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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-13
(45)【発行日】2024-09-25
(54)【発明の名称】トナー
(51)【国際特許分類】
   G03G 9/087 20060101AFI20240917BHJP
   G03G 9/097 20060101ALI20240917BHJP
【FI】
G03G9/087 325
G03G9/097 365
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2020209185
(22)【出願日】2020-12-17
(65)【公開番号】P2022096213
(43)【公開日】2022-06-29
【審査請求日】2023-12-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】村田 一貴
(72)【発明者】
【氏名】橋本 武
(72)【発明者】
【氏名】井田 隼人
【審査官】高橋 純平
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-127761(JP,A)
【文献】特開2017-015912(JP,A)
【文献】特開2008-102238(JP,A)
【文献】特開2014-130243(JP,A)
【文献】特開2019-215526(JP,A)
【文献】特開2010-077419(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G03G 9/087
G03G 9/097
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
結着樹脂、離型剤を含有するトナー粒子を有するトナーであって、
該結着樹脂は、結晶性樹脂を含有し、
該結晶性樹脂は、下記式(1)で表される第一のモノマーユニットを有し、
該結晶性樹脂中の該第一のモノマーユニットの割合が、該結晶性樹脂の全モノマーユニットの総質量に対して30.0質量%~100.0質量%であり、
【化1】
[式(1)中、RZ1は、水素原子又はメチル基を表し、Rは、炭素数18~36のアルキル基を表す。]
該離型剤が、下記式(2)で表されるユニットを有するα-オレフィン重合体を含有し、
【化2】
[式(2)中、Rは、炭素数18~36のアルキル基を表す。]
示差走査熱量計(DSC)により測定される該α-オレフィン重合体の最大吸熱ピーク温度が、40℃~90℃であることを特徴とするトナー。
【請求項2】
該離型剤の重量平均分子量(Mw)が1,000~10,000である請求項1に記載のトナー。
【請求項3】
該トナー粒子に含有される該離型剤の含有量が、該結晶性樹脂100質量部に対して、1.0質量部~20.0質量部である請求項1または2に記載のトナー。
【請求項4】
該式(1)中のRの炭素数に対する該式(2)中の炭素数の割合が0.8~1.2である請求項1~3のいずれか一項に記載のトナー。
【請求項5】
該離型剤中の該式(2)で表されるモノマーユニットの割合が、該離型剤中の全モノマーユニットに対して50質量%以上である請求項1~4のいずれか一項に記載のトナー。
【請求項6】
該第一のモノマーユニットがアクリル酸ベヘニルである請求項1~5のいずれか一項に記載のトナー。
【請求項7】
該結晶性樹脂は、
該第一のモノマーユニットとは異なる下記式(3)または下記式(4)であらわされる第二のモノマーユニットを有し、
該第二のモノマーユニットのSP値をSP2(J/cm0.5としたとき、以下の関係式を満たす請求項1~6のいずれか一項に記載のトナー。
21.00 (J/cm0.5 ≦SP2
【化3】
(式中、Xは単結合又は炭素数1~6のアルキレン基を示し、
は、
ニトリル基(-C≡N)、
アミド基(-C(=O)NHR10(R10は水素原子、若しくは炭素数1~4のアルキル基を表す。))、
ヒドロキシ基、
-COOR31(R31は水素原子、炭素数1~6のアルキル基若しくは炭素数1~6のヒドロキシアルキル基を表す。)、
ウレア基(-NH-C(=O)-N(R33(R33はそれぞれ独立して、水素原子若しくは炭素数1~6のアルキル基を表す。))、
-COO(CHNHCOOR34(R34は炭素数1~4のアルキル基を表す。)、又は
-COO(CH-NH-C(=O)-N(R35(R35はそれぞれ独立して、水素原子若しくは炭素数1~6のアルキル基を表す。)
を表し、
は、水素原子又はメチル基を表す。)
【化4】
(式中、Rは、炭素数1~4のアルキル基を表し、
は、水素原子又はメチル基を表す。)]

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子写真方式、静電記録方式、静電印刷方式、トナージェット方式等に用いられるトナーに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電子写真方式のフルカラー複写機が広く普及するに従い、高速化、高画質化に加えて、省エネルギー性能、スリープ状態からの復旧時間短縮、多種多様なメディアへの対応など、付加的な性能の向上も要求されている。
具体的には、省エネルギー化に対応したトナーとして、定着工程での消費電力を低下させるために、より低い温度で定着できる、低温定着性に優れたトナーが求められている。
また、多種多様なメディアの一つである厚紙コート紙は、白色度を高めるために炭酸カルシウム等の無機微粒子が多く含まれているため、紙同士の摺擦による摩擦係数が大きくなり、定着画像のトナーが紙から剥離されやすくなる。そこで、厚紙コート紙同士の摺擦に対してもトナーが剥離しない耐擦過性に優れたトナーが求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2018-151619号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載のトナーは、シャープメルト性を有する結晶性ポリビニル樹脂を用いているため、優れた低温定着性が可能となっている。一方、結晶性ポリビニル樹脂は、離型剤との極性差が小さく、親和性が高いことから、離型剤の染み出しが抑制され、定着画像の表面に離型剤の層が形成されにくい。以上のことから特許文献1に記載のトナーを用いても、近年要求されている耐擦過性においては、劣る場合があった。
本発明は、上記のような問題を鑑みてなされたものである。本発明は、優れた低温定着性を示した上で、厚紙コート紙などの無機微粒子の多いメディアへの定着画像においても優れた耐擦過性を示すトナーを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明に係るトナーは、結着樹脂、離型剤を含有するトナー粒子を有するトナーであって、
該結着樹脂は、結晶性樹脂を含有し、
該結晶性樹脂は、下記式(1)で表される第一のモノマーユニットを有し、
該結晶性樹脂中の該第一のモノマーユニットの割合が、該結晶性樹脂の全モノマーユニットの総質量に対して30.0質量%~100.0質量%であり、
【0006】
【化1】
【0007】
[式(1)中、RZ1は、水素原子又はメチル基を表し、Rは、炭素数18~36のアルキル基を表す。]
該離型剤が、下記式(2)で表されるモノマーユニットを有するα-オレフィン重合体を含有し、
【0008】
【化2】
【0009】
[式(2)中、Rは、炭素数18~36のアルキル基を表す。]
示差走査熱量計(DSC)により測定される該α-オレフィン重合体の最大吸熱ピーク温度が、40℃~90℃であるトナーが提供される。
【発明の効果】
【0010】
