(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-13
(45)【発行日】2024-09-25
(54)【発明の名称】位相差フィルム、位相差層付偏光板および画像表示装置
(51)【国際特許分類】
G02B 5/30 20060101AFI20240917BHJP
G02F 1/13363 20060101ALI20240917BHJP
G09F 9/30 20060101ALI20240917BHJP
G09F 9/00 20060101ALI20240917BHJP
【FI】
G02B5/30
G02F1/13363
G09F9/30 349E
G09F9/30 349Z
G09F9/00 313
(21)【出願番号】P 2021045700
(22)【出願日】2021-03-19
【審査請求日】2023-09-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000003964
【氏名又は名称】日東電工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100122471
【氏名又は名称】籾井 孝文
(72)【発明者】
【氏名】永幡 敬治
(72)【発明者】
【氏名】谷 周一
(72)【発明者】
【氏名】河村 亮
(72)【発明者】
【氏名】伊▲崎▼ 章典
【審査官】池田 博一
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-056820(JP,A)
【文献】韓国登録特許第10-1197018(KR,B1)
【文献】韓国公開特許第10-2016-0098751(KR,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 5/30
G02F 1/13363
G09F 9/30
G09F 9/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
環状オレフィン系樹脂を含み、nx>nz>nyの屈折率特性を示す延伸フィルムと;該延伸フィルムの少なくとも一方の表面に形成された
、実質的に該延伸フィルムの成分から構成される脆弱層と;該脆弱層の外側に設けられた強化層と;を有し、
該強化層が、活性エネルギー線硬化型樹脂の硬化層であり、
該強化層と該脆弱層との間に、該強化層の成分と該脆弱層の成分とを含む相溶領域である中間層が形成されている、
位相差フィルム。
【請求項2】
前記強化層が、活性エネルギー線硬化型接着剤の硬化層である、請求項1に記載の位相差フィルム。
【請求項3】
前記脆弱層、前記強化層および前記中間層を前記延伸フィルムの両側に有する、請求項1または2に記載の位相差フィルム。
【請求項4】
前記中間層が形成される前の前記脆弱層の厚みT
1が200nm~300nmである、請求項1から3のいずれかに記載の位相差フィルム。
【請求項5】
前記厚みT
1と前記中間層の厚みT
2との比T
2/T
1が0.1~0.7である、請求項4に記載の位相差フィルム。
【請求項6】
偏光子と請求項1から5のいずれかに記載の位相差フィルムとを含む、位相差層付偏光板。
【請求項7】
請求項6に記載の位相差層付偏光板を含む、画像表示装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、位相差フィルム、位相差層付偏光板および画像表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
画像表示装置(例えば、液晶表示装置、有機EL表示装置、量子ドット表示装置)には、その画像形成方式に起因して、多くの場合、画像表示セルの少なくとも一方の側に偏光板が配置されている。さらに、画像表示装置の視認側に配置される偏光板には、外光反射や背景の映り込みの防止、色相の改善等を目的として、その画像表示セル側に位相差フィルムが積層される場合がある。位相差フィルムとして、nx>nz>nyの屈折率特性を示す、いわゆるZフィルムが知られている。しかし、Zフィルムは耐クラック性が不十分であり、耐溶剤試験およびヒートショック試験のいずれにおいてもクラックが発生しやすいという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は上記課題を解決するためになされたものであり、その主たる目的は、nx>nz>nyの屈折率特性を示し、かつ、優れた耐クラック性を有する位相差フィルムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の実施形態による位相差フィルムは、環状オレフィン系樹脂を含み、nx>nz>nyの屈折率特性を示す延伸フィルムと;該延伸フィルムの少なくとも一方の表面に形成された脆弱層と;該脆弱層の外側に設けられた強化層と;を有する。該強化層は、活性エネルギー線硬化型樹脂の硬化層である。該位相差フィルムにおいては、該強化層と該脆弱層との間に、該強化層の成分と該脆弱層の成分とを含む相溶領域である中間層が形成されている。
1つの実施形態においては、上記位相差フィルムは、上記強化層は、活性エネルギー線硬化型接着剤の硬化層である。
1つの実施形態においては、上記位相差フィルムは、上記脆弱層、上記強化層および上記中間層を上記延伸フィルムの両側に有する。
1つの実施形態においては、上記中間層が形成される前の上記脆弱層の厚みT1は200nm~300nmである。
1つの実施形態においては、上記厚みT1と上記中間層の厚みT2との比T2/T1は0.1~0.7である。
本発明の別の局面によれば、位相差層付偏光板が提供される。この位相差層付偏光板は、偏光子と上記の位相差フィルムとを有する。
本発明のさらに別の局面によれば、画像表示装置が提供される。この画像表示装置は、上記の位相差層付偏光板を含む。
【発明の効果】
【0006】
本発明の実施形態によれば、脆弱層が形成されたnx>nz>nyの屈折率特性を示す位相差層フィルムにおいて、脆弱層の外側に活性エネルギー線硬化型樹脂の硬化層である強化層を設け、強化層と脆弱層との間に、強化層の成分と脆弱層の成分とを含む相溶領域である中間層を形成することにより、優れた耐クラック性を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】本発明の1つの実施形態による位相差フィルムの概略断面図である。
【
図2】本発明の別の実施形態による位相差フィルムの概略断面図である。
【
図3】本発明の1つの実施形態による位相差層付偏光板の概略断面図である。
【0008】
以下、本発明の実施形態について説明するが、本発明はこれらの実施形態には限定されない。
【0009】
(用語および記号の定義)
本明細書における用語および記号の定義は下記の通りである。
