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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-13
(45)【発行日】2024-09-25
(54)【発明の名称】シート状物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08J 5/18 20060101AFI20240917BHJP
   B65D 65/02 20060101ALI20240917BHJP
   B65D 65/40 20060101ALI20240917BHJP
   B65D 81/24 20060101ALI20240917BHJP
   B29C 51/10 20060101ALI20240917BHJP
   C08J 7/00 20060101ALI20240917BHJP
【FI】
C08J5/18 CES
C08J5/18 CFD
C08J5/18 CFG
B65D65/02 E
B65D65/40 D
B65D81/24 Z
B29C51/10
C08J7/00 302
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2020171839
(22)【出願日】2020-10-12
(65)【公開番号】P2022063529
(43)【公開日】2022-04-22
【審査請求日】2023-09-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000000918
【氏名又は名称】花王株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003339
【氏名又は名称】弁理士法人南青山国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100104215
【弁理士】
【氏名又は名称】大森 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100196575
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 満
(74)【代理人】
【識別番号】100160989
【弁理士】
【氏名又は名称】関根 正好
(74)【代理人】
【識別番号】100197398
【弁理士】
【氏名又は名称】千葉 絢子
(72)【発明者】
【氏名】内山 卓己
【審査官】加賀 直人
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-297162(JP,A)
【文献】特開2012-1722(JP,A)
【文献】特開2006-65929(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 5/18
B65D 65/02
B65D 65/40
B65D 81/24
B29C 51/10
C08J 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
有色成分を含有するリサイクル樹脂を含むシート状物の製造方法であって、
前記リサイクル樹脂を用いて前記シート状物を作製する工程と、
前記シート状物に可視光領域の波長を有する光を照射する照射工程と、
を有し、
前記照射工程では、太陽光を模したスペクトルの光を照射し、
前記光の照射強度の、300nm以上800nm以下の波長領域における積分値が、13,200Wh/m 以上132,000Wh/m 以下である
シート状物の製造方法。
【請求項2】
前記シート状物を加熱する加熱工程を有し、
前記照射工程では、加熱された前記シート状物に前記光を照射する
請求項に記載のシート状物の製造方法。
【請求項3】
前記加熱工程では、前記シート状物を40℃以上に加熱する
請求項に記載のシート状物の製造方法。
【請求項4】
前記リサイクル樹脂の少なくとも一部が包装容器から得られる
請求項1からのいずれか一項に記載のシート状物の製造方法。
【請求項5】
有色成分を含有するリサイクル樹脂を含むシート状物を用いた包装容器の製造方法であって、
前記リサイクル樹脂を用いて前記シート状物を作製する工程と、
前記シート状物に可視光領域の光を照射する照射工程と、
前記シート状物を用いて包装容器を作製する工程と、
を有し、
前記照射工程では、太陽光を模したスペクトルの光を照射し、
前記光の照射強度の、300nm以上800nm以下の波長領域における積分値が、13,200Wh/m 以上132,000Wh/m 以下である
包装容器の製造方法。
【請求項6】
前記包装容器には液状物が収容される
請求項に記載の包装容器の製造方法。
【請求項7】
有色成分を含有するリサイクル樹脂を含むシート状物の製造方法であって、
前記リサイクル樹脂を用いて前記シート状物を作製する工程と、
前記シート状物に可視光領域の波長を有する光を照射する照射工程と、
を有し、
前記照射工程では、太陽光を模したスペクトルの光を照射し、
前記光の照度は、216万Lx・h以上2,160万Lx・h以下の積算照度である
