(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-13
(45)【発行日】2024-09-25
(54)【発明の名称】蓄電設備用制御装置、電力供給システムおよびプログラム
(51)【国際特許分類】
H02J 3/32 20060101AFI20240917BHJP
H02J 3/38 20060101ALI20240917BHJP
H02J 7/35 20060101ALI20240917BHJP
【FI】
H02J3/32
H02J3/38 150
H02J3/38 110
H02J7/35 K
(21)【出願番号】P 2021045871
(22)【出願日】2021-03-19
【審査請求日】2023-04-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000005108
【氏名又は名称】株式会社日立製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】弁理士法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】李 佳澤
(72)【発明者】
【氏名】吉原 徹
(72)【発明者】
【氏名】大原 伸也
(72)【発明者】
【氏名】永山 祐一
(72)【発明者】
【氏名】中村 知治
【審査官】早川 卓哉
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-118738(JP,A)
【文献】特開2018-160993(JP,A)
【文献】特開2018-152943(JP,A)
【文献】特開2015-080359(JP,A)
【文献】特開2017-143734(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2019/0058340(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02J3/00-5/00
H02J7/00-7/12
H02J7/34-7/36
G06Q50/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電力系統に発電設備出力電力を供給する発電設備と前記電力系統に正値または負値となる蓄電設備出力電力を供給する蓄電設備とを備える電力供給システムが、前記電力系統に供給するシステム出力電力と、前記システム出力電力の計画値との差分である電力差分値を出力する電力差分値出力部と、
前記蓄電設備における残電量と前記残電量の目標値である残電量管理目標値との差分である残電量差分値を出力する残電量差分値出力部と、
前記電力差分値と前記残電量差分値とに基づいて、前記蓄電設備出力電力の指令値である出力指令値を前記蓄電設備に供給する蓄電設備制御部と、を備え
、
前記蓄電設備制御部は、
前記残電量差分値が第1の範囲を上回る場合に、前記出力指令値を第1のレベルに設定する機能と、
前記残電量差分値が前記第1の範囲を下回る場合に、前記出力指令値を前記第1のレベルよりも低い第2のレベルに設定する機能と、を備える
ことを特徴とする蓄電設備用制御装置。
【請求項2】
前記蓄電設備制御部は、
さらに、
前記残電量差分値が前記第1の範囲内であって前記電力差分値が第2の範囲を上回る場合に、前記出力指令値を前記第2のレベルに設定する機能と、
前記残電量差分値が前記第1の範囲内であって前記電力差分値が前記第2の範囲を下回る場合に、前記出力指令値を前記第1のレベルに設定する機能と、
前記残電量差分値が前記第1の範囲内であって、かつ、前記電力差分値が前記第2の範囲内である場合に、前記出力指令値を前記第1のレベルよりも低く、前記第2のレベルよりも高い第3のレベルに設定する機能と、を備える
ことを特徴とする請求項1に記載の蓄電設備用制御装置。
【請求項3】
前記第1の範囲を設定する設定部をさらに備える
ことを特徴とする請求項2に記載の蓄電設備用制御装置。
【請求項4】
前記設定部は、前記第2の範囲を設定する機能をさらに備える
ことを特徴とする請求項3に記載の蓄電設備用制御装置。
【請求項5】
前記蓄電設備制御部は、5分以下の周期で前記出力指令値を更新する機能を有する
ことを特徴とする請求項1に記載の蓄電設備用制御装置。
【請求項6】
電力系統に発電設備出力電力を供給する発電設備と、