本発明の一態様によれば、低温定着性と厚紙コート紙などを使用した定着画像における耐擦過性に優れたトナーを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明において、数値範囲を表す「○○以上××以下」や「○○~××」の記載は、特に断りのない限り、端点である下限及び上限を含む数値範囲を意味する。
本発明において、(メタ)アクリル酸エステルとは、アクリル酸エステル及び/又はメタクリル酸エステルを意味する。
本発明において、「モノマーユニット」とは、ポリマー中のビニル系モノマーが重合した主鎖中の、炭素-炭素結合1区間を1ユニットとする。ビニル系モノマーとは下記式(Z)で示すことができる。
【0012】
【化3】
【0013】
[式(Z)中、RZ1は、水素原子、又はアルキル基(好ましくは炭素数1~3のアルキル基であり、より好ましくはメチル基)を表し、RZ2は、任意の置換基を表す。]
結晶性樹脂とは、示差走査熱量計(DSC)測定において明確な吸熱ピークを示す樹脂を指す。
以下、本発明を実施するための形態を詳細に説明する。
【0014】
本発明に係るトナーは、結着樹脂、離型剤を含有するトナー粒子を有するトナーであって、
該結着樹脂は、結晶性樹脂を含有し、
該結晶性樹脂は、下記式(1)で表される第一のモノマーユニットを有し、
該結晶性樹脂中の該第一のモノマーユニットの割合が、該結晶性樹脂の全モノマーユニットの総質量に対して30.0質量%~100.0質量%である。
【0015】
【化4】
【0016】
[式(1)中、RZ1は、水素原子又はメチル基を表し、Rは、炭素数18~36のアルキル基を表す。]
該離型剤が、下記式(2)で表されるモノマーユニットを有するα-オレフィン重合体を含有し、
【0017】
【化5】
[式(2)中、Rは、炭素数18~36のアルキル基を表す。]
示差走査熱量計(DSC)により測定される該α-オレフィン重合体の最大吸熱ピーク温度が、40℃~90℃である。
本発明に係るトナーによれば、低温定着性と厚紙コート紙などにおける耐擦過性とを両立するトナーを提供することができる。
【0018】
本発明者らが鋭意検討し、該結晶性樹脂のモノマーユニットの構成、該離型剤のモノマーユニットの構成、示差走査熱量計(DSC)により測定される最大吸熱ピーク温度等を制御することにより、上記課題を解決できることを見出し、本発明に至った。
上記課題を解決するに至った理由を、本発明者らは以下のように推測している。
該結晶性樹脂を使用した場合に耐擦過性が劣る原因は、該結晶性樹脂と離型剤とが相溶し、定着画像の表面に離型剤の層が形成されにくくなるためである。該結晶性樹脂が離型剤と相溶する要因は、該結晶性材料と離型剤との極性差の絶対値が小さいことに由来する。一方で、該結晶性樹脂を闇雲に高極性化することは、該結晶性樹脂の結晶性が崩れ、低温定着性の低下を招く。
【0019】
本発明者らは、α―オレフィンモノマーユニットを含有する離型剤を該結晶性樹脂に添加するとシャープメルト性が向上し、低温定着性に優れるとともに、定着画像の表面に強固な膜が形成され、優れた耐擦過性が得られる場合があることを発見した。詳細な検討を行った結果、該結晶性樹脂の炭素数と該離型剤の炭素数との関係が大きく影響していることがわかり本発明に至った。炭素数18~36のアルキル基を有するα―オレフィンモノマーユニットを含有する該離型剤と炭素数18~36のアルキル基を有する該結晶性材料とを使用すると、両者は炭素数が近い側鎖構造をもつ。このため、該離型剤が該結晶性樹脂の結晶性を促進させ、シャープメルト性が向上し低温定着性に優れるとともに、両者の相互作用が強いため、定着画像の表面に強固な膜が形成されることから、優れた耐擦過性が得られることがわかった。
なお、「炭素数18~36のアルキル基を有するα―オレフィンモノマーユニット」とは、α―オレフィンモノマーユニットが有するアルキル基の炭素数が18~36であることを意味する。
【0020】
本発明に係るトナーは、結晶性樹脂を有する結着樹脂、及び、離型剤を含有する。
本発明に係る結晶性樹脂は、上記式(1)であらわされる第一のモノマーユニットを有している。上記式(1)であらわされる第一のモノマーユニットは、炭素数18~36のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸エステルからなる群から選択される少なくとも一つである第一の重合性単量体に由来する。
【0021】
第一のモノマーユニットが、炭素数18~36のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸エステルである場合、樹脂に結晶性を付与することができる。そのため、トナーがシャープメルト性を発現し、優れた低温定着性が得られる。
炭素数18~36のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸エステルとしては、例えば、以下のものが挙げられる。炭素数18~36の直鎖アルキル基を有する(メタ)アクリル酸エステル[(メタ)アクリル酸ステアリル、(メタ)アクリル酸ノナデシル、(メタ)アクリル酸エイコシル、(メタ)アクリル酸ヘンエイコサニル、(メタ)アクリル酸ベヘニル、(メタ)アクリル酸リグノセリル、(メタ)アクリル酸セリル、(メタ)アクリル酸オクタコサ、(メタ)アクリル酸ミリシル、(メタ)アクリル酸ドトリアコンタン等]及び炭素数18~36の分岐のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸エステル[(メタ)アクリル酸2-デシルテトラデシル等]。
【0022】
これらの内、優れた低温定着性を有するという観点から、炭素数18~36の直鎖アルキル基を有する(メタ)アクリル酸エステルからなる群から選択される少なくとも一つが好ましい。また、炭素数18~30の直鎖アルキル基を有する(メタ)アクリル酸エステルからなる群から選択される少なくとも一つがより好ましく、直鎖アルキル基の炭素数が22である(メタ)アクリル酸ベヘニルがさらに好ましい。
上記式(1)であらわされる第一のモノマーユニットに由来する重合性単量体は、1種を単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0023】
本発明に係る結晶性樹脂中の第一のモノマーユニットの割合は、結晶性樹脂中の全モノマーユニットの総質量に対して、30.0質量%~100.0質量%である。
第一のモノマーユニットの割合が、30.0質量%~100.0質量%である場合、結晶性によりトナーがシャープメルト性を発現し、優れた低温定着性が得られる。
第一のモノマーユニットの割合は、優れた帯電維持性が得られるという観点から好ましくは30.0質量%~80.0質量%、より好ましくは30.0質量%~60.0質量%である。
なお、結晶性樹脂が、2種以上の炭素数18~36のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸エステルに由来するモノマーユニットを有する場合、第一のモノマーユニットの含有割合は、それらモノマーユニットの合計の質量比率を表す。
【0024】
本発明に係る結晶性樹脂は、第一のモノマーユニットとは異なる下記式(3)または下記式(4)であらわされる第二のモノマーユニットを有することが好ましい。
そして、第二のモノマーユニットのSP値をSP2(J/cm0.5としたとき、以下の関係式(5)を満たすことが好ましい。下記の関係式(5)’を満たすことがより好ましい。
21.00 (J/cm0.5 ≦SP2 ・・・(5)
25.00 (J/cm0.5 ≦SP2 ・・・(5)’
ここで、SP値とは、溶解度パラメータ(soluble parameter)の略であり、溶解性の指標となる値である。算出方法については後述する。
なお、本発明におけるSP値の単位は、(J/cm0.5であるが、1(cal/cm0.5=2.045×10(J/cm0.5によって(cal/cm0.5の単位に換算することができる。
【0025】
