IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ キヤノン株式会社の特許一覧

特許7555843エレクトロクロミック素子、及びそれを有するレンズユニット、撮像装置
<>
  • 特許-エレクトロクロミック素子、及びそれを有するレンズユニット、撮像装置 図1
  • 特許-エレクトロクロミック素子、及びそれを有するレンズユニット、撮像装置 図2
  • 特許-エレクトロクロミック素子、及びそれを有するレンズユニット、撮像装置 図3
  • 特許-エレクトロクロミック素子、及びそれを有するレンズユニット、撮像装置 図4
  • 特許-エレクトロクロミック素子、及びそれを有するレンズユニット、撮像装置 図5
  • 特許-エレクトロクロミック素子、及びそれを有するレンズユニット、撮像装置 図6
  • 特許-エレクトロクロミック素子、及びそれを有するレンズユニット、撮像装置 図7
  • 特許-エレクトロクロミック素子、及びそれを有するレンズユニット、撮像装置 図8
  • 特許-エレクトロクロミック素子、及びそれを有するレンズユニット、撮像装置 図9
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-13
(45)【発行日】2024-09-25
(54)【発明の名称】エレクトロクロミック素子、及びそれを有するレンズユニット、撮像装置
(51)【国際特許分類】
   G02F 1/15 20190101AFI20240917BHJP
   G02F 1/155 20060101ALI20240917BHJP
   G02B 5/00 20060101ALI20240917BHJP
   G03B 11/00 20210101ALI20240917BHJP
【FI】
G02F1/15 506
G02F1/155
G02B5/00 A
G03B11/00
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2021022450
(22)【出願日】2021-02-16
(65)【公開番号】P2022124678
(43)【公開日】2022-08-26
【審査請求日】2024-01-29
(73)【特許権者】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110870
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 芳広
(74)【代理人】
【識別番号】100096828
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 敬介
(72)【発明者】
【氏名】宮崎 和也
【審査官】山本 貴一
(56)【参考文献】
【文献】特表2009-529153(JP,A)
【文献】特開平02-053034(JP,A)
【文献】特開2005-321521(JP,A)
【文献】特表2015-527614(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0224707(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2007/0143774(US,A1)
【文献】特表2002-537582(JP,A)
【文献】特開2017-198941(JP,A)
【文献】特開2018-081234(JP,A)
【文献】特開2018-120199(JP,A)
【文献】特表2012-510649(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0313537(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02F 1/15-1/19
JSTPlus(JDreamIII)
JST7580(JDreamIII)
JSTChina(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一対の電極と、前記一対の電極間に配置されたエレクトロクロミック層と、を有し、前記電極の法線方向から見た調光領域の形状が円形であるエレクトロクロミック素子であって、