前記電力系統に正値または負値となる蓄電設備出力電力を供給する蓄電設備と、
前記電力系統に供給するシステム出力電力と、前記システム出力電力の計画値との差分である電力差分値を出力する電力差分値出力部と、
前記蓄電設備における残電量と前記残電量の目標値である残電量管理目標値との差分である残電量差分値を出力する残電量差分値出力部と、
前記電力差分値と前記残電量差分値とに基づいて、前記蓄電設備出力電力の指令値である出力指令値を前記蓄電設備に供給する蓄電設備制御部と、を備え
、
前記蓄電設備制御部は、
前記残電量差分値が第1の範囲を上回る場合に、前記出力指令値を第1のレベルに設定する機能と、
前記残電量差分値が前記第1の範囲を下回る場合に、前記出力指令値を前記第1のレベルよりも低い第2のレベルに設定する機能と、を備える
ことを特徴とする電力供給システム。
【請求項7】
コンピュータを、
電力系統に発電設備出力電力を供給する発電設備と前記電力系統に正値または負値となる蓄電設備出力電力を供給する蓄電設備とを備える電力供給システムが、前記電力系統に供給するシステム出力電力と、前記システム出力電力の計画値との差分である電力差分値を出力する電力差分値出力手段、
前記蓄電設備における残電量と前記残電量の目標値である残電量管理目標値との差分である残電量差分値を出力する残電量差分値出力手段、
前記電力差分値と前記残電量差分値とに基づいて、前記蓄電設備出力電力の指令値である出力指令値を前記蓄電設備に供給する蓄電設備制御手段、
として機能させるためのプログラム
であって、
前記蓄電設備制御手段は、
前記残電量差分値が第1の範囲を上回る場合に、前記出力指令値を第1のレベルに設定する機能と、
前記残電量差分値が前記第1の範囲を下回る場合に、前記出力指令値を前記第1のレベルよりも低い第2のレベルに設定する機能と、を備える
ことを特徴とするプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蓄電設備用制御装置、電力供給システムおよびプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、再生エネルギー発電設備の普及に伴い、電力安定供給のために必要な、電力システム改革が世界中で行われている。日本においては、電力安定供給の確保、電気料金の最大限の抑制、電気利用の選択や企業の事業機会の拡大を目的に、広域的運営推進機関が設立されている。これにより、卸電力市場に加え、電力需給調整市場や容量市場の開設に向けて検討を進めている。欧米においては、米国の系統運用者であるPJM、英国の送電運用者であるNational Grid、ドイツの共通予備力市場であるRegelleistungにおいて、電力需給調整市場に関わる市場制度設計も存在している。
【0003】
様々な電力市場の参入には、売電計画に応じ要求される時間帯に約束した電力量を調達すること(同時同量)が求められ、売電計画の同時同量を遵守できないとペナルティが発生する。特に、再生エネルギー発電設備を適用する場合には天候によって発電量が左右されるため、様々な電力市場へ参入する際に、予測した発電量と実際の発電電力量の誤差が発生する懸念がある。電力市場の参入に伴う売電計画の同時同量を遵守し、売電電力の予測誤差で計画と実際の売電電力誤差によるペナルティ回避方法の一例は、例えば下記特許文献1に示されている。
【0004】
すなわち、下記特許文献1の要約には、「[課題]間欠的なタイミングで予測される需要電力の補正が適切に行われるようにする。[解決手段]1以上の需要家施設に応じて予測された予測需要電力の誤差を測定する誤差測定部と、所定数の区分期間が連続する補正単位期間において、区分期間に応じて測定された誤差を加算した加算誤差を求める誤差加算部と、区分期間ごとに予測需要電力を予測し、補正単位期間における最後の所定回の各区分期間において予測した予測需要電力のそれぞれについて、前回の区分期間までに対応して求められた加算誤差に基づいて補正を行う需要電力予測部とを備え、誤差加算部は、区分期間に応じて測定された誤差を保持し、需要電力予測部により補正が行われる際に、保持された前記誤差を合算して加算誤差を求めるように需要電力予測装置を構成する。」と記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、上述した技術においては、蓄電設備の計画外の充放電が発生すると、蓄電設備のSOC(State of Charge:残電量)の管理誤差、すなわちSOCの計画値に対する実際のSOCの誤差が大きくなるという問題があった。
