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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-13
(45)【発行日】2024-09-25
(54)【発明の名称】設備対策時期判定システム及び方法
(51)【国際特許分類】
   G06Q 50/06 20240101AFI20240917BHJP
【FI】
G06Q50/06
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2021046554
(22)【出願日】2021-03-19
(65)【公開番号】P2022145237
(43)【公開日】2022-10-03
【審査請求日】2023-05-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000005108
【氏名又は名称】株式会社日立製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110002365
【氏名又は名称】弁理士法人サンネクスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】岡本 佳久
(72)【発明者】
【氏名】多田 泰之
(72)【発明者】
【氏名】西村 大貴
【審査官】田川 泰宏
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-166702(JP,A)
【文献】特開2003-016374(JP,A)
【文献】特開2020-178403(JP,A)
【文献】特開2019-154113(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06Q 10/00-99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
入力装置と出力装置のうちの少なくとも出力装置である入出力装置に接続されたインターフェース装置と、
記憶装置と、
前記インターフェース装置及び前記記憶装置に接続されたプロセッサと
を備え、
前記記憶装置が、
電力系統から電力が供給されるエリアである供給対象エリア毎の域内総生産を複数の年度の各々について表す域内総生産データと、
供給対象エリア毎の総電力消費量を各年度について表す総電力消費量データと、
年より短い時間毎の生産額を算出するためのモデルである生産モデルを表す生産モデルデータと、
年より短い時間毎の電力消費量を算出するためのモデルである消費モデルを表す消費モデルデータと、
前記電力系統への系統設備の導入時点と前記電力系統の構成とを表す系統設備データと、
前記系統設備の対策費用を表す対策費用データと
を記憶し、
前記プロセッサが、
(A)下記(a1)乃至(a3)を行い、
(a1)前記域内総生産データと前記生産モデルデータとを基に、各供給対象エリアについて、時系列の生産額を各年度について算出する、
(a2)前記総電力消費量データと前記消費モデルデータとを基に、各供給対象エリアについて、時系列の電力消費量を各年度について算出する、
(a3)各年度について、供給対象エリア毎に、前記算出された時系列の生産額と前記算出された時系列の電力消費量とを基に、時系列の単位電力消費量当たりの生産額を、時系列の単位電力消費量当たりの経済価値として算出する、
(B)下記(b1)及び(b2)を行い、
(b1)各年度について、前記系統設備データに基づいて、前記系統設備の故障前後の供給電力の差である供給支障電力を、前記系統設備の故障継続時間帯を構成する時間毎に算出する、
(b2)各年度について、前記系統設備の電力供給を受ける一つ以上の供給対象エリアの各々について前記算出された時系列の単位電力消費量当たりの経済価値と、時間毎の前記算出された供給支障電力との積に基づく値を、前記系統設備の故障により被る経済的損失として算出する、
(C)下記(c1)乃至(c3)を行う、
(c1)年度毎の前記算出された経済的損失を基に、各年度について、前記系統設備の対策を未実施の場合の経済的損失と前記系統設備の対策を実施の場合の経済的損失との差分であるリスク抑制量を算出する、
(c2)各年度の前記算出されたリスク抑制量と、前記系統設備について前記対策費用データを基に特定された対策費用とを基に、リスク抑制量又は当該リスク抑制量に基づく値が対策費用を下回る最先の年度を、前記系統設備の対策の実施時期として判定する、
(c3)前記系統設備の判定された実施時期を表す情報である判定結果情報を前記入出力装置に提供する、
設備対策時期判定システム。
【請求項2】
前記プロセッサが、各年度について、リスク抑制量に基づく値を算出し、
各年度について、リスク抑制量に基づく値は、リスク抑制量と託送収益の機会損失との和であり、
前記記憶装置が、単位電力消費量当たりの電力価格を表す価格データを記憶し、
各年度について、託送収益の機会損失は、前記系統設備の故障継続時間帯の長さと、当該故障継続時間帯での供給支障電力と、前記価格データが表す、単位電力消費量当たりの電力価格との積である、
請求項1に記載の設備対策時期判定システム。
【請求項3】
前記記憶装置は、前記系統設備について、当該系統設備の導入時点からの経年数を入力とし当該系統設備の故障率を出力としたモデルである故障モデルを表す故障モデルデータを記憶し、
各年度について、経済的損失は、前記系統設備の当該年度に対応した経年数を入力として前記故障モデルから出力される故障率に基づく値である、
請求項1に記載の設備対策時期判定システム。
【請求項4】
前記プロセッサが、前記系統設備の故障モデルの入力のためのUI(User Interface)である故障UIを前記入出力装置に提供し、
前記故障モデルデータが表す故障モデルは、前記故障UI経由で入力された故障モデルである、
請求項3に記載の設備対策時期判定システム。
【請求項5】
前記プロセッサが、生産モデルの入力のためのUIである生産UIを前記入出力装置に提供し、
前記生産モデルデータが表す生産モデルは、前記生産UI経由で入力された生産モデルである、
請求項1に記載の設備対策時期判定システム。
【請求項6】
前記プロセッサが、消費モデルの入力のためのUIである消費UIを前記入出力装置に提供し、
前記消費モデルデータが表す消費モデルは、前記消費UI経由で入力された消費モデルである、
請求項1に記載の設備対策時期判定システム。
【請求項7】
前記域内総生産データは、各供給対象エリアについて、当該供給対象エリアに属するエンティティ毎に、当該供給対象エリアの域内総生産の要素としての総生産額を表し、
前記総電力消費量データは、各供給対象エリアについて、当該供給対象エリアに属するエンティティ毎に、当該供給対象エリアの電力消費量の要素としての総電力消費量を表し、
前記生産モデルデータは、エンティティ毎に生産モデルを表すデータであり、
前記消費モデルデータは、エンティティ毎に消費モデルを表すデータであり、
エンティティは、電力を消費して生産をし、一つ以上の供給対象エリアに属しており、当該一つ以上の供給対象エリアの域内総生産及び電力消費量に影響し、時間帯によって生産額及び電力消費量の少なくとも一方が異なる、
請求項1に記載の設備対策時期判定システム。
【請求項8】
エンティティは、業種である、
請求項7に記載の設備対策時期判定システム。
【請求項9】
前記プロセッサは、前記判定結果情報の他に、複数の年度のうちのいずれかの年度の指定を受け付けるUIと、複数の供給対象エリアにノードとリンクで構成されたグラフが重ねられた画像とを前記入出力装置に提供し、
ノード及びリンクはいずれも、いずれかの系統設備であり、
前記画像において、下記(x)乃至(z)のうちの少なくとも一つが採用されている、
(x)各供給対象エリアの表示態様が、当該供給対象エリアの単位電力消費量当たりの経済価値に基づいている、
(y)各ノードの表示態様が、当該ノードに対応した系統設備を指定された年度で対策しない場合の経済的損失に基づいている、
(z)各リンクの表示態様が、当該リンクに対応した系統設備を指定された年度で対策しない場合の経済的損失に基づいている、
請求項1に記載の設備対策時期判定システム。
【請求項10】
(A)インターフェース装置、記憶装置及びプロセッサを有するコンピュータにおける前記プロセッサが、下記(a1)乃至(a3)を行い、
(a1)前記記憶装置における域内総生産データと前記記憶装置における生産モデルデータとを基に、各供給対象エリアについて、時系列の生産額を各年度について算出する、
前記域内総生産データは、電力系統から電力が供給されるエリアである供給対象エリア毎の域内総生産を複数の年度の各々について表すデータである、
前記生産モデルデータは、年より短い時間毎の生産額を算出するためのモデルである生産モデルを表すデータである、
(a2)前記記憶装置における総電力消費量データと前記記憶装置における消費モデルデータとを基に、各供給対象エリアについて、時系列の電力消費量を各年度について算出する、
