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特許7555819Cu-P共担持ゼオライト、並びに、これを用いた選択的還元触媒及び排ガス用触媒
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-13
(45)【発行日】2024-09-25
(54)【発明の名称】Cu-P共担持ゼオライト、並びに、これを用いた選択的還元触媒及び排ガス用触媒
(51)【国際特許分類】
   C01B 39/48 20060101AFI20240917BHJP
   B01D 53/94 20060101ALI20240917BHJP
   B01J 29/56 20060101ALI20240917BHJP
   B01J 29/76 20060101ALI20240917BHJP
   B01J 35/57 20240101ALI20240917BHJP
   F01N 3/10 20060101ALI20240917BHJP
   F01N 3/28 20060101ALI20240917BHJP
【FI】
C01B39/48
B01D53/94 ZAB
B01D53/94 220
B01J29/56 A
B01J29/76 A
B01J35/57 Z
F01N3/10 A
F01N3/28 301P
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020553252
(86)(22)【出願日】2019-10-16
(86)【国際出願番号】 JP2019040735
(87)【国際公開番号】W WO2020085169
(87)【国際公開日】2020-04-30
【審査請求日】2022-09-16
(31)【優先権主張番号】P 2018199527
(32)【優先日】2018-10-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2018220354
(32)【優先日】2018-11-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000228198
【氏名又は名称】エヌ・イーケムキャット株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100118991
【弁理士】
【氏名又は名称】岡野 聡二郎
(72)【発明者】
【氏名】高木 由紀夫
(72)【発明者】
【氏名】齊藤 清彦
(72)【発明者】
【氏名】伴野 靖幸
(72)【発明者】
【氏名】永田 誠
【審査官】宮脇 直也
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-134698(JP,A)
【文献】特開2017-048106(JP,A)
【文献】特開2018-020295(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2018-0005769(KR,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 53/94
B01J 21/00-38/74
C01B 39/00-39/54
F01N 3/08- 3/38
JSTPlus/JST7580/JSTChina(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
小孔径ゼオライト及び前記小孔径ゼオライトに担持された骨格外銅原子と骨格外リン原子を少なくとも含有し、
前記小孔径ゼオライトは、粉末X線回折測定においてCHAの骨格構造を有し、
前記小孔径ゼオライトは、粉末X線回折測定において15nm以上100nm以下の結晶子径を有し、
シリカアルミナ比(SiO2/Al23)が7以上20以下であり、
銅原子のT原子に対する比率(Cu/T)が0.005以上0.060以下であり、
リン原子のT原子に対する比率(P/T)が0.005以上0.060以下であり、
リン原子の銅原子に対する比率(P/Cu)が1.0以上1.5以下である、
Cu-P共担持ゼオライト。
【請求項2】
小孔径ゼオライト及び前記小孔径ゼオライトに担持された骨格外銅原子と骨格外リン原子を少なくとも含有し、
前記小孔径ゼオライトは、粉末X線回折測定においてCHAの骨格構造を有し、
0.01μm以上20μm以下の平均粒子径D 50 を有し、
シリカアルミナ比(SiO2/Al23)が7以上20以下であり、
銅原子のT原子に対する比率(Cu/T)が0.005以上0.060以下であり、
リン原子のT原子に対する比率(P/T)が0.005以上0.060以下であり、
リン原子の銅原子に対する比率(P/Cu)が1.0以上1.5以下である、
Cu-P共担持ゼオライト。
【請求項3】
前記小孔径ゼオライトは、酸素8員環構造を有する
請求項1又は2に記載のCu-P共担持ゼオライト。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか一項に記載のCu-P共担持ゼオライトを少なくとも含有する、
選択的還元触媒。
【請求項5】
請求項1~3のいずれか一項に記載のCu-P共担持ゼオライトを含む組成物を所定形状に成形してなる
選択的還元触媒成形体。
【請求項6】
支持体と、前記支持体の少なくとも一方の面側に設けられた触媒層とを少なくとも備え、
前記触媒層が、請求項1~3のいずれか一項に記載のCu-P共担持ゼオライトを少なくとも含有することを特徴とする、
排ガス用触媒。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規なCu-P共担持ゼオライト、並びに、これを用いた選択的還元触媒及び排ガス用触媒等に関する。
【背景技術】
【0002】
ゼオライトは、規則的で且つ一定の大きさの細孔を有する骨格構造を有し、乾燥剤、脱水剤、極性や分子径の差異を利用した各種の無機或いは有機分子の吸着剤又は分離剤、イオン交換体、石油精製触媒、石油化学触媒、固体酸触媒等の種々の用途において工業的に広く用いられている。各種ゼオライトの骨格構造は、国際ゼオライト学会(International Zeolite Association,以降では「IZA」と略称することがある。)においてデータベース化されており、現時点でゼオライトの骨格構造は200種類を超えている。しかしながら、工業的に利用されているゼオライトはわずか10種類程度に過ぎない。
【0003】
ゼオライトは、ゼオライトのタイプ及びゼオライト格子中に含まれるカチオンの量に依存するものの、代表例では直径が約3~10オングストロームの、比較的均一な孔径を有するアルミノシリケート結晶材料である。合成ゼオライトと天然ゼオライトの両方、及び所定の反応(反応は、酸化窒素とアンモニアを酸素の存在下に反応させる選択的反応を含む)を促進するための、その使用は、この技術分野で公知である。
【0004】
また、酸化窒素をアンモニアで選択的に触媒還元するための、金属で促進化した(metal-promoted)ゼオライト触媒、特に、鉄で促進化したゼオライト触媒や銅で促進化したゼオライト触媒等が公知である。銅で促進化したゼオライトベータは、酸化窒素をアンモニアで選択的に還元するための効果的な触媒の1つである。例えば特許文献1には、水熱的に良好な安定性を示すCu担持ゼオライトを用いて、ガス流に含まれる窒素酸化物(以下、「NOx」と称する場合がある。)を還元する方法が開示されている。
【0005】
また、非特許文献1には、触媒としての耐久性や触媒活性を増すため、リン酸化合物によるゼオライトの後処理法が記載されている。この非特許文献1では、MFI型ゼオライト(最大細孔:酸素10員環ミドルポアゼオライト)に、リン酸またはリン酸1水素2アンモニウムを担持し、比較的に耐熱性が低いAlサイトを保護してから焼成することで、耐熱性が向上され、水熱耐久後のn-ブタンのクラッキング反応において未処理品よりも触媒活性が高められることが見出されている。
【0006】
しかしながら、非特許文献2には、CHA型ゼオライトのように最大細孔が酸素8員環のゼオライト(スモールポアゼオライト)においては、上述した非特許文献1のようなリン酸化合物による後処理が効果を示さないことが報告されている。これはおそらく、リン酸(約4Å)の分子径がスモールポアゼオライトの細孔(CHA型:約3.8Å)より大きいため、リン酸がゼオライトの細孔内に侵入困難であるためと考えられる。また、非特許文献3においても、リン酸未修飾ゼオライトをリン酸水素二アンモニウム含浸によりリン修飾しても、耐熱性の向上は見られなかったと記載されており、リン酸化合物を用いたゼオライトの後処理はスモールポアゼオライトにおいては効果がないことが記載されている。
【0007】
そのため、CHA型ゼオライトのようなスモールポアゼオライトにおいては、特許文献2に示すとおり、CHA型ゼオライトの合成時にリン化合物を配合して、CHA骨格(フレームワーク)に少量のリン原子を導入し、例えば骨格T原子の一部をリン原子と交換することにより、リンT原子含有-低リンモレキュラーシーブを合成することで、水熱安定性を高めることが検討されている。
【0008】
さらに、特許文献3に示すように、合成時にホスホニウムカチオンをOSDAのアンモニウムカチオンと共存させることで、CHA型ゼオライトのSi及びAlを含むCHA骨格(フレームワーク)にリン原子を導入することなく、CHA型ゼオライトの骨格以外、すなわち、T原子以外としてリンを含有させる方法が検討されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特表2010-519038号公報
【文献】特許第6320918号公報
【文献】特開2017-048106号公報
【非特許文献】
【0010】
【文献】T. Blasco et al., J. Catal., 237 (2006) 267-277
【文献】2018年2月28日「耐久性ゼオライトの合成およびSCR触媒への応用」佐野庸治、自動車技術会シンポジウム予稿p.43 - 47
【文献】佐野庸治、津野地直、触媒,60 (2018) 240-246
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、特許文献2に記載の方法では、表1に示されているとおり12~32程度のシリカ対アルミナ比を有するリンT原子含有-低リンモレキュラーシーブの実現を指向しているものの、実際には、表2及び表3に示されているとおり、シリカアルミナ比が概ね40程度と、シリカアルミナ比が高いCHA型ゼオライトしか実現できておらず、この方法により、触媒金属をより多く含有させることができる低シリカアルミナ比のゼオライトを合成することは困難であると考えられる。また、そのような低シリカアルミナ比のゼオライトを合成できたとしても、高い熱耐久性を持たせることは困難であると考えられる。
【0012】
また、特許文献3に記載の方法においても、16~100程度のシリカ対アルミナ比を有するCHA型ゼオライトの実現を指向しているものの、実際には、表1及び表2に示されているとおり、シリカアルミナ比が22~24と、シリカアルミナ比が高いCHA型ゼオライトしか実現できておらず、この方法により、触媒金属をより多く含有させることができる低シリカアルミナ比のゼオライトを合成することは困難である。さらには、そのような低シリカアルミナ比のゼオライトに高い熱耐久性を持たせることができるかについても不明である。しかも、特許文献3に記載の方法では、比較的に高価なホスホニウム化合物を原料として用いることが求められる等、製造コストや製造プロセスの観点から、改善の余地が大きい。
