IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社マキタの特許一覧

<>
  • 特許-打撃工具 図1
  • 特許-打撃工具 図2
  • 特許-打撃工具 図3
  • 特許-打撃工具 図4
  • 特許-打撃工具 図5
  • 特許-打撃工具 図6
  • 特許-打撃工具 図7
  • 特許-打撃工具 図8
  • 特許-打撃工具 図9
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-13
(45)【発行日】2024-09-25
(54)【発明の名称】打撃工具
(51)【国際特許分類】
   B25D 17/24 20060101AFI20240917BHJP
   B25D 17/04 20060101ALI20240917BHJP
【FI】
B25D17/24
B25D17/04
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2021025938
(22)【出願日】2021-02-22
(65)【公開番号】P2022127769
(43)【公開日】2022-09-01
【審査請求日】2023-11-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000137292
【氏名又は名称】株式会社マキタ
(74)【代理人】
【識別番号】110003052
【氏名又は名称】弁理士法人勇智国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】町田 吉隆
【審査官】亀田 貴志
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-038093(JP,A)
【文献】特開2017-013173(JP,A)
【文献】特開2015-100897(JP,A)
【文献】特開2009-090450(JP,A)
【文献】特開平08-126975(JP,A)
【文献】特表2001-510099(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B25D 17/00 - 17/24
B25F 5/00 - 5/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
前後方向を規定する駆動軸に沿って先端工具を直線状に駆動するように構成された打撃工具であって、
前記駆動軸に沿って延在する工具本体と、
前記工具本体に収容されたモータと、
少なくとも前記前後方向に移動可能に前記工具本体に連結されたハンドルであって、前記工具本体の一部を覆うカバー部と、前記カバー部に連結され、前記駆動軸に交差する方向に延在する把持部とを含むハンドルと、
前記工具本体と前記ハンドルとの間に介在し、前記工具本体と前記ハンドルとを、前記前後方向において互いから離れる方向に付勢する少なくとも1つの付勢部材と、
前記工具本体と前記ハンドルの前記カバー部との間に介在する少なくとも1つの弾性部材であって、前記工具本体及び前記ハンドルに対して移動可能、且つ、前記工具本体と前記ハンドルの相対移動に応じて剪断変形可能な少なくとも1つの弾性部材とを備え
前記少なくとも1つの弾性部材は、前記ハンドルが前記工具本体に対して所定範囲内で前記前後方向に移動する間は、実質的に剪断変形することなく前記工具本体及び前記ハンドルに対して前記前後方向に移動し、前記ハンドルが前記工具本体に対して前記所定範囲を超えて移動するのに応じて剪断変形するように構成されていることを特徴とする打撃工具。
【請求項2】
前後方向を規定する駆動軸に沿って先端工具を直線状に駆動するように構成された打撃工具であって、
前記駆動軸に沿って延在する工具本体と、
前記工具本体に収容されたモータと、
少なくとも前記前後方向に移動可能に前記工具本体に連結されたハンドルであって、前記工具本体の一部を覆うカバー部と、前記カバー部に連結され、前記駆動軸に交差する方向に延在する把持部とを含むハンドルと、
前記工具本体と前記ハンドルとの間に介在し、前記工具本体と前記ハンドルとを、前記前後方向において互いから離れる方向に付勢する少なくとも1つの付勢部材と、
前記工具本体と前記ハンドルの前記カバー部との間に介在する少なくとも1つの弾性部材であって、前記工具本体及び前記ハンドルに対して移動可能、且つ、前記工具本体と前記ハンドルの相対移動に応じて剪断変形可能な少なくとも1つの弾性部材とを備え、
前記少なくとも1つの弾性部材は、球状に形成されていることを特徴とする打撃工具。
【請求項3】
前後方向を規定する駆動軸に沿って先端工具を直線状に駆動するように構成された打撃工具であって、
前記駆動軸に沿って延在する工具本体と、
前記工具本体に収容されたモータと、
少なくとも前記前後方向に移動可能に前記工具本体に連結されたハンドルであって、前記工具本体の一部を覆うカバー部と、前記カバー部に連結され、前記駆動軸に交差する方向に延在する把持部とを含むハンドルと、
前記工具本体と前記ハンドルとの間に介在し、前記工具本体と前記ハンドルとを、前記前後方向において互いから離れる方向に付勢する少なくとも1つの付勢部材と、
前記工具本体と前記ハンドルの前記カバー部との間に介在する少なくとも1つの弾性部材であって、前記工具本体及び前記ハンドルに対して移動可能、且つ、前記工具本体と前記ハンドルの相対移動に応じて剪断変形可能な少なくとも1つの弾性部材とを備え、
前記少なくとも1つの弾性部材は、前記工具本体と前記ハンドルとが、前記前後方向に直交し、且つ、前記把持部の延在方向に対応する上下方向に相対移動するのに応じて剪断変形可能であることを特徴とする打撃工具。
【請求項4】
請求項1から請求項3までのいずれか一項に記載の打撃工具であって、
前記少なくとも1つの弾性部材は、前記工具本体と前記ハンドルに対して前記前後方向に転動可能であることを特徴とする打撃工具。
【請求項5】
請求項1~の何れか1つに記載の打撃工具であって、
前記少なくとも1つの弾性部材は、前記駆動軸を含み、且つ、前記把持部の延在方向に延びる平面に対して対称に配置された2つの弾性部材を含むことを特徴とする打撃工具。
【請求項6】
請求項1~の何れか1つに記載の打撃工具であって、