前記総電力消費量データは、供給対象エリア毎の総電力消費量を各年度について表すデータである、
前記消費モデルデータは、年より短い時間毎の電力消費量を算出するためのモデルである消費モデルを表すデータである、
(a3)各年度について、供給対象エリア毎に、前記算出された時系列の生産額と前記算出された時系列の電力消費量とを基に、時系列の単位電力消費量当たりの生産額を、時系列の単位電力消費量当たりの経済価値として算出する、
(B)前記コンピュータにおける前記プロセッサが、下記(b1)及び(b2)を行い、
(b1)各年度について、前記電力系統への系統設備の導入時点と前記電力系統の構成とを表す、前記記憶装置における系統設備データに基づいて、前記系統設備の故障前後の供給電力の差である供給支障電力を、前記系統設備の故障継続時間帯を構成する時間毎に算出する、
(b2)各年度について、前記系統設備の電力供給を受ける一つ以上の供給対象エリアの各々について前記算出された時系列の単位電力消費量当たりの経済価値と、時間毎の前記算出された供給支障電力との積に基づく値を、前記系統設備の故障により被る経済的損失として算出する、
(C)前記コンピュータにおける前記プロセッサが、下記(c1)乃至(c3)を行う、
(c1)年度毎の前記算出された経済的損失を基に、各年度について、前記系統設備の対策を未実施の場合の経済的損失と前記系統設備の対策を実施の場合の経済的損失との差分であるリスク抑制量を算出する、
(c2)各年度の前記算出されたリスク抑制量と、前記系統設備について前記記憶装置における対策費用データを基に特定された対策費用とを基に、リスク抑制量又は当該リスク抑制量に基づく値が対策費用を下回る最先の年度を、前記系統設備の対策の実施時期として判定する、
前記対策費用データは、前記系統設備の対策費用を表すデータである、
(c3)前記系統設備の判定された実施時期を表す情報である判定結果情報を、前記インターフェース装置を介して、入力装置と出力装置のうちの少なくとも出力装置である入出力装置に提供する、
設備対策時期判定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、概して、設備の対策の実施時期を判定するためのコンピュータ技術に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば日本において、高度経済成長期に電力系統に大量に系統設備が導入されたが、一般に、系統設備は老朽化により故障率が増大する。また、供給対象エリアの人口動態や産業構造の変化により設備故障による経済的リスクも変化している。一方で、震災以降の需要低迷により託送収益が減少し、送配電事業者に十分な投資余力があるとは限らない。限られた投資余力の中で設備故障リスクを低減するために、設備対策の実施時期として経済合理的な時期を決定することが求められている。
【0003】
例えば、特許文献1には、系統設備の故障に起因する供給支障リスクを所定の許容レベル以下に抑えるとともに、所定期間内における系統設備の費用(オーバーホール費用、更新費用、及び維持費用の合計)を最小にする最適な保守計画を決定する装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2010-027044号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に開示の技術では、系統設備の対策に要する費用は考慮しているが系統設備の故障に起因する経済的損失は考慮されていない。このため、設備対策の実施時期として経済合理的な時期を決定することができない。
【課題を解決するための手段】
【0006】
設備対策時期判定システムは、電力系統から電力が供給される各供給対象エリアについて、複数の年度の各々について、時系列の生産額及び電力消費量を算出し、時系列の生産額及び電力消費量を基に、時系列の単位電力消費量当たりの生産額を、時系列の単位電力消費量当たりの経済価値として算出する。当該システムは、各年度について、系統設備の故障前後の供給電力の差である供給支障電力を、系統設備の故障継続時間帯を構成する時間毎に算出する。当該システムは、各年度について、系統設備の電力供給を受ける一つ以上の供給対象エリアの各々についての時系列の単位電力消費量当たりの経済価値と、時間毎の供給支障電力との積に基づく値を、系統設備の故障により被る経済的損失として算出する。当該システムは、年度毎の経済的損失を基に、各年度について、系統設備の対策を未実施の場合の経済的損失と系統設備の対策を実施の場合の経済的損失との差分であるリスク抑制量を算出する。当該システムは、各年度のリスク抑制量と、系統設備の対策費用とを基に、リスク抑制量又は当該リスク抑制量に基づく値が対策費用を上回る最先の年度を、系統設備の対策の実施時期として判定する。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、設備対策の実施時期として経済合理的な時期を判定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明の一実施形態におけるシステム全体の構成を示す図である。
図2】計画装置で実行される処理の流れを示すブロック図である。
図3】域内総生産データの一例を示す図である。
図4】生産モデルデータの一例を示す図である。
図5】時系列化した生産額の一例を示す図である。
図6】総電力消費量データの一例を示す図である。
図7】消費モデルデータの一例を示す図である。
図8】時系列化した電力消費量の一例を示す図である。
図9】kWh経済価値データの一例を示す図である。
図10】系統設備データの一例を示す図である。
図11】系統設備データが表す電力系統構成の一例を示す図である。
図12】故障モデルデータの一例を示す図である。
図13】経済的損失データの一例を示す図である。
図14】対策費用データの一例を示す図である。
図15】設備対策データの一例を示す図である。
図16】kWh経済価値算出プログラムの処理手順を示すフローチャートである。
図17】経済的損失算出プログラムの処理手順を示すフローチャートである。
図18】対策時期算出プログラムの処理手順を示すフローチャートである。
図19】計画装置が提供する画面例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下の説明では、「インターフェース装置」は、一つ以上のインターフェースデバイスでよい。当該一つ以上のインターフェースデバイスは、下記のうちの少なくとも一つでよい。
・一つ以上のI/O(Input/Output)インターフェースデバイス。I/O(Input/Output)インターフェースデバイスは、入出力装置と遠隔の表示用計算機とのうちの少なくとも一つに対するインターフェースデバイスである。表示用計算機に対するI/Oインターフェースデバイスは、通信インターフェースデバイスでよい。入出力装置は、ユーザインターフェースデバイス、例えば、キーボード及びポインティングデバイスのような入力デバイスと、表示デバイスのような出力デバイスとのうちのいずれでもよい。
・一つ以上の通信インターフェースデバイス。一つ以上の通信インターフェースデバイスは、一つ以上の同種の通信インターフェースデバイス(例えば一つ以上のNIC(Network Interface Card))であってもよいし二つ以上の異種の通信インターフェースデバイス(例えばNICとHBA(Host Bus Adapter))であってもよい。
【0010】
また、以下の説明では、「メモリ」は、一つ以上のメモリデバイスであり、典型的には主記憶デバイスでよい。メモリにおける少なくとも一つのメモリデバイスは、揮発性メモリデバイスであってもよいし不揮発性メモリデバイスであってもよい。
【0011】
また、以下の説明では、「永続記憶装置」は、一つ以上の永続記憶デバイスである。永続記憶デバイスは、典型的には、不揮発性の記憶デバイス(例えば補助記憶デバイス)であり、具体的には、例えば、HDD(Hard Disk Drive)又はSSD(Solid State Drive)である。
【0012】
また、以下の説明では、「記憶装置」は、メモリと永続記憶装置の少なくともメモリでよい。
【0013】
また、以下の説明では、「プロセッサ」は、一つ以上のプロセッサデバイスである。少なくとも一つのプロセッサデバイスは、典型的には、CPU(Central Processing Unit)のようなマイクロプロセッサデバイスであるが、GPU(Graphics Processing Unit)のような他種のプロセッサデバイスでもよい。少なくとも一つのプロセッサデバイスは、シングルコアでもよいしマルチコアでもよい。少なくとも一つのプロセッサデバイスは、プロセッサコアでもよい。少なくとも一つのプロセッサデバイスは、処理の一部又は全部を行うハードウェア回路(例えばFPGA(Field-Programmable Gate Array)又はASIC(Application Specific Integrated Circuit))といった広義のプロセッサデバイスでもよい。
