(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-13
(45)【発行日】2024-09-25
(54)【発明の名称】クラッチを備える路上走行車両を制御する制御方法
(51)【国際特許分類】
B60W 30/02 20120101AFI20240917BHJP
F16D 48/02 20060101ALI20240917BHJP
F16D 25/10 20060101ALI20240917BHJP
【FI】
B60W30/02 300
F16D48/02 640L
F16D25/10 A
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2020158642
(22)【出願日】2020-09-23
【審査請求日】2023-07-12
(31)【優先権主張番号】102019000017531
(32)【優先日】2019-09-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】IT
(73)【特許権者】
【識別番号】519463178
【氏名又は名称】フェラーリ エッセ.ピー.アー.
【氏名又は名称原語表記】FERRARI S.p.A.
【住所又は居所原語表記】Via Emilia Est, 1163, 41100 MODENA, Italy
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】アレッサンドロ バローネ
(72)【発明者】
【氏名】アンドレア ナンニーニ
(72)【発明者】
【氏名】ジャコモ センセリーニ
(72)【発明者】
【氏名】ステファノ マルコーニ
【審査官】平井 功
(56)【参考文献】
【文献】特開平10-96467(JP,A)
【文献】特開2005-219671(JP,A)
【文献】特開2013-64456(JP,A)
【文献】国際公開第2016/042844(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60W 30/00-60/00
F16D 25/10
F16D 48/02
F16H 61/688
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
制御ユニット(12)によって、内燃エンジン(4)を駆動輪(3)に接続して
デュアルクラッチサーボアシストトランスミッション(7)の上流側に配置されるクラッチ(16)を備える路上走行車両(1)を制御する
制御方法であって、
前記駆動輪(3)のタイヤがグリップ限界に近いかどうかを確認するステップと、
前記駆動輪(3)のタイヤが前記グリップ限界に近いときに前記クラッチ(16)が一定であるゼロ以外の前記クラッチ(16)のスリップでトルクを前記駆動輪(3)に伝達するように前記クラッチ(16)を開放するステップと
を含み、
前記駆動輪(3)のタイヤは、前記
デュアルクラッチサーボアシストトランスミッション(7)において所定のギアセットに属するギアが噛み合わされる場合
、前記内燃エンジン(4)の回転速度(ω
E
)が所定の速度範囲にある場合及び前記内燃エンジン(4)によって生成されるトルク(T
E)がトルク閾値を超える場合に、前記グリップ限界に近いと見なされる、制御方法。
【請求項2】
前記スリップに起因して、前記クラッチ(16)の駆動ディスク(26)は、前記クラッチ(16)の従動ディスク(27)の回転速度(ω
2)よりも大きい回転速度(ω
1)を有する、請求項1に記載の制御方法。
【請求項3】
前記駆動ディスク(26)の前記回転速度(ω
1)と前記従動ディスク(27)の前記回転速度(ω
2)との間の差が70~180回転/分の範囲である、請求項2に記載の制御方法。
【請求項4】
前記駆動ディスク(26)の前記回転速度(ω
1)と前記従動ディスク(27)の前記回転速度(ω
2)との間の差が前記内燃エンジン(4)の回転速度(ω
E)の0.5%~1.2%の範囲である、請求項2又は3に記載の制御方法。
【請求項5】
前記路上走行車両(1)が載置する路面のグリップの度合いを決定するステップと、
前記路面のグリップの度合いに応じて前記トルク閾値を決定するステップと、
を更に含む請求項1から
4のいずれか一項に記載の制御方法。
【請求項6】
前記クラッチ(16)の目標スリップ(S
T)を決定するステップと、
前記内燃エンジン(4)によって生成されるエンジントルク(T
E)を検出するステップと、
前記クラッチ(16)によって伝達されなければならないクラッチトルク(T
C)を定めるステップと、