シート状物の製造方法。
【請求項8】
有色成分を含有するリサイクル樹脂を含むシート状物を用いた包装容器の製造方法であって、
前記リサイクル樹脂を用いて前記シート状物を作製する工程と、
前記シート状物に可視光領域の光を照射する照射工程と、
前記シート状物を用いて包装容器を作製する工程と、
を有し、
前記照射工程では、太陽光を模したスペクトルの光を照射し、
前記光の照度は、216万Lx・h以上2,160万Lx・h以下の積算照度である
包装容器の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リサイクル樹脂を含むシート状物の製造方法及びシート状物を用いた包装容器の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
樹脂材料を含むシート状物は、包装容器に用いられる包装材等として広く用いられている。近年、環境に配慮する観点から、当該シート状物の原料樹脂として、使用済みの樹脂含有製品を再生したリサイクル樹脂を用いる試みがなされている。例えば、特許文献1には、リサイクルポリエステル樹脂をフィルムの原材料として用いたポリエステルフィルムが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2019-137067号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年、リサイクル樹脂を適用する動きが広がっており、例えば、液状物を収容するパウチのような包装容器に対しても実用化が検討されている。一方で、リサイクル樹脂を用いたシート状物を、液状物等の被接触物と長時間接触させた場合についての知見については検討されていない。
【0005】
本発明の課題は、リサイクル樹脂に由来する物質の被接触物への移行又は溶出を抑制することが可能なシート状物の製造方法、及びシート状物を用いた包装容器の製造方法の提供に関する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一形態に係るシート状物の製造方法は、有色成分を含有するリサイクル樹脂を含むシート状物の製造方法であって、
前記リサイクル樹脂を用いて前記シート状物を作製する工程と、
前記シート状物に可視光領域の波長を有する光を照射する照射工程と、
を有する。
【発明の効果】
【0007】
本発明のシート状物の製造方法によれば、リサイクル樹脂に由来する物質の被接触物への移行又は溶出を抑制することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明の第1実施形態に係る包装容器の製造方法を説明するフローチャートである。
図2】本発明の第2実施形態に係る包装容器の製造方法を説明するフローチャートである。
図3】本発明の実施例の結果を示す図であり、黒色のパネル上に並べて配置した実施例1及び2並びに比較例1及び2のシート状物を、デジタルカメラによって撮像した画像を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
[本発明の概要]
本発明は、リサイクル樹脂を含むシート状物の製造方法、及び当該シート状物を用いた包装容器の製造方法に関する。より詳細には、シート状物を液状物等の被接触物に接触させた場合に、リサイクル樹脂に由来する物質の被接触物への移行又は溶出を抑制することが可能なシート状物及び包装容器の製造方法に関する。
本発明者らは、環境に配慮する観点から、リサイクル樹脂を用いたシート状物を、液状物等を収容する包装容器に適用するための検討を行っていた。その過程で、当該シート状物を液状物に長時間接触させたところ、当該液状物に、色移りなどの現象が見られることがわかった。このような現象は、リサイクル樹脂由来の物質が、当該液状物に移行又は溶出した結果であると考えられることから、本発明者らは、リサイクル樹脂由来の物質の当該移行又は溶出を抑制する処理についてさらに検討を重ね、本発明に到った。
【0010】
本明細書において、リサイクル樹脂に由来する物質は、リサイクル樹脂に含有され、シート状物から被接触物への移行又は溶出が生じ得る物質であり、例えば、後述する有色成分、臭いを発する臭い成分等を含む。
本明細書において、物質の移行とは、シート状物のリサイクル樹脂由来の物質が、被接触物に付着又は混入することであって、被接触物において、視覚又は嗅覚等の感覚により知覚できる変化を伴うものを意味する。
本明細書において、物質の溶出とは、シート状物のリサイクル樹脂由来の物質が、液状物である被接触物に溶け出ることであって、被接触物において、視覚又は嗅覚等の感覚により知覚できる変化を伴うものを意味する。
本明細書において、物質の移行又は溶出とは、物質の移行又は溶出の少なくとも一方が生じている状態を意味し、移行と溶出の双方が生じている態様を含む。
【0011】
[リサイクル樹脂]
本発明におけるリサイクル樹脂は、樹脂成形体を再生した樹脂を意味し、詳しくは使用済みの樹脂含有製品から公知の方法に従って回収されて得られた樹脂や工場において樹脂製品の製造時に発生する樹脂廃材から得られた樹脂を意味する。上記リサイクル樹脂は、成形性の観点から、熱可塑性樹脂を含むことが好ましい。
