(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-13
(45)【発行日】2024-09-25
(54)【発明の名称】防虫組成物、防虫シート及び防虫カバー
(51)【国際特許分類】
A01N 25/00 20060101AFI20240917BHJP
A01N 25/34 20060101ALI20240917BHJP
A01N 47/12 20060101ALI20240917BHJP
A01N 53/08 20060101ALI20240917BHJP
A01P 3/00 20060101ALI20240917BHJP
A01P 7/04 20060101ALI20240917BHJP
A47G 25/54 20060101ALI20240917BHJP
【FI】
A01N25/00 101
A01N25/34 A
A01N47/12 Z
A01N53/08 110
A01P3/00
A01P7/04
A47G25/54
(21)【出願番号】P 2020184592
(22)【出願日】2020-11-04
【審査請求日】2023-08-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000102544
【氏名又は名称】エステー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003708
【氏名又は名称】弁理士法人鈴榮特許綜合事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100108855
【氏名又は名称】蔵田 昌俊
(74)【代理人】
【識別番号】100103034
【氏名又は名称】野河 信久
(74)【代理人】
【識別番号】100179062
【氏名又は名称】井上 正
(74)【代理人】
【識別番号】100153051
【氏名又は名称】河野 直樹
(74)【代理人】
【識別番号】100199565
【氏名又は名称】飯野 茂
(74)【代理人】
【識別番号】100162570
【氏名又は名称】金子 早苗
(72)【発明者】
【氏名】林 昌義
【審査官】中村 政彦
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-063494(JP,A)
【文献】特開平02-289186(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2011/0104312(US,A1)
【文献】特開2020-109070(JP,A)
【文献】特開2011-132375(JP,A)
【文献】特開平09-077908(JP,A)
【文献】特開2002-320544(JP,A)
【文献】特開昭59-048408(JP,A)
【文献】特開2007-063151(JP,A)
【文献】特開2008-050039(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01N 25/00
A01N 47/00
A01N 53/00
A01P 3/00
A01P 7/00
A01M 29/00
A47G 25/00
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
非揮散性防虫剤と
揮散性防カビ剤とエポキシ化油脂を含有する防虫組成物
であって、
前記非揮散性防虫剤としてピレスロイド系化合物を含有し、
前記揮散性防カビ剤としてo-フェニルフェノール、p-クロロ-m-キシレノール、3-メチル-4-イソプロピルフェノール、イソチオシアン酸アリル、3-ヨード-2-プロピニルブチルカルバメート、N-(フルオロジクロロメチルチオ)-フタルイミド、及びN-ジクロロフルオロメチルチオ-N',N'-ジメチル-N-フェニルスルファミドから選択される化合物を含有し、
前記エポキシ化油脂としてエポキシ化大豆油を含有し、
前記非揮散性防虫剤と前記揮散性防カビ剤と前記エポキシ化油脂の含有率は、前記防虫組成物に含有される全成分(溶媒を含有する場合には溶媒を除く)100質量部に対し、各々、15~30質量部、10~35質量部、及び40~70質量部の範囲内にある防虫組成物。
【請求項2】
香料、消臭剤、抗菌成分、紫外線吸収剤、及び酸化防止剤から選択される1種以上の薬剤を更に含有する、請求項1に記載の防虫組成物。
【請求項3】