前記少なくとも1つの弾性部材は、少なくとも1つの前側弾性部材と、前記前後方向において、前記少なくとも1つの前側弾性部材よりも前記把持部に近い位置に配置された少なくとも1つの後側弾性部材とを含むことを特徴とする打撃工具。
【請求項7】
請求項に記載の打撃工具であって、
前記少なくとも1つの前側弾性部材の弾性変形特性と、前記少なくとも1つの後側弾性部材の弾性変形特性とは、互いに異なることを特徴とする打撃工具。
【請求項8】
請求項に記載の打撃工具であって、
前記少なくとも1つの前側弾性部材は、前記少なくとも1つの後側弾性部材よりも弾性変形しにくく構成されていることを特徴とする打撃工具。
【請求項9】
請求項1~の何れか1つに記載の打撃工具であって、
前記少なくとも1つの付勢部材は、前記モータの出力シャフトの軸を含む平面上において、前記軸に対して対称に配置された2つの付勢部材を含むことを特徴とする打撃工具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、先端工具を直線状に駆動するように構成された打撃工具に関する。
【背景技術】
【0002】
先端工具を駆動軸に沿って直線状に駆動することで、加工材に対する加工作業を行う打撃工具では、駆動軸の延在方向に特に大きな振動が発生する。これに対し、様々な防振ハウジング構造が提案されている。例えば、特許文献1に開示されている打撃工具(ハンマドリル)では、把持部を含むハンドルと、モータ及び駆動機構を収容する本体部とは、防振ゴムによって弾性的に連結されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2011-000684号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に開示されている打撃工具では、防振ゴムの剪断変形によって、駆動軸の延在方向の振動が本体部からハンドルに伝達されるのを、効果的に抑制することができる。一方で、ハンドルへの振動伝達の低減に関しては、更なる改善の要望がある。
【0005】
本開示は、打撃工具におけるハンドルへの振動伝達の低減に関する改善を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の一態様によれば、前後方向を規定する駆動軸に沿って先端工具を直線状に駆動するように構成された打撃工具が提供される。この打撃工具は、工具本体と、モータと、ハンドルと、少なくとも1つの付勢部材と、少なくとも1つの弾性部材とを備える。
【0007】
工具本体は、駆動軸に沿って延在する。モータは、工具本体に収容されている。ハンドルは、少なくとも前後方向に移動可能に工具本体に連結されている。ハンドルは、カバー部と、把持部とを含む。カバー部は、工具本体の一部を覆う。把持部は、カバー部に連結され、駆動軸に交差する方向に延在する。少なくとも1つの付勢部材は、工具本体とハンドルとの間に介在する。少なくとも1つの付勢部材は、工具本体とハンドルとを、前後方向において互いから離れる方向に付勢する。少なくとも1つの弾性部材は、工具本体とハンドルのカバー部との間に介在する。少なくとも1つの弾性部材は、工具本体及びハンドルに対して移動可能、且つ、工具本体と前記ハンドルの相対移動に応じて剪断変形可能である。なお、ここでいう「剪断変形可能」は、剪断変形のみが可能な場合のみならず、圧縮変形を伴う剪断変形が可能な場合も含む。
【0008】
上記構成によれば、先端工具の駆動中に生じる振動に応じて、ハンドルが工具本体に対して前後方向(駆動軸の延在方向)に移動するとともに、少なくとも1つの付勢部材が前後方向の振動を吸収することで、工具本体からハンドルへの振動伝達を低減することができる。また、少なくとも1つの弾性部材も、剪断変形によって、ハンドルへの振動伝達を低減することができる。更に、少なくとも1つの弾性部材は、工具本体及びハンドルに対して前後方向に移動可能することで、工具本体とハンドルの相対移動を円滑に案内することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】ハンマドリルの左側面図であって、ハンドルが初期位置にあるときを示す。
図2】ハンマドリルの背面図である。
図3】ハンドルの左側部材が取り外された状態のハンマドリルの左側面図であって、ハンドルが初期位置にあるときを示す。
図4図1のIV-IV線における断面図である。
図5図2のV-V線における断面図である。
図6】ハンマドリルの左側面図であって、ハンドルが前方位置にあるときを示す。
図7】ハンドルの左側部材が取り外された状態のハンマドリルの左側面図であって、ハンドルが前方位置にあるときを示す。
図8図4に対応する断面図であって、ハンドルが前方位置にあるときを示す。
図9図5に対応する断面図であって、ハンドルが前方位置にあるときを示す。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本開示の1つ又はそれ以上の実施形態において、少なくとも1つの弾性部材は、ハンドルが工具本体に対して所定範囲内で前後方向に移動する間は、実質的に剪断変形することなく工具本体及びハンドルに対して前後方向に移動し、ハンドルが工具本体に対して所定範囲を超えて移動するのに応じて剪断変形するように構成されていてもよい。この構成によれば、工具本体に対するハンドルの相対移動が所定範囲を超えるのに応じて、少なくとも1つの付勢部材に加え、少なくとも1つの弾性部材が剪断変形により振動低減効果を発揮するようになる。よって、前後方向の振動の大きさに応じた効果的な振動伝達の低減が実現される。
【0011】
本開示の1つ又はそれ以上の実施形態において、少なくとも1つの弾性部材は、球状に形成されていてもよい。この構成によれば、剪断方向の力を受けても破損しにんくい弾性部材を実現することができる。
【0012】
本開示の1つ又はそれ以上の実施形態において、少なくとも1つの弾性部材は、工具本体とハンドルに対して前後方向に転動可能であってもよい。この構成によれば、工具本体とハンドルの前後方向の相対移動を特に円滑に案内することができ、摩耗しにくい弾性部材を実現することができる。
【0013】
本開示の1つ又はそれ以上の実施形態において、少なくとも1つの弾性部材は、工具本体とハンドルとが、前後方向に直交し、且つ、把持部の延在方向に対応する上下方向に相対移動するのに応じて剪断変形可能であってもよい。この構成によれば、前後方向の振動のみならず、上下方向の振動の伝達も効果的に低減することができる。