(1)屈折率(nx、ny、nz)
「nx」は面内の屈折率が最大になる方向(すなわち、遅相軸方向)の屈折率であり、「ny」は面内で遅相軸と直交する方向(すなわち、進相軸方向)の屈折率であり、「nz」は厚み方向の屈折率である。
(2)面内位相差(Re)
「Re(λ)」は、23℃における波長λnmの光で測定した面内位相差である。例えば、「Re(550)」は、23℃における波長550nmの光で測定した面内位相差である。Re(λ)は、層(フィルム)の厚みをd(nm)としたとき、式:Re(λ)=(nx-ny)×dによって求められる。
(3)厚み方向の位相差(Rth)
「Rth(λ)」は、23℃における波長λnmの光で測定した厚み方向の位相差である。例えば、「Rth(550)」は、23℃における波長550nmの光で測定した厚み方向の位相差である。Rth(λ)は、層(フィルム)の厚みをd(nm)としたとき、式:Rth(λ)=(nx-nz)×dによって求められる。
(4)Nz係数
Nz係数は、Nz=Rth/Reによって求められる。
(5)角度
本明細書において角度に言及するときは、当該角度は基準方向に対して時計回りおよび反時計回りの両方を包含する。したがって、例えば「45°」は±45°を意味する。
(6)実質的に直交または実質的に平行
本明細書において「実質的に直交」および「略直交」という表現は、2つの方向のなす角度が90°±7°である場合を包含し、好ましくは90°±5°であり、さらに好ましくは90°±3°である。「実質的に平行」および「略平行」という表現は、2つの方向のなす角度が0°±7°である場合を包含し、好ましくは0°±5°であり、さらに好ましくは0°±3°である。さらに、本明細書において単に「直交」または「平行」というときは、実質的に直交または実質的に平行な状態を含み得るものとする。
【0010】
A.位相差フィルム
A-1.位相差フィルムの全体構成
図1は、本発明の1つの実施形態による位相差層フィルムの概略断面図である。図示例の位相差フィルム100は、延伸フィルム10と、延伸フィルムの少なくとも一方(図示例では視認側、図面の上側)の表面に形成された脆弱層20と、脆弱層20の外側に設けられた強化層30と、を有する。延伸フィルム10は、環状オレフィン系樹脂を含み、nx>nz>nyの屈折率特性を示す。延伸フィルム10がnx>nz>nyの屈折率特性を示すことにより、位相差フィルム100もまた、nx>nz>nyの屈折率特性を示し得る。
【0011】
脆弱層20は、環状オレフィン系樹脂フィルムから延伸フィルムを作製する際に(すなわち、延伸により)形成され得る。本発明者らは、nx>nz>nyの屈折率特性を示すいわゆるZフィルムにクラックが発生しやすいという課題を解決するために試行錯誤した結果、クラックが主として脆弱層に起因すること、および、当該脆弱層は延伸により形成され得ることを見出した。脆弱層は、延伸フィルムにおける表面部と厚み方向中間部との間の分子配向の違いに起因して形成され得ると推察される。本発明の実施形態によれば、後述するように強化層および中間層を形成することにより、Zフィルムにおいて優れた耐クラック性を実現することができる。より詳細には、強化層および中間層を形成することにより、耐溶剤試験およびヒートショック試験のいずれにおいてもクラックを顕著に抑制することができる。
【0012】
本発明の実施形態においては、上記のとおり、脆弱層20の外側に強化層30が設けられている。強化層30は、活性エネルギー線硬化型樹脂の硬化層であり、代表的には、活性エネルギー線硬化型接着剤の硬化層である。強化層30は、活性エネルギー線硬化型樹脂を延伸フィルム10(実質的には、脆弱層20)の表面に塗布し、塗布膜に活性エネルギー線を照射して硬化させることにより形成される。活性エネルギー線硬化型樹脂を塗布すると、未硬化の樹脂成分が脆弱層に浸透し、その結果、強化層30と脆弱層20との間に、強化層の成分と脆弱層の成分とを含む相溶領域である中間層40が形成され得る。中間層40を形成することにより、強化層と脆弱層とが中間層を介して強固に密着し、機械的強度が不十分でありクラックが発生しやすい脆弱層が強化層により適切に補強され得る。その結果、Zフィルムにおいてクラック(主に脆弱層に起因すると推定され得る)を顕著に抑制することができる。中間層40においては、好ましくは、脆弱層成分(実質的には、延伸フィルム成分)の濃度が、強化層側から脆弱層側にかけて連続的に大きくなる。脆弱層成分の濃度(言い換えれば、強化層成分の濃度)が連続的に変化することにより、中間層内において脆弱層成分または強化層成分の濃度変化に起因する界面の形成を防止することができる。その結果、中間層内の界面反射を抑制することができ、位相差フィルムを画像表示装置に適用した場合に、界面反射による悪影響(例えば、干渉ムラ)を抑制することができる。より好ましくは、脆弱層成分の濃度は、強化層から中間層にかけて連続的に大きくなり、かつ、中間層から脆弱層にかけて連続的に大きくなる。すなわち、より好ましくは、強化層と中間層との明確な界面、および、中間層と脆弱層との明確な界面は形成されない。このような構成であれば、干渉ムラのさらに少ない位相差フィルムが得られ得る。
【0013】
別の実施形態においては、
図2に示す位相差フィルム101のように、脆弱層20は延伸フィルム10の両面に形成され得る。この場合、強化層30は、代表的にはそれぞれの脆弱層の外側に設けられ、それぞれの強化層とそれぞれの脆弱層との間に中間層が形成され得る。
【0014】
位相差フィルムのMIT回数は、好ましくは70回以上であり、より好ましくは80回以上であり、さらに好ましくは100回以上である。MIT回数の上限は、例えば1000回であり得る。本発明の実施形態によれば、従来のZフィルムでは実現できなかったMIT回数(耐折れ性)を実現することができる。その結果、上記のように優れた耐クラック性を実現することができる。なお、MIT試験は、JIS P 8115に準拠して行われ得る。
【0015】
位相差フィルムを構成する樹脂フィルム(延伸前)の破断伸度は、好ましくは3%以上であり、より好ましくは4%以上であり、さらに好ましくは5%以上である。破断伸度の上限は、例えば30%であり得る。本発明の実施形態によれば、従来のZフィルムでは実現できなかった破断伸度を実現することができる。その結果、上記のように優れた耐クラック性を実現することができる。なお、破断伸度は、JIS K 7161に準拠して測定され得る。
【0016】
以下、位相差フィルムの構成要素について、より詳細に説明する。
【0017】
A-2.延伸フィルム
延伸フィルム10は、上記のとおり、nx>nz>nyの屈折率特性を示すいわゆるZフィルムである。位相差層がこのような屈折率特性を有することにより、位相差層付偏光板を適用する画像表示装置の斜め方向の色相を良好に改善することができる。さらに、このような斜め方向の色相改善は、位相差層と斜め方向の光学補償を行う層とを別個に設けることなく行うことができるので、設計の単純化および/または部品点数の削減に貢献し得る。