前記電極のシート抵抗をrs[Ω]、抵抗をr[Ω]、前記調光領域の直径をL[m]、前記一対の電極間隔をd[m]、前記エレクトロクロミック層の抵抗率をρ[Ωm]、抵抗をR[Ω]とした時、下記式(1)で示される、前記電極と前記エレクトロクロミック層の抵抗比(r/R)は、2以上20以下であることを特徴とするエレクトロクロミック素子。
r/R=(rs2)/(ρd) (1)
【請求項2】
前記抵抗比(r/R)が9以上20以下であることを特徴とする請求項1に記載のエレクトロクロミック素子。
【請求項3】
有効径比が0.7の位置での規格化透過率が0.3以上0.75以下であることを特徴とする請求項1又は2に記載のエレクトロクロミック素子。
【請求項4】
有効径比が0.7の位置での規格化透過率が0.5以上0.75以下であることを特徴とする請求項1又は2に記載のエレクトロクロミック素子。
【請求項5】
前記一対の電極にはそれぞれ、外周部より電圧が給電されることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか一項に記載のエレクトロクロミック素子。
【請求項6】
前記エレクトロクロミック層は、アノード性エレクトロクロミック化合物と、カソード性エレクトロクロミック化合物とを含むことを特徴とする請求項1乃至5のいずれか一個に記載のエレクトロクロミック素子。
【請求項7】
複数のレンズを有する撮像光学系と、前記撮像光学系に対するアポダイゼーション効果を電気的に制御する調光素子と、を有するレンズユニットであって、
前記調光素子は、請求項1乃至6のいずれか一項に記載のエレクトロクロミック素子であることを特徴とするレンズユニット。
【請求項8】
複数のレンズを有する撮像光学系と、前記撮像光学系に対するアポダイゼーション効果を電気的に制御する調光素子と、前記撮像光学系を通過した光を受光する撮像素子と、を有する撮像装置であって、
前記調光素子は、請求項1乃至6のいずれか一項に記載のエレクトロクロミック素子であることを特徴とする撮像装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エレクトロクロミック素子と、該エレクトロクロミック素子を有するレンズユニット、撮像装置に関する。
【背景技術】
【0002】
エレクトロクロミック(以下、「EC」と表記する場合がある)素子は、一対の電極と、その電極間に配置されたEC層と、を有する素子であり、一対の電極間に電圧を印加してEC層内の化合物を酸化若しくは還元することによって可視光帯域の色相や光量を調整する光学素子である。
EC素子はこれまでにも航空機の可変透過率窓や自動車の防眩ミラー等の製品に応用されており、また近年では撮像装置用の絞りやシャッターの他、NDフィルタやハーフNDフィルタ、アポダイゼーションフィルタ等への適用が試みられている。アポダイゼーションフィルタはボケ像の輪郭を滑らかにする光学素子で、光軸から離れるにつれて透過率が低下する透過率分布を有している。
特許文献1には、EC素子の素子中心において、一対の電極間を短絡する導電連結部を設けた上で素子外周部から電圧を印加することで、素子の外周部から素子の中央に向かう電圧降下を大きくし、所望の透過率分布を達成する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特表2002-537582号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記した従来のEC素子では、電極の抵抗範囲を規定することによって好ましい透過率分布を実現しているが、構成要件の設定が十分とは言えなかった。即ち、溶液型EC素子の透過率分布は、単位幅当たりの電極抵抗と溶液抵抗の抵抗比に依存し、抵抗比は具体的には電極のシート抵抗、調光領域の直径、一対の電極間の間隔、エレクトロクロミック層(溶液)の抵抗率に依存する。よって、好ましい透過率分布を実現するためには、これらを規定することが必要であった。
本発明の課題は、調光領域の外周部から給電を行う溶液型EC素子において、好適な透過率分布を実現できるEC素子、さらには、レンズのメカニカル絞りの開口径に追従させて好適な透過率分布を形成できるEC素子を提供することにある。また、本発明は、係るEC素子を用いて、光学特性に優れたレンズユニット、撮像装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の第一は、一対の電極と、前記一対の電極間に配置されたエレクトロクロミック層と、を有し、前記電極の法線方向から見た調光領域の形状が円形であるエレクトロクロミック素子であって、