【0014】
本開示の1つ又はそれ以上の実施形態において、少なくとも1つの弾性部材は、駆動軸を含み、且つ、把持部の延在方向に延びる平面に対して対称に配置された2つの弾性部材を含んでもよい。この構成によれば、1つの弾性部材が設けられる場合に比べ、工具本体とハンドルの前後方向の相対移動をより安定して案内することができ、防振効果も高めることができる。
【0015】
本開示の1つ又はそれ以上の実施形態において、少なくとも1つの弾性部材は、少なくとも1つの前側弾性部材と、少なくとも1つの後側弾性部材とを含んでもよい。少なくとも1つの後側弾性部材は、前後方向において、少なくとも1つの前側弾性部材よりも把持部に近い位置に配置されていてもよい。この構成によれば、少なくとも1つの前側弾性部材と、少なくとも1つの後側弾性部材とが、前後方向の異なる位置で、工具本体とハンドルの前後方向の相対移動をより安定して案内することができる。
【0016】
本開示の1つ又はそれ以上の実施形態において、少なくとも1つの前側弾性部材の弾性変形特性と、少なくとも1つの後側弾性部材の弾性変形特性とは、互いに異なっていてもよい。なお、弾性変形特性とは、弾性変形のしやすさと言い換えてもよい。この構成によれば、弾性部材の弾性変形特性を適宜設定することで、少なくとも1つの前側弾性部材及び少なくとも1つの後側弾性部材の一方を、工具本体とハンドルの相対回動の支点に利用することができる。
【0017】
本開示の1つ又はそれ以上の実施形態において、少なくとも1つの前側弾性部材は、少なくとも1つの後側弾性部材よりも弾性変形しにくく構成されていてもよい。この構成によれば、把持部からより離れた位置にある少なくとも1つの前側弾性部材を相対回動の支点に利用して、工具本体とハンドルの相対回動方向の振動が把持部へ伝達されるのを効果的に低減することができる。
【0018】
本開示の1つ又はそれ以上の実施形態において、少なくとも1つの付勢部材は、モータの出力シャフトの軸を含む平面上において、出力シャフトの軸に対して対称に配置された2つの付勢部材を含んでもよい。この構成によれば、1つの付勢部材が設けられる場合に比べ、工具本体とハンドルの前後方向の相対移動を安定化することができる。
【0019】
<実施例>
以下、図1図9を参照して、本開示の代表的且つ非限定的な実施例に係るハンマドリル1について説明する。ハンマドリル1は、先端工具91を打撃することで、先端工具91を直線状に駆動可能な電動工具(いわゆる打撃工具)の一例である。より詳細には、ハンマドリル1は、先端工具91を所定の駆動軸A1に沿って直線状に駆動する動作(以下、打撃動作という)と、先端工具91を駆動軸A1周りに回転駆動する動作(以下、回転動作という)とを遂行可能な電動工具である。
【0020】
図1に示すように、ハンマドリル1の外郭は、主に、工具本体2と、工具本体2に弾性的に連結されたハンドル3とによって形成されている。
【0021】
工具本体2は、ハンマドリル1の主要な機構を収容する中空体であって、本体ハウジング、外郭ハウジング等とも称される。工具本体2は、先端工具91の駆動軸A1に沿って延在する。駆動軸A1の延在方向(以下、単に駆動軸方向という)における工具本体2の一端部内には、ツールホルダ79が配置されている。ツールホルダ79には、先端工具91を取り外し可能に装着可能である。工具本体2には、主に、モータ71と、モータ71の動力によって、ツールホルダ79に保持された先端工具91を駆動するように構成された駆動機構75とが収容されている。なお、本実施例では、モータ71は、ロータと一体的に回転するモータシャフト711の回転軸A2が駆動軸A1と平行に延びるように配置されている。
【0022】
ハンドル3は、工具本体2とは別個に形成され、工具本体2に対して少なくとも駆動軸方向に移動可能に、工具本体2に連結されている。ハンドル3は、使用者によって把持されるように構成された把持部33を有する。把持部33は、駆動軸方向における工具本体2の他端部(つまり、ツールホルダ79が配置された一端部と反対側の端部)から、駆動軸A1に交差する方向(詳細には、駆動軸A1及び回転軸A2に概ね直交する方向)に突出するように延在する。把持部33の突出端は、自由端である。把持部33は、使用者によって押圧操作(引き操作)されるトリガ331を備えている。ハンマドリル1では、トリガ331の押圧操作に応じてモータ71が通電され、駆動機構75が駆動されることで、打撃動作及び/又は回転動作が行われる。
【0023】
以下、ハンマドリル1の詳細構成について説明する。なお、以下の説明では、便宜上、駆動軸A1の延在方向(工具本体2の長軸方向)を、ハンマドリル1の前後方向と規定する。前後方向において、ツールホルダ79が配置されている側をハンマドリル1の前側と規定し、反対側(把持部33が配置されている側)を後側と規定する。駆動軸A1に直交し、且つ、把持部33の延在方向に概ね対応する方向(駆動軸A1及び回転軸A2に直交する方向)を、ハンマドリル1の上下方向と規定する。上下方向において、把持部33の基端部側をハンマドリル1の上側と規定し、把持部33の自由端側をハンマドリル1の下側と規定する。また、前後方向及び上下方向に直交する方向を、ハンマドリル1の左右方向と規定する。
【0024】
まず、工具本体2の構成及びその内部構造について説明する。
【0025】
工具本体2は、駆動機構収容部21と、モータ収容部23とを含む。
【0026】
図1に示すように、駆動機構収容部21は、駆動機構75を収容する中空体である。駆動機構収容部21は、工具本体2の前半部分を構成する。駆動機構収容部21の前端部は、円筒状に形成されており、この内部にツールホルダ79が配置されている。駆動機構収容部21のうち前端部以外の部分は、概ね矩形筒状に形成されている。周知の構成であるため、詳細な図示及び説明は省略するが、駆動機構75は、打撃動作を遂行する運動変換機構及び打撃機構と、回転動作を遂行する回転伝達機構とを含む。運動変換機構には、典型的には、揺動部材(例えば、swash bearing、wobble plate/bearing)又はクランク機構と、ピストンとを用いて、回転運動を直線運動に変換する機構が採用される。回転伝達機構には、典型的には、複数のギヤを含む減速機構が採用される。
【0027】
