選択する。次に、起点となる閉リンクにおいて、隣接するリンクが閉リンクであるかどうかを判定し、隣接するリンクが閉リンクである場合には、この隣接する閉リンクを起点として選択する。そして、隣接する閉リンクを起点として、隣接するリンクが閉リンクであるかどうかを判定する。このような処理を繰り返して、閉リンクとして選択されたリンクによって、閉じた図形が形成される場合に、閉領域が存在すると判定する。なお、隣接する閉リンクを選択する際に、隣接する閉リンクが複数ある場合には、起点となる閉リンクと、隣接する閉リンクとのなす角度が最大(又は最小)となる閉リンクを選択し続けることで、閉領域を適切に抽出することができる。
【0094】
図16(b)を参照して、閉領域の有無を判定する手法を具体的に説明する。まず、新たに閉リンクと判定された閉リンクLNC
12を起点のリンクとして選択する。次に、閉リンクLNC
12を構成するノード(液滴要素DRP
1及びDRP
3)のうち、一方のノードに着目し、着目するノードを起点とした隣接するリンクにおいて、閉リンクを探索する。ここでは、液滴要素DRP
1のノードに対して、閉リンクLNC
14及びLNC
13が候補として挙げられる。なお、閉リンクLNC
14は、液滴要素DRP
1の代表点C
1と液滴要素DRP
4の代表点C
4とを結び付けるリンクに対応する閉リンクである。次に、閉リンクLNC
12と閉リンクLNC
14との間の角度θ
14と、閉リンクLNC
12と閉リンクLNC
13との間の角度θ
13とを比較して、角度が大きい方の閉リンクを、次の起点の閉リンクとして選択する。ここでは、角度θ
13が角度θ
14よりも大きいため、次の起点の閉リンクとして閉リンクLNC
13が選択される。このような処理を繰り返すと、閉リンクLNC
23を起点として隣接する閉リンクを選択すると、既に選択されたリンクLNC
12が再度選択されることから、閉領域が形成されたと判定される。
図17は、5つの液滴要素DRP
1、DRP
2、DRP
3、DRP
4及びDRP
5から形成される閉領域を示している。
図17においても、
図16と同様に、隣接する閉リンクの選択を繰り返すことによって、より多くの液滴要素で形成された閉領域の有無を判定することができる。
【0095】
S207では、S106では、リンクLNの開閉の判定の結果、及び、閉領域の有無の判定の結果を用いて、接合情報が算出される。接合情報は、隣接する液滴との接合の度合いに関する関係を評価する評価値を意味する。本実施形態では、互いに隣接する複数の閉リンクによって形成される閉領域に含まれる気泡の量を接合情報とする。
【0096】
図18(a)及び
図18(b)は、閉領域に含まれる気泡の量を算出する手法を説明するための図である。本実施形態では、接合情報として、液滴要素DRP
1、DRP
2及びDRP
3によって形成される閉領域に含まれる気泡の量V
bubを算出する。
図18(a)は、基板Sを上から見た状態を示し、
図18(b)は、
図18(a)に示す線1801に沿って、基板Sを横から見た状態を示している。
【0097】
まず、
図18(a)に示すように、気泡を上から見たときの気泡面積S
bubを算出する。気泡面積Sbubは、以下の式(3)に示すように、閉領域を形成するリンクを境界とする閉領域面積S
closeと、閉領域に含まれる液滴要素DRP
1、DRP
2及びDRP
3の面積S
drpとの差として求められる。
【0098】
【0099】
図18(b)を参照するに、気泡の量V
bubは、型Mと基板Sとの間に挟まれた気泡の量であり、以下の式(4)によって求められる。ここで、hは、型Mと基板Sとの間の距離(高さ)である。
【0100】
【0101】
なお、式(4)では、閉領域に含まれる気泡の量として、気泡の体積を算出しているが、これに限定されるものではない。例えば、閉領域に含まれる気体の量として、以下の式(5)に示すように、気泡に含まれる気体の分子数nbubを算出してもよい。ここで、Rは、気体定数であり、Tは、温度である。
【0102】
【0103】
このように、気泡に含まれる気体の分子数は、気泡における気体の圧力と気泡の体積との積に比例する量として求められる。なお、気体の圧力は、例えば、気泡が型Mの押し付けによって受ける力として算出することができる。