前記電極のシート抵抗をrs[Ω]、抵抗をr[Ω]、前記調光領域の直径をL[m]、前記一対の電極間隔をd[m]、前記エレクトロクロミック層の抵抗率をρ[Ωm]、抵抗をR[Ω]とした時、下記式(1)で示される、前記電極と前記エレクトロクロミック層の抵抗比(r/R)は、2以上20以下であることを特徴とする。
r/R=(rs2)/(ρd) (1)
本発明の第二は、複数のレンズを有する撮像光学系と、前記撮像光学系に対するアポダイゼーション効果を電気的に制御する調光素子と、を有するレンズユニットであって、
前記調光素子は、上記本発明のエレクトロクロミック素子であることを特徴とする。
本発明の第三は、複数のレンズを有する撮像光学系と、前記撮像光学系に対するアポダイゼーション効果を電気的に制御する調光素子と、前記撮像光学系を通過した光を受光する撮像素子と、を有する撮像装置であって、
前記調光素子は、上記本発明のエレクトロクロミック素子であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、電極のシート抵抗、調光領域の直径、電極間隔、エレクトロクロミック層の抵抗率から定められる電極とエレクトロクロミック層の抵抗比を規定することにより、好適な透過率分布が実現する。さらには、レンズのメカニカル絞りの開口径に追従させることにより、好適な透過率分布が実現する。よって、本発明のエレクトロクロミック素子は、可変アポダイゼーションフィルタとして好ましく用いられる。また、本発明の光学素子を用いることにより、優れたアポダイゼーション効果を有するレンズユニット、及び撮像装置が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】本発明のEC素子の一実施形態の平面形状を示す端面模式図及び厚さ方向の端面模式図である。
図2】電極のシート抵抗のみによって抵抗比を変えたEC素子の透過率分布を示す図である。
図3】抵抗比が9.8のEC素子について電圧を上げた時の透過率分布を示す図である。
図4】規格化透過率が0.045となる有効径比位置を実効口径=1として規格化した場合のEC素子の透過率分布を示す図である。
図5】実効口径が0.7の位置における規格化透過率を電圧に関して示したグラフである。
図6】異なる電極のシート抵抗と調光領域直径を持ちながら、同一の抵抗比を持つEC素子の透過率分布を示す図である。
図7】本発明の実施例1のEC素子のバス配線への給電位置を示す端面模式図である。
図8】本発明の実施例4のEC素子のバス配線への給電位置を示す端面模式図である。
図9】本発明のレンズユニットを有する撮像装置の実施形態の構成を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、図面を参照しながら本発明に係るエレクトロクロミック素子(EC素子)の構成について、好適な実施の形態を例示的に詳しく説明する。但し、この実施の形態に記載されている構成、相対配置等は、特に記載がない限り、本発明の範囲を限定する趣旨のものではない。
【0009】
〔EC素子〕
先ず、図1を用いて本発明のEC素子の構成について説明する。図1(a)は本発明の一実施形態のEC素子6の平面形状を、図1(b)は断面形状を模式的に示す図である。図1(a)は図1(b)のB-B’位置におけるEC素子6の端面模式図であり、図1(b)は図1(a)の素子中心を通るA-A’位置におけるEC素子6の端面模式図である。
【0010】
図1に示すように、EC素子6は、一対の電極2a,2bをそれぞれ形成した一対の基板1a,1bと、上記一対の電極2a,2bとシール材4とで画定された空間に配置されたエレクトロクロミック層(EC層)5とから構成される。シール材4の外側であって、一対の透明電極2a,2bのそれぞれの外周部には、素子外部からの均一な電圧印加を補償するためのバス配線3a,3bが環状に形成される。図1(a)において、シール材4で囲まれる領域がEC素子6の調光領域であり、電極2a,2bの法線方向から見た場合に、係る調光領域の形状は円形である。EC素子6を構成する部材について詳細に説明する。
【0011】
(EC層)