【0012】
リサイクル樹脂は、特に限定されないが、例えば、ポリオレフィン樹脂、ポリエステル樹脂、ナイロン樹脂、塩化ビニル樹脂、スチレン樹脂、ビニルエーテル樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、ポリアミド樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリスルホン樹脂等から選択される1又は複数の樹脂を含む。本発明で用いられるリサイクル樹脂としては、包装材としての樹脂使用量の観点から、少なくとも、ポリオレフィン樹脂、ポリエステル樹脂、及びポリアミド樹脂から選ばれる1又は複数を構成樹脂として含有するものが好ましく、少なくともポリオレフィン樹脂を含有するものがより好ましい。
【0013】
ポリオレフィン樹脂としては、ポリエチレン(PE樹脂)、ポリプロピレン(PP樹脂)、ポリスチレン(PS樹脂)、ポリ酢酸ビニル(PVAc樹脂)、ポリ塩化ビニル(PVC樹脂)、ポリ塩化ビニリデン(PVDC樹脂)、ポリアクリル酸(PA樹脂)、ポリアクリル酸エステル(PAE樹脂)、ポリブタジエン(PB樹脂)、ポリイソプレン(PIP樹脂)、ポリクロロプレン(PCP樹脂)等が例示される。これらのなかでも、包装材としての樹脂使用量の観点から、ポリエチレンを主成分として含有することが好ましい。
【0014】
ポリエステル樹脂としては、ポリエチレンテレフタレート(PET樹脂)、ポリトリメチレンテレフタレート(PTT樹脂)、ポリブチレンテレフタレート(PBT樹脂)、ポリエチレンナフタレート(PEN樹脂)、ポリブチレンナフタレート(PBN樹脂)等が例示される。
ポリアミド樹脂としては、ポリカプロアミド(ポリアミド6)、ポリヘキサメチレンアジパミド(ポリアミド66)、ポリカプロアミド/ポリヘキサメチレンアジパミドコポリマー(ポリアミド6/66)、ポリテトラメチレンアジパミド(ポリアミド46)、ポリヘキサメチレンセバカミド(ポリアミド610)、ポリヘキサメチレンドデカミド(ポリアミド612)、ポリウンデカミド(ポリアミド11)、ポリドデカミド(ポリアミド12)、ポリヘキサメチレンアジパミド/ポリヘキサメチレンテレフタルアミドコポリマー(ポリアミド66/6T)等が例示される。
【0015】
[有色成分]
本発明のリサイクル樹脂は、有色成分を含んでいる。当該有色成分はリサイクル樹脂を発色させる成分である。
有色成分は、樹脂の着色に一般的に用いられるものであれば限定されず、典型的には、公知の顔料又は染料に由来するものである。顔料としては、例えば、無機顔料又は有機顔料等が挙げられる。染料としては、例えば、疎水性染料、水溶性染料等が挙げられる。
【0016】
[リサイクル樹脂のその他の成分]
本発明のリサイクル樹脂は、上記以外の成分として、可塑剤、結晶核剤、充填剤(無機充填剤、有機充填剤)、加水分解抑制剤、難燃剤、酸化防止剤、滑剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、防曇剤、防カビ剤、抗菌剤、発泡剤、界面活性剤、でんぷん類若しくはアルギン酸等の多糖類、ゼラチン、ニカワ若しくはカゼイン等の天然たんぱく質、タンニン、ゼオライト、セラミックス若しくは金属粉末等の無機化合物、香料、流動調整剤、レベリング剤、導電剤、紫外線分散剤等を含んでいてもよい。
【0017】
[シート状物]
本発明におけるシート状物は、リサイクル樹脂を含むシート状物であって、好ましくはシート状の樹脂成形体である。シート状物は、単層であってもよいし、複数の層を有する積層体であってもよい。シート状物が積層体の場合は、少なくとも1つの層がリサイクル樹脂を含んでいればよい。
本発明のシート状物は、被接触物と長時間接触しやすい包装材として用いられることが好ましい。
本明細書における包装材とは、製品等を包装するために用いられる材料を意味し、包装容器、包装フィルム、梱包用緩衝材等を含む。
本明細書において、被接触物とは、シート状物と接触し得るものを意味し、例えばシート状物を用いて包装された製品等が含まれる。被接触物は、特に限定されないが、例えば、洗剤類、化粧品類、洗浄料、ハミガキ、整髪料、消臭剤、消毒剤、ウェットシート、食品、医薬品等が挙げられる。この他、被接触物は、シート状物と接触し得る人の肌、衣服等も含む。当該被接触物は、シート状物からの物質の移行又は溶出が特に生じやすい液状物であってもよい。液状物の具体例については後述する。
【0018】
[包装容器]
本発明のシート状物は、包装材のうち、被接触物と密接した状態で長時間接触しやすい包装容器として用いられることがより好ましい。本発明の包装容器は、シート状物を用いた包装容器であって、例えば、パウチ、パック、トレイ、袋、チューブ等が挙げられる。本発明の包装容器には、物質の移行又は溶出が生じやすい液状物が収容されることが好ましい。例えば、本発明の包装容器は、液状物を収容することが可能なパウチ、例えば自立が可能なスタンディングパウチであることがより好ましい。
本発明の液状物は、気体以外の流体であればよく、クリーム状、ペースト状等の粘度の高い液状物も含む。
