(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-13
(45)【発行日】2024-09-25
(54)【発明の名称】リジッド・フレックス多層プリント配線板の折り曲げ装置及び折り曲げ方法
(51)【国際特許分類】
H05K 3/46 20060101AFI20240917BHJP
【FI】
H05K3/46 Y
H05K3/46 L
(21)【出願番号】P 2021002438
(22)【出願日】2021-01-08
【審査請求日】2023-12-05
(73)【特許権者】
【識別番号】000228833
【氏名又は名称】日本シイエムケイ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000084
【氏名又は名称】弁理士法人アルガ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】蓑輪 努
【審査官】沼生 泰伸
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-135043(JP,A)
【文献】実開昭57-104562(JP,U)
【文献】特公昭31-001112(JP,B1)
【文献】特開2008-246533(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2020/0120792(US,A1)
【文献】特開2008-182169(JP,A)
【文献】国際公開第2019/194142(WO,A1)
【文献】国際公開第2007/013595(WO,A1)
【文献】特開2014-203876(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05K 3/46
H05K 1/00- 1/02
B21D 5/00- 9/18
B29C 53/00-53/84
B29C 57/00-59/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
リジッド基板部と屈曲可能なフレキシブル基板部とを備えたリジッド・フレックス多層プリント配線板を折り曲げる折り曲げ装置であって、
一方のリジッド基板部を固定する基準テーブルと、他方のリジッド基板部を固定する前記基準テーブルと略同一の高さの可動テーブルと、前記基準テーブルの上方にフレキシブル基板部を介して配置される屈曲加工部材とを備え、
前記屈曲加工部材は、フレキシブル基板部側に円弧面、及びリジッド基板部側に平坦面を有することを特徴とする折り曲げ装置。
【請求項2】
前記屈曲加工部材の円弧面は、フレキシブル基板部を折り曲げた際のフレキシブル基板部の曲率半径に対応する曲率半径を有することを特徴とする請求項1記載の折り曲げ装置。
【請求項3】
前記屈曲加工部材は上面に平坦面を有することを特徴とする請求項1又は2記載の折り曲げ装置。
【請求項4】
リジッド基板部と屈曲可能なフレキシブル基板部とを備えたリジッド・フレックス多層プリント配線板を折り曲げる方法であって、
一方のリジッド基板部を基準テーブルに固定すると共に、他方のリジッド基板部を前記基準テーブルと略同一の高さの可動テーブルに固定する工程と、フレキシブル基板部側に円弧面、及びリジッド基板部側に平坦面を有する屈曲加工部材を、前記基準テーブル上のリジッド基板部とフレキシブル基板部の境界部分に押し当てる工程と、前記可動テーブルを、フレキシブル基板部が屈曲加工部材の円弧面の円弧に沿って折り曲がるように移動させる工程とを有することを特徴とするリジッド・フレックス多層プリント配線板の折り曲げ方法。
【請求項5】
前記屈曲加工部材の円弧面は、フレキシブル基板部を折り曲げた際のフレキシブル基板部の曲率半径に対応する曲率半径を有することを特徴とする請求項4記載のリジッド・フレックス多層プリント配線板の折り曲げ方法。
【請求項6】
前記屈曲加工部材は上面に平坦面を有することを特徴とする請求項4又は5記載のリジッド・フレックス多層プリント配線板の折り曲げ方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、硬質なリジッド基板部と屈曲可能なフレキシブル基板部とを備えたリジッド・フレックス多層プリント配線板、特に多層リジッド基板を切削加工し、当該切削加工で薄層化された部分をフレキシブル基板部として利用するセミフレックスタイプのリジッド・フレックス多層プリント配線板の折り曲げ装置及び折り曲げ方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、機器の小型化、小型化による低コスト化が進められている。車載機器においても例外ではなく、その流れがある。