前記クラッチトルク(T
C)を伝達するように前記クラッチ(16)を制御するステップと、
を更に含む請求項1から
5のいずれか一項に記載の制御方法。
【請求項7】
前記クラッチ(16)の前記目標スリップ(
S
T
)がドライブトレイン(6)の制御ユニット(12)のメモリから読み取られる、請求項
6に記載の制御方法。
【請求項8】
前記クラッチ(16)の実際のスリップ(S
R)を周期的に決定するステップと、
前記クラッチ(16)によって伝達されなければならないとともに前記エンジントルク(T
E)よりも小さい前記クラッチトルク(T
C)を定めるステップと、
前記クラッチ(16)の前記目標スリップ(S
T)と前記クラッチ(16)の前記実際のスリップ(S
R)との間の差に応じて前記クラッチトルク(T
C)を周期的に変えるステップと、
を更に含む請求項
6又は
7に記載の制御方法。
【請求項9】
前記クラッチ(16)の前記目標スリップ(S
T)に追随するように前記クラッチトルク(T
C)が変えられる、請求項
8に記載の制御方法。
【請求項10】
前記クラッチトルク(T
C)は、制御エラー(ε
S)が前記クラッチ(16)の前記目標スリップ(S
T)と前記クラッチ(16)の前記実際のスリップ(S
R)との間の差であるフィードバック制御によって調節される、請求項
8又は
9に記載の制御方法。
【請求項11】
前記クラッチトルク(T
C)は、前記制御エラー(ε
S)を入力として受けるPIDコントローラ(29)によって変えられる、請求項1
0に記載の制御方法。
【請求項12】
前記クラッチ(16)によって伝達されなければならないとともに前記エンジントルク(T
E)に等しい前記クラッチトルク(T
C)を定めるステップと、
前記クラッチ(16)の従動ディスク(27)の回転速度(ω
2)を検出するステップと、
前記クラッチ(16)の前記目標スリップ(S
T)を前記クラッチ(16)の前記従動ディスク(27)の前記回転速度(ω
2)に加算することにより前記クラッチ(16)の駆動ディスク(26)の目標回転速度(ω
1-T)を決定するステップと、
前記クラッチ(16)の駆動ディスク(26)の前記目標回転速度(ω
1-T)を追随すべく前記内燃エンジン(4)により生成される前記エンジントルク(T
E)を変えるように前記内燃エンジン(4)を制御するステップと、
を更に含む請求項
6又は
7に記載の制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
[関連出願の相互参照]
本特許出願は、その開示全体が参照により本願に組み入れられる2019年9月30日に出願されたイタリア特許出願第102019000017531号の優先権を主張する。
【0002】
本発明は、路上走行車両を制御する方法に関する。
【0003】
本発明は、デュアルクラッチサーボアシストトランスミッションを備えるドライブトレインにおいて有利な用途を見出し、このため、これについては、一般性を失うことなく、以下の説明で明確に言及する。
【背景技術】
【0004】
デュアルクラッチサーボアシストトランスミッションを備えるドライブトレインは、互いに同軸で互いに独立しているとともに互いに内側に挿入される一対の主シャフトと、それぞれがそれぞれの主シャフトを内燃エンジンのドライブシャフトに接続するようになっている2つの同軸クラッチと、動きを駆動輪に伝達するとともにそれぞれがギアを形成するそれぞれのギアトレインによって主シャフトに結合され得る少なくとも1つの副シャフトとを備える。
【0005】
ギアシフト中、現在のギアが副シャフトを主シャフトに結合し、一方で、追従するギアが副シャフトを他の主シャフトに結合し、結果として、ギアシフトは、2つのクラッチを交差させることによって、すなわち、現在のギアに関連付けられるクラッチを開放することによって及び同時に追従するギアと関連付けられるクラッチを閉じることによって行われる。
【0006】
駆動輪のタイヤがグリップ限界に近い場合(通常、トランスミッションにローギアが噛み合わされて、例えば水の存在に起因して路面のグリップが不十分であるとき)には「スティックスリップ」として知られる現象が頻繁に発生する可能性があり、この現象は、継続的且つ連続的なグリップの損失及び回復を特徴とし、言い換えると、短いセグメントに沿って駆動輪のタイヤが地面にグリップを持ち、後続のセグメントに沿ってタイヤがグリップを失ってスリップし、更なる後続のセグメントに沿ってタイヤがグリップを回復し、以下同様である。
【0007】