本発明の液状物としては、例えば、液体洗剤類、洗濯用柔軟剤、化粧品類、液体洗浄料、液体ハミガキ、液体整髪料、消臭剤、消毒剤、食品、工業用油、医薬品等が挙げられる。例えば液体洗剤類は、洗濯用洗剤、食器用洗剤、住居用洗剤等を含む。例えば、液体洗浄料は、シャンプー、リンス、ボディソープ、ハンドソープ、洗顔料等を含む。例えば、化粧品類は、化粧水、乳液、保湿液、クリーム、クレンジング(化粧落とし)剤、液状ファンデーション、日焼け止め剤等を含む。例えば食品は、飲料、液体調味料、食用油、レトルト食品等の加工食品を含む。このうち、本発明の液状物としては、消費者へ清潔感、安心感又は特定のイメージ等を喚起するために色調が無色透明、白色又は淡色に調整され得る、液体洗浄料、化粧品類、液体整髪料等であることがより好ましい。
【0019】
[シート状物の製造方法]
本発明のシート状物の製造方法は、リサイクル樹脂を用いてシート状物を作製する工程(シート状物の作製工程S1)と、シート状物に可視光領域の波長を有する光を照射する照射工程(照射工程S2)と、を少なくとも有する。詳細を後述するように、照射工程S2によって、リサイクル樹脂に由来する物質の移行又は溶出を抑制することが可能なシート状物を得ることができる。
【0020】
[包装容器の製造方法]
本発明の包装容器の製造方法は、シート状物の作製工程S1と、照射工程S2と、に加えて、シート状物を用いて包装容器を作製する工程(包装容器の作製工程S4)と、を少なくとも有する。後述するように、照射工程S2は、シート状物の作製工程S1後に行ってもよいし、包装容器の作製工程S4後のシート状物に対して行ってもよい。これにより、リサイクル樹脂に由来する物質の、内容物(被接触物)への移行又は溶出を抑制できる包装容器を得ることができる。
【0021】
以下、本発明の各実施形態について詳細に説明する。以下の実施形態では、具体例として、使用済みの樹脂含有製品を回収してシート状物を作製し、このシート状物を用いて包装容器を製造する一連の工程について説明する。なお、各図のフローチャートは、本発明の製造方法を例示するものであり、本発明の製造方法はこれに限定されない。
【0022】
<第1実施形態>
[本実施形態の概要]
図1に示すように、本実施形態の包装容器の製造方法は、リサイクル樹脂を作製する工程(リサイクル樹脂の作製工程S0)と、シート状物の作製工程S1と、照射工程S2と、包装容器の作製工程S4と、を有する。さらに、照射工程S2は、シート状物を加熱する加熱工程(加熱工程S3)を含む。以下、各工程について説明する。
【0023】
[リサイクル樹脂の作製工程(S0)]
本実施形態において、リサイクル樹脂の作製工程S0は、例えば、使用済み樹脂含有製品から樹脂を回収する工程(S0-1)と、回収した樹脂から樹脂を再生する工程(S0-2)と、を含んでいる。
【0024】
工程S0-1では、公知の方法に従って使用済み樹脂含有製品から樹脂を回収する。
使用済み樹脂含有製品は、使用済みの樹脂を含む製品であり、例えば、包装容器を含む包装材、包装容器等に係合されるキャップ類、収納容器、電化製品、玩具類、その他の樹脂成形体から選択される1種又は2種以上を含む。このうち、使用済み樹脂含有製品は、包装容器であることが好ましい。これにより、リサイクル樹脂の少なくとも一部が包装容器から得られることになり、リサイクル樹脂を用いた包装容器の作製が容易になる。
樹脂の回収は、例えば、樹脂の比重差を利用して樹脂を分別し回収してもよく、予め同じ製品を回収することで同種の樹脂を回収してもよい。また、異なる種類の樹脂が混合されるように樹脂を回収してもよい。
【0025】
工程S0-2では、回収された樹脂を、公知の方法に従って再生する。例えば、回収された樹脂を溶融及び混合し、ペレット状、粒状等に成形することができる。
【0026】
[シート状物の作製工程S1]
シート状物の作製工程S1では、リサイクル樹脂を用いてシート状物を成形する。シート状物の原料樹脂は、リサイクル樹脂の他、リサイクル樹脂ではない樹脂を含んでいてもよい。当該原料樹脂におけるリサイクル樹脂の含有量は、環境に配慮したリサイクル樹脂の活用を促進する観点から、好ましくは25質量%以上、より好ましくは30質量%以上である。
シート状物の作製工程S1では、例えば、Tダイ法、インフレーション法等の押出し成形法、カレンダー成形法、熱プレス成形法等によって、原料樹脂からシート状物が成形される。一例として、加熱された溶融押出機に原料樹脂を供給して溶融させ、Tダイなどのダイによりシート状に押し出し、押し出されたシート状物を回転している冷却ロール等で冷却し、固化することにより、シート状物を成形することができる。
また、シート状物が積層体で構成される場合は、上記の製造方法の他、ドライラミネート法、共押し出しラミネート法、タンデムラミネート法等の積層方法が適用されてもよい。この場合、積層体のうちの少なくとも一層が、リサイクル樹脂を含む原料樹脂により形成される。
シート状物の厚みは、包装容器等に加工した際に十分な剛性、耐久性を付与するとともに、加工性及び取り扱い性を高める観点から、好ましくは0.05mm以上、より好ましくは0.1mm以上であり、好ましくは1.5mm以下、より好ましくは1.0mm以下である。