【0014】
また、以下の説明では、「プログラム」を主語として処理を説明する場合があるが、プログラムは、プロセッサによって実行されることで、定められた処理を、適宜に記憶装置及び/又はインターフェース装置等を用いながら行うため、処理の主語が、プロセッサ(或いは、そのプロセッサを有するコントローラのようなデバイス)とされてもよい。プログラムは、プログラムソースから計算機のような装置にインストールされてもよい。プログラムソースは、例えば、プログラム配布サーバ又は計算機が読み取り可能な(例えば非一時的な)記録媒体であってもよい。また、以下の説明において、二つ以上のプログラムが一つのプログラムとして実現されてもよいし、一つのプログラムが二つ以上のプログラムとして実現されてもよい。また、「yyyプログラム」により実現される機能は、「yyy部」と呼ばれてもよい。「yyy部」の少なくとも一部は、プログラムがプロセッサに実行されることに代えて又は加えてハードウェア回路により実現されてもよい。
【0015】
また、以下の説明では、「設備対策時期判定システム」は、インターフェース装置、記憶装置及びそれらに接続されたプロセッサを有する計算機システム(1以上の計算機)で構成されてもよいし、インターフェース装置、記憶装置及びそれらに接続されたプロセッサといった複数のハードウェア計算リソース(例えばクラウド基盤)上に実現されたシステムでもよい。また、例えば、計算機が入出力装置を有していて計算機が自分の入出力装置に情報を表示する場合、当該計算機が設備対策時期判定システムでよい。また、例えば、計算機(例えばサーバ)が表示用情報を遠隔の入出力装置に送信し入出力装置がその情報を表示する場合、少なくとも計算機が設備対策時期判定システムでよい。設備対策時期判定システムにおける計算機が「表示用情報を表示する」ことは、計算機が有する入出力装置に表示用情報を表示することであってもよいし、計算機が入出力装置に表示用情報を送信することであってもよい(後者の場合は入出力装置によって表示用情報が表示される)。
【0016】
本発明の一態様である設備対策時期判定システムは、供給対象エリア(資源が供給されるエリア)毎の域内総生産と資源消費量(例えば、時間長と消費される資源の量との積)を特定する。例えば、当該システムは、供給対象エリア毎に各年度について域内総生産及び資源消費量を表すデータを基に、供給対象エリア毎の域内総生産と資源消費量を特定する。当該システムは、供給対象エリア毎に、各年度について、域内総生産を資源消費量で除することにより、当該地域における単位資源消費量当たりの生産額である単位経済価値(単位資源消費量あたりの経済価値)を算出する。当該システムは、供給対象エリアへの資源供給に供する設備に関し供給支障資源量(設備の故障前後の供給資源量の差)を算出し、供給支障資源量と単位経済価値との積(又は、当該積に基づく値)を、当該設備の故障により被る経済的損失として算出する。当該システムは、設備に対して設備対策を実施する場合の経済的損失と実施しない場合の経済的損失との差であるリスク抑制量を算出し、リスク抑制量(又は当該リスク抑制量に基づく値)が設備対策費用を上回る最先の年度を、当該設備の対策時期として判定する。域内総生産や生産額は、金額としての値でよく、金額は、任意の通貨で表現されてよい。
【0017】
本発明の一態様において、設備の対策計画は、長期計画であり、具体的には、対策時期が、年単位(例えば、“2021年”といった1年単位、又は、“2021年~2023年”といった複数年単位)である。このため、判定される対策時期の精度が低いと、年単位で対策時期が早い又は遅いといったことが生じ得る。結果として、設備対策に対する投資効果が低い、又は、設備の故障リスクが増大し損失が大きい、といったことが生じ得る。つまり、判定された対策時期が、投資効果と故障リスクのバランスが取れた経済合理的な対策時期である可能性が高くない。
【0018】
そこで、対策時期の判定精度の向上のために、年より短い時間毎の生産額を算出するためのモデルである生産モデル、及び、年より短い時間毎の資源消費量を算出するためのモデルである消費モデルが用意され、設備対策時期判定システムが、それらのモデルを用いて、各年度について、時系列の生産額及び資源消費量が算出されてよい。そして、当該システムが、年度毎に、時系列の生産額及び資源消費量を基に時系列の単位経済価値を算出し、且つ、設備の資源供給を受ける各供給対象エリアについての時系列の単位資源消費量当たりの経済価値と、設備の故障継続時間帯(故障が継続したと仮定された時間帯)における時間毎の供給支障資源量(設備の故障前後の供給資源の差)との積に基づく値を、設備の故障により被る経済的損失として算出してよい。当該システムは、年度毎の経済的損失を基に、各年度のリスク抑制量(設備の対策を未実施の場合の経済的損失と設備の対策を実施の場合の経済的損失との差分)と、設備の対策費用とを基に、リスク抑制量(又は当該リスク抑制量に基づく値)が対策費用を上回る最先の年度を、設備の対策の実施時期として判定してよい。これにより、対策時期の判定精度の向上が期待される。故障継続時間帯として、複数通りの時間帯が仮定されてよい。
【0019】
以下、図面を参照しつつ、本発明の実施形態について説明する。なお、以下の実施形態では、「総生産額」及び「総電力消費量」は、年毎の値(合計値)であり、「生産額」及び「電力消費量」は、1時間(年より短い時間(単位期間)の一例)毎の値である。また、「設備」として、電力系統に備えられる設備が採用されるが、本発明では、「設備」は、電力系統以外の系統に備えられる設備でもよい。また、以下の実施形態では、設備から供給され消費される「資源」として、電力が採用されるが、本発明では、「資源」は、電力以外の資源でもよい。また、以下の実施形態では、「供給対象エリア」は、地域であるが、地域以外のエリア(例えば任意に定義されたエリア)でもよい。
【0020】
(1)システム構成
【0021】
図1は、本実施形態におけるシステム全体の構成を示す。
【0022】
設備対策時期判定システムの一例としての計画装置1が、ネットワーク7を介して、入出力装置2と、地域経済管理装置3と、需給管理装置4と、系統設備管理装置5と、設備対策管理装置6とに接続される。
【0023】
計画装置1は、例えば計算機システムであり、中央処理部10(プロセッサの一例)と、主記憶部20(メモリの一例)と、補助記憶部30(永続記憶装置の一例)と、通信部40(インターフェース装置の一例)とが内部バス50を介して接続されることにより構成される。
【0024】
中央処理部10は、計画装置1の制御と演算を司るCPUである。主記憶部20は、各種プログラムやデータを一時的に記憶するメモリである。補助記憶部30は、各種プログラムやデータを長期的に保存するハードディスクである。後述するkWh経済価値算出プログラム101、経済的損失算出プログラム102、対策時期算出プログラム103、域内総生産データ201、生産モデルデータ202、総電力消費量データ203、消費モデルデータ204、kWh経済価値データ205、系統設備データ206、故障モデルデータ207、経済的損失データ208、対策費用データ209、及び設備対策データ210は、この補助記憶部30に保存される。通信部40は、ネットワーク7を介して入出力装置2、地域経済管理装置3、需給管理装置4、系統設備管理装置5、設備対策管理装置6との通信を行うインターフェース(例えばLANケーブル等を含んでよい)である。
【0025】
入出力装置2は、入力部60(入力装置の一例)と、出力部70(出力装置の一例)と、通信部80(インターフェース装置の一例)とが内部バス90を介して接続されることにより構成される。入力部60は、ユーザが計画装置1を使って計画を作成するにあたり必要な情報を入力するために使うマウスやキーボード等である。出力部70は、ユーザが計画装置1を使って計画を作成するにあたり必要な情報を出力するために使うディスプレイ等である。通信部80は、ネットワーク7を介して計画装置1、地域経済管理装置3、需給管理装置4、系統設備管理装置5、設備対策管理装置6との通信を行うインターフェース(例えばLANケーブル等を含んでよい)である。入出力装置2は、中央処理部及び主記憶部を含んだ計算機でもよい。
【0026】
地域経済管理装置3は、地域(供給対象エリアの一例)毎及び業種(エンティティの一例)毎の総生産額の情報を含む地域経済情報を蓄積する機能を有するコンピュータ装置(計算機)である。
【0027】
需給管理装置4は、地域毎及び業種(典型的には産業の種類)毎の総電力消費量の情報を含む需給情報を蓄積する機能を有するコンピュータ装置である。
【0028】
系統設備管理装置5は、電力系統の構成や系統設備の仕様等の情報を含む系統設備情報を蓄積する機能を有するコンピュータ装置である。
【0029】