上記関係式(5)を満足することで、第二のモノマーユニットが高極性となり、第一及び第二のモノマーユニット間に極性差が生じる。かかる極性差により、第一のモノマーユニットの結晶化が促進されることで、優れた低温定着性が得られる。具体的には、第一のモノマーユニットは、結晶性樹脂に組み込まれ、第一のモノマーユニット同士が集合することで結晶性を発現する。通常の場合、第一のモノマーユニットの結晶化は、他のモノマーユニットが組み込まれていると阻害されるため、結晶性樹脂として結晶性を発現しにくくなる。この傾向は、結晶性樹脂の一分子内において複数種のモノマーユニット同士がランダムに結合していると顕著になる。しかし、極性差を有する第一の重合性単量体及び第二の重合性単量体を使用することで、重合時に第一の重合性単量体と第二の重合性単量体がランダムに結合するのではなく、ある程度連続して結合できると考えられる。それにより、第一のモノマーユニット同士が集合したブロックが形成され、結晶性樹脂はブロック共重合体となり、他のモノマーユニットが組み込まれていても結晶性を高めることが可能となり、優れた低温定着性が得られる。さらに、高極性部位は紙がもつ極性基と擬似的な架橋構造を形成できるため、優れた耐擦過性が得られるため好ましい。
【0026】
【化6】
【0027】
(式中、Xは単結合又は炭素数1~6のアルキレン基を示し、
は、
ニトリル基(-C≡N)、
アミド基(-C(=O)NHR10(R10は水素原子、若しくは炭素数1~4のアルキル基を表す。))、
ヒドロキシ基、
-COOR31(R31は水素原子、炭素数1~6のアルキル基若しくは炭素数1~6のヒドロキシアルキル基を表す。)、
ウレア基(-NH-C(=O)-N(R33(R33はそれぞれ独立して、水素原子若しくは炭素数1~6のアルキル基を表す。))、
-COO(CHNHCOOR34(R34は炭素数1~4のアルキル基を表す。)、又は
-COO(CH-NH-C(=O)-N(R35(R35はそれぞれ独立して、水素原子若しくは炭素数1~6のアルキル基を表す。)
を表し、
は、水素原子又はメチル基を表す。)
【0028】
【化7】
【0029】
(式中、Rは、炭素数1~4のアルキル基を表し、
は、水素原子又はメチル基を表す。)
【0030】
第二のモノマーユニットとしては、具体的には、例えば以下に挙げる重合性単量体のうち、上記関係式(5)を満たす重合性単量体を用いることができる。
ニトリル基を有する単量体;例えば、アクリロニトリル、メタクリロニトリル等。
ヒドロキシ基を有する単量体;例えば、(メタ)アクリル酸-2-ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸-2-ヒドロキシプロピル等。
アミド基を有する単量体;例えば、アクリルアミド、炭素数1~30のアミンと、エチレン性不飽和結合を有する炭素数2~30のカルボン酸(アクリル酸及びメタクリル酸等)とを公知の方法で反応させた単量体。
【0031】
ウレア基を有する単量体:例えば炭素数3~22のアミン[1級アミン(ノルマルブチルアミン、t―ブチルアミン、プロピルアミン及びイソプロピルアミン等)、2級アミン(ジノルマルエチルアミン、ジノルマルプロピルアミン、ジノルマルブチルアミン等)、アニリン及びシクロキシルアミン等]と、エチレン性不飽和結合を有する炭素数2~30のイソシアネートとを公知の方法で反応させた単量体等。
カルボキシ基を有する単量体;例えば、メタクリル酸、アクリル酸、(メタ)アクリル酸-2-カルボキシエチル。
【0032】
なかでも、ニトリル基、アミド基、ヒドロキシ基、ウレア基を有する単量体を使用することが好ましい。より好ましくは、ニトリル基、アミド基、ヒドロキシ基、及びウレア基からなる群から選ばれる少なくとも1種の官能基とエチレン性不飽和結合とを有する単量体である。アクリロニトリル、メタクリロニトリルは特に好ましい。
【0033】
また、第二のモノマーユニットとして、以下のものも好ましく用いられる。酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル、カプロン酸ビニル、カプリル酸ビニル、カプリン酸ビニル、ラウリン酸ビニル、ミリスチン酸ビニル、パルミチン酸ビニル、ステアリン酸ビニル、ピバリン酸ビニル、オクチル酸ビニルといったビニルエステル類。なかでも、ビニルエステル類は、非共役モノマーであって前記第一の重合性単量体との反応性が適度に保たれやすく、重合体の結晶性をあげやすいため、優れた低温定着性が得られるという観点から好ましい。
第二のモノマーユニットの割合は、好ましくは10.0質量%~70.0質量%、より好ましくは30.0質量%~50.0質量%である。
【0034】
本発明に係る結晶性樹脂は、上述した第一のモノマーユニット、第二のモノマーユニットの質量比率を損ねない範囲で、上記関係式(5)の範囲に含まれない第三の重合性単量体に由来する第三のモノマーユニットを含んでいてもよい。第三の重合性単量体とは、第一の重合性単量体、及び第二の重合性単量体とは異なる重合性単量体を意味する。
第三の重合性単量体としては、上記第二の重合性単量体として例示した単量体のうち、上記関係式(5)を満たさない単量体を用いることができる。
【0035】
例えば、以下の単量体も用いることが可能である。
スチレン、o-メチルスチレンなどのスチレン及びその誘導体、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸-n-ブチル、(メタ)アクリル酸-t-ブチル、(メタ)アクリル酸-2-エチルヘキシルのような(メタ)アクリル酸エステル類。その中でも、第三の重合性単量体は、スチレンであることが好ましい。スチレンである場合、スチレンのもつ芳香環の立体障害により離型剤との相溶性を低下させる効果をもち、定着画像の表面に離型剤の層がより多く形成されるため、優れた耐擦過性が得られるという観点から好ましい。
第三のモノマーユニットの割合は、好ましくは5.0質量%~40.0質量%、より好ましくは10.0質量%~20.0質量%である。
【0036】
結晶性樹脂は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定されるTHF可溶分の重量平均分子量(Mw)が、10,000~200,000であることが好ましく、20,000~150,000であることがより好ましい。Mwが上記範囲内であることで、室温付近での弾性を維持しやすくなるため好ましい。なお、THFは、テトラヒドロフランを示す。
【0037】
結晶性樹脂の融点は、50℃~80℃であることが好ましく、53℃~70℃であることがより好ましい。結晶性樹脂の融点が上記範囲内であると、より優れた低温定着性を示す。結晶性樹脂の融点は、使用する第一の重合性単量体の種類や量、第二の重合性単量体の種類や量などによって調整可能である。
【0038】
結晶性樹脂は、ビニル重合体であることが好ましい。ビニル重合体は、例えば、エチレン性不飽和結合を含むモノマーの重合体が挙げられる。エチレン性不飽和結合とは、ラジカル重合することが可能な炭素-炭素二重結合を指し、例えば、ビニル基、プロペニル基、アクリロイル基、メタクリロイル基などが挙げられる。
【0039】
本発明に係る離型剤は、上記式(2)で表されるモノマーユニットを有するα-オレフィン重合体を含有している。上記式(2)中のRは炭素数18~36のアルキル基を表す。
【0040】
上記式(2)のモノマーユニットが、炭素数18~36のアルキル基を有する場合、該結晶性樹脂の結晶化を促進することで低温定着性に優れるとともに、両者の相互作用が顕著に現れるため、定着画像の表面に強固な層が形成され、優れた耐擦過性が得られる。
炭素数18~36のアルキル基を有するα―オレフィンとしては、以下のものが挙げられる。1-イコセン、1-ドコセン、1-テトラコセン、1-ヘキサコセン、1-オクタコセン、1-トリアコンテン、1-ドトリアコンテン、1-テトラトリアコンテン、1-ヘキサトリアコンテンなど。これらのα―オレフィンはそれぞれ単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0041】