このような流れの中、最近では、プリント配線板を折り曲げることでプリント配線板の専有面積を減らし、機器を小型化したいという問い合わせが増えてきている。折り曲げ可能なプリント配線板としては、リジッド・フレックス多層プリント配線板がある。
しかし、従来のリジッド・フレックス多層プリント配線板は、屈曲可能なポリイミド樹脂から成るフレキシブル基材を利用したフレキシブル基板部を有しており、容易に折り曲げることができるが、積層工程での基材の熱収縮の差に起因して、貫通めっきスルーホールの接続信頼性が劣るという欠点を有していた。そのため、車載機器の場合、車載カメラ用としては用いられているものの、耐熱性、かつ高信頼性求められるものにおいては、適用が困難であった。
【0003】
そこで、多層プリント配線板の一部をザグリ加工により薄層化する、あるいはリジッド基板部を刳り貫き加工することにより薄層化し、この部分を屈曲させるというリジッド・フレックス多層プリント配線板(以降これを「セミフレックス基板」と呼んで説明を進めていく)の適用が検討されている(例えば、特許文献1)。
しかし、セミフレックス基板は、リジッド基板部を薄層化させその部分を屈曲させるため、以下のような問題があった。
すなわち、基板中央部を薄層化した弱い部分から曲がり、中央部で曲がるとは限らず、屈曲部の位置が安定しない。また、薄層化した部分がある程度の剛性を持つため、曲がった部分に力が集中し、薄層化した部分全体で曲がるのではなく、部分的に曲がりその角度が鋭角になってしまい、屈曲部の角度が鋭角になることがあった。
更に、実用上、基板を屈曲する場合は、片側の基板を固定し、フリーな方の基板を動かし薄層部を屈曲するが、その場合、リジッド基板部とフレキシブル基板部の境界部から曲がる可能性が高く、その境界部分に力が集中し基板が破損する恐れがあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記の如き従来の問題に鑑みてなされたものであり、フレキシブル基板部を硬質な絶縁樹脂層で形成した場合においても、フレキシブル基板部の破損を抑制できるセミフレックスタイプのリジッド・フレックス多層プリント配線板の折り曲げ装置及び折り曲げ方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、フレキシブル基板部側に円弧面、及びリジッド基板部側に平坦面を有する屈曲加工部材を用いて、フレキシブル基板部を当該屈曲加工部材の円弧面の円弧に沿って折り曲がるように折り曲げれば、極めて良い結果が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち、本発明は、リジッド基板部と屈曲可能なフレキシブル基板部とを備えたリジッド・フレックス多層プリント配線板を折り曲げる折り曲げ装置であって、
一方のリジッド基板部を固定する基準テーブルと、他方のリジッド基板部を固定する前記基準テーブルと略同一の高さの可動テーブルと、前記基準テーブルの上方にフレキシブル基板部を介して配置される屈曲加工部材とを備え、
前記屈曲加工部材は、フレキシブル基板部側に円弧面、及びリジッド基板部側に平坦面を有することを特徴とする折り曲げ装置により上記課題を解決したものである。
また、本発明は、リジッド基板部と屈曲可能なフレキシブル基板部とを備えたリジッド・フレックス多層プリント配線板を折り曲げる方法であって、
一方のリジッド基板部を基準テーブルに固定すると共に、他方のリジッド基板部を前記基準テーブルと略同一の高さの可動テーブルに固定する工程と、フレキシブル基板部側に円弧面、及びリジッド基板部側に平坦面を有する屈曲加工部材を、前記基準テーブル上のリジッド基板部とフレキシブル基板部の境界部分に押し当てる工程と、前記可動テーブルを、フレキシブル基板部が屈曲加工部材の円弧面の円弧に沿って折り曲がるように移動させる工程とを有することを特徴とするリジッド・フレックス多層プリント配線板の折り曲げ方法により上記課題を解決したものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明のフレキシブル基板部側に円弧面を有する屈曲加工部材を用い、フレキシブル基板部が当該屈曲加工部材の円弧面の円弧に沿って折り曲がるようにすれば、フレキシブル基板部を折り曲げる際に、リジッド基板部とフレキシブル基板部の境界部分に力が集中することを回避できるので、フレキシブル基板部を硬質な絶縁樹脂層で形成したセミフレックスタイプのリジッド・フレックス多層プリント配線板でも、フレキシブル基板部に破損が発生することを抑制することが可能となる。また、フレキシブル基板部全体で、中央部で曲がるため、屈曲部の角度が鋭角になることもない。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の実施の形態に係るリジッド・フレックス多層プリント配線板(セミフレックス基板)の概略断面説明図。