設備対策管理装置6は、計画装置1で作成された設備対策及び評価値等の情報を含む設備対策情報を蓄積する機能を有するコンピュータ装置である。設備対策情報は、計画装置1で判定された対策実施時期を表す情報を含んでよい。
【0030】
(2)処理の流れ
【0031】
図2を参照しながら、本実施形態において計画装置1で実行される処理の流れについて説明する。
【0032】
計画装置1の補助記憶部30に保存されている個々のプログラムは、主記憶部20に展開され、中央処理部10によって実行される。
【0033】
kWh経済価値算出プログラム101は、地域毎及び業種毎の総生産額を示す域内総生産データ201と、業種毎の生産量の相対値(以下、生産係数)の推移を示す生産モデルデータ202と、地域毎及び業種毎の総電力消費量を示す総電力消費量データ203と、業種毎の電力消費量の相対値(以下、消費係数)の推移を示す消費モデルデータ204に基づいて、所定期間における地域毎及び業種毎の1kWhあたりの経済価値(以下、kWh経済価値)の推移を算出し、地域毎及び業種毎の算出されたkWh経済価値の推移(時系列のkWh経済価値)を表すkWh経済価値データ205を補助記憶部30に保存する。kWh経済価値は、単位電力消費量当たりの生産額の一例である。
【0034】
経済的損失算出プログラム102は、kWh経済価値データ205と、電力系統の構成や系統設備の仕様等を示す系統設備データ206と、設備種別毎の故障率の推移を示す故障モデルデータ207に基づいて、系統設備毎の設備故障による経済的損失を算出し、算出された経済的損失を表す経済的損失データ208を補助記憶部30に保存する。
【0035】
対策時期算出プログラム103は、経済的損失データ208と、設備種別毎の設備対策に要する費用を示す対策費用データ209と、系統設備データ206とに基づいて、系統設備毎の対策時期を算出し、算出された対策時期を表す対策時期データ210を補助記憶部30に保存する。
【0036】
対策時期データ210は、例えば対策時期算出プログラム103により入出力装置2に送信され、出力部70に表示される。また、対策時期データ210は、例えば対策時期算出プログラム103により設備対策管理装置6に送信される。
【0037】
計画装置1では、UI(User Interface)プログラム25が備えられ実行されてもよい。詳細は後述する。
【0038】
(3)各データの詳細
【0039】
図3図15を参照しながら、計画装置1の補助記憶部30で保存されている域内総生産データ201、生産モデルデータ202、総電力消費量データ203、消費モデルデータ204、kWh経済価値データ205、系統設備データ206、故障モデルデータ207、経済的損失データ208、対策費用データ209、設備対策データ210、の詳細について説明する。なお、これらのデータは、いずれも、一例としてテーブルであるが、データは、テーブル以外の構造のデータとして、入力に対して出力が得られるデータ(例えば学習モデルとしてのデータ)でもよい。
【0040】
(3-1)域内総生産データ
【0041】
域内総生産データ201には、地域毎及び業種毎の総生産額の情報が複数の年度の各々について格納される。図3は、域内総生産データ201の一例である。ここでは、一例として域内総生産データ201Aを示す。
【0042】
域内総生産データ201Aは、地域と業種の組毎のエントリを有しており、1つのエントリは、地域欄201A1、業種欄201A2、及び総生産額欄201A3を含む。地域欄201A1には、対象とする地域の名称が格納される。業種欄201A2には、対象とする業種の名称が格納される。総生産額欄201A3には、対象とする地域及び業種の総生産額が格納される。例えば、地域が「A市」、業種が「業種α」の総生産額については、2021年度が「1000億円」、2022年度が「1100億円」、2023年度が「1200億円」、2024年度が「1300億円」、2025年度が「1400億円」であることが示されている。
【0043】
(3-2)生産モデルデータ
【0044】
生産モデルデータ202には、年より短い時間毎の生産額を算出するためのモデルである生産モデルを表す情報の一例として、業種毎の生産係数の推移の情報が格納される。図4は、生産モデルデータ202の一例である。ここでは、一例として生産モデルデータ202Aを示す。「年より短い時間」の一例として、1時間といった単位時間が採用されているが、単位時間は、1時間よりも短い又は長い時間でもよい。
【0045】
生産モデルデータ202Aは、業種と区分の組毎のエントリを有しており、1つのエントリは、業種欄202A1、区分欄202A2、及び生産係数欄202A3を含む。業種欄202A1には、対象とする業種の名称が格納される。区分欄202A2には、対象とする区分の名称が格納される。生産係数欄202A3には、対象とする業種及び区分の生産係数が格納される。例えば、業種が「業種α」、区分が「平日」の生産係数については、0:00が「0.2」、1:00が「0.2」、2:00が「0.3」、・・・・・・、23:00が「0.1」であることが示されている。
【0046】
(3-3)総電力消費量データ
【0047】
総電力消費量データ203には、供給対象エリアの地域毎及び業種毎の総電力消費量の情報が格納される。図6は、総電力消費量データ203の一例である。ここでは、一例として総電力消費量データ203Aを示す。
【0048】
総電力消費量データ203Aは、地域と業種の組毎のエントリを有しており、1つのエントリは、地域欄203A1、業種欄203A2、及び総電力消費量欄203A3を含む。地域欄203A1には、対象とする地域の名称が格納される。業種欄203A2には、対象とする業種の名称が格納される。総電力消費量欄203A3には、対象とする地域及び業種の総電力消費量が格納される。例えば、地域が「A市」、業種が「業種α」の総生産額については、2021年度が「5.0億kWh」、2022年度が「5.2億kWh」、2023年度が「5.4億kWh」、2024年度が「5.6億kWh」、2025年度が「5.8億kWh」であることが示されている。
【0049】
(3-4)消費モデルデータ
【0050】
消費モデルデータ204には、年より短い時間毎の電力消費量を算出するためのモデルである消費モデルを表す情報の一例として、業種毎の消費係数の推移の情報が格納される。図7は、消費モデルデータ204の一例である。ここでは、一例として消費モデルデータ204Aを示す。「年より短い時間」の一例として、1時間といった単位時間が採用されているが、単位時間は、1時間よりも短い又は長い時間でもよい。
【0051】
消費モデルデータ204Aは、業種と区分の組毎のエントリを有しており、1つのエントリは、業種欄204A1、区分欄204A2、及び消費係数欄204A3を含む。業種欄204A1には、対象とする業種の名称が格納される。区分欄204A2には、対象とする区分の名称が格納される。消費係数欄204A3には、対象とする業種及び区分の消費係数が格納される。例えば、業種が「業種α」、区分が「平日」の消費係数については、0:00が「0.2」、1:00が「0.2」、2:00が「0.2」、・・・・・・、23:00が「0.1」であることが示されている。
【0052】
(3-5)kWh経済価値データ
【0053】
kWh経済価値データ205には、供給対象エリアの地域毎及び業種毎のkWh経済価値の情報が格納される。図9は、kWh経済価値データ205の一例である。ここでは、一例としてkWh経済価値データ205Aを示す。
【0054】
kWh経済価値データ205Aは、地域と業種の組毎のエントリを有しており、1つのエントリは、地域欄205A1、業種欄205A2、及びkWh経済価値欄205A3を含む。地域欄205A1には、対象とする地域の名称が格納される。業種欄205A2には、対象とする業種の名称が格納される。kWh経済価値欄205A3には、対象とする地域及び業種のkWh経済価値が格納される。例えば、地域が「A市」、業種が「業種α」の総生産額については、2021年4月1日の0:00が「100円/kWh」、1:00が「100円/kWh」、2:00が「150円/kWh」、・・・・・・、2026年3月31日の23:00が「120円/kWh」であることが示されている。kWh経済価値欄205A3には、例えば、各年度について、地域と業種の組毎に時系列のkWh経済価値が格納される。時系列のkWh経済価値は、日単位又は月単位といった任意の時間幅の単位で存在してよい。
【0055】
(3-6)系統設備データ
【0056】
系統設備データ206には、電力系統の構成や系統設備の仕様等の情報が含まれる。図10は、系統設備データ206の一例である。ここでは、一例として系統設備データ206Aを示す。
【0057】