【0013】
しかも、特許文献2及び3の方法では、銅等の触媒金属をゼオライト表面に担持するより前にリンが配合されているため、この予め配合されたリンによってゼオライト骨格内Alに基づくイオン交換点の一部がプロテクトされてしまう。このようにプロテクトされたサイトは銅のイオン交換点として作用することができず、結果として、銅等の触媒金属のゼオライト表面への担持の際に十分なイオン交換能を発現できなくなり、結果として触媒金属担持量を多く担持させることができなくなる。そのため、特許文献2及び3の方法では、期待されている水熱耐久後のNOx浄化性能の向上効果が不十分である。
【0014】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、小孔径ゼオライトに骨格外銅原子と骨格外リン原子を担持させた、熱的耐久性及び触媒性能に優れる、高性能なCu-P共担持ゼオライト等を提供することにある。また、本発明の別の目的は、この高性能なCu-P共担持ゼオライトを用いた、触媒性能に優れる選択的還元触媒成形体及び排ガス用触媒等を提供することにある。
【0015】
なお、ここでいう目的に限らず、後述する発明を実施するための形態に示す各構成により導かれる作用効果であって、従来の技術によっては得られない作用効果を奏することも、本発明の他の目的として位置づけることができる。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、小孔径ゼオライトに骨格外銅原子と骨格外リン原子を担持させた、所定のCu-P共担持ゼオライトが熱的耐久性及び触媒性能に優れることを見出し、本発明を完成するに至った。すなわち、本発明は、以下に示す種々の具体的態様を提供する。
【0017】
<1>
小孔径ゼオライト及び前記小孔径ゼオライトに担持された骨格外銅原子と骨格外リン原子を少なくとも含有し、
シリカアルミナ比(SiO2/Al23)が7以上20以下であり、
銅原子のT原子に対する比率(Cu/T)が0.005以上0.060以下であり、
リン原子のT原子に対する比率(P/T)が0.005以上0.060以下であり、
リン原子の銅原子に対する比率(P/Cu)が0.1以上3以下である、
Cu-P共担持ゼオライト。
【0018】
<2>
前記小孔径ゼオライトは、酸素8員環構造を有する
上記<1>に記載のCu-P共担持ゼオライト。
<3>
前記小孔径ゼオライトは、粉末X線回折測定においてCHA、AEI、及びERIよりなる群から選択される少なくとも一つの骨格構造を有する
上記<1>又は<2>に記載のCu-P共担持ゼオライト。
<4>
前記小孔径ゼオライトは、粉末X線回折測定において10nm以上50nm以下の結晶子径を有する
上記<1>~<3>のいずれか一項に記載のCu-P共担持ゼオライト。
<5>
前記小孔径ゼオライトは、粉末X線回折測定において15nm以上100nm以下の結晶子径を有する
上記<1>~<3>のいずれか一項に記載のCu-P共担持ゼオライト。
<6>
0.01μm以上20μm以下の平均粒子径D50を有する
上記<1>~<5>のいずれか一項に記載のCu-P共担持ゼオライト。
【0019】
<7>
上記<1>~<6>のいずれか一項に記載のCu-P共担持ゼオライトを少なくとも含有する、
選択的還元触媒。
<8>
上記<1>~<6>のいずれか一項に記載のCu-P共担持ゼオライトを含む組成物を所定形状に成形してなる
選択的還元触媒成形体。
<9>
支持体と、前記支持体の少なくとも一方の面側に設けられた触媒層とを少なくとも備え、
前記触媒層が、上記<1>~<6>のいずれか一項に記載のCu-P共担持ゼオライトを少なくとも含有することを特徴とする、
排ガス用触媒。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、小孔径ゼオライトに骨格外銅原子と骨格外リン原子を担持させた、熱的耐久性及び触媒性能に優れる、高性能なCu-P共担持ゼオライトを実現することができる。そして、このCu-P共担持ゼオライトを用いることで、浄化性能に優れる選択的還元触媒や排ガス用触媒等を実現することができる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。以下の実施の形態は、本発明の実施態様の一例(代表例)であり、本発明はこれらに限定されるものではない。また、本発明は、その要旨を逸脱しない範囲内で任意に変更して実施することができる。なお、本明細書において、「~」を用いてその前後に数値又は物性値を挟んで表現する場合、その前後の値を含むものとして用いる。例えば「1~100」との数値範囲の表記は、その上限値「100」及び下限値「1」の双方を包含するものとする。また、他の数値範囲の表記も同様である。
【0022】
本実施形態のCu-P共担持ゼオライトは、小孔径ゼオライト及び前記小孔径ゼオライトに担持された骨格外銅原子と骨格外リン原子を少なくとも含有し、シリカアルミナ比(SiO2/Al23)が7以上20以下であり、銅原子のT原子に対する比率(Cu/T)が0.005以上0.060以下であり、リン原子のT原子に対する比率(P/T)が0.005以上0.060以下であり、リン原子の銅原子に対する比率(P/Cu)が0.1以上3以下であることを特徴とする。
【0023】
このような組成のCu-P共担持ゼオライトは、上述したとおり、従来、リン酸化合物を用いたゼオライトの後処理では得ることができないと考えており、また、たとえ実現したとしても優れた熱的耐久性及び触媒性能は得られないと考えられていた。これはすなわち、小孔径ゼオライトに骨格外銅原子と骨格外リン原子とを共担持させることが困難であると考えられていたためである。その理由を以下に示す。
【0024】
そもそも従来、当業界においては、リン酸(約4Å)のほうが、スモールポアゼオライトの細孔(例CHA:約3.8Å)より大きいので、スモールポアゼオライトの細孔内にリン酸を侵入させて細孔表面にリンを担持することは困難であると考えられていた。しかしながら、本発明者らの知見によれば、室温(25℃)以上の環境下であれば、原子分子振動により、スモールポアゼオライトの細孔が大きくなったり小さくなったりするため、スモールポアゼオライトの細孔内にリン酸を侵入させて細孔表面に担持することは可能である。特にAl-O結合はイオン結合であるため、Si-O共有結合に比べて、結合長や結合角に融通性がある。また、処理時の処理温度を高めて原子分子振動を促進すれば、スモールポアゼオライトの細孔内へのリン酸が促進する。すなわち、Cu-P共担持ゼオライトを塗布された触媒が焼成される時、あるいは水熱耐久処理を受けるときの温度を例えば好ましくは350℃以上、より好ましくは400℃以上、さらに好ましくは450℃以上とすることで、リンをゼオライト内に浸透させることができる。また、スモールポアゼオライトのシリカアルミナ比(SiO2/Al23、モル比、以降において「SAR」と称することがある。)が低い場合(Alが多い場合)には、脱AlによりAlが骨格から外れ易いため、その分、細孔の孔径が広がり、スモールポアゼオライトの細孔内にリン酸が侵入され易くなる。
【0025】
一方、Cuを担持したスモールポアゼオライトにリン酸を強酸性の水溶液のまま含浸するP担持処理を行うと、ゼオライトの酸点に吸着させておいたCuがリン酸によって溶解してフローしてしまう。また、リン酸に代えてリン酸水素二アンモニウムを用いることでリン酸の酸性を弱めることも考えられるが、リン酸水素二アンモニウムから生成する遊離のアンモニア分子は銅へ配位して可溶性の銅アンミン錯体を生成しやはり銅溶解によるフローの原因となる。このようなP担持処理の際のCuのフローが、結果として触媒性能を低下させる要因の一つであると考えられる。ここでいうCuのフローとは、ゼオライト内のCuが可溶化されマイグレートし、および/またはハニカム塗布時のスラリーの水相へCuが溶出することをいう。
【0026】
これに対して、本発明者らは、例えばP担持工程において、リン酸及び有機塩基を少なくとも含有する処理液、すなわち、予め銅と錯体を生成しにくい有機アミンで中和されたリン酸水溶液を用いれば、上述したP担持処理の際のCuのフローが抑制され、結果として、ゼオライト表面に担持されているCuが高効率で維持されつつPを高効率で共担持することができることを見出した。そして、このようにすれば、Cu担持後にPを担持しているため、従来技術において生じていたイオン交換点のリンによるプロテクトが生じ難く、そのため十分なCu及びPの共担持を行うことができることをも見出した。さらに詳述すると、ゼオライト内のイオン交換点に担持された銅の形態としては、Cu2+が2つのイオン交換点に結合した形態と、Cu(OH)+が1つのイオン交換点に結合した形が知られている(非特許文献、J. Song et al., ACS Catal. 7 (2017) 8214-8227)。このうち、前者は水熱耐久性に優れるが、後者は劣るため、使用条件の過酷な自動車触媒材料用の活性点構造として後者は不適切であり、前者を多く作ることが触媒材料に求められている。一方で、前者の構造を作るためには、Paired Alと呼ばれる構造が必要である。これは銅原子の届く範囲に骨格内Alに基づくイオン交換点が2つある構造をいう。具体的には、2つの骨格内Al原子の間に1つまたは2つのSi原子がある構造をいう。このPaired Al構造において、(Paired Al)/(骨格内Al)の比率は、骨格内Alが多いほど(SARが小さいほど)大きいことが知られている(非特許文献 C.Paolucci et al., J.Am.Chem.Soc. 138 (2016) 6028-6048)。これらの観点から、前者の構造をより多く持つ材料を得るためには、比較的骨格内Al含有率の高い(SARの低い)ゼオライトに先に銅をつけて多くの前者構造を持たしておき、余剰の骨格内Alをリンによってプロテクトして水熱耐久性を向上させることが望ましい。
【0027】
以上のとおり、本発明者らによって、リン酸化合物を用いたゼオライトの後処理によって小孔径ゼオライトに骨格外銅原子と骨格外リン原子とを共担持させることができることが初めて見出され、そして、得られたCu-P共担持ゼオライトが新規な配合組成を有し、また、優れた熱的耐久性及び触媒性能が奏することが初めて見出された。以下、好適なCu-P共担持ゼオライトの製造方法の一例を挙げながら、さらに詳述する。
【0028】
[Cu-P共担持ゼオライトの製造]
本実施形態のCu-P共担持ゼオライト、すなわち小孔径ゼオライト及び前記小孔径ゼオライトに担持された骨格外銅原子と骨格外リン原子を少なくとも含有するCu-P共担持ゼオライトの製造方法の一例としては、Cu担持ゼオライトを準備する工程(S11)と、このCu担持ゼオライトに、リン酸及び有機塩基を少なくとも含有する処理液を付与するP担持工程(S21)を少なくとも有する製法が挙げられる。
【0029】