前記揮散性防カビ剤として3-ヨード-2-プロピニルブチルカルバメートを含有する請求項1又は2に記載の防虫組成物。
【請求項4】
非揮散性防虫剤と
揮散性防カビ剤とエポキシ化油脂
を含む薬剤を含有する防虫組成物由来の前記薬剤を含有するシート状通気性基材を備える防虫シート
であって、
前記シート状通気性基材は、
前記非揮散性防虫剤としてピレスロイド系化合物を含有し、
前記揮散性防カビ剤としてo-フェニルフェノール、p-クロロ-m-キシレノール、3-メチル-4-イソプロピルフェノール、イソチオシアン酸アリル、3-ヨード-2-プロピニルブチルカルバメート、N-(フルオロジクロロメチルチオ)-フタルイミド、及びN-ジクロロフルオロメチルチオ-N',N'-ジメチル-N-フェニルスルファミドから選択される化合物を含有し、
前記エポキシ化油脂としてエポキシ化大豆油を含有し、
前記防虫組成物に含有される前記非揮散性防虫剤と前記揮散性防カビ剤と前記エポキシ化油脂の含有率は、前記防虫組成物に含有される全成分(溶媒を含有する場合には溶媒を除く)100質量部に対し、各々、15~30質量部、10~35質量部、及び40~70質量部の範囲内にある防虫シート。
【請求項5】
前記シート状通気性基材は、
香料、消臭剤、抗菌成分、紫外線吸収剤、及び酸化防止剤から選択される1種以上の薬剤を更に含有する、請求項
4に記載の防虫シート。
【請求項6】
前記シート状通気性基材は、前記揮散性防カビ剤として3-ヨード-2-プロピニルブチルカルバメートを含有する請求項4又は5に記載の防虫シート。
【請求項7】
前記シート状通気性基材は不織布である、請求項
4~
6の何れか1項に記載の防虫シート。
【請求項8】
被保護物を内部に収容可能な防虫カバーであって、請求項
4~
7の何れか1項に記載の防虫シートを少なくとも一部に備える防虫カバー。
【請求項9】
正面シートと背面シートとが袋状又は筒状に接合され、被保護物を内部に収容可能な防虫カバーであって、前記正面シートの少なくとも一部に透明プラスチックシートを備え、前記背面シートの少なくとも一部に請求項
4~
7の何れか1項に記載の防虫シートを備える防虫カバー。
【請求項10】
前記被保護物が衣類又は人形である、請求項
8又は
9に記載の防虫カバー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、防虫組成物、防虫シート及び防虫カバーに関する。
【背景技術】
【0002】
衣類等の繊維製品をカツオブシムシ類、イガ類等の繊維害虫の食害から保護する手段として、様々な形態が存在する。例えば、ナフタレン、パラジクロロベンゼン、樟脳等の昇華性防虫剤を、衣類等と共に、タンス、衣類箱等の収納具に収納することは、従来から行われてきた。
【0003】
衣類等を繊維害虫の食害から保護する他の形態として、例えば特許文献1には、ポリエチレン等のプラスチック製フィルムや不織布に常温揮散性の防虫剤を含有する薬液を印刷し、当該印刷面が内側になるように袋体を形成してなる衣類等の防虫用保存袋が開示されている。
【0004】
衣類等の防虫用保存袋に関しては、更に研究開発が進められ、例えば特許文献2には、衣類をハンガーに吊るした状態のままで出し入れができ、且つ、防虫剤として常温揮発性と非揮発性の混合物を使用することにより防虫効果の持続性を改善した衣類用防虫カバーが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平2-166075号公報
【文献】特開2002-320544号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
衣類用防虫カバーは、一般に、正面シートとして透明プラスチックフィルム、背面シートとして、不織布等のシート状通気性基材に防虫剤を塗布してなるシート(以下において、「防虫シート」などともいう。)を用いることが多い。例えば、特許文献2には、正面シートがプラスチックフィルムからなり、背面シートが、不織布に常温揮発性と非揮発性の防虫剤と、防カビ剤などの任意成分を含浸させた防虫シートからなる衣類用防虫カバーが開示されている。防虫カバーの正面シートとして透明プラスチックフィルムを用いるのは、防虫カバー内の衣類を見えやすくするためであり、背面シートである防虫シートの基材として不織布を用いるのは、製造上の有利性の観点からである。
【0007】