系統設備データ206Aは、系統設備毎のエントリを有しており、1つのエントリは、設備ID欄206A1、接続地点1欄206A2、接続地点2欄206A3、設備仕様欄206A4、及び導入年月欄206A5を含む。設備ID欄206A1には、系統設備を識別するためのIDである設備IDが格納される。接続地点1欄206A2及び接続地点2欄206A3には、それぞれ、系統設備が接続される母線の母線IDが格納される。設備仕様欄206A4には、系統設備の設備仕様が格納される。導入年月欄206A5には、系統設備の導入年月(導入時点の一例)が格納される。例えば、設備IDが「L1」の系統設備については、接続地点1が「bus1」、接続地点2が「bus2」、設備仕様が「設備容量:100MW」、導入年月が「1970年4月」であることが示されている。図11は、系統設備データ206Aが示す系統構成であり、系統設備データ206Aにおいて各系統設備が接続する母線を定めることにより系統構成が一意に決定される。なお、系統設備の導入時点を表す時間単位は、年月よりも粗い又は細かい単位でもよい。
【0058】
(3-7)故障モデルデータ
【0059】
故障モデルデータ207には、系統設備の導入時点からの経年数を入力とし当該系統設備の故障率を出力としたモデルである故障モデルを表す情報の一例として、設備種別毎の故障率の推移の情報が格納される。図12は、故障モデルデータ207の一例である。ここでは、一例として故障モデルデータ207Aを示す。
【0060】
故障モデルデータ207Aは、設備種別と区間の組毎のエントリを有しており、1つのエントリは、設備種別欄207A1、区間欄207A2、及び故障率関数欄207A3を含む。設備種別欄207A1には、対象とする設備種別の名称が格納される。区間欄207A2には、対象とする経年数の区間が格納される。故障率関数欄207A3には、対象とする設備種別及び区間の故障率関数が格納される。例えば、設備種別が「送電線」、区間が「0≦t<40」の故障率関数については、「y=0.005x+0.01」であることが示されている。故障率関数が、系統設備の導入時点からの経年数を入力とし当該系統設備の故障率を出力とした故障モデルの一例である。なお、故障モデル、生産モデル及び消費モデルのいずれについても、任意のタイプのモデル(例えば、ニューラルネットのような機械学習モデル)が採用されてもよい。
【0061】
(3-8)経済的損失データ
【0062】
経済的損失データ208には、系統設備毎の設備故障による経済的損失の情報が格納される。図13は、経済的損失データ208の一例である。ここでは、一例として経済的損失データ208Aを示す。
【0063】
経済的損失データ208Aは、系統設備毎のエントリを有しており、1つのエントリは、設備ID欄208A1、及び経済的損失欄208A2を含む。設備ID欄208A1には、系統設備を識別するためのIDである設備IDが格納される。経済的損失欄208A2には、対象とする系統設備の設備故障による経済的損失が年度毎に格納される。例えば、設備IDが「L1」の経済的損失については、2021年度が「0.01億円」、2022年度が「0.01億円」、2023年度が「0.02億円」、2024年度が「0.03億円」、2025年度が「0.03億円」であることが示されている。
【0064】
(3-9)対策費用データ
【0065】
対策費用データ209には、設備種別毎の設備対策に要する費用の情報が格納される。図14は、対策費用データ209の一例である。ここでは、一例として対策費用データ209Aを示す。
【0066】
対策費用データ209Aは、設備種別毎のエントリを有しており、1つのエントリは、設備種別欄209A1、更新費欄209A2、及び保守費欄209A3を含む。設備種別欄209A1には、対象とする設備種別の名称が格納される。更新費欄209A2には、対象とする設備種別の更新費が格納される。保守費欄209A3には、対象とする設備種別の保守費が格納される。例えば、設備種別が「送電線」の対策費用については、更新費が「0.5億円」、保守費が「y=0.005x+0.01」であることが示されている。本実施形態では、各年度について、「対策費用」の内訳の一例が、更新費と保守費(経年数に依存した費用の一例)であるが、対策費用は、この例に限られない。例えば、対策費用は、経年数に依存した費用を含まず(例えば、更新費のみを含み)、故に、年度によらず一定の費用でもよい。
【0067】
(3-10)設備対策データ
【0068】
設備対策データ210には、系統設備毎の対策時期の情報が格納される。図15は、設備対策データ210の一例である。ここでは、一例として設備対策データ210Aを示す。
【0069】
設備対策データ210Aは、系統設備毎のエントリを有しており、1つのエントリは、設備ID欄210A1、対策時期欄210A2、対策費用欄210A3、及びリスク抑制量欄210A4を含む。設備ID欄210A1には、系統設備を識別するためのIDである設備IDが格納される。対策時期欄210A2には、対象とする系統設備の対策時期が格納される。対策費用欄210A3には、対象とする系統設備の対策費用が格納される。リスク抑制量欄210A4には、対象とする系統設備の対策実施によるリスク抑制量が格納される。例えば、設備IDが「L1」の系統設備については、対策時期が「2025年度」、対策費用が「0.04億円」、リスク抑制量が「0.05億円」であることが示されている。
【0070】
計画装置1では、UI(User Interface)プログラム25が備えられ実行されてもよい。UIプログラム25は、下記(1)乃至(4)のうちの少なくとも一つのUI、
(1)故障モデルの入力のためのUIである故障UI、
(2)生産モデルの入力のためのUIである生産UI、
(3)消費モデルの入力のためのUIである消費UI、
(4)対策費用の入力のためのUIである費用UI、
を入出力装置2に提供してよい。本実施形態において、「UI」は、例えば、GUIのような画面全体でもよいし、GUI部品(例えば、テキストボックス、プルダウンメニュー)のような画面部分でもよい。
【0071】
域内総生産データ201及び総電力消費量データ203は、外部の装置(例えば、外部の所定の機関のサイト)から取得可能である。このようなデータ201及び203は、年度毎に総生産額及び総電力消費量の値を有する。言い換えれば、このようなデータ201及び203から、年よりも短い時間についての生産額及び電力消費量を取得することはできない。そこで、UIプログラム25が備えられ、UIプログラム25が、年より短い時間毎の生産額を算出するための生産モデルや年より短い時間毎の電力消費量を算出するための消費モデルといったモデルの入力を受け付けるUI(つまり、上記(2)及び(3)のうちの少なくとも一つのUI)を提供し、当該UI経由で、生産モデルや消費モデルの情報の入力を受け、入力された生産モデルや消費モデルの情報を生産モデルデータ202及び消費モデルデータ204として補助記憶部30に保存する。これらのデータ202及び204を用いて、後述するように、各年度について、時系列の生産額及び時系列の電力消費量の算出ができ、以って、対策時期の判定精度の向上に寄与することができる。
【0072】
また、UIプログラム25が、故障UI(つまり上記(1)のUI)を提供し、故障UI経由で、故障モデルの情報の入力を受け、入力された故障モデルの情報を故障モデルデータ207として補助記憶部30に保存する。このデータ207を用いて、後述するように、各年度について、正確性の高い経済的損失及び正確性の高い対策費用の少なくとも一方の算出ができ、以って、対策時期の判定精度の向上に寄与することができる。
【0073】
また、UIプログラム25が、費用UI(つまり上記(4)のUI)を提供し、費用UI経由で、対策費用の情報の入力を受け、入力された対策費用の情報を対策費用データ209として補助記憶部30に保存する。このデータ209を用いて、後述するように、各年度について、正確性の高い対策費用の算出ができ、以って、対策時期の判定精度の向上に寄与することができる。
【0074】
(4)各プログラムの詳細
【0075】
図16図20を参照しながら、kWh経済価値算出プログラム101、経済的損失算出プログラム102、対策時期算出プログラム103の詳細について説明する。
【0076】
(4-1)kWh経済価値算出プログラム
【0077】
kWh経済価値算出プログラム101は、域内総生産データ201と、生産モデルデータ202と、総電力消費量データ203と、消費モデルデータ204に基づいて、所定期間における地域と業種の組毎のkWh経済価値の推移(つまり時系列のkWh経済価値)を各年度について算出し、算出された時系列のkWh経済価値を表すkWh経済価値データ205を補助記憶部30に保存する。
【0078】
本処理手順を、図17のフローチャートを用いて説明する。
【0079】
まず、kWh経済価値算出プログラム101は、計画対象期間のうち計画開始年度を起点としてt年目(初期値はt=1)の年度を選択し、域内総生産データ201から、当該年度の地域と業種の組毎の総生産額を取得する(S1001)。
【0080】