【0104】
このようにして求められた接合情報は、S210において、かかる接合情報に対する硬化性組成物IMの液滴の状態(広がり状態)を示す情報とともに、ディスプレイ30に表示される。
図19は、S210でディスプレイ30に表示される、接合情報を含む画像の一例を示す図である。
図19では、基板Sのショット領域STに配置された液滴要素DRP
iの分布に対して、接合情報として、式(4)や式(5)から算出された気泡の量を表示している。具体的には、気泡の量(の大きさ)に応じて円1901の大きさを変更するバブルチャート表示によって、気泡の量を表示している。例えば、
図20に示すように、液滴要素DRP
iを表示するとともに、気泡の量に応じて、閉領域に含まれる気泡の量を表す円2001の大きさを変更する。これにより、閉領域に含まれる気泡の量(の分布状態)を視覚的に捉えることができる。
【0105】
本実施形態では、気泡の量(の大きさ)に応じて、気泡を表す円の大きさを変更する場合について説明したが、これに限定されるものではない。例えば、気泡の量の大小に応じて、かかる気泡の量に対応する閉空間の領域の色相を変更してもよい。
【0106】
S208では、S207で算出された接合情報、及び、その時系列的な変化から、その時刻での硬化性組成物IMの挙動の異常の有無が判定される(即ち、硬化性組成物IMの挙動の異常が検出される)。
【0107】
以下、硬化性組成物IMの挙動の異常を検出する手法の一例を説明する。本実施形態では、以下の(1)及び(2)の手順を踏むことで、異常の有無を判定する(異常を検出する)。
【0108】
(1)
図21に示すように、閉領域に含まれる気泡の量に関するグラフを生成する。
図21では、縦軸が閉領域に含まれる気泡の量を表し、横軸が気泡を含む閉領域の個数を表している。
【0109】
(2)
図21に示すグラフにおいて、気泡の量に対して閾値を設け、かかる閾値よりも大きい気泡の量を有する気泡を異常と判定する。そして、異常な気泡を含む閉空間を形成する液滴を異常と判定する。なお、閾値は、型Mに硬化性組成物IMを充填させる充填時間に応じて設定される。例えば、充填時間が長い場合には、充填期間中に吸収される気泡の量が多くなるため、大きい閾値を設定する。一方、充填時間が短い場合には、充填期間中に吸収される気泡の量が少なくなるため、小さい閾値を設定する。
【0110】
このようにして異常と判定された気泡の量は、S210において、硬化性組成物IMの挙動の有無を示す異常情報として、ディスプレイ30に表示される。
図22は、S210でディスプレイ30に表示される、異常情報を含む画像の一例を示す図である。
図22では、異常と判定された気泡のみが、気泡の量に応じて大きさが変更された円によって表示されている。これにより、異常と判定された気泡のみを視覚的に確認することができるため、各液滴要素DRP
iに対する異常の発生箇所を容易に把握することができる。なお、本実施形態では、異常と判定された気泡のみを表示しているが、硬化性組成物IMの液滴の状態(広がり状態)を示す情報とともに表示するとよい。これにより、異常が発生している箇所(液滴要素)を視覚的に把握することができる。また、異常と判定された気泡を、それ以外の気泡と区別するために、点滅させてもよい。
【0111】
S203、S204、S205、S206、S207及びS208を含む計算工程は、予め設定された複数の時刻について実行される。複数の時刻は、例えば、型Mが初期位置から降下を開始する時刻から、複数の液滴と接触し、複数の液滴がつぶされながら広がり、複数の液滴が相互に結合し、最終的に1つの膜を形成し、硬化性組成物の硬化がなされるべき時刻までの期間内で任意に設定される。複数の時刻は、典型的には、一定の時間間隔で設定される。
【0112】
S209では、計算における時刻が終了時刻に達したかどうかが判定される。上述したように、計算における時刻が終了時刻に達していなければ、時刻を次の時刻に進めてS203に移行し、計算における時刻が終了時刻に達していれば、S210に移行する。一例において、S209では、現在の時刻が指定された時間刻み分だけ進められて、新たな時刻とされる。そして、新たな時刻が終了時刻に達した場合、S210に移行する。