【0018】
延伸フィルム(結果として、位相差フィルム全体)の面内位相差Re(550)は、好ましくは220nm~320nmであり、より好ましくは240nm~300nmであり、さらに好ましくは260nm~280nmである。延伸フィルムの面内位相差Re(550)がこのような範囲であれば、位相差フィルムを画像表示装置に適用した場合に、ポアンカレ球上での移動距離が短いので優れた色相および輝度特性が実現され、かつ、画像表示パネルのカラーシフトおよびTFTの位相差成分によるずれも小さくなる。
【0019】
延伸フィルムのNz係数は、好ましくは0.3~0.7であり、より好ましくは0.4~0.6であり、さらに好ましくは0.45~0.55である。Nz係数がこのような範囲であれば、斜め方向の色相をさらに良好に改善することができる。
【0020】
延伸フィルムは、代表的には、位相差値が測定光の波長によってもほとんど変化しないフラットな波長分散特性を示す。
【0021】
延伸フィルムは、その光弾性係数の絶対値が好ましくは1.0×10-12m2/N~12.0×10-12m2/Nであり、より好ましくは2.0×10-12m2/N~8.0×10-12m2/Nであり、さらに好ましくは2.0×10-12m2/N~6.0×10-12m2/Nであり、特に好ましくは3.0×10-12m2/N~4.0×10-12m2/Nである。位相差層の光弾性係数の絶対値がこのような範囲であれば、画像表示装置の表示ムラを良好に抑制することができる。
【0022】
延伸フィルムは、上記のとおり、環状オレフィン系樹脂を含む。環状オレフィン系樹脂の代表例としては、ノルボルネン系樹脂が挙げられる。
【0023】
上記ノルボルネン系樹脂は、ノルボルネン系モノマーを重合単位として重合される樹脂である。当該ノルボルネン系モノマーとしては、例えば、ノルボルネン、およびそのアルキルおよび/またはアルキリデン置換体、例えば、5-メチル-2-ノルボルネン、5-ジメチル-2-ノルボルネン、5-エチル-2-ノルボルネン、5-ブチル-2-ノルボルネン、5-エチリデン-2-ノルボルネン等、これらのハロゲン等の極性基置換体;ジシクロペンタジエン、2,3-ジヒドロジシクロペンタジエン等;ジメタノオクタヒドロナフタレン、そのアルキルおよび/またはアルキリデン置換体、およびハロゲン等の極性基置換体、例えば、6-メチル-1,4:5,8-ジメタノ-1,4,4a,5,6,7,8,8a-オクタヒドロナフタレン、6-エチル-1,4:5,8-ジメタノ-1,4,4a,5,6,7,8,8a-オクタヒドロナフタレン、6-エチリデン-1,4:5,8-ジメタノ-1,4,4a,5,6,7,8,8a-オクタヒドロナフタレン、6-クロロ-1,4:5,8-ジメタノ-1,4,4a,5,6,7,8,8a-オクタヒドロナフタレン、6-シアノ-1,4:5,8-ジメタノ-1,4,4a,5,6,7,8,8a-オクタヒドロナフタレン、6-ピリジル-1,4:5,8-ジメタノ-1,4,4a,5,6,7,8,8a-オクタヒドロナフタレン、6-メトキシカルボニル-1,4:5,8-ジメタノ-1,4,4a,5,6,7,8,8a-オクタヒドロナフタレン等;シクロペンタジエンの3~4量体、例えば、4,9:5,8-ジメタノ-3a,4,4a,5,8,8a,9,9a-オクタヒドロ-1H-ベンゾインデン、4,11:5,10:6,9-トリメタノ-3a,4,4a,5,5a,6,9,9a,10,10a,11,11a-ドデカヒドロ-1H-シクロペンタアントラセン等が挙げられる。上記ノルボルネン系樹脂は、ノルボルネン系モノマーと他のモノマーとの共重合体であってもよい。
【0024】
延伸フィルムは、上記環状オレフィン系樹脂から形成されたフィルムを延伸することにより作製され得る。延伸フィルムの作製方法としては、任意の適切な方法を採用し得る。代表的には、樹脂フィルムの片面または両面に収縮性フィルムを貼り合わせて、加熱延伸する方法が挙げられる。当該収縮性フィルムは、加熱延伸時に延伸方向と直交する方向に収縮力を付与するために用いられる。そのような収縮力を付与することによりnzを大きくすることができ、結果として、Zフィルムを作製することができる。収縮性フィルムに用いられる材料としては、例えば、ポリエステル、ポリスチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン等が挙げられる。収縮均一性、耐熱性が優れる点から、ポリプロピレンフィルムが好ましく用いられる。
【0025】
上記延伸方法としては、上記樹脂フィルムの延伸方向への張力と、当該延伸方向とフィルム面内で直交する方向への収縮力とを付与し得る限り、任意の適切な延伸方法を採用し得る。延伸温度は、好ましくは、上記樹脂フィルムのガラス転移温度(Tg)以上である。得られる延伸フィルムの位相差値が均一になり易く、また、フィルムが結晶化(白濁)しにくいからである。延伸温度は、より好ましくは上記高分子フィルムのTg+1℃~Tg+30℃、さらに好ましくはTg+2℃~Tg+20℃、特に好ましくはTg+3℃~Tg+15℃、最も好ましくはTg+5℃~Tg+10℃である。延伸温度をこのような範囲とすることにより、均一な加熱延伸を行い得る。さらに、延伸温度は、フィルム幅方向で一定であることが好ましい。位相差値のバラツキが小さい良好な光学均一性を有する延伸フィルムを作製し得るからである。
【0026】
上記延伸時の延伸倍率は、任意の適切な値に設定され得る。好ましくは1.05~2.00倍、さらに好ましくは1.10~1.50倍、特に好ましくは1.20~1.40倍である。延伸倍率をこのような範囲とすることにより、フィルム幅の収縮が少なく、機械的強度に優れた延伸フィルムが得られ得る。
【0027】
延伸フィルムの厚みは、好ましくは80μm~200μmであり、より好ましくは100μm~180μmであり、さらに好ましくは120μm~160μmである。このような厚みであれば、所望の面内位相差値が得られ得る。
【0028】
A-3.脆弱層
脆弱層20は、上記のとおり、環状オレフィン系樹脂フィルムから延伸フィルムを作製する際に(すなわち、延伸により)形成され得る。特に、脆弱層は、Zフィルムを作製する際の延伸により形成され得る。脆弱層の形成メカニズムは明らかではないが、延伸時に収縮性フィルムを貼り合わせてnzを大きくすることに関連し得ると推察される。本発明の実施形態によれば、上記のとおり、強化層および中間層を形成することにより、所望でない脆弱層が形成され得るZフィルムにおいて、当該脆弱層に起因し得るクラックを顕著に抑制することができる。脆弱層は、代表的には延伸フィルムの両面に形成され得る。一方で、少なくとも一方の脆弱層に対して強化層および中間層を形成することにより、本発明の実施形態による効果が得られ得る。
