(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-13
(45)【発行日】2024-09-25
(54)【発明の名称】送電ケーブル
(51)【国際特許分類】
H01B 7/18 20060101AFI20240917BHJP
H01B 7/28 20060101ALI20240917BHJP
H01B 9/00 20060101ALI20240917BHJP
【FI】
H01B7/18 H
H01B7/28 Z
H01B9/00 A
(21)【出願番号】P 2020173274
(22)【出願日】2020-10-14
【審査請求日】2023-10-11
(73)【特許権者】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(73)【特許権者】
【識別番号】317015294
【氏名又は名称】東芝エネルギーシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003708
【氏名又は名称】弁理士法人鈴榮特許綜合事務所
(72)【発明者】
【氏名】木下 晴美
【審査官】北嶋 賢二
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-170389(JP,A)
【文献】特開2001-126547(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01B 7/18
H01B 7/28
H01B 9/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
絶縁電線を含むコアと、
前記コアの外周に設けられる複数の被覆層とを備える送電ケーブルであって、
前記複数の被覆層のうち、最外被覆層が紫外線吸収剤及び光安定剤を含み、最内被覆層が炭酸カルシウムを
9重量%以上16重量%未満の含有量で含み、前記最外被覆層の炭酸カルシウムの含有量が、前記最内被覆層の炭酸カルシウムの含有量よりも少ない、送電ケーブル。
【請求項2】
前記最内被覆層は、紫外線吸収剤と光安定剤を含まない、請求項1に記載の送電ケーブル。
【請求項3】
前記最外被覆層の炭酸カルシウムの含有量が9重量%未満である、請求項1または2に記載の送電ケーブル。
【請求項4】
前記複数の被覆層は、それぞれ、ポリ塩化ビニルを含む、請求項1~3のいずれか1項に記載の送電ケーブル。
【請求項5】
前記複数の被覆層は、互いが融着していない、請求項1~4のいずれか1項に記載の送電ケーブル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、電流を送電するケーブルに関する。
【背景技術】
【0002】
太陽光発電などに適用される送電用ケーブルであるポリ塩化ビニル(PVC)製ケーブルは、屋外敷設した場合に紫外線劣化や酸化によって表面にクラックが発生し、絶縁の保持が困難となることがあった。これを防止するため、一般の架設ケーブルは5年ごとに交換することを通例としている。しかしながら、太陽光パネルは、屋根上等メンテナンスが困難な箇所に敷設するため、簡単に交換ができない。このため、PVCを含む被覆層を備えたケーブルの耐候性向上が求められている。また、一般の架設ケーブルに関しても、その耐久性の向上によるリスク軽減や交換周期の延長による低コスト化が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2019-179628号公報
【文献】特開2016-71984号公報
【文献】特開2006-54056号公報
【文献】特開平7-11084号公報
【文献】特開平1-210339号公報
【文献】実開平4-8317号公報
【文献】実開平4-99614号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は上記事情に鑑みてなされ、耐久性に優れた送電ケーブルを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