使用前の防虫カバーは、通常、折りたたまれて、薬剤バリア性の袋内で保管される。このため保管中の防虫カバーは、プラスチックフィルムと防虫シートとが接触した状態となる。本発明者らによる鋭意研究により、背面シートを構成する防虫シートにおいて、不織布に塗布された防虫剤を含む薬剤は、防虫カバーの保管中に、時間の経過とともに正面シートであるプラスチックフィルムに徐々に移行することがわかった。
【0008】
防虫カバーの保管中に、防虫シート(不織布)からプラスチックフィルムに薬剤が移行すると、防虫カバーが使用される前に、不織布に含浸される薬剤の濃度が低減し、所望とする効果が発揮されない。この保管中における薬剤のプラスチックフィルムへの移行による薬剤効果の低下は、薬剤が非揮発性の場合のみならず、揮発性の場合も生じる。すなわち、揮散性薬剤の場合は、プラスチックフィルムに吸着され、ほとんど揮散しなくなってしまうため、使用時に所望とする効果が発揮されない。
【0009】
このように、防虫カバーの保管中に、防虫シートに含まれる防虫剤等の薬剤がプラスチックフィルムに移行して防虫シート中の薬剤濃度が低下し、使用時には十分な効果が発揮できないといった問題があることが、本発明者らにより見出された。このような問題を解決するためには、不織布等の通気性基材に、プラスチックフィルムに移行する量を考慮した多量の薬剤を塗布しなければならず、薬剤の無駄が生じる。
【0010】
本発明は、上記実情に鑑み開発されたものであり、防虫カバーの保管中に、防虫シートに含有される薬剤が移行することによる防虫シートの薬剤濃度の低減を抑制し、所望とする防虫等の効果を発揮することができる防虫組成物、防虫シート及び防虫カバーを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、防虫剤を含む組成物に特定の油脂を配合することにより、防虫カバーの保管中における防虫シートからプラスチックフィルムへの薬剤の移行を抑制することができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
すなわち、本発明の一側面によると、防虫剤とエポキシ化油脂を含有する防虫組成物が提供される。
【0013】
上記防虫組成物は、一形態において、防カビ剤、香料、消臭剤、抗菌成分、紫外線吸収剤、及び酸化防止剤から選択される1種以上の薬剤を更に含有してよい。
【0014】
上記防虫組成物は、他の形態において、上記防虫剤として少なくとも1種の非揮散性防虫剤を含有し、更に、揮散性薬剤として少なくとも1種の揮散性防カビ剤を含有してよい。
【0015】
上記防虫組成物は、他の形態において、上記防虫剤1質量部に対し、上記エポキシ化油脂を1~25質量部の範囲内で含有してよい。
【0016】
また、本発明の他の側面によると、防虫剤とエポキシ化油脂を含有するシート状通気性基材を備える防虫シートが提供される。
【0017】
上記防虫シートは、一形態において、上記シート状通気性基材に防カビ剤、香料、消臭剤、抗菌成分、紫外線吸収剤、及び酸化防止剤から選択される1種以上の薬剤を更に含有してよい。
【0018】
上記防虫シートは、他の形態において、上記シート状通気性基材に、上記防虫剤として少なくとも1種の非揮散性防虫剤を含有し、更に、揮散性薬剤として少なくとも1種の揮散性防カビ剤を含有してよい。
【0019】
上記防虫シートは、他の形態において、上記シート状通気性基材に上記防虫剤1質量部に対し、上記エポキシ化油脂を1~25質量部の範囲内で含有してよい。
【0020】
上記防虫シートは、他の形態において、上記シート状通気性基材が不織布であってよい。
【0021】
また、本発明の他の側面によると、被保護物を内部に収容可能な防虫カバーであって、上記防虫シートを少なくとも一部に備える防虫カバーが提供される。
【0022】
また、本発明の他の側面によると、正面シートと背面シートとが袋状又は筒状に接合され、被保護物を内部に収容可能な防虫カバーであって、上記正面シートの少なくとも一部に透明プラスチックシートを備え、上記背面シートの少なくとも一部に上記防虫シートを備える防虫カバーが提供される。
【0023】
上記防虫カバーは、一形態において、上記保護物が衣類又は人形であってよい。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、防虫カバーの保管中に、防虫シートに含有される薬剤が移行することによる防虫シートの薬剤濃度の低減を抑制し、所望とする防虫等の効果を発揮することができる防虫組成物、防虫シート及び防虫カバーを提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】本発明の一実施形態に係る防虫カバーの一部を切除した概略正面図。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下に、本発明の実施形態として、第1実施形態に係る防虫組成物、第2実施形態に係る防虫シート、及び第3実施形態に係る防虫カバーについて説明する。