このCu-P共担持ゼオライトの製造方法によれば、従来の当業界においてスモールポアゼオライトでは効果がないと評価されていた、リン酸化合物の後担持法でありながらも、所望の担持量で銅及びリンを共担持させることができ、そのため、熱的耐久性に優れ触媒性能の劣化が抑制された高性能なCu-P共担持ゼオライトを、環境負荷が小さく、より簡易なプロセスで比較的に低コストに得ることが可能である。
【0030】
かかる作用効果が奏される理由は、定かではないが、本発明者らの知見によれば、以下のとおり推察される。但し、作用はこれらに限定されない。そもそも従来、当業界においては、リン酸(約4Å)のほうが、スモールポアゼオライトの細孔(例CHA:約3.8Å)より大きいので、スモールポアゼオライトの細孔内にリン酸を侵入させて細孔表面にリンを担持することは困難であると考えられていた。しかしながら、本発明者らの知見によれば、室温(25℃)以上の環境下であれば、原子分子振動により、スモールポアゼオライトの細孔が大きくなったり小さくなったりするため、スモールポアゼオライトの細孔内にリン酸を侵入させて細孔表面に担持することは可能である。特にAl-O結合はイオン結合であるため、Si-O共有結合に比べて、結合長や結合角に融通性がある。また、処理時の処理温度を高めて原子分子振動を促進すれば、スモールポアゼオライトの細孔内へのリン酸の侵入はさらに促進する。すなわち、Cu-P共担持ゼオライトを塗布された触媒が焼成される時、あるいは水熱耐久処理を受けるときの温度を例えば好ましくは350℃以上、より好ましくは400℃以上、さらに好ましくは450℃以上とすることで、リンをゼオライト内に浸透させることができる。また、スモールポアゼオライトのシリカアルミナ比が低い場合(Alが多い場合)には、脱AlによりAlが骨格から外れ易いため、その分、細孔の孔径が広がり、スモールポアゼオライトの細孔内にリン酸が侵入され易くなる。
【0031】
そしてまた、上記の製造方法においては、予め中和されたリン酸水溶液を用いてP担持処理を行い、十分なCu及びPの共担持を行うことができ、高性能なCu-P共担持ゼオライトを得ることができる等の理由から、Cu担持工程以降において、具体的にはP担持工程や触媒層塗工工程まで、Cu担持ゼオライトやCu-P共担持ゼオライトの焼成処理や200℃以上の高温乾燥処理が必須とされない。そのため、上記の製造方法は、従来において必須とされていた焼成処理や高温乾燥処理を省略することができるものであり、この場合は、環境負荷が小さく、より簡易なプロセスで比較的に低コストにCu-P共担持ゼオライトを得ることのできる、工業的な有用性の高い量産方法として位置づけられることとなる。以下、さらに詳述する。
【0032】
[Cu担持ゼオライトの準備工程(S11)]
この工程では、小孔径ゼオライト及びこの小孔径ゼオライトに担持された骨格外銅原子を少なくとも含有するCu担持ゼオライトを準備する。ここでは、市販のCu担持ゼオライトを用いることができ、また、必要に応じて、Cuが未担持のゼオライトにCuを担持させる等して、所望のCu担持ゼオライトを適宜調製することもできる。
【0033】
ここで原料として用いるCuが未担持の小孔径ゼオライトは、所謂スモールポアゼオライトと呼ばれるものである。その種類は、特に限定されないが、酸素8員環構造を有するものが好ましい。具体的には、粉末X線回折測定において、CHA、AEI、ERIの少なくとも一つの結晶構造を有するものが好ましい。
【0034】
また、Cuが未担持の小孔径ゼオライトは、特に限定されないが、リン酸の侵入性等の観点から、粉末X線回折測定において10nm以上50nm以下の結晶子径を有するものが好ましく、より好ましくは15nm以上50nm以下、さらに好ましくは15nm以上45nm以下、特に好ましくは15nm以上35nm以下である。なお、小孔径ゼオライトの中でも骨格構造に起因して結晶子径がCHA等に比して大きくなり易い傾向にあるゼオライト種(例えばAEIやERI)は、粉末X線回折測定において15nm以上100nm以下の結晶子径を有するものが好ましく、より好ましくは20nm以上90nm以下、さらに好ましくは25nm以上85nm以下、特に好ましくは30nm以上80nm以下である。
【0035】
さらに、Cuが未担持の小孔径ゼオライトは、特に限定されないが、リン酸の侵入性等の観点から、シリカアルミナ比が7以上20以下、好ましくは8以上19以下、より好ましくは9以上18以下、さらに好ましくは10以上17以下、特に好ましくは11以上16未満、最も好ましくは12以上16未満のアルミノ珪酸塩が好ましい。上述したとおり、このように比較的骨格内Al含有率の高い(SARの低い)小孔径ゼオライトを用い、このSARの低い小孔径ゼオライトに銅を先に担持させ、その後に余剰の骨格内Alをリンによってプロテクトすることにより、より高い水熱耐久性を発現させることができる。
【0036】
上述した物性を有するCuが未担持の小孔径ゼオライトやCu担持小孔径ゼオライトは、市販品として入手可能であり、また、必要に応じて、従来公知の方法により合成・調製することができる。例えば、従来公知の方法により小孔径ゼオライトを合成し(S12)、必要に応じて小孔径ゼオライトをNH4 +型及び/又はH+型にイオン交換する(S13)等した後に、銅を小孔径ゼオライトに担持する(S14)等して、Cuが未担持の小孔径ゼオライトやCu担持小孔径ゼオライトを得ることができる。以下、各工程について詳述する。
【0037】
<ゼオライト合成(S12)>
小孔径ゼオライトを合成(S12)する方法としては、例えば、シリカアルミナ比が2以上20未満のアルミノ珪酸塩を少なくとも含むSi-Al元素源及び/又はAl元素源、Si元素源(但し、前記Si-Al元素源に該当するものは除く。)、アルカリ金属源、有機構造指向剤、並びに水を含む混合物を調製する工程と、前記混合物を水熱処理することで、前記小孔径ゼオライトを合成する合成工程とを少なくとも有する方法が広く知られている。
【0038】
混合物の調製工程では、Si-Al元素源及び/又はAl元素源、Si元素源アルカリ金属源、有機構造指向剤(Structure Directing Agent、以降において「SDA」と略称することがある。)、並びに水を含む混合物を調製する。
【0039】
原料として用いるSi-Al元素源としては、シリカアルミナ比が2以上20未満のアルミノ珪酸塩を少なくとも含むものである限り、公知のものを特に制限なく用いることができる。その種類は特に限定されない。ここで、アルミノ珪酸塩とは、ケイ酸塩中のケイ素原子の一部がアルミニウム原子に置き換えられた構造を有するものである。なお、シリカアルミナ比は、5以上20未満が好ましく、より好ましくは7以上18未満である。なお、本明細書において、シリカアルミナ比は、蛍光X線分析から求められる値を意味する。具体的には、Axios(スペクトリシス社)を用いて、試料約5gを20tで加圧成型したサンプルを測定に供し、得られたAl23及びSiO2の質量%の結果からSARを算出した。
【0040】
このようなアルミノ珪酸塩としては、下記一般式(I)で表されるアルミノケイ酸塩が好ましく用いられる。
xM2O・Al23・mSiO2・nH2O ・・・(I)
(前記式(I)中、Mはアルカリ金属元素を表し、xは0≦x≦1.0、mは2≦m<20、nは5≦n≦15をそれぞれ満たす数である。)
【0041】
前記一般式(I)中、アルカリ金属元素としては、Li、Na、Ka、Rb、Cs等が挙げられ、これらの中でもNa及びKが好ましく、より好ましくはNaである。なお、上記のアルミノ珪酸塩は、Si及びAl以外に、他の元素、例えばGa、Fe、B、Ti、Zr,Sn、Zn等の元素を含んでいてもよい。
また、前記一般式(I)中、0≦x≦0.6が好ましく、より好ましくは0.1≦x≦0.5である。
一方、前記一般式(I)中、mは5≦m<20が好ましく、より好ましくは7≦m<18である。
また、前記一般式(I)中、nは6≦n≦15が好ましく、より好ましくは7≦n≦15である。
【0042】
SARが2以上20未満のアルミノ珪酸塩の中でも、取扱性や拡散性等の観点から、常温常圧(25℃、1atm)で固体粉末状のアルミノ珪酸塩が好ましく用いられる。ここで本明細書において、粉末状とは、粉末(一次粒子、及び/又は一次粒子が凝集した凝集体(二次粒子)を含む粉)、一次粒子乃至二次粒子を造粒した顆粒を含む概念である。なお、粉末状のアルミノ珪酸塩の各粒子の形状は、特に限定されず、例えば球状、楕円体状、破砕状、扁平形状、不定形状等いずれであっても構わない。
【0043】
なお、粉末状のアルミノ珪酸塩の平均粒子径(D50)は、特に限定されないが、0.01~500μmであることが好ましく、より好ましくは0.1~20μmである。なお、本明細書において、平均粒子径D50は、レーザー回折式粒度分布測定装置(例えば、島津製作所社製、レーザー回折式粒度分布測定装置SALD-3100等)で測定されるメディアン径を意味する。
【0044】
また、SARが2以上20未満のアルミノ珪酸塩としては、粉末X線回折法による結晶構造が非晶質のアルミノ珪酸塩またはFAU構造のアルミノ珪酸塩が好ましく用いられる。ここで、粉末X線回折法による結晶構造が非晶質であることは、X線回折図において特定の面指数を示す明瞭なピークが存在しないことを意味する。このような非晶質のアルミノ珪酸塩としては、市販の合成珪酸アルミニウムを用いることができる。
【0045】
このようなSARが2以上20未満のアルミノ珪酸塩は、当業界で公知の方法により合成することができ、Si-Al元素源として、その合成品を用いることができる。例えば、水溶性珪酸塩と水溶性アルミニウム塩とを、水溶性珪酸塩中の珪素原子と水溶性アルミニウム塩中のアルミニウム原子との比(Si/Al)が1.0~11(好ましくは2.5~10.8)、液温20~90℃(好ましくは40~70℃)、pH3.8~5.0(好ましくは4.0~4.7)、反応液濃度(SiO2+Al23)が70~250g/L(好ましくは100~180g/L)、さらに反応方式が連続反応である条件下で反応し、得られた反応液から珪酸アルミニウムを固液分離し、洗浄及び乾燥することにより、SARが2以上20未満のアルミノ珪酸塩を得ることができる。このとき、水溶性アルミニウム塩としては、塩化アルミニウム、硝酸アルミニウム、硫酸アルミニウム、アルミン酸ナトリウム等が好ましく用いられる。また、水溶性珪酸塩としては、珪酸ナトリウム、珪酸カリウム等の珪酸アルカリ金属塩が好ましく用いられる。ここで珪酸ナトリウムとして、珪酸ソーダ1号、2号、3号、4号又はメタ珪酸ソーダやオルソ珪酸ソーダ等が好ましく用いられる。なお、Si-Al元素源となるシリカアルミナ比が2以上20未満のアルミノ珪酸塩は、1種を単独で、又は2種以上を任意の組み合わせ及び比率で用いることができる。
【0046】
原料として用いるAl元素源としては、例えば、水酸化アルミニウム、アルミン酸ナトリウム、硫酸アルミニウム、擬ベーマイト、ベーマイト、金属アルミニウム、アルミニウムイソプロポキシド等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0047】
なお、Al元素源は、1種を単独で、又は2種以上を任意の組み合わせ及び比率で用いることができる。
【0048】