実施形態によると、絶縁電線を含むコアと、コアの外周に設けられる複数の被覆層とを備える送電ケーブルが提供される。複数の被覆層のうち、最外被覆層が紫外線吸収剤及び光安定剤を含み、最内被覆層が炭酸カルシウムを9重量%以上16重量%未満の含有量で含む。最外被覆層の炭酸カルシウムの含有量が、最内被覆層の炭酸カルシウムの含有量よりも少ない。
【図面の簡単な説明】
【0006】
【
図1】実施形態に係る送電ケーブルの一例を概略的に示す断面図。
【
図2】実施形態に係る送電ケーブルの製造で用いる押出成形装置の一例を示す概略図。
【
図3】実験1の絶縁電線について、炭酸カルシウム含有量と屈曲半径と屈曲破断回数との関係を示すグラフ。
【
図4】絶縁電線の屈曲耐久性試験方法を示す模式図。
【
図5】実験2の絶縁電線における可塑剤含有量と屈曲半径と屈曲破断回数との関係を示すグラフ。
【
図6】実験1,2で用いた絶縁電線を概略的に示す断面図。
【発明を実施するための形態】
【0007】
実施形態に係る送電ケーブルの一例として、ソーラーケーブル、具体的には太陽光発電用送電ケーブルなどが挙げられる。
実施形態の送電ケーブルは、絶縁電線を含むコアと、コアの外周に設けられる複数の被覆層とを備える。複数の被覆層は、二層以上であれば良い。複数の被覆層のうち、最も外側に位置する最外被覆層が紫外線吸収剤及び光安定剤を含む。最も内側に位置する最内被覆層が炭酸カルシウムを含む。最外被覆層の炭酸カルシウム含有量を、最内被覆層の炭酸カルシウムの含有量よりも少なくする。以下、実施形態の送電ケーブルを
図1を参照して説明する。
図1は、送電ケーブルを長手方向と交差する方向に切断した際に得られる断面を模式的に示した断面図である。
【0008】
実施形態の送電ケーブル1は、1以上の絶縁電線2を備えたコア3と、複数の被覆層4とを備える。
図1の符号Dは、ケーブル1の外径を示している。ケーブル1の外径は、例えば4芯の600V CVケーブルの場合、絶縁電線が5.5mm
2の時にケーブルの仕上がり外径を16mm以上にすることができる。
図1に示すケーブル1には、複数(例えば4)の絶縁電線2が使用されている。絶縁電線2それぞれは、複数の線状の導体5と、絶縁体6とから形成されている。導体5は、例えば銅から形成される。複数の導体5は、隣接して集合し、集合した外形の横断面が略円形である。導体5の集合体は、外周が絶縁体6で被覆されることで一つに束ねられている。以上の構造を持つ絶縁電線2は、複数本が互いの外周(絶縁体6)が隣接するように配置され、これら絶縁電線2は、その外周と絶縁電線2間の隙間に存在する介在7によって横断面が円形になるように一つに束ねられることでコア3を形成している。介在7は、例えば、紙、樹脂等の絶縁材料から形成され得る。コア3の外周は、例えば二層構造の被覆層4で被覆されている。被覆層4は、コア3を保護し、またケーブル1の絶縁性を保つものである。内側に位置する被覆層4aは、コア3の外周面と接しており、最内被覆層4aとして機能する。外側に位置する被覆層4bは、最内被覆層4aと接しており、ケーブル1の外周面を形成し、最外被覆層4bとして機能する。最内被覆層4aと最外被覆層4bの間には、継ぎ目が存在している。
【0009】
最内被覆層4a及び最外被覆層4bは、それぞれ、例えば、ポリ塩化ビニル(PVC)のような絶縁性樹脂を含む絶縁性組成物で形成されている。組成物は、この絶縁性樹脂以外に添加剤を含む。添加剤の例として、可塑剤、炭酸カルシウムなどが挙げられる。可塑剤は、被覆層に柔軟性を付与するものである。一方、炭酸カルシウムは、被覆層の構造安定性と耐衝撃性を高めるためのものである。これらの添加剤は、被覆層に占める割合が低くない。屋外で使用されることが多い送電ケーブルは、直射日光や雨などの天候の影響を受け得る。ケーブルが長期間に亘って屋外で使用されると、被覆層中の添加剤は、紫外線、熱あるいは水分の影響を受けて浸出または脱離する。その結果、以下に説明する通り、被覆層の耐久性が低下する。
【0010】
被覆層中の例えば可塑剤などの添加剤は、熱劣化あるいは紫外線による分子鎖切断を起点として自動酸化が進む。酸化は、被覆層の伸び残率の低下、疲労強度低下、靭性値の低下などの機械的強度低下を引き起こす。
【0011】
また、送電ケーブルを屋外で使用することにより、水分あるいは熱の影響を受けて被覆層中の可塑剤量が減少するため、被覆層の耐久性が低下する。