次いで、kWh経済価値算出プログラム101は、生産モデルデータ202から、業種毎の生産モデルを特定し、当該年度(t年目)の地域と業種の組毎に、当該組に対応した総生産額と、当該業種に対応した生産モデルとを基に、時系列の生産額(所定の時間間隔で時系列に並んだ生産額)を算出する(S1002)。これにより、或る時刻を起点とした時間間隔(例えば1時間)毎の生産額が得られる。
【0081】
次いで、kWh経済価値算出プログラム101は、総電力消費量データ203から、当該年度の地域と業種の組毎の総電力消費量を取得する(S1003)。
【0082】
次いで、kWh経済価値算出プログラム101は、消費モデルデータ204から、業種毎の消費モデルを特定し、当該年度(t年目)の地域と業種の組毎に、当該組に対応した総電力消費量と、当該業種に対応した消費モデルとを基に、時系列の電力消費量(所定の時間間隔で時系列に並んだ電力消費量)を算出する(S1004)。これにより、上記或る時刻を起点とした時間間隔(例えば1時間)毎の電力消費量が得られる。
【0083】
次いで、kWh経済価値算出プログラム101は、当該年度の地域と業種の組毎の各時点について、当該時点(時間間隔)の生産額を同時点(時間間隔)の電力消費量で除することにより、kWh経済価値を算出する(S1005)。これにより、当該年度の地域と業種の組毎に、時系列のkWh経済価値(所定の時間間隔で時系列に並んだkWh経済価値)、つまり、上記或る時刻を起点とした時間間隔(例えば1時間)毎のkWh経済価値が得られる。
【0084】
次いで、kWh経済価値算出プログラム101は、計画対象期間のすべての年度についてS1001~S1005の処理を実行し終えたか否かを判定する(S1006)。S1006の判定結果が肯定結果の場合(S1006:YES)、処理が終了する。S1006の判定結果が否定結果の場合(S1006:NO)、kWh経済価値算出プログラム101は、tの値を更新(t=t+1)し、処理がS1001に戻る。
【0085】
ここで、図3の域内総生産データ201Aと、図4の生産モデルデータ202Aと、図5の総電力消費量データ203Aと、図6の消費モデルデータ204Aを用いて、本処理の具体例を説明する。
【0086】
まず、kWh経済価値算出プログラム101は、計画対象期間のうち計画開始年度を起点としてt年目(初期値はt=1)の年度を選択し、S1001において、図3の域内総生産データ201Aから当該年度の地域と業種の組毎の総生産額を取得する。ここでは、kWh経済価値算出プログラム101は、計画対象期間を2021年度から2025年度までの5年とし、1年目である2021年度の総生産額(A市の業種α:1000億円、A市の業種β:500億円、B市の業種β:2000億円、B市の業種γ:1000億円、C市の業種γ:500億円、C市の業種α:2000億円)を取得する。
【0087】
次いで、kWh経済価値算出プログラム101は、S1002において、図4の生産モデルデータ202Aに基づいて、S1001において取得した総生産額を時系列化し、所定時間毎の生産額を算出する。例えば、A市の業種αの場合は、平日の1時間毎の生産係数が{0.2、0.2、0.3、・・・、0.1}、休日の1時間毎の生産係数が{0.0、0.0、0.0、・・・、0.0}となっており、kWh経済価値算出プログラム101は、これを1年分連結することで当該年度の1時間毎の生産係数を生成し、総生産額を当該年度の1時間毎の生産係数に基づき按分することにより、図5に示す1時間毎の生産額を算出できる。各年度について、1時間毎の生産額の相対的な関係は同じであり、各時間について、生産額の高さ(図5における棒の高さ)は、A市の業種αの総生産額に依存する。
【0088】
次いで、kWh経済価値算出プログラム101は、S1003において、図6の総電力消費量データ203Aから当該年度の地域と業種の組毎の総電力消費量を取得する。ここでは、kWh経済価値算出プログラム101は、1年目である2021年度の総電力消費量(A市の業種α:5.0億kWh、A市の業種β:3.0億kWh、B市の業種β:12.0億kWh、B市の業種γ:4.0億kWh、C市の業種γ:2.0億kWh、C市の業種α:10.0億kWh)を取得する。
【0089】
次いで、kWh経済価値算出プログラム101は、S1004において、図7の消費モデルデータ204Aに基づいて、S1003において取得した総電力消費量を時系列化し、所定時間毎の電力消費量を算出する。例えば、A市の業種αの場合は、平日の1時間毎の消費係数が{0.2、0.2、0.2、・・・、0.1}、休日の1時間毎の消費係数が{0.0、0.0、0.0、・・・、0.0}となっており、kWh経済価値算出プログラム101は、これを1年分連結することで当該年度の1時間毎の消費係数を生成し、総電力消費量を当該年度の1時間毎の消費係数に基づき按分することにより、図8に示す1時間毎の電力消費量を算出できる。各年度について、1時間毎の電力消費量の相対的な関係は同じであり、各時間について、電力消費量の大きさ(図8における棒の高さ)は、A市の業種αの電力消費量に依存する。
【0090】
次いで、kWh経済価値算出プログラム101は、S1005において、図4の1時間毎の生産額と、図8の1時間毎の電力消費量に基づいて、kWh経済価値を算出する。例えば、A市の業種αの場合は、2021年4月1日の0:00の生産額を電力消費量で除して、図9に示すように当該時刻のkWh経済価値が100円/kWhとなる。他時刻についても同様である。
【0091】
次いで、kWh経済価値算出プログラム101は、S1006において、計画対象期間のすべての年度についてS1001~S1005の処理を実行し終えたか否かを判定する。ここでは、まだ1年目(2021年度)についてしか処理が実行されていないため、否定結果が得られ、2年目以降について順次S1001~S1005の処理が実行される。
【0092】
(4-2)経済的損失算出プログラム
【0093】
経済的損失算出プログラム102は、kWh経済価値データ205と、系統設備データ206と、故障モデルデータ207に基づいて、系統設備毎の設備故障による経済的損失を算出し、算出された経済的損失を表す経済的損失データ208を補助記憶部30に保存する。
【0094】
本処理手順を、図18のフローチャートを用いて説明する。
【0095】
まず、経済的損失算出プログラム102は、k番目(初期値はk=1)の系統設備を選択し、計画対象期間のうち計画開始年度を起点としてt年目(初期値はt=1)の年度を選択し、t年目の系統断面におけるk番目の設備の故障時シミュレーションにより、k番目の設備が故障した時に供給支障が発生する地域、供給支障電力、供給支障継続時間帯を算出する(S1101)。S1101において、経済的損失算出プログラム102は、t年目について、系統設備データ206が表す電力系統構成に基づいて、k番目の系統設備の故障前後の供給電力の差である供給支障電力を、当該系統設備の故障継続時間帯を構成する時間毎に算出する。
【0096】
次いで、経済的損失算出プログラム102は、k番目の設備が故障した時に供給支障が発生する地域の供給支障電力を当該地域の各業種の電力消費量に応じて按分する(S1102)。
【0097】
次いで、経済的損失算出プログラム102は、kWh経済価値、供給支障電力及び供給支障継続時間を基に(例えばそれらの積である)経済的損失を算出する(S1103)。
【0098】
次いで、経済的損失算出プログラム102は、所定の試行回数だけS1101~S1103の処理を実行し終えたか否かを判定する(S1104)。S1104の判定結果が肯定結果の場合(S1104:YES)、処理がS1105に進む。S1104の判定結果が否定結果の場合(S1104:NO)、経済的損失算出プログラム102は、nの値を更新(n=n+1)して、S1101~S1103の処理を実行する。
【0099】
次いで、経済的損失算出プログラム102は、k番目の設備について、系統設備データ206が表す導入年月を特定し、k番目の設備の設備種別に対応した故障モデル(区間及び故障率関数)を故障モデルデータ207から特定する。経済的損失算出プログラム102は、k番目の設備について、k番目の設備の導入年月からの経年数と、特定された故障モデルとを基に、故障率を算出する。経済的損失算出プログラム102は、S1103で算出した経済的損失の平均値に故障率を乗じて経済的損失の期待値を算出する(S1105)。
【0100】
次いで、経済的損失算出プログラム102は、計画対象期間のすべての年度についてS1101~S1105の処理を実行し終えたか否かを判定する(S1106)。S1106の判定結果が肯定結果の場合(S1106:YES)、処理がS1107に進む。S1106の判定結果が否定結果の場合(S1106:NO)、経済的損失算出プログラム102は、tの値を更新(t=t+1)してS1101~S1106の処理を実行する。
【0101】
次いで、経済的損失算出プログラム102は、すべての系統設備についてS1101~S1106の処理を実行し終えたか否かを判定する(S1107)。S1107の判定結果が肯定結果の場合(S1107:YES)、処理が終了する。S1107の判定結果が否定結果の場合(S1107:NO)、経済的損失算出プログラム102は、kの値を更新(k=k+1)してS1101~S1106の処理を実行する。