本発明に係る離型剤は、「上記式(2)の炭素数18~36のアルキル基を有するα-オレフィンモノマーユニット」とは異なる「炭素数18未満のアルキル基を有するα-オレフィンモノマーユニット」を有することが好ましい。炭素数18~36のアルキル基を有するα―オレフィンモノマーユニットの間に炭素数が短いα-オレフィンモノマーユニットが存在することで、炭素数18~36のアルキル基を有するα―オレフィンモノマーユニット同士の絡み合いを抑制することができる。その結果、炭素数18~36のアルキル基を有するα-オレフィンモノマーユニットと該離型剤との相互作用がより促進され、低温定着性に優れるとともに、耐擦過性に優れる。炭素数18未満のアルキル基を有するα-オレフィンとしては、エチレン、1-ブテン、1-ヘキセン、1-オクテン、1-デセン、1-ドデセン、1-テトラデセン、1-ヘキサデセン、1-オクタデセンなどが挙げられる。
【0042】
本発明に係る離型剤は、示差走査熱量計(DSC)により測定される該α-オレフィン重合体由来の最大吸熱ピーク温度が、40℃~90℃である。最大吸熱ピーク温度が40℃~90℃である場合、定着画像の表面に離型剤の膜が十分に形成され、耐擦過性に優れる。最大吸熱ピーク温度は、50℃~80℃が好ましい。
【0043】
本発明に係る離型剤は、重量平均分子量Mwが1,000~10,000であることが好ましい。
重量平均分子量Mwが1,000~10,000である場合、該結晶性樹脂との相溶を抑制しつつ、定着画像の表面に離型剤の膜がより多く形成されるため、耐擦過性に優れる。離型剤の重量平均分子量Mwは3,000~8,000であることがより好ましい。
【0044】
本発明に係る離型剤の含有量は、該結晶性樹脂100質量部に対して、1.0質量部~20.0質量部であることが好ましい。
離型剤の含有量が、該結晶性樹脂100質量部に対して、1.0質量部~20.0質量部である場合、該結晶性樹脂の結晶性が促進され低温定着性が良好になるとともに、定着画像の表面に離型剤の膜がより多く形成され、耐擦過性に優れる。離型剤の含有量は、該結晶性樹脂100質量部に対して、5.0質量部~15.0質量部がより好ましい。
【0045】
上記式(1)中のRの炭素数に対する上記式(2)中のRの炭素数の比(Rの炭素数/Rの炭素数)は0.8~1.2であることが好ましい。該炭素数の比(Rの炭素数/Rの炭素数)が0.8~1.2である場合、該Rの炭素数と該Rの炭素数とがより近い値となり、該離型剤による該結晶性樹脂の結晶化がより促進され低温定着性が良好になるとともに、両者の相互作用がより強くなる。このため、定着画像の表面により強固な層が形成され、優れた耐擦過性が得られる。該炭素数の比(Rの炭素数/Rの炭素数)は0.9~1.1がより好ましい。
【0046】
本発明に係る離型剤は、式(2)で表されるモノマーユニットの割合が、該離型剤中の全モノマーユニットに対して、50質量%以上であることが好ましい。該式(2)で表されるモノマーユニットの割合が50質量%以上である場合、該結晶性樹脂の結晶化がより促進され低温定着性が良好になるとともに、両者の相互作用がより強くなるため、定着画像の表面により強固な層が形成され、優れた耐擦過性が得られる。
なお、離型剤が、2種以上の式(2)で表されるモノマーユニットを含有する場合、式(2)で表されるモノマーユニットの含有割合は、それら2種以上のモノマーユニットの合計の質量比率を表す。
【0047】
<その他の樹脂>
本発明に係るトナーの結着樹脂には、顔料分散性を向上させるなどの目的により、必要に応じて該結晶性樹脂以外の樹脂を含有することもできる。
本発明に係るトナーの結着樹脂に用いられる該結晶性樹脂以外の樹脂としては、例えば以下の樹脂が挙げられる。ポリスチレン、ポリ-p-クロルスチレン、ポリビニルトルエンなどのスチレン及びその置換体の単重合体;スチレン-p-クロルスチレン共重合体、スチレン-ビニルトルエン共重合体、スチレン-ビニルナフタリン共重合体、スチレン-アクリル酸エステル共重合体、スチレン-メタクリル酸エステル共重合体、スチレン-α-クロルメタクリル酸メチル共重合体、スチレン-アクリロニトリル共重合体、スチレン-ビニルメチルエーテル共重合体、スチレン-ビニルエチルエーテル共重合体、スチレン-ビニルメチルケトン共重合体、スチレン-アクリロニトリル-インデン共重合体などのスチレン系共重合体;ポリ塩化ビニル、フェノール樹脂、天然変性フェノール樹脂、天然樹脂変性マレイン酸樹脂、アクリル樹脂、メタクリル樹脂、ポリ酢酸ビニル、シリコーン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリウレタン、ポリアミド樹脂、フラン樹脂、エポキシ樹脂、キシレン樹脂、ポリビニルブチラール、テルペン樹脂、クマロン-インデン樹脂、石油系樹脂等が挙げられる。
これらの中でもスチレン系共重合体やポリエステル樹脂が好ましい。また、非晶性であることが好ましい。
【0048】
<その他の離型剤>
本発明に係るトナーには、必要に応じて、本発明に係る離型剤以外の離型剤を含有することもできる。本発明に係るトナーに用いられる前記離型剤以外の離型剤としては、例えば以下の離型剤が挙げられる。マイクロクリスタリンワックス、パラフィンワックス、フィッシャートロプシュワックスの如き炭化水素系ワックス;酸化ポリエチレンワックスの如き炭化水素系ワックスの酸化物又はそれらのブロック共重合物;カルナバワックスの如き脂肪酸エステルを主成分とするワックス類;脱酸カルナバワックスの如き脂肪酸エステル類を一部又は全部を脱酸化したもの。さらに、以下のものが挙げられる。パルミチン酸、ステアリン酸、モンタン酸の如き飽和直鎖脂肪酸類;ブラシジン酸、エレオステアリン酸、パリナリン酸の如き不飽和脂肪酸類;ステアリルアルコール、アラルキルアルコール、ベヘニルアルコール、カルナウビルアルコール、セリルアルコール、メリシルアルコールの如き飽和アルコール類;ソルビトールの如き多価アルコール類;パルミチン酸、ステアリン酸、ベヘン酸、モンタン酸の如き脂肪酸類と、ステアリルアルコール、アラルキルアルコール、ベヘニルアルコール、カルナウビルアルコール、セリルアルコール、メリシルアルコールの如きアルコール類とのエステル類;リノール酸アミド、オレイン酸アミド、ラウリン酸アミドの如き脂肪酸アミド類;メチレンビスステアリン酸アミド、エチレンビスカプリン酸アミド、エチレンビスラウリン酸アミド、ヘキサメチレンビスステアリン酸アミドの如き飽和脂肪酸ビスアミド類;エチレンビスオレイン酸アミド、ヘキサメチレンビスオレイン酸アミド、N,N’ジオレイルアジピン酸アミド、N,N’ジオレイルセバシン酸アミドの如き不飽和脂肪酸アミド類;m-キシレンビスステアリン酸アミド、N,N’ジステアリルイソフタル酸アミドの如き芳香族系ビスアミド類;ステアリン酸カルシウム、ラウリン酸カルシウム、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸マグネシウムの如き脂肪族金属塩(一般に金属石けんといわれているもの);脂肪族炭化水素系ワックスにスチレンやアクリル酸の如きビニル系モノマーを用いてグラフト化させたワックス類;ベヘニン酸モノグリセリドの如き脂肪酸と多価アルコールの部分エステル化物;植物性油脂の水素添加によって得られるヒドロキシル基を有するメチルエステル化合物が挙げられる。その他の離型剤の含有量は、本発明に係る離型剤の添加量に対して、40.0質量部以下であることが好ましい。
【0049】
<着色剤>
本発明に係るトナー粒子は、必要に応じて着色剤を含有していてもよい。着色剤としては、以下のものが挙げられる。