【
図2】本発明折り曲げ装置の実施の形態を示す概略断面説明図。
【
図3】本発明折り曲げ装置を用いたリジッド・フレックス多層プリント配線板の折り曲げ方法を説明するための概略断面説明図。(a)は可動テーブルを移動させた状態を示し、(b)はフレキシブル基板部を折り曲げ角度180度で折り曲げた状態を示す。
【
図4】(a)は屈曲加工部材の変形例で、(b)、(c)は当該屈曲加工部材を備えた折り曲げ装置を用いたリジッド・フレックス多層プリント配線板の折り曲げ方法を説明するための概略断面説明図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下本発明の実施の形態を図面と共に説明する。
【0011】
始めに、リジッド・フレックス多層プリント配線板について
図1を用いて説明する。
図1において、Pはリジッド・フレックス多層プリント配線板で、硬質のリジッド基板部Rと折り曲げ可能なフレキシブル基板部Fとから構成されている。
当該リジッド基板部Rは、少なくとも、貫通めっきスルーホール11を備え、その絶縁基材13は、ガラスクロス12に樹脂を含浸せしめたものの積層体から成ると共に、当該積層工程の熱プレスにより硬化されている。
また、フレキシブル基板部Fも、リジッド基板部Rと同様に、絶縁基材13は、ガラスクロス12に樹脂を含浸せしめ、予め硬化したものが用いられ、更にそのルーター加工による切削加工、あるいは刳り貫き加工により、折り曲げ可能な厚みまで薄く加工されている。
このように、全層に絶縁基材13を使用すると、製造工程での基材の熱収縮の差が無くなるため、高密度で精度の高いプリント配線板を製造することが可能となる。特に、車載基板で要求される剛性を保つためには、フレキシブル基板部Fにおいても絶縁基材13を使用することが効果的である。さらに、リジッド・フレックス多層プリント配線板Pを、フレキシブル基板部Fを中心に折り曲げ筐体に収納し固定する際の横の捩れに対しても強く、絶縁基板上の導体回路15が断線するのを防ぐ効果がある。
また、フレキシブル基板部Fの薄層化加工をルーター加工により行うと、刳り貫き加工と比べて、10μmから30μm程度の凹凸がフレキシブル基板の切削加工面14側に形成されるため、後述する本発明の折り曲げ装置及び折り曲げ方法を利用して折り曲げる際にフレキシブル基板部に破損が発生しにくくなる。
【0012】
続いて、リジッド・フレックス多層プリント配線板の折り曲げ装置について
図2を用いて説明する。
図2において、20は折り曲げ装置で、当該折り曲げ装置20は、一方のリジッド基板部21を固定する基準テーブル22と、他方のリジッド基板部23を固定する基準テーブル22と略同一の高さの可動テーブル24と、基準テーブル22の上方にフレキシブル基板部を25介して配置される屈曲加工部材26とから構成されている。
【0013】
当該基準テーブル22、可動テーブル24は、そのテーブル上にリジッド・フレックス多層プリント配線板のリジッド基板部21、23をそれぞれ固定できるものであれば特に制限されない。
当該基準テーブル22には、リジッド基板部21を固定する際にリジッド基板部21がズレないように、突き当て部(図示なし)を設けてもよい。また、当該基準テーブル22と可動テーブル24は、リジッド基板部21、23の固定のし易さを考慮して、磁石を備えていてもよい。
当該可動テーブル24の高さは、基準テーブル22と略同一の高さである。この略同一の高さは、基準テーブル22の高さと可動テーブルの高さとの差が0~0.5mmである。
これ以上基準テーブル22の高さと可動テーブルの高さとの差があると、屈曲加工部材26の円弧面に沿って折り曲げることが困難となる場合がある。
【0014】
図2に示すように、当該屈曲加工部材26は、フレキシブル基板部25側に円弧面、及びリジッド基板部21側に平坦面を有する。その結果、フレキシブル基板部25を当該円弧面の円弧に沿って折り曲げることができ、リジッド基板部21とフレキシブル基板部25の境界部分27に力が集中することを回避できるので、フレキシブル基板部25に破損が発生することを抑制することできる。