【0102】
以上のようにして、各年度について、経済的損失算出プログラム102は、系統設備の電力供給を受ける一つ以上の地域(系統設備データ206が表す電力系統構成に基づいて特定された一つ以上の地域)の各々について時系列のkWh経済価値(時間間隔毎のkWh経済価値)と時系列の供給支障電力(時間間隔毎の供給支障電力)との積に基づく値(例えば、全時間間隔のkWh経済価値と供給支障電力との積の和)を、系統設備の故障により被る経済的損失として算出する。なお、系統設備の故障による経済的損失は、S1105の説明の通り、当該系統設備の故障率が反映された値でよい。これにより、系統設備の故障による経済的損失の正確性の向上が期待され、以って、対策時期の判定精度の向上が期待できる。
【0103】
ここで、図9のkWh経済価値データ205Aと、図10の系統設備データ206Aと、図12の故障モデルデータ207Aを用いて、本処理の具体例を説明する。
【0104】
まず、経済的損失算出プログラム102は、k番目(初期値はk=1)の系統設備を選択し、計画対象期間のうち計画開始年度を起点としてt年目(初期値はt=1)の年度を選択し、S1101において、当該年度の系統断面(系統構成を表す情報に発電量や負荷等の需給情報が付加された情報)における当該設備の故障時シミュレーションにより、当該設備が故障した時に供給支障が発生する地域、供給支障電力、供給支障継続時間帯を算出する。ここでは、経済的損失算出プログラム102は、1番目の系統設備として、図10の系統設備データ206Aから設備IDがL1の系統設備を取得し、図11の系統構成において、当該設備が故障した時に供給支障が発生する地域、供給支障電力、供給支障継続時間帯を算出する。当該設備の故障の規模(故障継続時間)及び発生日時(つまり供給支障継続時間帯)については、一例としてモンテカルロシミュレーションにより生成した乱数に従って決定されるものとする。供給支障が発生する地域、供給支障電力、供給支障継続時間帯の算出については、既存の故障時シミュレーションが用いられるものとする。このため、複数通りの供給支障継続時間帯が得られ、各供給支障継続時間帯について、計算が行われる。
【0105】
次いで、経済的損失算出プログラム102は、S1102において、S1101において算出した供給支障電力を、図8に示す所定時間毎の電力消費量に応じて按分し、地域と業種の組毎の供給支障電力を算出する。例えば、S1101において、当該設備の故障が2021年4月1日の0:00に発生し、供給支障地域がA市とB市、供給支障継続時間が3時間、1時間毎の供給支障電力が{10万kW、10万kW、6万kW}と算出された時は、経済的損失算出プログラム102は、A市の業種α、A市の業種β、B市の業種β、B市の業種γの1時間毎の電力消費量に応じて供給支障電力を按分する。当該時刻におけるA市の業種αの電力消費量が{5万kW、5万kW、10万kW}、A市の業種βの電力消費量が{5万kW、5万kW、5万kW}、B市の業種βの電力消費量が{15万kW、15万kW、15万kW}、B市の業種γの電力消費量が{0万kW、0万kW、0万kW}であるとすると、当該時刻におけるA市の業種αの供給支障電力は{2万kW、2万kW、2万kW}、A市の業種βの供給支障電力は{2万kW、2万kW、1万kW}、B市の業種βの供給支障電力は{6万kW、6万kW、3万kW}、B市の業種γの供給支障電力は{0万kW、0万kW、0万kW}となる。
【0106】
次いで、経済的損失算出プログラム102は、S1103において、図9のkWh経済価値データ205Aに示される地域と業種の組毎のkWh経済価値と、上記の供給支障電力を乗じて、経済的損失を算出する。例えば、2021年4月1日の0:00の経済的損失は1650万円(=5万kW×1h×100円/kWh+5万kW×1h×50円/kWh+15万kW×1h×60円/kWh+0万kW×1h×0円/kWh)となる。同様に、1:00の経済的損失は1650万円、2:00の経済的損失は2610万円となり、経済的損失は5910万円と算出される。
【0107】
次いで、経済的損失算出プログラム102は、S1104において、所定の試行回数だけS1101~S1103の処理を実行し終えたか否かを判定する。ここでは、まだ1回目(n=1)についてしか実行していないため、判定結果が否定結果であり、2回目以降について順次S1101~S1103の処理が実行される。
【0108】
次いで、経済的損失算出プログラム102は、S1105において、図12の故障モデルデータ207Aに基づき算出したk番目の系統設備の故障率と、S1103において算出した1回目からN回目までの経済的損失の平均値を乗じて、経済的損失の期待値を算出する。例えば、1回目からN回目までの経済的損失の平均値が5000万円、故障率が5%の時は、経済的損失の期待値は250万円となる。ここで、経済的損失算出プログラム102は、1回目からN回目までの試行毎に故障の規模に応じて故障率を算出し、試行毎に経済的損失と故障率を乗じて全試行分を足し合わせることにより、経済的損失の期待値を算出してもよい。
【0109】
次いで、経済的損失算出プログラム102は、S1106において、計画対象期間のすべての年度についてS1101~S1105の処理を実行し終えたか否かを判定する。ここでは、まだ1年目(2021年度)についてしか実行していないため、判定結果が否定結果であり、2年目以降について順次S1101~S1105の処理が実行される。
【0110】
次いで、経済的損失算出プログラム102は、S1107において、すべての系統設備についてS1101~S1106の処理を実行し終えたか否かを判定する。ここでは、まだ1番目の系統設備(設備ID=L1の系統設備)についてしか実行していないため、判定結果は否定結果であり、2番目以降の系統設備について順次S1101~S1106の処理が実行される。すべての系統設備についてS1101~S1106の処理を実行し終えて肯定結果を得た後、経済的損失算出プログラム102は、処理を終了する。
【0111】
(4-3)対策時期算出プログラム
【0112】
対策時期算出プログラム103は、経済的損失データ208と、対策費用データ209と、系統設備データ206に基づいて、系統設備毎の対策時期を算出し、算出された対策時期を表す対策時期データ210を補助記憶部30に保存する。
【0113】
本処理手順を、図18のフローチャートを用いて説明する。
【0114】
まず、対策時期算出プログラム103は、計画対象期間のうち計画開始年度を起点としてt年目(初期値はt=1)の年度を選択し、k番目(初期値はk=1)の系統設備を選択し、t年目にk番目の設備に対して対策を実施した時の経済的損失の期待値を算出する(S1201)。ここで、経済的損失の算出は、経済的損失算出プログラム102が用いられる。
【0115】
次いで、対策時期算出プログラム103は、対策未実施時の経済的損失の期待値から、t年目にk番目の設備に対して対策を実施した時の経済的損失の期待値を引いた値を、経済的損失の抑制量(以下、リスク抑制量)として算出する(S1202)。
【0116】
次いで、対策時期算出プログラム103は、k番目の設備に対する対策費用(対策費用データ209から特定された対策費用)を計画対象期間分の費用に換算する(S1203)。
【0117】
次いで、対策時期算出プログラム103は、リスク抑制量(又は、リスク抑制量と託送収益の機会損失の合計値)がk番目の設備に対する評価対象期間分の対策費用(t年目にかかる対策費用)を上回っているか否かを判定する(S1204)。「リスク抑制量と託送収益の機会損失の合計値」は、リスク抑制量に基づく値の一例である。「託送収益の機会損失」はオプションでよい。図18のS1204において、Aが、リスク抑制量であり、Bが、託送収益の機会損失であり、Cが、対策費用である。S1204の判定結果が肯定結果の場合(S1204:YES)、処理がS1205に進む。S1204の判定結果が否定結果の場合(S1204:NO)、対策時期算出プログラム103は、tの値を更新(t=t+1)してS1201~S1203の処理を実行する。
【0118】
次いで、対策時期算出プログラム103は、すべての系統設備についてS1201~S1204の処理を実行し終えたか否かを判定する(S1205)。S1204の判定結果が肯定結果の場合(S1205:YES)、処理が終了する。S1205の判定結果が否定結果の場合(S1204:NO)、対策時期算出プログラム103は、kの値を更新(k=k+1)してS1201~S1204の処理を実行する。
【0119】