この発明は上述した事情に鑑みてなされたものであり、蓄電設備の残電量の管理誤差を抑制できる蓄電設備用制御装置、電力供給システムおよびプログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため本発明の蓄電設備用制御装置は、電力系統に発電設備出力電力を供給する発電設備と前記電力系統に正値または負値となる蓄電設備出力電力を供給する蓄電設備とを備える電力供給システムが、前記電力系統に供給するシステム出力電力と、前記システム出力電力の計画値との差分である電力差分値を出力する電力差分値出力部と、前記蓄電設備における残電量と前記残電量の目標値である残電量管理目標値との差分である残電量差分値を出力する残電量差分値出力部と、前記電力差分値と前記残電量差分値とに基づいて、前記蓄電設備出力電力の指令値である出力指令値を前記蓄電設備に供給する蓄電設備制御部と、を備え、前記蓄電設備制御部は、前記残電量差分値が第1の範囲を上回る場合に、前記出力指令値を第1のレベルに設定する機能と、前記残電量差分値が前記第1の範囲を下回る場合に、前記出力指令値を前記第1のレベルよりも低い第2のレベルに設定する機能と、を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、蓄電設備の残電量の管理誤差を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】好適な実施形態による売電システムのブロック図である。
【
図6】出力調整量算出プログラムのフローチャートである。
【
図7】第1比較例における各部の波形図の一例である。
【
図8】第2比較例における各部の波形図の一例である。
【
図9】本実施形態における各部の波形図の一例である。
【
図10】同時同量判定期間と、計算周期と、計算頻度との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
[実施形態の構成]
図1は、好適な実施形態による売電システム10(電力供給システム)のブロック図である。
売電システム10は、電力需要部12と、発電設備13と、蓄電設備14と、制御装置40(蓄電設備用制御装置、コンピュータ)と、を備えている。電力需要部12、発電設備13および蓄電設備14は、責任分岐点82を介して、例えば三相交流電力系統である電力系統80に接続されている。売電システム10は電力系統80に電力を売電するシステムであり、売電システム10が電力系統80に出力する有効電力を売電電力P
S(システム出力電力)と呼ぶ。
【0011】
電力需要部12は、責任分岐点82から電力を受電する。電力需要部12が受電する有効電力を受電電力PLと呼ぶ。発電設備13から出力される有効電力を出力電力PGEN(発電設備出力電力)と呼び、蓄電設備14から出力される有効電力を出力電力PBAT(蓄電設備出力電力)と呼ぶ。なお、責任分岐点82を介して蓄電設備14に有効電力が入力される場合は出力電力PBATが負値になる。制御装置40は、発電設備13および蓄電設備14を制御する。すなわち、制御装置40は、蓄電設備14から出力される出力電力PBATを調整することにより、売電電力PSの目標値と実際値との差分値を補償する。
【0012】
図2は、発電設備13の一例を示すブロック図である。
図2において、発電設備13は、太陽光アレイ132と、電力変換器134と、電力制御器136と、MPPT制御器138と、を備えている。太陽光アレイ132は、複数の太陽電池モジュール(図示せず)によって直流電力を出力する。電力変換器134は、太陽光アレイ132からの直流電力を交流電力に変換し、電力系統80に出力する。
【0013】
電力制御器136は、電力変換器134の入出力電力を制御する。このため、発電設備13には、電力変換器134の入出力の電気情報を収集するインターフェースとして、電圧センサ、電流センサ(符号なし)等を備える。MPPT制御器138は、太陽光アレイ132の出力電力を最大にさせるため、MPPT(Maximum Power Point Tracking : 最大電力追従制御)を実行する。すなわち、MPPT制御器138は、電力変換器134に対して、太陽光アレイ132からの入力電流を指令する。
【0014】
図3は、蓄電設備14の一例を示すブロック図である。