「スティックスリップ」として知られる前記現象は、それが内燃エンジンに伝達される振動をドライブトレイン内で引き起こし、内燃エンジンが、それらの振動を、内燃エンジンをフレームに固定するバッファーを介してフレームに伝えるため、マイナスである。「スティックスリップ」として知られる現象によって引き起こされる振動は、ほぼ常に金属ノイズをもたらし、この金属ノイズはドライバーにとっては特に煩わしく(路上走行車両に何かが壊れているように聞こえるため)、更に、幾つかの特に不利な状況では、「スティックスリップ」として知られる現象により引き起こされる振動が構造の共振によって増幅される可能性があり、それにより、ドライブトレインや内燃エンジンの構成要素に損傷を与え得るトルクピークがもたらされる(所定時間後に疲労破壊がもたらされる或いは特に激しい衝撃的な応力の後に突然の破壊がもたらされる)。
【0008】
米国特許出願公開第2003183031号明細書は、車両の移動を前進方向又は後退方向で開始することができ且つ滑りやすい道路に適した車両ドライビングモードに自動的に達することができる自動トランスミッションについて記載している。この目的のために、駆動輪がスリップするかどうかを検出する駆動輪スリップ検出器と、ローギア以外のギアトレイン及びバックギアトレインのうちの一方と噛み合うためのサブクラッチと、シフト位置がローギア又はバックギアにあるとき及び駆動輪がスリップしていることを駆動輪スリップ検出器が検出するときにサブクラッチを接続するコントローラとが設けられる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、路上走行車両を制御する方法を提供することであり、前記方法は、「スティックスリップ」として知られる前述の現象のマイナスの結果を回避すると同時に、実施が容易で経済的である。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明によれば、添付の特許請求の範囲に係る、路上走行車両を制御する方法が提供される。
【0011】
添付の特許請求の範囲は、本発明の好ましい実施形態を記載し、明細書本文の一体部分を形成する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
ここで、本発明の非限定的な実施形態を示す添付図面を参照して本発明を説明する。
【
図1】本発明の制御方法にしたがって制御される、デュアルクラッチサーボアシストトランスミッションを伴うドライブトレインを備える後輪駆動の路上走行車両の概略平面図である。
【
図3】ドライブトレインの制御ユニットに実装される制御ロジックのブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
図1において、数字1は、全体として、2つの前従動(すなわち、非駆動)輪2と2つの後駆動輪3とを備える路上走行車両(特に、自動車)を示す。前方位置には、ドライブトレイン6によって駆動輪3に伝達されるトルクを生成するドライブシャフト5を備える内燃エンジン4がある。ドライブトレイン6は、後輪駆動アセンブリに配置されるデュアルクラッチサーボアシストトランスミッション7と、ドライブシャフト5をデュアルクラッチサーボアシストトランスミッション7の入力に接続するトランスミッションシャフト8とを備える。デュアルクラッチサーボアシストトランスミッション7は、トレインのような態様でセルフロック差動装置9に接続され、セルフロック差動装置9からは一対のアクスルシャフト10が延び、各アクスルシャフト10は駆動輪3と一体である。
【0014】
路上走行車両1は、エンジン4を制御するエンジン4の制御ユニット11と、ドライブトレイン6を制御するドライブトレイン6の制御ユニット12と、バスライン13とを備え、バスライン13は、例えばCAN(カー・エリア・ネットワーク)プロトコルにしたがって製造され、路上走行車両1全体に延びるとともに、2つの制御ユニット11,12が互いに通信できるようにする。言い換えると、エンジン4の制御ユニット11及びドライブトレイン6の制御ユニット12は、バスライン13に接続され、したがって、バスライン13を介して送信されるメッセージによって互いに通信できる。更に、エンジン4の制御ユニット11及びドライブトレイン6の制御ユニット12は、専用の同期ケーブル14によって互いに直接に接続可能であり、専用の同期ケーブル14は、バスライン13によって引き起こされる遅延を伴うことなく、ドライブトレイン6の制御ユニット12からエンジン4の制御ユニット11へ信号を直接に送信できる。或いは、同期ケーブル14がなくてもよく、また、2つの制御ユニット11,12間の全ての通信がバスライン13を使用してやりとりされてもよい。