原料として用いるSi元素源としては、例えば、沈降シリカ、コロイダルシリカ、ヒュームドシリカ、シリカゲル、ケイ酸ナトリウム(メタケイ酸ナトリウム、オルソ珪酸ナトリウム、珪酸ソーダ1号、2号、3号、4号等)、テトラエトキシシラン(TEOS)やトリメチルエトキシシラン(TMEOS)等のアルコキシシラン等が挙げられるが、これらに特に限定されない。但し、本明細書において、SARが2以上20未満のアルミノ珪酸塩は、上述したSi-Al元素源に該当し、このSi元素源には含まれないものとする。
【0049】
なお、Si元素源は、1種を単独で、又は2種以上を任意の組み合わせ及び比率で用いることができる。
【0050】
アルカリ金属源としては、例えば、LiOH、NaOH、KOH、CsOH、RbOH等のアルカリ金属水酸化物、これらアルカリ金属のアルミン酸塩、上述したSi-Al元素源及びSi元素源中に含まれるアルカリ成分等が挙げられる。これらの中でも、NaOH、KOHが好適に用いられる。なお、混合物中のアルカリ金属は、無機構造指向剤としても機能し得るため、結晶性に優れるアルミノ珪酸塩が得られ易い傾向にある。
【0051】
なお、アルカリ金属源は、1種を単独で、又は2種以上を任意の組み合わせ及び比率で用いることができる。
【0052】
有機構造指向剤としては、例えば、1級アミン、2級アミン、3級アミン、及び4級アンモニウム塩よりなる群から選択される少なくとも1種が用いられる。具体的には、AEI型ゼオライトには、1,1,3,5-テトラメチルピペリジニウム、テトラエチルアンモニウム等の4級アンモニウムをカチオンとする、水酸化物塩、炭酸塩、ハロゲン化物塩、硫酸塩等が挙げられる。また、ERI型ゼオライトには、ヘキサメトニウム、テトラプロピルアンモニウム、テトラエチルアンモニウム、ジメチルジエチルアンモニウム、等の4級アンモニウムをカチオンとする、水酸化物塩、炭酸塩、ハロゲン化物塩、硫酸塩等が挙げられる。さらに、CHA型ゼオライトには、N,N,N-トリアルキルアダマンタアンモニウム等のアダマンタンアミン誘導体をカチオンとする、水酸化物塩、ハロゲン化物、炭酸塩、硫酸塩、メチルカーボネート塩及び硫酸塩;N,N,N-トリアルキルベンジルアンモニウムイオン等のベンジルアミン誘導体、N,N,N-トリアルキルシクロヘキシルアンモニウムイオンやN,N,N-メチルジエチルシクロヘキシルアンモニウムイオン等のシクロヘキシルアミン誘導体、N-アルキル-3-キヌクリジノールイオン等のキヌクリジノール誘導体、又はN,N,N-トリアルキルエキソアミノノルボルナン等のアミノノルボルナン誘導体、テトラメチルアンモニウムイオン、エチルトリメチルアンモニウムイオン、ジエチルジメチルアンモニウムイオン、トリエチルメチルアンモニウムイオン、テトラエチルアンモニウムイオン等の炭素数1~2のアルキルアミン誘導体をカチオンとする、水酸化物塩、ハロゲン化物、炭酸塩、メチルカーボネート塩及び硫酸塩;等が挙げられるが、これらに特に限定されない。上述したカチオンは、通常、アルミノ珪酸塩の形成に害を及ぼさないアニオンを伴っていてもよい。かかるアニオンとしては、Cl-、Br-、I-等のハロゲンイオン、水酸化物イオン、酢酸塩、硫酸塩、カルボン酸塩等が挙げられるが、これらに特に限定されない。これらの中でも、水酸化物イオンが好ましく用いられる。
【0053】
これらの中でも、CHA型ゼオライトの合成に適した有機構造指向剤としては、N,N,N-トリメチルアダマンタンアンモニウム水酸化物(以降において、「TMAdaOH」と略記する場合がある。)、N,N,N-トリメチルアダマンタンアンモニウムハロゲン化物、N,N,N-トリメチルアダマンタンアンモニウム炭酸塩、N,N,N-トリメチルアダマンタンアンモニウムメチルカーボネート塩、N,N,N-トリメチルアダマンタンアンモニウム塩酸塩、及びN,N,N-トリメチルアダマンタンアンモニウム硫酸塩からなる群から選ばれる少なくとも一種が好ましい。AEI型ゼオライトの合成に適した有機構造指向剤としては、1,1,3,5-テトラメチルピペリジニウムが好ましく、ERI型ゼオライトの合成に適した有機構造指向剤としては、ヘキサメトニウムとテトラアルキルアンモニウムの併用が好ましい。
【0054】
なお、有機構造指向剤は、1種を単独で、又は2種以上を任意の組み合わせ及び比率で用いることができる。
【0055】
そして、この混合物の調製工程では、上述したSi-Al元素源及び/又はAl源、Si元素源アルカリ金属源、有機構造指向剤、並びに水を含む混合物(スラリー)を調製する。このとき必要に応じて、公知の混合機や攪拌機、例えばボールミル、ビーズミル、媒体撹拌ミル、ホモジナイザー等を用いて湿式混合することができる。なお、攪拌を行う場合、通常30~2000rpm程度の回転数で行うことが好ましく、より好ましくは50~1000rpmである。
【0056】
このとき、混合物中の水の含有量は、反応性や取扱性等を考慮して適宜設定することができ、特に限定されないが、混合物の水シリカ比(H2O/SiO2モル比)が、通常5以上100以下であり、好ましくは6以上50以下、より好ましくは7以上40以下である。水シリカ比が上記好ましい範囲内にあることで、混合物の調製時或いは水熱合成による結晶化中の撹拌が容易となり、取扱性が高められるとともに、副生物や不純物結晶の生成が抑制されて高い収率が得られ易い傾向にある。なお、ここで使用する水は、水道水、RO水、脱イオン水、蒸留水、工業用水、純水、超純水等からを所望性能に応じたものを使用すればよい。また、混合物に対する水の配合方法は、上述した各成分とは別に配合してもよく、或いは、各成分と予め混合しておき、各成分の水溶液或いは分散液として配合してもよい。
【0057】
また、混合物中のシリカアルミナ比も、適宜設定することができ、特に限定されないが、通常5以上80以下であり、好ましくは8以上75未満、さらに好ましくは10以上70未満である。シリカアルミナ比が上記の好ましい範囲内にあることで、緻密な結晶が得られ易く、高温環境下或いは高温曝露後において熱的な耐久性に優れるアルミノ珪酸塩が得られ易い傾向にある。より具体的には、CHA型ゼオライトの合成には、混合物中のシリカアルミナ比は、5以上50以下が好ましく、より好ましくは8以上45未満、さらに好ましくは10以上40未満である。また、AEI型ゼオライトの合成には、混合物中のシリカアルミナ比は、15以上80以下が好ましく、より好ましくは20以上75未満、さらに好ましくは25以上70未満である。また、ERI型ゼオライトの合成には、混合物中のシリカアルミナ比は、5以上50以下が好ましく、より好ましくは8以上45未満、さらに好ましくは10以上40未満である。
【0058】
一方、混合物中の水酸化物イオン/シリカ比(OH-/SiO2モル比)についても、適宜設定することができ、特に限定されないが、通常0.10以上0.90以下であり、好ましくは0.15以上0.80以下、さらに好ましくは0.20以上0.75以下である。水酸化物イオン/シリカ比が上記の好ましい範囲内にあることで、結晶化が進行し易く、高温環境下或いは高温曝露後において熱的な耐久性に優れるアルミノ珪酸塩が得られ易い傾向にある。より具体的には、CHA型ゼオライトの合成には、混合物中の水酸化物イオン/シリカ比は、0.10以上0.90以下が好ましく、より好ましくは0.15以上0.50以下、さらに好ましくは0.20以上0.40以下である。また、AEI型ゼオライトの合成には、混合物中の水酸化物イオン/シリカ比は、0.30以上0.90以下が好ましく、より好ましくは0.40以上0.85以下、さらに好ましくは0.50以上0.80以下である。そして、ERI型ゼオライトの合成には、混合物中の水酸化物イオン/シリカ比は、0.10以上0.90以下であり、好ましくは0.15以上0.80以下、さらに好ましくは0.20以上0.70以下である。
【0059】
また、混合物中のアルカリ金属の含有量についても、適宜設定することができ、特に限定されないが、アルカリ金属(M)の酸化物換算のモル比、すなわちアルカリ金属酸化物/シリカ比(M2O/SiO2モル比)が、通常0.01以上0.50以下であり、好ましくは0.05以上0.30以下である。アルカリ金属酸化物/シリカ比が上記の好ましい範囲内にあることで、鉱化作用による結晶化が促進されるとともに、副生物や不純物結晶の生成が抑制されて高い収率が得られ易い傾向にある。
【0060】
他方、混合物中の有機構造指向剤/シリカ比(有機構造指向剤/SiO2モル比)についても、適宜設定することができ、特に限定されないが、通常0.05以上0.70以下であり、好ましくは0.07以上0.60以下、さらに好ましくは0.09以上0.55以下である。有機構造指向剤/シリカ比が上記の好ましい範囲内にあることで、結晶化が進行し易く、高温環境下或いは高温曝露後において熱的な耐久性に優れるアルミノ珪酸塩が低コストで得られ易い傾向にある。より具体的には、CHA型ゼオライトの合成には、混合物中の有機構造指向剤/シリカ比は、0.05以上0.40以下であり、好ましくは0.07以上0.30以下、さらに好ましくは0.09以上0.25以下である。また、AEI型ゼオライトの合成には、混合物中の有機構造指向剤/シリカ比は、0.05以上0.40以下であり、好ましくは0.07以上0.30以下、さらに好ましくは0.09以上0.25以下である。そして、ERI型ゼオライトの合成には、混合物中の有機構造指向剤/シリカ比は、0.20以上0.70以下であり、好ましくは0.30以上0.65以下、さらに好ましくは0.40以上0.60以下である。
【0061】
上述した混合物は、結晶化の促進等の観点から、所望の骨格構造を有するアルミノ珪酸塩のシード結晶(種晶)をさらに含有していてもよい。シード結晶を配合することにより、所望の骨格構造の結晶化が促進され、高品質なアルミノ珪酸塩が得られ易い傾向にある。ここで用いるシード結晶としては、所望の骨格構造を有するものである限り、特に限定されない。例えば、CHA、AEI、ERIの少なくとも一つの骨格構造を有するアルミノ珪酸塩のシード結晶を用いることができる。なお、シード結晶のシリカアルミナ比は任意であるが、混合物のシリカアルミナ比と同一又は同程度であることが好ましく、かかる観点からは、シード結晶のシリカアルミナ比は、5以上80以下が好ましく、より好ましくは8以上75未満、さらに好ましくは10以上70未満である。シード結晶のシリカアルミナ比も所望の骨格構造のゼオライトに応じて適宜設定でき、好ましい範囲は上述したものと同様である。
【0062】
なお、ここで用いるシード結晶は、別途合成したアルミノ珪酸塩のみならず、市販のアルミノ珪酸塩を用いることができる。もちろん、天産品のアルミノ珪酸塩を用いることもでき、本発明により合成されたアルミノ珪酸塩をシード結晶として用いることもできる。なお、シード結晶のカチオンタイプは特に限定されず、例えばナトリウム型、カリウム型、アンモニウム型、プロトン型等を用いることができる。
【0063】
ここで用いるシード結晶の粒子径(D50)は、特に限定されないが、所望の結晶構造の結晶化を促進する観点からは、比較的に小さい方が望ましく、通常0.5nm以上5μm以下、好ましくは1nm以上3μm以下、より好ましくは2nm以上1μm以下である。なお、シード結晶の配合量は、所望する結晶性に応じて適宜設定することができ、特に限定されないが、混合物中のSiO2の質量を基準として、0.05~30質量%が好ましく、より好ましくは0.1~20質量%、さらに好ましくは0.5~10質量%である。
【0064】