【0012】
一方、炭酸カルシウムはもともと水に溶けにくいが、下記(1)に示す反応式の通り、二酸化炭素を含む水に反応して炭酸水素カルシウムとなり、水に良く溶けるようになる。
【0013】
CaCO3 + CO2 + H2O→Ca(HCO3)2 (1)
上記機構によって被覆層から炭酸カルシウムが溶出すると、溶出した部分が空洞になるので、被覆層に多数の穴が形成される。炭酸カルシウム溶出穴は、酸化やクラックの起点になる。溶出により被覆層の構造が脆弱化するため、被覆層の耐摩耗性あるいは耐衝撃性が低下する。
【0014】
被覆層4の耐久性を向上させるため、被覆層4の構成を以下の通りとする。最外被覆層4bは、紫外線吸収剤ならびに光安定剤を含む。また、最内被覆層4aは、炭酸カルシウムを含む。最外被覆層4bの炭酸カルシウムの含有量は、最内被覆層4aの炭酸カルシウムの含有量よりも少ない。最外被覆層4bは、炭酸カルシウムを含んでいてもいなくても良い。
【0015】
送電ケーブル1が屋外で使用された際、最外被覆層4bは、暴露雰囲気の影響、具体的には紫外線、熱あるいは水分の影響を大きく受けるが、紫外線吸収剤及び光安定剤により、可塑剤などの添加剤が酸化劣化するのを抑えることができる。そのため、添加剤の減少を抑制することができる。また、最外被覆層4bの炭酸カルシウムの含有量を最内被覆層4aの炭酸カルシウムの含有量よりも少なくすることにより、最外被覆層4bからの炭酸カルシウム溶出量を減らすことができる。これらの結果、最外被覆層4bの機械的強度、耐摩耗性及び耐衝撃性の低下を抑制することができるため、クラックや亀裂などによる最外被覆層4bの破壊を防止することができる。これにより、最内被覆層4aに紫外線、熱及び水分の影響が及ぶのを最外被覆層4bが遮断するため、最内被覆層4aでは、可塑剤の酸化と浸出、炭酸カルシウムの変性と溶出のいずれも生じない。そのため、被覆層4の機能を長期間に亘って維持することができるため、送電ケーブル1の耐久性を向上することができる。送電ケーブルは、たとえ太陽光パネルの裏面に配置されたとしても、実際の配線では、はみ出しもあり、直射日光に晒されることを避けられないものである。本実施形態の送電ケーブル1によれば、直射日光下でも高い耐久性を実現することができる。
【0016】
以下、被覆層の詳細についてさらに説明する。
【0017】
上述した
図1では、被覆層を構成する層が二層の例を説明したが、二層に限定されるものではなく、三層以上にすることが可能である。
【0018】
被覆層を構成する各層は、例えば、PVCのような絶縁性樹脂を含む絶縁性組成物で形成される。絶縁性樹脂は、各層において、主成分であることが望ましい。ここで、主成分は、各層を構成する成分の中で最も多い成分である。各層中の絶縁性樹脂含有量は、50重量%以上にすることがさらに望ましい。
【0019】
上述の通り、最外被覆層は、紫外線吸収剤及び光安定剤を含む。最外被覆層は、炭酸カルシウムを含んでいても含まなくても良い。一方、最内被覆層は炭酸カルシウムを含み、紫外線吸収剤及び光安定剤を含んでいても含まなくても良い。最内被覆層が紫外線吸収剤及び光安定剤を含む場合、最内被覆層における紫外線吸収剤及び光安定剤の含有量は、最外被覆層における紫外線吸収剤及び光安定剤の含有量よりも少なくすることができる。これは、最外被覆層の耐久性が向上したため、最内被覆層に紫外線、熱及び水分の影響が及ぶのを最外被覆層が遮断できるため、最内被覆層に紫外線吸収剤及び光安定剤を含んでいなくても、可塑剤の酸化と浸出、炭酸カルシウムの変性と溶出のいずれも防止できるためである。
【0020】
最内被覆層には紫外線吸収剤及び光安定剤の含有しないようにすることもできる。
最外被覆層における紫外線吸収剤及び酸化防止剤の含有量は、それぞれ、重量%として1%程度、0.15重量%以上にすることが望ましい。最外被覆層中の光安定剤の含有量は、1重量%程度とすることが望ましい。
【0021】
紫外線吸収剤の例に、ベンゾトリアゾール系の紫外線吸収剤、ヒドロキシフェルニルトリアジン系紫外線吸収剤が含まれる。ベンゾトリアゾール系の紫外線吸収剤は、被覆層にクラックが生じるのを抑えることが可能である。また、ヒドロキシフェルニルトリアジン系紫外線吸収剤は、光、水または熱による損傷の安定化(非活性化)に効果をもたらす。ベンゾトリアゾール系の紫外線吸収剤を含むものが好ましい。ベンゾトリアゾール系の紫外線吸収剤とヒドロキシフェルニルトリアジン系紫外線吸収剤の双方を含むものがさらに好ましい。