【0027】
<第1実施形態>
第1実施形態に係る防虫組成物は、衣類、人形、寝具などの各種繊維製品を、カツオブシムシ類、イガ類等の繊維害虫の食害から保護するために用いられる。本実施形態に係る防虫組成物は、例えば、不織布等の通気性基材に塗布され、後述する第2実施形態に係る防虫シートとして使用される。そして、この防虫シートは、例えば、後述する第3実施形態に係る防虫カバーの構成部材として使用される。
【0028】
本実施形態に係る防虫組成物は、防虫剤及びエポキシ化油脂を必須成分として含有する。上述した通り、防虫カバーの背面シートを構成する不織布に塗布された薬剤は、防虫カバーの保管中に、時間の経過とともに正面シートであるプラスチックフィルムに徐々に移行(以下において、単に「薬剤の移行」ともいう。)し、防虫カバーが使用される前に防虫シートに含有される薬剤の濃度が低減してしまうという問題があった。本実施形態に係る防虫組成物において、防虫剤がエポキシ化油脂と併用されることにより、防虫カバーの保管中における、防虫シートからプラスチックフィルムへの防虫剤の移行が抑制される。
【0029】
本実施形態に係る防虫組成物は、他の薬剤として、例えば、防カビ剤、香料、消臭剤、抗菌成分、紫外線吸収剤、及び酸化防止剤から選択される1種以上の薬剤を更に含有してよい。エポキシ化油脂の併用による薬剤の移行の抑制効果は、防虫剤に対してだけでなく、これら他の薬剤に対しても有効である。
【0030】
また、エポキシ化油脂の併用による薬剤の移行の抑制効果は、非揮散性薬剤及び揮散性薬剤の何れに対しても有効である。ここで薬剤における非揮散性と揮散性は、以下のように区別する。すなわち、25℃における蒸気圧が1.0×10-4Pa以下である薬剤を非揮散性、1.0×10-4Pa超である薬剤を揮散性として区別する。なお、本明細書において「香料」は揮散性薬剤である。
【0031】
本実施形態に係る防虫組成物おいて、エポキシ化油脂の併用による薬剤の移行の抑制効果は、防虫剤、防カビ剤及び香料に対して特に高い。
【0032】
本実施形態に係る防虫組成物が含有するエポキシ化油脂としては、エポキシ化トリグリセリド及びエポキシ化脂肪酸モノエステルが好適に使用される。エポキシ化トリグリセリドとしては、例えば、エポキシ化大豆油、エポキシ化アマニ油などを挙げることができる。また、エポキシ化脂肪酸モノエステル(R1COOR2)におけるアルキルエステル部分のアルキル基(R2)は、例えば、炭素数4~12のアルキル基であってよく、具体例としては、エポキシ化脂肪酸オクチル、エポキシ化脂肪酸ブチルなどが挙げられる。これらのうち、エポキシ化大豆油は、薬剤の移行の抑制効果に加え、粘度が低く製造上扱いやすいため、本実施形態において特に好適に使用される。
【0033】
本実施形態に係る防虫組成物が含有する防虫剤としては、衣類や人形などの繊維製品を害虫による食害から保護するために用いられる公知の防虫剤を使用することができる。防虫剤は、1種単独で使用してもよいし、2種以上を使用してもよい。また、防虫剤は、非揮散性防虫剤でもよく、揮散性防虫剤でもよく、双方を併用してもよい。半年以上の長期にわたり防虫効果を維持する観点からは、防虫剤として少なくとも1種の非揮散性防虫剤を使用することが好ましい。
【0034】
非揮散性防虫剤の具体例としては、フェノトリン(蒸気圧:2.0×10-5Pa/25℃)、シフェノトリン(蒸気圧:1.33×10-5Pa/25℃)、エトフェンプロックス(蒸気圧:8.0×10-7Pa/25℃)、シラフルオフェン(蒸気圧:2.5×10-6Pa/25℃)等のピレスロイド系化合物等を挙げることができる。
【0035】
揮散性防虫剤の具体例としては、エンペントリン(蒸気圧:1.4×10-2Pa/25℃)、プロフルトリン(蒸気圧:1.03×10-2Pa/25℃)、トランスフルトリン(蒸気圧:9.0×10-3Pa/25℃)、アレスリン、メトフルトリン、フタルスリン、ペルメトリン等のピレスロイド系化合物;デカメチルテトラシロキサン、モチルポリシロキサン、デカメチルシクロペンタシロキサン、ドデカメチルシクロヘキサシロキサン等のシリコーン化合物;2-フェノキシエタノール等を挙げることができる。