なお、本実施例では、ハンマドリル1は、打撃動作のみが行われる打撃モード(hammering only)、回転動作のみが行われる回転モード(rotation only)、打撃動作と回転動作が同時に行われる回転打撃モード(hammering with rotation)の3つの動作モードを有する。これも周知の構成であるため、詳細な図示及び説明は省略するが、駆動機構75は、モード切替ノブを介して使用者によって選択された動作モードに応じて動作する。
【0028】
図1図3及び図4に示すように、モータ収容部23は、モータ71を収容する中空体である。モータ収容部23は、後端が閉塞された筒状に形成されている。本実施例では、モータ収容部23は、駆動機構収容部21とは別個に形成された単一の部材(継ぎ目のない部材)である。モータ収容部23は、ネジ(図示略)によって、駆動機構収容部21の後端に連結固定されており、工具本体2の後半部分を構成する。
【0029】
本実施例では、モータ71には、整流子を有する交流モータが採用されている。前後方向に延在するモータシャフト711のうち、ステータの前方に突出する部分には、ファン713が固定されている。ファン713は、モータ収容部23の前端部231内に配置されている。モータ収容部23の前端部231は、前端部231の後方に延在する部分(ステータ等が収容される部分)の大部分(詳細には、後述する第1ボール保持部51以外の部分)よりも、ステータの径方向外側に突出している。
【0030】
また、本実施例では、工具本体2のモータ収容部23には、工具本体2とハンドル3とを弾性的に連結するための構成として、2つの第1バネ受け(バネ座)25(図5参照)と、4つの第1ボール保持部51(図4参照)とが設けられている。工具本体2とハンドル3との弾性連結構造については、後で詳述する。
【0031】
次に、ハンドル3の構成及びその内部構造について説明する。
【0032】
図2図4に示すように、本実施例では、ハンドル3は、左側部材(左側シェル、左側ハンドル部)3Lと、右側部材(右側シェル、右側ハンドル部)3Rとが、複数箇所において、ネジ(図示略)によって左右方向に互いに連結固定されることで形成されている。また、ハンドル3は、カバー部31と、把持部33とを含む。
【0033】
図1図4に示すように、カバー部31は、全体としては、後端部が閉塞された筒状に形成されている。カバー部31は、工具本体2の後部、より詳細には、モータ収容部23の大部分を覆っている。カバー部31は、モータ収容部23の左側、右側、上側、下側、後側に夫々配置される左壁部31L、右壁部31R、上壁部、下壁部、後壁部を含む。なお、左壁部31L及び右壁部31Rのうち、上下方向の中央部は、他の部分よりも前方に突出している。なお、工具本体2の後部のうち、カバー部31に覆われない部分は、蛇腹29によって覆われている。蛇腹29は、工具本体2とハンドル3の相対移動に応じて前後方向に伸縮可能に構成されている。
【0034】
また、本実施例では、カバー部31には、工具本体2とハンドル3とを弾性的に連結するための構成として、2つの第2バネ受け(バネ座)35(図5参照)と、4つの第2ボール保持部53(図4参照)とが設けられている。第2バネ受け35は、付勢部材41を介して第1バネ受け25と連結されている。また、第2ボール保持部53は、球状の(ボール状の)弾性部材55を介して第1ボール保持部51と連結されている。なお、工具本体2とハンドル3との連結構造については、後で詳述する。
【0035】
図3に示すように、把持部33は、長尺の筒状に形成されている。把持部33は、カバー部31から下方に、片持ち状に延びている。つまり、把持部33は、工具本体2の下端よりも下方で、上下方向に延びている。把持部33の上端部には、トリガ331が配置されている。把持部33の内部には、トリガ331の後方にスイッチ335が配置されている。スイッチ335は、常時にはオフで保持されており、トリガ331の押圧操作に応じてオンとされる。スイッチ335がオンとされるのに応じて、モータ71が通電される。また、把持部33の下端(ハンドル3の自由端、突出端)からは、外部の交流電源に接続可能な電源コード337が延びている。
【0036】
以下、工具本体2とハンドル3との連結構造の詳細について説明する。
【0037】
まず、第1バネ受け25と第2バネ受け35との連結構造について説明する。
【0038】
図5に示すように、2つの第1バネ受け(バネ座)25は、工具本体2のモータ収容部23の前端部231に設けられている。より詳細には、第1バネ受け25の一方は、前端部231の左下後端部に設けられている。第1バネ受け25の他方は、前端部231の右上後端部に設けられている。更に詳細には、2つの第1バネ受け25は、モータシャフト711の回転軸A2を含み、ハンマドリル1を後方からみたときに左下から右上に向かって延びる仮想的な平面P1(図2参照)上、且つ、回転軸A2に対して対称に配置されている。つまり、2つの第1バネ受け25は、上下方向及び左右方向において異なる位置にあり、前後方向において略同じ位置にある。また、モータシャフト711の回転軸A2と、2つの第1バネ受け25の夫々との間の距離は、略同一である。
【0039】
第1バネ受け25の各々は、付勢部材41の2つの端部のうち第1端部411を受ける(第1端部411に当接する)ように構成されている。なお、本実施例では、付勢部材41は、圧縮コイルバネである。より詳細には、第1バネ受け25は、前端部231の後端面から後方に突出する突起251を有する。付勢部材41の第1端部411は、第1バネ受け25の突起251に嵌め込まれ、モータ収容部23の前端部231(ショルダ部)の後端面である当接面252に当接している。
【0040】
2つの第2バネ受け35は、夫々、工具本体2の2つの第1バネ受け25に対応して設けられている。より詳細には、第2バネ受け35の一方は、カバー部31の左下中央部に設けられ、第2バネ受け35の他方は、カバー部31の右上中央部に設けられている。更に詳細には、2つの第2バネ受け35は、平面P1(図2参照)上、且つ、回転軸A2に対して対称に配置されている。また、2つの第2バネ受け35は、夫々、2つの第1バネ受け25の真後ろに配置されている。つまり、第2バネ受け35は、第1バネ受け25を通り、モータシャフト711の回転軸A2に平行な(前後方向に延在する)直線上に配置されている。
【0041】