【0029】
中間層が形成される前の脆弱層の厚み(すなわち、一部が中間層となる前の厚み)T1は、好ましくは200nm~300nmであり、より好ましくは220nm~290nmであり、さらに好ましくは240nm~280nmであり、特に好ましくは250nm~270nmである。
【0030】
A-4.強化層
強化層30は、上記のとおり、活性エネルギー線硬化型樹脂の硬化層であり、代表的には、活性エネルギー線硬化型接着剤の硬化層である。活性エネルギー線硬化型接着剤としては、例えば、紫外線硬化型接着剤、電子線硬化型接着剤が挙げられる。また、硬化メカニズムの観点からは、活性エネルギー線硬化型接着剤としては、例えば、ラジカル硬化型、カチオン硬化型、アニオン硬化型、ラジカル硬化型とカチオン硬化型とのハイブリッドが挙げられる。代表的には、ラジカル硬化型の紫外線硬化型接着剤が用いられ得る。汎用性に優れ、および、特性(構成)の調整が容易だからである。以下、代表例として接着剤を説明する。
【0031】
接着剤は、代表的には、硬化成分と光重合開始剤とを含有する。硬化成分としては、代表的には、(メタ)アクリレート基、(メタ)アクリルアミド基などの官能基を有するモノマーおよび/またはオリゴマーが挙げられる。硬化成分の具体例としては、トリプロピレングリコールジアクリレート、1,9-ノナンジオールジアクリレート、トリシクロデカンジメタノールジアクリレート、フェノキシジエチレングリコールアクリレート、環状トリメチロールプロパンフォルマルアクリレート、ジオキサングリコールジアクリレート、EO変性ジグリセリンテトラアクリレート、γ-ブチロラクトンアクリレート、アクリロイルモルホリン、不飽和脂肪酸ヒドロキシアルキルエステル修飾ε-カプロラクトン、N-メチルピロリドン、ヒドロキシエチルアクリルアミド、N-メチロールアクリルアミド、N-メトキシメチルアクリルアミド、N-エトキシメチルアクリルアミドが挙げられる。これらの硬化成分は、単独で用いてもよく2種以上を併用してもよい。
【0032】
好ましくは、接着剤は、複素環を有する硬化成分を含む。複素環を有する硬化成分としては、例えば、アクリロイルモルホリン、γ-ブチロラクトンアクリレート、不飽和脂肪酸ヒドロキシアルキルエステル修飾ε-カプロラクトン、N-メチルピロリドンが挙げられる。より好ましい硬化成分は、不飽和脂肪酸ヒドロキシアルキルエステル修飾ε-カプロラクトンおよびアクリロイルモルホリンであり、特に好ましい硬化成分は、アクリロイルモルホリンである。複素環を有する硬化成分は、硬化成分(後述のオリゴマー成分が存在する場合には硬化成分とオリゴマー成分との合計)100重量部に対して、好ましくは50重量部以上、より好ましくは60重量部以上、さらに好ましくは70重量部~95重量部の割合で接着剤に含有され得る。アクリロイルモルホリンは、硬化成分(オリゴマー成分が存在する場合には硬化成分とオリゴマー成分との合計)100重量部に対して、好ましくは5重量部~60重量部、より好ましくは10重量部~50重量部の割合で接着剤
に含有され得る。
【0033】
接着剤は、上記の硬化成分に加えてオリゴマー成分をさらに含有してもよい。オリゴマー成分を用いることにより、硬化前の接着剤の粘度を低減し、操作性を高めることができる。オリゴマー成分の代表例としては、(メタ)アクリル系オリゴマーが挙げられる。(メタ)アクリル系オリゴマーを構成する(メタ)アクリルモノマーとしては、例えば、(メタ)アクリル酸(炭素数1~20)アルキルエステル類、シクロアルキル(メタ)アクリレート(例えば、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、シクロペンチル(メタ)アクリレートなど)、アラルキル(メタ)アクリレート(例えば、ベンジル(メタ)アクリレートなど)、多環式(メタ)アクリレート(例えば、2-イソボルニル(メタ)アクリレート、2-ノルボルニルメチル(メタ)アクリレート、5-ノルボルネン-2-イル-メチル(メタ)アクリレート、3-メチル-2-ノルボルニルメチル(メタ)アクリレートなど)、ヒドロキシル基含有(メタ)アクリル酸エステル類(例えば、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2,3-ジヒドロキシプロピルメチル-ブチル(メタ)メタクリレートなど)、アルコキシ基またはフェノキシ基含有(メタ)アクリル酸エステル類(2-メトキシエチル(メタ)アクリレート、2-エトキシエチル(メタ)アクリレート、2-メトキシメトキシエチル(メタ)アクリレート、3-メトキシブチル(メタ)アクリレート、エチルカルビトール(メタ)アクリレート、フェノキシエチル(メタ)アクリレートなど)、エポキシ基含有(メタ)アクリル酸エステル類(例えば、グリシジル(メタ)アクリレートなど)、ハロゲン含有(メタ)アクリル酸エステル類(例えば、2,2,2-トリフルオロエチル(メタ)アクリレート、2,2,2-トリフルオロエチルエチル(メタ)アクリレート、テトラフルオロプロピル(メタ)アクリレート、ヘキサフルオロプロピル(メタ)アクリレート、オクタフルオロペンチル(メタ)アクリレート、ヘプタデカフルオロデシル(メタ)アクリレートなど)、アルキルアミノアルキル(メタ)アクリレート(例えば、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレートなど)が挙げられる。(メタ)アクリル酸(炭素数1~20)アルキルエステル類の具体例としては、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n-プロピル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、2-メチル-2-ニトロプロピル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、s-ブチル(メタ)アクリレート、t-ブチル(メタ)アクリレート、n-ペンチル(メタ)アクリレート、t-ペンチル(メタ)アクリレート、3-ペンチル(メタ)アクリレート、2,2-ジメチルブチル(メタ)アクリレート、n-ヘキシル(メタ)アクリレート、セチル(メタ)アクリレート、n-オクチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、4-メチル-2-プロピルペンチル(メタ)アクリレート、n-オクタデシル(メタ)アクリレートが挙げられる。これらの(メタ)アクリレートは、単独で用いてもよく2種以上を併用してもよい。
【0034】
光重合開始剤は、業界で周知の光重合開始剤が業界に周知の配合量で用いられ得るので、詳細な説明は省略する。
【0035】