混合物の水熱処理工程では、上述した混合物を反応容器中で加熱して水熱合成することにより、結晶化したアルミノ珪酸塩が得られる。
【0065】
この水熱合成で用いる反応容器は、水熱合成に用い得る密閉式の耐圧容器であれば公知のものを適宜用いることができ、その種類は特に限定されない。例えば、攪拌装置、熱源、圧力計、及び安全弁を備えるオートクレーブ等の密閉式の耐熱耐圧容器が好ましく用いられる。なお、アルミノ珪酸塩の結晶化は、上述した混合物(原料組成物)を静置した状態で行ってもよいが、得られるアルミノ珪酸塩の均一性を高める観点から、上述した混合物(原料組成物)を攪拌混合した状態で行うことが好ましい。このとき、通常30~2000rpm程度の回転数で行うことが好ましく、より好ましくは50~1000rpmである。
【0066】
水熱合成の処理温度(反応温度)は、特に限定されないが、得られるアルミノ珪酸塩の結晶性や経済性等の観点から、通常100℃以上200℃以下、好ましくは120℃以上190℃以下、より好ましくは125℃以上180℃以下である。所望の骨格構造のゼオライトに応じて処理温度を適宜設定すればよく、例えばCHA型やAEI型ゼオライトでは、150℃以上180℃以下が特に好ましく、例えばERI型ゼオライトでは、100℃以上150℃以下が特に好ましい。
【0067】
水熱合成の処理時間(反応時間)は、十分な時間をかけて結晶化させればよく、特に限定されないが、得られるアルミノ珪酸塩の結晶性や経済性等の観点から、通常1時間以上20日間以下、好ましくは4時間以上10日以下、より好ましくは12時間以上8日以下である。
【0068】
水熱合成の処理圧力は、特に限定されず、反応容器内に投入した混合物を上記温度範囲に加熱したときに生じる自生圧力で十分である。このとき、必要に応じて、窒素やアルゴン等の不活性ガスを容器内に導入してもよい。
【0069】
かかる水熱処理を行うことで、結晶化したアルミノ珪酸塩を得ることができる。このとき、必要に応じて、固液分離処理、水洗処理、例えば大気中50~150℃程度の温度で水分を除去する乾燥処理等を常法にしたがって行ってもよい。
【0070】
かくして得られるアルミノ珪酸塩は、細孔内等に構造指向剤やアルカリ金属等を含んでいる場合がある。そのため、必要に応じて、これらを除去する除去工程を行うことが好ましい。有機構造指向剤やアルカリ金属等の除去は、常法にしたがい行うことができ、その方法は特に限定されない。例えば、酸性水溶液を用いた液相処理、アンモニウムイオンを含有する水溶液を用いた液相処理、有機構造指向剤の分解成分を含んだ薬液を用いた液相処理、レジン等を用いた交換処理、焼成処理等を行うことができる。これらの処理は、任意の組み合わせで行うことができる。これらの中でも、有機構造指向剤やアルカリ金属等の除去は、製造効率等の観点から、焼成処理が好ましく用いられる。
【0071】
焼成処理における処理温度(焼成温度)は、使用原料等に応じて適宜設定でき、特に限定されないが、結晶性を維持するとともに構造指向剤やアルカリ金属等の残存割合を低減する等の観点から、通常300℃以上1000℃以下、好ましくは400℃以上900℃以下、より好ましくは430℃以上800℃以下、さらに好ましくは480℃以上750℃以下である。なお、焼成処理は、酸素含有雰囲気で行うことが好ましく、例えば大気雰囲気で行えばよい。
【0072】
焼成処理における処理時間(焼成時間)は、処理温度及び経済性等に応じて適宜設定でき、特に限定されないが、通常0.5時間以上72時間以下、好ましくは1時間以上48時間以下、より好ましくは3時間以上40時間以下である。
【0073】
<イオン交換(S13)>
なお、結晶化後のアルミノ珪酸塩は、そのイオン交換サイト上にアルカリ金属イオン等の金属イオンを有する場合がある。ここで所望する性能に応じて、イオン交換を行うイオン交換工程を行うことができる。このイオン交換工程では、常法にしたがってアンモニウムイオン(NH4 +)やプロトン(H+)等の非金属カチオンにイオン交換することができる。例えば、アルミノ珪酸塩に対して硝酸アンモニウム水溶液や塩化アンモニウム水溶液等のアンモニウムイオンを含有する水溶液を用いた液相処理を行うことでアンモニウム型にイオン交換することができる。また、アルミノ珪酸塩をアンモニアでイオン交換した後に焼成処理を行うことで、プロトン型にイオン交換することができる。上記の製造方法では、P担持処理において中和された処理液を用いて焼成処理や高温乾燥処理を省略する観点から、アンモニウムイオン(NH4 +)型であることが好ましい。かくして得られるアルミノ珪酸塩に、必要に応じて、さらに酸量の低下等の処理を行うこともできる。酸量の低下処理は、例えばシリル化、水蒸気処理、ジカルボン酸処理等により行えばよい。これら酸量の低下処理、組成の変更は、常法にしたがって行えばよい。
【0074】
<Cu担持(S14)>
ここでは、(Cuが未担持の)上述したアルミノ珪酸塩にCuを担持することにより、Cu担持ゼオライトを得る。Cuの担持処理は、常法にしたがって行えばよい。このようにCuを担持することにより、各種用途における触媒として機能させることができる。また、必要に応じて、Cu以外の遷移金属元素、例えば鉄(Fe)やタングステン(W)を担持することもできる。
【0075】
Cu等の遷移金属の担持処理は、常法にしたがって行えばよい。例えば上述したアルミノ珪酸塩と遷移金属の単体や化合物或いは遷移金属イオン等とを接触させることにより行えばよい。この遷移金属の担持方法は、アルミノ珪酸塩のイオン交換サイト又は細孔の少なくともいずれかに遷移金属が保持される方法であればよい。遷移金属は、遷移金属の無機酸塩、例えば遷移金属の硫酸塩、硝酸塩、酢酸塩、塩化物、酸化物、複合酸化物、及び錯塩等として供給することができる。これらの中でも、上記の製造方法では、P担持処理において中和された処理液を用いるため、硫酸塩、硝酸塩等の強酸無機塩として供給することが好ましい。具体的な方法としては、イオン交換法、蒸発乾固法、沈殿担持法、物理混合法、骨格置換法及び含浸担持法等が挙げられるが、これらに特に限定されない。なお、遷移金属の担持処理の後、必要に応じて、固液分離処理、水洗処理、例えば大気中50~150℃程度の温度で水分を除去する乾燥処理等を常法にしたがって行うことができる。
【0076】
なお、必要に応じて、プラチナ、パラジウム、ロジウム、イリジウム等の白金族元素(PGM:Platinum Group Metal)をアルミノ珪酸塩に担持させてもよい。貴金属元素や白金族元素の担持方法は、公知の手法を適用でき、特に限定されない。例えば、貴金属元素や白金族元素を含む塩の溶液を調製し、アルミノ珪酸塩にこの含塩溶液を含浸させ、その後に焼成することにより、貴金属元素や白金族元素の担持を行うことができる。含塩溶液としては、特に限定されないが、硝酸塩水溶液、ジニトロジアンミン硝酸塩溶液、塩化物水溶液等が好ましい。また、焼成処理も、特に限定されないが、350℃~1000℃で約1~12時間が好ましい。なお、高温焼成に先立って、真空乾燥機等を用いて減圧乾燥を行い、約50℃~180℃で約1~48時間程度の乾燥処理を行うことが好ましい。
【0077】
次に、このようにして準備されたCu未担持ゼオライトやCu担持ゼオライトについて説明する。このCu未担持ゼオライトやCu担持ゼオライトは、IZAにおいて各種構造コードで分類される結晶性アルミノシリケートである。好ましくは、CHA、AEI、ERIの少なくとも一つの構造コードで分類される結晶性アルミノシリケートである。これらの結晶性ゼオライトは、主な骨格金属原子がアルミニウム(Al)及びケイ素(Si)であり、これらと酸素(O)のネットワークからなる構造を有する。そして、その構造は、X線回折データにより特徴付けられる。
【0078】
Cu未担持ゼオライトやCu担持ゼオライトの粒子径は、合成条件等により変動し得るため、特に限定されないが、表面積や取扱性等の観点から、これらの平均粒子径(D50)は0.01μm~20μmが好ましく、0.02~20μmがより好ましい。
【0079】
Cu未担持ゼオライトやCu担持ゼオライトのシリカアルミナ比は、適宜設定することができ、特に限定されないが、高温環境下或いは高温曝露後における熱的な耐久性や触媒活性等の観点から、7以上20以下が好ましく、より好ましくは8以上19以下、さらに好ましくは9以上18以下、特に好ましくは10以上17以下、殊に好ましくは11以上16未満、最も好ましくは12以上16未満である。シリカアルミナ比が上記好ましい数値範囲内のアルミノ珪酸塩とすることで、熱的な耐久性及び触媒活性が高次元でバランスした触媒或いは触媒担体が得られ易い傾向にある。
【0080】
一方、Cu担持小孔径ゼオライトにおける、Cuの含有量は、特に限定されないが、総量に対して0.1~10質量%が好ましく、より好ましくは0.5~8質量%である。
【0081】
また、Cu担持小孔径ゼオライト中の、遷移金属のアルミニウムに対する原子割合(遷移金属/アルミニウム)は、特に限定されないが、0.01~1.0が好ましく、より好ましくは0.05~0.7、さらに好ましくは0.1~0.5である。
【0082】
[P担持工程(S21)]
ここでは、Cu担持小孔径ゼオライトにPを共担持させる。リンの担持方法としては、リン酸及び有機塩基を少なくとも含有する処理液を予め準備しておき(S22)、Cu担持小孔径ゼオライトにこの処理液を付与することに行えばよい。このようにCu及びPを共担持することにより、各種用途における触媒として熱的耐久性を向上させることができる。触媒用途としては、例えば、排ガス浄化触媒、アルコールやケトンからの低級オレフィン製造用触媒、クラッキング触媒、脱ろう触媒、異性化触媒等が挙げられるが、これらに特に限定されない。特にCu-P共担持ゼオライトは、高温環境下或いは高温曝露後においても吸着性能や触媒性能等を比較的に高く維持可能であり、窒素酸化物還元触媒としての利用価値が高い。また、必要に応じて、Cu以外の遷移金属元素、例えば鉄(Fe)やタングステン(W)を担持することもできる。
【0083】
(処理液の調製S22)
ここで用いる処理液は、リン酸及び有機塩基を少なくとも含有するものである限り、その組成及び物性は、特に限定されない。ここで、リン酸は、オルトリン酸を意味する。必要に応じて、ピロリン酸等のリン酸類を併用してもよい。処理液としては、リンの担持効率を高める観点から、リン酸、有機塩基及び水を少なくとも含有する水溶液が好ましく用いられる。
【0084】
上述したとおり、上記の製造方法では、謂わば、予め中和されたリン酸水溶液を用いているため、上述したP担持処理の際のCuのフローが抑制され、結果として、ゼオライトに担持されているCuが高効率で維持されつつPを高効率で共担持することができる。かかる観点から、処理液のpHは、特に限定されないが、4~9であることが好ましく、より好ましくは5~8である。
【0085】
有機塩基は、予め中和されたリン酸水溶液を実現できるものである限り、その種類は特に限定されず、公知の有機塩基から適宜選択して用いることができる。有機塩基がCuに配位しやすい分子またはイオンであるとCuを錯化する可能性があり、また、有機塩基が強塩基であると水酸化銅の生成を促進する可能性がある、かかる観点から、有機塩基は、pKa(25℃)が5以上9以下の水溶性の単環式化合物であることが好ましく、より好ましくはpKa(25℃)が6以上8.5以下である。