【0015】
図2によれば、デュアルクラッチサーボアシストトランスミッション7は、互いに同軸で互いに独立しているとともに互いに内側に挿入される一対の主シャフト15を備える。更に、デュアルクラッチサーボアシストトランスミッション7は、それぞれがそれぞれの主シャフト15をトランスミッションシャフト8の介在により内燃エンジン4のドライブシャフト5に接続するようになっている2つの同軸クラッチ16を備え、各クラッチ16は、オイルバスクラッチであり、そのため、圧力制御され(すなわち、クラッチ16の開閉の程度は、クラッチ16内のオイルの圧力によって決定される)、別の実施形態によれば、各クラッチ16は、乾式クラッチであり、したがって、位置制御される(すなわち、クラッチ16の開閉の程度は、クラッチ16の可動要素の位置によって決定される)。デュアルクラッチサーボアシストトランスミッション7は、駆動輪3に動きを伝達する差動装置9に接続される1つの単一の副シャフト17を備え、別の同等の実施形態によれば、デュアルクラッチサーボアシストトランスミッション7が2つの副シャフト17を備え、これらの副シャフト17はいずれも差動装置9に接続される。
【0016】
デュアルクラッチサーボアシストトランスミッション7は、ローマ数字で示される7つの前進ギア(第1のギアI、第2のギアII、第3のギアIII、第4のギアIV、第5のギアV、第6のギアVI、及び、第7のギアVII)と後進ギア(Rで示される)とを有する。主シャフト15及び副シャフト17は複数のギアトレインによって互いに機械的に結合され、各ギアトレインは、それぞれのギアを形成するとともに、主シャフト15に取り付けられる主ギアホイール18と、副シャフト17に取り付けられる副ギアホイール19とを備える。デュアルクラッチサーボアシストトランスミッション7の正確な動作を可能にするために、全ての奇数ギア(第1のギアI、第3のギアIII、第5のギアV、第7のギアVII)が同じ主シャフト15に結合され、一方、全ての偶数ギア(第2のギアII、第4のギアIV、及び、第6のギアVI)は他方の主シャフト15に結合される。
【0017】
各主ギアホイール18は、常に主シャフト15と一体に回転するようにそれぞれの主シャフト15にスプライン結合されるとともに、それぞれの副ギアホイール19と恒久的に噛み合い、一方、各副ギアホイール19は、副シャフト17に遊動態様で装着される。更に、デュアルクラッチサーボアシストトランスミッション7は4つの同期装置20を備え、各同期装置は、副シャフト17と同軸に装着され、2つの副ギアホイール19間に配置されるとともに、2つのそれぞれの副ギアホイール19を副シャフト17に対して二者択一的に取り付けるべく(すなわち、2つのそれぞれの副ギアホイール19が副シャフト17と角度的に一体になるようにするべく)動作されるように設計される。言い換えると、各同期装置20は、副ギアホイール19を副シャフト17に取り付けるべく一方向に移動され得る、或いは、他の副ギアホイール19を副シャフト17に取り付けるべく他方向に移動され得る。
【0018】
デュアルクラッチトランスミッション7は、駆動輪3に動きを伝達する差動装置9に接続される1つの単一の副シャフト17を備え、別の同等の実施形態によれば、デュアルクラッチトランスミッション7が2つの副シャフト17を備え、これらの副シャフト17はいずれも差動装置9に接続される。
【0019】
図1によれば、路上走行車両1は、ドライバーのための運転位置を確保する乗員室を備え、運転位置は、シート(図示せず)と、ステアリングホイール21と、アクセルペダル22と、ブレーキペダル23と、2つのパドルシフタ24,25とを備え、2つのパドルシフタ24,25はデュアルクラッチサーボアシストトランスミッション7を制御してステアリングホイール21の両側に接続される。アップシフトパドルシフタ24は、アップシフト(すなわち、現在のギアよりも高く且つ現在のギアと隣接する新しいギアの噛み合い)を要求するためにドライバーによって(短い圧力により)操作され、一方、ダウンシフトパドルシフタ25は、ダウンシフト(すなわち、現在のギアよりも低く且つ現在のギアと隣接する新しいギアの噛み合い)を要求するためにドライバーによって(短い圧力により)操作される。
【0020】
使用時、ドライブトレイン6の制御ユニット12は、駆動輪3のタイヤがグリップ限界に近いかどうかをチェックした後、クラッチ16のゼロ以外の一定のスリップでクラッチ16が駆動輪3にトルクを伝達するようにクラッチ16を(僅かに)開放する。言い換えると、前記スリップに起因して、クラッチ16の駆動ディスク26(