このように、対策時期算出プログラム103は、年度毎の経済的損失を基に、各年度について、系統設備の対策を未実施の場合の経済的損失と前記系統設備の対策を実施の場合の経済的損失との差分であるリスク抑制量を算出する。対策時期算出プログラム103は、各年度のリスク抑制量と、系統設備の対策費用とを基に、リスク抑制量(又は、リスク抑制量と託送収益の機会損失の合計値)が対策費用を上回る最先の年度を、系統設備の対策の実施時期として判定する。以上の図16図18の処理により、各年度について、時系列の生産額及び資源消費量が算出され、時系列の生産額及び資源消費量を基に時系列のkWh経済価値が算出され、系統設備が故障した場合の時間毎の供給支障電力と時系列のkWh経済価値とから経済的損失が算出され、経済的損失が算出されたことでリスク抑制量が算出され、リスク抑制量と対策費用とを基に、対策時期としての年度が判定される。これにより、系統設備の対策の実施時期として経済合理的な時期を精度良く判定することができる。なお、図18には示されていないが、対策時期算出プログラム103は、系統設備の判定された実施時期を表す情報を入出力装置2に提供してよい。
【0120】
また、託送収益の機会損失は、例えば次のようにして対策時期算出プログラム103により算出されてよい。すなわち、補助記憶部30が、kWh当たりの電力価格を表す価格データを記憶していて、対策時期算出プログラム103が、系統設備の故障継続時間帯の長さと、当該故障継続時間帯での供給支障電力と、kWh当たりの電力価格(価格データから特定された値)との積として、託送収益の機会損失を算出してよい。電力系統構成(例えば図11が示す構成)を基に一般的な潮流計算(例えば、発電機G1、G2の電力とLoadの電力を用いた計算)が行われてよく、特定された潮流を基に、託送収益の機会損失の算出に使用される供給支障電力が算出されてよい。リスク抑制量と託送収益の機会損失との合計が対策費用と比較され、その比較の結果を基に、対策時期が判定される場合、対策時期の判定精度の一層の向上が期待される。
【0121】
また、時系列の生産額及び電力消費量は、地域と業種の組毎に算出され、生産モデル及び消費モデルは、業種毎に用意される。業種は、エンティティの一例であり、電力を消費して生産をし、一つ以上の供給対象エリアに属しており、当該一つ以上の供給対象エリアの域内総生産及び総電力消費量に影響し、時間帯によって生産額及び電力消費量の少なくとも一方が異なる。例えば、故障継続時間帯の長さに関わらず系統設備の故障の受けない業種もあれば、故障継続時間帯によって同じ故障継続時間でも経済的損失の大きさが異なる業種もある。本実施形態では、地域の時系列の生産額及び電力消費量は、当該地域に属する業種毎の生産モデル及び消費モデルを基に算出される時系列の生産額及び電力消費量に基づいているので、kWh経済価値の正確性の向上が期待でき、以って、対策時期の判定精度の向上が期待できる。
【0122】
ここで、図13の経済的損失データ208Aと、図14の対策費用データ209Aを用いて、本処理の具体例を説明する。
【0123】
まず、対策時期算出プログラム103は、k番目(初期値はk=1)の系統設備を選択し、計画対象期間のうち計画開始年度を起点としてt年目(初期値はt=1)の年度を選択し、S1201において、当該年度に当該設備の設備対策を実施した時の経済的損失の期待値を算出する。例えば、1年目(2021年度)に1番目の系統設備(設備ID=L1の系統設備)の設備対策を実施した時の経済的損失の期待値が600万円(2021年度から2025年度までの合計値)と算出されたものとする。
【0124】
次いで、対策時期算出プログラム103は、S1202において、対策未実施時の経済的損失の期待値から上記の対策実施時の経済的損失を引いて、リスク抑制量を算出する。例えば、図13の経済的損失データ208Aに示されるように、1番目の系統設備(設備ID=L1の系統設備)の設備対策を実施していない時の経済的損失の期待値が1000万円(2021年度から2025年度までの合計値)とすると、リスク抑制量は400万円(=1000万円-600万円)となる。
【0125】
次いで、対策時期算出プログラム103は、S1203において、当該設備に対する対策費用を評価対象期間分の費用に換算する。例えば、図14の対策費用データ209Aに示されるように、送電線の更新費は0.5億円とあるが、送電線の耐用年数を50年、評価対象期間を2021年度から2025年度までの5年とすると、評価対象期間分に換算した更新費は500万円(=0.5億円×5年/50年)となる。なお、対策費用データ209Aが、全通りの対策費用(更新費と保守費の少なくとも一つ)を表してよい。
【0126】
次いで、対策時期算出プログラム103は、S1204において、リスク抑制量と託送収益の機会損失の合計値がk番目の設備に対する評価対象期間分の対策費用と同じ又は上回っているか否かを判定する。例えば、上記の通り、リスク抑制量が400万円、また、設備故障による託送収益の機会損失が50万円とした時、対策費用500万円に対して下回るため、判定結果が否定結果であり、対策時期算出プログラム103は、tの値を更新(t=t+1)して順次S1201~S1203の処理を実行する。tの値を更新するにつれ(tの値が大きくなるにつれ)、リスク抑制量が大きくなるため、いずれかの年度にてリスク抑制量と託送収益の機会損失の合計値がk番目の設備に対する評価対象期間分の対策費用を下回り、対策時期算出プログラム103は、この年度をk番目の設備に対する対策時期とする。
【0127】
次いで、対策時期算出プログラム103は、S1205において、すべての系統設備についてS1201~S1204の処理を実行し終えたか否かを判定する。ここでは、まだ1番目の系統設備(設備ID=L1の系統設備)についてしか実行していないため、判定結果が否定結果であり、対策時期算出プログラム103は、2番目以降の系統設備について順次S1201~S1204の処理を実行する。すべての系統設備についてSS1201~S1204の処理を実行し終えて肯定結果を得た後、対策時期算出プログラム103は、処理を終了する。
【0128】
図19は、計画装置1が提供する画面例を示す。この画面は、対策時期算出プログラム103が対策時期を算出した後に表示される画面(UIの一例)であり、入出力装置2の出力部70に例えば対策時期算出プログラム103によって出力される。
【0129】
画面は、パラメータ設定UI1901、系統構成UI1902及び対策時期UI1903を有する。これらのUI1901~1903が左から右にかけて並んでいる。
【0130】
パラメータ設定UI1901は、対策時期判定(図16図18の処理)に関わるパラメータの入力を受け付けるUIである。ユーザは、パラメータ設定UI1901に、対策時期判定(対策時期の計画作成)にあたり必要なパラメータ(例えば、計画対象期間(年度範囲)、生産モデル、消費モデル及び故障モデルのうちの少なくとも一つ)を設定する。その後、ユーザは、対策時期判定ボタン1911を押下することにより、kWh経済価値算出プログラム101、経済的損失算出プログラム102、対策時期算出プログラム103が実行される。パラメータ設定UI1901は、複数の年度のうちのいずれかの年度の指定を受け付けるUIの一例である。
【0131】
系統構成UI1902は、複数の地域にノードとリンクで構成されたグラフが重ねられた画像が表示されるUIの一例である。ノード及びリンクはいずれも、いずれかの系統設備である。kWh経済価値算出プログラム101が算出した地域毎のkWh経済価値が地域毎に色分けして表示される。具体的には、例えば、画像において、下記(x)乃至(z)のうちの少なくとも一つが採用されている。これにより、ユーザは、系統設備の故障の影響を受ける各地域のkWh経済価値や、系統設備の経済的損失を俯瞰することができる。
(x)各地域の表示態様が、当該地域のkWh経済価値に基づいている。
(y)各ノードの表示態様が、当該ノードに対応した系統設備を指定された年度で対策しない場合の経済的損失に基づいている。
(z)各リンクの表示態様が、当該リンクに対応した系統設備を指定された年度で対策しない場合の経済的損失に基づいている。
【0132】
対策時期UI1903は、対策時期算出プログラム103が算出した系統設備毎の対策時期が表示されるUIである。
【0133】
以上、一実施形態を説明したが、これは本発明の説明のための例示であって、本発明の範囲をこの実施形態にのみ限定する趣旨ではない。本発明は、他の種々の形態でも実施することが可能である。
【符号の説明】
【0134】
1…計画装置、 2…入出力装置、 10…中央処理部、 20…主記憶部、 30…補助記憶部、 40…通信部、 201…域内総生産データ、 202…生産モデルデータ、 203…総電力消費量データ、 204…消費モデルデータ、 206…系統設備データ、 209…対策費用データ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
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図17
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図19