第2バネ受け35の各々は、付勢部材41の2つの端部のうち第2端部412を受ける(第2端部412に当接する)ように構成されている。より詳細には、第2バネ受け35は、カバー部31の内部に突出するベース部351と、ベース部351から前方に突出する突起354とを有する。付勢部材41の第2端部412は、突起354に嵌め込まれ、ベース部351の前端面である当接面352に当接している。
【0042】
このようにして、第1バネ受け25と第2バネ受け35とは、付勢部材41によって弾性的に連結されている。付勢部材41は、第1バネ受け25と第2バネ受け35との間に圧縮状態で保持され、工具本体2とハンドル3とを、前後方向において互いから離れる方向に付勢している。つまり、付勢部材41は、工具本体2及びハンドル3を、夫々、前方及び後方に付勢している。
【0043】
次に、第1ボール保持部51と第2ボール保持部53との連結構造について説明する。
【0044】
図3及び図4に示すように、4つの第1ボール保持部51は、夫々、モータ収容部23の左側部23Lに2つ、右側部23Rに2つ設けられている。より詳細には、左側部23Lには、前後方向に離間して、2つの第1ボール保持部51が設けられている。右側部23Rにも、同様に、前後方向に離間して、2つの第1ボール保持部51が設けられている。なお、左側部23L及び右側部23Rの各々の2つの第1ボール保持部51は、前後方向において、モータ収容部23のうち、ハンドル3のカバー部31に覆われる部分の前端部及び後端部に設けられている。また、2つの第1ボール保持部51は、上下方向において実質的に同じ位置に配置されている。言い換えると、2つの第1ボール保持部51は、側面視で(工具本体2を左又は右からみたときに)、前後方向に延在する一直線上に配置されている。なお、本実施例では、2つの第1ボール保持部51は、側面視で、モータシャフト711の回転軸A2上に配置されている。
【0045】
また、4つの第1ボール保持部51のうち、前側の左右一対の第1ボール保持部51は、ハンマドリル1(工具本体2)の左右方向の中心を通り、上下方向(把持部33の実質的な延在方向)に延在する仮想的な平面P2(図2参照)に対して対称に配置されている。平面P2は、駆動軸A1を含み、上下方向に延在する仮想的な平面(駆動軸A1及び回転軸A2を含む平面)ともいえる。同様に、後側の左右一対の第1ボール保持部51も、平面P2に対して対称に配置されている。
【0046】
各第1ボール保持部51は、第1凹部52を有する。4つの第1凹部52は、全て左右方向の深さを有する凹部であって、実質的に同一の構成を有する。詳細には、各第1凹部52は、モータ収容部23の左側部23L又は右側部23Rから右方又は左方に(平面P2に向けて)凹み、且つ、前後方向に長い凹部である。第1凹部52の左右方向の深さ及び上下方向の幅は、弾性部材55の直径よりも若干小さく設定されている。第1凹部52の前後方向の長さは、弾性部材55の直径よりも大きく設定されている。第1凹部52は、湾曲面によって規定されている。詳細な図示は省略するが、第1凹部52の駆動軸A1に直交する断面形状は、円弧状であって、弾性部材55の概ね半分の外面に実質的に整合する。また、図4に示すように、第1凹部52の前端部及び後端部は、夫々、弾性部材55の概ね四分の一に整合する湾曲面によって規定されている。
【0047】
4つの第2ボール保持部53は、工具本体2の4つの第1凹部52に夫々対応して、カバー部31の左壁部31Lに2つ、右壁部31Rに2つ設けられている。より詳細には、カバー部31の左壁部31Lには、前後方向に離間して、2つの第2ボール保持部53が設けられている。右壁部31Rにも、同様に、前後方向に離間して、2つの第2ボール保持部53が設けられている。なお、左壁部31L及び右壁部31Rの各々の2つの第2ボール保持部53は、上下方向において実質的に同じ位置に配置されている。言い換えると、2つの第2ボール保持部53は、側面視で(ハンドル3を左又は右からみたときに)、前後方向に延在する一直線上(より詳細には、モータシャフト711の回転軸A2上)に配置されている。
【0048】
また、4つの第2ボール保持部53のうち、前側の左右一対の第2ボール保持部53は、平面P2(図2参照)に対して対称に配置されている。同様に、後側の左右一対の第2凹部54も、平面P2に対して対称に配置されている。
【0049】
各第2ボール保持部53は、第2凹部54を有する。4つの第2凹部54は、全て左右方向の深さを有する凹部であって、実質的に同一の構成を有する。詳細には、各第2凹部54は、カバー部31の左壁部31L又は右壁部31Rから左方又は右方に(平面P2から離れる方向に向けて)凹み、且つ、前後方向に長い凹部である。第2凹部54は、左右方向において、第1凹部52と逆向きであるものの、第1凹部52と実質的に同一の構成(長さ、幅、湾曲面)を有する。
【0050】
図4に示すように、弾性部材55は、左右方向において、各第1ボール保持部51と第2ボール保持部53との間に配置され、第1ボール保持部51と第2ボール保持部53とを弾性的に連結している。弾性部材55は、防振用のゴム(例えば、ニトリルブタジエンゴム(NBR))で形成された球体(ボール)である。モータ収容部23の左側部23Lと、カバー部31の左壁部31Lとは、弾性部材55によって、互いから左右方向に離間した状態(非接触状態)で維持されている。同様に、モータ収容部23の右側部23Rと、カバー部31の右壁部31Rとは、弾性部材55によって、互いから左右方向に離間した状態(非接触状態)で維持されている。
【0051】
また、弾性部材55は、工具本体2及びハンドル3に対して前後方向に移動可能に配置されている。より詳細には、弾性部材55は、第1凹部52及び第2凹部54を規定する面(湾曲面)に沿って、第1凹部52及び第2凹部54内を前後方向に転動可能である。一方、弾性部材55は、第1凹部52及び第2凹部54内での上下方向の転動は規制されている。弾性部材55は、第1凹部52及び第2凹部54内を前後方向に転動することで、工具本体2とハンドル3の前後方向の相対移動を案内する。このことから、以下では、第1ボール保持部51(第1凹部52)、第2ボール保持部53(第2凹部54)、弾性部材55を総称してガイド部5ともいう。本実施例では、4つのガイド部5が、ハンマドリル1の左側部及び右側部に夫々2つずつ設けられている。
【0052】