黒色着色剤としては、カーボンブラック;イエロー着色剤とマゼンタ着色剤及びシアン着色剤とを用いて黒色に調色したものが挙げられる。着色剤には、顔料を単独で使用してもかまわないが、染料と顔料とを併用してその鮮明度を向上させた方がフルカラー画像の画質の点からより好ましい。
【0050】
マゼンタトナー用顔料としては、以下のものが挙げられる。C.I.ピグメントレッド1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、21、22、23、30、31、32、37、38、39、40、41、48:2、48:3,48:4、49、50、51、52、53、54、55、57:1、58、60、63、64、68、81:1、83、87、88、89、90、112、114、122、123、146、147、150、163、184、202、206、207、209、238、269、282;C.I.ピグメントバイオレット19;C.I.バットレッド1、2、10、13、15、23、29、35。
【0051】
マゼンタトナー用染料としては、以下のものが挙げられる。C.I.ソルベントレッド1、3、8、23、24、25、27、30、49、81、82、83、84、100、109、121;C.I.ディスパースレッド9;C.I.ソルベントバイオレット8、13、14、21、27;C.I.ディスパーバイオレット1のような油溶染料、C.I.ベーシックレッド1、2、9、12、13、14、15、17、18、22、23、24、27、29、32、34、35、36、37、38、39、40;C.I.ベーシックバイオレット1、3、7、10、14、15、21、25、26、27、28のような塩基性染料。
【0052】
シアントナー用顔料としては、以下のものが挙げられる。C.I.ピグメントブルー2、3、15:2、15:3、15:4、16、17;C.I.バットブルー6;C.I.アシッドブルー45、フタロシアニン骨格にフタルイミドメチル基を1~5個置換した銅フタロシアニン顔料。
【0053】
シアントナー用染料としては、C.I.ソルベントブルー70がある。
イエロートナー用顔料としては、以下のものが挙げられる。C.I.ピグメントイエロー1、2、3、4、5、6、7、10、11、12、13、14、15、16、17、23、62、65、73、74、83、93、94、95、97、109、110、111、120、127、128、129、147、151、154、155、168、174、175、176、180、181、185;C.I.バットイエロー1、3、20。
イエロートナー用染料としては、C.I.ソルベントイエロー162がある。
【0054】
これらの着色剤は、単独又は混合して、さらには固溶体の状態で用いることができる。着色剤は、色相角、彩度、明度、耐光性、OHP透明性、及びトナーへの分散性の点から選択される。
着色剤の含有量は、樹脂成分の総量に対して0.1質量部~30.0質量部であることが好ましい。
【0055】
<荷電制御剤>
本発明に係るトナー粒子は、必要に応じて荷電制御剤を含有してもよい。荷電制御剤を配合することにより、荷電特性を安定化、現像システムに応じた最適の摩擦帯電量のコントロールが可能となる。
荷電制御剤としては、公知のものが利用できるが、特に、無色でトナーの帯電スピードが速く、且つ一定の帯電量を安定して保持できる、芳香族カルボン酸の金属化合物が好ましい。
【0056】
ネガ系荷電制御剤としては、以下のものが挙げられる。サリチル酸金属化合物、ナフトエ酸金属化合物、ジカルボン酸金属化合物。スルホン酸又はカルボン酸を側鎖に持つ高分子型化合物、スルホン酸塩或いはスルホン酸エステル化物を側鎖に持つ高分子型化合物、カルボン酸塩或いはカルボン酸エステル化物を側鎖に持つ高分子型化合物。ホウ素化合物、尿素化合物、ケイ素化合物、カリックスアレーン。
荷電制御剤はトナー粒子に対して内添してもよいし、外添してもよい。荷電制御剤の含有量は、結着樹脂100質量部に対し、0.2質量部~10.0質量部が好ましく、0.5質量部~10.0質量部がより好ましい。
【0057】
<無機微粒子>
本発明に係るトナーは、必要に応じて無機微粒子を含有してもよい。
無機微粒子は、トナー粒子に内添してもよいし、外添剤としてトナーと混合してもよい。無機微粒子としては、シリカ微粒子、酸化チタン微粒子、アルミナ微粒子又はそれらの複酸化物微粒子のような微粒子が挙げられる。無機微粒子の中でもシリカ微粒子及び酸化チタン微粒子が、流動性改良及び帯電均一化のために好ましい。
無機微粒子は、シラン化合物、シリコーンオイル又はそれらの混合物のような疎水化剤で疎水化されていることが好ましい。
流動性を向上させる観点からは、外添剤としての無機微粒子は、比表面積が50m/g~400m/gであることが好ましい。また、耐久安定性を向上させる観点からは、外添剤としての無機微粒子は、比表面積が10m/g~50m/gであることが好ましい。流動性向上と耐久安定性とを両立させるために、比表面積が上記範囲の無機微粒子を併用してもよい。
外添剤の含有量は、トナー粒子100質量部に対して、0.1質量部~10.0質量部であることが好ましい。トナー粒子と外添剤との混合は、ヘンシェルミキサーのような公知の混合機を用いることができる。
【0058】
<現像剤>
本発明に係るトナーは、一成分系現像剤としても使用できるが、長期にわたり安定した画像が得られるという点で、磁性キャリアと混合して二成分系現像剤として用いることがより好ましい。
磁性キャリアとしては、例えば、以下の公知のものを使用できる。表面を酸化した鉄粉、或いは、未酸化の鉄粉や、鉄、リチウム、カルシウム、マグネシウム、ニッケル、銅、亜鉛、コバルト、マンガン、希土類の如き金属粒子、それらの合金粒子、酸化物粒子。フェライト等の磁性体や、磁性体と、この磁性体を分散した状態で保持するバインダー樹脂とを含有する磁性体分散樹脂キャリア(いわゆる樹脂キャリア)等。
本発明に係るトナーを磁性キャリアと混合して二成分系現像剤として使用する場合、その際のキャリア混合比率は、二成分系現像剤中のトナー濃度として、好ましくは2.0質量%~15.0質量%、より好ましくは4.0質量%~13.0質量%である。かかる範囲内にすると通常良好な結果が得られる。
【0059】
<トナーの製造方法>
本発明に係るトナーについては、その製造方法は特に制限されず、粉砕法、懸濁重合法、溶解懸濁法、乳化凝集法、分散重合法などの公知の方法を用いることができる。
以下、粉砕法でのトナー製造手順について説明する。
原料混合工程では、トナー粒子を構成する材料として、例えば、結着樹脂、ワックス、着色剤、必要に応じて荷電制御剤等の他の成分を所定量秤量して配合し、混合する。混合装置の一例としては、ダブルコン・ミキサー、V型ミキサー、ドラム型ミキサー、スーパーミキサー、ヘンシェルミキサー、ナウタミキサ、メカノハイブリッド(日本コークス工業(株)製)などが挙げられる。
【0060】
次に、混合した材料を溶融混練して、結着樹脂中にワックス等を分散させる。その溶融混練工程では、加圧ニーダー、バンバリィミキサーの如きバッチ式練り機や、連続式の練り機を用いることができ、連続生産できる優位性から、1軸又は2軸押出機が主流となっている。例えば、KTK型2軸押出機(神戸製鋼所社製)、TEM型2軸押出機(東芝機械社製)、PCM混練機(池貝鉄工製)、2軸押出機(ケイ・シー・ケイ社製)、コ・ニーダー(ブス社製)、ニーデックス(日本コークス工業(株)製)などが挙げられる。更に、溶融混練することによって得られる樹脂組成物は、2本ロール等で圧延され、冷却工程で水などによって冷却してもよい。
【0061】
ついで、樹脂組成物の冷却物は、粉砕工程で所望の粒径にまで粉砕される。粉砕工程では、例えば、クラッシャー、ハンマーミル、フェザーミルの如き粉砕機で粗粉砕する。その後、更に、例えば、クリプトロンシステム(川崎重工業社製)、スーパーローター(日清エンジニアリング社製)、ターボ・ミル(ターボ工業製)やエアージェット方式による微粉砕機で微粉砕する。
【0062】