【0027】
[照射工程S2]
照射工程S2では、リサイクル樹脂に由来する物質の、上記被接触物への移行や溶出を抑制する観点から、シート状物に可視光領域の波長を有する光を照射する。
可視光領域の波長とは、360nm以上830nm以下の波長を意味する。シート状物に可視光領域の波長を有する光を照射することで、当該可視光領域の光のエネルギによって、リサイクル樹脂に由来する物質の被接触物への移行又は溶出に関する活性を低減させることができる。これにより、当該物質の被接触物への移行又は溶出を抑制することができる。例えば、当該物質が有色成分の場合には、リサイクル樹脂に起因する被接触物への色移りが抑制される。
さらに、可視光領域の波長の光を用いることで、樹脂の劣化を抑制しつつ、上記物質の移行又は溶出を抑制することができる。
また、発明者は、上記被接触物への移行や溶出を鋭意検討する上で、リサイクル樹脂を用いて製造したシート状物に特有の臭いがあることを確認した。上記、照射工程S2を行うことで、リサイクル樹脂に由来する物質が臭い成分の場合には、被接触物への臭い移りが抑制される。
シート状物に対する光の照射方法としては、例えば処理槽又は処理室内にシート状物を配置し、光源からシート状物に光を照射する方法が挙げられる。シート状物の配置方法は特に限定されないが、例えばホルダを用いてシート状物の一部を支持する方法、支持台上にシート状物を配置する方法等が挙げられる。
光源としては、キセノンランプ、蛍光灯、メタルハライドランプ、高圧水銀灯、カーボンアーク灯、白熱電球、ハロゲンランプ、LED(Light Emitting Diode)光源、グリーンレーザ、ヘリウムネオンレーザ、アルゴンレーザ等が挙げられる。これらの光源は、一種類を単独で使用してもよく、二種類以上を同時に又は順次使用してもよい。
【0028】
照射工程S2では、リサイクル樹脂に由来する物質の移行又は溶出を効果的に抑制する観点から、シート状物に、太陽光を模したスペクトルの光を照射することが好ましい。本発明において、太陽光を模したスペクトルの光とは、太陽光を地上で受光した場合の分光スペクトルを模した光を意味する。具体的に、当該スペクトルの光は、可視光領域のほぼ全域(例えば360nm以上830nm以下の波長の80%以上)をカバーする波長成分の光を含み、可視光領域(例えば、400~550nm)の波長においてピーク強度を有している。ここでいうピーク強度とは、光の分光照射強度分布のグラフにおいて、周囲の波長よりも強度が突出して高くなる部分を意味し、光に含まれる全波長成分中で強度が最大となる部分のみを指すものではない。
このようなスペクトルの光を照射可能な光源としては、キセノンランプ、カーボンアーク灯、LED光源等が挙げられる。一例として、本実施形態の照射工程S2には、キセノンランプを用いたキセノンフェードメータが用いられてもよい。
太陽光を模したスペクトルの光を照射する場合、リサイクル樹脂に由来する物質の移行又は溶出を効果的に抑制し、かつ、樹脂の劣化を抑制する観点から、当該光の照射強度の、300nm以上800nm以下の波長領域における積分値が、好ましくは13,200Wh/m以上、より好ましくは26,400Wh/m以上であり、好ましくは132,000Wh/m以下、より好ましくは105,600Wh/m以下である。当該積分値は、300nm以上800nm以下の波長領域における照度と時間の積を表す値である。当該積分値を13,200Wh/m以上とすることで、リサイクル樹脂に由来する物質の移行や溶出をより効果的に抑制することができる。当該積分値を132,000Wh/m以下とすることで、リサイクル樹脂を含むシート状物の劣化を抑制することができる。
積分値は、光の照射強度スペクトルを該当波長領域にわたって積分することで求められ、例えば表計算ソフトを用いた区分求積法によって算出できる。
【0029】
照射工程S2における光の好ましい条件として、以下のような条件も適用することができる。
照射工程S2における光の照度は、リサイクル樹脂に由来する物質の移行又は溶出を効果的に抑制し、かつ、樹脂の劣化を抑制する観点から、好ましくは216万Lx・h以上の積算照度、より好ましくは432万Lx・h以上の積算照度、かつ、好ましくは2,160万Lx・h以下、より好ましくは1,728万Lx・h以下である。なお、上記光の照度は、光が照射されるシート状物の表面又はその近傍における照度である。
【0030】
[加熱工程S3]
本実施形態では、照射工程S2における光の照射による作用を高めるため、シート状物を加熱する加熱工程S3をさらに有していてもよい。図1に示す例において、加熱工程S3は、照射工程S2に含まれ、照射工程S2中に行われる。あるいは、加熱工程S3は、照射工程S2の直前に行われてもよい。加熱工程S3は、照射工程S2において加熱による効果を確実に得る観点から、照射工程S2に含まれることが好ましい。
また、シート状物の加熱とは、加熱源によってシート状物に熱を加えることを意味し、照射工程S2における光の照射のみによってシート状物が室温以上に加熱されることは含まない。