図3において、蓄電設備14は、蓄電池142と、電力変換器144と、電力制御器146と、BMU(Battery Management Unit)148と、を備えている。電力変換器144は、蓄電池142に対して入出力される直流電力と、電力系統80に対して入出力される交流電力とを双方向に変換する。電力制御器146は、制御装置40(
図1参照)から供給される出力指令値P
BATrefに基づいて、電力変換器144の出力電力P
BATを制御する。
【0015】
このため、蓄電設備14には、電力変換器144の入出力の電気情報を収集するインターフェースとして、電圧センサ、電流センサ(符号なし)等を備える。BMU148は、蓄電池142の内部状態をモニタリングし、蓄電池の残電量SOCmを外部に送信する。
【0016】
図4は、制御装置40の一例を示すブロック図である。
制御装置40は、図示せぬCPU(Central Processing Unit)、RAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)、SSD(Solid State Drive)等、一般的なコンピュータとしてのハードウエアを備えており、SSDには、OS(Operating System)、アプリケーションプログラム、各種データ等が格納されている。OSおよびアプリケーションプログラムは、RAMに展開され、CPUによって実行される。
図4において、制御装置40の内部は、アプリケーションプログラム等によって実現される機能を、ブロックとして示している。
【0017】
すなわち、制御装置40は、売電計画算出部43と、SOC管理計画部44と、出力調整部45と、設定部46と、を備えている。両者には、発電予測情報DGと、電力需要予測情報DDと、が供給される。発電予測情報DGは、天候予測等に基づいて発電設備13の出力電力P
GEN(
図1参照)の推移を予測した情報である。また、電力需要予測情報DDは、電力需要部12の運転計画等に基づいて受電電力P
L(
図1参照)の推移を予測した情報である。
【0018】
売電計画算出部43は、発電予測情報DGと電力需要予測情報DDとに基づいて、時系列データである売電目標値PSrefを算出する。SOC管理計画部44は、発電予測情報DGと電力需要予測情報DDとに基づいて、時系列データである残電量管理目標値SOCrefを算出する。
【0019】
設定部46は、SOC管理誤差許容値Xと売電誤差許容値Yとを設定する。ここで、SOC管理誤差許容値Xとは、残電量管理目標値SOCrefに対する残電量SOCmの許容誤差(%)である。すなわち、SOC管理誤差許容値Xは、SOCmがSOCrefの±X%以内に収まることが望ましいことを表す。
【0020】
また、売電誤差許容値Yとは、所定の同時同量判定期間TD(
図10参照)における、売電目標値P
Srefに対する売電電力P
Sの平均値の許容誤差(%)である。ここで、同時同量判定期間TDは、例えば30分である。仮に、この平均値が売電目標値P
Srefの±Y%の範囲から外れると、ペナルティが発生する。このように、ユーザは、設定部46を操作することにより、売電電力商品の規制や、売電目標値に応じて売電誤差許容値Yを調整できる。さらに、ユーザは、設定部46を操作することにより、蓄電設備14のSOC管理目標精度に応じて、SOC管理誤差許容値Xを調整できる。
【0021】
出力調整部45には、上述した売電目標値P
Srefと、残電量管理目標値SOC
refと、SOC管理誤差許容値Xと、売電誤差許容値Yと、に加えて、売電電力P
S(
図1参照)と、残電量SOC
m(
図3参照)と、蓄電池指令P
BATref0と、がパラメータとして入力される。出力調整部45は、これら入力されたパラメータに基づいて、蓄電設備14(
図3参照)に対する出力指令値P
BATrefを出力する。すなわち、出力調整部45は、売電計画の同時同量の要請を満たすように蓄電設備14の出力電力P
BATを制御する。ここで、蓄電池指令P
BATref0とは、出力指令値P
BATrefのデフォルト値であり、特段の事情が無ければ「0」でよい。
【0022】
図5は、出力調整部45の一例を示すブロック図である。
図5において、出力調整部45は、差分検出処理部451(電力差分値出力部、電力差分値出力手段)と、差分検出処理部452(残電量差分値出力部、残電量差分値出力手段)と、フラグ算出部453,454(蓄電設備制御部、蓄電設備制御手段)と、出力調整量算出部455(蓄電設備制御部、蓄電設備制御手段)と、を備えている。差分検出処理部451は売電電力P