EC層5は有機溶媒にエレクトロクロミック化合物(EC化合物)を溶解させた溶液層であることが好ましく、溶液層は電解質を含んでもよい。EC層5の形成方法は、電極2a,2bの間に設けた間隙に、真空注入法、大気注入法、メニスカス法等によって予め調製したEC化合物を含有する液体を注入する方法が挙げられる。
【0012】
本発明に用いられるEC化合物は、酸化反応によって透明状態から着色するアノード性エレクトロクロミック化合物や還元反応によって透明状態から着色するカソード性エレクトロクロミック化合物であり、その双方を用いても構わない。また、係るEC化合物としては、有機化合物であることが好ましい。アノード性EC化合物とカソード性EC化合物とを共に用いると、電流に対する着色効率が高くなり好ましい。本明細書においては、アノード性EC化合物とカソード性EC化合物の双方を有する素子を相補型EC素子と呼ぶ。アノード性EC化合物はアノード材料、カソード性EC化合物はカソード材料とも呼ばれる。また、本発明においては、酸化反応、還元反応を生じても着色しない、即ちEC化合物ではないアノード性化合物やカソード性化合物を、上記EC化合物に加えて用いても構わない。
【0013】
相補型EC素子を駆動した場合、一方の電極では酸化反応によってEC化合物から電子が引き抜かれ、他方の電極では還元反応によってEC化合物が電子を受け取る。酸化反応によって中性分子からラジカルカチオンを生成してもよい。また、還元反応によって中性分子からラジカルアニオンを生成しても、ジカチオン分子からラジカルカチオンを生成してもよい。基板1a,1b上の電極2a,2bの双方においてEC化合物が着色するため、着色時に大きな光学濃度変化を必要とする場合は相補型EC素子を採用することが好ましい。
【0014】
有機EC化合物は、ポリチオフェンやポリアニリン等の導電性高分子、ビオロゲン系化合物、アントラキノン系化合物、オリゴチオフェン誘導体、フェナジン誘導体等の有機低分子化合物等が挙げられる。
【0015】
EC層5は、EC化合物を1種類のみ有していても、複数種類のEC化合物を有していてもよい。EC層5が複数種のEC化合物を含有する場合は、EC化合物の酸化還元電位の差が小さいことが好ましい。複数種類のEC化合物を有する場合は、アノード性EC化合物とカソード性EC化合物とを合わせて4種類以上、或いは5種類以上のEC化合物を有していてもよい。複数種類のEC化合物を有する場合、複数のアノード材料の酸化還元電位は60mV以内であってよく、複数のカソード材料の酸化還元電位は60mV以内であってよい。複数種類のEC化合物を有する場合、複数種類のEC化合物は、400nm以上500nm以下に吸収ピークを有する化合物と、500nm以上650nm以下に吸収ピークを有する化合物と、650nm以上に吸収ピークを有する化合物を含んでよい。吸収ピークは半値幅が20nm以上のものを指す。また、光を吸収する場合の材料の状態は酸化状態であっても、還元状態であっても、中性状態であってもよい。
【0016】
EC層5が含んでいても良い電解質としては、イオン解離性の塩であり、且つ溶媒に対して良好な溶解性、固体電解質においては高い相溶性を示すものであれば限定されない。中でも電子供与性を有する電解質が好ましい。これら電解質は、支持電解質と呼ぶこともできる。電解質としては、例えば、各種のアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩等の無機イオン塩や4級アンモニウム塩や環状4級アンモニウム塩等が挙げられる。具体的にはLiClO4、LiSCN、LiBF4、LiAsF6、LiCF3SO3、LiPF6、LiI、NaI、NaSCN、NaClO4、NaBF4、NaAsF6、KSCN、KCl等のLi、Na、Kのアルカリ金属塩等や、(CH34NBF4、(C254NBF4、(n-C49)4NBF4、(n-C49)4NPF6、(C254NBr、(C254NClO4、(n-C494NClO4等の4級アンモニウム塩及び環状4級アンモニウム塩等が挙げられる。
【0017】
EC化合物及び電解質を溶かす溶媒としては、EC化合物や電解質を溶解できるものであれば特に限定されないが、特に極性を有するものが好ましい。具体的には水や、メタノール、エタノール、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、ジメチルスルホキシド、ジメトキシエタン、γ-ブチロラクトン、γ-バレロラクトン、スルホラン、ジメチルホルムアミド、ジメトキシエタン、テトラヒドロフラン、アセトニトリル、プロピオンニトリル、3-メトキシプロピオンニトリル、ベンゾニトリル、ジメチルアセトアミド、メチルピロリジノン、ジオキソラン等の有機極性溶媒が挙げられる。