加熱工程S3によって加熱されたシート状物に光を照射することで、リサイクル樹脂を含むシート状物の樹脂成分の分子運動性を高め、光の照射による、上記物質の移行又は溶出に関する活性の変化を促進することができる。
加熱工程S3では、上記活性の変化をより確実に促進する観点から、シート状物を、好ましくは40℃以上、より好ましくは65℃以上に加熱することができる。また、加熱工程S3におけるシート状物の加熱温度は、シート状物の軟化する温度(例えばガラス転移点)未満であればよく、好ましくは130℃以下、より好ましくは80℃以下である。
シート状物の加熱温度は、シート状物の表面の温度又はシート状物の表面近傍の温度であり、例えば処理槽又は処理室に設置された温度計によって測定される。
【0031】
加熱工程S3に用いられる加熱装置は特に限定されず、例えば赤外線ヒータ、熱風発生機、プレートヒータ、スチームヒータ等の公知の加熱装置を適宜選択することができる。また、加熱方法は、パネル状のヒータ上にシート状物を配置して直接加熱してもよく、あるいはシート状物が配置された空間(加熱炉又は加熱槽などを含む)を加熱してもよく、これらの加熱方法を組み合わせてもよい。
【0032】
[包装容器の作製工程(S4)]
本実施形態における包装容器の作製工程S4は、照射工程S2によって光が照射されたシート状物を用いて包装容器が作製される。
包装容器の作製方法は、目的とする包装容器の形態に応じて適宜選択することができる。例えばパウチや袋を製造する場合は、複数枚のシート状物及び/又は所定の形状に折り曲げられたシート状物を準備し、これらのシート状物の周縁部を、ヒートシール、接着剤による接合等の公知の接合方法によって接合することができる。また、パック、トレイ等を製造する場合は、シート状物を真空成形、圧空成形等によって所定の形状に成形することができる。
【0033】
[本実施形態の作用効果]
以上のように、本実施形態では、リサイクル樹脂を用いて作製されたシート状物に可視光領域の波長を有する光を照射する。これにより、リサイクル樹脂に由来する物質の、被接触物への移行又は溶出に関する活性を抑制することができる。したがって、リサイクル樹脂の成分の特定や除去といった煩雑な処理を必要とせずに、リサイクル樹脂に由来する物質の被接触物への移行又は溶出を抑制することができる。さらに、リサイクル樹脂の成分は限定されないことから、回収される使用済み樹脂含有製品に対して特別な規制を行うことなく、被接触物への物質の移行又は溶出を抑制可能なシート状物を製造することができる。
また、このようなシート状物を用いることで、内容物(被接触物)を長時間収容した場合でも、リサイクル樹脂に由来する物質の移行又は溶出が抑制される包装容器を製造することができる。これにより、近年増加している、液状物を収容可能なパウチ等に対しても、リサイクル樹脂を適用することが容易になる。
したがって、本実施形態によれば、比較的簡易な処理によって、シート状物及び包装容器に対するリサイクル樹脂の活用を促進することが可能となる。
【0034】
<第2実施形態>
照射工程S2は、包装容器の作製工程S4前に行う態様に限定されず、包装容器の作製工程S4後に行われてもよい。
つまり、図2に示すように、本実施形態の包装容器の製造方法は、シート状物の作製工程S1と、包装容器の作製工程S4と、照射工程S2と、を有する。
本実施形態において、シート状物の作製工程S1及び包装容器の作製工程S4は、上述の第1実施形態と同様に行われる。以下の説明において、上述の第1実施形態と同様の点に関しては、説明を省略する。
なお、図2には示していないが、本実施形態の包装容器の製造方法も、第1実施形態と同様に、リサイクル樹脂の作製工程S0と、加熱工程S3と、を有していてもよい。
【0035】
[照射工程S2]
本実施形態における照射工程S2では、包装容器に用いられているシート状物に対して、可視光領域の波長を有する光を照射する。
シート状物に対する光の照射方法としては、例えば、処理槽又は処理室内に包装容器を配置し、光源からシート状物に光を照射する方法が挙げられる。
ここで、シート状物のリサイクル樹脂に由来する物質の被接触物(内容物)に対する移行又は溶出を抑制する観点からは、包装容器の内容物と接する内面に対して光が照射されることが好ましい。このため、包装容器は、当該内面に対して光源から光が照射されることが可能に配置されることが好ましい。具体的には、包装容器の一部が開口された状態で、包装容器がホルダによって支持されてもよく、あるいは、支持台上に包装容器が配置されてもよい。また、包装容器の内部に光源を挿入してもよい。
本実施形態における照射工程S2で照射される光の好ましい条件としては、上述の第1実施形態で説明した条件を適用することができる。
また、本実施形態においても、加熱工程S3によって加熱されたシート状物に対して光が照射されてもよい。この場合、加熱工程S3では、包装容器全体が加熱されてもよい。
【0036】
[本実施形態の作用効果]
このように、本実施形態においても、照射工程S2によって、リサイクル樹脂に由来する物質の、被接触物への移行又は溶出に関する活性を抑制することができる。したがって、比較的簡易な処理によって、リサイクル樹脂に由来する物質の被接触物への移行又は溶出を抑制することができる。