Sから売電目標値P
Srefを減算し、減算結果を売電差分値ΔPとして出力する。また、差分検出処理部452は、残電量SOC
mから残電量管理目標値SOC
refを減算し、減算結果を残電量差分値ΔSOCとして出力する。
【0023】
フラグ算出部453は、売電差分値ΔPと売電誤差許容値Yとに基づいて、フラグFLGBを出力する。すなわち、フラグ算出部453は、「ΔP<-Y・PSref/100」である場合にフラグFLGBを“-1”とし、「ΔP>Y・PSref/100」である場合にフラグFLGBを“1”とし、それ以外の場合はフラグFLGBを“0”とする。
【0024】
フラグ算出部454は、残電量差分値ΔSOCとSOC管理誤差許容値Xとに基づいて、フラグFLGAを出力する。すなわち、フラグ算出部454は、「ΔSOC<-X・SOCref/100」である場合にフラグFLGAを“-1”とし、「ΔSOC>X・SOCref/100」である場合にフラグFLGAを“1”とし、それ以外の場合はフラグFLGAを“0”とする。
【0025】
出力調整量算出部455は、フラグFLGA,FLGBに基づいて出力調整量PBATcomを算出する。蓄電池出力計算部456は、出力調整量PBATcomと蓄電池指令PBATref0とに基づいて(例えば両者を加算して)、出力指令値PBATrefを出力する。
【0026】
図6は、出力調整量算出部455が実行する出力調整量算出プログラムのフローチャートである。
本プログラムは、所定の計算周期TP(
図10参照)毎に実行される。計算周期TPは同時同量判定期間TDよりも短い時間であり、「n=TD/TP」を計算頻度nと呼ぶ。なお、計算頻度nは「2」以上の自然数であることが好ましい。例えば同時同量判定期間TDが例えば30分である場合、計算頻度nを「30」とし、計算周期TPを1分とすることが考えられる。
【0027】
図6において処理がステップS2に進むと、出力調整量算出部455は、フラグ算出部453,454からフラグFLG
A,FLG
Bを取得する。次に、処理がステップS4に進むと、出力調整量算出部455は、フラグFLG
Aは“1”であるか否か、すなわち、残電量SOC
mが過大であるか否かを判定する。ここで「Yes」と判定されると、処理はステップS12に進み、出力調整量算出部455は、出力調整量P
BATcomを「Y・ΔP/100」に設定する。すなわち、蓄電設備14の出力電力P
BATをなるべく大きくすることによって、残電量SOC
mを減少させようとする。このステップS12の状態を「モードA」と呼ぶ。
【0028】
一方、ステップS4において「No」と判定されると、処理はステップS6に進み、出力調整量算出部455はフラグFLGAが“-1”であるか否か、すなわち、残電量SOCmが過小であるか否かを判定する。ここで「Yes」と判定されると、処理はステップS14に進み、出力調整量算出部455は、出力調整量PBATcomを「-Y・ΔP/100」に設定する。すなわち、蓄電設備14の出力電力PBATをなるべく小さくする(なるべく充電電力を大きくする)ことによって、残電量SOCmを増加させようとする。このステップS14の状態を「モードB」と呼ぶ。
【0029】
また、フラグFLGAが“0”である場合、すなわち残電量SOCmが許容範囲内である場合、ステップS6において「No」と判定され、処理はステップS8に進む。ステップS8において、出力調整量算出部455はフラグFLGBが“-1”であるか否か、すなわち売電電力PSが過小であるか否かを判定する。ここで、「Yes」と判定されると、処理は上述したステップS12に進み、出力調整量算出部455は、出力調整量PBATcomを「Y・ΔP/100」(モードA)に設定する。すなわち、蓄電設備14の出力電力PBATをなるべく大きくすることによって、売電電力PSを増加させようとする。
【0030】
一方、ステップS8において「No」と判定されると、処理はステップS10に進む。ステップS10において、出力調整量算出部455は、フラグFLGBが“1”であるか否か、すなわち売電電力PSが過大であるか否かを判定する。ここで、「Yes」と判定されると、処理は上述したステップS14に進み、出力調整量算出部455は、出力調整量PBATcomを「-Y・ΔP/100」(モードB)に設定する。すなわち、蓄電設備14の出力電力PBATをなるべく小さくする(蓄電設備14が吸収する電力を大きくする)ことによって、売電電力PSを減少させようとする。