【0086】
有機塩基の好適例としては、水溶性のヘテロ環式化合物が挙げられる。このようなヘテロ環式化合物としては、5員環又は6員環のヘテロ環式化合物が挙げられ、6員環のヘテロ環式化合物がより好ましい。有機塩基の具体例としては、例えば、ピリジン、2-ピコリン、3-ピコリン、4-ピコリン、2,6-ジメチルピリジン、N-メチルモルホリン、N-エチルモルホリン、イミダゾール、モルホリン等が挙げられるが、これらに特に限定されない。
【0087】
P担持処理の処理条件は、常法にしたがって行えばよい。例えば上述したCu担持小孔径ゼオライトに上述した処理液を含浸させる等して接触させることにより行えばよい。また、P担持処理後の熱処理温度は、室温(25℃)以上であればよく、特に限定されないが、リンの担持量を増大させる観点から、40℃以上で行うことが好ましく、より好ましくは60℃以上、さらに好ましくは80℃以上であり、上限温度は特に限定されないが180℃以下が目安となり、好ましくは150℃以下である。
【0088】
かくして得られる本実施形態のCu-P共担持ゼオライトは、小孔径ゼオライト及び前記小孔径ゼオライトに担持された骨格外銅原子と骨格外リン原子を少なくとも含有し、Cu及びPがゼオライトに高効率に共担持されていることにより、熱的耐久性が高められ、優れた触媒性能を発現する。
【0089】
ここで、本実施形態のCu-P共担持ゼオライトのシリカアルミナ比は、熱的耐久性及び触媒性能の観点から、7以上20以下が好ましく、より好ましくは8以上19以下、さらに好ましくは9以上18以下、特に好ましくは10以上17以下、殊に好ましくは11以上16未満、最も好ましくは12以上16未満である。なお、Cu-P共担持ゼオライトのSARの値は、使用する小孔径ゼオライトのSAR、小孔径ゼオライトの合成時のSi-Al元素源やSi元素源のSARや使用量、合成温度や時間等により適宜調整することができる。
【0090】
また、本実施形態のCu-P共担持ゼオライトにおいて、銅原子のT原子に対する比率(Cu/T)は、熱的耐久性及び触媒性能の観点から、0.005以上0.060以下が好ましく、より好ましくは0.010以上0.060以下、さらに好ましくは0.020以上0.055以下、特に好ましくは0.030以上0.050以下である。Cuの含有量が多いと、低温性能が向上する傾向にあるが、多すぎると高温性能が低下する傾向にあるため、所望性能に応じて、適宜調整すればよい。ここで、T原子とは、ゼオライト骨格中に存在するTetrahedral原子を意味し、本明細書ではSi原子とAl原子の総和を意味する。なお、Cu-P共担持ゼオライトのCu/Tの値は、使用する小孔径ゼオライトのSARに応じて、Cu担持処理時におけるCu塩の配合量や担持時間等により適宜調整することにより、所望の値に調整することができる。
【0091】
さらに、本実施形態のCu-P共担持ゼオライトにおいて、リン原子のT原子に対する比率(P/T)は、熱的耐久性及び触媒性能の観点から、0.005以上0.060以下が好ましく、より好ましくは0.010以上0.060以下、さらに好ましくは0.011以上0.050以下である。Pの含有量が多いと、低温性能が向上する傾向にあるが、多すぎると高温性能及び低温性能が低下する傾向にあるため、所望性能に応じて、適宜調整すればよい。なお、Cu-P共担持ゼオライトのP/Tの値は、使用する小孔径ゼオライトのSARに応じて、P担持処理時におけるリン酸の配合量や担持時間等を適宜調整することにより、所望の値に調整することができる。例えば、Cu-P共担持CHA型ゼオライトの場合は、P/Tは、特に好ましくは0.020以上0.055以下、最も好ましくは0.030以上0.050以下である。
【0092】
一方、本実施形態のCu-P共担持ゼオライトにおいて、リン原子の銅原子に対する比率(P/Cu)は、上述した理由により、0.1以上3以下が好ましく、より好ましくは0.3以上2.5以下、さらに好ましくは0.5以上2.0以下、特に好ましくは0.6以上1.5以下である。P/Cuが1.0以上において、Cu担持ゼオライトの余剰の骨格内Alがリンによって高度にプロテクトされ、殊に顕著な水熱耐久性が発現される傾向にある。なお、Cu-P共担持ゼオライトのP/Cu値は、使用する小孔径ゼオライトのSARに応じて、Cu担持処理時におけるCu塩の配合量や担持時間とP担持処理時におけるリン酸の配合量や担持時間とを適宜調整することにより、所望の値に調整することができる。例えば、Cu-P共担持CHA型ゼオライトの場合は、P/Cuは、殊に好ましくは0.7以上1.5以下であり、より殊に好ましくは1.0以上1.5以下であり、最も好ましくは1.1以上1.5以下である。
【0093】
また、本実施形態のCu-P共担持ゼオライトは、熱的耐久性及び触媒性能の観点から、粉末X線回折測定において10nm以上100nm以下の結晶子径を有するものが好ましく、より好ましくは12nm以上80nm以下、さらに好ましくは15nm以上70nm以下、特に好ましくは20nm以上60nm以下である。なお、Cu-P共担持ゼオライトの結晶子径は、所望の骨格構造のゼオライトに応じて処理温度を適宜設定すればよい。例えばCu-P共担持CHA型ゼオライトの場合、熱的耐久性及び触媒性能の観点から、粉末X線回折測定において10nm以上50nm以下の結晶子径を有するものが殊に好ましく、より殊に好ましくは15nm以上50nm以下、特に好ましくは15nm以上45nm以下、最も好ましくは15nm以上35nm以下である。
【0094】
さらに、本実施形態のCu-P共担持ゼオライトの粒子径は、合成条件等により変動し得るため、特に限定されないが、表面積や取扱性等の観点から、これらの平均粒子径(D50)は0.01μm~20μmが好ましく、0.02~20μmがより好ましい。
【0095】
なお、P担持処理の後、必要に応じて、固液分離処理、水洗処理、例えば大気中50~150℃程度の温度で水や有機塩基を除去する乾燥処理等を常法にしたがって行うことができる。このとき、水及び有機塩基を除去したCu-P共担持ゼオライトの組成は、下記式(I)で表されるものが触媒活性等の観点から好ましい。
SiO2・xAl23・yCuO・zP25・・・(I)
(式中、0.05≦x≦0.14、0.005≦y≦0.06、0.005≦z≦0.06である。)
【0096】
ここで、P担持処理後のCu-P共担持ゼオライトに、必要に応じて、350℃以上の焼成処理や200℃以上の高温乾燥処理をさらに行うこともできる。しかしながら、上記の製造方法においては、そのような焼成処理や高温乾燥処理が必須とされない点で、プロセス上の優位性がある。すなわち、このCu-P共担持ゼオライトは、そのまま触媒スラリーの原料として用いることができ、この場合には、従来法に比して1-2回以上の焼成プロセスが省略できるため、環境負荷が小さく、より簡易なプロセスで比較的に低コストにCu-P共担持ゼオライトを大量供給することが可能である。
【0097】
[用途]
以上詳述したとおり、本実施形態のCu-P共担持ゼオライトは、吸着剤、分離剤、イオン交換体、吸着剤、触媒、触媒担体等の用途において好適に用いることができる。とりわけ本実施形態のCu-P共担持ゼオライトは、熱的な耐久性に優れ、高温環境下或いは高温曝露後においても吸着性能や触媒性能等を比較的に高く維持可能であるため、高温環境下で使用される或いは高温曝露される用途において殊に好適に用いることができる。高温雰囲気下で使用する吸着剤としては、例えば水吸着剤、炭化水素吸着剤、窒素酸化物吸着剤等が挙げられるが、これらに特に限定されない。また、高温高湿雰囲気下で使用する触媒としては、例えばディーゼル自動車、ガソリン自動車、ジェットエンジン、ボイラー、ガスタービン等の排ガスを浄化する排ガス浄化用触媒或いはその触媒担体、窒素酸化物触媒或いはその触媒担体(窒素酸化物直接分解触媒、窒素酸化物還元触媒、これらの触媒担体等)が挙げられるが、これらに特に限定されない。
【0098】
また、Cu-P共担持ゼオライトは、とりわけ排ガス浄化用触媒として殊に有用であり、特にアンモニア、尿素、有機アミン類等を還元剤として用いる選択的還元触媒(Selective Catalytic Reduction触媒、SCR触媒)として特に好適に用いられる。すなわちCu-P共担持ゼオライトは、熱的な耐久性に優れるため、水熱耐久処理後の400℃以上600℃以下の高温域においても窒素酸化物の高い還元率を維持可能である。これに対し、従来公知の銅担持ゼオライトは、同高温域において窒素酸化物の還元率が大きく低減する。これらの対比から明らかなように、上述したCu-P共担持ゼオライトは、SCR触媒として用いる場合に高温域において高い還元率を示す点で、殊に顕著な効果を有する。
【0099】
なお、水熱耐久処理は、実使用における安定的な触媒性能を発揮させるために行う、触媒のエージング処理を意味し、本明細書においては、窒素酸化物の還元率の評価を行うにあたり、水分10体積%の水蒸気環境下において650℃で100時間の処理又は750℃で40時間の処理を行うものとする。そして水熱、650℃の水熱耐久処理後の窒素酸化物の還元率は、500℃で65%以上であることが好ましく、より好ましくは70%以上であり、75%以上であることが好ましく、より好ましくは80%以上であり、最も好ましくは85%以上である。また、750℃の水熱耐久処理後の窒素酸化物の還元率は、500℃で65%以上であることが好ましく、より好ましくは70%以上であり、75%以上であることが好ましく、より好ましくは78%以上であり、最も好ましくは80%以上である。
【0100】
また、好ましい実施態様においては、上述したCu-P共担持ゼオライトは、150℃以上400℃未満の低温領域においても、従来公知の銅担持ゼオライトと同等程度の窒素酸化物の還元率を発揮する。具体的には水熱、650℃の水熱耐久処理後の窒素酸化物の還元率は、200℃で70%以上であることが好ましく、より好ましくは75%以上であり、さらに好ましくは80%以上であり、特に好ましくは83%以上であり、最も好ましくは86%以上である。また、750℃の水熱耐久処理後の窒素酸化物の還元率は、200℃で65%以上であることが好ましく、より好ましくは70%以上であり、さらに好ましくは76%以上であり、特に好ましくは78%以上であり、最も好ましくは80%以上である。
【0101】
[排ガス浄化用触媒、排ガス浄化装置、排ガスの浄化方法]
排ガス浄化用触媒或いはその触媒担体として用いる場合、本実施形態のCu-P共担持ゼオライトは、粉末のまま用いることができる。また、例えば、粉末を任意の形状に成形することで、粒状やペレット状の成形体として用いることもできる。なお、成形体の作製時には、各種公知の分散装置、混練装置、成形装置を用いることができる。さらに、本実施形態のCu-P共担持ゼオライトを、コージェライト製、シリコンカーバイド製、窒化珪素製等の等のセラミックモノリス担体、ステンレス製等のメタルハニカム担体やワイヤメッシュ担体、スチールウール状のニットワイヤ担体等の触媒担体に保持(担持)させて用いることもできる。なお、これらは、1種のみを単独で、又は2種以上の任意の組み合わせ及び割合で用いることができる。触媒担体にCu-P共担持ゼオライトを保持させる際には、各種公知のコーティング法、ウォッシュコート法、ゾーンコート法を適用することができる。
【0102】