【0036】
本実施形態に係る防虫組成物は、一形態において、防カビ剤を含有することが好ましい。本実施形態に係る防虫組成物が含有し得る防カビ剤としては、防カビ剤として公知の薬剤を使用することができる。防カビ剤は、1種単独で使用してもよいし、2種以上を使用してもよい。また、防カビ剤は、非揮散性防カビ剤でもよく、揮散性防カビ剤でもよく、双方を併用してもよい。上述したように、エポキシ化油脂の併用による薬剤の移行の抑制効果の観点からは、少なくとも1種の揮散性防カビ剤を含有することがより好ましい。
【0037】
本実施形態に係る防虫組成物が含有し得る揮散性防カビ剤としては、例えば、o-フェニルフェノール、p-クロロ-m-キシレノール、3-メチル-4-イソプロピルフェノール、イソチオシアン酸アリル、3-ヨード-2-プロピニルブチルカルバメート、N-(フルオロジクロロメチルチオ)-フタルイミド、N-ジクロロフルオロメチルチオ-N',N '-ジメチル-N-フェニルスルファミドなどを挙げることができる。
【0038】
本実施形態に係る防虫組成物は、一形態において、香料を含有することが好ましい。本実施形態に係る防虫組成物が含有し得る香料としては、例えば、ラベンダーオイル、オレンジオイル、レモンオイル、薔薇抽出油、ライムオイル、ヒノキ抽出油、ハーブ抽出油等の植物抽出油;ローズ、シトラス、レモン、コーヒー、アプリコット、フローラル、ピーチ等の、種々の成分を人工的に配合することによりそれに似せた香気を与えた配合香料;樟脳白油、ヒノキ精油、テレビン油、ユーカリ油、薄荷油等の精油;p-メンタジエン、d-リモネン、p-メンタン、ターピネオール、リナロール、テルピニルアセテート、ジヒドロターピネオール、ジヒドロターピニルアセテート、ミルテナール、ミルテノール、ペリラアルデヒド、ローズオキサイド、ボルネオール、カンフル、カルベオール、カルボンオキサイド、カルビルアセテート、カリオフィレン、シネオール、シトロネラオイル、シトロネラール、シトロネロール、イソオイゲノール、ゲラニルアセテート、シトラール、サイメン、サイメン-8-オール、ジヒドロカルベオール、ジヒドロカルボン、ジヒドロカルビルアセテート、リモネンオキサイド、フラノイド、ピラノイド、メントン、メンチルアセテート、ミルテナール、ミルテノール、ミルテニルアセテート、ペリリルアルコール、ペリリルアセテート、ピネン、ピネンオキサイド、ゲラニオール、酢酸イソアミル、アミルシンナミックアルデヒド、メントール、アンスラニル酸メチル等のテルペン類香気成分等を挙げることができる。本実施形態において、香料を1種単独で使用してもよいし、2種以上を使用してもよい。
【0039】
本実施形態に係る防虫組成物は、溶剤を含有してよい。本実施形態に係る防虫組成物は、一形態において、エポキシ化油脂と、防虫剤及び任意成分である他の薬剤を溶剤に溶解又は分散することにより調製される。本実施形態において使用し得る溶剤としては、エポキシ化油脂と防虫剤、並びに任意成分である他の薬剤を溶解又は分散し得るものであれば特に制限されることなく使用することができ、例えば、トルエン、酢酸エチル、メチルエチルケトン等を挙げることができる。
【0040】
本実施形態に係る防虫組成物に含有されるエポキシ化油脂の量は、薬剤の移行の抑制効果の観点から、他の薬剤量との関係で適宜設定される。エポキシ化油脂の配合量が少なすぎると薬剤の移行の抑制効果を十分に発揮できず、一方適量を超える量を配合しても当該効果が変わらないだけでなく、防虫効果などの他の薬剤による効果を阻害することがあり得る。
【0041】
また、本実施形態に係る防虫組成物に含有されるエポキシ化油脂の量は、一形態において、防虫剤との配合割合において、防虫剤1質量部に対しエポキシ化油脂が0.1~100質量部の範囲内であることが好ましく、0.5~50質量部の範囲内であることがより好ましく、1~25質量部の範囲内であることが更に好ましい。
【0042】
本実施形態に係る防虫組成物に含有されるエポキシ化油脂の量は、他の形態において、防虫組成物に含有される全成分(溶媒を含有する場合には溶媒を除く)100質量部に対し、20~90質量部であることが好ましく、30~80質量部であることがより好ましく、40~70質量部であることが更に好ましい。
【0043】