【0018】
EC層5は、さらにポリマーマトリックスやゲル化剤を含有してもよい。この場合、EC層5は粘稠性が高い液体となり、場合によってはゲル状となる。ポリマーとしては、例えばポリアクリロニトリル、カルボキシメチルセルロース、プルラン系ポリマー、ポリ塩化ビニル、ポリエチレンオキサイド、ポリプロピレンオキサイド、ポリウレタン、ポリアクリレート、ポリメタクリレート、ポリアミド、ポリアクリルアミド、ポリエステル、ナフィオン(登録商標)等が挙げられ、PMMAが好ましく用いられる。
【0019】
(基板)
一対の基板1a,1bは、いずれも透明であり、例えば、無色或いは有色ガラス、強化ガラス等のガラス材が用いられる。これらガラス材としては、Corning社製の#7059やBK-7等の光学ガラス基板を好適に使用することができる。さらに、基板1a,1bは剛性が高く歪みを生じることが少ない材料が好ましい。尚、本発明において、透明とは可視光透過率が50%以上の透過率である状態を示している。
【0020】
(電極)
電極2a,2bは、いずれも透明であり、例えば、酸化インジウムスズ合金(ITO)、フッ素ドープ酸化スズ(FTO)、酸化スズ(NESA)、酸化インジウム亜鉛(IZO)、グラフェン等を挙げることができる。また、ドーピング処理等で導電率を向上させた導電性ポリマー、例えば、ポリアニリン、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリアセチレン、ポリパラフェニレン、ポリエチレンジオキシチオフェン(PEDOT)とポリスチレンスルホン酸の錯体等も好適に用いられる。
【0021】
本発明に係るEC素子6は、消色状態で高い透過率を有することが好ましいため、電極2a,2bは、例えば、ITO、IZO、NESA、PEDOT:PSS、グラフェン等の透明材料が特に好ましい。これらはバルク状、微粒子状等様々な形態で使用できる。尚、これらの電極は、単独で使用してもよく、或いは複数組み合わせて使用してもよい。
【0022】
(バス配線)
バス配線3a,3bは、調光領域外からの均一な電圧印加を補償するための給電部位として形成され、低抵抗の金属材料を好適に使用することができる。例えば、銀、パラジウム、銅、アルミニウム、銀-パラジウム-銅合金(APC)、アルミニウム-ネオジウム合金等の薄膜等を好適に用いることができる。バス配線3a,3bは、調光領域を囲繞する環状で電極2a,2bの外周部に形成するのが好ましく、またバス配線3a,3b内での電圧降下を防ぐために、一つのバス配線につき複数の給電部位を設置することが好ましい。例えば、それぞれのバス配線に対して給電部位を対称に4箇所設置し、給電部位が重なる配置から一方の基板のみ45°回転させて貼合するなどして、できるだけ素子中心に対して対称なバス配線配置、及び給電部位配置をとることが好ましい。
【0023】
(シール材)
シール材4としては、化学的に安定で気体及び液体を透過させず、EC化合物の酸化還元反応を阻害しない材料であることが好ましい。例えば、ガラスフリット等の無機材料、エポキシ樹脂等の有機材料等が挙げられる。
本発明のEC素子6は、電極2a,2b間の距離を規定する機能を有するスペーサーを有してもよい。スペーサーの機能は、シール材4が有してもよい。スペーサーは、シリカビーズ、ガラスファイバー等の無機材料や、ポリジビニルベンゼン、ポリイミド、ポリテトラフルオロエチレン、フッ素ゴム、エポキシ樹脂等の有機材料で構成されてもよい。
【0024】
〔電極とEC層との抵抗比〕
次に、本発明の特徴である電極抵抗rとEC層の抵抗Rとの比(r/R)について説明する。先ず、調光領域の直径L[m](図1(b)参照)における単位幅Δw[m]当たりの電極抵抗r[Ω]は、シート抵抗rs[Ω]を用いて、
r=(L/Δw)rs
と表すことができる。
【0025】
また、調光領域の直径L[m]における単位幅Δw[m]当たりの厚み方向のEC層の抵抗R[Ω]は、EC層の抵抗率ρ[Ωm]、一対の電極間隔d[m](図1(b)参照)を用いて、
R=(d/(ΔwL))ρ
と表すことができる。従って、抵抗比(r/R)は
r/R=(rs2)/(ρd) (1)
となり、独立な4つのパラメータを用いて表される。