【0022】
光安定剤の例に、HALS(Hindered amine light stabilizerの略)が含まれる。HALSは、自動酸化を防止するラジカル捕捉剤である。
【0023】
好ましい組み合わせは、HALSと、ベンゾトリアゾール系の紫外線吸収剤とを含むものである。これにより、クラック拡大を抑制して水分の内側への侵入を抑制することができる。
【0024】
最外被覆層の炭酸カルシウムの含有量は9重量%未満(0重量%を含む)であることが望ましい。これにより、最外被覆層から炭酸カルシウムが溶出することによる穴の生成を抑える効果を高めることができる。最外被覆層の炭酸カルシウムの含有量の下限値は、0重量%であり、すなわち最外被覆層に炭酸カルシウムを含まないようにしてもよい。
【0025】
一方、最内被覆層の炭酸カルシウムの含有量は、9重量%程度にすることができる。これにより、被覆層の構造安定性と耐衝撃性をより高めることができる。さらに、炭酸カルシウムの増量により樹脂量を削減できるため、炭酸カルシウムを含む安価なクレーの増量でコストを削減できる。最内被覆層の炭酸カルシウムの含有量は、9重量%以上にすることができるが、上限値は、16重量%未満にすることができる。
【0026】
被覆層は、可塑剤、安定剤、難燃剤、酸化防止剤または顔料のうちの少なくとも一種をさらに含んでいても良い。可塑剤の例に、TOTM(トリメリット酸エステル)、DINP(フタル酸ジイソノニル)が含まれる。使用する可塑剤の種類は、1種または2種以上にすることができる。最外被覆層及び/または最内被覆層に可塑剤を含有させる場合、各層における可塑剤含有量は、20重量%以上40重量%以下にすることができる。これにより、被覆層の柔軟性を良好にすることができる。安定剤は、PVCの分解を防止するためのものである。安定剤の例として、ZnMg/Al系安定剤などが挙げられる。
【0027】
被覆層の厚さは、全ての層の合計は敷設に問題が無ければ1.5mm以上3.5mm以下の範囲にできる。
【0028】
製造上、被覆層を形成する各層は互いに接してはいるが融着はしない。各1層ずつ成形するときに、外気に触れ表面にごく薄い水分の膜が形成されることや、成形時の分解物が表面を覆うためである。これらの膜により、物理的に単層に観察されても化学的に分離している状態となる。これにより、最外被覆層で発生したクラック、亀裂あるいは酸化が、これと直接接する内側の被覆層まで至らない。また、内側の被覆層が、紫外線、熱及び水分などの影響を受けるのを抑制することができる。その結果、内側の被覆層における酸化、炭酸カルシウムの溶出等を防止することができるため、送電ケーブルの寿命を倍以上に伸ばすことができる。
【0029】
被覆層は、例えば押出成形により形成することが可能である。コアと直接接する最内被覆層は、通常の押出成形で形成することができる。押出成形工程では、加熱溶融、温度保持、その後に水冷が行われる。水冷の工程は送電ケーブルの太さなどによって異なるが、長い場合は30m以上になることもある。最内被覆層の表面が冷却して水分が揮発した後に、2回目の押出成形が行われる。1回目の成形後の最内被覆層表面には、加熱時に発生した添加剤の残渣(例えば安定剤と可塑剤の残渣)や水分がランダムに存在し得る。そのため、次の成形で被覆同士の密着を阻む界面を形成し得る。この状態で2度目の押出成形を行う。その結果、最内被覆層と最外被覆層が互いに融着していない被覆層が得られる。三層にする場合、2度目の押出成形により形成された層の表面が冷却して水分が揮発した後に3回目の押出成形を行う。四層以上の場合、上述の工程を繰り返す。
【0030】
被覆層の形成方法の一例を
図2を参照して説明する。