本実施形態のCu-P共担持ゼオライトは、排ガス浄化用触媒コンバータの触媒層に配合して用いることができる。例えばモノリス担体等の触媒担体上に本実施形態のCu-P共担持ゼオライトを含有する触媒層を設けることで実施可能である。また、排ガス浄化用触媒コンバータの触媒エリアは、触媒層が1つのみの単層であっても、2以上の触媒層からなる積層体であってもよい。さらに、1以上の触媒層と当業界で公知の1以上の他の層とを組み合わせた積層体のいずれでもよい。例えば、排ガス浄化用触媒コンバータが触媒担体上に酸素貯蔵層及び触媒層を少なくとも有する多層構成の場合には、少なくとも、触媒層に本実施形態のCu-P共担持ゼオライトを含有させることで、耐熱性及び三元浄化性能に優れる排ガス浄化用触媒コンバータとすることができる。排気ガス規制の強化の趨勢を考慮すると、層構成は、2層以上が好ましい。
【0103】
触媒層の形成方法は、常法にしたがって行えばよく、特に限定されない。一例を挙げると、本実施形態のCu-P共担持ゼオライトと、水系媒体と、必要に応じて当業界で公知のバインダー、他の触媒、助触媒粒子、OSC材、母材粒子、添加剤等とを所望の配合割合で混合して触媒スラリー(スラリー状混合物)を調製し、得られたスラリー状混合物を触媒担体の表面に付与し、乾燥、焼成することができる。この際、必要に応じてpH調整のために酸や塩基を配合したり、粘性の調整やスラリー分散性向上のための界面活性剤や分散用樹脂等を配合したりすることができる。なお、スラリーの混合方法としては、ボールミル等による粉砕混合が適用可能であるが、他の粉砕、或いは混合方法を適用することもできる。
【0104】
触媒担体へのスラリー状混合物の付与方法は、常法にしたがって行えばよく、特に限定されない。各種公知のコーティング法、ウォッシュコート法、ゾーンコート法を適用することができる。そして、スラリー状混合物の付与後においては、常法にしたがい乾燥や焼成を行うことにより、本実施形態のCu-P共担持ゼオライトを含有する触媒層を備える排ガス浄化用触媒コンバータを得ることができる。
【0105】
上述した排ガス浄化用触媒コンバータは、各種エンジンの排気系に配置することができる。排ガス浄化用触媒コンバータの設置個数及び設置箇所は、排ガス規制に応じて適宜設計できる。例えば、排ガスの規制が厳しい場合には、設置箇所を2以上とし、設置箇所は排気系の直下触媒の後方の床下位置に配置することができる。そして、本実施形態のCu-P共担持ゼオライトを含有する触媒組成物や排ガス浄化用触媒コンバータによれば、高温環境下においてもCO、HC、NOxの浄化反応に優れた効果を発揮することができる。すなわち、本実施形態のCu-P共担持ゼオライトによれば、HC、CO、及びNOxよりなる群から選択される少なくとも1種を含む排ガスを接触させることにより、排ガスを浄化することができる。
【実施例
【0106】
以下に試験例、実施例と比較例を挙げて本発明の特徴をさらに具体的に説明するが、本発明は、これらによりなんら限定されるものではない。すなわち、以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り、適宜変更することができる。また、以下の実施例における各種の製造条件や評価結果の値は、本発明の実施態様における好ましい上限値又は好ましい下限値としての意味をもつものであり、好ましい範囲は前記した上限又は下限の値と、下記実施例の値又は実施例同士の値との組み合わせで規定される範囲であってもよい。
【0107】
(実施例1)
<混合物の調製>
N,N,N-トリメチルアダマンタアンモニウム水酸化物25%水溶液(以降において、「TMAdaOH25%水溶液」と称することがある。)1,220.0gに、純水1,710g、Si-Al元素源である固体粉末状の非晶質合成ケイ酸アルミニウム(協和化学社製、合成ケイ酸アルミニウム、商品名:キョーワード(登録商標)700SEN-S、SAR:9.7)590g、Si元素源であるコロイダルシリカ(日産化学社製、商品名:Snowtex(登録商標)40、SiO2含有割合:39.7質量%)880.0g、水酸化ナトリウム(富士フイルム和光純薬社製、含量97%以上)74.0g、及びチャバザイト種結晶(SAR16)31.0gを加え、十分に混合し、原料組成物(混合物)を得た。原料組成物の組成は、モル比で、SiO2:0.053Al23:0.119TMAdaOH:0.095Na2O:15.1H2Oであった。
【0108】
<CHA型アルミノ珪酸塩の合成>
この原料組成物(混合物)を5,000ccのステンレス製オートクレーブ内に投入して密閉した後、300rpmで攪拌しながら、170℃まで昇温し55時時間保持した。この水熱処理後の生成物を固液分離し、得られた固相を十分量の水で洗浄し、105℃で乾燥して生成物を得た。粉末X線回折分析を行ったところ、生成物は純粋なCHA型アルミノ珪酸塩、すなわち、チャバザイト型の合成ゼオライトの単相であることが確認された。蛍光X線分析を行ったところ、得られた実施例1のCHA型アルミノ珪酸塩のシリカアルミナ比(SiO2/Al23)は、15.5であった。
【0109】
<CHA型アルミノ珪酸塩の焼成及びイオン交換>
得られた実施例1のCHA型アルミノ珪酸塩を600℃で焼成後、これと同量の硝酸アンモニウム及び10倍量の水を含む硝酸アンモニウム水溶液を用いてイオン交換を2回繰り返した後、十分量の純水で洗浄し、120℃で乾燥することでNH4 +型のCHA型アルミノ珪酸塩(NH4 +型のCHA型ゼオライト)を得た。
【0110】
<Cu担持、P担持>
得られた実施例1のNH4 +型のCHA型アルミノ珪酸塩170gに、50%硝酸銅3水和物水溶液41gと水45gの混合物を含浸させた後、100~120℃で乾燥した。これに、85%リン酸12gとモルホリン17gと水35gの混合物(処理液、pH=7.5)を25℃の環境下で含浸させて、再び100~120℃で乾燥することで、実施例1のCu-P共担持CHA型アルミノ珪酸塩(Cu-P共担持CHA型ゼオライト)を得た。蛍光X線分析によって測定された固形分換算のCuの担持量は3.4質量%、Pの担持量は2.2質量%であった。
<ハニカム積層触媒の製造>
その後、得られた実施例1のCu-P共担持CHA型アルミノ珪酸塩を用いる以外は、実施例1と同様にして、実施例1のハニカム積層触媒を得た。
【0111】
(実施例2)
<混合物の調製>
TMAdaOH25%水溶液930.0gに、純水2,080g、Si-Al元素源である固体粉末状の非晶質合成ケイ酸アルミニウム(協和化学社製、合成ケイ酸アルミニウム、商品名:キョーワード(登録商標)700PEL、SAR:10.0)826g、Si元素源であるコロイダルシリカ(日産化学社製、商品名:Snowtex(登録商標)40、SiO2含有割合:39.7%)320.0g、48%水酸化ナトリウム(関東化学社製)133.0g、及びチャバザイト種結晶(SAR10)23.0gを加え、十分に混合し、原料組成物(混合物)を得た。原料組成物の組成は、モル比で、SiO2:0.081Al23:0.100TMAdaOH:0.100Na2O:16.0H2Oであった。
【0112】
<CHA型アルミノ珪酸塩の合成>
この原料組成物(混合物)を5,000ccのステンレス製オートクレーブ内に投入して密閉した後、300rpmで攪拌しながら、160℃まで昇温し48時間保持後、170℃で24時間保持した。この水熱処理後の生成物を固液分離し、得られた固相を十分量の水で洗浄し、105℃で乾燥して生成物を得た。粉末X線回折分析を行ったところ、生成物は純粋なCHA型アルミノ珪酸塩、すなわち、チャバザイト型の合成ゼオライトの単相であることが確認された。蛍光X線分析を行ったところ、得られた実施例2のCHA型アルミノ珪酸塩のシリカアルミナ比(SiO2/Al23)は、11.3であった。
【0113】
<CHA型アルミノ珪酸塩のイオン交換>
得られた実施例2のCHA型アルミノ珪酸塩を用いた以外は、実施例1と同様に行った。
【0114】
<Cu担持、P担持>
得られた実施例2のNH4 +型のCHA型アルミノ珪酸塩120gに、50%硝酸銅3水和物水溶液34.6gと水26gの混合溶液を含浸させた後、105℃で乾燥した。これに、85%リン酸8gとモルホリン12gと水40gの混合物(処理液、pH=7.6)を25℃の環境下で含浸させて、再び100~120℃で乾燥することで、実施例2のCu-P共担持CHA型アルミノ珪酸塩(Cu-P共担持CHA型ゼオライト)を得た。蛍光X線分析によって測定された固形分換算のCuの担持量は3.7質量%、Pの担持量は2.0質量%であった。
【0115】
<ハニカム積層触媒の製造>
その後、得られた実施例2のCu-P共担持CHA型アルミノ珪酸塩を用いる以外は、実施例1と同様にして、実施例2のハニカム積層触媒を得た。
【0116】
(比較例1)
<混合物の調製>
TMAdaOH25%水溶液560.0gに、純水3,735g、Al元素源である固体粉末状のアルミン酸ナトリウム(富士フイルム和光純薬工業社製)52.0g、Si元素源であるケイ酸ナトリウム溶液(日本化学工業社製、Jケイ酸ソーダ3号)109.0gおよび沈降シリカ(東ソー・シリカ社製、商品名:Nipsil(登録商標)ER)305.0g、及びチャバザイト種結晶(SAR13)10.0gを加え、十分に混合し、原料組成物(混合物)を得た。原料組成物の組成は、モル比で、SiO2:0.053Al23:0.125TMAdaOH:0.095Na2O:44.0H2Oであった。
【0117】
<CHA型アルミノ珪酸塩の合成>
この原料組成物(混合物)を5,000ccのステンレス製オートクレーブ内に投入して密閉した後、300rpmで攪拌しながら、160℃まで昇温し96時間保持した。この水熱処理後の生成物を固液分離し、得られた固相を十分量の水で洗浄し、105℃で乾燥して生成物を得た。粉末X線回折分析を行ったところ、生成物は純粋なCHA型アルミノ珪酸塩、すなわち、チャバザイト型の合成ゼオライトの単相であることが確認された。蛍光X線分析を行ったところ、得られた比較例1のCHA型アルミノ珪酸塩のシリカアルミナ比(SiO2/Al23)は、16.3であった。
【0118】
<CHA型アルミノ珪酸塩のイオン交換>
得られた比較例1のCHA型アルミノ珪酸塩を用いる以外は、実施例1と同様に行った。
【0119】
<Cu担持及び高温乾燥処理>
得られた比較例1のNH4 +型のCHA型アルミノ珪酸塩160gに、25%硝酸銅3水和物水溶液84gを含浸させた後、105℃で乾燥し、さらに200℃で16時間の高温乾燥処理を施すことで、比較例1のCu担持CHA型アルミノ珪酸塩(Cu担持CHA型ゼオライト)を得た。蛍光X線分析によって測定された固形分換算のCuの担持量は3.9質量%であった。
【0120】
<ハニカム積層触媒の製造>
その後、得られた比較例1のCu担持CHA型アルミノ珪酸塩を用いる以外は、実施例1と同様にして、比較例1のハニカム積層触媒を得た。
【0121】
(比較例2)
<混合物の調製>
TMAdaOH25%水溶液1,125.0gに、純水2,990g、Si-Al元素源である固体粉末状の非晶質合成ケイ酸アルミニウム(協和化学社製、合成ケイ酸アルミニウム、商品名:キョーワード(登録商標)700SL、SAR:9.7)630g、Si元素源である沈降シリカ(東ソー・シリカ社製、商品名:Nipsil(登録商標)ER)340.0g、水酸化ナトリウム(含量97%以上)85.0g、及びチャバザイト種結晶(SAR13)30.0gを加え、十分に混合し、原料組成物(混合物)を得た。原料組成物の組成は、モル比で、SiO2:0.059Al23:0.109TMAdaOH:0.100Na2O:18.1H2Oであった。