なお、以下では、4つのガイド部5を総称する場合、及び、4つのうち少なくとも1つを区別なく指す場合には、単にガイド部5という。4つのガイド部5のうち、前側の左右一対のガイド部5の少なくとも1つを指す場合には、前側ガイド部5Fといい、後側の左右一対のガイド部5の少なくとも1つを指す場合には、後側ガイド部5Rという。また、4つの弾性部材55を総称する場合、及び、4つのうち少なくとも1つを区別なく指す場合には、単に弾性部材55という。4つの弾性部材55のうち、前側ガイド部5Fの弾性部材55を指す場合には、前側弾性部材55Fといい、後側ガイド部5Rの弾性部材55を指す場合には、後側弾性部材55Rという。
【0053】
本実施例では、4つの弾性部材55は全て、同じ種類のゴムで形成されているが、前側弾性部材55Fと後側弾性部材55Rとは、弾性変形特性(弾性変形のしやすさ)が異なっている。より詳細には、前側弾性部材55Fは、後側弾性部材55Rと比べて弾性変形しにくいように構成されている。具体的には、前側弾性部材55Fは、後側弾性部材55Rよりも硬度が高い(より硬い)ゴムで形成されている。
【0054】
上述のように、付勢部材41は、前後方向において、工具本体2とハンドル3とを互いから離れる方向(つまり、前方及び後方)に付勢している。このため、初期状態では、ハンドル3は、付勢部材41の付勢力によって、各ガイド部5において、弾性部材55が第1凹部52の後端部及び第2凹部54の前端部に部分的に当接する(嵌る)位置(図3及び図4に示す位置。以下、初期位置という)で保持される。ハンドル3が初期位置にあるときには、弾性部材55は、第1凹部52及び第2凹部54を規定する面を介して、第1ボール保持部51及び第2ボール保持部53から、主として剪断方向の力を受ける。なお、剪断方向の力は、直線的に断ち切る方向の力、又は捻じ切る方向の力を含む。本実施例では、付勢部材41の付勢力は、初期状態において、弾性部材55がごく僅かに剪断変形する程度に設定されている。
【0055】
一方、前後方向において、工具本体2とハンドル3とを互いに近づける方向の外力(例えば、使用者が先端工具91を加工材に押し付けるときの押圧力)が作用すると、図6図9に示すように、ハンドル3は、付勢部材41を圧縮しつつ(付勢部材41の付勢力に抗して)、工具本体2に対して初期位置から前方へ移動する。このとき、第2ボール保持部53の後端部が弾性部材55に後方から当接し、弾性部材55を、第1凹部52内で前方へ転動させる。弾性部材55が第1凹部52の前端部及び第2凹部54の後端部に部分的に当接する(嵌る)位置(図7及び図8に示す位置。以下、前方位置という)にハンドル3が到達するまで、弾性部材55は、実質的に剪断変形することなく転動する。ハンドル3が前方位置に配置されると、弾性部材55は、第1ボール保持部51及び第2ボール保持部53から、主として剪断方向の力を受ける。前後方向において、工具本体2とハンドル3とが更に互いに近づく方向に相対移動すると、弾性部材55は、更なる剪断方向の力を受けて剪断変形する。弾性部材55の剪断変形に応じて、ハンドル3は、前方位置よりも前方の最前方位置まで、工具本体2に対して移動可能である。
【0056】
また、工具本体2とハンドル3とが左右方向に相対移動すると、弾性部材55は、第1ボール保持部51及び第2ボール保持部53から、主として圧縮方向の力を受け、圧縮変形する。
【0057】
更に、工具本体2とハンドル3とが上下方向に相対移動すると、弾性部材55は、第1ボール保持部51及び第2ボール保持部53から、主として剪断方向の力を受け、剪断変形する。このとき、本実施例では、ハンドル3は、左右一対の前側ガイド部5F(詳細には、前側弾性部材55F)を支点として、工具本体2に対して実質的に回動しうる。より詳細には、上述のように、前側ガイド部5Fの前側弾性部材55Fは、後側ガイド部5Rの後側弾性部材55Rよりも硬く、弾性変形しにくい。つまり、後側弾性部材55Rは前側弾性部材55Fよりも弾性変形しやすい。このため、工具本体2とハンドル3とを上下方向に相対移動させる外力が作用すると、ハンドル3は、左右一対の前側弾性部材55Fを支点として、後側弾性部材55Rをより大きく剪断変形させつつ、工具本体2に対して実質的に回動することができる。工具本体2とハンドル3とを、左右方向に延在する軸周りに相対的に回動させる外力が作用した場合も同様である。
【0058】
以下、打撃動作時の工具本体2及びハンドル3の作用について説明する。
【0059】
駆動機構75が打撃動作を遂行するときには、駆動軸A1に沿って先端工具91が駆動されることで、工具本体2には、駆動軸方向(前後方向)に最も大きな振動が発生する。この振動に応じて、工具本体2とハンドル3は前後方向に相対移動する。上述のように、ハンドル3が、工具本体2に対して、初期位置と前方位置との間の所定範囲内で移動する間は、各ガイド部5において、弾性部材55が、第1凹部52及び第2凹部54内を前後方向に転動する。この間、工具本体2及びハンドル3の相対移動に応じて付勢部材41が伸縮することで、ハンドル3への振動伝達が低減される。また、ハンドル3が工具本体2に対して前方位置と最前方位置との間で移動するときには、付勢部材41の伸縮のみならず、弾性部材55の剪断変形によっても、ハンドル3への振動伝達が効果的に低減される。このように、本実施例では、付勢部材41の伸縮、弾性部材55の転動及び剪断変形を利用して、前後方向の振動の大きさに応じた効果的な振動伝達の低減が実現される。
【0060】
また、弾性部材55は、第1凹部52及び第2凹部54内を前後方向に転動することで、工具本体2とハンドル3の前後方向の円滑な相対移動を実現することができる。特に、本実施例では、二対のガイド部5(左右一対の前側ガイド部5F及び左右一対の後側ガイド部5R)が、前後方向に離間して設けられているため、工具本体2とハンドル3との前後方向の相対移動を安定して案内することができる。また、弾性部材55は、球状であるため、第1ボール保持部51及び第2ボール保持部53からの剪断方向の力を受けても破損しにくく、転動可能であるため、摩耗しにくいという利点がある。
【0061】