その後、必要に応じて以下のような分級機や篩分機を用いて分級する。
慣性分級方式のエルボージェット(日鉄鉱業社製)、遠心力分級方式のターボプレックス(ホソカワミクロン社製)、TSPセパレータ(ホソカワミクロン社製)、ファカルティ(ホソカワミクロン社製)。
【0063】
更に必要に応じて、トナー粒子の表面に外添剤が外添処理される。外添剤を外添処理する方法としては、分級されたトナーと公知の各種外添剤を所定量配合し、以下のような混合装置を外添機として用いて、撹拌・混合する方法が挙げられる。
ダブルコン・ミキサー、V型ミキサー、ドラム型ミキサー、スーパーミキサー、ヘンシェルミキサー、ナウタミキサ、メカノハイブリッド(日本コークス工業(株)製)、ノビルタ(ホソカワミクロン(株)製)等。
トナー粒子及び原材料の各種物性の測定方法について以下に説明する。
【0064】
<トナーからの各材料の分離方法>
トナーに含まれる各材料の溶剤への溶解度の差を利用して、トナーから各材料を分離することができる。
第一分離:100℃のMEK(メチルエチルケトン)にトナー(結晶性樹脂、ワックス、着色剤、無機微粒子など)を溶解させ、可溶分(結晶性樹脂、ワックス)と不溶分(着色剤、無機微粒子など)を分離する。
第二分離:23℃のクロロホルムに、第一分離で得られた可溶分(結晶性樹脂、ワックス)を溶解させ、可溶分(結晶性樹脂)と不溶分(ワックス)を分離する。
【0065】
<結晶性樹脂中の各種重合性単量体に由来するモノマーユニットの割合の測定方法>
結晶性樹脂中の各種重合性単量体に由来するモノマーユニットの含有割合の測定は、H-NMRにより以下の条件にて行う。
測定装置 :FT NMR装置 JNM-EX400(日本電子社製)
測定周波数:400MHz
パルス条件:5.0μs
周波数範囲:10500Hz
積算回数 :64回
測定温度 :30℃
試料 :測定試料50mgを内径5mmのサンプルチューブに入れ、溶媒として重クロロホルム(CDCl)を添加し、これを40℃の恒温槽内で溶解させて調製する。
【0066】
得られたH-NMRチャートより、例えば、重合体においては、第一の重合性単量体に由来するモノマーユニットの構成要素に帰属されるピークの中から、他に由来するモノマーユニットの構成要素に帰属されるピークとは独立したピークを選択する。そして、この選択したピークの積分値Sを算出する。
【0067】
同様に、第二の重合性単量体に由来するモノマーユニットの構成要素に帰属されるピークの中から、他に由来するモノマーユニットの構成要素に帰属されるピークとは独立したピークを選択し、この選択したピークの積分値Sを算出する。
さらに、第三の重合性単量体を使用している場合は、第三の重合性単量体に由来するモノマーユニットの構成要素に帰属されるピークの中から、他に由来するモノマーユニットの構成要素に帰属されるピークとは独立したピークを選択する。そして、この選択したピークの積分値Sを算出する。
【0068】
第一の重合性単量体に由来するモノマーユニットの含有割合は、上記積分値S、S及びSを用いて、以下のようにして求める。なお、n、n2、はそれぞれの部位について着眼したピークが帰属される構成要素における水素の数である。
第一の重合性単量体に由来するモノマーユニットの含有割合(モル%)=
{(S/n)/((S/n)+(S/n)+(S/n))}×100
同様に、第二の重合性単量体、第三の重合性単量体に由来するモノマーユニットの含有割合は以下のように求める。
第二の重合性単量体に由来するモノマーユニットの含有割合(モル%)=
{(S/n)/((S/n)+(S/n)+(S/n))}×100
第三の重合性単量体に由来するモノマーユニットの含有割合(モル%)=
{(S/n)/((S/n)+(S/n)+(S/n))}×100
なお、重合体Aにおいて、ビニル基以外の構成要素に水素原子が含まれない重合性単量体が使用されている場合は、13C-NMRを用いて測定原子核を13Cとし、シングルパルスモードにて測定を行い、H-NMRにて同様にして算出する。
【0069】
<SP値算出方法>
結晶性樹脂の各種重合性単量体に由来するモノマーユニットのSP値は、Fedorsによって提案された算出方法に従い、以下のようにして求める。
それぞれの分子構造中の原子又は原子団に対して、「polym.Eng.Sci.,14(2),147-154(1974)」に記載の表から蒸発エネルギー(Δei)(cal/mol)及びモル体積(Δvi)(cm/mol)を求め、(4.184×ΣΔei/ΣΔvi)0.5をSP値(J/cm0.5とする。
【0070】
<GPCによる結晶性樹脂の重量平均分子量測定>
結晶性樹脂のTHF可溶分の分子量(Mw)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により、以下のようにして測定する。
まず、室温で24時間かけて、トナーをテトラヒドロフラン(THF)に溶解する。そして、得られた溶液を、ポア径が0.2μmの耐溶剤性メンブランフィルター「マイショリディスク」(東ソー社製)で濾過してサンプル溶液を得る。なお、サンプル溶液は、THFに可溶な成分の濃度が約0.8質量%となるように調整する。このサンプル溶液を用いて、以下の条件で測定する。
装置:HLC8120 GPC(検出器:RI)(東ソー社製)
カラム:Shodex KF-801、802、803、804、805、806、807の7連(昭和電工社製)
溶離液:テトラヒドロフラン(THF)
流速:1.0mL/min
オーブン温度:40.0℃
試料注入量:0.10mL
試料の分子量の算出にあたっては、標準ポリスチレン樹脂(例えば、商品名「TSKスタンダード ポリスチレン F-850、F-450、F-288、F-128、F-80、F-40、F-20、F-10、F-4、F-2、F-1、A-5000、A-2500、A-1000、A-500」、東ソー社製)を用いて作成した分子量校正曲線を使用する。
【0071】
<GPCによる離型剤の重量平均分子量測定>
離型剤の重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により、以下のようにして測定する。ゲルクロマトグラフ用のo-ジクロロベンゼンに、特級2,6-ジ-t-ブチル-4-メチルフェノール(BHT)を濃度が0.10質量/体積%となるように添加し、室温で溶解する。
サンプルビンに離型剤と上記のBHTを添加したo-ジクロロベンゼンとを入れ、150℃に設定したホットプレート上で加熱し、離型剤を溶解する。離型剤が溶けたら、予め加熱しておいたフィルターユニットに入れ、本体に設置する。フィルターユニットを通過させたものをGPCサンプルとする。なお、サンプル溶液は、濃度が0.15質量%となるように調整する。このサンプル溶液を用いて、以下の条件で測定する。
【0072】
・装置:HLC-8121GPC/HT(東ソー社製)
・検出器:高温用RI
・カラム:TSKgel GMHHR-H HT 2連(東ソー社製)
・温度:135.0℃
・溶媒:ゲルクロマトグラフ用o-ジクロロベンゼン(BHT 0.10質量/体積%添加)
・流速:1.0mL/min
・注入量:0.4mL
離型剤の分子量の算出にあたっては、標準ポリスチレン樹脂(例えば、商品名「TSKスタンダード ポリスチレン F-850、F-450、F-288、F-128、F-80、F-40、F-20、F-10、F-4、F-2、F-1、A-5000、A-2500、A-1000、A-500」、東ソー社製)を用いて作成した分子量校正曲線を使用する。
【0073】
<結晶性樹脂の示差走査型熱量測定法(DSC)により測定される吸熱ピークのピークトップ温度測定方法>
<離型剤の示差走査型熱量測定法(DSC)により測定される吸熱ピークのピークトップ温度測定方法>