【0026】
ここで、EC層の抵抗率ρについて説明する。EC層の抵抗は、電気化学的な反応を伴わない溶液抵抗と、EC化合物分子と電極との電荷移動反応に関わる電荷移動抵抗、及びEC層中のEC化合物分子の拡散に関わる拡散抵抗の三つの抵抗成分の和として表される。これらの三つの抵抗成分は、EC材料の濃度や溶媒、増粘剤等の添加物によって大きく変わるが、EC素子の交流インピーダンス解析を行うことによって容易に定めることができる。
【0027】
図2に、式(1)の4つのパラメータのうち、電極のシート抵抗rsのみ変えることによって、抵抗比(r/R)を1.6乃至22.9の間で変えた時の透過率分布を示した。ここで、透過率(T)はEC素子の中心値の透過率(T0)を1として規格化した規格化透過率(T/T0)とし、有効径比Φ=1.0位置において規格化透過率(T/T0)=0.045(素子中心に対して4.5段分の減光に相当)となる条件を付与している。この時、設定した4つのパラメータと抵抗比値を表1に示した。
【0028】
【表1】
【0029】
抵抗比(r/R)が小さくなるとともに、中間の有効径比位置における透過率が低下することが分かる。このようにして得られた透過率分布を用いて画像シミュレーションを行ったところ、抵抗比が小さくなると共に輪郭は大きくボケるものの、ボケ像は小さくなってしまうことが分かった。
【0030】
抵抗比(r/R)=22.9(シート抵抗rs=140Ω)ではボケ像の大きさは十分なものの、グラデーション効果が小さく、アポダイゼーションフィルタとして好ましいとは言えない。また抵抗比(r/R)=1.6(シート抵抗rs=10Ω)ではボケ像のグラデーション効果は大きいものの、像が小さくなり過ぎ、アポダイゼーションフィルタとしては好ましくない。従って、アポダイゼーションフィルタとして好適な透過率分布を実現できる抵抗比(r/R)の範囲は2以上20以下であると言える。さらに、これを有効径比Φ=0.7位置での規格化透過率(T/T0)の好適な範囲に換算すると、0.3以上0.75以下、望ましくは0.5以上0.75以下になる。ここで、有効径比Φ=0.7位置は、抵抗比(r/R)を変えた時の規格化透過率(T/T0)の変化が最大に近い位置になっている。
【0031】
〔口径変化への対応〕
次に、好適な抵抗比範囲にあるEC素子(表1の(r/R)=9.8なる素子)に関して、メカニカル絞りに追従させるために印加する電圧を上げた時も、EC素子の実効的な口径で規格化すれば好適な透過率分布の範囲に収めることができることについて説明する。
【0032】
図3は、抵抗比9.8のEC素子(シート抵抗rs=60Ω)について印加電圧を上げた時の透過率分布である。電圧を上げると実効的な口径が徐々に狭まることが分かる。そこで、各電圧のプロットについて規格化透過率(T/T0)=0.045となる有効径比Φ0.045を実効口径(Φ/Φ0.045)=1としてそれぞれ規格化した透過率分布を図4に示した。電圧を上げると中間位置での透過率が徐々に低下していることが分かる。
【0033】
そこで、図5に実効口径(Φ/Φ0.045)=0.7位置における規格化透過率(T/T0)を電圧に関してプロットしたものを示した。プロットの上下にある破線は好適な抵抗比(r/R)の範囲2以上20以下に対応する、好適な規格化透過率(T/T0)の範囲の下限0.3と上限0.75を示している。また、表2には各電圧におけるパラメータ設定と、実効口径(Φ/Φ0.045)=0.7位置における規格化透過率(T/T0)を示した。電圧と共に規格化透過率(T/T0)が略線形に低下していくものの、好適な規格化透過率(T/T0)の範囲である0.3以上0.75以下の範囲にあることが見て取れる。
【0034】
電圧を0.7Vから1.4Vまで電圧を上げることによって、実効的な口径は図3に示したように有効径比Φ=0.7程度まで(絞り1段分の口径変化に対応)小さくなるが、その場合においても実効口径(Φ/Φ0.045)から見れば好適な透過率分布の範囲にあることになる。
この1段分の絞り変化に対応する、中間位置での透過率低下は0.18であり、好適な透過率の範囲の幅は0.45であることから、抵抗比(r/R)を範囲上限近くに設定しておけば、2段分以上の絞り変化に追従させることが可能である。そこで、可変アポダイゼーションフィルタとして好適な透過率分布を実現できる抵抗比(r/R)の、さらに好適な範囲としては9以上20以下となる。