【0031】
一方、フラグFLG
A,FLG
Bが共に“0”である場合、すなわち、残電量SOC
mおよび売電電力P
Sが共に許容範囲内である場合、ステップS10において「No」と判定され、処理はステップS16に進む。ステップS16において、出力調整量算出部455は、出力調整量P
BATcomを「0」に設定する。すなわち、蓄電池指令P
BATref0(
図5参照)が、そのまま出力指令値P
BATrefとして出力される。このステップS16の状態を「モードC」と呼ぶ。以上により、本ルーチンの処理が終了する。
【0032】
[比較例]
〈第1比較例〉
次に、本実施形態の動作および効果を明確にするため、各種比較例について説明する。
まず、第1比較例は、上述した実施形態と同様のハードウエア構成を備えるが、蓄電設備14による出力調整を行わないものとする。具体的には、出力調整量P
BATcom(
図5参照)を常に「0」とし、出力指令値P
BATrefが蓄電池指令P
BATref0に常に等しくなるようにしたものである。
【0033】
図7は、第1比較例における各部の波形図の一例である。
上述のように、本比較例において出力調整量P
BATcomは常に「0」である。また、出力調整量P
BATcomが常に「0」であるため、残電量差分値ΔSOCも常に「0」になる。本比較例においては、発電設備13の出力電力P
GENの予測値と実際値の差、あるいは受電電力P
Lの予測値と実際値の差が、売電差分値ΔPに直接的に反映される。これにより、同時同量判定期間TDにおける売電差分値ΔPの平均値が、売電目標値P
Srefの±Yパーセントの範囲を逸脱する場合が頻発し、ペナルティが発生する。
【0034】
〈第2比較例〉
次に、第2比較例について説明する。
第2比較例も、上述した実施形態と同様のハードウエア構成を備えるが、売電差分値ΔPを常に「0」にするように蓄電設備14の出力電力P
BATを設定するものである。
図8は、第2比較例における各部の波形図の一例である。なお、
図8に示した破線は、
図7に示した第1比較例における波形である。
【0035】
上述のように、本比較例において売電差分値ΔPは常に「0」である。本比較例においては、発電設備13の出力電力PGENの予測値と実際値の差、あるいは受電電力PLの予測値と実際値の差が、出力調整量PBATcomに直接的に反映されるため、売電差分値ΔPに直接的に反映される。この結果、残電量差分値ΔSOCの変動が大きくなる。残電量差分値ΔSOCの変動が大きくなるということは、それに対応できる蓄電設備14が必要になるということであり、蓄電設備14が大型化し高価になるという問題を生じさせる。
【0036】
[実施形態の動作]
図9は、本実施形態における各部の波形図の一例である。なお、
図9において実線は本実施形態による波形であり、破線は
図7に示した第1比較例による波形である。
図9において時刻t1以前は、売電差分値ΔPは±Yパーセント以内であり、残電量差分値ΔSOCは±Xパーセント以内であり、これによってフラグFLG
A,FLG
Bは共に“0”になる。すると、出力調整量算出プログラム(
図6)においては、ステップS2,S4,S6,S8,S10を介して、処理はステップS16に進む。ステップS16においてはモードCが選択され、出力調整量算出部455は出力調整量P
BATcomを「0」に設定する。
【0037】
次に、時刻t1において、売電差分値ΔPがYパーセントを超えると、フラグFLG
Bが“1”になる。これにより、出力調整量算出プログラム(
図6)においては、ステップS2,S4,S6,S8を介して、処理はステップS12に進む。ステップS12においてはモードAが選択され、出力調整量算出部455は出力調整量P
BATcomを「Y・ΔP/100」に設定する。
【0038】
次に、時刻t2において、残電量差分値ΔSOCがXパーセントを超えると、フラグFLG
Aが“1”になる。これにより、出力調整量算出プログラム(
図6)においては、ステップS2,S4,S6,S8を介して、処理はステップS12に進む。ステップS12においては、引き続きモードAが選択され、出力調整量算出部455は出力調整量P
BATcomを「Y・ΔP/100」に設定する。
【0039】
図9の例においては、時刻t2~t20の期間において残電量差分値ΔSOCはXパーセントを超えているため、同期間においてフラグFLG