【0113】
S210では、上述したように、
図19に示す画像、
図20に示す画像及び
図22に示す画像の少なくとも1つがディスプレイ30に表示される。S210では、例えば、ユーザの要求に応じて、
図19に示す画像、
図20に示す画像及び
図22に示す画像を切り替えながら表示してもよいし、
図19に示す画像、
図20に示す画像及び
図22に示す画像のうちの一部の画像又は全部の画像を表示してもよい。
【0114】
本実施形態によれば、基板Sの上に配置された硬化性組成物IMの複数の液滴の挙動、特に、液滴の広がりの異常の有無を判定して視覚的に認識することが可能となる。従って、膜形成装置IMPにおいて硬化性組成物IMの膜を形成する処理における硬化性組成物IMの挙動の異常を検出するのに有利な技術を提供することができる。また、本実施形態におけるシミュレーション方法及びその結果を用いて硬化性組成物IMの液滴配置パターンの調整を繰り返すことで、硬化性組成物IMの膜を形成する処理における異常を軽減しながら、かかる処理の条件を容易に設定することが可能となる。
【0115】
本発明は、上述の実施形態の1つ以上の機能を実現するプログラムを、ネットワーク又は記憶媒体を介してシステム又は装置に供給し、そのシステム又は装置のコンピュータにおける1つ以上のプロセッサがプログラムを読出し実行する処理でも実現可能である。また、1つ以上の機能を実現する回路(例えば、ASIC)によっても実現可能である。
【0116】
シミュレーション装置1が組み込まれた膜形成装置IMPは、第1部材の上に配置された硬化性組成物と第2部材とを接触させ第1部材の上に硬化性組成物の膜を形成する処理を、シミュレーション装置1による硬化性組成物の挙動の予測に基づいて制御する。
【0117】
実施形態の物品製造方法は、上述したシミュレーション方法を繰り返しながら第1部材の上に配置された硬化性組成物と第2部材とを接触させ第1部材の上に該化性組成物の膜を形成する処理の条件を決定する工程と、該条件に従って該処理を実行する工程とを含む。ここまでは、型がパターンを有する形態について説明したが、本発明は、基板がパターンを有する形態にも適用できる。
【0118】
図23には、物品の製造方法のより具体的な例が示されている。
図23(a)に示すように、絶縁体などの被加工材が表面に形成されたシリコンウエハなどの基板を用意し、続いて、インクジェット法などにより、被加工材の表面にインプリント材(硬化性組成物)を付与する。ここでは、複数の液滴状になったインプリント材が基板上に付与された様子を示している。
【0119】
図23(b)に示すように、インプリント用の型を、その凹凸パターンが形成された側を基板上のインプリント材に向け、対向させる。
図23(c)に示すように、インプリント材が付与された基板と型とを接触させ、圧力を加える。インプリント材は、型と被加工材との隙間に充填される。この状態で硬化用のエネルギーとして光を型を介して照射すると、インプリント材は硬化する。
【0120】
図23(d)に示すように、インプリント材を硬化させた後、型と基板を引き離すと、基板上にインプリント材の硬化物のパターンが形成される。この硬化物のパターンは、型の凹部が硬化物の凸部に、型の凸部が硬化物の凹部に対応した形状になっており、即ち、インプリント材に型の凹凸のパターンが転写されたことになる。
【0121】
図23(e)に示すように、硬化物のパターンを耐エッチングマスクとしてエッチングを行うと、被加工材の表面のうち、硬化物がない、或いは、薄く残存した部分が除去され、溝となる。
図23(f)に示すように、硬化物のパターンを除去すると、被加工材の表面に溝が形成された物品を得ることができる。ここでは、硬化物のパターンを除去したが、加工後も除去せずに、例えば、半導体素子などに含まれる層間絶縁用の膜、即ち、物品の構成部材として利用してもよい。
【0122】
発明は上記実施形態に制限されるものではなく、発明の精神及び範囲から離脱することなく、様々な変更及び変形が可能である。従って、発明の範囲を公にするために請求項を添付する。
【符号の説明】
【0123】
1:シミュレーション装置 10:プロセッサ 20:メモリ 21:シミュレーションプログラム 30:ディスプレイ 40:入力デバイス