本実施形態に係る防虫組成物に含有される防虫剤の量は、一形態において、防虫組成物に含有される全成分(溶媒を含有する場合には溶媒を除く)100質量部に対し、1~50質量部あることが好ましく、10~40質量部であることがより好ましく、15~30質量部であることが更に好ましい。
【0044】
本実施形態に係る防虫組成物が防カビ剤を含有する場合、防虫組成物に含有される防カビ剤の量は、一形態において、防虫組成物に含有される全成分(溶媒を含有する場合には溶媒を除く)100質量部に対し、1~70質量部あることが好ましく、5~50質量部であることがより好ましく、10~35質量部であることが更に好ましい。
【0045】
<第2実施形態>
第2実施形態に係る防虫シートは、防虫剤とエポキシ化油脂を含有するシート状通気性基材を備える。本実施形態において、防虫剤とエポキシ化油脂を含むシート状通気性基材は、他の薬剤として、例えば、防カビ剤、香料、消臭剤、抗菌成分、紫外線吸収剤、及び酸化防止剤から選択される1種以上の薬剤を更に含有してよい。本実施形態に係る防虫シートは、後述するように、上掲の第1実施形態に係る防虫組成物をシート状通気性基材の少なくとも一方の面に塗布し、これを乾燥することにより得られるものであるから、シート状通気性基材に含有されるエポキシ化油脂と、防虫剤及び任意成分である他の薬剤は、第1実施形態において述べた通りである。
【0046】
本実施形態において、シート状通気性基材として、不織布、紙、織布等を挙げることができ、一形態において、不織布が好ましい。本実施形態において使用し得る不織布としては、ポリプロピレンスパンボンドや、ポリエステル・レーヨン混成シートなどを例示できる。
【0047】
本実施形態において、シート状通気性基材は、単層構造であってもよく、積層構造であってもよい。例えば、シート状通気性基材として不織布を使用する場合、単層不織布として、スパンボンド不織布等が挙げられ、積層不織布として、スパンボンド-メルトブローン-スパンボンド不織布(SMS不織布)、スパンボンド-メルトブローン-メルトブローン-スパンボンド不織布(SMMS不織布)等が挙げられる。
【0048】
本実施形態に係る防虫シートは、一形態において、シート状通気性基材の少なくとも一方の面に上述した第1実施形態に係る防虫組成物を塗布し、これを乾燥することにより得られる。シート状通気性基材の片面又は両面への防虫組成物の塗布は、公知の方法により行うことができ、例えば、印刷により塗布することができる。印刷は、何ら特別な印刷設備、加工設備などを必要とせず、スクリーン印刷、グラビア印刷、平版印刷、インクジェット方式等、既存の印刷機をそのまま使用することができる。印刷部における単位面積当たりの防虫組成物の塗布量は、印刷用塗布液における防虫剤等の薬剤の濃度などに応じて適宜設定することができ、その調節は、防虫組成物を塗布する際に用いられる版の深さを変更することにより行うことができる。
【0049】
印刷は、通気性基材表面に対する全面印刷によるべた塗り(以下、「ベタ印刷」という。)でもよく、パターン印刷による繰り返し模様状の印刷でも構わないが、繰り返し模様のパターン印刷が好ましい。繰り返し模様状のパターン印刷とすることにより、ベタ印刷の場合と比較して、所望とする防虫効果を維持しつつ、防虫剤の使用量を低減することができる場合があり、好ましい。
【0050】
繰り返し模様の基本パターンとしては、例えば、ドット柄、市松模様、うろこ模様、波柄、ストライプ柄等を挙げることができる。
【0051】
防虫組成物が塗布されたシート状通気性基材は、次いで乾燥される。乾燥温度及び時間は、適宜設定することができる。
【0052】
<第3実施形態>
第3実施形態に係る防虫カバーは、被保護物を内部に収容することができ、上述した第2実施形態に係る防虫シートを少なくとも一部に含むものであればよい。本実施形態に係る防虫カバーは、典型的には、衣類、人形、寝具等の繊維製品の防虫カバーとして用いられる。
【0053】
本実施形態に係る防虫カバーは、基本的に袋状又は筒状をなすものであり、例えば、ハンガーに吊り下げた衣服をカバーする形態に製袋されたものである。以下に、本実施形態に係る防虫カバーの一例を、図面を参照しながら説明する。
【0054】
図1は、一実施形態に係る防虫カバーの一部を切除した概略正面図である。
図1に示される防虫カバー1は、透明プラスチックシートからなる正面シート11と、上述した第2実施形態に係る防虫シートからなる背面シート12を、首部13を除く上辺周縁部14と、側辺周縁部15を接着してなる筒状のハンガー吊り下げ用の防虫カバーを示す。背面シート12を構成する防虫シートにおける防虫組成物の塗布面は、筒状体である防虫カバー1の内側面でもよく、外側面でもよく、あるいは両面であってもよい。