Aは“1”のまま継続する。すると、売電差分値ΔPの値(すなわちフラグFLG
Bの値)に関わらず、モードAが選択され続け、出力調整量算出部455は出力調整量P
BATcomを「Y・ΔP/100」に設定し続ける。
【0040】
時刻t20において残電量差分値ΔSOCが再び±Xパーセントの範囲内になると、フラグFLG
Aが“0”になる。フラグFLG
Aが“0”であれば、出力調整量算出部455は、出力調整量算出プログラム(
図6)のステップS8,S10により、フラグFLG
Bの値に基づいて、モードを選択する。図示の例においては、時刻t20~t22、時刻t24以降においてフラグFLG
Bは“0”であるため、出力調整量算出部455はモードCを選択し、出力調整量P
BATcomを「0」に設定する。また、時刻t22~t24においてフラグFLG
Bは“-1”であるため、出力調整量算出部455はモードBを選択し、出力調整量P
BATcomを「-Y・ΔP/100」に設定する。
【0041】
図10は、同時同量判定期間TDと計算周期TPと、計算頻度nとの関係を示す図である。
図10において期間TD1~TDmは、何れも同時同量判定期間TDであり、図示のように同時同量判定期間TDは連続的に設定される。各々の同時同量判定期間TDは、n個の計算周期TPに分割されている。例えば、期間TD1は、計算周期TP1~TPnに分割されている。ここで、例えば同時同量判定期間TDが30分である場合は、計算頻度n>6とし、計算周期TPは5分以下にすることが好ましい。また、各計算周期TPは、誤差検出期間TEと、出力調整量計算期間TFと、制御期間TGと、を有している。
【0042】
誤差検出期間TEは、差分検出処理部451,452(
図5参照)が売電差分値ΔPおよび残電量差分値ΔSOCを計算し出力する期間である。出力調整量計算期間TFは、フラグ算出部453,454、出力調整量算出部455および蓄電池出力計算部456が出力指令値P
BATrefを計算し出力する期間である。また、制御期間TGは、蓄電設備14(
図1参照)が出力指令値P
BATrefに追従するように出力電力P
BATを制御する期間である。このように、同時同量判定期間TDよりも短い周期で計算周期TPを繰り返すことにより、売電電力P
Sの同時同量の要請を満たすことができる。
【0043】
[実施形態の効果]
以上のように好適な実施形態によれば、蓄電設備用制御装置(40)は、電力系統80に発電設備出力電力(PGEN)を供給する発電設備13と電力系統80に正値または負値となる蓄電設備出力電力(PBAT)を供給する蓄電設備14とを備える電力供給システム(10)が、電力系統80に供給するシステム出力電力(PS)と、システム出力電力(PS)の計画値(PSref)との差分である電力差分値(ΔP)を出力する電力差分値出力部(451)と、蓄電設備14における残電量SOCmと残電量SOCmの目標値である残電量管理目標値(SOCref)との差分である残電量差分値ΔSOCを出力する残電量差分値出力部(452)と、電力差分値(ΔP)と残電量差分値ΔSOCとに基づいて、蓄電設備出力電力(PBAT)の指令値である出力指令値PBATrefを蓄電設備14に供給する蓄電設備制御部(453,454,455)と、を備える。
【0044】
このように、蓄電設備制御部(453,454,455)が電力差分値(ΔP)と残電量差分値ΔSOCとに基づいて、蓄電設備出力電力(PBAT)の指令値である出力指令値PBATrefを蓄電設備14に供給するため、蓄電設備14の残電量の管理誤差を抑制できる。
【0045】
また、蓄電設備制御部(453,454,455)は、残電量差分値ΔSOCが第1の範囲(±Xパーセント)を上回る場合に、出力指令値PBATrefを第1のレベル(Y・ΔP/100)に設定する機能(S4,S12)と、残電量差分値ΔSOCが第1の範囲(±Xパーセント)を下回る場合に、出力指令値PBATrefを第1のレベル(Y・ΔP/100)よりも低い第2のレベル(-Y・ΔP/100)に設定する機能(S6,S14)と、残電量差分値ΔSOCが第1の範囲(±Xパーセント)内であって電力差分値(ΔP)が第2の範囲(±Yパーセント)を上回る場合に、出力指令値PBATrefを第2のレベル(-Y・ΔP/100)に設定する機能(S10,S14)と、残電量差分値ΔSOCが第1の範囲(±Xパーセント)内であって電力差分値(ΔP)が第2の範囲(±Yパーセント)を下回る場合に、出力指令値PBATrefを第1のレベル(Y・ΔP/100)に設定する機能(S8,S12)と、残電量差分値ΔSOCが第1の範囲(±Xパーセント)内であって、かつ、電力差分値(ΔP)が第2の範囲(±Yパーセント)内である場合に、出力指令値PBATrefを第1のレベル(Y・ΔP/100)よりも低く、第2のレベル(-Y・ΔP/100)よりも高い第3のレベル(0)に設定する機能(S10,S16)と、を備えると一層好ましい。