図2に概略的に示される)は、クラッチ16の従動ディスク27(
図2に概略的に示される)の回転速度ω
2よりも大きい回転速度ω
1を有し、したがって、クラッチ16のスリップは、クラッチ16の駆動ディスク26の回転速度ω
1とクラッチ16の従動ディスク27の回転速度ω
2との間の差に(絶対値で)等しい。
【0021】
一般的に言えば、クラッチ16のスリップ(すなわち、駆動ディスク26の回転速度ω1と従動ディスク27の回転速度ω2との間の差)は、絶対値では、70~180回転/分の範囲であり、また、相対値では、内燃エンジン4の回転速度ωEの0.5%~1.2%の範囲である。したがって、駆動輪3のタイヤがグリップ限界に近い場合には、クラッチ16が該クラッチ16の目標スリップSTを目指すように制御され、目標スリップSTは、設計段階中に一般に定められて、ドライブトレイン6の制御ユニット12のメモリに記憶され、絶対値では70~180回転/分の範囲であり、相対値では内燃エンジン4の回転速度ωEの0.5%~1.2%の範囲である。想定し得る実施形態によれば、クラッチ16の目標スリップSTは、常に一定であることができず、デュアルクラッチサーボアシストトランスミッション7に噛み合わされるギアに応じて、内燃エンジン4の回転速度ωEに応じて、及び/又は、内燃エンジン4により生成されるトルクTEに応じて変化可能であり、この場合、ドライブトレイン6の制御ユニット12のメモリには、クラッチ16の目標スリップSTの値を与えるマップ(通常、路上試験によって実験的に精緻化される)が記憶される。
【0022】
ドライブトレイン6の制御ユニット12は、以下の3つの条件が同時に発生した場合に駆動輪3のタイヤがグリップ限界に近いと見なす。
【0023】
1.デュアルクラッチサーボアシストトランスミッション7では、所定のギアセット(最も低速のギア、すなわち一般的に言えば、第1のギアI、第2のギアII、及び、第3のギアIIIを備える)に属するギアが噛み合わされる。
【0024】
2.内燃エンジン4の回転速度ωEが所定の速度範囲(例えば、4,000~8,000回転/分)にある。
【0025】
3.内燃エンジン4により生成されるトルクTEがトルク閾値を超える。
【0026】
想定し得る実施形態によれば、トルク閾値は常に一定である。或いは、ドライブトレイン6の制御ユニット12は、路上走行車両1が載置する路面のグリップの度合いを決定することができ、したがって、毎回、路面のグリップの度合いに基づいてトルク閾値を決定でき、一般的に言えば、グリップの度合いに関する情報は、それが(既知の態様で)推定されてブレーキ制御ユニットによって共有されるため、バスライン13を介して利用できる。
【0027】
図3に概略的に示される想定し得る実施形態によれば、ドライブトレイン6の制御ユニット12は、クラッチ16の目標スリップS
Tを決定し、クラッチ16の実際のスリップS
Rを周期的に決定して、内燃エンジン4により生成されるトルクT
Eを検出するとともに、クラッチ16により伝達されなければならず且つエンジントルクT
Eよりも(僅かに)小さいクラッチトルクT
Cを定め、クラッチトルクT
Cを伝達するようにクラッチ16を制御して、クラッチ16の目標スリップS
Tとクラッチ16の実際のスリップS
Rとの間の差に応じてクラッチトルクT
Cを周期的に変化させる。
【0028】
言い換えると、ドライブトレイン6の制御ユニット12は、クラッチ16の目標スリップSTを目指すべく、すなわち、クラッチ16が常に目標スリップSTを有するように、クラッチトルクTCを変化させる。
【0029】
クラッチ16が(オイルの)圧力に基づいて制御されるため、クラッチトルクTCが変換チャート(事前に知られている)によって対応する圧力値に変換されることに留意すべきである。
【0030】
図3に示される好ましい実施形態によれば、ドライブトレイン6の制御ユニット12は、フィードバック制御を実施してクラッチトルクT
Cを調節し、フィードバック制御において、制御エラーε
Sは、クラッチ16の目標スリップS
Tとクラッチ16の実際のスリップS
Rとの間の差に等しい。特に、フィードバック制御は、クラッチ16の目標スリップS
Tとクラッチ16の実際のスリップS
Rとの間の差を実行する制御エラーε
Sを計算する減算器ブロック28の使用を伴い、また、制御エラーε
Sを入力として受けるとともにクラッチ16を制御するべく用いられるクラッチトルクT
Cを出力として与えるPIDコントローラ29の使用も伴う。
図3によれば、駆動ディスク26の回転速度ω
1と従動ディスク27の回転速度ω
2との間の差を実行するクラッチ16の実際のスリップS