【0055】
正面シート11を構成する透明プラスチックシートとしては、例えば、ポリプロピレン、ポリエチレン、エチレン酢酸ビニルコポリマーを材料とする透明プラスチックフィルムが挙げられる。
【0056】
なお、
図1において想像線(二点鎖線)で示されるハンガー17は、防虫カバー1の構成要素に含まれない。
【0057】
使用前で保管中の防虫カバーのように、衣類を収容していない防虫カバー1は、プラスチックシートからなる正面シート11と防虫シートからなる背面シート12とが接触した状態となる。この場合、従来の防虫組成物を不織布に塗布してなる防虫シートを使用した防虫カバーにおいては、薬剤が防虫シートからプラスチックフィルムへ移行するため、防虫シートに含まれる薬剤濃度が低下し、使用時には所望とする効果が発揮されない。なお、不織布に塗布された薬剤は不織布中に均一に分散するため、仮に防虫組成物の塗布面が防虫カバーの外側面のみであったとしても、このプラスチックフィルムと防虫シートの接触による薬剤の移行は生じる。一方、第2実施形態に係る防虫シートを使用した本実施形態に係る防虫カバーにおいては、薬剤の移行が抑制されるため、使用時に所望とする効果が得られる。
【0058】
図1に示される防虫カバー1において、被保護物である衣類は、開口部である下辺周縁部16から出し入れされる。他の実施形態に係る防虫カバーは、
図1に示される防虫シート1の主部13を除く上辺周縁部14及び側辺周縁部15だけでなく、下辺周縁部16も接着することにより袋状とし、更に、例えば特許文献2に示されるような衣類の出し入れ口を正面シートに設けたものであってよい。
【実施例】
【0059】
以下、本発明を実施例及び比較例によってさらに詳細に説明するが、本発明は当該実施例及び比較例によって何ら制限されるものではない。
【0060】
<防虫組成物の調製>
表1に示す防虫剤、防カビ剤、エポキシ化大豆油及び溶剤を、同表に示す配合比にて混合することにより、防虫組成物1~3を調製した。
【0061】
【0062】
<防虫シートの作製>
目付15g/m2のSMMS不織布(PP製)(旭化成株式会社製)上に、上記で得た各防虫組成物を、グラビア印刷を用いてべた印刷することにより塗布した。次いで不織布を乾燥することにより、防虫組成物1~3由来の薬剤を各々含む防虫シート1~3を得た。
【0063】
<防虫カバーの作製>
ポリプロピレンフィルム(厚さ0.025mm)と、上記で得た各防虫シートを重ね合わせ、超音波を使用して、
図1に示す正面シート11と背面シート12の形状に切断すると同時に、首部13を除いた上辺周縁部14と側辺周縁部15にて両シートを接着することにより、防虫カバー1~3を作製した。
【0064】
上記で得た防虫カバーを、それぞれ薬剤バリア性の密閉袋内に入れ、25℃で1か月保存した。保存後、密閉袋内から各防虫カバーを取り出し、ポリプロピレンフィルム及び防虫シートをそれぞれ10cm×10cmのサイズに切り取った。切り取ったポリプロピレンフィルム及び防虫シートに残存している防虫剤及び防カビ剤の量をガスクロマトグラフィーにより分析し、下記の式を用いて防虫シートからポリプロピレンフィルムへの防虫剤及び防カビ剤の移行率(フィルム薬剤移行率(%))を計算した。結果を表2に示す。
【0065】
【0066】
【0067】
上記結果より、本実施形態に係る防虫カバーは、いずれも比較品に比べ防虫剤のプラスチックフィルムへの移行を抑制していることがわかった。
【0068】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で種々に変形することが可能である。また、各実施形態は適宜組み合わせて実施してもよく、その場合組み合わせた効果が得られる。更に、上記実施形態には種々の発明が含まれており、開示される複数の構成要件から選択された組み合わせにより種々の発明が抽出され得る。例えば、実施形態に示される全構成要件からいくつかの構成要件が削除されても、課題が解決でき、効果が得られる場合には、この構成要件が削除された構成が発明として抽出され得る。
【符号の説明】
【0069】
1・・・防虫カバー
11・・・正面シート
12・・・背面シート
13・・・首部
14・・・上辺周縁部
15・・・側辺周縁部
16・・・下辺周縁部
17・・・ハンガー