さらに、本実施形態では、包装容器に対して内容物を収容する処理の前処理として、照射工程S2を行うことも可能となる。例えば、上部を開口させた状態の包装容器に対して照射工程S2を行い、その後連続して内容物の収容処理(例えば液状物の注入処理)を行うことが可能となる。これにより、高い生産性を実現しつつ、リサイクル樹脂に由来する物質の被接触物への移行又は溶出を抑制することが可能な包装容器を得ることができる。
【0037】
<他の実施形態>
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上述の実施形態にのみ限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。
例えば、加熱工程S3は、照射工程S2の直前に行われてもよい。これによっても、加熱されたシート状物に光を照射することができる。
また、本発明の製造方法は、加熱工程S3を有していなくてもよい。
例えば、リサイクル樹脂の作製工程S0は、回収した樹脂から樹脂を再生する工程(S0-2)を有していなくてもよい。この場合、工程S0-1で使用済み樹脂含有製品から樹脂を回収した後、回収した樹脂を溶融してシート状物の作製工程S1を行ってもよい。
【実施例
【0038】
<試験例1:光の照射及び物質の移行又は溶出の評価>
本試験例では、リサイクル樹脂を用いてシート状物を作製し、異なる条件で光を照射した後、液状物と当該シート状物を接触させて、液状物に対する物質の移行又は溶出について評価した。
【0039】
[実施例1]
(シート状物の作製)
L-LDPE, ポリアミド,PET, PP, HDPE等からなるリサイクル樹脂を用いて、熱プレス成形によってシート状物を作製した。作製されたシート状物の厚みは0.1mm、平面形状は210mm×290mmの長方形状であった。
【0040】
(光の照射)
作製されたシート状物に対して、キセノンフェードメータ(アトラス社製、製品名「キセノンウエザオメータ Ci3000+」)を用いて光を照射した。キセノンフェードメータの照射光は、太陽光を模したスペクトルを有するものとした。つまり、当該光は、可視光領域の全域をカバーする波長成分の光を含み、可視光領域である400~550nmの波長においてピーク強度を有していた。
シート状物の表面をランプに向けた状態でシート状物を試験槽内に配置し、以下の照射条件で光を照射した。光の照射強度の、300nm以上800nm以下の波長領域における積分値は、26,400Wh/mとした。ブラックパネル温度は65℃、試験槽内の温度は40℃とした。試験槽内の相対湿度は75%とした。光の照射時間は48時間とした。
光の照射強度の、300nm以上800nm以下の波長領域における積分値は、表計算ソフトを用いた区分求積法によって、光の照射強度スペクトルを該当波長領域にわたって積分することで算出された。
照射工程後のシート状物を、実施例1のシート状物とした。
【0041】
[実施例2]
実施例1と同様にシート状物を作製した。
作製されたシート状物に対して、遮光された試験室内で、10本の直管型蛍光灯(20形、白色)によって、光を照射した。蛍光灯は、主に、400~700nmの波長の光を有するものであった。シート状物近傍における照度は5000ルクスとした。試験室の温度は約40℃、相対湿度は約75%であった。照射時間は、36日とした。
照射工程後のシート状物を、実施例2のシート状物とした。
【0042】
[比較例1]
実施例1と同様にシート状物を作製し、光の照射工程は行わなかったものを、比較例1のシート状物とした。
【0043】
[比較例2]
実施例1と同様にシート状物を作製した。
作製されたシート状物に対して、遮光された試験室内で、ブラックライト(TOSHIBA製、FL40S BLB, 40ワット)によって光を照射した。ブラックライトは、主に、300~430nmの波長にピーク強度を有していた。試験室の温度は約40℃、相対湿度は約75%であった。照射時間は、48時間とした。
照射工程後のシート状物を、比較例2のシート状物とした。
【0044】
[光照射後のシート状物の評価]
実施例1及び2並びに比較例1及び2のシート状物を黒色のパネル上に並べて配置し、目視にて確認するとともに、これらのシート状物をデジタルカメラによって撮像した。撮像された画像を、図3に示す。
実際のシート状物を目視にて確認したところ、光照射をしていない比較例1のシート状物は、緑色に近い色であった。同様に、ブラックライトを照射した比較例2のシート状物も、比較例1のシート状物と同様の色味であり、緑色に近い色であった。つまり、シート状物に用いられたリサイクル樹脂は、緑色の有色成分を含有していた。
一方、実施例1及び2のシート状物は、比較例1のシート状物よりも白色に近い色であった。特に、キセノンフェードメータによって光を照射した実施例1のシート状物は、蛍光灯によって光を照射した実施例2のシート状物よりも白色に近い色であった。
【0045】
これらのシート状物の色をより正確に比較するため、撮像された実施例1,2及び比較例1のシート状物の画像からHSV値を算出した。その結果を表1に示す。