【0122】
<CHA型アルミノ珪酸塩の合成>
この原料組成物(混合物)を5,000ccのステンレス製オートクレーブ内に投入して密閉した後、300rpmで攪拌しながら、160℃まで昇温し48時間保持した後、さらに170℃で48時間保持した。この水熱処理後の生成物を固液分離し、得られた固相を十分量の水で洗浄し、105℃で乾燥して生成物を得た。粉末X線回折分析を行ったところ、生成物は純粋なCHA型アルミノ珪酸塩、すなわち、チャバザイト型の合成ゼオライトの単相であることが確認された。蛍光X線分析を行ったところ、得られた比較例2のCHA型アルミノ珪酸塩のシリカアルミナ比(SiO2/Al23)は、15.4であった。
【0123】
<CHA型アルミノ珪酸塩のイオン交換>
得られた比較例2のCHA型アルミノ珪酸塩を用いる以外は、実施例1と同様に行った。
【0124】
<Cu担持及び焼成処理>
得られた比較例2のNH4 +型のCHA型アルミノ珪酸塩220gに、25%硝酸銅3水和物水溶液46gと水64gを含浸させた後、105℃で乾燥し、さらに500℃で4時間の焼成処理を施すことで、比較例2のCu担持CHA型アルミノ珪酸塩(Cu担持CHA型ゼオライト)を得た。
【0125】
<ハニカム積層触媒の製造>
その後、得られた比較例2のCu担持CHA型アルミノ珪酸塩を用いる以外は、実施例1と同様にして、比較例2のハニカム積層触媒を得た。
【0126】
(比較例3)
<Cu担持>
実施例2のNH4 +型のCHA型アルミノ珪酸塩120gに、50%硝酸銅3水和物水溶液34.6gと水26gの混合溶液を含浸させた後、100~120℃で乾燥した。これにモルホリン12.0gと水48gの混合溶液(pH11.0)を含浸させて再び100~120℃で乾燥することで、比較例3のCu担持CHA型アルミノ珪酸塩(Cu担持CHA型ゼオライト)を得た。
【0127】
<ハニカム積層触媒の製造>
その後、得られた比較例3のCu担持CHA型アルミノ珪酸塩を用いる以外は、実施例1と同様にして、比較例3のハニカム積層触媒を得た。
【0128】
<窒素酸化物還元効率のラボ測定>
前記ハニカム積層触媒(Cu担持CHA型アルミノ珪酸塩をハニカム担体に塗布した積層触媒)を直径25.4mmφ×長さ50mmの円柱状に切り出して各測定サンプルとし、これらをガス加湿装置(商品名RMG-1000、株式会社ジェイ・サイエンス・ラボ製)を接続した電気炉(商品名OXK-600X、株式会社共栄電気炉製作所製)に入れて、10%水蒸気を含むAirを70L/minの流量供給下650℃で100時間保持して又は750℃で40時間保持して、水熱耐久をそれぞれ行った。この水熱耐久後サンプルを触媒評価装置(商品名SIGU-2000、株式会社堀場製作所製)にセットして、ガス組成を自動車排ガス測定装置(商品名MEXA-6000FT,株式会社堀場製作所製)で分析することでモデルガスの定常気流中で窒素酸化物還元効率をそれぞれ測定した。ここでは、210ppmのNO、40ppmのNO2、250ppmのNH3、4%のH2O、10%のO2、残部N2でバランスしたモデルガスを用い、測定は170℃~500℃の温度範囲で行い、空間速度SV=59,000h-1で行った。
【0129】
表1に、結果を示す。
【表1】
【0130】
(実施例3)
<混合物の調製>
1,1,3,5-テトラメチルピペリジニウム水酸化物20%水溶液(Sachem社製、以降において「TMPOH20%水溶液」と称することがある。)1,270.0gに、純水1,060g、Si-Al元素源であるFAU型ゼオライト(Zeolyst社製、商品名:CBV-712、SAR10.9)166.0g、及びSi元素源であるJケイ酸ナトリウム3号溶液(日本化学工業社製、SiO2含有割合:29.0質量%)1,830.0g、を加え、十分に混合し、原料組成物(混合物)を得た。原料組成物の組成は、モル比で、SiO2:0.016Al23:0.152TMPOH:0.261Na2O:16.7H2Oであった。
【0131】
<AEI型アルミノ珪酸塩の合成>
この原料組成物(混合物)を5,000ccのステンレス製オートクレーブ内に投入して密閉した後、200rpmで攪拌しながら、150℃まで昇温し96時間保持し、さらに160℃へ昇温し24時間保持した。この水熱処理後の生成物を固液分離し、得られた固相を十分量の水で洗浄し、105℃で乾燥して生成物を得た。粉末X線回折分析を行ったところ、生成物は純粋なAEI型アルミノ珪酸塩の単相であることが確認された。蛍光X線分析を行ったところ、得られた実施例3のAEI型アルミノ珪酸塩のシリカアルミナ比(SiO2/Al23)は、14.3であった。
【0132】
<AEI型アルミノ珪酸塩の焼成及びイオン交換>
得られた実施例3のAEI型アルミノ珪酸塩を594℃で焼成後、これと同量の硝酸アンモニウム及び10倍量の水を含む硝酸アンモニウム水溶液を用いてイオン交換を2回繰り返した後、十分量の純水で洗浄し、120℃で乾燥することでNH4 +型のAEI型アルミノ珪酸塩(NH4 +型のAEI型ゼオライト)を得た。
【0133】
<Cu担持、P担持>
得られたNH4 +型のAEI型アルミノ珪酸塩149gに、50%硝酸銅3水和物水溶液39.5gと水35gの混合物を含浸させた後、100~120℃で乾燥した。これに、85%リン酸6gとモルホリン12gと水62gの混合物(処理液、pH=7.5)を25℃の環境下で含浸させて、再び100~120℃で乾燥することで、実施例3のCu-P共担持AEI型アルミノ珪酸塩(Cu-P共担持AEI型ゼオライト)を得た。蛍光X線分析によって測定された固形分換算のCuの担持量は3.9質量%、Pの担持量は1.2質量%であった。
【0134】
<ハニカム積層触媒の製造>
得られた実施例3のCu-P共担持AEI型アルミノ珪酸塩を、ハニカム担体1Lあたり180gの担持比率となるようにハニカム担体にウェット塗布し、その後に500℃で焼成することで、Cu-P共担持AEI型アルミノ珪酸塩を含む触媒層がハニカム担体上に設けられた、実施例3のハニカム積層触媒を得た。
【0135】
(比較例4)
実施例3と同様にして得られたNH4 +型のAEI型アルミノ珪酸塩を用い、Cu担持時にリン酸の配合を省略してP担持を行わないこと以外は、実施例3と同様に行い、比較例4のCu担持AEI型アルミノ珪酸塩(Cu担持AEI型ゼオライト)を得た。蛍光X線分析によって測定された固形分換算のCuの担持量は4.0質量%であった。また、この比較例4のCu担持AEI型アルミノ珪酸塩を用いること以外は、実施例3と同様に行い、比較例4のハニカム積層触媒を得た。
【0136】
実施例3及び比較例4のハニカム積層触媒について、実施例1と同様に性能評価を行った。表2に、結果を示す。
【表2】
【0137】
(実施例4)
<混合物の調製>
テトラプロピルアンモニウム水酸化物40%水溶液(以降において、「TPAOH40%水溶液」と称することがある。)2,050.0gに、純水700g、Al元素源である固体粉末状の水酸化アルミニウム(シグマ・アルドリッチ社製)107g、及びSi元素源であるアモルファスシリカ(東ソー・シリカ社製、商品名:Nipsil(登録商標)E200A、SiO2含有割合:93.8質量%)650.0gを加え十分に混合した後、95℃で24時間保持した。これに、純水250.0g、塩化ヘキサメトニウム2水和物(東京化成工業社製)を純水630.0gに溶解した溶液、及び水酸化カリウム(富士フイルム和光純薬社製、含量85%以上)60.0gを純水130.0gに溶解した溶液をそれぞれ加え、十分に混合し、原料組成物(混合物)を得た。原料組成物の組成は、モル比で、SiO2:0.060Al23:0.397TPAOH:0.105ヘキサメトニウム:0.046K2O:16.6H2Oであった。
【0138】
<ERI型アルミノ珪酸塩の合成>
この原料組成物(混合物)を5,000ccのステンレス製オートクレーブ内に投入して密閉した後、70rpmで攪拌しながら、125℃まで昇温し120時間保持した。この水熱処理後の生成物を固液分離し、得られた固相を十分量の水で洗浄し、105℃で乾燥して生成物を得た。粉末X線回折分析を行ったところ、生成物は純粋なERI型アルミノ珪酸塩の単相であることが確認された。蛍光X線分析を行ったところ、得られた実施例4のERI型アルミノ珪酸塩のシリカアルミナ比(SiO2/Al23)は、14.3であった。
【0139】
<ERI型アルミノ珪酸塩の焼成及びイオン交換>
得られた実施例4のERI型アルミノ珪酸塩を550℃で焼成後、これの1.5倍量の硝酸アンモニウム及び10倍量の水を含む硝酸アンモニウム水溶液を用いてイオン交換を3回繰り返した後、十分量の純水で洗浄し、120℃で乾燥することでNH4 +型のERI型アルミノ珪酸塩(NH4 +型のERI型ゼオライト)を得た。
【0140】
<Cu担持、P担持>
得られたNH4 +型のERI型アルミノ珪酸塩132gに、50%硝酸銅3水和物水溶液26.3gと水40gの混合物を含浸させた後、100~120℃で乾燥した。これに、85%リン酸3.1gとモルホリン9.3gと水49.3gの混合物(処理液、pH=7.6)を25℃の環境下で含浸させて、再び100~120℃で乾燥することで、実施例4のCu-P共担持ERI型アルミノ珪酸塩(Cu-P共担持ERI型ゼオライト)を得た。蛍光X線分析によって測定された固形分換算のCuの担持量は2.8質量%、Pの担持量は1.3質量%であった。
【0141】
<ハニカム積層触媒の製造>
得られた実施例4のCu-P共担持ERI型アルミノ珪酸塩を、ハニカム担体1Lあたり180gの担持比率となるようにハニカム担体にウェット塗布し、その後に500℃で焼成することで、Cu-P共担持ERI型アルミノ珪酸塩を含む触媒層がハニカム担体上に設けられた、実施例4のハニカム積層触媒を得た。
【0142】
(比較例5)
実施例4で得られたNH4 +型のERI型アルミノ珪酸塩を用い、Cu担持時にリン酸の配合を省略してP担持を行わないこと以外は、実施例4と同様に行い、比較例5のCu担持ERI型アルミノ珪酸塩(Cu担持ERI型ゼオライト)を得た。蛍光X線分析によって測定された固形分換算のCuの担持量は2.9質量%であった。また、この比較例5のCu担持ERI型アルミノ珪酸塩を用いること以外は、実施例4と同様に行い、比較例5のハニカム積層触媒を得た。
【0143】
実施例4及び比較例5のハニカム積層触媒について、実施例1と同様に性能評価を行った。表3に、結果を示す。
【表3】
【産業上の利用可能性】
【0144】
本発明のCu-P共担持ゼオライトは、熱的な耐久性に優れ、高温環境下或いは高温曝露後においても吸着性能や触媒性能等を比較的に高く維持可能であるため、吸着剤、分離剤、イオン交換体、吸着剤、触媒、触媒担体等の用途において広く且つ有効に利用することができる。とりわけ、本発明のCu-P共担持ゼオライトは、苛酷な使用環境に曝されるディーゼル自動車、ガソリン自動車、ジェットエンジン、ボイラー、ガスタービン等の排ガスを浄化する排ガス浄化用触媒或いはその触媒担体、窒素酸化物触媒或いはその触媒担体等として、殊に有効に利用可能である。