図2に示す押出成形装置10において、ホッパー14に投入されたプラスチックコンパウンド16は、シリンダー11内のヒーターコイル13によって溶融加熱される。PVCを含む組成物の場合、180~240℃の高温に熱せられる。溶融したプラスチック17は、シリンダー11内のスクリュー12によってダイス15側に押し出される。一方、被覆層が形成されるコア18は、製品規格に沿った線形状となってリールにセットされている。リールから繰り出されたコア18は、引っ張られてダイス15を通過する。この時、クロスヘッドといって、溶融したプラスチック17がダイス15中にクロス(直角)方向から充填されてコア18は樹脂組成物により被覆される。被覆後のケーブル19は、ダイス出口付近での急冷、その後の水冷、空冷、乾燥工程を経てリール状20に巻き取られる。水冷、空冷、乾燥工程は、ケーブル19を流しながら行われ、時に全長は数十mに及ぶ。これら一連の工程(押出成形、水冷、空冷、乾燥)を繰り返すことにより、被覆層を構成する各層が、互いに接しているが、融着していない状態にすることができる。
【0031】
被覆層の組成は、例えば、フーリエ変換赤外分光法(FT-IR:Fourier Transform Infrared Spectroscopy)、ガスクロマトグラフィー質量分析(GC/MS:Gas Chromatography - Mass spectrometry)、あるいは液体クロマトグラフィー質量分析(LC/MS:Liquid Chromatography Mass Spectrometry)、液体クロマトグラフィー・タンデム質量分析法(LC-MS/MS: liquid chromatography-tandem mass spectrometry)等により特定可能である。被覆層に含まれる成分の定性分析は、FT-IRで可能である。一方、被覆層に含まれる成分の定量分析は、GC/MS、LC/MSあるいはLC-MS/MSにより可能である。LC-MS/MSは、LC/MSよりも詳細な定量分析が可能であり、より分子鎖の長い成分の同定と定量が可能なものである。
【0032】
被覆層における炭酸カルシウム含有量、可塑剤含有量のそれぞれとケーブルの耐久性との関係を確認するため、以下の実験を実施した。実験には、導体径2mm
2、電線外径3.2mmのより線の絶縁電線を用いた。より線の絶縁電線の概略構造を
図6に示す。絶縁電線40は、複数の導体41と、絶縁体42からなる。複数の導体41は、互いの外周が隣接するように配置されている。絶縁体42は、導体41間の隙間に充填され、また、導体41の外周を覆っている。
(実験1)
絶縁体42中の炭酸カルシウム含有量が16重量%、9重量%及び20重量%の3種類のPVC絶縁電線40を用意した。
【0033】
得られた絶縁電線40に屈曲耐久性試験を実施した。試験方法を
図4に示す。絶縁電線40の先端を台30に固定した。絶縁電線40のもう一方の先端付近に重り31を固定した。重り31の重量は100gとした。絶縁電線40が屈曲していない状態が(1)である。次いで、動作(2)に示す通り、絶縁電線40における台30と重り31との間に位置する部分を、
図4から見た左側に90度屈曲させて屈曲用円筒32の外周面形状に添わせた(左側への屈曲)。その後、屈曲を解除して元の状態(1)に戻した。その後、動作(3)に示す通り、絶縁電線40の動作(2)で既に屈曲させた部分を、
図4から見た右側に90度屈曲させて屈曲用円筒32の外周面形状に添わせた(右側への屈曲)。その後、屈曲を解除して元の状態(1)に戻した。以上の(1)から(2)を経て(1)に戻した後、(3)を行い、(1)に戻すという一連の屈曲動作を1回とし、絶縁電線40が破断に至るまでの回数をカウントした。なお、屈曲速度は、1分間当たりの屈曲動作回数が往復で50回に相当するものとした。3種類の絶縁電線40それぞれについて、屈曲用円筒32の半径(屈曲半径)を3つの異なる値に変更させた際の破断回数を測定し、その結果を
図3に示す。
図3の横軸は、屈曲用円筒32の半径である屈曲半径。縦軸は屈曲破断回数である。
【0034】
図3から明らかな通り、炭酸カルシウム量が少ない方が、破断に至るまでの回数が大きくなり、優れた耐久性が得られることがわかる。一方、炭酸カルシウムを含む安価なクレーは、コスト削減を期待できる。
図3の結果から、被覆層の炭酸カルシム含有量は9重量%以上16重量%未満の範囲が望ましい。
(実験2)
絶縁体42中の可塑剤含有量が異なる3種類のPVC絶縁電線40を用意した。
【0035】