強化層(硬化後)の厚みは、好ましくは0.1μm~7.0μmであり、より好ましくは1.0μm~5.0μmである。このような厚みとなるように接着剤を塗布することにより、適切な厚みの中間層が形成され得る。
【0036】
A-5.中間層
中間層40は、上記のとおり、強化層の成分と脆弱層の成分とを含む相溶領域である。言い換えれば、中間層は、脆弱層に強化層成分(実質的には、未硬化の樹脂成分)が浸透することにより形成された浸透層である。上記のとおり、中間層を形成することにより、強化層と脆弱層とが中間層を介して強固に密着し、機械的強度が不十分でありクラックが発生しやすい脆弱層が強化層により適切に補強され得る。その結果、Zフィルムにおいてクラック(主に脆弱層に起因すると推定され得る)を顕著に抑制することができる。
【0037】
中間層の厚みT2は、好ましくは20nm~180nmであり、より好ましくは30nm~170nmであり、さらに好ましくは40nm~160nmであり、特に好ましくは50nm~150nmである。中間層が形成される前の脆弱層の厚みT1と中間層の厚みT2との比T2/T1は、好ましくは0.1~0.7であり、より好ましくは0.2~0.6である。T2またはT2/T1が小さすぎると、クラックが発生しやすくなる場合がある。T2またはT2/T1が大きすぎると、設計通りの位相差が得られない場合がある。
【0038】
中間層の厚み1μmあたりのせん断破壊強度は、例えば10MPa以上であってもよく、また例えば14MPa以上であってもよく、また例えば16MPa以上であってもよく、また例えば20MPa以上であってもよく、また例えば25MPa以上であってもよく、また例えば40MPa以上であってもよく、また例えば70MPa以上であってもよく、また例えば100MPa以上であってもよく、また例えば120MPa以上であってもよい。中間層の厚み1μmあたりのせん断破壊強度は、例えば200MPa以下であり得る。中間層の厚み1μmあたりのせん断破壊強度がこのような範囲であれば、クラックを顕著に抑制することができる。せん断破壊強度は、単一フィルムまたは積層体の各層を切削(破壊)する際に必要な力であり、例えば、SAICAS(Surface And Interfacial Cutting Analysis System)により求めることができる。例えば、上から順に強化層と中間層と脆弱層と延伸フィルムとを有する積層体を、精密斜め切削装置(例えば、ダイプラウィンテス社製、「SAICAS DN-20型」)を用いて斜め切削した際のせん断強度がせん断破壊強度となる。斜め切削は、切刃を2軸運動(水平方向および垂直方向の運動)させることにより行われ得る。せん断破壊強度T(MPa)は下記式から求められる。
T(MPa)=FH(kN)/(2×Wd(m2)×cotφ)
ここで、FHは切刃による水平方向の荷重であり、Wは切刃の幅(m)であり、dは切刃の垂直方向の変位量(m)であり、φはせん断角度である。なお、せん断角度は、切削条件、切削対象物の構成材料等に応じて変化し得るが、概略的には45°である。
【0039】
中間層の厚みおよびせん断破壊強度は、脆弱層の構成等に応じて、強化層の構成材料、強化層の構成材料の組成(例えば、固形分濃度、溶媒組成、あるいは、添加物の種類、数または添加量)、強化層の形成条件(例えば、塗膜の乾燥または加熱条件、紫外線の照射量または照射方法)を適切に組み合わせて設定することにより調整され得る。
【0040】
B.位相差層付偏光板
B-1.位相差層付偏光板の全体構成
上記A項に記載の位相差フィルムは、他の光学フィルムおよび/または光学部材との積層体として提供され得る。1つの実施形態においては、位相差フィルムは、偏光子(実質的には、偏光板)との積層体(代表的には、位相差層付偏光板)として提供され得る。したがって、本発明の実施形態は、上記位相差フィルムを含む位相差層付偏光板を包含する。
図3は、本発明の1つの実施形態による位相差層付偏光板の概略断面図である。図示例の位相差層付偏光板200は、偏光子110と位相差層100とを含む。位相差層100は、上記A項に記載の位相差フィルムである。偏光子110の少なくとも一方には、保護層が配置されてもよい。図示例においては、偏光子110の視認側に保護層120が配置されている。保護層は偏光子の両側に配置されてもよく、偏光子と位相差層との間のみに配置されてもよい。以下、保護層120を視認側保護層、偏光子と位相差層との間に配置される保護層(図示せず)を内側保護層と称する場合がある。
【0041】
位相差層付偏光板200は、位相差層100の偏光子110と反対側(画像表示パネル側)に、目的に応じて任意の適切な機能層をさらに有していてもよい(図示せず)。機能層の代表例としては、別の位相差層、導電層が挙げられる。機能層の種類、数、組み合わせ、配置位置、特性(例えば、別の位相差層の光学特性:具体的には、屈折率特性、面内位相差、厚み方向位相差、Nz係数)は、目的に応じて適切に設定され得る。位相差層付偏光板が導電層をさらに有することにより、当該位相差層付偏光板は、インナータッチパネル型入力表示装置に好適に用いられ得る。さらに/あるいは、保護層120の視認側には、必要に応じて、偏光サングラスを介して視認する場合の視認性を改善する処理が施されていてもよい。このような処理の代表例としては、(楕)円偏光機能を付与すること(λ/4板を配置すること)、超高位相差を付与すること(超高位相差フィルムを配置すること)が挙げられる。このような処理を施すことにより、偏光サングラス等の偏光レンズを介して表示画面を視認した場合でも、優れた視認性を実現することができる。したがって、位相差層付偏光板は、屋外で用いられ得る画像表示装置にも好適に適用され得る。
【0042】
位相差層付偏光板は、枚葉状であってもよく長尺状であってもよい。本明細書において「長尺状」とは、幅に対して長さが十分に長い細長形状を意味し、例えば、幅に対して長さが10倍以上、好ましくは20倍以上の細長形状を含む。長尺状の位相差層付偏光板は、ロール状に巻回可能である。
【0043】
実用的には、位相差層100の偏光板110と反対側に(すなわち、視認側と反対側の最外層として)粘着剤層(図示せず)が設けられ、位相差層付偏光板は画像表示パネルに貼り付け可能とされている。さらに、粘着剤層の表面には、位相差層付偏光板が使用に供されるまで、セパレーター(図示せず)が仮着されていることが好ましい。セパレーターを仮着することにより、粘着剤層を保護するとともに、位相差層付偏光板のロール形成が可能となる。
【0044】
以下、偏光子および保護層について、具体的に説明する。
【0045】
B-2.偏光子
偏光子110は、代表的には、二色性物質を含む樹脂フィルムで構成される。
【0046】
樹脂フィルムとしては、偏光子として用いられ得る任意の適切な樹脂フィルムを採用することができる。樹脂フィルムは、代表的には、ポリビニルアルコール系樹脂(以下、「PVA系樹脂」と称する)フィルムである。