HSV値において、Hは色相、Sは彩度、Vは明度を表す。色相Hは、0から360までの値で表され、色の種類を表す。彩度Sは、0%が黒色であり、100%が純色となる。彩度Sの数値が大きいほど、純色に近い鮮やかな色となる。明度Vは、0%が黒色であり、100%が白色となる。明度Vの数値が大きいほど、白色に近い明るい色となる。
表1に示すように、比較例1のシート状物と、実施例1及び2のシート状物の色相Hは大きく異なっており、実施例1及び2の光の照射処理によって色が大きく変わったことがわかった。
また、実施例1のシート状物の明度Vは、実施例2及び比較例1のシート状物よりも大きかった。これにより、実施例1のシート状物は、比較例1のシート状物よりも白色に近い色に変わったことがわかった。
【0046】
【表1】
【0047】
[被接触物に対する色移りの評価]
実施例1,2及び比較例1,2の各シート状物を、液状物内に浸漬させて、当該液状物の色の変化を評価した。
広口のサンプル瓶(無色透明)中に液状物を注入したものを5つ準備し、そのうちの4つに実施例1,2及び比較例1,2のシート状物をそれぞれ浸漬させた。液状物としては、市販のシャンプー(花王株式会社製、「エッセンシャル」)を用いた。この液状物は、白色であった。液状物及びサンプル瓶は、シート状物が十分浸漬できる量及びサイズとした。サンプル瓶のうちの1つは、シート状物を入れない対照とした。蓋によって密封した各サンプル瓶を、遮光された50℃の試験室内に配置した。
シート状物の液状物への浸漬を開始してから300時間後に、黒色のパネルの前に各サンプル瓶を配置し、各液状物の色を目視により評価した。
【0048】
その結果、比較例1及び比較例2のシート状物を浸漬させた液状物は、対照の液状物と比較して、緑色に近い色となった。一方、実施例1及び2のシート状物を浸漬させた液状物は、比較例1及び2のシート状物を浸漬させた液状物よりも白色に近く、対照に近い色であった。特に実施例1のシート状物を浸漬させた液状物は、対照の液状物とほぼ同じ色であった。
【0049】
この結果から、実施例1及び2のように、可視光領域の波長を有する光を照射したリサイクル樹脂を含むシート状物は、液状物と長時間接触させた場合にも、リサイクル樹脂に由来する色移りが抑制されることがわかった。また、実施例1及び2のシート状物では、光を照射していない比較例1と比較して色が変化していたことから、リサイクル樹脂に由来する有色成分が変性し、溶出に関する活性が抑制されたものと考えられる。
特に、太陽光を模したスペクトルの光を、光の照射強度の、300nm以上800nm以下の波長領域における積分値が26,400Wh/mとなるような条件で照射した実施例1のシート状物では、有色成分の色の変化が大きく、液状物に対する色移りもより顕著に抑制されることがわかった。
一方で、ブラックライトを照射した比較例2のシート状物は、光の照射による色の変化もほとんどなく、液状物に対する色移りも見られた。この結果から、紫外領域の波長を有する光を照射した場合には、有色成分の溶出を効果的に抑制できないことがわかった。
【0050】
<試験例2:光の照射における温度の影響の評価>
本試験では、キセノンフェードメータにおいて異なる温度条件を適用した場合の、シート状物の色の変化について評価した。
【0051】
[実施例3]
試験例1の実施例1と同様に、シート状物を作製した。
作製されたシート状物に対して、実施例1と同一のキセノンフェードメータを用いて光を照射した。照射光の照射条件は、実施例1と同様とした。ブラックパネル温度は85℃、試験槽内の温度(以下、槽内温度と称する)は65℃、試験槽内の相対湿度は75%とした。光の照射時間は、1時間とした。
【0052】
[実施例4]
試験例1の実施例1と同様に、シート状物を作製した。
作製されたシート状物に対して、実施例3と同様にキセノンフェードメータを用いて光を照射した。ブラックパネル温度は45℃、槽内温度は25℃、試験槽内の相対湿度は75%とした。光の照射時間は、1時間とした。
【0053】
[光照射後のシート状物の評価]
実施例3及び実施例4の光照射後のシート状物の表面における、試験例1の比較例1のシート状物の表面に対する色差を、色差計(Konica Minolta Sensing製、CR-400)を用いて測定した。なお、ここで用いた比較例1のシート状物は、光の照射をしていないシート状物であって、試験例1の液状物に浸漬させる試験前の状態のものである。この結果を、表2に示す。
【0054】
【表2】
【0055】
表2に示すように、槽内温度が65℃の実施例3のシート状物は、槽内温度が25℃のシート状物よりも、比較例1のシート状物に対する色差が大きかった。この結果から、加熱されたシート状物に対して可視光領域の波長を有する光を照射することで、有色成分の変性を促進できることがわかった。
ここで、フェードメータの槽内温度は、シート状物の表面の温度とみなすことができる。色移りの抑制効果が確認された実施例1における槽内温度は、40℃であり、色の変化の大きかった実施例3における槽内温度は、65℃であった。
これらの結果により、40℃以上に加熱されたシート状物に対して光を照射することで、リサイクル樹脂に由来する有色成分の移行又は溶出をより効果的に抑制できることがわかった。
図1
図2
図3