更に、本実施例では、弾性部材55は、前後方向のみならず、駆動軸A1に交差する方向の工具本体2とハンドル3の相対移動に応じて弾性変形する。より詳細には、弾性部材55は、工具本体2とハンドル3の上下方向の相対移動に応じて剪断変形し、工具本体2とハンドル3の左右方向の相対移動に応じて圧縮変形する。打撃動作の遂行中には、工具本体2には、前後方向の振動ほど大きくはないものの、別の方向(例えば、上下方向、左右方向)の振動も生じる。本実施例の弾性部材55を用いた連結構造は、弾性部材55の弾性変形(剪断変形、圧縮変形)に応じて、前後方向以外のあらゆる方向の振動にも適切に対応することができる。
【0062】
なお、駆動機構75において、運動変換機構に揺動部材(例えば、swash bearing、wobble plate/bearing)が採用される場合には、上下方向において、前後方向ほど大きくはないが、左右方向よりは大きな振動が生じる。防振用のゴムは、圧縮剛性に比べ剪断剛性が低い。つまり、弾性部材55は、剪断変形による振動低減効果が、圧縮変形による振動低減効果よりも高いという特性を有する。本実施例では、工具本体2とハンドル3の前後方向及び上下方向の相対移動に応じて弾性部材55を剪断変形させ、左右方向の相対移動に応じて剪断変形させる構成を採用することで、この特性が有効に利用されている。
【0063】
また、本実施例では、上述の弾性部材55の弾性変形特性の設定によって、前側ガイド部5Fの前側弾性部材55Fを支点とした工具本体2とハンドル3の相対回動が許容されているため、相対回動方向の振動にも適切に対応することができる。前側ガイド部5Fは、後側ガイド部5Rよりも把持部33から離れた位置にある。特に、本実施例では、前側ガイド部5Fの第1ボール保持部51(第1凹部52)と第2ボール保持部53(第2凹部54)は、夫々、モータ収容部23及びカバー部31のうち、これらが互いに重なる部分において最も前方に配置されている。よって、工具本体2とハンドル3の相対回動方向の振動が把持部33へ伝達されるのを効果的に低減することができる。
【0064】
また、本実施例では、工具本体2とハンドル3とは、2つの付勢部材41によって付勢されている。よって、1つの付勢部材41が設けられる場合に比べ、工具本体2とハンドル3の相対移動を安定化することができる。特に、2つの付勢部材41は、モータシャフト711の回転軸A2に対して対称、且つ、上下方向及び左右方向において異なる位置に配置されている。このため、ハンドル3が工具本体2に対して前後方向に移動するときに、ハンドル3が無用に上下方向や左右方向に傾くのを抑制することができる。
【0065】
上記実施例の構成(特徴)と本開示の構成(特徴)との対応関係を以下に示す。但し、実施例の構成(特徴)は単なる一例であって、本開示あるいは本発明の構成(特徴)を限定するものではない。
【0066】
ハンマドリル1は、「打撃工具」の一例である。駆動軸A1は、「駆動軸」の一例である。先端工具91は、「先端工具」の一例である。工具本体2は、「工具本体」の一例である。モータ71は、「モータ」の一例である。ハンドル3は、「ハンドル」の一例である。カバー部31は、「カバー部」の一例である。把持部33は、「把持部」の一例である。付勢部材41は、「付勢部材」の一例である。弾性部材55は、「弾性部材」の一例である。前側弾性部材55Fは、「前側弾性部材」の一例である。後側弾性部材55Rは、「後側弾性部材」の一例である。モータシャフト711は、「モータの出力シャフト」の一例である。
【0067】
<変形例>
なお、上記実施例は単なる例示であり、本開示に係る打撃工具は、例示されたハンマドリル1に限定されるものではない。例えば、下記に例示される非限定的な変更を加えることができる。また、これらの変更のうち少なくとも1つが、ハンマドリル1、及び請求項に記載された構成(特徴)の少なくとも1つと組み合わされて採用されうる。
【0068】
上記実施例では、打撃工具として、ハンマドリル1が例示されているが、本開示の特徴は、打撃動作を遂行可能な別の電動工具(例えば、回転動作は行わず、打撃動作のみを遂行可能な電動ハンマ)に適用されてもよい。また、ハンマドリル1は、打撃モード及び回転モードの2つの動作モードのみを有してもよい。本開示の特徴が適用される打撃工具に応じて、工具本体2及びハンドル3の構成、モータ71及び駆動機構75の構成、配置は、適宜変更されうる。
【0069】
例えば、工具本体2は、駆動機構収容部21とモータ収容部23とが、側面視L字状に連結されることで形成されていてもよい。そして、モータ71は、モータシャフト711の回転軸A2が駆動軸A1と交差するように配置されていてもよい。この場合、ハンドル3の形状も適宜変更されうる。例えば、ハンドル3は、駆動機構収容部21を部分的に覆う第1カバー部と、モータ収容部23を部分的に覆う第2カバー部と、第1カバー部と第2カバー部とに2つの端部が連結された把持部とを含んでもよい。また、上記実施例では、ハンドル3は、左右方向に互いに連結された2つの半割体(左側部材3L及び右側部材3R)によって形成されている。しかしながら、ハンドル3は、例えば前後方向に分割された半割体が互いに連結されることで形成されてもよい。あるいは、ハンドル3は、その他の方向に分割された複数の部材が連結されることで形成されてもよい。
【0070】
また、例えば、モータ71には、直流モータ(例えば、ブラシレスDCモータ)が採用されてもよい。この場合、例えば、工具本体2又はハンドル3に、充電式のバッテリ(バッテリパックともいう)を着脱可能なバッテリ装着部が設けられてもよい。
【0071】
工具本体2とハンドル3との連結構造は、適宜変更されうる。以下に、工具本体2とハンドル3との連結構造に関する変形例を挙げる。
【0072】
例えば、工具本体2とハンドル3とを、前後方向において互いから離れる方向に付勢する付勢部材は、付勢部材41に限られない。例えば、圧縮コイルバネとは別の種類のバネ(例えば、引張りコイルバネ、板バネ、捩じりバネ等)を採用することができる。あるいは、ゴム、合成樹脂等のバネ以外の弾性部材が採用されてもよい。また、付勢部材41の数及び位置は、上記実施例で例示された数及び位置に限られない。例えば、付勢部材41は、平面P2上に1つのみ設けられてもよい。3つ又はそれ以上の付勢部材41が設けられてもよい。また、付勢部材41の端部を受ける第1バネ受け25、第2バネ受け35の構成は、採用される付勢部材の種類、位置等に応じて適宜変更されうる。
【0073】
また、工具本体2とハンドル3の前後方向の相対移動を案内する構造は、ガイド部5(第1ボール保持部51、第2ボール保持部53、弾性部材55)に限られない。
【0074】