【0047】
上記PVA系樹脂フィルムを形成するPVA系樹脂としては、任意の適切な樹脂が用いられ得る。例えば、ポリビニルアルコール、エチレン-ビニルアルコール共重合体が挙げられる。ポリビニルアルコールは、ポリ酢酸ビニルをケン化することにより得られる。エチレン-ビニルアルコール共重合体は、エチレン-酢酸ビニル共重合体をケン化することにより得られる。PVA系樹脂のケン化度は、通常85モル%~100モル%であり、好ましくは95.0モル%~99.95モル%、さらに好ましくは99.0モル%~99.93モル%である。ケン化度は、JIS K 6726-1994に準じて求めることができる。このようなケン化度のPVA系樹脂を用いることによって、耐久性に優れた偏光子を得ることができる。ケン化度が高すぎる場合には、ゲル化してしまうおそれがある。
【0048】
PVA系樹脂の平均重合度は、目的に応じて適切に選択され得る。平均重合度は、通常1000~10000であり、好ましくは1200~4500、さらに好ましくは1500~4300である。なお、平均重合度は、JIS K 6726-1994に準じて求めることができる。
【0049】
樹脂フィルムに含まれる二色性物質としては、例えば、ヨウ素、有機染料等が挙げられる。これらは、単独で、または、二種以上組み合わせて用いられ得る。好ましくは、ヨウ素が用いられる。
【0050】
樹脂フィルムは、単層の樹脂フィルムであってもよく、二層以上の積層体であってもよい。
【0051】
単層の樹脂フィルムから構成される偏光子の具体例としては、PVA系樹脂フィルムにヨウ素による染色処理および延伸処理(代表的には、一軸延伸)が施されたものが挙げられる。上記ヨウ素による染色は、例えば、PVA系フィルムをヨウ素水溶液に浸漬することにより行われる。上記一軸延伸の延伸倍率は、好ましくは3~7倍である。延伸は、染色処理後に行ってもよいし、染色しながら行ってもよい。また、延伸してから染色してもよい。必要に応じて、PVA系樹脂フィルムに、膨潤処理、架橋処理、洗浄処理、乾燥処理等が施される。例えば、染色の前にPVA系樹脂フィルムを水に浸漬して水洗することで、PVA系フィルム表面の汚れやブロッキング防止剤を洗浄することができるだけでなく、PVA系樹脂フィルムを膨潤させて染色ムラなどを防止することができる。
【0052】
積層体を用いて得られる偏光子の具体例としては、樹脂基材と当該樹脂基材に積層されたPVA系樹脂層(PVA系樹脂フィルム)との積層体、あるいは、樹脂基材と当該樹脂基材に塗布形成されたPVA系樹脂層との積層体を用いて得られる偏光子が挙げられる。樹脂基材と当該樹脂基材に塗布形成されたPVA系樹脂層との積層体を用いて得られる偏光子は、例えば、PVA系樹脂溶液を樹脂基材に塗布し、乾燥させて樹脂基材上にPVA系樹脂層を形成して、樹脂基材とPVA系樹脂層との積層体を得ること;当該積層体を延伸および染色してPVA系樹脂層を偏光子とすること;により作製され得る。本実施形態においては、好ましくは、樹脂基材の片側に、ハロゲン化物とポリビニルアルコール系樹脂とを含むポリビニルアルコール系樹脂層を形成する。延伸は、代表的には積層体をホウ酸水溶液中に浸漬させて延伸することを含む。さらに、延伸は、必要に応じて、ホウ酸水溶液中での延伸の前に積層体を高温(例えば、95℃以上)で空中延伸することをさらに含み得る。加えて、本実施形態においては、好ましくは、積層体は、長手方向に搬送しながら加熱することにより幅方向に2%以上収縮させる乾燥収縮処理に供される。代表的には、本実施形態の製造方法は、積層体に、空中補助延伸処理と染色処理と水中延伸処理と乾燥収縮処理とをこの順に施すことを含む。補助延伸を導入することにより、熱可塑性樹脂上にPVAを塗布する場合でも、PVAの結晶性を高めることが可能となり、高い光学特性を達成することが可能となる。また、同時にPVAの配向性を事前に高めることで、後の染色工程や延伸工程で水に浸漬された時に、PVAの配向性の低下や溶解などの問題を防止することができ、高い光学特性を達成することが可能になる。さらに、PVA系樹脂層を液体に浸漬した場合において、PVA系樹脂層がハロゲン化物を含まない場合に比べて、ポリビニルアルコール分子の配向の乱れ、および配向性の低下が抑制され得る。これにより、染色処理および水中延伸処理など、積層体を液体に浸漬して行う処理工程を経て得られる偏光子の光学特性を向上し得る。さらに、乾燥収縮処理により積層体を幅方向に収縮させることにより、光学特性を向上させることができる。得られた樹脂基材/偏光子の積層体はそのまま用いてもよく(すなわち、樹脂基材を偏光子の保護層としてもよく)、樹脂基材/偏光子の積層体から樹脂基材を剥離し、当該剥離面に目的に応じた任意の適切な保護層を積層して用いてもよい。このような偏光子の製造方法の詳細は、例えば特開2012-73580号公報、特許第6470455号に記載されている。これらの公報は、その全体の記載が本明細書に参考として援用される。
【0053】
偏光子の厚みは、例えば30μm以下であり、また例えば20μm以下であり、また例えば1μm~18μmであり、また例えば3μm~12μmであり、また例えば3μm~8μmである。
【0054】
偏光子は、好ましくは、波長380nm~780nmのいずれかの波長で吸収二色性を示す。偏光子の単体透過率は、例えば41.5%~46.0%であり、好ましくは43.0%~46.0%であり、より好ましくは44.5%~46.0%である。偏光子の偏光度は、好ましくは97.0%以上であり、より好ましくは99.0%以上であり、さらに好ましくは99.9%以上である。
【0055】
B-3.保護層
視認側保護層および内側保護層(存在する場合)は、それぞれ、偏光子の保護層として使用できる任意の適切なフィルムで形成される。当該フィルムの主成分となる材料の具体例としては、トリアセチルセルロース(TAC)等のセルロース系樹脂や、ポリエステル系、ポリビニルアルコール系、ポリカーボネート系、ポリアミド系、ポリイミド系、ポリエーテルスルホン系、ポリスルホン系、ポリスチレン系、ポリノルボルネン系、ポリオレフィン系、(メタ)アクリル系、アセテート系等の透明樹脂等が挙げられる。また、(メタ)アクリル系、ウレタン系、(メタ)アクリルウレタン系、エポキシ系、シリコーン系等の熱硬化型樹脂または紫外線硬化型樹脂等も挙げられる。この他にも、例えば、シロキサン系ポリマー等のガラス質系ポリマーも挙げられる。また、特開2001-343529号公報(WO01/37007)に記載のポリマーフィルムも使用できる。このフィルムの材料としては、例えば、側鎖に置換または非置換のイミド基を有する熱可塑性樹脂と、側鎖に置換または非置換のフェニル基ならびにニトリル基を有する熱可塑性樹脂を含有する樹脂組成物が使用でき、例えば、イソブテンとN-メチルマレイミドからなる交互共重合体と、アクリロニトリル・スチレン共重合体とを有する樹脂組成物が挙げられる。当該ポリマーフィルムは、例えば、上記樹脂組成物の押出成形物であり得る。保護層の構成材料としては、好ましくは、TAC、(メタ)アクリル系樹脂が用いられ得る。