【0035】
【表2】
【0036】
〔各パラメータ設定〕
次に、好適な抵抗比(r/R)を有するEC素子に関して、電極のシート抵抗rsと調光領域の直径Lを同時に変化させた場合でも、抵抗比(r/R)さえ同じであれば同じ透過率分布を形成することについて説明する。
表3には、設定した4つのパラメータと抵抗比(r/R)、及び有効径比Φ=0.7位置における規格化透過率(T/T0)を示した。
【0037】
【表3】
【0038】
図6に、異なる電極のシート抵抗rsと調光領域直径Lを持ちながら、同一の抵抗比(r/R)=9.8を持つ表3の3つのEC素子の透過率分布を示した。電極抵抗rや調光領域直径Lに依らず、抵抗比(r/R)が同一であれば同一の透過率分布が形成されていることが分かる。
【0039】
〔EC素子の用途〕
本発明のEC素子はアポダイゼーション効果を電気的に制御する調光素子として用いられる。具体的には、可変アポダイゼーションフィルタとして、レンズユニット、及び撮像装置に適用することができる。
【0040】
(レンズユニット及び撮像装置)
図9は本発明のEC素子6を適用したレンズユニット11を有する撮像装置10である。レンズユニット11はマウント部材を介して撮像ユニット12に着脱可能に接続されている。本発明のEC素子6はレンズユニット11側、特に撮像光学系20中に組み込まれることが多いため、そのような意味ではレンズユニット11と撮像ユニット12が着脱可能な場合にはレンズユニット、着脱不可の場合には撮像装置ということになる。
【0041】
レンズユニット11中の撮像光学系20は複数のレンズ群を有して構成される。本明細書において、レンズ群とはフォーカシングに際して一体的に移動又は静止するレンズのまとまりであり、無限遠から近距離へのフォーカシングに際して連接するレンズ群同士の間隔は変化する。尚、レンズ群は一枚のレンズから構成されても良いし、複数のレンズからなっていても良い。
【0042】
撮像光学系20はメカニカル絞り13とEC素子6とを有しており、これらは不図示の制御部からの入力信号に応じて動作する。また、撮像光学系20は、正の屈折率を有する第1レンズ群21、負の屈折率を有する第2レンズ群22、正の屈折率を有する第3レンズ群23から構成される3群構成をとっている。そして、第9面がメカニカル絞り13、第10面及び第11面がそれぞれEC素子6の入射面及び出射面となるように、即ちメカニカル絞り13の像側に隣接して配置される構成となっている。撮像装置10では、負の屈折率を有する第2レンズ群22を像側に移動させることでフォーカシングが行われる。図9において、EC素子6はメカニカル絞り13に隣接して一つのEC素子を配置した例であるが、レンズ構成によっては複数のEC素子6を任意の最適位置に配置することもできる。
【0043】
レンズユニット11を通過した光は、撮像ユニット12に至り、不図示のローパスフィルタやフェースプレートや色フィルタ等のガラスブロックを経て撮像素子14で受光される。撮像素子14は、CCDやCMOS等を使用することができる。また、フォトダイオードのような光センサであっても良く、光の強度或いは波長の情報を取得し出力するものを利用することが可能である。
【0044】
図9のように、レンズユニット11に本発明のEC素子6が組み込まれている場合、素子の駆動手段はレンズユニット11内に配置されても、レンズユニット11外の撮像ユニット12内等に配置されても良い。レンズユニット11外に配置される場合は、配線を通してレンズユニット11内のEC素子と駆動手段とを接続し、駆動制御が行われる。
【0045】
以上のようなレンズユニットは、種々の撮像装置、例えばカメラ、デジタルカメラ、ビデオカメラ、デジタルビデオカメラ等に適用可能であり、また携帯電話やスマートフォン、PC、タブレット等の撮像装置を内蔵する製品にも適用することが可能である。
【実施例
【0046】
(実施例1)
図1の構成を有し、調光領域が直径L=46mmの円形状のEC素子を作製した。一対の透明電極2a,2bのシート抵抗rs=60Ω、電極間隔d=30μm、EC層5の抵抗率ρ=430.88Ωm、従って式(1)から求められる抵抗比(r/R)=9.8とした例である。一対の透明電極基板間を貼合するシール材4には熱硬化性エポキシ樹脂を用い、これに直径30μmのギャップ制御粒子を混練することによって電極間隔を規定した。貼合後のシール材4の幅は約1.0mmであった。