結晶性樹脂の示差走査型熱量測定法(DSC)により測定される吸熱ピークのピークトップ温度及び、離型剤の示差走査型熱量測定法(DSC)により測定される吸熱ピークのピークトップ温度は、ASTM D3418-82に準じて測定する。測定装置としては、示差走査熱量分析装置「Q2000」(TA Instruments社製)を用いる。
装置検出部の温度補正はインジウムと亜鉛の融点を用い、熱量の補正についてはインジウムの融解熱を用いる。
【0074】
具体的には、試料約3mgを精秤し、アルミニウム製のパンの中に入れ、リファレンスとして空のアルミニウム製のパンを用いて、以下の条件で測定する。
昇温速度:10℃/min
測定開始温度:30℃
測定終了温度:180℃
測定範囲30~180℃の間で、昇温速度10℃/minで測定を行う。一度180℃まで昇温させ10分間保持し、続いて30℃まで降温し、その後に再度昇温を行う。この2度目の昇温過程で、温度30℃~80℃の範囲における温度―吸熱量曲線から、結晶性樹脂及び離型剤のピークトップ温度を算出する。
【実施例
【0075】
以上、本発明の基本的な構成と特色について述べたが、以下、実施例に基づいて具体的に本願発明について説明する。しかしながら、本発明は何らこれに限定されるものではない。なお、特に断りのない限り部及び%は、質量基準である。
【0076】
<結晶性樹脂1の製造例>
・溶媒:トルエン 100.0部
・単量体組成物 100.0部
(単量体組成物は以下のアクリル酸ベヘニル・アクリロニトリル・スチレンを以下に示す割合で混合したものとする)
・アクリル酸ベヘニル(第一の重合性単量体): 50.00部
・アクリロニトリル(第二の重合性単量体): 35.00部
・スチレン(第三の重合性単量体): 15.00部
・重合開始剤 t-ブチルパーオキシピバレート(日油社製:パーブチルPV):0.5部
【0077】
還流冷却管、撹拌機、温度計、窒素導入管を備えた反応容器に、窒素雰囲気下、上記材料を投入した。反応容器内を200rpmで撹拌しながら、70℃に加熱して12時間重合反応を行い、単量体組成物の重合体がトルエンに溶解した溶解液を得た。続いて、上記溶解液を25℃まで降温した後、1000.0部のメタノール中に上記溶解液を撹拌しながら投入し、メタノール不溶分を沈殿させた。得られたメタノール不溶分をろ別し、さらにメタノールで洗浄後、40℃で24時間減圧乾燥して結晶性樹脂1を得た。結晶性樹脂1の重量平均分子量は67,100、温度―吸熱量曲線のピークトップ温度(吸熱ピーク温度)は62℃であった。
【0078】
<結晶性樹脂2~結晶性樹脂9の製造例>
結晶性樹脂1の製造例において、それぞれの重合性単量体及び部数を表1に示すように変更した以外は同様にして反応を行い、結晶性樹脂2~結晶性樹脂9を得た。
【0079】
【表1】
【0080】
表1中の略号は以下のとおり。
BEA:ベヘニルアクリレート CH=CH-C(=O)-O(CH21CH
MYA:ミリシルアクリレート CH=CH-C(=O)-O(CH29CH
OA:オクタコサアクリレート CH=CH-C(=O)-O(CH27CH
SA:ステアリルアクリレート CH=CH-C(=O)-O(CH17CH
HA:ヘキサデシルアクリレートCH=CH-C(=O)-O(CH15CH
AN:アクリロニトリル CH=CH-CN
MN:メタクリロニトリル CH=C(-CH)-CN
VA:酢酸ビニル CH=CH-O-C(=O)-CH
St:スチレン CH=CH-C
【0081】
<離型剤1の製造例>
・溶媒:トルエン 100.0部
・1-ドコセン 85.0部
・1-ブテン 15.0部
加熱乾燥したオートクレーブに、水素雰囲気下、上記材料及び、下記材料を加え、160℃で180分間重合した。
トリイソブチルアルミニウム 0.5mmol
(1,2’-ジメチルシリレン)(2,1’―ジメチルシリレン)ビス(3-トリメチルシリルメチルインデニル)ジルコニウムジクロライド 2μmol
ジメチルアニリニウムテトラキスペンタフルオロフェニルボレート 8μmol
重合反応終了後、沈殿した反応物を25℃で分離し、アセトンにて洗浄した後、加熱・減圧下で、乾燥処理することにより、離型剤1を得た。離型剤1の重量平均分子量は5,000、温度―吸熱量曲線のピークトップ温度は58℃であった。
【0082】
<離型剤2~離型剤18の製造例>
離型剤1の製造例において、それぞれの重合性単量体及び部数を表2となるように変更した以外は同様にして反応を行い、離型剤2~離型剤18を得た。
【0083】
【表2】
【0084】
<トナー1の製造例>
・結晶性樹脂1 100.0質量部
・離型剤1 10.0質量部
・C.I.ピグメントブルー15:3 9.0質量部
該処方で示した原材料をヘンシェルミキサー(FM75J型、三井三池化工機(株)製)を用いて、回転数20s-1、回転時間5minで混合した後、温度130℃、バレル回転数200rpmに設定した二軸混練機(PCM-30型、(株)池貝製)にて混練した。得られた混練物を冷却し、ハンマーミルにて1mm以下に粗粉砕し、粗砕物を得た。得られた粗砕物を、機械式粉砕機(T-250、ターボ工業(株)製)にて微粉砕した。さらに回転型分級機(200TSP、ホソカワミクロン社製)を用い、分級を行い、トナー粒子1を得た。
得られたトナー粒子1’の100.0質量部に、疎水性シリカ(BET:200m/g)2.0部をヘンシェルミキサー(FM75J型、三井三池化工機(株)製)で回転数30s-1、回転時間5minで混合し、目開き54μmの超音波振動篩を通過させトナー1を得た。
【0085】
<トナー2~30の製造例>
トナー1の製造例において、結晶性樹脂1及び離型剤1の種類及び量を表3に記載のものに変更した以外は同様にして製造し、トナー2~30を得た。
【0086】
【表3】
【0087】
<磁性コア粒子の製造例>
(工程1:秤量・混合工程)
・Fe 62.7質量部
・MnCO 29.5質量部
・Mg(OH) 6.8質量部
・SrCO 1.0質量部
上記材料を上記組成比となるようにフェライト原材料を秤量した。その後、直径1/8インチのステンレスビーズを用いた乾式振動ミルで5時間粉砕・混合した。
【0088】
・工程2(仮焼成工程):
得られた粉砕物をローラーコンパクターにて、約1mm角のペレットにした。このペレットを目開き3mmの振動篩にて粗粉を除去し、次いで目開き0.5mmの振動篩にて微粉を除去した。その後、バーナー式焼成炉を用いて、窒素雰囲気下(酸素濃度0.01体積%)で、温度1,000℃で4時間焼成し、仮焼フェライトを作製した。得られた仮焼フェライトの組成は、下記のとおりである。
(MnO)a(MgO)b(SrO)c(Fe)d
上記式において、a=0.257、b=0.117、c=0.007、d=0.393
【0089】
(工程3:粉砕工程)
クラッシャーで0.3mm程度に粉砕した後に、直径1/8インチのジルコニアビーズを用い、仮焼フェライト100質量部に対し、水を30質量部加え、湿式ボールミルで1時間粉砕した。そのスラリーを、直径1/16インチのアルミナビーズを用いた湿式ボールミルで4時間粉砕し、フェライトスラリー(仮焼フェライトの微粉砕品)を得た。
(工程4:造粒工程)
フェライトスラリーに、仮焼フェライト100質量部に対して分散剤としてポリカルボン酸アンモニウム1.0質量部、バインダーとしてポリビニルアルコール2.0質量部を添加した。そして、スプレードライヤー(製造元:大川原化工機(株))を用いて、球状粒子に造粒した。得られた粒子を粒度調整した後、ロータリーキルンを用いて、温度650℃で2時間加熱し、分散剤やバインダーの有機成分を除去した。
【0090】
(工程5:焼成工程)
焼成雰囲気をコントロールするために、電気炉にて窒素雰囲気下(酸素濃度1.00体積%)で、室温から温度1,300℃まで2時間で昇温し、その後、温度1,150℃で4時間焼成した。その後、4時間をかけて、温度60℃まで降温し、窒素雰囲気から大気に戻し、温度40℃以下で取り出した。
(工程6:選別工程)