【0056】
(メタ)アクリル系樹脂は、Tg(ガラス転移温度)が、好ましくは115℃以上、より好ましくは120℃以上、さらに好ましくは125℃以上、特に好ましくは130℃以上である。耐久性に優れ得るからである。上記(メタ)アクリル系樹脂のTgの上限値は特に限定されないが、成形性等の観点から、好ましくは170℃以下である。
【0057】
(メタ)アクリル系樹脂として、高い耐熱性、高い透明性、高い機械的強度を有する点で、ラクトン環構造を有する(メタ)アクリル系樹脂が特に好ましい。ラクトン環構造を有する(メタ)アクリル系樹脂としては、特開2000-230016号公報、特開2001-151814号公報、特開2002-120326号公報、特開2002-254544号公報、特開2005-146084号公報などに記載の、ラクトン環構造を有する(メタ)アクリル系樹脂が挙げられる。
【0058】
位相差層付偏光板は、代表的には画像表示装置の視認側に配置され、視認側保護層120は、その視認側に配置される。したがって、視認側保護層120には、必要に応じて、ハードコート処理、反射防止処理、スティッキング防止処理、アンチグレア処理等の表面処理が施されていてもよい。
【0059】
視認側保護層の厚みは、好ましくは30μm以上であり、より好ましくは30μm~100μmであり、さらに好ましくは30μm~60μmである。なお、視認側保護層に表面処理が施されて表面処理層が形成される場合、視認側保護層の厚みは、表面処理層を含めた厚みである。
【0060】
内側保護層は、光学的に等方性であることが好ましい。本明細書において「光学的に等方性である」とは、面内位相差Re(550)が0nm~10nmであり、厚み方向の位相差Rth(550)が-10nm~+10nmであることをいう。内側保護層の厚みは、好ましくは5μm~80μmであり、より好ましくは20μm~70μmであり、さらに好ましくは20μm~40μmである。
【0061】
C.画像表示装置
本発明の実施形態による位相差層付偏光板は、画像表示装置に適用され得る。代表的には、位相差層付偏光板は、偏光板が視認側となるようにして画像表示装置の視認側に配置される。画像表示装置の代表例としては、液晶表示装置、有機エレクトロルミネセンス(EL)表示装置、量子ドット表示装置が挙げられる。好ましくは液晶表示装置であり、より好ましくはIPSモードの液晶表示装置である。斜め方向の色相改善がより顕著だからである。
【実施例】
【0062】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、本発明はこれら実施例によって限定されるものではない。実施例における評価方法は以下のとおりである。なお、特に明記しない限り、実施例における「部」および「%」は重量基準である。
【0063】
(1)脆弱層の厚み
実施例および比較例に用いたZフィルム(強化層および中間層が形成される前のフィルム)をSAICASに供し、せん断破壊強度が変化する位置(層界面に対応する位置)までの切刃の垂直方向の移動量から厚みを算出した。
(2)中間層の厚み
実施例および比較例で得られた位相差フィルムについて、透過型電子顕微鏡(TEM)を用いて、重金属染色を含む超薄切片法により断面を観察し、その画像から厚みを算出した。TEMは、Hitachi社製「HT7820」を用いた。加速電圧は100kVであった。
(3)破断伸度
実施例および比較例で得られた位相差フィルムを、進相軸方向に延伸されるようにしてダンベル形状に打ち抜き、サンプルを作製した。このサンプルを島津製作所社製「オートグラフ」にチャック間距離100mmで取り付け、進相軸方向に0.5mm/分で引張試験を行い、破断時の応力および伸度を測定した。
(4)MIT試験
実施例および比較例で得られた位相差フィルムを幅15mmおよび長さ約100mmに打ち抜き、サンプルを作製した。このサンプルを、テスター産業株式会社製「BE-201」MIT耐折度試験機を用いた耐折れ試験に供し、サンプルが破断するまでの回数を測定した。なお、試験条件は以下のとおりであった。
引張荷重分銅:2N
屈曲角度:左右135°
折り曲げ速度:175回/分
折り曲げクランプのR:5.00mm
折り曲げクランプの開き:0.25mm
(5)ヒートショック試験
実施例および比較例で得られた位相差フィルムに粘着剤層を配置し、縦40mm×横75mmのバタフライ(遅相軸方向が40mm)にレーザーカットし、粘着剤層を介して縦250mm×横180mm×厚み1.3mmのアルカリガラスに貼り合わせ、サンプルを作製した。このサンプルを、-40℃で30分間保持した後85℃で30分間保持することを繰り返すヒートショック試験に供し、10サイクルごとにクラックの発生の有無を目視により調べ、クラックが発生するまでのサイクル数を評価基準とした。
(6)耐溶剤試験
実施例および比較例で得られた位相差層付偏光板を、縦100mm×横100mmにカットし、粘着剤層を介して縦350mm×横250mm×厚み0.7mmの無アルカリガラスに貼り合わせ、サンプルを作製した。このサンプルを95℃の恒温槽で3時間プレヒートした後、取り出して1時間室温に放置した。その後、ヘキサンを浸み込ませたウエスで端部の全周を拭き、発生したクラックの長さを測定し、以下の基準で評価した。
○:クラックの最大長さが30mm以下
×:クラックの最大長さが30mmを超える
【0064】
[製造例1:Zフィルムの作製]
厚み130μmのノルボルネン系樹脂フィルムの両側に、厚み60μmの収縮性フィルム[東レ社製 商品名「トレファンBO2873」]を、アクリル系粘着剤層(厚み15μm)を介して貼り合わせた。その後、ロール延伸機でフィルム長手方向を保持して、146℃の空気循環式オーブン内で1.38倍に延伸し、延伸後、収縮性フィルムをアクリル系粘着剤層と共に剥離して、位相差フィルム(延伸フィルム)を作製した。得られた位相差フィルムは、nx>nz>nyの屈折率特性を示し、Re(550)=270nm、Nz係数=0.5、厚みは138μmであった。得られた位相差フィルムの両面には、厚み260nmの脆弱層が形成されていた。この位相差フィルムを延伸フィルムとして用いた。
【0065】
[製造例2:Zフィルムの作製]
延伸温度を143℃に、延伸倍率を1.23倍に変更したこと以外は製造例1と同様にして位相差フィルム(延伸フィルム)を作製した。得られた位相差フィルムは、nx>nz>nyの屈折率特性を示し、Re(550)=270nm、Nz係数=0.5、厚みは138μmであった。得られた位相差フィルムの両面には、厚み120nmの脆弱層が形成されていた。この位相差フィルムを延伸フィルムとして用いた。