【0046】
これにより、残電量差分値ΔSOCが第1の範囲(±Xパーセント)内であるか否か、および電力差分値(ΔP)が第2の範囲(±Yパーセント)内であるか否かに応じて、出力指令値PBATrefを適切に設定することができる。
【0047】
また、蓄電設備用制御装置(40)は、第1の範囲(±Xパーセント)を設定する設定部46をさらに備えると一層好ましい。これにより、蓄電設備14のSOC管理目標精度に応じて、適切な第1の範囲(±Xパーセント)を設定することができる。
【0048】
また、設定部46は、第2の範囲(±Yパーセント)を設定する機能をさらに備えると一層好ましい。これにより、売電電力商品の規制や、売電目標値に応じて、適切な第2の範囲(±Yパーセント)を設定することができる。
【0049】
また、蓄電設備制御部(453,454,455)は、5分以下の周期で出力指令値PBATrefを更新する機能を有すると一層好ましい。これにより、一般的な同時同量判定期間TDに対して、充分な頻度で出力指令値PBATrefを更新することができる。
【0050】
[変形例]
本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、種々の変形が可能である。上述した実施形態は本発明を理解しやすく説明するために例示したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、上記実施形態の構成に他の構成を追加してもよく、構成の一部について他の構成に置換をすることも可能である。また、図中に示した制御線や情報線は説明上必要と考えられるものを示しており、製品上で必要な全ての制御線や情報線を示しているとは限らない。実際には殆ど全ての構成が相互に接続されていると考えてもよい。上記実施形態に対して可能な変形は、例えば以下のようなものである。
【0051】
(1)上記実施形態において、売電システム10は売電を行うものであったが、必ずしも電力を売買するものに限られず、電力系統80に電力を供給するシステムであれば、本発明を適用することができる。
【0052】
(2)上記実施形態において、蓄電設備14には蓄電池142を適用したが、蓄電池142に代えてフライホイール等を蓄電設備14に適用してもよい。
【0053】
(3)上記実施形態における制御装置40のハードウエアは一般的なコンピュータによって実現できるため、
図6に示したフローチャート、その他上述した各種処理を実行するプログラム等を記憶媒体に格納し、または伝送路を介して頒布してもよい。
【0054】
(4)
図6に示した処理、その他上述した各処理は、上記実施形態ではプログラムを用いたソフトウエア的な処理として説明したが、その一部または全部をASIC(Application Specific Integrated Circuit;特定用途向けIC)、あるいはFPGA(Field Programmable Gate Array)等を用いたハードウエア的な処理に置き換えてもよい。
【0055】
(5)上記実施形態において実行される各種処理は、図示せぬネットワーク経由でサーバコンピュータが実行してもよく、上記実施形態において記憶される各種データも該サーバコンピュータに記憶させるようにしてもよい。
【符号の説明】
【0056】
10 売電システム(電力供給システム)
13 発電設備
14 蓄電設備
40 制御装置(コンピュータ、蓄電設備用制御装置)
46 設定部
80 電力系統
451 差分検出処理部(電力差分値出力部、電力差分値出力手段)
452 差分検出処理部(残電量差分値出力部、残電量差分値出力手段)
453,454 フラグ算出部(蓄電設備制御部、蓄電設備制御手段)
455 出力調整量算出部(蓄電設備制御部、蓄電設備制御手段)
PS 売電電力(システム出力電力)
ΔSOC 残電量差分値
PBAT 出力電力(蓄電設備出力電力)
PGEN 出力電力(発電設備出力電力)
SOCm 残電量
PBATref 出力指令値