凝集した粒子を解砕した後に、磁力選鉱により低磁力品をカットし、目開き250μmの篩で篩分して粗大粒子を除去し、体積分布基準のメジアン径が37.0μmの磁性コア粒子1を得た。
【0091】
[被覆樹脂の調製]
・シクロヘキシルメタクリレートモノマー 26.8質量%
・メチルメタクリレートモノマー 0.2質量%
・メチルメタクリレートマクロモノマー 8.4質量%
(片末端にメタクリロイル基を有する重量平均分子量5,000のマクロモノマー)
・トルエン 31.3質量%
・メチルエチルケトン 31.3質量%
・アゾビスイソブチロニトリル 2.0質量%
【0092】
上記材料のうち、シクロヘキシルメタクリレート、メチルメタクリレート、メチルメタクリレートマクロモノマー、トルエン、メチルエチルケトンを、還流冷却器、温度計、窒素導入管及び攪拌装置を取り付けた四つ口のセパラブルフラスコに入れた。そして、窒素ガスを導入して窒素ガスで系内を置換した。その後、温度80℃まで加温し、アゾビスイソブチロニトリルを添加して5時間還流し重合させた。得られた反応物にヘキサンを注入して共重合体を沈殿析出させ、沈殿物を濾別後、減圧乾燥して被覆樹脂1を得た。得られた被覆樹脂1 30質量部を、トルエン 40質量部、メチルエチルケトン 30質量部に溶解させて、重合体溶液1(固形分30質量%)を得た。
【0093】
[被覆樹脂溶液の調製]
・重合体溶液1(樹脂固形分濃度30%) 33.3質量%
・トルエン 66.4質量%
・カーボンブラック 0.3質量%
(一次粒径25nm、窒素吸着比表面積94m/g、DBP吸油量75mL/100g)
上記材料を、直径0.5mmのジルコニアビーズを用いて、ペイントシェーカーで1時間分散を行った。得られた分散液を、5.0μmのメンブランフィルターで濾過を行い、被覆樹脂溶液1を得た。
【0094】
[磁性キャリアの製造例]
(樹脂被覆工程)
常温で維持されている減圧脱気型ニーダーに被覆樹脂溶液1をフェライト粒子1の100質量部に対して樹脂成分として2.5質量部になるように投入した。投入後、回転速度30rpmで15分間撹拌し、溶媒が一定以上(80質量%)揮発した後、減圧混合しながら温度80℃まで昇温し、2時間かけてトルエンを留去した後冷却した。得られた磁性キャリアを、磁力選鉱により低磁力品を分別し、開口70μmの篩を通した後、風力分級器で分級し、体積分布基準のメジアン径が38.2μmの磁性キャリア1を得た。
【0095】
<二成分系現像剤1~30の製造例>
該トナー1~39と磁性キャリア1(個数平均粒径35μm)とで、トナー濃度が9質量%になるようにV型混合機(V-10型:(株)徳寿工作所)で0.5s-1、5分間で混合し、二成分系現像剤1~30を得た。
【0096】
<トナー評価>
画像形成装置として、キヤノン(株)製フルカラー複写機imagePRESS C800改造機を用い、シアン色用のプロセスカートリッジのステーションの現像器に二成分系現像剤1を入れた。装置の改造点としては、定着温度、プロセススピード、現像剤担持体の直流電圧VDC、静電潜像担持体の帯電電圧V、及び、レーザーパワーを自由に設定できるように変更した。画像出力評価は、所望の画像比率の画像を出力し、紙上における画像上のトナーの載り量が所望になるようにVDC、V、及びレーザーパワーを調整して、後述の評価を行った。
FFhとは、256階調を16進数で表示した値であり、00hが256階調の1階調目(白地部)であり、FFhが256階調の256階調目(ベタ部)である。
以下の評価方法に基づいて評価し、その結果を表4に示す。
【0097】
[低温定着性]
紙:mondiカラーコピー紙(300.0g/m
(mondi社より販売)
紙上のトナーの載り量:0.90mg/cm(FFh画像)

(現像剤担持体の直流電圧VDC、静電潜像担持体の帯電電圧V、及びレーザーパワーにより調整)
評価画像:上記A4用紙の中心に2cm×5cmの画像を配置
試験環境:低温低湿環境:温度15℃/相対湿度10%(以下「L/L」)
定着温度:170℃
プロセススピード:348mm/sec
【0098】
上記評価画像を出力し、低温定着性を評価した。画像濃度低下率の値を低温定着性の評価指標とした。
画像濃度低下率は、X-Riteカラー反射濃度計(500シリーズ:X-Rite社製)を用い、先ず、中心部の画像濃度を測定する。次に、画像濃度を測定した部分に対し、4.9kPa(50g/cm)の荷重をかけてシルボン紙により定着画像を摩擦(5往復)し、画像濃度を再度測定する。
そして、下記式を用いて摩擦前後での画像濃度の低下率を算出した。得られた画像濃度の低下率を下記の評価基準に従って評価した。評価がA~Hであれば、本発明の効果が得られているものと判断した。
画像濃度の低下率=(摩擦前の画像濃度-摩擦後の画像濃度)/摩擦前の画像濃度×100
【0099】
(評価基準)
A:画像濃度の低下率1.0%未満
B:画像濃度の低下率1.0%以上、2.0%未満
C:画像濃度の低下率2.0%以上、3.0%未満
D:画像濃度の低下率3.0%以上、4.0%未満
E:画像濃度の低下率4.0%以上、5.0%未満
F:画像濃度の低下率5.0%以上、6.0%未満
G:画像濃度の低下率6.0%以上、7.0%未満
H:画像濃度の低下率7.0%以上、8.0%未満
I:画像濃度の低下率8.0%以上、9.0%未満
J:画像濃度の低下率9.0%以上、10.0%未満
K:画像濃度の低下率10.0%以上
【0100】
[耐擦過性]
紙:OKトップコートマットN157(157.0g/m
(王子製紙(株)より販売、コート材料に炭酸カルシウムを使用)
紙上のトナーの載り量:0.05mg/cm(2Fh画像)
(現像剤担持体の直流電圧VDC、静電潜像担持体の帯電電圧V、及びレーザーパワーにより調整)
評価画像:上記A4用紙の中心に3cm×15cmの画像を配置
定着試験環境:常温常湿環境(温度23℃/相対湿度50%(以下N/N))
定着温度:180℃
プロセススピード:348mm/sec
【0101】
上記評価画像を出力し、耐擦過性を評価した。反射率の差分の値を耐擦過性の評価指標とした。
先ず、評価画像の画像部に対し、学振型摩擦堅牢度試験機(AB-301:テスター産業(株)製)を用い、1.0kgfの荷重をかけて、新品の評価紙により摩擦(10往復)する。その後、リフレクトメータ(REFLECTOMETER MODEL TC-6DS:(有)東京電色製)を用い、新品の評価紙の摩擦を行った部分の反射率と、摩擦を行っていない部分の反射率を測定する。
そして、下記式を用いて摩擦前後での反射率の差分を算出した。得られた反射率の差分を下記の評価基準に従って評価した。評価がA~Lであれば、本発明の効果が得られているものと判断した。
反射率の差分=摩擦を行っていない部分の反射率-摩擦を行った部分の反射率
【0102】
(評価基準)
A:1.0%未満
B:1.0%以上、2.0%未満
C:2.0%以上、3.0%未満
D:3.0%以上、4.0%未満
E:4.0%以上、5.0%未満
F:5.0%以上、6.0%未満
G:6.0%以上、7.0%未満
H:7.0%以上、8.0%未満
I:8.0%以上、9.0%未満
J:9.0%以上、10.0%未満
K:10.0%以上、11.0%未満
L:11.0%以上、12.0%未満
M:12.0%以上、13.0%未満
N:13.0%以上、14.0%未満
O:14.0%以上
【0103】
二成分系現像剤2~30についても二成分系現像剤1と同様の評価を行った。結果を表4に示す。
【0104】
【表4】
【0105】
[比較例1]
比較例1で用いたトナー28は、該離型剤のアルキル基の炭素数が大きく、最大吸熱ピーク温度が92℃と高いトナーである。
【0106】
[比較例2]
比較例2で用いたトナー29は、該結晶性樹脂中の第一のモノマーユニットの割合が28質量%と低いトナーである。
【0107】
[比較例3]
比較例3で用いたトナー30は、該結晶性樹脂中の第一のモノマーユニットがヘキサデシルアクリレート(Rの炭素数は16)であるトナーである。