例えば、弾性部材55の構成(種類、形状等)は、適宜変更されうる。例えば、弾性部材55は、ゴムではなく、弾性変形(剪断変形、圧縮変形)が可能な合成樹脂によって形成されていてもよい。また、弾性部材55は、球体(ボール)以外の形状(例えば、円柱(ピン)状、楕円柱状、角柱状、円筒状等)の弾性部材であってもよい。弾性部材55の変更に応じて、第1凹部52及び第2凹部54の構成も適宜変更されうる。例えば、第1凹部52及び第2凹部54は、有底の凹部ではなく、モータ収容部23の壁部を貫通する開口(貫通孔)であってもよい。球体(ボール)以外の形状の弾性部材は、工具本体2及びハンドル3の相対移動に応じて、第1ボール保持部51及び第2ボール保持部53に対して摺動可能、且つ、剪断変形可能であってもよい。
【0075】
前側ガイド部5Fの前側弾性部材55Fと、後側ガイド部5Rの後側弾性部材55Rとは、材質の違い又は形状の違いに応じて、弾性変形特性(弾性変形のしやすさ)が異なっていてもよい。例えば、前側弾性部材55Fと後側弾性部材55Rとは、同一形状を有する異なる種類の弾性部材であってもよい。あるいは、前側弾性部材55Fと後側弾性部材55Rとは、異なる形状を有する同一種類の弾性部材であって、形状の違いにより、弾性変形のしやすさが異なっていてもよい。更には、前側弾性部材55Fの弾性変形特性は、後側弾性部材55Rの弾性変形特性と、同一であってもよい。
【0076】
ガイド部5の配置は、上述の例に限られない。例えば、上記実施例では、ハンマドリル1の左側部及び右側部の各々に設けられた2つのガイド部5は、側面視において、前後方向に延びる一直線上にある(上下方向において同じ位置にある)が、上下方向において異なる位置に配置されていてもよい。また、2つのガイド部5は、側面視で、モータシャフト711の回転軸A2よりも上方又は下方で前後方向に延びる一直線上に配置されていてもよい。なお、2つのガイド部5の位置は、工具本体2(モータ収容部23)と、ハンドル3(カバー部31)とが重なる領域内で適宜変更可能であるが、前後方向においてできる限り互いから離れていることが好ましい。
【0077】
ハンマドリル1は、少なくとも1つのガイド部5を備えていればよく、ガイド部5の数は、上述の例(4つ)に限られない。例えば、ハンマドリル1は、左右一対のガイド部5のみ(例えば、一対の前側ガイド部5Fのみ)を備えてもよい。あるいは、ハンマドリル1は、前後方向に離間配置された2つのガイド部5のみ(例えば、左側部の2つのガイド部5のみ)を備えてもよい。
【0078】
更に、本開示の趣旨に鑑み、以下の態様が構築される。以下の態様のうち少なくとも1つが、上述の実施形態、実施例、変形例、及び請求項に記載された特徴の少なくとも1つと組み合わせて採用されうる。
[態様1]
前記前後方向に直交し、且つ、前記把持部の延在方向に対応する方向は、前記打撃工具の上下方向を規定し、
前記前後方向及び前記上下方向に直交する方向は、前記打撃工具の左右方向を規定し、
前記少なくとも1つの弾性部材は、前記左右方向において、前記工具本体の側部と前記ハンドルの前記カバー部との間に配置されている。
[態様2]
前記工具本体は、前記前後方向に延在する少なくとも1つの第1凹部を有し、
前記ハンドルの前記カバー部は、前記前後方向に延在する少なくとも1つの第2凹部を有し、
前記少なくとも1つの弾性部材は、前記少なくとも1つの第1凹部及び前記少なくとも1つの第2凹部の夫々を規定する面に部分的に接触した状態で保持されている。
第1凹部52及び第2凹部54は、夫々、「第1凹部」及び「第2凹部」の一例である。
[態様3]
前記少なくとも1つの弾性部材の各々は、前記工具本体と前記ハンドルとが、前記前後方向において、前記所定範囲を超えて互いに近づく方向に移動するのに応じて、前記第1凹部の前端部と前記第2凹部の後端部によって押圧されて剪断変形し、且つ、前記工具本体と前記ハンドルとが、前記所定範囲を超えて互いから離れる方向に移動するのに応じて、前記第1凹部の後端部と前記第2凹部の前端部によって押圧されて剪断変形するように構成されている。
[態様4]
前記所定範囲は、前記ハンドルが前記工具本体に対して第1位置と第2位置との間で移動する範囲であって、
前記第1位置は、前記少なくとも1つの弾性部材の各々が前記第1凹部の後端部と前記第2凹部の前端部に当接する位置であり、
前記第2位置は、前記少なくとも1つの弾性部材の各々が前記第1凹部の前端部と前記第2凹部の後端部に当接する位置である。
[態様5]
前記前後方向において、前記少なくとも1つの弾性部材の各々は、前記第1凹部及び前記第2凹部の各々よりも短い。
[態様6]
前記前後方向に直交し、且つ、前記把持部の延在方向に対応する方向は、前記打撃工具の上下方向を規定し、
前記前後方向及び前記上下方向に直交する方向は、前記打撃工具の左右方向を規定し、
前記少なくとも1つの弾性部材は、前記左右方向に圧縮変形可能である。
[態様7]
前記少なくとも1つの弾性部材は、ゴム製である。
[態様8]
前記少なくとも1つの付勢部材は、少なくとも1つのバネである。
[態様9]
前記モータは、前記駆動軸に平行な軸周りに回転可能な出力シャフトを有し、
前記カバー部は、少なくとも部分的に筒状に形成されて前記工具本体の一部を覆うように構成され、
前記把持部の一端は、前記カバー部に連結されており、前記把持部の他端は自由端である。
【符号の説明】
【0079】
1:ハンマドリル、2:工具本体、21:駆動機構収容部、23:モータ収容部、23L:左側部、23R:右側部、231:前端部、25:第1バネ受け、251:突起、252:当接面、29:蛇腹、3:ハンドル、3L:左側部材、3R:右側部材、31:カバー部、31L:左壁部、31R:右壁部、33:把持部、331:トリガ、335:スイッチ、337:電源コード、35:第2バネ受け、351:ベース部、352:当接面、354:突起、41:付勢部材、411:第1端部、412:第2端部、5:ガイド部、5F:前側ガイド部、5R:後側ガイド部、51:第1ボール保持部、52:第1凹部、53:第2ボール保持部、54:第2凹部、55:弾性部材、55F:前側弾性部材、55R:後側弾性部材、71:モータ、711:モータシャフト、713:ファン、75:駆動機構、79:ツールホルダ、91:先端工具、A1:駆動軸、A2:回転軸
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9