上記PVC絶縁電線40それぞれについて、実験1で説明した屈曲破断試験を実施した。屈曲用円筒32の半径(屈曲半径)を2つのサイズに異ならせた際の破断回数を測定し、その結果を
図5に示す。
図5の横軸は、絶縁体42中の可塑剤含有量(重量%)。縦軸は屈曲破断回数である。
【0036】
図5において、点線で囲んだ範囲の可塑剤含有量が、破断に至るまでの屈曲回数が多い耐久性に優れた範囲である。可塑剤含有量がこの範囲よりも多くても、あるいは少なくても、少ない屈曲回数で破断に至り、耐久性に劣ることがわかる。屈曲半径を変化させても同じ傾向である。
以上の実験1,2等の結果を踏まえると、実施形態の送電ケーブルにおいて、最内被覆層の組成の一例を、可塑剤が30重量%、紫外線吸収剤が1重量%、酸化防止剤が0.15重量%、光安定剤が1重量%、PVCが50重量%、炭酸カルシウムが9~15重量%含むものとすることができる。また、最外被覆層の組成の一例は、可塑剤が30重量%、紫外線吸収剤が1重量%、酸化防止剤が0.15重量%、光安定剤が1重量%、PVCが50重量%、炭酸カルシウムを最内被覆層よりも少なく含むものにすることができる。上記組成の最内被覆層と最外被覆層を備える送電ケーブルは、クラックや亀裂などによる最外被覆層の破壊を防止することができる。これにより、最内被覆層に紫外線、熱及び水分の影響が及ぶのを最外被覆層が遮断するため、最内被覆層では、可塑剤の酸化と浸出、炭酸カルシウムの変性と溶出のいずれも生じない。そのため、被覆層の機能を長期間に亘って維持することができる。よって、上記組成の被覆層を備えた、太陽光発電用送電ケーブルなどのソーラーケーブルは、優れた耐久性を実現可能である。
【0037】
以上説明した少なくとも一つの実施形態によれば、複数の被覆層を備える送電ケーブルであって、複数の被覆層のうち、最外被覆層が紫外線吸収剤及び光安定剤を含み、最外被覆層の炭酸カルシウムの含有量が、最内被覆層の炭酸カルシウムの含有量よりも少ないケーブルが提供される。実施形態の送電ケーブルによれば、最外被覆層がクラックや亀裂などにより破壊するのを抑制することができるため、最内被覆層に対する暴露雰囲気(紫外線、熱及び水分)の影響を最外被覆層が遮断して被覆層の耐久性を向上することができる。その結果、実施形態の送電ケーブルは、太陽光発電に適用されるソーラーケーブル等の送電ケーブルや,一般架設ケーブルなど屋外での利用で優れた耐久性が得られる。
【0038】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の趣旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同時に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
以下に、本願出願の当初の特許請求の範囲に記載された発明を付記する。
[1] 絶縁電線を含むコアと、
前記コアの外周に設けられる複数の被覆層とを備える送電ケーブルであって、
前記複数の被覆層のうち、最外被覆層が紫外線吸収剤及び光安定剤を含み、最内被覆層が炭酸カルシウムを含み、前記最外被覆層の炭酸カルシウムの含有量が、前記最内被覆層の炭酸カルシウムの含有量よりも少ない、送電ケーブル。
[2] 前記最内被覆層は、紫外線吸収剤と光安定剤を含まない、[1]に記載の送電ケーブル。
[3] 前記最外被覆層の炭酸カルシウムの含有量が9重量%未満である、[1]または[2]に記載の送電ケーブル。
[4] 前記複数の被覆層は、それぞれ、ポリ塩化ビニルを含む、[1]~[3]のいずれか1項に記載の送電ケーブル。
[5] 前記複数の被覆層は、互いが融着していない、[1]~[4]のいずれか1項に記載の送電ケーブル。
【符号の説明】
【0039】
1…送電ケーブル、2…絶縁電線、3…コア、4…被覆層、4a…最内被覆層、4b…最外被覆層、5…導体、6…絶縁体、7…介在、10…押出成形装置、11…シリンダー、12…スクリュー、13…ヒーターコイル、14…ホッパー、15…ダイス、16…プラスチックコンパウンド、17…溶融プラスチック、18…コア、19…ケーブル、20…リール状ケーブル、30…台、31…重り、32…屈曲用円筒、40…より線の絶縁電線、41…導体、42…絶縁体。