【0066】
[製造例3:偏光板の作製]
厚さ45μmのポリビニルアルコールフィルムを、速度比の異なるロール間において、30℃、0.3%濃度のヨウ素溶液中で1分間染色しながら、3倍まで延伸した。その後、60℃、4%濃度のホウ酸、10%濃度のヨウ化カリウムを含む水溶液中に0.5分間浸漬しながら総延伸倍率が6倍まで延伸した。次いで、30℃、1.5%濃度のヨウ化カリウムを含む水溶液中に10秒間浸漬することで洗浄した後、50℃で4分間乾燥を行い、厚さ18μmの偏光子を得た。
上記で得られた偏光子の一方の面にHC-TACフィルム(厚み49μm)を貼り合わせた。なお、HC-TACフィルムは、トリアセチルセルロース(TAC)フィルム(厚み40μm)にハードコート(HC)層(厚み9μm)が形成されたフィルムであり、TACフィルムが偏光子側となるようにして貼り合わせた。さらに、偏光子のもう一方の面にラクトン環構造を含むアクリル系樹脂フィルム(厚み30μm)を貼り合わせた。このようにして偏光板を得た。
【0067】
[製造例4:強化層を構成する接着剤の調製]
不飽和脂肪酸ヒドロキシアルキルエステル修飾ε-カプロラクトン(ダイセル社製「プラクセルFA1DDM」)50部、アクリロイルモルホリン(興人社製「ACMO(登録商標)」)40部、アクリル系オリゴマー(東亞合成社製「ARFON UP-1190」)10部、ならびに、光重合開始剤として「KAYACURE DETX-S」(日本化薬社製)3部およびOMNIRAD907(IGM Resins Italia S.r.l.)3部を混合し、紫外線硬化型接着剤を調製した。この紫外線硬化型接着剤を強化層の形成に用いた。
【0068】
[製造例5:強化層を構成するハードコート組成物の調製]
ハードコート層の膜形成成分として、紫外線硬化型アクリレート樹脂(DIC(株)製、商品名「ルクシディア17-806」、固形分80%)100重量部を準備した。樹脂固形分100重量部あたり、光重合開始剤(BASF社製、商品名「OMNIRAD907」)を3重量部、レベリング剤(DIC(株)製、商品名「GRANDIC PC4100」、固形分10%)を0.01重量部混合した。この混合物を固形分濃度が36%となるように、PGME/シクロペンタノン混合溶媒(重量比65/35)で希釈して、ハードコート組成物を調製した。このハードコート組成物を強化層の形成に用いた。
【0069】
[実施例1]
製造例1で得られた延伸フィルムの両面に、製造例4で調製した紫外線硬化型接着剤を塗布し、紫外線(積算光量300mJ/cm2)を照射して厚み5μmの強化層を形成し、位相差フィルムを作製した。得られた位相差フィルムにおいては、強化層と脆弱層との間に厚み60nmの中間層(相溶領域)が形成されていた。さらに、得られた位相差フィルムを製造例3で得られた偏光板のアクリル系樹脂フィルム表面にアクリル系粘着剤(厚み20μm)を介して貼り合わせ、位相差層付偏光板を得た。ここで、偏光板と位相差フィルムとは、偏光子の吸収軸と位相差フィルムの遅相軸とが実質的に直交するようにして貼り合わせた。得られた位相差フィルムまたは位相差層付偏光板を上記(3)~(6)の評価に供した。結果を表1に示す。
【0070】
[実施例2]
紫外線硬化型接着剤を塗布後および紫外線照射前に、当該塗布された延伸フィルムを30℃の恒温槽に1分間入れたこと以外は実施例1と同様にして、位相差フィルムを作製した。得られた位相差フィルムにおいては、強化層と脆弱層との間に厚み140nmの中間層(相溶領域)が形成されていた。この位相差フィルムを用いたこと以外は実施例1と同様にして位相差層付偏光板を得た。得られた位相差フィルムまたは位相差層付偏光板を実施例1と同様の評価に供した。結果を表1に示す。
【0071】
[比較例1]
紫外線硬化型接着剤の代わりに製造例5で調製したハードコート組成物を用いて強化層(厚み5μm)を形成したこと以外は実施例1と同様にして位相差フィルムを作製した。得られた位相差フィルムにおいては、強化層と脆弱層との間に中間層(相溶領域)は形成されていなかった。この位相差フィルムを用いたこと以外は実施例1と同様にして位相差層付偏光板を得た。得られた位相差フィルムまたは位相差層付偏光板を実施例1と同様の評価に供した。結果を表1に示す。
【0072】
[比較例2]
製造例1の位相差フィルム(延伸フィルム)をそのまま用いた。すなわち、強化層(および必然的に中間層)を形成しなかった。この位相差フィルムを用いたこと以外は実施例1と同様にして位相差層付偏光板を得た。得られた位相差フィルムまたは位相差層付偏光板を実施例1と同様の評価に供した。結果を表1に示す。
【0073】
[比較例3]
製造例2の位相差フィルム(延伸フィルム)をそのまま用いた。すなわち、強化層(および必然的に中間層)を形成しなかった。この位相差フィルムを用いたこと以外は実施例1と同様にして位相差層付偏光板を得た。得られた位相差フィルムまたは位相差層付偏光板を実施例1と同様の評価に供した。結果を表1に示す。
【0074】
[比較例4]
製造例1で用いたノルボルネン系樹脂フィルム(未延伸フィルム)をそのまま用いた。すなわち、強化層(および必然的に中間層)を形成しなかった。なお、この未延伸フィルムには脆弱層は形成されていなかった。この未延伸フィルムを用いたこと以外は実施例1と同様にして位相差層付偏光板を得た。未延伸フィルムまたは位相差層付偏光板を実施例1と同様の評価に供した。結果を表1に示す。
【0075】
【0076】
[評価]
表1から明らかなように、本発明の実施例によれば、脆弱層が形成されたnx>nz>nyの屈折率特性を示す位相差層フィルムにおいて、脆弱層の外側に活性エネルギー線硬化型樹脂の硬化層である強化層を設け、強化層と脆弱層との間に、強化層の成分と脆弱層の成分とを含む相溶領域である中間層を形成することにより、優れた耐クラック性を実現することができる。具体的には、実施例の位相差フィルムおよび位相差層付偏光板は、ヒートショック試験および耐溶剤試験のいずれにおいてもクラックが顕著に抑制されており、優れた耐クラック性を示した。さらに、活性エネルギー線硬化型樹脂として活性エネルギー線硬化型接着剤が好ましいことがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0077】
本発明の位相差フィルムおよび位相差層付偏光板は、液晶表示装置、有機EL表示装置、量子ドット表示装置のような画像表示装置に好適に用いられ得、特に液晶表示装置に好適に用いられ得る。
【符号の説明】
【0078】
10 延伸フィルム
20 脆弱層
30 強化層
40 中間層(相溶領域)
100 位相差フィルム
110 偏光板
120 保護層
200 位相差層付偏光板