【0047】
シール材4の外側の電極2a,2b上には円形状の調光領域、及びシール材4を囲繞する形で一対のバス配線3a,3bを配置した。バス配線3a,3bはスパッタ法により膜厚1.2μm、幅2.0mmの銀薄膜(シート抵抗=14mΩ)を形成した。一対のバス配線3a,3b上の給電部位はそれぞれ3箇所とし、バス配線3aと3bとで60°おきに交互に配置した。図7に、本実施例のEC素子の給電位置を示す。図7は、図1(a)と同じ位置の端面模式図であり、図中、7bが電極2b上に形成されたバス配線3bへの給電位置であり、7aが電極2a(不図示)上に形成されたバス配線3a(不図示)への給電位置である。
【0048】
以上の構成を有するEC素子に0.7V乃至1.4Vの定電圧を印加したところ、図3に示した通りの規格化透過率分布を示した。この時、実効的な口径(有効径比Φ0.045)で換算した規格化透過率分布は図4の通りになり、好ましい透過率分布に収めることができた。
また、この時、実効的な口径は約70%まで縮小することになり、メカニカル絞り約1段分の口径変化に追従して好適な透過率分布を維持しながら動作させることが可能であった。
【0049】
(実施例2)
透明電極2a,2bのシート抵抗rs=20Ωとし、抵抗比(r/R)=3.3とした以外は実施例1と同じ構成のEC素子を作製した。
本例のEC素子に0.7Vの定電圧を印加したところ、図2の「r/R=3.3」の曲線で示される通りの規格化透過率分布を示した。
【0050】
(実施例3)
透明電極2a,2bのシート抵抗rs=120Ωとした以外は実施例1と同じ構成のEC素子を作製した。抵抗比(r/R)=19.6である。
本例のEC素子に0.7V乃至2.0Vの定電圧を印加したところ、実効的な口径は有効径比Φ=0.5程度まで小さくなると共に、実効的な口径(有効径比Φ0.045)で換算した規格化透過率分布は好適な透過率分布の範囲に収めることができた。即ち、メカニカル絞り約2段分の口径変化に追従して好適な透過率分布を維持しながら動作させることが可能であった。
【0051】
(実施例4)
調光領域の直径L=72mm、透明電極2a,2bのシート抵抗rs=24.5Ωとし、抵抗比(r/R)=9.8とし、バス配線3a,3bと、該バス配線3a,3bへの給電位置を変更した以外は実施例1と同様の構成のEC素子を作製した。バス配線3a,3bは、スパッタ法により膜厚1.5μm、幅2.0mmの銀薄膜(シート抵抗=11mΩ)を形成した。また、図8に示すように、バス配線3a,3bへの給電位置7a,7bは、それぞれ4箇所とし、バス配線3aと3bとで45°おきに交互に配置した。尚、図8図1(a)と同じ位置の端面模式図である。
【0052】
本例のEC素子に0.7Vの定電圧を印加したところ、図6の「rs=24.5Ω,L=72mm」の曲線で示される通り、実施例1(rs=60Ω,L=46mm)と略同一の透過率分布となった。また、電圧をさらに上げて1.4Vまでの定電圧を印加したところ、実効的な口径は有効径比Φ=0.7程度まで小さくなると共に、実効的な口径(有効径比Φ0.045)で換算した規格化透過率分布は好適な透過率分布の範囲に収めることができた。即ち、メカニカル絞り約1段分の口径変化に追従して好適な透過率分布を維持しながら動作させることが可能であった。
【0053】
(実施例5)
調光領域の直径L=30mm、透明電極2a,2bのシート抵抗rs=141Ωとし、抵抗比(r/R)=9.8とした以外は実施例1と同じ構成のEC素子を作製した。
本例のEC素子に0.75Vの定電圧を印加したところ、図6の「rs=141Ω,L=30mm」の曲線で示される通り、実施例1(rs=60Ω,L=46mm)と略同一の透過率分布となった。また、電圧をさらに上げて1.5Vまでの定電圧を印加したところ、実効的な口径は有効径比0.7程度まで小さくなると共に、実効的な口径(有効径比Φ0.045)で換算した規格化透過率分布は好適な透過率分布の範囲に収めることができた。即ち、メカニカル絞り約1段分の口径変化に追従して好適な透過率分布を維持しながら動作させることが可能であった。
【符号の説明】
【0054】
2a,2b:電極、5:エレクトロクロミック層、6:エレクトロクロミック素子、10:撮像装置、11:レンズユニット、14:撮像素子、20:撮像光学系
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9