Rを計算する計算ブロック30が設けられる。
【0031】
クラッチトルクTCはエンジントルクTEを発端として決定されるため、PIDコントローラ29は、内燃エンジン4により生成されるエンジントルクTEも受け、実際に、クラッチトルクTCはエンジントルクTEよりも(僅かに)小さくなければならない。
【0032】
言い換えると、前述の制御モードは、クラッチトルクTCの微小変動によりクラッチ16の実際のスリップSRを管理して内燃エンジン4より生成されるエンジントルクTEを一定に維持することを伴う(明らかに、アクセルペダル22に対するドライバーの作用が一定である場合に限る)。この制御モード(クラッチ16のみに関連し、内燃エンジン4に関連しない)は、有効ではある(つまり、クラッチ16を常に目標スリップSTのごく近傍で機能させることができる)が、一方で、振動トルクを駆動輪3に伝達する傾向があり(クラッチによって伝達されるクラッチトルクTCが連続的に可変であるため)、それにより、ドライバーによって知覚され得る縦方向の振動を路上走行車両1の動きに引き起こす可能性がある。
【0033】
この欠点を回避するために(つまり、駆動輪3に伝達されるトルクをより一定に保つため)、ドライブトレイン6の制御ユニット12が異なる動作をする可能性があり、つまり、ドライブトレイン6の制御ユニット12は、クラッチ16の目標スリップSTを決定して、内燃エンジン4により生成されるエンジントルクTEを検出し、クラッチ16により伝達されなければならず且つエンジントルクTEに等しい(したがって、ドライバーが異なる態様でアクセルペダル22に作用しない限り一定である)クラッチトルクTCを定めるとともに、クラッチトルクTC(ドライバーが異なる態様でアクセルペダル22に作用しない限り一定に維持される)を伝達するようにクラッチ16を制御し、クラッチ16の従動ディスク27の回転速度ω2を検出し、クラッチ16の目標スリップSTをクラッチ16の従動ディスク27の回転速度ω2に加算することによってクラッチ16の駆動ディスク26の目標回転速度ω1-Tを決定して、クラッチ16の駆動ディスク26の目標回転速度ω1-Tを目指すべく内燃エンジン4により生成されるエンジントルクTEを(微変動を伴って)変化させるように内燃エンジン4を制御する。
【0034】
言い換えると、前述のこの別の動作モードは、内燃エンジン4より生成されるエンジントルクTEの微小変動によりクラッチ16の実際のスリップSRを管理して、クラッチトルクTCを一定に維持することを伴う(明らかに、アクセルペダル22に対するドライバーの作用が一定である場合に限る)。
【0035】
前述の制御方法は様々な利点を有する。
【0036】
まず第一に、前述の制御方法は、「スティックススリップ」として知られる現象によってドライブトレイン6に導入されるトルク振動がゼロ以外の所定の一定のスリップで動作するクラッチ16によりブロックされるため、「スティックスリップ」と呼ばれる現象(それ自体、特定の条件では回避できない)のマイナスの結果を回避し、言い換えると、クラッチ16がゼロ以外の所定の一定のスリップで動作する際、クラッチ16は機械的なローパスフィルターのように作用し、それにより、「スティックスリップ」と呼ばれる現象によってドライブトレイン6に導入されるトルク振動を効果的且つ効率的にブロックする。結果として、「スティックスリップ」として知られる現象によってドライブトレイン6に導入されるトルク振動は、クラッチ16で止まり、(不十分な態様でなければ、結果を伴うことなく)内燃エンジン4に伝達されない。
【0037】
更に、前述の制御方法は、その実行が限られた記憶空間と低減された計算能力とを必要とするため、実施するのが容易且つ経済的である。
【符号の説明】
【0038】
1 路上走行車両
2 前輪
3 後輪
4 エンジン
5 ドライブシャフト
6 ドライブトレイン
7 トランスミッション
8 トランスミッションシャフト
9 差動装置
10 アクスルシャフト
11 エンジン制御ユニット
12 ドライブトレイン制御ユニット
13 バスライン
14 同期ケーブル
15 主シャフト
16 クラッチ
17 副シャフト
18 主ギアホイール
19 副ギアホイール
20 同期装置
21 ステアリングホイール
22 アクセルペダル
23 ブレーキペダル
24 アップシフトパドルシフタ
25 ダウンシフトパドルシフタ
26 駆動ディスク
27 従動ディスク
28 減算器ブロック
29 PID制御
30 計算ブロック
ω1 回転速度
ω2 回転速度
ωE 回転速度
SR 実際のスリップ
ST 目標スリップ
εS 制御エラー
TC クラッチトルク
TE エンジントルク