当該屈曲加工部材26の円弧面は、フレキシブル基板部25を折り曲げた際のフレキシブル基板部25の曲率半径に対応する曲率半径を有することが、フレキシブル基板部25全体を、またフレキシブル基板部25の中央部で折り曲げる上で望ましい。
例えば、フレキシブル基板部25の長さが10mmで、且つフレキシブル基板部25の折り曲げ角度が180度である場合、フレキシブル基板部25を折り曲げた際のフレキシブル基板部25の曲率半径はR=3.18であり、この時の屈曲加工部材26の円弧面の曲率半径はR=3.0とする。
また、フレキシブル基板部25の長さが15mmで、且つフレキシブル基板部25の折り曲げ角度が180度である場合、フレキシブル基板部25を折り曲げた際のフレキシブル基板部25の曲率半径はR=4.78であり、この時の屈曲加工部材26の円弧面の曲率半径はR=4.5とする。
【0015】
屈曲加工部材26には、極力変形しないことが必要である。材料的には、SK105(旧SK3)などの炭素工具鋼、SKS3などの合金工具鋼、SUS440Cなどのマルテンサイト系ステンレス鋼を用いることができる。さらに、その硬度を上げるために焼入れ戻しを行った炭素工具鋼、合金工具鋼、マルテンサイト系ステンレス鋼を用いることが望ましい。
【0016】
この実施の形態においては、断面視で半円状の屈曲加工部材26を示しているが、その形状は断面視で扇形であれば特に限定されず、フレキシブル基板部25の折り曲げ角度に応じて、例えば、断面視で中心角90度の扇形の形状等任意に選択することができる。
【0017】
続いて、折り曲げ装置を用いて、リジッド・フレックス多層プリント配線板を折り曲げる方法について
図3(a)、(b)を用いて説明する。
先ず、一方のリジッド基板部21を基準テーブル22に固定すると共に、他方のリジッド基板部23を基準テーブル21と略同一の高さの可動テーブル24に固定する(
図2)。リジッド基板部21、23を各テーブルに固定する方法としては特に限定されないが、リジッド基板部21、23の固定のし易さを考慮して、磁石を用いることが望ましい。例えば、基準テーブル22と可動テーブル24に磁石を備え、当該磁石でリジッド基板部21、23の配線回路を吸着、固定する。
【0018】
次に、
図3(a)に示すように、フレキシブル基板部25側に円弧面、及びリジッド基板部21側に平坦面を有する屈曲加工部材26の端を、基準テーブル22上のリジッド基板部21とフレキシブル基板部25との境界部分27に押し当てる。
【0019】
次に、
図3(a)~(b)に示すように、可動テーブル24を、フレキシブル基板部25が屈曲加工部材26の円弧面の円弧に沿って折り曲がるように移動させることによって、フレキシブル基板部25を折り曲げる。フレキシブル基板部25が徐々に折り曲がるように可動テーブル24を移動させることが、フレキシブル基板部の破損を抑制する上で望ましい。
【0020】
ここで、リジッド基板部21、23の絶縁基材の厚さによっては、可動テーブル24を、フレキシブル基板部25が屈曲加工部材26の円弧面の円弧に沿って折り曲がるように移動させる際に、リジッド基板部23が屈曲加工部材26の一部に触れて、フレキシブル基板部25を所望する折り曲げ角度に折り曲げすることができない場合が考えられる。
リジッド基板部23が屈曲加工部材26に触れる恐れがある場合は、
図4(a)に示すように、屈曲加工部材の両端(円弧端)の一方の面の角度をおとす加工をして、当該面を平坦面としてもよい。面の角度は、例えば、屈曲加工部材の中心へ向かって0.5mm程おとすことが望ましい。当該加工は、プリント配線板用のVカットや面取りルーターなどにより行うと、作業工程が少なく、生産性が向上する。
図4(b)~(c)に示すように、上面に平坦面を有する屈曲加工部材
26を用いて、前記と同様にリジッド・フレックス多層プリント配線板を折り曲げれば、リジッド基板部23が屈曲加工部材26に触れることなく、フレキシブル基板部25を所望する折り曲げ角度に折り曲げることができる。
【符号の説明】
【0021】
11:貫通めっきスルーホール
12:ガラスクロス
13:絶縁基材
14:フレキシブル基板の切削加工面
15:導体回路
21:一方のリジッド基板部
22:基準テーブル
23:他方のリジッド基板部
24:可動テーブル
25:フレキシブル基板部
26:屈曲加工部材
27:リジッド基板部21とフレキシブル基板部25の境界部分
20:折り曲げ装置
P:リジッド・フレックス多層プリント配線板
R:リジッド基板部
F:フレキシブル基板部